説明

発電機能付き軸受装置及びこれを用いた車両用軸受装置

【課題】熱電変換素子や振動型発電素子等の発電素子を用い、既設の軸受装置にも容易に取り付けることができる発電機能付き軸受装置、特に車両用軸受装置を提供することを課題とする。
【解決手段】軸受13と、その軸受13を収容した軸箱14及び発電素子とからなる発電機能を備えた軸受装置において、熱伝変換素子、振動型発電素子等の微小電力発電素子を含んだ発電ユニット21を外部に露出している軸箱14の外側面に取り付けた構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱電変換素子、振動型発電素子等の微小電力発電素子を有する軸受装置及びその軸受装置を用いた車両用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
貨物列車は駆動力をもつ機関車と駆動力を持たない貨車とから構成され、機関車は電源装置を有するが、貨車は電源装置を有しない。このため、貨車において電気装置を使用する場合には、機関車から電源を得なければならない。
【0003】
貨車において使用される電気装置の例として、車軸軸受の異常を監視する軸受監視装置がある。この軸受監視装置は、車軸軸受の軸箱に取り付けられ、その監視装置で得られたデータを無線で機関車に伝送する監視システムがある。この装置の駆動用の電源を機関車から得ようとすると、軸箱と台車枠の間、台車枠と車体の間にわたり配線施工を行う必要がある。
【0004】
前記の配線施工を不要とする方法として、貨車に車軸発電機を設けることが知られている(特許文献1)。この車軸発電機は、車軸の軸受部分において、その車軸に永久磁石を取り付けてロータを構成し、その周囲の軸箱部分にコイルを取り付けてステータを構成した電磁誘導型の発電機である。
【0005】
また、発電機の小型化を図るため、軸受装置を構成する転がり軸受の軌道輪に直接熱電変換素子を取り付け、軸受の回転に伴って発熱した軸箱の温度と、雰囲気の温度との温度差を利用して発電を行うことも知られている(特許文献2)。
【0006】
さらに、一般に、小型微小電力の発電機として、エレクトレットなどを使用し振動を電気エネルギーに変換する振動型発電素子が従来から知られている(特許文献3)。
【0007】
なお、この発明においては、前記の熱電変換素子、振動型発電素子のように、回転を伴わない静止型の微小電力の発電機を単に発電素子と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−117099号公報
【特許文献2】特開2004−332859号公報
【特許文献3】特開2009−77614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記の車軸発電機は、軸受と発電機が一体化された構造であるため、いずれか一方が故障した場合にその両方とも交換する必要があり、メンテナンスのコストが高くつく問題がある。また、発電機の占積率が高いため、軸受装置が大型化する問題がある。
【0010】
また、熱電変換素子を軸受の軌道輪に装着する構成は、装置の小型化の点では望ましい。しかし,すでに車両に取り付けられた軸受装置にその熱電変換素子を取り付ける場合は、軸受が軸箱の内部に収納されているため、その軸受の軌道輪に熱電変換素子を取り付けるのは困難であり、また、軸受装置の外部に配線を引き出すことも困難であって実際的でない。
【0011】
前記の振動型発電素子についても、これを既設の軸受の軌道輪に取り付けることは、前記の熱電変換素子の場合と同様の問題がある。
【0012】
そこで、この発明は、発電機の小型化という点で優れた特性を有する熱電変換素子や振動型発電素子等の発電素子を用い、既設の軸受装置にも容易に取り付けることができる発電機能付き軸受装置及びこれを用いた車両用軸受装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を解決するために、この発明は、軸受と、その軸受を収容した軸箱及び発電素子とならなる発電機能を備えた軸受装置において、前記発電素子を前記軸箱の外側面に取り付けた構成としたものであり、具体的な用途として当該軸受装置を車両用軸受装置に用いることができる。
【0014】
また、前記発電素子に蓄電池を付属させ、その発電素子による起電力を前記蓄電池に充電する構成をとることができる。さらに、前記発電素子と蓄電池とにより構成された電源装置から駆動電源が供給される軸受監視装置等の電気装置を備えた構成をとることができる。
【0015】
なお、前記発電素子の具体例としては、熱電変換素子及び振動型発電素子がある。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、この発明においては、発電素子を軸受装置の軸箱の外側面に取り付けるようにしたことにより、軸受装置において通常外部に露出している軸箱の外側面に発電素子を取り付けることは容易である。このため、既設の軸受装置に追加的に発電機能を付加する場合、軸受装置の内部構造に触れることなく改造工事を行うことができる便利さがある。また、発電素子は小型化されているため、軸受装置の大きさに影響を及ぼさない。
【0017】
また、発電素子として熱電変換素子を使用する場合は、その放熱側が軸受装置外部の大気に露出するため、この部分に放熱板を取り付けた場合は特に、放熱板を取り付けない場合であっても吸熱側との間で高い温度差が得られる。
さらに、車両が走行することによって放熱側が冷却されて、より高い温度差が得られる。
【0018】
また、発電素子として振動型発電素子を使用する場合は、軸受の回転と同時に発電が開始されるので、電気装置に対し遅滞なく電源を供給することができる。
さらに、軸受装置では、軸受の回転に伴う振動だけでなく、車輪がレールを転動することにより発生する振動も付加されるため、発電能力が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】は、実施形態1の縦断側面図である。
【図2】は、同上の発電ユニット取り付け部分の一部省略拡大正面図である。
【図3】は、同上の発電ユニットの拡大断面図である。
【図4】は、同上の発電ユニットのブロック図である。
【図5】は、実施形態2の発電ユニットの拡大断面図である。
【図6】は、同上の発電ユニットのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
添付の図1から図4に示した実施形態1の車軸軸受装置11は、図1に示したように、車軸12を支持する軸受13と、その軸受13を収納した軸箱14等により構成される。
【0021】
前記の軸箱14は、台車枠15に対し上下方向に揺動可能に取り付けられた支持腕16によって支持される。同時に、軸箱14は、軸ばね17及びこれと併設されたダンパー18を介して台車枠15の下部に連結され、台車枠15に作用する荷重を軸受13及び車軸12を経て車輪19によって支持する。
【0022】
前記の軸箱14の外側面に発電ユニット21が取り付けられる。発電ユニット21は、図3に示したように、基板22に装着され電源装置23及び所要の電気装置24及びこれらをカバーするカバーケース25とから成るものである。
【0023】
電源装置23は、つば付きの金属ケース26に収納された熱電変換素子27及び基板22上に取り付けられた蓄電池28とから成り、金属ケース26の底面は基板22を貫通して取付対象である軸箱14に接触できるようになっている。
【0024】
熱電変換素子27は、2種類の異なる金属を接合して、両端に温度差が発生すると起電力を生じさせるものであり、ビスマス、テルル等で構成される。これらの熱電変換素子は従来公知のものであり(前記特許文献2参照)、吸熱側の電極が熱伝導率の高い金属ケース26の底面に接するように収納され、排熱側の電極がカバーケース25の窓穴29に臨む。前記の金属ケース26は、そのつば部26aを基板22に接着することにより固定される。金属ケース26を使用することなく、熱電変換素子27の吸熱部を直接軸箱14の外側面に接触させる構造を採ることもできるが、熱電変換素子27を基板22に安定よく取り付けるには、前記の金属ケース26を用いることが望ましい。
【0025】
熱電変換素子27の排熱側の電極には、多数の放熱フィンを有する放熱板30が取り付けられ、その放熱板30が前記の窓穴29を通してカバーケース25の外部に突き出す。カバーケース25は、電源装置23及び電気装置24をカバーし、前記の放熱板30を窓穴29から外部に露出させた状態でビス31によって基板22に固定される。
【0026】
前記の電源装置23は、図4に示したように、熱電変換素子27に対して並列に蓄電池28を接続したものであり、熱電変換素子27で発生した起電力により蓄電池28を充電させ、電気装置24に対して電源を供給する。
【0027】
発電ユニット21の外部に設けられた他の電気装置に対しては、前記の電源装置23からコネクタ36(図2参照)を経て引き出された電源ケーブル35によって電源が供給される。
【0028】
電気装置24としては、車両の運行上必要な各種の装置があるが、一例として貨物列車の車両軸受の軸受監視装置の場合について説明する。軸受監視装置は、図3に示したように、温度センサ33と、発信機能を含む制御回路34を備え、温度センサ33が熱伝導率の高いつば付きの金属ケース37に収納され、その金属ケース37が基板22を貫通して軸受箱14に接触するように取り付けられる。金属ケース37のつば部37aが基板22に接着される。温度センサ33によって得られたデータが制御回路34から無線で機関車運転台のモニター等に伝送される。
【0029】
温度センサ33は、軸箱14を通じて軸受13の温度を検知し、制御回路34においてその温度が一定の基準値を超えた場合に、電源ケーブル35を通じて外部に検知信号が伝送される。これらの各部の電気的な作動のために前記の電源装置23から電源が供給される。
【0030】
実施形態1の車軸軸受装置11は以上のようなものであり、既設の車軸軸受装置11の軸箱14の外側面に発電ユニット21をボルト38によって取り付ける。発電ユニット21の外部に電気装置が設けられている場合は、電源ケーブル35を支持腕16に沿わせて所定位置まで配線する。
【0031】
車両の走行によって軸受13が発熱し、その軸受13に接した軸箱14の温度が上昇する一方、放熱板30が外気に触れて放熱されることにより、熱電変換素子27の吸熱側電極と放熱側電極の温度に温度差が生じ起電力が発生する。その起電力は蓄電池28に充電される。
【0032】
前記のように、熱電変換素子27の放熱側が車軸軸受装置11の外部の大気に露出するものであるから、放熱板30を有する場合は特に、放熱板30がない場合でも、吸熱側との間に大きな温度差を得ることができる。
【0033】
前記の熱電変換素子27及び蓄電池28からなる電源装置23から電気装置(軸受監視装置)24に電源が供給され、所要の検知信号が、例えば機関車の運転席台に無線で伝送される。
【0034】
[実施形態2]
実施形態2の場合は、既述の図1及び図2に示した車軸軸受装置11において、発電ユニット21に代えて、図5及び図6に示した発電ユニット41を使用するものである。
【0035】
発電ユニット41は、電源装置23について、前記の熱電変換素子27に代えて振動型発電素子42を用いた点において相違する。この振動型発電素子42に蓄電池28を並列に接続配置する点、その電源装置23によって電気装置24に電源を供給する点は前記の場合と同様である。但し、この場合の電気装置24は、軸受の異常振動を検知する軸受監視装置の場合を示している。このため、電気装置24は、振動センサ43と、発信機能を備えた制御回路44とにより構成される。
【0036】
振動型発電素子42は、エレクトレットを使用したもの(特許文献3参照)のほか、圧電素子等を用いたものを使用することができる。その他の構成は、前述の実施形態1の場合と同様である。
【0037】
実施形態2の車両用軸受装置は以上のようなものであり、実施形態1の場合と同様に、既設の車両用軸受装置11の軸箱14の外面に発電ユニット41をボルト38によって取り付け、必要に応じて電源ケーブル35を支持アーム16に沿わせて所定位置まで配線する。
【0038】
車両の走行に伴って軸受13が回転すると、軸箱14が振動し、それに接触した基板22を介して振動型発電素子42が振動する。その振動によって起電力が発生し、蓄電池28に充電される。
【0039】
前記の振動型発電素子42及び振動センサ43は、直接軸箱14に接触させる必要は必ずしもないが、実施形態1の場合と同様の金属ケースに収納し、その金属ケースを軸箱14に接触させるようにしてもよい。
【0040】
この実施形態2の場合は、軸受13の回転に伴う振動によって起電力を発生させるものであるから、車両の走行が開始されると同時に起電力が発生し、直ちに電気装置24に電源を供給することができる。
【0041】
なお、以上の実施形態1及び2は、発電機能を有する車軸軸受装置11について述べたが、この発明は、車軸軸受装置11に限らず一般の軸受装置に発電機能を付与する場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
11 車軸軸受装置
12 車軸
13 軸受
14 軸箱
15 台車枠
16 支持腕
17 軸ばね
18 ダンパー
19 車輪
21 発電ユニット
22 基板
23 電源装置
24 電気装置
25 カバーケース
26 金属ケース
26a つば部
27 熱電変換素子
28 蓄電池
29 窓穴
30 放熱板
31 ビス
33 温度センサ
34 制御回路
35 電源ケーブル
36 コネクタ
37 金属ケース
37a つば部
38 ボルト
41 発電ユニット
42 振動型発電素子
43 振動センサ
44 制御回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受と、その軸受を収容した軸箱及び発電素子とからなる発電機能を備えた軸受装置において、前記発電素子を前記軸箱の外側面に取り付けたことを特徴とする発電機能を備えた軸受装置。
【請求項2】
前記発電素子に蓄電池を付属させ、当該発電素子による起電力を前記蓄電池に充電するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の発電機能を備えた軸受装置。
【請求項3】
前記発電素子と蓄電池とにより構成された電源装置から駆動電源が供給される所要の電気装置を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の発電機能を備えた軸受装置。
【請求項4】
前記電源装置と電気装置が発電ユニットとしてユニット化され、前記発電ユニットを前記軸箱に取り付けるようにしたことを特徴とする請求項3に記載の発電機能を備えた軸受装置。
【請求項5】
前記電気装置が軸受監視装置であることを特徴とする請求項4に記載の発電機能を備えた軸受装置。
【請求項6】
前記発電素子が熱電変換素子により構成され、その熱電変換素子の吸熱部が前記軸箱外面に直接的又は間接的に接触され、前記熱電変換素子の排熱部に放熱板が取り付けられたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の発電機能を備えた軸受装置。
【請求項7】
前記発電素子が振動型発電素子により構成され、前記軸受の回転に伴う振動により発電を行う請求項1から5のいずれかに記載の発電機能を備えた軸受装置。
【請求項8】
前記振動型発電素子は、圧電素子又はエレクトレットを用いたものであることを特徴とする請求項7に記載の発電機能を備えた軸受装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の発電機能を備えた軸受装置からなることを特徴とする車両用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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