発電装置、発電装置の制御方法、電子機器、および移動手段
【課題】 小さな回路規模ながら共振周波数を調整して大きな発電量を得ることができる発電装置等を提供する。
【解決手段】 変形方向を切り換えて変形する変形部材104と、前記変形部材に設けられた第1の圧電素子(108、109a、109b)と、前記変形部材の変形による変位に関する情報である変位情報を生成する変位検出手段140と、前記変形部材に設けられた調整用圧電素子(114、115a、115b)を含み、制御信号に基づいて前記変形部材の共振周波数を調整する共振周波数調整手段119と、前記第1の圧電素子を含む共振回路を構成するインダクターLと、前記共振回路に設けられたスイッチSWと、前記変位情報に基づいて前記制御信号を生成し、前記変位情報に基づいて前記スイッチを所定期間導通状態とする制御手段112と、を備える。
【解決手段】 変形方向を切り換えて変形する変形部材104と、前記変形部材に設けられた第1の圧電素子(108、109a、109b)と、前記変形部材の変形による変位に関する情報である変位情報を生成する変位検出手段140と、前記変形部材に設けられた調整用圧電素子(114、115a、115b)を含み、制御信号に基づいて前記変形部材の共振周波数を調整する共振周波数調整手段119と、前記第1の圧電素子を含む共振回路を構成するインダクターLと、前記共振回路に設けられたスイッチSWと、前記変位情報に基づいて前記制御信号を生成し、前記変位情報に基づいて前記スイッチを所定期間導通状態とする制御手段112と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピエゾ素子などの圧電材料が外力によって変形したときに発生する電荷を電気エネルギーとして取り出す発電装置、その制御方法、この発電装置を含む電子機器、および移動手段等に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)や、水晶(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)などの圧電材料は変形すると、材料内部に電気分極が誘起されて表面に正負の電荷が現れる。このような現象は、いわゆる圧電効果と呼ばれている。圧電材料が有するこのような性質を利用して、片持ち梁を振動させて圧電材料に繰り返し加重を作用させ、圧電材料の表面に生じた電荷を電気として取り出す発電方法が提案されている。
【0003】
例えば、先端に錘を設けると共に圧電材料の薄板を貼り付けた金属製の片持ち梁を振動させ、振動に伴って圧電材料に交互に生じる正負の電荷を取り出すことによって交流電流を発生させる。そして、この交流電流をダイオードによって整流した後、コンデンサーに蓄えておき、電力として取り出す技術が提案されている(特許文献1)。この技術を用いれば、発電装置を小型化することができるので、例えば小型の電子部品に電池の代わりに組み込むなどの応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−107752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、提案されている従来の技術では、適当な外力が得られない場所に設置された場合に発電量が低下するという問題があった。つまり、外力による振動(以下、環境振動)が、圧電材料の薄板を貼り付けた片持ち梁の共振周波数と一致しない場合には、圧電材料の変形が小さいために発電量が低下してしまう。しかし、片持ち梁の共振周波数は、例えば梁の長さ、厚さ、材質、錘の重さ等に依存し、製造出荷時に決定されることが多い。そのため、設置場所の環境振動に合わせて調整することは一般に困難であった。
【0006】
この問題に対して、例えば発電装置に機械的に梁の長さを調整する機構を追加する解決策が考えられる。また、例えば梁の長さが互いに異なる片持ち梁を複数備える発電装置を用いるという解決策も考えられる。前者の場合には、例えば使用者が設置場所において片持ち梁の共振周波数の調整を行う。後者の場合には、いずれかの片持ち梁の共振周波数が環境振動の周波数と一致することを期待できる。しかし、いずれの場合にも、発電装置のサイズが大きくなってしまう。
【0007】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたものである。本発明のいくつかの態様によれば、圧電材料の圧電効果を利用した発電装置であって、小さな回路規模ながら共振周波数を調整して大きな発電量を得ることができる発電装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、発電装置であって、変形方向を切り換えて変形する変形部材と、前記変形部材に設けられた第1の圧電素子と、前記変形部材の変形による変位に関する情報である変位情報を生成する変位検出手段と、前記変形部材に設けられた調整用圧電素子を含み、制御信号に基づいて前記変形部材の共振周波数を調整する共振周波数調整手段と、前記第1の圧電素子を含む共振回路を構成するインダクターと、前記共振回路に設けられたスイッチと、前記変位情報に基づいて前記制御信号を生成し、前記変位情報に基づいて前記スイッチを所定期間導通状態とする制御手段と、を備える。
【0009】
(2)この発電装置において、前記共振周波数調整手段は、前記調整用圧電素子の一対の電極に接続された可変抵抗を含み、前記制御信号に基づいて前記可変抵抗の抵抗値を変化させてもよい。
【0010】
(3)この発電装置において、前記変位検出手段は、前記変形部材に設けられた第2の圧電素子と、前記第2の圧電素子に生じた電圧を検出する電圧検出回路と、を含み、前記電圧検出回路が検出した電圧に基づいて前記変位情報を生成してもよい。
【0011】
(4)この発電装置において、前記変位検出手段は、前記変形部材に設けられた第2の圧電素子と、前記第2の圧電素子から流れる電流を検出する電流検出回路と、を含み、前記電流検出回路が検出した電流に基づいて前記変位情報を生成してもよい。
【0012】
これらの発明は、第1の圧電素子が変形部材に設けられているので、変形部材が変形することにより第1の圧電素子も変形する。その結果、第1の圧電素子には、圧電効果によって正負の電荷が発生する。なお、電荷の発生量は、第1の圧電素子の変形量が大きくなるほど多くなる。
【0013】
ここで、変形部材の共振周波数と環境振動の周波数とが同じであれば、変形部材は大きく振動し、大きな発電量を得られることが知られている。しかし、環境振動は発電装置の設置場所の環境により様々であり、変形部材の共振周波数と同じ環境振動の周波数が得られるとは限らない。これらの発明は、共振周波数を調整する共振周波数調整手段を含むことで、変形部材の共振周波数を環境振動に合わせて調整することが可能である。
【0014】
共振周波数調整手段は、変形部材に設けられた調整用圧電素子を含み、その圧電効果又は逆圧電効果を利用して共振周波数の調整を行う。例えば、共振周波数調整手段は、調整用圧電素子の一対の電極に接続された可変抵抗を含み、制御信号に基づいて可変抵抗の抵抗値を変化させてもよい。例えば、抵抗値を小さくすると、圧電効果によって電極に生じた正負の電荷が可変抵抗を通じて流れやすくなる。そのため、電極に生じた電荷が減少することになるので、調整用圧電素子の歪が元にもどる方向に力が作用する。ここで、調整用圧電素子は変形部材に設けられているので、変形部材が歪にくくなり、その共振周波数が高くなる。なお、共振周波数を高くする必要がない場合には、抵抗値を十分大きな値にすればよい。
【0015】
ここで、共振周波数調整手段に入力される制御信号は、変位情報に基づいて制御手段が生成する。変位情報は、変形部材の変形による変位に関する情報である。変位検出手段は、例えば直接変形部材の変形を測定して変位情報を生成してもよいし、変形部材の変位に対応して変化する信号に基づいて変位情報を生成してもよい。変形部材の共振周波数と環境振動の周波数とが同じであれば、変形部材は大きく振動し、その振幅がピーク(極大値)となる。例えば、制御手段は最初に制御信号によって可変抵抗の抵抗値をスイープし振幅がピーク(極大値)となる特定の抵抗値を決定してもよい。そして、特定の抵抗値又は電圧値を指定する制御信号を共振周波数調整手段に与えてもよい。
【0016】
このように、これらの発明の発電装置は、変形部材の共振周波数を調整することで、変形部材を環境振動に合わせて大きく振動させて、大きな発電量を得ることができる。このとき、機械的に梁の長さを調整する機構も、長さが互いに異なる複数の片持ち梁も不要であるため、装置のサイズを小さくすることが可能である。
【0017】
また、これらの発明では、第1の圧電素子はインダクターと共に共振回路を構成しており、その共振回路にはスイッチが設けられている。そして、制御手段がスイッチを適切なタイミングで導通状態とすることで、第1の圧電素子内に発生していた正負の電荷の配置を逆転させることができ、昇圧回路を別途用意する必要のない小さな回路規模で、高い電圧を得ることが可能になる。
【0018】
ここで、制御手段は、変位情報に基づいてスイッチを導通状態とするタイミングを定めることで、効率的な発電を可能にする。前記のように、変位情報は、変形部材の変形による変位に関する情報であって、変位検出手段によって生成される。このとき、変位検出手段は変位情報を第2の圧電素子の電圧を検出することで得てもよい。又は、変位検出手段は変位情報を第2の圧電素子の電流を検出することで得てもよい。
【0019】
このとき、スイッチの導通を切断した状態で変形部材の変形を開始して、変形量が極値となったとき(すなわち変形方向が切り換わるとき)に、スイッチを導通状態とする。第1の圧電素子(および第2の圧電素子)は変形部材と共に変形し、変形量が大きくなるほど多くの電荷を発生させるから、第1の圧電素子(および第2の圧電素子)で発生した電荷が最も多くなった時に、第1の圧電素子がインダクターに接続されて共振回路を形成する。すると、第1の圧電素子に発生していた電荷がインダクターに流れ込む。そして、第1の圧電素子およびインダクターは共振回路を構成しているから、インダクターに流れ込んだ電流はオーバーシュートして、第1の圧電素子の反対側の端子に流れ込む。この期間(すなわち、第1の圧電素子の一方の端子から流れ出した電荷が、インダクターを介して反対側の端子から再び第1の圧電素子内に流れ込むまでの期間)は、第1の圧電素子およびインダクターによって形成される共振回路の共振周期の半分となる。従って、第1の圧電素子の変形方向が切り換わったときにスイッチを接続して共振回路を形成し、その後、共振周期の半分の時間が経過したときにスイッチを切断すれば、インダクターを接続する前に第1の圧電素子内に発生していた正負の電荷の配置を逆転させることができる。そして、その状態から、今度は逆方向に変形部材を変形させれば、第1の圧電素子が逆方向に変形するため、正負の電荷の配置が逆転した状態から更に圧電効果によって発生した新たな電荷が積み増されるようにして第1の圧電素子内に電荷が蓄積される。また、第1の圧電素子内に電荷が蓄積されるに従って発生する電圧も増加するので、昇圧回路を別途用意しなくても、第1の圧電素子を構成する圧電材料の電気分極によって生じる電圧よりも高い電圧を発生させることができる。更に、こうして第1の圧電素子内に効率よく電荷を蓄積するためには、第1の圧電素子の変形方向が切り換わったときにスイッチを接続して共振回路を形成することが重要となる。ここで、変形部材には第1の圧電素子および第2の圧電素子が設けられているので、第1の圧電素子の変形方向が切り換わるときには、第2の圧電素子の変形方向も切り換わる。そして、第2の圧電素子も変形量が大きくなるほど高い電圧を発生させるから、第2の圧電素子の変形方向が切り換わるところでは、第2の圧電素子の発生する電圧が極値である。このことから、例えば第2の圧電素子に生じた電圧を検出して、その電圧が極値となった時点から所定期間だけスイッチを導通状態とすれば、第1の圧電素子内に効率よく電荷を蓄積することが可能となる。
【0020】
(5)この発電装置において、前記第1の圧電素子と前記調整用圧電素子とは、前記変形部材の異なる面に設けられていてもよい。
【0021】
本発明によれば、第1の圧電素子と調整用圧電素子とを、変形部材の異なる面に設けるので、第1の圧電素子の設置面積を大きくすることができ、高い発電能力を確保することが可能である。仮に、第1の圧電素子および調整用圧電素子を、変形部材の同じ面に設けたとすると、互いの設置面積が狭くなるおそれがあるからである。
【0022】
また、調整用圧電素子についても、設置面積を大きくすることができるので、変形部材の共振周波数の調整範囲を広げることが可能になる。
【0023】
(6)この発電装置において、前記第1の圧電素子と前記調整用圧電素子とは、前記変形部材の同じ面に設けられていてもよい。
【0024】
本発明によれば、第1の圧電素子および調整用圧電素子が、変形部材の同じ面に設けられていれば、第1の圧電素子および調整用圧電素子を一度に(同じ工程で)変形部材に設けることができる。このため、生産性良く発電装置を製造することが可能となる。
【0025】
このとき、第2の圧電素子がある場合には、第2の圧電素子を変形部材の異なる面に設けてもよい。第2の圧電素子は設置面積を大きくすることができるので、変位検出手段は、例えば前記第2の圧電素子に生じた電圧等に基づいて検出する変位情報の精度を高めることができる。
【0026】
(7)本発明は、変形方向を切り換えて変形する変形部材と、前記変形部材に設けられた第1の圧電素子と、前記変形部材の変形による変位に関する情報である変位情報を生成する変位検出手段と、前記変形部材に設けられた調整用圧電素子を含み、制御信号に基づいて前記変形部材の共振周波数を調整する共振周波数調整手段と、を備える発電装置の制御方法であって、前記変位情報を取得するステップと、前記変位情報に基づいて前記制御信号を生成するステップと、を含む。
【0027】
本発明によれば、制御信号に基づいて共振周波数を調整する共振周波数調整手段を含む発電装置で、変位情報を取得するステップと、変位情報に基づいて制御信号を生成するステップと、を含む制御を行う。なお、生成される制御信号とは、前記のように、変位情報として与えられる信号の振幅がピークとなる特定の抵抗値等を指定する制御信号である。このとき、変形部材の共振周波数を調整することで、変形部材を環境振動に合わせて大きく振動させて、大きな発電量を得ることができる。また、機械的に梁の長さを調整する機構等と異なり、使用者に調整作業をさせることなく、自動的に共振周波数の調整が可能である。
【0028】
(8)本発明は、前記のいずれかに記載の発電装置を含む電子機器である。
【0029】
(9)本発明は、前記のいずれかに記載の発電装置を含む移動手段である。
【0030】
これらの発明は、前記の発電装置を電池の代わりに組み込んだ例えばリモコン等の小型電子機器、又は前記の発電装置を搭載した例えば車両や電車等の移動手段である。この電子機器は、例えば持ち運ばれるとき、又は使用されるときに、振動が伴うことで発電が可能である。この電子機器では、電池交換といった作業も不要である。また、この移動手段(例えば車両や電車等)は、その移動に伴う振動により発電し、例えば移動手段に備わる機器に電力供給することが可能である。電子機器に搭載された場合も、移動手段に搭載された場合も、環境振動に応じて変形部材の共振周波数を調整するので発電効率を高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施例の発電装置の構造を示した説明図である。
【図2】本実施例の蓄電素子における充電についての説明図である。
【図3】変形部材の変位と電気信号との相関関係についての説明図である。
【図4】本実施例の変形部材の振幅と可変抵抗の抵抗値の関係についての説明図である。
【図5】本実施例の発電装置の構造を詳細に示した説明図である。
【図6】本実施例の発電装置の動作を示した説明図である。
【図7】本実施例の発電装置の動作原理の前半部分を概念的に示した説明図である。
【図8】本実施例の発電装置の動作原理の後半部分を概念的に示した説明図である。
【図9】本実施例の制御処理を示したフローチャートである。
【図10】スイッチ制御処理を示したフローチャートである。
【図11】第1、第2の圧電素子および調整用圧電素子の設置例を示した図である。
【図12】第1、第2の圧電素子および調整用圧電素子の別の設置例を示した図である。
【図13】応用例の発電装置の電気的な構造を示した説明図である。
【図14】変形例の調整用圧電素子の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.実施例:
A−1.発電装置の構造:
A−2.発電装置の動作(共振周波数の調整):
A−3.発電装置の動作(効率的な高い電圧の発生):
A−4.発電装置の動作原理(効率的な高い電圧の発生):
A−5.スイッチの切換タイミング(効率的な高い電圧の発生):
A−6.圧電素子の設置例:
B.応用例:
C.変形例:
D.その他:
【0033】
A.実施例 :
本実施例の発電装置について、図1〜図12を参照して説明する。
【0034】
A−1.発電装置の構造 :
図1は、本実施例の発電装置100の構造を示した説明図である。図1(a)には、発電装置100の機械的な構造が示されており、図1(b)には電気的な構造が示されている。
【0035】
本実施例の発電装置100の機械的な構造は、先端に錘106が設けられた梁104が、基端側で支持端102に固定された片持ち梁構造となっており、支持端102は発電装置100内に固定されるのが望ましい。また、梁104の表面には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電材料によって形成された圧電部材108および圧電部材114が取り付けられており、圧電部材108の表面には、表側と裏側とに、金属薄膜によって形成された第1電極109a、第2電極109bがそれぞれ設けられている。圧電部材108、第1電極109a、および第2電極109bで圧電素子(以下、第1の圧電素子)を構成している。また、圧電部材114についても同様に、金属薄膜によって形成された第1電極115a、第2電極115bが設けられている。圧電部材114、第1電極115a、および第2電極115bで圧電素子(以下、調整用圧電素子)を構成している。
【0036】
図1(a)に示す例では、圧電部材114の長さ(梁104の長手方向)および幅(支持端102の長手方向)は圧電部材108と同じである。しかし、圧電部材114と圧電部材108とは、長さおよび幅の少なくとも一方が異なっていてもよい。なお、図1(a)に示した例では、梁104の上面側に圧電部材108が設けられ、下面側に圧電部材114が設けられているが、これらの圧電部材を設ける面が互いに逆であってもよい。また、後述するように圧電部材の同じ面に設けられていてもよい。ここで、圧電部材108および圧電部材114は梁104に設置され、梁104の変形によって変形する。梁104は本発明の「変形部材」に相当する。
【0037】
梁104は、基端側が支持端102に固定されており、先端側には錘106が設けられているので、振動などが加わると、図中に白抜きの矢印で示したように、梁104の先端が大きく振動する。その結果、梁104の表面に取り付けられた圧電部材108および圧電部材114には、圧縮力および引張力が交互に作用する。圧電部材108、圧電部材114のそれぞれは圧電効果によって正負の電荷を発生し、圧電部材108の電荷は第1電極109aおよび第2電極109bに、圧電部材114の電荷は第1電極115aおよび第2電極115bに現れる。また、錘106は必須ではないが、梁104の先端側と基端側とで重量のバランスが非均衡であることが望ましい。なぜなら、重量のバランスが非均衡であることで、たとえば、1つの振動により梁104の変位が反復しやすくなるためである。
【0038】
図1(b)には、本実施例の発電装置100の回路図が例示されている。圧電部材108は、電気的には、電流源と、電荷を蓄えるコンデンサーCgとして表すことができる。同様に圧電部材114も、電流源と、電荷を蓄えるコンデンサーCaとして表すことができる。
【0039】
圧電部材108に設けられた第1電極109aおよび第2電極109bは、4つのダイオードD1〜D4から構成される全波整流回路120に接続されている。更に、全波整流回路120には、電気負荷を駆動するために、整流後の電流を蓄えておくコンデンサー(蓄電素子C1)が接続されている。本実施例では、第1の圧電素子は発電用圧電素子として用いられる。
【0040】
調整用圧電素子の1対の電極である第1電極115aおよび第2電極115bは、可変抵抗116によって接続されている。本実施例の共振周波数調整手段119は、調整用圧電素子と可変抵抗116とを含む。可変抵抗116の抵抗値は、制御回路112(制御手段に相当)からの制御信号によって変更される。
【0041】
梁104が振動すると、調整用圧電素子も変形し、圧電効果によって第1電極115aおよび第2電極115bに正負の電荷が現れる。ここで、両電極は可変抵抗116を介して接続されている。例えば可変抵抗116の抵抗値を小さくすると、調整用圧電素子の変形によって生じた電荷は可変抵抗116を経由して直ちに他方の電極へと流れ込む。すると、両電極に生じた電荷が減少することになるので、調整用圧電素子の歪が元にもどる方向に力が作用する。つまり、変形部材が歪にくくなり、その共振周波数が高くなる。つまり、抵抗値を小さくするに従い変形部材の共振周波数を高くする調整ができる。なお、調整が不要な場合には、可変抵抗116経由の電荷の流れがなくなるように、抵抗値を十分大きな値にすればよい。
【0042】
ここで、制御回路112は、変位検出手段140から変位情報を受け取る。変位情報とは変形部材(梁104)の変形による変位に関する情報である。本実施例では、梁104の先端が繰り返し振動しており、変位情報としてその振幅のみが用いられるとする。制御回路112は、例えば振幅が極大値となるような抵抗値を指定する制御信号を生成する。このような構造の発電装置100により、環境振動の周波数と変形部材の共振周波数とが同じになるように調整することができる。
【0043】
なお、本実施例の発電装置では、第1の圧電素子はインダクターLと共に共振回路を構成しており、その共振回路にはスイッチSWが設けられている。そして、制御回路112は、変位情報に基づいてスイッチSWを導通状態とするタイミングを定めることで、効率的な高い電圧の発生を可能にする。なお、この共振回路のスイッチSWの動作については後述するものとし、まず、変形部材(梁104)の共振周波数の調整に関する事項について説明する。
【0044】
A−2.発電装置の動作(共振周波数の調整) :
図2は、本実施例の蓄電素子C1の充電について説明する図である。前記のように第1の圧電素子は発電用圧電素子として用いられる。ここで、発生する電荷の量は、第1の圧電素子の変形量が大きくなるほど多くなる。すなわち、発電量を大きくするためには、梁104が大きく歪む必要がある。
【0045】
ここで、本実施例では、第1の圧電素子の第1電極109aおよび第2電極109bは、全波整流回路120に接続されている。そして、整流後の電流が蓄電素子C1に蓄えられる。ここで、第1電極109aと第2電極109bの電位差Vgen(図1(b)参照)が、蓄電素子C1の端子間電圧VC1と全波整流回路120を構成しているダイオードの順方向降下電圧Vfの2倍との和、すなわち、VC1+2Vfよりも大きくなれば、それ以降に発生した電荷は直流電流として取り出して、蓄電素子C1に蓄えておくことができる。
【0046】
例えば、図2(a)は、環境振動の周波数と梁104の共振周波数とが一致しないため、梁104の振動の振幅が小さく、第1の圧電素子に圧電効果で生じた電位差VgenがVC1+2Vfよりも小さい場合を示す。このとき、蓄電素子C1は充電されない。
【0047】
ここで、環境振動の周波数と梁104の共振周波数とが一致するように調整できれば、梁104の振動の振幅を大きくし、図2(b)のように電位差VgenをVC1+2Vfよりも大きくできる可能性がある。このとき、VC1+2Vfを超える斜線の部分における電荷を直流電流として取り出して、蓄電素子C1に蓄えることができる。
【0048】
前記のように制御回路112は制御信号によって可変抵抗116の抵抗値を適切な値に設定する。つまり、梁104の共振周波数を調整して、環境振動の周波数に合致させる。ここで、抵抗値の「適切な値」の決定は、例えば発電装置が設置場所に初めて置かれたとき、又は設置されてから所定の時間が経過する毎に、実際の環境振動に基づいて行われることが好ましい。
【0049】
図3(a)は梁104の変位Diを表す。梁104は環境振動によって振幅uの振動を繰り返す。ここで、環境振動の周波数と梁104の共振周波数とが同じになった場合には、梁104は大きく振動するので、振幅uは極大値をとる。そこで、制御回路112は、変位検出手段140から変位情報として振幅uを受け取りながら、制御信号を変化させて可変抵抗116の抵抗値Rを最小値Rminから最大値Rmaxまでスイープさせる。そして、振幅uの変化を測定し、振幅uを極大値にする抵抗値を求める。
【0050】
図4は、振幅uと抵抗値Rの関係を表す1つの例を表す。このとき、可変抵抗116の抵抗値をR0としたときに、環境振動の周波数と梁104の共振周波数とが同じになり、梁104の振幅uは極大値u0をとる。制御回路112は、このような振幅uの変化を測定し、その後、抵抗値をR0にさせる制御信号を生成して可変抵抗116に出力する。
【0051】
ここで、制御回路112は、可変抵抗116の抵抗値を最小値Rminから最大値Rmaxまでスイープさせたときの振幅uをメモリー等に保存し、全ての値が得られた後に大小比較を行って極大値u0を決定してもよい。また、制御回路112は、可変抵抗116の抵抗値を最小値Rminから最大値Rmaxまでスイープさせながら、振幅uの微分値を求めて微分値の符号が変わったときの振幅uの値を極大値としてもよい。
【0052】
変位情報を制御回路112に与える変位検出手段140は、例えば変位センサーであって直接に梁104の変位を測定してもよい。変位センサーを用いることで高い精度の測定が可能になる。このとき、変位センサーは梁104の先端部分の上方、又は下方の筐体に設置されていてもよい。変位センサーの種類としては、例えば応答周波数の高い非接触型の渦電流式のセンサーや光学式のセンサーであってもよい。
【0053】
ただし、変位検出手段140として変位センサーを用いた場合、変位センサーの種類によっては発電装置のサイズが大きくなる可能性がある。そのため、梁104の変位と相関をもつ信号等を検出する手段を変位検出手段140として、当該信号(共振周波数の調整の場面では特にその振幅)を変位情報として出力してもよい。
【0054】
例えば、図3(b)、図3(c)は、それぞれ、梁104の変位Di(図3(a))に対応して発生する、梁104に設置された圧電素子の電位差Vpzt、電流Ipzt を表す。「梁104に設置された圧電素子」は、第1の圧電素子や調整用圧電素子を含み、さらに後述するように第2の圧電素子が梁104に設置される場合(図5参照)には、第2の圧電素子も含む。
【0055】
図3(b)、図3(c)のように、それぞれ電位差Vpzt、電流Ipzt はサインカーブを描くが、振幅uの極大値に対応して、それぞれの振幅v、振幅iも極大値をとる。つまり、梁104の振動の振幅が極大値のとき、梁104に設置された圧電素子も大きく変形するので、圧電素子の電極に現れる電荷量も極大となる。すると、電位差Vpzt、電流Ipzt の振幅v、振幅iも極大値をとることになる。このとき、変位情報を受け取る制御回路112は、振幅uの極大値を求めるのと同様の手法で、振幅v、振幅iについて極大値を求めることが可能である。
【0056】
よって、変位検出手段140は、梁104に設置された圧電素子の電圧検出回路であってもよい。例えば第1電極109aと第2電極109bの間の電位差の振幅vを変位情報として出力してもよい。また、変位検出手段140は、梁104に設置された圧電素子の電流検出回路であってもよい。例えば圧電部材108の第1電極109aからダイオードD1のアノードに流れる電流の振幅iを変位情報として出力してもよい。本実施例の変位検出手段140は具体的には電圧検出回路であるが、その構成等については後述する。
【0057】
なお、梁104の振動の振幅が極大値のとき、蓄電素子C1への充電される電荷量も極大となる。そのため、変位検出手段140は蓄電電圧検出回路(図外)であって、蓄電素子C1の端子間電圧VC1を変位情報として制御回路112に出力してもよい。
【0058】
以上のように、本実施例の発電装置100は、設置場所において環境振動に応じて変形部材の共振周波数を調整して、変形部材が大きく振動するようにできる。そのため、設置場所によらずに、大きな発電量を得ることができる。このとき、圧電効果を利用して電気的な制御により機械的な共振周波数の調整を行うので、例えば機械的に梁の長さを調整する機構を備える場合に比べて装置のサイズ(回路規模)の小型化を図ることができる。
【0059】
A−3.発電装置の動作(効率的な高い電圧の発生) :
本実施例の発電装置が、効率的に高い電圧を発生させる仕組みについて、以下、図5〜図12を参照して説明する。なお、図1〜図4と同じ要素には同じ符号を付しており説明を省略する。本実施例の発電装置では、得られる電圧は圧電材料の電気分極によって生じる電圧までに限られない。このとき、別途昇圧回路を設ける必要はなく、発電装置を小型化することができる。つまり、本実施例の発電装置は、前記の共振周波数の調整機能を備えつつ、小さな回路規模で高い電圧を発生させることができる。
【0060】
図5は、本実施例の発電装置100の電気的な構造を示した説明図である。図1(b)と同じ構造であるが、図5では変位検出手段140を具体的に示している。なお、変位検出手段140は図1(a)では示されていない圧電部材110を含んでいるが、圧電部材110の設置の具体例については後述するものとし(図11〜図12参照)、ここでは図5を参照して効率的に高い電圧を発生させる発電装置の動作について説明する。
【0061】
本実施例の発電装置100では、圧電部材108に対して、並列にインダクターLが接続されて、圧電部材108の容量成分(コンデンサーCg)と共に電気的な共振回路を形成している。そして、この共振回路をON/OFFするためのスイッチSWが、共振回路内に(インダクターLに対して直列に)設けられている。スイッチSWのON/OFFは、制御回路112によって制御されている。
【0062】
本実施例の発電装置100では、変位検出手段140は、第2の圧電素子と電圧検出回路124とを含む。第2の圧電素子は圧電部材110、第1電極111aおよび第2電極111bで構成される。図5のように、圧電部材110は、電気的には、電流源と、電荷を蓄えるコンデンサーCsとして表すことができる。第2の圧電素子も第1の圧電素子、調整用圧電素子と同じように、梁104に設置されている。
【0063】
電圧検出回路124は、梁104の変位と相関をもつ第2の圧電素子の電極間の電圧を検出して、変位情報として制御回路112に出力する。ここで、変位情報は振幅v(図3(b)参照)だけではなく、第2の圧電素子の出力電圧のピーク(極値)を表す信号を含む。
【0064】
制御回路112は、前記のように振幅vの変化に基づいて、梁104の共振周波数と環境振動の周波数が一致するように、可変抵抗116の抵抗値を定める。さらに、本実施例の制御回路112は、第2の圧電素子の出力電圧のピークを表す信号に基づいてスイッチSWのON/OFFを制御する。
【0065】
本実施例の発電装置100では、スイッチSWのON/OFFを適切に制御することで、別途昇圧回路を設けなくても、小さな回路規模で高い電圧を発生させることができる。以下では、このためのスイッチSWのON/OFFを適切な制御等について説明を行う。
【0066】
図6は、本実施例の発電装置100の動作を示した説明図である。図6(a)には、梁104の振動に伴って、梁104の先端の変位が変化する様子が示されている。なお、プラスの変位(u)は、梁104が上向きに反った状態(梁104の上面側が凹となった状態)を表しており、マイナスの変位(−u)は、梁104が下向きに反った状態(梁104の下面側が凹となった状態)を表している。また、図6(b)には、梁104の変形に伴って、圧電部材108が発生する電流の様子と、その結果として圧電部材108の内部に生じる起電力とが示されている。なお、図6(b)では、圧電部材108に電荷が発生する様子は、単位時間あたりに発生する電荷量(すなわち、電流Ipzt )として表され、圧電部材108に生じる起電力は、第1電極109aと第2電極109bとの間に生じる電位差Vpzt として表されている。
【0067】
なお、前述したように、圧電部材110も梁104に設けられており、梁104が変形すると、圧電部材110も圧電部材108と同様に変形する。従って、圧電部材110の内部にも、圧電部材108と全く同様に、図6(b)に示す電流Ipzt および電位差Vpzt が発生する。
【0068】
図6(a)および図6(b)に示されるように、梁104の変位が増加している間は、圧電部材108は正方向の電流を発生させ(すなわち、電流Ipzt がプラス値)、これに伴って第1電極109aおよび第2電極109bの電位差Vpzt は正方向へ増加する。正方向の電位差Vpzt が、蓄電素子C1の端子間電圧VC1と全波整流回路120を構成しているダイオードの順方向降下電圧Vfの2倍との和、すなわち、VC1+2Vfよりも大きくなれば、それ以降に発生した電荷は直流電流として取り出して、蓄電素子C1に蓄えておくことができる。また、梁104の変位が減少している間は、圧電部材108は負方向の電流を発生させ(すなわち、電流Ipzt がマイナス値)、これに伴って第1電極109aおよび第2電極109bの電位差Vpzt は負方向へ増加する。負方向の電位差Vpzt が、VC1と全波整流回路120の2Vfの和よりも大きくなれば、発生した電荷は直流電流として取り出して、蓄電素子C1に蓄えておくことができる。すなわち、図5のスイッチSWをOFFにしたままでも、図6(b)中に斜線を付して示した部分については、蓄電素子C1に電荷を蓄えることができる。
【0069】
本実施例の発電装置100では、図6(c)に示すタイミングで、スイッチSWをONにする。すると、図6(d)に示すように、圧電部材108を含む圧電素子の端子間(以下、単に圧電部材108の端子間と表す)の電圧波形が、スイッチSWをONにしたときにシフトしたかのような現象が発生する。例えば、図6(d)中に「B」と表示した期間Bでは、圧電部材108の起電力に対応する細い破線で示した電圧波形Vpzt がマイナス方向にシフトしたような、太い破線で示した電圧波形が圧電部材108の端子間に現れる。このような現象が発生する理由については後述する。また、図6(d)中に「C」と表示した期間Cでは、圧電部材108の起電力に対応する電圧波形Vpzt がプラス方向にシフトしたような、太い破線の電圧波形が現れる。以降の期間D、期間E、期間Fなどについても同様に、圧電部材108の起電力に対応する電圧波形Vpzt がプラス方向あるいはマイナス方向にシフトし、太い破線の電圧波形が現れる。そして、シフトした電圧波形が、VC1と2Vfとの和を超えた部分(図6(d)中に斜線を付して示した部分)では、圧電部材108で発生した電荷を蓄電素子C1に蓄えておくことができる。なお、圧電部材108から蓄電素子C1に電荷が流れる結果、圧電部材108の端子間の電圧は、VC1と2Vfとの和の電圧でクリップされる。言い換えると、圧電部材108の端子間の電圧が、VC1と2Vfとの和の電圧に保持される。その結果、第1電極109aおよび第2電極109bの間の電圧波形は、図6(d)に太い実線で示した波形となる。
【0070】
図6(b)に示したスイッチSWをOFFにしたままの場合と、図6(d)に示したように、梁104の変形方向が切り換わるタイミングでスイッチSWをONにした場合とを比較すれば明らかなように、本実施例の発電装置100では、適切なタイミングでスイッチSWをONにすることで、効率よく、蓄電素子C1に電荷を蓄えることが可能となる。そこで、本実施例の発電装置100は、スイッチSWを適切なタイミングでONにするために、制御用の圧電部材110を設けておき、圧電部材110の電圧を検出してスイッチSWを制御している。この点については、後ほど詳しく説明する。
【0071】
また、蓄電素子C1に電荷が蓄えられて、蓄電素子C1の端子間電圧が増加すると、それに従って電圧波形のシフト量も大きくなる。例えば、図6(d)中の期間B(蓄電素子C1に電荷が蓄えられていない状態)と、図6(d)中の期間H(蓄電素子C1に少し電荷が蓄えられた状態)とを比較すると、期間Hの方が電圧波形のシフト量が大きくなっている。同様に、図6(d)中の期間Cと期間Iとを比較すると、蓄電素子C1に蓄えられた電荷が増えている期間Iの方が、電圧波形のシフト量が大きくなっている。このような現象が発生する理由については後述するが、この結果、本実施例の発電装置100では、圧電部材108を変形させたことによって、第1電極109aと第2電極109bとの間に生じる電圧Vpzt 以上の電圧を、蓄電素子C1に蓄えることも可能となる。その結果、特別な昇圧回路を設ける必要がなくなり、小型で高効率の発電装置を得ることが可能となる。
【0072】
A−4.発電装置の動作原理(効率的な高い電圧の発生) :
図7は、本実施例の発電装置100の動作原理の前半部分を概念的に示した説明図である。また、図8は、本実施例の発電装置100の動作原理の後半部分を概念的に示した説明図である。図7および図8では、圧電部材108の変形に合わせてスイッチSWをONにしたときのCg(圧電部材108のコンデンサー)内での電荷の動きが、概念的に示されている。図7(a)は、圧電部材108(正確には梁104)が上向きに(上面側が凹となるように)変形した状態を表している。圧電部材108が上向きに変形すると、電流源からは正方向の電流が流れ、Cg(圧電部材108のコンデンサー)に電荷が蓄積され、Vgen は正方向の電圧が発生する。電圧値は、圧電部材108の変形量が大きくなるほど増加する。そして、圧電部材108の変形量が極値となったタイミング(電荷量が極値となったタイミング(図7(b)参照)で、スイッチSWをONにする。
【0073】
図7(c)には、スイッチSWをONにした直後の状態が示されている。Cg(圧電部材108のコンデンサー)には電荷が蓄えられているから、この電荷がインダクターLに流れようとする。インダクターLに電流が流れると磁束が生じる(磁束が増加する)が、インダクターLには、自らを貫く磁束の変化を妨げる方向に逆起電力が生じる性質(自己誘導作用)がある。スイッチSWをONにしたときは、電荷が流れることによって磁束が増加しようとするから、この磁束の増加を妨げる方向(換言すれば、電荷の流れを妨げる方向)に逆起電力が発生する。また、逆起電力の大きさは、磁束の変化速度(単位時間あたりの変化量)に比例する。図7(c)には、このようにしてインダクターLに生じる逆起電力が、斜線を付した矢印によって表されている。このような逆起電力が発生するため、スイッチSWをONにしても、圧電部材108の電荷は少しずつしか流れ出さない。すなわち、インダクターLを流れる電流は少しずつしか増加しない。
【0074】
その後、インダクターLを流れる電流がピークになると、磁束の変化速度が「0」となるので、図7(d)に示したように逆起電力が「0」となる。そして、今度は電流が減少し始める。すると、インダクターLを貫く磁束が減少するので、インダクターLには、この磁束の減少を妨げる方向(電流を流そうとする方向)の起電力が発生する(図7(e)参照)。その結果、この起電力によってCg(圧電部材108のコンデンサー)から電荷を引き抜きながら、インダクターLを電流が流れ続ける。そして、電荷の移動の途中で損失が発生しなければ、圧電部材108の変形によって生じた全ての電荷が移動して、ちょうど正負の電荷が置き換わったような状態(すなわち、圧電部材108の下面側に正電荷が分布し、上面側に負電荷が分布した状態)となる。図7(f)には、圧電部材108の変形によって生じた正負の電荷が全て移動した状態が表されている。
【0075】
仮に、このままスイッチSWをONにしておくと、今度は上述した内容と逆の現象が生じる。すなわち、圧電部材108の下面側の正電荷がインダクターLに流れようとして、このときインダクターLには、電荷の流れを妨げる方向の逆起電力が発生する。その後、インダクターLを流れる電流がピークに達した後、減少に転じると、今度は電流の減少を妨げる方向(電流を流し続けようとする方向)の起電力がインダクターLに発生する。その結果、圧電部材108の下面側にあった全ての正電荷が上面側に移動した状態(図7(b)に示した状態)となる。こうして圧電部材108の上面側に戻った正電荷は、再び、図7(b)〜図7(f)を用いて前述したようにして、下面側に移動する。
【0076】
このように、Cg(圧電部材108のコンデンサー)に電荷が蓄えられた状態でスイッチSWをONにした後、その状態を保っておくと、圧電部材108とインダクターLとの間で電流の向きが交互に反転する一種の共振現象が発生する。そして、この共振現象の周期は、いわゆるLC共振回路の共振周期Tとなるから、Cg(圧電部材108のコンデンサー)の大きさ(キャパシタンス)をC、インダクターLの誘導成分の大きさ(インダクタンス)をLとすると、T=2π(LC)0.5によって与えられる。従って、スイッチSWをONにした直後(図7(c)に示した状態)から、図7(f)に示した状態となるまでの時間は、T/2となる。
【0077】
そこで、スイッチSWをONにしてからT/2が経過した時点で、図8(a)に示すようにスイッチSWをOFFにする。そしてこの状態から、圧電部材108(正確には梁104)を今度は下向きに(下面側が凹となるように)変形させる。前述した図7(a)では、圧電部材108を上向きに変形させたが、図8(a)では下向きに変形させているので、電流源から負方向の電流が流れ、Vgen が負方向へ大きくなるようにCgに電荷が蓄積する。また、図7(a)〜図7(f)を用いて前述したように、圧電部材108(正確には梁104)を下向きに変形させる前の段階で、圧電部材108の下面側には正電荷が分布し、上面側には負電荷が分布しているから、これらの電荷に加えて、下面側には新たな正電荷が蓄積され、上面側には新たな負電荷が蓄積されることになる。図8(b)には、スイッチSWをOFFにした状態で圧電部材108(正確には梁104)を変形させることによって、圧電部材108に新たな電荷が蓄積された状態が示されている。
【0078】
そして、圧電部材108の変形量が極値となったタイミング(電荷量が極値となったタイミング)でスイッチSWをONにすると、圧電部材108の下面側に蓄積された正電荷がインダクターLに流れようとする。このときインダクターLには逆起電力が発生するので(図8(c)参照)、電流は少しずつ流れ始めるが、やがてピークに達して、その後は減少に転じる。すると、インダクターLには、電流の減少を妨げる方向(電流を流し続けようとする方向)に起電力が発生し(図8(e)参照)、この起電力によって電流が流れ続けて、最終的には、圧電部材108の下面側に分布していた全ての正電荷が上面側に移動し、上面側に分布していた全ての負電荷が下面側に移動した状態となる(図8(f)参照)。また、下面側の全ての正電荷が上面側に移動し、上面側の全ての負電荷が下面側に移動する時間は、LC共振回路の半周期に相当する時間T/2となる。そこで、スイッチSWをONにした後、時間T/2が経過したらスイッチSWをOFFにして、今度は圧電部材108(正確には梁104)を上向きに(上面側が凹となるように)変形させれば、圧電部材108内に更に正負の電荷を蓄積することができる。
【0079】
以上に説明したように本実施例の発電装置100では、圧電部材108を変形させて電荷を発生させた後、圧電部材108をインダクターLに接続して、共振周期の半分の周期だけ共振回路を形成することで、圧電部材108内での正負の電荷の分布を反転させる。その後、圧電部材108を今度は逆方向に変形させて新たな電荷を発生させる。圧電部材108内での正負の電荷の分布は反転されているから、新たに発生させた電荷は圧電部材108に蓄積されることになる。その後、再び、共振周期の半分の周期だけ圧電部材108をインダクターLに接続して、圧電部材108内での正負の電荷の分布を反転させた後、圧電部材108を逆方向に変形させる。このような動作を繰り返すことで、圧電部材108を繰り返し変形させる度に、圧電部材108に蓄積された電荷を増加させることができる。
【0080】
なお、LC共振回路の共振により、少なくとも、VgenがスイッチSWをONにする時の極性と反対の極性となった時にスイッチSWをOFFすれば、Vgenが昇圧していく。前述の説明(および以下の説明)では便宜上“T/2(共振周期の半分)”としているが、これに限定されるものではなく、LC共振回路の共振周期Tに対して、スイッチSWをONする所定期間を、少なくとも、(n+1/4)Tより長く(n+3/4)Tよりも短い時間(nは0以上の任意の整数)に設定すれば、Vgenを効率よく昇圧させることができる。
【0081】
図6を用いて前述したように本実施例の発電装置100では、スイッチSWをONにする度に圧電部材108の端子間の電圧波形がシフトする現象が生じる。すなわち、例えば図6(d)中に示した期間Aでは、圧電部材108(正確には梁104)の変形に従って、第1電極109aおよび第2電極109bの間に電圧が発生するが、第1電極109aおよび第2電極109bは全波整流回路120に接続されているので、VC1と2Vfとの和の電圧を超えた部分の電荷は、全波整流回路120に接続された蓄電素子C1に流れ込む。その結果、梁104の変形量が極値となった時点でスイッチSWをONにすると、その時に圧電部材108内に残っていた正負の電荷がインダクターLを介して移動して、圧電部材108内での正負の電荷の配置が入れ代わる。なお、図7および図8を用いて前述したメカニズムから明らかなように、スイッチSWをONにしておく期間は、圧電部材108のコンデンサーと、インダクターLとによって構成される共振回路の共振周期の半分の時間となる。
【0082】
そして、正負の電荷の配置が入れ代わった状態から梁104を逆方向に変形させると、圧電部材108の第1電極109aおよび第2電極109bの間には、圧電効果による電圧波形が現れる。すなわち、圧電部材108の第1電極109aおよび第2電極109bの極性が入れ代わった状態から、圧電部材108に変形による電圧変化が発生することになる。その結果、図6(d)中に示した期間Bでは、梁104の変形によって圧電部材108に生じる電圧波形をシフトさせたような、電圧波形が現れることになる。もっとも、前述したように、VC1と2Vfとの和の電圧を超えた部分の電荷は蓄電素子C1に流れ込むので、圧電部材108の第1電極109aおよび第2電極109bの間の電圧は、VC1と2Vfとの和の電圧でクリップされる。その後、共振周期の半分の時間だけスイッチSWをONにすると、圧電部材108に残っていた正負の電荷の配置が入れ代わる。そして、その状態から梁104が変形することによって、圧電部材108には圧電効果による電圧波形が現れる。このため、図6(d)中に示した期間Cにおいても、梁104の変形による電圧波形をシフトさせたような電圧波形が現れることになる。
【0083】
また、図6を用いて前述したように本実施例の発電装置100では、梁104が変形を繰り返しているうちに、電圧波形のシフト量が次第に大きくなるという現象も発生する。このため、圧電部材108の圧電効果によって第1電極109aと第2電極109bとの間に生じる電位差よりも高い電圧を、蓄電素子C1に蓄えることができるという大きな効果を得ることができる。このような現象は、次のようなメカニズムによって生じる。
【0084】
先ず、図6(d)中の期間Aあるいは期間Bに示したように、蓄電素子C1が充電されていない場合は、圧電部材108の端子間で発生する電圧が、全波整流回路120の2Vfを超えると、圧電部材108から蓄電素子C1に電荷が流れ込むので、圧電部材108の端子間に現れる電圧は、2Vfでクリップされている。しかし、こうして蓄電素子C1に電荷を蓄えるに従って蓄電素子C1の端子間の電圧が増加していく。すると、それ以降は、蓄電素子C1の端子間電圧がVC1と2Vfとの和よりも高い電圧になって始めて、圧電部材108から電荷が流れ込むようになる。このため、圧電部材108の端子間の電圧がクリップされる値が、蓄電素子C1に電荷が蓄えられるに従って次第に上昇していく。
【0085】
加えて、図7および図8を用いて前述したように、圧電部材108から電荷を流出させない限り、圧電部材108(正確には梁104)を変形させる度に、圧電部材108内の電荷は増加し、圧電部材108の端子間の電圧は大きくなる。このため、本実施例の発電装置100によれば、特別な昇圧回路を設けなくても、電気負荷の駆動に必要な電圧まで自然に昇圧させた状態で、発電することが可能となる。
【0086】
A−5.スイッチの切換タイミング(効率的な高い電圧の発生) :
以上に説明したように、本実施例の発電装置100では、圧電部材108(正確には梁104)に繰り返し変形を加えて、変形方向が切り換わるときに、共振周期の半分の時間だけ圧電部材108をインダクターLに接続することで、効率が良く、加えて昇圧回路が不要なために容易に小型化することができるという優れた特徴を得ることができる。もっとも、梁104の変形方向が切り換わるときにスイッチSWをONにすることは、それほど容易なことではない。例えば、梁104の変形方向が切り換わるときは、梁104の変位の大きさが最大と考えれば、機械的な接点を用いて、梁104が最大変位となったときにONとなるように構成することも可能である。しかし、接点の調整がずれると効率が大きく低下することになる。そこで、本実施例の発電装置100では、発電用の圧電部材108だけでなく、制御用の圧電部材110も設けておき、圧電部材110で発生する電圧を検出することで、スイッチSWを制御している。
【0087】
ここで、再び図3を参照して、制御用の圧電部材110で発生する電圧を検出することによって、スイッチSWを適切なタイミングで制御可能な理由を示す。図3(a)には、梁104の変位が示されている。また、図3(b)には、梁104の振動に伴って、圧電部材110に生じる起電力Vpzt が変化する様子が示されている。
【0088】
図7および図8を用いて前述したように、梁104の変位が極値に達したタイミングでスイッチSWをONにした場合に、最も効率よく発電することができる。そして、図3(a)と図3(b)とを比較すれば明らかなように、梁104の変位が極値となるのは、圧電部材110の起電力Vpzt が極値となるタイミングと一致する。これは、次のような理由による。先ず、圧電部材108は変形によって電荷が発生しても、その電荷がインダクターLによって引き抜かれたり、蓄電素子C1に電荷が流れたりする影響で、圧電部材108の起電力Vpzt は梁104の変位と完全には同じにならない。これに対して、圧電部材110は、インダクターLや蓄電素子C1と接続していないため、電荷の増減が圧電部材110の起電力Vpzt の変化に直接反映される。このため、圧電部材110の起電力Vpzt が極値となるタイミングは、梁104の変位が極値となるタイミングと一致するのである。
【0089】
そこで、図3(b)に矢印で示したように、圧電部材110の起電力Vpzt が極値となるタイミングを検出する。そして、図3(d)のようにそのタイミングから、前述した共振周期の半分の時間(T/2)だけスイッチSWをONにしてやれば、効率よく発電することが可能となる。
【0090】
図9は、本実施例の制御処理を表すフローチャートである。本実施例では、制御回路112がこれらの処理を行う。なお、制御回路112はCPUであってもよい。
【0091】
発電装置が設置された場合、又は設置されてから所定の時間が経過すると、環境振動に合わせて変形部材の共振周波数の調整が行われる。図9のステップS2、S4、S6、S8はこのときの制御処理を表す。まず、共振周波数調整手段119が含む可変抵抗116の抵抗値の変化により共振周波数が変化する(ステップS2)。ここでの共振周波数の変化とは、可変抵抗116の抵抗値が例えば最小値Rminから時間の経過と共に徐々に大きくなることで生じる変化である(図4参照)。つまり、共振周波数としては徐々に低くなっていく。このとき、制御回路112は可変抵抗116に出力する制御信号を調整して、可変抵抗116の抵抗値を徐々に大きくしてもよい。
【0092】
このとき、制御回路112は変位検出手段140から変位情報を受け取る(ステップS4)。ここでの変位情報とは、第2の圧電素子の電極間の電圧である(図5参照)。前記の通り、梁104の振動の振幅が極大値をとるとき、第2の圧電素子の電極間の電圧の振幅も極大値をとる。制御回路112は、可変抵抗116の抵抗値を変化させながら、この変位情報(電圧)の振幅の極大値を判断する(ステップS6)。極大値が得られるまで、制御回路112は共振周波数を変化させる(ステップS6:no)。制御回路112は、例えば振幅の微分値を求めて、微分値の符号が変わったときの振幅を極大値であると判断してもよい。
【0093】
そして、極大値が得られた(ステップS6:yes)後に、制御回路112は、振幅を極大値にするような抵抗値を指定する制御信号を生成し、可変抵抗116に出力する(S8)。これらの制御処理により、設置場所の環境振動の周波数と変形部材の共振周波数とを合わせて、変形部材が大きく振動するようにする。その結果、大きな発電量を得ることができる。そして、次にスイッチ制御処理(ステップS10)を行い、別途昇圧回路を設けなくても、小さな回路規模で高い電圧を発生させることができる。
【0094】
図10は、スイッチ制御処理(ステップS10)の詳細を表すフローチャートである。スイッチ制御処理では、制御用の圧電部材110の起電力を検出してスイッチSWのON/OFFを切り換える。
【0095】
スイッチ制御処理を開始すると、制御回路112は、第2の圧電素子の出力電圧を検出する電圧検出回路124からの信号に基づいて、電圧値がピークに達したか否か(すなわち、電圧値が極値に達したか否か)を判断する(ステップS100)。電圧検出回路124は、例えば電圧波形の微分を行って、微分値の符号の変化から、電圧値がピークに達したか否かを判断してもよい。
【0096】
第2の圧電素子の出力電圧のピークを検出したら(ステップS100:yes)、共振回路(圧電部材108のコンデンサーCgとインダクターLとによって構成される共振回路)のスイッチSWをONにした後(ステップS102)、制御回路112に内蔵された図示しない計時タイマーをスタートする(ステップS104)。そして、圧電部材108のコンデンサーCgとインダクターLとによって構成される共振回路の共振周期の1/2の時間が、経過したか否かを判断する(ステップS106)。なお、第2の圧電素子の出力電圧のピークを検出しなかった場合は(ステップS100:no)検出するまで待機する。
【0097】
その結果、共振周期の1/2の時間が経過していないと判断した場合は(ステップS106:no)、そのまま同様な判断を繰り返すことによって、共振周期の1/2の時間が経過するまで待機状態となる。そして、共振周期の1/2の時間が経過したと判断したら(ステップS106:yes)、共振回路のスイッチSWをOFFにする(ステップS108)。その後、スイッチ制御処理の先頭に戻って、上述した一連の処理を繰り返す。
【0098】
以上のようにして共振回路のスイッチSWのON/OFFを行えば、梁104の動きに合わせて容易に適切なタイミングでスイッチSWをON/OFFすることができるので、発電装置100を用いて効率よく発電することが可能となる。
【0099】
A−6.圧電素子の設置例 :
以上に説明した本実施例の発電装置100は、第1の圧電素子、調整用圧電素子および第2の圧電素子が同じ変形部材(梁104)に設置されている。これらの設置の仕方によって、発電能力等に差が生じる。以下に、図11〜図12を参照して、いくつかの設置の例を説明する。なお、図1〜図10と同じ要素については同じ符号を付しており、説明を省略する。
【0100】
図11は、第1の圧電素子と調整用圧電素子とが梁104の別の面に設けられる場合の設置例を示した説明図である。図11(a)は、梁104の一方の面から見た平面図である。図11(b)は、梁104の他方の面から見た平面図である。図11(a)には、梁104の一方の面に設けられた圧電部材108と第1電極109a、圧電部材110と第1電極111aが示されている。圧電部材108と第1電極109aは第1の圧電素子の構成要素であり、圧電部材110と第1電極111aは第2の圧電素子の構成要素である。また、図11(b)には、梁104の他方の面に設けられた圧電部材114と第2電極115bが示されている。圧電部材114と第2電極115bは調整用圧電素子の構成要素である。
【0101】
このとき、調整用圧電素子の面積を大きくすることができる。そのため、梁104の共振周波数の調整能力を高くすることが可能となる。
【0102】
次に、図11(c)および図11(d)は、別の設置例である。図11(c)は、梁104の一方の面から見た平面図である。図11(d)は、梁104の他方の面から見た平面図である。図11(c)には、梁104の一方の面に設けられた圧電部材108と第1電極109aが示されている。図11(d)には、梁104の他方の面に設けられた圧電部材114と第2電極115b、圧電部材110と第2電極111bが示されている。この場合も、第1の圧電素子と調整用圧電素子とが梁104の別の面に設けられるが、図11(a)および図11(b)で示した例とは異なり、発電用圧電素子として使用される第1の圧電素子の面積を大きくすることができる。そのため、発電能力を高くすることが可能となる。
【0103】
図12は、第1の圧電素子と調整用圧電素子とが梁104の同じ面に設けられる場合の設置例を示した説明図である。第1の圧電素子および調整用圧電素子を、変形部材の同じ面に設けた場合、梁104の他方の面に第2の圧電素子を単独で設置することができる。
【0104】
図12(a)は、第1の圧電素子と調整用圧電素子とが梁104の同じ面に設けられる場合の1つの設置例であり、梁104の一方の面から見た平面図である。図12(a)には、圧電部材108と第1電極109a、圧電部材114と第1電極115aが示されている。圧電部材108と第1電極109aは第1の圧電素子の構成要素であり、圧電部材114と第1電極115aは調整用圧電素子の構成要素である。図12(b)は、梁104の他方の面から見た平面図である。図12(b)には、梁104の一方の面に設けられた圧電部材110と第2電極111bが示されている。圧電部材110と第2電極111bは第2の圧電素子の構成要素である。
【0105】
このとき、第2の圧電素子の面積を大きくすることができる。そのため、制御用圧電素子として使用される第2の圧電素子の感度を高くすることが可能となる。
【0106】
このような圧電素子の設置の工夫により、梁104の共振周波数の調整能力を高めること、発電能力を高めること、又は制御用圧電素子の感度を高めることが可能となる。
【0107】
B.応用例 :
前記の実施例において、第1の圧電素子はインダクターと共に共振回路を構成しており、その共振回路にはスイッチが設けられている。そして、制御手段は、変位情報に基づいてスイッチを導通状態とするタイミングを定めることで、高い電圧での発電を可能にしていた。しかし、共振回路を含まずとも、共振周波数調整手段を備えることで、その共振周波数を調整して発電効率を高めることができる。
【0108】
図13は、応用例の発電装置100Aの電気的な構造を示した説明図である。なお、図1(b)と同じ要素には同じ符号を付しており説明を省略する。図13と図1(b)とを比較すると明らかなように、上述の実施例に対して応用例の発電装置100Aは、インダクターLが接続されていない。すなわち、応用例の発電装置100A内には上述の実施例のようなLC共振回路は構成されない。これにより、制御回路112に内蔵されたCPUによって実行されるLC共振回路を利用するための制御処理(図10のスイッチ制御処理)を省略することができる。
【0109】
もちろん、応用例の発電装置100Aは、上述した実施例の発電装置100のようにLC共振回路を利用しないので、実施例の発電装置100のような昇圧の効果を望むことはできない。しかし、共振周波数を調整する共振周波数調整手段を含むことで、変形部材の共振周波数を環境振動に合わせて調整することが可能である。具体的には、実施例と同様に、制御回路112が制御信号によって可変抵抗116の抵抗値を適切な値に設定して梁104の共振周波数を調整し、環境振動の周波数に合致させることができる。
【0110】
そのため、これらの発明の発電装置は、変形部材の共振周波数を調整することで、変形部材を環境振動に合わせて大きく振動させて、実施例ほどではないものの、比較的大きな発電量を得ることができる。このとき、機械的に梁の長さを調整する機構も、長さが互いに異なる複数の片持ち梁も不要であるため、装置のサイズを小さくすることが可能である。
【0111】
C.変形例 :
前記の実施例の変位検出手段140は、第2の圧電素子と電圧検出回路124とを含んでいた。本変形例では、実施例の変位検出手段140に代えて、図14の変位検出手段140aを用いる。変位検出手段140aは、第2の圧電素子と電流検出回路128とを含む。図3(c)のように、電流Ipzt も変位Diの変化と対応し、変位情報として用いることが可能である。つまり、図3(c)の矢印で示されるように、梁104の振動のピークと第2の圧電素子が発生させる電荷による電流の向きが切り換わるタイミング(電流が0となるタイミング)とは対応している。例えば、制御回路112は、電流検出回路128から電流が0となるタイミングを表す信号を受け取り、スイッチSW(図5参照)をON状態にすればよい。
【0112】
電流検出回路128は、例えば、電流検出器、増幅回路、絶対値回路、比較器を順に接続して構成されていてもよい。電流検出器は一般的に知られている、たとえばホール素子型電流センサーやシャント抵抗などを用いることができる。増幅回路は、電流検出器の出力信号を所定のゲインで増幅する。絶対値回路は、増幅回路の出力信号の絶対値信号を出力する。そして、比較器は、絶対値回路の出力信号を2値化(パルス化)して出力する。電流が0になるタイミングは、この比較器の出力信号の立ち下がりエッジにより把握することができる。
【0113】
D.その他 :
以上、各種の実施例等について説明したが、本発明はこれらの例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0114】
例えば、上述した実施例等では、圧電部材108が片持ち梁構造の梁104に取り付けられているものとして説明した。しかし、圧電部材108や圧電部材110などが取り付けられる部材は、振動などによって容易に繰り返し変形する部材であれば、どのような部材であっても構わない。例えば、薄膜の表面に圧電部材108や圧電部材110などを取り付けても良い。
【0115】
本発明の発電装置は振動や移動に応じて発電するため、例えば、橋梁や建築物あるいは地すべり想定箇所などに発電装置を設置すれば地震などの災害時に発電し、電子機器などのネットワーク手段に必要時(災害時)だけ電源供給することもできる。このとき、変形部材の共振周波数は設置場所に応じて調整され、効率的な発電を行うことができる。
【0116】
なお、本発明の発電装置は小型化が可能であるが、設置する対象は電子機器に限らない。例えば、車両や電車などの移動手段に本発明の発電装置を用いることで、移動に伴う振動により発電し、移動手段に備わる機器に効率良く電力供給することもできる。
【0117】
さらに、特定の機器等に設置されるのではなく、本発明の発電装置が例えばボタン電池、乾電池と同じ形状であって、電子機器一般で使用されてもよい。このとき、振動によって蓄電素子への充電が可能であるため、電力が喪失した災害時でも電池として使用可能である。このとき、一次電池より寿命が長いため、ライフサイクルの観点で環境負荷低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0118】
100…発電装置、102…支持端、104…梁、106…錘、108,110,114…圧電部材、109a,111a,115a…第1電極、109b,111b,115b…第2電極、112…制御回路、116…可変抵抗、119,119a…共振周波数調整手段、120…全波整流回路、124…電圧検出回路、128…電流検出回路、140,140a…変位検出手段、L…インダクター、C1…蓄電素子、D1〜D4…ダイオード、SW…スイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピエゾ素子などの圧電材料が外力によって変形したときに発生する電荷を電気エネルギーとして取り出す発電装置、その制御方法、この発電装置を含む電子機器、および移動手段等に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)や、水晶(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)などの圧電材料は変形すると、材料内部に電気分極が誘起されて表面に正負の電荷が現れる。このような現象は、いわゆる圧電効果と呼ばれている。圧電材料が有するこのような性質を利用して、片持ち梁を振動させて圧電材料に繰り返し加重を作用させ、圧電材料の表面に生じた電荷を電気として取り出す発電方法が提案されている。
【0003】
例えば、先端に錘を設けると共に圧電材料の薄板を貼り付けた金属製の片持ち梁を振動させ、振動に伴って圧電材料に交互に生じる正負の電荷を取り出すことによって交流電流を発生させる。そして、この交流電流をダイオードによって整流した後、コンデンサーに蓄えておき、電力として取り出す技術が提案されている(特許文献1)。この技術を用いれば、発電装置を小型化することができるので、例えば小型の電子部品に電池の代わりに組み込むなどの応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−107752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、提案されている従来の技術では、適当な外力が得られない場所に設置された場合に発電量が低下するという問題があった。つまり、外力による振動(以下、環境振動)が、圧電材料の薄板を貼り付けた片持ち梁の共振周波数と一致しない場合には、圧電材料の変形が小さいために発電量が低下してしまう。しかし、片持ち梁の共振周波数は、例えば梁の長さ、厚さ、材質、錘の重さ等に依存し、製造出荷時に決定されることが多い。そのため、設置場所の環境振動に合わせて調整することは一般に困難であった。
【0006】
この問題に対して、例えば発電装置に機械的に梁の長さを調整する機構を追加する解決策が考えられる。また、例えば梁の長さが互いに異なる片持ち梁を複数備える発電装置を用いるという解決策も考えられる。前者の場合には、例えば使用者が設置場所において片持ち梁の共振周波数の調整を行う。後者の場合には、いずれかの片持ち梁の共振周波数が環境振動の周波数と一致することを期待できる。しかし、いずれの場合にも、発電装置のサイズが大きくなってしまう。
【0007】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたものである。本発明のいくつかの態様によれば、圧電材料の圧電効果を利用した発電装置であって、小さな回路規模ながら共振周波数を調整して大きな発電量を得ることができる発電装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、発電装置であって、変形方向を切り換えて変形する変形部材と、前記変形部材に設けられた第1の圧電素子と、前記変形部材の変形による変位に関する情報である変位情報を生成する変位検出手段と、前記変形部材に設けられた調整用圧電素子を含み、制御信号に基づいて前記変形部材の共振周波数を調整する共振周波数調整手段と、前記第1の圧電素子を含む共振回路を構成するインダクターと、前記共振回路に設けられたスイッチと、前記変位情報に基づいて前記制御信号を生成し、前記変位情報に基づいて前記スイッチを所定期間導通状態とする制御手段と、を備える。
【0009】
(2)この発電装置において、前記共振周波数調整手段は、前記調整用圧電素子の一対の電極に接続された可変抵抗を含み、前記制御信号に基づいて前記可変抵抗の抵抗値を変化させてもよい。
【0010】
(3)この発電装置において、前記変位検出手段は、前記変形部材に設けられた第2の圧電素子と、前記第2の圧電素子に生じた電圧を検出する電圧検出回路と、を含み、前記電圧検出回路が検出した電圧に基づいて前記変位情報を生成してもよい。
【0011】
(4)この発電装置において、前記変位検出手段は、前記変形部材に設けられた第2の圧電素子と、前記第2の圧電素子から流れる電流を検出する電流検出回路と、を含み、前記電流検出回路が検出した電流に基づいて前記変位情報を生成してもよい。
【0012】
これらの発明は、第1の圧電素子が変形部材に設けられているので、変形部材が変形することにより第1の圧電素子も変形する。その結果、第1の圧電素子には、圧電効果によって正負の電荷が発生する。なお、電荷の発生量は、第1の圧電素子の変形量が大きくなるほど多くなる。
【0013】
ここで、変形部材の共振周波数と環境振動の周波数とが同じであれば、変形部材は大きく振動し、大きな発電量を得られることが知られている。しかし、環境振動は発電装置の設置場所の環境により様々であり、変形部材の共振周波数と同じ環境振動の周波数が得られるとは限らない。これらの発明は、共振周波数を調整する共振周波数調整手段を含むことで、変形部材の共振周波数を環境振動に合わせて調整することが可能である。
【0014】
共振周波数調整手段は、変形部材に設けられた調整用圧電素子を含み、その圧電効果又は逆圧電効果を利用して共振周波数の調整を行う。例えば、共振周波数調整手段は、調整用圧電素子の一対の電極に接続された可変抵抗を含み、制御信号に基づいて可変抵抗の抵抗値を変化させてもよい。例えば、抵抗値を小さくすると、圧電効果によって電極に生じた正負の電荷が可変抵抗を通じて流れやすくなる。そのため、電極に生じた電荷が減少することになるので、調整用圧電素子の歪が元にもどる方向に力が作用する。ここで、調整用圧電素子は変形部材に設けられているので、変形部材が歪にくくなり、その共振周波数が高くなる。なお、共振周波数を高くする必要がない場合には、抵抗値を十分大きな値にすればよい。
【0015】
ここで、共振周波数調整手段に入力される制御信号は、変位情報に基づいて制御手段が生成する。変位情報は、変形部材の変形による変位に関する情報である。変位検出手段は、例えば直接変形部材の変形を測定して変位情報を生成してもよいし、変形部材の変位に対応して変化する信号に基づいて変位情報を生成してもよい。変形部材の共振周波数と環境振動の周波数とが同じであれば、変形部材は大きく振動し、その振幅がピーク(極大値)となる。例えば、制御手段は最初に制御信号によって可変抵抗の抵抗値をスイープし振幅がピーク(極大値)となる特定の抵抗値を決定してもよい。そして、特定の抵抗値又は電圧値を指定する制御信号を共振周波数調整手段に与えてもよい。
【0016】
このように、これらの発明の発電装置は、変形部材の共振周波数を調整することで、変形部材を環境振動に合わせて大きく振動させて、大きな発電量を得ることができる。このとき、機械的に梁の長さを調整する機構も、長さが互いに異なる複数の片持ち梁も不要であるため、装置のサイズを小さくすることが可能である。
【0017】
また、これらの発明では、第1の圧電素子はインダクターと共に共振回路を構成しており、その共振回路にはスイッチが設けられている。そして、制御手段がスイッチを適切なタイミングで導通状態とすることで、第1の圧電素子内に発生していた正負の電荷の配置を逆転させることができ、昇圧回路を別途用意する必要のない小さな回路規模で、高い電圧を得ることが可能になる。
【0018】
ここで、制御手段は、変位情報に基づいてスイッチを導通状態とするタイミングを定めることで、効率的な発電を可能にする。前記のように、変位情報は、変形部材の変形による変位に関する情報であって、変位検出手段によって生成される。このとき、変位検出手段は変位情報を第2の圧電素子の電圧を検出することで得てもよい。又は、変位検出手段は変位情報を第2の圧電素子の電流を検出することで得てもよい。
【0019】
このとき、スイッチの導通を切断した状態で変形部材の変形を開始して、変形量が極値となったとき(すなわち変形方向が切り換わるとき)に、スイッチを導通状態とする。第1の圧電素子(および第2の圧電素子)は変形部材と共に変形し、変形量が大きくなるほど多くの電荷を発生させるから、第1の圧電素子(および第2の圧電素子)で発生した電荷が最も多くなった時に、第1の圧電素子がインダクターに接続されて共振回路を形成する。すると、第1の圧電素子に発生していた電荷がインダクターに流れ込む。そして、第1の圧電素子およびインダクターは共振回路を構成しているから、インダクターに流れ込んだ電流はオーバーシュートして、第1の圧電素子の反対側の端子に流れ込む。この期間(すなわち、第1の圧電素子の一方の端子から流れ出した電荷が、インダクターを介して反対側の端子から再び第1の圧電素子内に流れ込むまでの期間)は、第1の圧電素子およびインダクターによって形成される共振回路の共振周期の半分となる。従って、第1の圧電素子の変形方向が切り換わったときにスイッチを接続して共振回路を形成し、その後、共振周期の半分の時間が経過したときにスイッチを切断すれば、インダクターを接続する前に第1の圧電素子内に発生していた正負の電荷の配置を逆転させることができる。そして、その状態から、今度は逆方向に変形部材を変形させれば、第1の圧電素子が逆方向に変形するため、正負の電荷の配置が逆転した状態から更に圧電効果によって発生した新たな電荷が積み増されるようにして第1の圧電素子内に電荷が蓄積される。また、第1の圧電素子内に電荷が蓄積されるに従って発生する電圧も増加するので、昇圧回路を別途用意しなくても、第1の圧電素子を構成する圧電材料の電気分極によって生じる電圧よりも高い電圧を発生させることができる。更に、こうして第1の圧電素子内に効率よく電荷を蓄積するためには、第1の圧電素子の変形方向が切り換わったときにスイッチを接続して共振回路を形成することが重要となる。ここで、変形部材には第1の圧電素子および第2の圧電素子が設けられているので、第1の圧電素子の変形方向が切り換わるときには、第2の圧電素子の変形方向も切り換わる。そして、第2の圧電素子も変形量が大きくなるほど高い電圧を発生させるから、第2の圧電素子の変形方向が切り換わるところでは、第2の圧電素子の発生する電圧が極値である。このことから、例えば第2の圧電素子に生じた電圧を検出して、その電圧が極値となった時点から所定期間だけスイッチを導通状態とすれば、第1の圧電素子内に効率よく電荷を蓄積することが可能となる。
【0020】
(5)この発電装置において、前記第1の圧電素子と前記調整用圧電素子とは、前記変形部材の異なる面に設けられていてもよい。
【0021】
本発明によれば、第1の圧電素子と調整用圧電素子とを、変形部材の異なる面に設けるので、第1の圧電素子の設置面積を大きくすることができ、高い発電能力を確保することが可能である。仮に、第1の圧電素子および調整用圧電素子を、変形部材の同じ面に設けたとすると、互いの設置面積が狭くなるおそれがあるからである。
【0022】
また、調整用圧電素子についても、設置面積を大きくすることができるので、変形部材の共振周波数の調整範囲を広げることが可能になる。
【0023】
(6)この発電装置において、前記第1の圧電素子と前記調整用圧電素子とは、前記変形部材の同じ面に設けられていてもよい。
【0024】
本発明によれば、第1の圧電素子および調整用圧電素子が、変形部材の同じ面に設けられていれば、第1の圧電素子および調整用圧電素子を一度に(同じ工程で)変形部材に設けることができる。このため、生産性良く発電装置を製造することが可能となる。
【0025】
このとき、第2の圧電素子がある場合には、第2の圧電素子を変形部材の異なる面に設けてもよい。第2の圧電素子は設置面積を大きくすることができるので、変位検出手段は、例えば前記第2の圧電素子に生じた電圧等に基づいて検出する変位情報の精度を高めることができる。
【0026】
(7)本発明は、変形方向を切り換えて変形する変形部材と、前記変形部材に設けられた第1の圧電素子と、前記変形部材の変形による変位に関する情報である変位情報を生成する変位検出手段と、前記変形部材に設けられた調整用圧電素子を含み、制御信号に基づいて前記変形部材の共振周波数を調整する共振周波数調整手段と、を備える発電装置の制御方法であって、前記変位情報を取得するステップと、前記変位情報に基づいて前記制御信号を生成するステップと、を含む。
【0027】
本発明によれば、制御信号に基づいて共振周波数を調整する共振周波数調整手段を含む発電装置で、変位情報を取得するステップと、変位情報に基づいて制御信号を生成するステップと、を含む制御を行う。なお、生成される制御信号とは、前記のように、変位情報として与えられる信号の振幅がピークとなる特定の抵抗値等を指定する制御信号である。このとき、変形部材の共振周波数を調整することで、変形部材を環境振動に合わせて大きく振動させて、大きな発電量を得ることができる。また、機械的に梁の長さを調整する機構等と異なり、使用者に調整作業をさせることなく、自動的に共振周波数の調整が可能である。
【0028】
(8)本発明は、前記のいずれかに記載の発電装置を含む電子機器である。
【0029】
(9)本発明は、前記のいずれかに記載の発電装置を含む移動手段である。
【0030】
これらの発明は、前記の発電装置を電池の代わりに組み込んだ例えばリモコン等の小型電子機器、又は前記の発電装置を搭載した例えば車両や電車等の移動手段である。この電子機器は、例えば持ち運ばれるとき、又は使用されるときに、振動が伴うことで発電が可能である。この電子機器では、電池交換といった作業も不要である。また、この移動手段(例えば車両や電車等)は、その移動に伴う振動により発電し、例えば移動手段に備わる機器に電力供給することが可能である。電子機器に搭載された場合も、移動手段に搭載された場合も、環境振動に応じて変形部材の共振周波数を調整するので発電効率を高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施例の発電装置の構造を示した説明図である。
【図2】本実施例の蓄電素子における充電についての説明図である。
【図3】変形部材の変位と電気信号との相関関係についての説明図である。
【図4】本実施例の変形部材の振幅と可変抵抗の抵抗値の関係についての説明図である。
【図5】本実施例の発電装置の構造を詳細に示した説明図である。
【図6】本実施例の発電装置の動作を示した説明図である。
【図7】本実施例の発電装置の動作原理の前半部分を概念的に示した説明図である。
【図8】本実施例の発電装置の動作原理の後半部分を概念的に示した説明図である。
【図9】本実施例の制御処理を示したフローチャートである。
【図10】スイッチ制御処理を示したフローチャートである。
【図11】第1、第2の圧電素子および調整用圧電素子の設置例を示した図である。
【図12】第1、第2の圧電素子および調整用圧電素子の別の設置例を示した図である。
【図13】応用例の発電装置の電気的な構造を示した説明図である。
【図14】変形例の調整用圧電素子の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.実施例:
A−1.発電装置の構造:
A−2.発電装置の動作(共振周波数の調整):
A−3.発電装置の動作(効率的な高い電圧の発生):
A−4.発電装置の動作原理(効率的な高い電圧の発生):
A−5.スイッチの切換タイミング(効率的な高い電圧の発生):
A−6.圧電素子の設置例:
B.応用例:
C.変形例:
D.その他:
【0033】
A.実施例 :
本実施例の発電装置について、図1〜図12を参照して説明する。
【0034】
A−1.発電装置の構造 :
図1は、本実施例の発電装置100の構造を示した説明図である。図1(a)には、発電装置100の機械的な構造が示されており、図1(b)には電気的な構造が示されている。
【0035】
本実施例の発電装置100の機械的な構造は、先端に錘106が設けられた梁104が、基端側で支持端102に固定された片持ち梁構造となっており、支持端102は発電装置100内に固定されるのが望ましい。また、梁104の表面には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電材料によって形成された圧電部材108および圧電部材114が取り付けられており、圧電部材108の表面には、表側と裏側とに、金属薄膜によって形成された第1電極109a、第2電極109bがそれぞれ設けられている。圧電部材108、第1電極109a、および第2電極109bで圧電素子(以下、第1の圧電素子)を構成している。また、圧電部材114についても同様に、金属薄膜によって形成された第1電極115a、第2電極115bが設けられている。圧電部材114、第1電極115a、および第2電極115bで圧電素子(以下、調整用圧電素子)を構成している。
【0036】
図1(a)に示す例では、圧電部材114の長さ(梁104の長手方向)および幅(支持端102の長手方向)は圧電部材108と同じである。しかし、圧電部材114と圧電部材108とは、長さおよび幅の少なくとも一方が異なっていてもよい。なお、図1(a)に示した例では、梁104の上面側に圧電部材108が設けられ、下面側に圧電部材114が設けられているが、これらの圧電部材を設ける面が互いに逆であってもよい。また、後述するように圧電部材の同じ面に設けられていてもよい。ここで、圧電部材108および圧電部材114は梁104に設置され、梁104の変形によって変形する。梁104は本発明の「変形部材」に相当する。
【0037】
梁104は、基端側が支持端102に固定されており、先端側には錘106が設けられているので、振動などが加わると、図中に白抜きの矢印で示したように、梁104の先端が大きく振動する。その結果、梁104の表面に取り付けられた圧電部材108および圧電部材114には、圧縮力および引張力が交互に作用する。圧電部材108、圧電部材114のそれぞれは圧電効果によって正負の電荷を発生し、圧電部材108の電荷は第1電極109aおよび第2電極109bに、圧電部材114の電荷は第1電極115aおよび第2電極115bに現れる。また、錘106は必須ではないが、梁104の先端側と基端側とで重量のバランスが非均衡であることが望ましい。なぜなら、重量のバランスが非均衡であることで、たとえば、1つの振動により梁104の変位が反復しやすくなるためである。
【0038】
図1(b)には、本実施例の発電装置100の回路図が例示されている。圧電部材108は、電気的には、電流源と、電荷を蓄えるコンデンサーCgとして表すことができる。同様に圧電部材114も、電流源と、電荷を蓄えるコンデンサーCaとして表すことができる。
【0039】
圧電部材108に設けられた第1電極109aおよび第2電極109bは、4つのダイオードD1〜D4から構成される全波整流回路120に接続されている。更に、全波整流回路120には、電気負荷を駆動するために、整流後の電流を蓄えておくコンデンサー(蓄電素子C1)が接続されている。本実施例では、第1の圧電素子は発電用圧電素子として用いられる。
【0040】
調整用圧電素子の1対の電極である第1電極115aおよび第2電極115bは、可変抵抗116によって接続されている。本実施例の共振周波数調整手段119は、調整用圧電素子と可変抵抗116とを含む。可変抵抗116の抵抗値は、制御回路112(制御手段に相当)からの制御信号によって変更される。
【0041】
梁104が振動すると、調整用圧電素子も変形し、圧電効果によって第1電極115aおよび第2電極115bに正負の電荷が現れる。ここで、両電極は可変抵抗116を介して接続されている。例えば可変抵抗116の抵抗値を小さくすると、調整用圧電素子の変形によって生じた電荷は可変抵抗116を経由して直ちに他方の電極へと流れ込む。すると、両電極に生じた電荷が減少することになるので、調整用圧電素子の歪が元にもどる方向に力が作用する。つまり、変形部材が歪にくくなり、その共振周波数が高くなる。つまり、抵抗値を小さくするに従い変形部材の共振周波数を高くする調整ができる。なお、調整が不要な場合には、可変抵抗116経由の電荷の流れがなくなるように、抵抗値を十分大きな値にすればよい。
【0042】
ここで、制御回路112は、変位検出手段140から変位情報を受け取る。変位情報とは変形部材(梁104)の変形による変位に関する情報である。本実施例では、梁104の先端が繰り返し振動しており、変位情報としてその振幅のみが用いられるとする。制御回路112は、例えば振幅が極大値となるような抵抗値を指定する制御信号を生成する。このような構造の発電装置100により、環境振動の周波数と変形部材の共振周波数とが同じになるように調整することができる。
【0043】
なお、本実施例の発電装置では、第1の圧電素子はインダクターLと共に共振回路を構成しており、その共振回路にはスイッチSWが設けられている。そして、制御回路112は、変位情報に基づいてスイッチSWを導通状態とするタイミングを定めることで、効率的な高い電圧の発生を可能にする。なお、この共振回路のスイッチSWの動作については後述するものとし、まず、変形部材(梁104)の共振周波数の調整に関する事項について説明する。
【0044】
A−2.発電装置の動作(共振周波数の調整) :
図2は、本実施例の蓄電素子C1の充電について説明する図である。前記のように第1の圧電素子は発電用圧電素子として用いられる。ここで、発生する電荷の量は、第1の圧電素子の変形量が大きくなるほど多くなる。すなわち、発電量を大きくするためには、梁104が大きく歪む必要がある。
【0045】
ここで、本実施例では、第1の圧電素子の第1電極109aおよび第2電極109bは、全波整流回路120に接続されている。そして、整流後の電流が蓄電素子C1に蓄えられる。ここで、第1電極109aと第2電極109bの電位差Vgen(図1(b)参照)が、蓄電素子C1の端子間電圧VC1と全波整流回路120を構成しているダイオードの順方向降下電圧Vfの2倍との和、すなわち、VC1+2Vfよりも大きくなれば、それ以降に発生した電荷は直流電流として取り出して、蓄電素子C1に蓄えておくことができる。
【0046】
例えば、図2(a)は、環境振動の周波数と梁104の共振周波数とが一致しないため、梁104の振動の振幅が小さく、第1の圧電素子に圧電効果で生じた電位差VgenがVC1+2Vfよりも小さい場合を示す。このとき、蓄電素子C1は充電されない。
【0047】
ここで、環境振動の周波数と梁104の共振周波数とが一致するように調整できれば、梁104の振動の振幅を大きくし、図2(b)のように電位差VgenをVC1+2Vfよりも大きくできる可能性がある。このとき、VC1+2Vfを超える斜線の部分における電荷を直流電流として取り出して、蓄電素子C1に蓄えることができる。
【0048】
前記のように制御回路112は制御信号によって可変抵抗116の抵抗値を適切な値に設定する。つまり、梁104の共振周波数を調整して、環境振動の周波数に合致させる。ここで、抵抗値の「適切な値」の決定は、例えば発電装置が設置場所に初めて置かれたとき、又は設置されてから所定の時間が経過する毎に、実際の環境振動に基づいて行われることが好ましい。
【0049】
図3(a)は梁104の変位Diを表す。梁104は環境振動によって振幅uの振動を繰り返す。ここで、環境振動の周波数と梁104の共振周波数とが同じになった場合には、梁104は大きく振動するので、振幅uは極大値をとる。そこで、制御回路112は、変位検出手段140から変位情報として振幅uを受け取りながら、制御信号を変化させて可変抵抗116の抵抗値Rを最小値Rminから最大値Rmaxまでスイープさせる。そして、振幅uの変化を測定し、振幅uを極大値にする抵抗値を求める。
【0050】
図4は、振幅uと抵抗値Rの関係を表す1つの例を表す。このとき、可変抵抗116の抵抗値をR0としたときに、環境振動の周波数と梁104の共振周波数とが同じになり、梁104の振幅uは極大値u0をとる。制御回路112は、このような振幅uの変化を測定し、その後、抵抗値をR0にさせる制御信号を生成して可変抵抗116に出力する。
【0051】
ここで、制御回路112は、可変抵抗116の抵抗値を最小値Rminから最大値Rmaxまでスイープさせたときの振幅uをメモリー等に保存し、全ての値が得られた後に大小比較を行って極大値u0を決定してもよい。また、制御回路112は、可変抵抗116の抵抗値を最小値Rminから最大値Rmaxまでスイープさせながら、振幅uの微分値を求めて微分値の符号が変わったときの振幅uの値を極大値としてもよい。
【0052】
変位情報を制御回路112に与える変位検出手段140は、例えば変位センサーであって直接に梁104の変位を測定してもよい。変位センサーを用いることで高い精度の測定が可能になる。このとき、変位センサーは梁104の先端部分の上方、又は下方の筐体に設置されていてもよい。変位センサーの種類としては、例えば応答周波数の高い非接触型の渦電流式のセンサーや光学式のセンサーであってもよい。
【0053】
ただし、変位検出手段140として変位センサーを用いた場合、変位センサーの種類によっては発電装置のサイズが大きくなる可能性がある。そのため、梁104の変位と相関をもつ信号等を検出する手段を変位検出手段140として、当該信号(共振周波数の調整の場面では特にその振幅)を変位情報として出力してもよい。
【0054】
例えば、図3(b)、図3(c)は、それぞれ、梁104の変位Di(図3(a))に対応して発生する、梁104に設置された圧電素子の電位差Vpzt、電流Ipzt を表す。「梁104に設置された圧電素子」は、第1の圧電素子や調整用圧電素子を含み、さらに後述するように第2の圧電素子が梁104に設置される場合(図5参照)には、第2の圧電素子も含む。
【0055】
図3(b)、図3(c)のように、それぞれ電位差Vpzt、電流Ipzt はサインカーブを描くが、振幅uの極大値に対応して、それぞれの振幅v、振幅iも極大値をとる。つまり、梁104の振動の振幅が極大値のとき、梁104に設置された圧電素子も大きく変形するので、圧電素子の電極に現れる電荷量も極大となる。すると、電位差Vpzt、電流Ipzt の振幅v、振幅iも極大値をとることになる。このとき、変位情報を受け取る制御回路112は、振幅uの極大値を求めるのと同様の手法で、振幅v、振幅iについて極大値を求めることが可能である。
【0056】
よって、変位検出手段140は、梁104に設置された圧電素子の電圧検出回路であってもよい。例えば第1電極109aと第2電極109bの間の電位差の振幅vを変位情報として出力してもよい。また、変位検出手段140は、梁104に設置された圧電素子の電流検出回路であってもよい。例えば圧電部材108の第1電極109aからダイオードD1のアノードに流れる電流の振幅iを変位情報として出力してもよい。本実施例の変位検出手段140は具体的には電圧検出回路であるが、その構成等については後述する。
【0057】
なお、梁104の振動の振幅が極大値のとき、蓄電素子C1への充電される電荷量も極大となる。そのため、変位検出手段140は蓄電電圧検出回路(図外)であって、蓄電素子C1の端子間電圧VC1を変位情報として制御回路112に出力してもよい。
【0058】
以上のように、本実施例の発電装置100は、設置場所において環境振動に応じて変形部材の共振周波数を調整して、変形部材が大きく振動するようにできる。そのため、設置場所によらずに、大きな発電量を得ることができる。このとき、圧電効果を利用して電気的な制御により機械的な共振周波数の調整を行うので、例えば機械的に梁の長さを調整する機構を備える場合に比べて装置のサイズ(回路規模)の小型化を図ることができる。
【0059】
A−3.発電装置の動作(効率的な高い電圧の発生) :
本実施例の発電装置が、効率的に高い電圧を発生させる仕組みについて、以下、図5〜図12を参照して説明する。なお、図1〜図4と同じ要素には同じ符号を付しており説明を省略する。本実施例の発電装置では、得られる電圧は圧電材料の電気分極によって生じる電圧までに限られない。このとき、別途昇圧回路を設ける必要はなく、発電装置を小型化することができる。つまり、本実施例の発電装置は、前記の共振周波数の調整機能を備えつつ、小さな回路規模で高い電圧を発生させることができる。
【0060】
図5は、本実施例の発電装置100の電気的な構造を示した説明図である。図1(b)と同じ構造であるが、図5では変位検出手段140を具体的に示している。なお、変位検出手段140は図1(a)では示されていない圧電部材110を含んでいるが、圧電部材110の設置の具体例については後述するものとし(図11〜図12参照)、ここでは図5を参照して効率的に高い電圧を発生させる発電装置の動作について説明する。
【0061】
本実施例の発電装置100では、圧電部材108に対して、並列にインダクターLが接続されて、圧電部材108の容量成分(コンデンサーCg)と共に電気的な共振回路を形成している。そして、この共振回路をON/OFFするためのスイッチSWが、共振回路内に(インダクターLに対して直列に)設けられている。スイッチSWのON/OFFは、制御回路112によって制御されている。
【0062】
本実施例の発電装置100では、変位検出手段140は、第2の圧電素子と電圧検出回路124とを含む。第2の圧電素子は圧電部材110、第1電極111aおよび第2電極111bで構成される。図5のように、圧電部材110は、電気的には、電流源と、電荷を蓄えるコンデンサーCsとして表すことができる。第2の圧電素子も第1の圧電素子、調整用圧電素子と同じように、梁104に設置されている。
【0063】
電圧検出回路124は、梁104の変位と相関をもつ第2の圧電素子の電極間の電圧を検出して、変位情報として制御回路112に出力する。ここで、変位情報は振幅v(図3(b)参照)だけではなく、第2の圧電素子の出力電圧のピーク(極値)を表す信号を含む。
【0064】
制御回路112は、前記のように振幅vの変化に基づいて、梁104の共振周波数と環境振動の周波数が一致するように、可変抵抗116の抵抗値を定める。さらに、本実施例の制御回路112は、第2の圧電素子の出力電圧のピークを表す信号に基づいてスイッチSWのON/OFFを制御する。
【0065】
本実施例の発電装置100では、スイッチSWのON/OFFを適切に制御することで、別途昇圧回路を設けなくても、小さな回路規模で高い電圧を発生させることができる。以下では、このためのスイッチSWのON/OFFを適切な制御等について説明を行う。
【0066】
図6は、本実施例の発電装置100の動作を示した説明図である。図6(a)には、梁104の振動に伴って、梁104の先端の変位が変化する様子が示されている。なお、プラスの変位(u)は、梁104が上向きに反った状態(梁104の上面側が凹となった状態)を表しており、マイナスの変位(−u)は、梁104が下向きに反った状態(梁104の下面側が凹となった状態)を表している。また、図6(b)には、梁104の変形に伴って、圧電部材108が発生する電流の様子と、その結果として圧電部材108の内部に生じる起電力とが示されている。なお、図6(b)では、圧電部材108に電荷が発生する様子は、単位時間あたりに発生する電荷量(すなわち、電流Ipzt )として表され、圧電部材108に生じる起電力は、第1電極109aと第2電極109bとの間に生じる電位差Vpzt として表されている。
【0067】
なお、前述したように、圧電部材110も梁104に設けられており、梁104が変形すると、圧電部材110も圧電部材108と同様に変形する。従って、圧電部材110の内部にも、圧電部材108と全く同様に、図6(b)に示す電流Ipzt および電位差Vpzt が発生する。
【0068】
図6(a)および図6(b)に示されるように、梁104の変位が増加している間は、圧電部材108は正方向の電流を発生させ(すなわち、電流Ipzt がプラス値)、これに伴って第1電極109aおよび第2電極109bの電位差Vpzt は正方向へ増加する。正方向の電位差Vpzt が、蓄電素子C1の端子間電圧VC1と全波整流回路120を構成しているダイオードの順方向降下電圧Vfの2倍との和、すなわち、VC1+2Vfよりも大きくなれば、それ以降に発生した電荷は直流電流として取り出して、蓄電素子C1に蓄えておくことができる。また、梁104の変位が減少している間は、圧電部材108は負方向の電流を発生させ(すなわち、電流Ipzt がマイナス値)、これに伴って第1電極109aおよび第2電極109bの電位差Vpzt は負方向へ増加する。負方向の電位差Vpzt が、VC1と全波整流回路120の2Vfの和よりも大きくなれば、発生した電荷は直流電流として取り出して、蓄電素子C1に蓄えておくことができる。すなわち、図5のスイッチSWをOFFにしたままでも、図6(b)中に斜線を付して示した部分については、蓄電素子C1に電荷を蓄えることができる。
【0069】
本実施例の発電装置100では、図6(c)に示すタイミングで、スイッチSWをONにする。すると、図6(d)に示すように、圧電部材108を含む圧電素子の端子間(以下、単に圧電部材108の端子間と表す)の電圧波形が、スイッチSWをONにしたときにシフトしたかのような現象が発生する。例えば、図6(d)中に「B」と表示した期間Bでは、圧電部材108の起電力に対応する細い破線で示した電圧波形Vpzt がマイナス方向にシフトしたような、太い破線で示した電圧波形が圧電部材108の端子間に現れる。このような現象が発生する理由については後述する。また、図6(d)中に「C」と表示した期間Cでは、圧電部材108の起電力に対応する電圧波形Vpzt がプラス方向にシフトしたような、太い破線の電圧波形が現れる。以降の期間D、期間E、期間Fなどについても同様に、圧電部材108の起電力に対応する電圧波形Vpzt がプラス方向あるいはマイナス方向にシフトし、太い破線の電圧波形が現れる。そして、シフトした電圧波形が、VC1と2Vfとの和を超えた部分(図6(d)中に斜線を付して示した部分)では、圧電部材108で発生した電荷を蓄電素子C1に蓄えておくことができる。なお、圧電部材108から蓄電素子C1に電荷が流れる結果、圧電部材108の端子間の電圧は、VC1と2Vfとの和の電圧でクリップされる。言い換えると、圧電部材108の端子間の電圧が、VC1と2Vfとの和の電圧に保持される。その結果、第1電極109aおよび第2電極109bの間の電圧波形は、図6(d)に太い実線で示した波形となる。
【0070】
図6(b)に示したスイッチSWをOFFにしたままの場合と、図6(d)に示したように、梁104の変形方向が切り換わるタイミングでスイッチSWをONにした場合とを比較すれば明らかなように、本実施例の発電装置100では、適切なタイミングでスイッチSWをONにすることで、効率よく、蓄電素子C1に電荷を蓄えることが可能となる。そこで、本実施例の発電装置100は、スイッチSWを適切なタイミングでONにするために、制御用の圧電部材110を設けておき、圧電部材110の電圧を検出してスイッチSWを制御している。この点については、後ほど詳しく説明する。
【0071】
また、蓄電素子C1に電荷が蓄えられて、蓄電素子C1の端子間電圧が増加すると、それに従って電圧波形のシフト量も大きくなる。例えば、図6(d)中の期間B(蓄電素子C1に電荷が蓄えられていない状態)と、図6(d)中の期間H(蓄電素子C1に少し電荷が蓄えられた状態)とを比較すると、期間Hの方が電圧波形のシフト量が大きくなっている。同様に、図6(d)中の期間Cと期間Iとを比較すると、蓄電素子C1に蓄えられた電荷が増えている期間Iの方が、電圧波形のシフト量が大きくなっている。このような現象が発生する理由については後述するが、この結果、本実施例の発電装置100では、圧電部材108を変形させたことによって、第1電極109aと第2電極109bとの間に生じる電圧Vpzt 以上の電圧を、蓄電素子C1に蓄えることも可能となる。その結果、特別な昇圧回路を設ける必要がなくなり、小型で高効率の発電装置を得ることが可能となる。
【0072】
A−4.発電装置の動作原理(効率的な高い電圧の発生) :
図7は、本実施例の発電装置100の動作原理の前半部分を概念的に示した説明図である。また、図8は、本実施例の発電装置100の動作原理の後半部分を概念的に示した説明図である。図7および図8では、圧電部材108の変形に合わせてスイッチSWをONにしたときのCg(圧電部材108のコンデンサー)内での電荷の動きが、概念的に示されている。図7(a)は、圧電部材108(正確には梁104)が上向きに(上面側が凹となるように)変形した状態を表している。圧電部材108が上向きに変形すると、電流源からは正方向の電流が流れ、Cg(圧電部材108のコンデンサー)に電荷が蓄積され、Vgen は正方向の電圧が発生する。電圧値は、圧電部材108の変形量が大きくなるほど増加する。そして、圧電部材108の変形量が極値となったタイミング(電荷量が極値となったタイミング(図7(b)参照)で、スイッチSWをONにする。
【0073】
図7(c)には、スイッチSWをONにした直後の状態が示されている。Cg(圧電部材108のコンデンサー)には電荷が蓄えられているから、この電荷がインダクターLに流れようとする。インダクターLに電流が流れると磁束が生じる(磁束が増加する)が、インダクターLには、自らを貫く磁束の変化を妨げる方向に逆起電力が生じる性質(自己誘導作用)がある。スイッチSWをONにしたときは、電荷が流れることによって磁束が増加しようとするから、この磁束の増加を妨げる方向(換言すれば、電荷の流れを妨げる方向)に逆起電力が発生する。また、逆起電力の大きさは、磁束の変化速度(単位時間あたりの変化量)に比例する。図7(c)には、このようにしてインダクターLに生じる逆起電力が、斜線を付した矢印によって表されている。このような逆起電力が発生するため、スイッチSWをONにしても、圧電部材108の電荷は少しずつしか流れ出さない。すなわち、インダクターLを流れる電流は少しずつしか増加しない。
【0074】
その後、インダクターLを流れる電流がピークになると、磁束の変化速度が「0」となるので、図7(d)に示したように逆起電力が「0」となる。そして、今度は電流が減少し始める。すると、インダクターLを貫く磁束が減少するので、インダクターLには、この磁束の減少を妨げる方向(電流を流そうとする方向)の起電力が発生する(図7(e)参照)。その結果、この起電力によってCg(圧電部材108のコンデンサー)から電荷を引き抜きながら、インダクターLを電流が流れ続ける。そして、電荷の移動の途中で損失が発生しなければ、圧電部材108の変形によって生じた全ての電荷が移動して、ちょうど正負の電荷が置き換わったような状態(すなわち、圧電部材108の下面側に正電荷が分布し、上面側に負電荷が分布した状態)となる。図7(f)には、圧電部材108の変形によって生じた正負の電荷が全て移動した状態が表されている。
【0075】
仮に、このままスイッチSWをONにしておくと、今度は上述した内容と逆の現象が生じる。すなわち、圧電部材108の下面側の正電荷がインダクターLに流れようとして、このときインダクターLには、電荷の流れを妨げる方向の逆起電力が発生する。その後、インダクターLを流れる電流がピークに達した後、減少に転じると、今度は電流の減少を妨げる方向(電流を流し続けようとする方向)の起電力がインダクターLに発生する。その結果、圧電部材108の下面側にあった全ての正電荷が上面側に移動した状態(図7(b)に示した状態)となる。こうして圧電部材108の上面側に戻った正電荷は、再び、図7(b)〜図7(f)を用いて前述したようにして、下面側に移動する。
【0076】
このように、Cg(圧電部材108のコンデンサー)に電荷が蓄えられた状態でスイッチSWをONにした後、その状態を保っておくと、圧電部材108とインダクターLとの間で電流の向きが交互に反転する一種の共振現象が発生する。そして、この共振現象の周期は、いわゆるLC共振回路の共振周期Tとなるから、Cg(圧電部材108のコンデンサー)の大きさ(キャパシタンス)をC、インダクターLの誘導成分の大きさ(インダクタンス)をLとすると、T=2π(LC)0.5によって与えられる。従って、スイッチSWをONにした直後(図7(c)に示した状態)から、図7(f)に示した状態となるまでの時間は、T/2となる。
【0077】
そこで、スイッチSWをONにしてからT/2が経過した時点で、図8(a)に示すようにスイッチSWをOFFにする。そしてこの状態から、圧電部材108(正確には梁104)を今度は下向きに(下面側が凹となるように)変形させる。前述した図7(a)では、圧電部材108を上向きに変形させたが、図8(a)では下向きに変形させているので、電流源から負方向の電流が流れ、Vgen が負方向へ大きくなるようにCgに電荷が蓄積する。また、図7(a)〜図7(f)を用いて前述したように、圧電部材108(正確には梁104)を下向きに変形させる前の段階で、圧電部材108の下面側には正電荷が分布し、上面側には負電荷が分布しているから、これらの電荷に加えて、下面側には新たな正電荷が蓄積され、上面側には新たな負電荷が蓄積されることになる。図8(b)には、スイッチSWをOFFにした状態で圧電部材108(正確には梁104)を変形させることによって、圧電部材108に新たな電荷が蓄積された状態が示されている。
【0078】
そして、圧電部材108の変形量が極値となったタイミング(電荷量が極値となったタイミング)でスイッチSWをONにすると、圧電部材108の下面側に蓄積された正電荷がインダクターLに流れようとする。このときインダクターLには逆起電力が発生するので(図8(c)参照)、電流は少しずつ流れ始めるが、やがてピークに達して、その後は減少に転じる。すると、インダクターLには、電流の減少を妨げる方向(電流を流し続けようとする方向)に起電力が発生し(図8(e)参照)、この起電力によって電流が流れ続けて、最終的には、圧電部材108の下面側に分布していた全ての正電荷が上面側に移動し、上面側に分布していた全ての負電荷が下面側に移動した状態となる(図8(f)参照)。また、下面側の全ての正電荷が上面側に移動し、上面側の全ての負電荷が下面側に移動する時間は、LC共振回路の半周期に相当する時間T/2となる。そこで、スイッチSWをONにした後、時間T/2が経過したらスイッチSWをOFFにして、今度は圧電部材108(正確には梁104)を上向きに(上面側が凹となるように)変形させれば、圧電部材108内に更に正負の電荷を蓄積することができる。
【0079】
以上に説明したように本実施例の発電装置100では、圧電部材108を変形させて電荷を発生させた後、圧電部材108をインダクターLに接続して、共振周期の半分の周期だけ共振回路を形成することで、圧電部材108内での正負の電荷の分布を反転させる。その後、圧電部材108を今度は逆方向に変形させて新たな電荷を発生させる。圧電部材108内での正負の電荷の分布は反転されているから、新たに発生させた電荷は圧電部材108に蓄積されることになる。その後、再び、共振周期の半分の周期だけ圧電部材108をインダクターLに接続して、圧電部材108内での正負の電荷の分布を反転させた後、圧電部材108を逆方向に変形させる。このような動作を繰り返すことで、圧電部材108を繰り返し変形させる度に、圧電部材108に蓄積された電荷を増加させることができる。
【0080】
なお、LC共振回路の共振により、少なくとも、VgenがスイッチSWをONにする時の極性と反対の極性となった時にスイッチSWをOFFすれば、Vgenが昇圧していく。前述の説明(および以下の説明)では便宜上“T/2(共振周期の半分)”としているが、これに限定されるものではなく、LC共振回路の共振周期Tに対して、スイッチSWをONする所定期間を、少なくとも、(n+1/4)Tより長く(n+3/4)Tよりも短い時間(nは0以上の任意の整数)に設定すれば、Vgenを効率よく昇圧させることができる。
【0081】
図6を用いて前述したように本実施例の発電装置100では、スイッチSWをONにする度に圧電部材108の端子間の電圧波形がシフトする現象が生じる。すなわち、例えば図6(d)中に示した期間Aでは、圧電部材108(正確には梁104)の変形に従って、第1電極109aおよび第2電極109bの間に電圧が発生するが、第1電極109aおよび第2電極109bは全波整流回路120に接続されているので、VC1と2Vfとの和の電圧を超えた部分の電荷は、全波整流回路120に接続された蓄電素子C1に流れ込む。その結果、梁104の変形量が極値となった時点でスイッチSWをONにすると、その時に圧電部材108内に残っていた正負の電荷がインダクターLを介して移動して、圧電部材108内での正負の電荷の配置が入れ代わる。なお、図7および図8を用いて前述したメカニズムから明らかなように、スイッチSWをONにしておく期間は、圧電部材108のコンデンサーと、インダクターLとによって構成される共振回路の共振周期の半分の時間となる。
【0082】
そして、正負の電荷の配置が入れ代わった状態から梁104を逆方向に変形させると、圧電部材108の第1電極109aおよび第2電極109bの間には、圧電効果による電圧波形が現れる。すなわち、圧電部材108の第1電極109aおよび第2電極109bの極性が入れ代わった状態から、圧電部材108に変形による電圧変化が発生することになる。その結果、図6(d)中に示した期間Bでは、梁104の変形によって圧電部材108に生じる電圧波形をシフトさせたような、電圧波形が現れることになる。もっとも、前述したように、VC1と2Vfとの和の電圧を超えた部分の電荷は蓄電素子C1に流れ込むので、圧電部材108の第1電極109aおよび第2電極109bの間の電圧は、VC1と2Vfとの和の電圧でクリップされる。その後、共振周期の半分の時間だけスイッチSWをONにすると、圧電部材108に残っていた正負の電荷の配置が入れ代わる。そして、その状態から梁104が変形することによって、圧電部材108には圧電効果による電圧波形が現れる。このため、図6(d)中に示した期間Cにおいても、梁104の変形による電圧波形をシフトさせたような電圧波形が現れることになる。
【0083】
また、図6を用いて前述したように本実施例の発電装置100では、梁104が変形を繰り返しているうちに、電圧波形のシフト量が次第に大きくなるという現象も発生する。このため、圧電部材108の圧電効果によって第1電極109aと第2電極109bとの間に生じる電位差よりも高い電圧を、蓄電素子C1に蓄えることができるという大きな効果を得ることができる。このような現象は、次のようなメカニズムによって生じる。
【0084】
先ず、図6(d)中の期間Aあるいは期間Bに示したように、蓄電素子C1が充電されていない場合は、圧電部材108の端子間で発生する電圧が、全波整流回路120の2Vfを超えると、圧電部材108から蓄電素子C1に電荷が流れ込むので、圧電部材108の端子間に現れる電圧は、2Vfでクリップされている。しかし、こうして蓄電素子C1に電荷を蓄えるに従って蓄電素子C1の端子間の電圧が増加していく。すると、それ以降は、蓄電素子C1の端子間電圧がVC1と2Vfとの和よりも高い電圧になって始めて、圧電部材108から電荷が流れ込むようになる。このため、圧電部材108の端子間の電圧がクリップされる値が、蓄電素子C1に電荷が蓄えられるに従って次第に上昇していく。
【0085】
加えて、図7および図8を用いて前述したように、圧電部材108から電荷を流出させない限り、圧電部材108(正確には梁104)を変形させる度に、圧電部材108内の電荷は増加し、圧電部材108の端子間の電圧は大きくなる。このため、本実施例の発電装置100によれば、特別な昇圧回路を設けなくても、電気負荷の駆動に必要な電圧まで自然に昇圧させた状態で、発電することが可能となる。
【0086】
A−5.スイッチの切換タイミング(効率的な高い電圧の発生) :
以上に説明したように、本実施例の発電装置100では、圧電部材108(正確には梁104)に繰り返し変形を加えて、変形方向が切り換わるときに、共振周期の半分の時間だけ圧電部材108をインダクターLに接続することで、効率が良く、加えて昇圧回路が不要なために容易に小型化することができるという優れた特徴を得ることができる。もっとも、梁104の変形方向が切り換わるときにスイッチSWをONにすることは、それほど容易なことではない。例えば、梁104の変形方向が切り換わるときは、梁104の変位の大きさが最大と考えれば、機械的な接点を用いて、梁104が最大変位となったときにONとなるように構成することも可能である。しかし、接点の調整がずれると効率が大きく低下することになる。そこで、本実施例の発電装置100では、発電用の圧電部材108だけでなく、制御用の圧電部材110も設けておき、圧電部材110で発生する電圧を検出することで、スイッチSWを制御している。
【0087】
ここで、再び図3を参照して、制御用の圧電部材110で発生する電圧を検出することによって、スイッチSWを適切なタイミングで制御可能な理由を示す。図3(a)には、梁104の変位が示されている。また、図3(b)には、梁104の振動に伴って、圧電部材110に生じる起電力Vpzt が変化する様子が示されている。
【0088】
図7および図8を用いて前述したように、梁104の変位が極値に達したタイミングでスイッチSWをONにした場合に、最も効率よく発電することができる。そして、図3(a)と図3(b)とを比較すれば明らかなように、梁104の変位が極値となるのは、圧電部材110の起電力Vpzt が極値となるタイミングと一致する。これは、次のような理由による。先ず、圧電部材108は変形によって電荷が発生しても、その電荷がインダクターLによって引き抜かれたり、蓄電素子C1に電荷が流れたりする影響で、圧電部材108の起電力Vpzt は梁104の変位と完全には同じにならない。これに対して、圧電部材110は、インダクターLや蓄電素子C1と接続していないため、電荷の増減が圧電部材110の起電力Vpzt の変化に直接反映される。このため、圧電部材110の起電力Vpzt が極値となるタイミングは、梁104の変位が極値となるタイミングと一致するのである。
【0089】
そこで、図3(b)に矢印で示したように、圧電部材110の起電力Vpzt が極値となるタイミングを検出する。そして、図3(d)のようにそのタイミングから、前述した共振周期の半分の時間(T/2)だけスイッチSWをONにしてやれば、効率よく発電することが可能となる。
【0090】
図9は、本実施例の制御処理を表すフローチャートである。本実施例では、制御回路112がこれらの処理を行う。なお、制御回路112はCPUであってもよい。
【0091】
発電装置が設置された場合、又は設置されてから所定の時間が経過すると、環境振動に合わせて変形部材の共振周波数の調整が行われる。図9のステップS2、S4、S6、S8はこのときの制御処理を表す。まず、共振周波数調整手段119が含む可変抵抗116の抵抗値の変化により共振周波数が変化する(ステップS2)。ここでの共振周波数の変化とは、可変抵抗116の抵抗値が例えば最小値Rminから時間の経過と共に徐々に大きくなることで生じる変化である(図4参照)。つまり、共振周波数としては徐々に低くなっていく。このとき、制御回路112は可変抵抗116に出力する制御信号を調整して、可変抵抗116の抵抗値を徐々に大きくしてもよい。
【0092】
このとき、制御回路112は変位検出手段140から変位情報を受け取る(ステップS4)。ここでの変位情報とは、第2の圧電素子の電極間の電圧である(図5参照)。前記の通り、梁104の振動の振幅が極大値をとるとき、第2の圧電素子の電極間の電圧の振幅も極大値をとる。制御回路112は、可変抵抗116の抵抗値を変化させながら、この変位情報(電圧)の振幅の極大値を判断する(ステップS6)。極大値が得られるまで、制御回路112は共振周波数を変化させる(ステップS6:no)。制御回路112は、例えば振幅の微分値を求めて、微分値の符号が変わったときの振幅を極大値であると判断してもよい。
【0093】
そして、極大値が得られた(ステップS6:yes)後に、制御回路112は、振幅を極大値にするような抵抗値を指定する制御信号を生成し、可変抵抗116に出力する(S8)。これらの制御処理により、設置場所の環境振動の周波数と変形部材の共振周波数とを合わせて、変形部材が大きく振動するようにする。その結果、大きな発電量を得ることができる。そして、次にスイッチ制御処理(ステップS10)を行い、別途昇圧回路を設けなくても、小さな回路規模で高い電圧を発生させることができる。
【0094】
図10は、スイッチ制御処理(ステップS10)の詳細を表すフローチャートである。スイッチ制御処理では、制御用の圧電部材110の起電力を検出してスイッチSWのON/OFFを切り換える。
【0095】
スイッチ制御処理を開始すると、制御回路112は、第2の圧電素子の出力電圧を検出する電圧検出回路124からの信号に基づいて、電圧値がピークに達したか否か(すなわち、電圧値が極値に達したか否か)を判断する(ステップS100)。電圧検出回路124は、例えば電圧波形の微分を行って、微分値の符号の変化から、電圧値がピークに達したか否かを判断してもよい。
【0096】
第2の圧電素子の出力電圧のピークを検出したら(ステップS100:yes)、共振回路(圧電部材108のコンデンサーCgとインダクターLとによって構成される共振回路)のスイッチSWをONにした後(ステップS102)、制御回路112に内蔵された図示しない計時タイマーをスタートする(ステップS104)。そして、圧電部材108のコンデンサーCgとインダクターLとによって構成される共振回路の共振周期の1/2の時間が、経過したか否かを判断する(ステップS106)。なお、第2の圧電素子の出力電圧のピークを検出しなかった場合は(ステップS100:no)検出するまで待機する。
【0097】
その結果、共振周期の1/2の時間が経過していないと判断した場合は(ステップS106:no)、そのまま同様な判断を繰り返すことによって、共振周期の1/2の時間が経過するまで待機状態となる。そして、共振周期の1/2の時間が経過したと判断したら(ステップS106:yes)、共振回路のスイッチSWをOFFにする(ステップS108)。その後、スイッチ制御処理の先頭に戻って、上述した一連の処理を繰り返す。
【0098】
以上のようにして共振回路のスイッチSWのON/OFFを行えば、梁104の動きに合わせて容易に適切なタイミングでスイッチSWをON/OFFすることができるので、発電装置100を用いて効率よく発電することが可能となる。
【0099】
A−6.圧電素子の設置例 :
以上に説明した本実施例の発電装置100は、第1の圧電素子、調整用圧電素子および第2の圧電素子が同じ変形部材(梁104)に設置されている。これらの設置の仕方によって、発電能力等に差が生じる。以下に、図11〜図12を参照して、いくつかの設置の例を説明する。なお、図1〜図10と同じ要素については同じ符号を付しており、説明を省略する。
【0100】
図11は、第1の圧電素子と調整用圧電素子とが梁104の別の面に設けられる場合の設置例を示した説明図である。図11(a)は、梁104の一方の面から見た平面図である。図11(b)は、梁104の他方の面から見た平面図である。図11(a)には、梁104の一方の面に設けられた圧電部材108と第1電極109a、圧電部材110と第1電極111aが示されている。圧電部材108と第1電極109aは第1の圧電素子の構成要素であり、圧電部材110と第1電極111aは第2の圧電素子の構成要素である。また、図11(b)には、梁104の他方の面に設けられた圧電部材114と第2電極115bが示されている。圧電部材114と第2電極115bは調整用圧電素子の構成要素である。
【0101】
このとき、調整用圧電素子の面積を大きくすることができる。そのため、梁104の共振周波数の調整能力を高くすることが可能となる。
【0102】
次に、図11(c)および図11(d)は、別の設置例である。図11(c)は、梁104の一方の面から見た平面図である。図11(d)は、梁104の他方の面から見た平面図である。図11(c)には、梁104の一方の面に設けられた圧電部材108と第1電極109aが示されている。図11(d)には、梁104の他方の面に設けられた圧電部材114と第2電極115b、圧電部材110と第2電極111bが示されている。この場合も、第1の圧電素子と調整用圧電素子とが梁104の別の面に設けられるが、図11(a)および図11(b)で示した例とは異なり、発電用圧電素子として使用される第1の圧電素子の面積を大きくすることができる。そのため、発電能力を高くすることが可能となる。
【0103】
図12は、第1の圧電素子と調整用圧電素子とが梁104の同じ面に設けられる場合の設置例を示した説明図である。第1の圧電素子および調整用圧電素子を、変形部材の同じ面に設けた場合、梁104の他方の面に第2の圧電素子を単独で設置することができる。
【0104】
図12(a)は、第1の圧電素子と調整用圧電素子とが梁104の同じ面に設けられる場合の1つの設置例であり、梁104の一方の面から見た平面図である。図12(a)には、圧電部材108と第1電極109a、圧電部材114と第1電極115aが示されている。圧電部材108と第1電極109aは第1の圧電素子の構成要素であり、圧電部材114と第1電極115aは調整用圧電素子の構成要素である。図12(b)は、梁104の他方の面から見た平面図である。図12(b)には、梁104の一方の面に設けられた圧電部材110と第2電極111bが示されている。圧電部材110と第2電極111bは第2の圧電素子の構成要素である。
【0105】
このとき、第2の圧電素子の面積を大きくすることができる。そのため、制御用圧電素子として使用される第2の圧電素子の感度を高くすることが可能となる。
【0106】
このような圧電素子の設置の工夫により、梁104の共振周波数の調整能力を高めること、発電能力を高めること、又は制御用圧電素子の感度を高めることが可能となる。
【0107】
B.応用例 :
前記の実施例において、第1の圧電素子はインダクターと共に共振回路を構成しており、その共振回路にはスイッチが設けられている。そして、制御手段は、変位情報に基づいてスイッチを導通状態とするタイミングを定めることで、高い電圧での発電を可能にしていた。しかし、共振回路を含まずとも、共振周波数調整手段を備えることで、その共振周波数を調整して発電効率を高めることができる。
【0108】
図13は、応用例の発電装置100Aの電気的な構造を示した説明図である。なお、図1(b)と同じ要素には同じ符号を付しており説明を省略する。図13と図1(b)とを比較すると明らかなように、上述の実施例に対して応用例の発電装置100Aは、インダクターLが接続されていない。すなわち、応用例の発電装置100A内には上述の実施例のようなLC共振回路は構成されない。これにより、制御回路112に内蔵されたCPUによって実行されるLC共振回路を利用するための制御処理(図10のスイッチ制御処理)を省略することができる。
【0109】
もちろん、応用例の発電装置100Aは、上述した実施例の発電装置100のようにLC共振回路を利用しないので、実施例の発電装置100のような昇圧の効果を望むことはできない。しかし、共振周波数を調整する共振周波数調整手段を含むことで、変形部材の共振周波数を環境振動に合わせて調整することが可能である。具体的には、実施例と同様に、制御回路112が制御信号によって可変抵抗116の抵抗値を適切な値に設定して梁104の共振周波数を調整し、環境振動の周波数に合致させることができる。
【0110】
そのため、これらの発明の発電装置は、変形部材の共振周波数を調整することで、変形部材を環境振動に合わせて大きく振動させて、実施例ほどではないものの、比較的大きな発電量を得ることができる。このとき、機械的に梁の長さを調整する機構も、長さが互いに異なる複数の片持ち梁も不要であるため、装置のサイズを小さくすることが可能である。
【0111】
C.変形例 :
前記の実施例の変位検出手段140は、第2の圧電素子と電圧検出回路124とを含んでいた。本変形例では、実施例の変位検出手段140に代えて、図14の変位検出手段140aを用いる。変位検出手段140aは、第2の圧電素子と電流検出回路128とを含む。図3(c)のように、電流Ipzt も変位Diの変化と対応し、変位情報として用いることが可能である。つまり、図3(c)の矢印で示されるように、梁104の振動のピークと第2の圧電素子が発生させる電荷による電流の向きが切り換わるタイミング(電流が0となるタイミング)とは対応している。例えば、制御回路112は、電流検出回路128から電流が0となるタイミングを表す信号を受け取り、スイッチSW(図5参照)をON状態にすればよい。
【0112】
電流検出回路128は、例えば、電流検出器、増幅回路、絶対値回路、比較器を順に接続して構成されていてもよい。電流検出器は一般的に知られている、たとえばホール素子型電流センサーやシャント抵抗などを用いることができる。増幅回路は、電流検出器の出力信号を所定のゲインで増幅する。絶対値回路は、増幅回路の出力信号の絶対値信号を出力する。そして、比較器は、絶対値回路の出力信号を2値化(パルス化)して出力する。電流が0になるタイミングは、この比較器の出力信号の立ち下がりエッジにより把握することができる。
【0113】
D.その他 :
以上、各種の実施例等について説明したが、本発明はこれらの例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0114】
例えば、上述した実施例等では、圧電部材108が片持ち梁構造の梁104に取り付けられているものとして説明した。しかし、圧電部材108や圧電部材110などが取り付けられる部材は、振動などによって容易に繰り返し変形する部材であれば、どのような部材であっても構わない。例えば、薄膜の表面に圧電部材108や圧電部材110などを取り付けても良い。
【0115】
本発明の発電装置は振動や移動に応じて発電するため、例えば、橋梁や建築物あるいは地すべり想定箇所などに発電装置を設置すれば地震などの災害時に発電し、電子機器などのネットワーク手段に必要時(災害時)だけ電源供給することもできる。このとき、変形部材の共振周波数は設置場所に応じて調整され、効率的な発電を行うことができる。
【0116】
なお、本発明の発電装置は小型化が可能であるが、設置する対象は電子機器に限らない。例えば、車両や電車などの移動手段に本発明の発電装置を用いることで、移動に伴う振動により発電し、移動手段に備わる機器に効率良く電力供給することもできる。
【0117】
さらに、特定の機器等に設置されるのではなく、本発明の発電装置が例えばボタン電池、乾電池と同じ形状であって、電子機器一般で使用されてもよい。このとき、振動によって蓄電素子への充電が可能であるため、電力が喪失した災害時でも電池として使用可能である。このとき、一次電池より寿命が長いため、ライフサイクルの観点で環境負荷低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0118】
100…発電装置、102…支持端、104…梁、106…錘、108,110,114…圧電部材、109a,111a,115a…第1電極、109b,111b,115b…第2電極、112…制御回路、116…可変抵抗、119,119a…共振周波数調整手段、120…全波整流回路、124…電圧検出回路、128…電流検出回路、140,140a…変位検出手段、L…インダクター、C1…蓄電素子、D1〜D4…ダイオード、SW…スイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形方向を切り換えて変形する変形部材と、
前記変形部材に設けられた第1の圧電素子と、
前記変形部材の変形による変位に関する情報である変位情報を生成する変位検出手段と、
前記変形部材に設けられた調整用圧電素子を含み、制御信号に基づいて前記変形部材の共振周波数を調整する共振周波数調整手段と、
前記第1の圧電素子を含む共振回路を構成するインダクターと、
前記共振回路に設けられたスイッチと、
前記変位情報に基づいて前記制御信号を生成し、前記変位情報に基づいて前記スイッチを所定期間導通状態とする制御手段と、を備える発電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発電装置において、
前記共振周波数調整手段は、
前記調整用圧電素子の一対の電極に接続された可変抵抗を含み、
前記制御信号に基づいて前記可変抵抗の抵抗値を変化させる発電装置。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載の発電装置において、
前記変位検出手段は、
前記変形部材に設けられた第2の圧電素子と、
前記第2の圧電素子に生じた電圧を検出する電圧検出回路と、を含み、
前記電圧検出回路が検出した電圧に基づいて前記変位情報を生成する発電装置。
【請求項4】
請求項1乃至2のいずれかに記載の発電装置において、
前記変位検出手段は、
前記変形部材に設けられた第2の圧電素子と、
前記第2の圧電素子から流れる電流を検出する電流検出回路と、を含み、
前記電流検出回路が検出した電流に基づいて前記変位情報を生成する発電装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の発電装置において、
前記第1の圧電素子と前記調整用圧電素子とは、前記変形部材の異なる面に設けられている発電装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の発電装置において、
前記第1の圧電素子と前記調整用圧電素子とは、前記変形部材の同じ面に設けられている発電装置。
【請求項7】
変形方向を切り換えて変形する変形部材と、前記変形部材に設けられた第1の圧電素子と、前記変形部材の変形による変位に関する情報である変位情報を生成する変位検出手段と、前記変形部材に設けられた調整用圧電素子を含み、制御信号に基づいて前記変形部材の共振周波数を調整する共振周波数調整手段と、を備える発電装置の制御方法であって、
前記変位情報を取得するステップと、
前記変位情報に基づいて前記制御信号を生成するステップと、を含む発電装置の制御方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の発電装置を含む電子機器。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれかに記載の発電装置を含む移動手段。
【請求項1】
変形方向を切り換えて変形する変形部材と、
前記変形部材に設けられた第1の圧電素子と、
前記変形部材の変形による変位に関する情報である変位情報を生成する変位検出手段と、
前記変形部材に設けられた調整用圧電素子を含み、制御信号に基づいて前記変形部材の共振周波数を調整する共振周波数調整手段と、
前記第1の圧電素子を含む共振回路を構成するインダクターと、
前記共振回路に設けられたスイッチと、
前記変位情報に基づいて前記制御信号を生成し、前記変位情報に基づいて前記スイッチを所定期間導通状態とする制御手段と、を備える発電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発電装置において、
前記共振周波数調整手段は、
前記調整用圧電素子の一対の電極に接続された可変抵抗を含み、
前記制御信号に基づいて前記可変抵抗の抵抗値を変化させる発電装置。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載の発電装置において、
前記変位検出手段は、
前記変形部材に設けられた第2の圧電素子と、
前記第2の圧電素子に生じた電圧を検出する電圧検出回路と、を含み、
前記電圧検出回路が検出した電圧に基づいて前記変位情報を生成する発電装置。
【請求項4】
請求項1乃至2のいずれかに記載の発電装置において、
前記変位検出手段は、
前記変形部材に設けられた第2の圧電素子と、
前記第2の圧電素子から流れる電流を検出する電流検出回路と、を含み、
前記電流検出回路が検出した電流に基づいて前記変位情報を生成する発電装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の発電装置において、
前記第1の圧電素子と前記調整用圧電素子とは、前記変形部材の異なる面に設けられている発電装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の発電装置において、
前記第1の圧電素子と前記調整用圧電素子とは、前記変形部材の同じ面に設けられている発電装置。
【請求項7】
変形方向を切り換えて変形する変形部材と、前記変形部材に設けられた第1の圧電素子と、前記変形部材の変形による変位に関する情報である変位情報を生成する変位検出手段と、前記変形部材に設けられた調整用圧電素子を含み、制御信号に基づいて前記変形部材の共振周波数を調整する共振周波数調整手段と、を備える発電装置の制御方法であって、
前記変位情報を取得するステップと、
前記変位情報に基づいて前記制御信号を生成するステップと、を含む発電装置の制御方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の発電装置を含む電子機器。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれかに記載の発電装置を含む移動手段。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−80768(P2013−80768A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219032(P2011−219032)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
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