説明

白内障予防食品

【課題】分子量1,000〜5000の低分子コラーゲンペプチドが、白内障予防効果を生じるという新規な知見に基づき、コラーゲン白内障予防食品を実現する。
【解決手段】糖尿病を発症したラットに、ニワトリの足から抽出し、8(Octa)残基のペプチド配列を含む低分子コラーゲンペプチドを投与することで、抗酸化作用に基づくことなく、糖尿病の進行は抑制できないが、白内障発症率を抑制するという知見に基づき、分子量1,000〜5000の低分子コラーゲンペプチドを添加した食品を白内障予防食品として利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白内障の予防効果を有する食品に関し、コラーゲン或いはコラーゲン由来のゼラチンを加水分解することにより得られたコラーゲンペプチドから成る白内障予防食品に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国では、白内障で治療を受けている人は、約150万人程度である。老人性白内障は、50代、60代、70代で、それぞれ60%、80%、90%が発症し、潜在的には、約3000万人が、程度の差はあれ白内障であるとされている。また、糖尿病により、白内障は発症、および進行が早まる傾向にある。
【0003】
白内障患者数が多いという点は、我が国に限ったことではなく諸外国においても同様である。また、ペットについても同様で、犬では5歳以上で発症し易く、白内障にかかりやすい犬種があるとも言われている。従って、近年、国内外において白内障予防は社会的な課題となっている。
【0004】
従来、白内障予防剤としては、タチオン、ノイチオンといったグルタチオン製剤と、カタリン、カリーユニといったピレノキシン製剤が知られている。グルタチオンは、水晶体タンパク質のSH基がSS結合しタンパク質が変性するのを阻害し、ピレノキシンは、水晶体タンパク質の変性を惹起するとされるキノン(キノイド説)と優先的に結合することでタンパク変性を防ぐ。しかし、これらの薬剤は、その予防効果について十分な科学的根拠がないとされている(非特許文献1参照)。
【0005】
また、白内障予防効果を有する食品素材としては、鉄−ラクトフェリンを有効成分とするものが知られている。これは、鉄−ラクトフェリンが高い抗酸化活性を有し、これにより鉄−ラクトフェリンが体内の活性酸素により引き起こされる水晶体の酸化を抑制して、白内障の発生を予防しようとするものである(特許文献1参照)。
【0006】
その他白内障予防に効果があると言われている成分としては、ホエイ蛋白、タウリン、システイン等が知られているが、これらはいずれも、抗酸化物質の一つであるグルタチオンの供給源としてグルタチオンを増加させたり、グルタチオンの還元レベルを高く維持させようとするものである。
【0007】
なお、後記する鶏コラーゲン加水分解物(CCOP:Chicken Collagen Octa Peptides)について、CCOPはiNOSによる過剰なNOの産生を抑制する可能性があることは、本出願前にすでに示唆されている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−190972号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J Nippon Med Sch 2002,69(4) P404〜405
【非特許文献2】日本臨床栄養学会雑誌 第30巻第3号187頁 平成21年8月31日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のとおり、従来、白内障予防に効果があると言われている成分は、抗酸化作用により水晶体タンパク質の変性を抑制しようとするものである。しかしながら、必ずしも十分な予防効果が生じるという報告や検証例は見あたらない。本願発明は、食を通して、白内障予防効果が生じる白内障予防食品を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するために、コラーゲンペプチドから成り、抗酸化作用によることなく白内障予防効果を有することを特徴とする白内障予防食品を提供する。
【0012】
本発明は上記課題を解決するために、コラーゲン、あるいはコラーゲン由来のゼラチンを加水分解することにより得られたコラーゲンペプチドから成り、該コラーゲンペプチドの平均分子量は、1,000〜5,000であり、抗酸化作用によることなく白内障予防効果を有することを特徴とする白内障予防食品を提供する。
【0013】
前記コラーゲンペプチドは、コラーゲン或いはコラーゲン由来のゼラチンをプロテアーゼ処理、酸処理、アルカリ処理又は熱水分解により得られたコラーゲンペプチドであることが好ましい。
【0014】
前記コラーゲンペプチドは、蛋白質分解酵素として、動物由来プロテアーゼ(トリプシン、キモトリプシン、ペプシンなど)、植物由来プロテアーゼ(パパイン、プロメリン、フィシンなど)、微生物由来プロテアーゼなどを使用し、前記ゼラチン成分を、30〜80℃の温度で、0.5〜3時間反応させて処理し、限外ろ過、珪藻土ろ過、イオン交換樹脂、逆浸透ろ過又は活性炭処理で、精製することにより得られたコラーゲンペプチドであり、抗酸化作用によることなく白内障予防効果を有することが好ましい。
【0015】
前記コラーゲンペプチドは、ニワトリの足から抽出し、8(Octa)残基のペプチド配列を含む低分子コラーゲンペプチドであることが好ましい。
【0016】
前記コラーゲンペプチドの原料は、哺乳動物、鶏又は魚の皮膚又は骨の結合組織に含有される構造タンパク質であるコラーゲンを抽出し、該コラーゲンを熱変性させて得られたゼラチンであることが好ましい。
【0017】
前記白内障予防食品は、穀類加工食品、菓子、調理用粉又は飲料に添加して使用されるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る白内障予防食品は、コラーゲン或いはコラーゲン由来ゼラチンを原料とするコラーゲンペプチド等、比較的簡単に製造でき低コストで得られるものであり、そのもの単独で食してもよいが、他の食品(菓子、麺、穀類等)、に添加しても味に影響を与えることなく、食することを通して、きわめて顕著な白内障予防効果が生じ、また、当該コラーゲンペプチドは、吸湿性が少なく、水に溶けても高粘度を発することがないので、ハンドリングに優れているという効果が生じる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る白内障予防食品の効果確認のためのラット試験の試験例1の結果である白内障発症率を示す図である。
【図2】本発明に係る白内障予防食品の効果確認のためのラット試験の結果である白内障を発症したラット及び発症しないラットの、それぞれの右目及び左目の状態を示す図である。
【図3】本発明に係る白内障予防食品の効果確認のためのラット試験の試験例2の結果である白内障発症率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る白内障予防食品を実施するための形態を、実施例、試験例なども含めて、以下説明する。
【0021】
本発明者らは、糖尿病の改善食品の研究のために、いろいろな食品の血糖値への影響を検証評価するために、ラット試験を行っていた。そのラット試験の過程において、本来の目的(糖尿病の改善食品の検証)とは全く異なり、偶然、コラーゲンペプチド投与により、白内障予防の効果が生じるという画期的な知見を得た。
【0022】
この知見を得た試験では、コラーゲンペプチドとして、すでに血圧抑制効果があることが知られているCCOPの血糖値への影響を検証するための投与試験を行った。この際にCCOPが白内障予防の効果が生じるという知見を得たのである。
【0023】
ここで、CCOPとは、ニワトリの足から抽出し、8(Octa)残基のペプチド配列を含む低分子コラーゲンペプチド(CCOP:Chicken Collagen Octa Peptides。平均分子量約1,700)の略称である。
【0024】
上記のとおり、従来グルタチオン等は白内障予防効果が生じるとされていたが、そのメカニズムは、抗酸化作用によるものである。しかし、コラーゲンペプチドは、抗酸化作用を有するものではないので、上記コラーゲンが白内障予防の効果を生じるメカニズムは、抗酸化作用に基づくものではない。
【0025】
上記のとおり、本発明において、コラーゲンペプチドの白内障予防効果は、ラット試験で実証されている。この白内障予防の効果を生じるメカニズムは、必ずしも明確ではないが、本発明者らは、次のようなメカニズム(作用機序)の可能性があると考えている。
【0026】
一酸化窒素(NO)が生体内で一酸化窒素合成酵素(NOS)により生成されることが知られているが、NOSの一種で誘導型NO合成酵素(inducible NOS、以下、「iNOS」と言う)は、生体内の細胞等に存在する。
【0027】
生体内における一酸化窒素(NO)は、マクロファージ、血管内皮細胞等において産生され、その作用としては殺菌作用、血管弛緩作用が知られている。一酸化窒素は、一酸化窒素合成酵素(NOS;nitric oxide synthase)の作用により産生するが、その一つである誘導型NOS(iNOS;inducible NOS)は、他のNOSに比べ長時間その活性が持続し、より多量のNOを産生することが知られている。
【0028】
iNOSは主に、マクロファージ、血管内皮細胞等において、感染や炎症性病巣で産生されるTNF−α(Tumor Necrosis Factor - α)、IL−1β(Interleukin - 1β)、IFN−γ(Interferon - γ)等の炎症性サイトカインの攻撃をうけて発現し、NOを産生する。NOは、生体の感染防御反応での主要な炎症性メディエーターとして機能するが、過剰のNOは細胞傷害性に働き生体へ悪影響を及ぼす場合があり、白内障をはじめとするさまざまな疾病の発症に関連するとされている。
【0029】
従って、iNOSの活性が、白内障の発生、進行の一つの起因とも考えられる。このように、iNOSを起因として生じる白内障を引き起こすメカニズムは、次のように考えられる。
【0030】
iNOSは、ラットの水晶体カルシウム濃度を上昇させる。水晶体カルシウム濃度が上昇すると、カルパインがその酵素活性を発揮し、水晶体の蛋白質変性を生じせしめる。その結果、水晶体の混濁が生じ白内障を引き起こすこととなる。
【0031】
ここで、カルパインは、カルシウムと結合することにより活性化するカルシウム依存性プロテアーゼの一種であり、生体を構成する細胞内においていろいろな機能調節を担っている。上記のとおり、水晶体カルシウム濃度が上昇するとカルパインが活性化しプロテアーゼとして作用して、水晶体の蛋白質変性、劣化を生じせしめるのである。
【0032】
ところで、CCOPは、iNOSの誘導を抑制する作用(iNOS発現阻害作用)を有し(非特許文献2参照)、そのため、上記iNOSを起因として生じる白内障を引き起こすメカニズムの発生、進行を抑制し、白内障の原因である水晶体の蛋白質変性、劣化を抑制する。要するに、CCOPは、iNOS発現阻害剤として機能するのである。
【実施例】
【0033】
本発明に係る白内障予防食品である白内障予防効果を生じるコラーゲンペプチドの具体的な例を挙げて説明する。コラーゲンペプチドとしては、上記のとおり鶏由来のCCOPでもよいが、ブタ、ウシ、ヒツジなどの哺乳動物、魚など由来のものでもよい。
【0034】
コラーゲンペプチドは、これら鶏、哺乳動物、魚等の皮膚や骨などの結合組織に含有される構造タンパク質であるコラーゲンを抽出し、これを熱変性させて得たゼラチンを原料とする。
【0035】
本発明に係る白内障予防食品であるコラーゲンペプチドは、このようなゼラチンを原料として、これをプロテアーゼ処理(蛋白質分解酵素であるプロテアーゼの活性を利用した酵素処理)、酸処理、アルカリ処理又は熱水分解により得られる加水分解物である。
【0036】
使用するプロテアーゼとしては、動物由来プロテアーゼ(トリプシン、キモトリプシン、ペプシンなど)、植物由来プロテアーゼ(パパイン、プロメリン、フィシンなど)、微生物由来プロテアーゼなどがあげられ、これらの中では、トリプシンがプロテアーゼ処理の効率の良さを考慮すると好ましい。
【0037】
そして上記プロテアーゼ処理は、30〜80℃の温度で、0.5〜3時間程度反応させることにより進められ、上記プロテアーゼ処理により得られる成分を限外ろ過(フィルターの孔径を分子サイズに近づけたろ過)、珪藻土ろ過、イオン交換樹脂、逆浸透ろ過、又は活性炭処理などで、精製することによりコラーゲンペプチドが得られる。このようなコラーゲンペプチド平均分子量は、1、000〜5、000であり、抗酸化作用によることなく白内障予防効果を有する。
【0038】
(試験例1)
以下、本発明に係る白内障予防食品の効果を確認するために実施した試験例1を図1において説明する。この試験例1では、ラットに糖尿病を発症させ、CCOPの糖尿病性白内障を予防する効果を試験した。
【0039】
この試験では、8週齢のウィスター(Wistar)系ラットの複数に、糖尿病誘発剤であるSTZ(ストレプトゾトシン)(60mg/Kg体重)を腹腔内に投与し、1週間後に血糖値が300mg/dl以上の個体12匹を選抜し、糖尿病発症ラットとした。
【0040】
糖尿病発症ラットの一方の群(6匹)には、血糖値をモニターしながら、12週間、通常の飼料を摂取させた(以下、対照群)。他方の群(6匹)には、モニターしながら通常飼料に加えて、12週間CCOPを摂取させた(以下、CCOP群)。CCOPは、200mg/mL溶液を調製し、体重1kgあたり10mL(2g/kg体重)をゾンデで経口投与した。
【0041】
図1は、試験結果を示すグラフであり、対照群と、CCOP群について、それぞれ横軸で示す12週までの、縦軸で示す白内障の発症率(%)の状態を示す。ここでいう「発症」とは左右いずれかの眼球において肉眼で確認できる程度の白濁が観察された状態を言う。
【0042】
この図1によると、対照群における白内障の発症率は12週で80%に達するが、CCOP群は、白内障の発症率を12週で33%に抑えることができる。
【0043】
ところで、CCOP群は、白内障の発症の有無に拘わらず、血糖値はいずれも低下していないため、CCOPを摂取したことによる糖尿病の改善による白内障の発症抑制ではないことは明らかである。
【0044】
図2は、この試験における白内障の発症状態を示す代表例である。対照群で白内障を発症したラット、およびCCOP群で白内障を発症しなかったラットの、それぞれの右目及び左目の状態を示す図である。白内障を発症したラットは、水晶体が白内障特有の白濁を呈している。以上の試験結果から、CCOPを摂取すると白内障の発症率が低下することが分かる。
【0045】
表1は、対照群およびCCOP群の各個体より眼球を採取し、病理組織標本を作製しヘマトキシリン・エオジン染色を行い、水晶体の変性の有無について個体ごとに調査した結果である。対照群では、全例に水晶体の変性がみられ、中等度(++)が5例と軽度が1例であった。CCOP群では、変性所見が軽度のもの4例と軽微が2例であったことより、対照群よりも白内障の軽減化がみられた。
【0046】
【表1】

【0047】
(試験例2)
さらに、平均分子量が異なるコラーゲンペプチドにおける効果を確認するために実施した試験例2を図3において説明する。この試験例2では、ラットに糖尿病を発症させ、平均分子量5000程度のコラーゲンペプチド(以下、コラーゲンペプチド)の糖尿病性白内障を予防する効果を試験した。
【0048】
この試験では、8週齢のウィスター(Wistar)系ラットの複数に、糖尿病誘発剤であるSTZ(ストレプトゾトシン)(60mg/Kg体重)を腹腔内に投与し、1週間後に血糖値が300mg/dl以上の個体を選抜し、糖尿病発症ラットとした。
【0049】
糖尿病発症ラットの一方の群には、血糖値をモニターしながら、11週間、通常の飼料を摂取させた(以下、対照群)。他方の群には、モニターしながら通常飼料に加えて、11週間コラーゲンペプチドを摂取させた(以下、コラーゲンペプチド群)。コラーゲンペプチドは、200mg/mL溶液を調製し、体重1kgあたり10mL(2g/kg体重)をゾンデで経口投与した。
【0050】
図3は、試験例2の試験結果を示すグラフであり、対照群とコラーゲンペプチド群について、それぞれ横軸で示す11週までの縦軸で示す白内障の発症率(%)の状態を示す。この図3によると、対照群における白内障の発症率は11週で83%に達するが、コラーゲンペプチドは、白内障の発症率を11週で50%に抑えることができる。試験例1と同様に、コラーゲンペプチド群において血糖値の低下は認められず、糖尿病の改善による白内障の発症抑制ではないことは明らかである。
【0051】
以上、本発明に係る白内障予防食品を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内でいろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る白内障予防食品は上記のようなものであるから、単独で食し又は投与しても良いが、当該コラーゲンペプチドは、味に影響を与えることがないので、食品、例えば麺、パン等の穀類加工食品、菓子、調理用粉、飲料等に添加することで、顕著な白内障予防効果が生じる食品として適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンペプチドから成り、抗酸化作用によることなく白内障予防効果を有することを特徴とする白内障予防食品。
【請求項2】
コラーゲン又はコラーゲン由来のゼラチンを加水分解することにより得られたコラーゲンペプチドから成り、該コラーゲンペプチド平均分子量は、1,000〜5,000であり、抗酸化作用によることなく白内障予防効果を有することを特徴とする白内障予防食品。
【請求項3】
前記コラーゲンペプチドは、ニワトリの足から抽出し、8(Octa)残基のペプチド配列を含む低分子コラーゲンペプチドであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の白内障予防食品。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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