説明

白血球およびサイトカインの吸着器

【課題】
本発明は、過剰に出現した白血球とサイトカインの吸着または除去などに好適に使用し得る材料として有用な吸着器を提供せんとするものである。
【解決手段】
本発明の吸着材料は、不溶性担体に親水性アミン残基を結合してなることを特徴とする孔径1μm以上100μm以下の孔の孔容積率が30%以上である、白血球、サイトカイン吸着器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中から白血球とサイトカインとを吸着または除去することが可能な吸着器に関するものである。さらに詳しくは、白血球とサイトカインとを吸着または除去することに適した血液処理カラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
広く知られているように、血液には白血球が含まれている。白血球には顆粒球・単球・リンパ球などの種類があり、これらのうち顆粒球・単球は感染防御に重要なものであるが、必要以上に増加すると炎症性サイトカインや活性酸素等を放出し続けて血管や腎臓などの臓器に傷害を与えるので、有害である。例えば、敗血症の重篤化、冠動脈の閉塞の誘導を起こし、その他、潰瘍性大腸炎、クローン病またはリウマチなどに代表される自己免疫疾患を引き起こすので、これらの病気の対処法として過剰に増えた顆粒球・単球を吸着または除去する必要がある。また、炎症時に増加するサイトカインや活性酸素も併せて吸着または除去することが必要である。
【0003】
これまでに、白血球除去、また顆粒球を対象とした白血球除去を目的としたカラム(特許文献1,2)や、サイトカイン吸着を目的としたカラム(特許文献3,4)がそれぞれ開発されてきている。
【0004】
これらのカラムの担体においては、白血球そのものの除去またはサイトカインそのものの除去のための効率化は施されているが、血球や血球が情報応答する液性因子すべてについて除去することができないため、残存した細胞の正常化が不十分となる。
【0005】
白血球と毒素との両方を吸着することを目的としたカラム(特許文献5,6)も開発されているが、サイトカインのような細胞が産生する生理活性物質については何ら除去することができないため、残存した細胞の正常化が不十分となる。
【0006】
なお、これらの吸着器では、除去した血球成分のため、目詰まりが起こることが問題点と指摘されており、その克服のため、吸着体の中の空隙を規定したカラム(特許文献7)が開発されている。
【特許文献1】特開昭60−193468号公報
【特許文献2】特開平5−168706号公報
【特許文献3】特開平10−225515号公報
【特許文献4】特開平12−237585号公報
【特許文献5】特開平14−113097号公報
【特許文献6】特開平14−172163号公報
【特許文献7】特開平7−80062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように白血球、特に過剰の顆粒球や単球より癌壊死因子、インターロイキン1、インターロイキン6、インターフェロンなどの種々のサイトカインや、酸過酸化物が放出されている。一方、これら過剰なサイトカインが生理的悪影響を及ぼすことが知られている。そこで本発明者等は、サイトカイン放出を行う白血球、特に顆粒球や単球を吸着または除去し、併せてサイトカインの血中濃度増加を予防して、血液状態を改善することが重要であると考えた。本発明の課題は、顆粒球或いは単球に代表される白血球を本吸着器に内蔵した水不溶性材料に効率よく付着させて血液から吸着または除去し、併せてサイトカイン産生を抑制し、さらに直接血液中より効率よく標的サイトカインを吸着または除去することができるような新規吸着器を実現することである。さらにこの操作中における血液の目詰まりによるカラム圧上昇を抑えることをも課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の構成を有する。
1.孔径1μm以上100μm以下の孔の孔容積率が30%以上であり、親水性アミン残基が結合してなる、血液分散液から白血球およびサイトカインを吸着または除去する水不溶性材料を内蔵することを特徴とする吸着器。
2.前記孔容積率が90%以上であることを特徴とする前記1記載の吸着器。
3.前記サイトカインはインターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)、インターロイキン−10(IL−10)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、トランスフォーミング・グロウス・ファクター・ベータ(TGF−β)、血管新生増殖因子(VEGF)、免疫抑制酸性蛋白(IAP)なる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記1または2記載の吸着器。
4.ヒト健常者血液を1時間処理したとき、血液からの血球吸着率が以下の式を満たすことを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の吸着器。
【0009】
a/b<1
ここで、a:顆粒球吸着率(%)、b:単球吸着率(%)
5.前記血液分散液からの顆粒球の吸着率が50%以上、かつ単球の吸着率が50%以上であることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載の吸着器。
6.前記血液分散液からのリンパ球の吸着率が40%以下であることを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載の吸着器。
7.前記水不溶性材料が繊維状、中空糸形状またはビーズ状を有することを特徴とする前記1〜6のいずれかに記載の吸着器。
8.前記水不溶性材料が繊維状あるいは中空糸形状を有し、かつ膜形態を有することを特徴とする前記7記載の吸着器。
9.前記水不溶性材料の形状が繊維状あるいは中空糸形状であって、かつその繊維径が3μmを超えるものであることを特徴とする前記7または8記載の吸着器。
10.前記水不溶性材料の形状がビーズ状であって、かつ材料の表面に径が3μmを超える突起部分を有することを特徴とする前記7記載の吸着器。
11.前記親水性アミン残基におけるアミノ基が4級化されていることを特徴とする前記1〜10のいずれかに記載の吸着器。
12.血液を循環させる用途に使用するものであることを特徴とする前記1〜11のいずれかに記載の吸着器。
13.前記1ないし12記載のいずれかの吸着器を用いる、血液分散液から血球浄化液を得る方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る材料を用いると、過剰に増殖した顆粒球や単球などの人体に不要かつ有害な白血球や、これら細胞に対し情報伝達するサイトカインを併せて吸着または除去することにより、これらによる細胞に対する刺激を緩和し、活性化状態を抑えることができるため、難病として知られる潰瘍性大腸炎、クローン病、自己免疫疾患などの血液処理や治療に有用である。また、輸血に用いる血液をあらかじめ本発明の吸着器を用いて処理することで、安全な輸血も行える。
【0011】
このように本発明により、血液循環中の目詰まりが抑制でき、長時間安定に血液中に存在する人体に不要かつ有害な白血球や腫瘍細胞などを選択的に吸着または除去でき、安全な輸血や、細胞除去、白血球除去療法などを行うことが可能となる。本発明で血液とは、血球成分を含むものを言い、全血、腹水、胸水を指す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
続いて、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0013】
本発明の吸着器に内蔵される水不溶性材料とは、血液分散液から白血球およびサイトカインの両方を吸着または除去可能な吸着材料である。ここで、本発明における血液分散液とは、白血球、赤血球、血小板の少なくともひとつが血清、血漿、培地、緩衝液等に分散した液をさす。また、本発明における水不溶性材料とは、実質上、あるいはその大部分が水に溶けない性質の材料を意味し、60分間水中に入れた場合の重量減量が初期重量の2%未満の材料を指す。
【0014】
さらに、本発明に係る吸着材料は、孔径1μm以上100μm以下の孔の孔容積率が30%以上であること、および少なくとも親水性アミン残基が結合してなることを特徴とするものである。
【0015】
本発明でいう材料中の孔とは、材料を血球が通過する流路を形成するために材料を貫通しているものである。繊維と繊維との隙間や、粒子と粒子との間隙などを含むものである。本発明の目的である白血球、特に顆粒球或いは単球を捕捉する際、血球の流路を確保して血液処理時の目詰まりを防止するために、孔径は1μm以上の孔の割合が一定の容積以上を占めることが好ましく、さらには5μm以上の孔が多いことがより好ましい。
【0016】
また、上記細孔等の孔径が大きすぎると、機械的な圧縮強度や、引っ張り強度を保つことができなくなるため好ましくない。従って、孔径が100μm以下である孔の割合が一定以上の容積を占めることが好ましく、更に形状安定化のために50μm以下の孔が多いことがより好ましい。
【0017】
上記した理由から、本発明の吸着器に内蔵される材料としては、孔径が1μm以上100μm以下の孔が多く存在することが好ましく、かかる孔の割合を実用状態の吸着材料の全ての孔の占める容積(全孔容積)に対する孔径1μm以上100μm以下の孔の占める容積の割合(本発明において、孔容積率とする。)で表す時、30%以上であることが好ましい。かかる孔の孔容積率が30%以上であることで、血球が吸着材料中にて目詰まりすることなく、かつ吸着材料の強度を保つことが可能となる。更には、かかる孔の孔容積率が35%以上であると、より確実に血球等の捕捉率を高めることが可能である。さらには、かかる孔の孔容積率が40%以上であることがより好ましい。また、特にヘマトクリット値が50%を超えるような濃厚血液を通過させる場合、白血球、特に顆粒球や単球の捕捉の効率を高め、一定容積内に多数の顆粒球や単球が付着できる表面積を確保するため、また、捕捉した白血球による目詰まりを防ぐためには至適な孔径の孔が多数存在することが好ましく、孔径1μm以上100μm以下の孔が90%を超えることが好ましい。更に92%を超えることがより好ましい。構成的には100%も可能である。以上の要件を満たすことで、孔径の小さな孔が少なくなり、その結果、濾過効果による細胞捕捉性を極限まで低くした吸着器を提供することができる(濾過効果による細胞捕捉性が高くなると、選択捕捉性が低下する。すなわち、リンパ球等を除去し過ぎることがある。)。ただし、孔径が大きな孔が増加する傾向にあるため、その場合は吸着器に補強構造を付与することが重要となる。その手段としては、血球の吸着または除去以外の目的で、直径10μmを超えるような機械強度保持材を混合すること、たとえばスクリム構造を付与することなどが考えられ、これらを用いることで、孔径1μm以上100μm以下の孔の孔容積率が90%を超えるという要件を安定に維持できる。機械強度保持材がさらに太くなれば、孔径を大きく保持できるが、吸着器単位重量あたりの細胞捕捉性が減少するため、径100μm以下のものが好ましく用いられる。さらに、吸着器単位重量あたりの細胞捕捉性を十分な量に設定するため、径50μm以下が好ましい。
【0018】
ここで、本発明において、孔径1μm以上100μm以下の孔の孔容積率は水銀圧入法による水銀圧入曲線から得ることができる。この場合、水銀圧入法による測定値は1〜2650psiaの圧力範囲で測定した値とする。ここで、本吸着材料は、生理的な条件で生理食塩水もしくは血液と接触し実用されるものであるが、この値はできるだけ実用時に近い変形状態での値を測定する必要がある。従って、測定時に孔の状態をできるだけ実用時に近い変形状態とする必要がある。
また、測定容器への充填時に圧縮によって吸着材料の容積が変わらないよう注意する。
【0019】
また、血液処理時に吸着材料と顆粒球或いは単球とがより多く接触するように設計するという観点からは、吸着材料を形成する繊維の繊維径(中空糸の場合は中空糸外径、以下同じ。)やビーズ粒子の上の表面の突起の径(大きさ)などについて、これら血球細胞の貪食能を発揮しやすくするという観点からは、0.5μmから5μmに設計することが好ましい条件である。上記した材料の細孔の孔径を1μm以上とするためには、吸着材料を形成する繊維の繊維径、あるいはビーズ粒子の表面の突起の径(大きさ)等(以下、繊維径等)が3μmを超えることがより好ましい。繊維径等が小さい場合、リンパ球の吸着率または除去率が多くなることがあり、その場合はメモリーセルの除去に繋がる。メモリーセルの低下につながらないようにするためには、リンパ球の吸着率が40%以下であることが好ましく、安全性の観点から、好ましくは30%以下である。かかる観点からも、この繊維径等が3μmを超えると、リンパ球の捕捉率を下げることができるため、白血球の吸着または除去における選択性を付与でき、好ましい。また、顆粒球、単球等の細胞をより効率的に吸着または除去させるためには、水不溶性材料からなる担体(以下、水不溶性担体)として用いるこれら繊維の繊維径等が4μm以上であることが好ましい。さらには、より確実にリンパ球の吸着率を抑え、顆粒球や単球の吸着率の低下につながらないようにする観点からは、繊維径等が5μm以上であることがよい。ただし、これらの径が10μmを超えると顆粒球や単球の吸着率が低下してしまうことがあるため、実用上の観点からは大きくても20μm以下であることが好ましいことが分かっている。ただし、血球の吸着または除去以外の目的で混合した繊維構造体などにおける径はこの限りではない。ここで、本発明における繊維径とは、繊維断面の直径をいう。なお、本発明における繊維径等、または機械強度保持材の径は、光学顕微鏡、ズーム付きCCDカメラ、走査型電子顕微鏡などいずれの装置を用いても測定可能であるが、吸着材料からランダムに小片サンプル10個を採取し、1000〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10箇所ずつ、計100箇所の繊維などの直径を測定し、それらの平均値の小数点以下第一位を四捨五入し算出することが可能である。特に走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−5400LV、日立製作所製 走査型電子顕微鏡S−800等)を好適に用いることができる。また、ここで示した径は、形状が真円状の場合のみ適用されるものではなく、たとえば楕円や矩形、多角形の形状の場合にも適用される。これらの場合、最外層を結んでできた図形の面積を求め、その面積に相当する円の直径を求める。ただし、5つの突起部分が存在する星形を例にとると、その5つの頂点を結ぶ図形を考え、その面積を算出し、対応する円の直径を本発明で言う径とする。
【0020】
ここで、吸着材料の嵩密度とは、容器中に該吸着材料を充填した時の一定体積当たりの重さをいうが、吸着材料の形状が粒子状である場合は、該容器に該吸着材料を嵩密度0.03g/cm以上0.5g/cm以下の範囲として充填して吸着器とする事が望ましい。更に、目詰まりを防ぎ、圧損の上昇を防いで流れをスムーズにするために好ましい嵩密度は、0.05g/cm以上0.4g/cm以下であり、更に好ましい嵩密度は0.05g/cm以上0.3g/cm以下である。
【0021】
本発明において、白血球等を吸着する担体である水不溶性材料の形状は特に限定されないが、加工性や、血液処理カラムとした時の圧力損失等の点から、繊維、中空糸又はビーズの形状であることが好ましい(なお、ここでの繊維とは、中空糸形状を有さないものをいう。)。もちろん、これらを混合したものでもかまわない。なお、ビーズ状の場合は、粒子表面に、後述する大きさの径を有する突起によって白血球等を捕捉するものであるが、この突起部分の粒子表面全体における割合は20%以上であることが望ましい。
【0022】
また、水不溶性材料の形態は膜形態であることが好ましい。本発明において、膜形態とは、繊維状、中空糸状、リボン状などの形状を有し、かつ、その表面に多数の微細孔がある多孔質状の物を指す。微細孔の孔径は血液分散液中の生理活性物質、すなわちタンパク質、糖タンパク質、多糖類、プロテオグリカン類などが材料の内部まで入ることが可能な大きさであることが好ましく、数nmからサブミクロンのオーダーまでを含むものである。
【0023】
本発明の吸着材料においては、形体は特に不織布とすることが好ましい。その場合、不織布の嵩密度は、大きすぎると目詰まりしやすく、逆に小さすぎると形態保持性が悪くなるので、0.02〜0.3g/cmであることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.15g/cmであるものが使用される。
【0024】
孔容積率の制御は、一般に容器内の繊維の嵩密度を制御することで達成される。粒子状の吸着体を用いる場合は、その直径に依存して決まる。繊維径および素材が同一の繊維を用いる場合は、繊維を集合させたときの密度を変化させることで制御可能である。繊維を用いる場合は、本発明における材料を作製するためには、例えば以下の方法をとればよく、またこの方法に限るものではない。すなわち、用いる繊維の直径を3μmから5μmとし、さらに直径8μm以上の繊維を適量混合し、繊維を交絡させ、例えばパンチング回数を制御するなどして、繊維の交絡度を変化させ、嵩密度が上記範囲の嵩密度である材料を作成することができる。
【0025】
なお、吸着材料の全表面積、即ち顆粒球や単球の捕捉面の表面積はいずれであっても使用できる。
【0026】
本発明で用いる吸着材料の基本的な構成としては、水不溶性担体に官能基を固定化したもの、もしくは官能基を固定化した水不溶性担体を基材にコーティング等したものが好ましい。水不溶性担体の種類は、水不溶性を有し、官能基を固定化できるものであれば良く、特に制限されるものではない。生体適合性の観点からは、ポリプロピレンやポリエチレンなどのオレフィン系樹脂が好ましく、ポリアミドや、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル、ポリスチレンなどのビニル系ポリマーが好ましい。
【0027】
吸着材料としては、水溶液や血液との親和性を向上させるために、その表面が親水性であることが好ましく、材料が親水性被覆層を有することが好ましい。ただし、あらかじめエタノール等の液体になじませた後に水溶液と接触させることによっても親和性についての改善は可能であるため、親水性被覆層を設けることが必須ではない。材料が親水性被覆層を有することができるようにするための方法としては、用いる吸着材料の組成を親水性の水不溶性高分子にする方法、水不溶性高分子表面に親水性官能基を共有結合により結合させ、導入する方法(共有結合法)、親水性の水不溶性高分子を材料にコートする方法(コート法)などの公知技術を利用可能である。本発明では、材料にサイトカインを吸着する機能を保持させるため、上記3つの方法のうち共有結合法もしくはコート法が望ましく、繊維径等をコントロールする観点からは共有結合法がもっとも好ましい。
【0028】
これらの方法により親水性表面を形成するために用いられる化合物としては、ポリアルキレングリコール鎖を有する単量体、重合体またはグラフト共重合体、エチレン−ビニルアルコール、ポリエステル等を用いることが例示できる。この中で、重合体中にヒドロキシル基を有していることが、特に血小板の過剰な捕捉を防止できるため好ましい。
【0029】
本発明において、上記水不溶性担体に結合させる官能基は親水性アミン残基(すなわち、親水性アミン官能基)であるが、特に4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基を固定化したものが好ましい。なお、親水性アミン残基以外の他の官能基を固定化することも問題ない。4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基を水不溶性担体に固定化するため、別途反応性官能基を材料に導入することが好ましく、その好ましい例としては、ハロメチル基、ハロアセチル基、ハロアセトアミドメチル基、ハロゲン化アルキル基などの活性ハロゲン基、エポキサイド基、カルボキシル基、イソシアン酸基、チオイソシアン酸基、酸無水物基などを挙げることができるが、とりわけ、活性ハロゲン基、中でもハロアセチル基は、製造が容易な上に、反応性が適度に高く、4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基の固定化反応が温和な条件で遂行できると共に、この際生じる共有結合が化学的に安定なので好ましい。
【0030】
ここで、官能基の固定化とは、アンモニア、第1〜3級アミノ基等をポリマに化学的に結合させることを意味する。第1〜3級アミノ基としては、炭素原子数(以下、炭素数)で言うと、窒素原子1個当たり炭素数18以下であるものが反応性官能基との反応率向上のために好ましい。さらに、第1〜3級アミノ基の中でも、窒素原子1個当たりの炭素数が3以上18以下、とりわけ、4以上14以下のアルキル基を持つ第3級アミノ基から得られる第4級アンモニウム基を結合したものがサイトカイン吸着性の観点から優れている。かかる第3級アミノ基の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルオクチルアミン、N,N−ジメチルラウリルアミン、N−メチル−N−エチル−ヘキシルアミンなどが挙げられる。
【0031】
本発明における材料における固定化された4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基の密度は、水不溶性担体の化学構造、あるいは吸着器の用途により異なるが、少なすぎるとその機能が発現しない傾向にあり、一方、多すぎると、固定化後の担体の物理的強度が低下し、また吸着材料としての機能も下がる傾向にあるので、水不溶性担体の繰り返し単位あたり0.01〜2.0モル、より好ましくは0.1〜1.0モルがよい。
【0032】
前述の通り、吸着材料の形状としては特に限定はないが、カラムとして用いる場合には、繊維状、中空糸形状あるいはビーズ状が好ましく、さらには繊維を用いた編織した編地、織物や不織布等の繊維構造物とすることが好ましい。水不溶性担体それ自身のみで形態保持可能であれば材料単独での使用も可能であるが、単独での形態保持性が低ければ適当な基材にコーティングなどの方法で固定したり、他の材料と混合して一つのカラムとして用いることもできる。かかる固定化あるいは混合などの操作は、上記した編地、織物等に加工する前に行ってもよい。
【0033】
本発明において用いられる不織布は、単独の繊維から作製されるものであってもよいが、特に好ましくは海島型複合繊維から作製されるものである。すなわち、かかる複合繊維を用いて公知の方法によって不織布にした後、この不織布の形態保持性を良くするため、および嵩密度を調整するために、ニードルパンチした後、海成分を溶解することによって、容易に製造することができる。
【0034】
水不溶性担体として好ましい素材は前述の通りであるが、単独で使用可能な4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基を固定化したポリマであり、単独で使用可能なポリマとしての具体例は、ポリ(p−フェニレンエーテルスルホン):−{(p−C)−SO−(p−C)−O−}−やユーデル・ポリスルホン:−{(p−C)−SO−(p−C)−O−(p−C)−C(CH−(p−C)−O}−のほか、−{(p−C)−SO−(p−C)−O−(p−C)−O}−、−{(p−C)−SO−(p−C)−S−(p−C)−O}−、−{(p−C)−SO−(p−C)−O−(p−C)−C(CF−(p−C)−O}−などで代表されるポリスルホン系重合体、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリスチレン、アクリルポリマなどで、かつ、アミノ基を共有結合により固定化できる反応性官能基を持つものが挙げられる。そのなかでも、ポリスルホン系重合体は安定性が高く、また形態保持性がよいので好ましく用いられる。
【0035】
具体的な例としては、クロルアセトアミドメチル化ポリスチレン、クロルアセトアミドメチル化したユーデル・ポリスルホン、クロルアセトアミドメチル化したポリエーテルイミドなどが使用される。さらに、これらのポリマは有機溶媒に対し可溶であるものが、成型のしやすさの上から、特に好ましく使用される。
【0036】
本発明における吸着材料は、かかる4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基等を有するポリマを水不溶性担体自体としてこれを繊維状、中空糸形状またはビーズ状に成形する方法によって製造することの他、繊維、中空糸及びビーズ、特に生産性の面から好ましくは不織布等の基材に4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基等を有するポリマをコーティングして製造することもできる。後者の場合、該ポリマを溶媒、たとえば塩化メチレン、テトラヒドロフラン、N,Nージメチルホルムアミドなどに溶かし、この溶液に該不織布を浸したのち、該溶媒を蒸発させることにより容易に製造することができる。
【0037】
また、4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基等を水不溶性担体に固定化する際の反応溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどが好ましく用いられる。
【0038】
本発明における吸着材料は、孔径1μm以上100μm以下の孔の孔容積率を制御することで、血球の選択捕捉性を高めることが可能である。
【0039】
孔径が1μm以上100μm以下の孔の孔容積率が30%以上であると、血球と吸着材料との接触の機会は十分にあるが、濾過による補足作用が小さくなる。このため、顆粒球や単球が保有する異物認識力や貪食能が吸着材料に対して顕著に観察されるようになる。この性質を利用して、リンパ球に比べて顆粒球や単球の吸着率を高くすることができる。さらに水不溶性材料に親水性アミン残基を導入することで、単球の異物認識力がさらに高まり、顆粒球吸着率に対し単球吸着率を大きくできる。顆粒球に対し、単球はサイトカイン産生能が高く、血液中での残存量が多いと血液中でのサイトカイン濃度を効率的に下げることが困難になる。従って、顆粒球、単球の両方の吸着率が高い吸着材料を用いることが望ましいが、顆粒球吸着率a(%)と単球吸着率b(%)との比であるa/b(−)としては1より小さいことが望ましい。さらに効果を高めるためには、かかるa/bが0.9より小さいことが好ましい。特定の孔を持つ孔容積率を上記範囲に設定することにより、効果的にサイトカイン産生量を下げることが可能となる。
【0040】
また、本発明における吸着材料は、上記構成を採ることにより、血液分散液からの顆粒球の吸着率は50%以上であり、かつ単球の吸着率が50%以上であることを特徴とする。さらに、顆粒球および単球の吸着率は、高いほど血球の除去効率を向上させることが可能であるため好ましい。
【0041】
また、本発明におけるリンパ球の吸着率は、40%以下であることが好ましい。さらには、免疫機能の観点からリンパ球の吸着率は30%以下であることが好ましい。
【0042】
なお、本発明における血球の吸着率の評価は、ミニカラムを用いて行うものとする。充填容積2mlの円筒状カラム(内径1cm)を用い、吸着材料を充填する。ヘパリン採血(ヘパリン濃度:10U/ml)した健常者ボランティアの血液25mlを37℃にて血流速0.65ml/分で1時間循環する。循環開始時(0分)と循環終了時(1時間)において各1mlの血液を採取し、血球の組成から血球数を測定する。
【0043】
なお、本発明における吸着率とは、血球を例に取る場合、以下の式から求められるものである。
【0044】
吸着率(%)=[(カラム循環前の血液中の血球量)−(カラム循環後の血液中の血球量)]/(カラム循環前の血液中の血球量)×100

本発明における吸着材料が吸着するサイトカインは、インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)、インターロイキン−10(IL−10)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、トランスフォーミング・グロウス・ファクター・ベータ(TGF−β)、血管新生増殖因子(VEGF)および免疫抑制酸性蛋白(IAP)からなる群から選ばれる少なくとも1種のサイトカインである。これらは、すべて白血球除去療法適用が考えられている病態である潰瘍性大腸炎、クローン病、および慢性関節リウマチなどへの関与が指摘されており、また、その除去により近年抗腫瘍効果があると期待されているサイトカインである。
【0045】
これら吸着すべきサイトカインの種類によって、水不溶性担体に固定化する4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基の種類を適宜選択することができる。たとえば、インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−6(IL−6)、トランスフォーミング・グロウス・ファクター・ベータ(TGF−β)、血管新生増殖因子(VEGF)、免疫抑制酸性蛋白(IAP)などは、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルオクチルアミン、N,N−ジメチルラウリルアミンなどを材料に固定化すると吸着性を付与することができる。また、インターロイキン−8(IL−8)、インターロイキン−10(IL−10)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)などは、アミン成分としてテトラエチレンペンタミンを材料に固定化することで吸着性を付与できる。
【0046】
本発明において、これらサイトカインの吸着性または除去性の評価は、すべて天然型のタンパク質を被吸着材料として用い、酵素免疫測定法(EIA法)にて測定したものをいう(測定条件を37℃の温度で2時間バッチ吸着させて行うものである。)。
【0047】
本発明の吸着器は、本発明の吸着材料をカラム容器に充填することによって製造することができる。カラム容器としては、公知の血液処理用カラムの容器を用いることができる。カラムの材質は特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、フッ素樹脂、ポリウレタン、ポリスルホンなどが好適に用いられる。カラムの構成としては、吸着材料を平板状に形成し、これを重ねて充填したカラム、吸着材料が円筒形状に巻かれてなる円筒状フィルターが、両端部に血液入口と血液出口とを有する円筒容器に納められているカラム、吸着材料が円筒形状に巻かれてなる中空円筒状フィルターが、その両端部を封止された状態で血液入口と血液出口とを有する円筒状容器であり、容器の血液出口は前記中空円筒状フィルターの外周部に通じる部位に、また容器の血液出口は前記中空円筒状フィルターの内周部に通じる部位にそれぞれ設けられている容器に納められているカラムが好ましい。そのなかでも、中空円筒状フィルターを用いたカラムは、血液中の炎症性白血球の大部分が、円筒形状フィルターの外周部の大きな面積の不織布により迅速に吸着または除去され、吸着または除去されずに残ったわずかな炎症性白血球も、円筒形状フィルターの内周部に到って、その小さな面積の不織布により十分に吸着または除去されるため、効率的な炎症性白血球の吸着または除去が可能であるので、最も好ましい。
【0048】
本発明の吸着材料は、上述の血液入口と血液出口とを有する容器に充填して、吸着器として使用することができる。容器形状としては、血液入口と血液出口を有する容器であれば特に限定はないが、敢えて例を挙げると、公知の吸着材料を積層状に充填できる容器や、円柱状、三角柱状、四角柱状、六角柱状、八角柱状、等の角柱状容器、更に、吸着材料を円筒状に巻いたものを充填できる容器、又は、血液が円筒の外周に配された入口より内側へと流れ、最も内側に集まって中央の血液流出口より流れ出る形状であることを特徴とする容器等が良好な形状となる。血液がこれと反対の向きに流れる構造の容器であっても問題ない。又、錘状等の、断面積が入口から出口に向かうに従って小さくなる形状を有する容器等を用いることができる。このときの吸着材料の血液濾過断面積(濾過面積)と血液濾過長(捕捉材の厚み)の比(断面積/厚み、以下S/Lとする。)は、小さすぎると断面積が不足して吸着器における血液の流れ抵抗が大きくなることがあるため好ましくなく、又大きすぎると吸着器内で血液の片流れなどの流れの不均一が起こり易くなり、顆粒球及び/又は単球の粘着による捕捉率が低下するため、やはり好ましくない。好ましいS/Lの範囲は、10cm以上200cm以下である。さらに好ましくは12cm以上100cm以下である。
【0049】
ここで、使用前の洗浄時のゴミや血液成分の凝集物などの上記した繊維等の孔径より大きな固形物が進入することや、また、吸着器内で凝集した血液成分の凝集物が吸着器の外に出て人体に入ることを抑制するために、吸着器の中に平均孔径が本吸着材料の孔径よりも大きな濾過材料を、容器内における吸着材料より上流側の位置および/または下流側の位置に設けることが好ましい。かかる濾過材料の平均孔径は10〜300μmのものが通常採用されるが、これに制限されるものではない。ただし平均孔径が10μm未満であると、濾過材料表面で血球による目詰まりを引き起こし、圧力損失が増大することがあるためよくないことがある。
【0050】
本発明の吸着器のプライミング量(血液容量)は、特に限定されるものではないが、操作性の面及び処理時間の短縮のため可能な限り少ないことが好ましい。好ましいプライミング量の例を示すと、5〜500mlが良く、更に好ましくは10〜200ml、最も好ましくは、20〜100mlである。
【0051】
本発明において、吸着器の滅菌方法は公知の何れの方法であってもよいが、敢えて例を挙げるならば、オートクレーブ等の熱滅菌、γ線滅菌、電子線滅菌等の放射線滅菌等の滅菌法を使用できる。付与した官能基や、使用する水不溶性担体の性質を考え適宜選択し、使用すればよい。
【0052】
本発明の吸着器の使用方法の具体例を示すと、吸着器の前後に血液バッグ、血液回路、チェンバー、クランプ、ローラクランプ、ドリップチェンバー、針、メッシュ付きドリップチェンバー、血液ポンプ用チューブ等の機材のいずれか若しくは複数を適宜選択して組み込んだもの、例えば体外循環用回路あるいは輸血用回路などを用いて行うことができる。回路中に組み込まれる機材は、上記に限定される物ではない。更に、回路の途中に血液ポンプ、送液ポンプ或いは吸引ポンプ等のポンプを組み込んで使用することもできる。また、血液の自重による落差によって血液を送液することもできる。
【実施例】
【0053】
以下、実験例により、本発明をさらに具体的に説明する。
(孔容積率の測定)
マイクロメリテックス社製 ポアサイザー9320を用いて水銀圧入法により測定した。圧力範囲は1〜2650psiaとして測定した。ここで孔はできるだけ実用時に近い変形状態での値を用いる必要があるので、生理食塩水中で繊維径が乾燥状態に比べ変化する素材の場合は、膨潤などによる径の変化を光学顕微鏡で測定し、面積はその変化率について2乗倍、容積はその変化率について3乗倍することで補正した。かかる方法にて測定して得られた結果を用い、孔径1μm以上100μm以下に相当する圧力における孔の容積を合計し、この圧力範囲内での全孔容積に対する比率、すなわち孔径1μm以上100μm以下の孔の孔容積率を求めた。
(サイトカイン吸着評価)
牛胎仔血清にヒト天然型IL−1、IL−6を添加し、これらの濃度がそれぞれ500pg/mlとなるように調製した。この血清に吸着担体を添加し、37℃で2時間振とうし(通常EIA測定で採用される条件を用いた。総液量が1.5ml以下の場合振動数は10回/秒程度であるが、液量が多い場合は下げる必要がある)、上清を採取し、サンプルとした。担体:血清量の比率を30mg:1mlの固液比として統一し、振とう前後のサイトカイン量を求め吸着率を測定した。定量にはEIA法を用い、市販のキット(IL−1:R&D System社製ヒトIL−1βELISAキット、IL−6:鎌倉テクノサイエンス製)を用いて行い、以下の式にて吸着率を算出した。
【0054】
吸着率(%)=[(カラム循環前の血液中のサイトカイン量)−(カラム循環後の血液中のサイトカイン量)]/(カラム循環前の血液中のサイトカイン量)×100
(血球数の測定)
体液中の血球数の定量、ヘマトクリット値の測定は、シスメックス社XT−1800Viを用いて行った。顆粒球、単球の吸着率は以下の式にて算出した。
【0055】
吸着率(%)=[(カラム循環前の血液中の血球量)−(カラム循環後の血液中の血球量)]/(カラム循環前の血液中の血球量)×100
(繊維径などの測定)
吸着材料からランダムに小片サンプル10個を採取し、日立製作所製 走査型電子顕微鏡S−800を用いて1000〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10箇所ずつ、計100箇所の繊維などの直径を測定し、それらの平均値の小数点以下第一位を四捨五入し算出した。
[作製例]
(不織布)
36島の海島複合繊維であって、島が更に芯鞘複合によりなるものを、次の成分を用いて、紡糸速度800m/分、延伸倍率3倍の製糸条件で得た。
島の芯成分;ポリプロピレン
島の鞘成分;ポリスチレン90wt%、ポリプロピレン10wt%
海成分;エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、共重合成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸3重量%含む共重合ポリエステル
複合比率(重量比率);芯:鞘:海=40:40:20
この繊維70wt%と、直径25μmのポリプロピレン繊維30wt%からなるシート状物を作製した後、ニードルパンチすることによって不織布を得た。次に、この不織布を90℃の水酸化ナトリウム水溶液(3wt%)で処理して海成分の「エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、共重合成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸3重量%含む共重合ポリエステル」を溶解することによって、芯鞘繊維の直径が4μmで、嵩密度が0.05g/cm(総目付200g/m)の不織布を作製した(不織布)。
(中間体)
次に、ニトロベンゼン600mLと硫酸390mLの混合液にパラホルムアルデヒド3gを20℃で溶解した後、0℃に冷却し、75.9gのN−メチロール−α−クロルアセトアミドを加えて、5℃以下で溶解した。これに5gの上記不織布を浸し、室温で2時間静置した。その後、繊維を取り出し、大過剰の冷メタノール中に入れ、洗浄した。繊維をメタノールで良く洗った後、水洗し、乾燥して、6.2gのα−クロルアセトアミドメチル化ポリスチレン繊維(中間体)を得た。
(吸着材料)
N,N−ジメチルヘキシルアミン50gとヨウ化カリウム8gを360mLのジメチルホルムアミド(DMF)に溶かした溶液に5gの中間体を浸し、85℃のバス中で3時間加熱した。繊維をイソプロパノールで洗浄後、1mol/L濃度の食塩水1000mlに3時間浸漬した後、水洗し、真空乾燥して、8.1gのジメチルヘキシルアンモニウム化繊維(吸着材料1)を得た。
[実施例1]
健常者ボランティアの血液50mlをヘパリン採血(10U/ml)し、その中へ、濃度が500pg/mlになるようにヒト天然型IL−1、IL−6を溶解し、以下の検討を行った。ヘマトクリット値は45%であった。
【0056】
吸着材料1を150mg採り、充填容積2ml(内径1cm)の円筒状カラムに充填し、37℃にて血流速0.65ml/分で1時間上記血液25mlを循環した後、血球の組成を自動血液分析器で調べ、また、IL−1、IL−6量をEIA法にて定量した。カラム循環によって血液中のリンパ球数は12.5%減少、顆粒球は76%減少、単球は81%減少し、IL−1、IL−6はそれぞれ21%、28%減少していた。このとき、顆粒球除去率/単球除去率の値は0.94であった。別途、サイトカイン吸着評価を行った結果、IL−1、IL−6の吸着率はそれぞれ51%、78%であった。
【0057】
吸着材料1を150mg、内容積2mlのカラムに充填し、溶液流路を開けた状態で孔容積率の測定を行った。孔径1μm以上100μm以下の孔の孔容積率は35%であった。
[実施例2]
健常者ボランティアの血液50mlをヘパリン採血(10U/ml)し、その中へ、濃度が500pg/mlになるようにヒト天然型IL−1、IL−6を溶解し、以下の検討を行った。ヘマトクリット値は47%であった。
【0058】
吸着材料1を250mg採り、充填容積2ml(内径1cm)の円筒状カラムに充填し、37℃にて血流速0.65ml/分で1時間上記血液25mlを循環した後、血球の組成を自動血液分析器で調べ、また、IL−1、IL−6量をEIA法にて定量した。カラム循環によって血液中のリンパ球数は32.8%減少、顆粒球は88%減少、単球は92%減少し、IL−1、IL−6はそれぞれ30%、38%減少していた。このとき、顆粒球除去率/単球除去率の値は0.96であった。別途、サイトカイン吸着評価を行った結果、IL−1、IL−6の吸着率はそれぞれ53%、88%であった。
【0059】
吸着材料1を250mgを内容積2mlのカラムに充填し、溶液流路を開けた状態で孔容積率の測定を行った。孔径1μm以上100μm以下の孔の孔容積率は77%であった。
[実施例3]
健常者ボランティアの血液100mlをヘパリン採血(10U/ml)した。その中へ、500pg/mlになるようにヒト天然型IL−1、IL−6を溶解し、以下の検討を行った。ヘマトクリット値は48%であった。
【0060】
吸着材料1を150mg採って充填容積2ml(内径1cm)の円筒状カラムに充填し、37℃にて血流速0.65ml/分で1時間上記血液25mlを循環した後、血球の組成を自動血液分析器で調べ、また、IL−1、IL−6量をEIA法にて定量した。カラム循環によって血液中のリンパ球数は9.8%減少、顆粒球は72%減少、単球は76%減少し、IL−1、IL−6はそれぞれ19%、22%減少していた。このとき、顆粒球除去率/単球除去率の値は0.95であった。別途、サイトカイン吸着評価を行った結果、IL−1、IL−6の吸着率はそれぞれ46%、71%であった。
【0061】
吸着材料1を150mg採り、内容積2mlのカラムに充填し、溶液流路をあけた状態で孔容積率の測定を行った。孔径1μm以上100μm以下の孔の孔容積率は、92%であった。
[実施例4]
健常者ボランティアの血液100mlをヘパリン採血(10U/ml)した。その中へ、500pg/mlになるようにヒト天然型IL−1、IL−6を溶解し、以下の検討を行った。ヘマトクリット値は43%であった。
【0062】
吸着材料1を200mg採って充填容積2ml(内径1cm)の円筒状カラムに充填し、37℃にて血流速0.65ml/分で1時間上記血液25mlを循環した後、血球の組成を自動血液分析器で調べ、また、IL−1、IL−6量をEIA法にて定量した。カラム循環によって血液中のリンパ球数は10.8%減少し、顆粒球は75%減少し、単球は82%減少し、IL−1、IL−6はそれぞれ19%、25%減少していた。このとき、顆粒球除去率/単球除去率の値は0.91であった。別途、サイトカイン吸着評価を行った結果、IL−1、IL−6の吸着率はそれぞれ45%、73%であった。
【0063】
吸着材料1を250mgを採って内容積2mlのカラムに充填し、溶液流路をあけた状態で孔容積率の測定を行った。孔径1μm以上100μm以下の孔の孔容積率は、97%であった。
[比較例1]
吸着材料1を100mg採り、充填容積2ml(内径1cm)の円筒状カラムに充填し、実施例1と同条件で試験を行った(血液量は25ml)。カラムによって血液中のリンパ球数は8.4%減少、顆粒球は43%減少、単球は48%減少し、IL−1、IL−6はそれぞれ13%、18%減少していた。別途、サイトカイン吸着評価を行った結果、IL−1、IL−6の吸着率はそれぞれ49%、78%であった。このとき、顆粒球除去率/単球除去率の値は0.89であった。
【0064】
吸着材料1を100mg採って内容積2mlのカラムに充填し、溶液流路をあけた状態で孔容積率の測定を行った。孔径1μm以上100μm以下の孔の孔容積率は29%であった。顆粒球や単球の吸着率は50%未満であり、吸着効率が悪かった。
【0065】
以上の結果から、孔径1μm以上100μm以下の孔の孔容積率が30%以上である本発明による吸着器は、高い効率で血液中の顆粒球および単球を吸着でき、さらにはサイトカインをも併せて高い効率で吸着することができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明による吸着器は、血液中の白血球、炎症性、免疫抑制性サイトカインを効率よく吸着および/または除去し、かつ血液中の有用成分の吸着率および/または除去率を低くすることが可能な白血球除去療法用途に提供できる。
【0067】
また、本発明における材料は、シャーレ、瓶、膜、繊維、中空糸、粒状物またはこれらを用いた組み立て品などの成形品の形で、アフィニティークロマトグラフ用カラム、治療用血液カラム、特に体外循環カラムとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔径1μm以上100μm以下の孔の孔容積率が30%以上であり、親水性アミン残基が結合してなる、血液分散液から白血球およびサイトカインを吸着または除去する水不溶性材料を内蔵することを特徴とする吸着器。
【請求項2】
前記孔容積率が90%以上であることを特徴とする請求項1記載の吸着器。
【請求項3】
前記サイトカインはインターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)、インターロイキン−10(IL−10)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、トランスフォーミング・グロウス・ファクター・ベータ(TGF−β)、血管新生増殖因子(VEGF)、免疫抑制酸性蛋白(IAP)なる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2記載の吸着器。
【請求項4】
ヒト健常者血液を1時間処理したとき、血液からの血球吸着率が以下の式を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の吸着器。
a/b<1
ここで、a:顆粒球吸着率(%)、b:単球吸着率(%)
【請求項5】
前記血液分散液からの顆粒球の吸着率が50%以上、かつ単球の吸着率が50%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の吸着器。
【請求項6】
前記血液分散液からのリンパ球の吸着率が40%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の吸着器。
【請求項7】
前記水不溶性材料が繊維状、中空糸形状またはビーズ状を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の吸着器。
【請求項8】
前記水不溶性材料が繊維状あるいは中空糸形状を有し、かつ膜形態を有することを特徴とする請求項7記載の吸着器。
【請求項9】
前記水不溶性材料の形状が繊維状あるいは中空糸形状であって、かつその繊維径が3μmを超えるものであることを特徴とする請求項7または8記載の吸着器。
【請求項10】
前記水不溶性材料の形状がビーズ状であって、かつ材料の表面に径が3μmを超える突起部分を有することを特徴とする請求項7記載の吸着器。
【請求項11】
前記親水性アミン残基におけるアミノ基が4級化されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の吸着器。
【請求項12】
血液を循環させる用途に使用するものであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の吸着器。
【請求項13】
請求項1ないし12記載のいずれかの吸着器を用いる、血液分散液から血球浄化液を得る方法。

【公開番号】特開2007−222596(P2007−222596A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271473(P2006−271473)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】