説明

白血球付着分子VLA−4に対するヒト化抗体

【課題】 VLA−4レセプタに対し強い結合親和力を示すが、免疫原性のないヒト化抗体を提供する。
【解決手段】 特定ななマウス21.6免疫グロブリン軽鎖可変ドメインの対応する相補性決定領域からのアミノ酸配列をもつ3つの相補性決定領域、及びヒトカッパ軽鎖可変領域フレームワーク構造配列からの構造であって、L45,L49,L58及びL69(Kabatの番号付け規則による)から成る第1のグループの中から選ばれた少なくとも1つの位置が、マウス21.6免疫グロブリン軽鎖可変領域フレームワーク構造の等価の位置に存在するのと同じアミノ酸残基によって占有されている構造を含むヒト化軽鎖を含む、ヒト化免疫グロブリン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、白血球付着分子VLA−4のアルファ−4サブユニットに対して特異的なヒト化抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、感染又は傷害に対する血管化組織の応答であり、血管の内皮細胞に対する白血球の付着及び周囲の組織内へのその浸潤によってもたらされる。正常な炎症においては、浸潤する白血球は、毒性媒介物質を放出して侵入生物体を殺し、砕片や死細胞の食作用を行い、組織修復及び免疫応答において1つの役目を果たす。しかしながら病的炎症においては、浸潤白血球は過剰な応答性をもち、重大な又は致死的な損傷をひきおこす可能性がある。例えば、Hickey,Psychoneuroimmunology II(Academic Press 1990)(非特許文献1)を参照のこと。
【0003】
内皮細胞に対する白血球の付着は、内皮細胞及び白血球の上の細胞表面リガンドとレセプタの特異的相互作用を介してもたらされる。−般に、Springer,Nature 346:425−433(1990)(非特許文献2)を参照のこと。
【0004】
リガンド及びレセプタの同一性は、異なる細胞サブタイプ、解剖学的な場所、及び炎症刺激について変動する。VLA−4白血球細胞表面レセプタは、最初に、Hemler EP 330,506(1989)(あらゆる目的のためその全体が引用により本書に組み込まれる)(特許文献1)によって同定された。
【0005】
VLA−4は、各々α及びβ鎖を含む細胞表面レセプタのβ1インテグリン系統群の一員である。VLA−4はα4鎖とβ1鎖を含んでいる。VLA−4はVCAM−1と呼ばれる内皮細胞リガンドに対して特異的に結合する。Elices et al.,Cell 60:577−584(1990)(あらゆる目的のため引用によりその全体を本書に組み入れる)(非特許文献3)を参照のこと。
【0006】
VCAM−1は、まず最初に活性化されたヒト臍静脈上に検出されたが、このリガンドは、脳の内皮細胞上にも検出された。例えば、共有の同時係属出願US第07/871,223号(あらゆる目的のためその全体を本書に引用により組み入れる)を参照のこと(特許文献2)。
【0007】
VLA−4のごとき付着分子は、治療薬としての潜在的標的である。VLA−4レセプタは、脳内皮細胞上に常時存在するリガンドと相互作用することから、特に重要な標的である。脳の炎症の結果もたらされる疾病及び状態は、特に重大な結果をひき起こす。例えば、このような疾病の1つである多発性硬化性(MS)は、慢性的経過(再燃及び軽快を伴う又は伴わないもの)をとり、重症の能力障害及び死を招く。この病気には米国だけでも250,000人から350,000人が罹患していると推定される。
【0008】
VLA−4レセプタに対する抗体は、インビトロ及び動物モデルにおけるインビボの両方でのその抗炎症潜在能についてテストされてきた。USSN 07/871,223(特許文献3)及びYednock et al.,Nature 356:63−66(1992)(非特許文献4)(あらゆる目的のためその全体を引用により本明細書に組み入れる)を参照のこと。インビトロ実験では、抗VLA−4抗体が脳の内皮細胞に対するリンパ球の付着を遮断するということが実証されている。動物実験では、多発性硬化症をシミュレートする人工的に誘発された状態(実験的自己免疫脳脊髄炎)をもつ動物に対する抗−VLA−4抗体の効果がテストされる。これらの実験は、抗−VLA−4抗体の投与が動物における脳の炎症及びそれに続く麻痺を防ぐということを示している。集合的にみるとこれらの実験は、多発性硬化症及びその他の炎症性疾患及び障害を治療するための潜在的に有用な治療薬として抗−VLA−4抗体を同定している。
【0009】
今日までに入手可能である抗VLA−4抗体がもつ重要な問題点は、それらが全てマウス由来のものであり、従って臨床的使用においてヒト抗マウス応答(HAMA)を発生させる確率が高いということにある。HAMA応答は、患者体内でのマウス抗体の効力を低下させ、連続的投与を妨げる。この問題に対する1つのアプローチは、マウス抗体をヒト化することにある。このアプローチでは、供与体マウス可変領域からの相補性決定領域(CDRs)及びその他のいくつかのアミノ酸がヒト可変受容領域の中に移植され、その後ヒト定常領域に連結される。例えばRiechmann et al.,Nature 332:323−327(1988)(非特許文献5):Winter,US 5,225,539(1993)(各々あらゆる目的のためその全体を引用によりこの明細書に組み入れる)(特許文献4)を参照のこと。
【0010】
ヒト化抗体としてはいくつかの例が生産されているが、マウス抗体からヒト化抗体への遷移には、抗体が異なると解決法が変わる競合する複数の考慮事項の間の妥協が必要である。免疫原性を最小限におさえるために、免疫グロブリンはできるかぎり多くのヒト受容体配列を保持しなければならない。しかしながら、真正な結合特性を保持するためには、免疫グロブリンフレームワーク構造は、もとのマウス供与体免疫グロブリン内の領域にできるかぎり近いCDR領域の3次元コンホメーションを確保するべくヒト受容体配列の充分な置換を含まなくてはならない。これらの競合する考慮事項の結果として、これまでに生産されてきた多くのヒト化抗体は、それらが由来した対応するマウス抗体と比べ幾分かの結合親和力欠如を示す。例えば、Jones et al.,Nature 321:522−525(1986)(非特許文献6);Shearman et al.,J.Immunol.147:4366−4373(1991)(非特許文献7);Kettleborough et al.,Protein Engineering4:773−783(1991)(非特許文献8);Gorman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:4181−4185(1991)(非特許文献9);Tempest et al.,Biotechnology9:266−271(1991)(非特許文献10)を参照のこと。
【特許文献1】EP 第330,506号(1989)
【特許文献2】USSN第07/871,223号
【特許文献3】USSN第07/871,223号
【特許文献4】US 第5,225,539号(1993)
【非特許文献1】Hickey,Psychoneuroimmunology II(Academic Press 1990)。
【非特許文献2】Springer,Nature 346:425−433(1990)。
【非特許文献3】Elices et al.,Cell 60:577−584(1990)
【非特許文献4】Yednock et al.,Nature 356:63−66(1992)
【非特許文献5】Riechmann et al.,Nature 332:323−327(1988)。
【非特許文献6】Jones et al.,Nature 321:522−525(1986)
【非特許文献7】Shearman et al.,J.Immunol.147:4366−4373(1991)。
【非特許文献8】Kettleborough et al.,Protein Engineering4:773−783(1991)
【非特許文献9】Gorman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:4181−4185(1991)。
【非特許文献10】Tempest et al.,Biotechnology9:266−271(1991)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のことに基づくと、あったとしてもわずかであるヒト抗マウス応答を示す一方で、VLA−4レセプタに対する強い親和力を示すヒト化抗−VLA−4抗体に対する必要性が存在しているのは明白なことである。本発明は、この必要性そしてその他の必要性をも満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の要約)
本発明は、VLA−4リガンドに対して特異的に結合するヒト化免疫グロブリンを提供する。ヒト化抗体は、ヒト化軽鎖とヒト化重鎖を含んでいる。このヒト化軽鎖は、マウス21−6免疫グロブリン軽鎖の対応する相補性決定領域からのアミノ酸配列をもつ3つの相補性決定領域(CDR1,CDR2及びCDR3)、及び位置L45,L49,L58及びL69から成る第1のグループの中から選択された少なくとも1つの位置を除いてヒトカッパ軽鎖可変領域フレームワーク構造配列からの1つの可変領域フレームワーク構造を含んで成り、ここでアミノ酸位置は、マウス21.6免疫グロブリン軽鎖可変領域フレームワーク構造の等価の位置に存在するものと同じアミノ酸によって占有されている。ヒト化重鎖は、マウス21−6免疫グロブリン重鎖の対応する相補性決定領域からのアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR1,CDR2及びCDR3)、及びH27,H28,H29,H30,H44,H71から成るグループの中から選択された少なくとも1つの位置を除いてヒト重鎖可変領域フレームワーク構造配列からの可変領域フレームワーク構造を含んで成り、ここでアミノ酸位置は、マウス21−6免疫グロブリン重鎖可変領域フレームワーク構造の等価の位置に存在するものと同じアミノ酸により占有されている。免疫グロブリンは、約10−1の下限とマウス21−6免疫グロブリンの親和力の約5倍という上限をもつ親和力でVLA−4に対し特異的に結合する。
【0013】
通常、ヒト化軽鎖及び重鎖可変領域フレームワーク構造は、それぞれRE1及び21/28′CLの可変領域フレームワーク構造配列からのものである。ヒト化軽鎖可変領域フレームワーク構造がRE1からのものである場合、少なくとも2つのフレームワーク構造アミノ酸が置換される。1つのアミノ酸は、上述の第1の位置グループからのものである。その他のアミノ酸は、位置L104,L105及びL107から成る第3のグループからのものである。この位置は、RE1以外のヒト免疫グロブリンからのカッパ軽鎖の等価位置に存在するものと同じアミノ酸により占有されている。
【0014】
いくつかのヒト化免疫グロブリンは、図6内のLa又はLbと呼称された成熟軽鎖可変領域配列、又は図7内のHa,Hb又はHcと呼称された成熟重鎖可変領域配列を有する。好ましいヒト化免疫グロブリンとしては、La軽鎖及びHa,Hb又はHc重鎖をもつものが含まれる。
【0015】
本発明は同様に、上述のVLA−4に対するヒト化免疫グロブリンの結合フラグメントをも提供する。
【0016】
もう1つの態様においては、本発明は、上述のVLA−4に対するヒト化免疫グロブリンをコードする核酸を提供する。
【0017】
同様に提供されるのは、マウス21.6抗体又は上述のヒト化免疫グロブリンの3次元画像を表示するようにプログラミングされたコンピュータである。
【0018】
もう1つの態様では、本発明は、薬学組成物及びそれを使用した治療方法を提供する。
【0019】
薬学組成物は、上述のようなヒト化免疫グロブリン又は結合フラグメント、そして薬学的に受容可能な担体を含む。いくつかの治療方法においては、多発性硬化症といったような炎症性疾患を患う患者に対して、治療上有効な量の薬学組成物が投与される。
【0020】
同様に提供されるのは、上述のヒト化免疫グロブリン及び結合フラグメントを用いたVLA−4抗原を検出する方法である。これらの方法においては、患者及び患者からの組織標本に対して、ヒト化抗体又は結合フラグメントか投与される。抗体又はフラグメントと標本中に存在するVLA−4の間の特異的結合によって形成された複合体が検出される。
【0021】
より特定すれば、本発明は以下に関する。
(1)ヒト化重鎖及びヒト化軽鎖を含むヒト化免疫グロブリンにおいて、(1)ヒト化軽鎖には、マウス21−6免疫グロブリン軽鎖の対応する相補性決定領域からのアミノ酸配列をもつ3つの相補性決定領域(CDR1,CDR2及びCDR3)、及びL45,L49,L58及びL69から成る第1のグループの中から選ばれた少なくとも1つの位置を除いてヒトカッパ軽鎖可変領域フレームワーク構造配列からの可変領域フレームワーク構造が含まれており、ここでアミノ酸位置は、マウス21−6免疫グロブリン軽鎖可変領域フレームワーク構造の等価の位置に存在するものと同じアミノ酸によって占有されており、(2)ヒト化重鎖には、マウス21−6免疫グロブリン重鎖の対応する相補性決定領域からのアミノ酸配列をもつ3つの相補性決定領域(CDR1,CDR2及びCDR3)、及びH27,H28,H29,H30,H44,H71から成るグループの中から選択された少なくとも1つの位置を除いてヒト重鎖可変領域フレームワーク構造配列からの可変領域フレームワーク構造が含まれており、ここでアミノ酸位置は、マウス21−6免疫グロブリン重鎖可変領域フレームワーク構造の等価の位置に存在するものと同じアミノ酸によって占有されており;免疫グロブリンは、約10・M−1の下限と、マウス21−6免疫グロブリンの結合親和力の約5倍の上限をもつ結合親和力でVLA−4リガンドに対して特異的に結合する、ヒト化免疫グロブリン。
(2)ヒト化軽鎖可変領域フレームワーク構造が、第1のグループから選択された少なくとも1つの位置を除いて、又位置L104,L105及びL107から成る第3のグループの中から選択された少なくとも1つの位置を除いて、RE1可変領域フレームワーク構造配列からのものであり、アミノ酸位置が、RE1以外のヒト免疫グロブリンからのカッパ軽鎖の等価の位置に存在する同じアミノ酸によって占有されている、項(1)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(3)ヒト化重鎖可変領域フレームワーク構造が21/28′CL可変領域フレームワーク構造配列からのものである、項(2)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(4)ヒト化軽鎖可変領域フレームワーク構造には、第1のグループ内の位置にあるマウス21.6免疫グロブリンからの少なくとも3つのアミノ酸及び第3のグループの中の位置にあるREI以外のヒト免疫グロブリンからのカッパ軽鎖からの3つのアミノ酸が含まれており、又ヒト化重鎖可変領域フレームワーク構造には、第2のグループ内の位置にあるマウス21.6免疫グロブリンからの少なくとも5つのアミノ酸が含まれている、項(3)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(5)ヒト化軽鎖可変領域フレームワーク構造が、第1のグループからの少なくとも3つの位置及び第3のグループからの3つの位置を除いて、RE1軽鎖可変領域フレームワーク構造配列と同一であり、重鎖可変領域フレームワーク構造は、第2のグループからの少なくとも5つの位置を除いて21/28′CL重鎖可変領域フレームワーク構造配列と同一である、項(4)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(6)第1のグループからの少なくとも3つの位置がL45,L58及びL69であり、第2のグループからの少なくとも5つの位置がH27,H28,H29,H30及びH71である、項(5)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(7)ヒト化軽鎖には、マウス21−6重鎖の対応する相補性決定領域と同一である相補性決定領域が含まれており、ヒト化重鎖には、ヒト化重鎖のCDR3領域が位置H98においてフェニルアラニン残基を含んでいてもいなくてもよいという点を除いて、マウス21−6重鎖の対応する相補性決定領域と同一である相補性決定領域が含まれている、項(6)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(8)ヒト化重鎖のCDR3が位置H98にフェニルアラニン残基を含んでいる、項(7)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(9)成熟軽鎖可変領域のアミノ酸配列が図6でLa(配列番号7)と呼称されている配列である、項(1)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(10)成熟軽鎖可変領域のアミノ酸配列が図6でLb(配列番号8)と呼称されている配列である、項(1)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(11)成熟重鎖可変領域のアミノ酸配列が図7でHa(配列番号11)と呼称されている配列である、項(1)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(12)成熟重鎖可変領域のアミノ酸配列が図7でHb(配列番号12)と呼称されている配列である、項(1)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(13)成熟重鎖可変領域のアミノ酸配列が図7でHc(配列番号13)と呼称されている配列である、項(1)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(14)成熟重鎖可変領域のアミノ酸配列が図7のHa(配列番号11)である、項(9)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(15)成熟重鎖可変領域のアミノ酸配列が図7のHb(配列番号12)である、項(9)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(16)成熟重鎖可変領域のアミノ酸配列が図7でHc(配列番号13)と呼称されている、項(9)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(17)項(14)又は項(16)に記載のヒト化免疫グロブリンの結合フラグメント。
(18)定常領域ドメインを有する、項(14)又は項(16)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(19)定常領域ドメインがエフェクター機能を有する、項(18)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(20)定常領域ドメインにエフェクター機能が欠如している、項(18)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(21)エフェクター機能が補体結合反応又は抗体依存性細胞障害作用を行なうことができる、項(19)に記載のヒト化免疫グロブリン。
(22)項(1)に記載のヒト化抗体又はその結合フラグメントの重鎖をコードする核酸。
(23)項(1)に記載のヒト化抗体又はその結合フラグメントの軽鎖をコードする核酸。
(24)モニター上に項(1)に記載のヒト化免疫グロブリンの三次元表示を表示するようにプログラミングされたコンピュータ。
(25)項(14)又は項(16)に記載のヒト化抗体又はその結合フラグメント及びそのための薬学的に受容可能な担体を含んで成る薬学組成物。
(26)VLA−4抗原を検出するための方法において、患者又は患者からの組織標本に対して項(14)又は項(16)に記載のヒト化免疫グロブリン又はその結合フラグメントを投与する段階;及び抗体又はフラグメントと標的標本中に存在するVLA−4の間の特異的結合によって形成される複合体を検出する段階、を含んで成るVLA−4抗原を検出するための方法。
(27)項(25)に記載の薬学組成物を治療上有効な量だけ投与する段階を含んで成る、内皮細胞に対する白血球の付着を阻害する方法。
(28)内皮細胞が脳細胞である、項(27)に記載の方法。
(29)項(25)に記載の薬学組成物を治療上有効な量だけ患者に投与する段階を含んで成る、炎症性疾患を治療する方法。
(30)炎症性疾患が多発性硬化症である、項(29)に記載の方法。
【発明の効果】
【0022】
VLA−4レセプタに対して強い親和力を示し、かつ免疫原性が最小限に抑えられたヒト化抗体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(定義)
20の天然アミノ酸についての略号は、慣習的な用法に従う(Immunology−A Synthesis(第2版.,E.S.Golub & D.R.Gren,eds,eds.,Sinauer Associates,Sunderland,MA,1991))。20の慣習的アミノ酸の立体異性体(例えばD−アミノ酸)、α−α−2置換アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、乳酸といった非天然アミノ酸、及びその他の非慣習的アミノ酸も又、本発明のポリペプチドのための適切な構成要素である。非慣習的アミノ酸の例としては、4−ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタメート、ε−N,N,N−トリメチルリシン、ε−N−アセチルリシン、o−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリシン、ω−N−メチルアルギニン、及びその他の類似のアミノ酸及びイミノ酸(例えば4−ヒドロキシプロリン)が含まれる。その上、アミノ酸は、グリコシル化、リン酸化などによって修正され得る。
【0024】
本書中で用いられるポリペプチド表記法では、標準的な用法及び慣習に従って左方向はアミノ末端方向であり、右方向はカルボキシ末端方向である。同様にして、相反する規定のないかぎり、一本鎖ポリヌクレオチド配列の左末端は5′末端であり、2本鎖ポリヌクレオチド配列の左方向は5′方向と呼ばれる。未完成RNA写しの5′→3′添加の方向は、転写方向と呼ばれる;RNAと同じ配列をもちRNA写しの5′末端に対し5′のところにあるDNAストランド上の配列領域は「上流配列」と呼ばれる;RNAと同じ配列をもちRNA写しの3′末端に対し3′のところにあるDNAストランド上の配列領域は、「下流配列」と呼ばれる。
【0025】
「ポリヌクレオチド配列」という語句は、5′から3′末端へと読まれるデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド塩基の1本鎖又は2本鎖重合体のことを言う。これには、自己複製プラスミド、DNA又はRNAの感染性重合体及び非機能的DNA又はRNAが含まれる。
【0026】
以下の用語は、2つ以上のポリヌクレオチドの間の配列関係を記述するために使用される:「基準配列」、「比較ウィンドウ」、「配列同一性」、「配列同一性百分率」及び「実質的同一性」。基準配列というのは、配列比較のための基礎として用いられる規定の配列である;基準配列は、例えば、図1又は2のポリヌクレオチド配列といったような1つの配列リスト内に与えられた全長cDNA又は遺伝子配列のようにさらに大きい配列のサブセットであってもよいし、或いは又、完全なDNA又は遺伝子配列を含んでいてもよい。一般に、基準配列の長さは、少なくとも20ヌクレオチド、往々にして少なくとも25ヌクレオチド、そして頻繁には少なくとも50ヌクレオチドである。2つのポリヌクレオチドは、各々(1)2つのポリヌクレオチド間で類似している1つの配列(すなわち、完全ポリヌクレオチド配列の一部分)を含んでいてもよいし又(2)さらに2つのポリヌクレオチド間で発散する1つの配列を含んでいる可能性もあることから、2つ(又はそれ以上)のポリヌクレオチド間の配列比較は標準的には、配列類似性をもつ局所的領域を同定し比較するべく「比較ウィンドウ」全体にわたり2つのポリヌクレオチドの配列を比較することによって行なわれる。
【0027】
ここで使用する「比較ウィンドウ」というのは、ポリヌクレオチド配列を少なくとも20の隣接するヌクレオチドの基準配列に対して比較でき、又その中のポリヌクレオチド配列の一部分が、2つの配列を最適に整列させるべく(付加又は欠失を含まない)基準配列に比べて20パーセント以下の付加又は欠失を含み得るような、少なくとも20の隣接するヌクレオチド位置の概念的セグメントのことである。
【0028】
比較ウィンドウを整列させるための配列の最適なアラインメントは、Smith & Waterman,Adv.Appl.Math2:482(1981)の局所的相同性アルゴリズム、Needleman & Wunsch,J.Mol.Bial.48:443(1970)の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson & Lipman,Proc Natl.Acad.Sci.(USA)85:2444(1988)の類似性探索方法(これらの各々は本書にあらゆる目的のためその全体が参考として内含されている)、これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実現(Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0,Genetics Computer Groupe,575 Science D.,Madison,WI内のGAP,BESFIT,FASTA,及びTFASTA)又は検査によって実施でき、さまざまな方法によって生成された最高のアラインメント(すなわち比較ウィンドウ全体にわたり最高の配列類似性百分率を結果としてもたらすもの)が選択される。
【0029】
「配列同一性」という語は、比較ウィンドウ全体にわたり2つのポリヌクレオチド配列が同一である(すなわち、ヌクレオチド毎のベースで)ことを意味する。
【0030】
「配列同一性百分率」という語は、比較ウィンドウ全体にわたり2つの最適に整列された配列を比較し、一致した位置の数を生成するべく両方の配列内で同一の核酸塩基(例えばA,T,C,G,U又はI)が起こる位置の数を決定し、一致した位置の数を比較ウィンドウ内の位置の合計数(すなわちウィンドウサイズ)で除し、結果に100を乗じて配列同一性百分率を生成することによって、計算される。本書で使用されている「実質的同一性」という語は、合計で比較ウィンドウ全体にわたる基準配列の20パーセント以下となる欠失又は付加を含みうるポリヌクレオチド配列に対し基準配列を比較することによって配列同一性百分率が計算されるものとして、少なくとも20個のヌクレオチド位置の比較ウィンドウ、頻繁には少なくとも25〜50のヌクレオチドのウィンドウにわたり1つの基準配列に対して比較した場合に少なくとも85パーセントの配列同一性、好ましくは少なくとも90〜95パーセントの配列同一性、より普通には少なくとも99パーセントと配列同一性を有する配列がポリヌクレオチドに含まれている、ポリヌクレオチド配列の1つの特性を意味している。基準配列は、例えば図1又は2に示されている配列といったより大きい配列のサブセットであってよい。
【0031】
ポリペプチドに対して適用される場合、「配列同一性」という語は、ペプチドが対応する位置において同一のアミノ酸を共有することを意味する。「配列同一性」という語は、ペプチドが対応する位置において同一の又は類似のアミノ酸(すなわち保存的置換)をもつことを意味している。「実質的同一性」という語は、2つのペプチド配列が、例えば省略時ギャッブ重みを用いたプログラムGAP又はBESTFITによって最適に整列された時点で少なくとも80パーセントの配列同一性、好ましくは少なくとも90パーセントの配列同一性、より好ましくは少なくとも95パーセントの配列同一性又はそれ以上(例えば99パーセントの配列同一性)を共有することを意味する。好ましくは、同一でない残基位置は、保存的アミノ酸置換が異なっている。「実質的類似性」という語は、2つのペプチド配列が、対応する配列類似性百分率を共有することを意味する。
【0032】
「実質的に純粋な」という語は、目的種が存在する優占種である(すなわちモルベースで組成物内の他のどの個々の種よりも豊富である)ことを意味し、好ましくは、実質的に精製された分画とは、目的種が、存在する全ての高分子種の少なくとも約50パーセント(モルベースで)を構成している組成物である。一般に、実質的に純粋な組成物は、組成物内に存在する全ての高分子種の約80〜90パーセント以上を構成することになる。最も好ましくは、目的種は、組成物が単一の高分子種で本質的に構成されている本質的均質性(従来の検出方法では組成物内に汚染種を検出できない)に至るまで精製される。
【0033】
アミノ酸置換を保存的又は非保存的として分類する目的で、アミノ酸は以下のとおりにまとめられる:第I群(疎水性側鎖):ノルロイシン、met,ala,val,leu,ile;第II群(中性親水性側鎖):cys,ser,thr;第III群(酸性側鎖):asp,glu;第IV群(塩基性側鎖):asn,gln,his,lys,arg;第V群(鎖配向に影響を及ぼす残基):gly,pro;及び第VI群(芳香族側鎖):trp,tyr,phe。保存的置換には、同じクラスの中のアミノ酸の間の置換が関与する。非保存的置換は、これらのうちの1クラスの一員をもう1つのものと交換することである。
【0034】
免疫グロブリンの成熟重鎖及び軽鎖の可変領域からのアミノ酸は、それぞれHx及びLxxと呼称される。なおここでxは、Kabat et al.,の「免疫学的に有利なタンパク質の配列」(National Institutes of Health,Bethesda,MD(1987)及び(1991))(あらゆる目的のためその全体が参考として内含されている以下集合的に「Kabat et al.,」と呼ぶもの)のスキーマに従ったアミノ酸の位置を表わす番号である。Kabat et al.は、各々のサブクラスについて抗体のための数多くのアミノ酸配列を列挙し、又そのサブクラスの中の各残基位置について最も一般的に発生するアミノ酸を列挙している。Kabat et al.は、列挙された配列の中の各アミノ酸に対して残基番号を割当てるための方法を使用し、残基番号を割当てるためのこの方法は、この分野において標準となった。
【0035】
Kabat et al.のスキーマは、問題の抗体をKabat et al.内のコンセンサス配列の1つと整列させることによって、必携の中に含まれていないその他の抗体にまで拡大させることができる。Kabat et al.の番号づけシステムを使用することにより、様々な抗体の中で等価の位置でアミノ酸を直ちに同定することができる。例えば、ヒト抗体のL50位置にある1つのアミノ酸が、マウス抗体のアミノ酸位置L50に対する等価位置を占有する。
【0036】
(詳細な説明)
(I.VLA−4に特異的なヒト化抗体)
本発明の一実施態様においては、VLA−4のアルファサブユニットに対して特異的なヒト化免疫グロブリン(又は抗体)が提供されている。ヒト化免疫グロブリンは、実質的にヒト免疫グロブリン(受容体免疫グロブリンと呼ばれる)からの可変フレームワーク構造領域及び、実質的にmuMAb21.6と呼ばれるマウス免疫グロブリン(受容体免疫グロブリンと呼ぶ)からの相補性決定領域を有する。定常領域が存在する場合、これは同様に実質的にヒト免疫グロブリンからのものである。ヒト化抗体は、少なくとも10,10,10又は1010−1というVLA−4に対する特異的結合親和力を示す。通常、VLA−4に対するヒト化抗体の結合親和力の上限は、muMAb21.6のもの(約10−1)の3倍又は5倍以内である。往々にして結合親和力の下限は、同様にmuMAb21.6のものの3倍又は5倍以内である。
【0037】
A.免疫グロブリンの一般的特性
基本的抗体構造ユニットは、1つの四量体を含むものとして知られている。各々の四量体は、各々1つの「軽」鎖(約25kDa)と1つの「重」鎖(約50〜70kDa)を有する2つの同一のポリペプチド鎖の対で構成されている。各々の鎖のアミノ末端部分には、主として抗原認識を担う約100〜110又はそれ以上のアミノ酸の可変領域が含まれる。各々の鎖のカルボキシ末端部分は、主としてエフェクター機能を担う定常領域を構成する。
【0038】
軽鎖は、カッパ又はラムダのいずれかとして分類される。重鎖は、ガンマ、mu、アルファ、デルタ又はイプシロンとして分類され、それぞれIgG,IgM,IgA,IgD及びIgEといった抗体のイソタイプを規定する。軽鎖及び重鎖の中で、可変及び定常領域は、重鎖も同じく約10個以上のアミノ酸の「D」領域を内含している状態で、約12個以上のアミノ酸の「J」領域によって連結されている(一般に、Fundamental Immunology(基礎免疫学)(Paul,W.,ed.,第2版,Raven Press,N.Y.,1989)、第7章(あらゆる目的のためその全体が参考として内含されている)を参照のこと)。
【0039】
各々の軽鎖/重鎖対の可変領域は、抗体結合部位を形成する。鎖は全て、相補性決定領域又はCDRとも呼ばれる3つの超可変領域によって連結された比較的保存されたフレームワーク構造領域(FR)の同じ一般的構造を示す。各対の2つの鎖からのCDRは、フレームワーク構造により整列させられ、特異的エピトープに対する結合を可能にしている。CDR及びFR残基は、上述のKabat et al.,の標準的配列の定義に従って明確に表わされる。代替的構造の定義づけがChothia et al.,J.Mol.Biol.196:901−917(1987):Nature 342:878−883(1989);及びJ.Mol.Blol.186:651−663(1989)(以下、集合的に「Chothia et al」と呼び、あらゆる目的のためその全体が参考として内含されている)によって提案されてきた。上述のKabat et al.によって定義されたようなフレームワーク構造位置が上述のChothia et al.,によって定義されるような構造的ループ位置を構成する場合、マウス抗体の中に存在するアミノ酸は通常、ヒト化抗体の中に取り込まれる。
【0040】
B.ヒト化抗体の産生
(1) マウスMAb21.6
ヒト化抗体の産生のための出発材料はmuMAb21.6である。この抗体の分離及び特性は、USSN 07/871,223の中に記述されている。簡単に言うと、muMAb21.6は、VLA−4のアルファ−4サブユニットに対して特異的であり、腫瘍壊死因子で刺激されたラット脳細胞の組織培養に対するヒトリンパ球結合を阻害するものであることが示されてきた。muMAb21.6抗体重鎖及び軽鎖可変領域をコードするcDNAのクローニング及び配列決定については、例1に記述されており、ヌクレオチド及び予想されたアミノ酸配列は、図1及び図2に示されている。これらの図は同様に、フレームワーク構造及び相補性決定ドメインへのアミノ酸コーティング配列決定の細分化を例示している。N末端からC末端まで、軽鎖及び重鎖は両方共ドメインFR1,CDR1,FR2,CDR2,FR3,CDR3及びFR4を含んでいる。各ドメインに対するアミノ酸の割当ては、上述のKabat et al.,の番号づけの慣習に従っている。
(2)フレームワーク構造残基を供給するためのヒト抗体の選択
ヒト可変領域フレームワーク構造内へのマウスCDRの置換は、ヒト可変ドメインフレームワーク構造が、CDRが由来したマウスの可変フレームワーク構造を同じ又は類似のコンホメーションを採用した場合に、その正しい空間的配向の保持という結果をもたらす確率が最も高い。これは、CDRが由来したマウス可変フレームワーク構造ドメインと高度の配列同一性を示すフレームワーク構造配列をもつヒト抗体からヒト可変ドメインを得ることによって達成される。重鎖及び軽鎖可変フレームワーク構造領域は、同じ又は異なるヒト抗体配列から誘導されうる。ヒト抗体配列は、天然に発生するヒト抗体の配列であってもよいし、又はいくつかのヒト抗体のコンセンサス配列でもあり得る。Kettle borough et al.,Protein Engineering(タンパク質工学)4:773(1991);Kolbinger et al.,Protein Engineering6:971(1993)を参照のこと。
【0041】
適切なヒト抗体配列は、既知のヒト抗体の配列とのマウス可変領域のアミノ酸配列のコンピュータ比較によって同定される。この比較は、重鎖及び軽鎖について別々に行なわれるが、各々について原理は類似している。この比較は、上述のKabat et al.により規定される通り、mu21.6軽鎖が、亜型カッパ1のヒト軽鎖に対し最大の配列同一性を示すこと、そしてmu21.6重鎖が、亜型1のヒト重鎖に対する最大の配列同一性を示すことを明らかにする。かくして、軽鎖及び重鎖ヒトフレームワーク構造領域は通常、これらの亜型のヒト抗体又はこのような亜型のコンセンサス配列から誘導される。muMAb21.6からの対応する領域に対する最大の配列同一性を示す好ましい軽鎖及び重鎖ヒト可変領域は、それぞれ抗体RE1及び21/28′CLからのものである。
(3)コンピュータモデリング
マウスCDR領域とヒト可変フレームワーク構造領域の不自然な並置は、或る種のアミノ酸残基の置換によって補正されないかぎり結合親和力の損失を導く不自然なコンホメーション上の制約条件を結果としてもたらし得る。置換のためのアミノ酸残基の選択は、一部にはコンピュータモデリングによって決定される。
【0042】
免疫グロブリン分子の3次元画像を生成するためのコンピュータハードウェア及びソフトウェアが広く入手可能である。一般に、分子モデルは、その免疫グロブリン鎖又はドメインについての解明済みの構造から出発して生成される。モデリングすべき鎖は、解明済みの3次元構造の鎖又はドメインとのアミノ酸配列類似性について比較され、最大の配列類似性を示す鎖又はドメイン(1個又は複数)が分子モデルの構築のための出発点として選択される。例えば、muMAb21.6の軽鎖については、フレームワーク構造領域、CDR1及びCDR2領域をモデリングするための出発点はヒト軽鎖RE1であった。CDR3領域については、出発点は、異なるヒト抗体HyHEL−5の軽鎖からのCDR3領域であった。モデリングされつつある免疫グロブリン鎖又はドメイン内の現在のアミノ酸と、出発構造内のアミノ酸の間の差を許容するため、解明済み出発構造は修正される。修正された構造は、その後、複合免疫グロブリンへと組立てられる。
【0043】
最後に、モデルは、エネルギー最小化によって、そして全ての原子が互いから適切な距離内にあること及び結合の長さ及び角度が化学的に受容できる限界内にあることを確認することにより、洗錬される。例4では、muMAb21.6の可変領域のための3次元コンピュータモデルを生成するのにとられる段階について詳述されており、モデルは図5に示されている。このモデルの方は、ヒトフレームワーク構造の構造内で置換されたmuMAb21.6相補性決定領域を含む抗体の3次元構造を予測するための出発点として役立つことができる。以下で論述するさらなるアミノ酸置換が導入される場合、構造を表わす付加的なモデルを構築することが可能である。
(4)アミノ酸残基の置換
上述のとおり、本発明のヒト化抗体は、実質的にヒト免疫グロブリンからの可変フレームワーク構造領域と、実質的にmuMAb21.6と呼ばれるマウス免疫グロブリンからの相補性決定領域を含んで成る。muMAb21.6及び適切なヒト受容体免疫グロブリンの相補性決定領域を同定した後、次のステップは、これらの成分からの残基がある場合に、結果として得られるヒト化抗体の特性を最適化するのに置換すべきなのはどの残基であるかを決定することである。一般に、マウス残基の導入はヒトの体内で抗体がHAMA応答を惹起する危険性を増大することから、ヒトアミノ酸残基とマウスのものとの置換は最小限におさえるべきである。アミノ酸は、CDRコンホメーション及び/又は抗原への結合に対して考えられるその影響に基づいて、置換向けに選択される。このような考えられる影響の調査は、モデリング、特定の場所におけるアミノ酸の特性の検査又は特定のアミノ酸の置換又は突然変異の効果の経験的観察によって行なわれる。
【0044】
1つのアミノ酸からmuMAb21.6可変フレームワーク構造領域と等価のヒト可変フレームワーク構造領域の間で異なる場合、ヒトフレームワークアミノ酸は、それが、(1)抗原に直接、非共有的に結合する(例えばmuMAb21.6の位置L49,L69にあるアミノ酸)、(2)CDR領域に隣接する、上述のChothia et al.により提案されている代替的定義づけの下でCDR領域の一部である、又はその他の形でCDR領域と相互作用する(例えば、CDR領域から約3Å以内にある)(例えば、muMAb21.6の位置L45,L58,H27,H28,H29,H30及びH71にあるアミノ酸)、又は、(3)V−Vインタフェイスに参与する(例えばmuMAb21.6の位置H44にあるアミノ酸)場合には、通常等価のマウスアミノ酸で置換されるべきである。
【0045】
置換のためのその他の候補としては、その位置においてヒト免疫グロブリンにとっては普通でない受容体ヒトフレームワーク構造アミノ酸である(例えばmuMAb21.6の位置L104,L105及びL107にあるアミノ酸)。これらのアミノ酸は、より典型的なヒト免疫グロブリンの等価位置からのアミノ酸で置換されうる。代替的には、等価位置におけるヒト免疫グロブリンに典型的なものである場合、マウスMab21.6内の等価位置からのアミノ酸を、ヒトフレームワーク構造領域内に導入することができる。
【0046】
一般に、上述の基準を満たすアミノ酸の全て又は大部分を置換することが望ましい。しかしながら場合によっては、特定のアミノ酸が上述の基準を満たすか否かについては幾分かの不明確さが存在し、一方がその特定の置換を有し他方が有していない代替的な変異体免疫グロブリンが産生される。本発明のヒト化抗体は、通常、少なくともL45,L49,L58及びL69といった位置のうちの少なくとも1つ、2つ又は3つ、さらに普通には4つの位置において、対応するmuMAb21.6残基でのヒト軽鎖フレームワーク構造残基の置換を内含することになる。ヒト化抗体は同様に、通常、H27,H28,H29,H30,H44及びH71といった位置のうちの少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ、そして時として6つの位置において、ヒト重鎖フレームワーク構造残基の置換を含む。任意には、H36も同様に置換され得る。好ましい実施態様においては、ヒト軽鎖受容体免疫グロブリンがRE1であるとき、軽鎖は同様に、L104,L105及びL107といった位置のうちの少なくとも1つ又は2つそしてさらに普通には3つの位置で、置換を含んでいる。
【0047】
これらの位置は、より典型的なアミノ酸残基をもつヒト免疫グロブリンの等価位置からのアミノ酸で置換される。置換すべき適切なアミノ酸は図6及び7に示されている。
【0048】
通常、ヒト化抗体内のCDR領域は、muMAb21.6抗体内の対応するCDR領域と実質的に同一、より普通には同一である。しかしながら、場合によっては、CDR領域内の残基の1つを変更することが望ましい。例えば、例5はmuMAb21.6 CDR3とVCAM−1リガンドの間アミノ酸類似性を同定している。この観察事実は、VCAM−1にさらに密に類似するよう重鎖CDR3領域を設計し直すことによってヒト化抗体の結合親和力を改善することができるということを示唆している。従って、CDR3ドメインからの単数又は複数のアミノ酸をVCAM−1結合ドメインからのアミノ酸と置換させることができる。通常望ましいわけではないが、結果として得られたヒト化免疫グロブリンの結合親和力に著しい影響を及ぼすことなくCDR残基の単数又は複数の保存的アミノ酸置換を行なうことが時として可能である。
【0049】
上述の特異的アミノ酸置換のため以外に、ヒト化免疫グロブリンのフレームワーク構造領域は、通常、それらが由来したヒト抗体のフレームワーク構造領域と実質的に同一、さらに普通には、同一である。当然のことながら、フレームワーク構造領域内のアミノ酸の多くは、抗体の特異性又は親和力に対しほとんど又は全く直接的に貢献しない。従って、結果として得られるヒト化免疫グロブリンの特異性又は親和力を著しく変更することなく、フレームワーク構造残基の数多くの個々の保存的置換を許容することが可能である。しかしながら、一般には、このような置換は望ましくない。
(5)可変的領域の産生
ヒト化免疫グロブリンのCDR及びフレームワーク構造構成要素を概念的に選択したならば、このような免疫グロブリンを産生するためにさまざまな方法を利用することができる。コードの縮重のため、さまざまな核酸配列が各々の免疫グロブリンアミノ酸配列をコードすることになる。望ましい核酸配列はde novo固相DNA合成又は、望ましいポリヌクレオチドの早期に調製された変異体のPCR突然変異誘発によって産生することができる。標的ポリペプチドDNAの置換、欠失及び挿入変異体を調製するためには、オリゴヌクレオチドを媒介とする突然変異誘発が好ましい方法である。Adelman et al.,DNA2:183(1983)を参照のこと。簡単に言うと、標的ポリペプチドDNAは、1本鎖DNA鋳型に対し望ましい突然変異をコードするオリゴヌクレオチドをハイブリッド形成することによって、変性される。ハイブリダイゼーションの後、オリゴヌクレオチドプライマを取り込む鋳型の第2の相補性ストランド全体を合成するためにDNAポリメラーゼが使用され、これが標的ポリペプチドDNA内の選択された変性をコードする。
(6)定常領域の選択
上述のとおりに産生されたヒト化抗体の可変セグメントは標準的には、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、標準的にはヒト免疫グロブリンのものに連鎖される。ヒト定常領域DNA配列は、さまざまなヒト細胞から周知の手順に従って分離され得るが、好ましくは不死化されたB細胞から分離される(上述のKabat et al,及びWO87/02671を参照のこと)(その各々はあらゆる目的のため引用によりその全体を本明細書に組入れる)。通常、抗体は、軽鎖及び重鎖の両方の定常領域を内含している。重鎖定常領域は通常、CH1、ヒンジ、CH2,CH3,及びCH4領域を内含する。
【0050】
ヒト化抗体には、IgM,IgG,IgD,IgA及びIgEを含むあらゆるタイプの定常領域及びIgG1,IgG2,IgG3及びIgG4を含むあらゆるイソタイプをもつ抗体が含まれる。ヒト化抗体が細胞障害活性を示すことが望まれる場合、定常ドメインは通常補体固定定常ドメインであり、クラスは標準的にIgG1である。このような細胞障害活性が望まれない場合、定常ドメインはIgG2クラスのものでありうる。ヒト化抗体は、複数のクラス又はイソタイプからの配列を含んでいてよい。
(7)発現系
場合によっては定常領域に連鎖された、ヒト化軽鎖及び重鎖可変領域をコードする核酸が、発現ベクター内に挿入される。同じ又は異なる発現ベクター内で軽鎖及び重鎖をクローニングすることができる。免疫グロブリン鎖をコードするDNAセグメントは、免疫グロブリンポリペプチドの発現を確実に行なう発現ベクター内の制御配列に対し作動的に連鎖される。このような制御配列としては、シグナル配列、プロモータ、エンハンサー及び転写終結配列が含まれる。発現ベクターは、エピソームとして又は宿主染色体DNAの一部として、宿主生体内で標準的に複製可能である。一般には、発現ベクターは、望ましいDNA配列で形質転換された細胞の検出を可能にするため、例えばテトラサイクリン又はネオマイシンといった選択マーカーを含むことになる(例えば米国特許第4,704,362号参照)。
【0051】
大腸菌は、本発明のポリヌクレオチドをクローニングするのに特に有用な1つの原核生物宿主である。使用に適したその他の微生物宿主には、バシラス・サチリスといったようなかん菌及びサルモネラ、セラチアなどのその他のエンテロバクター及びさまざまなシュードモナス種が含まれる。これらの原核生物宿主の中で、宿主細胞と相容性のある発現制御配列(例えば複製起点)を標準的に含むような発現ベクターも作ることができる。さらに、ラクトースプロモータ系、トリプトファン(trp)プロモータ系、ベーターラクタマーゼプロモータ系、又はファージラムダからのプロモータシステムといったさまざまな周知のプロモータが任意の数だけ存在することになる。プロモータは、標準的に、任意にはオペレーター配列と共に発現を制御し、転写及び翻訳を開始し完成させるためリボソーム結合部位配列などを有する。
【0052】
酵母といったようなその他の微生物も発現のために使用できる。サッカロマイセスが好ましい宿主であり、適切なベクターは、望まれる通りに3−ホスホグリセレートキナーゼ又はその他の解糖酵素を含むプロモータ及び複製起点といった発現制御配列、終結配列などを有する。
【0053】
微生物に加えて、哺乳動物組織細胞培養も、本発明のポリペプチドを発現し産生するのに使用することができる(Winnacker「遺伝子からクローンへ(VCH Publishers,N.Y.,N.Y.,1987を参照のこと)。無傷免疫グロブリンを分泌することのできる数多くの適切な宿主細胞系統が当該技術分野で開発されてきていることから、現在真核生物細胞が好まれており、これには、CHO細胞系統、さまざまなCos細胞系統、Hela細胞、好ましくは骨髄腫細胞系統又は形質転換されたB細胞又はハイブリドーマが含まれる。これらの細胞のための発現ベクターは、複製起点、プロモータ及びエンハンサーといった発現制御配列(Queen et al.,Immunol.Rev.89;49−68(1986))、及びリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位及び転写ターミネータ配列といった必要な処理情報部位を含むことができる。好ましい発現制御配列は、免疫グロブリン遺伝子、SV40、アデノウイルス、ウシ乳頭腫ウイルス、サイトメガロウイルスなどから誘導されるプロモータである。
【0054】
注目のポリヌクレオチド配列(例えば重鎖及び軽鎖コード配列及び発現制御配列)を含むベクターは、細胞宿主のタイプに応じて異なる周知の方法によって宿主細胞の中に移送され得る。例えば、原核生物細胞のためには一般に塩化カルシウムトランスフェクションが利用され、一方その他の細胞宿主のためには、リン酸カルシウム処理又は電気穿孔法を用いることができる(一般に、Sambrook et al.,分子クローニング:実験室マニュアル(Cold Spring Harbor Press,第2版、1989年)(あらゆる目的のため参考としてその全体が内含されている)を参照のこと)。別々の発現ベクター上で重鎖及び軽鎖がクローニングされた時点で、ベクターは、無傷免疫グロブリンの発現及び組立てを得るため同時トランスフェクションを受ける。
【0055】
ひとたび発現されると、全抗体、その二量体、個々の軽鎖及び重鎖又は本発明のその他の免疫グロブリン形態を、硫酸アンモニウム沈降、アフィニティカラム、カラムクロマトグラフィ、ゲル電気泳動などを含めた当該技術分野の標準的手順に従って精製することができる(一般にScopes,「タンパク質精製」(Springer−Verlag,N.Y.,1982)を参照)。少なくとも約90〜95%の均質性をもつ実質的に純粋な免疫グロブリンが好ましいが、薬学的用途のためには98〜99%又はそれ以上の均質性が最も好ましい。
【0056】
C.ヒト化抗体のフラグメント
本発明のもう1つの実施態様においては、ヒト化抗体のフラグメントが提供されている。標準的には、これらのフラグメントは、少なくとも10−1、より標準的には10又は10−1の親和力でのVLA−4抗原に対する特異的結合を示す。ヒト化抗体フラグメントは、別々の重鎖、軽鎖Fab,Fab′,F(ab′),Fabc及びFvを内含する。フラグメントは組換え型DNA技術又は無傷免疫グロブリンの酵素的又は化学的分離によって産生される。
(II.核酸)
ヒト化抗体及びそのフラグメントは通常核酸の発現により産生される。本出願に記述するヒト化抗体又はそのフラグメントをコードする全ての核酸は、本発明に明示的に内含される。
(III.コンピュータ)
本発明のもう1つの態様においては、モニター上に抗体の3次元画像を表示するようにプログラミングされたコンピュータが提供されている。例えば、UNIX(登録商標)オペレーティングシステムの下で作動し分子モデリングパッケージQUANTA(Polygen Corp,USA)を用いたシリコングラフィックスIRIS 4Dワークステーションが適している。ヒト化抗体の変異体のモデルを視覚化するためにコンピュータが有用である。一般に、本発明の抗体は、すでに満足のいく結合親和力を提供している。しかしながらさらに強い結合親和力をもつ抗体を、或る種のアミノ酸残基のさらなる変化によって同定できる可能性も高い。3次元画像は同様に、抗体の結合親和力に著しい影響を及ぼすことなく保存的置換の対象となりうる数多くの重要でないアミノ酸をも同定する。集合的には、保存的置換でさえ免疫グロブリンの物性に対し著しい効果を及ぼす可能性がある。しかしながら、個々の保存的置換は免疫グロブリンの物性を著しく損わないであろうと考えられる。
(IV.ヒト化抗体テスト)
本発明のヒト化抗体は、さまざまな検定によってテストされる。これらの検定には、VLA−レセプタを支持する細胞に対する抗体の結合の存在又は強度を検出するための単純な結合検定が含まれる。抗体は同様に、VCAM−1リガンドを発現する内皮細胞とVLA−4レセプタを支持する細胞の相互作用を遮断するその能力についてもテストされる。内皮細胞は、培養内で成長され刺激されてもよいし或いは自然に発生する胚組織切片の構成要素であってもよい。上述のYednock et al.及びUSSN 07/871,223を参照のこと。ヒト化抗体は同様に、実験的自己免疫胚脊髄炎(EAE)をもつ実験動物における炎症及びその後の麻痺を予防又は低減させるその能力についてもテストされる。EAEは、ミエリン塩基性タンパク質に特異的なCDT細胞を実験動物に注射するか、又は動物をミエリン塩基性タンパク質で直接免疫化することによって誘発される。このタンパク質は、中枢神経系の中に局在化されており、反応性T細胞は、多発性硬化症における自己免疫応答を刺激する要領でこのタンパク質を含有する鞘の破壊を開始させる。上述のYednock et al.,及び同時係属USSN 07/871,223を参照のこと。
(V.薬学組成物)
本発明は、活性治療薬すなわちヒト化21.6抗体又はその結合フラグメント及びその他のさまざまな構成要素を含む。予防的又は治療的処置のために使用すべき薬学組成物を提供する。好ましい形態は、意図されている投与様式及び治療的利用分野に応じて異なる。組成物は又、望ましい製剤形態に応じて、動物又はヒトに対する投与のための薬学組成物を処方するのに一般に用いられるビヒクルとして定義づけられる薬学的に受容可能な非毒性担体又は希釈剤も内含している可能性がある。希釈剤は、組合せの生物活性に影響を及ぼさないように選択される。
【0057】
このような希釈剤の例は、精製水、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル溶液、デキストロース溶液及びハンクス溶液である。さらに、薬学組成物又は製剤はその他の担体、アジュバント又は非毒性、非治療性、非免疫原性の安定剤なども含んでいてよい。
(VI.診断方法)
ヒト化抗体及びその結合フラグメントは、VLA−4レセプタを支持する細胞の存在を検出するために有用である。胚内でのこのような細胞の存在は、炎症性応答の診断となり、以下に論述する治療方法を開始する必要性を知らせてくれる。診断は、患者から細胞標本をとり出すことによって達成できる。標本の個々の細胞内の発現されたVLA−4抗原の量はこのとき、例えば、固定した細胞の免疫組織学的染色又はヒト化MAb21.6抗体又はその結合フラグメントでの細胞抽出物のウェスタンブロット法によって決定される。
【0058】
診断は、標識付けされたヒト化MAb21.6(又は結合フラグメント)のインビボ投与及びインビボ画像による検定によっても達成できる。投与されるヒト化MAb21.6の濃度は、背景シグナルに比べて標的抗原をもつ細胞に対する結合が検出可能となるように充分なものでなくてはならない。診断試薬は、カメラ画像のためには放射性同位元素で、又磁気共鳴又は電子スピン共鳴画像のためには常磁性同位元素で標識づけすることができる。
【0059】
臨床的に立証された正常レベルの範囲外にある、個体からの画像又は細胞標本内におけるVLA−4タンパク質のレベルの変化(標準的には増大)は、その標本を得た個体内の望ましくない炎症性応答反応の存在を表わし、かつ/又はこのような反応を発生させる(又は進行させる)その個体の疾病素質を表わす可能性がある。VLA−4タンパク質は、或る種の系列及び発達起源の細胞を同定し型別するための分化マーカーとしても利用することができる。このような細胞型特異的検出は、望ましくない免疫応答の組織病理学的診断のために使用することができる。
(VII.治療方法)
本発明は同様に、VLA−4レセプタのα4−依存性相互作用を遮断するヒト化MAb21.6の能力を活用する治療方法をも提供する。内皮細胞上のVCAM−1リガンドとVLA−4レセプタのα4−依存性相互作用は、数多くの炎症性応答、特に中枢神経系の応答における早期事象である。中枢神経系の炎症の結果としてもたらされる望ましくない疾病及び状態としては、卒中及びその他の胚外傷といった急性疾患及び多発性硬化症、胚膜炎及び胚炎といった慢性疾患がある。多発性硬化症は、米国で250000人から350000人の人が患っていると見積られている進行性神経系自己免疫疾患である。多発性硬化症は、或る種の白血球が、神経繊維を覆う絶縁鞘であるミエリンを攻撃しその破壊を開始させる特異的自己免疫反応の結果であると考えられている。多発性硬化症に関する動物モデルにおいて、4−ベーター1インテグリンに対して向けられたマウスモノクローナル抗体が内皮に対する白血球の付着を遮断し、かくして動物内の中枢神経系の炎症及びそれに続く麻痺を防ぐものであることが示されてきた。
【0060】
本発明のヒト化MAb21.6抗体は、動物モデルにおいて有効であることがすでに示されてきたマウス抗体に比べていくつかの長所を提供する:すなわち、(1)ヒト免疫系は、ヒト化抗体のフレームワーク構造又は定常領域を外来性のものと認識するはずがなく、従ってこのような注射された抗体に対する抗体応答は、完全に外来性であるマウス抗体又は部分的に外来性であるキメラ抗体に対してよりも低いはずである。(2)ヒト化抗体のエフェクター部分はヒトのものであることから、これはヒト免疫系のその他の部分とより良く相互作用するかもしれない。(3)注射されたマウス抗体は、正常なヒト抗体の半減期よりもはるかに短かいヒトの循環内での半減期をもつものと報告されてきた(Shaw et al.,J.Immunol.138:4534−4538(1987))。注射されたヒト化抗体は、天然のヒト抗体と基本的に等価の半減期をもち、量及び回数がより少なくてすむ。
【0061】
上述の薬学組成物は、多発性硬化症又はその他の炎症性障害、特に中枢神経系のものの予防的及び/又は治療的処置のために投与することができる。治療的利用分野においては、多発性硬化症といった疾病の疑いのある又はすでにそれを患っている患者に対し、組成物が、疾病の症状及びその合併症を治ゆ又は少なくとも部分的に阻止するのに充分な量で投与される。これを達成するのに適切な量が、治療的又は薬学的に有効な用量と定義づけされる。
【0062】
予防的利用分野においては、薬学組成物は、特定の疾病にかかりやすいか又はその他の形でそのリスクが高い患者に対して、疾病のリスクを削除又は低減するか又はその発症を遅らせるのに充分な量で投与される。このような量は、予防的に有効な用量として定義づけされる。軽快状態にある多発性硬化症を患う患者においては、リスクはNMR画像によって査定でき、場合によっては患者が観察した症候前の兆しによって査定できる。
【0063】
薬学組成物は、非経口投与、局所投与、静脈内投与、経口投与又は皮下投与、エアゾルなどによる筋肉局所投与、又は経皮投与によって、予防的及び/又は治療的処置のために使用されることになる。薬学組成物は、投与方法に応じてさまざまな単位用量形態で投与できる。例えば、経口投与に適した単位用量形態には、粉末、錠剤、丸薬、カプセル及びトローチ剤か含まれる。
【0064】
上述の状態の治療のための本発明の組成物の有効用量は、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態及び投与されるその他の薬を含めた数多くの異なる要因によって左右されることになる。かくして治療用量は、安全性と効力を最適にするべく滴定することが必要になる。これらの組成物は、その他の治療薬に類似した要領ですなわち生理学的に受容可能な担体の中で、獣医学用途及び人間の臨床的用途のために、哺乳動物に投与することができる。一般に、投与用量は、宿主の体重1kgにつき約0.0001〜100mg、より普通には0.01〜0.5mgの範囲となる。
(VIII.その他の用途)
ヒト化抗体は同様に、VLA−4レセプタの親和力精製のためにも有用である。抗体は、固体支持体に不動化され、分散したタンパク質の溶液が、支持体全体に通される。VLA−4は、支持体に結合し、かくしてその他のタンパク質から分離される。この方法によって利用可能になった精製VLA−4又はそのフラグメントは、ワクチン又はさらなる抗体を産生するための免疫原として使用できる。
【0065】
本発明のヒト化抗体は同様に、例えば、ヒト化抗体での動物の免疫化によりイディオタイプ抗体を生成するためにも有用である。VLA−4又はそのフラグメントによりヒト抗体に対する結合が阻害される抗イディオタイプ抗体が選択される。抗イディオタイプ抗体及びVLA−4又はそのフラグメントの両方がヒト化免疫グロブリンに結合することから、抗イディオタイプ抗体はエピトープの「内的イメージ」を表わす可能性があり、かくしてVLA−4レセプタすなわちVCAM−1のリガンドに置換することができる。
【実施例】
【0066】
例1:マウス21.6可変領域のクローニング及び配列決定
マウス抗−VLA抗体21.6については、同時係属出願USSN 07/871,223に記述されてきた。マウス21.6抗体を産生するハイブリドーマ細胞から、全RNAを分離した。キット(Pharmacia Biosystems Limited)を用いて第1ストランドのcDNAを合成した。可変領域についてコードする配列にフランキングする外部配列にハイブリッド形成しかくしてマウス21.6抗体可変領域のための全コーディング配列のクローニングを可能にするように設計されたPCRプライマを用いて、重鎖及び軽鎖可変領域を得た。42のマウスカッパ軽鎖リーダー配列及び55のマウス重鎖リーダー配列のデータベースに基づいて、マウスカッパ軽鎖リーダー配列及びマウス重鎖リーダー配列の5′−末端に対しハイブリッド形成するセンスPCRプライマを設計した(Jones & Bendig,Bio/Technology9:88−89(1991)(あらゆる目的のため全体が参考として内含されている))。これらのプライマは、マウス定常領域(カッパ又はガンマ)の3′−末端にハイブリッド形成するアンチセンスPCRプライマと結びつけて使用された。
【0067】
標準的に10mMのトリス−HCl(pH 8.3)、50mMのKCl、200μMのdNTP、1.5mMのMgCl、1単位のAmpli Taq(Perkin Elmer Cetus)DNAポリメラーゼ、1μlのcDNA鋳型、0.25μMのMKVプライマ及び0.25μMのマウスカッパ軽鎖アンチセンスPCRプライマ(図1)を含む50μlの反応の中で、マウス21.6カッパV領域をPCR増幅させた。マウス21.6V領域は、マウスIgG1重鎖定常領域に特異的なMHVHプライマ及びアンチセンスPCRプライマが使用されたという点を除いて(図2)、上述のとおりにPCR増幅された。5分間94℃での初期融解後に、1分間94℃、1分間55℃、2分間72℃で、25サイクルにわたり、各PCR反応を循回させた。最後のサイクルの完了後に10分間72℃での最終的拡張が続いた。プライマアニーリングと拡張段階の間の傾斜時間は2.5分であった。PCR増幅の後、各反応からの10μlのアリコートを臭化エチジウム染色された1.5%のアガロースゲル上で分析した。
【0068】
「TAクローニングシステム」(Invitrogen Corporation)を用いてPCR産物をクローニングした。適正なサイズのインサートを含むベクターを、2本鎖プラスミドDNAをSequenase(United States Biochemical Corporation)を用いて配列決定した。PCR増幅段階の間に導入されるかもしれないあらゆるエラーを避けるため、各々の可変領域について少なくとも2つの独立してPCR増幅されクローニングされたDNAフラグメントを配列決定した。
【0069】
PCR産物の配列を、その他のマウス軽鎖及び重鎖可変領域と比較した(表1及び2を参照)。この比較は、MKV2及びMKV4プライマからのPCR産物が真正なマウス21.6カッパ可変領域を表わし、MHV1及びMHV2プライマからのものが真正マウスV領域を表わす、ということを示し、これらの産物の配列がマウス21.6抗体可変領域のものであるという結論が下された。マウス21.6のV及びV領域についてコードするcDNAのDNA及びアミノ酸配列は、図1及び2に示されている。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
例2:キメラ21.6抗体の構築
ヒト定常領域にマウス21.6V及びV領域のPCRクローニングされたcDNAを連鎖させることによって、キメラ軽鎖及び重鎖を構築した。特別に設計したPCRプライマを用いてマウスcDNA配列の5′及び3′末端を修正した。リーダー配列の初めについてコードするDNA配列にハイブリッド形成する5′−末端PCRプライマ(表3)を、効率の良い翻訳に不可欠なDNA配列を作成するように(Kozak,J.Mol.Biol.196:947−950(1987))、及び発現ベクターへのクローニングのためのHindIII制限部位を作成するように設計した。J領域の終りについてコードするDNA配列に対しハイブリッド形成する3′末端プライマ(表3)は、定常領域に題するスプライシングに不可欠なDNA配列を作成するように、そして発現ベクター内へのクローニングのためのBamHI部位を作成するように設計した。PCR増幅の産物をHindIII及びBamHIで消化し、pUC19ベクター内にクローニングし、PCR増幅中にいかなるエラーも起こらなかったことを確認するべく配列決定した。適合されたマウス21.6の可変領域を次に、ヒトカッパ又はガンマ−1定常領域のいずれかを含む哺乳動物細胞発現ベクターへとサブクローニングさせた(図3)。
【0073】
【表3】

【0074】
例3:21.6キメラ抗体の発現と分析
キメラ21.6軽鎖及び重鎖に対しコードする2つのプラスミドDNAをCos細胞内に同時トランスフェクションした。2日又は3日後、Cos細胞からの培地をELISAにより、(1)ヒトIgG様抗体の産生について、及び(2)表面上にヒトα4β1インテグリンを発現するL細胞に結合するこのヒト様抗体の能力について、分析した。図4及び12は、精製されたマウス21.6抗体対照と比較した、ヒトα4β1インテグリンに対する結合についてのキメラ21.6抗体の未精製標本及びプロテインAで精製された標本の分析を示している。これらの図は、キメラ21.6抗体が抗原に充分結合したことを示しており、適正なマウス21.6のV及びV領域がクローニングされたことを確認している。
【0075】
例4:マウス21.6可変領域の構造のモデリング
マウス21.6抗体のV及びV領域の分子モデルを構築した。モデルは、UNIX(登録商標)オペレーティングシステムの下で作動するシリコングラフィクスIRIS 4Dワークステーション上で分子モデリングパッケージQUANTA(Polygen Corp.,USA)を用いて構築された。マウス21.6のV領域のFRの構造はヒトベンス−ジョーンズ免疫グロブリンREI(Epp et al.,Biochemistry 14:4943−4952(1975))の解明済みの構造に基づいていた。
【0076】
マウス21.6のV領域のFRの構造は、マウス抗体Gloop2の解明済みの構造に基づいていた。FR内の同一の残基が保持された;同一でない残基は、QUANTA内の機能を用いて置換された。マウス21.6のV領域のCDR1及びCDR2は、それぞれ正準構造グループ2及び1に属するものとして同定された(上述のChothla et al.,)。REIのCDR1及びCDR2は同じ正準グループに属することから、マウス21.6のV領域のCDR1及びCDR2は、REIのCDR1及びCDR2の構造を基にモデリングされた。
【0077】
マウス21.6V領域のCDR3は、V領域のCDR3についての正準構造グループのうちのいずれにも対応しないと思われた。しかしながらデータベースでの探索により、マウス21.6V領域内のCDR3がマウスHyHEL−5V領域内のCDR3と類似していることが明らかになった(Sheriff et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:8075−8079(1987))。
【0078】
かくして、マウス21.6V領域のCDR3はマウスHyHEL−5のV領域内のCDR3の構造を基にモデリングされた。マウス21.6のV領域のCDR1及びCDR2は、それぞれ正準構造グループ1及び2に属するものとして同定された。マウス21.6V領域のCDR1は、V領域のCDR1についての正準グループ1の構成員に密に類似しているGloop2V領域のCDR1を基にモデリングされた。マウス21.6のV領域のCDR2は、同様にV領域のためのCDR2についての正準グループ2の構成員であるマウスHyHEL−5(上述のSheriff et al)のCDR2を基にモデリングされた。V領域のCDR3については、正準構造は全く存在しない。
【0079】
しかしながら、マウス21.6のV領域内のCDR3は、マウスR19.9V領域内のCDR3と類似し(Lascombe et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:607〜611(1989))、マウスR19.9のV領域のCDR3ループの頂端に存在する余分なセリン残基を除去し、アニールし、間隙を洗錬することによって、このCDR3を基にモデリングされた。このモデルは最後に、不利な原子接触を軽減しファンデルワールス及び静電相互作用を最適化するべく、QUANTA内で実行されるとおり、CHARMM電位(Brooks et al.,J.Comp.Chem.4:187−217(1983))を用いて、最も急な下降及び共役勾配エネルギー最小化に付された。
【0080】
マウス21.6可変領域の構造モデルの一覧は、図5に示されている。モデルは、ヒト化21.6抗体可変領域の設計を洗錬する上での補助として用いられた。
【0081】
例5:再構成されたヒト21.6可変領域の設計
(1)フレームワーク構造配列のための相同ヒト抗体の選択
マウス21.6のFRに対する高い率の同一性を示すFRをもつヒト可変領域をアミノ酸配列の比較により同定した。巻末に記載した表4及び表5は、全ての既知のマウス可変領域に対してマウス21.6可変領域を比較し、次に全ての既知のヒト可変領域に対してこれを比較している。マウス21.6のV領域は、上述のKabat et al.,によって定義づけされるように、マウスカッパV領域サブグループ5に属するものとして同定された。マウス21.6カッパV領域と93.4%という高い同一性百分率をもつ個々のマウスカッパV領域が同定された(38C13V′CL及びPC613′CL)。
【0082】
マウス21.6V領域は、上述のKabat et al.,によって定義づけられているようにサブグループ1のヒトカッパV領域に最も類似していた。マウス21.6カッパV領域に対する72.4%という高い同一性をもつ個々のヒトカッパV領域が同定された。最も類似したヒト可変領域REIの1つからのフレームワーク構造領域(FR)は、再構成されたヒト21.6V領域の設計において使用された。
【0083】
上述のKabat et al.,により定義づけされているようなマウスV領域サブグループ2cに属するものとしてマウス21.6V領域が同定された。マウス21.6V領域に対する93.3%という高い同一性をもつ個々のマウス重鎖可変領域が同定された(17.2.25′CL及び87.92.6′CL)。マウス21.6V領域は、上述のKabat et al.により定義づけされる通り、サブグループ1のヒトV領域に最も類似していた。マウス21.6V領域に対し64.7%という同一性をもつ個々のヒトV領域が同定された。再構成されたヒト21.6V領域の設計において、最も類似したヒト可変領域、21/28′CLの1つからのFRを使用した。
(2)フレームワーク構造領域内のアミノ酸の置換
(a)軽鎖
再構成ヒト21.6V領域のための設計プロセスの中の次の段階は、マウス21.6V領域からのCDRをヒトREIからのFRに連結させることであった(上述のPalm et al.,)。再構成ヒト21.6V領域の第1のバージョン(La)においては、ヒトFR内で7個の変更が行なわれた(表4、図6)。
【0084】
FR4中の位置104,105及び107において、RE1からのアミノ酸は、もう1つのヒトカッパ軽鎖からのより標準的なヒトJ領域アミノ酸で置換された(Riechmann et al.,Nature 332:323−327(1988))。
【0085】
FR2の位置45では、REI内に通常存在するリシンは、マウス21.6V領域内のその位置に見られるようにアルギニンに変更された。この位置のアミノ酸残基は、マウス21.6V領域のCDRループを支持する上で重要であると考えられた。
【0086】
FR2の位置49では、通常REI内に存在するチロシンは、マウスV領域内のこの位置に見られるようなヒスチジンに変更された。マウス21.6V領域内のこの位置にあるヒスチジンは、結合部位の中央に位置づけされているものとしてモデル内で観察され、抗体−抗原結合の間に抗原と直接接触できる可能性があった。
【0087】
FR3内の位置58では、REI内に通常存在するバリンは、マウス21.6V領域内のその位置に見出されるようなイソロイシンに変更された。この位置にあるアミノ酸残基は、マウス21.6V領域のCDR2ループを支持する上で重要であると考えられた。
【0088】
FR3の位置69では、REI内に通常存在するトレオニンは、マウス21.6V領域内のその位置で見出されるようにアルギニンに変更された。マウス21.6V領域内のこの位置にあるアルギニンは、マウス21.6V領域のCDR1ループに隣接して位置づけられているものとして観察され、抗体−抗原結合中抗原と直接接触できる可能性があった。
【0089】
REIのFR2内の位置49でいかなる変更もなされなかったという点を除いて上述のものと同じ置換を含む再構成されたヒト21.6V領域の第2のバージョン(Lbと呼ばれる)が設計された(図6)。
(b)重鎖
再構成ヒト21.6V領域のための設計プロセスにおける次のステップは、マウス21.6V領域からのCDRを21/28′CLからのFRに連結させることであった(Dersimonian et al.,J.Immunol.139:2496−2501(1987))。再構成ヒト21.6V領域の第1のバージョン(Ha)においては、ヒトフレームワーク構造領域内で5つの変更がなされた(表5、図7)。ヒトFR内の5つの変更は、位置27,28,29,30及び71においてであった。
【0090】
FR1内の位置27,28,29及び30においては、ヒト21/28′CL内に存在するアミノ酸は、マウス21.6V領域内のこれらの位置で見られるアミノ酸に変更された。これらの位置はFR1内にあるものとして指定されているものの(上述のkabat et al.,)、位置26〜30は、V領域のCDR1ループを形成する構造ループの一部である。従ってこれらの位置にあるアミノ酸が抗原に対する結合に直接関与している確率が高い。実際、位置27〜30は、上述のChothia et al.,により定義づけされているようにV領域のCDR1のための正準構造の一部である。
【0091】
FR3の位置71では、ヒト21/28′CL内に存在するアルギニンは、マウス21.6V領域内のその位置に見られる通りのアラニンに変更された。位置71は、上述のChothia et al.,により定義づけされているようにV領域のCDR2のための正準構造の一部である。マウス21.6可変領域のモデルから、位置71にあるアラニンが、V領域のCDR2ループを支持する上で重要であると思われる。この位置におけるアラニンに代ってのアルギニンの置換が、CDR2ループの配置を分断する確率がきわめて高い。
【0092】
再構成ヒト21.6V領域の第2のバージョン(Hb)は、バージョンHaについて上述した5つの変更に加えてFR2におけるもう1つの変形を含んでいる。
【0093】
FR2内の位置44では、ヒト21/28′CL内に存在するアルギニンは、マウス21.6V領域内の該当する位置に見られるようなグリシンへと変更された。V−V領域のパッキング及びマウス21.6可変領域のモデルについての公表された情報に基づいて、位置44にあるアミノ酸残基がV−V領域のパッキングにおいて重要であるかもしれないということが考えられた(上述のChothia et al.,)(図5)。
【0094】
再構成ヒト21.6V領域バージョンHcは、CDR3ループをヒトVCAM−1にさらに類似して見えるようにするべく設計された。マウス21.6抗体及びヒトVCAM−1の両方共がα4β1インテグリンに結合する。抗体のV領域のCDR3ループは、6つのCDRループのうち最も多様であり、一般に抗体−抗原相互作用における抗体の最も重要な単一の構成要素である(上述のChothia et al.,Hoogenboom & Winter,J.Mol.Biol.227:381−388(1992);Barbas et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:4457−4461(1992))。
【0095】
マウス21.6V領域のCDR3とヒトVCAM−1のアミノ酸86〜94の間、特にCDR3ループ内のYGN(チロシン−グリシン−アスパラギン)配列とVCAM−1内のFGN(フェニルアラニン−グリシン−アスパラギン)配列の間で、幾分かの配列類似性が同定された。これらの配列は、さまざまな細胞付着事象において重要であるRGD(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)配列に関係するものと考えられる(Main et al.,Cell 71;671−678(1992))。
【0096】
従って、CDR3の位置98において、マウス21.6V領域内に存在するチロシンは、ヒトVCAM−1の配列中に発見されるようなフェニルアラニンへと変更された。
FR2内の位置36において可能な置換も考慮された。マウス21.6VH鎖は、FR2内の位置36に普通でないシステイン残基を含んでいる。FR2内のこの位置は、関連するマウス及びヒト配列内では、通常トリプトファンである(表5)。システイン残基は往々にして抗体のコンホメーションにとって重要であるものの、マウス21.6可変領域のモデルは、このシステイン残基が直接的又は間接的に抗原結合に関与していることを示さず、従って、ヒト化21.6抗体の3つのバージョン全てにおいて、ヒト21/28′CLV領域のFR2内に存在するトリプトファンは未置換のままに残された。
【0097】
例6:再構成ヒト21.6抗体の構築
再構成ヒト21.6V領域の第1のバージョン(resh21.6VLa)は、本質的にDaugherty et al.,Nucleic Acids Res.19:2471〜2476(1991)により記述されているように重複するPCRフラグメントから構築された(図8参照)。例2に記述されたとおりに適合されpUC19に挿入されたマウス21.6V領域が、鋳型として用いられた。4対のプライマ、すなわちAPCR1−vla1,vla2−vla3,vla4−vla5及びvla6−vla7が合成された(表6及び図8)。隣接する対は、少なくとも21塩基だけ重複した。APCR1プライマはpUC19ベクターに相補的である。10mMのトリス−HCl(pH 8.3)、50mMのKCl、200μMのdNTP及び1.5mMのMgClを含む50μlのPCR緩衝液中の1単位のAmpli Taq DNAポリメラーゼ(Perkin Elmer Cetus)及び10ngの鋳型DNAと、適当なプライマ対(0.2μmoles)を組み合わせた。
【0098】
各々の反応は、25サイクル行なった。5分間94°での最初の融解後、反応を1分間94℃、1分間55℃、そして2分間72℃で循回させ、最後にさらに10分間72℃でインキュベートさせた。プライマアニーリングと拡張段階の間の傾斜時間は2.5分であった。第1ラウンドのPCR反応からの4つの反応(A,B,C、及びD)の産物をフェノールで抽出し、エタノールで沈降させた。
【0099】
【表4】

【0100】
【表5】

【0101】
PCR産物A及びB、及びC及びDを第2ラウンドのPCR反応において連結させた。アニーリング温度が60℃まで上昇させられたという点を除いて、上述のとおりに、PCR産物A及びB及びC及びD(各々50ng)を50μlのPCR反応に付加し20サイクルを通して増幅させた。これらの反応の産物をE及びFと呼ぶ。使用されたPCRプライマの対は、それぞれAPCR1−vla3及びvla4−vla7であった。PCR産物E及びFをフェノールで抽出し、エタノールで沈降させ、次に第3ラウンドのPCR反応において、末端プライマとしてAPCR1及びvla7を用いて上述のものに類似した2段階PCR反応でそれ自体の相補性によって組み立てた。リーダー配列を含む完全に再形成されたヒト21.6V領域を表わす充分に組立てられたフラグメントをHindIII及びBamHIで消化させ、配列決定のためpUC19内へクローニングさせた。適正な配列をもつクローンがresh21.6VLaと呼称された。
【0102】
Kamman et al.,Nucl.Acids Res.17:5404(1989)の方法により、再構成ヒト21.6V領域の第1のバージョン(La)内でわずかな修正を加えるためにPCRプライマを用いて、再構成ヒト21.6V領域の第2のバージョン(Lb)を構築した。2組のプライマを合成した(表6)。各々のPCR反応は、本質的に上述のものと同じ条件下で実施された。第1のPCR反応においては、StyI部位(Thr−ACC−97〜Thr−ACA−97)を破壊するため突然変異誘発プライマ21.6VLb2を用い、resh21.6VLa2を生成した。次に、第2のPCR反応においては、鋳型DNAとしてのpUC−resh21.6VLa2と共に突然変異誘発性プライマ21.6VLb1(His−49〜Tyr−49)を使用した。PCR産物をStyI及びBamHIでカットし、同じ制限酵素で分割した状態で、pUC−resh21.6VLa2内にサブクローニングした。適正な配列をもつクローンがpUC−resh21.6VLbと呼称された。
再構成ヒト21.6V領域のバージョン「a」は、再構成ヒト21.6V領域のバージョン「a」の構築について記述されているものと同じPCR方法を用いて構築された(表6及び図9)。再構成ヒト425V領域のバージョン「g」(上述のKettleborough et al.,)及び再構成ヒトAUK12−20V領域のバージョン「b」についてコードするHindIII−BamHIDNAフラグメントを、それぞれpUC−resh425g及びpUC−reshAUK12−20bを生成するpUC19ベクターにサブクローニングさせた(AUK12−20のバージョン「b」は上述のKettleborough et al.,によって記述されたフラグメントVHa425のPCR突然変異により誘導され、アミノ酸配列(配列番号:41)をコードする:すなわち
【0103】
【表6】

【0104】
(スペースがFRとCDR領域を分離している))。
【0105】
プラスミドpUC−resh425g及びpUC−reshAUK12−20bならびに、キメラ21.6重鎖(pUC−chim21.6VH)の構築において使用するため修正されたとおりのマウス21.6V領域を含むpUCベクターを、次に続くPCR反応において、鋳型DNAとして使用した。再構成ヒト21.6V領域のバージョン「a」の構成のため、PCRプライマを設計し合成した(表6)。DNA鋳型としてpUC−reshAUK12−20bを又PCRプライマ対としてAPCR1−vha1用いて、PCR産物A(図9)を得た。DNA鋳型としてpUC−chim21.6VHを又PCRプライマ対としてvha2−vha3及びvha6−APCR4を用いて、PCR産物B及びDを得た。最終的に、DNA鋳型としてpUC−resh425gを又PCRプライマ対としてvla4−vla5を用いて、PCR産物Cを得た。DNA配列決定のためのHindIII−BamHIフラグメントとしてpUC19へと、最終PCR産物をサブクローニングした。適正なDNA配列をもつクローンが、pUC−resh21.6VHaと呼称された。再構成21.6可変領域の第1のバージョンのDNA及びアミノ酸配列は、図10に示されている。
【0106】
再構成ヒト21.6V領域の残りのバージョンは、本質的に、再構成ヒト21.6V領域のバージョン「b」の構築について上述した通りに構築された。2組のプライマが合成された(表6)。第2(Hb)及び第3(Hc)のバージョンについては、それぞれ突然変異誘発性プライマ21.6VHb(Arg−44〜Gly−44)及び21.6VHc(Tyr−98〜Phe−98)がそれぞれ、鋳型DNAとしてのpUC−resh21.6VHaと共にPCR反応の中で使用された。PCR産物VHb及びVHcは、制限酵素で切断され、それぞれMscI−BamHI及びPstI−BamHIフラグメントとしてpUCベクターpUC−resh21.6VHaへとサブクローニングされ、pUC−resh21.6VHb及びpUC−resh21.6VHcを生成した。
【0107】
再構成ヒト21.6V領域(Ha)の第1のバージョンは、再構成ヒト21.6V領域(La)の第1のバージョンの構築のために用いられたものと類似の要領で構築された。しかしながらこの場合、PCRプライマが、3つの異なる鋳型DNAすなわち、キメラ21.6重鎖の発現のためにすでに適合されたマウス21.6V領域、ヒト化425V領域バージョン「g」(上述のKettleborough et al.)及びヒト化AUK12−20バージョン「b」V領域(表6、図9)と共に用いられた。ヒト化21.6重鎖可変領域の第1のバージョンのDNA及びアミノ酸配列は図11に示されている。ヒト化21.6V領域の第2及び第3のバージョン(Hb及びHc)は、ヒト化21.6V領域の第1のバージョン(Ha)内でわずかな修正を加えるべくPCRプライマを用いて構築された(前述の表6)。
【0108】
例7:ヒト化抗体の発現及び分析
1.発現ベクター内の定常領域に対する可変領域の連鎖
キメラ及び再構成21.6V及びV領域についてコードするDNAフラグメントを、哺乳動物細胞内でヒトカッパ軽鎖又はヒトガンマ−1重鎖のいずれかを発現するように設計されたHCMVベクターへとサブクローニングさせた(図3及びMaeda et al.,Hum.Antibod.Hybridomas2:124−134(1991)を参照のこと)。両方のベクターは共に免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖の高レベル転写のためのヒトサイトメガロウイルス(HCMV)プロモータ及びエンハンサーを含んでいる。軽鎖発現ベクターは、上述のMaeda et al.,に記述されているものと全く同じであり、ヒトカッパ定常領域についてコードするゲノミックDNAを含有する(Rabbitts et al.,Curr.Top.Microbiol.Immunol.113:166−171 (1984))。重鎖発現ベクターは本質的に上述のMaeda et al.,に記述されている通りであるが、ヒトガンマ−1定常領域についてコードするゲノミックDNAはcDNAで置換された。ヒトガンマ−1定常領域についてコードするcDNAを、PCRによりヒトガンマ−1抗体を分泌したヒト細胞系統からクローニングした。発現ベクターへのサブクローニングを適切なものとするため、cDNAの各末端にBamHI部位を作成した。
【0109】
さらに、cDNA配列の5′末端で、スプライス受容体部位及び65bp介在配列を生成した。ヒトガンマ−1cDNAスプライス受容体部位及び介在配列を含むBamHIフラグメント(1176bp)を、既存の重鎖ベクターの中でBamHIフラグメント(約2.0kb)と置換させた(上述のMaeda et al.,)。その後、ヒトガンマ−1定常領域の3′−側までのBamHI部位をクレノウポリメラーゼで除去した。
【0110】
2.発現ベクターのトランスフェクション
Gene Pulser装置(BioRad)を用いて電気穿孔法によりCos細胞内に発現ベクターを導入した。PBS中の1×10細胞/mlの0.8mlのアリコートに対しDNA(各ベクター10μgずつ)を付加した。1900ボルト、25μFのキャパシタンスでパルスを送り出した。大気温で10分の回復期間の後、5%の熱不活性化されたガンマグロブリンを含まないウシ胎児血清を含有する8mlのDMEM(GIBCO)に、電気穿孔を受けた細胞を付加した。72時間のインキュベーションの後、培地を収集し、遠心分離して細胞細片を除去し、短期間の場合は4℃で又長期間の場合は−20℃で無菌条件下で保存した。
【0111】
3.ヒト化抗体の精製
Cos細胞トランスフェクションからの上清をプールし、不動化したプロテインA上で精製した(Immuno Pure IgG精製キット、Pierce)。上清を0.22μmのフィルターを通してのろ過によって殺菌した。同量のImmuno Pure IgG結合緩衝液(pH 8.0)と混合した後、1mlのプロテインAカラムに対して希釈した標本を加え、完全にゲル内へ流れ込ませた。15mlのImmuno Pure IgG結合緩衝液で洗浄した後、5mlのImmuno Pure IgG溶出緩衝液(pH 2.8)で結合した抗体を溶出させ、1mlの分画を収集した。第1及び第2の分画のpHは約8.0であった。第3の分画のpHを、Immuno Pure結合緩衝液100μlを添加することによって生理的pHに調整させた。その後、各分画内に存在するヒトIgG抗体の量を決定するためELISAにより、プロテインAで精製された抗体を含む5つの1ml分画を検定した。ヤギアルカリ性リン酸接合抗ヒトIgG(全分子、Sigma)を用いて、抗体を検出した。
【0112】
4.結合親和力の測定
α4β1インテグリンに対する再構成ヒト21.6抗体の結合を、マウス及びキメラ抗体と比較してELISAによって検定した。簡単に言うと、細胞表面上でα4β1インテグリンを発現するべく形質転換されたL細胞を平板固定し、96ウェルの組織培養プレート内にて集密性に至るまで成長させた。テストすべき標本(粗製上清又はプロテインAで精製されたもの)を連続希釈し、各ウェルに添加した。1時間氷上でインキュベートし非常に穏やかに洗浄した後、ヤギ抗マウス又は抗−ヒト(ガンマ鎖特異的)ペルオキシダーゼ接合体(Sigma)を添加した。さらに氷上で1時間インキュベートし非常に穏やかに洗浄した後、基質(o−フェニレンジアミンジヒドロクロリド、シグマ)を添加した。
【0113】
室温で30分間インキュベートした後、1MのHSOを添加することによって反応を停止させ、A490を測定した。再構成ヒト21.6重鎖のバージョンHaと組合せた形で再構成ヒト21.6軽鎖の2つのバージョン(La及びLb)の粗製上清を分析した結果、再構成ヒト21.6V領域のLaバージョンがバージョンLbよりもわずかに優れた抗原に対する結合を提供することがわかった。従ってその後の実験では、Laバージョンが用いられた。
【0114】
ヒト化21.6軽鎖のバージョンLaと組合わせた形でのヒト化21.6重鎖(Ha及びHb)の粗製上清の分析の結果、再構成ヒトV領域の2つのバージョン(Ha及びHb)の間には著しい差が全くないことがわかった。バージョンHaは、ヒトHbにおける6つの変更と比べてヒトFR内に5つしか変更を含んでいないことから、さらなる実験で使用するべく選択された。
【0115】
図12は、キメラ21.6抗体と、ヒト化21.6抗体(La+Ha)の結合を比較している。データは、再構成ヒト21.6抗体(La+Ha)が、キメラ21.6抗体と同じ位、そして恐らくはそれよりもわずかに良く、抗原に結合したということを表わしている。キメラ21.6抗体は、無傷のマウス21.6可変領域を含んでいることから、その抗原結合特性においてマウス21.6抗体と等価であると予想される。再構成ヒト21.6抗体(La+Ha)は同様に、もとのマウス21.6抗体及びキメラ抗体に比較できる効率でヒトα4β1インテグリンに対する結合を遮断することが示されてきた。
【0116】
従って、再構成ヒト21.6抗体(La+Ha)がマウス抗体のものと本質的に等しい特異的結合親和力を有するという結論が下される。さらに、ヒト可変領域内のマウス21.6抗体の抗原結合部位を再度作成するのにヒトFR内のわずかな修正しか必要でなかったことから、再構成ヒト21.6抗体は、真正のヒト抗体のように挙動すると予測される。
再構成ヒト21.6VL領域のバージョンLaと再構成ヒト21.6VH領域のバージョンHcを含有する再構成ヒト21.6抗体は同様に、キメラ21.6抗体と並行して表面上でヒトα4β1インテグリンを発現するL細胞に対する結合についてもテストされた。結果は、再構成ヒト21.6抗体(La+Hc)が抗原に対しうまく結合することを示している。V領域のCDR3内の変性は、抗原に対する結合を損なわなかった。実際、CDR3内の変性が抗原に対する結合をわずかに改善したかもしれないという兆候が幾分か存在している(図12)。この改善は、機能的遮断検定においてさらに顕著であるかもしれないということが考えられる。
【0117】
例8:Mu21.6抗体の特性の遮断
L25と呼ばれるαインテグリンに対するもう1つの抗体と、Mu21.6を比較した。L25はBecton Dickinsonから市販されており、文献中でαβインテグリン付着機能の優れた阻害物質であることが報告されている。図13(図版A)に示されているように、Mu21.6及びL25は両方共、Mn+2の不在下での精製されたVCAM−1に対するヒト単球細胞のα4β1インテグリン依存性付着を完全に阻害した。しかしながら、Mn+2(1mM)(α4β1インテグリンのいくつかの活性化物質の1つ)の存在下では、L25はもはや有効な阻害物質ではなかった。α4β1インテグリンがその他の刺激によって活性化された時にも、類似の結果が観察された。活性化されたα4β1インテグリンを遮断する能力は、多発性硬化性といった炎症性疾患を治療する上で貴重であると思われる。
【0118】
mu21.6とL25の間のさらなる比較として、増大する量のVCAM−1に対するヒトT細胞付着を阻害する抗体の能力を決定した。この実験では、増大する量のVCAM−1が96ウェルの検定プレートのプラスチックプレート上にコーティングされ、ヒトT細胞系統ジャーカット(これは高レベルのαβインテグリンを発現する)のコーティングされたウェルに対する結合能力が測定された。Y軸上の値は、ウェルを4回洗浄した後結合した状態にとどまった各ウェルに当初添加されたジャーカット細胞の百分率を表わしている(図13(図版B))。
【0119】
この実験は、低レベルのVCAM−1と遭遇したときL25は細胞付着の優れた阻害物質であるが、より高いVCAM−1レベルでは完全に効力を失う、ということを立証している。一方Mu21.6は、存在するVCAM−1の量の如何にかかわらず、細胞付着を完全に阻害する。高いVCAM−1濃度での遮断能力は、炎症部位におけるVCAM−1のアップレギュレーションのため、治療的利用分野にとっては望ましいものである。
【0120】
例9:動物モデルにおけるヒト化21.6抗体の効力
この例は、ヒトの多発性硬化症をシミュレートする動物モデルにおけるEAEの予防的及び治療的処置におけるヒト化21.6抗体の効力を立証している。
(a)方法
(1)EAEの誘発
CO麻酔により安楽死させた5匹のモルモットの各々から脳と脊髄を取り出した。組織は、秤量してPBS1mlにつき1グラムの組織という濃度で均質化されるまで、氷上でPBS内に保っておいた。電動式ハンディタイプのホモジナイザーを用いて組織を完全に均質化させ、その後同量のフロイント完全アジュバント(FCA)と混合した。10mlのフロイント不完全アジュバント(Sigma,F−5506)に対し100mgのmycobacterium tuberculosis H37RA(DIFCO,3114−33−8)を添加することによりFCAを作った。2方ストップコックによって連結された2本の注射器の間に溶液を通過させることによってマヨネーズのコンシステンシーになるまで混合物を乳化させた。各々のモルモットを、3つの投与部位の間で分割した600μlのエマルジョンで免疫化した。
【0121】
(2)病気の症状についての動物の評点
病気の症状は各動物を歩くよう促し、次のような一般的に受入れられている基準により動物に1つの評点を割り当てることによって査定した:
0 病気無し
1 後脚衰弱
2 後脚完全麻痺
3 後脚完全麻痺及び前脚部分的麻痺
4 瀕死又は死亡
(3)血清及び組織の収集
メトキシフルランで麻酔したモルモットから、心臓穿刺により標本を収集した。約300〜400μlの血液を収集し、マイクロティナー血清分離器の中に入れて、室温で20〜30分間凝固させた。次に室温で5分間、管を回転させた。エッペンドルフ管の中に血清を引き出し、螢光活性化セルソーティング(FACS)により抗体力価をひき続き分析するため−20℃で保存した。
【0122】
血液学的分析のため、血液をエチレンジアミン四酢酸でコーティングされたマイクロティナー管の中に収集した。アクリジンでコーティングしたヘマトクリット管の中に100μlのアリコートを吸引した。管にフタをし、15分間管を穏やかに逆転させることにより、アクリジンオレンジと血液を混合した。ヘマトクリット管内にフロートを入れ、5分間標本を遠心分離した。定量軟膜分析用に設計された、予め較正済みのIdexx QBc Vet自動読取り装置の中に、ヘマトクリット管を入れた。ウマ較正システム下で値を読み取り、予め定められた換算率を用いて、モルモット当量に調整した。
【0123】
実験の終りで、CO麻酔によりモルモットを屠殺し、脳と脊髄を取り出した。
全てのモルモットからの脳及び脊髄の半分を、ドライアイス上の2メチルブタン内で急速凍結させた(−20〜−40℃)。この組織を切断し、色原体としてのジアミノベンチジン及びアピジン連鎖ペルオキシダーゼ検定(Vector Laboratories,Inc.,Burlingame,CA)を用いてパンマクロファージマーカー(Serotec MCA−518)及びT−リンパ球マーカー(Serotec MCA−751)で免疫染色した。以下の評点システムに従って、細胞浸潤について組織を評点した:0 浸潤細胞無し。
0.5 染色はほとんどない。人工的であるかもしれない。通常は血管と結びついている。
1 通常は血管の近くにある、わずかな細胞(15個未満)の染色。
2 通常は1本の血管から外へ放射している多くの細胞(20〜50)の染色。
3 組織全体を通して散乱した多くの細胞(>50)の染色。カフのついた(cu ffed)多くの血管。
(b)予防的処置
この実験は、臨床的症状の開始を遅らせる上でのヒト化21.6抗体の効力を評価するように設計された。前のデータにより、EAEモルモットの脳及び脊髄の中への白血球の内向きフラックスが標準的に7日目と8日目の間で始まるということが立証された。マウスとヒト化21.6抗体を比較するため、抗体各々を等しい用量(3.0,0.30及び0.03mg/kg)で投与した。予備薬物速度論研究により、マウス21.6抗体の飽和血液レベルが皮下投与から24時間以内に達成され、最高48時間高い状態にとどまるということが明らかになった。
【0124】
11日目に、抗体の第2の用量から24時間後に、各グループ内の無作為に選択した3匹の動物から血液標本を採取した。各々の処置グループについて、各々のモルモットが1の臨床的評点に達する日数の平均を計算した(表7)。この実験におけるPBS処置されたグループの平均値は、免疫化の11日後であった(これは前の結果に典型的なものである)。ヒト化抗体及びマウス抗体の最高用量での処置は、それぞれ4.6日(p=0.000)及び3日(p=0.007)の著しい疾病遅延という結果をもたらした。抗体のさらに低い用量では、疾病の経過に対する効果は全くなかった。
【0125】
【表7】

【0126】
モルモットの日々の体重は、ヒト化及びマウス抗体の高い用量の類似した効果を反映していた(図14)。これらの処置グループ内の動物は、着実に体重を増やしていった。その他の全ての処置グループ内のモルモットは、病気の発症の日の直前から体重を減らし始めた。
【0127】
11日目に、2回目の処置からおよそ24時間後に心臓穿刺により各グループから無作為に選択した3匹の動物において、抗体の血清力価を測定した。ヒト化抗体及びマウス抗体の両方の最高用量が注射された全ての動物の循環中に約20μg/mlの血清抗体が存在していた。この濃度は、インビトロでVLA−4部位を飽和させるのに必要とされる21.6抗体の濃度と同じ規模のものである。これとは対照的に、その他全てのグループからの動物は、検出可能な血清抗体をほとんど乃至は全く有していなかった。
(c)進行中の病気の逆転
約60匹のモルモットを免疫化し、EAEの臨床的症状を発生させた。13日目に、1という臨床的評点に達した全てのモルモットを無作為に処置グループに割当てた。図15は、3mg/kgのヒト化抗体での処置を受けた動物が、処置から48時間以内に後脚機能を回復し始めたことを示している。第2の用量から1日後及び2日後である17日目及び18日目で、8匹の動物全てが病気から治癒していた。各々の処置グループについての曲線値の下の部域のANOVAは、3mg/kgのヒト化抗体で処置されたグループの値のみがPBS対照グループ(p=0.042)よりも統計的に低いものであることを明らかにした。これらの動物は、19日目に実験が終了するまで、第1回の投与後24時間以内で漸進的に体重を増やしていった(図16)。
【0128】
最初の注射(14日目)から24時間後と屠殺時点(19日目)で採取された試料についてのFACS分析によって抗体血清力価を測定した。
【0129】
マウス21.6抗体での処置は、ヒト化21.6抗体での処置に比べわずかに低い血清抗体力価を結果としてもたらした(9.1対12.6μg/ml)。この差は、2回目の投与から3日目後である19日目にはさらに大きくなり、この時点で、19日目のヒト化抗体のレベルは飽和以下まで低下したもののなおも測定可能であった(6.1μg/ml)のに対し、検出可能な血清マウス抗体はきわめてわずかしかなかった。これらのデータは、抗体の血漿レベルと生理学的効力の間の相関関係を実証しており、有効な循環する抗体のレベルがモルモットにおいて10〜20μg/mlの範囲内にあることを示唆している。
【0130】
脳及び脊髄内への白血球の浸潤を、9日目に屠殺した動物からの組織内で評価した。表8は、抗体処置の関数として浸潤度の有意な差を示している。脳及び脊髄内へのT細胞の浸潤及び脊髄内へのマクロファージの浸潤は、3mg/kgでの処置後に有意なものであった。それ以下の用量は浸潤を低下させる傾向をもっていたが、有意性に達しはしなかった。いかなる用量においても、脊髄内へのマクロファージの細胞浸潤物には有意な差は全くなかった。マクロファージを評価するために使用された免疫組織化学技術は、常在性細胞と侵入細胞を識別しないことから、マクロファージに対する効果の欠如は、常在性マクロファージ及び小グリア細胞の持続的存在を表わしていると思われる。
【0131】
病気の定着後の抗体投与による脳組織内のT細胞及び単球の減少は、細胞の移動が累積的プロセスでなく、CNS組織内外への細胞の動的運動であることを示唆している。重要なことに、データは、実質組織内への白血球の進入の中断により、CNSが侵入する病的要素から脱却できることになるということを示唆している。
【0132】
【表8】

【0133】
血液学データは、マウス又はヒト化21.6抗体での処置が全白血球計数値、単核細胞及び顆粒球の数又は赤血球計数値の差を全くもたらさないことを明らかにした。高用量のマウス又はヒト化抗体は、PBS処置された動物に比較して血小板計数値の著しい増大を結果としてもたらした(表9)。正常なモルモットでは、血小板計数値は755±103細胞/mlで、これはPBS処置されたEAE動物のものの約2倍である。かくして、病気を有効に逆転させたマウス及びヒト化抗体の用量での処置は、血小板計数値をも正常まで回復させた。
【0134】
【表9】

【0135】
結論としては、ヒト化及びマウス21.6抗体は両方共、ヒトにおける多発性硬化症をシミュレートする動物モデルにおいて、臨床的症状を遅延及び逆転させるのに有効である。ヒト化抗体は、症状を逆転させる上で同用量のマウス抗体よりもさらに有効である。
【0136】
上述の発明は、理解を明確にするため詳細に記述されてきたが、添付クレームの範囲内でいくつかの修正を加えることもできるということは明白である。以上に引用した全ての刊行物及び特許文書は、その各々が個別に示された場合と同じレベルで全ての目的のためにその全体が参考として本書に内含されるものである。
【0137】
【表10】

【0138】
【表11】

【0139】
【表12】

【0140】
【表13】

【0141】
【表14】

【0142】
【表15】

【0143】
凡例:(Kabat)上述のKabat et al.,に従った番号付け;(#)分子モデリング内で使用されている通りの通し番号,(マウス21.6)マウス21.6抗体からのV領域のアミノ酸配列;(マウスカッパ5)サブグループ5からのマウスカッパV領域のコンセンサス配列(上述のKabat et al.,);(ヒトカッパ1)サブグループ1からのヒトV領域のコンセンサス配列(上述のKabat et al.);(ヒトREI)ヒトV領域のアミノ酸配列(上述のPalm et al.(1975));(RH V21.6)再成形ヒト21.6V領域のバージョンL1のアミノ酸配列;()CDRループのための正準構造の1部である残基(上述のChothia et al.);(下線部分)アミノ酸残基が変更されたヒトFR内の残基。
【0144】
【表16】

【0145】
【表17】

【0146】
【表18】

【0147】
【表19】

【0148】
【表20】

【0149】
【表21】

【0150】
凡例:(Kabat)上述のKabat et al.,に従った番号付け;(#)分子モデリング内で使用されている通りの通し番号;(マウス21.6)マウス21.6抗体からのV領域のアミノ酸配列;(マウス2c)サブグループ2cからのマウスV領域のコンセンサス配列(上述のKabat et al.,);(ヒト21/28′CL)ヒトV領域のアミノ酸配列(上述のDersimonian et al.(1987));(RH V 21.6)再構成ヒト21.6V領域のバージョンH1のアミノ酸配列;() CDRループのための正準構造の一部である残基(上述のChotha et al.);(下線部分)アミノ酸残基が変更されたヒトFR内の残基。
【産業上の利用可能性】
【0151】
VLA−4リガンドに対して特異的に結合するヒト化免疫グロブリンが提供される。このヒト化免疫グロブリンは、多発性硬化症の治療のために特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1−1】マウス21.6軽鎖可変領域のDNA(配列番号1)及びアミノ酸(配列番号2)配列を示す図である。
【図1−2】マウス21.6軽鎖可変領域のDNA(配列番号1)及びアミノ酸(配列番号2)配列を示す図である。
【図2−1】マウス21.6重鎖可変領域のDNA(配列番号3)及びアミノ酸(配列番号4)配列を示す図である。
【図2−2】マウス21.6重鎖可変領域のDNA(配列番号3)及びアミノ酸(配列番号4)配列を示す図である。
【図3】、哺乳動物細胞内でヒトカッパ軽鎖及びヒトガンマ−1重鎖を伴うキメラ及び再構成ヒト抗体を産生するために使用される軽鎖(A)及び重鎖(B)発現ベクターを示す図である。
【図4】表面上でヒトα4β1インテグリンを発現するL細胞に結合するキメラ及びマウス21.6抗体のELISA比較を示す図である。
【図5】マウス21.6抗体の可変領域の分子モデルを示す図である。特に有利な残基が標識付けされている。
【図6】マウス及び再構成ヒト21.6(配列番号5)軽鎖可変領域のアミノ酸配列の比較を示す図である。CDRループ構造のためのChothia正準配列の一部であるアミノ酸残基は星印でマークされている。REI(配列番号6)は、ヒトREI軽鎖のV領域からのFR及びCDRを示す。La(配列番号7)及びLb(配列番号8)は、再構成されたヒト21.6V領域の2つのバージョンである。REI配列内のものとは異なるLaのFR内の残基には下線がほどこされている。Lb内では、REIのものと異なるフレームワーク構造領域内の残基のみが示されている。
【図7】マウス及び再構成ヒト21.6(配列番号9)重鎖可変領域のアミノ酸配列の比較を示す図である。Chothia CDRループ構造のための正準配列の一部であるアミノ酸残基には星印がついている。2*CL(配列番号10)は、ヒト21/28′CL抗体のVH領域からのFR及びCDRを示す。Ha(配列番号11)、Hb(配列番号12)及びHc(配列番号13)は、再構成ヒト21.6V領域の3つのバージョンである。21/28′CL配列内のものと異なるHaのFR内の残基には下線が施されている。Hb及びHcにおいては、21/28′CLのものとは異なるフレームワーク構造領域内の残基のみが示されている。
【図8】再構成ヒト21.6軽鎖可変領域のバージョン「a」のPCRに基づく構築を示す図である。破線は、プライマの間の少なくとも21個の塩基の相補的配列を表わす。
【図9】再構成ヒト21.6重鎖可変領域のバージョン「a」のPCRに基づく構築を示す図である。
【図10−1】再構成ヒト21.6軽鎖可変領域の第1のバージョン(「a」)のcDNA及びアミノ酸配列(配列番号:14及び15)を示す図である。
【図10−2】再構成ヒト21.6軽鎖可変領域の第1のバージョン(「a」)のcDNA及びアミノ酸配列(配列番号:14及び15)を示す図である。
【図11−1】再構成ヒト21.6重鎖可変領域の第1のバージョン(「a」)のDNA及びアミノ酸配列(配列番号16及び17)を示す図である。
【図11−2】再構成ヒト21.6重鎖可変領域の第1のバージョン(「a」)のDNA及びアミノ酸配列(配列番号16及び17)を示す図である。
【図12】表面上でヒトα4β1インテグリンを発現するL細胞に結合するキメラ及び再構成ヒト21.6抗体のELISA比較を示す図である。
【図13】異なる抗−VLA−4抗体L25とマウス21.6抗体の比較を示す図である。図版Aは、Mn2+の存在下及び不在下での精製されたVCA−1に対するU937単球細胞の結合を遮断する抗体の能力を比較している。図版Bは、増大する濃度のVCAM−1に対するジャーカット細胞の結合を遮断する抗体の能力を比較する。
【図14】マウス又はヒト21.6抗体で治療された動物における体重喪失の遅延を示す図である。
【図15】マウス又はヒト21.6抗体での治療を受けた動物における臨床的症状の逆転を示す図である。
【図16】マウス又はヒト21.6抗体での治療を受けた動物における体重喪失の逆転を示す図である。(配列表)
【0153】
【数1−1】

【0154】
【数1−2】

【0155】
【数1−3】

【0156】
【数1−4】

【0157】
【数1−5】

【0158】
【数1−6】

【0159】
【数1−7】

【0160】
【数1−8】

【0161】
【数1−9】

【0162】
【数1−10】

【0163】
【数1−11】

【0164】
【数1−12】

【0165】
【数1−13】

【0166】
【数1−14】

【0167】
【数1−15】

【0168】
【数1−16】

【0169】
【数1−17】

【0170】
【数1−18】

【0171】
【数1−19】

【0172】
【数1−20】

【0173】
【数1−21】

【0174】
【数1−22】

【0175】
【数1−23】

【0176】
【数1−24】

【0177】
【数1−25】

【0178】
【数1−26】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト化重鎖及びヒト化軽鎖を含むヒト化免疫グロブリンにおいて、
(1)ヒト化軽鎖は、配列番号2で示されるマウス21.6免疫グロブリン軽鎖可変ドメインの対応する相補性決定領域からのアミノ酸配列をもつ3つの相補性決定領域(CDR1,CDR2及びCDR3)、及びヒトカッパ軽鎖可変領域フレームワーク構造配列からの可変領域フレームワーク構造であって、L45,L49,L58及びL69(Kbatの番号付け規則による)から成る第1のグループの中から選ばれた少なくとも1つの位置が、マウス21.6免疫グロブリン軽鎖可変領域フレームワーク構造の等価の位置に存在するのと同じアミノ酸残基によって占有されている、可変領域フレームワーク構造を含み、
(2)ヒト化重鎖は、配列番号4で示されるマウス21.6免疫グロブリン重鎖可変ドメインの対応する相補性決定領域からのアミノ酸配列をもつ3つの相補性決定領域(CDR1,CDR2及びCDR3)、及びヒト重鎖可変領域フレームワーク構造配列からの可変領域フレームワーク構造であって、H27,H28,H29,H30,H44,H71(Kbatの番号付け規則による)から成る第2のグループの中から選択された少なくとも1つの位置が、マウス21.6免疫グロブリン重鎖可変領域フレームワーク構造の等価の位置に存在するのと同じアミノ酸によって占有されている、可変領域フレームワーク構造を含み;
ここで、該ヒト化免疫グロブリンは、約10・M−1の下限をもつ結合親和力でα4インテグリンに対して特異的に結合し、ここで、該21.6免疫グロブリンは、配列番号2で示される可変ドメインをもつ軽鎖、および配列番号4で示される可変ドメインをもつIgG1重鎖を有する、ヒト化免疫グロブリン。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−45237(P2006−45237A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228930(P2005−228930)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【分割の表示】特願平7−519770の分割
【原出願日】平成7年1月25日(1995.1.25)
【出願人】(399013971)エラン ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド (75)
【Fターム(参考)】