白血球分類計数方法及び白血球分類計数試薬キット
【課題】簡便に高精度で幼若白血球や異常白血球等の異常細胞を分類計数すると同時に、正常白血球の分類計数を行うことができる方法を提供する。
【解決手段】 血液試料を溶血剤及び下記一般式(I)で表される色素化合物と混合して測定用試料を調製する工程、測定用試料をフローサイトメータで測定し、1つの散乱光と1つの蛍光を測定する工程、測定した散乱光と蛍光の強度差を用いて正常な白血球を5つに分類計数する工程、を具備する。
【解決手段】 血液試料を溶血剤及び下記一般式(I)で表される色素化合物と混合して測定用試料を調製する工程、測定用試料をフローサイトメータで測定し、1つの散乱光と1つの蛍光を測定する工程、測定した散乱光と蛍光の強度差を用いて正常な白血球を5つに分類計数する工程、を具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフローサイトメトリーによる白血球の分類計数方法及び分類計数試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査の分野においては、白血球の分類計数を行うことにより、疾患の診断を行う上で極めて有用な情報を得ることができる。例えば、通常、正常な末梢血液中の白血球には、リンパ球、単球、好中球、好酸球、好塩基球の5つの正常白血球が一定の比率で存在する。疾患の存在により、これらの白血球の比率は変動することがあり、これらの正常白血球を分類計数する事により各白血球の比率を測定することは疾患の存在についての情報を得るうえで有用である。
【0003】
また、一方、疾患によっては、これらの正常白血球以外に、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球などの幼若顆粒球、赤芽球、などの通常骨髄内に存在し末梢血には存在しない幼若白血球や幼若赤血球が末梢血中に出現することがある。さらに、リンパ芽球、異形リンパ球、異常リンパ球等の異常白血球が出現することもある。これらの細胞の出現を検出、さらに、分類計数する事も疾患の診断において極めて有用である。
【0004】
従来、白血球分類を行うには、血液の塗抹標本を作製し、適当な染色を施した後に顕微鏡で観察しながら分類計数するのが一般的であった。一方、近年、フローサイトメータの原理を応用した種々の全自動白血球分類計数装置が提供されている。しかしながら、これらの装置は、正常な白血球を高精度に分類することはできるが、上述の幼若白血球などの異常細胞の分類計数を、正常白血球を分類計数するのと同時に行う事はできなかった。
【0005】
例えば、RF/DC測定原理を用いて幼若白血球の出現を高精度に検出する試薬および方法が提供されている(特許文献1)。特許文献1記載の方法は、特定の条件下では正常白血球よりも幼若白血球の方が破壊されにくいという性質を利用して電気的に測定を行うものである。また、散乱光情報によって測定できることも示唆されている。しかし、この方法は幼若白血球の検出のみを目的としており、幼若白血球の検出においては優れた性能を有するが、幼若白血球の測定と同時に正常白血球を分類計数することはできない。正常な白血球を分類計数するには別途、他の方法で行う必要がある。
【0006】
また、これとは別に蛍光測定原理を用いて白血球を4分類すると同時に種々の幼若白血球を分類計数する方法が提供されている(特許文献2)。この方法は、正常白血球を同時に4分類しかできず、好塩基球を測定するためには別途、他の方法で行う必要がある。また、複数の蛍光信号を測定する必要があり装置が複雑で高価になるという問題もある。
【0007】
さらに、白血球を5分類すると同時に種々の幼若白血球を分類計数する方法が提供されている(特許文献3)。この方法では、白血球の5分類を行うために複雑な検出器が必要であり、また、2つの蛍光情報が必要であり、装置が大型で高価になるという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平6−273413号公報
【特許文献2】特開平6−207942号公報
【特許文献3】特開平5−34251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、簡便に高精度で幼若白血球や異常白血球等の異常細胞を分類計数すると同時に、正常白血球の分類計数ならびに、白血球計数を行うことができる方法及びこの方法に用いる試薬キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、
1) 血液試料を、
血液試料中の赤血球を測定の障害とならない程度に溶解し、正常または異常細胞を染色に好適な状態にする溶血剤と、
下記一般式(I)で表される細胞中のRNAに特異的に結合し蛍光強度の増加する色素化合物と、
混合することにより血液試料中の有核細胞を蛍光染色して、測定用試料を調製する工程、
【化3】
(式中、R1及びR4は、水素原子又はアルキル基を表し、かつ、いずれか一方が炭素数6〜18のアルキル基であり、他方が水素原子又は炭素数6未満のアルキル基であり;R2及びR3は水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基又はエトキシ基であり;Zは硫黄、酸素又はメチル基を有する炭素であり;nは0,1又は2であり;X-はアニオンである。)
2) 前記1)で調製した測定用試料をフローサイトメータで測定し、少なくとも1つの散乱光と、少なくとも1つの蛍光を測定する工程、および
3)前記2)で測定した散乱光と蛍光の強度差を用いて正常な白血球を少なくとも5つに分類計数する工程、
を具備することを特徴とする白血球分類計数方法に関するものである。
【0011】
本発明でいう血液試料とは、末梢血液、骨髄液、尿、アフェレーシスで採取した血液試料など、白血球を含む体液試料をいう。
【0012】
異常細胞とは、通常骨髄中に存在し、末梢血液には存在しない幼若細胞、例えば、骨髄芽球(Blast)、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球などの幼若顆粒球(IG)等の幼若白血球、さらには異形リンパ球(A−Lymph) 、リンパ芽球(L−Blast)、異常好中球(Ab−Neut)等の異常白血球、および赤芽球(NRBC)等の通常末梢血に存在しない細胞をいう。
【0013】
本発明でいう、血液試料中の赤血球を測定の障害とならない程度に溶解し、正常または異常細胞を染色に好適な状態にする溶血剤と混合する工程とは、血液試料を適当な溶血剤と混合する工程である。本工程の目的は、測定対象とする白血球細胞の細胞膜に少なくとも色素化合物が透過するのに十分な細孔をあけるだけである。この目的に使用する溶血剤は、少なくとも一つのカチオン性界面活性剤、少なくとも一つのノニオン性界面活性剤、pHを一定に保つための緩衝剤を含むpH4.5−11.0、好ましくはpH5.0−10.0の水溶液である。
【0014】
カチオン性界面活性剤としては、4級アンモニウム塩型界面活性剤又はピリジニウム塩型界面活性剤が好ましい。4級アンモニウム塩型およびピリジニウム塩型界面活性剤は、
【化4】
〔R1は炭素数6〜18のアルキル又はアルケニル基、R2およびR3は炭素数1〜4のアルキル又はアルケニル基、R4は炭素数1〜4のアルキルおよびアルケニル基又はベンジル基、Xはハロゲン原子である。〕
で表される全炭素数9〜30の界面活性剤が挙げられる。R1の炭素数6〜18のアルキル又はアルケニル基としてはへキシル、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル等を挙げることができるが、とりわけオクチル、デシル、ドデシル等の直鎖のアルキル基が好ましい。また、R2およびR3の炭素数1〜4のアルキル、アルケニル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル等を挙げることができるが、とりわけ、メチル、エチル、プロピル等の炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。さらに、R4の炭素数1〜4のアルキルおよびアルケニル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル等を挙げることができるが、とりわけ、メチル、エチル、プロピル等の炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。
【0015】
ノニオン性界面活性剤としては以下の式のポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤が好ましい。すなわち、一般式
R1−R2−(CH2CH2O)n−H
〔式中、R1は炭素数8〜25のアルキル、アルケニル又はアルキニル基;R2はO、
【化5】
またはCOO;nは10〜50の整数を表す。〕
で表されるポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤を用いるのが、好ましい。
【0016】
溶血剤の組成は特に限定されるものではないが、例えば、特開平6−207942号公報又は特開平7−181177号公報に記載の溶血剤が好適に使用できる。
【0017】
さらに、溶血剤中に、分子内に少なくとも1つの芳香環を有する有機酸もしくはその塩を含有することは、好ましいことである。これは、白血球の散乱光強度分布を、分類により好適なように調整しうるためである。有機酸もしくはその塩としては、安息香酸、フタル酸、馬尿酸、サリチル酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸もしくはその塩などが好適に使用できる。これらの有機酸を含有することにより、特に好酸球の散乱光強度が増加し、結果として、好中球と好酸球の分離が改善される。例えば、実質的に側方散乱光のみを用いて白血球の4分画が可能となる。
【0018】
溶血剤のpHは4.5−11.0、好ましくは5.0−10.0であり、pHを一定に保つために、例えば、クエン酸塩、HEPES、リン酸塩などの緩衝剤を含む。なお、前述の酸が緩衝剤として作用する場合には、緩衝剤は必ずしも必要な成分ではない。pHが低すぎる場合、好酸球、好塩基球の分離が悪くなり、正常白血球を5分画しにくくなる。しかしながら、正常白血球を3分画(リンパ球、単球、顆粒球)並びに幼若白血球、異常白血球を分類計数する事は可能である。一方、pHが高すぎる場合は白血球が損傷を受けやすくなる傾向が生じる。
【0019】
細胞中のRNAに特異的に結合し蛍光強度の増加する色素化合物としては、RNAの存在しない環境では蛍光強度が低く、RNAと結合することによって蛍光強度の増加する色素化合物が使用できる。本発明においては、このような色素化合物として、以下の一般式(I)で表される色素化合物を用いる。
【化6】
(式中、R1及びR4は、水素原子又はアルキル基を表し、かつ、いずれか一方が炭素数6〜18のアルキル基であり、他方が水素原子又は炭素数6未満のアルキル基であり;R2及びR3は水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基又はエトキシ基であり;Zは硫黄、酸素又はメチル基を有する炭素であり;nは0,1又は2であり;X-はアニオンである。)
【0020】
大部分の幼若白血球や異常白血球等の異常細胞は、正常な白血球に比べ、RNAを豊富に含有する。これは、例えば幼若白血球では、成熟途中の細胞であるために、細胞成熟に伴う種々の生産活動(タンパク質合成等)をおこなっており、そのためにRNAが豊富に存在すると考えられる。そして、上記色素化合物は、RNAと結合することにより、著しく蛍光強度の増加する性質を有する。さらに予期せぬことに、これらの色素化合物を使用することにより、好塩基球を同時に分類することが可能となった。
【0021】
本発明で使用する色素化合物は、DNAとの結合の影響を少なくし、RNAに対する特異性を高めたものである。すなわち、DNAとの親和性(特異性)の低い色素化合物を用いている。そして、このため、一般式(I)中、R1あるいはR4のいずれか一方が長鎖の(炭素数6〜18の)アルキル基であり、他方が水素原子又は炭素数6未満のアルキル基となっている。DNAに対して特異性を有する場合、RNAからの蛍光信号に、DNAからの蛍光信号が重畳され、正常白血球と幼若白血球、異常白血球との間の蛍光強度差が小さくなり、好ましくない。
【0022】
本発明で用いる色素化合物の作用機序は明確ではないが、長鎖アルキル基(炭素数6〜18アルキル基)を分子構造内に有するために細胞核膜を透過できない、あるいは、立体障害のためにDNA分子への結合が阻害されるため、DNAに起因する蛍光増加が少なく、よりRNA主体の蛍光を測定できるという利点があると考えられる。これによって、幼若白血球や異常白血球等の異常細胞と正常白血球の分離が著しく改善されるのである。
【0023】
長鎖アルキル基(炭素数6〜18アルキル基)の鎖長(炭素数)は長いほどDNAに起因する蛍光強度増加が抑制され、RNA特異性が高まるが、一方、分子が疎水性になる傾向があり、水に難溶となって、使用不可能ではないが、取り扱いにくくなる。これらの点を勘案すると、R1もしくはR4のアルキル基の炭素数が6、8、10の色素化合物が特に好適である。
【0024】
R2およびR3は、水素原子、メチル基、メトキシ基、エチル基又はエトキシ基である。
【0025】
X-として好適なアニオンにはF-、Cl-、Br-、I-等のハロゲンイオン、又はCF3SO3-若しくは、BF4-などを含む。
【0026】
Zとしては、硫黄原子、酸素原子、又はメチル基で置換されている炭素原子が用いられる。
【0027】
色素化合物の濃度は使用する色素化合物により異なるが、一般に0.001−1000ppm、好ましくは0.01−100ppm、さらに好ましくは0.1−10ppmである。この濃度は、溶血剤と色素化合物とを混合した状態での濃度である。本発明においては、血液試料を溶血剤と混合した後に色素化合物を混合して測定用試料を調製してもよいし、予め溶血剤と色素化合物とを混合した後に、血液試料と混合して測定用試料を調製してもよい。いずれの場合においても、濃度は溶血剤と色素化合物とを混合した状態でのものである。したがって、色素化合物を含む染色液と溶血剤を別々にして組み合わせた試薬キットの場合でも、色素化合物を含む染色液と溶血剤とを混合した状態での濃度である。本発明で用いる色素化合物を含む染色液は、エチレングリコール、メタノール、DMSOなどの水溶性有機溶媒に、色素化合物を溶解して得られる。
【0028】
調製した測定用試料をフローサイトメータで測定し、少なくとも1つの散乱光と、少なくとも1つの蛍光を測定する。
【0029】
本発明でいう散乱光とは、一般に市販されるフローサイトメータで測定できる散乱光であり、側方散乱光、前方低角散乱光(受光角度0〜5度付近)、前方高角散乱光(5〜20度付近)等をいい、白血球の大きさもしくは内部構造情報を反映する散乱角度が選ばれる。このうち側方散乱光がもっとも好適である。
【0030】
また、散乱光を1つ以上使用することにより、より分類精度をあげることができる。特に、前方低角散乱光を使用すると、細胞の大きさに関する情報が得られるため、例えば、Hairy Cell Leukemia 等の大きさのみが変わって、RNA量の増加しない異常球の検出にも本発明を用いることができ、有用である。また、前方高角散乱光を使用した場合、前方低角散乱光と側方散乱光の中間の情報が得られる。つまり、細胞の大きさ情報と細胞の内部構造情報の両方を含む情報が得られる。
【0031】
蛍光は、本発明で使用する色素化合物がRNA,DNA等の細胞成分と結合して発せられるもので、使用する色素化合物によって好適な受光波長が選択される。
【0032】
フローサイトメータの光源は、特に限定されず、色素化合物の励起に好適な波長の光源が選ばれる。例えば、アルゴンイオンレーザ、He−Neレーザ、赤色半導体レーザ、水銀アークランプなどが使用される。特に半導体レーザは気体レーザに比べ非常に安価かつ小型であり、装置コストを大幅に下げることができ、さらに小型化できるため、好適である。
【0033】
「測定した散乱光と蛍光の強度差を用いて正常な白血球を少なくとも5つに分類計数する工程」とは、(1)例えばX軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラム(2次元分布図)を描いた場合、例えば、図1に示すように、各白血球細胞は各細胞毎に集団を形成する;そして(2)この集団を、適当な解析ソフトで解析することにより、各白血球細胞の数と割合を算出する、工程をいう。例えば、各細胞集団を囲むウインドウを設け、その中の細胞数を算出することにより、各白血球細胞の数と割合を算出することができる。
【0034】
本発明に係る方法を用いると、正常な白血球を少なくとも5つに分類計数できるのみでなく、異常細胞の分類計数を同時に行うことができる。本発明に係る方法で分類計数するのに適した異常細胞は、正常細胞よりもRNA量の増加した細胞であり、例えば幼若顆粒球、骨髄芽球、赤芽球及び異形リンパ球から選択される1つ以上である。
【0035】
本発明はさらに、測定用試料を調製するための試薬キットを提供する。この試薬キットは、1) 血液試料を、血液試料中の赤血球を測定の障害とならない程度に溶解し、正常または異常細胞を染色に好適な状態にする溶血剤、及び2)上記一般式(I)で表されるRNAに特異的に結合し蛍光強度の増加する色素化合物を少なくとも1つ含む染色液の組み合わせからなる。試薬キットに用いられる溶血剤の具体例は、前述したとおり、少なくとも一つのカチオン性界面活性剤、少なくとも一つのノニオン性界面活性剤、pHを一定に保つための緩衝剤を含むpH4.5−11.0、好ましくはpH5.0−10.0の水溶液である。また、染色液の具体例も、前述したとおり、一般式(I)で表される色素化合物を、エチレングリコール、メタノール、DMSOなどの水溶性有機溶媒に溶解したものである。
【0036】
この試薬キットを用いて測定用試料を調製する方法としては、血液試料に溶血剤を混合した後、染色液を混合して調製してもよいし、溶血剤と染色液を混合した混合液を、血液試料に混合して調製してもよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明に係る白血球分類計数方法によれば、血液試料を溶血剤と混合し、同時に又はその後、一般式(I)で表される色素化合物と混合することにより血液試料中の有核細胞を蛍光染色し、フローサイトメータにより少なくとも1つの散乱光と少なくとも1つの蛍光を測定するだけで簡便に高精度で幼若白血球や異常白血球の異常細胞を分類計数すると同時に、正常白血球の分類計数ならびに白血球計数を行うことができる。
【実施例】
【0038】
本発明を以下の実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明には種々の変更、修飾が可能であり、本発明の範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、添付の各図において、以下の略号はそれぞれ次の物を意味する。
Lymph:リンパ球 Eo:好酸球
Mono:単球 Baso:好塩基球
Neut:好中球 WBC:白血球
IG:幼若顆粒球 Blast:骨髄芽球
NRBC:赤芽球 A−Lymph:異形白血球
【0039】
[色素化合物Aの合成]
色素化合物A(R1=メチル,R2=R3=H,R4=n−オクチル,n=1,Z=S,X-=CF3SO3-)を以下のようにして製造した。
3−メチル−2−メチルベンゾチアゾリウムメタンサルフェート1当量と、N, N−ジフェニルホルムアミジン3当量を酢酸中で、90℃の油浴上で1.5時間加熱撹拌した。反応液をヘキサンにあけ、赤色油状物をさらにヘキサンで懸濁洗浄し、酢酸を除いた。粗生成物を酢酸エチルーヘキサンで再結晶した(収率48%)。これに1−オクチルレピジニウムトリフレート1当量とピリジンを加え、90℃の油浴上で3 時間加熱撹拌した。反応液を濃縮し、残った青色粗製物をフラッシュクロマトグラフィーにてメタノール−クロロホルムで精製した(収率62%)。
【0040】
以上のようにして色素化合物Aよりなる粉末が得られ、これは濃暗青色であった。また、この色素化合物Aの特性は、以下のとおりであった。
TLC(シリカゲル、10%メタノール- 塩化メチレン):Rf=0.5
1H−NMR(CDCl3)δppm(TMS):0.88(t,3H) 1.28(bR,10H) 1.64(s,2H) 1.82(bR,2H) 3.60(s,3H) 4.23(t,2H) 6.35(d,1H) 6.82〜7.26(m,2H) 7.39〜7.90(m,6H) 8.10〜8.26(dd,2H)
IR(cm-1):1625,1560,1540,1520,1480,1460,1410,1400,1310,1260,1210,1150,1130,740,640
MASS(FABpositive)m/z=429
TLC95.7%(10%メタノール−塩化メチレン)
極大吸収スペクトル629nm(メタノール)
【0041】
[色素化合物Bの合成]
色素化合物B(R1=ヘキシル,R2=R3=H,R4=メチル,n=1,Z=S,X-=CF3SO3-)を以下のようにして製造した。
3−へキシル−2−メチルベンゾチアゾリウムトリフレート1当量と、N, N−ジフェニルホルムアミジン4当量を酢酸中で、90℃の油浴上で10時間加熱撹拌した。反応液を濃縮し、残った粗製物をフラッシュクロマトグラフィーにてヘキサン−酢酸エチルで精製した(収率27%)。これにヨウ化1−メチルレピジニウム1.3当量とピリジンを加え、90℃の油浴上で3時間加熱撹拌した。反応液を濃縮し、残った青色粗製物をフラッシュクロマトグラフィーにてメタノール−クロロホルムで精製した(収率75%)。
【0042】
以上のようにして色素化合物Bよりなる粉末が得られ、これは濃暗青色であった。また、この色素化合物Bの特性は、以下のとおりであった。
TLC(シリカゲル、10%メタノール- 塩化メチレン):Rf=0.5
1H−NMR(CDCl3)δppm(TMS):0.90(t,3H) 1.17〜1.81(m,12H) 4.12(s,3H) 6.50(m,1H) 6.96〜8.26(m,10H)
IR(cm-1):1620,1560,1530,1510,1480,1460,1410,1380,1310,1250,1210,1150,1100,750,640
MASS(FABpositive)m/z=401
TLC93.0%(10%メタノール−塩化メチレン)
極大吸収スペクトル629nm(メタノール)
【0043】
実施例1
溶血剤と色素化合物Aを含む溶液を、以下のとおり準備した。
HEPES 10mM 市販品
フタル酸2Na 20mM 市販品
BC30TX(ポリオキシエチレン(30)セチルエーテル)
1500ppm 日光ケミカルズ
ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド 550ppm 市販品
色素化合物A 0.5ppm
NaOHでpHを7.0に調整
上記溶液1.0mlに抗凝固剤処理した健常人の血液(検体No.1)30μlを加え、35℃で40秒間反応させて、測定用試料を調製した。
【0044】
フローサイトメータ(FCM)で、この測定用試料について、側方散乱光、前方低角散乱光、蛍光を測定した。光源は633nmの赤色半導体レーザを使用した。蛍光は660nm以上の波長の蛍光(赤蛍光)を測定した。
【0045】
図1にX軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを示す。図2にX軸に前方低角散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを示す。白血球はリンパ球、単球、好中球、好酸球、好塩基球の5つの集団に分かれる。各々の集団にウインドウを設けウィンドウ内の細胞数の計数、細胞比率の算出を行う。
【0046】
図5〜9に従来法(東亞医用電子SE−9000)と本法(図1)との白血球分類の相関図を示す。図10に従来法(東亞医用電子SE−9000)と本法(図1)との白血球数の相関図を示す。いずれの項目も、従来法と良好な相関がある。
【0047】
ここで、従来法の測定は以下の測定試薬を用い、操作はSE−9000で全自動で行った。
・白血球数:セルパック−3D(II)TM(東亞医用電子)とストマトライザ−EO(II)TM(東亞医用電子)の1:1混合物に血液を加えて測定した。
・リンパ球及び単球:セルパック−3D(II)TM(東亞医用電子)により溶血後、ストマトライザ−3D(II)TM(東亞医用電子)を添加して測定した。
・好酸球:ストマトライザ−EO(II)TM(東亞医用電子)を使用して測定した。
・好塩基球:ストマトライザ−BA(II)TM(東亞医用電子)を使用して測定した。
・好中球:(白血球数) −{(リンパ球数) +(単球数) +(好酸球) +(好塩基数) }により求めた。
【0048】
なお、参考までに図3に、X軸に側方散乱光、Y軸に前方低角散乱光をとったスキャッタグラムを、図4に側方散乱光強度のヒストグラムを示す。白血球はリンパ球、単球、好中球、好酸球の4つの集団に分かれる。
【0049】
実施例2
血液試料として、以下の検体を用いた他は、実施例1と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。
(i)幼若顆粒球(後骨髄球、骨髄球)の出現した検体(検体No.2)については、図11に示したスキャッタグラムを得た。図11では4.0%と計数された。この検体を従来法(目視)で計数すると、4.5%であった。
(ii)骨髄芽球の出現した検体(検体No.3)については、図12に示したスキャッタグラムを得た。図12では85.1%と計数された。この検体を従来法(目視)で計数すると、81.5%であった。
(iii )赤芽球の出現した検体(検体No.4)については、図13に示したスキャッタグラムを得た。図13では21.5%と計数された。この検体を従来法(目視)で計数すると、25%であった。
(iv)異形リンパ球と幼若顆粒球の出現した検体(検体No.5)については、図14に示したスキャッタグラムを得た。図14で、異形リンパ球は1.89%、幼若顆粒球は2.17%と計数された。この検体を従来法(目視)で計数すると、異形リンパ球は2.0%、幼若顆粒球は2.0%であった。
【0050】
実施例2に係る方法によれば、いずれの幼若顆粒球、異常白血球も正常白血球と明確に分離され分類計数する事ができる。なお、前記した従来法は、塗抹標本をメイーグリュンワルドーギムザ染色法で二重染色し、白血球を顕微鏡(倍率:x1000)で200個分類計数したものである。
【0051】
実施例3
血液試料として、正常検体(検体No.6)を用いた他は、実施例1と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。これを、図17に示した。
【0052】
実施例4
血液試料として、幼若顆粒球の出現した検体(検体No.7)を用いた他は、実施例1と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。これを、図18に示した。
【0053】
実施例5
溶血剤と色素化合物Bを含む溶液を、以下のとおり準備した。
HEPES 10mM 市販品
フタル酸2Na 20mM 市販品
BC30TX(ポリオキシエチレン(30)セチルエーテル)
1500ppm 日光ケミカルズ
ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド 550ppm 市販品
色素化合物B 0.3ppm
NaOHでpHを7.0に調整
上記溶液1.0mlに抗凝固剤処理した正常検体(実施例3で使用した検体No.6)30μlを加え、35℃で40秒間反応させて、測定用試料を調製した。そして、実施例1と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。これを、図19に示した。
【0054】
実施例6
血液試料として、幼若顆粒球の出現した検体(実施例4で使用した検体No.7)を用いた他は、実施例5と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。これを、図20に示した。
【0055】
比較例1
溶血剤と色素化合物Bを含む溶液を、以下のとおり準備した。
HEPES 10mM 市販品
フタル酸2Na 20mM 市販品
BC30TX(ポリオキシエチレン(30)セチルエーテル)
1500ppm 日光ケミカルズ
ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド 550ppm 市販品
DQTCI(色素化合物) 0.1ppm Lambda Physik 社
NaOHでpHを7.0に調整
ここで、DQTCIとは、上記一般式(I)において、R1=R4=エチル,R2=R3=H,n=1,Z=S,X-=I-である色素化合物である。
上記溶液1.0mlに抗凝固剤処理した正常検体(実施例3で使用した検体No.6)30μlを加え、35℃で40秒間反応させて、測定用試料を調製した。そして、実施例1と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。これを、図15に示した。
【0056】
比較例2
血液試料として、幼若顆粒球の出現した検体(実施例4で使用した検体No.7)を用いた他は、比較例1と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。これを、図16に示した。
【0057】
実施例3〜6と比較例1及び2の結果を示した図15〜図20から明らかなように、色素化合物として、一般式(I)のR1及びR4の両方がエチル基であるものを用いた場合(比較例1及び2の場合)には、正常好中球と幼若顆粒球の弁別は困難であるが、R1及びR4のいずれか一方に炭素数が6及び8のアルキル基を導入し、他方にメチル基を導入した色素化合物A又はBを用いた場合(実施例3〜6の場合)には、正常好中球と幼若顆粒球は明確に弁別できる。
【0058】
実施例7
溶血剤と色素化合物Aを含む溶液として、フタル酸2Naに代えてクエン酸を用い、血液試料として正常検体(検体No.8)を用いる他は、実施例1と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。これを、図21に示した。
【0059】
実施例8
溶血剤と色素化合物Aを含む溶液として、フタル酸2Naに代えてフタル酸を用い、血液試料として正常検体(実施例8で使用した検体No.8)を用いる他は、実施例1と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。これを、図22に示した。
【0060】
実施例7及び8の結果を示した図21及び図22から明らかなように、酸類として、分子構造中に芳香環を有する有機酸であるフタル酸を使用した場合(実施例8の場合)、芳香環を有しない有機酸であるクエン酸を使用した場合(実施例7の場合)に比べて、好中球と好酸球の分離が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1に係る方法で得られた側方散乱−赤蛍光スキャッタグラムである。
【図2】実施例1に係る方法で得られた前方低角散乱−赤蛍光スキャッタグラムである。
【図3】実施例1に係る方法で得られた側方散乱−前方低角散乱スキャッタグラムである。
【図4】実施例1に係る方法で得られた側方散乱ヒストグラムである。
【図5】従来法(東亞医用電子SE−9000)と実施例1に係る分類計数法によるリンパ球比率の相関図である。
【図6】従来法(東亞医用電子SE−9000)と実施例1に係る分類計数法による単球比率の相関図である。
【図7】従来法(東亞医用電子SE−9000)と実施例1に係る分類計数法による好中球比率の相関図である。
【図8】従来法(東亞医用電子SE−9000)と実施例1に係る分類計数法による好酸球比率の相関図である。
【図9】従来法(東亞医用電子SE−9000)と実施例1に係る分類計数法による好塩基球比率の相関図である。
【図10】従来法(東亞医用電子SE−9000)と実施例1に係る分類計数法による白血球数の相関図である。
【図11】幼若顆粒球(後骨髄球、骨髄球)の出現した検体(検体No.2)について、実施例2に係る方法で得られた側方散乱−赤蛍光スキャッタグラムである。
【図12】骨髄芽球の出現した検体(検体No.3)について、実施例2に係る方法で得られた側方散乱−赤蛍光スキャッタグラムである。
【図13】赤芽球の出現した検体(検体No.4)について、実施例2に係る方法で得られた側方散乱−赤蛍光スキャッタグラムである。
【図14】異形リンパ球と幼若顆粒球の出現した検体(検体No.5)について、実施例2に係る方法で得られた側方散乱−赤蛍光スキャッタグラムである。
【図15】比較例1に係る方法で得られた側方散乱−蛍光スキャッタグラムである。
【図16】比較例2に係る方法で得られた側方散乱−蛍光スキャッタグラムである。
【図17】実施例3に係る方法で得られた側方散乱−蛍光スキャッタグラムである。
【図18】実施例4に係る方法で得られた側方散乱−蛍光スキャッタグラムである。
【図19】実施例5に係る方法で得られた側方散乱−蛍光スキャッタグラムである。
【図20】実施例6に係る方法で得られた側方散乱−蛍光スキャッタグラムである。
【図21】実施例7に係る方法で得られた側方散乱−蛍光スキャッタグラムである。
【図22】実施例8に係る方法で得られた側方散乱−蛍光スキャッタグラムである。
【技術分野】
【0001】
本発明はフローサイトメトリーによる白血球の分類計数方法及び分類計数試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査の分野においては、白血球の分類計数を行うことにより、疾患の診断を行う上で極めて有用な情報を得ることができる。例えば、通常、正常な末梢血液中の白血球には、リンパ球、単球、好中球、好酸球、好塩基球の5つの正常白血球が一定の比率で存在する。疾患の存在により、これらの白血球の比率は変動することがあり、これらの正常白血球を分類計数する事により各白血球の比率を測定することは疾患の存在についての情報を得るうえで有用である。
【0003】
また、一方、疾患によっては、これらの正常白血球以外に、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球などの幼若顆粒球、赤芽球、などの通常骨髄内に存在し末梢血には存在しない幼若白血球や幼若赤血球が末梢血中に出現することがある。さらに、リンパ芽球、異形リンパ球、異常リンパ球等の異常白血球が出現することもある。これらの細胞の出現を検出、さらに、分類計数する事も疾患の診断において極めて有用である。
【0004】
従来、白血球分類を行うには、血液の塗抹標本を作製し、適当な染色を施した後に顕微鏡で観察しながら分類計数するのが一般的であった。一方、近年、フローサイトメータの原理を応用した種々の全自動白血球分類計数装置が提供されている。しかしながら、これらの装置は、正常な白血球を高精度に分類することはできるが、上述の幼若白血球などの異常細胞の分類計数を、正常白血球を分類計数するのと同時に行う事はできなかった。
【0005】
例えば、RF/DC測定原理を用いて幼若白血球の出現を高精度に検出する試薬および方法が提供されている(特許文献1)。特許文献1記載の方法は、特定の条件下では正常白血球よりも幼若白血球の方が破壊されにくいという性質を利用して電気的に測定を行うものである。また、散乱光情報によって測定できることも示唆されている。しかし、この方法は幼若白血球の検出のみを目的としており、幼若白血球の検出においては優れた性能を有するが、幼若白血球の測定と同時に正常白血球を分類計数することはできない。正常な白血球を分類計数するには別途、他の方法で行う必要がある。
【0006】
また、これとは別に蛍光測定原理を用いて白血球を4分類すると同時に種々の幼若白血球を分類計数する方法が提供されている(特許文献2)。この方法は、正常白血球を同時に4分類しかできず、好塩基球を測定するためには別途、他の方法で行う必要がある。また、複数の蛍光信号を測定する必要があり装置が複雑で高価になるという問題もある。
【0007】
さらに、白血球を5分類すると同時に種々の幼若白血球を分類計数する方法が提供されている(特許文献3)。この方法では、白血球の5分類を行うために複雑な検出器が必要であり、また、2つの蛍光情報が必要であり、装置が大型で高価になるという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平6−273413号公報
【特許文献2】特開平6−207942号公報
【特許文献3】特開平5−34251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、簡便に高精度で幼若白血球や異常白血球等の異常細胞を分類計数すると同時に、正常白血球の分類計数ならびに、白血球計数を行うことができる方法及びこの方法に用いる試薬キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、
1) 血液試料を、
血液試料中の赤血球を測定の障害とならない程度に溶解し、正常または異常細胞を染色に好適な状態にする溶血剤と、
下記一般式(I)で表される細胞中のRNAに特異的に結合し蛍光強度の増加する色素化合物と、
混合することにより血液試料中の有核細胞を蛍光染色して、測定用試料を調製する工程、
【化3】
(式中、R1及びR4は、水素原子又はアルキル基を表し、かつ、いずれか一方が炭素数6〜18のアルキル基であり、他方が水素原子又は炭素数6未満のアルキル基であり;R2及びR3は水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基又はエトキシ基であり;Zは硫黄、酸素又はメチル基を有する炭素であり;nは0,1又は2であり;X-はアニオンである。)
2) 前記1)で調製した測定用試料をフローサイトメータで測定し、少なくとも1つの散乱光と、少なくとも1つの蛍光を測定する工程、および
3)前記2)で測定した散乱光と蛍光の強度差を用いて正常な白血球を少なくとも5つに分類計数する工程、
を具備することを特徴とする白血球分類計数方法に関するものである。
【0011】
本発明でいう血液試料とは、末梢血液、骨髄液、尿、アフェレーシスで採取した血液試料など、白血球を含む体液試料をいう。
【0012】
異常細胞とは、通常骨髄中に存在し、末梢血液には存在しない幼若細胞、例えば、骨髄芽球(Blast)、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球などの幼若顆粒球(IG)等の幼若白血球、さらには異形リンパ球(A−Lymph) 、リンパ芽球(L−Blast)、異常好中球(Ab−Neut)等の異常白血球、および赤芽球(NRBC)等の通常末梢血に存在しない細胞をいう。
【0013】
本発明でいう、血液試料中の赤血球を測定の障害とならない程度に溶解し、正常または異常細胞を染色に好適な状態にする溶血剤と混合する工程とは、血液試料を適当な溶血剤と混合する工程である。本工程の目的は、測定対象とする白血球細胞の細胞膜に少なくとも色素化合物が透過するのに十分な細孔をあけるだけである。この目的に使用する溶血剤は、少なくとも一つのカチオン性界面活性剤、少なくとも一つのノニオン性界面活性剤、pHを一定に保つための緩衝剤を含むpH4.5−11.0、好ましくはpH5.0−10.0の水溶液である。
【0014】
カチオン性界面活性剤としては、4級アンモニウム塩型界面活性剤又はピリジニウム塩型界面活性剤が好ましい。4級アンモニウム塩型およびピリジニウム塩型界面活性剤は、
【化4】
〔R1は炭素数6〜18のアルキル又はアルケニル基、R2およびR3は炭素数1〜4のアルキル又はアルケニル基、R4は炭素数1〜4のアルキルおよびアルケニル基又はベンジル基、Xはハロゲン原子である。〕
で表される全炭素数9〜30の界面活性剤が挙げられる。R1の炭素数6〜18のアルキル又はアルケニル基としてはへキシル、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル等を挙げることができるが、とりわけオクチル、デシル、ドデシル等の直鎖のアルキル基が好ましい。また、R2およびR3の炭素数1〜4のアルキル、アルケニル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル等を挙げることができるが、とりわけ、メチル、エチル、プロピル等の炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。さらに、R4の炭素数1〜4のアルキルおよびアルケニル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル等を挙げることができるが、とりわけ、メチル、エチル、プロピル等の炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。
【0015】
ノニオン性界面活性剤としては以下の式のポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤が好ましい。すなわち、一般式
R1−R2−(CH2CH2O)n−H
〔式中、R1は炭素数8〜25のアルキル、アルケニル又はアルキニル基;R2はO、
【化5】
またはCOO;nは10〜50の整数を表す。〕
で表されるポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤を用いるのが、好ましい。
【0016】
溶血剤の組成は特に限定されるものではないが、例えば、特開平6−207942号公報又は特開平7−181177号公報に記載の溶血剤が好適に使用できる。
【0017】
さらに、溶血剤中に、分子内に少なくとも1つの芳香環を有する有機酸もしくはその塩を含有することは、好ましいことである。これは、白血球の散乱光強度分布を、分類により好適なように調整しうるためである。有機酸もしくはその塩としては、安息香酸、フタル酸、馬尿酸、サリチル酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸もしくはその塩などが好適に使用できる。これらの有機酸を含有することにより、特に好酸球の散乱光強度が増加し、結果として、好中球と好酸球の分離が改善される。例えば、実質的に側方散乱光のみを用いて白血球の4分画が可能となる。
【0018】
溶血剤のpHは4.5−11.0、好ましくは5.0−10.0であり、pHを一定に保つために、例えば、クエン酸塩、HEPES、リン酸塩などの緩衝剤を含む。なお、前述の酸が緩衝剤として作用する場合には、緩衝剤は必ずしも必要な成分ではない。pHが低すぎる場合、好酸球、好塩基球の分離が悪くなり、正常白血球を5分画しにくくなる。しかしながら、正常白血球を3分画(リンパ球、単球、顆粒球)並びに幼若白血球、異常白血球を分類計数する事は可能である。一方、pHが高すぎる場合は白血球が損傷を受けやすくなる傾向が生じる。
【0019】
細胞中のRNAに特異的に結合し蛍光強度の増加する色素化合物としては、RNAの存在しない環境では蛍光強度が低く、RNAと結合することによって蛍光強度の増加する色素化合物が使用できる。本発明においては、このような色素化合物として、以下の一般式(I)で表される色素化合物を用いる。
【化6】
(式中、R1及びR4は、水素原子又はアルキル基を表し、かつ、いずれか一方が炭素数6〜18のアルキル基であり、他方が水素原子又は炭素数6未満のアルキル基であり;R2及びR3は水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基又はエトキシ基であり;Zは硫黄、酸素又はメチル基を有する炭素であり;nは0,1又は2であり;X-はアニオンである。)
【0020】
大部分の幼若白血球や異常白血球等の異常細胞は、正常な白血球に比べ、RNAを豊富に含有する。これは、例えば幼若白血球では、成熟途中の細胞であるために、細胞成熟に伴う種々の生産活動(タンパク質合成等)をおこなっており、そのためにRNAが豊富に存在すると考えられる。そして、上記色素化合物は、RNAと結合することにより、著しく蛍光強度の増加する性質を有する。さらに予期せぬことに、これらの色素化合物を使用することにより、好塩基球を同時に分類することが可能となった。
【0021】
本発明で使用する色素化合物は、DNAとの結合の影響を少なくし、RNAに対する特異性を高めたものである。すなわち、DNAとの親和性(特異性)の低い色素化合物を用いている。そして、このため、一般式(I)中、R1あるいはR4のいずれか一方が長鎖の(炭素数6〜18の)アルキル基であり、他方が水素原子又は炭素数6未満のアルキル基となっている。DNAに対して特異性を有する場合、RNAからの蛍光信号に、DNAからの蛍光信号が重畳され、正常白血球と幼若白血球、異常白血球との間の蛍光強度差が小さくなり、好ましくない。
【0022】
本発明で用いる色素化合物の作用機序は明確ではないが、長鎖アルキル基(炭素数6〜18アルキル基)を分子構造内に有するために細胞核膜を透過できない、あるいは、立体障害のためにDNA分子への結合が阻害されるため、DNAに起因する蛍光増加が少なく、よりRNA主体の蛍光を測定できるという利点があると考えられる。これによって、幼若白血球や異常白血球等の異常細胞と正常白血球の分離が著しく改善されるのである。
【0023】
長鎖アルキル基(炭素数6〜18アルキル基)の鎖長(炭素数)は長いほどDNAに起因する蛍光強度増加が抑制され、RNA特異性が高まるが、一方、分子が疎水性になる傾向があり、水に難溶となって、使用不可能ではないが、取り扱いにくくなる。これらの点を勘案すると、R1もしくはR4のアルキル基の炭素数が6、8、10の色素化合物が特に好適である。
【0024】
R2およびR3は、水素原子、メチル基、メトキシ基、エチル基又はエトキシ基である。
【0025】
X-として好適なアニオンにはF-、Cl-、Br-、I-等のハロゲンイオン、又はCF3SO3-若しくは、BF4-などを含む。
【0026】
Zとしては、硫黄原子、酸素原子、又はメチル基で置換されている炭素原子が用いられる。
【0027】
色素化合物の濃度は使用する色素化合物により異なるが、一般に0.001−1000ppm、好ましくは0.01−100ppm、さらに好ましくは0.1−10ppmである。この濃度は、溶血剤と色素化合物とを混合した状態での濃度である。本発明においては、血液試料を溶血剤と混合した後に色素化合物を混合して測定用試料を調製してもよいし、予め溶血剤と色素化合物とを混合した後に、血液試料と混合して測定用試料を調製してもよい。いずれの場合においても、濃度は溶血剤と色素化合物とを混合した状態でのものである。したがって、色素化合物を含む染色液と溶血剤を別々にして組み合わせた試薬キットの場合でも、色素化合物を含む染色液と溶血剤とを混合した状態での濃度である。本発明で用いる色素化合物を含む染色液は、エチレングリコール、メタノール、DMSOなどの水溶性有機溶媒に、色素化合物を溶解して得られる。
【0028】
調製した測定用試料をフローサイトメータで測定し、少なくとも1つの散乱光と、少なくとも1つの蛍光を測定する。
【0029】
本発明でいう散乱光とは、一般に市販されるフローサイトメータで測定できる散乱光であり、側方散乱光、前方低角散乱光(受光角度0〜5度付近)、前方高角散乱光(5〜20度付近)等をいい、白血球の大きさもしくは内部構造情報を反映する散乱角度が選ばれる。このうち側方散乱光がもっとも好適である。
【0030】
また、散乱光を1つ以上使用することにより、より分類精度をあげることができる。特に、前方低角散乱光を使用すると、細胞の大きさに関する情報が得られるため、例えば、Hairy Cell Leukemia 等の大きさのみが変わって、RNA量の増加しない異常球の検出にも本発明を用いることができ、有用である。また、前方高角散乱光を使用した場合、前方低角散乱光と側方散乱光の中間の情報が得られる。つまり、細胞の大きさ情報と細胞の内部構造情報の両方を含む情報が得られる。
【0031】
蛍光は、本発明で使用する色素化合物がRNA,DNA等の細胞成分と結合して発せられるもので、使用する色素化合物によって好適な受光波長が選択される。
【0032】
フローサイトメータの光源は、特に限定されず、色素化合物の励起に好適な波長の光源が選ばれる。例えば、アルゴンイオンレーザ、He−Neレーザ、赤色半導体レーザ、水銀アークランプなどが使用される。特に半導体レーザは気体レーザに比べ非常に安価かつ小型であり、装置コストを大幅に下げることができ、さらに小型化できるため、好適である。
【0033】
「測定した散乱光と蛍光の強度差を用いて正常な白血球を少なくとも5つに分類計数する工程」とは、(1)例えばX軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラム(2次元分布図)を描いた場合、例えば、図1に示すように、各白血球細胞は各細胞毎に集団を形成する;そして(2)この集団を、適当な解析ソフトで解析することにより、各白血球細胞の数と割合を算出する、工程をいう。例えば、各細胞集団を囲むウインドウを設け、その中の細胞数を算出することにより、各白血球細胞の数と割合を算出することができる。
【0034】
本発明に係る方法を用いると、正常な白血球を少なくとも5つに分類計数できるのみでなく、異常細胞の分類計数を同時に行うことができる。本発明に係る方法で分類計数するのに適した異常細胞は、正常細胞よりもRNA量の増加した細胞であり、例えば幼若顆粒球、骨髄芽球、赤芽球及び異形リンパ球から選択される1つ以上である。
【0035】
本発明はさらに、測定用試料を調製するための試薬キットを提供する。この試薬キットは、1) 血液試料を、血液試料中の赤血球を測定の障害とならない程度に溶解し、正常または異常細胞を染色に好適な状態にする溶血剤、及び2)上記一般式(I)で表されるRNAに特異的に結合し蛍光強度の増加する色素化合物を少なくとも1つ含む染色液の組み合わせからなる。試薬キットに用いられる溶血剤の具体例は、前述したとおり、少なくとも一つのカチオン性界面活性剤、少なくとも一つのノニオン性界面活性剤、pHを一定に保つための緩衝剤を含むpH4.5−11.0、好ましくはpH5.0−10.0の水溶液である。また、染色液の具体例も、前述したとおり、一般式(I)で表される色素化合物を、エチレングリコール、メタノール、DMSOなどの水溶性有機溶媒に溶解したものである。
【0036】
この試薬キットを用いて測定用試料を調製する方法としては、血液試料に溶血剤を混合した後、染色液を混合して調製してもよいし、溶血剤と染色液を混合した混合液を、血液試料に混合して調製してもよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明に係る白血球分類計数方法によれば、血液試料を溶血剤と混合し、同時に又はその後、一般式(I)で表される色素化合物と混合することにより血液試料中の有核細胞を蛍光染色し、フローサイトメータにより少なくとも1つの散乱光と少なくとも1つの蛍光を測定するだけで簡便に高精度で幼若白血球や異常白血球の異常細胞を分類計数すると同時に、正常白血球の分類計数ならびに白血球計数を行うことができる。
【実施例】
【0038】
本発明を以下の実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明には種々の変更、修飾が可能であり、本発明の範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、添付の各図において、以下の略号はそれぞれ次の物を意味する。
Lymph:リンパ球 Eo:好酸球
Mono:単球 Baso:好塩基球
Neut:好中球 WBC:白血球
IG:幼若顆粒球 Blast:骨髄芽球
NRBC:赤芽球 A−Lymph:異形白血球
【0039】
[色素化合物Aの合成]
色素化合物A(R1=メチル,R2=R3=H,R4=n−オクチル,n=1,Z=S,X-=CF3SO3-)を以下のようにして製造した。
3−メチル−2−メチルベンゾチアゾリウムメタンサルフェート1当量と、N, N−ジフェニルホルムアミジン3当量を酢酸中で、90℃の油浴上で1.5時間加熱撹拌した。反応液をヘキサンにあけ、赤色油状物をさらにヘキサンで懸濁洗浄し、酢酸を除いた。粗生成物を酢酸エチルーヘキサンで再結晶した(収率48%)。これに1−オクチルレピジニウムトリフレート1当量とピリジンを加え、90℃の油浴上で3 時間加熱撹拌した。反応液を濃縮し、残った青色粗製物をフラッシュクロマトグラフィーにてメタノール−クロロホルムで精製した(収率62%)。
【0040】
以上のようにして色素化合物Aよりなる粉末が得られ、これは濃暗青色であった。また、この色素化合物Aの特性は、以下のとおりであった。
TLC(シリカゲル、10%メタノール- 塩化メチレン):Rf=0.5
1H−NMR(CDCl3)δppm(TMS):0.88(t,3H) 1.28(bR,10H) 1.64(s,2H) 1.82(bR,2H) 3.60(s,3H) 4.23(t,2H) 6.35(d,1H) 6.82〜7.26(m,2H) 7.39〜7.90(m,6H) 8.10〜8.26(dd,2H)
IR(cm-1):1625,1560,1540,1520,1480,1460,1410,1400,1310,1260,1210,1150,1130,740,640
MASS(FABpositive)m/z=429
TLC95.7%(10%メタノール−塩化メチレン)
極大吸収スペクトル629nm(メタノール)
【0041】
[色素化合物Bの合成]
色素化合物B(R1=ヘキシル,R2=R3=H,R4=メチル,n=1,Z=S,X-=CF3SO3-)を以下のようにして製造した。
3−へキシル−2−メチルベンゾチアゾリウムトリフレート1当量と、N, N−ジフェニルホルムアミジン4当量を酢酸中で、90℃の油浴上で10時間加熱撹拌した。反応液を濃縮し、残った粗製物をフラッシュクロマトグラフィーにてヘキサン−酢酸エチルで精製した(収率27%)。これにヨウ化1−メチルレピジニウム1.3当量とピリジンを加え、90℃の油浴上で3時間加熱撹拌した。反応液を濃縮し、残った青色粗製物をフラッシュクロマトグラフィーにてメタノール−クロロホルムで精製した(収率75%)。
【0042】
以上のようにして色素化合物Bよりなる粉末が得られ、これは濃暗青色であった。また、この色素化合物Bの特性は、以下のとおりであった。
TLC(シリカゲル、10%メタノール- 塩化メチレン):Rf=0.5
1H−NMR(CDCl3)δppm(TMS):0.90(t,3H) 1.17〜1.81(m,12H) 4.12(s,3H) 6.50(m,1H) 6.96〜8.26(m,10H)
IR(cm-1):1620,1560,1530,1510,1480,1460,1410,1380,1310,1250,1210,1150,1100,750,640
MASS(FABpositive)m/z=401
TLC93.0%(10%メタノール−塩化メチレン)
極大吸収スペクトル629nm(メタノール)
【0043】
実施例1
溶血剤と色素化合物Aを含む溶液を、以下のとおり準備した。
HEPES 10mM 市販品
フタル酸2Na 20mM 市販品
BC30TX(ポリオキシエチレン(30)セチルエーテル)
1500ppm 日光ケミカルズ
ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド 550ppm 市販品
色素化合物A 0.5ppm
NaOHでpHを7.0に調整
上記溶液1.0mlに抗凝固剤処理した健常人の血液(検体No.1)30μlを加え、35℃で40秒間反応させて、測定用試料を調製した。
【0044】
フローサイトメータ(FCM)で、この測定用試料について、側方散乱光、前方低角散乱光、蛍光を測定した。光源は633nmの赤色半導体レーザを使用した。蛍光は660nm以上の波長の蛍光(赤蛍光)を測定した。
【0045】
図1にX軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを示す。図2にX軸に前方低角散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを示す。白血球はリンパ球、単球、好中球、好酸球、好塩基球の5つの集団に分かれる。各々の集団にウインドウを設けウィンドウ内の細胞数の計数、細胞比率の算出を行う。
【0046】
図5〜9に従来法(東亞医用電子SE−9000)と本法(図1)との白血球分類の相関図を示す。図10に従来法(東亞医用電子SE−9000)と本法(図1)との白血球数の相関図を示す。いずれの項目も、従来法と良好な相関がある。
【0047】
ここで、従来法の測定は以下の測定試薬を用い、操作はSE−9000で全自動で行った。
・白血球数:セルパック−3D(II)TM(東亞医用電子)とストマトライザ−EO(II)TM(東亞医用電子)の1:1混合物に血液を加えて測定した。
・リンパ球及び単球:セルパック−3D(II)TM(東亞医用電子)により溶血後、ストマトライザ−3D(II)TM(東亞医用電子)を添加して測定した。
・好酸球:ストマトライザ−EO(II)TM(東亞医用電子)を使用して測定した。
・好塩基球:ストマトライザ−BA(II)TM(東亞医用電子)を使用して測定した。
・好中球:(白血球数) −{(リンパ球数) +(単球数) +(好酸球) +(好塩基数) }により求めた。
【0048】
なお、参考までに図3に、X軸に側方散乱光、Y軸に前方低角散乱光をとったスキャッタグラムを、図4に側方散乱光強度のヒストグラムを示す。白血球はリンパ球、単球、好中球、好酸球の4つの集団に分かれる。
【0049】
実施例2
血液試料として、以下の検体を用いた他は、実施例1と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。
(i)幼若顆粒球(後骨髄球、骨髄球)の出現した検体(検体No.2)については、図11に示したスキャッタグラムを得た。図11では4.0%と計数された。この検体を従来法(目視)で計数すると、4.5%であった。
(ii)骨髄芽球の出現した検体(検体No.3)については、図12に示したスキャッタグラムを得た。図12では85.1%と計数された。この検体を従来法(目視)で計数すると、81.5%であった。
(iii )赤芽球の出現した検体(検体No.4)については、図13に示したスキャッタグラムを得た。図13では21.5%と計数された。この検体を従来法(目視)で計数すると、25%であった。
(iv)異形リンパ球と幼若顆粒球の出現した検体(検体No.5)については、図14に示したスキャッタグラムを得た。図14で、異形リンパ球は1.89%、幼若顆粒球は2.17%と計数された。この検体を従来法(目視)で計数すると、異形リンパ球は2.0%、幼若顆粒球は2.0%であった。
【0050】
実施例2に係る方法によれば、いずれの幼若顆粒球、異常白血球も正常白血球と明確に分離され分類計数する事ができる。なお、前記した従来法は、塗抹標本をメイーグリュンワルドーギムザ染色法で二重染色し、白血球を顕微鏡(倍率:x1000)で200個分類計数したものである。
【0051】
実施例3
血液試料として、正常検体(検体No.6)を用いた他は、実施例1と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。これを、図17に示した。
【0052】
実施例4
血液試料として、幼若顆粒球の出現した検体(検体No.7)を用いた他は、実施例1と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。これを、図18に示した。
【0053】
実施例5
溶血剤と色素化合物Bを含む溶液を、以下のとおり準備した。
HEPES 10mM 市販品
フタル酸2Na 20mM 市販品
BC30TX(ポリオキシエチレン(30)セチルエーテル)
1500ppm 日光ケミカルズ
ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド 550ppm 市販品
色素化合物B 0.3ppm
NaOHでpHを7.0に調整
上記溶液1.0mlに抗凝固剤処理した正常検体(実施例3で使用した検体No.6)30μlを加え、35℃で40秒間反応させて、測定用試料を調製した。そして、実施例1と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。これを、図19に示した。
【0054】
実施例6
血液試料として、幼若顆粒球の出現した検体(実施例4で使用した検体No.7)を用いた他は、実施例5と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。これを、図20に示した。
【0055】
比較例1
溶血剤と色素化合物Bを含む溶液を、以下のとおり準備した。
HEPES 10mM 市販品
フタル酸2Na 20mM 市販品
BC30TX(ポリオキシエチレン(30)セチルエーテル)
1500ppm 日光ケミカルズ
ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド 550ppm 市販品
DQTCI(色素化合物) 0.1ppm Lambda Physik 社
NaOHでpHを7.0に調整
ここで、DQTCIとは、上記一般式(I)において、R1=R4=エチル,R2=R3=H,n=1,Z=S,X-=I-である色素化合物である。
上記溶液1.0mlに抗凝固剤処理した正常検体(実施例3で使用した検体No.6)30μlを加え、35℃で40秒間反応させて、測定用試料を調製した。そして、実施例1と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。これを、図15に示した。
【0056】
比較例2
血液試料として、幼若顆粒球の出現した検体(実施例4で使用した検体No.7)を用いた他は、比較例1と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。これを、図16に示した。
【0057】
実施例3〜6と比較例1及び2の結果を示した図15〜図20から明らかなように、色素化合物として、一般式(I)のR1及びR4の両方がエチル基であるものを用いた場合(比較例1及び2の場合)には、正常好中球と幼若顆粒球の弁別は困難であるが、R1及びR4のいずれか一方に炭素数が6及び8のアルキル基を導入し、他方にメチル基を導入した色素化合物A又はBを用いた場合(実施例3〜6の場合)には、正常好中球と幼若顆粒球は明確に弁別できる。
【0058】
実施例7
溶血剤と色素化合物Aを含む溶液として、フタル酸2Naに代えてクエン酸を用い、血液試料として正常検体(検体No.8)を用いる他は、実施例1と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。これを、図21に示した。
【0059】
実施例8
溶血剤と色素化合物Aを含む溶液として、フタル酸2Naに代えてフタル酸を用い、血液試料として正常検体(実施例8で使用した検体No.8)を用いる他は、実施例1と同一の方法で、X軸に側方散乱光、Y軸に赤蛍光をとったスキャッタグラムを得た。これを、図22に示した。
【0060】
実施例7及び8の結果を示した図21及び図22から明らかなように、酸類として、分子構造中に芳香環を有する有機酸であるフタル酸を使用した場合(実施例8の場合)、芳香環を有しない有機酸であるクエン酸を使用した場合(実施例7の場合)に比べて、好中球と好酸球の分離が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1に係る方法で得られた側方散乱−赤蛍光スキャッタグラムである。
【図2】実施例1に係る方法で得られた前方低角散乱−赤蛍光スキャッタグラムである。
【図3】実施例1に係る方法で得られた側方散乱−前方低角散乱スキャッタグラムである。
【図4】実施例1に係る方法で得られた側方散乱ヒストグラムである。
【図5】従来法(東亞医用電子SE−9000)と実施例1に係る分類計数法によるリンパ球比率の相関図である。
【図6】従来法(東亞医用電子SE−9000)と実施例1に係る分類計数法による単球比率の相関図である。
【図7】従来法(東亞医用電子SE−9000)と実施例1に係る分類計数法による好中球比率の相関図である。
【図8】従来法(東亞医用電子SE−9000)と実施例1に係る分類計数法による好酸球比率の相関図である。
【図9】従来法(東亞医用電子SE−9000)と実施例1に係る分類計数法による好塩基球比率の相関図である。
【図10】従来法(東亞医用電子SE−9000)と実施例1に係る分類計数法による白血球数の相関図である。
【図11】幼若顆粒球(後骨髄球、骨髄球)の出現した検体(検体No.2)について、実施例2に係る方法で得られた側方散乱−赤蛍光スキャッタグラムである。
【図12】骨髄芽球の出現した検体(検体No.3)について、実施例2に係る方法で得られた側方散乱−赤蛍光スキャッタグラムである。
【図13】赤芽球の出現した検体(検体No.4)について、実施例2に係る方法で得られた側方散乱−赤蛍光スキャッタグラムである。
【図14】異形リンパ球と幼若顆粒球の出現した検体(検体No.5)について、実施例2に係る方法で得られた側方散乱−赤蛍光スキャッタグラムである。
【図15】比較例1に係る方法で得られた側方散乱−蛍光スキャッタグラムである。
【図16】比較例2に係る方法で得られた側方散乱−蛍光スキャッタグラムである。
【図17】実施例3に係る方法で得られた側方散乱−蛍光スキャッタグラムである。
【図18】実施例4に係る方法で得られた側方散乱−蛍光スキャッタグラムである。
【図19】実施例5に係る方法で得られた側方散乱−蛍光スキャッタグラムである。
【図20】実施例6に係る方法で得られた側方散乱−蛍光スキャッタグラムである。
【図21】実施例7に係る方法で得られた側方散乱−蛍光スキャッタグラムである。
【図22】実施例8に係る方法で得られた側方散乱−蛍光スキャッタグラムである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1) 血液試料を、
血液試料中の赤血球を測定の障害とならない程度に溶解し、正常または異常細胞を染色に好適な状態にする溶血剤と、
下記一般式(I)で表される細胞中のRNAに特異的に結合し蛍光強度の増加する色素化合物と、
混合することにより血液試料中の有核細胞を蛍光染色して、測定用試料を調製する工程、
【化1】
(式中、R1及びR4は、水素原子又はアルキル基を表し、かつ、いずれか一方が炭素数6〜18のアルキル基であり、他方が水素原子又は炭素数6未満のアルキル基であり;R2及びR3は水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基又はエトキシ基であり;Zは硫黄、酸素又はメチル基を有する炭素であり;nは0,1又は2であり;X-はアニオンである。)
2) 前記1)で調製した測定用試料をフローサイトメータで測定し、少なくとも1つの散乱光と、少なくとも1つの蛍光を測定する工程、および
3)前記2)で測定した散乱光と蛍光の強度差を用いて正常な白血球を少なくとも5つに分類計数する工程、
を具備することを特徴とする白血球分類計数方法。
【請求項2】
溶血剤が、少なくとも1つのノニオン性界面活性剤と少なくとも1つのカチオン性界面活性剤を含み、pHが4.5〜11.0である請求項1記載の白血球分類計数方法。
【請求項3】
溶血剤が、少なくとも1つの芳香環を有する有機酸もしくはその塩をさらに含有する請求項2記載の白血球分類計数方法。
【請求項4】
散乱光が、前方低角散乱光、前方高角散乱光及び側方散乱光よりなる群から選ばれる少なくとも一つの散乱光である請求項1記載の白血球分類計数方法。
【請求項5】
異常細胞の分類計数を同時に行う請求項1記載の白血球分類計数方法。
【請求項6】
異常細胞が、正常細胞よりもRNA量の増加した細胞である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の白血球分類計数方法。
【請求項7】
異常細胞が、幼若顆粒球、骨髄芽球、赤芽球及び異形リンパ球よりなる群から選ばれる少なくとも一つの細胞である請求項6記載の白血球分類計数方法。
【請求項8】
1) 血液試料を、血液試料中の赤血球を測定の障害とならない程度に溶解し、正常または異常細胞を染色に好適な状態にする溶血剤、及び
2)下記一般式(I)で表されるRNAに特異的に結合し蛍光強度の増加する色素化合物を含む染色液
【化2】
(式中、R1及びR4は、水素原子又はアルキル基を表し、かつ、いずれか一方が炭素数6〜18のアルキル基であり、他方が水素原子又は炭素数6未満のアルキル基であり;R2及びR3は水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基又はエトキシ基であり;Zは硫黄、酸素又はメチル基を有する炭素であり;nは0,1又は2であり;X-はアニオンである。)
の組み合わせからなることを特徴とする白血球分類計数試薬キット。
【請求項1】
1) 血液試料を、
血液試料中の赤血球を測定の障害とならない程度に溶解し、正常または異常細胞を染色に好適な状態にする溶血剤と、
下記一般式(I)で表される細胞中のRNAに特異的に結合し蛍光強度の増加する色素化合物と、
混合することにより血液試料中の有核細胞を蛍光染色して、測定用試料を調製する工程、
【化1】
(式中、R1及びR4は、水素原子又はアルキル基を表し、かつ、いずれか一方が炭素数6〜18のアルキル基であり、他方が水素原子又は炭素数6未満のアルキル基であり;R2及びR3は水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基又はエトキシ基であり;Zは硫黄、酸素又はメチル基を有する炭素であり;nは0,1又は2であり;X-はアニオンである。)
2) 前記1)で調製した測定用試料をフローサイトメータで測定し、少なくとも1つの散乱光と、少なくとも1つの蛍光を測定する工程、および
3)前記2)で測定した散乱光と蛍光の強度差を用いて正常な白血球を少なくとも5つに分類計数する工程、
を具備することを特徴とする白血球分類計数方法。
【請求項2】
溶血剤が、少なくとも1つのノニオン性界面活性剤と少なくとも1つのカチオン性界面活性剤を含み、pHが4.5〜11.0である請求項1記載の白血球分類計数方法。
【請求項3】
溶血剤が、少なくとも1つの芳香環を有する有機酸もしくはその塩をさらに含有する請求項2記載の白血球分類計数方法。
【請求項4】
散乱光が、前方低角散乱光、前方高角散乱光及び側方散乱光よりなる群から選ばれる少なくとも一つの散乱光である請求項1記載の白血球分類計数方法。
【請求項5】
異常細胞の分類計数を同時に行う請求項1記載の白血球分類計数方法。
【請求項6】
異常細胞が、正常細胞よりもRNA量の増加した細胞である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の白血球分類計数方法。
【請求項7】
異常細胞が、幼若顆粒球、骨髄芽球、赤芽球及び異形リンパ球よりなる群から選ばれる少なくとも一つの細胞である請求項6記載の白血球分類計数方法。
【請求項8】
1) 血液試料を、血液試料中の赤血球を測定の障害とならない程度に溶解し、正常または異常細胞を染色に好適な状態にする溶血剤、及び
2)下記一般式(I)で表されるRNAに特異的に結合し蛍光強度の増加する色素化合物を含む染色液
【化2】
(式中、R1及びR4は、水素原子又はアルキル基を表し、かつ、いずれか一方が炭素数6〜18のアルキル基であり、他方が水素原子又は炭素数6未満のアルキル基であり;R2及びR3は水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基又はエトキシ基であり;Zは硫黄、酸素又はメチル基を有する炭素であり;nは0,1又は2であり;X-はアニオンである。)
の組み合わせからなることを特徴とする白血球分類計数試薬キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2006−91024(P2006−91024A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315209(P2005−315209)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【分割の表示】特願平9−128472の分割
【原出願日】平成9年5月19日(1997.5.19)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【分割の表示】特願平9−128472の分割
【原出願日】平成9年5月19日(1997.5.19)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
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