説明

白金アセチルアセトナト錯体の製造法

【課題】白金アセチルアセトナト錯体の安全で経済的な製造方法の提供。
【解決手段】ハロゲン不含の白金(IV)オキソ化合物またはヒドロキソ化合物を還元剤と水溶液中で化学量論量またはそれを上回る量のアセチルアセトン(acac)、カリウムアセチルアセトナート(Kacac)ナトリウムアセチルアセトナート(Naacac)、ヘキサフルオロアセチルアセトン(hfac)、トリフルオロアセチルアセトン(tfac)またはアルキル置換アセチルアセトンまたはそれらの塩およびH供与体の存在下で反応させることによって、白金アセチルアセトナト錯体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金アセチルアセトナト錯体、殊にPt(II)アセチルアセトナート[Pt(acac)]の新規の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
Grinberg and Chapurskii1[Zhur. Neorg. Khim 4, 314-18 (1959)]によって後に検証されたWerner法(Ber. 1901, 2584)を用いて、KPtClが熱水に溶解され、かつ6当量のKOHと混合される。赤みを帯びた溶液が黄色に変わったら、8当量のアセチルアセトン(Hacac)が添加される。この混合物は急速に攪拌され、50℃に加熱され、かつ粗製Pt(acac)が沈殿するまでこの温度で1〜1.5hのあいだ保たれる。溶液は冷却され、かつ淡黄色の粗製生成物が濾過によって収集される。さらにKOHおよびHacacが添加され、かつ該溶液は、新たな生成物が沈殿するまで再び50℃に1hのあいだ加熱される。沈殿物がもはや形成されなくなるまで、繰り返し行われる。純粋な生成物は、ベンゼン中での再結晶化から獲得されうる。収率は25〜35%である。この方法の重大な欠点は、低い収率、過剰のHacac配位子の使用および再結晶溶媒としてのベンゼンの使用である。
【0003】
Okeya-Kawaguchi法に要求されるのは、1N HClO 中でのKPtClの溶解である。この溶液は、酸化水銀(II)および過剰の過塩素酸中の過塩素酸銀と混合される。過塩素酸によって安定化されたPt2+のアクア化溶液は濾過され、KClO、HgCl、およびAgClが取り除かれる。[Pt(HO)2+溶液は、クリーム状の黄色の固体を形成するNa(acac)で処理される。全ての配位子が添加されたら、該溶液は4.5にpH調節され、かつ20hのあいだ攪拌される。この固体は濾過によって収集され、DI水で洗浄され、かつ真空内でシリカゲルにより乾燥され、粗製生成物が得られる。固体はCHCl中に溶解され、濾過され、かつシリカゲルによりクロマトグラフィーが行われる。溶媒は真空内で取り除かれ、ベンゼンから収率75%で再結晶化される純粋な黄色の生成物を後に残す。この方法の不利な点は、危険かつ毒性である試薬の水銀、過塩素酸塩、ベンゼンおよびCHClの使用である。加えて、Werner法の収率よりずっと高いその収率は、工業的規模において経済的ではなく、かつ重金属の存在によって複雑化されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Grinberg and Chapurskii1[Zhur. Neorg. Khim 4, 314-18 (1959)]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、該化学文献中で見られた方法において問題を引き起こした以下の特徴:収率、使用される化学試薬の安全性、母液からのPtの回収、および配位子の経済的な使用を取り扱うことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
意想外にも、ハロゲン化物不含の白金(II)アセチルアセトナート[Pt(acac)]または白金(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナート[Pt(hfac)]または白金(II)トリフルオロアセチルアセトナート[Pt(tfac)]または白金(II)−アルキル置換アセチルアセトナートが以下:
I.ハロゲン不含の白金(IV)オキソ化合物またはヒドロキソ化合物、例えばPtO・nHO(nは1〜4の整数である)またはHPt(OH)またはNaPt(OH)またはKPt(OH)が、
II.還元剤と
III.水溶液中で
IV.化学量論量またはそれを上回る量のアセチルアセトン(acac)、カリウムアセチルアセトナート(Kacac)ナトリウムアセチルアセトナート(Naacac)、ヘキサフルオロアセチルアセトン(hfac)、トリフルオロアセチルアセトン(tfac)またはアルキル置換アセチルアセトンまたはそれらの塩
V.およびH供与体の存在下で反応させられる
の方法で製造される場合に、これらの特徴に関して改善が実現される。
【0007】
反応中ずっと、温度が85℃より下に保たれる場合に有利である。希釈水溶液が好ましく、反応混合物中に存在する水の全量は、例えば白金に対して30〜150モル当量である。
プロトン(H)は、適した有機酸または無機酸、例えばカルボン酸または鉱酸によって供給してよい。適したカルボン酸は、酢酸またはクエン酸である。好ましい酸は、鉱酸、殊にHSO、HNO、またはHPOである。使用可能なプロトン−白金に対して−約1/2モル当量を有することが有利である。
【0008】
適した還元剤は、当業者に公知である。例は、ギ酸、ギ酸誘導体、シュウ酸、アスコルビン酸、水素、糖、ホルムアルデヒド、ヒドラジン、ヒドラジニウム塩、アルコール、および過酸化水素である。
ギ酸は、好ましくは希薄溶液として使用される。
【0009】
好ましくは、再循環における母液からのPtの回収を悪化させうる試薬も、付加的な金属も過剰の有機物も本方法では存在しない。
【0010】
本発明の好ましい一実施態様では、以下のステップが実施される:
A HPt(OH)として1モル当量の白金(IV)酸化物が、スラリーとして水中に懸濁される。
B このスラリーに、約30〜100モル当量の水、僅かにモル過剰のacac(2,4−ペンタンジオン)および約0.5モルのHSOが添加される。
C1 混合物は、好ましくは攪拌されながら50〜85℃に加熱される。
C2 1モル当量の場合によっては希釈されたギ酸が、好ましくは少量ずつまたは滴下しで添加される。
D 混合物は、その色が黄色から緑色または黒色に変わるまで85℃で保たれる。二酸化炭素のガス放出が観察される。
E 懸濁液は濾過され、かつ固体沈殿物が洗浄および再結晶化され、明るい黄色の生成物が得られる。
【0011】
本方法は、以下の利点をもたらす:
白金に対して90%を超える収率が達成されうる。
【0012】
反応に不活性雰囲気は必要とされず、すなわちそれは周囲雰囲気条件下で実施されうる。
【0013】
ギ酸によるPt(IV)出発材料からPt(0)への過還元は典型的な問題である;しかしながら、高い水様の系を使用し、かつ厳密な温度制御を適用することによって、ギ酸の添加は緩和され、かつ過還元は小さくされる。
【0014】
生成物を集めた後、母液は主として水様であり、そのことは貴金属の回収をより容易にする。
【0015】
化学文献には、所望された生成物と一緒に溶解した状態で形成される[PtCl(acac)n−種が挙げられる。それと比較して、本方法によって獲得された生成物は、ハロゲンを含有する反応体が回避されているため、塩化物の不在に基づき純度および収率が高い。
【0016】
水性の溶媒系により、未変換の任意の白金を後に回収することが容易となる。
【0017】
重金属汚染物質、例えば水銀は存在しない。
【0018】
反応は、ワンポット合成として実施してよい。しかしながら、より高い収率は、ギ酸が別個に希釈され、かつ制御された形で添加される場合に獲得される。
【0019】
主として水である母液、および洗液は、当業者に公知の方法、例えばヒドラジンによる処理、またはより一般的には王水による処理とそれに続く水素化ホウ素還元によって後処理されうる。僅かに過剰の有機配位子しか使用されないという事実から、任意の再生された白金における有機物は減少すると見込まれる;それゆえ、廃物流からの白金の回収は容易である。第一に、より高い収率は、過還元がより小さいことを意味し、極めて自燃性である生成物において微細粒のPtが製造される。第二にまた、該系においてアセチルアセトンがより少ないことは、火災を起こしうる可能性のある燃料の存在がより少ないことを意味し、従って事故または怪我の生じる可能性が減少する。
【0020】
そのうえ、全体的な収率の増大により生成物がより多く生じ、結果的に精製装置に送られるPtがより少なくなることが直ちに実現される。
【0021】
以下の実施例は、さらに本発明を説明する。パーセンテージは、他に指摘されない限り質量に基づく。
【実施例】
【0022】
Pt(OH)、"白金酸化物"を、水中でスラリーとして獲得し、かつPt百分率をダイレクトイグニッションによって分析する。Pt出発材料を適切に懸濁した後、このスラリーに、Ptに対して75モル当量の脱イオン水、2.5モル当量のHacac、および0.5モル当量のHSOを添加する。全ての試薬の添加後、反応器を密閉し、かつヒュームフードに排出口がつけられているオイルバブラーを取り付ける。この混合物を力強く攪拌し、かつ85℃に加熱する。混合物を加熱しながら、反応器に接続された添加漏斗に1当量のHCOHを装入し、次いでDI水でおよそ0.5Lに希釈する。反応器が温度に達したら、HCOH溶液を1〜2滴/秒の速度で4h以上にわたって滴下して添加する。これは概して100mL/hの添加速度に等しい。HCOHの全てを添加したら、温度を3時間以上のあいだ保つ。時に反応は一晩中行うことが可能であって、それに対して収率における逆効果は生じなかった。
【0023】
時間が経過するに従って、反応により多量のCOガスが放出され、かつスラリー化された酸化物が、明るい黄色から灰色がかった緑色または黒色に変わる。反応の終わりに、懸濁液を空気中で濾過し、かつブフナー漏斗内に収集し、明るいコハク色の母液が現れる。粗製生成物を、スルフェートが含まなくなるまでDI水で洗浄する。連続した水洗により、より明るく着色した粗製生成物が生じ、その中では生成物の黄色の斑点がしばしば観察される。該粗製生成物を真空内でAr雰囲気下において乾燥する。該粗製生成物を、有機溶媒および活性炭から再結晶化する。懸濁液を20分のあいだ加熱し、濾過し、かつ真空内で取り除かれた溶媒は明るい黄色の固体を後に残す。
【0024】
CおよびHの元素分析は、0.2%の理論値内でC:30.53%およびH:3.59%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化物不含の
白金(II)アセチルアセトナート[Pt(acac)]または
白金(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナート[Pt(hfac)]または
白金(II)トリフルオロアセチルアセトナート[Pt(tfac)]または
白金(II)−アルキル置換アセチルアセトナートの製造法であって、その際、
I.ハロゲン不含の白金(IV)オキソ化合物またはヒドロキソ化合物を、
II.還元剤と
III.水溶液中で
IV.白金(IV)に対して化学量論量またはそれを上回る量のアセチルアセトン(acac)、ヘキサフルオロアセチルアセトン(hfac)、トリフルオロアセチルアセトン(tfac)またはアルキル置換アセチルアセトナートまたはそれらの塩および
V.H供与体の存在下で反応させる
製造法。
【請求項2】
請求項1記載の、塩化物不含の
白金(II)アセチルアセトナート[Pt(acac)]または
白金(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナート[Pt(hfac)]または
白金(II)トリフルオロアセチルアセトナート[Pt(tfac)]または
白金(II)−アルキル置換アセチルアセトナート
の製造法。
【請求項3】
ハロゲン化物不含の白金(IV)オキソ化合物またはヒドロキソ化合物が、PtO・nHOまたはHPt(OH)であり、その際、nは1〜4の整数である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
反応温度を85℃より下に保つ、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
30〜150モル当量の水が反応混合物中に存在する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
を、供与体としての鉱酸または有機酸によって供給する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
鉱酸が、以下のHSO、HNO、およびHPOの1つである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
還元剤が、ギ酸、ギ酸誘導体、シュウ酸、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、ヒドラジニウム塩、過酸化水素、およびアルコールからなる群の一種である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
還元剤を希薄水溶液として使用する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
生成物を固体沈殿物として単離し、洗浄および再結晶化する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
生成物を、活性炭の非存在下または存在下で、有機溶媒から再結晶化する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
反応を空気中で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
再循環における母液からのPtの回収を悪化させうる試薬も、付加的な金属も過剰の有機物も存在しない、請求項1記載の方法。

【公開番号】特開2009−185027(P2009−185027A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14172(P2009−14172)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(390023560)ヴェー ツェー ヘレーウス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (42)
【氏名又は名称原語表記】W.C.Heraeus GmbH 
【住所又は居所原語表記】Heraeusstrasse 12−14, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】