説明

皮下脂肪厚測定装置

【課題】皮下脂肪厚の定量的計測を目的とし、幅広い体型の被験者に対して簡易で瞬時に皮下脂肪厚の計測を行う皮下脂肪厚計測装置を提供する。
【解決手段】体表面に対して、皮下脂肪厚計測装置が有する押圧部で押圧することにより、体表面が押圧部を押し返す腹力と、押圧部が体表面に押入した距離を逐次計測、記録する。体表面からの腹力が一定の値に到達した時、あるいは押入した距離が一定の値に達した時に計測を終了し、記録した腹力と押入距離の関係から自動的に皮下脂肪厚を算出し、即座に皮下脂肪厚計測装置の表示装置に結果を出力することができる。なお、皮下脂肪厚を算出する計算式は16名の被験者による臨床実験から得られた統計的根拠に基づいている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、皮下脂肪情報を計測する皮下脂肪厚計測装置に関し、更にはこの装置を用いた皮下脂肪厚計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮下脂肪厚を計測する方法としては、キャリパーを用いた方法(例えば下記特許文献1参照)や、近赤外光を用いた方法(例えば下記特許文献2参照)、超音波を用いた方法(例えば下記特許文献3参照)が知られている。
【0003】
しかしながら、従来のキャリパーを用いた方法や近赤外光を用いた方法では、正確に計測できる皮下脂肪厚が一定以下に限定され、メタボリックシンドローム特定健診の対象となる肥満患者の皮下脂肪厚を測定する方法として適していない。一方、超音波を用いた方法では、比較的正確な皮下脂肪厚を計測することが出来るが、装置が高価であり小規模な検診施設への普及は容易ではない。
【0004】
そこで、腹部の皮下脂肪厚と相関の高い計測値として腹力の活用が考えられる。例えば特許文献4には「腹力測定装置」として、一定深さのまで腹部を押したときの反力の強さを計測することができる定量的腹診装置に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−314145号公報
【特許文献2】特許第3035791号明細書
【特許文献3】特許第2953909号明細書
【特許文献4】特開2005−261546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献4に記載の技術は、プローブ先端部が腹部表面を一定の深さまで押し込んだ時点における腹部からの反力を計測する仕組みとなっている。しかしながら、やせ体型から肥満体型までの皮下脂肪厚を計測する場合、皮下脂肪厚の範囲は大きく異なるため、一定の深さに固定して計測することは不可能である。
【0007】
また、上記特許文献4に記載の技術は、プローブ先端部が腹部表面を一定の深さまで押し込んだ時点の一点の腹部からの反力を計測・記録する仕組みとなっているが、プローブ先端部が腹部表面を押し込む深さと、腹部からの反力は非線形の関係を有しており、一点のみの計測では不十分である。
【0008】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑み、やせ体型から肥満体型までを含めた広い皮下脂肪厚範囲を正確に計測することが出来、かつ簡易で安価に構成できる皮下脂肪厚計測装置、皮下脂肪厚計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の第1の観点に係る皮下脂肪厚測定装置は、体表面を押圧する押圧部と、前記体表面が前記押圧部を押し返す腹力を検知し測定電圧として出力する圧センサ部と、前記押圧部が前記体表面に押入した距離を検知し信号として出力する距離センサ部と、前記圧センサ部から得られる測定電圧と前記距離センサ部から得られる信号を演算処理して皮下脂肪厚を算出する演算部と、前記皮下脂肪厚を表示するための表示部とを有する。
【0010】
また上記課題を解決する本発明の第2の観点に係る皮下脂肪厚測定装置は、体表面を押圧する押圧部と、前記体表面が前記押圧部を押し返す腹力を検知し長さを変える圧検知バネ部と、前記押圧部が前記体表面に押入した距離を検知し信号として出力する距離センサ部と、前記圧検知バネ部が収縮した変位長を検知し信号として出力するバネ変位センサ部と、前記距離センサ部と前記バネ変位センサ部から得られる信号を演算処理して皮下脂肪厚を算出する演算部と、前記皮下脂肪厚を表示するための表示部とを有する。
【0011】
なお、限定されるわけではないが、上記第1の観点又は第2の観点に係る皮下脂肪厚測定装置において、体表面が前記押圧部を押し返す腹力と、押圧部が体表面に押入した距離の関係から次式(1)及び(2)を利用して皮下脂肪厚を算出することが好ましい。
【0012】
K=F(Lmax×A)/(Lmax×A) (1)
S=1/(K×B+C) (2)
【0013】
なお上記式中、Sは皮下脂肪厚(mm)を、Kは弾力係数(N/mm)を、F(L)は、体表を距離L(mm)押し込んだときの腹部からの反力(N)を、Lmaxは最大荷重を掛けたときの体表の押し込み距離(mm)を、A、B及びCは所定の定数をそれぞれ示す。
【発明の効果】
【0014】
以上、本発明により、やせ体型から肥満体型までを含めた広い皮下脂肪厚範囲を正確に計測することが出来、かつ簡易で安価に構成できる皮下脂肪厚計測装置、皮下脂肪厚計測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は実施形態1に係る皮下脂肪厚計測装置の内部構造を示す概念図であり、(b)は(a)中符号Aで示される方向への矢視図である。
【図2】実施形態1に係る皮下脂肪厚計測装置の外部構造を示す概念図である。
【図3】実施形態1に係る皮下脂肪厚計測装置の信号伝達構造を示す概念図である。
【図4】超音波診断装置を用いて計測した皮下脂肪厚の逆数と、弾力係数の関係分布を示す図である。
【図5】実施形態2に係る皮下脂肪厚計測装置の内部構造を示す概念図である。
【図6】実施形態2に係る皮下脂肪厚計測装置の信号伝達構造を示す概念図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る皮下脂肪厚測定装置について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態の例示にのみ限定されるわけではない。
【0017】
(実施形態1)
図1(a)は本実施形態に係る皮下脂肪厚測定装置を示す概念図であり、図1(b)は図1(a)中符号Aで示される方向への矢視図、図2は装置の外観、図3は装置内部の信号処理の構造を示した図である。図1(b)、図2、図3において図1(a)に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
【0018】
図1(a)に示す実施例の皮下脂肪厚測定装置1は、背部19に押圧部10を押入することにより背部19表面から加重を受ける押圧部10、反力センサ12、芯部11、操作部18と、押入操作から元の状態に戻すための戻しバネ14と、押入深さを検出する距離センサ13と、押入深さを制限する芯部動き制御ツメ15、芯部動き制御スリット16と、背部19表面位置を検出する体表接触面17から構成されている。また図2に示すように皮下脂肪厚測定装置1の表面には計測結果を表示する表示装置20を備え、図3に示すように皮下脂肪厚測定装置1の内部には演算装置31と記憶装置32、信号増幅装置33を備える。
【0019】
計測開始時には体表接触面17と押圧部10を背部19表面へ接触させ操作部18に全く力を加えない状態を初期状態とする。この時、戻しバネ14により押圧部10、反力センサ12、芯部11、操作部18は引き戻され、芯部動き制御ツメ15が芯部動き制御スリット16の右端に接触することにより固定される。このとき押圧部10の先端と体表接触面17は同一平面上にあり背部19への押入距離を0とすることが出来る。計測開始後は操作部18を徐々に押し込むことにより、押圧部10が背部19へ押入される。このとき背部19表面からの加重は反力センサ12によって検出され、また押入深さは距離センサ13によって検出される。
【0020】
反力センサ12によって検出された加重は信号増幅装置33によって増幅され、演算装置31へと入力する。また同時に距離センサ13の信号も演算装置31へと入力され、それらの計測値は記憶装置32に記録される。
【0021】
反力センサ12が一定の加重を検出したとき、あるいは芯部動き制御ツメ15が芯部動き制御スリット16の左端に接触する距離を距離センサ13が検出したとき、演算装置31は計測終了の合図を発する。計測終了の合図は表示装置20に出力してもよいし、スピーカなどの音源から合図の音を出力してもよい。
【0022】
計測終了後、演算装置31は記憶装置32から計測データを読み出して解析し、皮下脂肪厚を算出する。算出した皮下脂肪厚を表示装置20に出力して計測手順は完了となる。皮下脂肪厚測定装置1は背部に対して使用すると良好な皮下脂肪厚を算出できる根拠を以下に示す。
【0023】
まず、弾力係数を以下の式(1)によって算出する。
【0024】
K=F(Lmax×A)/(Lmax×A) (1)
【0025】
なおここで、Kは弾力係数(N/mm)、F(L)は体表を距離L(mm)押し込んだ時の腹部からの反力(N)、Lmaxは最大荷重掛けた時の体表の押し込み距離(mm)、A は所定の定数をそれぞれ示す。
【0026】
16名の被験者を対象に後背部の皮下脂肪厚の正解値を、超音波診断装置を用いて計測した。超音波診断装置のプローブを腰椎部にあて、体表から腰椎までの距離を計測した。超音波診断装置を用いて計測した皮下脂肪厚Sの逆数1/Sを算出し、同じ箇所に対して皮下脂肪厚計測装置1を用いて算出した弾力係数Kとの関係をプロットしたところ図4のような分布となった。
【0027】
図4からみて分かるとおり、皮下脂肪厚の逆数1/Sと弾力係数Kには高い線形相関性(相関係数=0.835)があることが分かった。
【0028】
従って上記式(1)で得られた弾力係数Kから皮下脂肪厚を算出する式は以下の通りとなる。
【0029】
S=1/(K×B+C) (2)
【0030】
ここで、Sは皮下脂肪厚(mm)、B、Cは所定の定数である。ここで上記式(1)における反力と押し込み距離の関係F(L)は、反力センサ12と距離センサ13が計測して記憶装置32に保存された値そのものであり、最大加重Lmaxと定数 A、B、Cは事前に決定していることから、上記式(2)の皮下脂肪厚Sを演算装置31によって算出することが出来る。
【0031】
以上、本実施形態により、やせ体型から肥満体型までを含めた広い皮下脂肪厚範囲を正確に計測することが出来、かつ簡易で安価に構成できる皮下脂肪厚計測装置、皮下脂肪厚計測方法を提供することができる。
【0032】
(実施形態2)
次に、本発明の第2の実施形態に係る皮下脂肪測定装置について説明する。図5は本実施形態に係る皮下脂肪厚装置を示す概念図であり、図5、図6において図1(a)、(b)、図2、図3に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
【0033】
図5に示す皮下脂肪厚測定装置1は、検知バネ51とバネ変位センサ50を用いることで実施例1における反力センサを省略している。一般に反力センサは精度を維持するために専用の信号増幅装置33を必要とするが、実施例2はそれらを省略することにより装置全体の構成をより簡略化することが出来る。
【0034】
上記実施形態1と本実施形態との違いは計測開始後に表れる。本実施形態において計測開始後は操作部18を徐々に押し込むことにより、押圧部10が背部19へ押入される。このとき背部19表面からの加重によって検知バネ51が収縮する。このとき、押圧部10の押入深さは距離センサ13によって検出され、押圧部10の押入深さに検知バネ51の収縮長さを加算した距離がバネ変位センサ50によって検出される。
【0035】
従って検知バネ51の収縮変位はバネ変位センサ50と距離センサ13の差分から算出することができる。検知バネとして精度よく校正された線形弾性バネを用いることにより、検知バネ51の収縮変位から検知バネ51にかかる加重、つまり背部19表面からの加重を算出することができる。
【0036】
本実施形態では図6に示すとおり距離センサ13の信号とバネ変位センサ50の信号が演算装置31へと入力され、それらの計測値は記憶装置32に記録される。上記実施形態1と同じ方法で計測終了を検出した後、演算装置31は記憶装置32に記録された数値から、腹部からの反力と押し込み距離と計算し、上記式(1)、(2)の計算式を用いて皮下脂肪厚を算出する。
【0037】
以上、本実施形態により、やせ体型から肥満体型までを含めた広い皮下脂肪厚範囲を正確に計測することが出来、かつ簡易で安価に構成できる皮下脂肪厚計測装置、皮下脂肪厚計測方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、皮下脂肪厚測定装置として産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0039】
1…皮下脂肪厚計測装置、10…押圧部、11…芯部、12…反力センサ、13…距離センサ、14…戻しバネ、15…芯部動き制御ツメ、16…芯部動き制御スリット、17…体表接触面、18…操作部、19…背部、20…表示装置、31…演算装置、32…記憶装置、33…信号増幅装置、50…バネ変位センサ、51…検知バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体表面を押圧する押圧部と、
前記体表面が前記押圧部を押し返す腹力を検知し測定電圧として出力する圧センサ部と、
前記押圧部が前記体表面に押入した距離を検知し信号として出力する距離センサ部と、
前記圧センサ部から得られる測定電圧と前記距離センサ部から得られる信号を演算処理して皮下脂肪厚を算出する演算部と、
前記皮下脂肪厚を表示するための表示部と、を有することを特徴とする皮下脂肪厚測定装置。
【請求項2】
体表面を押圧する押圧部と、
前記体表面が前記押圧部を押し返す腹力を検知し長さを変える圧検知バネ部と、
前記押圧部が前記体表面に押入した距離を検知し信号として出力する距離センサ部と、
前記圧検知バネ部が収縮した変位長を検知し信号として出力するバネ変位センサ部と、
前記距離センサ部と前記バネ変位センサ部から得られる信号を演算処理して皮下脂肪厚を算出する演算部と、
前記皮下脂肪厚を表示するための表示部と、を有することを特徴とする皮下脂肪厚測定装置。
【請求項3】
体表面が前記押圧部を押し返す腹力と、押圧部が体表面に押入した距離の関係から次式を利用して皮下脂肪厚を算出する請求項1又は2記載の皮下脂肪厚測定装置。
K=F(Lmax×A)/(Lmax×A)
S=1/(K×B+C)
(上記式中、Sは皮下脂肪厚(mm)を、Kは弾力係数(N/mm)を、F(L)は、体表を距離L(mm)押し込んだときの腹部からの反力(N)を、Lmaxは最大荷重を掛けたときの体表の押し込み距離(mm)を、A、B及びCは所定の定数をそれぞれ示す。)







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−61129(P2012−61129A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207622(P2010−207622)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】