説明

皮膚の状態又は疾患、癌、並びに筋/骨格再生の超音波治療

本発明は、超音波を加えることにより、皮膚及び/又は経時老化を含む皮膚の状態若しくは疾患を治療する方法に関する。本発明によれば、細胞に超音波をかけることにより、cdx1遺伝子の上方制御を活性化する方法が提供される。本発明によれば、細胞に超音波をかけることにより、stra8遺伝子の上方制御を活性化する方法も提供される。さらに、本発明によれば、超音波で細胞の上方制御を行うことにより、cdx及びstra8遺伝子を活性化する方法が提供される。細胞は、理想的には人体細胞であるが、任意の動物の細胞とすることもできる。本発明のさらなる態様では、細胞に超音波を当てることにより、細胞内におけるレチノイン酸(RA)合成を増加させる方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキンケア方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、皮膚疾患及び通常の老化(経時老化)、並びに外因性要因(環境的)により劣化しやすい。経時老化以外の皮膚疾患は、ざ瘡、毛包性/病変性丘疹、光線性角化症、油性肌、及び酒さ(resacea)を含む。
【0003】
経時老化により、皮膚の薄層化が進み全般的な劣化を生じる。皮膚が自然に老化するにつれて、皮膚を供給する細胞及び血管が減少する。さらに、真皮/表皮結合の扁平化もあり、機械的な抵抗が弱くなる。老化すると、顔の小じわ、しわ、鮫肌、黄変若しくは黄ばみ、たるみ、斑点形成(色素沈着過度)、しみ、及び老化の一般的な徴候がますます増加する。
【0004】
外因性の要因は、主に、日光に晒すことにより引き起こされるものである。その変化は、肌の白い人において非常に顕著であり、容易に日焼けして不完全な黄褐色になる。光損傷による結果は、それが加速度的な割合で生ずることを除いて老化による結果と同一であり得る。しわ、黄変、鮫肌、斑点形成及び色素沈着過度は、すべて日光損傷と関連する。多くの人が非常に懸念するのは、しわへの影響である。その結果、しわの除去を目的とした美容治療を報告する多くの論文が出されている。
【0005】
近年、レチノイドを含むスキンケア配合物が非常に顕著になってきた。ビタミンA酸又はトレチノイン(Tretinoin)としても知られているレチノイン酸は、ざ瘡の治療用としてよく知られている。さらに最近では、レチノイドは、光老化及び日光損傷に対する治療法として示唆されている。例えば、特許文献1は、皮膚の老化を阻止するための軟化性賦形剤中のビタミンA酸を開示する。特許文献2は、ヒトの皮膚における日光損傷を復元し、回復させるために有効な幾つかのレチノイドを示唆する。特許文献3は、炎症を回復させる量のグリコール酸と組み合わせたレチナールの使用を述べている。
【0006】
ビタミンA(レチノール)は、魚肝油、肝臓、卵黄、バター、及びクリームに主として見出される脂溶性ビタミンである。緑黄色野菜は、βカロチン及び他のプロビタミンカロチノイドを含み、それらは、細胞内でレチノールに変換される。レチノールは、生体内では合成できず、食物から取る必要がある。レチノールは、様々の細胞内で、生物学的に活性な誘導体レチノイン酸(RA)に代謝される。レチノールの11-cis異性体(ビタミンA1アルデヒド)は、タンパク質成分と組み合わせて、夜間視、昼間視、及び色覚に必要な、網膜中の光受容体色素の補欠分子族団を形成する。レチノール、RA、及び他のレチノイドはまた、上皮細胞分化に影響する。
【0007】
レチノイドは、三千を超えるメンバーを包含する大きな分子群である。レチノイド群のメンバーであるレチノイン酸は、発現中に特定の細胞の運命を決定する、また腫瘍細胞分化を誘導することにより癌を治療する能力を有するモルフォゲンである。レチノイド酸は、レチノイン酸受容体(RAR)を結合し、レチノイドX受容体(RXR)と共にヘテロ二量体を形成させ、遺伝子転写を誘導する。転写活性化におけるレチノイドのよく認められている役割に加えて、幾つかのレチノイドは、細胞の第2のメッセンジャーに対して直接影響を与えることができる。
【0008】
影響を受けるターゲット細胞に対して高度の特異性にまで免疫毒素の毒性を高めるさらなる療法は、これらの免疫療法作用薬を用いるヒト疾患の治療を非常に容易にするはずである。
【0009】
レチノール又は他のレチノイドを結合する幾つかの担体タンパク質が特定されている。その担体タンパク質は、小さな(14〜16kDa)サイトゾルタンパク質の群である脂肪酸結合タンパク質と類似のものであり、長鎖脂肪酸、脂肪酸アシル化補酵素A(CoA)誘導体、及び他の疎水性分子を結合する。2つの細胞内タンパク質、すなわち、細胞内レチナール結合タンパク質(CRBP)及び細胞内レチナール結合タンパク質タイプII(CRBP II)は、ビタミンA代謝又は機能に関与する細胞内で見出される。数多くの器官及び組織中で発現されるCRBPは、特有の代謝酵素及び細胞核内の特有の結合部位にレチナールをデリバリし、また血液/器官関門を横断するレチナールの経上皮移動に関与する。主に小腸内で発現されるCRBP IIは、ビタミンAの腸管吸収に必要であると考えられる。
【0010】
レチノイド結合タンパク質は、結合されたレチノイド分子を特有の代謝経路に送るものと考えられる。レチノイド結合タンパク質はまた、リガンド非結合のレチノールの損傷作用(膜破壊など)から細胞を保護し、また非酵素的な副反応(異性化反応及び酸化など)からの構造的に不安定なレチノールを同様に保護する。レチノイド結合タンパク質はまた、レチノイド濃度のセンサとして機能し、レチノイド代謝の修飾物質として働くと考えられる(Napoli、J.L.(1996)の非特許文献1)。レチノイド結合タンパク質は、ドブネズミ(Norway rat)及びヒトからのCRBP(Levin,M.S.他(1987)の非特許文献2、Colantuoni,V.他(1985)の非特許文献3、また豚及びヒトからのCRBP II(Perozzi,G.他(1993)の非特許文献4、Loughney,A.D.他(1995)の非特許文献5)を含む様々なソースから複製され、特徴付けられている。
【0011】
レチノイドは、未成熟な造血性及び上皮性細胞タイプにおける分化を誘導するので、それらは潜在的に抗癌作用薬である。前骨髄細胞系は、レチノイン酸を用いたインキュベーションにより、形態学的にまた機能的に成熟した顆粒球に分化するように誘導された。レチナール、及び酢酸レチニルを含む他のレチノイドも分化を誘導するが、より高い濃度が必要であった。レチノールは、表皮及び他の層別された扁平上皮から得られる培養されたケラチノサイトの分化に影響することが知られている。肺癌及び心臓血管疾患に対する予防及び/又は治療効果を有するレチノイド及びカロチノイドが提案されている。
【0012】
レチノイドは、幾つかの発癌モデルシステムにおいて、また被験者において腫瘍の発生を抑制するのに効果のあることが分かっている。
【特許文献1】米国特許第4,603,146号明細書
【特許文献2】米国特許第4,877,805号明細書
【特許文献3】欧州特許第0631772号明細書
【非特許文献1】FASEB J.10:993〜1001頁
【非特許文献2】J.Biol.Chem.262:7118〜7124頁
【非特許文献3】Biochem.Biophys.Res.Commun.130:431〜439頁
【非特許文献4】J.Nutr.Biochem.4:699〜705頁
【非特許文献5】Hum.Reprod.10:1297〜1304頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の一目的は、皮膚を治療するための新規の方法を提供することである。
【0014】
本発明の一目的はまた、細胞及び/又は体内のレチノイン酸を増加させるための新規な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、細胞に超音波をかけることにより、cdx1遺伝子の上方制御を活性化する方法が提供される。
【0016】
本発明によれば、細胞に超音波をかけることにより、stra8遺伝子の上方制御を活性化する方法も提供される。
【0017】
さらに、本発明によれば、超音波で細胞の上方制御を行うことにより、cdx及びstra8遺伝子を活性化する方法が提供される。
【0018】
細胞は、理想的には人体細胞であるが、任意の動物の細胞とすることもできる。
【0019】
本発明のさらなる態様では、細胞に超音波を当てることにより、細胞内におけるレチノイン酸(RA)合成を増加させる方法が提供される。
【0020】
超音波は、細胞及び/又は体内のレチノールからレチノイン酸(RA)の合成/代謝を驚くほど増加させることが分かってきた。
【0021】
本発明の他の実施形態では、細胞、皮膚、及び/又は体に超音波で処置し/超音波を当てることにより、大幅な刺激作用なしに皮膚の輝きを増加させるための、またしわ、小じわ、鮫肌、黄変、たるみ、斑点形成(色素沈着過度)、及びしみを含む経時老化状態と、乾燥皮膚、皮膚色の退色、ざ瘡、乾癬、毛包性/病変性丘疹、光線性角化症、油性肌、及び酒さを含む皮膚疾患とを治療するための方法が提供される。
【0022】
本発明の他の態様では、細胞を超音波で処置し/超音波に当てることにより、乾燥皮膚、ざ瘡、光損傷皮膚、しわの外観、しみからなる群から選択された皮膚状態を治療し、角質層の柔軟性を増加させ、皮膚色を白くし、皮脂を制御し、及び敏感な皮膚の異常生成を緩和する方法が提供される。
【0023】
本発明のさらなる態様では、組織及び/又は体を超音波で処置し/超音波を当てることにより、脱毛症及び白血病を治療する方法が提供される。
【0024】
本発明の他の態様では、細胞、組織、及び/又は体に超音波を当てるステップを含む、ヒト及び/又は動物における骨成長を刺激し、骨折、偽関節、及び同様の異常を治癒するための方法が提供される。
【0025】
細胞、組織、例えば、皮膚、及び/又は体に超音波を当てるステップにより、しわ、小じわ、鮫肌、黄変、たるみ、斑点形成(色素沈着過度)、しみ、乾燥皮膚、皮膚色の退色、ざ瘡、乾癬、毛包性/病変性丘疹、光線性角化症、油性肌、及び酒さなどの経時老化状態を治療する方法がまた提供される。
【0026】
本発明のさらなる態様では、細胞、組織、及び/又は体に超音波を当てるステップを含む、ヒト及び/又は動物における軟骨成長を刺激し、関節炎、及び同様の異常を治癒するための方法が提供される。
【0027】
細胞、組織、又は体に超音波を当てるための手段を含み、軟骨及び/又は皮膚、及び上記の任意の状態を治療するための装置がまた提供される。
【0028】
本発明の動作で使用される超音波トランスデューサは、患者の皮膚又は体と適切に接触し、ターゲット部位に対して超音波パルスを送信することができる。超音波は、低強度の治療用超音波であることが適切である。
【0029】
超音波の規定周波数は1.5MHzであり、各パルス幅は10〜2000マイクロ秒の間で変化し、またパルスの反復率は100〜1000Hzの間で変化する。超音波のパワーレベルは、平方センチメートル当たり100ミリワット未満に維持される。
【0030】
超音波パルスで送られる高周波は、1.3〜2MHzの範囲の周波数を有し、また100〜1000Hzの範囲のレートで生成されるパルスからなり、各パルスが、10〜2000マイクロ秒の範囲の持続期間を有することが適切である。
【0031】
しかし、本発明を動作させるための治療強度を有する任意の超音波周波数であれば適している。
【0032】
典型的な日常の治療では、理想的には1〜55分の範囲の持続期間を有するが、10〜20分の持続期間も好ましい。他の持続期間を使用することもできる。
【0033】
細胞、組織、例えば、皮膚、及び/又は体に超音波を当てるステップにより、レチノイン酸の細胞内反応/活性を刺激する方法がまた提供される。
【0034】
細胞、組織、例えば、皮膚、及び/又は体に超音波を当てるステップにより、筋/骨格を再生する方法が提供される。
【0035】
次に本発明を、図1及び図2を参照し、例示のためだけであるが以下の例によって説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
方法
対照に対して、細胞には超音波が20分間当てられ、また遺伝子stra8(図1)及びcdx(図2)の発現量/発現度が、処置直後に(0分)、処置後20分で(20分)、及び処置後40分で(40分)測定された。使用された超音波は、Smith & Nephew Exogen Ultrasoundデバイスから提供された。使用された細胞は、ST2細胞であり、長期間の骨髄培養から得られたマウスの間質細胞である。
【0037】
結果
超音波で細胞を処置すると、その2つの遺伝子の発現において2倍の増加が見られることが分かった。
【0038】
【表1】

【0039】
結論
この2つの遺伝子の制御はレチノイン酸の生産性と特に関連しており、従って、超音波は細胞内及び体内におけるレチノイン酸の生産を増加させる。体内でレチノイン酸量が増加すると、上記で概略説明した有益な効果が得られる。
【0040】
他の実験においては、3セットの(対照に対する)細胞は、20分間超音波に当てられ、処置後、0分、20分、及び40分でそのRNAを抽出した。その超音波はExogenデバイスにより提供された。細胞はST2であり、長期間の骨髄培養から得られたマウスの間質細胞である。
【0041】
RNAは、標準の技法によりDNAに変えられ、その結果得られたDNAは、(Super Array社から供給される)Standard Gene Arrayに挿入され、得られた反応標識は、以下の遺伝子(CDx1、Stra8、En1、Crbp1、Crbp1、Hoxa1、Stra6)に対するDNA結合の放射線検出法(Radiograph detector method)を用いて測定された。
【0042】
得られた放射線写真(Radiograph)(図3を参照のこと)は、上記の遺伝子のすべてが、超音波に当てられた3セットの細胞により上方制御されていることを示す。Cyc A遺伝子は、ハウスキーピング/制御遺伝子である。
【0043】
従って、レチノイン酸の遺伝子経路における9個の遺伝子のうち7個が、超音波に当てられ/処置された細胞内で活性化され/上方制御された。
【0044】
それは、超音波に当てられた細胞がレチノイン酸を生成し、従って、超音波は皮膚を治療し保護するために使用できることを示す。超音波は、皮膚の輝きを増すために使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】遺伝子stra8の上方制御に対する超音波の効果を示す図である。
【図2】遺伝子cdxの上方制御に対する超音波の効果を示す図である。
【図3】遺伝子のすべてが、超音波に当てられた3セットの細胞により上方制御されていることを示す放射線写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞又は組織に超音波をかけることにより、cdx1遺伝子の上方制御を活性化する方法。
【請求項2】
細胞又は組織に超音波をかけることにより、Stra8遺伝子の上方制御を活性化する方法。
【請求項3】
Cdx1、Stra8、En1、Crbp1、Crbp2、Hoxa1、Stra6の群から選択された遺伝子のうちの任意の1つの上方制御を活性化する方法。
【請求項4】
細胞又は組織に超音波を当てるステップにより、細胞又は組織におけるレチノイン酸合成を増加させる方法。
【請求項5】
細胞、組織、例えば皮膚、及び/又は体に超音波を当てるステップにより皮膚の輝きを増加させる方法。
【請求項6】
細胞、組織、例えば皮膚、及び/又は体に超音波を当てるステップにより、皮膚を治療する方法。
【請求項7】
細胞、組織、例えば皮膚、及び/又は体に超音波を当てるステップにより、経時老化状態を治療する方法。
【請求項8】
細胞、組織、例えば皮膚、及び/又は体に超音波を当てるステップにより、しわ、小じわ、鮫肌、黄変、たるみ、斑点形成(色素沈着過度)、しみ、乾燥皮膚、皮膚色の退色、ざ瘡、乾癬、毛包性/病変性丘疹、光線性角化症、油性肌、及び酒さなどの経時老化状態を治療する方法。
【請求項9】
細胞、組織、例えば皮膚、及び/又は体に超音波を当てるステップにより、乾燥皮膚、皮膚色の退色、ざ瘡、乾癬、毛包性/病変性丘疹、光線性角化症、油性肌、及び酒さなどの皮膚疾患を治療する方法。
【請求項10】
細胞、組織、及び/又は体に超音波を当てるステップにより、癌を治療又は予防する方法。
【請求項11】
細胞、組織、例えば皮膚、及び/又は体に超音波を当てるステップにより、レチノイン酸細胞反応/活性を刺激する方法。
【請求項12】
細胞、組織、例えば皮膚、及び/又は体に超音波を当てるステップにより、筋/骨格を再生する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2008−502401(P2008−502401A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−516029(P2007−516029)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【国際出願番号】PCT/GB2005/002342
【国際公開番号】WO2005/123190
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(391018787)スミス アンド ネフュー ピーエルシー (79)
【氏名又は名称原語表記】SMITH & NEPHEW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】