説明

皮膚放射装置

放射面積(12)内のヒトの皮膚に変調された光子放射線(14)を供する皮膚放射装置が記載されている。当該装置は、光子放射線を発生させる光子放射線源(18)、並びに、前記放射面積(12)内において、300nm〜700nm、1900nm〜2000nm、及び2400nm〜10000nmの範囲の波長の光子放射線の全出力密度を変調させる変調器(16)を有する。前記光子放射線の全出力密度は、少なくとも0.1Hzで最大でも10Hzの周波数で、互いに異なる第1準位と第2準位との間で変調される。前記第1準位の全出力密度は少なくとも20mW/cm2で、前記第2準位の全出力密度は最大でも前記第1準位の全出力密度の1/4である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚放射装置に関する。
【0002】
本発明はさらに、放射面積内のヒトの皮膚に光子放射線を供する方法に関する。
【0003】
本発明はさらに、光子放射線プロファイルに関する。
【背景技術】
【0004】
皮膚の主な機能は、人体の温度を制御することで、より重要なことは、外界の攻撃から対して自分の内臓を保護することである。皮膚は、人体に対する衝撃及び損傷に対する保護体である。皮膚は3つの機能層で構成される。前記3つの機能層とは、表皮、真皮、及び下皮又は皮下組織である。上記機能層の各々は、それぞれ独自の機能を有している。
【0005】
表皮は最上部層であり、通常は15〜20層の細胞で構成される。表皮は、表皮の底部で生成され、かつ2週間移動した後に表面に現れる細胞の誕生、生存、及び死を連続的に経験する。
【0006】
真皮は、繊維(コラーゲン及びエラスチン)を生成する細胞で構成され、かつ皮膚の弾性支持体を収容する。真皮内に設けられた神経端部は、温度変化を検出し、かつ圧力、痛み、及び振動を感じる受容体として機能する。暖かさを検知する受容体は、この層内であって皮膚の表面から約0.3〜0.6mmの深さに存在する。
【0007】
最後に皮下組織は、クッション及び人体のためのエネルギーを蓄える貯蔵位置として機能する。
【0008】
光による処理は、所定時間及び場合によっては1日のうちの特定の期間での、日光への曝露、又は、レーザー、LED、蛍光ランプ、二色ランプ、若しくは非常に明るい全スペクトルの光を用いた特定の波長の光への曝露で構成される。前記光による処理は、尋常性ざそう(ニキビ)、季節性情動障害、新生児黄疸を処理において有効であることが照明され、かつ睡眠相後退症候群の標準的な処理領域の一部である。前記光による処理は、非季節性うつ病にも有効であることが示されてきた。たとえば乾癬のような皮膚の状態に対するUVA及びUVB放射線による光線療法は、実証可能な利点である。光線療法の原理は、ノーベル賞受賞者であるN.R.フィンセンによって19世紀に確立された。フィンセンは、皮膚病の治療に光を用いた。光による処理の発展は、元々は外科手術で用いられたレーザー治療の導入によるところが大きい。
【0009】
波長範囲に依存して、皮膚内での光吸収は主としてメラニン、ヘモグロビン、及び水によって引き起こされる。メラニンは、真皮から外側へ延在する表皮及び体毛中に存在するメラニン細胞によって生成される色素である。ヘモグロビンは、特に真皮内の血管内の血液中に存在する。水は、皮膚の各機能層内に相当量存在する。一般的には、UV及び青色範囲での光子放射線は、表皮内のメラニン及びヘモグロビンによって実質的に吸収される。長い波長では、放射線の侵入深さが増大し、メラニン及びヘモグロビンの吸収の減少による影響を受ける可能性が高い(図1A及び図1Bを参照のこと)。しかし1500nmよりも長波長では、水による吸収が相当大きくなることで、上記波長の光の侵入深さの減少に寄与することになる(図1Cを参照のこと)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、新たな用途の可能性を有する皮膚放射装置を供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、放射面積内のヒトの皮膚に、新たな用途の可能性を有する光子放射線を供する方法を供することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、新たな用途の可能性を有する光子放射線プロファイルを供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1態様によると、皮膚放射装置が供される。当該皮膚放射装置は、当該装置の放射面積内のヒトの皮膚に、変調された光子放射線を供する。当該装置は、前記光子放射線を発生させる光子放射線源、並びに、少なくとも前記放射面積を分割した領域内において、少なくとも0.1Hzであって最大でも10Hzの周波数で、300nm〜700nm、1900nm〜2000nm、及び2400nm〜10000nmの波長範囲の光子放射線の全出力密度を、互いに異なる値である第1の値と第2の値との間で変調させる変調器を有する。
【0014】
前記出力密度の第1の値の大きさは、少なくとも20mW/cm2である。前記出力密度の第2の値の大きさは、最大でも前記第1の値の1/4である。少なくとも20mW/cm2の出力密度を有する光子放射線は、前記皮膚の暖かさを感じる受容体によって明確に検知される。前記皮膚が前記光子放射線を十分に吸収すると、0.1Hz〜10Hzの範囲の周波数で、前記第1準位と第2準位との間での光子放射線の出力密度を変調する結果、前記皮膚へのマッサージ効果が認識される。
【0015】
前記放射面積とは、当該装置が使用者の皮膚に対して所定の位置及び配向をとるときの、前記光子放射線源によって照射されうる前記皮膚の面積である。よって前記全出力密度変調は、全放射面積における全出力密度の同時変調を有して良いが、必ずしも同時変調を有していなくても良い。あるいはその代わりに、前記放射面積はさらに分割された面積に区分されて良い。さらに分割された面積の各々は、前記放射線源の各対応する光子放射線モジュールに関連づけられる。前記光子放射線モジュールは個別的に変調される。さらにあるいはその代わりに、放射線源の放射線ビームは、毎回前記放射面積内の各異なるさらに分割された面積が照射されるように、前記放射面積内の皮膚の表面全体にわたって掃引されて良い。如何なる場合でも、効果は、前記皮膚の面積−前記放射面積のさらに分割された面積であって良い−に、特定波長範囲にわたって積分された出力密度が変調する光子放射線が供されることである。
【0016】
前記マッサージ効果の実現にとって最も適切な光子放射線は、300〜700nm、1900nm〜2000nm、及び2400nm〜10000nmの範囲の波長を有する。これらの範囲の波長を有する光子放射線は、前記皮膚内の暖かさを感じる受容体によって直接吸収されるか、又は表皮によって吸収される。このとき熱は、前記暖かさを感じる受容体へ急速に伝わる。
【0017】
特に、1900〜2000nm及び2400〜10000nmの範囲は、前記皮膚によるこれらの範囲の波長を有する光子放射線の反射が、前記皮膚の種類によらず相対的に低いため、本発明の第1態様による装置での使用にとって有利である。
【0018】
特に適しているのは、300〜500nm、1900〜2000nm、2400〜2600nm、及び3600〜4200nmの範囲である。これらの波長範囲の光子放射線の大部分が、前記暖かさを感じる受容体を有する皮膚の領域内で直接吸収される。特に、1900〜2000nm、2400〜2600nm、及び3600〜4200nmの範囲の光子放射線は、前記皮膚によるこれらの範囲の波長を有する光子放射線の反射が、前記皮膚の種類によらず相対的に低いため有利である。
【0019】
特定の出力密度とは、前記皮膚に照射される光子放射線の出力密度と解される。一部の種類の皮膚については、比較的多い割合の光子放射線が前記皮膚によって反射され得る。従ってある実施例では、前記第1の値は少なくとも50mW/cm2である。その実施例では、300〜500nmの波長範囲での光子放射線もまた、その放射線に対して相対的に高い反射率を有する皮膚を有するヒトによっても明確に知覚される。
【0020】
ある実施例では、前記出力密度の第1の値は最大でも200mW/cm2である。かなり大きな値−たとえば500mW/cm2よりも高い値−は、相対的に高い出力消費である一方で、ヒトに対してはもはや快適な効果に寄与しないことを意味する
様々な光子放射線源−低圧放電ランプ、発光ダイオード(LED)、クラスタ放電ランプ等−が用いられて良い。また十分速く冷却される場合には一部の種類の白熱ランプ−たとえばICXフォトニクスのReflect IR-P1N型白色ランプ−が用いられても良い。しかしLEDは特に、放出された前記光子放射線が、時間の関数として正確に制御可能で、かつ相対的に高い効率を有するので、有利である。
【0021】
また前記変調器は様々な方法によって実現されて良い。一の実施例では、前記変調器は、前記光子放射線源の周期的運動を生じさせるアクチュエータである。そのようなアクチュエータの周期的運動により、生成された前記光子放射線が、前記放射面積内で動くさらに分割された面積に投影される。あるいはその代わりに、前記アクチュエータは、前記光子放射線源自体を動かす代わりに、光学系−前記光子放射線源から前記放射面積までの放射線路内のミラー−を動かして良い。繰り返しになるが光変調器−たとえば光シャッター−の他の実施例では、たとえばLEDデバイスが、開閉状態で変調される放射線路内に配置されている。そのため可動部品は不要である。
【0022】
好適実施例では、前記変調器は、前記光子放射線源に供給される電力の変調を有する。このことは、可動部品が不要となる点、及び、前記デバイスの平均電力消費が、前記光子放射線が生成された後に変調が印加される場合と比較して少ない点で有利である。他方、前記光子放射線が生成された後に変調が印加される実施例は、急速に変調することのできない光子放射線源−たとえば高圧放電ランプ及び大抵の白熱ランプ−を用いることが可能なことである。
【0023】
前記変調器が、前記光子放射線源へ供給される電力を変調させる実施例では、発光ダイオード(LED)が特に有利である。その理由は、前記光子放射線出力としての光子放射線源が容易に制御可能だからである。それでもなお、ある種の白熱ランプは、上述したように用いられて良い。
【0024】
ある実施例では、前記放射線源は、それぞれ異なる時間間隔で切り換えられる複数の放射線モジュールを有する。前記放射線源はたとえば10の放射線モジュールを有して良い。前記10の放射線モジュールの各々は、前記放射面積の各対応するさらに分割された面積内の皮膚を照射する。前記各対応するさらに分割された面積は、分離しても良いし、又は部分的に重なっても良い。様々な幾何学配置が可能である。たとえば前記放射線モジュールは、複数の同心円からなる組又は複数の平行な細片からなる組を形成して良い。前記放射線源は、放射線モジュールが、該モジュールに先行して動作するモジュールがオフ状態に切り換えられるときにオン状態になる動作モードを有して良い。シーケンス中の最後の放射線モジュールがオフ状態に切り換えられるとき、前記放射線モジュールは再びオン状態になる。放射線モジュール−たとえば細片−を、その放射線モジュールに先行するモジュール−たとえば前記細片に先行する細片−がオフ状態に切り換えられるときにオン状態に切り換える代わりに、前記放射線モジュールがオン状態に切り換えられる期間が重なっても良い。あるいはその代わりに、放射線モジュールがオフ状態に切り換えられる時点と、次の放射線モジュールがオン状態に切り換えられる時点との間で、ある程度の時間の経過があっても良い。
【0025】
他の実施例では、前記光子放射線の出力密度の準位の設定は、時間の関数として制御される。ある実施例では、暖かさの検知に対して前記皮膚の感受性を適応させるように補償するため、前記第1準位の大きさは徐々に増大する。
【0026】
これは、放射線源が、互いに異なる時間間隔でオン状態に切り換えられる複数の放射線モジュールを前記有する実施例にも適用可能である。前記実施例では、たとえば第1周期では、各連続する放射線モジュールは、より高い準位で起動されて良い。それにより前記の高い準位で起動された放射線モジュールは、該モジュールに先行するモジュールよりも高い出力密度を前記皮膚に供する。第2周期では、前記第1周期に続いて、各連続する放射線モジュールは、より低い電力で駆動されて良い。このパターンが繰り返されて良い。
【0027】
前記の暖かさを感じる受容体によって直接検知される変調された光子放射線−たとえば300〜700nm、1900〜2000nm、及び/又は2400〜10000nmの波長範囲の放射線−(以降、1次放射線と呼ぶ)が、前記マッサージ効果を知覚するのに十分な程度変調される場合には、前記1次放射線は、追加放射線−たとえば治療又は他の効果を有する光子放射線−と結合されて良い。前記追加放射線が、前記の1次放射線の波長範囲のうちの1つの範囲内である場合、前記追加放射線は、前記1次放射線が前記マッサージ効果を抑制することを防止するように、前記1次放射線と同期するように変調されて良い。つまり、前記追加放射線は、前記変調器によって生じた変調と同期するように変調される。これもまた、前記1次放射線及び追加放射線が同一の光子放射線源によって供されて良い場合には有利である。
【0028】
ある実施例では、当該皮膚照射装置は、700〜1600nmの範囲の波長を有する追加の光子放射線を発生させる装置を有する。この範囲−たとえば800〜1500nmの範囲で、たとえば870nmの波長を有する光子放射線−の波長を有する光子放射線は、上部層を貫通して侵入し、かつ前記の皮膚の丈夫そう内の暖かさを感じる受容体を実質的にトリガリングすることなく、前記皮膚のより深い層を直接暖める。1100〜1400nmの範囲の波長−たとえば1320nmの波長−を有する光子放射線で、非常に深い侵入が実現される。
【0029】
前記追加放射線は、前記1次放射線と同期するように変調されて良い。しかし、あるいはその代わりに、700〜1600nmの範囲の波長を有する放射線は、少なくともすぐには前記暖かさを感じる受容体によって知覚されないので、前記放射線は、前記1次放射線のマッサージ効果を阻害しないように連続的に供されても良い。
【0030】
前記の変調された1次放射線もまた、他の追加放射線と結合されて良い。たとえば、590nmの波長を有する放射線と、IR範囲の放射線とを結合することで、困難が解決されることが分かった。他の種類の追加放射線も、皮下脂肪の処理にとって有用である。また変調された1次放射線を用いることは、痛みの解放に有用であることが分かった。たとえば光子放射線を用いた脱毛法は、痛みを伴うことが知られている。脱毛用の前記光子放射線と、前記の変調された1次放射線とを結合することによって、実現される前記マッサージ効果は、前記脱毛処理のつらさを実質的に緩和する。
【0031】
ある実施例では、当該皮膚照射装置は、所定期間後に当該装置の動作を中断するタイマーを有する。前記所定期間は、たとえば製造者によって予め定められた範囲内で、前記使用者によって設定されて良い。
【0032】
ある実施例では、当該皮膚照射装置は、前記放射線源と前記放射面積との間の距離を表す距離信号を生成する距離検知装置を有する。前記距離信号は、前記距離が閾値−たとえば安全性に関連する最小動作距離−未満と推定される場合、前記光子放射線源の動作を中断するのに用いられて良い。あるいはその代わりに、前記皮膚上(付近)の放射面積内の第1値の出力密度が、前記光子放射線源と前記放射面積との間の距離に対して実質的に独立となるように、前記距離信号は、前記光子放射線源を制御するのに用いられて良い。あるいはその代わりに、前記光子放射線源−たとえば半導体レーザー−は、実質的に平行な光子放射線ビームを発生させて良い。それにより本質的に、前記出力密度が、前記光子放射線源への距離に対して実質的に独立する。
【0033】
ある実施例では、当該皮膚照射装置には、光検出信号を供する光検出器が供される。前記光検出信号は、前記使用者の皮膚が、前記放射面積内に存在するか否かを示唆することが可能で、かつ、前記皮膚が前記放射面積内に存在する場合には、皮膚の種類を示唆することが可能である。前記光検出信号の示唆に依存して、当該装置の動作は制御されて良い。たとえば当該装置は、皮膚が放射面積内に存在する場合には、自動的に動作状態にされて良い。またこれに当てはまらない場合には、動作は中断されて良い。検出された皮膚の種類に依存して、前記光子放射線源によって供される光子放射線の特性が適応されて良い。たとえば白色の皮膚が前記放射面積内に存在することが検出された場合、前記出力密度の第1値は、前記皮膚の高い反射率を補償するように増大して良い。
【0034】
前記光検出信号はさらに、前記皮膚の状態を示唆することもできる。前記皮膚が多すぎる光子放射線の照射によって照射されたことを、前記光検出信号が示唆する場合、当該皮膚照射装置の動作は中断されても良いし、又は継続されても良い。
【0035】
他の実施例では、当該皮膚照射装置は、前記皮膚と直接接触した状態で使用されるように設計される。前記実施例では、当該皮膚照射装置は、前記皮膚と接触しているときだけ、当該装置の動作を可能にする接触センサを有して良い。
【0036】
当該皮膚照射装置は、所定値を記憶するメモリをさらに有して良い。前記所定値は、最大及び最小の出力密度についての所定値、前記1次放射線が変調される周波数についての所定値、特定の放射線の波長範囲等についての所定値を有して良い。
【0037】
前記メモリは、様々な使用者について、2組以上の所定値を記憶して良い。前記所定値は初期設定値で初期化されて良い。
【0038】
当該皮膚照射装置は、機械的マッサージ器を有して良い。前記機械的マッサージ器は、前記の変調された1次放射線によって供されたマッサージと共に機械的マッサージを用いて良い。
【0039】
本発明の第2態様によると、少なくとも0.1Hzであって最大でも10Hzの周波数によって、互いに異なる値である第1の値と第2の値との間で変調される、300nm〜700nm、1900nm〜2000nm、及び2400nm〜10000nmの波長範囲において全出力密度を有する光子放射線を、放射面積内のヒトの皮膚に供する方法が供される。前記第1の値は、少なくとも20mW/cm2である。前記第2の値は、最大でも前記第1の値の1/4である。
【0040】
本発明の第3態様によると、少なくとも0.1Hzであって最大でも10Hzの周波数によって、互いに異なる値である第1の値と第2の値との間で変調される、300nm〜700nm、1900nm〜2000nm、及び2400nm〜10000nmの波長範囲において全出力密度を有する光子放射線をヒトの皮膚に照射するための出力プロファイルが供される。前記第1の値は、少なくとも20mW/cm2である。前記第2の値は、最大でも前記第1の値の1/4である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1A】ヒトの皮膚の断面を図示している。
【図1B】ヒトの皮膚内での光子放射線の侵入深さを、波長の関数として表している。
【図1C】ヒトの皮膚内に存在する様々な物質についての光子放射線の吸収率を示している。
【図1D】光子放射線に対するヒトの皮膚の反射率を、波長の関数として表している。
【図2】本発明による放射線装置の実施例を概略的に図示している。
【図3】図2の実施例の一部をより詳細に図示している。
【図4】本発明による放射線装置の別な実施例を図示している。
【図5】本発明のある実施例について、所与の面積での、光子放射線源に印加された電流、前記光子放射線源によって供された出力密度、及び被験者による感覚の認識の関係を表している。
【図6】本発明の他の実施例について、連続する光子放射線パルス間のオフ時間と、印加された光子放射線の時間的不連続性を感じた被験者の割合との関係を表している。
【図7A】ヒトの皮膚に印加する光子放射線プロファイルの第1例を表している。
【図7B】ヒトの皮膚に印加する光子放射線プロファイルの第2例を表している。
【図7C】ヒトの皮膚に印加する光子放射線プロファイルの第3例を表している。
【図7D】ヒトの皮膚に印加する光子放射線プロファイルの第4例を表している。
【発明を実施するための形態】
【0042】
上記及び他の態様は、図面を参照することでより詳細に説明される。
【0043】
図1Aは、ヒトの皮膚の断面を概略的に図示している。皮膚は3つの基本層で構成される。前記3つの基本層とは、表皮、真皮、及び、下皮又は皮下組織である。各々は独自の機能を有している。
【0044】
表皮は、通常は15〜20の細胞層で構成される最上部の機能層である。表皮は通常、表皮の底部で生成され、かつ2週間移動した後に表面に現れる細胞の誕生、生存、及び死を連続的に経験する。
【0045】
次の機能層である真皮は、繊維(コラーゲン及びエラスチン)を生成する細胞で構成され、かつ皮膚の弾性支持体を収容する。真皮内に設けられた神経端部は、温度変化を検出し、かつ圧力、痛み、及び振動を感じる受容体として機能する。暖かさを検知する受容体は、この層内であって皮膚の表面から約0.3〜0.6mmの深さに存在する。
【0046】
最後に皮下組織は、クッション及び人体のためのエネルギーを蓄える貯蔵位置として機能する。
【0047】
図1Bは、光子放射線の侵入深さを、光子放射線の波長の関数として図示している。侵入深さとは、衝突する光子放射線の95%が吸収される深さとして定義される。皮膚の深さを表す垂直方向では、図1Aと図1Bは同一スケールである。
【0048】
侵入深さは主として、物質であるメラミン、水、及び酸素ヘモグロビンによる光子放射線の吸収、並びに、皮膚層内部での散乱によって決定される。図1Cは、これらの物質の吸収率を、300〜2000nmの範囲での波長の関数として表している。波長範囲に依存して、皮膚での光吸収は主として、メラニン、ヘモグロビン、及び水によって引き起こされる。メラニンは、真皮から外側へ延在する表皮及び体毛中に存在するメラニン細胞によって生成される色素である。ヘモグロビンは、特に真皮内の血管内の血液中に存在する。水は、皮膚の各機能層内にかなりの量が存在する。一般的には、UV及び青色範囲での光子放射線は、表皮内のメラニン及びヘモグロビンによって実質的に吸収され、真皮へは侵入しない。UVA放射線もまた少ししか真皮内へ侵入しない。青色放射線は、UVA放射線よりは真皮内を深く侵入する。長い波長では、放射線の侵入深さが約5〜1300nm増大する。その理由は、メラニンとヘモグロビンの吸収が減少するからである。しかし1500nmよりも長波長では、水による吸収が相当大きくなることで、上記波長の光の侵入深さの減少に寄与することになる。このことは、1950nmの波長について、約0.5nmにまで侵入深さが大きく減少する事実を説明している。侵入深さは、波長2300nmで第2最大値3mmを有し、かつ、波長2850nmで第2最小値約0mmを有する。2850〜10000nmの範囲内の長波長は、優れた皮膚への浸入特性を有する。
【0049】
図1Dは、皮膚の反射率を、波長の関数として表している。約300〜1500nmの波長範囲では、反射率は相対的に高い。暗い皮膚については、反射率の大きさは、波長1000nmでは、約10%から約45%の最大値にまで上昇し、かつ1400nm以上の波長では、約10%にまで減少する。白色皮膚については、反射率の大きさは、波長300nmでの約10%から、波長700nmでの約70%まで増大し、かつ、1400nm以上の波長では、再び約10%にまで減少する。
【0050】
図2は、放射面積12付近のヒトの皮膚20に変調された光子放射線14を供する皮膚放射装置10を図示している。当該装置10は、光子放射線14を発生させる光子放射線源18及び変調器16を有する。動作中、変調器16は、放射面積12内において、300〜700nm、1900〜2000nm、及び2400〜10000nmの波長範囲での光子放射線の全出力密度を、第1の値と第2の値との間で変調させる。前記範囲にわたる全出力密度は、少なくとも0.1Hzで最大でも10Hzの周波数で変調される。図示された実施例では、前記第1の値は、少なくとも20mW/cm2である。前記第2の値は、最大でも前記第1の値の1/4である。
【0051】
図3は、変調器16をより詳細に図示している。変調器16は、変調された供給電力を光子放射線源18に供する変調された電源161を有する。この場合では、光子放射線源18は1つ以上のLEDを有し、かつ、変調された供給電力は、変調された供給電流として供される。この実施例では、出力密度は、全放射面積内で同時に変調される。
【0052】
図示された実施例では、変調された電源161は、所定期間後に当該装置の動作を中断させるタイマー162を有する。所定期間は、ユーザーインターフェース163を介して設定されて良い。所定期間はメモリ164内に記憶されて良い。さらに変調器16は、光子放射線源18と放射面積12との間の距離を示唆する距離信号を発生させる距離検知器165、及び、光検出信号を供する光検出器166を有する。
【0053】
他の実施例では、当該皮膚放射装置は、皮膚と接触するように用いられて良い。その実施例では、当該皮膚放射装置は、該皮膚放射装置が皮膚と接触していない場合に、当該皮膚放射装置の動作を不可能にする接触センサを有して良い。
【0054】
当該皮膚放射装置の典型的実施例では、光子放射線源18は、Philips Lumileds社によって製造された複数−本実施例では3つ−のLuxeon Blue型のInGaN LEDによって形成される。これらのLEDは、波長420nmの光子放射線を供する。放射面積内での光子放射線の出力密度は、供給電流を0〜800mAの範囲で変化させることによって、0〜約200mW/cm2まで変化しうる。
【0055】
図4は、本発明による放射装置の別な実施例を図示している。ここで放射線源18は複数の放射線モジュール18a,…18jを有する。前記複数の放射線モジュール18a,…18jは、各対応する供給ライン17a,…17jによって電源16と結合し、かつ、互いに異なる期間中オン状態に切り換えられる(切り換え手段は図示されていない)。あるいはその代わりに、各放射線モジュールは独自の電源を有して良く、かつ、中央制御装置が互いに異なる期間中各対応する電源を起動させる。図示された実施例では、放射線源18は10の放射線モジュール18a,…18jを有する。10の放射線モジュール18a,…18jの各々は、放射面積の各対応するさらに分割された面積内の皮膚を照射する。この実施例では、放射線モジュール18a,…18jは平行細片によって形成され、各細片は複数−この場合では10−のLEDを有する。放射線源18は、各放射線モジュールの状態が、そのモジュールに先行するモジュールの状態がオフに切り換えられるときに、オンに切り換えられる動作モードを有して良い。シーケンス中の最後の放射線モジュール18jの状態がオフに切り換えられるとき、第1放射線モジュール18aは再度オン状態に切り換えられる。細片の状態が、その細片に先行する細片の状態がオフに切り換えられるときに、オンに切り換えられる代わりに、複数の前記放射線モジュールの状態がオンに切り換えられる期間が重なっていても良い。あるいはその代わりに、放射線モジュールがオフ状態に切り換えられる時点と、次の放射線モジュールがオン状態に切り換えられる時点との間で、ある程度の時間の経過があっても良い。
【0056】
放射線モジュール18a,…18jの各々が、同一の電源によって駆動される必要はない。たとえば第1周期では、各連続する放射線モジュールは、より高い準位で起動されて良い。それにより前記の高い準位で起動された放射線モジュールは、該モジュールに先行するモジュールよりも高い出力密度を前記皮膚に供する。第2周期では、前記第1周期に続いて、各連続する放射線モジュールは、より低い電力で駆動されて良い。このパターンが繰り返されて良い。
【0057】
典型的実施例では、変調器16は、0.01〜100Hzの範囲で制御可能な周波数によって交互にオン状態とオフ状態が切り換えられる前記出力密度範囲に対応する範囲内で電流を供することが可能な電源である。
【0058】
当該装置は、第2型である明るい色の皮膚を有するヒトによって検査された。放射面積は約20cm2だった。その結果は図5に図示されている。図のグラフは、放射面積内での測定された出力密度を、供給電流Iの関数として図示している。図5はさらに、出力密度の具体的な設定についての被験者の感度の経験を示している(グラフ中の正方形の点)。19mW/cm2の出力密度では、被験者は暖かさを感じていない。35mW/cm2以上の出力密度では、光子放射線が検知された。190 mW/cm2の出力密度では、光子放射線が非常に暖かいが依然として快適なものとして検知された。190 mW/cm2よりも出力密度も可能であり、本発明の装置において上記事項を考慮すると、光子放射線がパルス状で供されることで、連続する光子放射線パルス間で皮膚は冷却可能と推定される。
【0059】
連続パルス間の期間の効果が、別な実験で検討された。この実験では、ICXフォトニクスによって製造されたReflect IR-PIN型の広スペクトルランプが、263mW/cm2の出力密度の光子放射線パルスを印加するのに用いられた。2秒の期間を有する光子放射線が、6人の第2型の被験者の22cm2の面積に照射された。連続するパルス間の間隔は0.0〜1.0秒で変化した。その結果が図6で与えられている。0.1秒の間隔では、被験者の誰も、光子放射線源によって供される光子放射線における不連続性を知覚しなかった。0.2秒の間隔では、1人の被験者が既に、連続する光子放射線パルス間に光子放射線が存在しないことを検知した。0.4秒の間隔では、光子放射線の時間的不連続性を知覚した被験者数が急激に増加した。0.7秒以上の間隔では、全ての被験者が、光子放射線における不連続性を感じた。
【0060】
図7A〜7Dは、本発明による光子放射線出力プロファイルの複数の例を示している。
【0061】
縦軸は、300〜700nm、1900〜2000nm、及び2400〜10000nmの波長範囲での光子放射線の全出力密度(単位:mW/cm2)を表す。横軸は、時間(単位:秒)を表す。図7Aに図示された例では、前記波長範囲での全出力密度は、22mW/cm2である第1の値と、0mW/cm2である第2の値との間でパルス状に変調される。パルス期間は2秒であり、連続するパルス間の時間間隔は0.2秒である。
【0062】
図7Bに図示された例では、前記波長範囲での全出力密度は、22 mW/cm2である第1の値と、0.mW/cm2である第2の値との間でパルス状に変調される。またこの場合でも、パルス期間は2秒であるが、連続するパルス間の時間間隔は0.6秒である。
【0063】
図7Cに図示された例では、前記波長範囲での全出力密度は、50 mW/cm2である第1の値と、0 mW/cm2である第2の値との間でパルス状に変調される。パルス期間は2秒で、連続するパルス間の時間間隔は0.6秒である。
【0064】
図7Cに図示された例は、全出力密度が各連続するパルスに対して徐々に増加する点で、これまでの例とは異なる。この例では、第1パルスは20mW/cm2である第1の値を有する出力密度を有し、第2パルスは35mW/cm2である第1の値を有する出力密度を有し、かつ、第3パルスは50mW/cm2である第1の値を有する出力密度を有する。パルス期間は2秒で、かつ、連続するパルス間隔は0.6秒である。実際には、パルスの出力密度はより穏やかに増大すると考えられる。たとえば100パルスのシーケンスでは、パルスの出力密度−つまり第1準位−は、第1パルスについての20mW/cm2から、最終パルスについての60 mW/cm2まで徐々に増大して良い。
【0065】
図7で与えられた例では、全出力密度は、第1準位−たとえば22 mW/cm2−と第2準位−たとえば0 mW/cm2−との間で切り換えられた。しかしマッサージ効果は、全出力密度を止めることなく、暖かさの知覚の差異が感じられるように第1の値よりも実質的に低い第2の値に切り換えることで、実現されて良い。このような暖かさの知覚の差異は、第2の値が最大でも第1の値の1/4である場合に感じられると考えられる。
【0066】
皮膚の種類、皮膚の条件、ヒトの感受性や個人的嗜好に依存して、放射面積内のヒトの皮膚に光子放射線を供する方法を実行するときに、本発明による上記又は他の光子放射線出力プロファイルのうちの1つが選択されて良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射面積内のヒトの皮膚に、変調された光子放射線を供する皮膚放射装置であって、
前記光子放射線を発生させる光子放射線源、並びに、少なくとも前記放射面積を分割した領域内において、少なくとも0.1Hzであって最大でも10Hzの周波数で、300nm乃至700nm、1900nm乃至2000nm、及び2400nm乃至10000nmの波長範囲の光子放射線の全出力密度を、互いに異なる値である第1の値と第2の値との間で変調させる変調器を有し、
前記出力密度の第1の値の大きさは、少なくとも20mW/cm2で、かつ
前記出力密度の第2の値の大きさは、最大でも前記第1の値の1/4である、
皮膚放射装置。
【請求項2】
前記光子放射線が、1900乃至2000nm及び2400乃至10000nmの範囲のうちの1つ以上の範囲内の波長を有する、請求項1に記載の皮膚放射装置。
【請求項3】
前記光子放射線が、300乃至500nm、1900乃至2000nm、2400乃至2600nm及び3600乃至4200nmの範囲のうちの1つ以上の範囲内の波長を有する、請求項1に記載の皮膚放射装置。
【請求項4】
前記光子放射線が、1900乃至2000nm、2400乃至2600nm及び3600乃至4200nmの範囲のうちの1つ以上の範囲内の波長を有する、請求項1に記載の皮膚放射装置。
【請求項5】
前記出力密度の第1の値が少なくとも50mW/cm2である、請求項1に記載の皮膚放射装置。
【請求項6】
前記出力密度の第1の値が最大でも200mW/cm2である、請求項1に記載の皮膚放射装置。
【請求項7】
前記変調器が、前記光子放射線源へ供給される電力を変調させる、請求項1に記載の皮膚放射装置。
【請求項8】
前記放射面積へ追加の放射線を供する装置をさらに有する、請求項1に記載の皮膚放射装置。
【請求項9】
前記追加の放射線が、700乃至1600nmの範囲の波長を有する、請求項8に記載の皮膚放射装置。
【請求項10】
前記追加の放射線が、前記変調器によって生じた変調と同期して変調される、請求項8に記載の皮膚放射装置。
【請求項11】
前記追加の放射線に一定の出力密度が供される、請求項8に記載の皮膚放射装置。
【請求項12】
前記放射線源と前記放射面積との間の距離を表す距離信号を生成する距離検知装置をさらに有する、請求項1に記載の皮膚放射装置。
【請求項13】
光検出信号を供する光検出器をさらに有する、請求項1に記載の皮膚放射装置。
【請求項14】
少なくとも0.1Hzであって最大でも10Hzの周波数によって、互いに異なる値である第1の値と第2の値との間で変調される、300nm〜700nm、1900nm〜2000nm、及び2400nm〜10000nmの波長範囲において全出力密度を有する光子放射線を、放射面積内のヒトの皮膚に供する方法であって、
前記第1の値は、少なくとも20mW/cm2で、かつ
前記第2の値は、最大でも前記第1の値の1/4である、
方法。
【請求項15】
少なくとも0.1Hzであって最大でも10Hzの周波数によって、互いに異なる値である第1の値と第2の値との間で変調される、300nm〜700nm、1900nm〜2000nm、及び2400nm〜10000nmの波長範囲において全出力密度を有する光子放射線をヒトの皮膚に照射するための出力プロファイルであって、
前記第1の値は、少なくとも20mW/cm2で、かつ
前記第2の値は、最大でも前記第1の値の1/4である、
プロファイル。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A−7D】
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【公表番号】特表2012−531239(P2012−531239A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516927(P2012−516927)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【国際出願番号】PCT/IB2010/052790
【国際公開番号】WO2010/150171
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】