説明

皮膚表面状態観察装置

【課題】 1つの受光素子を介して撮像機能と測色機能とを合わせ持つことにより種々の利便性を備えた皮膚表面状態観察装置を提供する。
【解決手段】 カメラ12からのビデオデータNTSC信号は、キャプチャボード16でRGBデジタルデータに変換される。RGBデジタルデータは、そのまま制御演算手段40で処理され、CRT20に画像表示される。これとは別に、RGBデジタルデータはシェーディング補正部36によって測色用のRGB画像情報に補正される。RGB画像情報は、予め重回帰分析して得た変換行列を用いてXYZデータに変換され、測色値データがCRT20に画像表示される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、皮膚表面状態観察装置に関し、一層詳細には、撮像機能と測色機能とを有する皮膚表面状態観察装置に関する。
【0002】
【従来の技術】きめの程度や色素分布等の皮膚の表面状態を的確に把握し、また、皮膚の色(肌色)を正確に測定することは、化粧品の販売を促進しあるいは技術開発を進めていく上において、いずれも欠くことができない重要な要素である。
【0003】この場合、皮膚表面状態に応じた適切な化粧品を選択するためには、きめ等の表面状態情報および肌色情報のいずれか一方の情報のみに基づいて判断するのでは十分ではなく、きめ等の表面状態情報および肌色情報を同時に得て、双方の情報を付き合わせて総合的に判断することが効果的である。
【0004】通常、きめ等の表面状態についてはカメラを用いて皮膚表面の拡大画像を観察することによって行われ、一方、肌色については測色計を用いて測色値を得ることによって行われる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このように、カメラおよび測色計という別々の装置を用いて皮膚の表面状態を総合的に判断する場合、以下のような不具合がある。
【0006】まず、観察目的に応じて複数の装置を使い分けるのは煩雑であり、また、設置スペース等の点においても好ましくない。
【0007】また、総じて装置全体として高価になりがちである。
【0008】また、一方の装置が故障し、これを補修しあるいは更新した場合、故障前に得られていた表面状態情報と肌色情報との対応関係が得られなくなるおそれもある。
【0009】本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、1つの受光素子を介して撮像機能と測色機能とを合わせ持つことにより種々の利便性を備えた皮膚表面状態観察装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明に係る皮膚表面状態観察装置は、皮膚の観察部位に光を照射する照明手段と、照射した光の該観察部位からの反射光を受光して受光素子に入射する撮像手段と、該撮像手段からの画像信号を測色信号に変換する変換手段と、該撮像手段からの画像信号に基づいて処理した画像を出力表示する画像表示手段と、該測色信号に基づいて処理した測色情報を表示する測色情報表示手段とを有することを特徴とする。
【0011】これにより、1つの受光素子を介して撮像機能と測色機能とを合わせ持つことで、装置の取り扱いが簡易となる。また、小型化された、安価な装置を得ることができる。また、撮像機能および測色機能のための大半の部品が共通化されているため、部品の補修、更新に際して、補修、更新前に得られていた表面状態情報と肌色情報との対応関係が損なわれるおそれが少ない。また、従来の測色装置と異なり撮像部位と同一の部位について測色するため、狙った部位(位置)を確実に測色することができ、しみ部位の測色等を好適に行うことができる。
【0012】この場合、前記照明手段は、前記撮像手段の前方に前記観察部位に向けて略環状に配列され、略垂直方向から観察部位を照明する複数の撮像用発光ダイオードと、該複数の撮像用発光ダイオードの外側の略同一平面上に略環状に配列され、該撮像用発光ダイオードに比べて斜め方向から該観察部位を照明する複数の測色用発光ダイオードとからなると、拡散照明によって得られる画像は皮膚表面の凹凸による陰影がなく、測色用の画像として好適であり、一方、直接照明によって得られる画像は生成される陰影によって皮膚表面の凹凸を明瞭に映し出し、きめ等の撮像用の画像として好適である。ここで、略環状に配列とは、観察部位あるいは受光中心を囲うように配列する意であり、環状のみでなく矩形状に配列するものも含む。
【0013】このとき、前記撮像用発光ダイオードは、該観察部位に対して垂直線から7.5°〜10.5°の傾斜角度で照射し、前記測色用発光ダイオードは、前記観察部位に対して垂直線から15°〜18°の傾斜角度で照射するように構成してなると、より好ましい。
【0014】また、本発明に係る皮膚表面状態観察装置において、前記受光素子はカラーCCDであると、装置が簡易であって保守がし易くかつ安価で小型化できて好ましい。
【0015】また、本発明に係る皮膚表面状態観察装置において、前記変換手段は、前記撮像手段より得られる画像情報と測色装置より得られる測色情報とを用いて予め重回帰分析して得た変換行列を用いて画像信号と測色信号とを線形変換で関係付けてなると、簡易かつ好適に画像信号から測色信号を得ることができる。
【0016】この場合、前記変換手段は、さらにシェーディング補正部を有すると、観察部位のうちシェーディングを回避することができない周辺部の画像情報を有効に利用して測色することができて好適である。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明に係る皮膚表面状態観察装置の好適な実施の形態(以下、本実施の形態例という。)について、図を参照して、以下に説明する。
【0018】本実施の形態例に係る皮膚表面状態観察装置10は、図1に示すように、カメラ(撮像手段)12、電源ボックス14、キャプチャボード16およびコンピュータ18を有する。コンピュータ18は、出力装置(画像表示手段、測色情報表示手段)としてのCRT20を有する。
【0019】まず、カメラ12について説明する。
【0020】カメラ12は、図2に示すように、筐体22内に、照射手段24、レンズ26および受光素子28を有する。
【0021】筐体22の図2(a)中左側先端部には、円状の開口30が形成されている。この開口30は、皮膚の表面寸法5mm×7mm角を被写体の照射範囲としている。
【0022】照射手段24は、2つの発光ダイオード群32、34からなる。1つの発光ダイオード群32は、開口30を囲うようにして、矩形状に四方に、3個ずつを1単位として配列した合計12個の発光ダイオード32a〜32lで構成される。発光ダイオード32a〜32lは、いずれも白色LED(日亜化学工業社製 型番NSPW310AS−AQ)である。他の1つの発光ダイオード群34は、発光ダイオード群32の内側に発光ダイオード群32と同様の状態に配列された2×4=8個の発光ダイオード34a〜34hで構成される。発光ダイオード34a〜34hは、いずれも白色LED(日亜化学工業社製 型番NSPW310AS−AQ)である。発光ダイオード群32は、皮膚の観察部位からの垂線(垂直線)、言いかえれば受光中心線Lから15°〜18°の傾斜角度θ1で照射するように配置されており、測色の際に用いられる。発光ダイオード群34は、受光中心線Lから7.5°〜10.5°の傾斜角度θ2で照射するように配置されており、きめ等の撮像の際に用いられる。2つの発光ダイオード群32、34は、これらの観察目的に応じて、図示しない切り換え手段によって切り換えて使用される。なお、配置する発光ダイオードの種類、個数および配列状態等は、以上説明した範囲に限定するものではない。
【0023】カメラ12の受光素子28は、カラーCCD(ソニー社製 型番ICX408AK)である。
【0024】カメラ12使用時、観察目的に応じて選択した発光ダイオード群32または34によって観察部位が照射され、照射した光の観察部位からの反射光を受光素子28であるカラーCCDに入射する。
【0025】ここで、2つの発光ダイオード群32、34を切り換えて照明したときに得られる撮像画像を図3に示す。
【0026】2つの撮像画像は、いずれもきめが細かく整った状態の皮膚を撮像したものである。図3(a)は、照射角度が小さく略皮膚の直上から発光ダイオード群34によって照明した場合であり、陰影の存在によって皮溝が鮮明に映し出され、きめの整った状態がよくわかる。図3(b)は、照射角度が大きく略皮膚の斜め上から発光ダイオード群32によって照明した場合であり、陰影が表われておらず、このため、きめの状態がはっきりと見えない。陰影がないために的確な測色情報を得ることができる。
【0027】上記のように構成されるカメラ12は、装置構成が簡易であって保守がしやすく、かつ安価で小型化され、操作性が良好である。
【0028】つぎに、キャプチャボード16およびコンピュータ18について、図1とともにさらに図4を参照して説明する。
【0029】カメラ12の画像データ出力信号としてのビデオデータNTSC信号は、キャプチャボード16に入力されRGBデジタルデータ(RGB信号、画像信号)に変換される。
【0030】RGBデジタルデータは、コンピュータ18に取り込まれる。
【0031】コンピュータ18は、シェーディング補正部36、変換手段38および制御演算手段40を有する。
【0032】キャプチャボード16から出力されたRGBデジタルデータは、そのまま制御演算手段40で処理され、必要に応じてCRT20に画像表示される(画像表示手段)。このCRT20の画像を観察することにより、きめの状態やしみやそばかすなどの色素分布を評価することができる。
【0033】一方、測色評価を行うためには、以下の手順でコンピュータ18によりRGBデジタルデータが処理されるシェーディング補正部36は、THE MUNSELL BOOK OF COLOR MATTE COLLECTIONの5YR6/4を用い、各画素が中心部50×50画素の平均RGBとなるように比をとり、それを任意の画像に掛けることにより画像の補正を行う。5YR6/4を選んだのは、対象とする肌色の丁度中心付近に位置する色だからである。
【0034】これにより、RGB信号が補正され、照明ムラが解消され、元来きめ観察用として用いていたカメラ12の狭い撮像範囲(5mm×7mm)の全範囲を活用して測色用のRGB画像情報(平均RGB信号)を得ることができる。
【0035】つぎに、平均RGB信号をXYZ信号(測色信号)に変換するための変換手段38について説明する。
【0036】カメラのセンサの分光感度は、通常、等色関数の線形変換で関係付けることができない。本実施の形態例では、以下の手順により、予め重回帰分析して得た変換行列を用いて画像信号(平均RGB信号)と測色信号(XYZ信号)とを線形変換で関係付ける。
【0037】通常、カメラは撮影―表示のシステム全体でγ=1.0となるようにCRTのγ特性をキャンセルするための特性を持たせている。このため、下記式(1)のように、予め、RGBを入力値XYZに対して線形となるように変換しておく。なお、このとき、RGBデータは、シェーディング補正部36により補正された平均RGBデータを用いる。
【0038】
【数1】


そして、XYZそれぞれとRlinear、Glinear、Blinearで重回帰分析を行い、下記式(2)の変換行列Mを求める。
【0039】
【数2】


変換行列Mを求めるために必要なXYZおよびRGB(式(1)で変換後はRlinear、Glinear、Blinear)の対データは、肌をカメラと分光測色器(CM−1000RH)の両方で測定することによって得た。
【0040】変換手段38は、上記の変換行列Mを用いて平均RGBデータ(RGB信号)をXYZデータ(XYZ信号)に変換する。
【0041】XYZデータは制御演算手段40で処理され、測色値データ(測色情報)が必要に応じてCRT20に画像表示される(測色情報表示手段)。
【0042】なお、上記の変換手段に関して、肌色領域の色票のデータを用いて予め重回帰分析して得た変換行列を用いて画像信号と測色信号とを線形変換で関係付ける方法が提案されている(特願平―174631号公報参照)。本発明者らが検討した結果、この色票のデータを用いた方法(以下、A法という。)は本実施の形態例の方法(以下、B法という。)に比べて重回帰の精度が高い。例えば、分光測色器で測定して得られた色(A法については所定の色票。B法については所定の実際の肌色。)と各方法で得られる色との色差ΔE*abで精度をみると、A法が平均0.894(最大2.223)であるのに対してB法は平均1.137(最大3.548)であり、B法の方が色差が大きい。しかしながら、各方法と所定の実際の肌色との色差ΔE*abをみるとA法では平均が例えば5.0程度にまで大きくなり、B法の平均1.137に比べて著しく精度が低下する。両者の差異の原因は、重回帰分析のもととなる色の測定対象として、A法では実際の肌色ではなく色票を用いていることによるものと考えられる。すなわち、実際の肌の色と肌色領域の色票とは得られるXYZ値は同じでもその分光反射率が異なるという条件等色対であり、かつ、上記した公知のA法ではC光源近似の光源下でRGBデータを得ているが、本発明者らの検討においてはA法についてもC光源とは分光分布が大きく異なる白色LEDを用いてRGBデータを得ているため、比較したA法とB法との間の実際の肌色の測定精度に大きな差がでたものと考えられる。
【0043】以上説明した本実施の形態例に係る皮膚表面状態観察装置は、1つの受光素子を介して撮像機能と測色機能とを合わせ持つことで、装置の取り扱いが簡易となる。また、小型化された、安価な装置を得ることができる。また、撮像機能および測色機能のための大半の部品が共通化されているため、部品の補修、更新に際して、補修、更新前に得られていた表面状態情報と肌色情報との対応関係が損なわれるおそれが少ない。また、従来の測色装置と異なり撮像部位と同一の部位について測色するため、狙った部位(位置)を確実に測色することができ、しみ部位の測色等を好適に行うことができる。
【0044】
【発明の効果】本発明に係る皮膚表面状態観察装置によれば、皮膚の観察部位に光を照射する照明手段と、照射した光の該観察部位からの反射光を受光して受光素子に入射する撮像手段と、撮像手段からの画像信号を測色信号に変換する変換手段と、撮像手段からの画像信号に基づいて処理した画像を出力表示する画像表示手段と、測色信号に基づいて処理した測色情報を表示する測色情報表示手段とを有するため、装置の取り扱いが簡易となる。また、小型化された、安価な装置を得ることができる。また、撮像機能および測色機能のための大半の部品が共通化されているため、部品の補修、更新に際して、補修、更新前に得られていた表面状態情報と肌色情報との対応関係が損なわれるおそれが少ない。また、狙った部位を確実に測色することができ、しみ部位の測色等を好適に行うことができる。
【0045】また、本発明に係る皮膚表面状態観察装置によれば、照明手段は、測色用発光ダイオードと、撮像用発光ダイオードとからなるため、測色用の画像およびきめ等の撮像用の画像を好適に得ることができる。
【0046】また、本発明に係る皮膚表面状態観察装置によれば、変換手段は、撮像手段より得られる画像情報と測色装置より得られる測色情報とを用いて予め重回帰分析して得た変換行列を用いて画像信号と測色信号とを線形変換で関係付けてなるため、簡易かつ好適に画像信号から測色信号を得ることができる。
【0047】また、本発明に係る皮膚表面状態観察装置によれば、変換手段は、さらにシェーディング補正部を有するため、シェーディングを回避することができない観察部位のうちの周辺部の画像情報を有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態例に係る皮膚表面状態観察装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1の装置のカメラの構成を説明するためのものであり、図2(a)はカメラの部分断面図であり、図2(b)はカメラを先端側から見た図である。
【図3】図2のカメラの2つの発光ダイオード群を切り換えて照明したときに得られる撮像画像を説明するためのものであり、図3(a)は傾斜角度の小さい照明の場合の撮像画像を示し、図3(b)は傾斜角度の大きい撮像画像を示す。
【図4】本実施の形態例に係る皮膚表面状態観察装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
10 皮膚表面状態観察装置
12 カメラ
16 キャプチャボード
18 コンピュータ
20 CRT
24 照射手段
28 受光素子
32、34 発光ダイオード群
32a〜32l、34a〜34h 発光ダイオード
36 シェーディング補正部
38 変換手段
40 制御演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】 皮膚の観察部位に光を照射する照明手段と、照射した光の該観察部位からの反射光を受光して受光素子に入射する撮像手段と、該撮像手段からの画像信号を測色信号に変換する変換手段と、該撮像手段からの画像信号に基づいて処理した画像を出力表示する画像表示手段と、該測色信号に基づいて処理した測色情報を表示する測色情報表示手段とを有することを特徴とする皮膚表面状態観察装置。
【請求項2】 前記照明手段は、前記撮像手段の前方に前記観察部位に向けて略環状に配列され、略垂直方向から観察部位を照明する複数の撮像用発光ダイオードと、該複数の撮像用発光ダイオードの外側の略同一平面上に略環状に配列され、該撮像用発光ダイオードに比べて斜め方向から該観察部位を照明する複数の測色用発光ダイオードとからなることを特徴とする請求項1記載の皮膚表面状態観察装置。
【請求項3】 前記撮像用発光ダイオードは、該観察部位に対して垂直線から7.5°〜10.5°の傾斜角度で照射し、前記測色用発光ダイオードは、前記観察部位に対して垂直線から15°〜18°の傾斜角度で照射するように構成してなることを特徴とする請求項2記載の皮膚表面状態観察装置。
【請求項4】 前記受光素子はカラーCCDであることを特徴とする請求項1記載の皮膚表面状態観察装置。
【請求項5】 前記変換手段は、前記撮像手段より得られる画像情報と測色装置より得られる測色情報とを用いて予め重回帰分析して得た変換行列を用いて前記画像信号と前記測色信号とを線形変換で関係付けてなることを特徴とする請求項1記載の皮膚表面状態観察装置。
【請求項6】 前記変換手段は、さらにシェーディング補正部を有することを特徴とする請求項5記載の皮膚表面状態観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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