説明

皮膚貼付材

【課題】 長期に亙って皮膚に貼付していても、皮膚から剥離しにくい皮膚貼付材を提供する。
【解決手段】 この皮膚貼付材は、支持体の片面に粘着層を備えている。粘着層中には、ポリウレタン粒子本体表面に親水性シリカ微粉末群が被覆してなるポリウレタン粒子よりなる皮脂吸収性粒子が混入されている。ポリウレタン粒子本体は、ポリイソシアネート成分とポリテトラメチレングリコールを含むポリオール成分との反応により得られるイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを、3官能アミンで三次元的に高分子化してなるものである。このポリウレタン粒子群は、親水性シリカ微粉末群と、上記のように三次元的に高分子化してなるポリウレタン球体群とを水中に分散させてなる混合水性分散液を、噴霧乾燥機で噴霧乾燥することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野や化粧分野等において、皮膚に貼付して使用する皮膚貼付材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚貼付材の代表例は、医療分野で用いられる絆創膏や創傷保護材である。これらは、編織物や合成樹脂製フィルム等の支持体の片面に、アクリル系粘着剤等の粘着剤層が設けられてなるものである。
【0003】
かかる皮膚貼付材は、長期に亙って皮膚に接着固定されていることが要求されるが、数日経過すると剥離してくるということがあった。この剥離原因は、粘着剤層の粘着力が低下するためである。そしてさらに、粘着剤層の粘着力が低下する原因は、皮膚から分泌される皮脂等の油成分が粘着剤に付着して、その粘着力に悪影響を与えるためである。
【0004】
このため、従来より、粘着剤層として強粘着剤層と弱粘着剤層とを設け、強粘着剤層によって剥離を防止することが提案されている(特許文献1)。これは、皮膚に対して強力に接着する強粘着剤層を一部設けておけば、皮膚から剥離しにくくなるという原理に基づくものである。
【0005】
また、粘着剤として、トルエンに対して一定の割合の不溶分を持つアクリル系粘着剤成分と、球状シリカ成分とを特定の配合比で配合することが提案されている(特許文献2)。なお、特許文献2では、不溶分の割合のことを、ゲル分率と称している。この特許文献2記載の技術が、どのような原理に基づくものであるのか明確な記載はないが、特定のアクリル系粘着剤成分と球状シリカ成分とが特定の配合比で配合されていると、皮膚から剥離しにくいという結果が実施例で記載されている。しかしながら、特許文献2の記載に基づく限り、球状シリカが皮脂吸収成分として機能していないことは明らかである。なぜなら、球状シリカ成分を配合していない比較例5と、球状シリカ成分を配合している比較例1及び2とを対比しても、皮膚に対する接着性に差異がないからである。また、皮脂を吸収しやすいと考えられる多孔質シリカ成分も、皮脂を吸収し得ない無孔質シリカ成分も、同等の接着性を示しているからである(実施例1及び2)。
【0006】
【特許文献1】特開2007−254515公報(特許請求の範囲の項)
【特許文献2】特開2008−167787公報(特許請求の範囲の項、実施例及び比較例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特許文献1及び2には全く記載されていない原理、すなわち、粘着剤層に皮脂を吸収しやすい粒子を存在させておくという原理に基づき、皮膚貼付材の剥離を防止しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、支持体の片面に粘着層を備えた皮膚貼付材において、該粘着層中に、ポリウレタン粒子本体表面に親水性シリカ微粉末群が被覆してなるポリウレタン粒子よりなる皮脂吸収性粒子が混入されており、該ポリウレタン粒子本体は、ポリイソシアネート成分とポリテトラメチレングリコールを含むポリオール成分との反応により得られるイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを、3官能アミンで三次元的に高分子化してなるものであることを特徴とする皮膚貼付材に関するものである。
【0009】
本発明に係る皮膚貼付材は、支持体と、この支持体の片面に設けられた粘着層よりなる。支持体としては、編織物、不織布、紙又は合成樹脂製フィルム等のシート状物が用いられる。また、粘着層としては、皮膚に対して粘着性のある層であれば、その種類を問わないものである。代表的には、粘着剤を含む層であるが、粘着剤を含まず薬剤を含む層であっても、その薬剤が粘着性を持っていれば、粘着層である。
【0010】
粘着層中には、粘着剤等の粘着性のある物質と共に、皮脂吸収性粒子が混在している。本発明において、皮脂吸収性粒子はポリウレタン粒子である。このポリウレタン粒子は、ポリウレタン粒子本体表面に親水性シリカ微粉末群が被覆されてなるものである。そして、ポリウレタン粒子本体は、ポリイソシアネート成分とポリテトラメチレングリコールを含むポリオール成分との反応により得られるイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを、3官能アミンで三次元的に高分子化してなるものである。本発明で用いるポリウレタン粒子は、表面がサラサラした親水性シリカ微粉末群となっているため、粘着剤等の粘着性のある物質と混練しても、凝集しにくく、比較的均一に分散混在させることができる。
【0011】
ポリウレタン粒子本体表面を被覆している親水性シリカ微粉末とは、SiO2を主体とするもので、その表面に疎水基が実質的に存在していない微粉末である。このような親水性シリカ微粉末は従来公知のものであり、たとえば日本アエロジル社から販売されているアエロジル200、200V、200CF、200FAD、300、300CF、380、50、90G、130、OX50、MOX80、MOX170、COK84等が知られている。本発明においては、このような従来公知の親水性シリカ微粉末が用いられる。また、親水性シリカ微粉末の粒径は、ポリウレタン粒子の粒径よりも細かなものであればよい。これは、ポリウレタン粒子本体表面を親水性シリカ微粉末群によって被覆するためである。具体的には、ポリウレタン粒子群の平均粒径が1〜500μmで、親水性シリカ微粉末群の平均粒径が5〜40nmであるから、概ねポリウレタン粒子の粒径は、親水性シリカ微粉末の粒径よりも少なくとも30倍以上であるのが好ましい。なお、親水性シリカ微粉末群の平均粒径については、公称値である。
【0012】
ポリウレタン粒子本体を製造するためのポリイソシアネート成分としては、分子内に2以上のイソシアネート基を有する化合物であれば、従来公知のどのようなものでも使用しうる。特に、脂環式ポリイソシアネート化合物又は脂肪族ポリイソシアネート化合物を用いるのが好ましい。具体的には、イソホロンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、水添MDI等が用いられる。
【0013】
また、ポリウレタン粒子本体を製造するためのポリオール成分としては、本発明ではポリテトラメチレングリコールが用いられる。ポリテトラメチレングリコールを用いる理由は、ポリウレタン粒子本体の構成成分としてポリテトラメチレングリコール成分が存在していると、皮脂をよく吸収するからである。ポリテトラメチレングリコールの数平均分子量は、適宜決定しうる事項ではあるが、本発明では、一般的に数平均分子量が650〜3000であるものが用いられる。もちろん、ポリテトラメチレングリコールと共に、その他のポリオール成分が適宜混合されていてもよい。その他のポリオール成分としては、従来よりポリウレタン製造のために使用されるものであれば、どのようなものでもよい。具体的には、従来公知の多価アルコール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリアクリルポリオール又はひまし油等を用いることができる。その他のポリオールを混合する場合、ポリテトラメチレングリコールは50質量%以上の割合で混合されているのが好ましい。ポリテトラメチレングリコールは皮脂を吸収するための成分であるから、これが50質量%未満であると、皮脂の吸収能が不十分となる傾向が生じる。また、ポリウレタン球体よりなるポリウレタン粒子本体の性状の観点からは、ポリテトラメチレングリコール100質量%を用いると、ポリウレタン粒子本体は柔軟なものになりやすく、その他のポリオールとしてポリカーボネートポリオールを混合してゆくと、これの含有量が増加するにしたがい、徐々にポリウレタン粒子本体が硬くなってゆく。
【0014】
ポリウレタン粒子本体を製造するための3官能以上の多官能アミンは、ポリイソシアネート成分とポリオール成分を反応させて得られたウレタンプレポリマーを、三次元的に高分子化するためのものである。このような3官能以上の多官能アミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、3,3’−ジアミノジプロピルアミン等が用いられる。
【0015】
本発明で用いるポリウレタン粒子は、たとえば、以下のような製造方法で得ることができる。すなわち、親水性シリカ微粉末群と、ポリイソシアネート成分とポリテトラメチレングリコールを含むポリオール成分との反応により得られるイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを、3官能以上の多官能アミンで三次元的に高分子化してなるポリウレタン球体群とを水中に分散させてなる混合水性分散液を、高温雰囲気中に噴霧して水を蒸発させて、該ポリウレタン球体群でポリウレタン粒子本体群を形成すると共に、各ポリウレタン粒子本体表面に該親水性シリカ微粉末群を被覆せしめることによって、得ることができる。
【0016】
このような方法を更に詳細に工程順に説明すれば、以下のとおりである。すなわち、ポリイソシアネート成分とポリテトラメチレングリコールを含むポリオール成分とを反応させてイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを得る工程と、前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを、分散剤が溶解している水溶液に添加及び攪拌して、水中油滴型エマルジョンを得る工程と、前記水中油滴型エマルジョンに、3官能以上の多官能アミンを添加して、油滴群を構成している前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを三次元的に高分子化してポリウレタン球体群を得た後に、水中から前記分散剤を除去して、ポリウレタン球体水性分散液を得る工程と、前記ポリウレタン球体水性分散液と、親水性シリカ微粉末群を水中に分散させたシリカ水性分散液とを混合して混合水性分散液を得る工程と、前記混合水性分散液を、噴霧乾燥機を用いて、高温雰囲気中に噴霧して水を蒸発させることにより、前記ポリウレタン球体群でポリウレタン粒子本体群を形成すると共に、各ポリウレタン粒子本体表面に前記親水性シリカ微粉末群を被覆せしめる工程を経て、ポリウレタン粒子群を得ることができる。
【0017】
上記した方法を更に具体的に説明すれば、たとえば、以下のとおりである。まず、ポリイソシアネート成分とポリテトラメチレングリコールを含むポリオール成分とを、周知の方法で反応させてイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを得る。ウレタンプレポリマーの末端をイソシアネート基とするためには、ポリオール成分のOH基のモル数に対して、ポリイソシアネート成分のNCO基のモル数を過剰にして、反応させればよい。一般的には、ポリイソシアネート成分のNCO基:ポリオール成分のOH基=1.5〜3.0:1である。また、この反応は、酢酸エチルやメチルエチルケトン等の有機溶媒に溶解させると共に、ジブチル錫ジラウレート等の錫系やジアザビシクロウンデセン等のアミン系の触媒を用いて行うのが、一般的である。なお、ポリイソシアネート成分やポリテトラメチレングリコールを含むポリオール成分としては、段落0012及び0013に説明したような化合物を用いることができる。
【0018】
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO基)含有率は、2.0〜10質量%程度であり、特に2.5〜3.5質量%であるのが好ましい。イソシアネート基含有率が10質量%を超えると、ウレタン結合が多くなりすぎて、皮脂吸収能が不十分となる傾向が生じる。また、イソシアネート基含有率が2.0質量%未満であると、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーの分子量が高くなり、粘度が増大するので、取扱性や作業性が悪くなる傾向が生じる。
【0019】
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを得た後、これを分散剤が溶解している水溶液に添加及び攪拌して、水中油滴型エマルジョンを得る。具体的には、以下のような方法により、水中油滴型エマルジョンを得る。
【0020】
まず、分散剤を溶解している水溶液を調製する。分散剤としては、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを水中で乳化しうるようなものであれば、どのようなものでも用いることができる。たとえば、ノニオン系界面活性剤等の各種界面活性剤やポリビニルアルコール等の各種高分子分散剤等の公知のものが用いられる。そして、この分散剤を水に溶解させて水溶液を得る。分散剤を水に溶解させる際、分散剤が溶解しやすいように、水を加温するのが好ましい。そして、分散剤が完全に溶解した後、室温に冷却するのが好ましい。加温の程度は分散剤の溶解性により適宜決定しうるが、たとえば、鹸化度86.5〜89.0程度のポリビニルアルコールを用いた場合、90℃程度である。分散剤の濃度は、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーが乳化分散する程度に基づき、適宜決定することができる。一般的には、3〜20質量%程度の濃度である。
【0021】
そして、室温に冷却した分散剤水溶液中に、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを添加し攪拌する。イソシアネート末端ウレタンプレポリマーの添加量は任意でよく、一般的には、分散剤水溶液100質量部に対して3〜20質量部程度である。また、攪拌手段や攪拌の程度も、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーが所望粒径に乳化分散するよう、適宜決定することができる。攪拌手段としては、ホモミキサー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー又は超音波分散機等の公知の攪拌機を用いることができる。また、攪拌の程度としては、たとえばホモミキサーを用いた場合、8000rpm程度で5分間程度である。なお、添加攪拌は、通常室温下で行われるが、特に攪拌しやするするため若干加温して行ってもよい。
【0022】
水中油滴型エマルジョンを得た後、ここに3官能以上の多官能アミンを添加する。3官能以上の多官能アミンは、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを三次元的に高分子化して網目構造のポリウレタンを得るためのものであり、段落0014で説明したような種々の化合物を用いることができる。多官能アミンは、そのまま又は水等の溶媒に溶解した溶液の形態で添加する。多官能アミンの添加量は、水中油滴型エマルジョン中のイソシアネート末端ウレタンプレポリマーのイソシアネート基と当量であるのが好ましい。すなわち、多官能アミンのアミノ基とイソシアネート末端ウレタンプレポリマーのイソシアネート基とが当量となるような添加量で、多官能アミンを添加するのが好ましい。これは、多官能アミンのアミノ基とイソシアネート末端ウレタンプレポリマーのイソシアネート基とが反応して、三次元的に高分子化するためである。したがって、三次元的高分子化を抑制するために、多官能アミンの添加量を当量よりも若干少なく、たとえば0.8当量以上1.0当量未満してもよい。また、三次元的高分子化を確実にするために、多官能アミンの添加量を当量よりも若干多く、たとえば1.0当量を超え1.2当量以下としてもよい。
【0023】
また、3官能以上の多官能アミンのみを添加するのではなく、多官能アミンと共に2官能のアミンや多価アルコール等のイソシアネート基と反応する化合物を添加しても差し支えない。これらの化合物は、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーの三次元的高分子化を抑制したり或いは促進したりするため、三次元的高分子化の程度を調節することができる。
【0024】
3官能以上の多官能アミンを添加して、油滴を構成しているイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを三次元的に高分子化するには、高分子化反応の促進のため、一般的に、加熱して行う。加熱の温度は、多官能アミンの反応性に応じて適宜決定すればよい。たとえば、多官能アミンとして3,3’−ジアミノジプロピルアミンを採用した場合、水中油滴型エマルジョンの温度を80℃程度にすると、約20時間で三次元的高分子化反応が概ね完了する。
【0025】
三次元的高分子化反応が概ね完了すると、水中油滴型エマルジョン中の油滴は、ポリウレタン球体となる。すなわち、ポリウレタン球体群が分散した分散液となる。この分散液中には、分散剤が残存しているため、一般的にはこれを除去する。分散剤を除去する方法としては、分散液に濾過又は遠心分離等の手段を施して、ポリウレタン球体群を回収し、さらにこれに水を加えて再分散した分散液に濾過又は遠心分離等の手段を施す。このような方法を繰り返し行うことにより、分散剤が殆ど完全に除去され、水にポリウレタン球体群が分散したポリウレタン球体水性分散液が得られるのである。
【0026】
一方、親水性シリカ微粉末群を水中に分散させたシリカ水性分散液を調製する。シリカ水性分散液は、水中に親水性シリカ微粉末群を添加し攪拌すれば、容易に調製することができる。この添加攪拌の条件等や、シリカ水性分散液中における親水性シリカ微粉末群の濃度は、親水性シリカ微粉末群が凝集せずに均一に水中に分散するよう適宜決定することができる。たとえば、市販品である親水性シリカ微粉末群「アエロジル200」を5質量%の濃度で水中に分散させるには、ホモミキサーを使用して10000rpmで10分間攪拌すれば、容易にシリカ水性分散液を得ることができる。
【0027】
上記で得られたシリカ水性分散液と、上記で得られたポリウレタン球体水性分散液とを混合して混合水性分散液を得る。両者の混合割合は、固形分である親水性シリカ微粉末群とポリウレタン球体群の量が適切である限り、適宜決定しうる事項であり任意である。また、両者の混合時に、水をさらに添加混合して、ポリウレタン球体群や親水性シリカ微粉末群が凝集しにくいようにするのが、好ましい。水の添加量も、適宜決定しうる事項であるが、ポリウレタン球体水性分散液と同質量部程度とするのがよい。また、これらを混合する際にも、攪拌して凝集が生じにくいようにするのが好ましい。
【0028】
得られた混合水性分散液を噴霧乾燥機を用いて乾燥する。このような乾燥形態は、一般的には噴霧乾燥と言われ、ノズル噴霧方式とディスク噴霧方式とがある。前者は、混合水性分散液をノズル等の孔から、高温雰囲気下に噴霧して乾燥するものである。後者は、ディスクを回転させて遠心力により、混合水性分散液を高温雰囲気下に噴霧して乾燥するものである。噴霧乾燥すると、混合水性分散液中に存在するポリウレタン球体群の各々が、そのままの形態で、すなわち噴霧の際に微粒化されることなく、噴霧される。これは、混合水性分散液中のポリウレタン球体が三次元的に高分子化されたものであるため、噴霧されても破壊されないからである。そして、ポリウレタン球体表面に水が付着した状態で噴霧されると、その水中に親水性シリカ微粉末群が存在するため、乾燥時に親水性シリカ微粉末群がポリウレタン球体表面に付着する。また、この付着は、ポリウレタン球体が柔らかければ柔らかいほど、ポリウレタン球体表面に親水性シリカ微粉末群が埋入した状態で付着する。
【0029】
混合水性分散液を噴霧乾燥すると、ポリウレタン球体が一個のままで、又は二個以上の数個が結合して、ポリウレタン粒子本体を形成する。たとえば、ポリウレタン球体が柔らかかったり、又はその表面が粘着質であると、二個以上の数個が結合してポリウレタン粒子本体となりやすい。逆に、ポリウレタン球体が硬いと、一個のままでポリウレタン粒子本体となりやすい。そして、この粒子本体表面には親水性シリカ微粉末群が付着して被覆せしめられる。親水性シリカ微粉末群は、粒子本体表面を単に被覆している場合もあるが、親水性シリカ微粉末の一部が粒子本体内に埋入した状態で被覆している場合もある。後者のような状態になるのは、ポリウレタン球体乃至ポリウレタン粒子本体が比較的柔らかい場合である。得られるポリウレタン粒子の平均粒径は、混合水性分散液を調製した際、生成しているポリウレタン球体の平均粒径、ポリウレタン粒子が柔らかいとか表面が粘着質であるという性状及び噴霧乾燥の条件等を調整することによって、適宜決定しうる事項である。本発明においては、一般的に1〜500μm程度としている。なお、ポリウレタン粒子群の平均粒径とは、ポリウレタン粒子群を脱イオン水によって分散させ、レーザー散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製、商品名「LA−920」)を用い、体積基準モードにて求めたメジアン径のことである。
【0030】
以上のようにして得られたポリウレタン粒子群を、粘着層を構成する物質、たとえばアクリル系粘着剤等の粘着剤と混練する。ポリウレタン粒子群と粘着剤等との配合比は任意でよく、皮膚に対して適当な粘着力で接着するよう適宜決定しうる事項である。具体的には、粘着剤等100質量部に対して、ポリウレタン粒子群が5〜30質量部程度である。そして、粘着剤等とポリウレタン粒子群とを混練した混練物を、支持体の片面に塗布して粘着層とすれば、本発明に係る皮膚貼付材を得ることができる。
【0031】
本発明に係る皮膚貼付材は、絆創膏や創傷保護材として医療分野に用いることができるが、これに限定されず、以下に示すように皮膚に貼付する場合に広く用いられるものである。たとえば、粘着性のある経皮吸収型外用薬とポリウレタン粒子群とを混練した混練物を、編織物等の支持体の片面に塗布してなる経皮吸収型シートとして、粘着性のある吸熱剤組成物又は発熱剤組成物とポリウレタン粒子群とを混練した混練物を、編織物等の支持体の片面に塗布してなる吸熱又は発熱シートとして、粘着性のあるパック剤とポリウレタン粒子群とを混練した混練物を、編織物等の支持体の片面に塗布してなる化粧用パックシートとして、粘着剤とポリウレタン粒子群とを混練した混練物を、プラジャーカップ等の支持体の内面に塗布してなる胸当て材として好適に使用しうるものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る皮膚貼付材は、支持体の片面に粘着層を備えたものであって、粘着層中に皮脂吸収性に優れたポリウレタン粒子が混在してなるものである。したがって、この皮膚貼付材を皮膚に貼付すると、皮膚から分泌される皮脂は、ポリウレタン粒子によって吸収される。そして、このポリウレタン粒子の表面は親水性シリカ微粉末群によって被覆されている。したがって、粘着層中の粘着性のある物質が皮脂と接触しにくくなり、粘着性のある物質が皮脂によって溶解したり、その粘着力が低下したりしにくくなる。よって、長期に亙って皮膚貼付材を皮膚に貼付しておいても、皮脂によって粘着力が低下しにくく、剥離しにくくなるという作用効果を奏する。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、皮膚貼付材の粘着層に、皮脂吸収能に優れた特定のポリウレタン粒子を混在させておけば、ポリウレタン粒子によって皮膚から分泌される皮脂が吸収されるため、粘着層の粘着力が低下しにくくなるという原理に基づくものと解釈されるべきである。
【0034】
実施例1
[イソシアネート末端ウレタンプレポリマーの調製]
攪拌装置、窒素導入管、温度計及びコンデンサーを付けた4つ口セパラブルフラスコに、ポリテトラメチレングリコールエーテル(数平均分子量1000)300質量部及び酢酸エチル20質量部を仕込み、イソホロンジイソシアネート104.6質量部及びジブチル錫ジラウレート0.04質量部を添加し、75〜80℃の温度で窒素気流下5時間反応を行い、イソシアネート基含有率が3.6%のイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを得た。
【0035】
[水中油滴型エマルジョンの調製]
攪拌装置、窒素導入管、温度計及びコンデンサーを付けた4つ口セパラブルフラスコに、分散剤であるポリビニルアルコール(クラレ社製「PVA−205」:鹸化度86.5〜89.0)100質量部及び脱イオン水900質量部を仕込み、90℃に加熱してポリビニルアルコール水溶液を得た。このポリビニルアルコール水溶液中に、上記で得られたイソシアネート末端ウレタンプレポリマー100質量部を添加した後、ホモミキサーを用いて8000rpmで5分間攪拌混合した。そして、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーが油滴となって存在する水中油滴型エマルジョンを得た。
【0036】
[ポリウレタン球体水性分散液の調製]
上記で得られた水中油滴型エマルジョンに、3,3’−ジアミノジプロピルアミンの10%水溶液35.7質量部を添加した。そして、攪拌しながら80℃まで昇温し、同温度を保持しつつ、20時間反応させた。この結果、油滴中のイソシアネート末端ウレタンプレポリマーとジエチレントリアミンとが反応し、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーは三次元的に高分子化され、ポリウレタン球体が生成した。この後、遠心分離を行って、ポリウレタン球体を沈降させた後、ポリウレタン球体を回収し、水を加えて再分散、遠心分離のサイクルを6回行って、分散剤であるポリビニルアルコールの除去を行い、ポリウレタン球体を40質量%含有するポリウレタン球体水性分散液を得た。
【0037】
[シリカ水性分散液の調製]
別途、攪拌装置に脱イオン水95質量部を仕込み、ホモミキサーを用いて10000rpmで攪拌しながら、親水性シリカ微粉末群(日本アエロジル社製、商品名「アエロジル200」、平均粒径約20nm)5質量部を添加して、10分間攪拌混合して、シリカ水性分散液を得た。
【0038】
[混合水性分散液の調製]
上記で得られたポリウレタン球体水性分散液100質量部、上記で得られたシリカ水性分散液80質量部、及び別途脱イオン水110質量部を混合して、混合水性分散液を得た。
【0039】
[ポリウレタン粒子群の製造]
上記で得られた混合水性分散液を、噴霧乾燥機(大川原化工機社製、型番「L−8i」)を用いて、噴霧圧力0.3MPa、熱風の入口温度140℃、乾燥室内温度70℃の条件で噴霧乾燥を行い、ポリウレタン粒子群を得た。この噴霧乾燥によって、混合水性分散液中の水が蒸発し、ポリウレタン球体群は乾燥してポリウレタン粒子本体群を形成すると共に、親水性シリカ微粉末群は各ポリウレタン粒子本体表面に埋入した状態で付着した。したがって、各ポリウレタン粒子は、粒子本体表面が親水性シリカ微粉末群で被覆されたものとなっていた。そして、各ポリウレタン粒子群は殆ど融着しておらず、また殆ど凝集しておらず、一個づつ分離したサラサラとした状態であった。なお、ポリウレタン粒子の平均粒径は、約12μmであった。
【0040】
実施例2
[イソシアネート末端ウレタンプレポリマーの調製]
ポリテトラメチレングリコールエーテルとして数平均分子量3000のものを使用し、かつ、イソホロンジイソシアネートの添加量を45.0質量部とした他は、実施例1と同一の方法により、イソシアネート基含有率が2.5%のイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを得た。
【0041】
[水中油滴型エマルジョンの調製]
上記イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを用いた他は、実施例1と同一の方法により、水中油滴型エマルジョンを得た。
【0042】
[ポリウレタン球体水性分散液の調製]
上記水中油滴型エマルジョンを用い、かつ、3,3’−ジアミノジプロピルアミンの10%水溶液の添加量を24.5質量部とした他は、実施例1と同一の方法により、ポリウレタン球体水性分散液を得た。
【0043】
[シリカ水性分散液の調製]
実施例1と同一の方法でシリカ水性分散液を得た。
[混合水性分散液の調製]
上記ポリウレタン球体水性分散液を用いた他は、実施例1と同一の方法で混合水性分散液を得た。
[ポリウレタン粒子群の製造]
上記混合水性分散液を用いる他は、実施例1と同一の方法でポリウレタン粒子群を得た。このポリウレタン粒子群の性状は、実施例1で得られたものと同様であった。なお、ポリウレタン粒子の平均粒径は、約15μmであった。
【0044】
実施例3
[イソシアネート末端ウレタンプレポリマーの調製]
実施例1と同一の方法でイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを得た。
[その他のイソシアネート末端ウレタンプレポリマーの調製]
攪拌装置、窒素導入管、温度計及びコンデンサーを付けた4つ口セパラブルフラスコに、ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ社製、商品名「PCDL T−6002」、数平均分子量2000)300質量部及び酢酸エチル20質量部を仕込み、イソホロンジイソシアネート67.4質量部及びジブチル錫ジラウレート0.04質量部を添加し、75〜80℃の温度で窒素気流下5時間反応を行い、イソシアネート基含有率が3.5%のイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを得た。
【0045】
[水中油滴型エマルジョンの調製]
実施例1で得られたイソシアネート末端ウレタンプレポリマー52質量部と、上記で得られたその他のイソシアネート末端ウレタンプレポリマー48質量部とを混合した混合物100質量部を用いる他は、実施例1と同一の方法により、水中油滴型エマルジョンを得た。
【0046】
[ポリウレタン球体水性分散液の調製]
上記水中油滴型エマルジョンを用い、かつ、3,3’−ジアミノジプロピルアミンの10%水溶液の添加量を34.6質量部とした他は、実施例1と同一の方法により、ポリウレタン球体水性分散液を得た。
【0047】
[シリカ水性分散液の調製]
実施例1と同一の方法でシリカ水性分散液を得た。
[混合水性分散液の調製]
上記ポリウレタン球体水性分散液を用いた他は、実施例1と同一の方法で混合水性分散液を得た。
[ポリウレタン粒子群の製造]
上記混合水性分散液を用いる他は、実施例1と同一の方法でポリウレタン粒子群を得た。このポリウレタン粒子群の性状は、実施例1で得られたものと同様であった。なお、ポリウレタン粒子の平均粒径は、約14μmであった。
【0048】
実施例4
[イソシアネート末端ウレタンプレポリマーの調製]
攪拌装置、窒素導入管、温度計及びコンデンサーを付けた4つ口セパラブルフラスコに、ポリテトラメチレングリコールエーテル(数平均分子量1000)150質量部、ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ社製、商品名「PCDL T−6002」、数平均分子量2000)150質量部及び酢酸エチル20質量部を仕込み、イソホロンジイソシアネート85.4質量部及びジアザビシクロウンデセン0.1質量部を添加し、75〜80℃の温度で窒素気流下5時間反応を行い、イソシアネート基含有率が3.5%のイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを得た。
【0049】
[水中油滴型エマルジョンの調製]
上記イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを用いた他は、実施例1と同一の方法により、水中油滴型エマルジョンを得た。
【0050】
[ポリウレタン球体水性分散液の調製]
上記水中油滴型エマルジョンを用い、かつ、3,3’−ジアミノジプロピルアミンの10%水溶液の添加量を34.7質量部とした他は、実施例1と同一の方法により、ポリウレタン球体水性分散液を得た。
【0051】
[シリカ水性分散液の調製]
実施例1と同一の方法でシリカ水性分散液を得た。
[混合水性分散液の調製]
上記ポリウレタン球体水性分散液を用いた他は、実施例1と同一の方法で混合水性分散液を得た。
[ポリウレタン粒子群の製造]
上記混合水性分散液を用いる他は、実施例1と同一の方法でポリウレタン粒子群を得た。このポリウレタン粒子群の性状は、実施例1で得られたものと同様であった。なお、ポリウレタン粒子の平均粒径は、約13μmであった。
【0052】
比較例1
[その他のイソシアネート末端ウレタンプレポリマーの調製]
実施例3の[その他のイソシアネート末端ウレタンプレポリマーの調製]と同一の方法で、その他のイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを得た。
[水中油滴型エマルジョンの調製]
上記その他のイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを用いた他は、実施例1と同一の方法により、水中油滴型エマルジョンを得た。
[ポリウレタン球体水性分散液の調製]
上記水中油滴型エマルジョンを用い、かつ、3,3’−ジアミノジプロピルアミンの10%水溶液の添加量を34.6質量部とした他は、実施例1と同一の方法により、ポリウレタン球体水性分散液を得た。
【0053】
[シリカ水性分散液の調製]
実施例1と同一の方法でシリカ水性分散液を得た。
[混合水性分散液の調製]
上記ポリウレタン球体水性分散液を用いた他は、実施例1と同一の方法で混合水性分散液を得た。
[ポリウレタン粒子群の製造]
上記混合水性分散液を用いる他は、実施例1と同一の方法でポリウレタン粒子群を得た。このポリウレタン粒子群の性状は、実施例1で得られたものと同様であった。なお、ポリウレタン粒子の平均粒径は、約16μmであった。
【0054】
実施例1〜4及び比較例1で得られたポリウレタン粒子群の皮脂吸収量を測定した。皮脂吸収量の測定は、以下の方法により行った。すなわち、室温下において、ポリウレタン粒子群0.2gを、人工皮脂10mlに浸漬し、3日間放置して、人工皮脂を十分に吸収させた後、メンブレンフィルターを用いて10分間吸引濾過を行って過剰量の人工皮脂を取り除き、人工皮脂を吸収したポリウレタン粒子群の重量を測定し、重量増加分を吸収量(g/100g)として算出した。この結果は、表1に示したとおりであった。なお、人工皮脂とは、トリオレイン29質量部、オレイン酸28.5質量部、オレイン酸オレイル18.5質量部、スクアレン14質量部、コレステロール7質量部及びミリスチン酸ミリスチル3質量部よりなるものである。
【0055】
[表1]
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実施例1 実施例2 実施例3 実施例4 比較例1
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人工皮脂 218 293 119 129 25
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【0056】
表1の結果から明らかなとおり、ポリイソシアネート成分とポリテトラメチレングリコールを含むポリオール成分とを反応させたイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを用いて得られた実施例1〜3に係るポリウレタン粒子群は、ポリイソシアネート成分とポリテトラメチレングリコール以外のポリオール成分とを反応させた、その他のイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを用いて得られた比較例1に係るポリウレタン粒子群に比べて、人工皮脂をよく吸収することが分かる。したがって、実施例に係るポリウレタン粒子群を皮膚貼付材の粘着層中に混在させておけば、皮膚貼付時においても、皮脂をよく吸収し、粘着層の粘着力の低下を防止しうることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の片面に粘着層を備えた皮膚貼付材において、該粘着層中に、ポリウレタン粒子本体表面に親水性シリカ微粉末群が被覆してなるポリウレタン粒子よりなる皮脂吸収性粒子が混入されており、該ポリウレタン粒子本体は、ポリイソシアネート成分とポリテトラメチレングリコールを含むポリオール成分との反応により得られるイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを、3官能アミンで三次元的に高分子化してなるものであることを特徴とする皮膚貼付材。
【請求項2】
ポリウレタン粒子本体表面に親水性シリカ微粉末群が埋入した状態で被覆してなるポリウレタン粒子である請求項1記載の皮膚貼付材。
【請求項3】
ポリテトラメチレングリコールの数平均分子量が650〜3000である請求項1記載の皮膚貼付材。
【請求項4】
ポリイソシアネート成分としてイソホロンジイソシアネートを用い、ポリオール成分としてポリテトラメチレングリコールを用いる請求項1記載の皮膚貼付材。
【請求項5】
多官能アミンとして3,3’−ジアミノジプロピルアミンを用いる請求項1記載の皮膚貼付材。
【請求項6】
ポリウレタン粒子の粒径は、親水性シリカ微粉末の粒径の30倍以上である請求項1記載の皮膚貼付材。

【公開番号】特開2010−131212(P2010−131212A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310342(P2008−310342)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000105648)コニシ株式会社 (217)
【Fターム(参考)】