説明

皮膚貼付用粘着テープもしくはシートおよびその製造方法

【課題】 医療分野やスポーツ分野などにおいて用いられる皮膚貼付用粘着テープもしくはシートおよびその製造方法に関し、皮膚にしっかりと貼着し、使用中に緩むことのない固定性能と、皮膚表面の動きに追従する柔軟性を有すると共に、皮膚に与える刺激を最小限に抑えることができる粘着テープを提供する。
【解決手段】 伸縮性布帛の片面に粘着剤層を設けてなる皮膚貼付用粘着テープもしくはシートであって、粘着剤層はアルキル(メタ)アクリレート40〜80重量%、アルコキシ(メタ)アクリレート10〜50重量%、(メタ)アクリル酸1〜10重量%からなるアクリル系共重合体100重量部と、長鎖脂肪酸グリセリンエステル20〜100重量部を含み、架橋剤にて架橋処理されている。伸縮性布帛は撥水剤による撥水処理を施すことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野やスポーツ分野などにおいて用いられる皮膚貼付用粘着テープもしくはシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より医療分野やスポーツ分野において、皮膚貼付用粘着テープもしくはシート(以下、粘着テープと略すこともある。)としては、救急絆創膏やプラスター、テーピング用粘着テープなどの様々な用途に利用されており、近年では、用途に応じて様々な形状に加工された粘着テープが製造、販売されている。
【0003】
ここで、テーピングとは、粘着テープを用いて関節部位や筋肉などの施術部位を固定することであって、当該部位を支持、補強、圧迫することにより、痛みの軽減や疾患治癒促進などの効果がある。このようなテーピング療法は、薬物治療や通院、手術などの他の治療方法と比較して、比較的安価に且つ手軽に痛みを軽減できる有効な手段であり、スポーツを行なう際の障害の事前予防や事後の応急措置にも大きな力を発揮している。
【0004】
上記テーピングに用いられる粘着テープは、粘着テープとしての本来の皮膚貼付機能の他に、伸び性やキックバック性(復元性または圧迫性)、低刺激性、低モジュラス性、柔軟性、撥水性などの様々な機能や性能が求められているのが実情である。例えば、一般的に粘着テープが貼付される皮膚の表面は、壊死した皮膚細胞(角質)や汗分、皮脂成分、埃などが付着した凹凸を有する面であると共に、身体の動きに伴って伸縮する面でもある。特に、関節部位のように大きく屈曲可動する部位に貼付される粘着テープは、皮膚の屈曲動作に追従できる特性を有することが求められる。さらに、通常、テーピングする際には粘着テープは緊締するように皮膚面に貼付されるので、粘着テープ自体にも適度な伸び性を有していることが重要な特性として求められている。
【0005】
しかしながら、このように伸び性を有する粘着テープを使用した場合では、貼付後の時間が経つと締め付け力(緊締力)が緩和して粘着テープが緩んでしまうことがある。このため、粘着テープには適度なキックバック性も有していることが必要とされる。特に、可動領域の大きい部分にテーピングしたり、テーピングしたまま激しい運動をする場合には、テーピングによる固定性を持続させるためにも、キックバック性は重要な特性となるのである。(特許文献1参照)
さらに、上記粘着テープは、皮膚の動きを過剰に拘束するような皮膚接着力を有する粘着剤や支持基材を用いると、貼付中に粘着テープと皮膚との間で物理的なストレスが生じて、貼付部位に皮膚刺激を与えてしまい、皮膚カブレを生じたり、違和感や不快感を与えたりする。従って、関節部位などの可動部位に貼付する必要のある粘着テープでは、皮膚表面の動きに対して適度に追従できる程度の伸縮性を有すると共に、伸びた際に皮膚表面を拘束しないように、小さな応力でも容易に伸縮する支持基材、即ち、低モジュラス性を有する支持基材を用いることが好ましい。
【0006】
また、このようなテーピング用の粘着テープに用いる粘着剤層は、汗分や汚れなどが付着している皮膚表面や、凹凸を有するような皮膚表面に対して追従、密着して、皮膚の動きに合わせて弾性変形できるような柔軟性や粘弾性を有していることも求められる。そのために粘着剤としては、粘着テープを貼付している間は皮膚表面から剥がれ落ちない程度の皮膚接着性を有し、粘着テープを剥離する際には、皮膚刺激を生じない程度の小さい剥離力で剥離できるものを用いることが好ましい。剥離時に皮膚表面の角質剥離などによる損傷がなければ、貼付した皮膚面に対して過剰な余計な皮膚刺激を与えないので、皮膚カブレなどの発生を最小限に抑えることができるのである。
【0007】
さらに、テーピングを行なう場合には、粘着テープを施術部位の皮膚面に密着させて、緊締しながら弾力的に巻き付ける必要があるが、そのためには粘着テープの支持基材がほつれなどを生じないものであることが好ましい。
【0008】
一方、従来から上記テーピングなどに用いられている皮膚貼付用粘着テープもしくはシートに用いる支持基材としては、綿織物などに伸縮性を有する糸を織り込んだ伸縮織物、撚り糸からなる強撚布などの布帛が用いられている。一般的に、これらの織物を用いた粘着テープは、低モジュラスであると共に、適度な機械的強度を有する反面、伸び性やキックバック性に乏しいため、施術部位への固定性が悪くて貼付部分がずれやすいという問題があった。
【0009】
また、これらの支持基材を用いた粘着テープは撥水性を有しない場合には、テーピングしたまま運動して多量に汗をかいたり、雨天時に水濡れしたりした場合には、支持基材が水を含んだ状態になるので、粘着テープを関節部位などに巻回している場合などでは、粘着テープの自背面と粘着剤層との間の粘着テープの接着力が低下して剥がれ易くなるという問題が生じる恐れがある。
【0010】
そこで、粘着テープの基材としては、ポリウレタン系樹脂やポリオレフィン系樹脂からなるフィルムや不織布なども用いられてきた。これらの基材は、低モジュラスであるが、伸び性や機械的強度が低いので、粘着テープを貼り付ける際の取り扱いが難しいという問題があった。近年、伸び性を有するポリウレタン材料からなる不織布を用いた粘着テープが開発されており、伸び性や施術部位へのフィット性などの問題は改善されているが、機械的強度の問題は依然として解決されていない。また、このようなポリウレタンフィルムをラミネート加工した製品も開発されている。しかしながら、現状としては、足や膝関節などのように動きの激しい部位における使用に耐え得るだけの強度やキックバック性を備えると共に、充分な固定性能を有する粘着テープは未だ得られていない。(特許文献1参照)
【特許文献1】特開2004−49541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記実状に鑑み、皮膚にしっかりと貼着し、使用中に緩むことのない固定性能と、皮膚表面の動きに追従する柔軟性とを有すると共に、皮膚に与える刺激を最小限に抑えることのできる皮膚貼付用粘着テープもしくはシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、伸縮性布帛の片面に粘着剤層を設けてなる皮膚貼付用粘着テープもしくはシートであって、前記粘着剤層はアルキル(メタ)アクリレート40〜80重量%、アルコキシ(メタ)アクリレート10〜50重量%、(メタ)アクリル酸1〜10重量%を含む単量体混合物から得られるアクリル系共重合体、および架橋剤を含み、前記アクリル系共重合体100重量部に対して長鎖脂肪酸グリセリンエステルが20〜100重量部の範囲で配合されていると共に、架橋剤によって架橋処理が施されていることを特徴とする皮膚貼付用粘着テープもしくはシートであることを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明は、アルキル(メタ)アクリレート40〜80重量%、アルコキシ(メタ)アクリレート10〜50重量%、(メタ)アクリル酸1〜10重量%を含む単量体混合物から得られるアクリル系共重合体、および架橋剤を含み、前記アクリル系共重合体100重量部に対して長鎖脂肪酸グリセリンエステルが20〜100重量部の範囲で配合されている粘着剤溶液を剥離シートの片面に所定厚みで塗布して粘着剤溶液層を形成した後、該粘着剤溶液層が完全に乾燥されていない状態で、該粘着剤溶液層を伸縮性布帛の片面に貼り合わせた後、乾燥、粘着剤層の架橋を行なって皮膚貼付用粘着テープもしくはシートを製造する方法であって、伸縮性布帛が撥水剤による撥水処理が施されていることを特徴とする皮膚貼付用粘着テープもしくはシートの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の皮膚貼付用粘着テープもしくはテープは、伸縮性布帛の片面にアクリル系共重合体と長鎖脂肪酸グリセリンエステルを含み、架橋処理を施した粘着剤層を形成しているので、貼着する皮膚面の動きに追従する伸縮性を有すると共に、低皮膚刺激性を有するので、特にテーピング用途に用いた場合に長期間にわたって安定して固定することができ、可動領域の大きな部位に使用したり、激しい運動でも剥離することなく、最適な粘着テープやシートとして提供できるものである。
【0015】
特に、特定の撥水処理を施すことによって、粘着テープ全体に優れた撥水性を付与することができるので、水濡れした場合においても剥がれにくく、外部からの雨などの水分の浸入に対しても皮膚接着力の低下を起こしにくいものである。
【0016】
さらに、本発明の製造方法によれば、伸縮性布帛の片面に粘着剤層を貼り合わせる際に、粘着剤層溶液を完全に乾燥させずに、所謂半乾き状態で積層するので粘着剤層は伸縮性布帛との投錨性が良好となる。この際に伸縮性布帛を構成する繊維表面にしっかりと撥水剤が付着して撥水処理が施されていると、布帛が本来有する透湿性を阻害せずに、しかも半乾き状態で積層された粘着剤層が撥水処理された伸縮性布帛の背面にまで浸入(裏抜け)することがないという効果を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の皮膚貼付用粘着テープもしくはシートにおける伸縮性布帛は、例えばテーピング用途に使用した際に必要な伸縮性を有するものであり、具体的には縦および横方向にそれぞれ30%以上、好ましくは50%以上の伸長率を有する布帛が用いられる。特に、肘や膝などの大きく屈曲する関節部位に使用する場合には、約100〜130%程度の伸縮性を有する布帛を用いることが好ましい。
【0018】
上記布帛としては、織布や編布、不織布などを使用することができるが、良好な伸縮性を発揮させるためには編布を用いることが好ましい。編布としては、0.2〜1.0mm、好ましくは0.4〜0.8mm程度の厚みのものを採用することが、適度な機械的強度を有すると共に、皮膚貼付時の違和感を生じないようにするために好ましいものである。
【0019】
伸縮性布帛を構成する繊維の材質としては、綿などの天然繊維や各種プラスチック繊維を用いることができるが、伸縮操作時の繊維強度の点からは、ポリアミド(ナイロン)やポリエステルなどからなる繊維を用いて、これに特殊加工を施すことで伸縮性をもたせたストレッチヤーンや、ポリウレタン系弾性糸などの伸縮性の大きい繊維からなる編布、非伸縮性繊維と伸縮性繊維とを編み込んだ織布などを用いることができる。好ましくは、ポリアミドやポリエステル、綿などの繊維糸を80〜95重量%、ポリウレタン系弾性糸を5〜20重量%の比率で用い、これをトリコット編みにすることで大きな伸縮性を有する編布にしたものが用いられる。なお、編み方としては、トリコット編み、ラッシェル編み、ミラニーズ編みを含む経(タテ)メリヤス、および平型編みや円形編みを含む緯(ヨコ)メリヤスの何れを用いても良いが、裁断時のほつれが少ない点からはタテメリヤスを用いることがより好ましいものである。
【0020】
特に、伸縮性編布としては、スパンボンド不織布にポリウレタンなどの伸縮糸を編み込んだ編布や、伸縮糸とポリエステルなどの非伸縮糸とを編み込んで複合化させた織布が好ましく、例えばポリエステル製スパンボンド不織布「エクーレ6201A」(東洋紡績社製)に、ポリウレタン製伸縮糸「Lycra」(東レ・デュポン社製)とポリエステル糸を編み込んだ伸縮性編布を用いることが好ましい。
【0021】
上記伸縮性糸は弾性および伸縮性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、特にポリウレタン製弾性糸を用いることがよく、繊維径は40〜160デニール程度のものを用いることによりテーピング用途に要求される伸縮性を付与するために好ましいものとなる。
【0022】
本発明における上記伸縮性布帛は撥水剤による撥水処理を施すことが好ましいものである。具体的には、ポリウレタンフィルムなどの撥水性を有するフィルムを布帛に積層するのではなく、布帛を構成する繊維表面に撥水剤によるコーティングを施すことが好ましい。即ち、フィルムなどを積層して粘着テープ自体に撥水性を付与すると、高透湿性のフィルムを用いたとしても、布帛が本来保有している優れた通気性を低下させることになるので、長時間の貼付によってムレが生じて皮膚刺激を起こしやすくなるからである。一方、布帛を構成する繊維毎にその表面に撥水処理を施した場合は、布帛の有する通気性を阻害せずに、粘着テープ自体に撥水性を付与することができるのである。
【0023】
このような撥水処理に用いる撥水剤としては、特に限定されるものではないが、取扱い性や優れた撥水機能などの点からは、フッ素系樹脂を主成分とする撥水剤、特に高い撥油撥水性と耐久性の点からは、好ましくはパーフルオロアルキル(メタ)アクリレートを主成分とするアクリル系撥水剤を含有するエマルジョンを用いることができる。パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート系の撥水剤は撥水性と共に、撥油性も有するので、本発明における伸縮性布帛に処理した場合、水分に対する撥水性だけでなく、粘着剤や粘着剤を溶解する溶剤に対しても優れた撥油性を有するものである。
【0024】
上記撥水剤による撥水処理としては、伸縮性布帛に撥水剤を噴霧したり、撥水剤中に浸漬したりすることができるが、布帛を構成する繊維の表面に撥水剤を確実にかつ均一に付着させるためには、浸漬処理を行なうことが好ましい。具体的には、伸縮性布帛を撥水剤を含有するエマルジョン中に伸縮性布帛を浸漬して充分に繊維表面に撥水剤を馴染ませたのち、余分な撥水剤を除去するためにピンチロールなどで扱き、風乾もしくは熱風乾燥などの手段で乾燥させて撥水処理を行なうことができる。
【0025】
上記のように伸縮性布帛を撥水処理することによって、本発明の皮膚貼付用粘着テープもしくはシートは、外部からの水濡れに対して保護できると共に、テーピングしたまま運動して汗をかいても粘着剤層の皮膚接着力を低下させにくくなるので、優れたテーピング性能を維持できるものである。
【0026】
本発明においては、上記伸縮性布帛の片面に粘着剤層が形成されている。この粘着剤層は皮膚接着力の調整が容易であること、皮膚刺激性が少ないことなどから、アクリル系共重合体を主成分とする粘着剤から形成されており、その中でも、皮膚刺激性が極めて少ないゲル状の粘着剤を用いている。具体的には、アルキル(メタ)アクリレート40〜80重量%、アルコキシ(メタ)アクリレート10〜50重量%、(メタ)アクリル酸1〜10重量%を含む単量体混合物から得られるアクリル系共重合体を用いる。また、本発明に用いる粘着剤は上記アクリル系共重合体100重量部に対して長鎖脂肪酸グリセリンエステルを20〜100重量部の範囲で配合すると共に、架橋剤を配合して粘着剤層全体として架橋処理が施されているものである。
【0027】
上記アクリル系共重合体におけるアルキル(メタ)アクリレートは、粘着剤層に粘着性、皮膚接着性を付与する主成分となるものであり、特にアルキル基の炭素数が6以上、さらには6〜18の長鎖アルキル基を用いると効果的である。なお、アルキル(メタ)アクリレートは、皮膚に対する刺激性が比較的少なく、長時間の使用によっても粘着力の低下が起こりにくいという利点を有するものである。
【0028】
このようなアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、アクリル酸もしくはメタクリル酸のブチルエステル、プロピルエステル、オクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル、ドデシルエステル、ラウリルエステルなどを一種もしくは二種以上併用して用いることができる。なお、これらのアルキルエステル鎖は直鎖であっても、分岐鎖であってもよいことは云うまでもない。
【0029】
上記アルキル(メタ)アクリレートは、後述するアルコキシ(メタ)アクリレートや(メタ)アクリル酸と共重合することによって粘着性を有するアクリル系共重合体を形成するが、本発明においては40〜80重量%、好ましくは50〜75重量%の範囲で共重合する。アルキル(メタ)アクリレートの共重合量が40重量%に満たない場合には、得られた共重合体に充分な皮膚接着性が付与されず、また、80重量%を超える量の共重合量では凝集力の低下が見られ、皮膚面からの剥離除去時に糊残り現象を生じることがあるからである。
【0030】
上記アルキル(メタ)アクリレートと共重合するアルコキシ(メタ)アクリレートは、得られる共重合体に水蒸気透過性、所謂透湿性を付与する成分である。従って、アクリル系共重合体中10〜50重量%、好ましくは20〜45重量%の範囲で共重合することが望ましい。具体的には、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、ブトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、ブトキエチルアクリレートなどの炭素数が1〜4のアルコキシ基を有するアルコキシアルキルアクリレートを用いることが好ましい。
【0031】
また、本発明では上記アルコキシ(メタ)アクリレートと共に(メタ)アクリル酸、即ちアクリル酸および/またはメタクリル酸を共重合させる。(メタ)アクリル酸を共重合することによって、得られるアクリル系共重合体の凝集力が向上するので、粘着剤を調製する上では極めて重要な単量体となる。しかしながら、(メタ)アクリル酸を多量に共重合すると凝集力の向上は期待できるが、皮膚刺激性が次第に強くなるので、本発明では1〜10重量%、好ましくは3〜7重量%程度の共重合比率とすることが望ましい。
【0032】
なお、本発明の粘着剤中に含有させアクリル系共重合体は、上記各単量体を必須成分とする共重合体であるが、親水性の付与などの各種改質を行うための改質用単量体として、スチレンや酢酸ビニル、N−ビニル−2−ピロリドンなどの単量体を必要に応じて適宜共重合してもよいものである。
【0033】
本発明における粘着剤層は、上記したアクリル系共重合体に長鎖脂肪酸グリセリンエステルを含有させることが重要である。これは粘着剤層に柔軟性を付与して、皮膚刺激性を低減するために必要であり、アクリル系共重合体100重量部に対して20〜100重量部、好ましくは25〜80重量部程度の範囲で配合される。このような長鎖脂肪酸グリセリンエステルとしては、例えばモノカプリル酸グリセリルやトリカプリル酸グリセリル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、トリカプリン酸グリセリル、トリラウリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、トリオレイン酸グリセリルなどが挙げられる。これらのうち、酸化劣化を防止するという観点から、不飽和二重結合を有さない飽和脂肪酸を用い、皮膚への刺激性が小さいという点からこれらの飽和脂肪酸のグリセリンエステルを好ましく用いることができる。従って、カプリル酸やカプリン酸、2−エチルヘキサン酸などの飽和脂肪酸とのグリセリンエステルが好ましく、具体的にはカプリル酸トリグリセリルやカプリン酸トリグリセリル、2−エチルヘキサン酸トリグリセリルを用いることが好ましく、アクリル系共重合体との相溶性などの点からは、特にカプリル酸トリグリセライドを用いることが好ましいものである。
【0034】
本発明における粘着剤層には上記した長鎖脂肪酸グリセリンエステルを配合するだけでは、粘着剤層の凝集力が低下して、皮膚面への貼付、剥離時に皮膚面に糊残り現象が生じる恐れがあるので、適度な凝集力を維持するためには架橋処理を施す必要がある。架橋処理としては、電子線やγ線、X線などの電離性放射線の照射による物理的架橋と、架橋剤による化学的架橋があるが、本発明では取扱い性や再現性良く架橋を施すという点で架橋剤による化学的架橋処理を施すことが好ましい。具体的には、粘着剤層を構成するアクリル系共重合体や長鎖脂肪酸グリセリンエステル、その他任意成分を配合した粘着剤組成物に架橋剤を添加して、加熱処理することで架橋処理が施される。このような架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤や過酸化物系架橋剤、金属キレート系架橋剤など一般的に粘着剤を架橋処理する際に使用される架橋剤を用いることができる。
【0035】
上記のようにして架橋処理を施した粘着剤層は、架橋度合いによって適度な皮膚接着性と凝集性のバランスを保持するものであるが、アクリル系共重合体の分子量や分子量分布もこれらの調整に対して影響を与えるものである。具体的にはアクリル系共重合体の分子量が大きすぎると粘着剤層の柔軟性が低下する傾向を示し、小さすぎると凝集力不足になる傾向を示す。また、分子量分布も適度な分布を有する方が粘着特性のバランスが良好となることが経験則的に分かっている。その結果、本発明ではアクリル系共重合体の分子量測定溶媒に対する可溶分の重量平均分子量が50万〜100万、好ましくは60万〜90万程度、数平均分子量が3万〜19万に調整し、分子量分布は3〜22、好ましくは8〜15程度に調整することが望ましいものである。
【0036】
なお、ここで重量平均分子量および分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた測定した値であり、測定サンプルをテトラヒドロフランにて溶解し、0.45μmφのメンブレンフィルタを通過する可溶分について行い、ポリスチレン換算にて算出した。
【0037】
上記のような構成からなる粘着剤層は、テーピング用途などで適度な皮膚接着力を発揮するという観点から、20〜150μm程度であることが好ましく、さらには、30〜90μm程度であることが好ましい。なお、皮膚固定性と皮膚低刺激性の両立という観点から、粘着剤層の特性としては、ベークライト板(以下、「ベーク板」とも略す)に対する接着力、即ち、対ベーク板接着力がJIS規格の180度ピール法によれば10N/19mm幅以下、好ましくは、0.8〜5N/19mm幅程度の値になるように設計することで良好な皮膚接着性を有するものとなる。
【0038】
本発明おける皮膚貼付用粘着テープもしくはシートは、上記構成からなるものであるが、粘着剤層の表面の汚染を防ぐために、使用するまで粘着剤層表面をセパレータにて被覆しておくことが好ましい。このセパレータは、一般的に皮膚へ貼付する粘着テープに用いられるものを使用することができる。具体的には、上質紙、グラシン紙、パーチメント紙などの表面に、シリコーン樹脂やフッ素樹脂などの剥離性能を有する剥離剤をコーティングしたものや、上質紙に樹脂をアンカーコートしたもの、またはポリエチレンラミネートしたものなどの表面にシリコーン樹脂やフッ素樹脂などの剥離性能を有する剥離剤をコーティングしたものを使用することができる。
【0039】
本発明の皮膚貼付用粘着テープもしくはシートの製造方法の一例を以下に示すが、何らこれらに限定されるものではない。
【0040】
上記のように粘着剤層を構成する粘着剤として、アルキル(メタ)アクリレート40〜80重量%、アルコキシ(メタ)アクリレート10〜50重量%、(メタ)アクリル酸1〜10重量%を含む単量体混合物を、有機溶剤中で通常のラジカル重合によって共重合反応させてアクリル系共重合体溶液を調製する。次に、このアクリル系共重合体溶液の固形分(アクリル系共重合体)100重量部に対して20〜100重量部の長鎖脂肪酸グリセリンエステルを配合して、さらに架橋剤を配合し粘着剤組成物の溶液を調製する。
【0041】
得られた粘着剤溶液をセパレータの片面に所定厚みで塗布して粘着剤溶液層を形成した後、この粘着剤溶液層が完全に乾燥されていない状態で、伸縮性布帛の片面に貼り合わせた後、乾燥処理を行なって粘着剤層の架橋を行なって、本発明の皮膚貼付用粘着テープもしくはシートを得るのである。未乾燥状態の粘着剤溶液層を貼り合わせる伸縮性布帛は、予め撥水剤による撥水処理が施されておくことが好ましい。つまり、撥水処理を施していないと、未乾燥状態の粘着剤層溶液を貼り合わせた際に、粘着剤が伸縮性布帛の内部を経て背面にまで浸入(所謂裏抜け)しやすくなるが、撥水処理を施しておくと、粘着剤層溶液は撥水処理剤で処理された布帛内を浸入しにくくなり、裏抜けを生じないのである。また、未乾燥状態で貼り合わせることで、乾燥状態の粘着剤層を貼り合わせる場合よりも布帛内部に粘着剤層が浸入(裏抜けまではしない程度)するので、布帛と粘着剤層との投錨力が向上し、伸縮操作を繰り返しても布帛と粘着剤層との界面での剥離が生じないという優れた効果を発揮するようになる。
【実施例】
【0042】
以下に本発明の実施例を示し、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。なお、以下にて、「部」および「%」とあるのは、それぞれ「重量部」および「重量%」を意味するものである。
実施例1
ポリエステル製75デニール糸をスムーズ編で、厚さ450μm、横方向の伸びが75%、縦方向の伸びが50%で伸縮するように編み込んだ伸縮性編布を伸縮性布帛として用いた。なお、JISL1096法に準じた20%モジュラス1.2N/19mm幅、伸び115%、引張強度93N/19mm幅、キックバック性82%であった。
【0043】
これをパーフルオロアルキル(メタ)アクリレートを主成分としたアクリル系撥水剤を含むエマルジョン(旭硝子社製、商品名アサヒガードAG−8025)に浸漬したのち、ピンチロールで扱き、乾燥処理を行って撥水処理を施した。
【0044】
一方、粘着剤層として、イソノニルアクリレート65部、2−メトキシエチルアクリレート30部、アクリル酸5部からなる単量体混合物を、トルエン80部に均一に溶解混合し、重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル0.3部を添加して共重合反応を行った。具体的には約60℃で約10時間重合を行ったのち、78℃に昇温してさらに2時間熟成反応を行った。得られたアクリル系共重合体のゲル分率は0.1%、重量平均分子量は74万、分子量分布は13.1であった。
【0045】
次に、得られたアクリル系共重合体のトルエン溶液に、アクリル系共重合体100部に対して45部のカプリル酸トリグリセライドを配合し、イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製、コロネートHL)を0.075部配合し、片面にシリコーン処理を施したセパレータの剥離処理面に、乾燥後の厚みが60μmとなるように塗布して粘着剤溶液層を形成した。
【0046】
次いで、粘着剤溶液層が未乾燥の状態で、前記撥水処理を施した伸縮性布帛の片面に貼り合わせ、150℃で3分間乾燥して粘着剤層に架橋処理を施して、本発明の皮膚貼付用粘着テープを作製した。
実施例2
ポリエステル製スパンボンド不織布(東洋紡績社製、商品名エクーレ6201A、坪量20g/m2)に、ポリウレタン製伸縮糸(東レ・デュポン社製、商品名Lycra、75デニール)11%、およびポリエステル製75デニール加工糸を編み込んで、横方向の伸びが190%、縦方向の伸びが90%で伸縮するように調整して伸縮性編布を作製した。なお、20%モジュラス1.1N/19mm幅、伸び108%、引張強度91N/19mm幅、キックバック性86%であった。
【0047】
この伸縮性編布を本発明の伸縮性布帛として用いた以外は、実施例1と同様に撥水処理を施して、実施例1と同様に皮膚貼付用粘着テープを作製した。
実施例3
伸縮性布帛に撥水処理を施さなかった以外は、実施例1と同様にして皮膚貼付用粘着テープを作製した。
実施例4
実施例1において、アクリル系共重合体が、2−エチルヘキシルアクリレート70部、2−エトキシエチルアクリレート25部、アクリル酸5部からなる単量体混合物を、トルエン45部に均一に溶解混合して共重合した以外は、実施例1と同様にして粘着剤層を作製した。なお、得られた共重合体のゲル分率は0%、重量平均分子量は64万、分子量分布は11.4であった。
実施例5
実施例1において、長鎖脂肪酸グリセリンエステルとしてのカプリル酸トリグリセライドの代わりに、2−エチルヘキサン酸トリグリセリルを配合した以外は、実施例1と同様にして皮膚貼付用粘着テープを作製した。
比較例1
実施例1において、粘着剤層中に長鎖脂肪酸グリセリンエステルとしてのカプリル酸トリグリセライドを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして皮膚貼付用粘着テープを作製した。
比較例2
実施例1において、伸縮性布帛の代わりに、伸縮性を有さない厚さ730μmの厚手強撚布を用いた以外は、実施例1と同様にして皮膚貼付用粘着テープを作製した。なお、20%モジュラス4N/19mm幅、伸び110%、引張強度196N/19mm幅、キックバック性85%であった。
比較例3
実施例1において、長鎖脂肪酸グリセリンエステルとしてのカプリル酸トリグリセライドの代わりに、ミリスチン酸イソプロピルを配合した以外は、実施例1と同様にして皮膚貼付用粘着テープを作製した。
【0048】
上記の各実施例および比較例にて得られた皮膚貼付用粘着テープについて、下記に示す評価を行い、その結果を表1に示す。
<テーピング時の皮膚接着性>
各実施例および比較例にて作製した粘着テープを、幅50mm×長さ400mmに裁断し、被験者の足関節部に巻着し、24時間後における巻着した粘着テープの状態、即ち、剥がれや緩みの有無を目視で観察し、下記評価基準で評価を行った。ここで、サンプル数(n)を、n=10人とした。
【0049】
○:9人以上(サンプルの90%以上)に剥がれが生じていなかった場合。
【0050】
△:5〜8人(50%以上、90%未満)に剥がれが生じておらず、一部に剥がれや緩みが生じていた人が2〜5人であった場合。
【0051】
×:6人以上に剥がれが生じていた場合。
<皮膚刺激性>
各実施例および比較例にて作製した粘着テープを、幅50mm×長さ200mmに裁断し、被験者の前腕部に適度に伸長しながら貼付した。日常生活の状態で8時間経過後、粘着テープを剥離した際に被験者が感じた刺激によって評価した。評価基準は以下の通りである。
【0052】
○:僅かに痛みを感じるか、苦痛を感じない程度の刺激を感じるのみである場合。
【0053】
×:痛み、または苦痛に感じる刺激がある場合。
<糊残り>
上記皮膚接着力試験を行ったのち、各粘着テープを剥離し、皮膚面への糊残り状態を目視にて観察し、以下の判定基準にて判定した。
【0054】
○:糊残りが、貼付した粘着テープの面積の10%未満である。
【0055】
△:糊残りが、貼付した粘着テープの面積の10%以上、50%未満である。
【0056】
×:糊残りが、貼付した粘着テープの面積の50%以上である。
<耐水接着性>
上記テーピング時の皮膚接着性試験と同様の試験を行い、24時間の貼付中に入浴を行い、入浴後に皮膚接着性を評価し、上記皮膚接着性試験と同様に評価した。
【0057】
【表1】

上記表1の結果から明らかなように、本発明の皮膚貼付用粘着テープもしくはシートは、皮膚接着性、特にテーピング用途における皮膚接着性に優れ、また皮膚に対する刺激も極めて少ないものであり、剥離時に粘着剤が皮膚面に残ることもないという効果を有するものである。
【0058】
また、伸縮性布帛を用いているために、適度な伸びと引張強度を有するので、キックバック性にも優れ、特定の粘着剤を使用することで、粘着剤層にも適度な透湿性を有するので、皮膚接着性を維持したままで皮膚面に対する刺激も極めて少ないと効果を発揮するものである。特に撥水処理を施した布帛を用いることによって、入浴に対しても優れた耐水性を発揮するものであることが明らかである。
【0059】
従って、本発明の粘着テープは、医療やスポーツ分野において様々な部位に使用される粘着テープやシート、特にテーピング用途には極めて適した実用性の高い粘着テープを提供できるものである。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性布帛の片面に粘着剤層を設けてなる皮膚貼付用粘着テープもしくはシートであって、前記粘着剤層はアルキル(メタ)アクリレート40〜80重量%、アルコキシ(メタ)アクリレート10〜50重量%、(メタ)アクリル酸1〜10重量%を含む単量体混合物から得られるアクリル系共重合体、および架橋剤を含み、前記アクリル系共重合体100重量部に対して長鎖脂肪酸グリセリンエステルが20〜100重量部の範囲で配合されていると共に、架橋剤によって架橋処理が施されていることを特徴とする皮膚貼付用粘着テープもしくはシート。
【請求項2】
伸縮性布帛は、撥水剤による撥水処理が施されている請求項1記載の皮膚貼付用粘着テープもしくはシート。
【請求項3】
撥水剤が、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレートを主成分とするアクリル系撥水剤を含むエマルジョンである請求項2記載の皮膚貼付用粘着テープもしくはシート。
【請求項4】
撥水処理が、撥水剤を含有するエマルジョン中に伸縮性布帛を浸漬、扱き、乾燥によって布帛を構成する繊維表面に撥水剤中のアクリル系撥水剤を付着させた請求項2記載の皮膚貼付用粘着テープもしくはシート。
【請求項5】
アクリル系共重合体は、分子量測定溶媒に対する可溶分の重量平均分子量が50〜100万であり、数平均分子量が3〜19万である請求項1記載の皮膚貼付用粘着テープもしくはシート。
【請求項6】
アクリル系共重合体は、分子量分布が3〜22である請求項1または5記載の皮膚貼付用粘着テープもしくはシート。
【請求項7】
アルキル(メタ)アクリレート40〜80重量%、アルコキシ(メタ)アクリレート10〜50重量%、(メタ)アクリル酸1〜10重量%を含む単量体混合物から得られるアクリル系共重合体、および架橋剤を含み、前記アクリル系共重合体100重量部に対して長鎖脂肪酸グリセリンエステルが20〜100重量部の範囲で配合されている粘着剤溶液を剥離シートの片面に所定厚みで塗布して粘着剤溶液層を形成した後、該粘着剤溶液層が完全に乾燥されていない状態で、該粘着剤溶液層を伸縮性布帛の片面に貼り合わせた後、乾燥、粘着剤層の架橋を行なって皮膚貼付用粘着テープもしくはシートを製造する方法であって、伸縮性布帛が撥水剤による撥水処理が施されていることを特徴とする皮膚貼付用粘着テープもしくはシートの製造方法。
【請求項8】
撥水剤が、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレートを主成分とするアクリル系撥水剤を含むエマルジョンである請求項7記載の皮膚貼付用粘着テープもしくはシートの製造方法。
【請求項9】
撥水処理が、撥水剤を含有するエマルジョン中に伸縮性布帛を浸漬、扱き、乾燥によって布帛を構成する繊維表面に撥水剤中のアクリル系撥水剤を付着させた請求項7記載の皮膚貼付用粘着テープもしくはシートの製造方法。



【公開番号】特開2010−82102(P2010−82102A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253232(P2008−253232)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】