説明

皮膜形成方法、及び皮膜

【課題】乾燥温度や風量等を高くして乾燥効率を上げても、皮膜表面上のクラック等の発生を抑えることができ、優れた耐熱水性を有する皮膜を形成するための皮膜形成方法、及びその皮膜形成方法により形成される皮膜を提供すること。
【解決手段】(1)(A)親水性官能基含有樹脂と、(B)アンモニウム塩と、(C)増粘剤と、を含み、(A)成分と(B)成分の配合比が、固形分の質量換算で(A):(B)=100:0.25〜100:10である水系分散液を調製し、(2)当該水系分散液を基材の少なくとも一方の面に塗布して塗膜を形成し、(3)当該塗膜を感熱ゲル化処理してゲル化膜にし、(4)当該ゲル化膜を乾燥固化させて皮膜を形成する工程を含む皮膜形成方法、及びその皮膜形成方法により得られる皮膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膜形成方法、及びその皮膜形成方法により形成される皮膜に関する。更に詳しくは、親水性官能基含有樹脂、アンモニウム塩、及び増粘剤を含む水系分散液を調製し、基材上に塗布し、感熱ゲル化処理、及び乾燥固化する工程を含む皮膜形成方法、及びその皮膜形成方法により形成される皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材に平滑性、クッション性、物理強度性等を付与するために、基材表面上に皮膜の形成がなされている。皮膜を形成するために基材に塗布される分散液には、以前は溶媒として、ジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶剤が用いられていた。しかし、DMF等の有機溶剤は、引火性が強く、更には毒性が高いものが多いことから、火災の危険性がある他、作業環境の悪化や大気、水質等の環境汚染の問題が懸念されている。また、有機溶剤を用いて得られた皮膜には、有機溶剤が残留するため、皮膜に触れることによる人体への影響も問題にされている。そして、このような問題点を解消するために、残留有機溶剤を回収する工程を組み入れた場合、多額の廃棄コストや労力がかかるといった問題点を有する。
【0003】
そこで、有機溶剤を使用することのない水系エマルジョン性樹脂を用いた皮膜形成が検討されている。
特許文献1には、DMF等の有機溶剤を使用せずに、通気性に優れた人工皮革を製造することができるシート構造体を提供することを目的としており、ベースレジンを含有するエマルジョンを発泡させたコンパウンド液を所定の厚さで連続的に基材上に塗布し、遠赤外線で予め照射して表面のみを乾燥させ薄い乾燥皮膜を形成し、その後熱風乾燥することにより得られるシート構造体の製造方法が開示されている。
また、特許文献2には、通気性、透湿性に優れた人工皮革を提供することを目的としており、基材上に水系エマルジョン状態のポリウレタン樹脂液を主体とする弾性重合体液を薄膜状に塗工し、これを湿熱とマイクロ波を併用し加熱処理した後、熱風乾燥、加熱加圧成形することを特徴とする人工皮革の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−81155号公報
【特許文献2】特開平2000−160484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2の製造方法は、乾燥固化し皮膜を形成する段階で、皮膜表面にクラックやピンホールが入り、皮膜の外観を損なうという問題を有している。クラックやピンホールの発生は、乾燥温度や風量等を高くして乾燥効率を上げた場合により顕著に現れる。
そのため、クラック等の発生を抑えるには、乾燥温度や風量を低く設定しなければならず、乾燥処理に多くの時間が費やされる結果、全体の生産効率が低下してしまうため問題となる。特に、厚さ250〜600μmという厚い発泡皮膜を形成する場合、著しく生産効率が低下してしまう。
また、特許文献1及び2に開示された製造方法で得られる皮膜を有する不織布では、極細化処理のために熱水処理を行うと、皮膜が熱水を吸収して、破損してしまうという問題点も有している。
【0006】
本発明は、上記問題の解決を鑑みたものであり、乾燥温度や風量等を高くして乾燥効率を上げても、皮膜表面上のクラック等の発生を抑えることができ、優れた耐熱水性を有する皮膜を形成するための皮膜形成方法、及びその皮膜形成方法により形成される皮膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、(A)親水性官能基含有樹脂と、(B)アンモニウム塩、を所定の配合比で含み、さらに(C)増粘剤を含む水系分散液を、基材に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を感熱ゲル化処理してゲル化膜にし、ゲル化膜を乾燥固化させて皮膜を形成する皮膜形成方法が上記問題を解決することを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、下記[1]及び[2]を提供するものである。
[1](1)(A)親水性官能基含有樹脂と、(B)アンモニウム塩と、(C)増粘剤と、を含み、(A)成分と(B)成分の配合比が、固形分の質量換算で(A):(B)=100:0.25〜100:10である水系分散液を調製し、(2)当該水系分散液を基材の少なくとも一方の面に塗布して塗膜を形成し、(3)当該塗膜を感熱ゲル化処理してゲル化膜にし、(4)当該ゲル化膜を乾燥固化させて皮膜を形成する工程を含むことを特徴とする皮膜形成方法。
[2](A)親水性官能基含有樹脂と、(B)アンモニウム塩と、(C)増粘剤と、を含み、(A)成分と(B)成分の配合比が、固形分の質量換算で(A):(B)=100:0.25〜100:10であることを特徴とする皮膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明の皮膜形成方法によれば、乾燥温度や風量等を高くして乾燥効率を上げても、皮膜表面上のクラック等の発生を抑えることができ、全体の生産効率を著しく向上させることができる。その結果、厚さが250〜600μmの厚い発泡皮膜を形成する場合においても、生産効率を低下させることなく、皮膜を形成することができる。
また、当該皮膜形成方法により形成される皮膜は、優れた耐熱水性を有しており、熱水処理による皮膜の破損を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳述する。
本発明は、(1)(A)親水性官能基含有樹脂と、(B)アンモニウム塩と、(C)増粘剤と、を含み、(A)成分と(B)成分の配合比が、固形分の質量換算で(A):(B)=100:0.25〜100:10である水系分散液を調製し、(2)当該水系分散液を基材の少なくとも一方の面に塗布して塗膜を形成し、(3)当該塗膜を感熱ゲル化処理してゲル化膜にし、(4)当該ゲル化膜を乾燥固化させて皮膜を形成する工程を含むことを特徴とする皮膜形成方法、である。
【0011】
[水系分散液の調製]
本発明の水系分散液は、(A)親水性官能基含有樹脂と、(B)アンモニウム塩と、(C)増粘剤を含む。
(A)親水性官能基含有樹脂は、アニオン系、ノニオン系の界面活性剤を用いることなく乳化できる自己乳化タイプの水系エマルジョン性樹脂である。アニオン系、ノニオン系の界面活性剤を用いる必要がある強制乳化タイプの水系エマルジョン性樹脂は、感熱ゲル化処理でのゲル化が鈍感であり、また、ゲル化後の成膜が不十分となる傾向がある。そのため、低温で長時間かけて感熱ゲル化処理及び乾燥固化を行う必要があり、生産効率が極めて悪い。また、界面活性剤を使用することにより、形成された皮膜の基材に対する剥離強度等の物性が低下すると共に、経時的に界面活性剤が皮膜表面にブリードしてきて外観を損なう欠点がある。
一方で、自己乳化タイプの水系エマルジョン性樹脂は、上記の問題がなく、高温での感熱ゲル化処理及び乾燥固化を行うことができ、強制乳化タイプの水系エマルション性樹脂を用いた場合に比べて、格段に生産効率が向上する。
【0012】
一方、自己乳化タイプの水系エマルジョン性樹脂からなる皮膜は、熱水に対する膨潤率が低く優れた耐熱水性を有しているため、皮膜の破損を防止することができる。
【0013】
(A)成分は、自己乳化タイプの水系エマルジョン性樹脂であり、単独では比較的高温(90℃程度)でないとゲル化しないが、(B)アンモニウム塩を添加することで、60℃程度の温度でゲル化する。
本発明の水系分散液において、(A)成分と(B)成分との配合比が、固形分の質量換算で、(A):(B)=100:0.25〜100:10である。(B)成分の配合比が0.25未満であると、感熱ゲル化処理によるゲル化が十分に行われず、皮膜表面にクラックが発生してしまうため好ましくない。また、(B)成分の配合比が10を超えると、得られる皮膜の基材に対する剥離強力等の物性が低下してしまうため好ましくない。また、皮膜表面に微小なクラックが入る場合がある。ゲル化を十分に行うこと、及び皮膜の剥離強力等の物性向上の観点から、固形分の質量換算で、好ましくは(A):(B)=100:0.5〜100:9の範囲であり、より好ましくは(A):(B)=100:1〜100:7の範囲である。
【0014】
また、本発明の水系分散液は、(C)増粘剤を含む。(C)増粘剤を含むことで、水系分散液の粘度が高くなり、均一で厚い皮膜を形成することができる。当該水系分散液の粘度としては、均一で厚い皮膜を形成するという観点から、好ましくは10〜100Pa・sの範囲であり、さらに好ましくは20〜80Pa・sの範囲である。
また、(C)増粘剤を含むことによる効果として、乾燥固化の際に皮膜表面のクラックの発生を抑える効果も奏する。
【0015】
以下、本発明の水系分散液に含まれる成分について説明する。
<(A)親水性官能基含有樹脂>
本発明で用いられる(A)親水性官能基含有樹脂は、カルボキシル基、スルホニル基等の親水性官能基を有し、アニオン系やノニオン系の界面活性剤を用いることなく乳化できる自己乳化タイプの水系エマルジョン性樹脂を意味する。
親水性官能基としては、カルボキシル基、スルホニル基、第4級アンモニウム基等が挙げられる。(A)親水性官能基含有樹脂は、これらの親水性官能基を、単独で含有してもよく、2種以上を組み合わせて含有してもよい。
(A)親水性官能基含有樹脂としては、親水性官能基含有の水系エマルジョン性のポリウレタン樹脂、ポリアクリル樹脂、及びポリウレタン樹脂とポリアクリル樹脂との混合物等が挙げることができる。これらの中でも、屈曲性の観点から、特に親水性官能基含有の水系エマルジョン性ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0016】
(A)親水性官能基含有樹脂は、例えば、(a)有機ジイソシアネート、(b)ポリオール、(c)親水性官能基と2個以上の活性水素とを有する化合物を反応させて得られる親水性官能基含有イソシアネート基末端プレオリマーを中和し、水中に自己乳化させた後、(d)鎖伸長剤を用いて鎖伸長反応をさせて得ることができる。
【0017】
(a)有機ジイソシアネートとしては、2個のイソシアネート基を有する脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート及び芳香族ジイソシアネートを使用することができる。
このような(a)有機ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の脂環式ジイソシアネート化合物、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物等を挙げることができる。
また、これらのアルキル置換体、アルコキシ置換体、ニトロ置換体や、多価アルコールとのプレポリマー型変性体、カルボジイミド変性体、ウレア変性体、ビュレット変性体、ダイマー化又はトリマー化反応生成物等も使用することもでき、さらに上記化合物以外の有機ジイソシアネートを使用することもできる。これらの有機ジイソシアネート化合物は1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
このような(a)有機ジイソシアネートの中でも、得られる樹脂、及び形成される皮膜の耐黄変性、熱安定性、光安定性の点から、脂肪族ジイソシアネート化合物及び脂環式ジイソシアネート化合物が好ましく、特に、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート及び1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンが好ましい。
【0018】
(b)ポリオールとしては、2個以上のヒドロキシル基を有するものであれば特に制限は無く、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール等の他、エーテル結合とエステル結合とを有するポリエーテルエステルポリオールも使用することができる。
【0019】
このようなポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンイソフタレートアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケート、ポリ−ε−カプロラクトンジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン)アジペート、1,6−ヘキサンジオールとダイマー酸の重縮合物、1,6−ヘキサンジオールとアジピン酸とダイマー酸の共重縮合物、ノナンジオールとダイマー酸の重縮合物、エチレングリコールとアジピン酸とダイマー酸の共重縮合物等を挙げることができる。
【0020】
また、前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンカーボネートジオール、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール等を挙げることができる。
【0021】
さらに、前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールの単独重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体、エチレンオキシドとプロピレンオキシド、エチレンオキシドとブチレンオキシドのランダム共重合体やブロック共重合体等を挙げることができる。
【0022】
また、このような(b)ポリオールは、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。更に、このような(b)ポリオールの平均分子量としては、500〜5000であることが好ましく、1000〜3000であることがより好ましい。また、親水性官能基含有樹脂により、基材に十分な耐久性を付与できるという観点から、前述の(b)ポリオールとしては、ポリカーボネートポリオール又はポリエーテルポリオールを使用することが好ましい。
【0023】
(c)親水性官能基と2個以上の活性水素とを有する化合物としては、例えば、2,2−ジメチロール乳酸、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール吉草酸、3,4−ジアミノブタンスルホン酸、3,6−ジアミノ−2−トルエンスルホン酸、等を挙げることができる。
【0024】
更に、この様な親水性官能基と2個以上の活性水素とを有する化合物として、親水性官能基を有するジオールと、芳香族ジカルボン酸又は芳香族ジスルホン酸、脂肪族ジカルボン酸又は脂肪族ジスルホン酸等とを反応させて得られるペンダント型の親水性官能基を有するポリエステルポリオールを用いることもできる。なお、前記親水性官能基を有するジオールに代えて、ジオール成分として親水性官能基を有さないジオールを混合して反応させても良い。また、このような親水性官能基と2個以上の活性水素とを有する化合物は、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0025】
(c)親水性官能基と2個以上の活性水素とを有する化合物を用いる際の好ましい量は、(A)成分の酸価が、5〜50KOHmg/g、より好ましくは10〜40KOHmg/gの範囲内となる様に用いることが好ましい。酸価が5KOHmg/g以上であれば、樹脂の機械的安定性、他成分との混和安定性に優れ、酸価が50KOHmg/g以下であれば、適当な粘度を有する水系分散液を調製することができ、また得られる皮膜の耐水性の点でも好ましい。ここで、酸価の測定方法は、例えば日本工業規格JIS K5400等に開示されている方法による。
【0026】
また、(a)有機ジイソシアネート、(b)ポリオール及び(c)親水性官能基と2個以上の活性水素とを有する化合物を反応させてイソシアネート基末端プレポリマーを製造する際には、必要に応じて2個以上の活性水素原子を有する低分子量鎖伸長剤を使用することができる。
【0027】
このような2個以上の活性水素原子を有する低分子量鎖伸長剤としては、分子量が400以下であることが好ましく、特に300以下が好ましい。また、このような低分子量鎖伸長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の低分子量多価アルコール;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の低分子量ポリアミン等を挙げることができる。さらに、このような2個以上の活性水素原子を有する低分子量鎖伸長剤は、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
親水性官能基含有イソシアネート基末端プレポリマーを製造する具体的な方法としては特に制限は無く、例えば、従来公知の一段式のいわゆるワンショット法、多段式のイソシアネート重付加反応法等により製造することができる。この時の反応温度は、40〜150℃であることが好ましい。また、このような反応の際、必要に応じて、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫−2−エチルヘキサノエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン等の反応触媒を添加することができる。
【0029】
また、親水性官能基含有イソシアネート基末端プレポリマーの中和は、親水性官能基含有イソシアネート基末端プレポリマーの調製前又は調製後に適宜公知の方法を用いて行うことができる。このような親水性官能基含有イソシアネート基末端プレポリマーの中和に用いる中和剤には特に制限は無く、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリブチルアミン、N−メチル−ジエタノールアミン、N,N−ジメチルモノエタノールアミン、N,N−ジエチルモノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等を挙げることができる。このような中和剤の中でも、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリブチルアミン等のヒドロキシル基を有さない第3級アミン類が特に好ましい。
【0030】
次に、中和後に水中に自己乳化させる際に用いる乳化機器としては、特に制限はなく、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディスパー等を挙げることができる。また、当該自己乳化は、乳化剤を用いずに、室温〜40℃の温度範囲で水中に自己乳化させて、イソシアネート基と水との反応を極力抑えることが好ましい。更に、このように自己乳化させる際には、必要に応じて、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加することができる。
【0031】
そして、水中に自己乳化させた後、(d)鎖伸長剤を用いて鎖伸長反応させ、(A)親水性官能基含有樹脂の水系分散液を得ることができる。
【0032】
このような(d)鎖伸長剤としては、アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物が好ましく、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、ヒドラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン等のジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン等のポリアミン;ジ第一級アミン及びモノカルボン酸から誘導されるアミドアミン;ジ第一級アミンのモノケチミン等の水溶性アミン誘導体;蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、琥珀酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、1,1’−エチレンヒドラジン、1,1’−トリメチレンヒドラジン、1,1’−(1,4−ブチレン)ジヒドラジン等のヒドラジン誘導体を挙げることができる。これらのアミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物は、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。鎖伸長反応は、反応温度20〜40℃で行うことが好ましく、通常は30〜120分間で完結する。
【0033】
(A)親水性官能基含有樹脂の100%モジュラスの値としては、1〜9MPaであることが好ましく、2〜6MPaであることがより好ましい。100%モジュラスの値が1MPa以上であれば、優れた耐摩耗性を有する皮膜を形成することができ、9MPa以下であれば、柔軟な風合いの皮膜を得ることができる。なお、100%モジュラスの値は、JIS K 6251(1993)に準じて測定し、ダンベル状3号形の試験片を用いて、標線間距離が100%伸びたとき(2倍に伸びたとき)における所定伸び引張応力(MPa)の値である。
【0034】
また、(A)親水性官能基含有樹脂中の親水性官能基の含有量は、0.5〜4.0質量%であることが好ましく、1.0〜2.0質量%であることがより好ましい。親水性官能基含有量が0.5質量%以上であれば、(A)成分の貯蔵安定性が良く、また、4.0質量%以下であれば、感熱ゲル化温度が適切な温度範囲に収まり、十分なマイグレーション防止の効果を奏する。
【0035】
さらに、(A)親水性官能基含有樹脂は、自己乳化した形で保有することが好ましい。その際のpH値は、7.0〜9.0であることが好ましく、7.5〜8.5であることがより好ましい。pH値が7.0以上であれば、(A)成分の貯蔵安定性が良く、pHが9.0以下であれば、十分なマイグレーション防止の効果を奏する。
【0036】
<(B)アンモニウム塩>
本発明で用いられるアンモニウム塩として、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸やカルボン酸等のアンモニウム塩が挙げられる。なお、前記カルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸;オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸;安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族カルボン酸;リンゴ酸、クエン酸、蓚酸、マロン酸、琥珀酸、アジピン酸等の飽和ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸;乳酸、アクリル酸、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸等が挙げられる。これらのアンモニウム塩は、市販されているものを用いることもできる。
上記のアンモニウム塩の中でも、混合液の含浸性、乾燥工程中における(A)成分のマイグレーション防止性、及び乾燥中の揮発又は乾燥後の水洗によって容易に取り除くことができ、得られる皮膜に残留することが少ないという観点から、硫酸アンモニウム塩、又は炭素数1〜10のカルボン酸のアンモニウム塩が好ましく、硫酸アンモニウム塩、又は炭素数1〜4のカルボン酸のアンモニウム塩がより好ましい。
【0037】
本発明の皮膜形成方法において、(B)アンモニウム塩を(A)成分と混合する際には、(B)成分を固体(粉体)の状態で混合することもできるが、(A)成分の乳化液の安定性保持の観点から、(B)成分を水に溶かして水溶液の状態で(A)成分と混合することがより好ましい。この際の、(B)アンモニウム塩含有の水溶液のpH値は、7.0〜9.0であることが好ましく、7.5〜8.5であることがより好ましい。pH値が7.0以上であれば、(A)成分と混合する際に、析出物の発生を抑えることができ、また、pH値が9.0以下であれば、(A)成分の十分なマイグレーション防止の効果を奏する。
【0038】
<(C)増粘剤>
一般的に増粘剤としては、会合型増粘剤と水溶性高分子系増粘剤が存在する。会合型増粘剤は、増粘される成分の疎水性基と会合型増粘剤の疎水性基とが相互作用することにより、物理的に粒子と粒子との間が架橋して増粘する機構にあるものを指すが、本発明で用いられる(C)増粘剤は、(B)アンモニウム塩の添加や、感熱ゲル化処理により皮膜のゲル化が完了する過程で増粘効果に変化の無いものが好ましく用いられ、会合型増粘剤、水溶性高分子増粘剤の中から選択できる。
【0039】
本発明で用いられる会合型増粘剤としては、ウレタン系の会合型増粘剤、非イオン性ウレタンモノマーを会合性モノマーとして他のアクリルモノマーと共重合して得られる会合型増粘剤、及びアミノプラスト骨格を有する会合型増粘剤等を挙げることができる。このような会合型増粘剤の中でも、多孔性構造の孔の緻密さ及び強度保持力の観点からは、分子鎖中にポリエチレングリコール鎖とウレタン結合とを有する会合型増粘剤が好ましく、市販品としてネオステッカーS(日華化学社製)等が挙げられる。
本発明で用いられる水溶性高分子系増粘剤としては、セルロース系、ポリカルボン酸系、高分子多糖類系を挙げることができ、その中でもノニオン性の性質の強いものが(B)アンモニウム塩の添加や、感熱ゲル化処理時の昇温過程での増粘効果の変化が少なく、会合型増粘剤と比較して高粘度が安定して得られやすい。市販品としてはHEC AX−15(住友精化社性)、アロンA−50P(東亞合成社性)、ケルザン(三晶社性)等が挙げられる。
なお、これらの増粘剤は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0040】
(C)増粘剤の配合量は、(A)成分の固形分100質量部に対して、好ましくは0.5〜20質量部の範囲であり、より好ましくは1〜15質量部の範囲である。(C)増粘剤が0.5質量部以上であれば、水系分散液の粘度を高くし、均一で厚い皮膜を形成することができ、かつ、乾燥処理の際に皮膜表面のクラック等の発生を抑えることもできる。(C)増粘剤が20質量部以下であれば、取り扱いに最適な範囲の粘度を有する水系分散液を得ることができる。取り扱いに適した粘度は10〜100Pa・sの範囲が好ましく、20〜80Pa・sの範囲がより好ましい。発泡体の粘度が10Pa・s以上であれば、多孔質層を形成する際に気泡がつぶれにくく、100Pa・s以下であれば、基材上への塗布することができる。
【0041】
<(D)架橋剤>
本発明の水系分散液において、架橋構造を形成し、皮膜の耐久性を向上させる観点、及び硬化を促進し生産効率を向上させる観点から、(A)成分の親水性官能基と反応する(D)架橋剤を併用することが好ましい。(D)架橋剤としては、オキサゾリン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤等が挙げられる。また、このような(D)架橋剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(D)架橋剤の含有量は、(A)成分の固形分100質量部に対して、好ましくは1.0〜5.0質量部の範囲であり、更に好ましくは1.5〜4.0質量部の範囲である。
【0042】
<(E)その他の添加剤>
本発明の水系分散液において、本発明の目的を損なわない範囲で、各種の添加剤を併用することができる。添加剤としては、例えば、顔料、染料、補助バインダー、レベリング剤、チクソトロピー付与剤、消泡剤、充填剤、発泡剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、減粘剤、湿潤剤、着色防止剤等を挙げられる。このような添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、上述のとおり、本発明の水系分散液は、界面活性剤を含まないことが好ましい。
上記の添加剤の中でも、特に、発泡剤を添加することが好ましい。発泡剤を添加することで、発泡倍率(分散液の体積に対する発泡後の体積)の調製が容易となる。このような発泡剤としては、一般に用いられているものを使用することができる。
【0043】
本発明の水系分散液における水の添加量は、固形分と粘度の調整のため、分散液が所望の粘度を有するように適宜調製される。具体的には、水系分散液の固形分100質量部に対して、好ましくは20〜250質量部の範囲であり、より好ましくは30〜200質量部の範囲である。
【0044】
[発泡処理]
本発明の皮膜形成方法において、調製した水系分散液を発泡処理した後、基材に塗布し皮膜を形成することで、厚さ250〜600μm、発泡径25〜250μmの発泡皮膜を形成することができる。本発明の皮膜形成方法においては、温度を高くし、風量を強くしても、皮膜表面のクラックの発生を抑えることができるため、乾燥処理により生産効率を低下させることなく、250〜600μmもの厚い発泡皮膜を形成することができる。
水系分散液を発泡処理するに際し、発泡倍率は1.1〜2.5倍が好ましく、1.2〜2.2倍がより好ましい。発泡倍率が1.1以上であれば、水系分散液が基材内部に浸透しすぎてしまうことを防ぎ、当該水系分散液を基材表面近傍に留まらせて十分な厚さの発泡皮膜を形成することができる。また、発泡倍率が2.5以下であれば、水系分散液の一部が基材内部に浸透し、基材に対して十分な剥離強度を有する皮膜を形成することができる。
なお、ここでいう発泡倍率は、発泡剤を含有する水系分散液をそのまま熱風乾燥した時に、得られる発泡体の見かけ体積が、発泡剤を含有しない同質量の水系分散液の体積の何倍であるかを表したものである。
【0045】
本発明による発泡処理の手段は、特に限定されないが、乾式発泡法、機械発泡法のいずれか、もしくは双方併用して行うことが好ましい。
乾式発泡法は、使用する樹脂に発泡剤を添加して発泡させる。発泡剤としては、例えば、ステアリン酸アンモニウム、高級脂肪酸の金属塩、もしくは液状の低沸点炭化水素を熱可塑性高分子殻(シェル)で包み込んだマイクロカプセル(例えば、マツモトマイクロスフェアー(登録商標)松本樹脂製)等が挙げられ、これらの発泡剤は1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
乾式発泡において、発泡剤以外に、必要に応じて、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム等の発泡助剤、ステアリン酸アンモニウム等の長鎖アルキルカルボン酸アンモニウム等の整泡剤等を添加してもよい。
機械発泡法は、樹脂を機械的に攪拌して空気を噛み込ませて発泡させる。
このような発泡処理の手段の中でも、水系分散液に対して、上述のような発泡剤、発泡助剤、整泡剤等を添加して、機械的に攪拌して空気を噛み込ませて発泡する、乾式発泡法と機械発泡法とを併用することが最も好ましい。
【0046】
[水系分散液の塗布]
本発明の水系分散液を基材に塗布して塗膜を形成する方法としては、特に制限されるものではないが、例えば浸せき塗工、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロッドコーター、ハイドロバーコーター、トランスファロールコーター、リバースコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、ロールコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等が挙げられ、一部、もしくは全面に塗布することができる。
【0047】
塗布する基材は、目的・用途にとって適宜選択される。基材としては、剥離紙、木綿、麻等の天然繊維、PET、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂、合成繊維、不織布、天然皮革、合成皮革、人工皮革、人工皮革用基体、紙、合成ゴム、天然ゴム、フィルム、シート、金属、木材、ガラス、セラミックス、石材、土等が挙げられる。また、平滑性、クッション性、物理強度性を付与するために、鞄、靴、ボール等の皮革製品に塗布することも可能である。
【0048】
上記の基材の中でも、人工皮革用基体が好ましく、特に、熱水抽出タイプの海島繊維不織布が好ましい。熱水抽出タイプの海島繊維不織布は、熱水抽出処理により、海島繊維を極細化することができるが、本発明の皮膜は、(A)親水性官能基含有樹脂からなるために、熱水処理による膨潤率が低く、耐熱水性に優れており、熱水による皮膜の破損を抑えることができる。
【0049】
このような海島繊維(極際繊維発生型繊維)の極細繊維を構成するポリマー(島成分)としては、例えば、6−ナイロン、66−ナイロンをはじめとする溶融紡糸可能なポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンフタレート、イソフタル酸変性ポリエステル、カチオン可染型変性ポリエチレンテレフタレートをはじめとする溶融紡糸可能なポリエステル類、ポリプロピレンで代表されるポリオレフィン類等から選ばれた少なくとも1種類のポリマーが挙げられる。
また、抽出除去される成分(海成分)としては、水溶性高分子成分から構成され、かつ紡糸可能な成分であることが重要である。例えば、水溶性高分子成分としては、水または水系溶剤で抽出処理できる高分子であれば、公知の高分子が使用できるが、水系溶剤で溶解可能なポリビニルアルコール共重合体類を用いることが好ましい。この極細繊維発生型繊維の海成分と島成分の容量比は1:2〜2:1であって、海成分を抽出した後の極細繊維の繊度としては、風合いや充実感の点で0.01〜0.0001dtexの範囲がよい。
【0050】
上記の海島繊維不織布は、20〜75mm長の短繊維をカード法により短繊維ウェッブとした後にニードルパンチや高速流体により絡合処理して製造してもよく、また、スパンボンド法のような直接法により紡糸と同時に長繊維ウェッブとした後、ニードルパンチや高速流体により絡合処理して製造してもよい。
【0051】
[感熱ゲル化処理]
前工程で基材上に形成した塗膜は、感熱ゲル化処理してゲル化膜にする。感熱ゲル化処理を行い、ゲル化膜を形成することで、ゲル化なしに乾燥処理により水分を蒸発させる場合に比べ、クラック等の発生を抑えることができる。塗膜がゲル化する感熱凝固温度は、30〜80℃であることが好ましく、40〜70℃であることがより好ましい。ここで感熱凝固温度とは、前記水系分散液50gを100mLのガラス製ビーカーに取り、内容物を攪拌しつつ、そのビーカーを95℃の熱水浴中で徐々に加熱し、内容物が流動性を失い凝固する時の温度である。感熱凝固温度が30℃以上であれば、夏場に気温雰囲気下において、分散液がゲル化してしまう事態を防ぐことができ、また、80℃以下であれば、感熱ゲル化がシャープに発現されるため、次の乾燥工程においてマイグレーション防止性を十分に発揮することができる。
【0052】
感熱ゲル化処理としては、湿熱処理や、赤外線による加熱処理等が挙げられるが、特に、良好なゲル化状態を得る観点から、スチームによる湿熱処理が好ましい。スチームによる湿熱処理は、スチームの温度を水系分散液の感熱凝固温度以上とすれば加工可能であるが、より安定的に生産を行うために「感熱凝固温度+10℃」以上の温度とすることが好ましく、具体的には40〜140℃が好ましく、60〜120℃がさらに好ましい。
また、スチームによる湿熱処理を行う際の湿度は、100%に近づくほど表面からの乾燥が抑えられるため好ましい。スチームの処理時間は、充分にゲル化膜を形成させる観点から、5秒〜30分であることが好ましく、10秒〜20分であることがさらに好ましく。
なお、スチームによる湿熱処理と他の方法との併用も可能である。他の方法としては、例えば、赤外線、電磁波、高周波等の凝固方法が挙げられる。
【0053】
[乾燥固化]
前工程の感熱ゲル化処理して得られたゲル化膜は、乾燥固化されて皮膜を形成する。乾燥固化の方法としては、熱風加熱、赤外線加熱、電磁波加熱、高周波加熱、シリンダー加熱等の乾燥方法が挙げられる。これらの方法の中でも、ランニングコストの面や連続生産性の観点から、熱風乾燥が好ましい。なお、これらの乾燥方法は、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
乾燥温度は、形成した皮膜が熱により変質劣化しない程度で、かつ充分に乾燥させることができること、及び乾燥効率向上の観点から、好ましくは60〜190℃であり、さらに好ましくは80〜150℃である。また、処理時間は、充分に乾燥させること、及び生産性の観点から、好ましくは1〜20分であり、さらに好ましくは2〜5分である。
【0054】
[熱水抽出処理]
基材として熱水抽出タイプの海島繊維不織布を用いる場合、先に熱水抽出処理を行った不織布に本発明の水系分散液を塗布してもかまわないが、本発明においては、当該不織布に皮膜を形成した後、熱水処理を行い、極細化不織布にすることができる。
具体的な熱水抽出処理の方法としては、当該不織布中の海成分を熱水により溶解除去して島成分を極細繊維状に残留させることにより行われる。熱水による海成分の除去処理は、人工皮革等の製造に当たって従来から採用されている既知の方法や条件に準じて行うことができる。
【0055】
[皮膜]
本発明の皮膜形成方法は、表面にクラック等の発生を抑えた均一な面を有する皮膜を形成することができる。基材上に形成された皮膜の厚さとしては、発泡処理を行っていない場合は、15〜400μm程度であり、発泡処理を行っている場合は、250〜600μm程度である。このように、厚さの薄い皮膜はもちろんのこと、比較的厚い皮膜も得ることができるため、目的・用途に応じて自由に選択することが可能である。また、発泡処理を行った場合、形成される発泡皮膜の発泡径の大きさは、当該目的・用途に応じて適宜選択されるが、5〜250μm程度であるのが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されない。
【0057】
[実施例1]
(1)皮膜の製造
(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水系エマルジョン(商品名:HA−10C、日華化学株式会社製、90℃までは単独では感熱ゲル化しないが、硫酸アンモニウムを添加すれば60℃でゲル化する。)100質量部(そのうち固形分が40質量部)、(B)硫酸アンモニウム1.5質量部、(C)増粘剤(商品名:ケルザン、三晶株式会社製)1質量部、(D)架橋剤(商品名:NKアシストCI、日華化学株式会社製)1.5質量部、及び(E)発泡剤(商品名:マツモトマイクロスフェアー、松本油脂製)0.8質量部(発泡倍率約1.6)を含む水系分散液を調製した。この水系分散液を不織布にダイレクトコートにより600μmの厚さで塗布し、塗膜を形成した。
次に、この塗膜を、相対湿度60%で90℃のスチームによる感熱ゲル化処理を10分間行い、ゲル化膜を得た。その後、150℃で10分間、熱風乾燥し、ゲル化膜を乾燥固化させて、厚さ400μmで発泡径10〜100μmの発泡皮膜を形成した。なお、発泡皮膜表面には、クラック、ピンホール共に存在せず、均一な面が得られた。
【0058】
(2)剥離強度の測定
長さ15cm、幅2.5cm、厚さ5mmのポリウレタン製ゴム板の表面をサンドペーパーにて軽く削り取って二液架橋タイプのポリウレタン接着剤をいずれかの端部から長さ10cm程度の範囲に均一に塗布し、一方、人工皮革用基材を長さ25cm、幅2.5cmに切り出した試験片にも同様にいずれかの端部から長さ10cm程度の範囲に接着剤を均一塗布したものを、接着剤を塗布した端部同士が重なるように貼り合わせた。貼り合わせた試験片とゴム板を2〜4kg/cm2程度の圧力でプレスした後、25℃にて1昼夜放置した。試験片およびゴム板それぞれの接着剤を塗布していない端部を、初期間隔5cmにセットした引張試験機の上下それぞれのチャックに挟んで、引張速度10cm/分での引張時間に対応したゴム板と試験片との接着部分の剥離強力を測定し、チャートに記録した。チャート上に得られた引張時間−剥離強力曲線の剥離強力がほぼ一定している箇所についての平均値を読み取り、その試験片の剥離強力値とした。1種類の人工皮革用基材について、任意の3箇所から切り出した試験片3個の剥離強力測定値を算術平均した値を、その人工皮革用基材の剥離強力値とした。
上記方法により測定した実施例1の皮膜の剥離強度は8kg/2.5cmであった。
【0059】
(3)熱水による膨潤率の測定
実施例1で用いた発泡皮膜用水系分散液を離型紙上にダイレクトコートして70℃で30分乾燥した後、120℃で5分間熱処理を行って200μmのフィルムを作成した。得られたフィルムを95℃の熱水で30分間浸漬して取り出し、表面の余分な水分を拭き取った後に、面積膨潤率及び質量膨潤率を測定した。
上記方法により測定した実施例1で用いた水系分散液から作成した乾式フィルムの面積膨潤率は3%、質量膨潤率は5%であり、不織布上に形成した発泡皮膜を95℃の熱水で30分間浸漬前後における発泡皮膜の外観変化はなく、良好であった。
【0060】
[比較例1〜3]
(A)成分〜(E)成分の組成を表1に示されたように変えた以外は、実施例1と同様の製造方法にて発泡皮膜を有する不織布を作製した。ゲル化の状態、皮膜表面の外観を観察し、実施例1と同様の方法により、剥離強力、面積膨潤率、及び質量膨潤率を測定したところ、表1のようになった。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例1においては、(A)成分と(B)成分の配合比が、固形分の質量換算で(A):(B)=100:0.25〜100:10の範囲に属しており、ゲル化状態は良好であり、皮膜表面上にクラック等の発生も見られなかった。また、発泡皮膜の剥離強度においても問題なかった。そして、所定量の増粘剤を有しているため、厚さ400μm、発泡径10〜250μmの発泡皮膜を形成することができた。さらに、熱水に対する面積膨潤率及び質量膨潤率は共に小さいことから、実施例1の発泡皮膜は優れた耐熱水性を有していることがわかる。
【0063】
一方、比較例1においては、硫酸アンモニウムの添加量が少ないために、ゲル化処理において充分なゲル化がなされず、皮膜表面にはクラックが発生していた。
比較例2においては、硫酸アンモニウムの添加量が多いために、皮膜表面には微小なクラックが発生すると共に、剥離強力が低下してしまい、皮膜の物理強度の点で満足したものが得られなかった。
比較例3においては、感熱ゲル化処理を行っていないため、乾燥時に皮膜表面上にクラックが発生していた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の皮膜形成方法は、車輌用内装材、家具、衣料、靴、鞄、袋物、サンダル、雑貨等の製造に用いられる表面に皮膜を有する基材の製造方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(A)親水性官能基含有樹脂と、(B)アンモニウム塩と、(C)増粘剤と、を含み、(A)成分と(B)成分の配合比が、固形分の質量換算で(A):(B)=100:0.25〜100:10である水系分散液を調製し、
(2)当該水系分散液を基材の少なくとも一方の面に塗布して塗膜を形成し、
(3)当該塗膜を感熱ゲル化処理してゲル化膜にし、
(4)当該ゲル化膜を乾燥固化させて皮膜を形成する
工程を含むことを特徴とする皮膜形成方法。
【請求項2】
前記基材が、人工皮革用基体である請求項1に記載の皮膜形成方法。
【請求項3】
前記人工皮革用基体が、熱水抽出タイプの海島繊維不織布である請求項2に記載の皮膜形成方法。
【請求項4】
(A)親水性官能基含有樹脂が、親水性官能基含有の水系エマルジョン性ポリウレタン樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮膜形成方法。
【請求項5】
前記水系分散液は、さらに(D)架橋剤を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の皮膜形成方法。
【請求項6】
前記水系分散液を、発泡倍率1.1〜2.5倍に発泡処理した後、前記基材に塗布し皮膜を形成する請求項1〜5のいずれか1項に記載の皮膜形成方法。
【請求項7】
前記皮膜が、厚さ250〜600μm、発泡径5〜250μmの発泡皮膜である請求項6に記載の皮膜形成方法。
【請求項8】
前記感熱ゲル化処理が、40〜140℃におけるスチームによりゲル化させる請求項1〜7のいずれか1項に記載の皮膜形成方法。
【請求項9】
(A)親水性官能基含有樹脂と、(B)アンモニウム塩と、(C)増粘剤と、を含み、(A)成分と(B)成分の配合比が、固形分の質量換算で(A):(B)=100:0.25〜100:10であることを特徴とする皮膜。
【請求項10】
前記皮膜が、請求項1〜8のいずれか1項に記載の皮膜形成方法により得られる請求項9記載の皮膜。

【公開番号】特開2011−206711(P2011−206711A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77672(P2010−77672)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】