説明

盛上げタップおよび面取りパーツ

【課題】穴の開口周囲の面取り精度を向上させると共に、ねじ等の挿入部材の固定を確実に行うこと。
【解決手段】
本発明の盛上げタップ1は、雌ねじのねじ立て加工と雌ねじの開口周囲の面取りとを行う盛上げタップ1であって、ねじ立て用のねじ切り部25aを先端方向に備えたシャンク25と、当該シャンク25に固定される固定部材22と、シャンク25に一端を固定され、固定部材22よりもねじ切り部25a側に配置されるスプリング20と、当該スプリング20の他端に固定され、スプリング20の伸縮によってシャンク25の長手方向に沿って可動に備えられると共に、ねじ切り部25a側に面取り用の面取り刃18を備えた面取り部材16とを備え、面取り刃18は、シャンク25がねじ挿入方向に回転する際に面取りを行う向きに刃先18cを備え、面取り部材16と被加工部材の表面との距離を規制して面取り部材16を止めるためのストッパー部材14を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雌ねじのねじ立て加工と同時に当該雌ねじの開口周囲の面取りを行う盛上げタップ、および当該盛上げタップを含めた所定形態の穴を形成するための回転工具に取り付けられる面取りパーツに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、雌ねじのねじ立てと雌ねじの開口周囲の面取りとを一工程で行う盛上げタップとしては、一般的に、ねじ立て工程においてではなく、ねじ立て後の戻り工程において面取り加工が行われるものが知られている。このような盛上げタップとしては、例えば、バーノン社のバービット(商標)が存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、バービット(商標)では、雌ねじのねじ立て後にシャンクを戻す戻り工程において面取りが行われる。このため、面取りは、盛上げタップに備えられるスプリングから面取り刃に伝達される力に依存して行われる。したがって、戻り工程の初期から終期に従い、スプリングから面取り刃に伝達される力が弱くなる。この結果、戻り工程の終期に実行される雌ねじの開口周囲の面取りが不完全となり、当該開口周囲にかえりやシームが発生し、ねじの締め付けが不完全となる等の種々の問題が発生する。この問題は、ねじ立てに特有のものではなく、ドリル等の回転工具によって所定形態の穴を形成する場合にも、穴の開口周囲にかえりが発生することで起きうるものである。
【0004】
本発明は、上記の問題に鑑み、その目的とするところは、穴の開口周囲の面取り精度を向上させ、ねじ等の挿入部材の固定を確実ならしめることができる盛上げタップおよび面取りパーツを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、雌ねじのねじ立て加工と雌ねじの開口周囲の面取りとを行う盛上げタップであって、ねじ立て用のねじ切り部を先端方向に備えたシャンクと、当該シャンクに固定される固定部材と、シャンクに一端を固定され、固定部材よりもねじ切り部側に配置される弾性部材と、当該弾性部材の他端に固定され、弾性部材の伸縮によってシャンクの長手方向に沿って可動に備えられると共に、ねじ切り部側に面取り用の面取り刃を備えた面取り部材と、を備え、面取り刃は、シャンクがねじ挿入方向に回転する際に面取りを行う向きに刃先を備え、面取り部材と雌ねじの形成面との距離を規制して面取り部材を止めるためのストッパー部材を備えるものである。
【0006】
このような構成を採用すると、面取り刃は、ストッパー部材を備えているため、雌ねじのねじ立て加工において、被加工部材における所定の深さで止まり、それ以上深くに送り込まれていかない。したがって、面取り刃が常に一定の深さまで切り込まれ、安定した状態で面取りが行われる。そのため、所定形態を有する面取りを行うことが可能となる。また、面取り刃は、シャンクがねじ挿入方向に回転する際に面取りを行う向きに刃先を備えると共に、被加工部材において一定の深さ以上切り込んでいかない。このため、ねじ立て加工である正転時に面取りを行うことが可能となる。また、所定形態の面取りを行うことが可能であるため、面取り精度が向上し、その結果、雌ねじの開口周囲にシームが発生するのを防止できる。
【0007】
また、他の発明は、上述の発明に加えて更に、ストッパー部材は、面取り部材から形成面までの突出長を調節できるように、面取り部材に取り付けられているものである。このような構成を採用すると、面取りがなされる部分の径の大きさをストッパー部材の短長によって自由に調節することができる。
【0008】
また、他の発明は、上述の発明に加えて更に、ねじ切り部の周方向の1つまたは複数箇所に、ねじ切り部の長さ方向に向かって伸びる溝部を備え、面取り刃は、溝部内に一部を挿入した状態でねじ切り部を移動できるように配置されているものである。このような構成を採用すると、面取り刃は、ねじ切り部に形成される溝部内に当該ねじ切り部を移動可能な状態で配置されるため、面取り刃は、常にシャンクの長手方向に沿って移動する。したがって、面取り刃がシャンクに対してねじれたり、傾いたりするのが防止される。その結果、面取りの精度が向上する。
【0009】
また、本発明は、所定形態の穴を形成するための回転工具に取り付けられる面取りパーツであって、回転工具の主軸に固定される固定部材と、シャンクに一端を固定され、固定部材よりも主軸の先端側に配置される弾性部材と、当該弾性部材の他端に固定され、弾性部材の伸縮によって主軸に沿って可動に備えられると共に、主軸の先端側に面取り用の面取り刃を備えた面取り部材と、を備え、面取り刃は、主軸の挿入方向に回転する際に面取りを行う向きに刃先を備え、面取り部材と所定形態の穴の形成面との距離を規制して上記面取り部材を止めるためのストッパー部材を備えるものである。
【0010】
このような構成を採用すると、面取りパーツは、シャンクに着脱可能な部材となっているため、シャンクに対する面取り刃の位置調整を行うことができる。また、面取り刃はストッパー部材を備えているため、雌ねじのねじ立て加工において、被加工部材における所定の深さで止まり、それ以上深くに送り込まれていかない。したがって、面取り刃が常に一定の深さまで切り込まれ、安定した状態で面取りが行われる。そのため、所定形態を有する面取りを行うことが可能となる。また、面取り刃は、主軸の挿入方向に回転する際に面取りを行う向きに刃先を備えており、被加工部材において一定の深さ以上切り込んでいかない。このため、ねじ立て加工である正転時に面取りを行うことが可能となる。また、所定形態の面取りを行うことが可能であるため、面取り精度が向上し、その結果、盛上げタップで雌ねじ加工を行う際、雌ねじの開口周囲にシームやかえりが発生するのを防止できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、穴の開口周囲の面取り精度が向上し、ねじ等の挿入部材の固定を確実に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態に係る盛上げタップ1および面取りパーツ10について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、面取りパーツ10の構成を示す分解斜視図である。なお、以下の説明中、図1において一端側とは、矢印Yの矢示方向の側を指し、他端側とは、矢印Xの矢示方向の側を指すものとする。
【0014】
図1に示すように、面取りパーツ10は、後述の盛上げタップ1の主軸(これを、「シャンク」という。)25に固定される固定部材22と、固定部材22よりもシャンク25の先端側に配置される弾性部材としてのスプリング20と、スプリング20の先端に固定され、スプリング20の伸縮によってシャンク25に沿って移動可能に備えられる面取り部材16と、面取りの深さを調節するためのストッパー部材14と、から主に構成されている。面取り部材16は、シャンク25の先端側(すなわち、図1の矢印Xの矢示側に)面取り刃18を備えている。
【0015】
図2は、面取り部材16を面取り刃18側から見た状態の平面図である。
【0016】
面取り部材16は、鉄やステンレス等の金属から成り、図1および図2に示すように、中央に挿通孔16aを有する略円筒状の円筒部16bを備えている。しかし、面取り部材16の材料は、鉄あるいはステンレス等に限定されず、他の金属としても良い。3つの刃部16dは、円筒部16bの他端側の端面となる周面部16cから周方向に向かって120度間隔で、かつ、当該周面部16cに対して図2の紙面表方向(図1の他端側の方向)に、突出して形成されている。刃部16dは、基台部16eと面取り刃18とを有している。基台部16eは、図1に示すように、周面部16cから他端側に向かって突出するように形成されている。また、基台部16eの平面形状は、その両側が円筒部16bの外周面から挿通孔16aに向かって左右対称の円弧状に切り欠かれた略扇形状をしている(図2参照)。面取り刃18は、基台部16eにおいて挿通孔16aの外縁部に位置する部位から、図1の他端側(以後、単に「他端側」という。)に向かって延出している。面取り刃18は、基台部16eに対して直角方向かつ他端側に向かって延出する延出部18aと、延出部18aの先端部に相当し、挿通孔16aの中心に向かって外側から斜めにカットされた刃先部18bと、から構成されている。刃先部18bの先端となる刃先18cは、図2に示すように、他端側から見て、挿通孔16aを囲む外周面16fを通過し挿通孔16aの内部にまで延出して形成されている。各刃先部18bの外面18dが挿通孔16aの中心軸線Mに対して傾斜する傾斜角αは約45度となっている。また、図2に示すように、刃部16dによって3つに分割された各周面部16cにおいて反時計方向の位置には、後述するストッパー部材14が嵌め込まれる断面円形状の嵌合穴16gが設けられている。すなわち、合計3つの嵌合穴16gが面取り部材16に設けられている。
【0017】
図1に示すように、円筒部16bの一端側には、後述するスプリング20が係合する係合部16iが設けられている。係合部16iの外径は円筒部16bの外径より小径となっており、その中央部には挿通孔16aと同径の挿通孔16jが形成されている。さらに、係合部16iの外周面には、全周に亘って円弧状に切り欠かれた切欠部16kが形成されている。
【0018】
スプリング20は、鉄等の金属からなるスパイラル状のバネ部材である。しかし、その材料は、鉄等に限定されず、他の金属としても良い。スプリング20は、図1に示すように、他端側から一端側に向かって徐々に小径となるような形状を有している。スプリング20の寸法の一例は、他端側のスプリング径を7.9mmとし、一端側のスプリング径を4.9mmとする寸法である。ただし、スプリング20の他端側と一端側の各径の大きさは、上記の値に限定されるものではない。また、スプリング20の他端側は、係合部16iに形成された切欠部16kに全周に亘って係合する。
【0019】
固定部材22は、鉄等の金属からなり、シャンク25の直径とほぼ同径となる挿通孔22aを有する円筒形状を有する部材である。しかし、その材料は、鉄等に限定されず、他の金属としても良い。固定部材22には、その外周面22bから挿通孔22aを囲む内周面22cにかけて貫通するようなねじ穴(不図示)が設けられており、当該ねじ穴(不図示)には、いもねじ22dが螺入されている。
【0020】
ストッパー部材14は、図1に示すように、略円柱形状を有する部材である。ストッパー部材14は、大径の円柱形状を有する大径円柱部14aと、当該大径円柱部14aの中心から一端側に向かって突出する大径円柱部14aより小径の円柱形状を有する小径円柱部14bとから構成されている。小径円柱部14bの径の大きさは、嵌合穴16gの径とほぼ同径となっている。3つのストッパー部材14は、それぞれ嵌合穴16gに嵌め込まれる。また、当該ストッパー部材14は、小径円柱部14bを嵌合穴16gに嵌合させることによって、面取り部材16に固定される。すなわち、大径円柱部14bが周面部16cから他端側に向かって突出し、ねじ穴の形成面に対して、いわゆるストッパーとしての役割を果たす。
【0021】
図3は、シャンク25に面取りパーツ10が装着された状態を示す斜視図である。なお、以下の説明中、図3において一端側とは、図3の矢印Yの矢示側を指し、他端側とは、図3の矢印Xの矢示側を指すものとする。
【0022】
図3に示すように、面取りパーツ10は、シャンク25の先端側に装着される。すなわち、シャンク25は、面取り部材16の挿通孔16a、スプリング20の内部および固定部材22の挿通孔22aに挿通されている。固定部材22は、シャンク25の一端側に、いもねじ22dによってねじ止めすることにより固定されている。上述したように、面取り部材16とスプリング20は、一体となって、シャンク25に固定された固定部材22の他端側に配置されている。また、スプリング20の一端側20aの内径の大きさとシャンク25の外径の大きさとは、ほぼ同径となっている。そして、スプリング20は、その内部にシャンク25を挿通させた状態で、その一端側20aにおいてシャンク25に対して固定されている。したがって、面取り部材16とスプリング20とは、スプリング20の一端側20aにおいてシャンク25に対して固定されている。面取り部材16は、シャンク25におけるねじ切り部25aの外側に配置されている。ねじ切り部25aには、その周方向120度間隔で、シャンク25の長さ方向に伸びる3本の溝部25bが形成されている。溝部25bは、ねじ切り部25aの径方向にえぐれた凹部である。3つの面取り刃18は、上記溝部25bに一部を嵌めた状態で、シャンク25の長さ方向に往復移動可能である。ストッパー部材14が嵌合穴16gに嵌め込まれた状態では、大径円柱部14aの一端側の先端は、延出部18aと刃先部18bとの境界となる境界部18fと同じ高さに位置している。
【0023】
次に、面取りパーツ10のシャンク25への装着方法を説明する。
【0024】
まず、シャンク25をスプリング20の内部に挿通させる。次に、固定部材22の挿通孔22aにシャンク25をねじ切り部25a側と反対となる側から挿通させ、いもねじ22dを締めることにより、固定部材22をシャンク25に固定する。次に、ストッパー部材14を嵌合穴16gに嵌め込んだ状態で、面取り部材16の挿通孔16aにシャンク25をねじ切り部25a側から挿通させる。この際、各溝部25bの内部に各面取り刃18が納まるようにシャンク25を挿通孔16aに挿通させる。そして、スプリング20の他端側を切欠部16kに嵌め込むことで、スプリング20を面取り部材16に対して固定する。また、シャンク25に挿通されたスプリング20の一端側20aを固定部材22の他端側と当接するように配置させる。上述したように、スプリング20の一端側20aの内径の大きさとシャンク25の外径の大きさはほぼ同径となっているため、スプリング20は、その一端側20aが固定部材22と当接した状態で、シャンク25に固定される。以上のようにして、面取りパーツ10は、シャンク25に装着される。
【0025】
次に、面取りパーツ10をシャンク25に装着して行われるねじ立ておよび面取りの工程について説明する。
【0026】
図4は、ねじ立ておよび面取りの工程を示す図であり、シャンク25の先端部が下穴に進入した状態を示す図である。図5は、面取りの工程を示す図であり、刃先部18bが雌ねじ29に切り込みながら面取りが行われている状態を示す図である。図6は、面取りの工程を示す図であり、ストッパー部材14の先端が雌ねじ29を形成する面(表面)27aに当接した状態で面取りが行われている状態を示す図である。図7は、ねじ立ておよび面取りが終了した直後の状態を示す図である。
【0027】
まず、不図示のタッピングマシン等に、面取りパーツ10が装着されたシャンク25を取り付け、図4に示すように、シャンク25を矢示W1方向(ねじを締める方向)に回転させて、ねじ切り部25aを被加工部材27に予め形成された下穴28に、進入させる。すると、シャンク25のねじ切り部25aにより雌ねじ29の形成が始まる。この状態では、ねじ切り部25aの先端部のみが下穴28に進入した状態であるため、図4における、下穴28の上部のみに雌ねじ29が形成されている。
【0028】
さらに、シャンク25を矢示W1方向に回転させると、刃先部18bの刃先18cが下穴28の開口周囲に当接する。そして、さらにシャンク25が下穴28に進入すると、スプリング20が圧縮される。そして、圧縮されたスプリング20の復元力により、面取り刃18から雌ねじ29の開口周囲に圧力がかかる。面取りパーツ10は、シャンク25に対して、ねじりモーメントを受けながらシャンク25と共に回転している。このため、面取り刃18に、図5において下方の圧力がかかった状態にて、雌ねじ29の形成と共に、刃先部18bにより下穴28の開口周囲の面取りが始まる。図5に示す状態では、雌ねじ29は完全に形成されているが、面取りは完全に終了していない。
【0029】
さらに、シャンク25が雌ねじ29に進入すると、図6に示すように、刃先部18bは、ストッパー部材14の先端が被加工部材27の表面27aに当接するまで開口周囲を切り込んでゆく。ストッパー部材14が表面27aに当接した状態では、シャンク25が雌ねじ29の内部に進入しても、面取り刃18は、それ以上、開口周囲に切り込んでゆかない。そのため、一定の深さで面取り刃18が回転し、きれいな面取りが行われる。したがって、雌ねじ29の開口周囲にシームが存在するのを防止できると共に、一定の径でかつなめらかな面取りを行うことが可能となる。雌ねじ29の形成と面取りが終了すると、シャンク25が、図7における矢示W2方向(W1方向の逆方向:ねじを抜く方向)に回転する。すると、徐々にスプリング20は元の状態に復元し、シャンク25は雌ねじ29から完全に抜け、全ての工程が完了する。
【0030】
以上のようにして構成された面取りパーツ10では、面取り部材16にストッパー部材14が取り付けられているため、ねじ立て工程において、面取り刃18は、被加工部材27における所定の深さで止まり、それ以上深くに送り込まれていかない。したがって、面取り刃18が常に一定の深さまで切り込まれるため、所定の箇所を一定の径で面取りすることが可能となる。また、面取り刃18は、シャンク25がねじ挿入方向に回転する際に面取りを行う向きに刃先18cを備え、かつ、面取り刃18は、ストッパー部材14により一定の深さ以上切り込んでいかないため、ねじ立て工程における正転時において面取りを行うことが可能となる。そのため、面取り刃18に常にある程度高い圧力をかけることができ、きれいな面取りを行うことが可能となる。さらに、安定した状態で面取りが行われるため、面取りの精度が向上し、その結果、雌ねじ29の開口周部にシームが発生するのを防止できると共に、当該シーム部に雄ねじが螺合された場合に発生する危険性のあるねじ浮きを有効に防止することができる。
【0031】
また、面取りパーツ10では、ストッパー部材14は着脱可能である。したがって、面取りがなされる部分の径の大きさをストッパー部材14の短長によって自由に調節することができる。
【0032】
また、面取りパーツ10では、ねじ切り部25aの周方向の3箇所に、ねじ切り部25aの長さ方向に向かって伸びる溝部25bを備え、面取り刃18の一部が、溝部25b内に挿入されている。したがって、面取り刃18は、シャンク25の軸方向に沿って移動可能となる。このため、面取り刃18がシャンク25に対して軸方向にねじれたり傾いたりすることが防止され、その結果、面取り精度が向上する。
【0033】
また、面取りパーツ10では、シャンク25のねじ立て工程における正転時に面取りが行われる。したがって、逆転時に面取りを行う場合のように、スプリング20が伸張し、スプリング20の復元力が弱くなった状態で面取りが行われることがなくなる。すなわち、スプリング20の復元力が常に面取り刃18にかかった状態で面取りを行える。したがって、一定の径でかつなめらかな面取りを行うことができる。
【0034】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明は上述の形態に限定されることなく、種々変形した形態にて実施可能である。
【0035】
上述の実施の形態では、刃先部18bの外面18dが挿通孔16aの中心軸線Mに対して傾斜する傾斜角αは約45度となっているが、これに限定されることなく、例えば、30度もしくは60度等他の傾斜角αとしてもよい。
【0036】
また、上述の実施の形態では、ストッパー部材14の数を3つとしているが、これに限定することなく、2つ以下としても良いし、4つ以上としても良い。また、ストッパー部材14の長さは、周面部16cから境界部18fまで延出する長さとされているが、これに限定することなく、境界部18fより長くしても良いし、短くしても良い。また、ストッパー部材14の断面形状は、円形となっているが、楕円形や四角形若しくは六角形など他の形状としても良い。
【0037】
また、上述の実施の形態では、面取りが行われる部分にはざぐり穴は含まれていないが、ストッパー部材14の長さを短くすることにより、面取り加工において基台部16eに刃を設けることで、ざぐり穴を形成するようにしても良い。
【0038】
また、上述の実施の形態では、面取りパーツ10を、シャンク25に採用しているが、これに限定することなく、ドリルやエンドミル等の他の工具に採用するようにしても良い。
【0039】
また、上述の実施の形態では、弾性部材としては、金属製のスプリング20が採用されているが、これに限定されず、樹脂や他の材料からなる弾性部材を採用しても良い。また、面取り部16とスプリング20を別部材とせず、同一部材とするようにしても良い。
【0040】
また、上述の実施の形態では、ストッパー部材14は、周面部16cから他端側に突出して設けられているが、これに限定されることなく、例えば、ストッパー部材14を基台部16eの他端側の面に設けても良いし、面取り部材16の外周面から他端側に延出するように設けても良い。また、ストッパー部材14に雄ねじを形成すると共に、嵌合穴16gに雌ねじを形成して、ストッパー部材14を嵌合穴16gに螺入可能とすることで、ストッパー部材14の先端の位置を調節できるような構成としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の盛上げタップは、タッピングマシン等の雌ねじ加工を行う各種産業用機械において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施の形態に係る面取りパーツの構成を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示す面取りパーツの構成部材である面取り部材を面取り刃側から見た状態の平面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る盛上げタップを示す図で、シャンクに図1に示す面取りパーツが装着された状態を示す斜視図である。
【図4】図3の盛上げタップを使用してのねじ立ておよび面取りの工程を示す図であり、シャンクの先端部が下穴に進入した状態を示す図である。
【図5】図3の盛上げタップを使用しての面取りの工程を示す図であり、刃先部が雌ねじに切り込みながら面取りが行われている状態を示す図である。
【図6】図3の盛上げタップを使用しての面取りの工程を示す図であり、ストッパー部材の先端が雌ねじを形成する面(表)に当接した状態で面取りが行われている状態を示す図である。
【図7】図3の盛上げタップを使用してのねじ立ておよび面取りが終了した直後の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1…盛上げタップ
10…面取りパーツ
16…面取り部材
14…ストッパー部材
16a,22a…挿通孔
18…面取り刃
18c…刃先
20…スプリング(弾性部材)
22…固定部材
25…シャンク
25a…ねじ切り部
27a…表面(雌ねじの形成面)
28…下穴
29…雌ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌ねじのねじ立て加工と雌ねじの開口周囲の面取りとを行う盛上げタップであって、
ねじ立て用のねじ切り部を先端方向に備えたシャンクと、
当該シャンクに固定される固定部材と、
上記シャンクに一端を固定され、上記固定部材よりも上記ねじ切り部側に配置される弾性部材と、
当該弾性部材の他端に固定され、上記弾性部材の伸縮によって上記シャンクの長手方向に沿って可動に備えられると共に、上記ねじ切り部側に面取り用の面取り刃を備えた面取り部材と、
を備え、
上記面取り刃は、上記シャンクがねじ挿入方向に回転する際に面取りを行う向きに刃先を備え、
上記面取り部材と上記雌ねじの形成面との距離を規制して上記面取り部材を止めるためのストッパー部材を備えることを特徴とする盛上げタップ。
【請求項2】
前記ストッパー部材は、前記面取り部材から前記形成面までの突出長を調節できるように、前記面取り部材に取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の盛上げタップ。
【請求項3】
前記ねじ切り部の周方向の1つまたは複数箇所に、前記ねじ切り部の長さ方向に向かって伸びる溝部を備え、
前記面取り刃は、上記溝部内に一部を挿入した状態で前記ねじ切り部を移動できるように配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の盛上げタップ。
【請求項4】
所定形態の穴を形成するための回転工具に取り付けられる面取りパーツであって、
上記回転工具の主軸に固定される固定部材と、
上記シャンクに一端を固定され、上記固定部材よりも上記主軸の先端側に配置される弾性部材と、
当該弾性部材の他端に固定され、上記弾性部材の伸縮によって上記主軸に沿って可動に備えられると共に、上記主軸の先端側に面取り用の面取り刃を備えた面取り部材と、
を備え、
上記面取り刃は、上記主軸の挿入方向に回転する際に面取りを行う向きに刃先を備え、
上記面取り部材と上記所定形態の穴の形成面との距離を規制して上記面取り部材を止めるためのストッパー部材を備えることを特徴とする面取りパーツ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−98481(P2007−98481A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287804(P2005−287804)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000151014)株式会社田野井製作所 (8)
【Fターム(参考)】