説明

目標模擬装置

【課題】シミュレーションにより計算機上で模擬目標を発生させ、模擬目標に対する状況判断及び対処指示を行う目標模擬装置において、イベントの発生に応じてイベント発生地点を避けるように、模擬目標の針路を変更する動作まで模擬できる目標模擬装置を提供する。
【解決手段】目標が向かう目標地点とイベント発生地点から、目標が取りうる針路について、イベント発生地点および目標地点までの直線距離と最接近距離を考慮し、イベント発生地点を避けつつ目標地点に向かう回避針路を算出することにより、イベント発生地点を避けるように針路変更する模擬目標を模擬することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、計算機上で移動体の模擬目標を発生させ、発生した模擬目標の動態情報を計算機の操作者に提供する、目標模擬装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の目標模擬装置として、移動する模擬目標の動作を計算機上でシミュレートし、シミュレーション結果をシステム操作員に表示出力することで、模擬目標に対応する操作員の状況判断や、模擬目標への対処訓練や、模擬目標へ対処する対処システム(例えば、射撃管制システム)の操作訓練または試験を行うためのシステムシミュレータが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−71895号公報
【特許文献2】特開平10−111098号公報
【0004】
この種のシステムシミュレータでは、システムシミュレータに事前に数値として設定された模擬目標の位置や速度などの情報を元に、計算機シミュレーションにより模擬目標を生成し、操作員は模擬目標の種類や諸元などから目標の状況を確認し、目標への対処の必要性と目標への対処行動を実施する時期を判断し、対処システムへの対処指示の操作を行い、対処システムの操作技術や状況判断能力を習得する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の目標模擬装置は、対処システムの操作訓練を行うシステムシミュレータである場合、模擬目標は事前に設定された直線や曲線によって構成される固定された経路上を移動するのみである。
しかし、実際の目標は、対処システムの対処行動や、何らかのイベントの発生に応じて、事前に設定された経路とは異なる経路に針路変更する。射撃管制システムを例に説明すれば、射撃管制システムが迎撃対象とする複数の目標について、目標の1つが迎撃された場合、他の目標は迎撃される可能性の高い迎撃地点を即座に把握することができるので、迎撃される可能性の高い迎撃地点を回避する行動を取り、予め決められた移動経路とは異なる経路を通るようになる。
【0006】
従来のシステムシミュレータは、このような対処システムにおけるイベントの発生に対応して、模擬目標の針路変更を行うことがないため、対処システムの操作訓練を行うシステムシミュレータにおいて、事前に設定されたとおりに運動する模擬目標についての操作訓練しかできず、操作員は臨機な対応を習得することができないという問題がある。
【0007】
この発明は、係る課題を解決するためになされたものであり、複数の模擬目標が生成されている状況下において、対処システムによってある模擬目標についての対処行動が取られてイベントが発生した場合に、残りの模擬目標が針路を臨機に変更し、イベントの発生地点を回避するように針路変更する動作を模擬できる、目標模擬装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による目標模擬装置は、複数の模擬目標の位置を記憶する目標諸元記憶器と、上記それぞれの模擬目標の将来の移動経路を算出する予測経路算出器と、イベントの発生した模擬目標のイベント発生地点を記憶するイベント発生地点記憶器と、上記イベントの発生しない残りの模擬目標が到達すべき目的地点を記憶する目標地点記憶器と、上記残りの模擬目標がイベント発生地点を回避しつつ上記目的地点に到達するために、現地点と目的地点とイベント発生地点との位置関係評価に基いて、現地点にて取るべき針路を算出する回避針路生成器と、上記回避針路生成器により生成された取るべき針路を元に、上記残りの模擬目標の移動経路上で針路を変更し、当該針路変更した新たな移動経路に沿って当該模擬目標を目的地点まで移動させるとともに、当該移動中の模擬目標について位置表示を行う目標移動模擬器とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、各模擬目標の針路が目標地点の方向に近づくように制御するとともに、かつある模擬目標に新たなイベントが発生した場合には、イベント発生位置に応じて、残りの模擬目標が臨機に針路変更する動作を模擬することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明に係る実施の形態1による目標模擬装置の構成例を示す図である。
【図2】この発明に係る実施の形態1の回避針路生成器による、回避針路の生成方法を説明するための図である。
【図3】回避針路生成において、模擬目標が取りうる針路を制限する方式を説明する図である。
【図4】回避針路生成において、回避針路生成器の通過した迎撃地点の計算を省略する方式を説明する図である。
【図5】回避針路生成において、水面上を移動する目標を模擬する方式を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
以下、この発明に係る実施の形態1による目標模擬装置について、図を用いて説明する。図1は実施の形態1による目標模擬装置の構成を示す図である。実施の形態1の目標模擬装置は、目標諸元記憶器1と、予測経路算出器2と、対処システムにより模擬目標への対処行動が取られてイベントの発生した地点を記憶するイベント発生地点記憶器3と、目標地点記憶器4と、回避針路生成器5と、目標移動模擬器6から構成される。目標模擬装置は、例えば航空機や艦船等の目標への対処を行う対処システムに組み込まれて、その計算機上で模擬目標を発生させ、発生した模擬目標の位置や速度等の動態情報のシミュレーションを行い、動態情報のシミュレーション結果に基いて、対処システムの表示装置上で移動する模擬目標の模擬表示を行う。目標模擬装置は、対処システム上で模擬目標の模擬表示を行うことで、目標に対処する操作員の状況判断力を養成するとともに、操作員が目標への対処行動を取るための対処システムの操作訓練に用いられる。なお、ここでの目標への対処を行う対処システムとして、射撃管制システムを例に説明を行う。射撃管制システムは、例えば表示装置を介して操作員が移動する目標の発生を認知すると、発生した複数の目標の中から優先順位を決めて特定の目標を選択し、操作員の指示によって選択した目標について火器による迎撃を行うような対処行動を取ることができる。
【0012】
目標諸元記憶器1は、複数の模擬目標の現在の位置と速度の諸元を記憶する。予測経路算出器2は、目標諸元記憶器1からの現在のそれぞれの模擬目標の位置と速度を入力として、予め設定された模擬目標の運動モデルに基いて、それぞれの模擬目標が将来通過すると想定される経路を算出する。この目標の想定経路の算出は、各種シミュレーション方法が知られているので、ここでは詳細な説明は割愛する。イベント発生地点記憶器3は、イベント発生地点として、模擬装置上で対処システムによりある模擬目標が対処行動を取られた地点を記憶し、例えばある模擬目標が迎撃された地点をイベント発生地点として記憶する。目標地点記憶器4は、模擬目標が針路を変更しつつ到達することを目標とする目標地点を記憶する。回避針路生成器5は、予測経路算出器2からの模擬目標の予測経路と、イベント発生地点記憶器3からのイベント発生地点の座標と、目標地点記憶器4からの目標地点の座標が入力情報として入力される。回避針路生成器5は、これらの入力情報を元に、イベント発生地点を回避するために取るべき針路を算出する。このイベント発生地点は、模擬目標が対処システムによって対処される可能性が高い地点、例えば迎撃される可能性が高い地点となっている。目標移動模擬器6は、回避針路生成器5からのイベント発生地点(例えば迎撃地点)を回避するための取るべき針路を入力として、目標模擬装置上でのイベントの発生しない(例えば迎撃されていない)残りの目標の位置を漸次変更し、模擬目標を目的地まで移動させる。すなわち、目標移動模擬器6は、回避針路生成器5により生成された取るべき針路を元に、残りの模擬目標の移動経路上で針路を変更し、当該針路変更した新たな移動経路に沿って当該模擬目標を目的地点まで移動させる。また、目標移動模擬器6は、対処システムの表示装置上に移動する模擬目標の位置表示を行うことで、模擬目標の動作を模擬することができる。
【0013】
図1に示した目標諸元記憶器1では、模擬装置による訓練実施中において、対処システムによってイベントの発生していない(例えば迎撃されていない)模擬目標の現在の位置と速度の情報を取得し、記憶する。この情報は予測経路算出器2において、模擬目標が将来通過すると想定される経路の算出に必要となる。
【0014】
図1に示した予測経路算出器2では、目標諸元記憶器1に記憶されている模擬目標の位置と速度の情報を入力として、模擬目標の将来通過すると想定される移動経路を現在位置から針路方向への外挿計算によって算出する。ここで算出した経路は回避針路生成器5において、模擬目標と迎撃地点及び目標地点との最接近距離を算出するために必要となる。
【0015】
図1に示したイベント発生地点記憶器3では、操作訓練の実施中に対処システムによってある模擬目標にイベントが発生した場合(例えば迎撃された場合)に、イベントの発生した(例えば迎撃された)地点の位置情報を取得し、記憶する。ここで記憶した位置情報は、回避針路生成器5において模擬目標とイベント発生地点(例えば迎撃地点)との直線距離及び最接近距離を算出するために必要となる。
【0016】
図1に示した目標地点記憶器4では、訓練を開始する前に模擬装置に入力された、模擬目標が到達することを目指す目標地点を記憶する。模擬目標は対処システムによって対処行動を取られる(例えば迎撃される)可能性の高いイベント発生地点を回避しつつ、目標地点に接近するように移動を行う。ここで記憶した目標地点の情報は回避針路生成器5において、模擬目標の現在位置から目標地点までの直線距離及び最接近距離を算出するために必要となる。
【0017】
図1に示した回避針路生成器5では、予測経路算出器2から取得した模擬目標の将来の移動経路と、イベント発生地点記憶器3から取得したイベント発生位置と、目標地点記憶器4から取得した模擬目標が到達する目標地点の位置とを元に、模擬目標がイベント発生地点(例えば迎撃地点)を回避しつつ目標地点に向かうために、模擬目標が取るべき針路を生成する。ここで生成した針路は目標移動模擬器6において目標の移動を模擬するために必要となる。また、ここでのイベント発生位置は、イベント発生地点記憶器3から取得したイベント発生地点の位置データであって、目標模擬装置を用いた対処システムの訓練実施中において、これまでに対処システムによってイベントが発生した位置(例えば模擬目標が迎撃された位置)を示すものである。
【0018】
目標移動模擬器6では、回避針路生成器5により生成された針路に基づき、模擬目標の位置を現在の位置から針路方向に速度の大きさ分だけ変化させることにより、目標の移動を模擬する。
【0019】
次に、実施の形態1による目標模擬装置の動作について説明する。目標模擬装置は、回避針路生成器5において回避針路を生成する際、回避針路の評価、針路生成の制限、評価値算出の対象外範囲の設定を行う。
【0020】
図2は回避針路生成器5による回避針路の生成方法を表すものであり、三次元空間内の模擬目標と、イベント発生地点である迎撃地点1〜nと、目標地点と、現在の移動経路をある角度θだけ変化させた経路を示す。
回避針路生成器5では、予測経路算出器から取得した模擬目標の現在の移動経路をある角度θだけ変化させ、変化させた移動経路とイベント発生地点である迎撃地点との最接近距離d1〜dnと、変化させた移動経路と目標地点との最接近距離d0と、現在位置からイベント発生地点である迎撃地点までの直線距離x1〜xn及び目標地点までの直線距離x0を算出する。
【0021】
図1に示した回避針路生成器5は、次式(1)に示す評価関数により、ある角度θだけ変化させた経路の評価値を算出する。
【0022】
【数1】

【0023】
なお、W(x)、W(x)は重み付けの関数であり、xとW(x)、W(x)が負の相関を持つ。また、G(d)はガウス関数であり、d=0の場合にG(d)は正の最大値をとり、dの絶対値が大きくなるほど、G(d)の値は0に近づく関数である。
【0024】
上記式(1)の評価関数により、目標地点との最接近距離が近い経路ほど評価値が高く、イベント発生地点である迎撃地点との最接近距離が近いほど評価値が低くなり、かつ、現在位置からの直線距離が近いイベント発生地点である迎撃地点及び目標地点が大きく影響するように評価値が算出される。回避経路生成器5は、角度θを一定の範囲内において変化させて、上記式(1)の評価関数による評価値の算出を繰り返し、評価値の最も高い角度θを回避針路とするように、模擬目標の針路を決定する。
【0025】
図3は、回避針路生成において模擬目標が取り得る針路を制限する方式を説明する図である。図3において、回避針路生成器5は、図2で説明した式(1)の評価関数に基づいて評価値を算出する際、現在の移動経路をある角度θだけ変化させる場合に、模擬目標の種類によって決定される旋回能力を基にして、ある角度θを変化させる範囲を限定する処理を行うようにしたものである。
【0026】
図2の説明では、θの取り得る範囲を模擬目標の座標を中心とした全方位として説明を行ったが、図3に示す回避針路生成器5では、事前にθの取り得る最大値φを定め、現在の針路から角度φの範囲の中でθを変化させて回避針路を生成することにより、実際の目標が取りえない針路の生成を制限する回避針路を生成することとなる。
これによって、模擬目標の旋回能力に基いて、取るべき針路の存在範囲を制限することができる。
【0027】
図4は、回避針路生成において回避針路生成器の通過したイベント発生地点である迎撃地点の計算を省略する方式を説明する図である。図4において、回避針路生成器5は、図2で説明した式(1)の評価関数に基づいて評価値を算出する際、模擬目標の現在の針路方向を基準線として、この基準線と模擬目標の位置とイベント発生地点である迎撃地点を結ぶ直線とのなす角度が90度以上となるイベント発生地点である迎撃地点に関しては、模擬目標が既に通過した迎撃地点であり回避する必要がない地点であると見なす処理を行うようにしたものである。すなわち、式(1)の評価関数に基づく評価値の算出を行う場合、評価値を計算する対象外範囲を求めることで、評価値算出の計算負荷の軽減を行うものである。
例えば、図4に例示するとおり、イベント発生地点である迎撃地点1は対象外範囲にないので評価値の算出の対象とするが、イベント発生地点である迎撃地点2は対象外範囲にあるので評価値の算出の対象とはしない。
これによって、模擬目標が存在し得ない範囲を省いて、模擬目標が取るべき針路を算出することができる。
【0028】
図5は、回避針路生成において水面上を移動する目標を模擬する方式を説明する図である。図5において、回避針路生成器5は、図2で説明した式(1)の評価関数に基づいて評価値を算出する際、角度θを変化させる範囲を模擬目標の現在位置を含む水平面上に限定してイベント発生地点である迎撃地点との位置関係に基く評価値を算出することにより、模擬目標の移動する範囲を水平面上とし、例えば水面上を移動する目標の模擬するようにしたものである。これによって、模擬目標の現在位置を含む水平面上を、回避針路の取り得る範囲に設定して、模擬目標の針路を算出することができる。
【0029】
以上説明したとおり、実施の形態1の目標模擬装置によれば、複数の模擬目標の位置を記憶する目標諸元記憶器と、上記それぞれの模擬目標の将来の移動経路を算出する予測経路算出器と、イベントの発生した模擬目標のイベント発生地点を記憶するイベント発生地点記憶器と、上記イベントの発生しない残りの模擬目標が到達すべき目的地点を記憶する目標地点記憶器と、上記残りの模擬目標がイベント発生地点を回避しつつ上記目的地点に到達するために、現地点と目的地点とイベント発生地点との位置関係評価に基いて、現地点にて取るべき針路を算出する回避針路生成器と、上記回避針路生成器により生成された取るべき針路を元に、上記残りの模擬目標の移動経路上で針路を変更し、当該針路変更した新たな移動経路に沿って当該模擬目標を目的地点まで移動させるとともに、当該移動中の模擬目標について位置表示を行う目標移動模擬器とを備えたことを特徴とする。
【0030】
この構成によって、目標模擬装置は一定時間毎に回避針路の生成を繰り返すことで、模擬目標の針路が目標地点の方向に近づくように制御し、かつ新たなイベント(例えば複数の模擬目標の中で迎撃された目標)が発生した場合には、イベント発生地点(例えば迎撃地点)を回避するように臨機に針路を変更する、模擬目標を模擬することが可能である。
【0031】
なお、実施の形態1による目標模擬装置は、目標に対して迎撃を行う射撃管制システムについて、計算機上で模擬目標を発生させ、状況判断及び迎撃指示を行う操作を訓練する際、模擬目標が迎撃される可能性の高い地点を回避する針路を選択できるようにすることで、迎撃地点の発生に応じて針路変更する目標を模擬することのできる、目標模擬装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 目標諸元記憶器、2 予測経路算出器、3 イベント発生地点記憶器、4 目標地点記憶器、5 回避経路生成器、6 移動模擬器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の模擬目標の位置を記憶する目標諸元記憶器と、
上記それぞれの模擬目標の将来の移動経路を算出する予測経路算出器と、
イベントの発生した模擬目標のイベント発生地点を記憶するイベント発生地点記憶器と、
上記イベントの発生しない残りの模擬目標が到達すべき目的地点を記憶する目標地点記憶器と、
上記残りの模擬目標がイベント発生地点を回避しつつ上記目的地点に到達するために、現地点と目的地点とイベント発生地点との位置関係評価に基いて、現地点にて取るべき針路を算出する回避針路生成器と、
上記回避針路生成器により生成された取るべき針路を元に、上記残りの模擬目標の移動経路上で針路を変更し、当該針路変更した新たな移動経路に沿って当該模擬目標を目的地点まで移動させるとともに、当該移動中の模擬目標について位置表示を行う目標移動模擬器と、
を備えた目標模擬装置。
【請求項2】
上記回避針路生成器は、模擬目標の旋回能力に基いて、取るべき針路の存在範囲を制限することを特徴とした請求事項1記載の目標模擬装置。
【請求項3】
上記回避針路生成器は、模擬目標が存在し得ない範囲を省いて、模擬目標が取るべき針路を算出することを特徴とした請求事項1記載の目標模擬装置。
【請求項4】
上記回避針路生成器は、模擬目標の現在位置を含む水平面上を、回避針路の取り得る範囲として針路を算出することを特徴とした請求事項1記載の目標模擬装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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