説明

直腸癌の免疫療法

直腸癌または直腸癌のリスクがある患者の免疫療法用の医薬を製造するためのヒト腫瘍関連抗原を標的とする、ワクチン、抗体、または誘導体もしくはその断片である免疫療法剤の使用について説明する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直腸癌のリスクがある患者の免疫療法のためのヒト腫瘍関連抗原の免疫療法剤の使用に関する。さらに、本発明は該免疫療法剤を含む医薬製剤およびこの製剤の適用方法に関する。
【0002】
先進国において、癌は第2の主要な死亡原因である。世界の新たな癌の症例の年間発生は700万人と推定される。最も顕著な適用(約70%)は乳癌、結腸直腸、胃、膵臓、肺、前立腺、卵巣を含む上皮起源の癌である(Black et al.、1997、Eur J Cancer、33,1075-107)。今日まで、外科手術、化学療法、および放射線療法は、一般的に受け入れられた標準である。ある種の腫瘍の適応および段階(期)の治療にいくらか進歩があるにも関わらず、一般に、現在利用可能な癌療法は満足なものではなく、特に有害な転移の発生を防ぐのに有効な療法がない。
【0003】
上皮癌の多くの患者で、臨床的に検出可能な腫瘍塊は外科手術により有効に除去される(根治目的の外科手術)。例えば、直腸癌の治療は人工肛門造設術を伴うことが多く、一次療法は外科的根治切除である。これら一次外科的アプローチの結果は、補助療法、例えば化学療法または放射線療法により改善しうる。直腸は腹膜腔外であると考えられることが多いが、直腸の上3分の1の前部表面は漿膜で覆われているため、腹膜腔内である。
【0004】
一次癌の診断および外科手術時に、不顕性単腫瘍細胞は患者の種々の臓器内に散在(播種)していることが多い(Cote et al.、1995、Ann Surg、222, 415-23; 考察423-5.; Cote et al.、1991、J Clin Oncol、9、1749-56)。リンパ節、骨髄、および末梢血に散在する腫瘍細胞の検出は予後不良と関連する(Pantel & Otte、2001、Recent Results Cancer Res、158,14-24)。これら播種性腫瘍細胞は、すべての臨床的に証明された腫瘍組織の診断および外科的除去のしばしば数年後に遅い転移増殖の原因となることが知られている。今までのところ、ほとんどすべての症例で転移性上皮癌は治療不能であり、有害である。したがって、上皮起源の癌の全5年生存率はわずか約50%である(Landis et al.、1999、CA Cancer J Clin、49, 8-31, 1)。
【0005】
したがって、マクロ転移の増殖を防ぐための「最小残存癌」のより有効な治療、例えば不顕性単細胞または微小転移細胞の破壊は、緊急かつほとんど要求が満たされていない医学的要求である。微小転移細胞は休止状態であることが多く、急速に分裂する細胞の場合のみ有効な化学療法に適した標的ではないため、この目的には常套的化学療法的アプローチはあまり奏功しない(Riethmueller & Klein、2001、Semin Cancer Biol、11、307-11)。
【0006】
播種性腫瘍細胞はマクロ転移がすでに存在するときに該疾病の後期にも役割を演じる。これら細胞はさらなる疾病の拡散、すなわちさらなる転移の発現に寄与する(Cavallaro & Christofori、2001、Biochim Biophys Acta、1552,39-45)。
播種性腫瘍細胞が癌の免疫療法の適切な標的であるという証拠が増加している。例えば、抗体がこれら腫瘍細胞に対する治療効果を示すことが示された。
癌患者のネズミ抗ルイスY抗体 ABL364による受け身免疫療法は骨髄における微小転移細胞の実質的な減少をもたらした (Schlimok et al.、1995、Eur. J. Cancer、31A, 1799-1803)。その結果、適切な抗体が播種性腫瘍細胞に作用し、破壊することがあることが初めて示された。同様の観察が、ネズミモノクローナル抗体17-1Aを治療剤に用いてなされた(Braun et al.、1999、Clin. Cancer Res.、5, 3999-4004)。
【0007】
Dukes C結腸癌摘出患者(原発腫瘍の外科的除去に成功したがすでに不顕性腫瘍細胞が播種されるリスクのある患者)は、比較アジュバント試験(コントロール群観察)においてネズミモノクローナル抗体17-1Aで処置された。この受け身免疫療法は、有意な再発率低下と長期生存をもたらした(Riethmueller et al.、1998、J Clin Oncol、16, 1788-94)。
【0008】
プラセボ比較試験において転移性結腸直腸癌患者に対するポリクローナルヤギ抗イデオタイプ抗体製剤(SCV 106)のワクチン接種は、固形転移に対する大きな効果はない(部分または完全寛解なし)ようであったが、免疫応答のある患者において有意な生存時間の増大とさらなる疾病の拡大の減少をもたらした(Samonigg et al.、1999、J Immunother、22, 481-488)。その結果、ワクチン接種により誘導された特異抗体は、おそらく播種性腫瘍細胞の破壊により転移癌患者に有益な効果をもたらすかもしれないことを示した。
【0009】
40kDaの膜糖タンパク質である上皮細胞付着分子(Epithelial Cell Adhesion Molecule (EpCAM))は、該分子に対して生じた各モノクローナル抗体名に由来する種々の名前により腫瘍関連抗原として説明されてきた(例えば、17-1A、KSA、GA73-3、AUA1 (Durbin et al.、1990、Int. J. Cancer、45、562-565;Herlyn et al.、1979; Herlyn et al.、1986、Hybridoma、5、3-10.;Ross et al.、1986、Biochem Biophys Res Commun、135,297-303)。対応するcDNAは、種々のグループにより独立してクローンされた(Perez & Walker、1989、J Immunol、142,3662-7;Strnad et al.、1989、Cancer Res.、49,314-31、Szala et al.、1990、Proc. Natl. Acad. Sci.、84,214-218)。
【0010】
ヒトにおいて、この糖タンパク質は上皮起源のほぼすべての癌細胞表面(Balzar et al.、1999b、J Mol Med、77,699-712)および小細胞肺癌(DeLeu et al.、1994、Int. J. Cancer、60-63)に過剰発現する。EpCAMは、すべての単層、多列、および移行上皮の細胞膜上にも検出されるので、汎癌/汎上皮マーカーと考えることができる(Went P. etal.、Hum Pathol 2004 Jan 35:122-8)。
【0011】
EpCAMは、Ca2+-非依存性の同型細胞-細胞付着に介在する(Litvinov et al.、1994、J Cell Biol、125,437-46)。EpCAM介在性付着の形成は、カドヘリン介在性付着に対する負の調節効果を有し、上皮細胞の成長および分化に対する強い作用を有するかもしれない (Litvinov et al.、1997、J Cell Biol、139,1337-48)。EpCAMは、細胞増殖/発生シグナルの送達にも関与するようであり、胚発生時に重要な役割を持つかもしれない(Cirulli et al.、1998、J Cell Biol、140,1519-1534)。EpCAMの分子および構造的生物学の詳細は報告されているが(Balzar et al.、2001、Mol Cell Biol、21、2570-80)、上皮細胞の活性におけるこの分子の正確な役割は依然としてさらに検討されなければならない。
【0012】
EpCAMは、ほとんどの癌の細胞表面に強く発現するため、該分子は癌を治療するための免疫学的アプローチとして魅力的な標的である。EpCAMに対する抗体を用いる最初の臨床試験は、すでに1980年代初期に開始された (Herlyn et al.、1991、Am J Clin Oncol、14、371-8)。多年にわたる種々の免疫療法的アプローチによる臨床研究の後、および多くのかなり失望する結果の後に、最終的には受け身および能動癌免疫療法の標的としてEpCAMの臨床的妥当性と実用可能性が証明された:
【0013】
-ネズミモノクローナル抗体17-1A(臨床効果がDukes C結腸癌切除患者のアジュバント受け身免疫療法について証明された(Riethmueller et al.、1998、J Clin Oncol、16、1788-94))はEpCAMに対するものである(Gottlinger et al.、1986b、Hybridoma、5、29-37)。
【0014】
-ポリクローナルヤギ抗イデオタイプ抗体ワクチンSCV 106 (生存の延長が転移性結腸大腸癌患者へのワクチン接種後に示された(Samonigg et al.、1999、J Immunother、22、481-488))は、模倣(mimic)EpCAMに対して設計され(Herlyn et al.、1987、Eur J Immunol、17、1649-52)、ワクチン接種は、EpCAM特異的B細胞の数を増大させる(Loibner et al.、1990、Lancet、335、171)。
【0015】
能動または受け身療法アプローチによる患者の抗EpCAM反応性の増大は、いかなる全身性の副作用または自己免疫も生じなかった(Staib et al. Int J Cancer、2001、92,79-87; Gruber et al.、2000、Cancer Res,. 60,1921-1926)。
【0016】
EpCAMに加え、さらに既知の腫瘍関連抗原(TAA)、例えばルイス抗原がある。それらの抗原は、種々の上皮癌上に過剰発現する。それらには、ルイス(Lewis)y、ルイスx、およびルイスb構造、およびシアリル化ルイスx炭水化物もある。さらに炭水化物抗原は、Globo H構造、KH1、Tn-抗原、Sialyl(シアリル)Tn、TF抗原、およびα-1,3-ガラクトシル抗原決定基がある(Electrophoresis、1999,20:362; Curr Pharmaceutical Design、2000,6:485、Neoplasma、1996,43:285)。
【0017】
Durrant et al. (Cancer Research、1994, 54:4837-4840)において、抗イデオタイプモノクローナル抗体(105AD7)が動物に抗腫瘍細胞反応を生じさせ、関連毒性なしに結腸直腸癌患者の生存を延長するようであることが示された。直腸癌患者の生存の延長を示すことはできなかった。
【0018】
他のTAAには、腫瘍細胞に高度に発現するタンパク質、例えばCEA、N-CAM、TAG-72、MUC、葉酸結合タンパク質A-33、CA125、HER-2/neu、EGF-レセプター、PSA、MARTなどがある(Sem. Cancer Bio.、1995, 6:321)。関連TAAは、しばしば胎児組織または腫瘍細胞のような増殖細胞に生じる上皮細胞の表面抗原である。TAAの特別なグループは、上皮細胞の細胞表面プロセスに関与する。腫瘍細胞上に過剰発現する細胞付着タンパク質にはEpCAM、NCAM、およびCEAがある。
【0019】
成人の直腸は長さが約15cmである。実際の長さと外科的部分への分離は、種々の患者の特徴、例えば身長、体形、骨盤の幅(女性型または男性型)、および直腸が存在する仙骨腔(sacral hollow)の湾曲を反映する。直腸は腹膜腔外と考えられることが多いが、直腸の上三分の一の前部表面は漿膜で覆われているので腹膜腔内である。直腸癌の治療は、通常、根治外科手術と放射線療法により行われるが、結腸癌は通常外科手術と化学療法により行われる。
【0020】
直腸癌のリスクがある患者は、原発癌または転移として直腸内にすでに腫瘍が発生しているか、または直腸癌の素因を示す。直腸癌のリスクは、遺伝的素因により増大するかもしれない。他方、直腸癌のリスクのある患者は結腸のような他の臓器にすでに腫瘍または転移が発生しており、次いで直腸に疾病の拡散が起きるかもしれない。
【0021】
直腸癌のリスクがある患者は、該疾病の常套的治療後に生じるかもれない直腸癌の再発のリスクがある患者であり得る。
【0022】
直腸癌の臨床的挙動は結腸直腸癌と異なり、直腸癌の主な問題は局所的再発であるが、結腸癌では遠隔転移である。これは分子的根拠があるかもしれず、例えばP53突然変異および過剰発現は結腸癌ではなく直腸癌における生存性の予後因子である(J. Pathol. 2001,v195,p171-178)。直腸腫瘍のEpCAM発現の低下は、局所腫瘍再発の予測因子であるようである。
【0023】
さらなる結腸癌と直腸癌の相違:
遠位腫瘍(直腸)はより高頻度に以下のものを表現する。
-K-ras突然変異(Scott et al.、1993、Gut 34:621-624)
-18qアレル欠失(Kern et al.、1989、JAMA、261:3099-3103)
-p53蓄積(Soong et al.、1997、Clin. Cancer Res.、3,1405-1411)
-c-myc発現(Rothberg et al.、1985、Br. J. Cancer、52,629-632)
-異数性(Lanza et al.、1996、Am. J. Clin. Pathol.、105,604-612)
-β-カテニン発現(Kapiteijn et al.、2001、J. Pathol.、195,171-178)
-血液型の決定基の再発現(Caldero et al.、1989、Virch. Arch. A. Pathol. Anat. Histopath.、415:3479)
-サイクリンD1過剰発現(Distler et al.、1997、Dig Dis、15:302
-局所再発
-外科医が生存に有意に高い影響を持つ
-低MSI
-高硫酸ムチン含量
-血液型の決定基の再発現
【0024】
右側(結腸)腫瘍がより頻度が高い。
-粘液性(Hanski et al.、1996、Cancer Lett.、103,163-170)
-二倍体(Lanza et al.、1996、Am. J. Clin. Pathol.、105,604-612)
-MSI-表現型(Thibodeau et al.、1993、Science、260,816-819)
【0025】
該疾病の進行に基づいて直腸癌は、最先端の4段階(期)に分類される。III期およびIV期は、すでにリンパ節に転移が生じていることが特徴であり、IV期では、身体全体の他の臓器にも転移がみられる。
【0026】
外科手術ならびに放射線照射および/または化学療法による治療のような直腸癌の常套的治療は、転移形成の治療および予防、すなわち生存時間の延長に効果がないかもしれない。したがって、本発明の目的は、直腸癌または直腸癌のリスクがある患者の新規治療方法を提供することである。
【0027】
この課題は、特許請求の範囲に記載の方法および医薬製剤により解決される。本発明は、ヒト腫瘍関連抗原を標的とする免疫療法剤を用いる免疫療法により直腸癌または直腸癌のリスクがある患者の新規治療方法を提供する。さらに、医薬製剤は直腸癌のリスクがある哺乳動物の治療のために提供される。
【0028】
腫瘍関連抗原を標的とする免疫療法剤による結腸直腸癌の免疫療法は実際に患者の生存率の増加をもたらすことがわかった。患者は能動免疫療法を受けると、患者血清中の該免疫療法剤の力価を増加させる免疫反応が生じた。直腸癌患者または直腸癌のリスクがある患者に該免疫療法剤に対する免疫反応が生じると、驚くべきことに生存率が結腸癌患者よりはるかに増大した。
【0029】
直腸癌のリスクがある患者はすでに直腸内に原発癌または転移としてすでに腫瘍が発現しているか、または直腸癌の素因を示す。これらの場合、直腸癌のリスクは遺伝的素因により増加するかもしれない。
【0030】
直腸癌のリスクがある患者は、該疾病の常套的治療後に生じるかもしれない直腸癌の再発のリスクがある患者であり得る。患者はすでに転移があるかもしれないが、これら転移の成長は、本発明の該免疫療法剤を用いることにより阻害または少なくとも減少しうる。結果として、平均寿命および生活の質は増大しうる。
【0031】
さらに、本発明の治療は直腸癌のIII期および/またはIV期の患者を治療するのに極めて有効であり得る。
【0032】
本発明の該免疫療法剤は抗体または抗体誘導体もしくはその断片でありうる。抗体断片には、免疫グロブリン結合ドメインまたはこの結合ドメインの模倣(mimicking)ペプチドを含むあらゆるポリペプチドを含む抗体の機能的等価物または同族体がある。したがって、別のポリペプチドと融合した免疫グロブリン結合ドメインまたは等価物を含むキメラ分子が含まれる。好ましくは、該抗体誘導体は、λまたはκ抗体のFc部分および/またはヒンジ領域の部分および/またはF(ab')2断片の少なくとも部分と共にFab断片の少なくとも部分を含む。典型的抗体分子は、完全免疫グロブリン分子であり、またFab、Fab、F(ab')2、およびF(v)として知られるそれら部分を含むパラトープを含む免疫グロブリン分子のそれら部分である。好ましくは、該抗体はIgG、IgM、またはIgA抗体である。
【0033】
本発明にしたがって用いる抗体または抗体誘導体は、グリコシル化抗体でもありうる(ここで、グリコシル化は腫瘍関連抗原(TAA)の炭水化物抗原決定基の抗原決定基をも模倣しうる)。
【0034】
該抗体または抗体誘導体はヒトまたは動物起源、好ましくは哺乳類起源、例えばマウス、ラット、ヤギ起源でありうる。それは当該分野でよく知られた方法にしたがったハイブリドーマ技術によるかまたは適切な発現系を用いる組換え発現により製造することができる。用いる宿主系に応じて、該抗体または抗体誘導体は特定のグリコシル化パターンを示しうる。
【0035】
本発明の該免疫療法剤は、抗イデオタイプ抗体、すなわちab2および/または腫瘍関連抗原に対する特異性を有するイデオタイプ抗体、すなわちab1であり得る。
【0036】
本発明の該免疫療法剤はワクチンでもあり得る。これは抗原性構造、例えば単独またはワクチンアジュバントと共に抗原に対する免疫応答を誘導しうるTAAタンパク質またはTAAのポリペプチドでありうる。TAA抗原は知られた技術により単離または組換え製造することができる。
【0037】
本発明によれば、該免疫療法剤は患者の血液中に該免疫療法剤に対する関連力価を誘導する能動免疫により用いられるのが好ましい。免疫のために、TAAまたはTAAの模倣物、例えば抗イデオタイプまたはミモトピック(mimotopic)抗体、抗体誘導体、または他のTAA模倣構造、例えばペプチドは免疫原性物質として用いることができる。用語「免疫原性」は、特異的宿主系における免疫応答をもたらすあらゆる構造を定義する。例えば、ネズミ抗体またはその断片は、ヒトで免疫原性が高く、アジュバントと組み合わせるとさらに高い。免疫原性物質は、各抗体イデオタイプまたは他のTAA関連構造に対する免疫応答を引き起こすことができよう。免疫原性物質は、変性させるか、または適切な構造または担体とコンジュゲートすると免疫原性を誘導することができることが好ましい。
【0038】
本発明に用いる好ましい免疫原性抗体は、例えばEP 1 140 168、EP 1 230 932、EP 0 644 947、およびEP 0 528 767に記載されている。能動免疫療法に用いる好ましい抗体は、WO 00/41722またはA599/2003に記載の抗EpCAM抗体である。
【0039】
本発明の該免疫療法剤が標的とする好ましい腫瘍関連抗原は、典型的には固形癌の悪性細胞上に発現するもの、例えばTAG-72、MUC1、葉酸結合タンパク質A-33、CA125、HER-2/neu、EGF-レセプター、PSA、MARTなどである。適切な抗原は、特定の疾病または癌症例の少なくとも20%、好ましくは症例の少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは少なくとも50%に発現する。
【0040】
本発明によれば好ましい関連TAAは、腫瘍関連異常炭水化物構造、例えばルイス抗原、例えばルイスx、ルイスb、およびルイスy構造、およびシアリル化ルイスx構造、GloboH構造、KH1、Tn抗原、またはシアリルTn、TF-抗原、およびα-1-3-ガラクトシル-抗原決定基から誘導される。
【0041】
本発明によれば、さらにより好ましいTAAは、異常にグリコシル化されたEpCAM上にのみ存在し、正常EpCAM上には存在しないルイスyグリコシル化を示すEpCAM分子の抗原決定基である。
【0042】
特に、本発明の該免疫療法剤の好ましいTAA標的は、ペプチドまたはタンパク質からなる抗原の群から誘導される決定基の群、例えばEpCAM、NCAM、CEA、およびT細胞ペプチド、炭水化物、例えば異常なグリコシル化パターン、ルイスy、シアリルTn、Globo H、および糖脂質、例えばGD2、GD3、およびGM2から選ばれる。
【0043】
本発明の能動免疫療法のための医薬製剤は、上記免疫原性物質、すなわち好ましくは免疫原性抗体または抗体誘導体を含むよう製剤化される。これら医薬製剤は、典型的には0.01μg〜10mgの範囲の量の抗体または抗体誘導体を含む。免疫療法剤として用いる抗体の性質に応じて、免疫原性は該抗体の異種配列または誘導体化により変化させることができよう。さらに、アジュバントを用いると抗体の免疫原性をさらに増加させる。すなわち、アジュバントと適切に製剤化された免疫原性用量のワクチンまたは抗体もしくは抗体誘導体は、能動免疫に用いる場合は好ましくは0.01μg〜750μg、より好ましくは100μg〜1mg、最も好ましくは100μg〜500μgの範囲である。しかしながら、デポー(蓄積)注射用に設計されたワクチンは、さらにより多量の、例えば少なくとも1mg〜10mgの免疫原性物質を含むであろう。すなわち、免疫原は長期にわたり免疫系を刺激するよう供給される。
【0044】
本発明の能動免疫に用いる免疫原は、通常、用量0.01〜1ml、好ましくは0.1〜0.75mlを含む単回使用シリンジ中のレディ・トゥ・ユース(ready-to-use)医薬製剤として提供される。すなわち、そのように提供されるワクチン溶液剤またはサスペンジョン剤は高度に濃縮されている。さらに本発明は、ワクチンならびに適切な適用用具、例えばシリンジ、注射用具、ピストルなどを含む、患者にワクチン接種するためのキットに関する。
【0045】
医薬製剤は、皮下、筋肉内、皮内、または経皮投与に特に適している。別の可能な経路は、鼻、経口、または直腸ワクチン接種による粘膜投与である。
【0046】
さらに医薬的に許容されるアジュバントおよび担体を含み直腸投与のための坐剤を形成する、直腸癌または直腸癌のリスクがある患者の受け身免疫療法のための該免疫療法剤、または能動免疫療法のための免疫原として用いる該免疫療法剤を含む医薬製剤がさらに好ましい。
【0047】
有効量の本発明の該免疫療法剤を製造するための免疫原の効果を改善する典型的アジュバントは、水酸化アルミニウム(アラムゲル)もしくはリン酸アルミニウム、成長因子、リンホカイン、サイトカイン、例えばIL-2、IL-12、GM-CSF、インターフェロン、または補体因子、例えばC3d、リポソーム製剤、ならびに強免疫原、例えば破傷風トキソイド、細菌毒、例えばシュードモナス外毒素、およびリピッドAの誘導体であるさらなる抗原の製剤がある。
【0048】
本発明の能動免疫に用いる医薬製剤の好ましいワクチン接種計画は、初期注射および好ましくは少なくとも1のブースター注射を含む。ブースター注射は、通常、2〜40週間の間隔で投与する。特定のスケジュールは以下の通りである:第1日に初回注射、さらに初回ワクチン接種後第15日、29日、および57日にブースター注射。好ましくは、さらに初回ワクチン接種後第16、24、32、および40週後にブースター注射する。さらなるワクチン接種を12月毎、好ましくは6月毎、より好ましくは3月毎、最も好ましくは2月毎に行うことができる。
【0049】
患者血清中のセロコンバージョンの測定は、本発明の能動免疫のための医薬製剤の適用により免疫応答が得られることを示す。セロコンバージョンは、免疫に用いた抗原に対する患者血清(免疫前後)の免疫グロブリンの結合の示差測定法によりアッセイする。患者血清が実際に適用した抗原に特異的な免疫グロブリンを示せば、セロコンバージョンが確認される。
【0050】
免疫療法剤を受け身免疫療法に用いる場合、有効物質の好ましい量は、体内の該免疫療法剤の半減期ならびに最大耐容量および最小有効量に応じて1mg〜1g、好ましくは100mg〜500mgである。受け身免疫療法に適した医薬製剤は、通常、好ましくは静脈内経路による非経口投与に適した製剤を得るために適切な担体または緩衝剤と一緒に製剤化される。
【0051】
受け身免疫のための本発明の免疫療法剤を含む医薬製剤の好ましい投与計画は、有効物質の半減期と患者の要求に応じて1週間〜2月間の間隔での数回の非経口投与を含む。典型的には、注入は治療コースあたり数カ月〜1年間の期間、2〜6週間毎に投与される。例として、患者は最初に第1日に注入を受け、さらに4週間ごとに注入を受ける。好ましくは、初回投与の用量範囲は250mg〜1gであり、すべてのさらなる投与について用量は該免疫療法剤を高レベルの力価に保つために50mg〜250mgであり得る。
【0052】
能動または受け身免疫療法に用いる医薬製剤は冷蔵温度で安定に保存される。しかしながら、チメロサールのような保存料や耐容性を改善する他の薬剤を、室温までの上昇した温度でも長期間保存することができるようにその保存安定性を改善するために用いてよい。本発明の製剤は、オンデマンドで解凍または再構成される凍結または凍結乾燥形で提供することもできよう。
【0053】
好ましい医薬製剤は、医薬的に許容される担体、例えば緩衝剤、塩、タンパク質、または保存料を含む。
【0054】
本発明の免疫療法処置は、常套的癌療法、例えば外科手術、化学療法、および放射線療法を組み合わせて用いることができる。免疫療法は、例えば標準的化学療法の前またはそれと組み合わせて、そして化学療法が終了しているときにも開始してよい。本発明の免疫療法処置は、外科処置の前または後、または外科的介入の過程で手術に際しても行うことができる。
【0055】
図1は、免疫応答が証明されたIV期直腸癌の患者の生存率の増加を示す。生存は患者の免疫応答と関連があった。患者数は18(プラセボ)および28(IGN101)である。x軸に日をとり、y軸に生存パーセントをとる。
【0056】
図2は、プラセボまたはmAb17-1A(IGN101)で処置した患者の幾何平均血清力価(95%信頼区間)を示す。x軸は日数を、y軸は希釈を示す。
【0057】
以下の実施例は本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0058】
複数用量のEpCAM抗体の安全性、耐容性、および免疫原性を評価するための臨床試験
アラムに吸着することによりワクチンとして製剤化したEpCAM抗体(mab17-1A、IGN101)の多回皮下注射のプラセボ(EpCAM抗体不含アジュバント)に対する効果を、生検で確認したIV期転移性直腸癌の患者25名の全体生存性を検討することにより測定した。
【0059】
すべての患者は、第1日(0週)、第15日(第2週)、第29日(第4週)、および第57週(第8週)にEpCAM抗体/プラセボ0.5mlを皮下注射する初回コース、次いでさらに第16、24、32、および40週にEpCAM抗体の注射を受けた。単回ワクチン接種用量は、0.5ml生理学的緩衝液中、ワクチンアジュバントとして水酸化アルミニウムに吸着させた0.5mg mab17-1Aからなった。
【0060】
mab17-1Aの効果は、全体の生存を評価することにより測定した。さらに、遠位転移(IV期患者におけるさらなる転移)の発生までの時間を評価し、腫瘍マーカーを測定した。
【0061】
mab17-1Aの安全性および耐容性は、被検薬剤に関連するあらゆる副作用、被検薬剤に関連する重大な副作用、および被検薬剤に関連する早期中断を観察することにより決定した。安全性評価には、臨床的および実験室的評価(身体検査、生命徴候、血液学、血清化学、尿検査、および副作用)が含まれた。
【0062】
患者血清中のセロコンバージョンの検討は、免疫応答が本発明の能動免疫用の医薬製剤の適用により得られることを示す。セロコンバージョンは、免疫について用いた抗原に対する患者血清(免疫前後)の免疫グロブリンの結合の示差測定法によりアッセイする。この試験では、セロコンバージョンは、各患者の免疫前血清に比べて患者血清の1:1000の力価および応答性の少なくとも5倍の増加により定義する。セロコンバージョンがワクチン接種後2ポイントに達すると患者がセロコンバートしたとみなす。
【0063】
患者血清が実際に適用した抗原に対して特異的な免疫グロブリンを示すと、セロコンバージョンが確認される。
【0064】
EpCAM抗体の免疫原性は、以下のごとくmab17-1Aに対する全液性免疫応答(セロコンバージョンの頻度)により評価した。
【0065】
mab17-1A中のワクチン抗原として用いたマウスモノクローナル抗体を、ELISAマイクロプレートウェルにコートした。患者血清の希釈をこれらのウェル中でインキュベーションする。ヒト免疫グロブリンの結合を、一般的試験プロトコールにしたがって抗ヒト免疫グロブリン-酵素コンジュゲートの反応により検出する。
【0066】
免疫応答対象の生存を生命表法で分析した。非応答対象(プラセボ群を含む)に対する比較をログランク(log-rank)検定により行った。より高病期への推移または転移の付加までの時間を同じ方法で分析した。
【0067】
生存データに従った検定の結果を図1に示す。少なくとも4回免疫/患者があった。プラセボで処置した患者はいかなる免疫応答も示さず(n=28)、EpCAM抗体で少なくとも4回免疫した患者(n=18患者)に比べて低い生存率を示した。生存中央値(日)は、プラセボ比較試験患者で264、mab17-1A処置患者で492(P=0.018(ログランク))であった。1年生存(%):34.4(プラセボ)、70.9(mab17-1A処置)、P= 0.0067(ログランク);6月生存(%):66.7(プラセボ比較試験患者)、100(mab17-1A処置患者)、P=0.001(ログランク)。
【0068】
図2は、プラセボまたはmab17-1Aで処置した患者の幾何平均血清力価(96%信頼区間)を開示する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】免疫応答が証明されたIV期直腸癌の患者の生存率の増加を示す。
【図2】プラセボまたはmAb17-1A(IGN101)で処置した患者の幾何平均血清力価(95%信頼区間)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直腸癌であるか直腸癌のリスクがある患者を免疫療法するための医薬を製造するためのヒト腫瘍関連抗原を標的とする、ワクチン、抗体もしくは誘導体、またはその断片である免疫療法剤の使用。
【請求項2】
該免疫療法剤が動物起源の抗体である請求項1記載の使用。
【請求項3】
該免疫療法剤がハイブリドーマ起源の抗体である請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
該免疫療法剤が組換え起源の抗体である請求項1または2記載の使用。
【請求項5】
該免疫療法剤がモノクローナル抗体である請求項1〜4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
該免疫療法剤がイデオタイプまたは抗イデオタイプ抗体である請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
該ワクチンがTAAのタンパク質もしくはポリペプチドまたは断片である請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
該ワクチンがEpCAMのタンパク質もしくはポリペプチドまたは断片である請求項7記載の使用。
【請求項9】
該免疫療法が受け身免疫療法を用いるものである請求項1〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
該医薬が0.1〜1mgの範囲の用量で投与するための免疫療法剤を含む医薬製剤である請求項9記載の使用。
【請求項11】
該免疫療法が能動免疫を用いるものである請求項1〜8記載の使用。
【請求項12】
該医薬が、0.1〜1mgの範囲の用量で投与するための該免疫療法剤を含む医薬製剤である請求項11記載の使用。
【請求項13】
腫瘍関連抗原の決定基、該抗原の模倣薬(mimic)、例えば抗イデオタイプまたはミモトピック抗体、抗体誘導体または他の抗原の模倣構造である請求項11または12記載の能動免疫。
【請求項14】
腫瘍関連抗原が細胞膜抗原である請求項1〜13のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
腫瘍関連抗原が細胞付着タンパク質である請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
腫瘍関連抗原がペプチド、タンパク質、炭水化物、または糖脂質からなる群から選ばれる請求項1〜15のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
腫瘍関連抗原がCEA、EpCAM、N-CAM、TAG-72、MUC、葉酸結合タンパク質A-33、CA125、HER-2/neu、EGF-レセプター、MARTからなる群から選ばれる請求項1〜16のいずれかに記載の免疫療法剤の使用。
【請求項18】
腫瘍関連抗原がルイス抗原、SialylTn、GloboHからなる群から選ばれる請求項1〜16のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
腫瘍関連抗原がGD2、GD3、およびGM3からなる群から選ばれる請求項1〜16のいずれかに記載の使用。
【請求項20】
該医薬が皮下、皮内、筋肉内注射によるか、静脈内または局所または粘膜適用により投与するのに適している請求項1〜19のいずれかに記載の使用。
【請求項21】
該医薬が少なくともさらにブースター注射により投与される請求項11記載の使用。
【請求項22】
ブースター注射が初期注射後、2-40週間、好ましくは約2、4、8、16、24、32、および40週間の間隔で与えられる請求項21記載の使用。
【請求項23】
さらなる注射が初期注射の2月間、3月間、6月間、および/または12月間後に行われる請求項22記載の使用。
【請求項24】
該注射が初期注射後4週間毎に行われる請求項1または11のいずれかに記載の使用。
【請求項25】
静脈内注入により投与される該免疫療法剤を含む医薬製剤を用いる請求項9または10記載の使用。
【請求項26】
該製剤が反復注入により投与される請求項25記載の使用。
【請求項27】
外科手術、化学療法および/または放射線療法と組み合わせる請求項1〜26のいずれかに記載の使用。
【請求項28】
直腸癌であるかまたは直腸癌のリスクがある患者の免疫療法のための医薬を製造するためのEpCAMを標的とする免疫療法剤の使用。
【請求項29】
患者がIII期またはIV期直腸癌である請求項28記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−529416(P2007−529416A)
【公表日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529904(P2006−529904)
【出願日】平成16年5月24日(2004.5.24)
【国際出願番号】PCT/EP2004/005541
【国際公開番号】WO2004/106379
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(503345732)イゲネーオン・クレープス−イムンテラピー・フォルシュングス−ウント・エントヴィックルングス−アクチェンゲゼルシャフト (3)
【氏名又は名称原語表記】IGENEON KREBS−IMMUNTHERAPIE FORSCHUNGS−UND ENTWICKLUNGS−AG
【Fターム(参考)】