説明

相分離構造を有するシンチレータ結晶体

【課題】X線CT装置のような放射線検出に用いるシンチレータにおいて、クロストーク防止のための隔壁形成を不要とする光導波機能を有する一方向性相分離構造からなるシンチレータ結晶体を提供する。
【解決手段】本発明のシンチレータ結晶体は、一方向性を有する柱状晶をなす第一の結晶相と、第一の結晶相の側面を埋める第二の結晶相とからなる相分離構造体を有し、第一の結晶相と第二の結晶相のいずれか一方が酸化物を含むとともに、他方がフッ化物を含み、酸化物を含む相が放射線で発光することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線により発光を呈する材料であるシンチレータ、および、そのシンチレータを用いた放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場等で用いられているX線CT(Computed Tomography)装置では、被写体を通過したX線をシンチレータで受け、そのシンチレータが発した光を光検出器で検出している。また、それら検出器は2次元アレイとして配置されており、各々のシンチレータは光のクロストークが生じないように隔壁にて分離されている。そして、その隔壁はX線検出に寄与しないことや、空間分解能を劣化させる観点から、可能な限り薄く形成されることが望まれていた。例えば、特許文献1では多数のシンチレータ結晶を接着剤で接合してシンチレータアレイを形成し、その後接着剤をエッチングして、それにより生じた空隙に酸化チタン粉末を隔壁材として充填することが行われている。この場合、隔壁の厚みを1μm程度と薄くできることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−145335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
隔壁を薄く形成できるとしても、その存在をなくすことは出来ない。また、製造工程において、シンチレータのカッティングから隔壁形成のための張り合わせなど多くの手間が掛かるという問題点があった。本発明はかかる問題点を解消すべくなされたものであり、従来、シンチレータそのものに光を導波する機能が無かったために散乱面や反射面となる隔壁が必要であったことを根本的に改善すべく、シンチレータそのものに光導波機能を付与することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のシンチレータ結晶体は、一方向性を有する柱状晶をなす第一の結晶相と、第一の結晶相の側面を埋める第二の結晶相とからなる相分離構造体を有し、第一の結晶相と第二の結晶相のいずれか一方が酸化物を含むとともに、他方がフッ化物を含み、酸化物を含む相が放射線で発光することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の、シンチレータ結晶体は、一方向性を有する2相からなる相分離構造を有しており、結晶体そのものに光を導波する機能を付与することができる。そのため、従来のシンチレータのカッティングから隔壁形成という製造プロセスを不要とし、光検出器上に本発明のシンチレータ結晶体を配するだけで放射線検出器を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のシンチレータ結晶体を表す模式図である。
【図2】本発明のシンチレータ結晶体を作製する装置の一例を表す模式図である。
【図3】本発明のシンチレータ結晶体の透過光学顕微鏡像である。
【図4】組成による相分離構造の違いを示す図である。
【図5】ZnO-ZnF2系の平衡状態を示す模式図である。
【図6】本発明の放射線検出器の概要を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面等を用いて本発明を実施するための形態を説明する。尚、本発明を実施するための形態としては、様々な形態(様々な構成や、様々な材料)があるが、全ての実施形態に共通することは、2つの結晶相を有し、一方の結晶相と、一方の結晶相よりも屈折率が大きい他方の結晶相との2相を備える相分離構造を有するシンチレータ結晶体が、互いに同一面上に位置しない第一の主面と第二の主面とに他方の結晶相が露出する部分を有し、 他方の結晶相の第一の主面に露出する部分と第二の主面に露出する部分とがつながっていることである。これによって、高屈折率の結晶相内の光は、高屈折率相の周りに位置する低屈折率の結晶相によって全反射され、結果、高屈折率結晶内を導波されながら進む。その際、高屈折率の結晶相は、第一の主面と第二の主面とに露出するとともに、この露出部がつながっているため、導波(光ガイディング)は、第一の主面または第二の主面に向けて行われる。これらは換言すると、シンチレータ結晶体内で生じた光は、より屈折率の大きい他方の結晶相内に閉じ込められながら(つまり光が広がることなく)、第一の主面または第二の主面に向けて進行するといえる。このようにして、本発明の全ての実施形態は、シンチレータ結晶体自体が、導波機能(光ガイディング機能)を有する。尚、ここで、例えば第一の主面61とは、光検出器64に対向する面であり、第二の主面62とは、X線等の放射線が入射する面である(図6参照)。これによって、シンチレータ結晶体65で発生した光を光検出器64に向けて導波(光ガイディング)することが可能となり、光の利用効率の優れたシンチレータ結晶体の提供と、これを用いた、高輝度、高解像度の放射線検出器の提供が可能となる。なお、符号63は基板を表す。
【0009】
尚、以下に説明する各実施形態においては、低屈折率相である一方の結晶相も、第一の主面と第二の主面とに露出する部分を有し、これら露出部がつながっている構成が好ましい。これによって、高屈折率相である他方の結晶相内の光を、より確実に、第一の主面または第二の主面に、広がることなく導波(光ガイディング)することが可能となる。
【0010】
また、低屈折率相である一方の結晶相が、高屈折率相である他方の結晶相中に位置している構成が好ましい。これによって、シンチレータ結晶体における低屈折率相である一方の結晶相が占める割合を抑えながら、十分な導波機能(光ガイディング機能)を得ることができる。
【0011】
[シンチレータ結晶体の構成]
図1に本発明のシンチレータ結晶体の模式的構造を示す。
本発明の相分離構造を有するシンチレータ結晶体は、一方向性を有する多数の柱状晶をなす第一の結晶相11と、第一の結晶相11の側面を埋める第二の結晶相12の2相から構成されている。第一の結晶相11を構成する柱状晶の形状は円形に限らず、複数の結晶面から構成され、多角形であってもよい。また、柱状晶の直径13は、50nm以上30μm以下の範囲であることが好ましい。さらに近接する柱状結晶間の周期14は、500nm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。ただし、本発明のシンチレータ結晶体と検出器または検出器アレイとを組み合わせた場合、光検出器の受光部領域上に多数の柱状晶が配置されるような構造サイズを有したものを組み合わせることが好ましい。例えば、受光領域が正方形で一辺が20μmであった場合、柱状晶の直径で5μm、周期で8μmというような構造サイズを有しているなどである。従って、受光領域のサイズに合わせて、上記構造サイズの範囲にとらわれず、構造サイズの小さいものを組み合わせることが好ましい。また、構造体のサイズの範囲は、材料系の選択と製造時の条件で決定されるものであり、傾向については後述する。
【0012】
さらに、シンチレータ結晶体の厚み15に関しては、製法にも依存するが、任意の厚みに調整することが可能である。実質的には、柱状晶の厚み方向16に渡って真っ直ぐ続いていることが好ましいが、途中で途切れたり、枝分かれや融合が生じたり、直径が揺らいだり、一直線でなく曲がったりした部分が含まれている場合などを排除するものではない。凝固界面の方向を適宜制御することで、あえて柱状晶を曲げることも可能である。図1はあくまでも模式図であり、これにとらわれるものではない。
【0013】
第一の結晶相と第二の結晶相のいずれかが酸化物で、他方がフッ化物で構成されていることが好ましい。これは、フッ化物は酸化物に対して相対的に低屈折率を有し、酸化物がシンチレータとして機能する場合に、屈折率比(低屈折率/高屈折率)が小さくなり、光導波の観点で最も好ましい構成が得られるからである。酸化物の屈折率は1.65以上のものが主で、フッ化物は1.65未満のものが主である。
【0014】
酸化物としては、シンチレータとして機能するものであれば、いずれも適用可能である。また、フッ化物に関しては、酸化物との組み合わせにおいて共晶関係にあるものが適用可能である。特に、酸化物シンチレータとしては、Gd2SiO5, Gd2Si2O7, Lu2SiO5, Lu2Si2O7, Y2SiO5, Y2Si2O7, (Lu,Y)2SiO5, Bi4Si3O12, Bi4Ge3O12, LuAlO3, YAlO3, GdAlO3, Y3Al5O12, Lu3Al5O12, Lu3Al5O12, Y3Ga5O12, Gd3Al3Ga2O12, Gd3Sc2Al3O12, Lu3Al5Sc5O12, CdWO4, ZnWO4, PbWO4, CaWO4, SrWO4, BaWO4, GdBO3, LuBO3, YBO3, LaB3O6, Li6Gd(BO3)3, Li6Y(BO3)3, Lu2O3, KLuP2O7, KYP2O7, NaLuP2O7, LuPO4, NaGd(PO3)4, SrHfO3, La2HfO7, ZnOなどを利用することが好ましい。また、シンチレータの特性を向上させる目的で、適宜発光中心を添加することも好ましい。多くの酸化物では希土類のCe,Prなどが添加される場合が多いが、本発明の相分離構造を作製する上で、微量の発光中心は影響を与えないので、どのような元素でも添加可能である。また、フッ化物としては、LiF, NaF, KF, RbF, CsF, MgF2, CaF2, SrF2, BaF2, ZnF2, CdF2, PbF2, AlF3, BiF3, ScF3, YF3, LaF3, CeF3, PrF3, NdF3, SmF3, GdF3, TbF3, YbF3, LuF3などを利用することが好ましい。共晶関係の組み合わせで、共晶組成における混合物から一方向凝固することで、本発明所望の相分離構造体を得ることが可能である。
【0015】
たとえば、ZnOとZnF2の組み合わせでは、共晶組成が25:75mol%であり、共晶温度が約857℃という具合である。これらの値は、我々がDTA(Differential Thermal Analysis)等にて鋭意検討した結果である。図1に示す模式図のような良好な分離構造を得るためには、概ね上記共晶組成で作製することが好ましい。この組成は共晶点に対応している。ただし、上記組成から全く外れてはいけないものではなく、その組成に対して±4mol%の範囲は許容範囲とすることが好ましい。より好ましくは、±2mol%である。これらの組成近傍の範囲を限定する要因は、構造形成において各相間が共晶関係にあり、共晶組成近傍では一方向性凝固を行うことで、図1のような良質な構造体を得ることができるからである。その他の組成範囲、つまり4mol%以上逸脱している場合では、一方の相が先に析出し、構造形成の観点からは構造を乱す要因となる。また、記載の共晶温度に関しても同様に、測定誤差等があるため上記温度付近であることを示しており、限定するものではない。
【0016】
第一と第二の結晶相には上記以外の材料が添加されてもよく、特に、第一の結晶相11を構成する材料に添加するのは、添加組成において第一の結晶相11に固溶し、かつ第二の結晶相12には固溶しない材料であることが好ましい。さらに、第二の結晶相12を構成する材料に添加するのは、添加組成において第一の結晶相11に固溶せず、かつ第二の結晶相12に固溶する材料であることが好ましい。構造形成に支障がなければ双方に固溶する材料を添加してもよい。次に述べる発光中心のような極微量の添加ではなく、1mol%以上添加するような場合は、格子定数の制御やバンドギャップの制御、さらに発光色の制御などを目的とする。
【0017】
本発明の一例のZnO-ZnF2の相分離構造において、シンチレータ材料であるZnOは第一の結晶相を構成し柱状となり、ZnF2は第二の結晶相を構成し、ZnOの周辺を囲うように位置する。この構造に放射線を照射することによってZnOは励起され、発光させることが可能となる。また、ZnO-ZnF2系のように第一の結晶相が高屈折率の場合のみならず、逆に第二の結晶相が高屈折率となることも好ましい。さらに、少なくとも一方の結晶相が発光することが好ましいが、双方が発光しても構わない。ただし、低屈折率側の発光は導波の観点では利点を有しないので、使い方によっては発光しない方が好ましい。さらに、低屈折率側の発光が高屈折率側を励起し、高屈折率側が再度発光を呈するような状況を作り出すことはもっとも好ましい。たとえば、ZnF2にGdが添加されている場合には、紫外発光を示し、それがZnOの励起帯に一致するため、上述のような状況を達成することが可能である。こうして双方の材料が放射線吸収に寄与する上、導波は高屈折率側のみが担うということで、高受光量と高分解能との両立が可能である。
【0018】
本発明の一方向性を有するシンチレータの重要な特性として、光を導波するということが挙げられる。上記のZnO-ZnF2材料系について、その屈折率は、ZnOの2.0に対して、ZnF2は1.5である。屈折率比は、0.75で十分1よりも小さいので、効果的に光が導波される。ただし、屈折率は波長依存性や添加物による変化などがあるため厳密なものではなく、構成材料間に屈折率の比が1でないことが重要である。
【0019】
スネルの法則によれば、高屈折率側の発光は低屈折率側との界面である臨界角以上で全反射が生じ、それより狭い角度では反射と屈折が生じているはずである。したがって、本発明のシンチレータ結晶体は、高屈折率媒質において全反射により光が広がらない状況があるということを示している。つまり屈折や反射を繰り返し、高屈折率媒質の方が比較的光を閉じ込めて伝播することになる。
【0020】
このように、本発明のシンチレータ結晶体は、柱状晶と平行方向で光を導波し、垂直方向で散乱や反射等により導波しない特性が備わっているのが特徴である。よって、従来のように単結晶群に隔壁を設けることなく、光のクロストークを押さえることができる。
【0021】
[シンチレータ結晶体の製造]
本発明のシンチレータ結晶体の作製は、所望の材料系を最適組成にて一方向性を持たせて熔融凝固する方法であればいずれの方法でも可能である。特に、固液界面を平らにするよう温度勾配を制御することが要求され、30℃/mm程度またはそれ以上の温度勾配が必要である。
【0022】
図2に示すように、シンチレータ結晶体を作成する装置におけるブリッジマン法では、白金管等に封じた試料を縦型に配置し、ヒーターまたは試料を一定速度で移動させることにより、凝固界面の位置を制御できるので、本発明のシンチレータ結晶体を作製することが可能である。特に、装置は図2(A)のように試料23の長さに匹敵するヒーター部21と固液界面の30℃/mmを実現するための水冷部22から構成される。また、図2(B)のように水冷部22が上下にあり、ヒーター部21が試料23の一部の領域にしか対応していない場合でも構わない。さらに、同等の手段を講じる製法でもよい。
【0023】
また、チョクラルスキー法のように、融液からの結晶引上げでも同様にシンチレータ結晶体を作製可能である。この場合は、ブリッジマン法における試料容器内での凝固ではないために、容器壁面の影響を受けずに固液界面を形成できる点でより好ましいとも言える。さらに、フローティングゾーン法でも作製可能である。
【0024】
特にブリッジマン法においては、凝固速度は試料の固液界面がなるべく平面になるように設定されなければならないが、熱のやり取りが試料側面からが主であるので、試料の直径に依存する。つまり、試料の直径が大きければ熱の出入りに時間がかかり、凝固速度を低速にしなければ、固液界面はかなり湾曲し、試料のほとんどの領域で第一の結晶相11である柱状晶が曲がって形成されることになる。これは、柱状晶の成長方向が固液界面にほぼ垂直となるからである。さらに、試料サイズに対して凝固速度がより速い場合には、固液界面が平坦でないだけでなく平滑に保つことができず、ミクロに起伏が生じて樹枝状結晶の発生を伴う状況に至るので、これも避けることが重要である。従って、十分固液界面の温度勾配をとると同時に850mm/時以下で行うことが好ましい。より好ましくは、500mm/時以下であり、さらには300mm/時以下である。
【0025】
また、シンチレータ結晶体の第一の結晶相11の直径やその周期は、凝固速度に依存し、特に柱状晶の周期に関しては次式の相関がある。周期をλとし、凝固速度をvとすれば、λ2・v=一定である。したがって、所望の構造周期があれば、必然的に凝固速度が大まかに制限される関係である。逆に、製法上の制限として、固液界面を平面かつ平滑に制御できる凝固速度があるため、周期λの範囲は500nm以上50μm以下の範囲となる。また、それに対応して柱状晶の直径も50nm以上30μm以下の範囲となる。
【0026】
ここで、柱状晶の直径とは円形で無い場合もあり、不定形であれば最短直径が上記範囲に含まれる。また、多数の柱状晶の平均値で、最長直径と最短直径の比が10以下であることが好ましい。この比以上では、ラメラ構造とするのが適切である。しかし、柱状晶の中で幾つかの柱状晶のみが10以上の値を有したとしても、平均値が下回っていれば許容範囲である。また、作製条件上、2相の材料系のモル比率が1:1に近いほどラメラ構造を採りやすいため、ラメラ構造を構成しないよう、作製条件や添加材料を選択することが好ましい。
【0027】
最後に、作製する試料の原材料の仕込み組成について述べる。上記のシンチレータ結晶体の組成比率は、一例としてZnOとZnF2の組み合わせで25:75mol%であるが、仕込み組成に関しては±4mol%以上に逸脱していても構わない。つまり、ブリッジマン法の場合は試料全体を熔融した状態から一方向に凝固させるようにすれば、凝固初期に共晶組成から逸脱している分の材料が先に析出することになり、残された融液が共晶組成となるからである。また、チョクラルスキー法では、引上げ初期に共晶組成からの逸脱分が引きあがるため、一度ダミーで引き上げて融液が共晶組成になってから再度引き上げることも好ましい。結晶体作製後に不要部分は切り離せばよい。
【0028】
[シンチレータ結晶体の利用]
本発明のシンチレータ結晶体は、光検出器と組み合わせることで医療用・産業用・高エネルギー物理用・宇宙用の放射線検出器として用いることが可能である。特に、隔壁等を設けずとも光の導波機能を有しているために、検出器に向けて特定の方向に光を導波する必要がある状況に適用することが好ましい。また、隔壁形成が必要なX線CT装置での使用や、X線フラットパネルディテクタ(FPD)のCsI針状結晶の代替においても有効である。この場合、検出器の受光感度特性に適合するように、シンチレータの発光波長を母材への多材料を添加したり、発光中心の添加を通して調整することも可能である。
【0029】
さらに、本発明のシンチレータ結晶体は、光検出器上に直接設ける以外に、1層以上の保護層や反射防止等の機能を有した膜や層を介して、接合または配置することも好ましい。
【実施例】
【0030】
[実施例1]
本実施例は、本発明のシンチレータ結晶体の作製に関する。
【0031】
酸化物としてZnOを、フッ化物としてZnF2を選択する。
【0032】
ZnOとZnF2の粉末を共晶組成である25:75(mol比)で混合した。内径φ5mmの白金管に充填し、図2に示す装置にて、局所加熱し、管を下方へ移動させ、一方向凝固を行った。加熱部の温度は約865℃となるようにした。このようにして作製した試料を切り出し、光学顕微鏡にて構造観察を行った。その結果、図3に示すように凝固方向に垂直面の構造において、柱状晶のZnOと、その周囲を囲うZnF2という所望の構造が得られていることが確認できた。また、放射線励起により、得られた結晶体が390nm近傍にピークを有する発光を呈することも確認できた。これはZnO固有の発光と同じ波長域であることから、結晶体中のZnO柱状晶が発光していることが明らかである。
【0033】
[実施例2]
本実施例は、本発明のシンチレータ結晶体の組成に関する。
本発明のシンチレータ結晶体の組成に関して、図5に示す状態図の矢印が示すZnO-ZnF2(25mol%)の系とZnO-ZnF2(23mol%)、ZnO-ZnF2(10mol%)の3種類の試料を、図2(A)に示す実施例1と同様の装置にて作製した場合と、図2(B)に示すようにヒーター部分が狭く局所的に熔融させて作製する場合のものを合計6種類準備した。
【0034】
実施例1と同様に初期に試料全体を融解してから凝固が開始される場合においては、いずれの組成の試料においても、図4(A)の光学顕微鏡画像にあるような良好な構造を有するものが得られることが判明した。ただし、ZnO-ZnF2(10mol%)の場合には、試料の凝固初期領域に図4(B)のようなZnF2の樹枝状結晶の析出を伴う結晶が形成されており、その後には図4(A)のような良好な領域が形成されていることが見られた。その他のZnO-ZnF2(25mol%)やZnO-ZnF2(23mol%)の場合では、10mol%の時のような試料の凝固初期領域が明確に形成されてはおらず、大きな差は見られなかった。ただ、2mol%という組成の違いによる差は、原料の不純物等の影響もあるため、全く差がないということではない。このように、試料全体を融解した場合は、試料の凝固初期領域に共晶組成から逸脱した材料が共晶温度よりも高温で析出するために、残された融液部分が共晶組成となり、それ以降良好な構造形成がなされると考えられる。
【0035】
また、図2(B)のように試料の局所領域のみ融解しながら凝固した場合では、ZnO-ZnF2(10mol%)の系で試料のいずれの場所でも図4(B)のようにZnF2の樹枝状結晶が存在しており、その隙間には一部ZnOの柱状晶が形成されているが、目的とする構造とは言えない。ただし、ZnO-ZnF2(25mol%)やZnO-ZnF2(23mol%)の場合では、図4(A)のようにZnOの柱状晶が全体に渡って形成されており、良好な試料を得ることができる。ただし、不純物等の影響もあるが、ZnO-ZnF2(25mol%)の場合に比べて、ZnO-ZnF2(23mol%)の試料の方が構造の乱れが多いように見受けられる。したがって、局所的に融解して凝固する場合には、全体を融解した場合に生じる試料内での最適組成に向かうプロセスを経ることができず、組成と構造が敏感に影響しあっていることが分かる。
【0036】
よって、本発明のシンチレータ結晶体は、2mol%程度の僅かな組成の揺らぎは構造形成に大きく悪影響を与えないが、15mol%という大きなずれは構造形成に影響を及ぼすので最適組成は共晶組成近傍であるということは明らかである。また、製法上試料全体を融解してから凝固を制御すれば、組成が逸脱していたとしても、試料の凝固初期領域に逸脱分の材料が優先的に析出し、残された共晶組成の融液から良好な領域を得ることができることが判明したことは重要である。
【0037】
[実施例3]
本実施例は、本発明のシンチレータ結晶体の光導波に関する。
実施例1で作製された試料片の透過光学顕微鏡による観察結果を図3に示す。明らかに、ZnOの柱状晶が最も明るく見えていることから、高屈折率であるZnO側を光が導波してきていることが分かる。ただし、図3の画像では試料への光の入射具合により、ZnO柱状晶への入射条件が整わない場合には、間欠的に暗く見えることがある。このことは試料への光の入射条件が関係しており、放射線で励起され内部で発せられる光にはそのような制約を与えないため、導波上全く問題にならない。
よって、本発明のシンチレータ結晶体は、確実に柱状晶方向にのみ導波する特性を有していることが示された。
【0038】
[実施例4]
本実施例は、本発明のシンチレータ結晶体を用いた放射線検出に関する。
厚み1mmに切り出したシンチレータ結晶体を光検出器の上に配置して、X線を照射した場合、隔壁の無い単結晶体に照射した場合には結晶面内に光が拡散伝播していくのに対して、広がりが抑制されていることが検出器の出力より確認できる。
さらに、シンチレータ結晶体と光検出器の接合において、1層以上の保護相として、樹脂にて空間が空かないように接続した場合は、検出器の出力が増すことが確認され、結晶体から検出器部への光の取り出しを考慮した層構成を採ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のシンチレータ結晶体は、放射線により発光し、かつ、発光した光を導波する特性を有しているため、従来の隔壁を形成することなく、光検出器と組み合わせて用いることで放射線検出器として有用である。特に、X線等の放射線を用いた医療用・産業用・高エネルギー物理用・宇宙用の計測装置等に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0040】
11 第一の結晶相
12 第二の結晶相
13 柱状晶の直径
14 近接柱状晶間の周期
15 シンチレータ結晶体の厚み
16 柱状晶の厚み方向
21 ヒーター部
22 水冷部
23 試料
61 第一の主面
62 第二の主面
63 基板
64 光検出器
65 シンチレータ結晶体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向性を有する柱状晶をなす第一の結晶相と、第一の結晶相の側面を埋める第二の結晶相とからなる相分離構造体を有し、前記第一の結晶相と前記第二の結晶相のいずれか一方が酸化物を含むとともに、他方がフッ化物を含み、酸化物を含む相が放射線で発光することを特徴とするシンチレータ結晶体。
【請求項2】
シンチレータ結晶体を構成する組成は、共晶点における組成であることを特徴とする、請求項1に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項3】
酸化物がZnOであることを特徴とする、請求項1または2に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項4】
フッ化物がZnF2であることを特徴とする、請求項3に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体を、直接または1層以上の保護層を介して光検出器上に配置したことを特徴とする放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−28671(P2013−28671A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164317(P2011−164317)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】