説明

相対像面湾曲と周辺軸外焦点の配置を変えるための方法および装置

中心軸上焦点を網膜上に維持しながら中心軸上焦点に対する周辺軸外焦点を配置し直すための少なくとも1つの実質的に矯正力を有する刺激を生成する所定の矯正ファクタから成る眼用装置、システムおよび方法を提供することによって光学収差をコントロールして相対像面湾曲を変更するための方法および装置が開示される。本発明は継続的で有用で鮮明な視像を提供すると同時に近視または遠視の進行を遅延または緩和するために用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸外(周辺)収差をコントロールし、それにより視像の像面湾曲を操作すると同時に鮮明な中心結像を実現することによって、個人おける近視(近眼)の進行を遅らせるかまたは止めるための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近視(近眼)の有病率が急速に増大している。調査によれば、例えば、台湾人の7歳児における近視(−0.25D以上)の発症率は劇的に上昇し(1986年から2000年にかけて4%から16%へ)、台湾人の16歳から18歳までの学齢期の子供における近視(−0.25D以上)の有病率は84%にのぼる。中華人民共和国における人口ベースの調査によれば、15歳の少年少女のうち、55%の少女と37%の少年が強度の近視(−1.00D以上)を患っている。
【0003】
調査によれば、重度の近視(−6.00D以上)を持つ人の50%が何らかの形の網膜疾患を罹っている。近視は網膜剥離、(近視のレベルに応じて)、後極白内障および緑内障のリスクを大きく高める。近視の光学的視覚的潜在的な病理学的影響とその結果的な不都合と個人およびコミュニティに対するコストを鑑みれば、(発症後は)近視の進行を遅らせたり、(発症前は)近視の発症を防止したりもしくは遅らせたり、あるいは子供および若年成人(十代後半)の双方に発生する近視度を制限するための効果的な戦略を持つことが望ましい。
【0004】
従って、世界人口のかなりのパーセンテージが、鮮明に見るために何らかの形の光学的矯正を必要とするレベルの近視にかかっている。近視は発症年齢に関係なく進行する傾向があることも知られており、近視が進むにつれ、より強い矯正が必要になる。これらの矯正は、メガネ、コンタクトレンズおよび屈折矯正手術を含む広範囲の装置を通じて利用可能である。しかしながら、これらの矯正は近視の進行を遅らせたりまたは止めたりするのにほとんど役立たず、そしてほぼ間違いなく、少なくとも一部の調査から得られた所見によれば、実際には近視の進行を逆に加速する可能性がある。
【0005】
誕生時に起こる(しばしば“先天性近視”と呼ばれる)第1のタイプの近視は通常は重度で、次第に悪化する。第2のタイプ(ときとして“若年性近視”または“学校近視”と呼ばれる)は5歳乃至10歳の子供のときに始まり、成人期まであるいはそれ以後も進行する。第3の“タイプ”の近視(“成人近視”と呼ばれる)は青年期もしくは十代後半(16歳乃至19歳)に始まり、成人期で増大し、あるときは安定化し、またあるときは増大し続ける。
【0006】
アトロピン(atropine)(これは通常、調整能(accommodation)を麻痺させるために用いられる)やピレンゼピン(pirezepine)といった抗ムスカリン様作用薬による薬理学的介入を含む近視を防止または遅らせるための戦略が提案されている。しかしながら、斯かる薬物を長期服用すると当該モダリティ(modalities)の効き目が疑わしくなるという不都合が生じる可能がある。
【0007】
初期発育段階において両眼は一般的に理想的な光学状態に向かってかなり調整された仕方(“正視化(emmetropization)”と呼ばれるプロセス)で成長することが知られている。近視の発症を防止する、または近視の進行を遅らせるための光学的介入の観点から、鳥類から高度な霊長類までの様々な脊椎動物において得られた3つの基本的な観察結果は、視覚フィードバックによって正視化プロセスが能動的に規制されることを実証している。
【0008】
第1に、鮮明な網膜像の形成を妨げる条件または実験的な操作により、眼は異常に長く成長し(“軸方向伸長(axial elongation)”と呼ばれる)、近視または近眼になる。この現象は“フォームデプリベーション近視(form-deprivation myopia)”と呼ばれる。
【0009】
第2に、フォームデプリベーション近視を患っている眼が次に(制約のない)自由な視力が許される場合、その眼は既存の屈折異常をなくすように成長する。この回復は、近視異常をメガネレンズで光学的に矯正することは回復を妨げるので、眼の実効屈折異常に関連する視覚フィードバックを必要とする。
【0010】
第3に、メガネレンズを用いて正常な眼(近視眼でも遠視眼でもない“正視眼”)に屈折異常を課すと、メガネレンズを通して見ることによって引き起こされた屈折異常を消す眼の補償成長が引き起こされる。この現象を“レンズ補償(lens compensation)”と呼ぶ。近視または遠視(老眼)はそれぞれ負の度数のメガネレンズまたは正の度数のメガネレンズを装着させることによって高等な霊長類を含む様々な動物モデルで引き起こすことが可能である。例えば、像が負の度数のメガネレンズを使用して網膜の後方(背後)の位置に配置された場合、近視が引き起こされる。この近視の進行は軸方向伸長(眼球の“伸長”をもたらす成長)によって引き起こされる。
【0011】
正視化を担う機構は、網膜像をモニタし、軸方向の成長率を屈折異常をなくすように調節する。すなわち、眼は光学的デフォーカスを利用して眼の成長を理想的な光学状態へと導く。
【0012】
完全に理解されていない理由から、正視化のプロセスは人によっては不首尾に終わって、近視のような一般的な屈折異常という結果をもたらす。動物モデルを利用する研究によって強く主張されるところによれば、光学デフォーカスはこのプロセスで一定の役割を果たすことができる。これまでのところ、中心視力のために眼の有効フォーカスを操作した近視の治療戦略(例えば二重焦点)は近視を防止するかまたは近視の進行を遅らせるのに限定的な成功しか収めていない。
【0013】
例えば、二重焦点もしくは累進メガネレンズまたは二重焦点コンタクトレンズは長らく近視の進行を遅らせるための可能性のある戦力と見なされてきた。しかしながら、それらの効果についての研究は限定された効果しか示していない。二重焦点メガネレンズの場合、装着者には、常に近見作業のための近用追加部分を通して見るという従順さは保証できない。これまで用いられてきた二重焦点コンタクトレンズは同時視野二十焦点型である。斯かるコンタクトレンズは全体の網膜像品質を劣化させ、装着者にとって望ましくない光輪(haloes)、グレア(glare)およびゴーストといった望ましくない視覚上の問題を生み出すことが知られている。
【0014】
更なる研究が示しているところによれば、近視誘発性刺激の中断は、比較的短い期間であっても、斯かる刺激の近視誘発効果を抑制し、あるいは無くすことさえある。それが暗に意味することは、近視者が一日の或る特定の時間だけ近視抑制装置を使用することを止める(例えば作業後と就寝前に取り外す)“日常装着(daily-wear)”アプローチは有効でない場合があり、その効果には妥協が生じざるを得ないだろう。
【0015】
個人における近視の進行を遅らせるための別の光学的な方法は“過小矯正(under-correciion)”法である。過小矯正法では装着者にはクリアな視力に必要な完全な処方屈折度数に満たない矯正具(例えばメガネまたはコンタクトレンズ)が処方される。例えば、−4.00Dの近視者には処方してもなお−0.50Dの近視が残る−3.50Dのメガネ(眼鏡)だけが処方されることがある。それ故、この方法は何らかの方法で中心窩視像(クリティカルビジョン(critical vision)、例えば視力(visual acuity)に最も重要なエリア)がぼやけること、または劣化することを暗黙のうちに要求するものである。装着者は視機能が常に劣化している状態に置かれることから、これは装置の有用性を大きく損ねるものである(例えば、視力が法定視力に満たなくなるせいで装着者が運転することを妨げてしまう)。さらに、過小矯正アプローチは個人によっては近視の進行を加速することさえあることを示す証拠が存在する。
【0016】
近視の進行を緩和し、遅らせ、最終的に逆行(好転)させるための手段は、近視に悩む数百万の人々にとって非常に大きな利益を与えるだけでなく、一般個人、医療従事者、医療提供者、および政府(機関)にかかるコストも減らすことにもなる。
【発明の開示】
【0017】
これまでのところ、中心視力を与えるために眼の有効な焦点(フォーカス)を操作した近視に対する治療戦略(例えば二重焦点)は、近視の進行を阻止するかまたは遅らせるのに限定的な成功しか収めていない。近視を防止し、近視の進行を抑制するこれらの以前の努力は、眼の成長は中心視力に関連する視覚フィードバックによって支配されるということ、そして更に暗黙のうちに、網膜の中心(眼の中心窩)にある視覚依存機構は屈折力の発達(refractive development)をコントロールすることを暗に仮定していた。実際、本発明に関連してここに報告された発見を踏まえて、像面湾曲をコントロールしない従来の装置は、近視に寄与し、あるいは近視を引き起こす可能性さえあり、それ故に少なくとも不都合であり、近視の進行の点で潜在的に有害である。
【0018】
本発明は、視像の像面湾曲を所定のやり方で操作し、最終的には眼の軸方向伸長を変更し、抑制し、または止めることを通じて、軸外収差をコントロールすることによって個人における近視または遠視の進行を緩和し、遅らせ、または止めるための方法を提供する。
【0019】
本発明は、周辺網膜像(つまり周辺視力)が全体的な目の長さを決定することにおいて主要な役割を果たし、軸方向伸長、従って眼のサイズの全体的な増大と近視を結果的にもたらす周辺的かつ全体的な眼の成長を促進する有効な刺激であることを実証する我々の実験から得られた新しい教訓に基づいている。
【0020】
本発明は、眼の成長を緩和し、遅らせ、または止める所定の軸外収差がコントロールされた設計がなされた新規の光学装置を利用して、近視の進行を遅らせる(多くの場合、停止もしくは逆行させる)ことができる方法も提供する。
【0021】
さらに、本発明によれば、近視の進行は、中心視像位置が中心網膜(つまり中心窩)近くに配置されるながら、通常は未矯正状態にある場合よりも、あるいは従来の矯正装置もしくは対策を使っている場合よりも、視像が周辺網膜のより前方に(つまり角膜に向かって、または眼の前面に向かって)配置された周辺視像位置を持つような、軸外光学的矯正ファクタ(off-axis optical corrective factors)、または矯正装置の収差、または眼と矯正装置の組み合わせの複合軸外光学収差の正確な所定のコントロールによって修正される。この構成は近視につながる眼の軸方向伸長に対する刺激を最小化するかまたは取り去る。本発明の装置は中心視野のデフォーカシング(例えば、過小矯正法、または二重焦点もしくは累進光学装置によって引き起こされる)を引き起こさないので、本発明の装置は装着者に良好な視力を与える。こうして、本発明は屈折異常の進行を遅らせ、それと実質的に同時に装着者にとって鮮明で有用なクリティカルビジョン(critical vision)を維持するという利益をもたらす。
【0022】
説明を明確にするために、本発明においては、“〜の前方に”という表現が或るポイントが角膜から網膜に向かって測った距離に関して比較対象の点よりも(角膜から)近い距離のところに位置するという位置的な概念を反映するのに対し、“〜の後方に”という表現が或るポイントが角膜から網膜に向かって測った距離に関して比較対象の点よりも(角膜から)遠い距離のところに位置するという位置的な概念を反映する。
【0023】
近視を治療するための本発明による収差コントロール方法は、例えばメガネ(眼鏡)、コンタクトレンズ、角膜インプラント(例えばオンレー(on-lays)、インレー(in-lays))、前眼房レンズ(anterior chamber lenses)、および眼内レンズ(IOL:intra-ocular lenses)のほか、角膜矯正療法(orthokeratology、オルソケラトロジー)(これは特定の設計のコンタクトレンズを短期間装着することによって角膜および上皮をリモデリング(形を作り直すこと)することを通して眼の屈折状態を一時的に変えるためのコンタクトレンズを用いる特殊な方法である)を含む任意の角膜もしくは上皮のスカルプティングまたはリモデリングと、任意の屈折矯正手術(例えば、表層角膜移植術(epikeratophakia)、角膜熱形成術(thermokeratoplasty)、LASIK、PRK、LASEK)を、個別に、または組み合わせで用いることによって実施することができる。
【0024】
好ましくは、本発明の方法および装置は、眼の凝視方向に関係なく、眼と実質的に同軸の状態のままであり続ける(つまり、眼と軸方向にアライメントされた状態を維持する、または眼と中心合わせ(centration)を維持する)ことができるモダリティ(modality)(例えば角膜矯正療法、屈折矯正手術、角膜インプラント、コンタクトレンズおよび眼内レンズなど)において実施される。このようにして、像面湾曲の正確な所定の操作をもたらす周辺収差の正確なコントロールは眼の動きに関係なく維持することができる。
【0025】
同様に好ましくは、本発明の装置は、より大きな自由度と効果で、周辺収差を操作することができるように眼の節点から離して置かれる、近視のコントロールに適した装置である。斯かる装置としては、メガネ、角膜矯正療法モダリティと角膜インプラントで使用されるコンタクトレンズがある。
【0026】
同じく好ましくは、本発明の方法および装置は、目を開けている全機会に利用できるように、実質的に比較的継続的に眼に提供することができるモダリティ(modality)(例えば、連続装用コンタクトレンズ(ソフト、RGP(酸素透過性ハードレンズ)、強角膜レンズなど)、角膜矯正療法、角膜屈折矯正手術、角膜インプラント、前眼房レンズ、眼内レンズなど)において実施される。実質的に連続的に視覚刺激を与え続けることで、介入なしに、近視治療の最大効果が得られる。
【0027】
同じく好ましくは、本発明は、度数と周辺収差プロファイルの変更(装着者の近視の度数が変化したときに必要とされる)が侵襲的眼内手術を繰り返し行う必要なく容易に行えるという理由から、メガネ、コンタクトレンズ(例えばソフトコンタクトレンズ、RGP、強角膜レンズ)、角膜矯正療法または角膜オンレーモダリティにおいて実施される。
【0028】
メガネ、コンタクトレンズまたは角膜矯正療法(orthokeratology)の場合には、新しいレンズを容易に処方することが可能である。
【0029】
オンレー(on-lays)に関しては、上皮が廃棄され、既存のオンレーが取り除かれ、新しいオンレーが所定の場所に貼られ、上皮はその上に再成長することが許される。
【0030】
本発明は特に長時間装用または連続装用コンタクトレンズモダリティ、角膜矯正術モダリティ、または角膜オンレーモダリティでの使用に適しており、従って近視を遅らせるための実質的に継続的な刺激を与えることができる。
【0031】
一般的に、長時間装着用または連続装着用コンタクトレンズ(例えばソフトまたはRGPレンズ)は、就寝中も眼にレンズを装着したたままで、瞼が閉じられ大気中の酸素が利用できないにもかかわらず、瞼結膜から角膜に十分な酸素が供給され続け、眼の健康を保ち続けられるように、十分な酸素透過性その他の特性を備えている。
【0032】
角膜矯正療法(orthokeratology)では、コンタクトレンズ(これも長時間または夜間装着に適した高い酸素透過性を持つことが好ましい)は上皮および角膜がリモデリングされるように短期間(例えば就寝時間)の間だけ装着することができる。その後、コンタクトは取り除くことができ、本発明によれば角膜矯正療法の効果が続く間はコンタクトレンズを装着することなく所望の屈折状態および光学収差状態が患者にもたらされる。
【0033】
本発明は近視を遅らせたりあるいは近視を削減するための多くの方法で実現することが可能である。原理的に、光学的視力矯正装置は中心視力を矯正するために必要な度数の屈折力で、それに処方量の適切な軸外もしくは周辺収差、特に相対像面湾曲が組み込まれた形で設計される。適切な屈折力と一緒に導入された、この軸外周辺収差または相対像面湾曲は、既存の眼球収差との組み合わせで、周辺視野における視像が周辺網膜の対応する位置よりも前方に配置され、それと同時に中心視像が中心窩上または中心窩近くに配置される形で、正確に操作される。一般的に、放射状非点収差(一種の周辺軸外収差)が存在するため、周辺視像には2本の焦線が伴う(2本の焦線の間隔は“ステュルムインターバル(interval of Sturm)”と呼ばれ、最小錯乱円(circle of least confusion)も含む。最小錯乱円は、最小焦点径を形成し、一般にベストな等化フォーカスの位置と見なされるステュルムインターバルに沿った位置にある)。放射状非点収差が存在する場合、本発明により(適切な屈折力と一緒に)導入された像面湾曲は、眼球収差との組み合わせで、ステュルムインターバルの一部、あるいは場合によっては全部が周辺網膜の前方に存在する形になるように、放射状非点収差に関連する少なくとも前方焦線が周辺網膜よりも前方に配置されるように操作され、それと同時に中心視像は中心窩上または中心窩近くに配置される。
【0034】
特に有益な構成は放射状非点収差(radial astigmatism)に関連する後方焦線が網膜上または網膜近くにフォーカスするように像面湾曲が操作されたときに実現可能である。この特別な構成では、非点収差の2本の焦線の一方が網膜近くに配置されるので、周辺網膜像は非点収差に関しても焦点が合うことになる。
【0035】
これらの構成は継続的に鮮明な視力を提供し、特に、装着者に良好な中心視力を提供し、それと同時に、近視の進行を遅らせるかまたは進行を止める、あるいは近視傾向のある非近視者(正視者および遠視者)(つまり近視になりやすい人)における近視の発症を防止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
初期発育段階において両眼は一般的に理想的な光学状態に向かってかなり調和がとられた仕方(“正視化(emmetropization)”と呼ばれるプロセス)で成長することが知られている。鳥類から高度な霊長類までの様々な脊椎動物において得られた3つの基本的な観察結果は、正視化プロセスは視覚フィードバックによって能動的な規制をうけることを納得のいく形で実証している。第1に、十分に鮮明な網膜像の形成を妨げる条件または実験的な操作により、眼は異常に長く成長し(“軸方向伸長(axial elongation)”と呼ばれる)、近視または近眼になる。この現象は“フォームデプリベーション”近視と呼ばれる。第2に、フォームデプリベーション近視を患っている眼が次に(制約のない)自由な視力が許される場合、その眼は既存の屈折異常をなくすように成長する。この回復は、近視異常をメガネレンズで光学的に矯正することは回復を妨げるので、眼の実効屈折異常に関連する視覚フィードバックを必要とする。第3に、メガネレンズを用いて正常な眼(近視眼でも遠視眼でもない“正視眼”)に屈折異常を課すと、レンズを通して見ることによって引き起こされた屈折異常を消す眼の補償成長が引き起こされる。これを“レンズ補償(lens compensation)”と呼ぶ。近視または遠視(老眼)はそれぞれ負の度数のメガネレンズまたは正の度数のメガネレンズを装着させることによって高等な霊長類を含む様々な動物モデルで引き起こすことが可能である。例えば、像が負の度数のメガネレンズを使用して網膜の後方(背後)の位置に配置された場合、近視が引き起こされる。この近視の進行は軸方向伸長(眼球の伸長を引き起こす成長)とともに進む。
【0037】
従って、正視化を担う機構は、網膜像をモニタし、軸方向の成長率を屈折異常をなくすように調節する。すなわち、眼は光学的デフォーカスを利用して眼の成長を理想的な光学状態へと導く。
【0038】
完全に理解されていない理由から、正視化のプロセスは人によっては不首尾に終わって、近視のような一般的な屈折異常という結果をもたらす。研究が強く主張するところによれば、光学デフォーカスはこのプロセスで或る役割を果たすことができる。これまでのところ、中心視力のために眼の有効フォーカスを操作した近視の治療戦略(例えば二重焦点および過小矯正)は近視を防止するかまたは近視の進行を遅らせるのに限定的な成功しか収めていない。実際、過小矯正は個人によっては近視の進行を引き起こす可能性があることを示唆していると見られる証拠が存在する。上記の節で説明したように、近視の発症を防止し、近視の進行を抑制するためのこれらの以前の努力は、眼の成長は中心視力に関連する視覚フィードバックによって支配されるということ、そして更に暗黙に、網膜の中心(眼の中心窩)に位置する視覚依存機構は屈折力の発達(refractive development)をコントロールすることを暗に仮定していた。
【0039】
本発明は、周辺網膜は近視の発症、進行および退行を修正またはコントロールするのに有効であるという我々が行った実験から得られた新しい発見と知見に基づいている。我々の発見によれば、網膜周縁部における像品質(例えば周辺視力、または軸外視対象に関連する、時に“周辺視野”と呼ばれる視力)が全体的な目の長さを決定するのに主な役割を果たすことができ、その結果として、周辺部分の眼の成長を促進する周辺視野からの刺激のために眼のサイズが全体的に増大し近視が生じるということが実証された。我々の実験から得られた以下の観察結果は、周辺視力が眼の成長をコントロールするのに有効かつ十分であるという主張をサポートする。
【0040】
[観察1]
周辺フォームデプリベーション(peripheral form deprivation)によって作り出された軸性近視(axial myopia):人ではない霊長類の赤ん坊が中心視力を変えずに周辺視力だけを劣化させる環状ディフューザレンズ(annular diffuser lenses)を両目の前に置いて育てられた。具体的には、生後3週間の赤毛猿が各眼の瞳孔の前に中心を置く4mmまたは8mmの開口部を持つ環状ディフューザレンズで育てられた。開口部を通して見るとき、中心網膜のかなり部分(4mmと8mmの開口部でそれぞれ約22.5°と約45°)が遮るものがない鮮明な網膜像を受け取った。環状ディフューザレンズが存在するせいで、網膜の残りの周辺領域は鮮明な網膜像を奪われた。
【0041】
眼の成長が中心視力のみによって支配されるのであれば、クリアな中心視力を可能にするこれらの環状ディフューザレンズの屈折力の発達への影響はあったとしてもわずかしかなかったはずである。しかしこの従来の哲学とは対照的に、課された周辺フォームデプリベーションは中心の屈折力の発達に影響を与えた。扱われた猿の大部分は正常な猿の屈折異常の範囲外に明確に入るかなりの近視屈折異常に発達した。これらの実験的に引き起こされた近視異常は眼の成長に起因する硝子体腔の深さの増大(この結果、正常な眼の軸方向の長さより長くなる結果(軸方向伸長)となった)によって作り出された。
【0042】
これらの結果は周辺網膜像の質は全体的な軸方向の成長と屈折力の発達を変更するのに有効且つ十分であることを明確に実証している。
【0043】
[観察2]
近視からの回復には中心視力が必要ではない:赤ん坊の猿はフォームデプリベーション近視から回復する顕著な能力を示す。例えば、1つの実験では、フォームデプリベーション近視(−1.0D乃至−10.5Dの範囲内)を患った18匹の赤ん坊の猿のうち18匹がフォームデプリベーションが打ち切られ視力が一切の制約から解放されたときに近視から回復した明らかな証拠を示した。
【0044】
他の種(species)における調査はこの回復は視覚的経験が関与していることを強く示唆している。別の実験において、我々は、周辺視力はこの視覚依存性回復を促進するのに十分であるという仮説をテストした。既に述べたような環状ディフューザレンズを装着した結果として近視または遠視を発症した5匹の猿がテストされた。生後約4ヶ月で、環状ディフューザレンズが取り除かれ、一方の眼の中心窩に中心を置く網膜の2mm乃至3mmの円形部分(中心の約5°乃至7°の相当する)がアルゴン光凝固(青緑)レーザを用いて除去された。もう一方の眼は処置されず、その後、動物は自由な視力を有するようにされた。
【0045】
実験的に引き起こされた屈折異常からの回復が中心視力に依存したとすれば、レーザ処理された眼は回復に失敗したはずである。しかしながら、5匹全ての猿において、処理された眼と処理されていない眼の両方で回復の明確な証拠が観察された。さらに、そしてより重要なことに、除去処理された眼と除去処理されなかった眼との間で眼球の成長と屈折異常からの回復のシステマティックな違いは存在しなかった。
【0046】
これらの結果は、実験的に引き起こされた屈折異常からの回復にとって中心視力が不可欠でないことと、正常な正視化を成立させる(mediate)のに周辺視力が有効かつ十分であることを納得いく形で示している。もっと重要なこととして、これらの所見は、近視といった一般的な屈折異常の発生において周辺視力が鍵となる役割を果たすことと、周辺網膜像の操作が目の成長と屈折力の発達を予測どおりに規制するという本発明に導く考えをもたらす。
【0047】
更なる研究が示しているところによれば、フォームデプリベーションまたはレンズ補償の刺激といった近視を引き起こす刺激(近視誘発性刺激)の中断は、比較的短い時間の間であっても、斯かる刺激の近視誘発効果を低減したりまたは無くしたりする。これが暗に意味することは、近視者が一日の或る特定の時間だけ近視抑制装置を使用することを止める(例えば作業後と就寝前に取り外す)“日常装着”アプローチは有効でない場合があり、その効果に妥協せざるを得ないだろう。最大の効果は近視抑制方法および装置が一日中継続的に眼に作用し続けることができるときに達成される。
【0048】
本発明は、軸外周辺収差を操作し、特に相対像面湾曲を操作して、眼の軸方向伸長を促進する周辺網膜刺激を低減するかまたは無くすことによって、近視の進行を遅らせたりもしくは止めたりする、または近視の発症を防止する方法を提供する。
【0049】
さらに、軸外周辺収差を最適かつ整合的または一貫して(コンシステント)にコントロールするため、この方法では、眼の光学系と実質的に同軸の状態で有り続ける装置(実質的に軸方向にアライメントされている)を提供しなければならない。
【0050】
同じくさらに、本方法が最大に効果的であるために好ましいものとしては、全ての目を開いた状況をカバーするために、屈折矯正および軸外周辺収差の所定のコントロールを実質的に継続的に眼に作用させる。
【0051】
本発明は、眼の成長を遅らせるかまたは止める新規の光学装置を用いて、近視の発症を防止することができ、近視の進行を緩和し、遅らせることができ、更に多くの場合に進行を停止または逆行させることができる方法も提供する。
【0052】
本発明の方法および装置は、矯正装置の軸外周辺収差、特に相対像面湾曲、あるいは眼と矯正装置の複合した既存の光学収差を、周辺視野像が相対的に前方方向にシフトされ、理想的にはステュルムインターバル(interval of Sturm)が部分的または全体的に周辺網膜の前方に配置されると同時に中心視像が中心窩上または中心窩近くに配置されるといった、所定のやり方で、正確にコントロールすることによって、近視の進行を修正(変更)する。この構成は鮮明な中心視力、そして特に、装着者にとって良好な視力(visual acuity)を与えると同時に、周辺網膜(periphery)において軸方向伸長を抑制するための強い信号を提供することによって、近視者における近視の進行を遅らせるかもしくは止める、または近視傾向のある(近視を発症しやすい素因を持つ)非近視者(正視者または遠視者)における近視の発症を防止する。
【0053】
本発明の装置は、過小矯正法、または二重焦点型もしくは累進型光学装置によってもたらされるような、(中心視力の)ピンぼけ効果を全くもたらさないので、斯かる装置は装着者に実質的に同時にクオリティの高い視力を提供する。従って、本発明は屈折異常の進行を遅らせると同時に装着者に対して実質的に継続的な鮮明で有用な視像を維持するという利益を与える。
【0054】
本発明の収差コントロール機能は、メガネ、コンタクトレンズ、角膜インプラント(例えばオンレー、インレー)、前眼房レンズ(anterior chamber lenses)、および眼内レンズ(IOL:intra-ocular lenses)などを含む適切な光学装置を使用するほか、角膜矯正療法(orthokeratology)(これは特定の設計形状にされているコンタクトレンズの短期間装着による角膜上皮リモデリングを通じて一時的に眼の屈折状態を変えるためにコンタクトレンズを使用する特殊な方法)および屈折矯正手術(例えば、表層角膜移植術(epikeratophakia)、角膜熱形成術(thermokeratoplasty)、LASIK、PRK、LASEK)を含む角膜もしくは上皮のリモデリング(形付け)またはスカルプティング(彫刻)によって実現でき、収差コントロールは好ましくは、IOL、角膜インプラント、コンタクトレンズ、角膜矯正療法または屈折矯正手術といった、眼の軸に比較的中心を置いたままの状態にできる装置または方法において実行される。このようにして、周辺視野と中心視野の像の位置の正確な所定の操作をもたらす周辺収差の正確なコントロールは眼の動きと無関係に維持することが可能である。
【0055】
本発明は好ましくは、度数および収差プロファイルの変更(装着者の近視の度合いが変化するときに必要とされる)が容易に行えることから、メガネ、コンタクトレンズ(ソフトまたはRGPまたは触覚/強膜タイプ)、角膜矯正療法(orthokeratology)、または角膜オンレーモダリティにおいて実施される。
【0056】
メガネ、コンタクトレンズまたは角膜矯正療法(orthokeratology)の場合には、新しいレンズを容易に処方することが可能である。
【0057】
オンレー(on-lays)に関しては、上皮が廃棄され、既存のオンレーが取り除かれ、新しいオンレーが所定の場所に貼られ、上皮はその上に再成長することが許される。
【0058】
さらに、本発明はより好ましくは長時間装用または連続装用コンタクトレンズモダリティまたは角膜オンレーモダリティにおいて実施される。これにより、近視を遅らせる最大限の効果を引き出すための実質的な継続的な刺激が与えられる。
【0059】
一般的に、長時間装着用または連続装着用コンタクトレンズ(例えばソフトまたはRGPレンズ、触覚/強膜レンズ)は、就寝中も眼にレンズを装着したたままで、瞼が閉じられ大気中の酸素が利用できないにもかかわらず、瞼結膜から角膜に十分な酸素が供給され続け、眼の健康を保ち続けられるように、十分な酸素透過性その他の特性を備えている。
【0060】
角膜矯正療法(orthokeratology)では、コンタクトレンズ(これも長時間または夜間装着に適した高い酸素透過性を持つことが好ましい)は上皮および角膜がリモデリングされるように短期間(例えば就寝時間)の間だけ装着することができる。その後、コンタクトは取り除くことができ、本発明によれば角膜矯正療法の効果が続く間はコンタクトレンズを装着することなく所望の屈折状態および光学収差状態が患者にもたらされる。角膜矯正療法モダリティで使用されるコンタクトレンズの設計は二重の役割を果たす。従って、コンタクトレンズは“治療”中またはリモデリング期間中に装着されるときに、眼、涙レンズ(コンタクトレンズの裏面と角膜上皮との間に涙を充填することによって形成される)とコンタクトレンズの複合収差が本発明に基づいて操作される。加えて、コンタクトレンズの裏面または後面プロファイルは、その剛性および厚みプロファイルと一緒に、それらの全ては上皮および角膜のリモデリングをコントロールするものであるが、レンズを(角膜矯正療法のレンズ装着“治療”期間後)取り去ったときに、リモデリングされた(形が付けられた)角膜・上皮プロファイルが残りの眼球収差が本発明に基づいて操作されるようなものとなるように設計および選択することができる。
【0061】
本発明の方法および装置に導くアイデアについて以下説明する。
【0062】
図1aに理想的な光学系を示す。光学系10は、物点C、AおよびBに沿った矢印で表された物体(オブジェクト)20からの光を屈折し、像点C’、A’およびB’に沿った矢印で表された像30に焦点を結んでいる。理想光学系において、焦点像(focused image)は正確に受像面40に沿って存在する。一般的に、通常の光学系では、受像面40は平面(flat or planar surface)である。このため理想的な焦点像もフラットであるはずである。すなわち、焦点像30上の点C’、A’およびB’は受像面40上に存在するはずである。焦点像30が受像面40と密着した位置関係にある場合には、あらゆる像点(例えばC’、A’およびB’)は受像面40上に鮮鋭に焦点を結ぶこととなり、その像は全体に鮮明である。
【0063】
多くの光学系は“像面湾曲(curvature of field)”で知られる軸外収差(off-axis aberration)に悩まされる。図1bにおいて、別の光学系50が物体60から像70への光を屈折している。しかしながら、この像面湾曲が存在するせいで、焦点像70はフラットな受像面80と完全に位置が合ってはいない。本例では、軸上(光学系の光軸上にあるまたは光軸に沿った)物点Aからの光は受像面80上の軸上像点A’に焦点を結び、従って鮮鋭に焦点を結んでいるように見える。しかしながら、軸外(光学系の光軸から外れているまたは或る角度をなしている)物点CおよびBからの光は受像面80の前方(物体から入射する光の方向とは反対の方向)にある軸外像点C’’およびB’’に焦点を結ぶ。これらの像点C’’およびB’’は従って焦点が合っておらず、ピンぼけしたように見える。軸外周辺像点が中心の軸上像点の実質的に前方(物体から像まで伝搬する光の方向とは反対の方向)に位置する本例のような像面湾曲を有する光学系では、光学系は負(ネガティブ)の像面湾曲を有していると言うことができる。
【0064】
図1cは正(ポジティブ)の像面湾曲を持つ光学系を示している。斯かる光学系では、光学系100によって生成された物体85の像90はフラットな受像面110とは位置が合っていない。中心の物点Aからの焦点を結んだ中心の軸上像点A’’’は受像面110上に存在するが、軸外周辺物点CおよびBは軸外周辺像点C’’’およびB’’’に焦点を結んでいる。軸外周辺像点C’’’およびB’’’は受像面110の実質的に背後にあって中心軸上像点A’’’から相対的に後方もしくは背後(光の方向)にある。ここで、像点A’’’は鮮鋭に焦点を結んでいるように見えるが、それに対し、像点C’’’およびB’’’は焦点が合っておらず、ピンぼけして見える。
【0065】
光学収差の定量的な説明においては、様々な人によって複数の異なる符号規約(正負の約束事)が使用されてきたことに留意すべきである。本明細書では、基準位置から関心のあるポイントまで測られた距離について言う場合には次のような符号規約を採用する。測定の方向が光の伝搬方向と同じ場合には正(ポジティブ)、光の伝搬方向と反対の場合には負(ネガティブ)と言うことにする。像面湾曲に関しては、基準面は理想的な(収差のない)像面であり、関心のあるポイントは収差のある湾曲した像面である。従って、図1bに関して言えば、像面湾曲は収差のない平らな像面80から湾曲した収差のある面70までの距離で測られる。この測定方向はこの光学系を進む光の伝搬方向(左から右)とは反対方向であるので、像面湾曲は負(ネガティブ)である。
【0066】
これとは逆に、図1cに関して言えば、理想基準面110から測られた湾曲した像面90は光の伝搬方向にあり、従って像面湾曲は正(ポジティブ)である。
【0067】
ほとんどの光学系とは異なり、眼の受像面は網膜であり、平面でも平坦面でもない。それ故、鮮鋭に焦点を結んだ像点を取得するため、像面は網膜面に合わせて湾曲している必要がある。図2a乃至図2cにおいて、眼120は遠く離れた景色から3つの異なる物体(オブジェクト)方向140、170および190からの光を受光している。これらの方向はしばしば“画角(field angles)”と呼ばれている。受像面、すなわち眼の網膜136も示されている。実質的に光軸160上にある風景の一部からの物点140と像点150は画角ゼロに等しく、それぞれ“中心”または“軸上”の物体(オブジェクト)と像(イメージ)と呼ばれる。これを図2aに示す。
【0068】
物点と像点が光軸と中心の物点および像点から徐々に離れるにつれ、画角は増大すると言われる。斯かる物点および像点は“周辺(peripheral)”または“軸外(off-axis)”の物体170および像180と呼ばれ、有限(ノンゼロ)の画角を有する。これを図2bに示す。図2cはより画角が大きな周辺または軸外の物点190および像点200を示している。
【0069】
眼が鮮鋭に焦点を結んだ像点を像全体にわたって受け取るには、全ての画角からの像点150、180および200は同時に正確に網膜面136上に存在しなければならない。この理想的なシナリオを図2dに示す。
【0070】
眼の網膜は平坦面でないので、眼の光学系の像面湾曲を議論する場合、相対像面湾曲を議論する方がより都合がよい。相対像面湾曲は異なる画角における中心像点および網膜に対する像点の軸方向の位置(前後、または前方後方)として定義することができる。従って、周辺像点180および200が軸上像点150より前方に配置されていることから図2dに示された眼120の像面136が実際上負の像面湾曲を有しているとしても、正味の相対像面湾曲(網膜136の湾曲に対する像面の湾曲)は存在せず、全ての画角における像点が網膜上に鮮鋭に焦点が合っており、像全体が鮮明に見られる。
【0071】
図2eは相当量の負の像面湾曲を有する眼210を示している。遠くの景色(物体)からの光がこの眼によって焦点が結ばれるが、この場合、軸上中心像点220は網膜上に焦点が結ばれるのに対して、中間230と遠く240の周辺(軸外)画角に対する像点は中心像点220よりも(前方の、光の方向とは反対方向に)徐々に前方に焦点が結ばれている。これらの周辺画角における像点230および240は湾曲した網膜250の実質的に前方に焦点が結ばれているので、周辺視野の像点230および240は網膜上に焦点が合っておらず、眼210にはぼやけて見える。それ故、この眼は負の相対像面湾曲に悩まされる。
【0072】
相対像面湾曲状態のグラフ表現と評価の容易さのためには、湾曲した網膜面を平面に“マッピング(写像)”することによって相対像面湾曲をプロットすることがより便利である。すなわち、網膜の湾曲は幾何学的に平坦化され、従って直線または平面で実質的に表すことができる。直線表現は3次元の幾何学的に平坦化された(マップされた)平坦な網膜面の2次元断面である。図2fは図2eに示された眼の相対像面湾曲のこのようなグラフを示している。網膜は直線220にリマップ(remap)されている。これは像面242が網膜220の全体的な広がりにわたってその前方に位置していることを直接的に示すものである。本明細書の残りの部分では、コンピュータ支援光学モデリングプログラムの出力においても頻繁に使用される相対像面湾曲のこのタイプのグラフ表現を“相対像面湾曲グラフ”と呼ぶことにする。光学系または眼の相対像面湾曲から見た全体のパフォーマンスはこの相対像面湾曲グラフを用いてまとめられ、容易に評価されるので、像面湾曲結果を作り出した光学系または眼に関する細部の残りは(先の図面で行われたように)斯かるグラフ表現に含まれる必要はない。
【0073】
図2gおよび図2hは正の像面湾曲を持つ眼260を示している。図2hにおける相対像面湾曲グラフに見られるように、この眼は像面262が軸外周辺視野像点266および268が中心軸上像点264と網膜290よりも後方(または光に伝搬方向において背後)に位置するようなものになっている正の相対像面湾曲を有する。この場合、中心像点264は鮮鋭に焦点が結ばれるが、それに対し、周辺視野像点266および268は焦点が合っておらず、ピンぼけしているように見える。
【0074】
図3aおよび図3bは負の像面湾曲を有する眼300を示している。中心軸上像点310は網膜320の後方に位置しているので、この眼は、オートリフラクタ(auto-refractors)、リフラクタヘッド(refractor-heads)またはトライアルフレーム(trial frames)などの標準的な技術を用いて、眼科医(ophthalmologists)、検眼医(optometrists)、眼鏡技師(opticians)、視能訓練士(orthoptists)および視覚科学者(vision scientists)といったアイケアプラクショナ(eye-care practitioners)にとって馴染みのある方法で測定された場合には遠視とみなされる。しかしながら、本例に存在する負の像面湾曲のせいで、大きな画角に対して軸外周辺像点330は網膜320の(光および方向とは反対の方向において)前方に位置する。従って本例の眼は周辺視野に対しては実際には相対的に近視である。これは図3bの相対像面湾曲グラフにおいて最もよく分かる。つまり図3bは中心視野310から中周辺視野(mid-peripheral field)にかけては遠視(焦点が網膜の背後にある)であるが中間周辺視野から遠周辺視野330(far-peripheral field)にかけては近視(焦点が網膜の前方にある)であることを明確に示している。
【0075】
図3cと図3dは正の像面湾曲を有する眼340を示している。中心軸上像点350は網膜360の前方に(光の方向とは反対の方向に)位置しているので、この眼はオートリフラクタ(auto-refractors)、リフラクタヘッド(refractor-heads)またはトライアルフレーム(trial frames)などの標準的な技術を用いてアイケアプラクショナ(eye-care practitioners)にとっては馴染みのある方法で測定された場合には近視と見なされる。しかしながら、本例における正の像面湾曲のせいで、大きな画角に対して軸外周辺像点370は網膜360の後方(光の方向に)に位置する。従って本例の眼は周辺視野に対しては相対的に遠視である。これは図3dの相対像面湾曲グラフにおいて最もよく分かる。つまり図3dは中心視野350から中周辺視野にかけては近視(焦点が網膜の前方にある)であるが中周辺視野から遠周辺視野370にかけては遠視(焦点が網膜の背後にある)であることを明確に示している。
【0076】
図4a乃至図4kを参照して本発明の論拠について詳しく説明する。近視性の成長を引き起こすかまたはコントロールするこれまでの全ての試みは中心視野の屈折状態のみを考えている。これは、眼科医(ophthalmologists)、検眼医(optometrists)、眼鏡技師(opticians)その他のアイケアプラクショナによるトライアルフレーム(trial frames)、リフラクタヘッド(refractor-heads)およびオートリフラクタ(auto-refractors)の利用を含む屈折異常の測定の現行標準は、全て、眼の実質的に中心視野に位置する中心窩におけるまたは中心窩に非常に近くの眼の屈折状態を測定するものだからである。この従来的な理解の範囲内では、図4aにおける概略的な眼および光学系に示されるように、眼408の固有の光学系のせいによるものかまたは過度に負の度数のメガネレンズ410を処方するなどの意図的な介入によって、像点402を網膜404および中心窩406の後方(光が眼の中を進む方向)に配置することによる負の屈折力によるぼけ視(negative refractive powered blur)は、軸方向伸長(矢印412の方向)の刺激を与えることになる。この刺激はレンズ補償近視(lens compensation myopia)の現象に基づく後方に位置する像点の方向への眼の成長414をもたらし、結果的に正視者(屈折異常のない人)または遠視者において近視を引き起こすか、または近視者において近視の更なる進行を引き起こす。
【0077】
眼の軸上または中心視野の屈折状態のみを考えるこの限定された議論は近視の発症を防止するかまたは近視の進行を遅らせる試みの中で採用された従来の光学的アプローチの基礎を成している。1つの斯かる従来のアプローチは、暗黙に中心または軸上の像を中心窩の前方に配置して軸方向伸長と眼の成長の刺激を取り除くといった、正の屈折力によるぼけ視を利用することである。これは結果的に近視の過小矯正を利用して近視の進行を遅らせる従来のアプローチをもたらす。図4bにおける概略的な眼および光学系に示されるように、過小矯正は中心の軸上像416を意図的に網膜418および中心窩420の前方に焦点を結ばせることを含む。これは鮮明な視力を実現するために個人に通常処方されるよりも若干ポジティブな屈折力(あるいは近視の若干ネガティブでない度数−このことからこのアプローチを記述するために一般に過小矯正という言葉が使われる)を過小矯正422に処方することによって実現される。例えば、鮮明な視力を取り戻すのに−4.00Dレンズを必要とする近視に対しては−3.50Dレンズが処方される。このアプローチは人によっては近視の進行を遅らせるのに幾分有効ではあるが、全ての人に有効であることは示されていない。実際には、過小矯正は人によっては近視を実際は増大させる可能性があることを示す調査結果もある。さらに、そして最も問題なことに、このアプローチは最適視力よりも弱いレンズを装着者に処方することで中心窩420における像をイクスプリシットにぼかしてしまい、例えば運転などの特定の重要な視作業(visual task)を装着者が遂行できなくしてしまうなど妨げになる場合がある。
【0078】
我々はいまや我々の実験において周辺視野のみが眼の成長を促進(drive)するのに実効的かつ十分であること(そして結果的に軸方向伸長と、最終的には近視の発症または進行がもたらされること)を示してきた。
【0079】
1つの鍵となる実験の結果を図4cの概略的な眼および光学系を参照しながら説明する。この実験では、環状ディフューザレンズ(annular diffuser lenses)424を眼426の前に配置して霊長類を育てた。この環状ディフューザレンズ424により、軸上の中心視野物体428からの光線427は妨げなく眼426に到達することができる。環状ディフューザレンズ424は軸外周辺視野物体430からの光を散乱または拡散する。この散乱は、中心視野428に対しては鮮明な視力を維持しながら、周辺視野430における軸外視対象に対してのみフォームデプリベーションを引き起こす。近視の発症について研究している視覚科学者(vision scientist)にしてみれば、眼の全体視野(または中心視野)に適用されたフォームデプリベーションは近視をもたらす軸方向の成長を引き起こすことは周知である。周辺視野のみに対するフォームデプリベーションを含む我々の実験では、眼は軸方向伸長(矢印423の方向)と眼の成長434に起因する近視も発症した。
【0080】
この実験では、その後、環状ディフューザレンズ424は十分な度数の近視に発達した後に眼から取り除かれた。環状ディフューザレンズが取り除かれると、霊長類における近視の度数は図4dのグラフの実線が示すように(絶対値が)減少した。
【0081】
さらに、この実験と並行して、他の眼に対しては、ディフューザが十分な度数の近視に発達した後に眼から取り除かれるのに加え、アルゴン(青緑)レーザを用いて網膜の黄斑を光凝固(photocoagulation)によって排除し、周辺視力は傷つけずに基本的に中心視力を盲目化することによって、霊長類の目の中心視力が無力化された。軸上中心中心窩視力がこのように遮断されても、図4dの破線が示すように中心視力が破壊されなかったときと同様に近視の(度数の絶対値の)減少は残った。
【実施例】
【0082】
以下の追加実験は、眼の成長における視覚依存変化を規制(regulate)することにおける中心窩対周辺網膜の相対的な重要性に関する一連の疑問と、周辺網膜が光学的デフォーカスに感応するかどうかの疑問に取り組むために行われた更なる調査を提示する。全ての実験は生きた赤毛猿(rhesus monkey)で行われた。赤毛猿が使われた理由はこの種の猿はヒトにおける屈折異常の発症をシミュレーションするための最も有効なモデルであるからである。
【0083】
以下の実験からの結果は、1)眼の成長の規制(regulation)、2)近視の発症、3)周辺視力の影響(周辺視力は中心視力の影響を凌駕することが実証されている)、および4)周辺視力の操作が眼の成長に影響を及ぼすことにおいて、周辺網膜(periphery)が主要な役割を果たすという見解を支持する。
【0084】
<実施例1>
例1は中心窩が正常な正視化(つまり正常な眼の成長と屈折力の発達)に不可欠かどうかという疑問に取り組む実験を記述する。
【0085】
5匹の赤ん坊の猿(平均生後19日)の片方の眼において中心窩(fovea)とperi-fovea(中心窩を直に取り囲む網膜の領域)のほとんどがアルゴンレーザまたはfrequency-doubledYAGレーザのいずれかを用いて切除された。YAGレーザが使用されたが、必要なレベルの切除(アブレーション)を遂行することができるものならばどんなレーザもレーザが使用された本例と以下の実施例において使用することができることは理解されよう。猿たちはその後自由な(unrestricted)視覚的経験が許された。屈折力の発達は3匹の猿については1年以上にわたって、そして残りの2匹の猿については200日以上にわたってモニタされた(つまり若い猿にとって正常な正視化プロセスの重要な期間を通してモニタされた)。
【0086】
中心窩が屈折力の発達において重要な役割を果たすものならば、処置された眼と処置されなかった眼の間で正視化のプロセスの速度および/または効果に何らかの違いを期待してよかろう。しかしながら、両方の眼で屈折異常および/または軸方向寸法に観察期間を通じてどの時点においても全く違いはなかった。所与の動物の2つの眼(処置された方と処置されなかった方)は常によく一致していた。図13a乃至図13cは、3匹の動物(実験コードZAK、YOY、COR)の両方の眼の屈折異常データを示す図である。図13dは処置された5匹全ての動物の屈折異常における両眼間の違いを示している。図13dにおいて、各個別の動物の結果は異なる黒色シンボル(正方形、円、菱形、三角形、および逆三角形)で示されている。比較のため、シンボルのない黒色線は正常なコントロールデータを示している。
【0087】
この実験からの結果は機能している中心窩が正常な正視化(つまり眼の正常な成長と屈折状態のコントロール)には不可欠ではないことを実証している。周辺網膜は単独で正常な屈折力の発達を規制することができる。
【0088】
<実施例2>
この実験は無傷の中心窩がフォームデプリベーション近視の発症に不可欠かどうかと、孤立した周辺網膜が近視生成(myopia-genic)刺激に応答して異常な眼球成長をもたらすことがあり得るかどうかといった疑問に取り組んだ。生後約3週間において、9匹の赤ん坊猿の片方の眼において中心窩(fovea)と中心窩周囲網膜(peri-foveal)のほとんどがアルゴンレーザを用いて切除された。続いて、レーザ切除された眼においてディフューザメガネレンズを用いて単眼フォームデプリベーションが引き起こされた。
【0089】
飼育期(基本的に生後3週間乃至5ヶ月)を終えた6匹の猿の全てに対して、処置された(レーザ切除とフォームデプリベーションが行われた)眼は長くなったと同時に、相方の眼(fellow eyes)よりも近視が進んだ。図14a乃至図14cは3匹の動物(実験コードFID、EDE、JAC)の屈折異常データを示す図である。図14dは6匹の猿全てで両方の眼に違いがあることを示している。図14dにおいて、各個別の動物の結果が異なる黒色シンボル(正方形、円、菱形、三角形、および逆三角形、六角形)で示されている。比較のため、シンボルのない黒色線は正常なコントロールデータを示している。
【0090】
この実験の結果は、機能している中心窩がフォームデプリベーション近視の発症に不可欠でないことと、周辺網膜における慢性的な像の劣化が中心窩における軸方向近視を生み出し得ることを実証している。
【0091】
<実施例3>
本実験は無傷の周辺網膜が正常な正視化に不可欠かどうかを議論したものである。
【0092】
生後約3週間の9匹の猿において、片方の眼の中周辺網膜(mid-peripheral retina)から遠周辺網膜(far-peripheral retina)までがfrequency-doubledYAGレーザで切除された。これらの処置された猿うち6匹について、切除はtemporal vascular arcadesから、ずっと鋸状縁(網膜の最も外縁にある限界)まで及んだ。他の3匹の猿については、切除は、vascular arcadesから赤道まで及んだ。その後、これらの動物の全てが自由な視力を許された。
【0093】
動物の多くは、屈折異常における初期遠視シフト(ときとして極めて重大)を示したが、ほとんど全ての動物は、レーザ手術直後、バランスのとれた屈折異常を発症した(両眼は水晶体の寸法と軸方向の長さにおいて両眼で大きな違いがあったにもかかわらず結局は同じ屈折異常になった)。しかしながら、あらゆるケースにおいて、処置された眼は結局は遠視方向にドリフトし始めた。図15a乃至図15cは3匹の動物(実験コードCAS、YOK、CUT)に対する代表的な屈折異常データを示している。図15dは全ての猿の両眼の間の違いを示している。比較ため、シンボルのない黒線は正常なコントロールデータを表す。図15dにおいて、周辺網膜が切除処理された各個別の動物ごとの結果は黒色シンボル(正方形、円、菱形、三角形、および逆三角形)で示されており、中心窩が切除処理された各個別の動物の結果は白色(中空)円で示されている。このグループの結果は解釈がより複雑である。というのも、レーザ手術は両方のグループにおいて眼にいくつもの直接的な効果を生み出すからである。例えば、水晶体がポジティブに調整されたように見えるように(前眼房の深さの減少、レンズ厚の増大および水晶体の表面と裏面の曲率半径の減少)前眼部が影響を受け、硝子体腔の深さ(depth)の減少があった。
【0094】
結果は周辺レーザ切除が正常な屈折力の発達を変えることを示している。さらに、結果は残っている中心網膜は長期間にわたって両眼の間の正常な屈折異常のバランスを維持するのに十分でなかったことを実証している。
【0095】
<実施例4>
この実験は無傷の周辺網膜がフォームデプリベーション近視に不可欠かどうかの疑問に取り組むものである。
【0096】
生後約3週間の2匹の猿において、片方の眼が中周辺網膜(mid-peripheral retina)から遠周辺網膜(far-peripheral retina)にかけてfrequency-doubledYAGレーザで切除された。切除は赤道で止められた。その後、レーザ切除された眼においてディフューザメガネレンズを用いて単眼フォームデプリベーションが作り出された。
【0097】
図16aおよび図16bに示すように、2匹のどの猿も処置された方の眼においてフォームデプリベーション近視の兆候を示さなかった。(比較のため、シンボルのない黒線は正常なコントロールデータを示す。)この結果は周辺視力が近視生成(myopia-genic)刺激で作り出された異常な軸方向成長に不可欠かもしれないと考えられる。
【0098】
<実施例5>
本実験は周辺デフォーカスが中心窩における屈折力の発達を変え得るかどうかといった疑問に取り組むものである。本実験は実施例3および4で説明した周辺フォームデプリベーション実験に類似したデフォーカスである。
【0099】
生後3週間の赤ん坊猿の両眼前に(両眼とも)負の度数(7匹の猿は−3Dを装着した)または(両眼とも)正の度数(4匹の猿は+3Dを装着した)の双眼メガネが掛けられた。中心視力が潜在的に制限されないように両眼の瞳孔上に6mmの開口(部)がレンズ中心にカットされた。このようにして、我々は周辺網膜に選択的遠視性(相対的に負、像は網膜の背後に位置する)または近視性(相対的に正、像は網膜の前方に位置する)デフォーカスを引き起こした。
【0100】
負のレンズグループに関して、7匹の猿のうち5匹が近視性の屈折力の発達の兆候を示した。これは周辺遠視性デフォーカス(像は網膜の後方にある)が軸方向近視を作り出したことを実証している。図17a乃至図17dを参照されたい。
【0101】
このことは図17a乃至図17dに示されている。その中で、シンボルは左眼の屈折異常を示しており、黒色シンボルは右眼の屈折異常を示している。6mmの開口が設けられた負の度数のレンズを装着した動物の結果を図17aおよび図17cに示す。一方、6mmの開口が設けられた正の度数のレンズを装着した動物の結果を図17bおよび図17dに示す。比較のため、シンボルのない薄い実線は正常なコントロール猿を示している。
【0102】
図17a乃至図17dに示された結果は、周辺網膜における(像が網膜の前方にある、または非遠視性デフォーカス)相対的近視性デフォーカスは中心窩における正常な屈折力の発達を妨げないことを実証している。
【0103】
いくつかデータは正の周辺レンズが眼の形状を変えたことを示唆している。実施例1乃至5で行われた実験の結果は周辺デフォーカスが中心窩の屈折力の発達を変えることと、課された相対的に遠視性、および近視性の周辺屈折異常は眼球成長を差別的に変更することを示している。
【0104】
前述の実施例および実験結果は、周辺視野のみにおける適切な近視抑制刺激(要するに周辺網膜のみの局部刺激)が有効で、近視の発症を遅延もしくは防止したり、または近視の進行を抑制、停止もしくは逆行させたりするのに十分であることを明確に実証している。前述の最初の方の実験(実験1乃至実験4)は主にフォームデプリベーション近視に取り組んだが、その際、我々はフォームデプリベーションとレンズ補償近視との間の繋がり(リンク)は一般に、局部的なレンズ補償効果(つまり周辺網膜のみに適用される−要するに周辺視野のみに適用された過小矯正)も近視抑制のための同様な刺激を与えるであろうことを意味すると仮定した。これは周辺網膜のみへの光学的介入がレンズ補償と似たような近視発症発達応答(myopia development responses)を作り出すことを示した実施例5の結果によって強く支持された。すなわち、周辺網膜のみにおけるデフォーカスは近視の発症発達のコントロールに十分である。
【0105】
周辺視野のみの過小矯正は、中心視野の鮮鋭に焦点を結んだ像が中心窩に届くことを可能にし、このため装着者は良好な視力(例えば運転、読書、TV鑑賞)に必要な鮮明な中心の中心窩視力を楽しみ続けられることから、従来のアプローチよりも有利である。これは本発明の主原理であり、これを図4eおよび図4fを参照してより詳しく説明する。
【0106】
図4eと図4fにおいて、近視傾向がある眼436(近視か、または非近視ではあるが近視の両親からの遺伝もしくは長期の近見作業のせいで将来きっと近視になるであろうと思われる)には本発明の光学装置438が処方される。この光学装置438は眼436に負の相対像面湾曲440を生成するように設計されている。この構成は従来の過小矯正アプローチよりも有利である。中心の軸上像点441は中心窩442に鮮鋭に焦点を結び、良好な視力を可能とするからである。周辺像点443は、負の相対像面湾曲440のせいで、網膜444の前方に(眼の中の光の方とは反対の方向に)焦点を結んでいる。これは相対的な過小矯正を周辺視野に作り出す利点を有する。我々の実験結果から、これにより、眼の成長と軸方向伸長がコントロールされる。すなわち、軸外周辺視野像点443の前方位置のせいで、軸方向成長に対する刺激は眼の中で大きく削減または逆転され、その結果、近視の発症が抑制もしくは阻止され、または近視の進行が抑制もしくは逆行される。
【0107】
近視の進行を推し進めることにおける周辺視野の重要性は、中心視力を過小矯正する従来のアプローチがなぜ全ての人にとって有効でないことが示されてきたか、また一部の公表された研究において、なぜ一部の個人で近視を悪化させることが示されてきたかということも説明する。
【0108】
図4gと図4hにおいて、眼446は過小矯正の従来のアプローチを用いて過小矯正されている。この眼は、過小矯正を与える従来のアプローチを実行する光学装置448と、眼の光学系と組み合わせて、または単独で、眼にかなりの量の正の相対像面湾曲450を引き起こした。このため、このアプローチは中心軸上像点451を中心窩452前方に配置する一方で、成長に対する刺激を低減する試みの中で、正の相対像面湾曲450のせいで、軸外周辺視野像点453は網膜456の後方(眼の中の光の方向と同じ方向)に焦点を結んでいる。軸方向成長を促進するのに眼の周辺網膜が有効であることを実証した我々の1つの実験結果から、これらの過大矯正された周辺像点は、中心の像焦点の位置をコントロールするために払われた努力にもかかわらず、(矢印458に示すように)軸方向伸長の刺激を引き起こし、眼の成長460と近視の進行をもたらす結果となる。
【0109】
相対的な正の像面湾曲464(図4iおよび図4j参照)を持つ眼462に関して、本発明の光学装置466は、眼の光学系と組み合わさって、鮮鋭な中心フォーカス470ほかに負の相対像面湾曲468(図4kおよび図4l参照)を実現するように設計することができる。これにより、眼と光学装置の複合システムを、軸方向成長の刺激の発症と進行を阻止すると同時に良好な視力に必要な中心フォーカスを実現するのに有効な図4eと図4fで述べたものと同じようなものに戻る。
【0110】
前述の説明から、近視の進行を遅らせ、停止させ、または逆行させることができる方法は、網膜において負の相対像面湾曲を与えることができる、メガネレンズ、コンタクトレンズ、オンレー(on-lays)およびインレー(in-lays)などの人工角膜装置、角膜インプラント(corneal implants)、前眼房レンズ(anterior chamber lenses)または眼内レンズ(intra-ocular lenses)などを導入することによって、あるいは、表層角膜移植術(epikeratophakia)、角膜熱形成術(thermokeratoplasty)、LASIK、PRK、LASEKといった屈折矯正手術や角膜矯正療法(orthokeratology)を含む、角膜・上皮リモデリングおよびスカルプティング(sculpting)のための方法といった、光学的介入によるものであること、加えて、重要な視作業のために良好な中心視力を与えるため、光学装置または光学介入は網膜に中心視野像の良好なフォーカスを確保すべきであることは容易に理解されるはずである。
【0111】
適量の屈折デフォーカスはレンズ補償の現象において近視(またはその退行)をもたらす眼の成長(または非成長)を促進し得るのに対し、屈折デフォーカスの量が大きいときは、重度のデフォーカスのせいで像質(image quality)が大きく劣化して光学状態がフォームデプリベーションの現象に変化することがあり、そのようにして近視を引き起こすことがあることに気付くことは重要である。例えば、像が+0.5Dレンズの導入によって網膜の前方に配置されるとき、軸方向伸長に対する刺激が取り除かれ、近視はコントロールすることができる。しかしながら例えば+5Dレンズを用いることによって像が極めて前方に配置されたときは、網膜における像の劣化は状態がフォームデプリベーションの1つになるほど非常に大きくなる可能性があり、近視の発症または進行をもたらすことがある。斯かる場合、正の度数のレンズを使用したにもかかわらず、そして視像が網膜の前方にあるにもかかわらず、近視は抑制されるよりも促進される。レンズ補償効果からフォームデプリベーション効果への斯かる変化は像が画角から見て中心にあるろうが周辺にあろうが適用されることがある。このため、本発明が有効であるためには、周辺画角における最小量の負の相対像面湾曲が軸方向伸長に対する刺激をなくすのに十分でなければならない。それに対し、最大量の負の相対像面湾曲は周辺視像の重度の劣化を引き起こし、フォームデプリベーション近視をもたらすほど大きくてはいけない。我々は有効な処置の最小量の相対像面湾曲はほぼ+0.25D乃至+0.50Dの等値球面度数(spherical equivalent)(つまり最小錯乱円(circle of least confusion)で測った屈折状態)であると考える。我々は、フォームデプリベーション近視をもたらす、実質的な視力劣化が起こる前の最大量の相対像面湾曲は、ほぼ+3.50D乃至+4.00Dの等値球面度数であると考える。これは近視の有効な処置のための負の像面湾曲の上限を表す。
【0112】
本発明の1つの実施形態は、適量の負の相対像面湾曲を与えるように設計されたレンズを持つメガネを使用することである。斯かるメガネレンズの1つの例を図5aおよび図5cに示す。軸性近視の度数が−3Dの眼は正しい度数の標準的なメガネレンズ(例えば球面だけ)で矯正されるが、しかしこれは眼のレンズとの組み合わせの像面湾曲をコントロールまたは補正しようとはせず、本例の網膜における結果の相対像面湾曲は、図5aに示されたのと同様に、正になる可能性がある。この特定の眼を含む多くの光学系に特有なこととして、周辺画角に対しては、十分な量の放射状非点収差(一種の周辺収差)が存在する。これは図5aにおいて像面湾曲に対してプロットされた2本の曲線の存在によって示される。当業者には理解されるように、“T”でラベルされた曲線502は放射状非点収差の“タンジェンシャル(tangential)”焦線の焦点位置と相対像面湾曲を表し、“S”でラベルされた曲線504は放射状非点収差の“サジタル(sagittal)”焦線の焦点位置と相対像面湾曲を表す。
【0113】
アイケアプラクショナ(eye-care practitioners)が理解するように、非点収差は“単純型(simple)”非点収差、“複合型(compound)”非点収差または“混合型(mixed)”非点収差にカテゴライズすることができる。単純型非点収差は焦線の1つ(サジタルまたはタンジェンシャル)が網膜上に配置されたときに他方の焦線は網膜の前方(近視性単純型非点収差の場合)または後方(遠視性単純型非点収差の場合)に配置される。複合型非点収差はサジタル焦線とタンジェンシャル焦線の両方が網膜の同じ側(例えば両方とも網膜の前方、または両方とも網膜の後方)に配置されたときに起こる。例えば、複合型遠視性非点収差は両方の焦線が網膜の背後に配置されたときに起こる。混合型非点収差は一方の焦線が網膜の前方に配置され、他方の焦線が網膜の後方に配置されるときに起こる。斯かる場合、眼は非点収差の一方のメリジアンに沿っては遠視で、他方のメリジアンに沿っては近視である。このことから“混合”という言葉が使われる。
【0114】
乱視用レンズ(astigmatic lenses)を使用する近視の進行に関する実験が示しているところによれば、実質的に混合型の非点収差が存在す場合、眼はより後方に位置する焦線(つまり網膜の背後にある焦線)のところに網膜を配置し直す努力のうちに成長する傾向があるようである。それに対し、両方の焦線が網膜の後方に位置する複合型遠視性非点収差では、眼の成長は網膜により近い焦線(より前方に位置する焦線)に向かって網膜を配置し直すように作用する。とはいえ場合によっては、眼は網膜により近い焦線を超えて成長し、より後方に位置する焦線に向かって成長し続ける。
【0115】
従って図5aの場合、周辺タンジェンシャルフォーカス502は網膜よりも若干前方にあり、それに対して周辺サジタルフォーカス504はより後方に配置されている。眼はサジタルフォーカス504に向かう軸方向伸長の刺激(これは眼の成長と近視の進行をひきおこす)を経験することであろう。
【0116】
図5bのコンピュータ支援光学モデリングプログラム出力に示されたような、本発明の好ましいメガネレンズは、一例として、正しい屈折力(−3D)を与えるほかに、近視の進行をコントロールするのに適した適度の相対像面湾曲を網膜において与える。本特定例のメガネレンズ508は円錐曲線を持つ非球面レンズ面を利用しており、中心部の厚みが3mmで屈折率1.5168のガラスから作られている。このメガネレンズの裏面は頂点半径(apical radius)(r)が80mm、非球面度(形状係数(shape factor)p)は−893であるのに対し、前面(フロント面)は頂点半径(r)が259.5mmで形状係数(p)は−165.6である。
【0117】
レンズと近視眼の組み合わせの結果的な相対像面湾曲は図5cの相対像面湾曲に示されている。そこから分かるように、両方の非点焦点位置はこの場合網膜の前方に位置しており、それにより軸方向伸長を促進する一切の刺激が取り除かれ、結果、眼の近視の進行を停止し、近視者によっては進行を逆行させることができる。
【0118】
従来のメガネレンズ設計戦略に関する注意として、(レンズ表面形状、レンズ厚およびガラス材の屈折率を操作するための)限られた自由度のせいで、レンズ設計者は放射状非点収差(radial astigmatism)または像面湾曲のどちらか一方の収差のみをコントロールすることができ、両方はコントロールできないといった制約に拘束される。メガネレンズ設計に対する従来の哲学は2つの理由から放射状非点収差をコントロールし、かつ最小化し、もしくは無くすことにある。第1に、視力の劣化は像面湾曲よりも非点収差に強く依っていることが一般に受け入れられており、第2に、像面湾曲が存在する場合、眼は周辺焦点像を必要に応じて網膜上にシフトするように調整することが可能であると信じられている。本発明の目的に関しては、レンズ設計における像面湾曲のコントロールは非点収差のコントロールに優先する。というのも、近視の発症と進行に影響を及ぼすのに有効なものは前者、つまり像面湾曲の収差であるからである。さらに、網膜の周辺における視細胞(photoreceptor)密度は低く、結果、視力が周辺視野において大きく低下するので、本発明の設計アプローチは周辺視野における視力にあまり大きく影響しないと考える。
【0119】
光学エンジニアリングおよびレンズ設計の技術者であれば、負の相対像面湾曲を実現することができる設計アプローチは円錐曲線型非球面レンズだけでないことは直ちに理解されるであろう。眼と組み合わせて使用されたときに必要な像面湾曲を生み出す任意の曲面または光学設計を採用することができる。図6aにおいて、本発明のメガネレンズの表面602は円錐曲線と多項式の組み合わせを用いて設計された。このレンズは頂点半径(r)が75mm、形状係数(p)が−425の円錐曲線型曲面から成る裏面を有する。その前面(フロント面)はs=a+a+aの形の多項式によって記述される。ここでsは頂点(apex)からの表面の(軸に沿ってミリメートルで測られた)サジタル高(sagittal height)であり、xはレンズ軸からの動径方向の距離(ミリメートル)である。本設計ではa=0.003312、a=2.053×10−6およびa=−6.484×10−9。このレンズの中心厚は3mmで、屈折率が1.517のガラスで作られた。この特定例の設計も−3Dに適している。このメガネレンズの結果的な相対像面湾曲グラフを図6bに示す。このプロットから、タンジェンシャル焦点位置とサジタル焦点位置は両方とも網膜の前方に置かれているので、近視の発症と進行をもたらす軸方向伸長の刺激は取り除かれたことは明らかである。
【0120】
前の2例の好ましいメガネの設計では、放射状非点収差(radial astigmatism)のタンジェンシャル焦線とサジタル焦線は両方とも軸方向伸長に対する刺激を最大限なくすために実質的に網膜の前方に配置されるよう操作された。しかしながら、本発明の範囲内では、軸方向伸長の刺激の削減と、近視の発症の防止と進行の抑制はサジタル(より後方に位置する)焦線が網膜の後方に配置されていない限り達成可能である。従って、軸方向伸長の刺激の削減はサジタル焦線が網膜上に置かれたときにも実現可能である。
【0121】
図6cにおいて、本発明のメガネレンズの表面604は、サジタル(より後方の)焦線が網膜上または網膜の非常にわずか前方に存在するようにサジタル焦線を操作する特別の目的で設計された。このレンズは、円錐曲線と多項式の組み合わせを用い、頂点半径(r)が75mm、形状係数(p)が−122.8の円錐曲線型曲面から成る裏面を有する。その前面(フロント面)はs=a+a+aの形の多項式によって記述される。ここでsは頂点(apex or vertex)からの表面の(軸に沿ってミリメートルで測られた)サジタル高(sagittal height)であり、xはレンズ軸からの動径方向の距離(ミリメートル)である。本設計ではa=0.003285、a=−4.488×10−6およびa=1.631×10−8。このレンズの中心厚は3mmで、屈折率が1.517のガラスで作られた。この特定の設計例も−3D近視者に適している。このメガネレンズの結果的な相対像面湾曲グラフを図6dに示す。このプロットから、タンジェンシャル焦線は網膜の前方に配置されるように操作されており、それに対してサジタル焦線は実質的に網膜上または網膜のわずか前方に存在するように操作されている。どちらの焦線も網膜の背後にないので、近視の発症と進行をもたらす軸方向伸長の刺激は取り除かれている。さらに、デフォーカスのタイプ(度数が相対的により正か負か)が成長の方向性刺激(directional stimulus)(成長の増減)を導入する近視の発症の“sign of defocus”理論のもとでは、網膜の前方に配置された焦線(上記の例ではタンジェンシャル焦線)に関連する近視性デフォーカスは成長を抑制する正の刺激として働く。
【0122】
本例の設計例は焦線の1つが網膜上にあるときに眼に良好な周辺視機能を与えるという利益をもたらす。比較すると、前の二例の設計例は、タンジェンシャル焦線とサジタル焦線は両方とも網膜の前方に配置されているので、軸方向伸長に対する刺激をより大きく低減するという利益をもたらす。
【0123】
全ての(効果が)確実な設計例は軸方向伸長の刺激の削減を最大化するために両方の焦線を網膜の前方に配置することを目的としている。しかしながら、上記の例を踏まえて、光学エンジニアリングまたはレンズ設計の技術者にとっては、設計パラメータの賢明な選択により、軸方向伸長の刺激の削減を(両方の焦線を網膜の前方に配置することによって)最大化することができる、またはより良い周辺視機能を軸方向伸長の刺激をなんとか削減する利益を確保しながら(より後方の焦線を網膜上または網膜より若干前方に配置することによって)実現することができるということは明らかであろう。
【0124】
メガネ以外の光学矯正装置も本発明に基づいて近視をコントロールするために使用されることがある。特に、実質的に比較的眼の軸と同軸のままであり続ける光学矯正装置がより好ましい。それ故、本発明を実施するためのより好ましい方法はソフトコンタクトレンズを使用することである。図7aにおいて、本発明によるソフトコンタクトレンズ設計例の一つを、表面(フロント面)と裏面(バック面)のサジタル高と1つのハーフメリジアン(half-meridian)に沿ったその厚み分布のコンタクトレンズ設計プログラムプロットによって示す。裏面は頂点半径(r)が8.33mm、形状係数(p)が0.75の円錐曲線型曲面から成る。基本的な表面(フロント面)は頂点半径(r)が−0.615mm、形状係数(p)が0.007の円錐曲線型曲面から成り、この基本フロント面にはs=a+a+aの形の多項式で表されるサジタル高が加算される。ここでsは基本円錐曲線面(basic conic section surface)からの表面の(軸に沿ってミリメートルで測られた)追加サジタル高(additional sagittal height)であり、xはレンズ軸からの動径方向の距離(ミリメートル)である。本設計ではa=0.8695、a=0.004632およびa=3.470×10−5。このレンズは182μmの中心厚と、8.2mmのOZD(optic zone diameter)を持ち、−3D近視者の矯正と治療に適している。或る範囲のコンタクトレンズ材料のどれを用いることもできるが、本例のレンズはシリコーンヒドロゲル(silicone hydrogel)材料から作られると想定される。この材料は長時間装着または連続装着に適した高い酸素透過性を持ち、1.427の屈折率を持つことは、コンタクトレンズ分野の当業者には周知である。このソフトコンタクトレンズの結果的な相対像面湾曲グラフを図7bに示す。このプロットから、タンジェンシャル焦点位置とサジタル焦点位置は両方とも網膜の前方に置かれているので、近視の発症と進行をもたらす軸方向伸長の刺激は取り除かれていることは明らかである。
【0125】
上記の説明から、本発明の近視治療方法および装置は任意の度数の近視の矯正に実施することができることは明らかになろう。例えば、−10D近視者に適した本発明のソフトコンタクトレンズ設計例を図8aに示す。このレンズ設計例の裏面は頂点半径(r)が8.45mm、形状係数(p)が0.75の円錐曲線型曲面から成る。表面(フロント面)は、頂点半径(r)が1347.6mmの基本球面にs=a+a+a+aの形の多項式で表されるサジタル高が加算される。ここでsは基本球面からの表面の(軸に沿ってミリメートルで測られた)追加サジタル高(additional sagittal height)であり、xはレンズ軸からの動径方向の距離(ミリメートル)である。本設計ではa=0.004803、a=5.740×10−4、a=1.543×10−5およびa=−1.219×10−6。このレンズは100μmの中心厚と、8.2mmのOZD(optic zone diameter)を持ち、屈折率が1.427のコンタクトレンズ材料から作られる。このソフトコンタクトレンズの結果的な相対像面湾曲グラフを図8bに示す。このプロットから、タンジェンシャル焦点位置とサジタル焦点位置は両方とも網膜の前方に置かれているので、近視の発症と進行をもたらす軸方向伸長の刺激は取り除かれていることは明らかである。
【0126】
前述の議論を踏まえ、光学エンジニアリングまたはレンズ設計の技術者であれば、近視の進行を遅らせると同時に近視を矯正するための本発明のアプローチは、屈折性非点収差を補正するために、同じ光学装置の異なるメリジアンに異なる屈折力で適用することができることは直ぐに理解するであろう。
【0127】
本発明のコンタクトレンズ設計と同心円型(特に中心遠用タイプ)二重焦点コンタクトレンズのレンズ設計との間の違いに気付くことは重要である。中心遠用同心円型二重焦点コンタクトレンズ(center-distance concentric bifocal contact lenses)は周縁部に度数(正しい相対像面湾曲を実現するために必要とされるより高い正の度数に似ているかもしれない)を持つのに対し、斯かるコンタクトレンズの二重焦点性(つまり2つの実効屈折力を持ち、従って同時に2つの焦点を持つ)は図9a乃至図9cに説明されるように近視のコントロールに対して比較的実効性がない。
【0128】
図9aに示すように、中心遠用同心円型二重焦点(遠近両用)コンタクトレンズ900は、遠くの視対象906からの光904を中心窩908(中心網膜)にフォーカスする(焦点を合わせる)中心円形ゾーン902と、近い視対象912からの光911を同時に同じく中心窩908にフォーカスする、中心ゾーン902を取り囲んでいる外側同心環状ゾーン910とを有する。“同時視型(simultaneous vision)”二重焦点レンズと呼ばれるのは斯かるコンタクトレンズの同時フォーカシング作用のせいである。斯かる同時視型同心円二重焦点コンタクトレンズは一般的には老眼矯正に使用されている。
【0129】
実際には、同心円型二重焦点(遠近両用)コンタクトレンズは中心遠用型(center-distance)(前述したもの)かまたは中心近用型(center-near)が可能である。中心近用同心円型二重焦点レンズは、近見(near vision)の際は瞳孔サイズを小さく絞る行為と整合する利点のせいで(これは眼が近見用にフォーカスするときは瞳孔サイズも減少する反射的な行為に起因する)、より一般的に使用されている。
【0130】
中心遠用(従って周囲近用)フォーカスを実現するため、斯かる同心円型二重焦点コンタクトレンズは中心ゾーンよりも大きい正の度数を持つ周辺ゾーンを有する。斯かるレンズは、おざなりな観察で、負の相対像面湾曲を与えるレンズと間違って同一視されるが、(中心近用同心円型二重焦点レンズはより負の度数の周辺部を持つことから本発明のコンタクトレンズと似ていない)、本発明の設計と比較すると、それらは図9bに示すようにそれらの二重焦点性のせいで近視のコントロールにおいて実効性がない。中心遠用同心円型二重焦点コンタクトレンズ914は遠い物体918を見ている眼916の上に置かれる。レンズ「914」の二重焦点性のせいで、全ての視野位置に2つの焦点が形成される。従って、中心視野922からのコンタクトレンズ914の中心遠用光学ゾーン924を通過する光920は中心窩926に焦点を結び、物体918の鮮明な像を形成する。この眼の中に正の相対像面湾曲928が存在するせいで、中心遠用光学ゾーン924を通過する周辺視野930からの光929は網膜934の背後の位置932に結像する。同時に、コンタクトレンズ914の環状近用光学ゾーン938を通過する中心視野922からの光936は網膜934および中心窩926の前方の短焦点940に焦点を結ぶ。短焦点はそれ自身の像面湾曲942を持ち、環状近用光学ゾーン938を通過する周辺視野930からの光944は短焦点像面湾曲942上に存在するポイント946に結像するようになっている。長焦点と短焦点の相対像面湾曲の網膜および中心窩との位置関係を相対像面湾曲グラフとして図9cに示す。二重焦点性の存在により、空間内にある任意の物体の網膜像の質は、離心に関係なく、網膜において鮮明な像(長焦点または短焦点)と、潜在的に軸方向成長のフォームデプリベーション刺激でもあるぼやけた像(それぞれ短焦点または長焦点)が重なるせいで、常に劣化することになることにも注意すべきである。
【0131】
我々の実験において、我々は、2つの焦線を作り出す乱視用レンズを用いることによって、2つの軸方向焦線の位置が網膜に与えられると、眼は最小錯乱円ではなく一方の焦線まで成長する傾向があることを示してきた。複合型遠視性非点収差(両方の軸方向焦線は網膜の後方に配置される)の場合、眼は、より前方に配置した焦線まで網膜を配置し直すように成長する傾向があると考えられる。単純型遠視性非点収差(一方の焦線が網膜上に配置され、他方の焦線は網膜の後方に配置される)では、眼の成長はより前方に位置する焦点ラインを網膜上に安定化し、維持することがあるが、しかし場合によっては、眼は、より後方に配置した焦線まで網膜を配置し直すことがある。混合型非点収差(一方の焦線は網膜の前方に配置され、他方の焦線は網膜の後方に配置される)では、眼は網膜をより後方に配置された焦線まで配置し直すように成長する。
【0132】
二重焦点コンタクトレンズを使用する近視防止の意図は、近用光学ゾーンを使用することにより、近見作業(読書など)の間に必要とされる調整量を減らし、および/または、その間に近見の際に生じるデフォーカス量を減らすことにある。しかしながら、図9cに見られるように、遠像と近像が両方同時に存在するほかに正の相対像面湾曲が存在するせいで、遠像面に向かう眼の成長の刺激(矢印948の方向)は軸方向伸長950と近視の発症または進行をもたらすことになる。このことはなぜ二重焦点レンズの使用が全ての人にとって近視のコントロールにおいて有効ではなかったかを説明する。近視のコントロールは、本発明が教示したように、相対像面湾曲の操作によって有効になるであろう。
【0133】
本発明は既存の近視者の近視の進行を遅らせたりあるいは逆行(好転)させたりするために使用することができるが、それはまた‘at-risk’カテゴリーに属する人、例えば近視の両親がいるとかあるいは長期の近見作業(勉強またはコンピュータ操作)のせいで将来高い確率で近視を発症する恐れのある人など、の近視の発症を防止するために使用することもできる。近視でないかもしれないが近視傾向のある人に対しては、本発明はゼロ屈折力のレンズ(アイケアプラクショナによって“plano”とも呼ばれている)で実施することができる。本発明のアプローチを近視の発症を防止するために取り入れている斯かるゼロ屈折力レンズの一例を図10aに示す。このレンズ設計例の裏面は頂点半径(r)が8.45mm、形状係数(p)が0.75の円錐曲線型曲面から成る。表面(フロント面)は、頂点半径(r)が14.75mmの基本球面にs=a+a+a+aの形の多項式で表されるサジタル高が加算される。ここでsは基本球面からの表面の(軸に沿ってミリメートルで測られた)追加サジタル高(additional sagittal height)であり、xはレンズ軸からの動径方向の距離(ミリメートル)である。本設計ではa=0.02553、a=5.900×10−4、a=2.564×10−5およびa=−1.437×10−6。このレンズは249.2μmの中心厚と、8.2mmのOZD(optic zone diameter)を持ち、屈折率が1.427のコンタクトレンズ材料から作られる。このソフトコンタクトレンズの結果的な相対像面湾曲グラフを図10bに示す。このプロットから、タンジェンシャル焦点位置とサジタル焦点位置は両方とも網膜の前方に置かれているので、近視の発症を開始することができる軸方向伸長の刺激は取り除かれていることは明らかである。
【0134】
一部の人にとっては特定用途として、軸方向伸長を刺激することができることが有利な場合がある。例えば、これは遠視の度数を低減するために遠視者に行われることがある。斯かる個人において遠視度数を低減する1つの利益は近見フォーカシング能力の改善である。眼球成長の誘導を通して遠視度数を低減するために本発明の基本アプローチの逆アプローチを用いることができる。図11aは+6D遠視者を正視状態に戻すのに適した本発明のソフトコンタクトレンズ設計例を示している。このレンズ設計例の裏面は半径(r)が8.60mmの球面から成る。表面(フロント面)は、半径(r)が−614.7mmの基本球面にs=a+a+aの形の多項式で表されるサジタル高が加算される。ここでsは基本球面からの表面の(軸に沿ってミリメートルで測られた)追加サジタル高(additional sagittal height)であり、xはレンズ軸からの動径方向の距離(ミリメートル)である。本設計ではa=0.06605、a=1.400×10−4、a=6.190×10−5。このレンズは249μmの中心厚と、8.2mmのOZD(optic zone diameter)を持ち、屈折率が1.427のコンタクトレンズ材料から作られる。このソフトコンタクトレンズの結果的な相対像面湾曲グラフを図11bに示す。このプロットから、タンジェンシャル焦点位置とサジタル焦点位置は両方とも網膜の後方(背後)に置かれていることが見て取れる。この設定において、遠視の低減をもたらす眼の成長を開始することができる軸方向伸長の刺激が惹起される。
【0135】
図12a乃至図12iは、非点収差と高次収差を含む複雑な光学的異常(optical error)を部分的に矯正すると同時に、近視をコントロールするために相対像面湾曲を操作する、本発明の高度な応用を示している。本発明の近視コントロールにおけるこの技術は眼の波面収差(一般的に高次収差を含む)を補正すると同時に適正度の相対像面湾曲を与える。このアプローチは近視の進行を遅らせるのに必要とされる適切な刺激を維持しつつ更に改善された視力を与えることができる。
【0136】
個人の収差(‘非点収差’、メガネレンズまたはトーリック(toric)コンタクトレンズにおいてシリンダ矯正を用いて通常は矯正可能な非球面な光学的欠陥を含む)と特に高次収差(例えば“コマ収差”、メガネなどの従来の視力矯正装置では一般的に矯正可能でないタイプの収差)はある範囲の既存の眼球波面センサ(例えばHartmann-Shack装置)を用いて測定することができる。一個人の眼の波面収差のマップの一例を図12aに示す。この波面マップの非対称性からこの眼は相当量の非点収差およびコマ収差を有していることが分かる。
【0137】
定量解析のため、視覚科学者と光学エンジニアは波面収差をゼルニケ(Zernike)多項式で表すことができることを知っている。収差を記述するこの方法の更なる利点は、ゼルニケ多項式の各項は光学エンジニアまたは視覚科学者に馴染みのある収差タイプに関係しているということである。例えば、係数Zは眼の光学系における非点収差を示している。Zは眼の光学系にコマ収差が存在することを示している。図12aに示した例では、非点収差(Z)のゼルニケ係数の大きさは−0.446μm、コマ収差のゼルニケ係数(Z−1)の大きさは−0.344μmである。
【0138】
この個人の眼に関する相対像面湾曲を図12b乃至図12dに示す。非点収差およびコマ収差を含む非対称収差が存在するせいで、相対像面湾曲はメリジアンが異なれば異なる。図12b、図12c、および図12dはそれぞれ水平ハーフメリジアン(horizontal half-meridian)、上部垂直ハーフメリジアン(upper-vertical half-meridian)、下部垂直ハーフメリジアン(lower-vertical half-meridian)に対する相対像面湾曲を示している。加えて、図12b乃至図12dに示されているようにこの眼は中心視野において正視状態に近く、それに対して、両方の非点(タンジェンシャルおよびサジタル)像面はハーフメリジアンのほとんどの広がりに沿って主に網膜の後方に位置しており、近視の発症または進行をもたらす軸方向伸長および眼の成長の刺激を惹起する。
【0139】
本発明の原理に基づいて設計された光学装置は眼の高次収差を部分的に矯正しながら相対像面湾曲を操作することができる。この構成は収差補正の利益の一部を追加的に提供しながら近視の進行の遅延と可能性のある逆行を促進すると考えられる。以下このような例について図12e乃至図12iを参照して説明する。本例に関しては、ソフトコンタクトレンズが使用された。しかしながら、当業者であれば、高次眼球収差の補正に適した任意の光学装置が使用できることは理解されるであろう。本発明のコンタクトレンズ設計を上記眼球波面収差に適用することによって、結果的な波面収差は非点収差とコマ収差が十分削減されていると同時に近視の発症または進行をコントロールするのに適した相対像面湾曲を与えていることを実証している。これは図12eの中の結果的な波面マップに明確に見られる。非対称性がないことは非点収差とコマ収差が効果的に消されたことを示している。補正された波面の結果のゼルニケ(Zernike)係数のうち、非点収差に関連する係数(Z)が0.0144μmに、コマ収差に関連する係数(Z−1)が−0.0086μmに減少したことは、非点収差とコマ収差がかなり削減されたことを示しており、視力の改善がそれにより促進される。
【0140】
本例における眼の波面収差は回転非対称であるので、コンタクトレンズ設計例も(本ケースでは非点収差とコマ収差を補正するために)回転非対称であり、最適性能が得られるように眼に対して正しい姿勢(コンタクトレンズプラクショナによって“ロケーション”とも呼ばれる)に維持される必要があると思われる。斯かる非対称コンタクトレンズの正しい姿勢に適した設計要素はコンタクトレンズの当業者には周知なものであり、プリズムバラスト法(prism ballasting)、ダイナミック・シン・ゾーン(dynamic thin zones)および‘スラブオフ(slab-off)’の設計を含む。非対称に設計されているコンタクトレンズの製作も当業者には周知であって、コンピュータ制御の多軸旋盤およびミルを含む。
【0141】
波面収差補正コンポーネントに関して、斯かる非対称レンズ設計の光学面の記述は通常は一連のゼルニケ(Zernike)多項式係数で表すことができる。本例のソフトコンタクトレンズ設計例を図12f乃至図12hに示す。これらの図はそれぞれ水平ハーフメリジアン(図12f)、上部垂直ハーフメリジアン(図12g)、下部垂直ハーフメリジアン(図12h)に沿った表面(フロント面)と裏面(バック面)のサジタル高とその厚みのコンタクトレンズ設計プログラムのプロットを示している。このソフトコンタクトレンズ設計例はその基本光学面に対して円錐曲線と多項式の組み合わせを利用している。このレンズ設計例の裏面は頂点半径(r)が8.33mm、形状係数(p)が0.75の円錐曲線型曲面から成る。基本表面(基本フロント面)は、頂点半径(r)が0.3712mm、形状係数(p)が0.004667の円錐曲線であり、それにs=a+a+a+aの形の多項式で表される追加サジタル高(基本面に付加される厚みで、軸に沿ってミリメートルで測られる)が加算される。ここでsは基本円錐曲線面からの表面の追加サジタル高(additional sagittal height)であり、xはレンズ軸からの動径方向の距離(ミリメートル)である。本設計ではa=−1.288、a=−0.01078、a=−1.540×10−4およびa=−9.261×10−6。非対称収差を補正するために必要な非対称面プロファイルを導入するため、追加サジタル高は円錐曲線面とゼルニケ(Zernike)多項式を用いて記述された多項式面と複合面に加えられる。特に、本例の表面(フロント面)の設計に関しては、ゼルニケ(Zernike)多項式は、大きさが−0.002146μmの傾斜係数(Z−1)、大きさが0.007828μmの非点収差係数(Z)、大きさが0.01442μmのコマ収差係数(Z−1)を含む。
【0142】
このレンズは224μmの中心厚と8.0mmのOZDを有する。この例示的なレンズは屈折率が1.427のシリコーンヒドロゲル(silicone hydrogel)材料から作られると想定される。このソフトコンタクトレンズの結果的な相対像面湾曲グラフを図12iに示す。非点収差とコマ収差は効果的に消されているので、結果的な相対像面湾曲は回転対称に与えられているので、全てのメリジアンを示すのに唯一つのグラフで十分である。このプロットから、タンジェンシャル焦点位置とサジタル焦点位置は両方とも網膜の前方に置かれているので、近視の発症と進行をもたらす軸方向伸長の刺激は取り除かれたことは明らかである。
【0143】
平均以上の視力(ときによっては“スーパービジョン(super-vision)”とも呼ばれる)を実現する最近の発展は、収差が補正された装置を作り出すことによって、眼の収差、または眼と装置の複合体の収差、あるいは単に矯正装置の収差を低減または無くすことである。スーパービジョンを実現する斯かる設計アプローチは優れた視力を与えるかもしれないが、装着者における近視の進行を遅らせたり、止めたり、あるいは逆行させるには不十分である。
【0144】
実際、像面湾曲をコントロールしない現行の従来型装置は近視に実際に寄与するか、あるいは引き起こすといまでは考えられている。このようにして、本発明に関連して提示された所見を踏まえると、既知の従来型装置は近視の発症の点で少なくとも不利で、潜在的には有害な可能性があると信じられている。
【0145】
本発明の光学装置の設計は、眼収差の補正にも適用された場合は、収差の補正による中心視力の最適化のために設計されたものとは大きく異なる。平均以上の視力またはスーパービジョンを実現するためなどに、レンズが眼の収差(“高次収差”を含む)を大きく減らすかまたは無くしたりするように設計される場合、目的は中心の中心窩視力に対して波面収差を最適化することにある。中心の中心窩視力に特別の注意を払う理由はこの領域における網膜の解像度が(網膜光受容細胞の密度が最も高いせいで)最も高い(最も視力を与える)からである。この領域の外側では、網膜光受容細胞密度は急速に減少する。中周辺網膜では、密度はこの領域において改善された視力を与えるよう収差の補正を保証するのに不十分である。これとは対照的に、本発明によれば、近視の進行を遅らせるかまたは止めるために、中心窩、中周辺網膜および周辺網膜を含む網膜全体にわたって像位置の相対位置によって支配される相対像面湾曲が近視の発症と進行をコントロールするのに不可欠である。
【0146】
上記の説明を読んでいる当業者にとっては、本発明の光学装置による相対像面湾曲の操作はいくつかの追加的な方法で実施することができることは明らかであろう。例えば、光学面のプロファイルを定義するために円錐曲線または多項式を利用する代わりに、スプライン、Beziers、フーリエ合成(Fourier synthesis)、Zernike多項式、またはこれらの任意の組み合わせ、またはルックアップテーブルによるポイント単位の面ディスクリプタ若しくは類似のアプローチなど、他の面ディスクリプタを使用することができる。さらに、本発明の光学装置の設計は光学面プロファイルの設計に限定されない。
【0147】
コンタクトレンズ設計者には馴染みがあるように、少なくとも2つの追加の設計の変数(レンズ厚と屈折率)が利用可能である。眼視力矯正装置にとって現実的な範囲のレンズ厚はレンズ収差をコントロールすることにおいて小さな影響しか持たないが、それはレンズ性能を微細にコントロール(微制御)するために操作することができる。従って本発明の装置の厚みは上記の実施形態で利用されたレンズ厚に制約されない。
【0148】
本発明の装置の屈折率も収差および光学性能の設計およびコントロールにおいて或る役割を果たす。眼科用装置に利用される広範囲の材料が本発明の装置に使用されることがある。これらの材料の屈折率の範囲は約1.33(例えば角膜インレーおよびオンレーにおける使用に適した高多孔性材料)乃至約1.9(好ましくは約1.893の屈折率を持つ薄型メガネレンズを作るために使用される高屈折率ガラス)である。従って本発明の装置の屈折率は上記の実施形態に利用される屈折率に制約されない。
【0149】
さらに、屈折率はより洗練された方法で利用することができる。フレネル型光学素子、ホログラフィック光学素子または回折光学素子が単体であるいは互いに組み合わせて、あるいは表面プロファイルアプローチと組み合わせて使用される場合など、例えば、GRN(gradient refractive index)材料が相対像面湾曲を操作するために使用される場合がある。
【0150】
本発明は、処方された所定量の適切な周辺収差、特に相対像面湾曲を用いて設計された眼用装置が提供され、直接的な所定の屈折力変化が生じるような、多数の方法で実現することができる。
【0151】
重要な要件は、本発明の設計は良好な中心視野フォーカスを網膜および中心窩に確保すると同時に相対像面湾曲を操作することにより周辺像を網膜の前方に配置することで軸方向伸長の刺激を削減することによって良好な視力を利用できるようにすることである。
【0152】
本発明は更に本発明の方法および装置が眼の既に存在している屈折異常を矯正ために必要とされる任意の処方に適用することができることを意図している。例えば、−6D処方が適度な相対像面湾曲とともに装置に導入されることがあり、それにより−6D近視装着者に継続的な良好な矯正視力を提供すると同時に装着者の近視の進行を遅らせる。
【0153】
当然、近視の度数が減少したときは、その低減したレベルの近視との整合性が維持されるように適切に減らされた屈折矯正力を持つ新たな矯正装置が導入される。
【0154】
本発明は例えば大量成形技術により大量生産装置として、または特注で設計された装置として実現することができる。大量生産装置の場合、相対像面湾曲は近視者の一般的な部分母集団に適するように設計されることがある。例えば、−3D近視者の近視の進行を遅らせることが意図された大量生産用−3D処方装置に関して、その設計は−3D近視者の既に存在する眼球相対像面湾曲の補正を含む。このようにして、有用な効果は多くの個人において人口平均された大量生産された設計によって実現することができる。
【0155】
しかしながら特定の個人に対しては、特注で設計された装置を用いて最適な近視遅延効果が実現される。特注で設計された装置に関しては、個別の目的とする装着者の既に存在する相対像面湾曲を含む実際の眼球収差は例えば或る範囲の利用可能な眼科用波面センサの1つ(例えばHartmann-Shack装置)を用いて測定することができ、斜めまたは軸外の眼球軸の長さはOCTその他のタイプの干渉計または高解像度超音波装置を用いて測定される。中心視野フォーカスを維持しながらネットの負の相対像面湾曲を実現するために、特注の設計では実際の既に存在する相対像面湾曲を考慮に入れる。
【0156】
本発明は更に遠視眼を正視状態に戻すことを促進することを意図している。これは適度の正の相対像面湾曲を装置に導入し、それにより軸方向伸長を促進し、結果的に遠視を低減することによって実現される。
【0157】
好ましい実施形態はソフトまたはRGPコンタクトレンズの形態にあるが、本発明は他のタイプのコンタクトレンズ(例えば、角膜/強膜コンタクトレンズおよび2つ以上のコンタクトレンズが直列に装着される“ピギーバック”システム)、メガネ、IOL、人口角膜(例えばインレー、オンレー、人工角膜インプラント)、前眼房レンズのほか、角膜矯正療法もしくは屈折矯正手術(例えば、表層角膜移植術、LASIK、PRK、LASEKなど)を含む角膜もしくは上皮リモデリングもしくはスカルプティングによって)で実施することができることは当業者には直ぐに明らかであろう。RGPまたは触覚/強膜コンタクトレンズのほか角膜矯正療法用途で使われるコンタクトレンズの場合、光学設計はティアレンズ(tear lens)(コンタクトレンズの後面と角膜の前面との間の涙層によって作られる)の光学的な影響も考慮に入れて操作される。
【0158】
屈折異常と眼球収差をリアルタイムに矯正する潜在力を持った能動光学装置(例えば波面矯正システムおよび“補償光学(adaptive optics)”システム)を潜在的に導入することで、本発明の設計アプローチは斯かる装置に組み込まれることもできることが意図されている。
【0159】
当業者であれば、上記説明の中で示された教示の恩恵を得て、本発明の上記実施形態の多くの変更、変形、および他の実施形態を思いつくことができよう。よって本発明は開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、それらの変更された実施形態および他の実施形態は特許請求の範囲の請求項によって画定される本発明の範囲内に含まれることが意図されている。上記説明において特定の用語が採用されているが、それらは総称的かつ記述的な意味において使用されており、限定目的では使用されてはいない。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】一般光学系の像面湾曲の軸外周辺収差を説明するための光学図である。
【図2】眼の相対像面湾曲とその様々なタイプを説明するための、眼の光学図と相対像面湾曲グラフを示す図である。
【図3】相対像面湾曲がいかにして周辺視野において相対的にローカルな遠視を近視眼にもたらすかと、いかにして周辺視野において相対的にローカルな近視を遠視眼にもたらすかを説明するための、眼の光学図と相対像面湾曲グラフを示す図である。
【図4】本発明の原理を詳しく示すための、眼の光学図、実験結果のグラフおよび相対像面湾曲グラフを示す図である。図4aおよび図4bは、特に過小矯正における近視治療の従来のアプローチで、軸上または中心視野の屈折状態のみに対処するものを示している。図4cおよび図4dは、近視の発症、進行および退行のコントロールにおいて果たす周辺視野の重要な役割を実証する1つの実験を示している。図4eおよび図4fは、本発明の原理と近視の進行のコントロールにおける相対像面湾曲の効果を詳しく示している。図4gおよび図4hは、本発明の原理のもとで、過小矯正アプローチの相対的な無効性の根拠を説明している。図4i乃至図4lは眼が既に正の相対像面湾曲を有している場合の本発明の原理を詳しく示している。
【図5】円錐曲線によって記述されるレンズ表面を用いたメガネレンズ設計として実施された本発明の1つの実施形態の原理を説明するための、相対像面湾曲グラフを示す図および光線追跡図である。本例のメガネレンズ設計例は−3D近視者の近視の進行を遅らせたり、止めたり、あるいは逆行させるのに適している。
【図6】本発明の別の実施形態を、円錐曲線と多項式曲面の組み合わせを用いて実施されたメガネレンズ設計例として示す図である。本設計例は−3D近視者の近視の進行を遅らせたり、止めたり、あるいは逆行させるのに適している。図6aおよび図6bは放射状非点収差に付随するサジタル焦線およびタンジェンシャル焦線の両方が周辺網膜の前方に配置されるように相対像面湾曲を変更することに重点を置いた設計例を示している。図6cおよび図6dは放射状非点収差に付随するサジタル焦線が周辺網膜上または周辺網膜よりわずか前方に配置されるように相対像面湾曲をよりデリケートに変更するための設計例を示している。
【図7】本発明の更に別の実施形態によるコンタクトレンズを示す図である。図7aはハーフメリジアン(half-meridian)に沿った前面と後面のプロファイルおよび厚みプロファイルを示すコンタクトレンズの設計例を示しており、図7bはコンピュータ支援光線追跡プログラム出力を相対像面湾曲グラフの形で示している。そのグラフには、−3D近視者の近視の進行を遅らせたり、止めたり、または逆行させるのに適した、本発明のソフトコンタクトレンズの設計例および相対像面湾曲性能が示されている。
【図8】本発明の更に別の実施形態によるコンタクトレンズを示す図である。図8aはコンタクトレンズの設計例を示しており、図8bは計算された相対像面湾曲グラフを示している。そのグラフには、−10D近視者の近視の進行を遅らせたり、止めたり、または逆行させるのに適した、本発明のソフトコンタクトレンズの設計例および相対像面湾曲性能が示されている。
【図9】本発明の原理のもとで、同心円型二重焦点コンタクトレンズの相対的な無効性の根拠と近視の進行の抑制を試みるための類似のアプローチを説明するための図である。
【図10】本発明の更に別の実施形態による、近視傾向のある非近視者の近視の発症を防止するのに適した0ジオプトリ(plano power)を有する相対像面湾曲をコントロールするためのソフトコンタクトレンズの設計例を示す図である。
【図11】本発明の更に別の実施形態による、遠視を正視状態に戻すために相対像面湾曲をコントロールして軸方向伸長と眼の成長を刺激するための本発明のソフトコンタクトレンズの設計例を示す図である。
【図12】本発明の更に別の実施形態として、相対像面湾曲をコントロールすると同時に眼の高次収差を部分的に矯正するためのソフトコンタクトレンズの設計の高度な応用を示す図である。
【図13】例1で概説された手続きに従って無傷の中心窩および中心窩周囲網膜(peri-foveal)に対して実行された手続きの結果を示す図である。
【図14】例2で概説された手続きに従って無傷の中心窩および中心窩周囲網膜(peri-foveal)に対して実行された手続きの結果を示す図である。
【図15】例3で概説された手続きに従って中周辺網膜から遠周辺網膜にかけて実行された手続きの結果を示す図である。
【図16】例4で概説された手続きに従って中周辺網膜から遠周辺網膜にかけて実行された手続きの結果を示す図である。
【図17】例5で概説された手続きに従って負の度数のレンズと正の度数のレンズを用いて実行された手続きの結果を示す図である。
【図1a】

【図1b】

【図1c】

【図2a】

【図2b】

【図2c】

【図2d】

【図2e】

【図2f】

【図2g】

【図2h】

【図3a】

【図3b】

【図3c】

【図3d】

【図4a】

【図4b】

【図4c】

【図4d】

【図4e】

【図4f】

【図4g】

【図4h】

【図4i】

【図4j】

【図4k】

【図4l】

【図5a】

【図5b】

【図5c】

【図6a】

【図6b】

【図6c】

【図6d】

【図7a】

【図7b】

【図8a】

【図8b】

【図9a】

【図9b】

【図9c】

【図10a】

【図10b】

【図11a】

【図11b】

【図12a】

【図12b】

【図12c】

【図12d】

【図12e】

【図12f】

【図12g】

【図12h】

【図12i】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学収差をコントロールして相対像面湾曲を変えるための方法であって、
収差をコントロールする所定の設計がなされた眼用システムを提供するステップと、
中心軸上焦点に対して周辺軸外焦点の前後位置をコントロールするステップであって、このコントロールにより実質的に矯正力を有する刺激を少なくとも1つ作り出す、ステップと、
周辺軸外焦点の前後位置をコントロールするステップを、中心軸上焦点の前後位置を網膜近くになるよう同時にコントロールしながら実行して、前記実質的に矯正力を有する刺激を眼に与えて眼の成長を変えるステップと、
眼の軸方向伸長の刺激を削減しながら実質的に同時に所定の中心視野フォーカスを確保することにより、眼の網膜と眼の中心窩とに対して実質的に同時に鮮明な視像を提供するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
周辺軸外焦点の前後位置をコントロールするための眼用システムを提供するステップは、眼の角膜から眼の網膜に向かって、角膜から網膜までの距離に等しい距離にある位置かまたはそれよりも近い距離にある位置に周辺軸外焦点を配置し直すステップを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
周辺軸外焦点の前後位置をコントロールするステップは、非点収差を示す眼用システムに対して、非点収差によって作り出された周辺軸外焦線を配置し直すステップであって、その非点収差によって作り出された2つの周辺軸外焦線のうち、第2の周辺軸外焦線よりも眼の角膜に近い位置にある第1の周辺軸外焦線を、眼の角膜から眼の周辺網膜に向かって、角膜から周辺網膜までの距離に等しい距離にある位置かまたはそれよりも近い距離にある位置に配置し直すステップを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
近視を示している眼に対してその近視が緩和されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
近視を示している眼に対してその近視が緩和されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
眼用システムを提供して周辺軸外焦点の前後位置をコントロールするステップは、眼の角膜から眼の網膜に向かって、角膜から網膜までの距離よりも遠い距離にある位置に周辺軸外焦点を配置し直すステップを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
周辺軸外焦点の前後位置をコントロールするステップは、非点収差を示す眼用システムに対して、非点収差によって作り出された周辺軸外焦線を配置し直すステップであって、その非点収差によって作り出された2つの周辺軸外焦線のうち、第2の周辺軸外焦線よりも眼の角膜から遠い位置にある第1の周辺軸外焦線を、眼の角膜から眼の周辺網膜に向かって、角膜から周辺網膜までの距離に等しい距離にある位置かまたはそれよりも遠い距離にある位置に配置し直すステップを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
遠視を示している眼に対してその遠視が緩和されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
遠視を示している眼に対してその遠視が緩和されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
眼用システムは、眼鏡、コンタクトレンズ、オンレー、インレー、前眼房レンズ、眼内レンズ、角膜矯正療法、屈折矯正角膜スカルプティング、およびこれらの組み合わせから成るグループから選択されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項11】
コンタクトレンズは、連続装用コンタクトレンズと長時間装用コンタクトレンズから成るグループから選択されることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
屈折矯正角膜スカルプティング法は、表層角膜移植術、角膜熱形成術、LASIK手術、LASEK手術、PRK手術から成るグループから選択されることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
眼用システムは、眼鏡、コンタクトレンズ、オンレー、インレー、前眼房レンズ、眼内レンズ、角膜矯正療法、屈折矯正角膜スカルプティング、およびこれらの組み合わせから成るグループから選択されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項14】
コンタクトレンズは、連続装用コンタクトレンズと長時間装用コンタクトレンズから成るグループから選択されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
屈折矯正角膜スカルプティング法は、表層角膜移植術、角膜熱形成術、LASIK手術、LASEK手術、PRK手術から成るグループから選択されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
刺激は実質的に継続的に与えられることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項17】
像の相対位置を網膜の中心窩、中周辺網膜および遠周辺網膜にわたってコントロールすることによって相対像面湾曲をコントロールするステップを含む、網膜を持つ眼における近視または遠視の発症と進行を変更する方法。
【請求項18】
眼に与えられた軸外周辺収差をコントロールすることによって相対像面湾曲をコントロールするステップを含む、眼における近視または遠視の発症と進行を変更する方法。
【請求項19】
眼の軸方向伸長の周辺網膜刺激を削減するステップを含む、眼における近視または遠視の発症と進行を変更する方法。
【請求項20】
中心軸上焦点に対する周辺軸外焦点の前後位置をコントロールして、眼の成長を変えるための実質的に矯正力を有する眼への刺激を少なくとも1つ作り出す所定の矯正ファクタを有し、
周辺軸外焦点の位置のコントロールは、中心軸上焦点の前後位置を網膜近くになるよう同時にコントロールして、実質的に同時に鮮明な視像を提供する間に実行され、その上で当該システムは眼の網膜および眼の中心窩に所定の中心視野フォーカスを確保し、それと実質的に同時に眼の軸方向伸長の刺激を削減するように構成されていることを特徴とする眼用システム。
【請求項21】
周辺軸外焦点の前後位置をコントロールする前記所定の矯正ファクタは、眼の角膜から眼の網膜に向かって、角膜から網膜までの距離に等しい距離にある位置かまたはそれよりも近い距離にある位置に周辺軸外焦点を配置し直すステップを更に予測通りにコントロールすることを特徴とする請求項20に記載の眼用システム。
【請求項22】
周辺軸外焦点の前後位置をコントロールするステップは、非点収差を示す眼用システムに対して、非点収差によって作り出された周辺軸外焦線を配置し直すステップであって、その非点収差によって作り出された2つの周辺軸外焦線のうち、第2の周辺軸外焦線よりも眼の角膜に近い位置にある第1の周辺軸外焦線を、眼の角膜から眼の周辺網膜に向かって、角膜から周辺網膜までの距離に等しい距離にある位置かまたはそれよりも近い距離にある位置に配置し直すステップを更に含むことを特徴とする請求項20に記載の眼用システム。
【請求項23】
周辺軸外焦点の前後位置をコントロールする前記所定の矯正ファクタは、眼の角膜から眼の網膜に向かって、角膜から網膜までの距離よりも遠い距離にある位置に周辺軸外焦点を配置し直すステップを更に予測通りにコントロールすることを特徴とする請求項20に記載の眼用システム。
【請求項24】
周辺軸外焦点の前後位置をコントロールするステップは、非点収差を示す眼用システムに対して、非点収差によって作り出された周辺軸外焦線を配置し直すステップであって、その非点収差によって作り出された2つの周辺軸外焦線のうち、第2の周辺軸外焦線よりも眼の角膜から遠い位置にある第1の周辺軸外焦線を、眼の角膜から眼の周辺網膜に向かって、角膜から周辺網膜までの距離に等しい距離の位置かまたはそれよりも遠い位置に配置し直すステップを更に含むことを特徴とする請求項20に記載の眼用システム。
【請求項25】
眼鏡、コンタクトレンズ、オンレー、インレー、前眼房レンズ、眼内レンズ、角膜矯正療法、屈折矯正角膜スカルプティング、およびこれらの組み合わせから成るグループから選択されることを特徴とする請求項21に記載の眼用システム。
【請求項26】
コンタクトレンズが、連続装用コンタクトレンズと長時間装用コンタクトレンズから成るグループから選択されることを特徴とする請求項25に記載の眼用システム。
【請求項27】
屈折矯正角膜スカルプティング法は、表層角膜移植術、角膜熱形成術、LASIK手術、LASEK手術、PRK手術から成るグループから選択されることを特徴とする請求項25に記載の眼用システム。
【請求項28】
眼鏡、コンタクトレンズ、オンレー、インレー、前眼房レンズ、眼内レンズ、角膜矯正療法、屈折矯正角膜スカルプティング、およびこれらの組み合わせから成るグループから選択されることを特徴とする請求項23に記載の眼用システム。
【請求項29】
コンタクトレンズは、連続装用コンタクトレンズと長時間装用コンタクトレンズから成るグループから選択されることを特徴とする請求項28に記載の眼用システム。
【請求項30】
屈折矯正角膜スカルプティング法は、表層角膜移植術、角膜熱形成術、LASIK手術、LASEK手術、PRK手術から成るグループから選択されることを特徴とする請求項28に記載の眼用システム。
【請求項31】
眼に少なくとも1つの所定の刺激を与えるための所定の収差と、中心軸上焦点に対する周辺軸外焦点の前後位置を予測通りにコントロールすることとを有する眼用装置であって、
所定の処方された度数を更に有し、この所定の処方度数は、中心軸上焦点の前後位置を網膜上に予測通りにコントロールして、実質的に鮮明な視像を提供するものであり、
実質的に同時に眼の軸方向伸長の刺激を削減しながら眼の網膜および中心窩に所定の中心視野フォーカスを確保し、
眼と実質的に軸方向にアライメントされた状態を維持するように構成されていることを特徴とする眼用装置。
【請求項32】
周辺軸外焦点の前後位置をコントロールするための所定の収差は、眼の角膜から眼の網膜に向かって、角膜から網膜までの距離に等しい距離にある位置かまたはそれよりも近い距離にある位置に周辺軸外焦点を配置し直すことを更に予測通りにコントロールすることを特徴とする請求項31に記載の眼用装置。
【請求項33】
周辺軸外焦点の前後位置をコントロールするステップは更に、眼と組み合わさったときに非点収差を示す装置に対して、非点収差によって作り出された周辺軸外焦線を配置しなおすステップであって、その非点収差によって作り出された2つの周辺軸外焦線のうち、第2の周辺軸外焦線よりも眼の角膜に近い位置にある第1の周辺軸外焦線を、眼の角膜から眼の周辺網膜に向かって、角膜から周辺網膜までの距離に等しい距離にある位置かまたはそれよりも近い距離にある位置に配置し直すステップを含むことを特徴とする請求項31に記載の眼用装置。
【請求項34】
周辺軸外焦点の前後位置をコントロールするための所定の収差は、眼の角膜から眼の網膜に向かって、角膜から網膜までの距離よりも遠い距離にある位置に周辺軸外焦点を配置し直すことを更に予測通りにコントロールすることを特徴とする請求項31に記載の眼用装置。
【請求項35】
周辺軸外焦点の前後位置をコントロールするステップは、眼と組み合わさったときに非点収差を示す装置に対して、非点収差によって作り出された周辺軸外焦線を配置し直すステップであって、その非点収差によって作り出された2つの周辺軸外焦線のうち、第2の周辺軸外焦線よりも眼の角膜から遠い位置にある第1の周辺軸外焦線を、眼の角膜から眼の周辺網膜に向かって、角膜から周辺網膜までの距離に等しい距離にある位置かまたはそれよりも遠い距離にある位置に配置し直すことを更に含むことを特徴とする請求項31に記載の眼用装置。
【請求項36】
眼鏡、コンタクトレンズ、オンレー、インレー、前眼房レンズ、眼内レンズから成るグループから選択されることを特徴とする請求項32に記載の眼用装置。
【請求項37】
前記コンタクトレンズが、連続装用コンタクトレンズと長時間装用コンタクトレンズから成るグループから選択されることを特徴とする請求項36に記載の眼用装置。
【請求項38】
眼鏡、コンタクトレンズ、オンレー、インレー、前眼房レンズ、および眼内レンズから成るグループから選択されることを特徴とする請求項34に記載の眼用装置。
【請求項39】
前記コンタクトレンズは、連続装用コンタクトレンズと長時間装用コンタクトレンズから成るグループから選択されることを特徴とする請求項38に記載の眼用装置。
【請求項40】
シリコーンヒドロゲル含有材料から作られることを特徴とする請求項31に記載の眼用装置。
【請求項41】
眼に少なくとも1つの所定の刺激を与えるための所定の収差と、中心軸上焦点に対する周辺軸外焦点の前後位置を予測通りにコントロールすることとを有する眼用装置であって、
所定の処方された度数を更に有し、この所定の処方度数は、中心軸上焦点の前後位置を網膜上に予測通りにコントロールして、実質的に鮮明な視像を提供するものであり、
眼に提供される軸外周辺焦点の位置をコントロールして相対像面湾曲をコントロールすることによって、眼の軸方向伸長の刺激を削減しながら実質的に同時に眼の網膜および眼の中心窩に所定の中心視野フォーカスを確保し、
眼と実質的に軸方向にアライメントされた状態を維持するように構成されていることを特徴とする眼用装置。
【請求項42】
相対像面湾曲の最小度数は約+0.00D乃至約+0.50Dにあることを特徴とする請求項41に記載の眼用装置。
【請求項43】
相対像面湾曲の最大度数は約+3.50D乃至約+4.00Dにあることを特徴とする請求項41に記載の眼用装置。
【請求項44】
前記眼用システムは、眼鏡、コンタクトレンズ、オンレー、インレー、前眼房レンズ、眼内レンズ、角膜矯正療法、屈折矯正角膜スカルプティング、およびこれらの組み合わせから成るグループから選択されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項45】
前記眼用システムは、眼鏡、コンタクトレンズ、オンレー、インレー、前眼房レンズ、眼内レンズ、角膜矯正療法、屈折矯正角膜スカルプティング、およびこれらの組み合わせから成るグループから選択されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項46】
刺激は実質的に継続的に与えられることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項47】
刺激は実質的に継続的に与えられることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項48】
刺激は実質的に継続的に与えられることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項49】
眼鏡、コンタクトレンズ、オンレー、インレー、前眼房レンズ、眼内レンズ、角膜矯正療法、屈折矯正角膜スカルプティング、およびこれらの組み合わせから成るグループから選択されることを特徴とする請求項22に記載の眼用システム。
【請求項50】
眼鏡、コンタクトレンズ、オンレー、インレー、前眼房レンズ、眼内レンズ、角膜矯正療法、屈折矯正角膜スカルプティング、およびこれらの組み合わせから成るグループから選択されることを特徴とする請求項24に記載の眼用システム。
【請求項51】
眼鏡、コンタクトレンズ、オンレー、インレー、前眼房レンズ、および眼内レンズから成るグループから選択されることを特徴とする請求項33に記載の眼用装置。
【請求項52】
眼鏡、コンタクトレンズ、オンレー、インレー、前眼房レンズ、および眼内レンズから成るグループから選択されることを特徴とする請求項35に記載の眼用装置。

【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2009−525835(P2009−525835A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554479(P2008−554479)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/061702
【国際公開番号】WO2007/092853
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(506170915)ヴィジョン・シーアールシー・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】