説明

相転移インクおよびその製造方法

【課題】インクジェット印刷に好適である新規な固体インク組成物の提供
【解決手段】非晶質構成成分、結晶性材料、および場合により着色剤を含む固体インク組成物であって、コーティングされた紙基材での印刷を含むインクジェット印刷に好適である組成物。実施形態において、非晶質および結晶性構成成分の両方は、エステル化反応から合成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、室温にて固体であり、溶融インクが基材に適用される高温においては溶融状態であることを特徴とする固体インク組成物に関する。これらの固体インク組成物は、インクジェット印刷のために使用できる。本実施形態は、非晶質構成成分、結晶性材料、および場合により着色剤を含む新規な固体インク組成物、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、相転移インク(「ホットメルトインク」と称される場合もある)は、周囲温度において固相状態であるが、インクジェット印刷デバイスの高い操作温度では液相状態で存在する。ジェット操作温度において、液体インクの液滴は、印刷デバイスから放出され、インク液滴が記録媒体表面と接触したときに、直接または中間加熱転写ベルトもしくはドラムを介して、液滴は素早く固化し、固化したインク液滴の所定のパターンを形成する。
【0003】
カラー印刷のための相転移インクは、通常、相転移インク相溶性の着色剤と組み合わせた相転移インクキャリア組成物を含む。特定の一実施形態において、一連の着色された相転移インクは、インクキャリア組成物を相溶性の減法混色の原色と組み合わせることによって形成できる。減法混色の原色の着色相転移インクは、4つの構成成分染料または顔料、すなわちシアン、マゼンタ、イエローおよびブラックを含み得るが、インクはこれらの4つの色に限定されない。これらの減法混色の原色着色インクは、単一染料または顔料、または染料もしくは顔料の混合物を用いることによって形成できる。
【0004】
相転移インクは、輸送、長期間貯蔵などの間、室温にて固相状態を保つので、インクジェット印刷機に望ましい。加えて、液体インクジェットインクのインク蒸発の結果としてノズル目詰まりに関連する問題が大きく除外され、それによってインクジェット印刷の忠実度を改善する。さらに、インク液滴が最終記録媒体(例えば、紙、透明材料など)に直接適用される相転移インクジェット印刷機において、液滴は、記録媒体と接触直後に固化し、印刷媒体に沿ったインクの移動が防止され、ドット品質が改善される。
【0005】
上述の従来の固体インク技術は、一般に鮮明な画像を製造し、ジェット使用の経済性および多孔質紙にて基材自由度を与えるのに成功している一方で、こうした技術はコーティングされた紙については満足するものではない。故に、既知の組成物およびプロセスはそれらの意図する目的に好適であるが、コーティングされた紙基材上に画像または印刷を形成するための追加手段を必要とする。このように、すべての基材に対して優れた画像堅牢性を顧客に提供するための代替組成物を見出すことが必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に例示される実施形態によれば、コーティングされた紙基材上での印刷を含むインクジェット印刷に好適なクエン酸から合成される非晶質材料を含む新規な固体インク組成物を提供する。
【0007】
特に、本実施形態は、非晶質構成成分および結晶性構成成分を含む相転移インクを提供し、この非晶質構成成分は、式
【化1】

を有するクエン酸エステルであり、
式中、R、R、およびRは、それぞれ互いに独立に、または同一または異なることができることを意味して、アルキル基からなる群から選択され、ここでこのアルキル部分は、直鎖、分岐または環状の飽和または不飽和の置換または非置換であり、約1〜約40個の炭素原子を有する基、あるいは置換または非置換の芳香族またはヘテロ芳香族基、およびこれらの混合物であることができ、この結晶性構成成分は、次の構造、
【化2】

を有する脂肪族直鎖二酸のエステルであり、
式中Rは、置換または非置換アルキル鎖であってもよく、−(CH1−から−(CH12−からなる群から選択され、式中、RおよびRは、それぞれ互いに独立にまたは同一もしくは異なることができることを意味して、アルキル基からなる群から選択され、ここでアルキル部分は、直鎖、分岐または環状の飽和または不飽和の置換または非置換であり、約1〜約40個の炭素原子を有する基、あるいは置換または非置換の芳香族またはヘテロ芳香族基、およびこれらの混合物であることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態に従うビス(4−メトキシフェニル)オクタンジオエートの示差走査熱量測定(DSC)の図である(DSCデータは、Q1000示差走査熱量計(TA Instruments)にて、10℃/分の速度にて−50から、200〜−50℃までで得た)。
【図2】本実施形態に従うビス(4−メトキシフェニル)オクタンジオエートのレオロジーデータを例示するグラフである。
【図3】本実施形態に従うインクサンプルのレオロジーデータを例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
すべてのレオロジー測定は、Peltier加熱プレートを備えたRFS3制御された歪レオメータ(TA instruments)にて、25mm平行プレートを用いて行った。使用された方法は、5℃の温度増加分にて、各温度の間は120秒の浸漬(平衡)時間で、1Hzの一定周波数にて高温から低温に温度を一掃させた。
【0010】
固体インク技術は、多くの市場に対して印刷能および顧客基盤を拡大し、印刷用途の多様性は、プリントヘッド技術、プリントプロセスおよびインク材料の有効な集積によって促進される。固体インク組成物は、室温(例えば20〜27℃)にて固体であり、溶融インクが基材に適用される高温においては溶融状態であることを特徴とする。上記で議論されたように、現在のインク選択肢は多孔質紙基材について成功しているが、これらの選択肢はコーティングされた紙基材については必ずしも満足するものではない。
【0011】
固体インク配合物における結晶性および非晶質構成成分の混合物を用いることにより、堅牢性インクを提供し、特にコーティングされた紙上に堅牢性の画像を示す固体インクを提供することを見出した。結晶性材料は、示差走査熱量測定(DSC)によって溶融および結晶化ピークを示す材料を指す。反対に、非晶質材料は、溶融および結晶化ピーク、唯一のガラス転移温度(T)またはガラス転移温度を示さない。結晶性材料について、小分子は、一般に固化するときに結晶化する傾向があり、低分子量有機固体は一般に結晶である。結晶性材料は一般に硬質であり、より抵抗性であるが、こうした材料は相当脆弱でもあり、結果として主に結晶性のインク組成物を用いて製造された印刷物は損傷に対して非常に感受性となる。非晶質材料に関して、高分子量非晶質材料、例えばポリマーは、高温で粘稠になり、粘着性の液体になるが、高温では十分に低い粘度を示さない。結果として、ポリマーは、所望の噴出温度(≦140℃)にてプリントヘッドノズルから噴出させることができない。しかし、本実施形態において、堅牢性の固体インクは、結晶性および非晶質構成成分のブレンドを通して得ることができることを見出した。
【0012】
本実施形態は、それぞれ約60:40〜約95:5の重量比において(1)結晶性および(2)非晶質構成成分のブレンドを含む固体インク組成物の新規なタイプを提供する。より詳細な実施形態において、結晶性構成成分と非晶質構成成分との重量比は、約65:35〜約95:5、または約70:30〜約90:10である。実施形態の1つでは、重量比は70:30である。別の実施形態において、重量比は80:20である。一般の実施形態において、結晶性構成成分は、固体インクの総重量の60重量%以上を含む。一般の実施形態において、非晶質構成成分は、固体インクの総重量の5重量%以上を含む。
【0013】
結晶性構成成分は、インクに硬度を付与し、非晶質樹脂のタックを削減し、冷却時の迅速な結晶化を通してインクの相変化を駆動する。非晶質樹脂は、インクに可撓性および靭性を与え、ならびにインク中の他の材料を共に結合するように設計される。本実施形態に使用される非晶質材料は、小さい分岐分子に基づく。
【0014】
インク配合物中の結晶性構成成分は、冷却時の迅速な結晶化を通して相変化を駆動する。結晶性構成成分はまた、最終インクフィルムの構造を設定し、非晶質構成成分のタックを低下させることによって硬質インクを創製する。これらの材料は、噴出範囲において(約95〜約150℃、または約100〜約140℃)にて、溶融時に結晶化を示さず、相対的に低粘度(≦10センチポイズ(cps)、または約0.5〜約10cps、または約1〜約10cps、または約1.5〜約9cps)を示し、室温にて高い粘度(>10cps)を示す。結晶性構成成分はインクの相変化に影響するので、必要に応じて直後のさらなるプリント処理(すなわち展延、両面印刷など)を可能にし、コーティングされていない基材に過剰の裏写りを防止するために、迅速な結晶化が必要とされる。示差走査熱量測定(DSC)(−50から、200〜−50℃まで10℃/分)によって、所望の結晶性構成成分は、シャープな結晶化および溶融ピークを示し、ΔT(Tmelt−Tcrys)は55℃未満である。結晶性構成成分の相転移温度は、一般に70℃〜130℃で生じる。融点は150℃未満でなければならず、これは噴出温度の上限であり、または好ましくは約145℃未満または約140℃未満である。融点は、65℃を超えるのが好ましく、65℃まで、またはより好ましくは約66℃を超える、または約67℃を超える温度にあるときにブロッキングおよびプリント転写を妨げる。
【0015】
非晶質構成成分は、タックを提供し、印刷されたインクに堅牢性を付与する。実施形態において、所望の非晶質材料は、約140℃で相対的に低い粘度(<10cps、または約1〜約100cps、または約5〜約95cps、または約10〜約90cps)を有するが、室温にて非常に高い粘度(約>10cps)を有する。一般に、非晶質構成成分の粘度は、40℃未満の温度にて106cpsを超える。約140℃での低い粘度は、広い配合自由度を提供する一方で、室温での高い粘度が堅牢性を付与する。非晶質材料は、Tを有するが、結晶化およびDSC(−50から、200〜−50℃まで10℃/分)では溶融ピークを示さない。T値は、通常、約10〜約50℃、または約10〜約45℃、または約10〜約40℃、または約10℃〜約35℃であり、所望の強靭性および可撓性をインクに付与する。選択された非晶質材料は、1000g/mol未満、または約100〜約1000g/mol、または約200〜約1000g/mol、または約300〜約1000g/molのような低分子量を有する。高分子量の非晶質材料、例えばポリマーは、高温で粘稠になり、粘着性の液体になるが、所望の温度では圧電プリントヘッドを用いて噴出可能になるには高すぎる粘度を有する。
【0016】
一般に、非晶質構成成分は、式
【化3】

を有するクエン酸エステルであり、
式中、R、R、およびRはそれぞれ互いに独立に、または同一または異なることができることを意味して、アルキル基からなる群から選択され、ここでこのアルキル部分は、直鎖、分岐または環状の飽和または不飽和の置換または非置換であり、約1〜約40個の炭素原子を有する基、あるいは置換または非置換の芳香族またはヘテロ芳香族基、およびこれらの混合物であることができる。一般に、結晶性構成成分は、次の構造、
【化4】

を有し、
式中Rは、置換または非置換アルキル鎖であってもよく、−(CH1−から−(CH12−からなる群から選択され、式中、RおよびRは、それぞれ互いに独立にまたは同一もしくは異なることができることを意味して、アルキル基からなる群から選択され、ここでアルキル部分は、直鎖、分岐または環状の飽和または不飽和の置換または非置換であり、約1〜約40個の炭素原子を有する基、あるいは置換または非置換の芳香族またはヘテロ芳香族基、およびこれらの混合物であることができる。
【0017】
結晶性材料は、脂肪族直鎖二酸または脂肪族直鎖酸塩化物のエステル化反応によって合成される。材料は、シャープな結晶化を示し、相対的に低い粘度(約140℃での噴出温度にて<10cps、または約0.5〜約10cps、または約1〜約10cps、または約1〜約10cps、または約2〜約10cps)を示すが、室温にて非常に高い粘度(>10cps)を有する。これらの材料は、150℃未満、または約65〜約150℃、または約66〜約145℃、または約67〜約140℃の溶融温度(Tmelt)を有し、65℃を超える、またはより好ましくは約66℃または約67℃を超える結晶化温度(Tcrys)を有する。特定の一実施形態において、結晶性材料は116℃のTmeltおよび80℃のTcrysを有する。
【0018】
直鎖二酸は、構造の単純さ、広い利用可能性、潜在的な生物由来内容物(すなわちアゼライン酸)および高度な結晶性の性質のために結晶性構成成分のための骨格材料として選択した。本実施形態のために選別された直鎖二酸骨格材料は、次の構造、
【化5】

を有していたが、式中Rは1〜12個の炭素原子数を有する直鎖アルキル鎖である。しかし、得られたデータに基づいて、潜在的な直鎖二酸の骨格材料は、これらの選択肢だけに限定されない。
【0019】
選別中、種々のアルコールは反応して、以下のスキーム1に示されるようなジエステルを製造した。
【化6】

式中、Rは1〜12個の炭素原子数を有する直鎖アルキル鎖であり、ROHは一般に、置換基として種々のR基を有する芳香族アルコールである例えば、実施形態において、ROHは、
【化7】

およびこれらの混合物からなる群から選択されてもよい。
【0020】
反応は、(A)室温にてジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)および4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)試薬を用いる単純な1工程Steglichエステル化、または(B)トルエン中のアルコールおよび二酸を触媒としてのp−トルエンスルホン酸を用いて縮合させることによって行った。経路Bは、一般に4−メチルベンジルアルコールとの反応のためのものであった。所望の生成物をスキーム1に記載される条件を用いて達成不可能であった状況において(すなわち、不完全または副反応のために)、対応する二塩化物は、以下に示されるように塩基としてDMAPおよび触媒を用いてテトラヒドロフラン(THF)中でアルコールと反応させた。
【化8】

式中、RおよびROHは上記で定義された通りである。有利であるけれども、これらのインクの結晶性構成成分は、ジカルボン酸から誘導されるエステルに制限されず、ジオールから誘導されるエステルに拡張され得る。
【0021】
非晶質材料は、クエン酸の1工程エステル化反応によって合成される。これらの材料は、結晶化を示さず、高温にて相対的に低い粘度(<10cps、または約1〜約100cps、または約5〜約95cps)を有するが、室温にて非常に高い粘度(約>10cps)を有する。
【0022】
上記構成成分の約140℃での低い粘度は広い配合自由度を提供する。室温での高い粘度は、堅牢性を付与する。これらの特徴により、これらの材料が、本実施形態の固体インクのための結晶性および非晶質構成成分のための良好な選択肢となる。
【0023】
本実施形態において、固体インク組成物は、エステル化反応から合成された新規な結晶性および非晶質材料を用いることによって得られる。固体インク組成物はまた、着色剤と組み合わせて結晶性および非晶質材料を含んでいてもよい。本実施形態は、液体から固体へのシャープな相転移を実現するためにバランスのとれた非晶質および結晶性材料を含み、所望のレベルの粘度を維持しながら、硬質および堅牢性の印刷画像を促進する。このインクで製造されたプリントは、市販のインクにも優る利点、例えばスクラッチに対する良好な堅牢性を実証した。故に、結晶性および非晶質構成成分のブレンドを含む得られたインク組成物は、良好なレオロジー特性および改善されたインク性能を示す。K−プルーフによってコーティングされた紙上に固体インク組成物によって創製されたプリントサンプルは、顕著な堅牢性を実証した。さらに、これらのエステルベースは、潜在的な生物由来供給源に起因した低コストというさらなる利点を有する。
【0024】
K−プルーファーは、印刷所での共通の試験装置である。この場合、K−プルーファーは、印刷プレートを加熱して固体インクを溶融するように変更されている。使用されるK−プルーファーは、それぞれ約9.4×4.7cmの3つの長方形グラビアパターンを有する。第1の長方形のセル密度は、通常100%であり、第2のセル密度は80%、第3のセル密度は60%である。実際、このK−プルーフプレートは、厚さ約5ミクロン(または高さ)のフィルム(またはピクセル)をもたらす。試験インクは、加熱されたグラビアプレートにわたって展延され、試験プリントは、試験紙が固定されているプレート表面にわたってワイピングブレードを通過させ、その直後にゴムロールを通過させることによって製造される。ロールが通過するときに、インクはグラビアセルから紙に転写される。
【0025】
本実施形態において、固体インク組成物はまた、着色剤と組み合わせた結晶性および非晶質材料を含んでいてもよい。本実施形態は、液体から固体へのシャープな相転移を実現するためにバランスのとれた非晶質および結晶性材料を含み、所望のレベルの粘度を維持しながら、硬質および堅牢性の印刷画像を促進する。このインクで製造されたプリントは、市販のインクにも優る利点、例えばスクラッチに対する良好な堅牢性を実証した。故に、結晶性および非晶質構成成分のブレンドを含む得られたインク組成物は、良好なレオロジー特性を示し、インクジェット印刷に関する多くの要件を満たす。
【0026】
インク組成物は、特定実施形態において、インク組成物に存在する顔料または染料であってもよい着色剤を、インク組成物の総重量の少なくとも約0.1重量%〜約50重量%、または少なくとも約0.2重量%〜約20重量%、または約0.5重量%〜約10重量%の量で含む。実施形態において、結晶性材料は、インク組成物の総重量の約60重量%〜約95重量%、または約65重量%〜約95重量%、または約70重量%〜約90重量%で存在する。実施形態において、非晶質材料は、インク組成物の総重量の約5重量%〜約40重量%、または約5重量%〜約35重量%、または約10重量%〜約30重量%の量で存在する。
【0027】
実施形態において、得られた固体インクは、約140℃の温度で約1〜約14cps、または約2〜約13cps、または約3〜約12cpsの粘度を有する。実施形態において、固体インクは、室温にて約>10cpsの粘度を有する実施形態において、固体インクは、10℃/分の速度にてDSCによって測定される場合に、約65〜約150℃、または約65〜約135℃、約70〜約130℃のTmelt、および約40〜約140℃、または約45〜約130℃、約50〜約125℃のTcrysを有する。
【0028】
結晶性構成成分
前述した通り、結晶性構成成分を製造するために使用されるエステル化反応は、1工程反応によって行われた。
【0029】
図1は、ビス(4−メトキシフェニル)オクタンジオエートの示差走査熱量測定(DSC)データを示す。ここの材料は、116℃のシャープで明確な溶融温度(T)、および80℃の結晶化温度(Tcryst)を示したが、これはこの材料が結晶性固体であることを示す。TおよびTcrystの間の相対的に狭いギャップは迅速な相変化につながり、この材料を、インクの結晶性構成成分について特に良好な選択肢にする。図2は、ビス(4−メトキシフェニル)オクタンジオエートのレオロジーデータを示す。この材料は、高温にて相対的に低い粘度(<10cps)を有するが、室温にて非常に高い粘度(>10cps)を有する。噴出範囲(100〜140℃)での低い粘度が、高い配合自由度を与える。室温での高い粘度は硬度を付与する。これらの特徴によりまた、この材料は、結晶性構成成分についての良好な選択肢になる。
【0030】
非晶質構成成分
エステル化は、1工程反応によって行われた。反応した10個の異なるアルコールのうち、DL−メントールは、安定な非晶質トリエステルを形成するための最良の材料として同定された。L−メントールおよびt−ブチルシクロヘキサノールのトリエステルは非晶質に固化するだけでなく、部分的に結晶化する。フェネチルアルコールおよびシクロヘキサノールのトリエステルは冷蔵庫で結晶化する。合成されたトリエステルの残りは、室温で粘稠な液体であった。本実施形態にて使用されるべき好適なアルコールは、アルキルアルコールからなる群から選択されてもよく、ここでアルコールのアルキル部分は、直鎖、分岐または環状の飽和または不飽和の置換または非置換であり、1〜約40個の炭素原子を有する基、あるいは置換または非置換の芳香族またはヘテロ芳香族基、およびこれらの混合物であることができる。実施形態において、3モル当量以上のアルコールは、クエン酸のトリエステルを製造するための反応中に使用されてもよい。2モル当量のアルコールが使用される場合、結果は大部分がジエステルであり、1モル当量のアルコールが使用される場合、結果は大部分がモノエステルである。
【0031】
実施形態のインクは、従来の添加剤をさらに含み、こうした従来の添加剤と関連した既知の機能を活用してもよい。こうした添加剤としては、例えば少なくとも1つの酸化防止剤、消泡剤、スリップおよび平滑剤、浄化剤、粘度調整剤、接着剤、可塑剤などを挙げることができる。
【0032】
インクは、場合により、酸化から画像を保護するための酸化防止剤を含有してもよく、インク貯蔵器にて加熱された溶融物として存在しつつ酸化からインク構成成分を保護してもよい。好適な酸化防止剤の例としては、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナムアミド)(IRGANOX1098、BASFから入手可能)、2,2−ビス(4−(2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナモイルオキシ))エトキシフェニル)プロパン(TOPANOL−205、Vertullusから入手可能)、トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート(Aldrich)、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)フルオロホスホナイト(ETHANOX−398、Albermarle Corporationから入手可能)、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニルジホスホナイト(Aldrich)、ペンタエリスリトールテトラステアレート(TCI America)、トリブチルアンモニウム次亜リン酸塩(Aldrich)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メトキシフェノール(Aldrich)、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(4−メトキシベンジル)フェノール(Aldrich)、4−ブロモ−2,6−ジメチルフェノール(Aldrich)、4−ブロモ−3,5−ジジメチルフェノ−ル(Aldrich)、4−ブロモ−2−ニトロフェノール(Aldrich)、4−(ジエチルアミノメチル)−2,5−ジメチルフェノール(Aldrich)、3−ジメチルアミノフェノール(Aldrich)、2−アミノ−4−tert−アミルフェノール(Aldrich)、2,6−ビス(ヒドロキシメチル)−p−クレゾール(Aldrich)、2,2’−メチレンジフェノール(Aldrich)、5−(ジエチルアミノ)−2−ニトロソフェノール(Aldrich)、2,6−ジクロロ−4−フルオロフェノール(Aldrich)、2,6−ジブロモフルオロフェノール(Aldrich)、α−トリフルオロ−o−クレゾール(Aldrich)、2−ブロモ−4−フルオロフェノール(Aldrich)、4−フルオロフェノール(Aldrich)、4−クロロフェニル−2−クロロ−1,1,2−トリ−フルオロエチルスルホン(Aldrich)、3,4−ジフルオロフェニル酢酸(Adrich)、3−フルオロフェニル酢酸(Aldrich)、3,5−ジフルオロフェニル酢酸(Aldrich)、2−フルオロフェニル酢酸(Aldrich)、2,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸(Aldrich)、エチル−2−(4−(4−(トリフルオロメチル)フェノキシ)フェノキシ)プロピオネート(Aldrich)、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニルジホスホナイト(Aldrich)、4−tert−アミルフェノール(Aldrich)、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェネチルアルコール(Aldrich)、NAUGARD76、NAUGARD445、NAUGARD512、およびNAUGARD524(Chemtura Corporationが製造)など、ならびにこれらの混合物が挙げられる。存在する場合、酸化防止剤は、いずれかの所望のまたは有効な量、例えばインクの約0.25重量%〜約10重量%またはインクの約1重量%〜約5重量%でインク中に存在してもよい。
【0033】
実施形態において、本明細書で記載される相転移インク組成物はまた、着色剤を含む。従って本実施形態のインクは、着色剤を有するまたは有していないインクであることができる。いずれかの所望のまたは有効な着色剤は、着色剤がインクキャリア中に溶解または分散できる限り、相転移インク組成物に利用されることができ、それらとしては染料、顔料、これらの混合物などが挙げられる。インクキャリア中に分散または溶解でき、他のインク構成成分と相溶性である限り、いかなる染料または顔料が選択されてもよい。相変化キャリア組成物は、従来の相転移インク着色剤材料、例えばカラーインデックス(C.I.)溶媒染料、分散染料、改質酸および直接染料、塩基性染料、硫黄染料、バット染料などと組み合わせて使用できる。好適な染料の例としては、Neozapon Red492(BASF)、Orasol Red G(Pylam Products)、Direct Brilliant PinkB(Oriental Giant Dyes)、Direct Red3BL(Classic Dyestuffs)、Supranol Brilliant Red3BW(Bayer AG)、Lemon Yellow6G(United Chemie)、Light Fast Yellow3G(Shaanxi)、Aizen Spilon Yellow C−GNH(Hodogaya Chemical)、Bemachrome Yellow GD Sub(Classic Dyestuffs)、Cartasol Brilliant Yellow4GF(Clariant)、Cibanone Yellow2G(Classic Dyestuffs)、Orasol Black RLI(BASF)、Orasol Black CN(Pylam Products)、Savinyl Black RLSN(Clariant)、Pyrazol Black BG(Clariant)、Morfast Black101(Rohm&Haas)、Diaazol Black RN(ICI)、Thermoplast Blue 670(BASF)、Orasol BlueGN(Pylam Products)、Savinyl Blue GLS(Clariant)、Luxol Fast Blue MBSN(Pylam Products)、Sevron Blue5GMF(Classic Dyestuffs)、Basacid Blue750(BASF)、Keyplast Blue(Keystone Aniline Corporation)、Neozapon Black X51(BASF)、Classic Solvent Black7(Classic Dyestuffs)、Sudan Blue670(C.I.61554)(BASF)、Sudan Yellow146(C.I.12700)(BASF)、Sudan Red462(C.I.26050)(BASF)、C.I.Disperse Yellow238、Neptune Red Base NB543(BASF、C.I.Solvent Red49)、Neopen Blue FF−4012(BASF)、Lampronol Black BR(C.I.Solvent Black35)(ICI)、Morton Morplas Magenta36(C.I.Solvent Red172)、金属フタロシアニン着色剤が挙げられる。ポリマー染料はまた、例えばMilliken&CompanyからMilliken Ink Yellow869として、Milliken Ink Blue92、Milliken Ink Red357、Milliken Ink Yellow1800、Milliken Ink Black8915−67、uncut Reactint Orange X−38、uncut Reactint Blue X−17、Solvent Yellow 162、Acid Red52、Solvent Blue44、およびuncut Reactint Violet X−80から市販されるものが使用できる。
【0034】
顔料はまた、相転移インクのための好適な着色剤である。好適な顔料の例としては、PALIOGEN Violet5100(BASF)、PALIOGEN Violet5890(BASF)、HELIOGEN Green L8730(BASF)、LITHOL Scarlet D3700(BASF)、SUNFAST Blue15:4(Sun Chemical)、Hostaperm Blue B2G−D(Clariant)、Hostaperm Blue B4G(Clariant)、Permanent Red P−F7RK、Hostaperm Violet BL(Clariant)、LITHOL Scarlet4440(BASF)、Bon Red C(Dominion Color Company)、ORACET Pink RF(BASF)、PALIOGEN Red3871K(BASF)、SUNFAST Blue15:3(Sun Chemical)、PALIOGEN Red3340(BASF)、SUNFAST Carbazole Violet23(Sun Chemical)、LITHOL Fast Scarlet L4300(BASF)、SUNBRITE Yellow17(Sun Chemical)、HELIOGEN Blue L6900、L7020(BASF)、SUNBRITE Yellow74(Sun Chemical)、SPECTRA PAC C Orange16(Sun Chemical)、HELIOGEN Blue K6902、K6910(BASF)、SUNFAST Magenta122(Sun Chemical)、HELIOGEN Blue D6840、D7080(BASF)、Sudan Blue OS(BASF)、NEOPEN Blue FF4012(BASF)、PV Fast Blue B2GO1(Clariant)、IRGALITE Blue GLO(BASF)、PALIOGEN Blue6470(BASF)、Sudan Orange G(Aldrich)、Sudan Orange220(BASF)、PALIOGEN Orange3040(BASF)、PALIOGEN Yellow152、1560(BASF)、LITHOL Fast Yellow0991K(BASF)、PALIOTOL Yellow1840(BASF)、NOVOPERM Yellow FGL(Clariant)、Ink Jet Yellow4G VP2532(Clariant)、Toner Yellow HG(Clariant)、Lumogen Yellow D0790(BASF)、Suco−YellowL1250(BASF)、Suco−Yellow D1355(BASF)、Suco Fast Yellow D1355、D1351(BASF)、HOSTAPERM Pink E02(Clariant)、Hansa Brilliant Yellow5GX03(Clariant)、Permanent Yellow GRL02(Clariant)、Permanent RubineL6B05(Clariant)、FANAL Pink D4830(BASF)、CINQUASIA Magenta(DU PONT)、PALIOGEN Black L0084(BASF)、Pigment Black K801(BASF)、およびカーボンブラック、例えばREGAL 330(商標)(Cabot)、Nipex150(Evonik)Carbon Black5250およびCarbon Black5750(Columbia Chemical)など、ならびにこれらの混合物が挙げられる。
【0035】
インクベース中の顔料分散液は、共力剤および分散剤によって安定化されてもよい。一般に、好適な顔料は、有機材料または無機材料であってもよい。磁気材料系顔料はまた、例えば堅牢性磁気インク文字認識(MICR)インクの製造に好適である。磁気顔料としては、磁気ナノ粒子、例えば強磁性ナノ粒子が挙げられる。
【0036】
実施形態において、溶媒染料が利用される。明細書に使用するのに好適な溶媒染料の例としては、本明細書に開示されるインクキャリアとの相溶性のためにスピリットソルブル染料を挙げることができる。好適なスピリット溶媒染料の例としては、Neozapon Red492(BASF)、Orasol Red G(Pylam Products)、Direct Brilliant Pink B(Global Colors)、Aizen Spilon Red C−BH(Hodogaya Chemical)、Kayanol Red3BL(Nippon Kayaku)、Spirit Fast Yellow3G、Aizen Spilon Yellow C−GNH(Hodogaya Chemical)、Cartasol Brilliant Yellow4GF(Clariant)、Pergasol Yellow5RA EX(Classic Dyestuffs)、Orasol Black RLI(BASF)、Orasol BlueGN(Pylam Products)、Savinyl Black RLS(Clariant)、Morfast Black101(Rohm and Haas)、Thermoplast Blue670(BASF)、Savinyl BlueGLS(Sandoz)、Luxol Fast Blue MBSN(Pylam)、Sevron Blue5GMF(Classic Dyestuffs)、Basacid Blue750(BASF)、Keyplast Blue(Keystone Aniline Corporation)、Neozapon Black X51(C.I.Solvent Black、C.I.12195)(BASF)、Sudan Blue670(C.I.61554)(BASF)、Sudan Yellow146(C.I.12700)(BASF)、Sudan Red462(C.I.260501)(BASF)、これらの混合物などが挙げられる。
【0037】
着色剤は、所望の色または色相を得るためにいずれかの所望のまたは有効量、例えば少なくともインクの約0.1重量%〜約50重量%、少なくともインクの約0.2重量%〜約20重量%、および少なくともインクの約0.5重量%〜約10重量%で相転移インク中に存在してもよい。
【0038】
実施形態において、相転移インクのためのインクキャリアは、例えば示差走査熱量測定によって10℃/分で測定される場合、約65℃〜約150℃、例えば約70℃〜約140℃、約75℃〜約135℃、約80℃〜約130℃、または約85℃〜約125℃の融点を有していてもよい。さらに、これらのインクは、約140℃の温度にて、約1cps〜約13cps、例えば約2cps〜約13cps、約4cps〜約12cpsの噴出粘度を有する。
【0039】
インク組成物は、いずれかの所望のまたは好適な方法によって調製できる。例えば、インクキャリアの各構成成分は、共に混合されることができ、その後この混合物を少なくともその融点、例えば約60℃〜約150℃、80℃〜約145℃および85℃〜約140℃に加熱する。着色剤は、インク成分を加熱する前またはインク成分を加熱した後に添加されてもよい。顔料が選択された着色剤である場合、溶融混合物は、磨砕機または媒体ミル装置または他の高エネルギー混合装置での粉砕に供されることができ、インクキャリア中の顔料の分散に影響を与える。次いで加熱された混合物は、約5秒〜約30分以上撹拌され、実質的に均質で、均一な溶融物が得られ、続いてインクを周囲温度(通常、約20℃〜約25℃)まで冷却する。インクは周囲温度にて固体である。インクは、直接印刷インクジェットプロセスのための装置および間接(オフセット)印刷インクジェット用途に利用できる。本明細書に開示される別の実施形態は、本明細書に開示されるインクをインクジェット印刷装置に組み込む工程、インクを溶融する工程、および溶融したインクの液滴を記録基材上の画像様パターンに放出させる工程を含むプロセスを対象とする。本明細書に開示されるさらに別の実施形態は、本明細書に開示されるインクをインクジェット印刷装置に組み込む工程、インクを溶融させる工程、溶融したインクの液滴を中間転写部材上に画像様パターンに放出させる工程および中間転写部材から画像様パターンのインクを最終記録基材に転写する工程を含むプロセスに関する。特定の一実施形態において、最終記録シートを超える温度で、中間転写部材を印刷装置の溶融したインクの温度未満の温度に加熱する。別の特定の実施形態において、中間転写部材および最終記録シート両方を加熱し、この実施形態において、中間転写部材および最終記録シートの両方を印刷装置の溶融インクの温度未満の温度に加熱し、この実施形態において、中間転写部材および最終記録シートの相対温度は、(1)最終記録基材を超える温度で、中間転写部材を印刷装置の溶融したインクの温度未満の温度に加熱する、(2)中間転写部材の温度を超える温度で、最終記録基材を印刷装置の溶融したインクの温度未満の温度に加熱する、または(3)中間転写部材および最終記録シートをほぼ同じ温度に加熱することであることができる。特定の一実施形態において、印刷装置は、圧電印刷プロセスを利用するが、ここでインクの液滴は、圧電振動素子の振幅によって画像様パターンに放出される。本明細書に開示されたインクはまた、ホットメルト印刷プロセス、例えばホットメルト音響インクジェット印刷、ホットメルト熱インクジェット印刷、ホットメルト連続ストリームまたは偏向インクジェット印刷などに利用されることができる。本明細書に開示される相転移インクはまた、ホットメルトインクジェット印刷プロセス以外の印刷プロセスに使用できる。
【0040】
いずれかの好適な基材または記録シートが利用でき、これらとしては、普通紙、例えばXEROX4200紙、XEROX Image Series紙、Courtland4024DP紙、罫線入りノート紙、ボンド紙、シリカコーティングされた紙、例えばSharp Companyシリカコーティングされた紙、JuJo紙、HAMMERMILL LASERPRINT紙など、光沢コーティングされた紙、例えばXEROX Digital Color Elite Gloss、Sappi Warren PapersLUSTROGLOSS、特にXerox DURAPAPERなどのような紙、透明材料、布地、繊維製品、プラスチック、ポリマーフィルム、無機記録媒体、例えば金属および木材など、透明材料、布地、繊維製品、プラスチック、ポリマーフィルム、無機基材、例えば金属および木材などが挙げられる。
【0041】
本明細書に記載されるインクはさらに、次の実施例に例示される。すべての部およびパーセンテージは、特に指示のない限り重量による。
【0042】
実施例1
ビス(4−メトキシフェニル)オクタンジオエートの調製
例えばビス(4−メトキシフェニル)オクタンジオエートの典型的な合成において、スベリン酸(10g、57.4mmol)、DMAP(1.052g、8.61mmol)および乾燥テトラヒドロフラン(体積:300ml)を、撹拌棒を備えた250mLの1ツ口丸底フラスコに添加し、撹拌してわずかに濁った溶液を得た。次に、DCC(26.1g、126mmol)を約10mLの乾燥THFに溶解し、反応に添加し、15分間撹拌した。曇った白色沈殿物を形成した。最後に、4−メトキシフェノール(14.25g、115mmol)を添加し、一晩撹拌した。ジシクロヘキシル尿素(DCHU)副生成物は、ろ過により除去され、ろ液を減圧下で濃縮して、固体残渣を得た。この残渣をTHF中に溶解させ、ヘキサンを用いて再結晶化させて、14.46gのオフホワイトの結晶性生成物を得た(65%収率)。生成物をH NMRおよび酸#分析(2.86mgKOH/g)によって特徴付けた。
【0043】
実施例2
トリ−DL−メンチルシトレートの調製
例えばトリ−DL−メンチルシトレート(TMC)の代表的な合成において、クエン酸(20.0g、104mmol)、DL−メントール(48.8g、312mmol)、およびキシレン(250ml)を、ディーンスタークトラップを備えた500mLフラスコに添加し、懸濁液を得た。p−トルエンスルホン酸一水和物(0.396g、2.08mmol)を添加し、水を共沸除去しながら混合物を21時間還流した。反応混合物を室温まで冷却し、10重量%KOH水溶液(1×)およびブライン(2×)で洗浄し、次いでMgSOで乾燥させた。ろ過および溶媒の除去後、残渣を120℃で撹拌しながら減圧下で乾燥し、49.3g(収率78%)の非晶質固体を得た。サンプルをH NMR、および酸価分析(16.34mgKOH/g)によって特徴付けた。合成スキームを以下に例示する。
【化9】

ここで
【化10】

【0044】
実施形態において、R−OHのRは、アルキル基からなる群から選択され、ここでアルキル部分は、直鎖、分岐または環状の飽和または不飽和の置換または非置換であり、1〜約40個の炭素原子を有する基、あるいは置換または非置換の芳香族またはヘテロ芳香族基、およびこれらの混合物であることができる。
【0045】
固体インク1の調製
クエン酸トリメントールエステル(TMC)を非晶質の選択肢材料として使用した。TMC、結晶性材料および3重量%のシアン染料(Ciba Orasol Blue GN)を120℃にて溶融状態で撹拌し、均質液体混合物を得て、次いで冷却してインクサンプルを得た。結晶性と非晶質との比は70:30であった。インク1の配合を表1にて示す。
【0046】
【表1】

【0047】
固体インク2の調製
インク2は、異なる結晶性構成成分を使用した以外、インク1と同じ様式で調製した。特に、ジ−p−トリルオクタンジオエートをビス(4−メトキシフェニル)オクタンジオエートの代わりに使用した。インク1およびインク2に使用される結晶性構成成分を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
インク1およびインク2のレオロジーデータを図3に示す。すべてのインクは、所望の温度範囲(60℃<T<130℃)で>10cpsまでの相転移を示したが、相転移温度は、結晶性/非晶質比を変更することによって調節可能であった。さらに、約140℃(噴出温度)での粘度は、約10cpsであったが、同様に比を変更することによって調節可能である。
【0050】
プリント性能
インクは、K−プルーファー(RK Print Coat Instrument Ltd.,Litlington,Royston,Heris,SG80OZ,U.K.が製造)を用いて、Xerox Digital Color Elite Gloss,120gsm(DCEG)に印刷し、基材から容易に取り除くことができない堅牢性画像を得た。垂直から約15°の角度にて湾曲した先端を有するスクラッチ/ゴージフィンガーを、528gの重さを適用し、約13mm/sの速度で画像にわたって引き寄せた場合に、インクは画像から明確には取り除かれなかった。スクラッチ/ゴージ先端は、約12mmの曲率半径を有する旋盤円形ノーズに類似する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質構成成分であって、この非晶質構成成分が、式
【化1】

を有するクエン酸のエステルであり、式中、R、R、およびRはそれぞれ互いに独立に、アルキル基からなる群から選択され、ここでこのアルキル部分は、直鎖、分岐または環状の飽和または不飽和の置換または非置換であり、1〜約40個の炭素原子を有する基、あるいは置換または非置換の芳香族またはヘテロ芳香族基、およびこれらの混合物であることができる成分と、
結晶性構成成分であって、この結晶性構成成分が、次の構造、
【化2】

を有する脂肪族直鎖二酸のエステルであり、式中Rは、置換または非置換アルキル鎖であってもよく、−(CH1−から−(CH12−からなる群から選択され、式中、RおよびRは、それぞれ互いに独立に、アルキル基からなる群から選択され、ここでアルキル部分は、直鎖、分岐または環状の飽和または不飽和の置換または非置換であり、約1〜約40個の炭素原子を有する基、あるいは置換または非置換の芳香族またはヘテロ芳香族基、およびこれらの混合物であることができる成分とを含む、相転移インク。
【請求項2】
前記結晶性および前記非晶質構成成分が、約65:35〜約95:5の重量比にてブレンドされる、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項3】
前記結晶性および前記非晶質構成成分が、約70:30〜約90:10の重量比でブレンドされる、請求項2に記載の相転移インク。
【請求項4】
前記結晶性構成成分が、前記相転移インクの総重量の約60重量%〜約95重量%の量で存在する、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項5】
前記非晶質構成成分が、前記相転移インクの総重量の約5重量%〜約40重量%の量で存在する、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項6】
顔料、染料またはこれらの混合物からなる群から選択される着色剤をさらに含む、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項7】
前記結晶性構成成分が、約140℃の温度にて約0.5〜約10cpsの粘度を有する、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項8】
前記結晶性構成成分が、約140℃の温度で約1〜約10cpsの粘度を有する、請求項7に記載の相転移インク。
【請求項9】
前記結晶性構成成分が室温で結晶性状態である、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項10】
前記非晶質構成成分が、約140℃の温度で約1〜約100cpsの粘度を有する、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項11】
前記非晶質構成成分が、室温にて少なくとも10cpsの粘度を有する、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項12】
約140℃の温度にて約15cps未満の粘度を有する、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項13】
約20〜約27℃の温度にて約10cpsを超える粘度を有する、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項14】
前記非晶質構成成分が、1000g/mol未満の分子量を有する、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項15】
前記非晶質構成成分が、約300〜約1000g/molの分子量を有する、請求項14に記載の相転移インク。
【請求項16】
前記非晶質構成成分が約10〜約50℃のT値を有する、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項17】
非晶質構成成分であって、この非晶質構成成分が、式
【化3】

を有するクエン酸のエステルであり、式中、R、R、およびRはそれぞれ互いに独立に、アルキル基からなる群から選択され、ここでこのアルキル部分は、直鎖、分岐または環状の飽和または不飽和の置換または非置換であり、1〜約40個の炭素原子を有する基、あるいは置換または非置換の芳香族またはヘテロ芳香族基、およびこれらの混合物であることができる成分と、
結晶性構成成分であって、この結晶性構成成分が、次の構造、
【化4】

を有する脂肪族直鎖二酸のエステルであり、式中Rは、置換または非置換アルキル鎖であってもよく、−(CH1−から−(CH12−からなる群から選択され、式中、RおよびRは、それぞれ互いに独立に、アルキル基からなる群から選択され、ここでアルキル部分は、直鎖、分岐または環状の飽和または不飽和の置換または非置換であり、約1〜約40個の炭素原子を有する基、あるいは置換または非置換の芳香族またはヘテロ芳香族基、およびこれらの混合物であることができる成分と、
任意の着色剤とを含む相転移インクであって、さらに結晶性構成成分が、結晶化(Tcrys)および融点(Tmelt)ピークを示し、ピーク間の差(Tmelt−Tcrys)が55℃未満であり、さらに非晶質構成成分が約10℃〜約50℃のT値を有する、インク。
【請求項18】
非晶質構成成分であって、この非晶質構成成分が、式
【化5】

を有する、少なくとも1つのアルコールを用いたエステル化反応によって合成されるクエン酸のエステルであり、式中、R、R、およびRはそれぞれ互いに独立に、アルキル基からなる群から選択され、このアルキル部分は、直鎖、分岐または環状の飽和または不飽和の置換または非置換であり、1〜約40個の炭素原子を有する基、あるいは置換または非置換の芳香族またはヘテロ芳香族基、およびこれらの混合物であることができる成分と、
結晶性構成成分であって、この結晶性構成成分が、次の構造、
【化6】

を有する、少なくとも1つのアルコールを用いたエステル化反応によって合成される脂肪族直鎖二酸のエステルであり、式中Rは、置換または非置換アルキル鎖であってもよく、−(CH1−から−(CH12−からなる群から選択され、式中、RおよびRは、それぞれ互いに独立に、アルキル基からなる群から選択され、ここでアルキル部分は、直鎖、分岐または環状の飽和または不飽和の置換または非置換であり、約1〜約40個の炭素原子を有する基、あるいは置換または非置換の芳香族またはヘテロ芳香族基、およびこれらの混合物であることができる成分と、
任意の着色剤とを含む相転移インク。
【請求項19】
前記クエン酸と反応させるためのアルコールが、
【化7】

およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項18に記載の相転移インク。
【請求項20】
前記脂肪族直鎖二酸および脂肪族直鎖酸塩化物と反応させるための前記アルコールが、フェノール、p−クレゾール、4−メトキシフェノール、4−メチルベンジルアルコール、4−メトキシベンジルアルコールおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項18に記載の相転移インク。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−233172(P2012−233172A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−89126(P2012−89126)
【出願日】平成24年4月10日(2012.4.10)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】