説明

真正性識別体

【課題】コレステリック液晶とレリーフホログラムとを積層した真正性識別媒体において、レリーフホログラムに形成されている反射性薄膜からの反射光の回り込みによりコレステリック液晶の視認性、識別性が劣化し、真正性識別媒体の識別をし難くするという課題があった。
【解決手段】
コレステリック液晶とレリーフホログラムに形成されている反射性薄膜との間に不要な反射光を吸収する黒色パターンを設けることにより、コレステリック液晶の視認性を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不正な意図に基づく偽造や改ざん等により得られたものと真正なものとの区別を可能にした真正性識別媒体に関するものである。
本明細書において、配合を示す「部」は質量基準である。また、「ホログラム」はホログラムと、回折格子などの光回折性機能を有するものも含む。
【背景技術】
【0002】
(主なる用途)
本発明の真正性識別体の主なる用途としては、偽造防止分野に使用される真正性識別体であって、具体的には、クレジットカード等の偽造されて使用されると、カード保持者やカード会社等に損害を与え得るもの、運転免許証、社員証、会員証等の身分証明書、入学試験用の受験票、パスポート等、紙幣、商品券、ポイントカード、株券、証券、抽選券、馬券、預金通帳、乗車券、通行券、航空券、種々の催事の入場券、遊戯券、交通機関や公衆電話用のプリペイドカード等がある。
これらはいずれも、経済的、もしくは社会的な価値を有する情報を保持した情報記録媒体であり、偽造による損害を防止する目的で、媒体そのものの真正性を識別できる機能を有することが望まれる。
【0003】
また、これら情報記録媒体以外であっても、高額商品、例えば、高級腕時計、高級皮革製品、貴金属製品、もしくは宝飾品等の、しばしば、高級ブランド品と言われるもの、または、それら高額商品の収納箱やケース等も偽造され得るものである。また、量産品でも有名ブランドのもの、例えば、オーディオ製品、電化製品等、または、それらに吊り下げられるタグも、偽造の対象となりやすい。
さらに、著作物である音楽ソフト、映像ソフト、コンピュータソフト、もしくはゲームソフト等が記録された記憶媒体、またはそれらのケース等も、やはり偽造の対象となり得る。また、プリンター用のトナー、用紙など、交換する備品を純正材料に限定している製品などにも、偽造による損害を防止する目的で、そのものの真正性を識別できる機能を有することが望まれる。
【0004】
(背景技術)
従来、情報記録媒体や上記した種々の物品(総称して、真正性識別対象物と言う。)の偽造を防止する目的で、その構造の精密さから、製造上の困難性を有すると言われるホログラムを真正性の識別可能なものとして適用することが多く行なわれている。しかしながら、ホログラムの製造方法自体は知られており、その方法により精密な加工を施すことができることから、ホログラムが単に目視による判定だけのものであるときは、真正なホログラムと偽造されたホログラムとの区別は困難である。
これらの真正性識別対象物、特にラベル形態や転写形態にてホログラム画像を施された物品は、ホログラム画像の目視確認という真正性識別のみでなく、新たな真正性識別方法を用いてその対象物の真正性を識別する必要が生じている。
【0005】
(先行技術)
これらの要求に応えるため、ホログラムに積層して、入射した光の内、左回り偏光もしくは、右回り偏光のいずれか一方の光のみを反射する光選択反射層を有する真正性識別媒体が提案された。(例えば、特許文献1及び2参照。)。
この光選択反射層として、コレステリック液晶を使用し、偏光版等を用いて確認する方法で偽造防止性を高めている。
しかしながら、特許文献2の記載にあるように、ホログラム形成層上の反射性薄膜層の反射率が高いため、一旦コレステリック液晶層を透過した光(選択的反射光の補色光)が、この反射性薄膜層で反射し、再びコレステリック液晶層へ戻ることにより、この戻り光がノイズ成分となって選択的反射光に付加・混在し、液晶本来の色調とならず、視認・識別することすら難しくなっていた。
このため、特許文献1及び2において、反射性薄膜層を部分的に除去し、除去した部分において上記液晶層を視認するという工夫がなされている。(例えば、特許文献1及び2参照)この部分的除去には、その薄膜形成法をパターンマスクを介して行う方法によるか、反射性薄膜層のパターン化を水溶性樹脂パターンを利用して行う方法等が示されている。
【0006】
後者では、除去する部分に水溶性樹脂もしくは水膨潤性樹脂を溶解または分散した水溶性インキでパターン印刷を施し、一面に反射性薄膜層を形成、その後、その面に水、又は酸性もしくはアルカリ性の水溶液等を接触させて、水溶性樹脂パターンを除去すると共に、水溶性樹脂パターンが積層されていた部分の反射性薄膜層を除去することにより、水溶性樹脂パターンが積層されていなかった部分の反射性薄膜層を残し、反射性薄膜層をパターン状に形成するものであり、その作業は非常に煩雑である。
その上、部分的に残した反射性薄膜で反射した補色光は、反射後正反射方向以外の方向へも広り、もしくは回り込み、反射光を排除したはずのコレステリック液晶層へも侵入して、結局、視認性の低下を招くことになっていた。そしてこの不具合は、その部分除去パターンが微細なものになればなるほど顕著に現れるという欠点を有していた。
【0007】
【特許文献1】特開2005−301093号公報
【特許文献2】特開平10−213493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明はこのような問題点を解消するためになされたものである。その目的は、コレステリック液晶層とホログラムレリーフを有する透明樹脂層とを積層したことによるコレステリック液晶層の判別性の劣化が少なく、真正性の識別が容易である真正性識別媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、
本発明の真正性識別媒体の第1の態様は、透明基材の一方の側の少なくとも一部にコレステリック液晶層が設けられ、前記コレステリック液晶層の非観察側に、ホログラムレリーフを有する透明樹脂層(以下、ホログラム形成層という。)、反射性薄膜層がこの順序で設けられており、前記コレステリック液晶層に相対する位置であって、透明基材の少なくとも一方の面の一部に、黒色パターン層を有することを特徴とするものである。
上記第1の態様の真正性識別媒体によれば、コレステリック液晶層と、ホログラム形成層との間であって、そのコレステリック液晶層に相対する位置の少なくとも一部に、黒色パターン層を設けることで、観察のためにコレステリック液晶へ入射して、コレステリック液晶層を通過した補色光がこの黒色パターンにおいて全波長域に渡って吸収され、反射性薄膜層へ届くことがなく、不要な反射光(以下、ノイズともいう。)も発生しないため、観察側からみると、コレステリック液晶層から反射される、本来の選択的反射光のみが観察され、その存在を容易に、精度よく識別することができる。
【0010】
また、反射性薄膜層で反射される反射光の内、反射光そのものの広がりにより、設計された反射方向以外の方向に向かう、いわゆる回り込み反射光についても、この黒色層がその余分な光を遮蔽、吸収することによって、コレステリック液晶層へ回り込むノイズ光の少ない視認性や、光学読み取り適正に優れた真正性識別媒体が得られる。
このような黒色パターン層は、微粒子カーボンブラック等のように、観察する光(可視光)の全波長領域に対する吸収性を有する顔料からなるものであって、且つ、観察する光の波長である約0.5μmの5倍〜50倍、2.5μm〜25μmの高さ(厚さ)、さらには20倍〜40倍、10μm〜20μmのの高さ(厚さ)を有していることにより、コレステリック液晶層と、反射性薄膜層との間に形成された時、反射光の回り込み光を吸収して、その回り込みを制御する役目も果たす。
5倍以下では、光の回り込みが大きく、50倍以上では、安定したパターン形成が難しくなる。20倍以上あれば、光の回り込みはほぼ無くなり、40倍以下であれば安定してパターン形成が可能となる。また、50倍以上となると、ホログラム観察の際に黒色の枠のように見え、意匠性が劣化する。
【0011】
黒色パターンの幅は、液晶パターンの幅と同一であり、例えば、バーコードのような光学的自動認識に使用される場合は、通常1mm幅であるが、デザイン上の制約からバーコードサイズを小さくすることが必要となった場合は、100μm幅や50μm幅となる。
この幅に10%幅ののノイズ、すなわち、10μmもしくは5μmの光の回り込みが入り、コレステリック液晶の波長選択性が劣化すると、上記した自動認識性能が劣化する。
従って、100μm幅や50μm幅の黒色パターンを、厚さ2.5μm〜25μmで形成することになる。もちろん、より微細なパターンの要求もあるが、パターン形成方法の制限から、厚さと幅の比(アスペクト比ともいう。)は1対1以下(1/1以下、1対2等)であることが望ましい。
さらには、アスペクト比が大きい場合は、そのパターンを安定化させるため、パターン間に透明な樹脂を充填する手法も好適である。
【0012】
黒色パターン層の形成方法は、上記した薄膜の部分的除去のような煩雑な作業を用いる必要は無く、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式等、形成パターンに適宜な方式を用いることができる。但し、コレステリック液晶層の形成パターンに位置を合わせる(同調させるともいう。)という意味で、コレステリック液晶層と同一の形成方法を用いることが望ましい。さらには、形成厚さを比較的厚くすると共に、にじみや、インキダレを抑えるため、フレキソ印刷方式を用いることが望ましい。
黒色パターンを形成する位置は、コレステリック液晶層と透明基材との間、透明基材と透明樹脂層との間、及び/又は、透明樹脂層と反射性薄膜層との間に設定される。その位置により、それぞれ、コレステリック液晶層やホログラムデザインとの同調性、各層厚さとのバランス、使用する樹脂層の屈折率差、接着性を考慮して形成方法、形成パターン形状を定める。透明樹脂層と反射性薄膜層との間に黒色パターン層を設けた場合は、印刷方式特有のなだらかなエッジ形状等により、薄膜層を除去したものとは異なる回折効果を生み出すとともに、他の層間に設けた黒色パターン層との同調により、ノイズ低減効果を生み出す。
【0013】
また、本発明の真正性識別媒体の第2の態様は、前記黒色パターン層が、観察する光の波長の5倍以上50倍以下の厚さを有することを特徴とするものである。
上記第2の態様の真正性識別媒体によれば、反射性薄膜層において反射される光の内、不要な部分、すなわち、コレステリック液晶層へと進む光を効果的に抹消し、コレステリック液晶の視認性をより高めることができる。
【0014】
反射性薄膜層からは、その観察する光が様々な方向へ反射される。すなわち、反射性薄膜層へ観察側から入射した光は、その薄膜層上で、正反射方向だけでなく、ホログラム再生方向、光回折角方向等へ反射される。これらの反射光がそれぞれの角度で、コレステリック液晶層へ入ると、コレステリック液晶固有の選択的反射光に対するノイズ成分となり、その視認性を落とすことになる。
この反射光は、反射性薄膜上でホイヘンスの2次光として、あらゆる点からあらゆる方向へ進むことになるが、反射性薄膜面から一波長領域、二波長領域等で、互いに干渉現象を生じ、ホログラム光として、または回折光として収束する。この収束により、不要な方向への散乱が抑えられることになる。
したがって、この干渉領域を確保するため、反射性薄膜面上に反射角度を制御する壁を5波長分設置すると、この壁を乗り越えるころにはこの収束がほぼ終了しているものと考えられる。
【0015】
この反射光は、反射性薄膜上での光の干渉効果、すなわち回折現象によってその方向を定めており、その波長0.5μm程度の5倍以上の高さの障壁が存在するとその回り込みが大きく減衰する。ただし、その壁による2次反射光が発生するとその回折現象を攪乱するため、その障壁を光吸収性のものとすることで、その回り込みをほぼ抹消することが必要となる。
また、壁から離れた場所からの2次光は、周りからの2次光の干渉により収束角度が定まり、設計されている方向、例えば「入射光の入射角度が90度で、回折光の回折角度が80度の設計」であった場合は、垂直入射光に対して、垂直方向より10度傾いて回折する。このように壁より離れた場所の光はそれぞれ設計された方向へ収束し、余分な光を出さないため、ノイズの原因とならない。
【0016】
特許文献1にあるように、その薄膜を除去しただけの障壁厚さは、0.1μm程度であり、上記効果はみられない。ましてや、その断面には光を吸収する性質がない。さらには、薄膜の除去パターンが微細になると、薄膜そのものが回折格子となり、不要な回折光を発生させるため、本願のような障壁形成が不可欠となる。
また、本発明の真正性識別媒体の第3の態様は、前記黒色パターン層が、前記コレステリック液晶層と、前記透明基材との間に、前記コレステリック液晶層と同一パターンで、設けられていることを特徴とするものである。
上記第3の態様の真正性識別媒体によれば、コレステリック液晶層の直下にその液晶層と同パターンの黒色パターン層が設けられているため、上記した種々の回り込み光がコレステリック液晶層へ侵入することが全く無くなる。
コレステリック液晶層のパターンが、マイクロ文字のような大きさ数十μm程度のパターンである場合や、幅サイズ数十μm程度の2次元バーコードパターン等の機械読取特性が必要となる場合等には、パターン内のノイズが少なく反射光が安定していることに加え、そのパターンエッジの濃淡のシャープさ、すなわちエッジの鮮明さが要求されるため、上記した回り込み光を無くす効果が有効となる。
また、透明基材の反対側であっても、リソグラフィー方式を採用することにより、正確に同一のパターンとすることができる。すなわち、露光処理において、コレステリック液晶層形成側から実施することで、この液晶パターンを露光マスク(非露光部を光から遮断するもの。)とし、高精度(リソグラフィーレベル)な同一性を得ることができる。真正性を確認する情報が微細であればあるほど、この方式が好適となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の真正性識別媒体によれば、コレステリック液晶層とホログラム形成層を積層したことによるコレステリック液晶層の判別性の劣化が少なく、真正性の識別が正確且つ容易である真正性識別媒体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。
図1は、本発明の1実施例を示す真正性識別媒体Aの断面図である。
図2は、本発明の他の実施例を示す真正性識別体A´の断面図である。
(透明基材)
本発明で使用される透明基材1は、厚みを薄くすることが可能であって、機械的強度や、真正性識別媒体A、A´を製造する際の加工に耐える耐溶剤性および耐熱性を有するものが好ましい。使用目的にもよるので、限定されるものではないが、フィルム状もしくはシート状のプラスチックが好ましい。
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアリレート、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース、ポリエチレン/ビニルアルコール等の各種のプラスチックフィルムを例示することができる。
透明基材1の厚さは、通常5〜250μmであるが、反射性薄膜層3からの回り込み光を配慮する場合には、5〜50μm、特に5〜25μmとすることが望ましい。
【0019】
(ホログラム形成層)
本発明のホログラム形成層2を構成するための透明な樹脂材料としては、各種の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、もしくは電離放射線硬化性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としてはアクリル酸エステル樹脂、アクリルアミド樹脂、ニトロセルロース樹脂、もしくはポリスチレン樹脂等が、また、熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、アクリルウレタン樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂、エポキシ変性不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、もしくはフェノール樹脂等が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂は、1種もしくは2種以上を使用することができる。これらの樹脂の1種もしくは2種以上は、各種イソシアネート樹脂を用いて架橋させてもよいし、あるいは、各種の硬化触媒、例えば、ナフテン酸コバルト、もしくはナフテン酸亜鉛等の金属石鹸を配合するか、または、熱もしくは紫外線で重合を開始させるためのベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド等の過酸化物、ベンゾフェノン、アセトフェノン、アントラキノン、ナフトキノン、アゾビスイソブチロニトリル、もしくはジフェニルスルフィド等を配合しても良い。
【0020】
また、電離放射線硬化性樹脂としては、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、アクリル変性ポリエステル等を挙げることができ、このような電離放射線硬化性樹脂に架橋構造を導入するか、もしくは粘度を調整する目的で、単官能モノマーもしくは多官能モノマー、またはオリゴマー等を配合して用いてもよい。
上記の樹脂材料を用いてホログラム形成層2を形成するには、感光性樹脂材料にホログラムの干渉露光を行なって現像することによって直接的に形成することもできるが、予め作成したレリーフホログラムもしくはその複製物、またはそれらのメッキ型等を複製用型として用い、その型面を上記の樹脂材料の層に押し付けることにより、賦型を行なうのがよい。
熱硬化性樹脂や電離放射線硬化性樹脂を用いる場合には、型面に未硬化の樹脂を密着させたまま、加熱もしくは電離放射線照射により、硬化を行わせ、硬化後に剥離することによって、硬化した透明な樹脂材料からなる層の片面にレリーフホログラムの微細凹凸を形成することができる。なお、同様な方法によりパターン状に形成して模様状とした回折格子を有する回折格子形成層も光回折構造として使用できる。
【0021】
ホログラムは物体光と参照光との光の干渉による干渉縞を凹凸のレリーフ形状で記録されたもので、例えば、フレネルホログラムなどのレーザ再生ホログラム、及びレインボーホログラムなどの白色光再生ホログラム、さらに、それらの原理を利用したカラーホログラム、コンピュータジェネレーティッドホログラム(CGH)、ホログラフィック回折格子などがある。また、マシンリーダブルホログラムのように、その再生光を受光部でデータに変換し所定の情報として伝達したり、真偽判定を行うものであってもよい。
微細な凹凸を精密に作成するため、光学的な方法だけでなく、電子線描画装置を用いて、精密に設計されたレリーフ構造を作り出し、より精密で複雑な再生光を作り出すものであってもよい。このレリーフ形状は、ホログラムを再現もしくは再生する光もしくは光源の波長(域)と、再現もしくは再生する方向、及び強度によってその凹凸のピッチや、深さ、もしくは特定の周期的形状が設計される。凹凸のピッチ(周期)は再現もしくは再生角度に依存するが、通常0.1μm〜数μmであり、凹凸の深さは、再現もしくは再生強度に大きな影響を与える要素であるが、通常0.1μm〜1μmである。
【0022】
単一回折格子のように、全く同一形状の凹凸の繰り返しであるものは、隣り合う凹凸が同じ形状であればある程、反射する光の干渉度合いが増しその強度が強くなり、最大値へと収束する。回折方向のぶれも最小となる。立体像のように、画像の個々の点が焦点に収束するものは、その焦点への収束精度が向上し、再現もしくは再生画像が鮮明となる。
さらに、透明金属化合物薄膜の場合は、その薄膜の上下の面が、同一レリーフ形状であり且つ、その面と面の距離(すなわち膜厚さ)が均一であればあるほど、再現もしくは再生強度が大きくなる。
レリーフ形状を賦形(複製ともいう)する方法は、回折格子や干渉縞が凹凸の形で記録された原版をプレス型(スタンパという)として用い、上記透明基材1及び反射性薄膜層3上に、前記原版を重ねて加熱ロールなどの適宜手段により、両者を加熱圧着することにより、原版の凹凸模様を複製することができる。形成するホログラムパターンは単独でも、複数でもよい。
上記の極微細な形状を精密に再現するため、また、複製後の熱収縮などの歪みや変形を最小とするため、原版は金属を使用し、低温・高圧下で複製を行う。
原版は、Niなどの硬度の高い金属を用いる。光学的撮影もしくは、電子線描画などにより形成したガラスマスターなどの表面にCr、Ni薄膜層を真空蒸着法、スパッタリングなどにより5〜50nm形成後、Niなどを電着法(電気めっき、無電解めっき、さらには複合めっきなど)により50〜1000μm形成した後、金属を剥離することで作ることができる。
複製方式は、平板式もしくは、回転式を用い、線圧0.1トン/m〜10トン/m、複製温度は、通常60℃〜200℃とする。
【0023】
(反射性薄膜層)
本発明では、ホログラム形成層2のホログラムレリーフ面に、反射性薄膜層3を形成する。この薄膜層は、入射した光を反射する必要があるため、ホログラム形成層2よりも高い屈折率を有する薄膜層であれば、特に限定されない。
反射性薄膜層3としては、真空薄膜法などにより形成される金属薄膜などの金属光沢反射層、又は透明反射層のいずれでもよいが、金属光沢反射層を部分的に設けたり、透明反射層を設けた場合は、その反射層に接して設けた感温液晶の変化をこの透明反射層を通して確認できるので好ましい。
透明反射層としては、ほぼ無色透明な色相で、その光学的な屈折率がホログラム形成層2のそれとは異なることにより、金属光沢が無いにもかかわらず、ホログラムなどの光輝性を視認できることから、透明なホログラムを作製することができる。例えば、ホログラム形成層2(本発明では、透明な生分解性を有するプラスチックフィルム又はシート1に該当する)よりも光屈折率の高い薄膜、例として、ZnS、TiO2、Al23、Sb23、SiO、SnO2、ITOなどがある。
【0024】
好ましくは、金属酸化物又は窒化物であり、具体的には、Be、Mg、Ca、Cr、Mn、Cu、Ag、Al、Sn、In、Te、Ti、Fe、Co、Zn、Ge、Pb、Cd、Bi、Se、Ga、Rb、Sb、Pb、Ni、Sr、Ba、La、Ce、Auなどの酸化物又は窒化物他はそれらを2種以上を混合したものなどが例示できる。またアルミニウムなどの一般的な光反射性の金属薄膜も、厚みが20nm以下になると、透明性が出てきて透明反射層として使用できる。
透明金属化合物の形成は、金属の薄膜と同様、ホログラム形成層2のホログラムレリーフ面に、10〜2000nm程度、好ましくは20〜1000nmの厚さになるよう、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、CVD(化学蒸着法)などの真空薄膜法などにより設ければよい。
【0025】
(コレステリック液晶)
本発明に用いられるコレステリック液晶層4は、光選択反射性を有するものであればよく、さらに、観察側からの入射光に対して左円偏光もしくは右円偏光のいずれか一方を反射する光選択反射性を有するものであってもよい。また、これらのものを組み合わせて適用して、判定方法を複雑なものとし、より高度な真正性識別媒体とすることもできる。
コレステリック液晶としては、コレステロールのハロゲン化物、モノカルボン酸コレステロールエステル、モノカルボン酸シトステロールエステル、安息香酸誘導体のコレスタノールエステル、二塩基酸ジコレステリルエステル、主鎖型液晶高分子化合物、側鎖型液晶高分子化合物、剛直主鎖型液晶高分子化合物などが挙げられる。
より具体的には、例えばコレステリルクロライド、コレステリルアセテート、コレステリルノナノエート、炭酸メチルコレステロール、炭酸エチルコレステロール、コレステリルp−メトキシベンゾエート、シトステロイルベンゾエート、シトステロイルp−メチルベンゾエート、コレスタニルベンゾエート、10、12−ドコサジインジカルボン酸ジコレステリルエステル、8、12−エイコサジカルボン酸ジコレステリルエステル、10、12−ペンタコサジインジカルボン酸ジコレステリルエステル、ドデカジカルボン酸ジコレステリルエステル、12、14−ヘキサコサジインジカルボン酸ジコレステリルエステル、4−(7−コレステリルオキシカルボニルヘプチルオキシ)フェノキシオクタン酸コレステリルエステル、L−グルタミン酸−γ−ベンジル/L−グルタミン酸−γ−ドデシル共重合体などがある。
【0026】
さらに、コレステリルホルメート、コレステリルアセテート、コレステリルプロピオネート、コレステリルブチレート、コレステリルペンタネート、コレステリルヘキサネート、コレステリルヘプタネート、コレステリルオクタネート、コレステリルノナノエート、コレステリルデカネート、コレステリルドデカネート(コレステリルラウレート)、コレステリルミリステート、コレステリルパルミテート、コレステリルステアレート、コレステリルオレエート、コレステリルオレイルカーボネート、コレステリルリノレート、コレステリル12−ヒドロキシステアレート、コレステリルメルカプタン、コレステロールクロライド、コレステリルフルオライド、コレステリルブロマイド、コレステリルアイオダイド等を挙げることができる。
好ましくは、アルキルコレステロール(例えばコレステロールナノエート)およびコレステリルハライド(例えばコレステロールクロライド)コレステリルオレイルカーボネート3種の混合物が挙げられ、これらの3つのタイプの液晶は常温で使用できるように混合して用いられるのが一般的である。
尚、ここに示す化合物に限定されるものではなく、またこれらのコレステリック液晶化合物は、1種または2種以上混合して用いることができる。
【0027】
ネマチック液晶化合物にカイラル化合物を加えてコレステリック液晶とするものとしては、液晶化合物として、4−置換安息香酸4’−置換フェニルエステル、4−置換シクロヘキサンカルボン酸4’−置換フェニルエステル、4−置換シクロヘキサンカルボン酸4’−置換ビフェニルエステル、4−(4−置換シクロヘキサンカルボニルオキシ)安息香酸4’−置換フェニルエステル、4−(4−置換シクロヘキシル)安息香酸4’−置換フェニルエステル、4−(4−置換シクロヘキシル)安息香酸4’−置換シクロヘキシルエステル、4−置換4’−置換ビフェニル、4−置換フェニル4’−置換シクロヘキサン、4’−置換シクロヘキサン、2−(4−置換フェニル)−5−置換ピリジン等、例えば、「パリオカラーLC242」(BASF社製)等が用いられる。
【0028】
特に好ましくは、少なくとも分子の一方の末端にシアノ基又はフッ素原子を有する液晶化合物を用い、これらの液晶化合物にそれぞれ好適な各種のカイラル剤を加えたものが用いられる。カイラル化合物としては、「CB−15」、「C−15」(以上、BDH社製)、「CM−21」、「CM−22」、「CM−19」、「CM−20」、「CM」(以上、チッソ社製)、「S1082」、「S−811」、「R−811」(以上、メルク社製)、「パリオカラーLC756」(BASF社製)等を挙げることができる。
また、有機合成によって得られるネマチック液晶の末端基に不斉炭素を有する基を導入したコレステロール基を持たないコレステリック液晶や、コレステロール誘導体にシッフ系ネマチック液晶を加えた混合液晶も用いられる。さらには、天然コレステロールのハロゲン置換物、エステル化物(コレステリルベンゾエート、コレステリルクロライド、コレステリルオリエート、コレステリルノナノエート等も好適である。
【0029】
これらのコレステリック液晶を設ける方法としては、溶剤系、水系、無溶剤系として、通常の印刷方式、コーティング方式を用いて形成することができる。より好ましくは、黒色パターン層形成方法と同一の手段を用いることにより、その形成位置の同調性を高めることができる。同一パターンを形成する場合は、製版方式も同一とすることができる。特に黒色パターン層を透明基材に設けた後は、この位置をタイミングマークとして、液晶層の形成やホログラムレリーフ複製をすることもできる。
また液晶をゼラチン他樹脂膜等でカプセル化したインキを用いて形成してもよい。カプセル化したものは、その製造時の作業性だけでなく、物理特性(強靭性、耐摩耗性、耐熱性等)に優れるとともに、液晶の染み出し等の不具合を防止し、本発明に特に要求される衛生面で特に好適である。
コレステリック液晶層の形状、厚さは、真正性識別体の使用目的に応じて適宜最適なものとする必要があるが、目視できる通常の大きさ、形状のものから、バーコード等の機械読取に用いるもの、さらには、マイクロ文字のように隠し文字として数十μmとすることもできるため、選択的反射性を維持した上で、個々に対応した厚さ、すなわち数μm〜50μmのうち、最適なものとする。
【0030】
上記コレステリック液晶層を設ける際、予め以下の配向膜を設ける等の配向処理を施しても良い。配向膜は、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)、ポリイミド樹脂等の一般に配向膜として使用し得るものであれば、いずれでもよい。配向膜は、これらの樹脂の溶剤溶液を、コレステリック液晶層を形成する層の表面に適宜な塗布法により塗布し、乾燥させた後に、布、ブラシ等を用いて摩擦するラビングを行なって形成する。
また、本発明の真正性識別体にさらに、粘着剤を施してラベルとしたり、接着剤を施して転写シートとすることもできる。
その場合、粘着剤としては、従来公知の溶剤系及び水系のいずれの粘着剤、例えば、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル−アクリル共重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン樹脂や、天然ゴム、クロロプレンゴムなどのゴム系樹脂などが挙げられる。
自然にやさしい材料構成とするために、特に、天然ゴムを主成分とするラテックス、それを変性したもの、特に天然ゴムにスチレン特にメタクリルさんメチルとをグラフト重合させて得た天然ゴムラテックス等の天然素材から作製されたものを用いても良く、形成厚さ、形成方法等は適宜選択する。
【0031】
また、接着剤としては、接着剤としては、種々の物品に対する接着性を確保するためのものであるので、被着体と強固に接着できるものが好ましい。具体的には、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ゴム変性物などが挙げられ、これらの中から適するものを適宜選択して使用でき、また、これらは単体、もしくは2種以上の混合系で、更に必要に応じてハードレジンや可塑剤、その他の添加剤を加えて使用することができ、形成厚さ、形成方法等は適宜選択する。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
透明基材1として、25μmのPETフィルムの表面に、次の組成物をグラビア印刷方式を用いて、厚さ5μmの黒色パターン層5「1mmサイズの“H”」を形成した。
・<黒色パターン組成物>
塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体 20質量部
ポリメチルメタアクリレート 15質量部
カーボンブラック 10質量部
体質顔料 5質量部
トルエン 50質量部
その上に、同一グラビア版を用い、グラビア印刷により厚さ5μmのコレスチック液晶層を重ねて形成し後、紫外線硬化させた。
・<コレステリック液晶組成物>
バイカラーLC242 37質量部
バイカラーLC756 2質量部
紫外線重合開始剤 1質量部
トルエン 60質量部
【0033】
PETフィルムの印刷を行なった面とは反対側の面に透明紫外線硬化性樹脂組成物を塗布し、レリーフホログラムの複製用型の型面を、黒色パターン層に同調させ、接触させたまま紫外線を照射して、透明紫外線硬化性樹脂組成物を硬化させることにより、レリーフホログラムの形成を行ない、厚さ20μmのホログラム形成層2を得た。その後、レリーフホログラムの賦型された面にアルミニウム(AL)を真空蒸着して、厚みが100nmの反射性薄膜層3を形成して、真偽判定用媒体Aを得た。
得られた真正性識別体を観察側から眺めると、ホログラム再生像と、黒色パターンの文字“H”が見え、観察する角度を変えると、黒色パターン文字“H”が「緑色」に変わり、はっきりと認識できた。特に、文字“H”の線幅100μmの隅々まで色がでており、AL反射層からの回り込み光は全く見られなかった。
【0034】
(実施例2)
印刷厚さ10μmの黒色パターン層5「1mmサイズの“H”」を、コレステリック液晶4「1mmサイズの“H”」形成側と反対側に形成した以外は、実施例1と同様として、実施例2を得た。
得られた真正性識別体を観察側から眺めると、ホログラム再生像と、黒色パターンの文字“H”が見え、観察する角度を変えると、黒色パターン文字“H”が「緑色」に変わり、はっきりと認識できた。特に、文字“H”の線幅100μmの隅々まで色がでており、AL薄膜反射層からの回り込み光は全く見られなかった。
【比較例】
【0035】
(比較例)
黒色パターン層5の替わりに、AL薄膜反射層3をパターニングするため、除去する部分に水膨潤性樹脂を分散した水溶性インキでパターン印刷「1mmサイズの“H”」を施し、一面にAL反射性薄膜層3を形成、その後、その面にアルカリ性の水溶液等を接触させて、水溶性樹脂パターンを除去すると共に、水溶性樹脂パターンが積層されていた部分のAL反射性薄膜層5を除去することにより、水溶性樹脂パターンが積層されていなかった部分のAL反射性薄膜層3を残し、反射性薄膜層3をパターン状に形成した。
それ以外は、実施例2と同様として比較例を得た。
得られた真正性識別体を観察側から眺めると、ホログラム再生像と、黒色パターンの文字“H”が見え、観察する角度を変えると、黒色パターン文字“H”の色調が変わったものの、文字“H”の線幅100μmに、ホログラム再生像の色やAL反射性薄膜層からの反射光の回り込みによるノイズ成分がかなり出ており、「緑色」と判定できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の1実施例を示す真正性識別体Aの断面図である。
【図2】本発明の他の実施例を示す真正性識別体A´の断面図である。
【符号の説明】
【0037】
A 真正性識別体の実施例
A´ 真正性識別体の他の実施例
1 透明基材
2 ホログラム形成層
3 反射性薄膜層
4 コレステリック液晶層
5 黒色パターン層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の一方の側の少なくとも一部にコレステリック液晶層が設けられ、前記コレステリック液晶層の非観察側に、ホログラムレリーフを有する透明樹脂層、反射性薄膜層がこの順序で設けられており、前記コレステリック液晶層に相対する位置であって、透明基材の少なくとも一方の面の一部に、黒色パターン層を有することを特徴とする真正性識別体。
【請求項2】
前記黒色パターン層が、観察する光の波長の5倍以上50倍以下の厚さを有する請求項1に記載の真正性識別体。
【請求項3】
前記黒色パターン層が、前記コレステリック液晶層と、前記透明基材との間に、前記コレステリック液晶層と同一パターンで、設けられている請求項1に記載の真正性識別体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−145672(P2010−145672A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321830(P2008−321830)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】