説明

真空チャンバ

【課題】加熱に起因したリブの熱膨張によるリークを防止することが可能な真空チャンバを提供する。
【解決手段】互いに対向する内壁面である第1壁面と第2壁面とを有する筐体20と、第1壁面を内壁面とする壁面を扉取付壁面とし、この扉取付壁面に設けられた開口部18をシール部材26を介して密閉する扉12と、筐体20の内部に配置された加熱機構24と、第1及び第2壁面の間で、大気圧状態において、一端が第1壁面と離間し、他端が第2壁面に固定されたリブ22とを備える。この真空チャンバは、扉12が開口部18を密閉することにより、筐体20の内部が真空排気可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に加熱機構を有する真空チャンバに関する。
【背景技術】
【0002】
真空チャンバ内部を真空排気すると、真空チャンバには大きな圧力がかかる。この圧力により、真空チャンバが撓んで変形する。そのため、真空チャンバには強度を補強するためのリブが設けられる。
【0003】
真空チャンバ内部で加熱処理を行う場合、真空チャンバ内部に加熱機構が設けられる。真空チャンバ内壁にリブを設けると、加熱処理の際にリブが加熱され熱膨張する。リブは強度補強のため対向する真空チャンバ内壁に接して配置される。そのため、リブの熱膨張により筐体壁面が押し広げられ、真空チャンバのリークの原因となることがある。
【0004】
真空チャンバ内壁にリブを設ける場合、リブの熱膨張による真空チャンバのリークを防止する解決策として、加熱温度を制限してリブの熱膨張を低減することが考えられる。しかし、処理に必要な温度以下に加熱温度を制限することはできない。
【0005】
リブの熱膨張による真空チャンバのリークを防止する他の解決策として、リブを筐体の外壁に取り付けること(特許文献1参照。)が考えられる。しかし、リブを筐体の外壁に取り付けると、真空チャンバが大型化するため好ましくない。
【0006】
リブの熱膨張による真空チャンバのリークを防止する更に他の解決策として、加熱機構とリブの間に熱遮蔽板を設けること、あるいは、筐体の板厚又は材質を変更して強度を増加させること等が考えられる。加熱機構とリブの間に熱遮蔽板を設けると、部品点数が増えコストアップになる。また、熱遮蔽板により、真空チャンバ内部の有効な寸法が減少してしまう。また、筐体の板厚又は材質を変更して強度を増加させると、コストアップになる。
【0007】
このように、従来の真空装置では、強度補強のためリブを真空チャンバ内部に設けると、真空チャンバ内部でのリブの熱膨張による真空チャンバのリークを防止することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4003412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記問題点を鑑み、本発明は、真空排気による変形を抑制し、リブの熱膨張によるリークを防止することが可能な真空チャンバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の態様は、(a)互いに対向する内壁面である第1壁面と第2壁面とを有する筐体と、(b)第1壁面を内壁面とする壁面を扉取付壁面とし、この扉取付壁面に設けられた開口部をシール部材を介して密閉する扉と、(c)筐体の内部に配置された加熱機構と、(d)第1及び第2壁面の間で、大気圧状態において、一端が第1壁面と離間し、他端が第2壁面に固定されたリブとを備える真空チャンバであることを要旨とする。本発明の態様に係る真空チャンバは、扉が開口部を密閉することにより、筐体の内部が真空排気可能となる。
【0011】
本発明の他の態様は、(a)互いに対向する内壁面である第1壁面と第2壁面とを有する筐体と、(b)第1壁面を内壁面とする壁面を扉取付壁面とし、この扉取付壁面に設けられた開口部をシール部材を介して密閉する扉と、(c)筐体の内部に配置された加熱機構と、(d)第1及び第2壁面の間で、大気圧状態において、一端が第2壁面と離間し、他端が第1壁面に固定されたリブとを備える真空チャンバであることを要旨とする。この他の態様に係る真空チャンバは、扉が開口部を密閉することにより、筐体の内部が真空排気可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、真空排気による変形を抑制し、リブの熱膨張によるリークを防止することが可能な真空チャンバを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る真空装置の構成の概略を示す上面図である。
【図2】図1に示した真空装置のA−A線に沿った断面図である。
【図3】図1に示した真空装置のB−B線に沿った断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る真空装置の真空排気の一例を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る真空装置の真空排気の他の例を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る真空装置の加熱機構による加熱の一例を示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る真空装置の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面を参照して、本発明の形態について説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号が付してある。但し、図面は模式的なものであり、装置やシステムの構成等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な構成は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また図面相互間においても互いの構成等が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0015】
又、以下に示す本発明の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
(実施の形態)
本発明の実施の形態に係る真空装置は、図1〜図3に示すように、互いに対向する内壁面である第1壁面と第2壁面とを有する筐体20と、第1壁面を内壁面とする壁面を扉取付壁面とし、この扉取付壁面に設けられた開口部18をシール部材26を介して密閉する扉12と、筐体20の内部に配置された加熱機構24と、第1及び第2壁面の間で、大気圧状態において、一端が第1壁面と離間し、他端が第2壁面に固定されたリブ22とを備える真空チャンバ10と、この真空チャンバ10の内部を排気する排気装置16等を備える。図1に示すように、排気装置16は、配管14を通して真空チャンバ10を真空排気する。
【0017】
この真空チャンバの扉取付壁面は、真空排気されていないとき(以下において「大気圧状態」という。)において平面であり、扉12が開口部18を密閉することにより、筐体20の内部が真空排気可能となる。扉12を取り付ける扉取付壁面となる壁面は、筐体20の任意の壁面に設定可能であり、例えば、図1〜図3においては、筐体20の上面を扉取付壁面とする場合について例示しているが、図1〜図3に示す態様に限定されるものではなく、真空装置の設計仕様に応じて扉取付壁面は任意の壁面を選択可能である。同様に、第1壁面と第2壁面も真空装置の設計仕様に応じて任意の壁面を選択して定義することが可能であり、互いに対向する内壁面であれば良い。
【0018】
図2及び図3に示すように、扉取付壁面の外壁面には、開口部18を囲んで溝28が設けられ、溝28にシール部材26が配置される。扉12は、シール部材26と接触するように設けられる。真空チャンバ10の内部が大気圧状態のときは、シール部材26は圧縮されない自由状態となる。よって、「つぶし代G」が、自由状態でのシール部材26が溝28の上面から飛び出した部分の寸法として定義できる。
【0019】
図2及び図3に示すように、リブ22の一端が、常温においては、間隙Sで第1壁面と離間し、リブ22の他端が溶接部23により第2壁面に固定される。なお、開口部18の領域には、加熱対象(図示省略)の出し入れのためリブは配置されない。
【0020】
筐体20、扉12、及びリブ22には、アルミニウム(Al)やステンレス鋼等が使用可能である。シール部材26として、ゴム製のOリング、角ガスケット等が用いられる。加熱機構24の加熱温度は、加熱対象により異なる。例えば、加熱対象がカーボンプレートの場合、加熱温度は約450℃である。
【0021】
排気装置16により真空チャンバ10を真空排気すると、リブ22が常温のとき、図4に示すように、筐体20が内部方向にたわむ。第1壁面がリブ22の一端と接触すると、それ以上の筐体20のたわみが抑制される。このように、リブ22は、間隙S以上の筐体20の変形を防止する。扉12は、真空チャンバ10外部の大気圧によりシール部材26を圧縮してつぶし代Gがほぼゼロとなるようにつぶし、開口部18を密閉する。
【0022】
しかしながら、開口部18上方の扉12は、リブ22が常温のとき、図5に示すように、開口部18がリブ22に接触しないので、間隙Sを超えてたわみ量Dでたわむ。扉12の端部には、たわみにより、筐体20との間に間隙Gvが生じる。例えば、リブ22が常温のとき、たわみ量Dと間隙Sとの差がつぶし代Gより大きくなると、扉12の端部の間隙Gvがつぶし代Gと同程度となったり、つぶし代Gを超えるようになる。その結果、リブ22が常温のとき、扉12によるシール部材26の圧縮が不十分となり、真空チャンバ10のリークを招いてしまう。したがって、間隙Sは、たわみ量Dとつぶし代Gとの差より大きくすることが要求される。また、間隙Sをたわみ量Dより大きくすると、真空排気による真空チャンバ10の変形を防止することができない。したがって、リブ22が常温のときの間隙Sは、たわみ量D以下とすることが望ましい。
【0023】
図6に示すように、真空チャンバ10内部が大気圧の状態で加熱機構24により加熱が行われると、加熱機構24の近傍に配置されたリブ22が昇温され、熱膨張によりリブ22が伸びる。リブ22は、開口部18が設けられた側の第1壁面に対向する第2壁面で溶接部23により固定されている。したがって、リブ22は、リブ22の一端と第1壁面との間の間隙が常温時の間隙Sより小さくなるように、加熱温度での伸び量Xで第1壁面の方向に伸びる。
【0024】
加熱機構24での加熱時には、図6に示すように、リブ22の一端と第1壁面との間の間隙(S−X)は間隙Sより小さくなり、常温時に比べて筐体20の真空排気による変形を小さくすることができる。しかし、伸び量Xが間隙Sより大きい場合には、筐体20の第1壁面が熱膨張したリブ22により押し上げられ、シール部材26のつぶし代Gが小さくなってしまう。したがって、加熱時の真空チャンバ10のリークを防止するためには、リブ22の加熱温度での伸び量Xと間隙Sとの差がシール部材26のつぶし代Gより小さいことが望ましい。
【0025】
例えば、材質がSUS304で、寸法が2350mm×1810mm×270mmの筐体20と、材質がSUS304で、寸法が2250mm×1850mm、厚さが30mmの扉12を用いる。また、シール部材26として、太さが8.4mmのOリングを用いる。溝28の深さは、6.5mmであり、つぶし代Gは1.9mmである。このような真空チャンバ10を真空排気すると、扉12のたわみ量Dは、約3.2mmとなる。したがって、間隙Sとしては、たわみ量Dとつぶし代Gとの差の1.3mmより大きく、かつたわみ量Dの3.2mm以下とする。
【0026】
また、加熱機構24によるリブ22の加熱温度を300℃とすると、リブ22の伸び量Xは1.3mmである。したがって、間隙Sとしては、伸び量Xとつぶし代Gとの和の3.2mmより小さくする。その結果、間隙Sとしては、1.3mm〜3.2mmの範囲に設定すればよい。
【0027】
本発明の実施の形態では、リブ22が常温のとき、リブ22の一端と第1壁面との間に間隙Sを設けている。間隙Sは、真空排気による扉12のたわみ量とシール部材26のつぶし代との差より大きく、かつたわみ量以下にする。また、加熱機構24による加熱温度でのリブ22の伸び量と間隙Sとの差をシール部材26のつぶし代より小さくする。その結果、真空排気による筐体20の変形を抑制し、加熱機構24による加熱時のリブの熱膨張による真空チャンバ10のリークを防止することが可能となる。
【0028】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0029】
例えば、上記の実施の形態の説明では、大気圧状態において、一端が第1壁面と離間し、他端が第2壁面に固定されたリブ22とを備える真空チャンバ10を例示的に説明したが、リブ22が熱膨張を起こす方向の一方に間隙があれば良いので、リブ22の他端と第1壁面に対向する第2壁面との間に間隙を設けてもよい。即ち、図示を省略しているが、本発明の他の実施の形態に係る真空チャンバは、互いに対向する内壁面である第1壁面と第2壁面とを有する筐体と、第1壁面を内壁面とする壁面を扉取付壁面とし、この扉取付壁面に設けられた開口部をシール部材を介して密閉する扉と、筐体の内部に配置された加熱機構と、第1及び第2壁面の間で、大気圧状態において、一端が第2壁面と離間し、他端が第1壁面に固定されたリブとを備えるように構成可能である。この本発明の他の実施の形態に係る真空チャンバの扉取付壁面とこの扉取付壁面に対向する壁面は、大気圧状態において平面であり、扉が開口部を密閉することにより、筐体の内部が真空排気可能となる。
【0030】
又、本発明の実施の形態において、リブ22は溶接部23により筐体20の一壁面に固定されている。しかし、リブ22の固定は限定されない。例えば、図7に示すように、筐体20の一壁面に設けたねじ穴30にリブ22の端部に設けたねじ部32をねじ込み、固定ナット34で固定してもよい。この場合、ねじ部32のねじ穴30へのねじ込み量を調整することにより、間隙Sの調整を行うことができる。
【0031】
このように、本発明はここでは記載していないさまざまな実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0032】
10…真空チャンバ
12…扉
14…配管
16…排気装置
18…開口部
20…筐体
22…リブ
23…溶接部
24…加熱機構
26…シール部材
28…溝
30…穴
32…部
34…固定ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する内壁面である第1壁面と第2壁面とを有する筐体と、
前記第1壁面を内壁面とする壁面を扉取付壁面とし、該扉取付壁面に設けられた開口部をシール部材を介して密閉する扉と、
前記筐体の内部に配置された加熱機構と、
前記第1及び第2壁面の間で、大気圧状態において、一端が前記第1壁面と離間し、他端が前記第2壁面に固定されたリブ
とを備え、前記扉が前記開口部を密閉することにより、前記筐体の内部が真空排気可能となることを特徴とする真空チャンバ。
【請求項2】
前記シール部材が、前記開口部を囲んで前記扉取付壁面の外壁面に設けられた溝に配置され、
前記加熱機構の加熱温度での熱膨張による前記第2壁面から前記第1壁面に向かう方向の前記リブの伸び量と前記リブの一端と前記第1壁面との間隙との差が、大気圧状態において前記シール部材が前記溝の上面から飛び出した前記シール部材の部分の高さより小さいことを特徴とする請求項1に記載の真空チャンバ。
【請求項3】
前記リブの一端に、前記第2壁面に設けられたねじ穴にねじ止めして前記間隙を調整するねじ部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の真空チャンバ。
【請求項4】
互いに対向する内壁面である第1壁面と第2壁面とを有する筐体と、
前記第1壁面を内壁面とする壁面を扉取付壁面とし、該扉取付壁面に設けられた開口部をシール部材を介して密閉する扉と、
前記筐体の内部に配置された加熱機構と、
前記第1及び第2壁面の間で、大気圧状態において、一端が前記第2壁面と離間し、他端が前記第1壁面に固定されたリブ
とを備え、前記扉が前記開口部を密閉することにより、前記筐体の内部が真空排気可能となることを特徴とする真空チャンバ。
【請求項5】
前記シール部材が、前記開口部を囲んで前記扉取付壁面の外壁面に設けられた溝に配置され、
前記加熱機構の加熱温度での熱膨張による前記第1壁面から前記第2壁面に向かう方向の前記リブの伸び量と前記リブの一端と前記第2壁面との間隙との差が、大気圧状態において前記シール部材が前記溝の上面から飛び出した前記シール部材の部分の高さより小さいことを特徴とする請求項4に記載の真空チャンバ。
【請求項6】
前記リブの一端に、前記第1壁面に設けられたねじ穴にねじ止めして前記間隙を調整するねじ部を有することを特徴とする請求項4又は5に記載の真空チャンバ。
【請求項7】
前記間隙が、前記筐体の真空排気による前記扉のたわみ量と前記つぶし代との差より大きいことを特徴とする請求項2又は5に記載の真空チャンバ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate