説明

真空二重びん

【課題】外カバーを省略した真空二重びんにおいて、落下衝撃による底カバーと内びんの接触を防止する。
【解決手段】外胴10に、真空二重びんを水平面に鉛直に立たせる底カバー30の底面周囲部34よりも上方に凹み、かつ内びん20の下方に位置した底カバー30の逃げ部33の最高点、及び外胴10と底カバー30の側周部32の溶接部よりも低く側周部32の内側で突き出た負荷分担部12を形成した。負荷分担部12を曲げて形成した外胴10の板厚面が底カバー30の底面周囲部34と対面する向きで突き当たるか、近傍で対面するようにして、底カバー30に負荷された落下衝撃を逃げ部33の最高点と内びん20の接触前に分担するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水などを保冷、保温する真空二重びんに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外胴と内びんの上側口部を接合した後に底カバーを当該外胴に接合して外びんを形成し、かつこれら内びんと外びん間の真空排気に用いた当該底カバーの排気口を封止部で塞いだ真空二重びんがある。底カバーには、外胴に水平方向から被さる側周部と、真空二重びんを水平面に鉛直に立たせる底面周囲部よりも上方に凹んだ逃げ部とが形成されている。側周部が外胴に圧入され、外部から溶接されている。底カバーで真空二重びんを水平面に鉛直に立たせるので、外びんの底を覆う別付けの外カバーが存在しない。このため、封止部は、内びんの下方に位置した逃げ部に含まれている。落下時は、底面周囲部が逃げ部よりも先に他の部分と当たり易く、封止部を防護することができる。外カバーが無くなる分、全高を維持しつつ、内びんを下方に長くし、容量を増すことも可能である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−93329号公報(要約書、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のように別付けの外カバーを無くすと、内びんと外びん間の真空空間と、外びんと外カバーの空間とを有する特許文献1の図1のような一般的な真空二重びんと異なり、底カバーへの落下衝撃の繰り返し付加で打痕が徐々に大きくなった場合、底カバーと内びんとの接触が可能となり、熱不良が起こる。
【0005】
そこで、この発明の課題は、落下衝撃による底カバーと内びんの接触を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、この発明は、外胴と内びんの上側口部を接合した後に底カバーを当該外胴に接合して外びんを形成し、かつ真空排気に用いた当該底カバーの排気口を封止部で塞いだ真空二重びんにおいて、前記底カバーが、前記外胴に水平方向から被さる側周部と、前記真空二重びんを水平面に鉛直に立たせる底面周囲部よりも上方に凹んだ逃げ部とを有し、前記封止部が、前記内びんの下方に位置した前記逃げ部に含まれており、前記外胴が、前記側周部の内側で前記逃げ部の最高点及び前記外胴と前記側周部の溶接部よりも低く突き出た負荷分担部を含み、前記負荷分担部が、前記底カバーに負荷された落下衝撃を前記逃げ部の最高点と前記内びんの接触前に分担する構成を採用した。
【0007】
底カバーの側周部の内側で側周部と外胴の溶接部よりも低く突き出た外胴の負荷分担部は、底カバーに負荷された落下衝撃を分担するため、底カバーの上方への凹み変形を抑えることができる。底カバーの逃げ部の最高点が最も早期に内びんと接触し得るので、その最高点よりも低く突き出た負荷分担部によれば、その接触前から前記の凹み変形を抑え、落下衝撃による底カバーと内びんの接触を防止することができる。
【0008】
前記外胴が、上に向かって次第に拡径する段付け部を含み、前記溶接部が、前記段付け部と、ここに突き当たるまで圧入された前記側周部の上端とを溶接することで形成されており、前記負荷分担部が、上に向かって次第に拡径する圧入案内部を含み、前記側周部が、前記圧入案内部を滑ってから前記段付け部に突き当たるようになっていることが好ましい。
【0009】
外胴の段付け部と、ここに突き当たるまで圧入された底カバーの側周部の上端とを溶接することで溶接部が形成されている。この溶接を行うため、側周部を外胴に圧入で固定している。負荷分担部は、溶接部よりも低く突き出た部分なので、ここを圧入の案内に利用することができる。すなわち、上に向って次第に拡径する圧入案内部を負荷分担部に含めれば、側周部が圧入案内部を滑る間に拡がるので、段付け部まで圧入し易くなる。また、側周部を接触よく強固に取り付けることができる。側周部が段付け部に突き当たるまで圧入されていない場合、側周部の上端と段付け部との間に残る隙間のために外胴側の溶融が不足し、溶接不良になり易いが、圧入案内部で段付き部までの圧入を確実にすれば、負荷分担部を利用して溶接不良を防止することができる。
【0010】
例えば、前記圧入案内部が、前記外胴及び前記底カバーの軸線上に球中心をもった下半球状になっているとよい。
【0011】
底カバーが軸線に対して僅かに傾いた状態で圧入されるときでも、その軸線上に球中心をもった下半球状の圧入案内部なので、前記段付け部まで圧入が円滑に進み、段付け部と前記側周部との突き当たりで傾きを是正してから、溶接することができる。
【0012】
前記外胴が、上に向かって次第に拡径する段付け部を含み、前記負荷分担部が、上に向かって次第に拡径する圧入案内部を含み、前記側周部が、前記圧入案内部を滑ってから前記段付け部に突き当たるようになっており、前記圧入案内部と前記段付け部との間に、前記側周部と面接触するようになじんだ圧入嵌合部が連続しており、前記溶接部が、前記段付け部と、ここに突き当たるまで圧入された前記側周部の上端、又は前記圧入嵌合部と前記側周部の上端とを溶接することで形成されていることも好ましい。
【0013】
圧入案内部で圧入を容易にすることができるので、圧入案内部と段付け部との間に、前記外胴と前記側周部とが面接触するようになじんだ圧入嵌合部が連続して生じるような、きつい圧入を採用することができる。仮に、段付け部に側周部が突き当たらない圧入不良が生じても、その圧入嵌合部と側周部間には外胴側の溶融不良を招くような隙間がないので、溶接不良を防止することができる。
【0014】
前記外胴が、前記段付け部から上に向かって次第に縮径した膨出部と、この膨出部よりも高い位置で前記内びんの最大外径部と対向する内径部とを含み、前記負荷分担部の最小内径が、前記内径部以上であるとよい。
【0015】
外胴と内びんの上側口部を接合するため、内びんを外胴の内側に下から同軸に挿入する。その外胴が内径部と段付け部間の径差を解消する膨出部を含むので、段付け部の形成による内びんの最大外径の制限、ひいては容量減少が防止されている。外胴の段付け部から下の部分に底カバーの側周部が被さるので、さらに負荷分担部の最小内径が内径部以上であれば、負荷分担部に、内側へ曲げて形成することになる圧入案内部を含めても、内びんの最大外径が制限されない。
【0016】
前記底面周囲部が、水平に沿った板部からなり、前記負荷分担部が、前記底面周囲部と前記外胴の板厚面で対面する向きに曲げられていることが好ましい。
【0017】
前記底カバーに負荷された落下衝撃を負荷分担部が分担する際、水平な底面周囲部と負荷分担部とが鉛直方向に突き当たるようにし、負荷分担部の傾きを防ぎ、しっかりと凹み変形を抑えることができる。
【発明の効果】
【0018】
上述のように、この発明は、上記構成の採用により、落下衝撃による底カバーの上方への凹み変形を、底カバーの逃げ部の最高点と内びんの接触前から外胴の負荷分担部で抑えるので、落下衝撃による底カバーと内びんの接触を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は実施形態の底カバーと外胴の部分縦断面図、(b)は実施形態の底カバーを外胴に圧入した状態の部分縦断面図
【図2】実施形態の全体構造を示す縦断面図
【図3】(a)は第1実施例の底カバーを外胴に正規に圧入した状態の部分縦断面図、(b)第1実施例の底カバーを外胴に不正規に圧入した状態の部分縦断面図、(c)は第1実施例の圧入嵌合部と底カバーの側周部の寸法関係を示す概念図
【図4】第2実施例の底カバーを外胴に圧入した状態の部分縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1、図2に示すように、この発明の実施形態に係る真空二重びんは、外胴10と内びん20の上側口部11、21を接合した後に底カバー30を外胴10に接合して外びんを形成し、これら内びん20と外びん間の真空排気に用いた底カバー30の排気口を封止部31で塞いだ真空二重びんを備えている。外胴10の外面に中栓40が装着される。中栓40は、飲み口41と、蓋42と、蓋ロック機構43とを備えており、携帯用の真空二重びんとなっている。
【0021】
外胴10は、プレス加工で成形された一部品になっている。内びん20は、内底22を内胴に接合して形成されている。内びん20の最大外径部23は、満水位よりも低い位置にある。最大外径部23は、内底22と内胴の接合部になっている。
【0022】
底カバー30は、前記外胴に水平方向から被さる側周部32と、真空二重びんを水平面に鉛直に立たせる底面周囲部34よりも上方に凹んだ逃げ部33とを有している。逃げ部33は、内びん20の内底22の下方に位置している。封止部31は、逃げ部33の中央部に形成されている。逃げ部33の最高点は、封止部31のところに存在している。
【0023】
外胴10は、側周部32の内側で逃げ部33の最高点、及び外胴10と側周部32の溶接部よりも低く突き出た負荷分担部12と、上に向かって次第に拡径する段付け部13と、段付け部13から上に向かって次第に縮径した膨出部14と、膨出部14よりも高い位置で内びん20の最大外径部23と対向する内径部15とを含んでいる。
【0024】
溶接部は、段付け部13と、ここに突き当たるまで圧入された側周部32の上端32aとを溶接することで形成されている。溶接には、レーザ溶接を採用している。
【0025】
底面周囲部34は、水平に沿った板部からなる。負荷分担部12は、底面周囲部34と外胴10の板厚面で対面する向きに曲げられている。
【0026】
負荷分担部12は、底カバー30の側周部32を段付け部13に突き当たるまで圧入すると、底面周囲部34と突き当たった状態になる。このため、負荷分担部12は、底カバー30に負荷された落下衝撃を逃げ部33の最高点と内びん20の接触前に分担することができる。
【0027】
負荷分担部12は、上に向かって次第に拡径する圧入案内部12aを含む。側周部32を圧入する間に、上端32aが圧入案内部12aを滑ってから段付け部13に突き当たるようになっている。側周部32が圧入案内部12aを滑る間に拡径変形を生じるので、段付け部13まで圧入し易い。また、側周部を接触よく強固に取り付けることができる。外胴10のプレス加工上、段付け部13から下の部分には、全体として、下に向って外側に僅かな傾きを設定している。段付け部13に側周部32の上端32aが接触していないと、レーザで加熱しても隙間があるため、底カバー30の上端32a付近だけが高温になり、外胴10の段付け部13付近の溶融が不足し兼ねない。負荷分担部12に圧入案内部12aを含めて圧入を容易にしたため、圧入不良を防ぎ、ひいては、溶接不良を防止することができる。
【0028】
負荷分担部12の最小内径は、内径部15以上である。このため、内びん20を下方から外胴10の内側に同軸に挿入する際、最大外径部23と接触しない。また、内径部15と最大外径部23との関係で内びん20の容量が決まるので、圧入案内部12aを溶接部よりも逃げ部33に近くに形成しても容量が減少しない。
【0029】
この実施形態にJIS S2053の8.5.1に規定の落下衝撃試験を行うと、底カバー30の底面周囲部34が板に当る。その底面周囲部34に板厚面で突き当たっている負荷分担部12は、落下衝撃を直ちに分担するので、逃げ部33の最高点と内びん20の内底22の接触前から、底カバー30の上方への凹み変形が負荷分担部12で抑えられる。したがって、この実施形態は、落下衝撃による底カバー30と内びん20の接触を防止することができる。負荷分担部12は、板厚面で水平に沿った底面周囲部34に突き当たるので、簡単には傾かず、しっかりと底面周囲部34を抑えることができる。
【0030】
図示例で、JISの8.5.1に規定の落下衝撃試験の高さを40(cm)から70(cm)に変更し、繰り返し100回の落下させた。外胴10、底カバー30を切断して断面を目視で確認したところ、内びん20の内底22が全体的に下側に膨らみ、底カバー30は底面周囲部34から上側に凹んだが、底カバー30と内びん20の接触は無かった。なお、満水容量は、1.2(l)未満とし、外胴10、内びん20、底カバー30の素材は、上記JISに従うステンレス薄板とした。
【実施例】
【0031】
図3に第1実施例を示す。以下、実施形態との相違点を述べるに留める。図3(a)に示すように、第1実施例は、圧入案内部12aと段付け部13との間に、側周部32と面接触するようになじんだ圧入嵌合部16が連続している。正規の溶接部の位置は、段付け部13と、ここに突き当たるまで圧入された側周部32の上端32aである。図3(b)に示すように、圧入不良が生じたとしても、圧入嵌合部16と側周部32の上端32aとを溶接することができるので、溶接不良を防止することができる。圧入嵌合部16は、図3(c)に圧入前の寸法関係を概念的に示すように、負荷分担部12と段付け部13間における外胴外径と、側周部32の内径との間に十分な負のはめあい代を設定することで形成されている。
【0032】
負荷分担部12は、底面周囲部34から上方に浮いている。負荷分担部12の底面周囲部34からの浮き高さは、図2に示す逃げ部33の最高点と内びん20の間の鉛直方向すきまよりも十分に小さい。この浮き高さの差が存在するため、負荷分担部12は、底カバー30に負荷された落下衝撃を逃げ部33の最高点と内びん20の接触前に分担することができる。負荷分担部12と底面周囲部34とが突き当たっている実施形態は、負荷分担部12による底カバー30の凹み量の抑制を優先するのに適している。第1実施例は、底カバー30と外胴10の圧入位置の管理を容易化を優先するのに適している。
【0033】
図4に第2実施例を示す。第2実施例は、負荷分担部12に、外胴10及び底カバー30の軸線上に球中心をもった下半球状の圧入案内部17を含んでいる。底カバー30の圧入時、外胴10を鉛直に保持する治具の性能限界から、底カバー30が外胴10の軸線に対して僅かに傾いた状態で圧入され得る。圧入案内部17を下半球状にしているので、傾いた状態に圧入されても段付け部13まで圧入を円滑に行うことができ、段付け部13と側周部32との突き当たりで傾きを是正してから、溶接することができる。
【0034】
この発明の技術的範囲は、上述の実施形態や実施例に限定されず、特許請求の範囲の記載に基く技術的思想の範囲内での全ての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0035】
10 外胴
11、21 上側口部
12 負荷分担部
12a、17 圧入案内部
13 段付け部
14 膨出部
15 内径部
16 圧入嵌合部
20 内びん
22 内底
23 最大外径部
30 底カバー
31 封止部
32 側周部
33 逃げ部
34 底面周囲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外胴と内びんの上側口部を接合した後に底カバーを当該外胴に接合して外びんを形成し、かつ真空排気に用いた当該底カバーの排気口を封止部で塞いだ真空二重びんにおいて、
前記底カバーが、前記外胴に水平方向から被さる側周部と、前記真空二重びんを水平面に鉛直に立たせる底面周囲部よりも上方に凹んだ逃げ部とを有し、
前記封止部が、前記内びんの下方に位置した前記逃げ部に含まれており、
前記外胴が、前記側周部の内側で前記逃げ部の最高点及び前記外胴と前記側周部の溶接部よりも低く突き出た負荷分担部を含み、
前記負荷分担部が、前記底カバーに負荷された落下衝撃を前記逃げ部の最高点と前記内びんの接触前に分担することを特徴とする真空二重びん。
【請求項2】
前記外胴が、上に向かって次第に拡径する段付け部を含み、
前記溶接部が、前記段付け部と、ここに突き当たるまで圧入された前記側周部の上端とを溶接することで形成されており、
前記負荷分担部が、上に向かって次第に拡径する圧入案内部を含み、
前記側周部が、前記圧入案内部を滑ってから前記段付け部に突き当たるようになっている請求項1に記載の真空二重びん。
【請求項3】
前記圧入案内部が、前記外胴及び前記底カバーの軸線上に球中心をもった下半球状になっている請求項2に記載の真空二重びん。
【請求項4】
前記外胴が、上に向かって次第に拡径する段付け部を含み、
前記負荷分担部が、上に向かって次第に拡径する圧入案内部を含み、
前記側周部が、前記圧入案内部を滑ってから前記段付け部に突き当たるようになっており、
前記圧入案内部と前記段付け部との間に前記側周部と面接触するようになじんだ圧入嵌合部が連続しており、
前記溶接部が、前記段付け部と、ここに突き当たるまで圧入された前記側周部の上端、又は前記圧入嵌合部と前記側周部の上端とを溶接することで形成されている請求項1に記載の真空二重びん。
【請求項5】
前記外胴が、前記段付け部から上に向かって次第に縮径した膨出部と、この膨出部よりも高い位置で前記内びんの最大外径部と対向する内径部とを含み、
前記負荷分担部の最小内径が、前記内径部以上である請求項2から4のいずれか1項に記載の真空二重びん。
【請求項6】
前記底面周囲部が、水平に沿った板部からなり、
前記負荷分担部が、前記底面周囲部と前記外胴の板厚面で対面する向きに曲げられている請求項1から5のいずれか1項に記載の真空二重びん。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−170526(P2012−170526A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33066(P2011−33066)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000002473)象印マホービン株式会社 (440)
【Fターム(参考)】