説明

真空採血管および採血用具

【課題】人体から採血する時、採血手順を取り違えることによって生じる細菌感染、細菌由来異物および検査用各種化学物質等の体内への侵入という危険性や、採血後の血液の漏れによる採血環境汚染の問題を簡単な技術によって完全に阻止するための採血管および採血針を提供すること。
【解決手段】体内と採血管との間で生じる大小いかなる圧力変動に対しても漏れが生じない弾性隔壁を備え、かつ確実に安定して一方向のみに動作し採取した血液の逆流を阻止する機構を備え、かつ採血後採血針を抜去する際に付着血液を吸収する機能を備え、かつ採血針が常に適正な方向に挿入可能な機構を備えた採血管および採血用具であれば良い。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、採血時のフラッシュバック現象による体内への細菌感染および異物侵入等を阻止し、また、採血後採血針を抜去する際の血液漏れによる汚染を防止するための採血管および採血用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
採血は、検査、診断、治療および薬物開発等、医学、薬学を始めとする生物科学分野においては普遍的に行われているが、特殊な分野あるいは環境条件下での使用を除き真空採血管が主流となっている。このような状況の中で、近年医療現場での採血時の問題としてフラッシュバック現象(文献1)による体内への細菌感染や検査用各種化学物質の侵入問題が指摘され、注意を喚起する報告が多くされている。そこで、このような危険を回避させるため、国、地方自治体および関連研究機関から採血マニュアル(文献2、文献3および文献4)が示されており、最近では採血用具について滅菌処理を義務付ける方向に進んでいる。
一般に真空採血管を用いて採血を行う場合、採血管の初期内圧は負圧に設定されているため、滅菌処理をしていない採血管を用いると採血針を採血管に刺通することによって血液が採血管内部で撹乱され、微生物(以下細菌と記す)あるいは微生物由来物質(以下細菌由来異物と記す)との混合が起こることは容易に想像される。従って採血終了後採血針を抜去する前に駆血帯を外してしまうと、採血管内部の負圧力が低下していることから血管内との圧力バランスが逆転し、瞬間的に血管側に細菌や細菌由来異物等を含む血液が逆流し感染を起こす危険性が高いと指摘され、現実にこれらの現象が起こっていることが報道(情報1、情報2)されている。
仮に滅菌処理を施した採血管を用いたとしても、洗浄等が不十分である場合は、同様に死菌、細菌由来異物および血液凝固防止剤を始めとする検査用各種化学物質や製造時に発生付着した微小異物等が採血血管を通し体内に侵入し悪影響を与えることを完全に否定することはできない。
このような問題を解決するために、採血マニュアルを遵守する以外の技術的方策として採血針に逆流阻止機能を有する特許(特許1、特許2および特許3)が出願されている。
しかしながら、これらの特許では採血時のきわめて微小な圧力変化によって起こる血液逆流現象を正確に、かつ安定的に阻止し、一度採取された血液が再度体内に戻ることがないことを確証したものではない。また、採血針中の狭い間隙に弁を配置した構造であるため、血液の粘性による影響で採血時に圧力変動をコントロールすることが難しく、一定時間における採血量のばらつきが大きいとともに、採血針の品質管理および実用化するための加工精度や製造工程での管理が難しいという問題を含んでおり、採血と逆流阻止という圧力的に相反する目的を確実にしかも安定的に制御できるか疑問である。
一方、採血管に逆流阻止機構を付与したものもわずかながら特許(特許4および特許5)として出願されているが、これらは、いずれも従来から他の分野で用いられている部品を推論的に構築あるいは配置したものに過ぎず、実験的に確認した範囲では、実用化において安定した採血と確実な逆流阻止を保証することは難しいと予想される。
昨今、直接生体に接触する医療用具を滅菌処理することは当然とされており、採血管のように間接的に用いられるものであっても望ましいとされるが、反面、処理された採血管についての細菌由来異物や検査用各種化学物質等の混入状況が不明であるとともに、滅菌処理するためのコスト面、品質管理面およびエネルギー消費による地球環境に与える影響面で問題がないとはいえない。
さらにその他の問題として、採血終了後採血針を採血管から抜去する際引きずられて血液の一部が採血管外に漏れ出し、採血者ならびに周囲環境を汚染する危険性が指摘(情報2、情報3)されている。しかしながら、これを技術的に解決する手段として採血ホルダーを患者毎交換することの励行、あるいは採血針一体型のホルダーの使用が報告されているのみで、採血管および採血用具本体への技術的解決策はこれまで提案されるに至っていない。
現状の対処法では、汚染とは別の課題として地球資源の無駄遣いや廃棄における環境問題等の観点から考え、上記事例とは異なる採血後の血液の漏れ阻止技術が必要となる。
【文献1】
臨床化学 第32巻補冊2号・臨床病理51巻補冊2003
【文献2】
厚生労働省通知(薬食安発第1117001号)
【文献3】
東京都健康局医療安全課発(真空採血管を用いた採血マニュアル、平成15年12月22日)
【文献4】
社団法人日本看護協会(真空採血管使用上の注意、平成15年12月1日)
【特許1】
特許公開2005−218573
【特許2】
特許公開2006−110267
【特許3】
特許公開2007−007840
【特許4】
特許公開2002−331032
【特許5】
特許公開2005−323942
【情報1】
NHKニュース10(平成15年10月27日報道)
【情報2】
最新医療情報2005Kyodo News(共同通信社報道)
【情報3】
病院感染対策マニュアル(市立札幌病院、平成18年6月報道)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、医療、研究等で採血が必要とされる時、採血手順を誤り操作することによって生じる細菌感染、細菌由来異物および検査用各種化学物質等の体内への侵入という危険性や採血後の血液の漏れによる汚染の問題を簡単な技術によって完全に阻止できる高品質で安価な採血管および採血用具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するためには、体内と採血管との間で生じる大小いかなる圧力変動に対しても漏れが生じない隔壁を備え、かつ確実に安定して一方向のみに作動し、採取した血液の逆流を阻止する弁機構を備え、かつ採血後採血針を抜去する際に付着血液を吸収する機構を備え、かつ採血針挿入時に常に適正な方向に修正する機構を備え、かつ製造時シールするまでの一過性の負圧状態を保持するとともに、未使用時の採血管内真空度低下を最小限にとどめる機能を備え、かつ製造するために容易で安価な採血管および採血用具であれば良い。
【発明の効果】
【0005】
本発明の採血管および用具部品は、外部と遮断するための弾力性材料を用いた隔壁部分と逆流阻止部分と採血後の採血針に付着する血液を吸収する部分と採血針の挿入方向を修正する形状を有する部分とから構成されており、採血終了時に駆血帯を誤って先に緩める等採血手順を逸脱するようないかなる操作を行っても、細菌による感染あるいは細菌由来異物および各種検査用化学物質等が体内に侵入することを防止できるため汚染を引き起こすことはなく、また、採血針抜去後に採血管から血液の漏れ出ることが阻止できるため、採血者および周囲を汚染することもない。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下に、本発明の各部の構造を示し、本発明の真空採血管および部品の詳細を説明する。
図1は本発明真空採血管本体の断面図であり、図2は採血管を採血ホルダーにセットしたときの断面図を示す。図3は本発明の栓体を含む断面図であり、図4は本発明の栓体の一部を構成する断面図であり、図5および図6は本発明の逆止弁の断面図であり、図7は栓体の支持体断面図であり、図8は本発明の逆流阻止機能を付与した採血針の断面図である。また、図9および図10に本発明の実施例を示す。
【0007】
本発明の構造は、図1に示すように採血管本体と栓体とが気密的に構成されている。
【0008】
図3に示す本発明の栓体は、支持体3、弾性体隔壁4および12、血液吸収体5、逆止弁6、シール用アルミフィルム11、Oリング13および採血針挿入ガイド10から構成されている。弾性体隔壁4および12は、採血管に血液を採取するため採血針を刺通するまで負圧を維持するために設けてある。特に弾性体隔壁4については、採血針が隔壁を完全に通過するまで外部との漏れがない厚さとして2mm以上を有することが必要である。弾性体隔壁12については、従来のものにもみられ本発明においては補助的なものとして作用するが、必要でなければ省くことは可能である。弾性体隔壁4および12のもう一つの要件として優れた耐候性が求められるため、材料としてはシリコンゴム、ネオプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム等耐候性ゴム状素材および軟質樹脂を含む独立気泡体等が望ましい。
【0009】
血液吸収体5は、採血針抜去時の付着血液を吸着するものであるため、材料としてはおむつあるいは生理用品に用いられるような高吸水機能を有するものが望ましく、例えば圧縮脱脂繊維、親水性不織布、親水性連立気泡体、親水性中空糸および親水性ゲル等が可能である。特に、その機能を達成するために採血管の内部において弾性体隔壁4の上部に位置することが必須である。
【0010】
採血管と外部とを遮断するシールとして、熱熔融樹脂フィルムがラミネートされたシール用アルミフィルム11を用いて熱熔着することが望ましいが、製造時に真空を一時的に保持するため、またアルミ箔のピンホールの危険性を考慮した場合Oリング13を備えることは有効である。
【0011】
逆止弁6については、キャップ状または筒状の形状から成る。材料としては、高い弾性力を有するシリコンゴム、ネオプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、フロロシリコンゴム、ラテックスゴムおよびその他のゴム状物質の単独あるいは複合体が適している。
【0012】
図4に示す本発明の栓体の一部4aに示す弾性体隔壁4および12、血液吸収体5、シール用アルミフィルム11は一体で構成されることが望ましいが、4bに示すように血液吸収体5が弾性体隔壁4に内包されたものはさらに有効である。
【0013】
図5の5aはキャップ状逆止弁であるが、血液を通過させる切り込み14を備えている。
切り込み14は、キャップ軸横方向および軸中央に設けることも可能であるが、動作が不確実で実用に供することは難しい。それを解決するために、本発明に示す先端から軸方向縦位置に一定寸法切り込むことによって安定した採血量確保と完全な血液逆流効果が期待できる。切り込み14は、5bに示すように単数であっても良いが、5cに示すように2カ所以上の複数であっても良い。
【0014】
図6の6aは筒状逆止弁の構造を示すが、検討の結果安定した採血状態を得るためには、6bに示す円筒の弾力性と厚みが極めて大きな影響を与えることが確認され、通常の500μ以上の厚みシリコンゴムチューブ、ネオプレンゴムチューブ、ウレタンゴムチューブ等の成型物では実用化は全く困難であることが分かった。それを解決するため、本発明では厚みが100μm以下、望ましくは50μm以下の厚みが必須であるとの結論を得たが、別の問題として、逆止弁の加工および支持体への装着に工夫を要する。このことは、図3の3Cに代表される従来の逆止弁構造では、微量の圧力変化に対応することは難しいと推察される。
【0015】
図7は栓体の根幹である支持体を示し、7aはキャップ状逆止弁を装着するための構造で、7bは筒状逆止弁を装着するための構造であり、いずれも支持体下部側面に円周に沿って逆止弁固定用突起物15を有している。採血針挿入ガイド10は逆円錐状に成形されており、採血針が中心点を外れて挿入された場合でも中心軸方向に修正する機能を有する。
円錐の角度は60度以下が必要であるが、さらに45度以下が望ましい。凹み16は、弾性体隔壁4および血液吸収体5を保持するために設けられており、また7bは血液流出孔9を備えている。
【0016】
図8は、本発明のキャップ状逆止弁5aを採血針に採用したもので、通常の逆止弁なしの真空採血管を用いる場合に有効となる。
【実施例1】
【0017】
図9に、本発明の逆止弁を含む4種類の構造の異なる逆止弁を備えたモデル採血管および対照として逆止弁なしのモデル採血管を使用し、それらの採水性能について150mHgの負圧下で確認した結果を示す。この結果では、本発明構造以外の逆止弁を用いたモデル採血管では、十分な量の採取をすることはできず実用には適さないであろうことが判明した。
【実施例2】
【0018】
図10に本発明の逆止弁を有するモデル採血管と逆止弁を有しないモデル採血管で採血管内を加圧し、管内からの水の漏れおよび圧力減少を測定した結果を示す。
この結果では、本発明のモデル採血管では漏れおよび圧力の変化は全く見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】 本発明の採血管を示す断面図。
【図2】 本発明採血管を備えた採血セットを示す断面図。
【図3】 本発明の採血管栓体を示す断面図。3aはキャップ状逆止弁を装着する栓体、3bは筒状逆止弁を装着する栓体、3cは従来報告されているボール状逆止弁を装着する栓体を示す。
【図4】 本発明の栓体一部の断面図。4aは弾性体隔壁4と血液吸収体5が単独に重ねあわせたもので、4bは血液吸収体5が弾性体隔壁4に内包されたものを示す。
【図5】 本発明のキャップ状逆止弁で、5aはその断面図であり5bおよび5cはその下面図。
【図6】 本発明の筒状逆止弁で、6aはその断面図であり6bはその下面図。
【図7】 本発明の栓体の支持体断面図。7aはキャップ状逆止弁を装着するための支持体、7bは筒状逆止弁を装着するための支持体を示す。
【図8】 本発明のキャップ状逆止弁を装着した採血針の断面図。
【図9】 本発明の実施例1。
【図10】 本発明の実施例2。
【符号の説明】
1 採血管本体
2 栓体
3 支持体
4 弾性体隔壁
5 血液吸収体
6 逆止弁
7 球状逆止弁
8 作動用バネ
9 血液流出孔
10 採血針挿入ガイド
11 シール用アルミフィルム
12 弾性体隔壁
13 Oリング
14 切り込み
15 逆止弁固定止め
16 弾性体隔壁および血液吸収体保持凹み
17 採血針
18 採血針キャップ
19 血液流路
20 採血ホルダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆流阻止機能および漏れ阻止機能を備えた真空採血管および採血用具。
【請求項2】
血管の内外圧の変動に影響されず、低圧力でも確実に逆流を阻止するキャップ状逆止弁および筒状逆止弁を備えた栓体および採血用具。
【請求項3】
採血針抜去後の採血管からの血液漏れ阻止機構を備えた栓体。
【請求項4】
採血針の挿入を適正にする機構を備えた栓体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−148511(P2009−148511A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341814(P2007−341814)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(508022562)有限会社ピュアテクノス (1)
【Fターム(参考)】