説明

真空採血管

【課題】溶血せずに安全性の高い、少量の採血が迅速に可能な真空採血管を提供する。
【解決手段】両端が開口した管状体1及び一端の開口部を閉塞する栓体3からなり、該管状体の内部に、該管状体の一端と他方の一端を水密・気密に隔離する血液流入部2を有し、該流入部の外径D2が該管状体の内径D1に対しD1≧D2であり、且つ該流入部の長さL2が該管状体の長さL1に対しL1>L2である真空採血管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空採血管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、血液、尿等を検体として人の病気を診断する方法は、人体を損ねることなく簡便に診断できる方法として、長く行われてきている。
【0003】
特に血液は、多くの検査項目について診断が可能であり、健康診断,疾病の診断などでは血液を採取してその成分を分析することが一般的になっている。
【0004】
近年、検査装置の進歩により、一度の検査に要する血液量は少なくなってきている。汎用の生化学の成分分析装置では、約20〜200μL/1項目で測定が行われているが、検体量が少量でも測定可能な装置が開発されており、約5〜10μL/1項目まで検体の必要量は少なくなっている。さらに、糖尿病患者がモニターする血糖値の自己管理器においては、1μL以下でグルコース濃度が測定可能な装置もある。
【0005】
血液検査においては、通常、患者あるいは健康診断の対象者などのいわゆる被検者から血液を採取する際に、採血針を静脈に穿刺している。通常の血液検査では、ISO9626:1991などに規定される21G(ゲージ)(外径0.81mm,内径0.49mm〜0.61mm)の採血用針を用いて採血を行っている。
【0006】
採血の方法としては、注射器(シリンジ)で行う方法と真空採血管(又は減圧採血管とも言う。)を使用して行う方法がある。第一の注射器で行う方法では、注射器に採血用針を装着し、穿刺を行ったあと、採血者が自分の力で注射器の内筒を引く。このため、採血に時間を要したり、溶血しやすいという問題点がある。一方、第二の真空採血管を使用する方法では、真空採血管用のホルダーに採血用針を装着し、穿刺を行った後、真空採血管をホルダーに挿入することで、採血管の陰圧で血液を採取する方法である。この場合、採血管の減圧度を調整することで、採血量が調整できること、前記シリンジ採血に比較し採血速度も早いことなどから、現在は真空採血管を用いて採血をすることが一般的である。
【0007】
上述の通り、検体の必要量が少なくなっているため、検査装置に合わせて少量採血を行うことができれば、患者あるいは健康診断の対象者などいわゆる被検者の負担を少なくすることができる。また、採血量を少なくすることができれば、通常使用している21G〜22Gの針よりも細く針内部を通る血液の流量が少ない針を使用しても、採血が可能になり、採血時の痛みを低減させることも可能になる。
【0008】
しかしながら、現在用いられている真空採血管は採血量4.0mL〜5.0mLに合わせた、容量4.5mL以上の真空採血管が一般的である。このような真空採血管で1.0mL程度の少量採血を行うためには、血液が吸引されている最中に真空採血管をホルダーから引き抜かなければならない。しかしながら、このときに採血管はまだ減圧状態にあるため、血液が溶血してしまい、正確な検査値を得ることが困難である(溶血については後述する)。また、現在一般に市販されている採血管のホルダーは容量が4.5mL以上の真空採血管に合わせたもののみであり、容量を少量とした採血管を作成すると、長さや径が合わず、専用のホルダーを作成する必要性がでてきてしまう。
【0009】
また、容量が6.0mL以上の真空採血管において少量採血を行なうために、減圧度を調整することによって、採血量が2.0mLになるものも市販されている。しかしながら
、減圧度を低くしなければならないため、大気圧との差が小さくなってしまい、採血速度が著しく遅くなるばかりか、採血量にばらつきが生じたり、終点の確認判定が困難になるという問題が発生する。
【0010】
これに対して、特許文献1では、両端を開口した採血管本体の中間部に仕切りを設けて2室を形成し、かつ該本体の一端または両端に栓体を装着してなる真空採血管が開示されている。
【0011】
また、特許文献2には、採血管本体の中間部に弧形状または円錐状の底部を有する真空採血管が開示されている。
【0012】
また、特許文献3には、少量採血管用の真空採血管保持具が開示されている。
【0013】
さらに特許文献4には、少量採血管用の容量の小さい採血管の底部に十字状など採血管の一部を延長させた付帯部を一体成型させる技術が開示されている。
【0014】
特許文献5及び特許文献6には、採血管とホルダーの間にアダプターを挿入することで、内径が細い採血管でも通常のホルダーを使用可能な技術が開示されている。
【特許文献1】特開昭56−143143号公報
【特許文献2】特開平11−151228号公報
【特許文献3】特開昭57−57530号公報
【特許文献4】特開2001−95788号公報
【特許文献5】特開平6−38944号公報
【特許文献6】特開平6−38945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1の技術では、外形状は長く通常のホルダーを使用可能であり且つ内容積を小さくすることで、少量採血が可能となる。しかしながら、1mL以下の極少量採血をする場合は、該特許の中間部に平らな仕切りを設ける方法では仕切り部分から開口部までの長さが短くなり、開栓時に血液が飛散しやすい、遠心分離の分離能が悪い、血漿のサンプリングがしにくい等の問題が発生する。また、該特許では、仕切りの形状の工夫などの記載はなく、実施例では、管本体と間仕切りの接合部に丸みをつけた平らな仕切りを検討しているだけである。
【0016】
特許文献2の技術でも、外形状は長く通常のホルダーを使用可能であり且つ内容積を小さくすることで、少量採血が可能となる。該特許の血液流入部には弧形状、円錐状等にする工夫が見られるが、該特許の技術においても1mL以下の極少量採血をする場合には、仕切り部分から開口部までの長さが短く、開栓時に血液が飛散しやすい、遠心分離の分離能が悪い、血漿のサンプリングがしにくい等の問題が発生することがある。
【0017】
また、特許文献3の技術では、採血をするたびに保持具に嵌装する必要があるため、使いにくいという問題点があった。
【0018】
特許文献4の技術では、外形状が円形でないため、採血者が持ちにくく、突起によるバリの危険性がある等の問題点があった。
【0019】
特許文献5及び特許文献6の技術では、採血管の外形状が通常の採血管に比較し細くなるため、分析機等にそのまま使用できなく、汎用性が低かった。
【0020】
本発明の目的は、少量(例えば1.0mL以下)の採血を迅速に行なうことができ、且つ全血に溶血などの損傷を与えることなく採血が可能であり、また通常のホルダーを使用し、採血管をそのまま分析機等に使用可能で、持ちやすく、開栓時に内容物の飛散の恐れが少なく、サンプリングもしやすい真空採血管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成することができた。
1. 両端が開口した管状体及び一端の開口部を閉塞する栓体からなり、該管状体の内部に、該管状体の一端と他方の一端を水密・気密に隔離する血液流入部を有し、該流入部の外径D2が該管状体の内径D1に対しD1≧D2であり、且つ該流入部の長さL2が該管状体の長さL1に対しL1>L2であることを特徴とする真空採血管。
2. L2>D2であることを特徴とする前記1項記載の真空採血管。
3. 栓体を装着する側の一端から血液流入部の接合点までの長さL3が管状体の長さL1の30%以下であることを特徴とする前記1項または2項に記載の真空採血管。
4. 外径0.42mm以下の穿刺針に用いるための前記1〜3項のいずれかに記載の真空採血管。
5. 前記血液流入部の容量が0.1mL以上1.5mL以下であることを特徴とする前記1〜4項のいずれかに記載の真空採血管。
6. 前記流入部の栓体を有する側の内壁面に薬品が付着されていることを特徴とする前記1〜5項のいずれかに記載の真空採血管。
7. 前記真空採血管の栓体を有する側の減圧度が−400mmHg以下であることを特徴とする前記1〜6項のいずれかに記載の真空採血管。
8. 前記1〜7項のいずれかに記載の真空採血管と検査チップを含むことを特徴とする検査キット。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、少量(1.0mL以下)の採血量においても、迅速に且つ全血に損傷を与えることなく採血が可能な真空採血管を提供することができる。また、従来のホルダーをそのまま使用することができ、分析機にもそのまま用いることが可能であるため、汎用性が高い。さらに、真空採血管において管状体内部に特定の血液流入部を有することで、開栓時に内容物の飛散を防止するとともにサンプリングをしやすく、安全性が高く、操作性もよい、真空採血管を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0024】
<真空採血管(減圧採血管)>
本発明の真空採血管は、両端が開口した管状体及び一端の開口部を閉塞する栓体からなり、該管状体の内部に、該管状体の一端と他方の一端を水密・気密に隔離する血液流入部を有し、該流入部の外径D2が該管状体の内径D1に対しD1≧D2であり、且つ該流入部の長さL1が該管状体の長さL2に対しL1>L2であることを特徴とする。本発明の採血管の形態を図1に示す例で説明する。
【0025】
真空採血管は、管状体1が血液流入部2と一体成型されている。成型方法はこの分野において従来公知のいずれの方法もとり得る。従来検討されていた保持具での取り外しの作業性の悪さが解消され、また、一体成型なので、従来の真空採血管とあまり変わらない成型コストで製造することが可能となる。
【0026】
管状体1は、筒状であれば特に限定されず、略円筒形状であることが好ましい。
管状体1の開口部について説明する。図2は、本発明の真空採血管における管状体1と
血液流入部2の好ましい態様の例示である。管状体1の2つの開口部のうち7の側の端に栓3(図2中不図示)で閉塞する。開口部は、円筒の平均厚みに対して図2(b)のように同じでも図2(a)のように厚くてもよい。また開口部は図2(c)のように外側に返しが付けられていてもよい。また、開口部7とその反対側の開口部における形状は同じであっても異なっていても良い。
【0027】
管状体1の長さL1は55.0mm以上であることが好ましく、60.0mm以上であることがより好ましく、65.0mm以上であることがもっとも好ましい。L1が上記の範囲内にあれば、従来使用しているホルダーの使用に好適である。
また、管状体1の内径D1は9.0mm以上であることが好ましく、9.5mm以上であることがより好ましく、10.0mm以上であることがもっとも好ましい。
【0028】
管状体1の外径は10.0mm以上であることが好ましく、11.0mm以上であることがより好ましく、12.0mm以上であることがもっとも好ましい。上記の範囲内にあれば、従来使用しているホルダーの使用に好適である。
【0029】
真空採血管は、管の減圧度と管の容量により採血量が決まる。少量採血をする場合には、減圧度を上げること、または管の容量を小さくすることが行なわれる。減圧度について詳細は後述するが、減圧度を上げる(大気圧に近くする)と採血速度が著しく遅くなるばかりか、採血量にばらつきが生じたり、終点の確認判定が困難になるといった問題が発生する。よって、本発明では、管の容量を小さくし、少量採血を行う。管の容量を小さくすると、管の減圧度を通常の真空採血管と同じ減圧度とした場合に、管の容量が小さいことで、採血量が少量になり、また血液が入らないスペース(フリースペース)が小さくなる。
【0030】
血液流入部2に血液が流入される。少量採血の場合、上記のように管の容量を小さくすると、血液が入らないスペース(フリースペース)は小さくなるため、血液流入部の長さが短くなり、径が大きい場合は、栓体を開栓したときに内容物が飛散する危険性が高くなったり、遠心分離後のサンプリングがしにくいなどの問題点が生じる。この問題点を解決するため、本発明の真空採血管は管状体1の内部に、該管状体1とは上記の特定の内径および長さの関係を満たす血液流入部2を有することにより、遠心分離能が向上し、遠心後のサンプリングもしやすくなる。
【0031】
血液流入部2は、管状体1と上記の関係を満たすものであれば、いずれの形状であってもよい。好ましくは、血液が流入する凹部を有する。例えば、図1のように栓3とは逆側に凹部を有することによって、血液を流入させることができる。凹部の形状は図2(a)のように半球形であっても、図2(b)のように略円筒形で開口部7とは逆側を底として塞いだ形状であっても、また図2(c)のように円錐形であってもよい。図2(a)の凹部は略試験管状の形状を含む。
【0032】
血液流入部2の長さL2は10.0mm以上であることが好ましく、12.0mm以上であることがより好ましく、14.0mm以上であることがもっとも好ましい。
血液流入部2の外径D2は9.0mm以下であることが好ましく、8.5mm以下であることがより好ましく、8.0mm以下であることがもっとも好ましい。尚、外径D2は血液流入部2の凹部における外径である。図2(c)のような円錐形の場合にはD1=D2となる。
【0033】
管状体1及び血液流入部2の肉厚は、0.3mmから2.0mmであることが好ましく、0.4mmから1.8mmであることがより好ましく、0.5mmから1.5mmであることが最も好ましい。管状体1の肉厚と血液流入部2の肉厚は同じでもよいし、異なっていても構わない。
【0034】
血液流入部2の長さL2はその外径D2よりも大きいほうが好ましく、長さL2が外径D2の1.5倍以上であることがより好ましい。血液流入部2のD2に対するL2の比を高くすると、より飛散等の恐れが少なく、遠心分離能も上がり、血漿のサンプリングもしやすくなる。
【0035】
血液流入部2の容量は0.1以上1.5mL以下であることが好ましく、0.2以上1.4mL以下であることがより好ましく、0.3以上から1.3mL以下であることが最も好ましい。目的とする採血量に合わせることが好ましい。
また、管状体1全体の容量は、0.5mL以上2.5mL以下であることが好ましく、0.7mL以上2.3mL以下であることがより好ましく、0.9mL以上2.0mL以下であることが最も好ましい。
【0036】
栓体を装着する側の一端から血液流入部の接合点までの長さL3が管状体の長さL1の30%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましく、20%以下であることが最も好ましい。L3の長さを短くすると、血液流入部以外の容量が少なくなり(すなわち、フリースペースが小さくなり)、減圧度が低い真空採血管を作成することができ、好ましい。但し、栓体として例えばゴム栓のように管状体に一部を挿入して閉塞するものを用いる場合は、ゴム栓を挿入する部分を考慮してL3は10mm以上であることが好ましい。また、栓体がフィルム状である場合は、L3は3mm以上であることが好ましい。
【0037】
管状体1は、ガラス、プラスチックやその他いかなる材質で形成されていてもよい。安全面を考慮して、一般的に真空採血管に使用されているガスバリア製の高いPETであることが好ましい。材質は透明であることが好ましい。また、血液流入部2の材質としては、管状体1と同様のものが挙げられる。
【0038】
栓体3は、管状体1を閉塞する構造、材質であれば、いかなる仕様であってもよい。例えば、一般的に採血管に使用されている栓が挙げられ、特にゴム栓やゴム部を有するフィルム製の栓であることが好ましい。栓体3がゴム栓であれば、例えば図1に示すように開口部を閉塞することができる。また、ゴム部を有するフィルム製の栓の例を図3および図4に示す。ここで、栓体3はゴム部を有するフィルム製の栓13として示す。図4は栓体13を開口部7の方向から見た図である。フィルム4は管状体21の開口部にシールされている。フィルム製の栓13には管状体21から取り外すための突出部6を有していることが好ましい。突出部6はフィルムと同じ材質であることが好ましい。フィルム製の栓13はゴム部5を有する。ゴム部5は通常採血管に使用されているゴム栓と同じ材質であることが好ましい。
【0039】
管状体1または流入部2の栓体3を有する側には、必要に応じて薬品を入れておくことが好ましい。薬品としては、抗凝固剤や凝固促進剤、解糖防止剤等が挙げられ、一般的に採血管に使用されている血清または血漿分離剤、抗凝固剤や凝固促進剤、解糖防止剤等を分析する成分によって適宜用いることができる。
血清または血漿分離剤としては、従来から使用されているもののいずれも使用可能である。例えば、常温で流動性を有する合成樹脂(例えば、ジシクロペンタジエンのオリゴマー)などに、チクソトロピー性付与剤(例えば、ソルビトールと芳香族アルデヒドとの縮合物、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体など)、比重調整剤(例えば、シリカ)及び粘度調整剤(例えば、フタル酸エステル)等の添加剤を添加、混練することによってチキソトロピー性のゲルを得ることができる。
血液抗凝固剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム二カリウム塩、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム三カリウム塩、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム二ナトリウム塩、ヘパリンナトリウム、ヘパリンリチウム、フッ化ナトリウム、クエン酸が挙げられる。
血液凝固促進剤としては、従来から血液凝固促進剤として使用されているもののいずれも使用可能であり、例えば、微粉末シリカが挙げられる。
これらの薬品は、粉末、シート、錠剤等どのような形態で入れてもよい。また、流入部2に入れる場合には、薬品と混和しやすいように管の内壁面に付着させることが好ましい。
【0040】
真空採血管は、静脈から血液を採取する際に、通常、採血針で静脈を穿刺し、更に採血針の穿刺していない側に真空採血管を取り付けて、減圧により血液を採取するのが一般的である。真空採血管の減圧度は採血管の容量と、採血したい血液量で決定され、760×(採血量/管の容量)で計算される。例えば、6mLの採血管に5mL採血が必要であれば、760×(5/6)=633で、−633mmHgの減圧度で設計すればよい。同様に、6mLの採血管に2mLの採血をするには、760×(2/6)=253で−253mmHgに設計すればよい。このことから分かるように、一般に、管の容量に比較し、採血量を少なくすると、減圧度は低く設定しなければならず、血液の吸引速度が遅くなってしまう。したがって、通常、必要な採血量にあわせた大きさの採血管で採血をすることが好ましいとされる。0.6mLの採血管に0.5mLの採血を行う場合、760×(0.5/0.6)=633となり、6mLの採血管に5mLの採血をする場合と同様の減圧度となる。この場合、先の5mLの採血に比較し吸引が終了するまでの時間は、1/10に短縮可能である。なお、ここで述べる真空度は、大気圧を0mmHg、真空を−760mmHgと定義する。本発明の真空採血管は、血液流入部2を設けることで、必要な採血量にあわせた大きさの採血管で採血をするのと同じ効果を得ることができる。
【0041】
本発明の真空採血管の栓体を有する側の減圧度は−400mmHg以下(−400mmHgよりも真空度が高い)であることが好ましく、−450mmHg以下であることがより好ましく、−500mmHg以下であることがもっとも好ましい。
【0042】
本発明の真空採血管は採血用の針(穿刺針)とともに使用される。使用する採血用の針は市販のいかなる針でもよい。針の形としては、通常、真空採血管に使用される両頭型の採血針を用いて真空採血してもよいし、注射針にルアーアダプタを装着して真空採血に用いてもよい。通常、採血には21Gや22Gの針が使用される。血液を採取するのに要する時間は、被検者(一般的には患者)の状態、検者(一般的には医師・看護師・臨床検査技師)の熟練度によるが、数秒から数十秒で完了することが普通である。一方、本発明の採血管を使用すると、上述の通り、吸引が終了するまでの時間が短縮されるため、針内部の透過速度の遅い(すなわち血液の流量が少ない)、一般的に用いられるものより細い穿刺針でも採血が可能になる。細い針を使用することで、被験者の痛み、苦痛を和らげることが可能である。針の外径は人体を穿刺する先端の外径として0.82mm以下であることが好ましく、0.50mm以下であることがより好ましく、0.42mm以下であることがもっとも好ましい。また、使用する針は、テーパー構造の針や段針であってもよい。
【0043】
また、本発明においては、本発明の穿刺針および真空採血管を用いて採血したときの、針内部における全血の通過速度が0.01mL毎秒以上であることが好ましい。
血液検査に必要な最小量である100μLを確保できれば、微量血液検査用の真空採血管として有用と考えられ、本発明においても10秒間で必要血液量100μLの血液を採取できる真空採血管として、1秒間に10μLの採血ができることが好ましい。
【0044】
[溶血]
採血した血液は、3000rpm前後の回転数で10分程度遠心分離して血球成分を沈殿させた後にその上清を採取した血漿・血清を用いて分析、診断することが一般的である。しかしながら、採血した全血に圧力などの強い力が加わると、赤血球が破壊して赤血球中の血色素が溶出し、血漿・血清が赤味を帯びることがある。これを溶血と呼んでいる。
溶血した血漿・血清などの検体を分析、診断に用いる場合、分析結果に影響を及ぼすことがある。血漿中に比べて赤血球中に高濃度で存在する成分の場合には、これが顕著に現れ、分析結果に狂いを生じさせることになる。このような成分は、例えば、カリウムイオン,乳酸脱水素酵素(LDH),アデニレートキナーゼ(AK),カタラーゼなどである。
【0045】
<検査チップ>
本発明の真空採血管は、検査チップとともに検査キットを構成しうる。従来医療機関・検査機関で行われてきた自動分析装置を用いた血液検査に比較し、検査チップでの検査は少量で多項目の検査を可能にする。採血に要する時間を一定と考えると、検査に必要な血液量が少なければ少ないほど、本発明の穿刺針内径を小さく、それにより外径を小さくすることが可能になる。よって本発明の穿刺針は、少量の血液で検査が可能な検査チップと共に使用することが好ましい。
検査チップとは、血液中に含まれる各種成分を測定するために、毛細管現象や電気泳動などを利用して微細な断面積を有する流路に血液などの検体を流し、試薬と反応させた後、血液中の各成分を分離して透過分光分析をおこなったり、あるいは、試薬との発光反応をおこなわせてその発光光を分光分析したりする、血液分析を行う小型のチップ状の装置をいう。
【0046】
本発明の真空採血管は少量採血が可能であるので、通常採血が行われている病院・健康診断・人間ドックだけでなく、薬局・ヘルスケアショップ等における健康をモニタリングするための採血に使用することも出来る。特に、健康な人、特に一見健康ではあるが病気が気になる人に対する健康チェック等の用途に有用性が高い。健康人を対象とした測定としては、一般的な生化学項目・血算のほか、血液の流動性(サラサラ度)の測定、ストレスマーカーの測定等が挙げられる。血液の流動性(サラサラ度)は、MC−FAN(株式会社 エムシー研究所製)等で測定することが出来る。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0048】
{真空採血管の製造}
実施例1および実施例2には、ガラス製真空採血管を用い、形状としては図1の形状のものを作成して使用した。比較例3には、ガラス製真空採血管fを用い、形状としては図5の形状のものを作成して使用した。
実施例の採血管は流入部2の容量が表1記載の容量になるように長さL2を調節し、真空採血管bおよびcを作製した。管状体1は一般的に用いられるホルダーで使用可能な様に、長さL1 75mm、外径13mm、内径D110.5mmとしたガラス管を作製した。採血管fは管状体1の構造は実施例と同様で、但し血液流入部2がなく、管状体1の中間部に仕切りを設けた構造をとる。ガラス管に真空採血管用のゴム栓をしたあと、真空ポンプをチューブにつなぎ、チューブの先端に27Gの針を装着し、針でゴム栓を刺した後、表2記載の圧力になるまで吸引し減圧した。表2に示す減圧度になったら、針をゴム栓から抜いて、実施例1および実施例2の真空採血管を作製した。寸法は表1に示す。
なお、実施例において作成した真空採血管は直接人体に穿刺しないため、滅菌は行わなかったが、人体に用いる場合には、滅菌工程を入れて真空採血管を作製する。表2中、流入部の容量は血液流入部2の容量、採血容量は減圧度から計算した採血容量、外径および長さは管状体1の形状外径および長さL1を、減圧度は真空ポンプで減圧状態にした値を
示す。
【0049】
【表1】

【0050】
{市販真空採血管}
比較例1および比較例2では、市販の真空採血管をそのまま使用した。表2中、容量は採血管全体の容量を計測し、採血容量は設定値を示す。外径・長さは採血管を測定した値である。減圧度は容量と採血量から計算した、減圧度を括弧で示す。
【0051】
【表2】

【0052】
{血液通過時間}
実施例1から実施例2と比較例1から比較例3の真空採血管を用い、採血速度の測定を行った。テルモ株式会社より市販されている10mLのテルモシリンジのピストン(内筒)をはずして、注射筒(外筒)の先端に穿刺針(外径0.31mm、内径0.22mm、長さ15mm)を装着し、その後に注射筒に健常者男性2名より採血した全血5mLを静かに注入した。血液の通過速度はヘマトクリット値の影響を受けるため、合わせてヘマトクリット値の値も示す。この全血のヘマトクリット値は40.6%、55.1%であった。採血には、ヘパリンリチウムを抗凝固剤として用いるテルモ株式会社製の真空採血管「ベノジェクトII」を用い、20mL分をまとめて住友ベークライトより市販されている50mL容量のスミロンチューブに入れてプールしたものを、評価用の全血として用いた。
先端に針を装着して筒に全血を注入したものを、実施例1から実施例2比較例1から比較例3の真空採血管のゴム部位に静かに穿刺する。吸引が1mL以下で終わる実施例1から3の真空採血管は、吸引が止まるまでの時間を測定した。また、吸引が1mLで止まらない比較例1、比較例2は1mLまで吸引されたところで、採血管をホルダーから取り出し、そこまでにかかった時間を測定した。採血時間が20秒未満をA、20秒から50秒未満をB、50秒から100秒未満はC、100秒以上はDとした。結果を表3に示す。実施例1から実施例2、及び比較例1、3の採血管は100秒未満で採血が可能であった。特に、採血管の容量が小さい場合は、20秒以下で採血が終了した。一方、管の容量が6.4mLで、採血量が2mLである比較例2の採血管では、減圧度が低めに設定されているため、1.0mL採血を行うのに長い時間を要することが分かった。
なお、この実験で使用している穿刺針は通常採血に使用している21G(外径0.81mm、内径0.81mm)より細く、この穿刺針を本発明の採血キットにおける穿刺針とすることで、被験者の痛みを低減させることが可能である。
【0053】
(ヘマトクリット値)
全血中には、大きく言って、赤血球・白血球・血小板などの細胞としての成分と、血漿あるいは血清などの水溶液としての成分が存在する。全血中には、赤血球は400〜500万個/μL存在し、全血中の固形成分のほとんどを赤血球が占めている。全血中のこの赤血球の細胞の体積割合をヘマトクリット値という。通常はヘマトクリット管と呼ばれるガラス管に全血を入れ、遠心分離後に残った固形分の体積をヘマトクリット値として求める。健常人の男性のヘマトクリット値は、40〜55%,女性のヘマトクリット値は30〜45%前後といわれている。
【0054】
{溶血の評価}
前記{血液通過時間}において真空採血管に採取した全血を、室温,3000rpmで10分間遠心分離して得た上清を回収し、UV−2550(島津製)で吸収スペクトルを測定し、ヘモグロビンの吸収に由来する415nmの吸光度の上昇で溶血を評価した。比較として、スミロンチューブにプールして中空針を通過させなかった全血を同一条件で遠心分離して得た血漿の吸光度を測定し、これに対するODの上昇分を評価した。結果を表3
に示す。ODの上昇分を溶血の度合いと定義し、OD=0.1以上の上昇があれば溶血と判断した。溶血をしていない場合は○、OD=0.1〜0.3の上昇の場合は×、OD=0.3以上の上昇が見られた場合は××をして評価した。実施例1、2比較例3の採血管では溶血が見られなかった。一方、吸引途中で採血を終了した比較例1から2の採血管では、減圧状態のままなので、溶血した。特に、減圧度の高い比較例1の真空採血管では、激しく溶血した。
【0055】
{ホルダー装着性}
一般に使用されている採血管用ホルダーとしてベノジェクトIIホルダーを用い、該ホルダーに実施例1、2、および比較例1、2の真空採血管が装着できるかを確認した。装着可能な場合を○、装着できない場合を×として、評価した。実施例1から実施例3の製作した真空採血管も通常のホルダーに問題なく装着できることがわかった。
【0056】
{血液飛散性}
採血した真空採血管の開栓時や、サンプリングをする際に、飛散することがあった採血管を×、飛散せずに作業できた採血管を○として評価する。
実施例1から2、比較例1から2の採血管は問題なく作業可能であった。一方比較例3の採血管はフリースペースが少なく、血液流入部もないため、血液が飛散することがあった。
【表3】

【0057】
表3より、実施例1および実施例2の真空採血管を使用すると、溶血せずに1mL以下の採血が可能である。また、本発明の真空採血管とすることで通常使用しているホルダーをそのまま利用することが可能である。さらに、比較例3と比較をすると、血液流入部を設けることで、飛散しにくい採血管を提供することが可能となった。一方、従来から使用されている容量6.4mLの採血管を使用して1mL採血をすると、溶血が起こってしまい、正確な検査が不可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の採血管の一形態を示す断面図である。
【図2】本発明の採血管の形態を示す断面図である。
【図3】本発明の採血管の一形態を示す断面図である。
【図4】本発明の採血管におけるゴム部を有するフィルム製の栓を開口部の方向から見た概略図である。
【図5】比較例の採血管の形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 管状体
2 血液流入部
3 栓(栓体)
7 開口部
8 真空採血管
1 管状体1の長さ
1 管状体1の内径
2 血液流入部2の長さ
2 血液流入部2の外径
3 管状体1の栓体を装着する側の一端から血液流入部の接合点までの長さ
11 管状体
12 血液流入部
21 管状体
22 血液流入部
32 血液流入部
42 血液流入部
13 ゴム部を有するフィルム製の栓
4 フィルム
5 ゴム部
6 突出部
9 管状体(比較例)
10 真空採血管(比較例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開口した管状体及び一端の開口部を閉塞する栓体からなり、該管状体の内部に、該管状体の一端と他方の一端を水密・気密に隔離する血液流入部を有し、該流入部の外径D2が該管状体の内径D1に対しD1≧D2であり、且つ該流入部の長さL2が該管状体の長さL1に対しL1>L2であることを特徴とする真空採血管。
【請求項2】
2>D2であることを特徴とする請求項1記載の真空採血管。
【請求項3】
栓体を装着する側の一端から血液流入部の接合点までの長さL3が管状体の長さL1の30%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の真空採血管。
【請求項4】
外径0.42mm以下の穿刺針に用いるための請求項1〜3のいずれかに記載の真空採血管。
【請求項5】
前記血液流入部の容量が0.1mL以上1.5mL以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の真空採血管。
【請求項6】
前記流入部の栓体を有する側の内壁面に薬品が付着されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の真空採血管。
【請求項7】
前記真空採血管の栓体を有する側の減圧度が−400mmHg以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の真空採血管。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の真空採血管と検査チップを含むことを特徴とする検査キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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