説明

眼インプラントのための位相シフトされた中心・遠方回折型設計

眼インプラントについての回折型多焦点設計が提供される。この眼インプラントは回折型多焦点眼内レンズ(IOL)及び複数の支持部を含む。回折型多焦点IOLは遠方焦点、中間焦点及び近方焦点に光エネルギーを伝える。支持部は回折型多焦点IOLを眼内に定置し且つ繋止すべく回折型多焦点IOLに機械的に結合する。回折型多焦点IOLは、回折領域及び屈折領域の両方を含むことができ、回折領域及び屈折領域において建設的干渉が生じるように光エネルギーを位相シフトさせるように使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して多焦点眼科用レンズに関し、特に屈折型及び回折型の光合焦パワー(optical focusing power)を提供できる多焦点眼内レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
最も簡潔な表現において、人間の眼は、角膜と呼ばれる透明な外側部分を通して光を透過させ且つ水晶体によって網膜上に像の焦点を合わせることによって視力を提供するように機能する。焦点が合わされた像の質は、眼の大きさ及び形状、並びに角膜及び水晶体の透明度を含む多くの要因に依存する。加齢及び/又は病気によって水晶体の透明度が低下することが多い。このため、網膜に透過されうる光が減少するので、視力が悪化する。眼の水晶体におけるこの欠陥は、医学的には白内障として知られている。
【0003】
生来の水晶体に置き換わるべく眼内レンズ(IOL)が通常白内障手術中に患者の眼内に移植される。いくつかのIOLは、遠方焦点パワー(far-focus power)だけでなく近方焦点パワー(near-focus power)も患者に提供すべく回折構造を用いる。言い換えると、斯かる多焦点IOLは患者に(「偽調節」と称されることもある)ある程度の調節を提供する。斯かるIOLを有する患者が概してこれらレンズの多用途な合焦特性を享受するが、これらIOLの中間視力の質について小さな割合が観察される。
【0004】
様々な多焦点眼科用レンズ設計は概して二つのカテゴリーすなわち屈折型レンズ及び回折型レンズのうちの一つに分類される。回折型レンズは、光をいくつかの方向に同時に回折させるべくレンズ上のほぼ周期的な微細構造を使用する。これは回折格子に似ており、複数の回折次数が、レンズの種々の焦点長さに対応する様々な像に光の焦点を合わせる。回折型多焦点コンタクトレンズ及び回折型多焦点IOLは、米国特許第4162122号明細書、4210391号明細書、4338005号明細書、4340283号明細書、4995714号明細書、4995715号明細書、4881804号明細書、4881805号明細書、5017000号明細書、5054905号明細書、5056908号明細書、5120120号明細書、5121979号明細書、5121980号明細書、5144483号明細書、5117306号明細書(Cohen)、5076684号明細書、5116111号明細書(Simpson等)、5129718号明細書(Futhey等)、4637697号明細書、4641934号明細書及び4655565号明細書(Freeman)においてより完全に記述され、これら特許の全内容は参照によって本明細書の一部を構成する。
【0005】
回折型IOLは多数の焦点長さを有することができるが、概して二つのみの焦点長さ(遠方及び近方)を有するIOLが最も一般的である。任意の同時視力多焦点レンズを用いるとき、デフォーカス像(又は複数のデフォーカス像)が、第2のレンズパワーによって、焦点が合わされた構成要素上に重ね合わされるが、興味の詳細に集中する使用者によって観察されることは滅多にない。
【0006】
したがって、視力を矯正するための改良された眼科用レンズ、特に、取り除かれた生来の水晶体の失われた光学パワーを補償するのに用いられることができるようなレンズについての要求が存在する。特に、生来の水晶体が取り除かれた後に様々な範囲の物体の距離に亘って視力を復元する能力を備えたIOLについての要求が存在する。
【発明の概要】
【0007】
本開示の実施形態では、眼インプラントについて、改良された回折型多焦点設計が提供される。この眼インプラントは回折型多焦点眼内レンズ(IOL)及び複数の支持部(haptic)を含む。回折型多焦点IOLは遠方条件(distance condition)、中間条件及び近方条件において光エネルギーを伝える。支持部は回折型多焦点IOLを眼内に定置し且つ繋止すべく回折型多焦点IOLに機械的に結合する。回折型多焦点IOLは回折領域及び屈折領域の両方を含むことができる。回折領域は、患者のために全範囲すなわち近方、中間及び遠方の高品質な視力を生成すべく、光条件及び活動に基づいてエネルギーを配分するように段高さが徐々に変化する同心の段を含むレンズの中央領域又は光学部区域であってもよい。このことは、眼の生来の水晶体が置換されなければならない条件が修正されることを可能とする。
【0008】
本開示の他の実施形態では、無水晶体の視力障害を矯正する方法が提供される。一つの実施形態では、この方法は、水晶体が病気に冒され又は事故によって損傷したときに眼から生来の水晶体を取り除くことを含む。次いで、回折型多焦点IOLが、眼内に挿入され、その後、複数の支持部で繋止され且つ定置されうる。回折型多焦点IOLの回折領域は、明るい光条件において、遠方焦点、中間焦点及び近方焦点に同時に光エネルギーを伝えることができ、一方、外側の屈折領域は、薄暗い光の条件において、遠方視力に光エネルギーを伝えることができる。本開示の更に別の実施形態では、視力障害を矯正する方法が提供される。この方法は、光エネルギーが結像されうる網膜に光エネルギーを伝えることを含む。この光エネルギーは、典型的には眼内に配置され且つ生来の水晶体に置き換わるのに使用される回折型多焦点IOLで伝えられる。回折型多焦点IOLは遠方条件、中間条件及び近方条件において光エネルギーを伝える。回折型多焦点IOLは中央の回折領域及び外側の屈折領域を有することができる。
【0009】
本開示の実施形態は、視力障害を有する患者が小さな瞳孔条件すなわち明所視条件において鮮明な遠方視力を有し且つ大きな瞳孔すなわち薄明視条件において改善された視力を有することを可能とする。
【0010】
以下の図面を参照して、本明細書において記述される好ましい実施形態の詳細な記述を読み且つ理解することによって、本開示の他の利点が当業者にとってより明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本開示の実施形態に従った回折型IOLが設置されうる眼の生体構造を示す。
【図2】図2は、本開示の実施形態に従った回折型IOLを描写する。
【図3】図3は、本開示の実施形態に従った複数の環状区域によって特徴付けられる回折型多焦点眼科用レンズの断面300を提供する。
【図4】図4は、本開示の実施形態に従った複数の環状区域によって特徴付けられる径方向にセグメント化された回折型多焦点眼科用レンズの真上からの図を提供する。
【図5A】図5Aは、本開示の実施形態に従った3mmのIOLについて近方と中間と遠方との間でエネルギーを再配分すべく初期位相をシフトさせることに関連付けられた結果を描写するグラフを提供する。
【図5B】図5Bは、本開示の実施形態に従った3mmのIOLについて近方と中間と遠方との間でエネルギーを再配分すべく初期位相をシフトさせることに関連付けられた結果を描写するグラフを提供する。
【図5C】図5Cは、本開示の実施形態に従った3mmのIOLについて近方と中間と遠方との間でエネルギーを再配分すべく初期位相をシフトさせることに関連付けられた結果を描写するグラフを提供する。
【図5D】図5Dは、本開示の実施形態に従った3mmのIOLについて近方と中間と遠方との間でエネルギーを再配分すべく初期位相をシフトさせることに関連付けられた結果を描写するグラフを提供する。
【図5E】図5Eは、本開示の実施形態に従った3mmのIOLについて近方と中間と遠方との間でエネルギーを再配分すべく初期位相をシフトさせることに関連付けられた結果を描写するグラフを提供する。
【図5F】図5Fは、本開示の実施形態に従った3mmのIOLについて近方と中間と遠方との間でエネルギーを再配分すべく初期位相をシフトさせることに関連付けられた結果を描写するグラフを提供する。
【図5G】図5Gは、本開示の実施形態に従った3mmのIOLについて近方と中間と遠方との間でエネルギーを再配分すべく初期位相をシフトさせることに関連付けられた結果を描写するグラフを提供する。
【図5H】図5Hは、本開示の実施形態に従った3mmのIOLについて近方と中間と遠方との間でエネルギーを再配分すべく初期位相をシフトさせることに関連付けられた結果を描写するグラフを提供する。
【図6】図6は、眼の無水晶体のような視力障害を矯正するための方法の論理フロー図を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示及び本開示の利点をより完全に理解するために、添付の図面と併せて以下の説明が参照され、添付の図面では同様の参照番号は同様の特徴を示す。
本開示の好ましい実施形態が図において示され、同様の番号は様々な図面の同様の又は対応する部分を参照するのに用いられる。
【0013】
眼インプラントについて改良された回折型多焦点設計が提供される。この眼インプラントは回折型多焦点眼内レンズ(IOL)及び複数の支持部を含む。回折型多焦点IOLは遠方条件、中間条件及び近方条件において光エネルギーを伝える。支持部は回折型多焦点IOLを眼内に定置し且つ繋止すべく回折型多焦点IOLに機械的に結合する。回折型多焦点IOLは、回折領域及び屈折領域の両方を含むことができ、回折領域及び屈折領域において建設的干渉が生じるように光エネルギーを位相シフトするように使用可能である。
【0014】
視覚は、間違いなく我々の最も価値のある感覚の一つである。視力なしでは、運転及び読書のような日常の仕事は不可能であるだろう。我々の目は、我々の周りの世界の鮮明な映像を与える複雑な機械であり、色、形状及び質感といった最も単純なものを伝達する。図1は、本開示によって提供される眼インプラントについて改良された回折型多焦点設計が設置されうる眼の生体構造を示す。眼100は、角膜102、虹彩104、瞳孔106、水晶体108、水晶体嚢110、小帯、毛様体、強膜112、硝子体ゲル114、網膜116、黄斑及び視神経120を含む。角膜102は、眼の表面上の透明なドーム状の構造体であり、窓として作用して光を眼内に通す。虹彩104は、虹彩と呼ばれる眼の着色部分であり且つ瞳孔を囲む筋肉であり、眼に入る光の量を制御すべく弛緩し且つ収縮する。瞳孔106は虹彩の円形の中心孔である。水晶体108は、眼の内側の構造体であり、網膜上に光の焦点を合わせることを補助する。水晶体嚢110は、水晶体を包む弾性の袋であり、眼が種々の距離における物体上に焦点を合わせるとき、水晶体の形状を制御することを補助する。小帯は、眼の内側に水晶体嚢を取り付ける細長い帯であり、水晶体を所定位置に保持する。毛様体は、焦点を合わせるために水晶体のサイズを制御すべく収縮し且つ弛緩する水晶体に取り付けられた筋肉領域である。強膜112は、眼の形状を維持する眼の強靱な最外層である。硝子体ゲル114は、眼球の背面に向かって配置されるゲルが充填された大きな区域であり、眼の曲率を維持することを補助する。網膜116は、光を受けて、脳に送るべく光を信号に変換する眼の背面における感光性の神経層である。黄斑は、細部を見るための機能を含む眼の背面における領域である。視神経118は眼から脳へ信号を接続して伝送する。
【0015】
図2は、本開示の実施形態に従った回折型IOLを描写する。提供される回折型光学部のIOL200は、生来の水晶体が取り除かれた後に視力を復元すべく眼内に移植される人工水晶体である。白内障、病気、又は事故が原因でIOLが必要とされうる。IOLのレンズは、両側が凸状(両凸)であってもよく、且つ、挿入前に折り畳み可能である柔らかいプラスチックから作られることができ、レンズの光学部の直径よりも小さな切開創を通した設置を可能とする。眼内への外科的な挿入の後、レンズは視力を復元すべく折り畳まれた状態から緩やかに開く。支持アーム(支持部)202によって、眼内においてIOLが適切に定置される。
【0016】
回折型光学部のIOL200は、眼の後房において定置されることができ、生来の水晶体に置き換わる。この定置によって、回折型光学部のIOL200は無水晶体(生来の水晶体の欠如)の視力障害を矯正することができる。回折型光学部のIOL200は両凸の光学部を有することができ、両凸の光学部は、増大された焦点深度を提供すべくアポダイズ回折(apodized diffraction)と呼ばれるプロセスを使用して成形される。回折型光学部のIOL200は、白内障手術後に眼鏡からの自立を高める近方視力、中間視力及び遠方視力を望む老眼の又は老眼ではない大人の患者において使用されうる。回折型光学部のIOL200は、白内障手術を受けてきた患者において眼鏡からの自立を高める良好な近方視力、中間視力及び遠方視力を提供する。回折型光学部のIOL2は様々な照明状況について高品質な視力(quality vision)を供給する。明るく照らされた条件では、中央の回折部分204が遠方、中間及び近方の焦点に対して同時に光波を送り、一方、薄暗く照らされた条件では、周囲の屈折領域206が遠方視力に対してより大きなエネルギーを送る。
【0017】
図3は、本開示の実施形態に従った、複数の環状区域によって特徴付けられた回折型多焦点眼科用レンズの断面300を提供する。実施形態では、遠方視力を高め且つ良好な中間視力を維持すべく複数の環状区域の間に位相シフトが提供される。位相シフトの量は、中心・遠方(center-distance)の屈折領域と回折領域との間に建設的干渉を有するように注意深く最適化されうる。結果として、遠方視力は増大され、中間視力は拡大される。特に、中心・遠方領域の初期位相は、建設的干渉が遠方焦点及び中間焦点において生じるように、周囲の回折構造に適合するように調整される。初期位相を上にシフトさせることはエネルギーを近方から中間に再配分し、初期位相を下にシフトさせることはエネルギーを遠方から中間に再配分する。一つの実施形態では、初期位相を波の1/16にシフトさせるときに良好なバランスが実現される。この設計は遠方、中間及び近方の良好な焦点を維持する。更なる最適化が他の修正された設計をもたらしうる。
【0018】
これら環状区域を決定するためのプロセスが米国特許第5699142号明細書(Lee等)において記述され、この特許の全内容が参照によって本明細書の一部を構成する。光軸に対する各区域の境界が計算される。段302が様々な個々のエシェレット格子(echelette)間の径方向の区域境界において設置される。個々のエシェレット格子304の選択されたグループの段高さを予め定められた量だけ次第に減少させることによって、遠方の離れた光源の周りのハロー又はリングとして知覚されるグレアの望ましくない効果が低減されうる。段高さが減らされるべき個々のエシェレット格子の選択されたグループは、アポディゼーション区域と称されるものにおいて全て含まれる。
【0019】
光軸(OA)を囲むエシェレット格子304の段高さが、大きさが減らされ始める前はいくつかのエシェレット格子304に亘って一定のままであることに留意されたい。その後、光軸OAからの個々の各エシェレット格子の距離が増加するにつれて、各エシェレット格子304の段高さはゼロに近づく。他の実施形態では、光軸OAを囲むエシェレット格子304の高さは、光軸OAからのエシェレット格子304の距離の増加と共に減少し始める。これらエシェレット格子は、図4において示されるように更に径方向にセグメント化されうる。
【0020】
図4は、本開示の実施形態に従って描写される複数の環状区域によって特徴付けられた径方向にセグメント化された回折型多焦点眼科用レンズの真上からの図を提供する。径方向にセグメント化された回折型多焦点眼科用レンズ400は支持部402及び光学部410含み、支持部402は、ガセット(gusset)416と、エルボ(elbow)418と、拡大部422を有する末端部420とを更に含み、光学部410は、径方向にセグメント化された区域424を有する中央の径方向アポダイズ回折部404と、周囲の屈折領域406とを含む。一つの実施形態では、支持部402のエルボ418及び末端部420の厚さは、一様であり、好ましくは約0.30mm〜約0.60mmの間であり、より好ましくは約0.40mm〜約0.50mmの間であり、最も好ましくは約0.43mmである。しかしながら、ガセット416は、光学部の前側部212に向かって減らされる厚みを有する。ガセット416の厚みは、好ましくは約0.15mm〜約0.60mmの間であり、より好ましくは約0.25mm〜約0.35mmmでの間あり、最も好ましくは約0.30mmである。この減らされた厚みは概して光学部の縁208から延在する。IOL400が手術の切開創を通して挿入されるとき、ガセット416及び縁308の比較的薄い断面によって薄い輪郭が提供される。また、ガセット416の減らされた厚みは、IOLの後側部214と前側部212との間における流体(例えば粘弾性物質)循環を促進する。代替的に、IOLの後側部214と前側部212との間の流体流れを促進すべく、他の手段(例えば孔、溝、切欠き(notch)、微少な穿孔(micro-fenestration)、又は突起(全て図示せず))がガセット416又は光学部410に設けられてもよい。IOL400が眼内に移植されるとき、良好な固定のために、水晶体嚢とのより大きな接触が末端部420の比較的長い長さ及び半径によって提供される。エルボ418はヒンジ(hinge)を生成し、ヒンジは光学部410の座屈及び屈曲を最小にしつつ支持部402が撓うことを可能とする。拡大部422は、エルボ418をちょうど越えた部分において支持部402の剛性を増大し、このことによって、限界応力点における支持部402の強度が増大される。
【0021】
本開示の実施形態では、眼インプラントについて改良されたアポダイズ多焦点設計が提供され、眼インプラントは、例えば、以前に利用可能なアポダイズ回折型多焦点レンズと比較して、明所視条件(photopic condition)のような小さな瞳孔について改善された遠方視力を提供し且つ大きな瞳孔において改善された近方視力を提供するためのプロファイル(profile)を利用する眼内レンズ(IOL)である。
【0022】
何人かの患者は小さな瞳孔すなわち明所視条件においてより鮮明な遠方視力を必要とする。同様に、何人かの患者は大きな瞳孔すなわち薄明視条件において良好な視力を必要とする。例えば、何人かの患者はレストランにおいて薄暗い光でメニューを読むことが困難であり、この場合、瞳孔は4mm以上である。本開示の実施形態は、多焦点設計のエネルギー分布を利用して、2.75mm以下の瞳孔における遠方視力についてより高いエネルギーを実現するように最適化される。これと同時に、以前に利用可能な眼インプラントと比較して、3.5mm以上の瞳孔における近方視力についてより高いエネルギーが実現される。
【0023】
また、実施形態では、実施形態の眼インプラントの他の特徴が移植手術の間に小さな切開創を補助するための薄い縁を含み、以前に利用可能なアポダイズ多焦点設計と比較したときに2mm及び2.5mm又はそれよりも小さな瞳孔において約5〜10%以上のMTF値における改善と、以前に利用可能なアポダイズ多焦点設計と比較したときに3.5mm以上の瞳孔において近方視力について約15%以上のMTF値における改善とが提供される。小さな瞳孔についての5〜10%以上の改善は明所視条件におけるより良好な遠方視力を可能とする。同様に、大きな瞳孔についての15%の改善は薄明視条件又は薄暗い光の条件において改善された近方視力を可能とする。本開示の実施形態は、近方へのエネルギーが減らされることができることを実証し、良好な視力特性を提供しつつ光を近方に向ける大きなレンズ領域を使用する。実施形態では、所定の瞳孔についての明所視条件及び薄明視条件のような全ての光条件においてより良好な視力を可能とする設計改善のための領域が最適化されうる。本開示のいくつかの実施形態では視力障害が夜に増大されないであろう。
【0024】
図5A〜図5Hは、本開示の実施形態に従った3mmのIOLについて、近方と中間と遠方との間でエネルギーを再分配すべく初期位相をシフトさせることに関連付けられた結果を描写するグラフを提供する。実施形態では、遠方視力を高め且つ良好な中間視力を維持すべく複数の回折型光学部の組合せにおいて位相シフトが提供される。位相シフトの量は、中心・遠方の屈折領域と回折領域との間に建設的干渉を有するように注意深く最適化されうる。結果として、遠方視力が増大され、中間視力が拡大される。特に、中心・遠方領域の初期位相は、建設的干渉が遠方焦点及び中間焦点において生じるように、周囲の回折構造を適合させるように調整される。初期位相を上にシフトさせることはエネルギーを近方から中間に再配分し、初期位相を下にシフトさせることはエネルギーを遠方から中間に再配分する。一つの実施形態では、初期位相を波の1/16にシフトさせるときに良好なバランスが実現される。この設計は遠方、中間及び近方の良好な焦点を維持する。図5A及び5Bでは、DD遠方・中心が1/8波だけ上にシフトされる。図5C及び5Dでは、DD遠方・中心が1/8波だけ下にシフトされる。図5E及び5Fでは、DD遠方・中心がシフトされない。図5G及び5Hでは、DD遠方・中心が1/16波だけ下にシフトされる。修正された他の設計では、更なる最適化が生じてもよい。
【0025】
これら図において示されるように、本開示の実施形態は小さな瞳孔すなわち明所視条件においてより鮮明な遠方視力を提供し且つ大きな瞳孔すなわち薄明視条件においてより良好な視力を提供することができる。
【0026】
図6は、眼の無水晶体のような視力障害を矯正する方法の論理フロー図を提供する。操作600は、ステップ602において眼から生来の水晶体を取り除くことから始まる。その後、アポダイズ回折型多焦点IOLが眼内に挿入されうる。回折型多焦点IOLのレンズは、両側が凸状(両凸)にされることができ、且つ、挿入前に折り畳み可能である柔らかいプラスチックから作られることができる。この折り畳み性によって、回折型多焦点IOLの光学部の直径よりも小さな小切開創を通した設置が可能となる。ステップ604における眼内への外科的な挿入の後、IOLは視力を復元すべく折り畳まれた状態から緩やかに開くことができる。ステップ606では、IOLが眼内において定置され且つ繋止される。これは、眼内においてIOLを適切に定置するための支持アーム(支持部)を使用することでなされることができる。本開示の実施形態では、図1において示されるような生来の水晶体を置き換えるべく、眼の後房にIOLを設置し又は定置することができる。この定置によって、IOLは、病気又は事故による生来の水晶体の欠如のような視力障害を矯正することができる。レンズ自体は前述されたような回折型多焦点IOLでありうる。このことによって、近方視力、中間視力及び遠方視力を望む老眼の又は老眼ではない患者が白内障手術のような手術の後に眼鏡から自立することが可能となる。
【0027】
要約すると、本開示の実施形態では、眼インプラントについて改良された回折型多焦点設計が提供される。この眼インプラントは回折型多焦点眼内レンズ(IOL)及び複数の支持部を含む。回折型多焦点IOLは遠方条件、中間条件及び近方条件において光エネルギーを伝える。支持部は眼内において回折型多焦点IOLを定置し且つ繋止すべく回折型多焦点IOLに機械的に結合する。回折型多焦点IOLは回折領域及び屈折領域の両方を含むことができる。回折領域は、患者のために全範囲すなわち近方から遠方の高品質な視力を生成すべく、照明条件及び活動に基づいてエネルギーを配分するように段の高さが徐々に変化する同心の段を含むレンズの中央領域又は光学部区域であってもよい。このことによって、眼の生来の水晶体が置換されなければならない条件が修正されることが可能となる。
【0028】
本開示の他の実施形態では、無水晶体の視力障害を矯正する方法が提供される。一つの実施形態では、この方法は、水晶体が病気に冒され又は事故によって損傷したときに眼から生来の水晶体を取り除くことを含む。次いで、回折型多焦点IOLが、眼内に挿入され、その後、複数の支持部で繋止され且つ定置されうる。回折型多焦点IOLの回折領域は、明るい光条件において、遠方焦点、中間焦点及び近方焦点に光エネルギーを同時に伝えることができ、一方、外側の屈折領域は、薄暗い光条件において遠方視力に光エネルギーを伝えることができる。本開示の更に別の実施形態では、視力障害を矯正する方法が提供される。この方法は、光エネルギーが結像されうる網膜に光エネルギーを伝えることを含む。この光エネルギーは、典型的には眼内に配置され且つ生来の水晶体に置き換わるのに使用される回折型多焦点IOLで伝えられる。回折型多焦点IOLは遠方条件、中間条件及び近方条件において光エネルギーを伝える。回折型多焦点IOLは中央の回折領域及び外側の屈折領域を有することができる。
【0029】
本開示の実施形態では、視力障害を有する患者が小さな瞳孔条件すなわち明所視条件においてより鮮明な遠方視力を有し且つ大きな瞳孔すなわち薄明視条件において改善された視力を有することが可能となる。
【0030】
当業者が理解するように、本明細書において用いられるような「ほぼ」又は「おおよそ」との用語は、その対応する用語に対する工業許容誤差(industry-accepted tolerance)を提供する。当業者が更に理解するように、本明細書において使用されるような「作動可能に結合された」との用語は、直接結合と、別の部品、要素、回路又はモジュールを介した間接結合とを含む。また、当業者が理解するように、推定結合(inferred coupling)(すなわち、一つの要素が別の要素に推定によって結合される)は、「作動可能に結合される」と同じ態様において二つの要素間の直接結合及び間接結合を含む。当業者が更に理解するように、本明細書において使用されるような「好都合に(favorably)比較する」との用語は、二つ以上の、要素、品目、信号等の間における比較が所望の関係を提供することを示す。
【0031】
本開示が詳細に記述されたが、添付の特許請求の範囲によって記述されるような本開示の思想及び範囲を逸脱することなく、様々な変更、代替、及び修正が本開示になされうることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠方焦点、近方焦点及び中間焦点を提供するように使用可能な回折型多焦点眼内レンズ(IOL)であって、小さな切開創を支援するのに使用可能な薄い縁を有し、回折領域及び屈折領域を具備し、前記遠方焦点及び中間焦点において建設的干渉が生じるように前記屈折領域の位相が光エネルギーを位相シフトさせるべく前記回折領域の位相に適合する、回折型多焦点眼内レンズ(IOL)と、
該回折型多焦点IOLを眼内に定置するのに使用可能な、該回折型多焦点IOLに結合された複数の支持部と
を具備する、眼インプラント。
【請求項2】
前記回折領域が、明るい光の条件において、前記遠方焦点、中間焦点及び近方焦点に同時に光エネルギーを伝えるように使用可能であり、前記屈折領域が、薄暗い光の条件において、遠方視力に光エネルギーを伝えるように使用可能である、請求項1に記載の眼インプラント。
【請求項3】
前記回折型多焦点IOLが両凸の光学部を具備する、請求項1に記載の眼インプラント。
【請求項4】
前記回折型多焦点IOLが、従来のアポダイズ多焦点設計と比較されるとき、約2.5mm以下の瞳孔において少なくとも約5%のMTF値における改善を示す、請求項1に記載の眼インプラント。
【請求項5】
前記回折型多焦点IOLが、従来の多焦点設計と比較されるとき、約3.5mm以上の瞳孔において少なくとも約15%のMTF値における改善を示す、請求項1に記載の眼インプラント。
【請求項6】
前記回折領域が、全範囲(近方から遠方)の高品質な視力を生成すべく照明条件及び活動に基づいてエネルギーを配分する、段の高さが変化する複数の同心の段を具備する、請求項1に記載の眼インプラント。
【請求項7】
無水晶体の視力障害を矯正する方法において、
眼から生来の水晶体を取り除くステップと、
回折型多焦点眼内レンズ(IOL)を眼内に挿入するステップであって、該回折型多焦点IOLは、近方焦点、中間焦点及び遠方焦点を提供するように使用可能であり、中央の回折領域及び外側の屈折領域を具備し、且つ、前記回折領域及び屈折領域において建設的干渉が生じるように光エネルギーを位相シフトさせるように使用可能である、ステップと、
前記回折型多焦点IOLに結合された複数の支持部で前記眼内に前記回折型多焦点IOLを定置し且つ繋止するステップと
を含む、方法。
【請求項8】
前記回折型多焦点IOLが両凸の光学部を具備する、請求項15に記載の方法。
【請求項9】
前記中央の回折領域が、全範囲(近方から遠方)の高品質な視力を生成すべく照明条件及び活動に基づいてエネルギーを配分する、段の高さが異なる複数の同心の段を具備する、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図5H】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−508095(P2013−508095A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535421(P2012−535421)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/053784
【国際公開番号】WO2011/053532
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】