説明

眼底撮像装置、眼底撮像装置の制御方法、およびプログラム

【課題】被検眼の位置がシフトしても、それに対応して波面補正を行う。
【解決手段】光学系を介して照明光を照射した被検眼の眼底を撮像する眼底撮像装置であって、被検眼の瞳孔の位置を検出する位置検出部と、被検眼からの戻り光の波面を検出する波面検出部と、検出された波面に基づき戻り光の波面を補正する補正部と、検出された位置に基づいて補正部の補正有効域を設定するように制御する制御部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼底撮像装置、眼底撮像装置の制御方法、およびプログラムに関し、特に補償光学機能を備える眼底撮像装置、眼底撮像装置の制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼の網膜の正面2次元画像や、断層画像を観察、撮像する眼底撮像機器としては、眼底カメラ、レーザ走査検眼鏡(Scanning Laser Ophthalmoscope:SLO)、光干渉断層計(Optical Coherence Tomography:OCT)などがよく知られており、既に実用化されて久しい。
【0003】
これらは、撮像対象となる網膜に照明光を照射し、網膜からの戻り光を受光素子に結像させて網膜画像を取得したり、参照光と干渉させて断層画像を取得したりするものである。その照明光としては、被検眼内の透過性生体組織(例えば、角膜、水晶体、ガラス体)における吸収や散乱の少ない、近赤外光の波長の光が用いられることが多い。
【0004】
取得した画像の、網膜の面方向(横方向)の空間分解能(以下、「横分解能」と記す)は、基本的に網膜上で走査されるビームスポット径(或いは光学系の開口数)で決まる。網膜上に集光されたビームスポット径を小さくするためには、被検眼に入射する照明光の光束径を太く(或いは光学系の開口数を大きく)すればよい。
【0005】
しかし、被検眼で主に屈折の作用を受け持つ角膜や水晶体は、その曲面形状や屈折率の一様性は不完全であり、これらを透過する光の波面に高次の収差を発生させる。そのため、太い光束径を有する照明光を入射しても、網膜上のスポットは所望の径には集光できずに、むしろ広がってしまうことがある。
【0006】
この結果、得られる画像の横分解能は低下し、共焦点光学系では取得する画像信号のS/Nも悪化することになる。従って、従来は被検眼の角膜等の光学系の持つ収差の影響を受けにくい1mm程度の細いビームを入射させ、網膜上には20μm程度のスポットを形成するのが一般的であった。
【0007】
このような課題を解決するために、眼底撮像機器においても補償光学技術が導入されつつある。これは、眼などの測定対象自身が持つ特性や測定環境の変動などで発生する、測定対象からの戻り光の波面収差を波面センサで逐次測定し、形状可変ミラーや空間光変調器などのアクティブな波面補正器で補正するものである。これまでに、この技術を用いて7mm程度の太いビームを被検眼に入射しても、波面補償により網膜上でのスポット径は回折限界に近い3μm程度にまで集光でき、高解像度のSLOやOCTの画像を取得した例が報告されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許04510534号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】R.Zawadzki et.al. "Ultrahigh-resolution optical coherence tomography with monochromatic and chromatic aberration correction" OPTICS EXPRESS / Vol.16, No. 11/ 2008.
【非特許文献2】三島斉一ほか編「目の発達と加齢[眼科MOOK No.38]」、金原出版、1989年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
補償光学を用いた眼底撮像機器において、安定した画像の取得を困難にする大きな要因の一つとして、被検眼の瞳(虹彩)位置が変動することが挙げられる。これは、被検者の頭部が測定中に前後左右に動くこと、また固視灯を観察して視線を固定しようとしても、各種の眼球回転が起こることが避けられないために生じてしまう。
【0011】
頭部の変動に関しては、バイトバーを用いれば抑えることが可能であるが、被検者に負担を与えることになり、好まれない場合もある。また固視灯を安定して見続けることの得手不得手には個人差がある。
【0012】
頭部の位置変動、すなわち被検眼の瞳の位置変動が、接眼光学系の光軸に対して垂直方向に発生すると、第一に、先ず瞳と光学的に共役な位置に配置される波面補正器上において、網膜からの戻り光(反射・後方散乱光)もシフトする問題が生ずる。このとき、波面のフィードバック補正がオープンループで行われる場合は、波面補正器上で形成された波面補正値に対し、戻り光がシフトして入射するため、波面補正残差が増大し、明るさや解像度が低下するなど、画像の劣化に繋がる。
【0013】
波面補正値の生成は、ツェルニケ多項式など直交性を持つ関数系の足し合わせで表現される場合が一般的だが、クローズドループのリアルタイム波面補正方式の場合でも、このシフト分を表現しようとすると、高次関数まで用いないと曲面の再現性が劣化する。計算時間の短縮のために次数を制限していると、波面補正は理想的に行われず、前述のような画像劣化の原因となる。
【0014】
第二に、画像取得用の照明光が被検眼の瞳に蹴られる(制限される)という問題が発生する。例えば網膜上で3μmのスポットを形成したいときは、瞳には約7mmの径の照明光を入射する必要があるが、通常は大きく見開いた場合でも虹彩は8mm程度である。
【0015】
このようなとき、頭部が時間の経過と共に1〜2mm移動したとすると、仮に収差補正が適切に行われたとしても、網膜上のスポット径は4〜5μmに肥大化して解像度が劣化することになる。また網膜に到達する照明光量も“蹴られ”によって1〜2割損失するため、画像の明るさも低下してしまう。
【0016】
第三に、被検眼の瞳、波面補正器、波面検出器は、アフォーカル光学系によって光学的に共役な位置に配置されるが、もし瞳の移動によって戻り光が光学系の有効径から一部でも逸脱すると、互いの位置における波面の一致性が悪化する。よって波面補正のフィードバック精度が悪化し、収束に時間が掛かったり、収束せずに発散したりしてしまう問題が発生する。
【0017】
第一の問題に対しては、特許文献1において以下のような解決策が提案されている。これは、瞳を含む前眼部を観察する手段を備え、これにより瞳の位置変動量をリアルタイムで計測し、算出した値に応じてメカステージに載せた波面補正器の位置を追従させることで、補正有効域と網膜からの戻り光の位置が常に一致するように構成されている。
【0018】
しかしながら、この構成では、第一の問題は解決できるが、第二の問題は解決できない。また、第三の問題については言及がない。さらに波面補正器は一般に数cm〜10cm角程度の体積を持つため、採用するメカステージのサイズも大きくなり、システムが肥大化してコストも上昇する。また、振動による画質への影響も懸念される。
【0019】
上記の課題鑑み、本発明は、被検眼の位置がシフトしても、それに対応して波面補正を行うことが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成する本発明に係る眼底撮像装置は、
光学系を介して照明光を照射した被検眼の眼底を撮像する眼底撮像装置であって、
前記被検眼の瞳孔の位置を検出する位置検出手段と、
前記被検眼からの戻り光の波面を検出する波面検出手段と、
前記検出された波面に基づき前記戻り光の波面を補正する補正手段と、
前記検出された位置に基づいて前記補正手段の補正有効域を設定するように制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、被検眼の位置がシフトしても、それに対応して波面補正が行われ、明るく解像度の高い画像を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係るSLOの構成図。
【図2】被検眼の瞳と照明光との位置関係を表す図。
【図3】照明光と被検眼からの戻り光の位置関係を表す図。
【図4】波面補正器上の照明光と戻り光の位置関係を表す図。
【図5】波面検出器上の戻り光の位置を表す図。
【図6】本発明の第1実施形態に係る概念図。
【図7】本発明の第2実施形態に係るSLOの構成図。
【図8】本発明の第3実施形態に係る補償光学部の構成図。
【図9】本発明の第3実施形態における波面補正器の概念図。
【図10】瞳孔径の統計データを表す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
まず図1を参照して、本発明の第1実施形態に係るレーザ走査検眼鏡(SLO)の構成を説明する。ここで示したSLO100において、まず画像取得用レーザ光源6からの光は、シングルモードファイバ60内を伝搬し、ファイバ端から照明光90として射出される。射出された照明光90は、コリメータレンズ71により、平行光に変換される(破線は照明光90のマージナル光線かつ光学系の有効径範囲を表す)。
【0024】
平行光に変換された照明光90はハーフミラー76を透過し、第一のダイクロイックミラー77で反射され、第一のアフォーカル光学系73を経て波面補正器2で反射された後、第二のアフォーカル光学系74を介してスキャナミラー5に入射する。スキャナミラー5で反射された照明光90は接眼光学系75によって被検眼11(破線で図示)に入射し、網膜111に集光する。
【0025】
このとき接眼光学系75の射出瞳9および照明光90の光束径(強度が中心強度の1/e(eは自然対数の底)となる領域の直径)は、被検眼11の瞳の径(瞳孔径)よりも大きく設定されている。それに伴い第一、第二のアフォーカル光学系73、74、コリメータレンズ71、結像レンズ72の有効径も被検眼11の瞳の径(瞳孔径)よりも大きく設定されている。瞳孔径は個人によって異なるが、図10に示した調査例(非特許文献2参照)によると、散瞳剤を使用しない場合でも最大で約φ8mm程度とされているため、少なくともこの値よりも射出瞳9の値を大きくする。ここでは散瞳剤を用いた場合も想定し、起こりうる被検眼11の瞳のシフト量も考慮してφ12mmとした。
【0026】
ここで被検眼11は、光学系の光軸10(1点鎖線)と瞳の中心とが一致している場合の被検眼を表す。被検眼11の網膜111からの戻り光91は、照明光90の光路を逆に伝搬し、ハーフミラー76で反射された後、結像レンズ72で集光され、ピンホール41を通過して光検出器4で検出される。ここでは、戻り光91のマージナル光線を点線で示してある。スキャナミラー5はドライバ50により駆動され、照明光90を2次元方向に走査し、光検出器4からの電気信号を同期してパソコン8に取り込むことで、網膜画像(眼底画像)を取得する。
【0027】
一方、光源62から生成された波面検出光63(2点鎖線)は、第二のダイクロイックミラー78によって反射されて被検眼11に入射する。ここで第二のダイクロイックミラー78は、光源6の波長に対しては100%に近い透過率、光源62の波長に対しては50%の透過率を持つ。波面検出光63は、φ1mm程度の光束径であるため、眼の収差に殆ど影響されず、網膜111上に安定してφ20μm程度のスポット径を形成する。
【0028】
この波面検出光63による網膜111からの戻り光は、散乱(拡散)光を多く含み広がりを持つので、被検眼11の瞳から、照明光90による戻り光91と同様に、瞳孔径と同じ径を持つ光束として射出される。その後、第二のダイクロイックミラー78を透過し、光学系75乃至光学系73を経由して、第一のダイクロイックミラー77を透過し、波面検出器3の検出領域でその波面が検出される。ここで検出、算出されたデータを用いて、波面補正器2によって戻り光91の波面を補正する。
【0029】
以上の構成により、画像取得用の照明光90は網膜111上に適切に結像し、かつ戻り光91もピンホール41に適切に結像するため、被検眼11が持つ収差の影響を低減し、明るく解像度の高い画像が安定して得られるようになる。
【0030】
ここで、波面補正器2としては形状可変ミラー、波面検出器3には、Hartmann−Shack方式の検出器(HSセンサ)が用いられている。その有効径(駆動領域)はそれぞれ、φ12mm、φ6mmであり、光学系の射出瞳9に対するこれらの位置の倍率はそれぞれ、β2=12/12=1.0、β3=6/12=0.5と設定されている。被検眼111の瞳孔径をφ6mmとすると、射出瞳9の位置における戻り光の径もφ6mmとなるので、波面補正器2(形状可変ミラー2)、波面検出器3(HSセンサ3)における戻り光91の径はそれぞれφ6mm、φ3mmとなる。
【0031】
HSセンサ3は、2次元マトリクス状に配置された各マイクロレンズよって、2次元撮像素子上に結像された各点像の変位から、測定光の波面を算出するものである。これらの点像の集まり(HS像)は2次元素子上にて、瞳に相当するφ3mmの範囲において観測される。
【0032】
これに対し、被検眼11が光軸(z方向)に垂直なxy面上で動いて、実線で示す被検眼12の位置へ動いた場合を考える。このとき、照明光90の光束径が被検眼12の瞳122の径と同等以下であるとすると、図2に示すように瞳122は、光学系の光軸10に対して、すなわち照明光90に対して垂直方向にシフトした位置にあり、照明光90はその光束の一部が瞳122で“蹴られ”、網膜121に到達する照明光量が低下し、同時に光束が蹴られた分、網膜上に形成されるスポット径も大きくなる。図3に示されるように、照明光90の光束は“蹴られ”るが、網膜121からの戻り光92は散乱(拡散)光を多く含み広がりを持つので、被検眼12の瞳122から、瞳孔径と同じ径を持つ光束として射出される。しかし、瞳122の位置は光軸10に対してシフトしているため、瞳の位置と光学的に共役な位置においては、同様のシフトが維持される。図4に、形状可変ミラー2上の照明光90、戻り光92の位置関係を示す。破線で表される照明光90は光軸10にその主光線が一致しているが、実線で表される戻り光92はシフトして形状可変ミラー2に入射する。
【0033】
ここで、点線で表される補正有効域21の中心を光軸10に合わせていると、戻り光92が持つ収差に対して、波面補正が空間的にシフトして行われることになり、正しく収差が補正されない。従って、戻り光92は適切にピンホール41に集光されず、網膜像の明るさや解像度は改善されない。この現象は、形状可変ミラー2で収差の逆成分が与えられた照明光90と、瞳122との位置関係においても同様で、照明光90は網膜121上に所望のスポット径に集光されないことになる。
【0034】
また、光学系全体の有効径も照明光90の径と同等であり、形状可変ミラー2の補正有効域21が光学系の有効径と同等であると、戻り光91は光学系の有効径外を通過することになる。そして形状可変ミラー2上においても補正有効域外となり、正しく波面が補正されなくなる。また、瞳122、形状可変ミラー2、HSセンサ3の間の光学的な共役関係(瞳結像関係)が一部で崩れることになるので、各位置における波面形状が一致しなくなることにより、更に正しい補正が困難になる。
【0035】
これに対して本実施形態においては、HSセンサ3を用いて被検眼12の光学系の光軸10に対するシフト量を検出し、形状可変ミラー2上の補正有効域21を、シフトした戻り光92の位置に追従させる構成をとる。いま被検眼11が光軸10からシフトして被検眼12の位置にあるとすると、図5に示されるように、HSセンサ3上におけるHS像30も光軸10に対してシフトして観測される。従ってHS像30の中心座標(x3、y3)を算出すれば、被検眼の瞳122の中心位置の座標は(xp、yp)=(x3/β3、y3/β3)として求まる。同時に形状可変ミラー2上の戻り光92の中心座標も(x2、y2)=(x3・β2/β3、y3・β2/β3)として求まるので、形状可変ミラー2上の補正有効域21の中心座標をこの値に設定すればよい。瞳122のシフト量を検出する構成として、本実施形態に係る位置検出処理では、HSセンサ3で得られたHS像の位置情報を用いた。しかし、これに限らず前眼部をカメラで撮像する前眼部観察系を併設し、得られた観察結果としての瞳孔像の位置情報から被検眼位置を検出しても良い。
【0036】
このときの概念図を図6に示す。ここではxz断面についてのみ考慮する。いま戻り光92の主光線921は、光軸(形状可変ミラー2の中心)10に対しx2だけシフトして入射している。このときHSセンサ3で計測し算出した補正関数形状22は、補正有効域21において形成されるが、図6(a)に示されるように、この補正有効域21の中心が光軸10のままであると、戻り光92と一致しない。ここで、図6(b)に示されるように、HSセンサ3で同時に測定、算出されたx2の値だけ、補正有効域21と補正関数形状22の中心をシフトさせて、戻り光92の主光線921の位置に一致させる。図1においては、波面2上の実線部が補正有効域21に相当する。これにより、戻り光92は補正有効域21と不一致となることなく適切に収差が補正される。
【0037】
例えば、測定された波面を表現する際に、ツェルニケ多項式を用いた場合を考える。眼の収差を表す際に用いられる場合、各項は、以下のような項番号、次数、数式の関係で表される。
【0038】
項番号 次数 数式
0 0 1
1 1 2y
2 1 2x
3 2 2√6・xy
4 2 √3(2x+2y−1)
5 2 √6(x−y
6 3 √8(3xy−y
7 3 √8(3xy+3y−2y)
8 3 √8(3x+3xy−2x)
9 3 √8(x−3xy
10 4 ・
11 4 ・
12 4 ・
・ ・ ・
・ ・ ・
各項は光学の各収差項目に対応しており、波面収差はこれらに係数を掛けて足し合わせた補正形状関数 W(x、y)として表現される。収差補正では、これらの各項に掛かる係数をパラメータとして、フィードバック動作に用いることになる。
【0039】
これらの本来含まれる各項目に対応する収差成分に加え、瞳のシフト分まで含めてこれらの係数によって補正関数形状W'(x、y)を表現することも可能である。しかし、補正関数形状の精度を確保しようとすると、より多くの項数が必要になり、より長い計算時間が必要になる。逆に項数を制限すると補正関数形状の精度が低下する。
【0040】
ここで、HSセンサ3により検出、算出された(x2、y2)の値を用いて、形状可変ミラー2に形成する補正形状関数として、W(x−x2、y−y2)を用いる。これにより、出来るだけ少ない項数で、精度よく補正関数を形成することが可能となる。従って、形状可変ミラー自体を動かす機構などを必要とせず、戻り光92と補正有効域の補正関数とを一致させることが可能となる。
【0041】
一方、照明光に関しても考慮する。光軸10からシフトした被検眼12においても、光束蹴られが発生しないためには、照明光90の光束径を、瞳孔径に加え、想定される瞳122のシフト量を加えた値にしておけばよい。本実施形態では、光学系の射出瞳をφ12mmにしているため、照明光の光束径も同等にしている。このとき、瞳122の径をφ6mmとしたので、瞳は±3mmシフトしても瞳122には常に照明光が蹴られることがなく、入射光量、光束径ともに安定して入射することになる。従って被検眼12に入射する照明光90と戻り光92とは、図1の実線で表されるマージナル光線を持つ光束として常に一致している。
【0042】
また、照明光90と戻り光92の光束が光学系の有効径の範囲内で制御されていれば、瞳122、形状可変ミラー2、HSセンサ3の間の瞳結像関係も崩れないため、波面補正は適切に行われる。
【0043】
本実施形態においては、被検眼12に入射される照明光束径は瞳122の径で決まることになるが、この場合、波面補正が適切に行われている状態では、瞳122の径が大きいほど網膜上のスポット径は小さくなる。このときスポット径が小さくなるほど、面積あたりの照射エネルギーが増加するため、被検者の負担が増加する。よって、本実施形態では、HSセンサ3により戻り光92の位置だけでなく、HS像からその光束径も算出し、その値に応じて照明光源6の発光量を随時調整する(光量制御処理)。
【0044】
また本実施形態においては、波面検出光63は光学系の光軸10から2mm程度シフトさせて被検眼に入射するように固定しているが、検出した被検眼12のシフト量に応じて、入射位置を追従させてもよい。また図1では被検眼の直前から入射させているが、スキャナミラー5よりも光源側から入射させてもよい。
【0045】
以上説明したように本実施形態によれば、照明光90、戻り光92共に空間的な不一致がなく形状可変ミラーにおいて波面補正が適切に行われ、ピンホール41には安定して戻り光が適切に結像される。また、照明光蹴られによる光量損失やスポット径肥大が起こらず、適切な利用効率で安定した網膜画像を得ることが可能になる。
【0046】
(第2実施形態)
次に、図7を参照して、本発明の第2実施形態に係るSLO101について説明する。基本的な構成、各部の符号は、図1を参照して説明した第1実施形態と同等であり、図7はxz断面を表している。図1の場合と異なるのは、照明光90の光束径が被検眼の瞳の径と同等のφ6mmとしてある点であり、コリメータレンズ71とハーフミラー76との間に、ミラー79を配置してあることである。コリメータレンズ71により平行化された照明光90は、このミラー79で略直角に反射され、第一のハーフミラー以降の光学系を伝播する。さらにミラー79は、その反射光の光軸方向にシフトするメカ機構上に設置されている。また、本実施形態では、画像取得用の照明光90が波面検出光を兼ねており、77はダイクロイックミラーでなく、透過率が10%、反射率が90%のハーフミラーである。また第二のダイクロイックミラー78は設置しない。
【0047】
光軸10からのシフトがない位置の被検眼11であるときには、ミラー79は基準位置(破線で示した位置)にあり、照明光90は点線で表されるマージナル光線を持つ光束として伝播し、被検眼11に入射される。また、x方向にシフトした位置の被検眼12であるときには、ミラー79を、HSセンサ3で検出した戻り光92のシフト量x3だけシフトさせた実線で示した位置とする。
【0048】
この方法により、照明光90を随時瞳122に一致させることができ、光束蹴られを防止して、戻り光92と照明光90も一致させることができる。ここではx方向のシフトのみを考慮した。しかしy方向にも追従させたい場合には、ミラー79に近接させて更にもう一枚のミラーを、照明光をyz断面方向に反射させるように設置し、反射光軸方向にシフトさせる機構を追加すれば、瞳122のxy方向の2次元シフトに対応させることができる。また、ミラー79を用いずに、ファイバ60の射出端とコリメータレンズ71とをひとつのユニットにして、このユニットをxy方向にシフトする機構を設けても同様の機能が得られる。形状可変ミラー2の補正有効域21については、第1実施形態と同様に、照明光90と戻り光92に常に一致するように制御を行う。
【0049】
本実施形態の構成によれば、網膜上の照明光のスポット径を、被検眼の瞳径によらず一定に保ちながら、安定した画像の取得が可能になる。
【0050】
(第3実施形態)
図8を参照して、第3実施形態に係る眼底撮像装置の補償光学部102を説明する。ここでは、被検眼と波面補正器2との関係を示す部分のみ示している。各部の符号は図1を参照して説明した第1実施形態と同等であり、図8はxz断面を表している。本実施形態では、波面補正器2として液晶を用いた位相空間変調器(SLM)を用いている。形状可変ミラーがミラーの形状を変化させて空間的な距離を変化させ光路長を変化させるのに対し、SLMは液晶の屈折率を変化させることで、屈折率×空間距離としての光路長を変化させることにより、波面の補正を行う。図8では透過型SLMを図示しているが、反射型のものを用いてもよい。
【0051】
図8において、被検眼12の瞳122とSLM2は、光学系70によって光学的に共役な関係に配置されている。光学系70には、図1、図7の構成における光学系74、75、スキャナミラー5が含まれているものとする。また斜線で示された光束900、901は照明光を示しており、破線で示されたマージナル光線を持つ光束は戻り光を示している。破線は同時に光学系の有効径をも示している。SLM2は光学系の有効径と同等の有効径を持つ。
【0052】
照明光900はSLM2に入射すると、図示されていない波面検出器で検出されて算出された補正形状関数 W(x、y)に従って位相が変調され、光学系70、被検眼12の瞳122に入射し、被検眼12の前眼部光学系によって網膜12に集光される。網膜12からの戻り光920は、前眼部で収差を与えられて射出され、光学系70を経てSLM2に再入射され、変調されてSLM2から射出されて、図示されていない光学系を介して検出器により検出される。
【0053】
いまSLM2においては、補正形状関数 W(x、y)は補正有効域21内にのみ表示され、照明光900、戻り光920共に、この範囲を透過した光のみが波面を補正される設定となっている。また、この補正有効域21の中心は、第1実施形態および第2実施形態と同様に、波面検出器3で検出されて算出された被検眼12のシフト量から随時設定される。
【0054】
図9は、SLM2面の変調の様子を示す。矩形枠20はSLM2の変調駆動域である。中心10は光学系の光軸である。破線900(920)は入射される照明光または戻り光を示し、21は補正有効域を示している。変調駆動域20内に示されている多数の曲線は、位相変調量が2π(波長単位で表した補正量)の倍数となる点の集まりを示す。
【0055】
ここで補正有効域21内には、前述したように補正形状関数 W(x、y)が表示され、その外側の領域22には、中心10を基準として、位相変調量が2π単位となる同心円が小さい間隔で多数表示されるように変調する。これは、回折方向が大きくなるように光学パワーを持つ回折格子が設定されていることにあたる。その回折方向が光軸10から離れるように(回折パワーが負になるように)適切な変調を行えば、領域22を透過した光902は、光学系70の有効径を外れ、被検眼12には達しない。戻り光に関しても同様で、領域22を透過した光922は、その後の光学系を通らずに検出器で検出されない。
【0056】
この構成により、瞳径の個人差、変動があっても、メカ機構を用いずに被検眼12に入射する照明光901の光束径を一定にし、網膜121上のスポット径(解像度)を一定にすることができ、安定した明るさ・解像度の絵を取得することができる。また必要に応じて、補正有効径21や照明光量を設定すれば、所望の解像度で撮像することも可能となる。
【0057】
以上の実施形態では、SLOを例として説明したが、適用例としてはOCTや眼底カメラにおいても、同様の効果を得ることが可能である。
【0058】
(その他の実施形態)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学系を介して照明光を照射した被検眼の眼底を撮像する眼底撮像装置であって、
前記被検眼の瞳孔の位置を検出する位置検出手段と、
前記被検眼からの戻り光の波面を検出する波面検出手段と、
前記検出された波面に基づき前記戻り光の波面を補正する補正手段と、
前記検出された位置に基づいて前記補正手段の補正有効域を設定するように制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする眼底撮像装置。
【請求項2】
前記被検眼の前眼部を観察する観察手段をさらに備え、
前記位置検出手段は、前記観察手段による観察結果に基づいて前記位置を検出することを特徴とする請求項1に記載の眼底撮像装置。
【請求項3】
前記位置検出手段は、前記波面検出手段の検出領域に照射される前記戻り光の位置に基づいて前記位置を検出することを特徴とする請求項1に記載の眼底撮像装置。
【請求項4】
前記位置検出手段は、前記被検眼の瞳孔径をさらに検出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の眼底撮像装置。
【請求項5】
前記位置検出手段により検出された前記位置と前記瞳孔径とに基づいて、前記照明光の光量を制御する光量制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の眼底撮像装置。
【請求項6】
前記設定される補正有効域の大きさが固定されており、
前記補正有効域外の光を前記光学系の有効径外に伝搬させる伝播手段をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の眼底撮像装置。
【請求項7】
前記波面を検出するための波面検出光を生成する生成手段をさらに備え、
前記波面検出手段は、前記生成手段により生成された前記波面検出光を前記光学系を介して前記被検眼に照射することにより得られる戻り光に基づいて、前記波面を検出することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の眼底撮像装置。
【請求項8】
前記照明光の光束径が前記被検眼の瞳孔径より大きく、前記波面検出手段の有効径と、前記補正手段の有効径とが前記照明光の光束径よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の眼底撮像装置。
【請求項9】
位置検出手段と、波面検出手段と、制御手段とを備え、光学系を介して照明光を照射した被検眼の眼底を撮像する眼底撮像装置の制御方法であって、
前記位置検出手段が、前記被検眼の瞳孔の位置を検出する位置検出工程と、
前記波面検出手段が、前記被検眼からの戻り光の波面を検出する波面検出工程と、
前記制御手段が、前記検出された波面に基づいて、前記戻り光の波面を補正する補正手段を制御する制御工程と、を備え、
前記制御工程では、前記検出された位置に基づいて、前記補正手段の補正有効域を設定するように制御することを特徴とする眼底撮像装置の制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の眼底撮像装置の制御方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−228483(P2012−228483A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100136(P2011−100136)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)