説明

眼底撮影装置

【課題】 眼底画像を用いて定量的な評価を行う。
【解決手段】 光源から発せられた少なくとも一部の光を測定光として被検者眼眼底上で走査させる光走査手段と、その反射光を含む光を受光する受光手段と、を有し、眼底画像を得るための眼底撮像光学系と、光走査手段によって走査される測定光の走査位置情報を取得し、取得された走査位置情報に基づいて,各走査位置における眼底画像のスキャン長のずれを補正する補正手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者眼の眼底を撮影する眼底撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光走査部を用いて眼底上で測定光を走査させ眼底像を得る装置として、眼底断層像撮影装置(例えば、光断層干渉計(Optical Coherence Tomography:OCT))、眼底正面像撮影装置(例えば、走査型検眼装置(Scanning Laser Opthalmoscope:SLO))などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−29467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような装置では、所定の走査画角にて眼底像が撮影される。しかしながら、同じ走査画角であっても、撮影位置によってスキャン長が変わってしまう場合があり、このような場合、眼底上の撮像範囲が変化してしまう。これは、光学系に収差がある、眼底が曲面形状であることが原因として考えられる。
【0005】
通常、モニタ上においては、眼底のどの撮影位置で断層画像を撮影しても、同じ撮像範囲で撮像されたように断層画像が表示されている。しかし、実際に撮像された断層画像は、撮影位置によって取得される撮像範囲が異なる。このため、例えば、病変部等に対し、眼底上の距離を測定する場合、定量的な評価が困難となる。
【0006】
本発明は、上記問題点を鑑み、眼底画像を用いて定量的な評価を行うことができる眼底撮影装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0008】
(1) 光源から発せられた少なくとも一部の光を測定光として被検者眼眼底上で走査させる光走査手段と、その反射光を含む光を受光する受光手段と、を有し、眼底画像を得るための眼底撮像光学系と、前記光走査手段によって走査される測定光の走査位置情報を取得し、取得された走査位置情報に基づいて,各走査位置における眼底画像のスキャン長のずれを補正する補正手段と、を備えることを特徴とする。
(2) 前記補正手段は、取得された走査位置情報に基づいて眼底に対する測定光の走査情報を補正し、補正された走査情報に基づいて前記光走査手段を制御し、前記受光手段からの受光信号に基づいて眼底画像を得ることを特徴とする(1)記載の眼底撮影装置。
(3) 眼底撮像光学系は、光源から発せられた光を測定光と参照光に分割し、測定光を眼底に導き,参照光束を参照光学系に導いた後、眼底で反射した測定光と参照光との干渉状態を前記受光手段により検出させることにより眼底断層像を得るための光干渉断層光学系であることを特徴とする(2)記載の眼底撮影装置。
(4) 眼底に対する撮像範囲を任意に設定する設定手段を有し、前記補正手段は、前記設定手段によって設定された撮像範囲にて断層画像が取得されるように前記走査情報を補正することを特徴とする(3)記載の眼底撮影装置。
(5) 前記補正手段は、さらに、被検者眼の長さ情報を取得し、取得された長さ情報と走査位置に基づいて,各走査位置における眼底画像のスキャン長のずれを補正することを特徴とする(4)記載の眼底撮影装置。
(6) 眼底撮像光学系は、さらに、輝度が高く指向性の高い光束を発する光源と、眼底と略共役な位置に配置された共焦点開口を備え、眼底の正面像を取得するための光学系であること特徴とする(5)記載の眼底撮影装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、眼底画像を用いて定量的な評価を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る眼底撮影装置の光学系及び制御系を示す概略図である。なお、本実施形態においては、被検者眼(眼E)の軸方向をZ方向(光軸L1方向)、水平方向をX方向、鉛直方向をY方向として説明する。
【0011】
本装置は、光スキャナ102を用いて測定光を走査させて像を得る撮像光学系100と、軸方向に関する眼の長さ情報(組織間の距離)を測定する眼距離測定装置110と、を有する。制御部70は、測定装置110から長さ情報を取得し、取得された長さ情報に基づいて眼底に対する測定光の走査情報(例えば、走査角度)を補正する。また、補正された走査情報に基づいて光スキャナ102を制御し、受光素子104からの受光信号に基づいて眼底画像を得る。
【0012】
撮像光学系100は、光源101から発せられた少なくとも一部の光を測定光として眼底Ef上で走査させる光スキャナ102と、その反射光を含む光を受光する受光素子104と、を有し、眼底画像を得るために設けられている。
【0013】
撮像光学系100としては、例えば、光走査により眼Eの断層像を得る光干渉断層計(OCT)、光走査により眼Eの正面像を得る走査型レーザ検眼装置(SLO)、の少なくともいずれかの光学系が挙げられる。もちろん、これらの光学系の両方を持つ構成であってもよい。
【0014】
例えば、OCTの光学系は、光源から発せられた光をビームスプリッタによって測定光と参照光に分割する。そして、OCT光学系は、測定光を眼底に導き,参照光束を参照光学系に導いた後、眼底で反射した測定光と参照光との干渉状態を受光素子(検出器)によって検出する。そして、受光素子からの出力信号に基づいて眼底の断層像が取得される。
【0015】
例えば、SLO光学系の光学系は、輝度が高く指向性の高い光束を発する光源と、眼底と略共役な位置に配置された共焦点開口を備え、光源から眼底に向けて光を照射し、眼底で反射された光を受光素子によって検出する。そして、受光素子からの出力信号に基づいて眼底の正面像が取得される。
【0016】
光スキャナ(光走査部)102は、測定光の光路中に配置され,X−Y方向に測定光を走査させるために測定光束の進行方向を変える(偏向させる)。光スキャナ102としては、光の反射方向を変化させる反射ミラー(ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ)、光の進行方向を変化させる音響光学素子(AOM)等が用いられる。
【0017】
制御部70は、光スキャナ102の駆動を制御すると共に、受光素子104から出力される受光信号に基づいて画像処理により眼底像を形成させる。取得された眼底像は、モニタ75に静止画又は動画として出力される他(図2の正面画像Gf、断層画像Gt参照)、メモリ72に記憶される。
【0018】
測定装置110は、光又は超音波を眼Eに照射し、その反射信号を得て眼Eの長さ(例えば、眼軸長、水晶体前面から網膜面までの距離、など)を測定する。測定装置110は、例えば、撮像光学系100と同一の筐体内に配置される。また、測定装置110は、別装置として配置され、測定結果が用いられるようにしてもよい。
【0019】
制御部70は、装置全体の制御を行うと共に、各種演算処理を行う。制御部70は、撮像光学系100の各部材、測定装置110、モニタ75、メモリ72、各種操作を行うための操作部74、等が接続されている。なお、制御部70は、表示モニタ75に接続され、その表示画像を制御する。なお、モニタ75は、アライメント観察用と撮影画像観察用で別でもよいし、もちろん一つの共用モニタであってもよい。なお、操作部74には、測定位置設定部(例えば、マウス)74a、撮影開始スイッチ74b、などが設けられている。
【0020】
制御部70は、さらに、眼Eの視度情報、角膜形状情報の少なくともいずれかを取得し、取得された視度情報、角膜形状情報の少なくともいずれかと長さ情報とに基づいて光スキャナ102を動作させるための走査情報を補正するようにしてもよい。
【0021】
図3は測定光の走査角度、眼軸長、撮像範囲との関係について説明する概念図である。眼底画像(断層画像又は正面画像)の撮像範囲(取得範囲)tは、走査角度Uと眼軸長Xによって決定される。眼Eの瞳孔Epの中心を走査中心Cとして眼底上で光が走査されるので、撮影画角は、眼底Efに対する光の走査角度によって決定される。なお、以下の説明において、眼底Ef面に沿った範囲を撮像範囲tとして説明する。
【0022】
走査角度Uが大きいほど、撮像範囲tが大きくなる。眼Eに対する走査角度は光スキャナ102の振れ角によって決定される。
【0023】
眼軸長Xについて、眼軸長の長短によって、測定光が眼底に達したときの光軸からの距離が変化される。このとき、眼軸長Xが長いほど、測定光が眼底に達したときの光軸からの距離が大きくなり、眼軸長Xが短いほど、測定光が眼底に達したときの光軸からの距離が小さくなる。したがって、走査角度が一定であっても、眼軸長Xが長いほど、撮像範囲tが大きくなる。なお、撮像範囲tは、走査の開始点から終了点までの直線距離から算出されてもよい。
【0024】
制御部70は、測定光の走査位置情報を取得し、取得された走査位置情報に基づいて眼底に対する測定光の走査情報を補正し、補正された走査情報に基づいて光スキャナ102を制御し、受光素子104からの受光信号に基づいて眼底画像を得る。
【0025】
図4は眼軸長に応じて光スキャナの動作を変更し、断層画像を計測するまでの流れの一例を示すフローチャートである。眼底Efに対する走査情報(例えば、パターン、角度、速度)が設定されると、制御部70は、眼Eの長さ情報を取得し、取得された長さ情報に基づいて測定光の走査情報を補正する。例えば、設定された撮像範囲にて断層画像が取得されるように走査角度を補正する。すなわち、走査角度が変更されると、眼底上での撮像範囲が変更されるので、眼の長さの違いによる撮像範囲のずれが補正されるように走査角度が補正される。
【0026】
制御部70は、補正された走査情報に対応する駆動信号を光スキャナ102に出力し、光スキャナ102を動作させ、所望する断層画像を得る。この場合、断層画像は、動画として連続的に取得されてもよいし、静止画として取得されてもよい。
【0027】
測定光の走査情報(例えば、パターン、角度、速度)と、光スキャナ102に出力する駆動信号(例えば、パターン、範囲、速度)とは、予め対応付けられ、メモリ75に記憶されている。
【0028】
また、眼の長さの違いによる撮像範囲のずれの他に、異なる撮影位置において、一定の走査角度にて断層画像を撮影する場合でも、スキャン長にずれが生じる。例えば、光軸上の走査と、光軸から離れた周辺部での走査とを比較した場合、スキャン長が異なる。すなわち、一定の走査角度にて断層画像を取得しても、走査位置に応じて実際のスキャン長が変化する。
【0029】
そこで、測定光の走査位置情報を取得し、走査位置情報に基づいて、測定光の走査情報を補正することにより、断層画像におけるスキャン長のずれを補正する。例えば、制御部70は、眼球光学系の収差による断層画像のスキャン長のずれが補正されるように、走査角度を補正する。
【0030】
図5は、同じ走査角度において撮影した場合に、撮影位置(走査位置)に応じてスキャン長が異なることについて説明する図である。図5(a)は、Y方向に関して眼底上の異なる撮影位置において同じ走査角度にて断層画像を撮影した場合の図である。図5(b)は、図5(a)のような同じ走査角度での撮影であっても、各断層像のスキャン長tがY方向に関して異なることを示す図である。図5(b)の場合、実際のスキャン長がたる型に歪んでいる。
【0031】
例えば、光軸上でのスキャン長とその周辺部でのスキャン長とでは、光軸上でのスキャン長に対して周辺部のスキャン長は小さくなる。そして、実際の断層画像上では、同じ走査角度で撮影をすると、光軸上と周辺部で、スキャン長に差が生じるため、断層画像に歪みが生じる。これは、光学系の配置による収差がある場合と眼底の曲面形状が原因である。そのため、撮影位置に関わらず一定のスキャン長の断層像を得るには、スキャン長tを撮影位置に応じて補正する必要がある。
【0032】
ここで、眼底上におけるスキャン長t上の点を二次元座標系(x、y)で表すと、例えば、スキャン長にずれが生じているスキャン長上の点(画素)P1(x1、y1)、P2(x2、y2)は、本来、歪みがなければ、それぞれ点P1'(x1'、y1')、P2'(x2'、y2')に存在する(図5(b)参照)。
【0033】
従って、スキャン長のずれを補正するために、スキャン長にずれが生じているスキャン長上における点Pnをスキャン長にずれが生じていないとしたときのスキャン長上における点Pn'に補正する。
【0034】
スキャン長のずれ補正のための走査角度の補正量は、シミュレーション又は実験等によって算出される。そして、各撮影位置におけるスキャン長の全ての点Pnを本来存在すべき点Pn'に補正できるような、走査角度に補正して走査することで、スキャン長のずれを補正し、実際の断層画像の歪みを補正する。
【0035】
そして、異なる撮影位置においても同じスキャン長に補正するために、走査角度の補正量が算出される。本実施例においては、予め、各々の長さの眼Eに対して、走査可能範囲の全ての画素に対応する走査角度の補正量をそれぞれ算出し、歪み補正データテーブルとしてメモリ75に記憶させておく。
【0036】
そして、制御部70が断層画像を撮影する際に、眼Eの長さ及び撮影位置に対して、メモリ75に記憶された歪み補正データテーブルを参照し、各撮影位置におけるスキャン長の全ての点Pnを本来存在すべき点Pn'に補正できるように走査角度を補正する。これにより、実際の断層画像の歪みが補正される。
【0037】
以下の本装置の動作について説明する。制御部70は、被検者眼の長さ情報と走査位置情報を取得し、取得された長さ情報と走査位置に基づいて,各走査位置における眼底画像のスキャン長のずれを補正する。
【0038】
<測定光の走査情報の設定>
正面画像を得る場合、例えば、縦横方向における撮像範囲tがそれぞれ設定され、ある領域内において測定光が二次元的に走査される(例えば、8mm×8mmなどのある矩形領域内において測定光がラスター走査される)。
【0039】
断層画像を得る場合、例えば、走査パターンと撮像範囲tが設定される。走査パターンについて、例えば、ラインスキャン、十字クロス、ラジアルスキャン、サークルスキャンから選択される。また、ある領域内において測定光が二次元的に走査されるようにしてもよい(例えば、5mm×5mmなどのある矩形領域内において測定光がラスター走査される)。
【0040】
また、断層画像の撮像範囲t1に合わせて、例えば、眼底スキャン長が設定される。例えば、複数のスキャン長(例えば、3mm、6mm、9mm)からあるスキャン長が選択される、又は数字入力により任意のスキャン長が選択される。眼底スキャン長について、ライン状のスキャンの場合、例えば、眼底上の走査開始位置から走査終了位置までの距離で表される。サークル状のスキャンの場合、例えば、円の直径で表される。矩形状のスキャンの場合、例えば、縦方向の走査距離と横方向の走査距離で表される。
【0041】
上記走査情報は、検者によって任意に設定されてもよいし、予め設定されていてもよい。また、走査情報として、眼底に対するある撮像範囲を基準とする倍率が設定されるようにしてもよい。すなわち、眼底に対する撮像範囲が設定されると、制御部70は、設定された撮像範囲にて断層画像が取得されるように走査情報を補正する。
【0042】
<眼軸長Xの取得>
眼軸長Xは、眼軸長測定装置(光干渉式、超音波式など)により測定される。例えば、本装置と測定装置110が通信回線で接続され、データ転送により眼軸長値が入力される。また、眼軸長について、操作部からの手入力により取得されてもよいし、測定値が記憶されたサーバーから取得されてもよい。また、本装置100に測定装置が設けられ、事前に測定が行われてもよい。例えば、光路長の調整を経て、眼底に対応する干渉信号が取得されるときの光路長変更用光学部材の位置情報から眼軸長が簡易的に求められてもよい。また、眼Eの視度、角膜曲率、水晶体パワーに基づいて補完的に眼軸長が求められてもよい。
【0043】
<走査角度の補正値の算出>
断層画像を取得する際において、光学系に収差がある場合や眼球光学系の収差、眼底が曲面形状であることによって、断層画像に歪みが生じる。図6に示すように、眼底上の光軸上(図6のA位置)において、撮像範囲t1を撮影するために眼軸長Xに基づいて、走査角度Uが補正され、スキャン長SL1が設定され、撮影が行われる。そして、光軸上の周辺部(例えば、図6のB位置)において、光軸上の場合と同じの撮像範囲t1を撮影するために、同じの走査角度を用いて撮影を行うと、周辺部では、スキャン長SL1が小さくなり、スキャン長SL2となってしまう。そのため、撮像範囲t1が小さくなり、取得された断層画像に歪みが生じてしまう。
【0044】
図7は眼軸長Xに対応する走査角度を求める際の一例を示す概略説明図であり、設定されたスキャン長SLと眼軸長Xに基づいて眼底Eに対する走査角度Uが算出される。
【0045】
眼軸長X1(例えば、日本人の平均的な眼軸長値24mm)の眼E1の場合、走査角度U1にて光が走査されると、撮像範囲tの断層画像が取得される。走査角度U1及びスキャン長SLは、例えば、眼軸長X1を既知とするキャリブレーション用光学部材(例えば、模型眼)に対し、本装置の光学系における走査画角と撮像範囲との関係を求めることにより決定される(光線追跡法を用いたシミュレーションでも良い)。
【0046】
図7(a)において、撮影位置が光軸上の場合には、眼軸長X1の眼に対して、走査画角U1、スキャン長SLにて測定光が走査されると光軸上の撮像範囲t1が撮影される。なお、上記で説明したように、光軸周辺部の場合には、光軸上と同じ撮像範囲t1を撮影するのにスキャン長を長く補正する必要があり、スキャン長SL+ΔSLとする必要がある。設定されたスキャン長SLに対しΔSL分スキャン長が大きくなる。
【0047】
図7(b)は補正後の走査角度について概念図である。図6(a)と同じの撮像範囲t1を光軸周辺部で撮影する場合には、スキャン長SLに対する増加分ΔSLを加えるため、走査画角U1にΔUが加算され、走査画角U2(U2=U1+ΔU)に補正される。補正量ΔUは、ΔSL=qΔUの関係式(q:眼軸長及び撮影位置によって変化する係数)及び歪み補正データテーブルから求めることができる。ΔUは眼軸長X1に対するずれ量及び撮影位置に応じて増減される。
【0048】
すなわち、本実施例のように、断層画像の歪みを補正する場合には、眼軸長X1が設定された眼Eに関して補正が行われるため、撮影位置に応じてΔUが増減されることになる。このような演算は、眼底上で走査される測定光への光線追跡をベースに行われる。なお、眼の光学的なデータは、例えば、模型眼などの値が用いられる。
【0049】
<補正走査角度を用いた眼底画像の取得>
そして、制御部70は、所定のフレームレートにおいて眼底Efに対し走査画角U2にて光が走査されるように、光スキャナ102を動作させ、測定光の進行方向を制御する。そして、制御部70は、その反射光を含む光を受光素子104にて受光し、受光素子104から出力される受光信号に基づいて断層画像を取得する。
【0050】
以上のように、測定光の走査情報が撮影位置に応じて補正されることにより、実際の断層画像の歪みが補正される。すなわち、走査角度を補正して同じ走査速度/フレームレートにて画像を取得することにより、所望のスキャン長にて測定点の数が同じ画像が得られる。これにより、異なる撮影位置にて断層画像の取得が行われても、一定の撮像範囲にて断層画像が取得される。これにより、断層画像に対して定量計測を行う際の計測精度が高まる。
【0051】
なお、上記説明においては、ある走査方向を例にとって説明したが、複数の走査方向に関して断層画像をそれぞれ取得する場合、制御部70は、各走査方向に関して走査位置情報を取得し、それぞれ走査角度を補正する。又、測定光を眼底上で二次元的に走査することにより3次元断層画像を得る場合、制御部70は、二次元的な撮像範囲に対応する3次元断層画像が取得できるように、走査情報を補正してもよい。
【0052】
また、正面像撮像光学系を用いて正面画像を得る場合、制御部70は、縦横の走査方向に関して走査位置情報を得て、それぞれ走査角度を補正する。
【0053】
<実距離計測>
取得された眼底画像は、メモリ72に記憶され、モニタ75上に表示される。そして、制御部70は、断層画像Gtと正面画像Gfから任意に選択される少なくともいずれかの眼底画像を用いて眼底上の2点間の実距離を測定する演算処理を行う。
【0054】
画像上の任意の2点(図2の点A及び点B参照)がマウス74a等の操作(例えば、クリック)を介して特定されたとき、制御部70は、指定された2点間の距離を眼底の実距離に換算する。また、画像に対して移動表示される2つのマーカー(指標)間の距離を制御部70が眼底の実距離に換算してもよい。
【0055】
この場合、眼底画像のスキャン長は一定であるから、各種計測において一定の計測精度が保たれる。したがって、より定量的な解析/分析が可能となる。
【0056】
なお、実距離測定のために任意の2点間を指定する手法としては、種々の変容が可能であり、上記手法に限るものはない。例えば、サークル状のマーカを用いて中心からの距離又は直径を求めるようにしてもよい。また、上記2点間の距離に、深さ方向を含めた3点以上の点に基づき形状/面積が計測されてもよい。もちろん、3次元画像のXY方向に関する計測が行われてもよい(例えば、層厚マップ上における計測)。また、断層像中のある部分が画像処理により検出されることにより、計測部分が特定されてもよい。
【0057】
眼軸長Xに対応する走査画角Uの補正について、制御部70は、所定の演算式により求めてもよいし、眼軸長Xと走査画角Uとを関係付けたテーブルから求めてもよい。また、走査画角Uは光スキャナ102の駆動信号により制御されるから、眼軸長Xと光スキャナ102の駆動信号とが関連付けられたものであってもよい。また、眼軸長情報は、実際の測定値でなくとも、眼軸長に関連付けられた情報であればよく、眼軸長測定装置における光路長変更部材の位置情報であってもよい。上記補正を行う場合、ソフトウェアにより走査情報が補正されても良いし、専用の駆動回路(例えば、LSI)等のハードウェアにより走査情報が補正されてもよい。
【0058】
また、走査角度を一定とし、所定のフレームレートにおける測定光の走査速度が眼軸長に応じて補正されてもよい。また、走査速度を一定とし、眼底画像を得るフレームレートを眼軸長に応じて変化させるようにしてもよい。また、光源101の点灯タイミングの変更により撮像範囲が補正されるようにしてもよい。これらの手法によれば、光走査による撮像範囲が結果的に補正される。
【0059】
また、眼Eの角膜形状/眼屈折力(視度)の少なくともいずれかを取得し、取得された角膜形状/眼屈折力に基づいて走査画角が補正されるようにしてもよい。この場合、角膜曲率半径が小さい(眼屈折力が強い)ほど、測定光が屈折され、撮像範囲が大きくなる。そこで、例えば、角膜曲率半径、眼屈折力に応じて、眼底上の撮像範囲が所定の撮像範囲になるように走査角度が補正される。この場合、ΔSL=qΔUの関係式について、qには、角膜形状/眼屈折力によって変化する係数が用いられる。なお、角膜形状/眼屈折力を得る場合、上記眼軸長同様に、本装置に設けられても良いし、他の装置から取得されるようにしてもよい。この場合、さらに、視度情報/角膜形状情報の少なくともいずれかと眼の長さ情報に基づいて走査情報が補正されるようにしてもよい。
【0060】
なお、以上の説明においては、眼底を例にとって説明したが、走査型撮像光学系と被検物との距離が変化する可能性があれば、本発明が利用されうる。この場合、例えば、被検物の位置情報を取得し、取得された位置情報に基づいて測定光の走査情報(例えば、走査角度)を補正すればよい。被検物の位置情報は、例えば、光路長可変用光学部材の位置情報から取得される。また、被検物と装置との距離を測定可能なセンサからの出力信号、検者の手入力などから取得されるようにしてもよい。
【0061】
上記のようにして測定光の走査情報が被検物までの距離に応じて補正されることにより、所望の撮像範囲で画像が取得される。なお、測定対象としては、例えば、前眼部、皮膚、内臓などの生体、生体以外の試料などが考えられる。
【0062】
なお、上記説明においては、光軸に対する撮影位置に応じて測定光の走査角度を補正したがこれに限定されない。制御部70は、光スキャナ102によって走査される測定光の走査位置情報を取得し、取得された走査位置情報に基づいて,各走査位置における眼底画像のスキャン長のずれを補正すればよい。例えば、他の手法として、制御部70は、断層画像の取得後、取得された断層画像の撮影位置に応じて、測定光のスキャン方向(図2)に関して、断層画像を画像処理により伸縮させるようにしてもよい。すなわち、制御部70は、このような手法であっても、各走査位置での断層画像のスキャン長が一定となる。
【0063】
なお、光軸から離れた位置での撮像範囲が狭くなることを鑑み、制御部70は、画像解析に必要な撮像範囲よりも広いスキャン長にて断層画像を取得し、必要な撮像範囲に対応する断層画像の伸縮率を調整するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本実施形態に係る眼底撮影装置の光学系及び制御系を示す概略図である。
【図2】所定の撮像範囲にて取得された正面像と断層像を示す図である。
【図3】測定光の走査角度、眼軸長、撮像範囲との関係について説明する概念図である。
【図4】眼軸長に応じて光スキャナの動作を変更し、断層画像を計測するまでの流れの一例を示すフローチャートである。
【図5】撮影位置に応じてスキャン長が異なることについて説明する図である。
【図6】撮影位置に応じてスキャン長が変化することを示す図である。
【図7】眼軸長Xに対応する走査角度を求める際の演算手法の一例を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0065】
70 制御部
72 メモリ
74 操作部
75 モニタ
100 撮像光学系
101 光源
102 光スキャナ
110 眼距離測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から発せられた少なくとも一部の光を測定光として被検者眼眼底上で走査させる光走査手段と、その反射光を含む光を受光する受光手段と、を有し、眼底画像を得るための眼底撮像光学系と、
前記光走査手段によって走査される測定光の走査位置情報を取得し、取得された走査位置情報に基づいて,各走査位置における眼底画像のスキャン長のずれを補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項2】
前記補正手段は、取得された走査位置情報に基づいて眼底に対する測定光の走査情報を補正し、補正された走査情報に基づいて前記光走査手段を制御し、前記受光手段からの受光信号に基づいて眼底画像を得ることを特徴とする請求項1記載の眼底撮影装置。
【請求項3】
眼底撮像光学系は、光源から発せられた光を測定光と参照光に分割し、測定光を眼底に導き,参照光束を参照光学系に導いた後、眼底で反射した測定光と参照光との干渉状態を前記受光手段により検出させることにより眼底断層像を得るための光干渉断層光学系であることを特徴とする請求項2記載の眼底撮影装置。
【請求項4】
眼底に対する撮像範囲を任意に設定する設定手段を有し、
前記補正手段は、前記設定手段によって設定された撮像範囲にて断層画像が取得されるように前記走査情報を補正することを特徴とする請求項3記載の眼底撮影装置。
【請求項5】
前記補正手段は、さらに、被検者眼の長さ情報を取得し、取得された長さ情報と走査位置に基づいて,各走査位置における眼底画像のスキャン長のずれを補正することを特徴とする請求項4記載の眼底撮影装置。
【請求項6】
眼底撮像光学系は、さらに、輝度が高く指向性の高い光束を発する光源と、眼底と略共役な位置に配置された共焦点開口を備え、眼底の正面像を取得するための光学系であること特徴とする請求項5記載の眼底撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−115575(P2012−115575A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269810(P2010−269810)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)