説明

眼底撮影装置

【課題】 被検者眼の撮影のタイミングを好適に判断できる眼底撮影装置を提供する。
【解決手段】 眼底撮影装置は、赤外光で照明された前眼部を撮像して前眼部像を得る前眼部観察光学系と、可視光源で照明された前記眼底を撮影して眼底像を得る眼底撮影光学系と、眼底像と前眼部像とをモニタに切換えて表示させる表示制御手段と、眼底撮影光学系による撮影を開始する撮影開始信号を入力する撮影スイッチと、撮影スイッチによる撮影開始信号の入力からの経過時間を報知するための時間報知手段とを有し、表示制御手段は時間報知手段で得られる経過時間を前眼部像と共にモニタ上に表示させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者眼の眼底を撮影する眼底撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼底撮影装置としては、撮影前に被検者眼に散瞳剤を点眼して瞳孔を開かせた状態で眼底を撮影する散瞳型のものが知られている。また、観察照明光に赤外光を利用することにより、被検者眼に散瞳剤を点眼せずに撮影する無散瞳型のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007‐202724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように無散瞳型の眼底撮影装置では散瞳剤が用いられないため、撮影時の可視光束によって被検者眼が縮瞳してしまうことになる。その為、同一の被検者の眼を左右等、複数回撮影しようとすると、一旦縮瞳した瞳孔が撮影可能な程度まで自然散瞳することを待つことが必要となる。しかし、再撮影に必要な自然散瞳に要する時間は、被検者毎に異なり易いため、あとどのくらいの時間を待てば再撮影が行えそうかを容易に知ることができなかった。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、被検者眼の撮影のタイミングを好適に判断することができる眼底撮影装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0007】
(1) 赤外光により照明された前眼部を撮像して前眼部像を得るための前眼部観察光学系と、可視光源で照明された前記眼底を撮影して眼底像を得るための眼底撮影光学系と、前記眼底像と前記前眼部像とをモニタに切換えて表示させる表示制御手段と、前記眼底撮影光学系による撮影を開始する撮影開始信号を入力するための撮影スイッチと、を備える眼底撮影装置において、前記撮影スイッチによる前記撮影開始信号の入力からの経過時間を報知するための時間報知手段を有し、前記表示制御手段は前記時間報知手段によって得られる前記経過時間を前記前眼部像と共に前記モニタ上に表示させることを特徴とする。
(2) (1)の眼底撮影装置において、前記表示制御手段は前記経過時間をグラフィック形式で前記モニタに表示させることを特徴とする。
(3) (2)の眼底撮影装置において、前記表示制御手段は、前記被検者眼の瞳孔径が撮影に必要な瞳孔径か否かの目安とするための所定の径を有したレチクルを前記前眼部像が表示されるモニタ上に形成するとともに、前記レチクルの表示状態を時間の変化とともに変えることにより前記経過時間を表示させることを特徴とする。
(4) (3)の眼底撮影装置は、前記レチクルにより示される前記経過時間を設定するための経過時間設定手段とを備え、前記表示制御手段は、前記経過時間設定手段で設定された前記経過時間に基づき前記レチクルの表示状態を時間の変化とともに変えて前記モニタ上に表示させることを特徴とする。
(5) (4)の眼底撮影装置において、前記表示制御手段は、色の切換えにより前記レチクルの表示状態を時間の変化と共に変えることで前記経過時間を表示させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被検者眼の撮影のタイミングを好適に判断することができる眼底撮影装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。図1は眼底撮影装置(眼底カメラ)の光学系及び制御系の概略構成図である。光学系は、照明光学系10、被検者眼の眼底の観察・撮影を行う眼底観察・撮影光学系30、被検者眼の眼底にスプリット指標(フォーカス指標)を投影するためのスプリット指標投影光学系40、被検者眼の前眼部にアライメント用指標光束を投影するアライメント指標投影光学系50、被検者眼の前眼部を撮影する前眼部観察光学系60、被検者眼の視線を誘導するための固視標呈示光学系70から構成されている。
【0010】
<照明光学系> 照明光学系10は、観察照明光学系と撮影照明光学系から構成されており、観察照明光学系は、近赤外光を照射する赤外光源(図示は省略する)からの赤外の光束により被検者眼の眼底を照明する。一方、撮影照明光学系は、フラッシュランプ,LED等の可視の撮影光源(図示は省略する)からの可視の光束により被検者眼の眼底を照明する。なお、以上のような照明光学系10からの光束は、ダイクロイックミラー(波長選択ミラー)24、対物レンズ25を介して被検者眼の眼底を照明する。
なお、ダイクロイックミラー24は、観察照明光学系の赤外光源からの波長を透過し、後述するアライメント指標投影光学系50からの赤外光を反射する波長特性を有する。また、ダイクロイックミラー24は、ソレノイドとカム等により構成される挿脱機構66により光路から挿脱可能に斜設されており、観察照明光学系を用いた眼底の観察時には光路に斜設され、撮影照明光学系による眼底の撮影時には光路から外される。
【0011】
<眼底観察・撮影光学系> 眼底観察・撮影光学系30は、眼底観察光学系と眼底撮影光学系とから構成される。眼底観察光学系は、対物レンズ25、孔あきミラー22の開口近傍に位置する撮影絞り31、光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズ32、結像レンズ33、眼底撮影時には挿脱機構39により光路から挿脱可能な跳ね上げミラー34を備える。跳ね上げミラー34の反射方向の光路には、赤外光反射・可視光透過の特性を有するダイクロイックミラー37、リレーレンズ36、赤外域に感度を有する観察用の二次元撮像素子38が配置されており、赤外光源で照明された眼底像が撮影されるようになっている。一方、眼底撮影光学系は、対物レンズ25と,撮影絞り31から結像レンズ33までの光学系を眼底観察光学系と共用する。また、眼底撮影光学系は、可視域に感度を有する撮影用二次元撮像素子35を備え、可視光源で照明された眼底像が撮影される。なお、撮影絞り31は対物レンズ25に関して被検者眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置される。また、フォーカシングレンズ32は、モータを備える移動機構45にて光軸方向に移動される。
【0012】
眼底の観察時において、赤外光源を発した光束は、ダイクロイックミラー24を透過し、対物レンズ25によって被検者眼Eの瞳孔付近で一旦収束した後、拡散して被検者眼Eの眼底を照明する。眼底からの反射光は、対物レンズ25、ダイクロイックミラー24、孔あきミラー22の開口部、撮影絞り31、フォーカシングレンズ32、結像レンズ33、跳ね上げミラー34、ダイクロイックミラー37、リレーレンズ36を介して撮像素子38に結像する。一方、眼底の撮影時には、挿脱機構39及び66の駆動により、ダイクロイックミラー24及び跳ね上げミラー34が光路から外された状態で、可視光源で照明された眼底からの反射光が、対物レンズ25、孔あきミラー22の開口部、撮影絞り31、フォーカシングレンズ32、結像レンズ33を経て、二次元撮像素子35に結像する。
【0013】
<スプリット指標投影光学系> スプリット指標投影光学系40は、近赤外光を照射する赤外光源(図示を省略する)を備え、赤外光源からの光束は、周知のスプリット指標板,スポットミラーを経て反射された後、孔あきミラー22、ダイクロイックミラー24、対物レンズ25を経て被検者眼Eの眼底に投影される。なお、スプリット指標投影光学系40からの光束は、フォーカスが合っていないときに分離した状態で被検者眼Eに投影され、眼底のフォーカスが合っているときに一致して被検者眼Eに投影される。なお、被検者眼Eの眼底上に投影されたスプリット指標像(後述するスプリット指標像S1,S2)は、眼底観察用の撮像素子38によって眼底像と共に撮像される。
【0014】
<アライメント指標投影光学系> アライメント指標投影光学系50は、撮影光軸L1を中心とした同心円上に複数個の赤外光源が配置されており、撮影光軸L1を通る垂直平面を挟んで左右対称に配置された赤外光源51とコリメーティングレンズ52を持つ第1指標投影光学系(0度、及び180)と、第1指標投影光学系とは異なる位置に配置された複数の赤外光源53を持つ第2指標投影光学系とを備える。この場合、第1指標投影光学系は被検者眼Eの角膜に無限遠の指標を左右方向から投影し、第2指標投影光学系は被検者眼Eの角膜に有限遠の指標を上下方向もしくな斜め方向から投影する。
【0015】
<前眼部観察光学系> 前眼部観察光学系60は、ダイクロイックミラー24の反射側に配置され、二次元撮像素子65によって前眼部照明光源58で照明された前眼部とアライメント指標が撮像される。なお、二次元撮像素子65で撮像された前眼部像からは被検者眼の瞳孔形状が得られる。また、アライメント指標投影光学系50が持つ光源の点灯により、アライメント用光束による角膜反射光が二次元撮像素子65で検出される。二次元撮像素子65の出力が制御部80に入力されると、モニタ8には前眼部像AEが表示される(図2参照)。なお、前眼部観察光学系60は、被検者眼に対する装置本体のアライメント状態を検出する役割を兼用している。
【0016】
<固視標呈示光学系> 固視標呈示光学系70は、図示を略す赤色等の可視光源と、複数の開口部が形成された遮光版又は表示制御で開口部の形成位置が切換えられる液晶ディスプレイ等とを備え、開口部が可視光源の前に選択的に配置されることで、光軸L2に対して異なる位置に固視標が呈示されるようになっている。これにより、眼底中心部を撮影する標準撮影と眼底周辺部を撮影する周辺撮影とで固視標の呈示位置が変更される。
【0017】
<制御系> 制御部80は、眼底カメラの各種動作制御を行う。ここでは、制御部80には、上述した二次元撮像素子35、38、65、挿脱機構39、移動機構45、挿脱機構66、各光源等が接続される他、眼底カメラ本体を被検者眼に対して前後左右方向に移動させるためのジョイスティック4、上述した光学系及び制御系が内部に設けられた撮影部を被検者眼に対して三次元方向に移動させるための駆動部6、前眼部像及び眼底観察(撮影)像が表示されるモニタ8、撮影開始のトリガ信号を入力するための撮影スイッチ83、被検者の年齢等の情報を入力するための入力スイッチ84、記憶部としてのメモリ85、撮影の経過時間をカウントするためのタイマー(時間計測装置)86等が接続されている。
【0018】
例えば、制御部80は二次元撮像素子65で撮像された前眼部画像からアライメント指標を検出処理すると共に、瞳孔形状を検出する。更には、瞳孔形状の中心位置(瞳孔中心)を求める。また、制御部80は、撮像素子65の撮影信号に基づいて被検者眼に対する撮影部のアライメント偏位量を検出する。また、制御部80は、被検者眼Eの前眼部像AEが表示されたモニタ8の画面上(図2参照)に、良好な撮影を行うために必要となる瞳孔径の大きさを示すレチクルLTを電子的に形成して表示させると共に、検出されたアライメント偏位量に応じて表示位置が移動されるアライメント指標A1と、アライメント指標A1の照準合わせに用いられるマークA2とを電子的に形成して表示させる。なお、本実施形態では、制御部80により、タイマー86の動作と連動させてレチクルLTの表示制御が行われることで、レチクルLTが前回撮影からの経過時間を示すようにになっている。なお、レチクルLTを用いた経過時間表示についての詳細な説明は後述する。
また、制御部80は、二次元撮像素子38で撮像された眼底画像をモニタ8に表示させると共に、撮像素子38で検出された光学的なスプリット指標像の分離状態に基づき、眼底Eのフォーカス合わせを行う。
【0019】
次に、以上のような構成を備える眼底カメラの動作を説明する。ここでは、被検者の左右眼の両方で眼底後極部付近を中心に撮影を行う場合(標準撮影)を説明する。まず、検者は、入力スイッチ84の操作で被検者の年齢等の各種情報の入力を行う。そして、固視標呈示光学系70の光源を点灯させて被検者眼を固視させた状態で、ジョイスティック4の操作で図示を略す撮影部を被検者眼E(ここでは、右眼)に近づけ、前眼部像AEとアライメント指標像とがモニタ8に表示されるようにする。
【0020】
図2にモニタ8に表示された前眼部像AEの例を示す。なお、図2(a)にアライメントが合っていない状態、図2(b)にアライメントが合っている状態が示されている。被検者眼の角膜上に投影されたアライメント指標像が撮像素子65で検出されると、制御部80は、リング状に投影された指標像Ma〜Mhによって形成されるリング形状の中心のXY座標を略角膜頂点(アライメント基準位置)として検出してアライメント指標A1を電子的に表示させる、また、制御部80は予め撮像素子65上に設定されたXY方向の基準となる位置(例えば、撮像素子65の撮像面と撮影光軸L1との交点)に対応するモニタ8上に、アライメントの照準となるマークA2を電子的に表示させる。また、制御部80は、マークA2の表示位置を中心として、所要瞳孔径を示すレチクルLTをモニタ8上に表示させる。
【0021】
検者は、ジョイスティック4を操作し、マークA2とアライメント指標A1とを合わせるように撮影部の移動操作を行う。一方、制御部80は、アライメント指標A1とマークA2とを比較してXY方向の変位量を求める。また、無限遠の指標像Ma,Meの間隔と有限遠の指標像Mh,Mfの間隔とを比較することでZ方向のアライメント偏位量を求める。そして、マークA2とアライメント指標A1が合致するように、三次元方向のアライメント偏位量が所定のアライメント許容範囲を満たしているかを求める。なお、作動距離方向のアライメントは、モニタ8に表示されるインジケータGの本数の増減で表されるので、検者は、図2(b)に示すように、インジケータGの本数が1本となるようにジョイスティック4の操作で作動距離方向の位置合わせを行うようにする。
【0022】
以上のように、アライメントが合った状態で、検者は被検者眼の瞳孔径PがレチクルLTに掛からない程度の大きさとなっているかを確認する。なお、上述したように、本実施形態のレチクルLTは経過時間を表示する機能を備えるが、ここでは、一回目の撮影が行われるため、タイマー86による前回撮影からの経過時間の計測は行われていない。この場合、レチクルLT全体が一定の表示状態で表示されている。
【0023】
以上のようにアライメントが完了したら、制御部80による眼底に対するフォーカス調節が行われる。まず、検者による所定の操作で、制御部80はモニタ8の表示を前眼部像AEから撮像素子38で撮像される眼底像Fに切換える。ここで、図3にモニタ8に表示される眼底像の例を示す。なお、ここでは、眼底のフォーカスが合った状態でスプリット指標S1,S2が合致した状態が示されている。なお、眼底後極部付近を中心に投影されたスプリット指標像S1、S2が撮像素子38で撮像されると、制御部80はその分離状態を検出してスプリット指標S1,S2が合致するように、移動機構45を駆動させて、フォーカシングレンズ32を光軸上で移動させることで眼底のフォーカスが合わせられている。
【0024】
そして、フォーカスが合った状態で、撮影スイッチ83が押されると、制御部80はそのトリガ信号によって、挿脱機構39と挿脱機構66の駆動により、ダイクロイックミラー24と跳ね上げミラー34とを撮影光軸L1から外すと共に、眼底撮影光学系の可視光源を点灯させる。可視光束で照明された眼底Eからの反射光は、対物レンズ25,撮影絞り31から結像レンズ33までの光学系を介して、二次元撮像素子35で受光される。制御部80は、二次元撮像素子35による撮像で得られた撮影画像をメモリ85に記憶させる。また、制御部80は眼底撮影終了後、ダイクロイックミラー24と跳ね上げミラー34とを光路中に挿入し、モニタ8に前眼部像を表示させる。
【0025】
なお、制御部80は、撮影スイッチ83からのトリガ信号によって、タイマー86による撮影経過時間の計測を開始する。次に、検者は被検者の他方の眼の撮影を行うために、上述と同じ操作によって、撮影部と被検者眼(ここでは、左眼)との位置合わせを行い、再びモニタ8に前眼部像AEが表示されるように位置合わせを行う。
【0026】
ところで、無散瞳型の眼底カメラでは、被検者眼に散瞳剤が点眼されない状態で撮影が行われるため、撮影により眼底に可視光が照射されることで、瞳孔が縮瞳してしまう。その為、同一の被検者眼で複数回の撮影を行おうとする場合には、被検者眼の瞳孔が撮影可能な大きさまで自然散瞳するまで待たなければならない。しかし、このような自然散瞳の状態の判断は難しく、検者の経験等の差によって、被検者眼の散瞳が不十分の状態で誤って撮影がされてしまう可能性がある。この場合、取り直しが行われることで、患者の負担が増えることになる。
【0027】
そこで、本実施形態では上述したように、前眼部像がモニタ8に表示された状態で、タイマー86で計測される撮影からの経過時間をレチクルLTの表示状態変化させることで確認させる。ここで、図4にレチクルLTの表示状態の説明図(拡大図)を示す。また、図5に同一被検者眼の撮影を繰り返し行った場合の前眼部観察画面の例を示す。なお、図5(a)には眼底の撮影直後の縮瞳した状態の前眼部AE、図5(b)には撮影から一定時間経過後に、ある程度自然散瞳した状態の前眼部AEがモニタ8上に表示されている例が示されている。なお、図5では、レチクルLTによる経過時間計測と、瞳孔径Pとの関係を分かり易く説明するために、リング状に投影された指標像Ma〜Mhの図示を便宜上省略している。
【0028】
図4に示すように、本実施形態の円形形状のレチクルLTは、その円形形状が等分割された形状の複数の図形LTa〜LTlの集合で構成されており、タイマー86による経過時間のカウントと連動して各図形LTa〜LTlの表示状態が制御部80によって順次切換えるようになっている。例えば、撮影スイッチ83からの撮影のトリガ信号が入力されてからの経過時間に応じて、制御部80は、図形LTaから時計回りに、各図形LTa〜LTlの表示状態を順番に変えるようにしている。なお、各図形LTa〜LTlの表示状態の切換は「色」の変更で行われる他、経過時間に応じて各図形LTa〜LTlの表示が強調表示から通常表示に変わるようにしても良い。これ以外にも、検者がレチクルLTを見たときに、各図形LTa〜LTlの表示状態の変化により経過時間が確認出来るように、制御部80によるレチクルLTの表示制御が行われれば良い。これにより、検者は前回の撮影からの経過時間を直感的に把握できるようなる。
【0029】
なお、このような経過時間の表示は、通常の被検者眼の自然散瞳において、縮瞳してから次の撮影が可能とされる散瞳状態までに要すると思われる時間を考慮した時間を、レチクル一周分として表し、この時間を分割されている図形数だけ等分に割り振るようにしている。例えば、一般的な被検者眼において再撮影に必要となる瞳孔径まで散瞳する時間を2分としたときに、これを考慮して12個の図形LTa〜LTlからなる一周分のレチクルLTにて表される時間を3分とする。この場合、各図形は各々15秒ずつの時間を持つこととなる。つまり、制御部80はタイマー86による経過時間のカウントで15秒毎に各図形の表示状態を変えていくこととなる。なお、レチクルLTにて表される時間は3分に限られるものではなく、上述したように縮瞳してから次の撮影が可能とされる散瞳状態までに要すると思われる時間を十分考慮した時間に設定されていればよい。またレチクルの分割数も必要に応じて設定されていればよい。
【0030】
図形LTa〜LTlまでの全体の時間表示が3分であるとすると、図5(a)に示す状態では、前回の撮影から30秒ほどしか経過していないため、検者は撮影直後であることを容易に確認できる。その後、更に時間が経過して、図5(b)に示す状態になると、図形LTa〜LTiまでの表示状態が変わっており、2分程度の経過時間が得られたことが判る。そして瞳孔径PとレチクルLTとを比較すると、瞳孔径が所要瞳孔径を満たしていることが確認される。この場合、検者は被検者眼の瞳孔が撮影可能な程度に十分に自然散瞳していると判断する。なお、一般的に十分な散瞳が得られるとされる所定の経過時間(例えば2分)を待たずして十分な散瞳が得られたことをレチクルLTで確認できれば、次の撮影動作に移ってもよい。また、所定経過時間が来たのにも関わらず十分な散瞳が得られていないときは、残りの図形表示の変化(経過時間)やそのときの散瞳状態を考慮しながら、次の撮影までの待ち時間を容易に推測できることとなる。
【0031】
検者は十分な散瞳状態が得られていることを確認した後、次の撮影のために所定の操作を行う。制御部80は検者による入力操作によって、モニタ8の表示を前眼部観察画像から眼底観察画像へと切換える。この時、制御部80は、モニタ8の表示を眼底画像に切換えると同時にレチクルLTの表示を終了させる(タイマー86による経過時間のカウントを終了させる)。このようにすると、撮影のタイミングを決定するために用いられるレチクルによる時間表示が、経過時間の確認が必要となる前眼部観察時にのみに効率よく表示されるようになる。そして、制御部80は、撮影スイッチ83からのトリガ信号によって上述したような眼底撮影動作を行う。
【0032】
以上のように、検者はレチクルLTと瞳孔径の大きさの比較と、レチクルLTを構成する図形1a〜1lで示される経過時間とを同時に確認することにより、経過時間に対する散瞳状態を容易に把握することができ、次の撮影タイミングの判断を的確に行うことができる。また、レチクルLTで示される経過時間を参考にしながら、被検者眼の瞳孔径の状態を確認することで、被検者眼が縮瞳のために小さくなっているのか、元々の瞳孔のサイズが小さいのかのを判断し易くなる。これにより、検者はより適切な撮影条件で眼底撮影を行うことができるようになる。
【0033】
なお、以上では、レチクルLTを構成する複数の図形によって経過時間が示される例が示されているが、これに限られるものでは無い。例えば、図6の経過時間表示の変用例に示すように、レチクルLT2全体を一つの滑らかな円形形状として表示させた状態で、前回撮影からの経過時間に応じて、レチクルLT2の表示が線形的(リニア)に切換えられるようにしても良い。例えば、時間変化に伴う表示状態の切換を開始位置STから開始し、時間が経つにつれて表示状態の切換位置Cが時計回りに移動されるようにしても良い。
【0034】
また、一旦縮瞳した瞳孔が開くまでの経過時間は、被検者の年齢が高くなるにつれて緩やかになる傾向があることが知られているため、レチクルLTで表される経過時間が被検者の年齢層等に応じて設定されるようにしても良い。つまり、被検者の年齢層が高くなるにつれて、レチクルLTで示される経過時間が長く設定されるようにする。このようにすると、患者の年齢等を考慮して、経過時間に対する散瞳状態を好適に把握することができるようになる。なお、この場合には、レチクルLTで示される経過時間の情報を被検者の年齢層毎に予めメモリ85に記憶させておく。そして、撮影時には、検者は入力スイッチ84の操作で被検者の年齢等の情報を入力する。これにより、制御部80は、入力された被検者の年齢に対応した経過時間でレチクルLTの表示制御を行うようになる。
【0035】
これ以外にも、被検者眼の状態に応じてレチクルLTで示される経過時間が設定されるようにしても良い。例えば、被検者眼の疾患の状態に合わせてレチクルLTで表される経過時間が設定されると、被検者眼の経過時間に対する散瞳状態をより好適に把握することができるようになる。この場合、入力スイッチ84の操作で被検者眼の状態に応じたレチクルLTの経過時間を任意に設定出来るようにすれば良い。
【0036】
また、レチクルLTで示される経過時間の途中で、前回の撮影から所定時間経過したことを、検者に音で知らせるようにしても良い。例えば、レチクルLTの半分の表示状態が切換えられたとき(レチクルLTで示される経過時間の半分が経過したとき)に、図示を略すスピーカの駆動によって音を鳴らし、検者に知らせるようにする。このようにすると、検者がモニタ8から目を離した場合であっても、撮影後から所定時間経過したことを検者に分かり易く知らせることができるようになる。
また、レチクルLTで示される経過時間の途中で散瞳状態を判断するタイミングを、入力スイッチ84等の操作で検者が任意に決定出来るようにしても良い。このようにすると、自然散瞳を判定するタイミングを複数の検者又は施設ごとで統一することができるようになる。
【0037】
また、上記では瞳孔径とレチクルLTの表示状態を検者が確認して、手動で観察画面に切換えられる例を示したが、これ以外にも、画像処理で検出される被検者眼の瞳孔径Pの外形形状とレチクルLTの表示位置とを制御部80が比較した結果、瞳孔径PがレチクルLTに掛からない大きさであると判断されたときに、自動的に眼底撮影の開始動作が行われるようにしても良い。この時も、レチクルLTで示されるタイマー86の経過時間を考慮して、少なくとも前回撮影から所定時間経過後に、次の撮影が開始されるようにしても良い。このようにすると、検者はより簡単に眼底撮影を行うことができるようになる。
【0038】
また、以上の説明では同一被検者の左右眼の撮影を行う例を示したが、これ以外にも、無散瞳型の眼底撮影装置では、眼底のパノラマ画像を構築するために同一の被検者に対して複数回の撮影が行われる場合がある。この場合には、固視標の呈示位置を変えることで、被検者眼の周辺撮影が行われる。なお、周辺撮影では、瞳孔に対して斜め方向から光束が入射されるようになるため、更に被検者眼の縮瞳の影響を受け易くなっている。そこで、この場合にも、本発明の構成を適用して、レチクルLTと瞳孔径の大きさとの比較と、レチクルLTで示される経過時間の確認とが同時に行われるようにする。これにより、好適なタイミングでの撮影が行われるようになり、撮影ミスが抑制されて、眼底撮影が好適に行われるようになる。
【0039】
また、上記では所要瞳孔径を示すレチクルLTにより撮影からの経過時間が示されているが、図7に示すように、所要瞳孔径を示すレチクルLTとは別に、経過時間を示すための電子的なグラフィック表示がレチクルLTの周囲に表示されるようにしても良い。なお、ここでは、レチクルLTの内側の近傍に表示される被検者眼の撮影可能な最小の瞳孔径を示すレチクルLT3が、経過時間の表示に用いられる場合が示されている。これ以外にも、検者がモニタ8に表示された被検者眼の瞳孔から視線を動かす事無く確認できる位置に、上述したような経過時間を示すグラフィック表示が形成されるようにすれば良い。
【0040】
また、上記ではモニタ8の表示が眼底観察画面に切換えられた際に、レチクルLTによる経過時間の表示が終了する例が示されているが、モニタ8に眼底観察画像が表示された状態で、経過時間の表示が継続して行われる用にしても良い。但し、この場合には、眼底像の妨げにならないモニタ8上の位置に数値等による経過時間が表示されるようにする。又は、眼底画像と共に前眼部観察画像のサムネイル画像を表示させて、サムネイル画像上にレチクルLTによる経過時間表示が継続されるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】光学系及び制御系の概略構成図である。
【図2】モニタに表示される前眼部像の例である。
【図3】モニタに表示される眼底像の例である。
【図4】レチクルの表示状態の説明図である。
【図5】前眼部観察画面を用いた経過時間表示の説明図である。
【図6】経過時間表示の変用例である。
【図7】経過時間表示の変用例である。
【符号の説明】
【0042】
8 モニタ
10 照明光学系
30 眼底観察・撮影光学系
40 スプリット指標投影光学系
50 アライメント指標投影光学系
60 前眼部観察光学系
70 固視標呈示光学系
80 制御部
83 撮影スイッチ
84 入力スイッチ
85 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光により照明された前眼部を撮像して前眼部像を得るための前眼部観察光学系と、可視光源で照明された前記眼底を撮影して眼底像を得るための眼底撮影光学系と、前記眼底像と前記前眼部像とをモニタに切換えて表示させる表示制御手段と、前記眼底撮影光学系による撮影を開始する撮影開始信号を入力するための撮影スイッチと、を備える眼底撮影装置において、
前記撮影スイッチによる前記撮影開始信号の入力からの経過時間を報知するための時間報知手段を有し、
前記表示制御手段は前記時間報知手段によって得られる前記経過時間を前記前眼部像と共に前記モニタ上に表示させることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項2】
請求項1の眼底撮影装置において、
前記表示制御手段は前記経過時間をグラフィック形式で前記モニタに表示させることを特徴とする眼手撮影装置。
【請求項3】
請求項2の眼底撮影装置において、
前記表示制御手段は、前記被検者眼の瞳孔径が撮影に必要な瞳孔径か否かの目安とするための所定の径を有したレチクルを前記前眼部像が表示されるモニタ上に形成するとともに、前記レチクルの表示状態を時間の変化とともに変えることにより前記経過時間を表示させることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項4】
請求項3の眼底撮影装置は、
前記レチクルにより示される前記経過時間を設定するための経過時間設定手段とを備え、
前記表示制御手段は、前記経過時間設定手段で設定された前記経過時間に基づき前記レチクルの表示状態を時間の変化とともに変えて前記モニタ上に表示させることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項5】
請求項4の眼底撮影装置において、
前記表示制御手段は、色の切換えにより前記レチクルの表示状態を時間の変化と共に変えることで前記経過時間を表示させることを特徴とする眼底撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−179205(P2012−179205A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43529(P2011−43529)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)