説明

眼底撮影装置

【課題】 眼底観察像と前眼部観察像を共に見ながら位置合わせを行え、被検者眼に対する撮影状態を容易に確認できる眼底撮影装置を提供する。
【解決手段】 眼底撮影装置は、赤外光で照明された眼底からの反射光を受光して眼底観察像を得る眼底観察光学系と、眼底観察光学系の光路に配置された光路分岐部材で分割される光路上に置かれた第2の撮像素子で前眼部観察像を得る前眼部観察光学系と、眼底観察像が表示される眼底観察画面と前眼部観察像が表示される前眼部観察画面とが表示されるモニタと、モニタの表示状態を眼底観察画面と前眼部観察画面とで切換るための表示制御手段と、を備え、表示制御手段は、モニタに眼底観察画面を表示させた状態で眼底観察画面より小さな表示画面となる第1表示欄を眼底観察画面に重畳して形成し、所要瞳孔径を示すレチクルを第1表示欄の所定位置に電子的に形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者眼の眼底撮影を行う眼底撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼底撮影装置は、被検者眼の観察画像及び撮影画像が表示されるモニタを備え、モニタに表示された前眼部観察像を用いて装置と被検者眼のアライメントが行われる。また、アライメント完了後、フォーカス合わせが行われ、眼底のフォーカスが合った状態で可視の撮影光源が発光されることにより撮影された眼底撮影像がモニタに表示される。このような眼底撮影装置においては、位置合わせをより容易にするためにモニタに前眼部観察像と眼底観察像の両方が表示された状態で、撮影部と被検者眼とのアライメント及びフォーカス合わせが行われる装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000‐5131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では単に位置合わせの容易化のために前眼部観察画像が眼底観察画像に重畳して表示されている程度であり、被検者眼の状態が撮影に適しているかを判断することは難しい。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、被検者眼の眼底を撮影するにあたって、眼底観察像と前眼部観察像とを共に見ながら位置合わせが行えると共に、被検者眼に対する撮影状態を容易に確認することのできる眼底撮影装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0007】
(1) 赤外光で照明された被検者眼の眼底からの反射光を受光するための第1の撮像素子を有し,該第1撮像素子の受光結果により前記被検者眼の眼底観察像を得る眼底観察光学系と、該眼底観察光学系の光路に配置された光路分岐部材により分割される光路上に置かれた第2の撮像素子を有し,前記赤外光とは異なる波長の赤外光を前記第2撮像素子により受光して前記被検者眼の前眼部観察像を得る前眼部観察光学系と、前記眼底観察光学系により得られる前記眼底観察像が表示される眼底観察画面と前記前眼部観察光学系により得られる前記前眼部観察像が表示される前眼部観察画面とが表示されるモニタと、前記モニタの表示状態を前記眼底観察画面と前記前眼部観察画面とで切換るための表示制御手段と、を備え、前記表示制御手段は、前記モニタに前記眼底観察画面を表示させた状態で該眼底観察画面よりも小さな表示画面となる第1表示欄を前記眼底観察画面に重畳して形成すると共に、撮影に必要な所要瞳孔径を示すレチクルを前記第1表示欄の所定位置に電子的に形成させることを特徴とする。
(2) (1)の眼底撮影装置において、前記モニタはタッチパネル機能を有するモニタであり、前記表示制御手段は前記タッチパネル機能を利用して撮影条件を設定するための複数のアイコンを前記眼底観察画面及び前記前眼部観察画面に表示させる制御を行い、前記第1表示欄には前記複数のアイコンを消した状態で前記前眼部観察像を表示させることを特徴とすることを特徴とする。
(3) (2)の眼底撮影装置において、前記レチクルは撮影に必要な通常の所要瞳孔径を示す第1レチクルと、該第1レチクルよりも小さい径であって小瞳孔径用の撮影に必要な最小の所要瞳孔径を示す第2レチクルと、の2つのレチクルから形成されていることを特徴とする。
(4) (3)の眼底撮影装置は、前記眼底のフォーカス合わせを行うために光学的に一対なスプリット指標を前記眼底に投影するためのスプリット指標投影光学系と、を備え、前記表示制御手段は、被検者眼の瞳孔に対する前記スプリット指標の通過位置を示すための通過位置情報を前記第1表示欄に電子的に形成することを特徴とする。
(5) (4)の眼底撮影装置において、前記表示制御手段により前記第1表示欄に形成された前記スプリット指標が前記瞳孔から外れたことが検知されたことを検者に報知するための報知手段と、を備えることを特徴とする。
(6) (5)の眼底撮影装置は、前記表示制御手段は、前記モニタに前記前眼部観察画面を表示させた状態で前記前眼部観察画面よりも小さな表示画面となる第2表示欄を前記前眼部観察画面に重畳して形成すると共に、フォーカス合わせに必要となる前記スプリット指標を前記第2表示欄に表示させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被検者眼の眼底を撮影するにあたって、眼底観察像と前眼部観察像とを共に見ながら位置合わせが行えると共に、被検者眼に対する撮影状態を容易に確認できる眼底撮影装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。図1は眼底撮影装置(眼底カメラ)の光学系及び制御系の概略構成図である。光学系は、照明光学系10、被検者眼の眼底の観察・撮影を行う眼底観察・撮影光学系30、被検者眼の眼底にスプリット指標(フォーカス指標)を投影するためのスプリット指標投影光学系40、被検者眼の前眼部にアライメント用指標光束を投影するアライメント指標投影光学系50、被検者眼の前眼部を撮影する前眼部観察光学系60、被検者眼の視線を誘導するための固視標呈示光学系70から構成されている。
【0010】
<照明光学系> 照明光学系10は、撮影照明光学系と観察照明光学系を有する。撮影照明光学系は、フラッシュランプ,LED等の可視の光束を照射する撮影光源14、コンデンサレンズ15、リング状の開口を有するリングスリット17、リレーレンズ18、ミラー19、中心部に黒点を有する黒点板20、リレーレンズ21、孔あきミラー22、対物レンズ25を有する。観察照明光学系は、ハロゲンランプ等の近赤外光を含む光束を照射する照明光源11、近赤外光の所定の波長域を透過させる赤外フィルタ12、コンデンサレンズ13、コンデンサレンズ13とリングスリット17との間に配置されたダイクロイックミラー16、リングスリット17から孔あきミラー22までの光学系と、光路分岐部材としてのダイクロイックミラー(波長選択ミラー)24、対物レンズ25を有する。なお、ダイクロイックミラー16は、赤外光を反射し可視光を透過する特性を持つ。また、ダイクロイックミラー24は、観察照明光学系の赤外光源11からの近赤外光の波長の光束を透過し、後述するアライメント指標投影光学系50からの赤外光を反射する波長特性を有する。なお、ダイクロイックミラー24は、ソレノイドとカム等により構成される挿脱機構66により光路から挿脱可能に斜設されており、観察照明光学系を用いた眼底の観察時には光路に斜設され、撮影照明光学系による眼底の撮影時には光路から外される。
【0011】
<眼底観察・撮影光学系> 眼底観察・撮影光学系30は、眼底観察光学系と眼底撮影光学系を有する。眼底観察光学系は、対物レンズ25、ダイクロイックミラー24、孔あきミラー22の開口近傍に位置する撮影絞り31、光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズ32、結像レンズ33、眼底撮影時には挿脱機構39により光路から挿脱可能な跳ね上げミラー34を備える。跳ね上げミラー34の反射方向の光路には、赤外光反射・可視光透過の特性を有するダイクロイックミラー37、リレーレンズ36、赤外域に感度を有する観察用の二次元撮像素子38が配置されており、赤外光源で照明された眼底像が撮影されるようになっている。一方、眼底撮影光学系は、対物レンズ25と,撮影絞り31から結像レンズ33までの光学系を眼底観察光学系と共用する。眼底撮影光学系は、可視域に感度を有する撮影用の二次元撮像素子35を備え、可視光源で照明された眼底像が撮影される。なお、撮影絞り31は対物レンズ25に関して被検者眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置される。また、フォーカシングレンズ32は、モータを備える移動機構49にて光軸方向に移動される。
【0012】
眼底の観察時には、照明光源11を発した光束がダイクロイックミラー24を透過し、対物レンズ25によって被検者眼Eの瞳孔付近で一旦収束した後、拡散して被検者眼Eの眼底を照明する。眼底からの反射光は、対物レンズ25、ダイクロイックミラー24、孔あきミラー22の開口部、撮影絞り31、フォーカシングレンズ32、結像レンズ33、跳ね上げミラー34、ダイクロイックミラー37、リレーレンズ36を介して撮像素子38に結像する。一方、眼底の撮影時には、撮影光源14で照明された眼底からの反射光が、対物レンズ25、孔あきミラー22の開口部、撮影絞り31、フォーカシングレンズ32、結像レンズ33を経て、二次元撮像素子35に結像する。
【0013】
<スプリット指標投影光学系> スプリット指標投影光学系40は、赤外光源41、スリット指標板42、スリット指標板42に取り付けられた2つの偏角プリズム43、投影レンズ47、照明光学系10の光路に斜設されたスポットミラー44を備える。スポットミラー44はレバー45の先端に固着されており、通常は光軸に斜設されるが、撮影時にはロータリーソレノイド46の軸の回転で、光路外に退避させられる。なお、スポットミラー44は被検者眼Eの眼底と共役な位置に置かれる。光源41、スリット指標板42、偏角プリズム43、投影レンズ47、スポットミラー44及びレバー45は、フォーカシングレンズ32と連動して移動機構49により光軸方向に移動される。
【0014】
また、スリット指標板42の光束は、偏角プリズム43及び投影レンズ47を介してスポットミラー44で反射された後、リレーレンズ21、孔あきミラー22、ダイクロイックミラー24、対物レンズ25を経て被検者眼Eの眼底に投影される。眼底のフォーカスが合っていないとき、スリット指標板42の指標像は分離され、フォーカスが合っているときに一致して投影される。そして、被検者眼Eの眼底上に投影されたスプリット指標像(後述するスプリット指標像S1,S2)は、眼底観察用の撮像素子38によって眼底像と共に撮像される。
【0015】
<アライメント指標投影光学系> アライメント指標投影光学系50は、撮影光軸L1を中心とした同心円上に複数個の赤外光源が配置されており、撮影光軸L1を通る垂直平面を挟んで左右対称に配置された赤外光源51とコリメーティングレンズ52を持つ第1指標投影光学系(0度、及び180)と、第1指標投影光学系とは異なる位置に配置された複数の赤外光源53を持つ第2指標投影光学系とを備える。この場合、第1指標投影光学系は被検者眼Eの角膜に無限遠の指標を左右方向から投影し、第2指標投影光学系は被検者眼Eの角膜に有限遠の指標を上下方向もしくな斜め方向から投影する。なお、赤外光源51,53は、眼底観察用の赤外光とは異なる波長域の赤外光を出射する。
【0016】
<前眼部観察光学系> 前眼部観察光学系60は、ダイクロイックミラー24の反射側のフィールドレンズ61、ミラー62、絞り63、リレーレンズ64、赤外域の感度を持つ二次元撮像素子65を備える。前眼部照明光源58で照明された前眼部は、対物レンズ25、ダイクロイックミラー24、及びフィールドレンズ61からリレーレンズ64までの光学系を介して、二次元撮像素子65で受光される。また、アライメント指標投影光学系50の光源の点灯によるアライメント用光束の角膜からの反射光が、ダイクロイックミラー24により反射し、二次元撮像素子65で検出される。これにより、二次元撮像素子65で撮像された前眼部像から被検者眼の瞳孔形状(瞳孔径)Pが得られると共に、アライメント指標の撮影により装置と被検者眼とのアライメント状態が検出される。
【0017】
なお、孔あきミラー22の穴周辺には、被検者眼の角膜上に光学アライメント指標(ワーキングドットW1)を形成するための2つの赤外光源55が光軸L1を中心に左右対称に配置されている。なお、光源55には、孔あきミラー22の近傍位置に端面が配置される光ファイバに、赤外光を導く構成でも良い。なお、光源55による角膜反射光は、被検者眼Eと図示を略す撮影部(装置本体)との作動距離が適切となったときに、眼底と略共役位置に配置された撮像素子38の撮像面上に結像される。これにより、検者はモニタ8に眼底像が表示された状態で、光源55により形成されるワーキングドットを用いてアライメントの微調整を行えるようになる。なお、撮影部には図1に示される光学系及び制御系が搭載されている。
【0018】
<固視標呈示光学系> 固視標呈示光学系70は、赤色等の可視光源71と、複数の開口部が形成された遮光版又は表示制御で開口部の形成位置が切換えられる液晶ディスプレイ等の固視標切換部材72、リレーレンズ73とを有し、ダイクロイックミラー37を介して跳ね上げミラー34から対物レンズ25までの観察光学系30の光路を共用する。これにより、固視標切換部材72の開口部が可視光源71の前に選択的に配置されることで、光軸L2に対して異なる位置に固視標が呈示され、眼底中心部を撮影する標準撮影と眼底周辺部を撮影する周辺撮影とで固視標の呈示位置が変更されるようになる。なお、固視標切換部材72を通過した光束は、リレーレンズ73、ダイクロイックミラー37、跳ね上げミラー34、結像レンズ33、フォーカシングレンズ32、孔あきミラー22、ダイクロイックミラー24、対物レンズ25を通過して眼底E投影されて、被検者眼の固視が行われる。
【0019】
<制御系> 制御部80は、眼底撮影装置の各種動作制御を行う。制御部80には、上述した各二次元撮像素子、挿脱機構、移動機構、各光源等が接続される他、眼底撮影装置本体を被検者眼に対して前後左右方向に移動させるためのジョイスティック4、上述した光学系及び制御系が内部に設けられた撮影部を被検者眼に対して三次元方向に移動させるための駆動部6、前眼部像及び眼底観察(撮影)像が表示されるモニタ8、撮影開始のトリガ信号を入力するための撮影スイッチ93、各種条件設定を行うための入力スイッチ94、記憶部としてのメモリ95等が接続されている。なお、本実施形態ではモニタ8の表示画面上には図示を略すタッチパネルが設けられており、タッチパネル機能を使用することが可能である。入力スイッチ94以外にもタッチパネルの操作で各種入力操作が行えるようになっており、例えば、撮影光量の調節や固視灯の点灯位置変更等の撮影条件の各種設定を行うことが可能である。このような撮影条件の設定は、モニタ8上に複数用意(表示)されているアイコンを指等でタッチすることにより行われる。このような各種のアイコンは制御部80の表示制御によってモニタ8画面の所定位置に形成される。
【0020】
制御部80は、被検者眼と装置とのアライメント時には、二次元撮像素子65で撮像された前眼部像からアライメント指標を検出処理すると共に、瞳孔径Pを検出する。このとき、瞳孔径Pの中心位置(瞳孔中心)を求めるようにしても良い。また、制御部80は、撮像素子65の撮影信号に基づいて被検者眼に対する撮影部のアライメント偏位量を検出する。また、制御部80は、被検者眼Eの前眼部像AEが表示されるモニタ8の前眼部観察画面200a上(図2参照)に、良好な撮影を行うために必要となる瞳孔径の大きさを示すレチクルLT(LT1,LT2)を電子的に形成して表示させると共に、検出されたアライメント偏位量に応じて表示位置が移動されるアライメント指標A1と、アライメント指標A1の照準合わせに用いられるマークA2とを電子的に形成して前眼部観察画面200a上に表示させる。
【0021】
なお、本実施形態では、前眼部観察光学系60の撮像素子65と、眼底観察・撮影光学系30の撮像素子38からの入力信号が、同時に又は交互に(所定のステップで)制御部80に入力される構成となっている。これにより、制御部80は撮像素子65と撮像素子38からの情報を同時に又は交互に(所定のステップで)処理し、眼底のフォーカス合わせ時に、眼底観察像と前眼部観察像とがモニタ8の同一画面上に同時に動画として表示できるようになっている。なお、本実施形態では、眼底のフォーカス合わせ時に表示される眼底観察画面に前眼部像を重畳して表示するための表示欄が用意されており、表示欄には制御部80によって前眼部観察画面に所定の画像処理が行われた前眼部画面が表示されるようになっている。
【0022】
次に、以上のような構成を備える眼底カメラの動作を説明する。まず、検者は、入力スイッチ94又は図示を略すタッチパネルの操作で各種条件設定を行う。なお、ここでは、被検者の右眼の眼底後極部付近の撮影(標準撮影)を行う例を説明する。なお、モニタ8には、はじめに前眼部観察画面200aが表示されている。固視標呈示光学系70の光源の点灯により被検者眼が固視された状態で、ジョイスティック4の操作で図示を略す撮影部を被検者眼E(ここでは、右眼)を近づけて、モニタ8に前眼部像AEとアライメント指標像とが表示されるようにする。
【0023】
図2にモニタ8に表示される前眼部観察画面200aの例を示す。ここでは、図2(a)に、モニタ8に表示された前眼部像AEのアライメントが合っていない状態、図2(b)に、前眼部像AEのアライメントが合っている状態が示されている。なお、モニタ8に表示される前眼部観察画面200aには、各種撮影条件を設定するための各種アイコンや、撮影やアライメントを支援するための様々なグラフィック、マークが用意されている。例えば、前眼部観察画面200aの上側には、撮影眼(右眼か左眼)を示す撮影眼表示マーク81(81a、81b)、内部固視標の呈示状態を示す固視標呈示アイコン82,小瞳孔撮影モードの選択の有無が示される小瞳孔撮影アイコン83が表示されている。また、モニタ8の表示画面の下側には、オートトラッキングの設定の有無や観察画面切換の自動設定の有無等が示される第1条件設定アイコン84と、撮影光量を示す第2条件設定アイコン85が表示されている。なお、このようなマーク81やアイコン82〜85で示される各項目は、タッチパネルによる操作で設定変更可能とされる。
【0024】
一方、モニタ8の画面中央部には、装置と被検者眼とのアライメントを行うための各種グラフィックが表示される。まず、被検者眼の角膜上に投影されたアライメント指標像が撮像素子65で検出されると、制御部80は、リング状に投影された指標像Ma〜Mhによって形成されるリング形状の中心のXY座標を略角膜頂点(アライメント基準位置)として検出してアライメント指標A1を電子的に表示させる。また、制御部80は予め撮像素子65上に設定されたXY方向の基準となる位置(例えば、撮像素子65の撮像面と撮影光軸L1との交点)に対応するモニタ8上に、アライメントの照準となるマークA2を電子的に表示させる。また、制御部80は、マークA2の表示位置を中心として、通常の撮影時において必要とされる所要瞳孔径を示すレチクルLT1と、小瞳孔撮影モードの場合において必要とされる所要(最小)瞳孔径を示すレチクルLT2とをモニタ8上に表示させる。また、制御部80は、マークA2とレチクルLT1(LT2)との間に、撮影部と被検者眼とのZ方向(作動距離方向)の距離を示すインジケータI1を表示させる。
【0025】
以上のような前眼部観察画面200aを用いて、検者は、ジョイスティック4の操作で、マークA2とアライメント指標A1とを合わせるように撮影部の移動操作を行う。一方、制御部80は、アライメント指標A1とマークA2とを比較してXY方向の変位量を求める。また、無限遠の指標像Ma,Meの間隔と有限遠の指標像Mh,Mfの間隔とを比較してZ方向のアライメント偏位量を求める。そして、マークA2とアライメント指標A1が合致するように、三次元方向のアライメント偏位量が所定のアライメント許容範囲を満たしているかを求める。なお、作動距離方向のアライメントは、モニタ8に表示されるインジケータI1の本数の増減で表されるので、検者は、図2(b)に示すように、インジケータI1の本数が1本となるようにジョイスティック4の操作で作動距離方向の位置合わせを行うようにする。以上のように、アライメントが合った状態で、検者は被検者眼の瞳孔径PがレチクルLT1に掛からない程度の大きさとなっているかを確認する。
【0026】
以上のようにして、アライメントが完了したら、制御部80による眼底に対するフォーカス合わせが行われる。検者による入力スイッチ94の操作で、制御部80はモニタ8の表示画面を前眼部観察画面200aから眼底観察画面200bに切換える。ここで、図3にモニタ8に表示される眼底観察画面200bの例を示す。なお、ここでは、眼底Fのフォーカスが合っている状態が示されている。つまり、撮像素子38でフォーカス指標像S1,S2が適切に検知されている状態で、検者がスプリット指標S1,S2が合致させるように、移動機構45の駆動によりフォーカシングレンズ32を光軸上で移動させることによって、眼底のフォーカスが合わせられている。
【0027】
なお、眼底観察画面200bにも、マーク81、アイコン82〜85の他、各種グラフィック表示が用意されている。例えば、各種グラフィック表示としては、スプリット指標S1,S2の合致状態を示す電子的なインジケータI2の他、電子的に表示(スーパインポーズ)された電子アライメント指標(電子ワーキングドット)W2が、被検者眼に対する撮影部3のアライメント偏位量に基づき表示されると共に、電子アライメント指標W2によるアライメントを行う際の基準となるレチクルM2が表示される。また、レチクルM2の左右には、被検者眼に対する作動距離方向(Z方向)のアライメント偏位量を表現するためのインジケータI3が表示される。なお、電子的なアライメント指標W2についての詳細な説明については特開2007-202724号公報を参照されたい。
【0028】
また、前眼部観察画面200aでアライメントがある程度適正にされていることにより、眼底観察画面200bの眼底像F上には、光源55で形成される角膜反射光による2つの光学アライメント指標W1(光学ワーキングドット)が現れる。また、ここでは、眼底照明光学系10の光路に挿入されたレバー45によって観察光束が遮光されることによって撮像素子38上に遮光領域145が形成され、遮光領域145の先端(光軸上)に、眼底に投影された光学的なフォーカス指標像S1,S2が形成されている。
【0029】
また、眼底観察画面200bの右側には、制御部80の表示制御により前眼部観察画面200aの縮小画面が表示される表示欄100が重畳して形成されている。これにより、検者は眼底観察画面200bに表示される眼底像Fと、表示欄100に表示される前眼部像AEとをモニタ8の同一画面で同時に観察できるようになる。
【0030】
ところで、上述した前眼部観察画面200aには前眼部像AEと共にマーク81、各種アイコン82〜85、グラフィックが重畳して表示されている為、前眼部観察画面200aがそのまま縮小されて表示欄100に表示されてしまうと、表示欄100に各種マーク及びグラフィック表示も縮小表示されるようになり、表示欄100の前眼部像AEが観察しにくくなる。一方で、眼底観察時に、前眼部観察画面200aに用意されている各種グラフィックが利用されると、アライメント状態を確認しながらのフォーカス合わせを行えるようになり便利である。
【0031】
そこで、本実施形態では、制御部80による前眼部観察画面200aの画像処理によって、表示欄100には、前眼部像AEの表示と共に、前眼部観察画面200aに用意されている様々なマーク、グラフィックのうち、必要な情報のみが抽出されて表示されるようにしている(以下、前眼部画面100aとする)。このようにすると、表示欄100を用いた前眼部観察が好適に行われると共に、フォーカス合わせがうまくいかない場合にその原因が特定しやすくなる。
【0032】
ここで、表示欄100に表示される前眼部画面100aの表示方法を説明する。図4は表示欄100の画像処理ステップを示すフローチャートである。まず、ステップ201で、制御部80は、撮像素子65による撮影によって前眼部像の画像データを取得する(キャプチャする)。次に、ステップ202で、制御部80は、取得された画像データを構成する画素の一部を所定のステップで間引く処理を行うことで、表示欄100の表示サイズに合わせた画像データを構築して、モニタ8に表示する。次に、ステップ203で、制御部80は、前眼部表示画面200aに用意されているマーク81、各種アイコン82〜85及びグラフィック表示のうち、特定のグラフィック表示のみを選択して、表示欄100のサイズに合わせて前眼部画像100a上に電子的に合成表示させる(つまり、アライメント時の前眼部表示画面200aから、不要なマーク、アイコン等の情報を取り除く処理をする)。なお、表示欄100に合成表示されるグラフィック表示は、装置によって予め設定されている他、入力スイッチ94の操作で検者が選択出来るようにしても良い。
【0033】
そして、ステップ204で眼底撮影の完了が判断されるまで、以上のようなステップ201〜203が繰り返し行われることで、表示欄100には、所定のグラフィック表示が重畳された前眼部画像が動画表示されるようになる。
例えば、図5(a)の表示欄100の拡大図に示すように、制御部80は、前眼部像AEに被検者眼の所要瞳孔径を示すレチクルLT1(LT2)が合成表示された前眼部画面100aを表示欄100に表示させる。このようなレチクルLT1(LT2)は、前眼部観察画面200aと表示欄100との表示倍率の違いに応じて縮小された大きさのレチクルLT1(LT2)であり、前眼部観察画面200に形成されたレチクルの表示位置に対応する表示欄100の表示位置に電子的に形成される。これにより、検者は、眼底像Fと共に表示欄100の前眼部画面100aを確認することで、被検者眼の瞳孔径Pが撮影に必要なサイズを満たしているかを確認することができる。これにより、被検者眼の瞳孔径Pが所要瞳孔径を満たしていない状態で撮影が行われることにより、眼底撮影像が暗く取得されてしまうなどの撮影ミスの発生が防止されるようになる。
【0034】
また、図5(b)の例に示されるように、制御部80は、前眼部像AEにアライメント指標A1及びマークA2が合成表示された前眼部画面100aを表示欄100に表示させるようにしても良い。これにより、検者は眼底像Fと共に表示欄100を用いてアライメント状態を確認できるようになり、好適に眼底撮影を行うことができるようになる。また、アライメント状態を再確認するために、前眼部観察画面200aに戻るなどの操作を行わなくても済むようになり、眼底撮影動作をスムーズに行うことができるようになる。更には、前眼部観察画面200aに用いられているアライメント指標が、眼底像Fが表示された状態でも継続して使用されることで、検者の使い勝手が向上される。
【0035】
なお、周辺撮影の場合には、固視標の呈示位置によっては瞳孔径Pにより撮影光束がケラレやすくなっている。そこで、周辺撮影の場合に、固視標の呈示位置に応じて、前眼部像上でのアライメント指標A1,A2の表示位置が補正されるようにしても良い。このようにすると、検者は眼底像を観察しながら、精度良くアライメントの微調節等を行えるようになる。
【0036】
更には、前眼部観察画面200aには用意されていないグラフィック表示が、表示欄100の前眼部画像100aに表示されるようにしても良い。例えば、図5(c)の例に示されるように、前眼部画面100a上にスプリット指標S1,S2の光束の通過位置A1,A2を表示しても良い。例えば、眼底像F上にスプリット指標S1,S2の一方(又は両方)が表示されない場合には、検者が眼底像Fのみを用いてどちらのスプリット指標S1,S2が欠けているのかを特定することは困難である。一方、眼底の周辺撮影では、固視標の呈示位置によって被検者眼の角膜中心と瞳孔中心とが一致しなくなるために、スプリット指標S1,S2がケラレ易くなっている。そこで、前眼部画面100a上にスプリット指標S1,S2の通過位置A1,A2が示されると、検者は、眼底像Fと共に前眼部像上で示される通過位置A1,A2と瞳孔との位置関係を確認しながら、撮影部とのフォーカス合わせをより好適に行うことができるようになる。
【0037】
なお、スプリット指標S1,S2の光束の通過位置A1,A2の表示位置は、アライメントが合った状態での瞳孔(角膜上)に対するスプリット指標S1,S2の位置情報(撮像素子65の座標)を予めメモリ85に記憶することで求められる。そして、制御部80は、眼底観察時に表示欄100の前眼部画像100a上の対応する位置に、通過位置A1,A2を表示させる処理を行う。これにより、検者は眼底像Fと共にスプリット指標S1,S2のケラレ状態、スプリット指標と瞳孔との位置関係とを確認することができるようになる。
【0038】
また、この場合には、制御部80が前眼部像の瞳孔径Pと、スプリット指標S1,S2の通過位置A1,A2との位置関係を自動的に求め、スプリット指標S1,S2の通過位置A1,A2が瞳孔径Pから外れる場合(又は、スプリット指標S1,S2が虹彩に掛かっている場合)には、検者に報知するようにしても良い。例えば、図5(c)に示すように、通過位置A1(スプリット指標S1に対応している)に瞳孔Pに掛かっている場合に、制御部80は、通過位置A1の表示状態を変えるようにする(例えば、形状、色などの表示状態を変える)。このようにすると、検者にスプリット指標のケラレ位置を視覚的に分かり易く示すことができるようになる。これ以外にも、瞳孔Pと通過位置A1,A2とが重なる場合には、音声、モニタ8上に別のメッセージ画面を表示させること等によって、検者にエラーが発生していることを知らせるようにしても良い。また、メッセージ画面に、通過位置A1、A2が瞳孔径Pに重ならないように、検者に装置の移動方向を示すような内容が示されても良い。
【0039】
検者は、前眼部画面100aを確認しながら、ケラレている側のスプリット指標S1,S2が瞳孔を通過するように、ジョイスティック4の操作で撮影部を移動させるようにする。又は、制御部80は、瞳孔径Pによる通過位置A1,A2のケラレの検出結果をオートトラッキングに反映させることで、瞳孔Pと通過位置A1、A2とが重ならない位置でのトラッキングが行われるようにする。このように、表示欄100の前眼部画面100aにスプリット指標の光束の通過位置A1,A2の情報が表示されることで、検者はモニタ8に眼底像が表示された状態で、容易に装置と被検者眼とのアライメントを調節できるようになる。
【0040】
以上のようにして、検者はモニタ8の同一画面に表示された眼底観察画面200bと表示欄100(前眼部画面100a)とを観察しながら、必要があればアライメント等の微調整を行う。そして、フォーカスが合った状態で、撮影スイッチ93を押す。制御部80は撮影スイッチ93によるトリガ信号によって、挿脱機構39と挿脱機構66の駆動により、ダイクロイックミラー24と跳ね上げミラー34とを撮影光軸L1から外すと共に、眼底撮影光学系の可視光源を点灯させる。可視光束で照明された眼底Eからの反射光は、対物レンズ25,撮影絞り31から結像レンズ33までの光学系を介して、二次元撮像素子35で受光される。制御部80は、二次元撮像素子35による撮像で得られた撮影画像をメモリ95に記憶させると共に、モニタ8に眼底の撮影画像を表示させる処理を行う。
なお、表示欄100の前眼部画面100a上に合成表示されるグラフィックは、用途に応じて選択されれば良く、上述したような各グラフィックは組み合わせて表示されても良い。
【0041】
また、上記の説明では、モニタ8の表示が眼底観察画面200bのときに、表示欄100に前眼部画面100aが表示される例を説明した。これ以外にも、前眼部観察画面200aに上述したような表示欄が用意されても良い。この場合、表示欄には、眼底像のサムネイルが表示されると共に、眼底観察画面200bの画像処理によって所定のグラフィック表示(フォーカス状態を示すためのグラフィック表示。例えば、スプリット指標、スプリット指標の合致状態を示すインジケータ等)のみが表示されるようにする。このようにすると、検者はモニタ8に前眼部観察画面200aが表示された状態で、眼底のフォーカス状態の確認を同時に行えるようになる。
【0042】
また、タッチパネルの操作により表示欄100が選択されたときに、表示欄100に表示されている各種画面が拡大表示(元のサイズの表示状態に戻る)ようにする。これにより、モニタ8の表示を前眼部観察画面と眼底観察画面とで簡単に切換えられるようになる。なお、各種画面が拡大表示される場合には、制御部80は、予め用意されている各種マーク、グラフィック表示を、各種画面上に元通りに表示させるようにする。このようにすると、検者は用途に応じてモニタ8の表示画面を容易に切換えることができ、使い勝手が向上される。
【0043】
更には、表示欄100に表示される各観察画像の倍率が任意に変更されるようにしても良い。例えば、検者によるタッチパネルの操作で表示欄100に表示される観察画像の倍率が変更されると、制御部80は入力信号に応じて、撮像素子65又は38で得られる観察像を構成する画像データのうち、倍率に応じた観察画像の画像データの再構築を行う。この時、観察画像と共に表示欄100に表示される各種グラフィック表示も、これに合わせた表示状態に切換えられるようにする。これにより、表示欄100の表示状態をより見やすくできる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】眼底撮影装置の光学系及び制御系の概略構成図である。
【図2】モニタに表示される前眼部観察画面の例である。
【図3】モニタに表示される眼底観察画面の例である。
【図4】表示欄の画像処理ステップを示すフローチャートである。
【図5】表示欄を説明するための拡大図である。
【符号の説明】
【0045】
8 モニタ
10 照明光学系
24 ダイクロイックミラー(光路分岐部材)
30 眼底観察・撮影光学系
40 スプリット指標投影光学系
35、38、65 二次元撮像素子
50 アライメント指標投影光学系
60 前眼部観察光学系
70 固視標呈示光学系
80 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光で照明された被検者眼の眼底からの反射光を受光するための第1の撮像素子を有し,該第1撮像素子の受光結果により前記被検者眼の眼底観察像を得る眼底観察光学系と、
該眼底観察光学系の光路に配置された光路分岐部材により分割される光路上に置かれた第2の撮像素子を有し,前記赤外光とは異なる波長の赤外光を前記第2撮像素子により受光して前記被検者眼の前眼部観察像を得る前眼部観察光学系と、
前記眼底観察光学系により得られる前記眼底観察像が表示される眼底観察画面と前記前眼部観察光学系により得られる前記前眼部観察像が表示される前眼部観察画面とが表示されるモニタと、
前記モニタの表示状態を前記眼底観察画面と前記前眼部観察画面とで切換るための表示制御手段と、
を備え、
前記表示制御手段は、前記モニタに前記眼底観察画面を表示させた状態で該眼底観察画面よりも小さな表示画面となる第1表示欄を前記眼底観察画面に重畳して形成すると共に、撮影に必要な所要瞳孔径を示すレチクルを前記第1表示欄の所定位置に電子的に形成させることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項2】
請求項1の眼底撮影装置において、前記モニタはタッチパネル機能を有するモニタであり、
前記表示制御手段は前記タッチパネル機能を利用して撮影条件を設定するための複数のアイコンを前記眼底観察画面及び前記前眼部観察画面に表示させる制御を行い、前記第1表示欄には前記複数のアイコンを消した状態で前記前眼部観察像を表示させることを特徴とすることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項3】
請求項2の眼底撮影装置において、前記レチクルは撮影に必要な通常の所要瞳孔径を示す第1レチクルと、該第1レチクルよりも小さい径であって小瞳孔径用の撮影に必要な最小の所要瞳孔径を示す第2レチクルと、の2つのレチクルから形成されていることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項4】
請求項3の眼底撮影装置は、
前記眼底のフォーカス合わせを行うために光学的に一対なスプリット指標を前記眼底に投影するためのスプリット指標投影光学系と、を備え、
前記表示制御手段は、被検者眼の瞳孔に対する前記スプリット指標の通過位置を示すための通過位置情報を前記第1表示欄に電子的に形成することを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項5】
請求項4の眼底撮影装置において、
前記表示制御手段により前記第1表示欄に形成された前記スプリット指標が前記瞳孔から外れたことが検知されたことを検者に報知するための報知手段と、を備えることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項6】
請求項5の眼底撮影装置は、
前記表示制御手段は、前記モニタに前記前眼部観察画面を表示させた状態で前記前眼部観察画面よりも小さな表示画面となる第2表示欄を前記前眼部観察画面に重畳して形成すると共に、フォーカス合わせに必要となる前記スプリット指標を前記第2表示欄に表示させることを特徴とする眼底撮影装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−192009(P2012−192009A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57358(P2011−57358)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)