説明

眼底撮影装置

【課題】 角膜頂点から撮影光軸を外した状態で撮影を行う際に、フレアの発生を抑制することのできる眼底撮影装置を提供する。
【解決手段】 被検者眼の眼底を撮影するための撮影光学系が配置された撮影部と、被検者眼に対して撮影部を相対移動させる移動機構部と、被検者眼に対する撮影部のアライメント状態を検知するための受光素子を有するアライメント検出光学系と、を有する眼底撮影装置において、アライメント検出光学系により得られる被検者眼に対する撮影部の撮影光軸の入射位置に応じて、被検者眼に対する撮影部の前後方向のアライメント完了位置を異なるものとして設定するアライメント完了位置設定手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者眼の眼底撮影を行う眼底撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の眼底カメラ等の眼底撮影装置において、所定の固視位置に誘導された被検者眼に対してアライメントを行う場合、前眼部観察時ではアライメント指標と表示モニタの画面上の所定位置に形成されたレチクルとが所定の関係となるように位置合わせを行う。また、眼底観察時においては眼底観察像と共に観察可能な角膜輝点(いわゆるワーキングドット)を参考にしながら、表示モニタの画面上の所定位置に形成されたレチクルと角膜輝点とが一致するようにアライメントを行うのが一般的である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006‐116091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで眼底の周辺領域を撮影(周辺撮影)する場合、被検者眼は周辺固視を行っており視軸が撮影光軸とずれているため、レチクルとアライメント指標(角膜輝点)とが一致するようにアライメントを行っても撮影される眼底画像上に照明ムラが生じ、良好な眼底画像が得られないことがある。このため周辺撮影を行う場合は、このような照明ムラを回避するために角膜頂点から撮影光軸を若干ずらして撮影を行う場合がある。このように角膜頂点から撮影光軸をずらして撮影を行った場合、照明ムラを抑制することはできるが反対にフレアが生じ易いという問題があった。また、角膜頂点と撮影光軸とをずらして撮影を行うステレオ撮影においても同様の問題が生じ易い。
【0005】
本発明は、上記問題点を鑑み、角膜頂点から撮影光軸を外した状態で撮影を行う際に、フレアの発生を抑制することのできる眼底撮影装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0007】
(1) 被検者眼の眼底を撮影するための撮影光学系が配置された撮影部と、前記被検者眼に対して前記撮影部を相対移動させる移動機構部と、被検者眼に対する前記撮影部のアライメント状態を検知するための受光素子を有するアライメント検出光学系と、を有する眼底撮影装置において、前記アライメント検出光学系により得られる前記被検者眼に対する前記撮影部の撮影光軸の入射位置に応じて、前記被検者眼に対する前記撮影部の前後方向のアライメント完了位置を異なるものとして設定するアライメント完了位置設定手段を備えることを特徴とする。
(2) (1)に記載の眼底撮影装置において、前記アライメント完了位置設定手段は、前記被検者眼に対する前記撮影部の上下左右方向のアライメント完了位置を前記被検者眼の角膜頂点位置としたときの前記被検者眼に対する前記撮影部の前後方向のアライメント完了位置と,前記上下左右方向のアライメント完了位置を前記被検者眼の角膜頂点位置以外の位置としたときの前後方向のアライメント完了位置とを異なる完了位置とすることを特徴とする。
(3) (2)の眼底撮影装置は、前記受光素子から出力される受光信号に基づいて前記被検者眼に対する前記撮影部の上下左右方向のアライメントずれを検出する検出手段を有し、前記アライメント完了位置設定手段は前記検出手段の検出結果に基づいて前記被検者眼に対する前記撮影部の前後方向のアライメント完了位置を設定することを特徴とする。
(4) (3)の眼底撮影装置において、前記検出手段による上下左右方向のアライメントずれの検出は前記被検者眼の角膜頂点に対する撮影光軸の偏位量の検出であることを特徴とする。
(5) (4)の眼底撮影装置は、前記撮影光軸の偏位量に応じて設定される前記撮影部の前後方向のアライメント完了位置情報を複数記憶する記憶手段を有することを特徴とする。
(6) (5)の眼底撮影装置において、前記検出手段は前記受光素子から出力される受光信号と前記アライメント完了位置設定手段によって設定される前記アライメント完了位置とに基づいて前記被検者眼に対する前記撮影部の前後方向のアライメントずれ量を検出し、さらに前記眼底撮影装置は、前記検出手段によって得られた前記前後方向のアライメントずれ量に基づいて前記移動機構部を移動制御,または前記前後方向のアライメントずれ量を報知するためにモニタに所定のインジケータを表示させる表示制御を行うための制御手段を有することを特徴とする。
(7) (6)の眼底撮影装置は、前記被検者眼の視線を誘導するための固視標を呈示するユニットであって,前記固視標の呈示位置を可変とする固視標呈示ユニットと、前記被検者眼の角膜に投影される指標を用いて角膜の曲率を求めるための角膜曲率取得手段と、を有し、前記アライメント完了位置設定手段は前記前後方向のアライメント完了位置を設定するために,さらに前記固視標呈示ユニットによる前記固視標の呈示情報,及び前記角膜曲率取得手段による前記被検者眼の角膜曲率情報の少なくとも何れかを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、眼底を撮影するための眼底撮影装置において、角膜頂点から撮影光軸を外した状態で撮影を行う際に、フレアの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本実施形態に係る眼底カメラの外観構成図である。眼底カメラは、基台1と、基台1に対して左右方向(X方向)及び前後(作動距離)方向(Z方向)に移動可能な移動台2と、移動台2に対して3次元方向に移動可能に設けられ後述する光学系を収納する撮影部(装置本体)3と、被検者の顔を支持するために基台1に固設された顔支持ユニット5を備える。
【0010】
また、本装置には、電動機を有し被検者眼に対して撮影部3を相対移動させる自動移動機構が設けられている。より具体的には、撮影部3は、移動台2に設けられた電動駆動のXYZ駆動部6により、被検者眼Eに対して左右方向(X方向)、上下方向(Y方向)及び前後方向(Z方向)に移動される。また、本装置には、操作部材(ジョイスティック4)の操作によって被検者眼に対して撮影部3を相対的に移動させる手動移動機構が設けられている。より具体的には、基台1上で移動台2をXZ方向に摺動させる図示無き摺動機構が設けられており、ジョイスティック4が操作されると、移動台2が基台1上をXZ方向に摺動される。また、回転ノブ4aを回転操作することにより、XYZ駆動部6がY駆動し撮影部3が上下方向に移動される。また、撮影部3の検者側には、眼底観察像、眼底撮影像、及び前眼部観察像等を表示するモニタ8が設けられている。
【0011】
図2は、撮影部3に収納される光学系及び制御系の概略構成図である。図2において、光学系は、照明光学系10、被検者眼の眼底像を撮影する眼底観察・撮影光学系30、アライメント指標投影光学系50、前眼部観察光学系60、固視標呈示光学系70から大別構成されている。
【0012】
<照明光学系> 照明光学系10は、観察照明光学系と撮影照明光学系を有する。撮影照明光学系は、フラッシュランプ等の撮影光源14、コンデンサレンズ15、リングスリット17、リレーレンズ18、ミラー19、中心部に黒点を有する黒点板20、リレーレンズ21、孔あきミラー22、対物レンズ25を有する。また、観察照明光学系は、ハロゲンランプ等の光源11、波長750nm以上の近赤外光を透過する赤外フィルタ12、コンデンサレンズ13、ダイクロイックミラー16、リングスリット17から対物レンズ25までの光学系を有する。ダイクロイックミラー16は、光源11からの赤外光を反射し撮影光源14からの可視光を透過する特性を持つ。
【0013】
<眼底観察・眼底撮影光学系> 眼底観察・撮影光学系30は、対物レンズ25、孔あきミラー22の開口近傍に位置する撮影絞り31、光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズ32、結像レンズ33、眼底撮影時には挿脱機構39により光路から挿脱可能な跳ね上げミラー34を備え、撮影光学系と眼底観察光学系は対物レンズ25と撮影絞り31から結像レンズ33までの光学系を共用する。撮影絞り31は対物レンズ25に関して被検者眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置されている。フォーカシングレンズ32は、モータを備える移動機構49により光軸方向に移動される。35は可視域に感度を有する撮影用二次元撮像素子である。跳ね上げミラー34の反射方向の光路には、赤外光反射、可視光透過の特性を有するダイクロイックミラー37、リレーレンズ36、赤外域に感度を有する観察用二次元撮像素子38が配置されている。
【0014】
また、対物レンズ25と孔あきミラー22の間には、光路分岐部材としての挿脱可能なダイクロイックミラー(波長選択性ミラー)24が斜設されている。ダイクロイックミラー24は、アライメント指標投影光学系50及び前眼部照明光源58の波長光(中心波長940nm)を反射し、眼底観察用照明の波長光の光源波長(中心波長880nm)を含む波長900nm以下を透過する特性を有する。撮影時には、ダイクロイックミラー24は挿脱機構66により連動して跳ね上げられ、光路外に退避する。挿脱機構66は、ソレノイドとカム等により構成することができる。
【0015】
観察用の光源11を発した光束は、赤外フィルタ12により赤外光束とされ、コンデンサレンズ13、ダイクロイックミラー16により反射されてリングスリット17を照明する。そして、リングスリット17を透過した光は、リレーレンズ18、ミラー19、黒点板20、リレーレンズ21を経て孔あきミラー22に達する。孔あきミラー22で反射された光は、ダイクロイックミラー24を透過し、対物レンズ25により被検者眼Eの瞳孔付近で一旦収束した後、拡散して被検者眼眼底部を照明する。
【0016】
また、眼底からの反射光は、対物レンズ25、ダイクロイックミラー24、孔あきミラー22の開口部、撮影絞り31、フォーカシングレンズ32、結像レンズ33、跳ね上げミラー34、ダイクロイックミラー37、リレーレンズ36を介して撮像素子38に結像する。なお、撮像素子38の出力は制御部80に入力され、モニタ8には、撮像素子38によって撮像される被検者眼の眼底観察像が表示される。また、撮影光源14から発した光束は、コンデンサレンズ15を介して、ダイクロイックミラー16を透過した後、眼底観察用の照明光と同様の光路を経て、眼底は可視光により照明される。そして、眼底からの反射光は対物レンズ25、孔あきミラー22の開口部、撮影絞り31、フォーカシングレンズ32、結像レンズ33を経て、二次元撮像素子35に結像する。
【0017】
<アライメント指標投影光学系> アライメント用指標光束を投影するアライメント指標投影光学系50には、図2の左上の点線A内の図に示すように、撮影光軸L1を中心として同心円上に45度間隔で赤外光源が複数個配置されており、撮影光軸L1を通る垂直平面を挟んで左右対称に配置された赤外光源51とコリメーティングレンズ52を持つ第1指標投影光学系(0度、及び180)と、第1指標投影光学系とは異なる位置に配置され6つの赤外光源53を持つ第2指標投影光学系と、を備える。この場合、第1指標投影光学系は被検者眼Eの角膜に無限遠の指標を左右方向から投影し、第2指標投影光学系は被検者眼Eの角膜に有限遠の指標を上下方向もしくは斜め方向から投影する構成となっている。なお、図2の本図には、便宜上、第1指標投影光学系(0度、及び180度)と、第2指標投影光学系の一部のみ(45度、135度)が図示されている。
【0018】
<前眼部観察光学系> 被検者眼の前眼部を撮像する前眼部観察(撮影)光学系60は、ダイクロイックミラー24の反射側に、フィールドレンズ61、ミラー62、絞り63、リレーレンズ64、赤外域の感度を持つ二次元撮像素子(受光素子)65を備える。また、二次元撮像素子65はアライメント指標検出用の撮像手段を兼ね、中心波長940nmの赤外光を発する前眼部照明光源58により照明された前眼部とアライメント指標が撮像される。前眼部照明光源58により照明された前眼部は、対物レンズ25、ダイクロイックミラー24及びフィールドレンズ61からリレーレンズ64の光学系を介して二次元撮像素子65により受光される。また、アライメント指標投影光学系50が持つ光源から発せられたアライメント光束は被検者眼の角膜に投影され、その角膜反射像は対物レンズ25〜リレーレンズ64を介して二次元撮像素子65に受光(投影)される。二次元撮像素子65の出力は制御部80に入力され、モニタ8には二次元撮像素子65によって撮像された前眼部像が表示される。なお、前眼部観察光学系60は、被検者眼に対する撮影部3のアライメントずれを検知するための受光素子(二次元撮像素子65)を有するアライメント検出光学系を兼用する。
【0019】
<固視標呈示光学系> 被検者眼を固視させるための固視標を呈示する固視標呈示光学系70は、赤色の光源74、開口穴が形成された遮光板71、リレーレンズ75を備え、ダイクロイックミラー37を介して跳ね上げミラー34から対物レンズ25までの観察光学系30の光路を共用する。なお、固視標呈示光学系70は、固視標の呈示位置が可変な構成(図示略)となっており、被検者眼を所定の視線方向に誘導させることができる(例えば、特開2005−95450号公報参照)。よって、周辺撮影を行うことも可能である。この場合、光源74により遮光板71が背後から照明されることにより固視標(固視灯)となる。そして、固視標からの光束は、リレーレンズ75、ダイクロイックミラー37、跳ね上げミラー34、結像レンズ33、フォーカシングレンズ32、孔あきミラー22、ダイクロイックミラー24、対物レンズ25を通過して被検者眼の眼底に集光し、被検者は開口穴71からの光束を固視標として視認する。
【0020】
<制御系> 二次元撮像素子65、38、35は制御部80に接続されている。制御部80は二次元撮像素子65に撮像された前眼部画像からアライメント指標を検出処理する。また、制御部80はモニタ8に接続され、その表示画像を制御する。制御部80には、他に、XYZ駆動部6、移動機構49、挿脱機構39、回転ノブ4a、撮影スイッチ4b、各種のスイッチを持つスイッチ部84、記憶手段としてのメモリ85、各光源等が接続されている。ここで、制御部80は、撮像素子(受光素子)65から出力される受光信号に基づいて被検者眼に対する撮影部3のアライメントずれを検知し、その検知結果に基づいてXYZ駆動部6に駆動信号を出力する。
【0021】
また、制御部80は、図3の前眼部像観察画面及び図4の眼底観察画面に示すように、アライメント基準となるレチクル(アライメントマーク)LTを表示モニタ8の画面上の所定位置に電子的に形成して表示させるとともに,検知されるXY方向のアライメントずれに基づいてアライメント指標A1とレチクルLTとの相対距離が変化されるようにアライメント指標A1を表示モニタ8の画面上に電子的に形成して表示させる。また、制御部80は、Z方向におけるアライメントずれを示すインジケータGを表示し、検知されるZ方向のアライメントずれに基づいてインジケータGの本数を増減させる。なお、本実施形態では、Z方向における被検者眼Eに対する撮影部3のアライメント完了位置(アライメント基準位置)は、被検者眼Eに対する撮影部3の撮影光軸(光軸L1)の位置によって変化するものとしている。したがって、本実施形態ではXY方向のアライメントずれによってZ方向のアライメント完了位置は変化する。
【0022】
次に、眼に対する撮影光軸のずれによってフレアが生じることを、図5の光路線模式図に示し、説明する。なお、点線で示す被検者眼は撮影光軸L1が角膜頂点(撮影光軸に対して最前面となる角膜位置)を通る状態を示し、実線で示す被検者眼はその角膜頂点が撮影光軸L1に対して相対的にずれた状態を示している。また、前述した照明光学系や、眼底観察・撮影光学系によって形成される瞳孔付近の照明光束エリアは、被検者眼の瞳孔周辺とされ、一方、撮影光束エリアは瞳孔中央付近とされる。図示するように照明光束エリアは実線で示す照明光束Laと照明光束Lcとの間となり、撮影光束エリアは点線で示す撮影光束Lbによって形成される。
【0023】
被検者眼に対して撮影部(ここでは眼底観察・撮影光学系)が設計により必要とされる作動距離(Z方向の距離)を確保し、撮影光軸L1が被検者眼の角膜頂点に位置しているときは、照明光束エリアと撮影光束が重なるエリア(図中の斜線部分)が角膜及び水晶体(後面)にかからないようにされている。一方、作動距離を確保した状態で撮影光軸L1が被検者眼の角膜頂点からずれた状態にあるときは、照明光束エリアと撮影光束が重なるエリアが角膜及び水晶体後面にかかり、フレア(ノイズ光)が発生しやすくなる(図中、丸印で示される部分)。このため、本実施形態では撮影光軸L1が被検者眼の角膜頂点から外れた状態で眼底の撮影を行おうとする場合には、照明光束エリアと撮影光束が重なるエリアが少なくとも角膜から外れるとされる距離(角膜からの反射光によるフレアの発生が抑制される距離)を新たな作動距離として設定する。角膜頂点からずれた位置に撮影光軸L1が置かれた場合の新たな作動距離の設定は、例えば、眼底カメラの光学系を設計する際に用いたモデル眼を利用し、既知の光学設計情報に基づいて角膜頂点から撮影光軸がずれた位置におけるフレアの発生が抑制された新たな作動距離を予め演算により求めておけばよい。このような新たな作動距離の設定は角膜頂点からの撮影光軸のずれ量に応じて段階的、或いは連続的に変化させるように設定することができる。なお、図5では被検者眼に対して撮影光軸が相対的に平行にずれた状態を示しているが、例えば、周辺撮影等により固視標によって被検眼の視軸が撮影光軸に対して傾いた状態においても基本的には前述した考え方を適用させることができる。
【0024】
また、本実施形態におけるZ方向のアライメント検出(作動距離検出)は、検出される無限遠の一対の指標像の像間隔と、有限遠の一対の指標像の像間隔との像比率を比較することによりZ方向のアライメント偏位量を求める。このようなZ方向のアライメント検出は、撮影部が作動距離方向にずれた場合に、被検者眼に投影される一対の無限遠指標の間隔がほとんど変化しないのに対して、有限遠の一対の指標像の像間隔が変化するという特性を利用して、被検者眼に対する作動距離方向のアライメント偏位量を求めるものである(詳しくは、特開平6−46999号参照)。なお、このようなZ方向のアライメント検出方法においては、角膜頂点から撮影光軸を上下左右方向にずらしても各アライメント輝点(指標)位置は変わらない。したがって、本実施形態において被検者眼(角膜)に対する撮影光軸の位置に応じて設定する作動距離を変える場合には、Z方向のアライメント完了位置となる像比率(無限遠指標像の像間隔と有限遠指標像の像間隔との比率)の値を被検者眼に対する撮影光軸の位置に応じて種々設定しておけばよい。より具体的には、角膜頂点に撮影光軸が合った状態とされるZ方向のアライメント完了位置となる像比率に対して、角膜頂点から撮影光軸がずれた状態におけるZ方向のアライメント完了位置となる像比率とを異なる値として設定する。このような設定情報は角膜頂点からの撮影光軸のずれ量に対応付けられた状態で予めメモリ85に記憶されている。
【0025】
以上のような構成を備える眼底カメラの動作について説明する。なお、ここでは被検者眼の角膜頂点から左右に所定量だけ撮影光軸を振って撮影を行うステレオ撮影を例に挙げ、説明する。電源が投入されると、制御部80は、固視標の呈示位置、アライメント基準位置、レチクルの表示位置、等の初期化動作を行う。なお、固視標の呈示位置は、スイッチ部84に設けられた所定の視線方向変更スイッチにより変更可能である。
【0026】
まず、検者は、被検者の顔を顔支持ユニット5により支持する。初期段階では、ダイクロイックミラー24は撮影光学系30の光路に挿入されており、二次元撮像素子65に撮像された前眼部像がモニタ8に表示される。検者は、前眼部像がモニタ8に現われるようにジョイスティック4の操作により撮影部3を左右上下に移動する。前眼部像がモニタ8に現われるようになると、図3(a)に示すように、8つの指標像Ma〜Mhが現われるようになる。
【0027】
前述のように被検者眼角膜上に投影されたアライメント指標像が二次元撮像素子65に検出されると、制御部80は、自動アライメント制御を開始する。ここで、制御部80は、二次元撮像素子65からの撮像信号に基づいて被検者眼に対する撮影部3のアライメントずれを検知する。また、制御部80は撮影光軸L1に対応するモニタ8上の所定位置(本実施形態ではモニタ中央としている)にレチクルLTを電子的に表示させる。また、制御部80は、リング状に投影された指標像Ma〜Mhによって形成されるリング形状の中心のXY座標を略角膜頂点位置として検出し、モニタ8上の対応位置にマークA1として電子的に形成する。そして制御部80は、撮影部3と被検者眼を所定の位置関係にするために予め撮像素子65上に設定されたXY方向のアライメント基準位置(例えば、撮像素子65の撮像面と撮影光軸L1との交点)と検出した角膜頂点位置との偏位量を求める。そして、制御部80は、この偏位量がXY方向におけるアライメント完了の許容範囲に入るように(レチクルLTとマークA1が合致するように)、XYZ駆動部6の駆動制御による自動アライメントを作動する。
【0028】
また、制御部80は、前述のように検出される無限遠の指標像Ma,Meの像間隔aと有限遠の指標像Mh,Mfの像間隔bとの像比率(a/b)と、予めメモリ85設定されているアライメント完了位置に対応する像比率とを比較することにより、Z方向のアライメント偏位量(ずれ量)を求める。なお、制御部80はZ方向のアライメント完了位置(作動距離)として、角膜頂点からの撮影光軸L1のXY方向の偏位量(ずれ量)に応じた方向のアライメント完了位置に対応する像比率の値をメモリ85から適宜呼び出し、これをアライメント基準値として設定する。このように制御部80は、Z方向についても、Z方向のアライメント完了位置に対する偏位量を求め、その偏位量が設定されているアライメント完了位置の許容範囲に入るように、XYZ駆動部6の駆動制御による自動アライメントを作動する。なお、制御部80はZ方向のアライメント偏位量に基づいてモニタ8に表示されているレチクルLTの左右隣にZ方向のアライメント状態を示すインジケータGを電子的に表示させる。インジケータGの表示本数はZ方向のアライメント偏位量に応じて増減する。ここで、制御部80はXYZ方向におけるアライメント偏位量が許容範囲に入ったら、駆動部6の駆動を停止させると共に、アライメント完了信号を出力し、インジケータGの表示を左右1本にのみとする(図3(b)参照)。
【0029】
被検者眼Eの角膜頂点に対するアライメントの完了後、検者はスイッチ部84を使用してステレオ撮影モードに切り換える。ステレオ撮影モードに切り換わると、制御部80は先で完了していたXY方向におけるアライメント基準を変更し、所定の視差をもった一対の撮影画像を得るために角膜頂点位置に対して左右の水平方向に所定量だけ離れた位置となる新たなアライメント基準位置(X方向のみアライメント基準位置は変わる)を設定する。さらに制御部80は、マークA1をモニタ8から消し新たなアライメント基準に対応するマークA1aをモニタ8に表示させる。例えば、角膜頂点から右方向に水平に1mmだけずれるとされる位置にマークA1aを表示させる。
【0030】
制御部80は新たに設定されたXY方向のアライメント基準位置と撮影光軸L1の偏位量を前述同様に求め、この偏位量がアライメント完了の許容範囲に入るように(レチクルLTとマークA1aが合致するように)、XYZ駆動部6の駆動制御による自動アライメントを作動する。図3(c)はステレオ撮影モードによって新しく設定されたXY方向のアライメント基準位置に基づいて、制御部80による撮影部3の移動制御によって角膜頂点から水平方向の所定位置に設定された新しいアライメント基準位置に合った状態を示している(便宜上、Z方向の自動アライメントがされてないものとしている)。従来の装置では、被検者眼Eの角膜頂点に対してXYZ方向のアライメントが合った状態で装置を水平方向のみ移動させても被検者眼Eに投影されているアライメント指標Ma〜Mhの位置は変わらないため、Z方向における作動距離は変化しないものとされていた。本実施形態では、角膜頂点位置に対して撮影光軸L1が偏位すると、その偏位量に基づいてZ方向におけるアライメント完了位置が変化するように設定されている。制御部80は検出されたXY方向におけるアライメントの偏位量に基づいて対応するZ方向のアライメント完了位置となる基準情報(ここでは像比率の値)をメモリ85から呼び出し、この基準情報に基づいて新たなアライメント完了位置を設定する。図3(c)ではYX方向におけるアライメントは所定の許容範囲内に入っているものの、Z方向のアライメントは新たに設定されたアライメント完了位置とは異なるため、制御部80はその偏位量に基づいてインジケータGの表示を行うと共に、撮影部3を新たに設定されたアライメント完了位置となる作動距離が得られるまで移動させる。制御部80はXYZ方向におけるアライメント偏位量が許容範囲に入ったら、駆動部6の駆動を停止させると共に、アライメント完了信号を出力し、インジケータGの表示を左右1本にのみとする。
【0031】
図示なき切換えスイッチが使用されると、制御部80は前眼部観察画像から図4に示すような眼底観察画像をモニタ8に表示させ、図示なきスプリット指標を用いてフォーカス合わせを完了させる。撮影スイッチ4bが使用されると、そのトリガ信号に基づいて制御部80はダイクロイックミラー24,跳ね上げミラー34を光路から外すと共に、撮影光源14を点灯させフラッシュ光を眼底に照射させる。眼底からの反射光は撮像素子35により受光され、眼底画像が得られる。検者は同様な操作を角膜頂点に対して反対側(左方向)に所定量に離れた位置にて行い左右一対のステレオ撮影画像を得る。
【0032】
なお、以上の実施形態ではステレオ撮影において一旦角膜頂点に撮影光軸を合わせた後、アライメント基準を変える例を示したが、これに限るものではなく、角膜頂点から所定量だけずれた位置に始めからアライメント基準(XY方向)を設定してもよい。
【0033】
また、本実施形態ではステレオ撮影を例に挙げ、説明したがこれに限るものではなく、撮影光軸を通常の基準とされるXY方向のアライメント位置からずらして撮影を行う場合においても本発明を適用できる。例えば、眼底の周辺を撮影する周辺撮影のように、固視標によって視線方向を変えた状態(視線を振った状態)で角膜頂点に撮影光軸を合わせる場合、一部の照明光が虹彩によりケラレてしまうことにより生じる照明ムラを回避するために、撮影光軸を瞳孔中心側に向けてわざとずらすことがある。このような場合においても角膜頂点からの撮影光軸のずれ量が大きくなればなるほどフレアが発生しやすいため、角膜頂点からの撮影光軸のずれ量に基づいて作動距離を変えることにより、フレアの発生を抑えることができる。なお、このような周辺撮影においては撮影光軸に対して眼自体が傾いているため、このような条件をさらに加味したZ方向のアライメント完了位置を設定することもできる。このような眼の傾きは固視標の呈示位置情報によって定まるため、周辺撮影時にはXY方向のアライメント偏位量の情報と固視標の呈示位置情報とを利用してZ方向のアライメント完了位置を設定すればよい。
【0034】
また、以上の条件に加え、被検者眼の角膜曲率も考慮することもできる。被検者眼の角膜曲率は前述したアライメント用の投影指標を用いてもよいし、別途角膜曲率測定用の光学系を設けてもよい。なお、視線が振られた状態での角膜曲率の測定は難しいため、被検者眼が正面を向いているときに、角膜曲率情報を得ておけばよい。
【0035】
さらにまた、本実施形態では角膜頂点を基準にXY方向のアライメントの偏位量を求めるものとしたが、これに限るものではなく、被検者眼の瞳孔中心を基準に撮影光軸のアライメント偏位量を求めることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態における眼底カメラの概略を示した外観図である。
【図2】本実施形態における眼底カメラの光学系及び制御系を示した図である。
【図3】モニタに表示された前眼部像に対するアライメントを示した図である。
【図4】眼底像がモニタに表示された状態を示した図である。
【図5】被検者眼に対する眼底カメラの照明光束エリア及び撮影光束エリアを示した模式図である。
【符号の説明】
【0037】
3 撮影部
8 モニタ
10 照明光学系
30 眼底観察・撮影光学系
50 アライメント指標投影光学系
60 前眼部観察光学系
70 固視標呈示光学系
80 制御部
85 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者眼の眼底を撮影するための撮影光学系が配置された撮影部と、前記被検者眼に対して前記撮影部を相対移動させる移動機構部と、被検者眼に対する前記撮影部のアライメント状態を検知するための受光素子を有するアライメント検出光学系と、を有する眼底撮影装置において、
前記アライメント検出光学系により得られる前記被検者眼に対する前記撮影部の撮影光軸の入射位置に応じて、前記被検者眼に対する前記撮影部の前後方向のアライメント完了位置を異なるものとして設定するアライメント完了位置設定手段を備えることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の眼底撮影装置において、前記アライメント完了位置設定手段は、前記被検者眼に対する前記撮影部の上下左右方向のアライメント完了位置を前記被検者眼の角膜頂点位置としたときの前記被検者眼に対する前記撮影部の前後方向のアライメント完了位置と,前記上下左右方向のアライメント完了位置を前記被検者眼の角膜頂点位置以外の位置としたときの前後方向のアライメント完了位置とを異なる完了位置とすることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項3】
請求項2の眼底撮影装置は、前記受光素子から出力される受光信号に基づいて前記被検者眼に対する前記撮影部の上下左右方向のアライメントずれを検出する検出手段を有し、前記アライメント完了位置設定手段は前記検出手段の検出結果に基づいて前記被検者眼に対する前記撮影部の前後方向のアライメント完了位置を設定することを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項4】
請求項3の眼底撮影装置において、前記検出手段による上下左右方向のアライメントずれの検出は前記被検者眼の角膜頂点に対する撮影光軸の偏位量の検出であることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項5】
請求項4の眼底撮影装置は、前記撮影光軸の偏位量に応じて設定される前記撮影部の前後方向のアライメント完了位置情報を複数記憶する記憶手段を有することを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項6】
請求項5の眼底撮影装置において、前記検出手段は前記受光素子から出力される受光信号と前記アライメント完了位置設定手段によって設定される前記アライメント完了位置とに基づいて前記被検者眼に対する前記撮影部の前後方向のアライメントずれ量を検出し、さらに前記眼底撮影装置は、前記検出手段によって得られた前記前後方向のアライメントずれ量に基づいて前記移動機構部を移動制御,または前記前後方向のアライメントずれ量を報知するためにモニタに所定のインジケータを表示させる表示制御を行うための制御手段を有することを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項7】
請求項6の眼底撮影装置は、前記被検者眼の視線を誘導するための固視標を呈示するユニットであって,前記固視標の呈示位置を可変とする固視標呈示ユニットと、前記被検者眼の角膜に投影される指標を用いて角膜の曲率を求めるための角膜曲率取得手段と、を有し、前記アライメント完了位置設定手段は前記前後方向のアライメント完了位置を設定するために,さらに前記固視標呈示ユニットによる前記固視標の呈示情報,及び前記角膜曲率取得手段による前記被検者眼の角膜曲率情報の少なくとも何れかを用いることを特徴とする眼底撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−196324(P2012−196324A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62621(P2011−62621)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)