説明

眼底撮影装置

【課題】眼底の様々な部位をそれぞれ適正な露出で描画することが可能な眼底撮影装置を提供する。
【解決手段】実施形態に係る眼底撮影装置は、照明光学系100と、撮影光学系120と、制御部210と、HDR処理部241とを有する。照明光学系100は、被検眼Eの眼底Efに撮影照明光を照射する。撮影光学系120は、撮像素子9aを含み、撮影照明光の眼底反射光を撮像素子9aに導く。制御部210は、照明光学系100及び撮影光学系120を制御して、露出を変更しつつ眼底Efの撮影を複数回行わせる。HDR処理部241は、複数回の撮影で得られた露出の異なる複数の画像に対してハイダイナミックレンジ合成を施すことにより眼底像を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は眼底撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼の状態を観察するために眼底を撮影する装置が知られている(たとえば特許文献1を参照)。眼底撮影装置は、フラッシュ光で眼底を照明し、その眼底反射光をCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ等で検出することで、デジタルデータからなる眼底像を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−247076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、眼底像には明るさにムラがある。たとえば視神経乳頭は明るく描画され、黄斑は暗く描画される。よって、明るく描画される部位に露出を合わせて撮影すると、暗く描画される部位は露出不足となり(つまり黒潰れしてしまい)、逆に、暗く描画される部位に露出を合わせて撮影すると、明るく描画される部位は露出不足となる(つまり白飛びしてしまう)。
【0005】
このように、従来の技術では、眼底の様々な部位をそれぞれ適正な露出で描画することができなかった。したがって、眼底の様々な部位を詳細に観察することができなかった。また、眼底における照明光の反射度合には個人差があるため、露出調整は困難かつ煩雑であった。
【0006】
また、従来の技術では、眼底の様々な深さの部位にピントが合った画像を得ることは困難であった。たとえば、視神経乳頭の全ての深度部位(つまり開口部分から底部まで)にピントが合った画像を得ることは難しかった。
【0007】
この発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、眼底の様々な部位をそれぞれ適正な露出で描画することが可能な眼底撮影装置を提供することにある。
【0008】
また、この発明の他の目的は、様々な深度にピントが合った眼底像を得ることが可能な眼底撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の眼底撮影装置は、照明光学系と、撮影光学系と、制御部と、画像生成部とを有する。照明光学系は、被検眼の眼底に照明光を照射する。撮影光学系は、撮像素子を含み、照明光の眼底反射光を撮像素子に導く。制御部は、照明光学系及び撮影光学系を制御して、露出を変更しつつ眼底の撮影を複数回行わせる。画像生成部は、複数回の撮影で得られた露出の異なる複数の画像に対してハイダイナミックレンジ合成を施すことにより眼底像を生成する。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の眼底撮影装置であって、撮影光学系は、焦点位置を変更するための合焦レンズを含む。更に、制御部は、上記複数回の撮影において、露出の変更とともに、合焦レンズを制御して眼底に対する焦点位置を変更する。
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の眼底撮影装置であって、制御部は、少なくとも視神経乳頭の深さの範囲において焦点位置の変更を行う。更に、制御部は、少なくとも視神経乳頭の画像における輝度の範囲に対応する範囲において露出の変更を行う。
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の眼底撮影装置であって、制御部は、次に挙げる制御のうちの1つ又は2つ以上の組み合わせにより露出の変更を行う:(1)照明光の強度の変更;(2)照明光の照射時間の変更;(3)撮像素子による眼底反射光の検出時間の変更;(4)撮像素子の撮影感度の変更。
また、請求項5に記載の発明は、照明光学系と、撮影光学系と、制御部と、画像生成部とを有する。照明光学系は、被検眼の眼底に照明光を照射する。撮影光学系は、焦点位置を変更するための合焦レンズを含み、照明光の眼底反射光を撮像素子に導く。制御部は、照明光学系及び撮影光学系を制御して、眼底に対する焦点位置を変更しつつ眼底の撮影を複数回行わせる。画像生成部は、複数回の撮影で得られた焦点位置の異なる複数の画像を合成することにより眼底像を生成する。
【発明の効果】
【0010】
この発明の第1の態様は、露出を変更しつつ眼底を複数回撮影することで露出の異なる複数の画像を取得し、これら複数の画像に対してハイダイナミックレンジ合成を施すことにより眼底像を生成する。したがって、眼底の様々な部位をそれぞれ適正な露出で描画することが可能である。
【0011】
この発明の第2の態様は、焦点位置を変更しつつ眼底を複数回撮影することで焦点位置の異なる複数の画像を取得し、これら複数の画像を合成することにより眼底像を生成する。したがって、眼底の様々な部位にピントが合った眼底像を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明に係る眼底撮影装置の実施の形態の全体構成の一例を表す概略図である。
【図2】この発明に係る眼底撮影装置の実施の形態の光学系の構成の一例を表す概略図である。
【図3】この発明に係る眼底撮影装置の実施の形態の制御系の構成の一例を表す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明に係る眼底撮影装置の実施形態の一例を説明する。なお、この実施形態では眼底カメラについて説明するが、たとえばスリットランプ(細隙灯顕微鏡装置)や眼科手術用顕微鏡のように他の形態の装置であってもよい。
【0014】
[全体構成]
この実施形態に係る眼底撮影装置の全体構成を図1に示す。この眼底撮影装置は、眼底カメラ本体1とコンピュータ200を含んで構成される。
【0015】
眼底カメラ本体1には、従来と同様に、被検眼Eの眼底を撮影するための光学系や制御系、更には眼底撮影装置を操作するための各種ユーザインターフェイスなどが搭載されている。コンピュータ200は、各種の制御処理や画像処理を実行する。
【0016】
眼底カメラ本体1のベース2上には架台3が設けられている。架台3はベース2上を3次元的に移動可能に構成されている。架台3にはコントロールパネル3aとジョイスティック4が設置されている。オペレータは、ジョイスティック4を操作することにより、架台3をベース2上において3次元的に移動させる。ジョイスティック4の頂部に設けられた操作ボタン4aは、眼底を撮影するときのトリガボタンである。
【0017】
ベース2上には支柱5が立設されている。支柱5には顎受け6aと額当て6bと外部固視灯7が設けられている。顎受け6aには被検者の顎が載置される。額当て6bには被検者の額が当接される。外部固視灯7は、被検眼Eを固視させるための光を発する。
【0018】
架台3上には本体部8が搭載されている。本体部8には、眼底カメラ本体1の各種の光学系や制御系が格納されている。なお、制御系は、ベース2や架台3の内部に設けられていてもよいし、コンピュータ200に設けられていてもよい。また、制御系は、眼底カメラ本体1とコンピュータ200の双方に分散配置されていてもよい。
【0019】
本体部8の被検眼E側には対物レンズ部8aが設けられている。対物レンズ部8aは、検査前のアライメントにより被検眼Eに対峙する位置に配置される。また、本体部8には、被検眼Eを検者が肉眼で観察するための接眼レンズ部8bが設けられている。
【0020】
更に、本体部8には、被検眼Eを撮影するための2つの撮像装置9、10が設けられている。各撮像装置9、10は、本体部8に対して着脱可能である。
【0021】
撮像装置9、10は、それぞれ撮像素子9a、10aを搭載したデジタルカメラである(図2を参照)。各撮像素子9a、10aは、CCDイメージセンサや、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサなどを含んで構成される。
【0022】
撮像素子9a、10aは、たとえば異なる波長領域の光を受光する。この実施形態では、撮像素子9aは可視領域の光を受光し、撮像素子10aは可視領域及び赤外領域の光を受光するものとする。撮像素子9aは、たとえばカラー撮影に用いられる。撮像素子10aは、たとえばモノクロ撮影(動画観察、蛍光撮影など)に用いられる。撮像装置9、10には、それぞれ撮像素子9a、10aの撮影条件を変更する制御回路が設けられている。撮影条件としては、撮影感度(ゲイン)、検出時間(蓄積時間)、撮影画素数などがある。
【0023】
この実施形態では2台の撮像装置を用いているが、この発明では少なくとも1台の撮像装置が設けられていればよい。また、眼底カメラは散瞳タイプであっても無散瞳タイプであってもよい。
【0024】
[光学系の構成]
眼底カメラ本体1の光学系の構成について図2を参照しながら説明する。眼底カメラ本体1の光学系は、照明光学系100と撮影光学系120を含んで構成される。照明光学系100は、眼底Efに照明光を照射する。撮影光学系120は、照明光の眼底反射光を接眼レンズ部8bや撮像装置9、10に導く。
【0025】
なお、図示は省略するが、これら光学系に加えてアライメント光学系やスプリット光学系が設けられている。アライメント光学系は、被検眼Eに対する撮影光学系120のアライメント(位置合わせ)を行うための視標(アライメント視標)を投影する。また、スプリット光学系は、被検眼Eに対する撮影光学系120のピント合わせを行うための視標(スプリット視標)を投影する。
【0026】
〔照明光学系〕
照明光学系100は、観察光源101、コンデンサレンズ102、撮影光源103、コンデンサレンズ104、フィルタ部105、リング透光板107、ミラー108、黒点板109、照明絞り110、リレーレンズ111、孔開きミラー112、対物レンズ113を含んで構成されている。
【0027】
観察光源101は、眼底Efを肉眼や撮影画像にて観察するための定常光(連続光)を出力する。観察光源101は、たとえばハロゲンランプを含んで構成される。コンデンサレンズ102は、観察光源101から発せられた定常光(観察照明光)を集光する。コンデンサレンズ102、104は観察照明光を集光する。
【0028】
撮影光源103は、眼底Efを撮影するためのフラッシュ光を出力する。撮影光源103は、たとえばキセノンランプによって構成される。コンデンサレンズ104は、撮影光源103から発せられたフラッシュ光(撮影照明光)を集光する。
【0029】
フィルタ部105には光学フィルタが設けられている。この光学フィルタとしては、FA(フルオレセイン蛍光造影撮影;可視蛍光撮影)用のエキサイタフィルタ、ICG(インドシアニングリーン蛍光造影撮影;赤外蛍光撮影)用のエキサイタフィルタ、自発蛍光撮影用のエキサイタフィルタ、レッドフリー撮影用のフィルタなどがある。
【0030】
フィルタ部105には複数の光学フィルタが設けられてもよい。その場合、たとえば駆動機構によりフィルタ部105を移動させることで、これら光学フィルタは選択的に光路上に配置される。
【0031】
リング透光板107は、円環形状の透光領域からなるリング透光部107aを有する板状部材である。リング透光板107は、被検眼Eの瞳孔と共役な位置に配設されている。また、リング透光板107は、リング透光部107aの中心が照明光学系100の光軸に位置するように配設されている。
【0032】
ミラー108は、観察照明光や撮影照明光を撮影光学系120の光軸方向に反射させる。黒点板109は、その中心位置に遮光領域を有し、対物レンズ113による照明光の反射光を撮像装置9、10が検出しないようにする。
【0033】
照明絞り110は、照明光の周辺領域を遮蔽する絞り部材である。照明絞り110は、照明光学系100の光軸方向に移動可能に構成される。それにより、眼底Efの照明範囲を変更できる。照明絞り110によりフレアを防止するなどの効果が得られる。
【0034】
孔開きミラー112は、照明光学系100の光軸と撮影光学系120の光軸とを合成する。孔開きミラー112の中心領域には孔部112aが開口されている。照明光学系100の光軸と撮影光学系120の光軸は、孔部112aの略中心位置にて交差する。対物レンズ113は、本体部8の対物レンズ部8a内に設けられている。
【0035】
〔撮影光学系〕
撮影光学系120について説明する。撮影光学系120は、対物レンズ113、孔開きミラー112(の孔部112a)、撮影絞り121、フィルタ部122、合焦レンズ124、変倍レンズ125、結像レンズ126、クイックリターンミラー127及び撮像装置9を含んで構成される。
【0036】
照明光の眼底反射光は、前述のように、被検眼Eの瞳孔に形成されるリング状の像の中心暗部を通じて被検眼Eから出射する。被検眼Eから出射した眼底反射光は孔部112aを通じて撮影絞り121に入射する。このとき、孔開きミラー112は照明光の角膜反射光を反射してフレアの発生を防止する。
【0037】
撮影絞り121は、大きさの異なる複数の円形の透光部が形成された板状の部材である。複数の透光部は、絞り値(F値)の異なる絞りを構成する。これら透光部は、駆動機構によって択一的に光路上に配置されるようになっている。
【0038】
フィルタ部122には、光学フィルタが設けられている。この光学フィルタとしては、FA用のバリアフィルタ、ICG用のバリアフィルタ、自発蛍光撮影用のバリアフィルタなどがある。
【0039】
フィルタ部122には、複数の光学フィルタが設けられていてもよい。この場合、たとえば駆動機構によってフィルタ部122を駆動して、これら光学フィルタを選択的に光路上に配置させる。なお、フィルタ部105、122は、対応するフィルタが光路上に配置されるように連係して制御される。
【0040】
合焦レンズ(フォーカスレンズ)124は、駆動機構によって撮影光学系120の光軸方向に移動されて、撮影光学系120の焦点位置を変更する。変倍レンズ125は、駆動機構により光軸方向に移動されて画角(倍率)を変更する。結像レンズ126は、被検眼Eからの眼底反射光を集光して撮像装置9の撮像素子9a上に結像させる。
【0041】
撮像装置9は、眼底のカラー撮影に使用される。撮像装置9は、撮影光学系120により案内された撮影照明光の眼底反射光を受光し、R成分、G成分及びB成分の各原色成分の画像データを生成する。撮像装置9は、たとえば、3CCDタイプのイメージセンサを含んでいる。撮像装置9は、これら3つの原色成分の画像データを合成してカラー画像の画像データを生成する。
【0042】
クイックリターンミラー127は、駆動機構によって回動軸127a周りに回動される。撮像装置9で眼底を撮影する場合、光路上に斜設されているクイックリターンミラー127を上方に跳ね上げて眼底反射光を撮像装置9に導く。一方、撮像装置10による眼底撮影時や、肉眼による眼底観察時には、クイックリターンミラー127を光路上に斜設配置させた状態で、眼底反射光を上方に向けて反射する。
【0043】
クイックリターンミラー127により反射された眼底反射光の光路上には、フィールドレンズ(視野レンズ)128、切換ミラー129、接眼レンズ130、リレーレンズ131、反射ミラー132、撮影レンズ133及び撮像装置10が設けられている。
【0044】
切換ミラー129は、クイックリターンミラー127と同様に、回動軸129a周りに回動可能とされている。切換ミラー129は、肉眼観察時には光路上に斜設された状態とされ、眼底反射光を接眼レンズ130に向けて反射する。
【0045】
また、撮像装置10を用いて眼底像を撮影するときには、切換ミラー129を光路上から退避して、眼底反射光を撮像素子10aに向けて導く。この眼底反射光は、リレーレンズ131を経由して反射ミラー132により反射され、撮影レンズ133によって撮像素子10aに結像される。
【0046】
[制御系の構成]
眼底撮影装置の制御系について説明する。この制御系の構成例を図3に示す。制御系は、制御部210、ユーザインターフェイス(UI)230、画像処理部240を含む。制御部210と画像処理部240は、たとえばコンピュータ200に設けられている。ユーザインターフェイス230は、眼底カメラ本体1及び/又はコンピュータ200に設けられている。合焦機構124Aは、撮影光学系120の光軸に沿ってフォーカスレンズ124を移動させる。合焦機構124Aは、ステッピングモータ等のアクチュエータを含んで構成される。
【0047】
〔制御部〕
制御部210は、眼底撮影装置の各部を制御する。たとえば制御部210は、観察光源101や撮影光源103の点灯/消灯の制御を行う。また、制御部210は、各撮像装置9、10の露光時間(電荷蓄積時間)や撮影感度や動作画素の制御を行う。
【0048】
なお、制御部210による制御対象は、図3に示すものには限定されない。たとえば、制御部210は、図示しないフィルタ駆動機構を制御してフィルタ部105、122に設けられた複数の光学フィルタを選択的に光路上に配置させる。なお、フィルタを用いない場合(たとえばカラー撮影を行う場合など)には、光学フィルタは光路から退避される。
【0049】
制御部210は、マイクロプロセッサと、記憶装置と、外部機器と通信するためのインターフェイスとを含んで構成される。記憶装置は、RAM、ROM、ハードディスクドライブ等である。記憶装置には、この実施形態に特徴的な動作を眼底撮影装置に実行させるためのコンピュータプログラムが予め記憶されている。また、記憶装置には、撮影された眼底像、患者情報、撮影条件などの各種情報が記憶される。
【0050】
〔ユーザインターフェイス〕
ユーザインターフェイス230には表示部231と操作部232が設けられている。
【0051】
(表示部)
表示部231は、制御部210により制御されて各種の画面や情報を表示する。表示部231は、たとえばLCD(Liquid Crystal Display)等の表示デバイスを含んで構成される。表示部231は、たとえば、眼底カメラ本体1に設けられた表示デバイスや、コンピュータ200の表示デバイスなどを含む。
【0052】
(操作部)
操作部232は、眼底撮影装置を操作するためにオペレータにより使用される。操作部232は、眼底カメラ本体1に設けられた操作デバイスや入力デバイス、たとえばボタン、キー、コントロールパネル3a、ジョイスティック4、操作ボタン4aを含む。また、制御部232は、コンピュータ200に設けられた操作デバイスや入力デバイス、たとえばキーボードやマウスを含む。
【0053】
〔画像処理部〕
画像処理部240は、眼底撮影装置による撮影画像や、外部装置により取得された画像に対して各種の画像処理を施す。画像処理部240は、マイクロプロセッサや記憶装置を含んで構成される。記憶装置にはあらかじめコンピュータプログラムが記憶されている。画像処理部240は、このコンピュータプログラムにしたがって画像処理を実行する。画像処理部240にはHDR処理部241が設けられている。
【0054】
HDR処理部241は、露出を変更しつつ撮影された複数の眼底像に対してハイダイナミックレンジ合成(high dynamic range imaging:略称HDR又はHDRI)を施す。HDR処理部241は画像生成部の一例である。
【0055】
一般に、HDRは、露出を変えつつ撮影して得られた複数枚の画像を合成することにより、白飛びや黒潰れが少なく広いダイナミックレンジを持つ画像(いわゆるハイダイナミックレンジ画像)を生成する技術である。ハイダイナミックレンジ画像を表示する際には、トーンマッピングを施してダイナミックレンジを縮小する。トーンマッピングの手法としては、画像全体のコントラストを下げる手法や、画像のコントラストを局所的に下げる手法などがある。なお、HDRについては、たとえば特開2006−87063号公報などに記載されている。
【0056】
[動作]
眼底撮影装置の動作について説明する。以下、第1の動作例として、ハイダイナミックレンジ合成により眼底像を生成する処理について説明する。更に、第2の動作例として、露出と焦点位置とを変更しつつ撮影された複数の画像をハイダイナミックレンジ合成して眼底像を生成する処理について説明する。
【0057】
〔第1の動作例〕
被検眼Eに対する装置光学系のアライメント及び合焦はなされているものとする。撮影の指示がなされると、制御部210は、照明光学系100と撮影光学系120を制御して、第1の露出状態で眼底Efの撮影を実行させる。同様に、制御部210は、第2の露出状態、第3の露出状態、・・・、第nの露出状態で、それぞれ眼底Efの撮影を実行させる。
【0058】
このような連続撮影は、たとえば、撮影光源103を高速で複数回フラッシュ発光させる制御と、露出状態を高速で切り換える制御とを連係させる(つまり同期させる)ことによって実現される。なお、これら制御を高速で行うのは、たとえば、被検眼Eの運動(固視微動等)による画像間の位置ズレを防止するためである。
【0059】
露出状態の切り換え手法としては、たとえば以下の第1〜第4の手法がある。第1の手法として、照明光の強度の変更がある。これには、撮影光源103による撮影照明光の出力強度を変更する手法と、撮影照明光の光路上に減光手段を設ける手法とが含まれる。減光手段としては、たとえばフィルタと絞りがある。前者の例として、光透過率の異なる複数のフィルタを順次に光路に挿入する構成を適用できる。後者の例として、開口サイズの異なる複数の絞りを順次に光路に挿入する構成を適用できる。
【0060】
第2の手法として、撮影光源103による撮影照明光の照射時間(つまり出力時間)を変更する構成を適用できる。なお、撮影照明光の光路上にシャッタを設け、シャッタを開ける時間を変更するように構成しても、同様の効果が得られる。
【0061】
第3の手法として、撮像素子9a(又は撮像素子10a)を制御して眼底反射光の検出時間(つまり電荷蓄積時間)を変更する構成を適用できる。
【0062】
第4の手法として、撮像素子9a(又は撮像素子10a)を制御して撮影感度を変更する構成を適用できる。
【0063】
なお、上記した第1〜第4の手法のうちの1つにより露出の変更を行ってもよいし、これらのうちの2つ以上を組み合わせて露出の変更を行ってもよい。
【0064】
このような連続撮影によって得られたn枚の画像は、HDR処理部241に送られる。これら画像は、異なる露出で眼底Efを撮影したものである。HDR処理部241は、これら画像に対してHDRを施すことにより、ハイダイナミックレンジ画像の眼底像を生成する。
【0065】
〔第2の動作例〕
前述のように、この動作例では、露出の変更と合焦位置の変更とを同期させつつ複数回の撮影を実行する。露出の変更は、たとえば第1の動作例と同様に、第1の露出状態〜第nの露出状態を順次に切り換えることにより実行される。一方、合焦位置の変更は、合焦機構124Aを制御して合焦レンズ124を移動させることにより実行できる。合焦レンズ124は、第1の露出状態〜第nの露出状態に対応して、第1の合焦位置〜第nの合焦位置に順次に移動される。
【0066】
焦点位置の変更は、たとえば、視神経乳頭の深さ以上の範囲に対応する範囲において実行される。つまり、焦点位置の変更範囲の両端を第1の合焦位置及び第nの合焦位置とすると、これら2つの合焦位置の間の距離は、(撮影光学系120を考慮して)視神経乳頭の深さ以上に設定される。なお、視神経乳頭の深さは、一般的な値(たとえば臨床的に得られた平均値)であってもよいし、被検眼E毎に事前に得られた値であってもよい。被検眼Eの視神経乳頭の深さは、たとえば光コヒーレンストモグラフィ(OCT)により取得された眼底Efの断層像や3次元画像に基づき計測できる。
【0067】
露出の変更範囲についても同様に、視神経乳頭の画像における輝度の範囲に対応する範囲以上に設定することができる。視神経乳頭の画像における輝度の範囲とは、たとえば、眼底像における視神経乳頭の画像領域における輝度の最大値と最小値との差を意味する(なお、ノイズによる特異的な輝度は除くことが望ましい)。この輝度の範囲は、臨床的に得られた一般的な値であってもよいし、被検眼Eの眼底像から事前に取得したものであってもよい。また、当該輝度の範囲に対応する露出の範囲とは、たとえば、上記最大値の部位を好適に描画できる露出を最小とし、上記最大値の部位を好適に描画できる露出を最大値とする範囲として設定できる。
【0068】
なお、視神経乳頭の輝度は、深い位置ほど高くなる。よって、浅い位置から深い位置に向かって順に第1の合焦位置、第2の合焦位置、・・・、第nの合焦位置とすると、対応する第1の露出状態、第2の露出状態、・・・、第nの露出状態は、次第に露出が小さくなるように設定される。以上の準備の下、次のような処理が実行される。
【0069】
被検眼Eに対する装置光学系のアライメントはなされているものとする。また、合焦レンズ124は、第1の合焦位置に配置されているものとする。
【0070】
撮影の指示がなされると、制御部210は、照明光学系100と撮影光学系120を制御して、第1の露出状態かつ第1の合焦位置で眼底Efの撮影を実行させる。同様に、制御部210は、第2の露出状態かつ第2の合焦位置で、第3の露出状態かつ第3の合焦位置で、・・・、第nの露出状態かつ第nの合焦位置で、それぞれ眼底Efの撮影を実行させる。
【0071】
このような連続撮影は、たとえば、撮影光源103を高速で複数回フラッシュ発光させる制御と、露出状態を高速で切り換える制御と、合焦レンズ124を高速で移動させる制御とを連係させる(つまり同期させる)ことによって実現される。
【0072】
このような連続撮影によって得られたn枚の画像は、HDR処理部241に送られる。これら画像は、眼底Efの異なる深度位置をそれぞれ異なる露出で撮影したものである。HDR処理部241は、これら画像に対してHDRを施すことにより、ハイダイナミックレンジ画像の眼底像を生成する。
【0073】
なお、各合焦位置に対して複数回の撮影を行い、各合焦位置についてHDRを実行するようにしてもよい。
[作用・効果]
以上のような眼底撮影装置の作用及び効果を説明する。
【0074】
この眼底撮影装置は、露出を変更しつつ眼底Efを複数回撮影することで露出の異なる複数の画像を取得し、これら複数の画像に対してHDRを施すことにより眼底像を生成するよう構成されている。したがって、眼底Efの様々な部位をそれぞれ適正な露出で描画した眼底像を得ることが可能である。
【0075】
また、この眼底撮影装置は、露出と焦点位置とを同期させて変更しつつ眼底Efを複数回撮影し、それにより得られた複数枚の画像に対してHDRを施すことにより眼底像を生成するよう構成されている。したがって、眼底Efの様々な部位をそれぞれ適正な露出で描画しつつ、様々な深度にピントが合った眼底像を得ることが可能である。
【0076】
なお、焦点位置の異なる複数の画像を合成して擬似的に深い被写界深度を得る技術は、焦点合成、多焦点合成、多重焦点などと呼ばれるデジタル画像処理である。この技術は、たとえば特開2004−29537号公報などに記載されている。
【0077】
また、この眼底撮影装置は、少なくとも視神経乳頭の深さの範囲において焦点位置の変更を行うとともに、少なくとも視神経乳頭の画像における輝度の範囲に対応する範囲において露出の変更を行うように構成されている。それにより、視神経乳頭の全深度にわたって、露出が適正でピントの合った眼底像が得られる。なお、上記の範囲を超える範囲で焦点位置や露出を変更することにより、より広い深さの範囲において、露出が適正な及び/又はピントの合った眼底像を取得できる。
【0078】
〈他の実施形態〉
上記の実施形態では、露出を変更しつつ眼底を複数回撮影する装置、特に露出と焦点位置の双方を変更しつつ複数回の眼底撮影を行う装置について説明した。この実施形態では、焦点位置を変更しつつ眼底を複数回撮影する装置について説明する。
【0079】
この実施形態に係る眼底撮影装置は、上記の実施形態と同様の構成を有する。ただし、露出の変更処理及びそれに付随する処理を行う構成要素については、この実施形態では必須ではない。すなわち、この実施形態に係る眼底撮影装置は、次の構成を有するものであれば十分である。なお、次の段落における括弧内に示す文字列は、上記実施形態における対応部分を示す。
【0080】
この実施形態に係る眼底撮影装置は、照明光学系(100)は、被検眼(E)の眼底(Ef)に照明光を照射する。撮影光学系(120)は、焦点位置を変更するための合焦レンズ(124)を含み、照明光の眼底反射光を撮像素子(9a及び/又は10a)に導く。制御部(120)は、照明光学系(100)及び撮影光学系(120)を制御して、眼底(Ef)に対する焦点位置を変更しつつ眼底(Ef)の撮影を複数回行わせる。画像生成部(画像処理部240)は、複数回の撮影で得られた焦点位置の異なる複数の画像を合成することにより眼底像を生成する。なお、これら各部の構成や、これらが実行する処理については、上記実施形態と同様である。特に、画像生成部が実行する画像合成処理は、焦点合成、多焦点合成、多重焦点などと呼ばれるデジタル画像処理である。
【0081】
このような眼底撮影装置によれば、焦点位置を変更しつつ撮影された複数の画像(それぞれピントの合っている深度が異なる)を合成して眼底像を生成するように構成されているので、眼底の様々な部位にピントが合った眼底像を得ることが可能である。
【0082】
なお、焦点位置の変更範囲は任意に設定することができる。たとえば、上記の実施形態と同様に、(少なくとも)視神経乳頭の深さの範囲において焦点位置の変更を行うよう構成することができる。また、ピントを合わせたい範囲(たとえば詳細に観察したい部位の深度の範囲)があらかじめ分かっている場合には、その範囲を設定して撮影を行うことが可能である。また、ピントを合わせる範囲は、単一の範囲(一繋がりの範囲)であってもよいし、複数の範囲(一繋がりの範囲が複数個)であってもよい。
【0083】
以上に説明した実施形態は、この発明を実施するための構成の一例に過ぎず、この発明を限定するものではない。この発明を実施しようとする者は、この発明の要旨の範囲内における任意の変形を適宜に施すことが可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 眼底カメラ本体
9a、10a 撮像素子
100 照明光学系
103 撮影光源
120 撮影光学系
124 合焦レンズ
124A 合焦機構
200 コンピュータ
210 制御部
230 ユーザインターフェイス
240 画像処理部
241 HDR処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の眼底に照明光を照射する照明光学系と、
前記照明光の眼底反射光を撮像素子に導く撮影光学系と、
前記照明光学系及び前記撮影光学系を制御して、露出を変更しつつ前記眼底の撮影を複数回行わせる制御部と、
前記複数回の撮影で得られた露出の異なる複数の画像に対してハイダイナミックレンジ合成を施すことにより眼底像を生成する画像生成部と、
を備えることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項2】
前記撮影光学系は、焦点位置を変更するための合焦レンズを含み、
前記制御部は、前記複数回の撮影において、前記露出の変更とともに、前記合焦レンズを制御して前記眼底に対する焦点位置を変更する、
ことを特徴とする請求項1に記載の眼底撮影装置。
【請求項3】
前記制御部は、少なくとも視神経乳頭の深さの範囲において前記焦点位置の変更を行い、少なくとも視神経乳頭の画像における輝度の範囲に対応する範囲において前記露出の変更を行う、
ことを特徴とする請求項2に記載の眼底撮影装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記照明光の強度の変更、前記照明光の照射時間の変更、前記撮像素子による前記眼底反射光の検出時間の変更、及び前記撮像素子の撮影感度の変更のうちの1つ又は2つ以上の組み合わせにより前記露出の変更を行う、
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の眼底撮影装置。
【請求項5】
被検眼の眼底に照明光を照射する照明光学系と、
焦点位置を変更するための合焦レンズを含み、前記照明光の眼底反射光を撮像素子に導く撮影光学系と、
前記照明光学系及び前記撮影光学系を制御して、前記眼底に対する焦点位置を変更しつつ前記眼底の撮影を複数回行わせる制御部と、
前記複数回の撮影で得られた焦点位置の異なる複数の画像を合成することにより眼底像を生成する画像生成部と、
を備えることを特徴とする眼底撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−213555(P2012−213555A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81849(P2011−81849)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)