説明

眼底画像解析システム、及び眼底画像解析プログラム

【課題】網膜領域上の毛細血管瘤を画像解析技術を利用して強調化し、眼科医が早期の糖尿病網膜症の症状の診断を容易に行うための有益な情報を提供可能な眼底画像解析システムを課題とする。
【解決手段】解析システム1の解析コンピュータ2は、眼底画像データ6の入力を受付ける眼底画像データ入力受付手段10と、第一フィルタ、空白部、及び第二フィルタを有する二重リングフィルタを形成するフィルタ形成手段15と、第一フィルタ12によって内輪領域IRの画素値の平均値Aを算出する平均値算出手段16と、第二フィルタによって外郭領域のヒストグラムを作成するヒストグラム作成手段17と、ヒストグラムから割合を求め、フィルタ出力値として生成する出力値生成手段18と具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼底画像解析システム、及び眼底画像解析プログラムに関するものであり、特に、眼底画像上に現れる微小な毛細血管瘤を強調し、糖尿病網膜症の早期診断を可能とするための有益な情報を、医師に対して提供することが可能な眼底画像解析システム、及び眼底画像解析プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、眼球に対して外部から光を照射し、眼球を通じてその奥にある眼底の状態を観察することが行われている。これにより、種々の眼科系疾患及びその他の疾病に関する診断を行うことができる。眼底の状態から診断可能な疾病の一つとして、糖尿病の合併症の一つである糖尿病網膜症が知られている。この疾病は、現在では約300万人の罹患者が存在し、年間で3000人程度が失明していると言われている。糖尿病網膜症の進行を抑えるためには、症状の早期の発見及び診断、さらにその後の適切な予防処置が必要であり、これにより神経の損失及び失明の危機を回避することができる。
【0003】
一般に、糖尿病網膜症の初期段階における診断には、眼底画像から眼の毛細血管に瘤状になった部位(毛細血管瘤)の有無の発見により行われている。しかしながら、当該毛細血管瘤は、非常に微小なものであり、かつ周囲の領域(網膜領域)とのコントラストが小さいものである。そのため、通常の眼底カメラによって撮影された眼底写真(眼底画像)から特定する作業は非常に困難であり、造影剤を利用して蛍光眼底画像を撮影可能な特殊な眼底カメラや診断装置を用いる必要があった。したがって、広く実施されている人間ドックや特定健康診断等において実施される通常の眼科検診では、毛細血管瘤を発見できない可能性もあり、初期の糖尿病網膜症の症状を診断できないことがあった。
【0004】
一方、画像解析技術を応用し、眼底画像から血管の領域を抽出可能な手法として、二重リングフィルタを用いた技術が開発されている(非特許文献1参照)。これによれば、内輪領域及び外郭領域をそれぞれ処理する二重リングフィルタを利用し、内輪領域の画素の平均値と外郭領域の画素の平均値の差をそれぞれ求め、これをフィルタの出力値として出力することを行っている。これにより、眼底を走行する複数の血管の領域を容易に特定することが可能となる。
【0005】
さらに、血管を含む領域を検出するものとは異なるものの、乳がん検査に用いられるマンモグラフィ画像に含まれる微小石灰の領域を強調するために、三重リングフィルタを用いる技術が開発されている。この場合、マンモグラフィ画像における石灰の濃度分布が逆円錐構造を呈するものであると仮定し、濃度勾配ベクトルが中心に向かう状態を算出することにより、微小石灰の領域を強調することが可能となっている(非特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記技術は、毛細血管瘤の検出に適用した場合、下記に掲げる点で問題を生じることがあった。例えば、非特許文献1に係る技術では、眼底領域において血管及び毛細血管瘤は、いずれも赤褐色または茶褐色の濃色系の色彩で表示されるため、一般的には適用することは可能であると考えられる。ところが、検出対象の毛細血管瘤は、血管に対して極めて微小なサイズであり、かつ大きさや形状が血管のように一様ではなく多岐にわたるため、毛細血管瘤の領域を高い精度で検出することが困難であった。
【0007】
さらに、従来型の二重リングフィルタを用いた場合、設定された内輪領域と外郭領域における平均画素値の差分をフィルタリングの出力値として特定しているため、外郭領域の画素値の分散状態が考慮されるものではなかった。そのため、特に検出の困難な毛細血管瘤の早期発見を可能とし、初期の糖尿病網膜症の診断のための有益な情報を提供することの可能な画像解析技術の開発が期待されていた。
【0008】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、網膜領域上の毛細血管瘤を画像解析技術を利用して強調化し、眼科医が早期の糖尿病網膜症の症状の診断を容易に行うための有益な情報を提供可能とする眼底画像解析システム、及び眼底画像解析プログラムの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の眼底画像解析システムは、「被験者の眼底を撮影した眼底画像データを取得し、解析コンピュータを利用して前記眼底画像データの解析を実行することにより、眼底領域の毛細血管瘤を強調する眼底画像解析システムであって、前記解析コンピュータは、眼底カメラを利用して取得された前記被験者の前記眼底画像データの入力を受付ける眼底画像データ入力受付手段と、前記眼底画像データの前記眼底領域を構成するそれぞれの画素に対して適用され、フィルタ処理対象の注目画素を中心とする内輪領域に設定される第一フィルタ、前記第一フィルタの外周を取り囲むようにして設定される空白部、及び前記空白部の外周を取り囲む外郭領域に設定される第二フィルタを有する二重リングフィルタを形成するフィルタ形成手段と、前記眼底画像データに対し、前記二重リングフィルタの前記第一フィルタに基づいて、前記注目画素を中心とする前記内輪領域の各画素の平均値を算出する平均値算出手段と、前記眼底画像データに対し、前記二重リングフィルタの前記第二フィルタに基づいて、前記外郭領域の画素値のヒストグラムを作成するヒストグラム作成手段と、作成された前記ヒストグラムの全ヒストグラム領域の面積に対する、算出された前記平均値以上のヒストグラム領域の面積の割合を算出し、算出された割合値を前記二重リングフィルタによる出力値として生成する出力値生成手段と」を主に具備して構成されている。
【0010】
ここで、眼底画像データとは、眼底カメラを利用して被験者の眼底の状態を撮影したものであり、デジタルカメラ等によって眼底を撮影した電子データをそのまま利用するものであっても、或いは焼付けされた眼底画像の銀塩写真をスキャニングして電子化したものであっても構わない。さらに、眼底画像データ入力受付手段は、上述した手法によって撮影または取得された眼底画像データを解析コンピュータで処理可能にするために読込むものであり、上記手段によって取得した眼底画像データを直接読み込むものや、或いはCD−R、HDD、USBメモリ等の記憶媒体に予め記憶されたものを読込装置を利用して読込むものであっても構わない。
【0011】
さらに、フィルタ形成手段とは、眼底画像データを構成する各画素をそれぞれ注目画素として設定し、当該注目画素を中心とする所定範囲の内輪領域に含まれる画素を指定する第一フィルタと、内輪領域の外周に形成された空白部を挟み、空白部の外周に設けられた外郭領域に含まれる画素を指定する第二フィルタとを有し、中心となる注目画素の周囲の領域を所定の条件で指定するための二重リングフィルタを形成するものである。
【0012】
したがって、本発明の眼底画像解析システムによれば、形成された二重リングフィルタを眼底画像データの各画素に対して適用し、それぞれ第一フィルタによって指定される内輪領域の画素の平均値と、第二フィルタによって指定される外郭領域に基づくヒストグラムが作成され、全ヒストグラム領域の面積に対する、算出された平均値以上のヒストグラム領域の面積の割合を算出し、算出された割合値を出力することが行われる。この処理を眼底画像データの各画素に対して実施し、それぞれの出力値をプロットすることにより、眼底画像データに含まれる毛細血管瘤の強調化が可能となる。
【0013】
さらに、本発明の眼底画像解析システムは、上記構成に加え、「前記平均値算出手段は、算出された前記平均値に、予め規定されたパラメータを付与し、前記平均値を補正する平均値補正手段を」具備するものであっても構わない。
【0014】
したがって、本発明の眼底画像解析システムによれば、所定のパラメータに基づいて画素の平均値を補正することができる。すなわち、平均値を補正することにより、作成されたヒストグラムにおける平均値の位置(横軸の値)を変化させることができる。これにより、全ヒストグラム領域の面積と平均値以上のヒストグラム領域の面積の比率を可変することが可能となり、最終的に割合値に基づいて出力される二重リングフィルタによるフィルタ処理後の出力値を調整することが可能となる。これにより、対象となる眼底画像データの状態に応じて、パラメータを付与して補正することにより、出力値を安定させて毛細血管瘤の強調化をより明確なものとすることができる。
【0015】
さらに、本発明の眼底画像解析システムは、上記構成に加え、「前記平均値算出手段及び前記ヒストグラム作成手段は、受付けたカラー情報を含む前記眼底画像データに対し、緑色成分の画素値の平均値及び前記緑色成分の前記ヒストグラムを作成する」ものであっても構わない。
【0016】
したがって、本発明の眼底画像解析システムによれば、カラー画像に含まれる色成分の中で緑色成分に対して着目して平均値の算出及びヒストグラムの作成処理が行われる。ここで、眼底領域を含むカラー画像において、緑色成分が特に血管や出血等の領域と、その他の網膜領域との色差が大きくなることが知られている。そこで、画素を構成する緑色成分に注目することにより、平均値及びヒストグラムの傾向が顕著なものとなり、毛細血管瘤の強調がより明確化される。これにより、眼底画像データからの毛細血管瘤の判別が容易化されることとなる。
【0017】
一方、本発明の眼底画像解析プログラムは、「眼底カメラを利用して取得された被験者の眼底画像データの入力を受付ける眼底画像データ入力受付手段、前記眼底画像データの前記眼底領域を構成するそれぞれの画素に対して適用され、フィルタ処理対象の注目画素を中心とする内輪領域に設定される第一フィルタ、前記第一フィルタの外周を取り囲むようにして設定される空白部、及び前記空白部の外周を取り囲む外郭領域に設定される第二フィルタを有する二重リングフィルタを形成するフィルタ形成手段、前記眼底画像データに対し、前記二重リングフィルタの前記第一フィルタに基づいて、前記注目画素を中心とする前記内輪領域の各画素の平均値を算出する平均値算出手段、前記眼底画像データに対し、前記二重リングフィルタの前記第二フィルタに基づいて、前記外郭領域の画素値のヒストグラムを作成するヒストグラム作成手段、及び作成された前記ヒストグラムの全ヒストグラム領域の面積に対する、算出された前記平均値以上のヒストグラム領域の面積の割合を算出し、算出された割合値を前記二重リングフィルタによる出力値として生成する出力値生成手段として、解析コンピュータを機能させる」ものを主に具備して構成され、上記構成に加えて「算出された前記平均値に、予め規定されたパラメータを付与し、前記平均値を補正する平均値補正手段を有する前記平均値算出手段として、前記解析コンピュータを機能させる」ものであっても構わない。
【0018】
したがって、本発明の眼底画像解析プログラムによれば、上記プログラムを実行することにより、解析コンピュータが眼底画像解析システムによる優れた作用を奏することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の効果として、第一フィルタ及び第二フィルタの間に空白部を有する二重リングフィルタを利用して、第一フィルタによって指定される内輪領域の画素の平均値を閾値とした際の第二フィルタによって指定される外郭領域のヒストグラムの面積の比率に基づいてフィルタ出力をすることができる。これにより、従来の内輪領域と外郭領域の差分に応じてフィルタ出力を行っていたものに比べ、外郭領域の画素値分布の分散を考慮し、特にノイズの影響を受けにくいフィルタ出力を行うことが可能となる。さらに、ヒストグラムを伸長化処理するものに比べ、他領域のコントラストを必要以上に高くすることなく、集結や血管等の影響を解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】眼底画像解析システムにおける解析コンピュータの機能的構成を示すブロック図である。
【図2】二重リングフィルタの構成を示す説明図である。
【図3】解析コンピュータによる毛細血管瘤の強調化処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図4】二重リングフィルタによるヒストグラムである。
【図5】(a)眼底画像データ、(b)毛細血管瘤、(c)フィルタ処理後のフィルタ出力値の出力画像を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態である眼底画像解析システム1(以下、単に「解析システム1」と称す)について、図1乃至図5に基づいて説明する。ここで、図1は本実施形態の解析システム1における解析コンピュータ2の機能的構成を示すブロック図であり、図2は二重リングフィルタ3の構成を示す説明図であり、図3は解析コンピュータ2による毛細血管瘤4の強調化処理の流れの一例を示すフローチャートであり、図4は二重リングフィルタ3によるヒストグラム5であり、図5は(a)眼底画像データ6、(b)毛細血管瘤4、(c)フィルタ処理後のフィルタ出力値7の出力画像8を示す説明図である。
【0022】
本実施形態の解析システム1は、図1乃至図5に示すように、被験者の眼底を撮影した眼底画像データ6を、画像解析技術を応用して解析コンピュータ2によって解析処理し、毛細血管瘤4を周囲の網膜領域9に対して強調化することにより、医師が糖尿病網膜症の初期症状の診断を行うための有益な情報を提供するためのものである。ここで、解析コンピュータ2は、その機能的構成として、図1に示すように、周知の眼底カメラ(図示しない)によって撮影され、電子化された被験者の眼底画像データ6の入力を受付ける眼底画像データ入力受付手段10と、眼底画像データ6を構成する複数の画素に対してそれぞれ適用され、フィルタ出力値7の出力対象の注目画素を中心とする内輪領域IRに設定される第一フィルタ12、第一フィルタ12の外周を取り囲むようにして形成され、内輪領域IRの外側のフィルタ処理の実施されない空白領域BRに設定される空白部13、及び空白部13の外周をさらに取り囲んで形成され、外郭領域ORに設定される第二フィルタ14を有し、同心正方形状の二重リングフィルタ3(図2参照)を形成するフィルタ形成手段15と、眼底画像データ6に対して二重リングフィルタ3を適用し、第一フィルタ12によって内輪領域IRの各画素の緑色成分の画素値の平均値Aを算出する平均値算出手段16と、第二フィルタ14によって外郭領域ORの各画素の緑色成分の画素値及び画素数からなるヒストグラム5を作成するヒストグラム作成手段17と、作成されたヒストグラム5の全領域の面積Sに対し、算出された平均値A以上のヒストグラム領域の面積S’の占める割合R(=S’/S)を求め、割合Rの値を二重リングフィルタ3による注目画素のフィルタ出力値7(本願発明の出力値に相当)として生成する出力値生成手段18とを主に具備する。
【0023】
また、平均値算出手段16には、算出された平均値Aを予め規定されたパラメータαを利用して補正する平均値補正手段19を有している。これにより、補正値A+α以上のヒストグラム領域の面積S’が求められる。その結果、フィルタ出力値7を一定の範囲内で調整することができる。
【0024】
解析コンピュータ2は、市販のパーソナルコンピュータ及びその周辺機器を利用することが可能であり、上記機能的構成の他に、さらに一般的な構成として、読込んだ眼底画像データ6、形成された二重リングフィルタ3に係るリングデータ20、算出された平均値Aの平均値データ21または補正された補正値データ22、注目画素について生成されたフィルタ出力値7の出力値データ23、及び出力される出力画像8の出力画像データ24等を記憶する記憶手段26をさらに具備している。また、解析コンピュータ2は、各処理の結果(ヒストグラム5、出力画像8等)及び処理過程を表示するための液晶ディスプレイ等の表示手段(図示しない)に表示信号を信号制御して送出するための表示制御手段27と、解析コンピュータ2に対する各種操作及びデータ等の入力を行うためのキーボード等の操作手段(図示しない)と接続し、操作手段を解して入力された操作信号を受付ける操作制御手段28とを具備している。
【0025】
二重リングフィルタ3について詳述すると、図2に模式化して示すように、全体が正方形状を呈して構成され、眼底画像データ6を構成する複数の各画素にそれぞれが対応するように、さらに小さな正方形で区画されている(13×13)。そして、中央には、フィルタ出力値7を算出するためのフィルタ処理対象の注目画素に重ね合わされる中心点CPが設けられ、その周囲に内輪領域IRに対応する第一フィルタ12が中心点CPから外側に3マス分それぞれ占めるように正方形状に設けられている。さらに、第一フィルタ12の周囲を1マス分取り囲むようにして空白領域BRに対応する空白部13が設けられている。そして、外側の外郭領域ORに対応する第二フィルタ14が空白部13から外側にさらに3マス分それぞれ占めるように設けられ、同心正方形状に形成されている。そして、眼底画像データ5に適用することにより、画素毎にフィルタ出力値7を求めることができる。なお、二重リングフィルタ3は、電子化された眼底画像データ6に対して適用されるものであり、図示したものは二重リングフィルタ3の概念を模式的に示したものである。
【0026】
次に、本実施形態の解析システム1による眼底画像データ6の毛細血管瘤4の強調化処理の一例について、主に図3のフローチャート、図4のヒストグラム5、及び図5の画像例に基づいて説明する。ここで、本実施形態の解析システム1における解析コンピュータ2の記憶手段26には、眼底カメラによって撮影され、電子化された被験者の眼底に係る眼底画像データ6が予め記憶されているものとする。
【0027】
始めに、解析コンピュータ2は、記憶手段26から強調化処理の対象となるた眼底画像データ6を読込み、これを受付ける(ステップS1:図5(a))。ここで、受付けた眼底画像データ6は、カラー画像で表示され、中央付近に周囲よりも明度の高い色度で示された視神経乳頭部D及び視神経乳頭陥凹部Cを有し、その周囲に眼底に相当する網膜領域9を含んで構成されている。さらに、視神経乳頭部D等及び網膜領域9に沿って複数の血管Bが交叉や分岐して走行している。このとき、カラー画像の眼底画像データ6では、図5(b)の拡大図に示されるように、周囲の網膜領域9や血管Bとほとんど同一の色調及びコントラストで毛細血管瘤4が表示されるため、肉眼等による識別は極めて困難である。特に、診断経験の少ない医師にとって、適確に糖尿病網膜症の初期症状を診断することは難しい状況にある。
【0028】
次に、読み込んだ眼底画像データ6に対して適用する二重リングフィルタ3を形成する(ステップS2:図2参照)。ここで、二重リングフィルタ3は、解析対象の眼底画像データ6に応じ、第一フィルタ12、空白部13、及び第二フィルタ14のそれぞれの占める領域を変化させることができる。これにより、最終的に算出されるフィルタ出力値7や出力画像8の調整を図ることができる。なお、眼底画像データ6の強調化処理の度に二重リングフィルタ3を形成するものではなく、記憶手段26に予め一または複数の二重リングフィルタ3に係る定義リングデータ29を記憶し、これを適宜読込むことによって二重リングフィルタ3を取得するものであっても構わない。
【0029】
そして、形成された二重リングフィルタ3を適用し、眼底画像データ6の画像解析を行う。具体的に説明すると、眼底画像データ6を構成する複数の画素から、一つを選択し、注目画素を選定する(ステップS3)。二重リングフィルタ3による解析処理は、眼底画像データ6を構成する全ての画素に対して実施されるため、上述した注目画素の選定は予め規定された選定順序に基づいて行われている。例えば、眼底画像データ6の最上部の左端の画素から右方向に順次移動し、右端の画素に到達すると、次下段の左端に移動し、再び右端の画素まで移動し、最終的に最下部の右端の画素の処理を行うことにより解析処理が完了するものであっても構わない。すなわち、最上部の左端から最下部の右端に至るまでの走査処理を行うことにより、眼底画像データ6の全ての画素に対して解析処理を実施することができる。
【0030】
解析コンピュータ2は、注目画素(例えば、左端最上部) が選定されると、選定された注目画素と二重リングフィルタ3の中心点CPを重合わせる(ステップS4)。そして、二重リングフィルタ3の第一フィルタ12に対応して指定される内輪領域IRを構成する複数の画素の画素値の平均値Aを求める(ステップS5)。このとき、各画素に対し、緑色成分の画素値が取得され、これに基づいて平均値Aが算出される。さらに、この状態で第二フィルタ14と対応する外郭領域ORを構成する複数の画素の緑色成分について、横軸に画素値及び縦軸に画素数を表したヒストグラム5を作成する(ステップS6)。
【0031】
その後、算出された平均値Aに対し、予め規定されたパラメータαを付加し、補正値A+αを作成する(ステップS7)。そして、作成されたヒストグラム5を補正値A+αに相当する横軸の画素値の位置で、左右の二つの領域に区画する(ステップS8)。これにより、ヒストグラム5は補正値A+αによって分割された二つの領域(S’,S”)から構成されることになる。そして、分割された補正値A+α以上のヒストグラム領域の面積S’、換言すれば、補正値A+αよりも右側の領域の面積S’が全ヒストグラム領域の面積S(=S’+S”)に占める割合R(=S’/S)を求め(ステップS9)、割合Rの値を注目画素についてのフィルタ出力値7として出力とする(ステップS10)。
【0032】
その後、眼底画像データ6を構成する全ての画素についてのフィルタ出力値7の出力が完了しているか否かを検出する(ステップS11)。ここで、全ての画素についてのフィルタ出力値7の出力が完了している場合(ステップS11においてYES)、各画素に対応してそれぞれ出力されたフィルタ出力値7を濃度変換した出力画像8を表示する(ステップS12)。これにより、図5(c)に示すように、網膜領域9の中の毛細血管瘤4が、周囲に対して強調化され、肉眼であってもその部位及び大きさを容易に視認することが可能となる。一方、フィルタ出力値7の出力が未完の場合(ステップS11においてNO)、ステップS3の処理に戻り、ステップS3乃至ステップS10の各処理を実施し、フィルタ出力値7を出力させる。なお、ステップS1乃至ステップS10の各処理において、処理結果として生成される各種データ等は解析コンピュータ2の記憶手段26に適宜記憶されている。なお、複数の眼底画像データ6について、毛細血管瘤4の強調化を行う場合には、各眼底画像データ6毎に上記のステップS1乃至ステップS12の処理を繰り返すことになる。
【0033】
本実施形態の場合、従来の二重リングフィルタの使用と異なり、内輪領域IRの画素の平均値A(または、補正値A+α)以上のヒストグラムの面積S’に基づく割合Rによってフィルタ出力値7が決定される。これにより、網膜領域9の細かなノイズ等による影響を受けることが少なく、毛細血管瘤4の位置を精度良く検出することができる。さらに、二重リングフィルタ3は、第一フィルタ12と第二フィルタ14との間に空白部13が形成されているため、第二フィルタ14の処理範囲となる外郭領域ORで、画素値が高い画素が局所的に点在する場合であっても、偏向したフィルタ出力値7が出力されることがない。すなわち、外郭領域ORにおける画素値の分散状態を考慮し、出力画像8に毛細血管瘤4ではないノイズが強調して出力されることを回避することができる。その結果、出力される出力画像8には、毛細血管瘤4が周囲の網膜領域9に対してコントラストを大にして表示されることになる。さらに、平均値Aの値を補正することにより、網膜領域9と毛細血管瘤4の出力画像8におけるコントラストをさらに強調することが可能となる。すなわち、算出された平均値Aに対し、所定のパラメータαを付加することにより、ヒストグラム5を分割する横軸の画素値(=補正値A+α)が左右のいずれかに移動することとなる。このとき、パラメータαが負の値の場合、補正値A+αは、平均値Aより小さな値となり、面積S’が大となる。これにより、割合R(=S’/S)が平均値Aで算出した場合よりも小さくなる。そのため、フィルタ出力値7が小さくなり、網膜領域9と毛細血管瘤4のコントラストが小さいものとなる。一方、パラメータαが正の値の場合、補正値A+αは、平均値Aより大きな値となり、面積S’が小となる。これにより、割合が平均値Aで算出した場合よりも大となる。そのため、フィルタ出力値7が大となり、網膜領域9と毛細血管瘤4のコントラストが大きなものとなる。この場合、毛細血管瘤4以外のノイズも強調して出力される可能性が高くなる。これにより、パラメータαの付加により、出力される出力画像8を調整することができる。
【0034】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0035】
すなわち、本実施形態の解析システム1において、補正値A+αによって割合Rを求めるものを示したが、これに限定されるものではなく、パラメータαの付加を行うことなく、平均値Aで割合Rを算出するものであっても構わない。つまり、パラメータαによる補正を行わない場合であっても、毛細血管瘤4のコントラストが明瞭な出力画像8が得られるものであれば、係る処理を省略することができる(図3破線参照)。また、本実施形態の解析システム1において、全体が正方形状の13×13に区画された二重リングフィルタ3を用いるものを示したがこれに限定されるものではなく、二重リングフィルタ3のサイズ、第一フィルタ12、空白部13、及び第二フィルタ13の各比率等を適宜変更したものであっても構わない。これにより、出力されるフィルタ出力値7及び出力画像8のコントラストを調整することができる。さらに、同心正方形状に限定されるものではなく、解析対象の眼底画像データ6に応じて形状を変化させたものを使用することも可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 解析システム(眼底画像解析システム)
2 解析コンピュータ
3 二重リングフィルタ
4 毛細血管瘤
5 ヒストグラム
6 眼底画像データ
7 フィルタ出力値(出力値)
8 出力画像
9 網膜領域
10 眼底画像データ入力受付手段
11 注目画素
12 第一フィルタ
13 空白部
14 第二フィルタ
15 フィルタ形成手段
16 平均値算出手段
17 ヒストグラム作成手段
18 出力値生成手段
19 平均値補正手段
A 平均値
C 中心点
IR 内輪領域
OR 外郭領域
R 割合
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0037】
【非特許文献1】杉尾一晃、外6名,「眼底写真における血管解析に関する研究−血管とその交叉部の抽出−」,医用画像学会雑誌,16(3),1999,p.173−178
【非特許文献2】平子賢一、外5名,「3重リングフィルタ解析と領域成長法を組み合わせた乳房X線写真における微小石灰化候補領域の抽出法」,医用画像学会,12(2),1995,p.82−90

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の眼底を撮影した眼底画像データを取得し、解析コンピュータを利用して前記眼底画像データの解析を実行することにより、眼底領域の毛細血管瘤を強調する眼底画像解析システムであって、
前記解析コンピュータは、
眼底カメラを利用して取得された前記被験者の前記眼底画像データの入力を受付ける眼底画像データ入力受付手段と、
前記眼底画像データの前記眼底領域を構成するそれぞれの画素に対して適用され、フィルタ処理対象の注目画素を中心とする内輪領域に設定される第一フィルタ、前記第一フィルタの外周を取り囲むようにして設定される空白部、及び前記空白部の外周を取り囲む外郭領域に設定される第二フィルタを有する二重リングフィルタを形成するフィルタ形成手段と、
前記眼底画像データに対し、前記二重リングフィルタの前記第一フィルタに基づいて、前記注目画素を中心とする前記内輪領域の各画素の平均値を算出する平均値算出手段と、
前記眼底画像データに対し、前記二重リングフィルタの前記第二フィルタに基づいて、前記外郭領域の画素値のヒストグラムを作成するヒストグラム作成手段と、
作成された前記ヒストグラムの全ヒストグラム領域の面積に対する、算出された前記平均値以上のヒストグラム領域の面積の割合を算出し、算出された割合値を前記二重リングフィルタによる出力値として生成する出力値生成手段と
を具備することを特徴とする眼底画像解析システム。
【請求項2】
前記平均値算出手段は、
算出された前記平均値に、予め規定されたパラメータを付与し、前記平均値を補正する平均値補正手段をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の眼底画像解析システム。
【請求項3】
前記平均値算出手段及び前記ヒストグラム作成手段は、
受付けたカラー情報を含む前記眼底画像データに対し、緑色成分の画素値の平均値及び前記緑色成分の前記ヒストグラムを作成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の眼底画像解析システム。
【請求項4】
眼底カメラを利用して取得された被験者の眼底画像データの入力を受付ける眼底画像データ入力受付手段、前記眼底画像データの前記眼底領域を構成するそれぞれの画素に対して適用され、フィルタ処理対象の注目画素を中心とする内輪領域に設定される第一フィルタ、前記第一フィルタの外周を取り囲むようにして設定される空白部、及び前記空白部の外周を取り囲む外郭領域に設定される第二フィルタを有する二重リングフィルタを形成するフィルタ形成手段、前記眼底画像データに対し、前記二重リングフィルタの前記第一フィルタに基づいて、前記注目画素を中心とする前記内輪領域の各画素の平均値を算出する平均値算出手段、前記眼底画像データに対し、前記二重リングフィルタの前記第二フィルタに基づいて、前記外郭領域の画素値のヒストグラムを作成するヒストグラム作成手段、及び作成された前記ヒストグラムの全ヒストグラム領域の面積に対する、算出された前記平均値以上のヒストグラム領域の面積の割合を算出し、算出された割合値を前記二重リングフィルタによる出力値として生成する出力値生成手段として、解析コンピュータを機能させることを特徴とする眼底画像解析プログラム。
【請求項5】
算出された前記平均値に、予め規定されたパラメータを付与し、前記平均値を補正する平均値補正手段を有する前記平均値算出手段として、前記解析コンピュータをさらに機能させることを特徴とする請求項4に記載の眼底画像解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−178802(P2010−178802A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22986(P2009−22986)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16〜20年度、文部科学省、地域科学技術振興施策、委託研究(知的クラスター創成事業、岐阜・大垣地域ロボティック先端医療クラスター)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(506158197)公立大学法人 滋賀県立大学 (29)
【Fターム(参考)】