説明

眼科撮影装置

【課題】 故障に強く、メンテナンス性が高いチルト機構を持つ眼科撮影装置を提供する。
【解決手段】 撮像光学系が内蔵された装置本体を備え、被検者眼の所定部位を撮影する眼科撮影装置において、被検者眼に向かって延長する撮像光学系の撮影光軸上のある点を中心とする円弧形状を持つガイド部材と、装置本体に回転可能に取り付けられガイド部材に沿って移動される移動部材と、ガイド部材に形成された回転軸と移動部材とを連結する連結部材と、連結部材を回転駆動させる駆動部と、を有し、連結部材の回転により回転軸に対して前記移動部材を移動させることによりガイド部材に沿って装置本体を上下方向にチルトさせるチルト機構を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
被検者眼の所定部位を撮影する眼科撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼底カメラ等の眼底撮影装置において、周辺部の観察・撮影を行うために、対物レンズの光軸上における被検者眼瞳孔近傍を回転中心として上下方向に装置本体を俯仰させるチルト機構が用いられている(例えば、特許文献1)。
【0003】
例えば、円弧状のガイドアームの下面にラックを設け、装置本体に設けられたギアをモーターによって回転させることにより、装置本体を電動でチルトさせる機構が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、滑車とワイヤーを利用した重量バランス機構により、装置の位置を固定可能とする装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−325936号公報
【特許文献2】特開2007−275442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記ギアにより装置本体をチルトさせる機構の場合、ギア部分に装置本体の加重が集中するため、チルト機構が劣化しやすいことが考えられる。また、重量バランス機構は、重量変化への対応が困難であり、部品変更時の調整が難しく、部品交換などでは専用冶具などで装置の固定が必要となる場合があり、メンテナンス性にかける。
【0007】
本発明は、上記問題点を鑑み、故障に強く、メンテナンス性が高いチルト機構を持つ眼科撮影装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0009】
(1) 撮像光学系が内蔵された装置本体を備え、被検者眼の所定部位を撮影する眼科撮影装置において、被検者眼に向かって延長する前記撮像光学系の撮影光軸上のある点を中心とする円弧形状を持つガイド部材と、前記装置本体に回転可能に取り付けられガイド部材に沿って移動される移動部材と、前記ガイド部材に形成された回転軸と前記移動部材とを連結する連結部材と、前記連結部材を回転駆動させる駆動部と、を有し、前記連結部材の回転により前記回転軸に対して前記移動部材を移動させることにより前記ガイド部材に沿って前記装置本体を上下方向にチルトさせるチルト機構を備えることを特徴とする。
(2) (1)の眼科装置において、前記連結部材は、前記回転軸を中心に傾斜可能に取り付けられたシャフトであり、前記駆動部は、前記シャフトを軸中心又は前記回転軸を中心に回転させる駆動部であって、前記移動部材は、前記装置本体に回転可能に取り付けられ、前記シャフトに対し前記シャフトの軸方向に移動可能に連結された移動部材であって、前記チルト機構は、前記駆動部の駆動による前記シャフトの回転により前記ガイド部材に沿って前記装置本体を上下方向にチルトさせることを特徴とする。
(3) (2)の眼科装置において、前記駆動部は、前記ガイド部材における前記回転軸に設けられていることを特徴とする。
(4) (3)の眼科装置において、前記シャフトは、送りネジ軸であって、前記移動部材は、前記送りネジ軸に嵌まり合うナット部を備え、前記送りネジ軸の軸中心を中心とする回転により移動されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、故障に強く、メンテナンス性が高いチルト機構となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本実施形態に係る眼科撮影装置の外観構成図である。なお、以下の説明では、被検眼の眼底を撮影する眼底カメラを例にとって説明する。
【0012】
眼底カメラは、基台1と、基台1に対して左右方向(X方向)及び前後(作動距離)方向(Z方向)に移動可能な移動台2と、散瞳型タイプの光学系を収納する撮影部(装置本体)3と、被検者の顔を支持するために基台1に固設された顔支持ユニット5と、が設けられている。また、撮影部3は、移動台2に設けられた電動駆動のY駆動部6により被検者眼Eに対して上下方向(Y方向)に移動される。
【0013】
また、移動台2には、操作部材(ジョイスティック4)が設けられている。ジョイスティック4が操作されると、移動台2が基台1上をXZ方向に摺動される。また、回転ノブ4aが回転されることにより、Y駆動部6が駆動し、撮影部3がY方向に移動される。また、ジョイスティック頂部には手動操作によるトリガ信号を発するためのスイッチ4bが備えられている。
【0014】
また、上記直線移動機構に加えて、本装置には、電動機を有し眼Eに対して撮影部3を上下方向にチルトさせる自動チルト機構10が設けられている。そして、チルトスイッチ7が操作されると、自動チルト機構10が駆動され、スイッチの操作方向に応じて撮影部3が上下方向に俯仰される。なお、本実施例における自動チルト機構10は、実際には、カバーで覆われている。
【0015】
図2は、自動チルト機構10の詳細について説明する図である。自動チルト機構10は、ガイド孔11aを持ち円弧形状を持つガイド部材11と、回転軸29を中心に傾斜可能に取り付けられたシャフト26(例えば、ネジ軸)と、シャフト26に連結されシャフト26の軸中心にシャフト26を回転させるための駆動部24(例えば、モーター)と、撮影部3に回転可能に取り付けられ,シャフト26に対しシャフト26の軸方向に移動可能に連結され、かつ、ガイド孔11aによってガイドされる移動部材22、とを有する。
【0016】
そして、自動チルト機構10は、駆動部24の駆動によるシャフト26の回転により移動部材22を移動させることにより、ガイド部材11に沿って撮影部3を上下方向にチルトさせる。
【0017】
次に、自動チルト機構10の具体例を詳細に説明する。アーム保持部14がY駆動部6に取り付けられ、そして、アーム保持部14には、アーム12を介して円弧状ガイド部材11(以下、ガイド部材と記載する)が設けられている。
【0018】
ガイド部材11の円弧半径は、撮影部3から眼Eに向かって延長する撮影光軸L1上の所定点Oを回転中心に設定されている。すなわち、ガイド部材11の形状は、点Oを中心とした円の円周上に沿った形状に設定されている。なお、ガイド部材11には、円弧状のガイド孔11aが形成されている。
【0019】
そして、撮影部3の側面に設けられたガイドプーリー16を介して、撮影部3は、ガイド部材11に支持されている。これにより、ガイドプーリー16がガイド部材11に沿って移動し、撮影部3が点Oを回転中心としてチルトする。なお、眼Eへのアライメントにより点Oが眼Eの瞳孔中心に置かれると、撮影部3は瞳孔中心を中心にチルトされる。
【0020】
4つのガイドプーリー16の内、2つのガイドプーリー16a、16dは、プーリー調整板21を介して、撮影部3に固定されており、プーリー調整板21により自由度を持つように設けられている。他のガイドプーリー16b、16cは、撮影部3に直接取り付けられている。ガイド部材11の両側の円弧面18は、V字型溝が形成されており、ガイドプーリー16の外周面19はV字山型の形状となっている。そして、ガイド部材11のV字型溝に沿って、ガイドプーリー16のV字山型が摺動する。
【0021】
ガイド部材11の下部には、図示なきベアリングを介してモーター(チルト駆動部)24が回転可能に取り付けられている。なお、ベアリングの外輪側は、ガイド部材11に固定されており、また、ベアリングの内輪側には、ガイド部材11の下部に形成された回転軸29を介して駆動部24が固定されている。
【0022】
駆動部24には、撮影部3に対し斜め上方に向かって延びるシャフト26が直結されている。シャフト26の外周には、ネジ溝が形成されており、シャフト26の先には、軸受けとして移動部材22(例えば、ナット)が嵌まりあっている。この場合、駆動部24とシャフト26は、歯車を介して連結されるようにしてもよい。
【0023】
移動部材22は、図示なきベアリングを介して撮影部3に回転可能に取り付けられている。なお、ベアリングの外輪側は撮影部3に固定されており、ベアリングの内輪側には、ナット固定軸30を介して移動部材22が固定されている。従って、駆動部24が回転すると、移動部材22がシャフト26上を移動するにともなって、移動部材22が固定された撮影部3も移動をする(詳細は後述する)。
【0024】
また、移動部材22と撮影部3の間には、ガイド部材11が介在されている。そして、移動部材22は、ガイド部材11に形成された円弧状のガイド孔11aに沿って移動される。この場合、ナット固定軸30がガイド孔11aを挿通する。
【0025】
なお、撮影部3の内部に設けられた撮影光学系の各部材、ジョイスティック4、チルトスイッチ7、駆動部24は、撮影部3に内蔵された図示なき制御部によって制御される。
【0026】
以上のような構成を備える装置において、その動作について説明する。図3は自動チルト機構10の動作について説明する図である。
【0027】
具体的には、検者により、チルトスイッチ7が操作されると、駆動部24に駆動信号が出力され、駆動部24の回転軸が回転駆動される。そして、駆動部24の駆動により、シャフト26が軸中心に対して回転する。これにより、移動部材22は、撮影部3に対して回転しながらシャフト26上を移動すると共に、ガイド孔11aに沿って移動される。これにより、移動部材22と連結された撮影部3は、ガイド部材11により案内され、上下方向にチルトされる。
【0028】
例えば、チルトスイッチ7aが操作されると、駆動部24が正回転され、移動部材22が駆動部24から遠ざかる方向に移動される。これにより、撮影部3は、ガイド部材11により案内され、A方向へとチルトする(図3(a)から図3(b)参照)。
【0029】
また、チルトスイッチ7bが操作されると、駆動部24が逆回転され、移動部材22が駆動部24へ近づく方向に移動される。これにより、撮影部3は、B方向へとチルトされる(図3(b)から図3(a)参照)。なお、撮影終了後、撮影部3は、チルトした位置より初期位置に戻される。本実施例における初期位置は、撮影光軸L1が水平方向となる位置に設定されている。
【0030】
ここで、本実施例におけるチルト機構について説明する。駆動部24の回転により、移動部材22は、シャフト26に合わせて直線移動をするが、撮影部3は、点Oを中心にチルトする。すなわち、チルト機構10は、シャフト26の傾きを修正し、移動部材22の直線移動を撮影部3のチルト方向への移動に変換する。これは、撮影部3がチルトする際に、移動部材22と撮影部3を繋いでいるベアリングが回転し、その回転運動がシャフト26を介して駆動部24に伝達され、駆動部24と繋がるベアリングを回転させているためである。すなわち、移動部材22及び駆動部24と繋がる各ベアリングを回転させながら、チルト方向に移動する際に変化するシャフト26の傾きを修正し、シャフト26を回転させることで、ナット位置が変化し、撮影部3がチルトする。
【0031】
本機構は、点Oを中心とする円上の2つの点(A、B)があり、ある一方の点A(例えば、駆動部24)を固定して他方の点B(例えば、移動部材22)を円に沿って動かす場合、これらを結ぶ軸(例えば、シャフト26)の角度が変化する原理を利用している。この場合、点Aから見ると、軸は、点Aを中心に回転しており、B点から見ると、軸は、B点を中心に回転している構造となる。
【0032】
以上のような構成によれば、撮影部3がチルトする際に、シャフト26全体によって撮影部3の自重が支えられるため、ギアによるチルト機構に対して、チルト機構の劣化を軽減できる。さらに、ギアのバックラッシュによる撮影部3の位置ずれが軽減され、再調整が不要となるため、検者が所望する位置での撮影が容易となる。また、モーターの移動がベアリングによる回転だけですむため、制御回路とモーターを繋ぐ接続ケーブル等の移動量も少なくなり、ケーブルの縺れ等による断線を回避することが可能となる。
【0033】
なお、本実施例においては、駆動部24を固定し、移動部材22を移動するものとしたが、ナットとモーターの位置関係を逆にしてもかまわない。この場合、駆動部24の移動にともなって、ネジ軸24が突き出してくるため、装置の大型化に繋がる。そのため、本実施例の方が装置の省スペース化に有利である。
【0034】
また、上記構成に限るものではなく、シャフト26及び駆動部24がガイド部材11と撮影部3との間に配置されたものであってもよい。この場合、固定軸30の上端がガイド孔11に案内されるような構成とすればよい。
【0035】
なお、自動チルト機構10について、ガイド部材11の下部に形成された回転軸(固定軸29)を中心に傾斜可能に取り付けられモーターによって駆動されるシャフトと、シャフトに連結されシャフトを軸中心又は回転軸を中心に回転させるためのモーターと、シャフトに連結され,シャフトの回転により軸方向に移動され,かつ,ガイド孔11aによってガイドされる移動部材であって、撮影部3に回転可能に取り付けられた移動部材と、を備える構成であれば、これに限るものではない。
【0036】
図4は本発明の変容例について示す図である。本変容例のチルト機構10には、回転軸39を中心に傾斜可能に取り付けられたシャフト36と、回転軸39を中心にシャフト36を回転させるための駆動部34と、備える。図4のチルト機構10は、回転軸39を中心に傾斜可能に取り付けられたシャフト36(ネジ溝はない)と、シャフト36の下端と連結され回転軸39を中心にシャフト36を回転させる駆動部34と、ガイド部材11を介して撮影部3に回転可能に取り付けられたボールブッシュ32と、を備える。なお、ボールブッシュ32の中心孔にはシャフト36が軸受けされ、ボールブッシュ32は、シャフト36上を移動可能である。
【0037】
この場合、モーター34の駆動によりシャフト36が回転軸39を中心に回転される。これにより、シャフト36の傾斜角度が変更されると、ボールブッシュ32は、撮影部3に対して回転しながらシャフト36上を移動すると共に、ガイド孔11aに沿って移動される。これにより、ボールブッシュ32に連結された撮影部3は、ガイド部材11により案内され、上下方向にチルトされる。
【0038】
例えば、チルトスイッチ7aが操作されると、モーター34が正回転され、ボールブッシュ32が回転軸39から遠ざかる方向に移動される。これにより、撮影部3は、ガイド部材11により案内され、A方向へとチルトする(図4(a)から図4(b)参照)。
【0039】
また、チルトスイッチ7bが操作されると、モーター34が逆回転され、ボールブッシュ32が回転軸39へ近づく方向に移動される。これにより、撮影部3は、ガイド部材11により案内され、B方向へとチルトされる(図4(b)から図4(a)参照)。
【0040】
なお、本実施例においては、眼科機器として眼底カメラを例に説明したが、これに限られるものではない。例えば、眼底にレーザーを照射する装置、細隙灯顕微鏡、網膜内部の断層像を撮影する装置等にも用いることが可能である。
【0041】
なお、本実施例においては、チルトスイッチ7を基台1設ける構成としたがこれに限らない。例えば、モニタ上のタッチパネルで操作可能にしてもよいし。撮影部3にチルトスイッチを設けてもかまわない。
【0042】
なお、本実施例において、スイング機構を設けるようにしてもよい。さらに、スイング機構についても、モーターにより駆動されるような構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本実施形態に係る眼科撮影装置の外観構成図である。
【図2】自動チルト機構の構成の詳細について説明する図である。
【図3】自動チルト機構の動作について説明する図である。
【図4】本発明の変容例について示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 基台
2 移動台
3 撮影部
4 ジョイティック
5 顔支持ユニット5
6 駆動部
7 チルトスイッチ
11 円弧状ガイド部材
12 アーム
14 アーム保持部
16 ガイドプーリー
21 プーリー調整版
22 ナット
24 モーター
26 シャフト
29 モーター固定軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像光学系が内蔵された装置本体を備え、被検者眼の所定部位を撮影する眼科撮影装置において、
被検者眼に向かって延長する前記撮像光学系の撮影光軸上のある点を中心とする円弧形状を持つガイド部材と、
前記装置本体に回転可能に取り付けられガイド部材に沿って移動される移動部材と、
前記ガイド部材に形成された回転軸と前記移動部材とを連結する連結部材と、
前記連結部材を回転駆動させる駆動部と、を有し、
前記連結部材の回転により前記回転軸に対して前記移動部材を移動させることにより前記ガイド部材に沿って前記装置本体を上下方向にチルトさせるチルト機構を備えることを特徴とする眼科撮影装置。
【請求項2】
請求項1の眼科装置において、
前記連結部材は、前記回転軸を中心に傾斜可能に取り付けられたシャフトであり、
前記駆動部は、前記シャフトを軸中心又は前記回転軸を中心に回転させる駆動部であって、
前記移動部材は、前記装置本体に回転可能に取り付けられ、前記シャフトに対し前記シャフトの軸方向に移動可能に連結された移動部材であって、
前記チルト機構は、前記駆動部の駆動による前記シャフトの回転により前記ガイド部材に沿って前記装置本体を上下方向にチルトさせることを特徴とする眼科装置。
【請求項3】
請求項2の眼科装置において、
前記駆動部は、前記ガイド部材における前記回転軸に設けられていることを特徴とする眼科撮影装置。
【請求項4】
請求項3の眼科装置において、
前記シャフトは、送りネジ軸であって、
前記移動部材は、前記送りネジ軸に嵌まり合うナット部を備え、前記送りネジ軸の軸中心を中心とする回転により移動されることを特徴とする眼科撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−245028(P2011−245028A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121059(P2010−121059)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)