説明

眼科用レーザ手術装置、及び眼科用レーザ手術装置の光学系

【課題】 スポットサイズを簡単に変更でき、効率的な手術を行える装置を提供する。
【解決手段】 レーザ光源と、レーザ光をターゲット位置に照射させる照射光学系であってレーザスポットを3次元的に移動させる移動光学系を有する照射光学系と、を備え、眼球組織を切断する眼科用レーザ手術装置において、照射光学系は、レーザスポットをターゲット位置に形成する対物レンズを有し、移動光学系は、レーザスポットをXY平面上で走査する光スキャナと、レーザ光のビーム径と発散状態を変更するエキスパンダであってレーザのスポットサイズを変更するために焦点距離を変更するように構成された第1レンズユニットと、第2レンズユニットと、第1レンズユニットを経たレーザ光の発散状態を調整するために,第1及び第2レンズユニットの主平面間距離を変更するための主平面間距離変更ユニットと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、術眼にレーザ光を照射して組織を切断等し除去するための眼科用レーザ手術装置、及び眼科用レーザ手術用装置に用いられる光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フェムト秒パルスレーザビーム等の超短パルスレーザビームを照射して患者眼(術眼)の水晶体等の組織を切断(破砕)する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の装置は、白内障を治療するために水晶体のターゲット位置(レーザスポット位置)に微小なプラズマを発生させることによって、水晶体組織を機械的に切断、破砕する。これらの組織を除去し、眼内レンズ等を眼内に挿入することで白内障を治療する。
また、レーザを術眼の角膜に照射し、角膜組織を切断する装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2の装置では、上記のようなパルスレーザを照射し、屈折矯正量に対応したレンズ状に角膜組織を切断する。レンズ状組織は、角膜に形成された切開創から抜き取ることにより、角膜表面の形状が変えられ、屈折矯正が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010−538699号公報
【特許文献2】特表2011−507559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように超短パルスレーザ光を用いて角膜や水晶体を切開又は破砕しようとする場合、その目的に応じて効率の良いレーザ照射が求められる。例えば、白内障治療においては水晶体を迅速に処理するために比較的大きなスポット径によるレーザ照射であってもよい。一方、角膜の屈折力を矯正するためにレーザ照射を行う場合には、より高い照射精度(レーザによる切開の精度)が求められる。このため、スポットサイズは比較的小さくされていることが好ましい。また、治療効率と精度の点から考えると、水晶体の破砕を目的としてパルスレーザ光を照射する場合であっても、水晶体嚢近傍と水晶体核の中心付近とでは異なるスポット径によりレーザ光を照射させることも考えられる。
【0005】
本発明は、レーザスポットのスポットサイズを簡単に変更でき、効率的な手術を行うための眼科用レーザ手術装置、及び眼科用レーザ装置の光学系を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の構成を有することを特徴とする。
(1) 集光されてスポットでプラズマを発生させるパルスレーザ光を出射するレーザ光源と、レーザ光をターゲット位置に照射させる照射光学系であってレーザ光のスポットを3次元的に移動させる移動光学系を有する照射光学系と、を備え、レーザ光によって眼球組織を切断又は破砕する眼科用レーザ手術装置において、前記照射光学系は、
レーザ光のスポットをターゲット位置に形成するための対物レンズを有し、前記移動光学系は、前記対物レンズより上流に配置され,レーザ光のスポットを光軸に対して直交するXY平面上で走査する光スキャナと、該光スキャナより上流に配置され,レーザ光のビーム径と発散状態又は収束状態を変更するビームエキスパンダユニットであって,レーザ光のターゲット位置でのスポットサイズを変更するために焦点距離を変更するように構成された第1レンズユニットと、少なくとも1枚のレンズからなる第2レンズユニットと、前記第1レンズユニットを経たレーザ光の発散状態又は収束状態を調整するために,前記第1レンズユニットと第2レンズユニットの主平面間距離を変更するための主平面間距離変更ユニットと、を備える、ことを特徴とする。
(2) (1)に記載の眼科用レーザ手術装置において、前記第1レンズユニットは、焦点距離を変更するためにレンズ間の距離を変更可能に設けられた少なくとも2つのレンズの位置を変更するズームユニットを含み、前記主平面間距離変更ユニットは、前記第1レンズユニットの主平面と前記第2レンズユニットの主平面との距離を光軸に沿って相対的に変更させることを特徴とする。
(3) (2)に記載の眼科用レーザ手術装置において、前記第1レンズユニットは、負の屈折力を有し前記第2レンズユニットより上流に配置され、前記第2レンズユニットは、正の屈折力を有する、ことを特徴とする。
(4) (3)に記載の眼科用レーザ手術装置において、前記第2レンズユニットは、固定配置され、前記主平面間距離変更ユニットは、前記第1レンズユニットを光軸に沿って移動させる、とを特徴とする。
(5) (1)乃至(4)に記載の何れかの眼科用レーザ手術装置は、予め設定された照射パターンに基づいて前記主平面間距離変更ユニットを制御し、レーザスポットのターゲット位置をZ方向に沿って移動させる制御手段、を備えることを特徴とする。
(6) (5)に記載の眼科用レーザ手術装置は、前記第1レンズユニットの焦点距離を検出する焦点距離検出手段を有し、前記制御手段は、前記焦点距離検出手段の検出結果に基づいて前記第1レンズユニットによって変更されるレーザスポットのスポットサイズに対応させて前記レーザ光源が出射するレーザ光の出力、レーザ光の繰り返し周波数、前記光スキャナの駆動速度、の少なくとも何れか一つを変更する、ことを特徴とする。
(7) (5)又は(6)に記載の眼科用レーザ手術装置は、角膜組織をレーザにより切開する角膜手術モードと,水晶体組織をレーザによって切開・切開する水晶体手術モードと,を設定する手術モード設定手段を有し、前記制御手段は、前記手術モード設定手段の設定に基づき,前記手術モード設定手段において角膜手術モードが設定された場合は,前記第1レンズユニットを制御してレーザスポットを所定の小さいスポットサイズとし、前記手術モード設定手段において水晶体手術モードが設定された場合は,前記第1レンズユニットを制御してレーザスポットを前記所定の小さいスポットサイズより大きなスポットサイズとする、ことを特徴とする。
(8) (5)乃至(7)に記載の何れかの眼科用レーザ手術装置は、術眼の水晶体の深さ方向の情報を入力する深さ情報入力手段と、該深さ情報入力手段の深さ方向の情報に基づき,深さ位置に対応するレーザスポットのスポットサイズを定めるスポットサイズ決定手段と、を備え、前記制御手段は、前記スポットサイズ決定手段が定めた深さ位置に対応するスポットサイズに基づいて前記第1レンズユニットを制御してレーザスポットのスポットサイズを変更し、前記主平面間距離変更ユニットを制御してレーザスポットの位置をZ方向に沿って移動させて水晶体にレーザ光を照射する、ことを特徴とする。
(9) (8)の眼科用レーザ手術装置は、前記深さ方向の情報に基づいて水晶体後嚢から前嚢に向かってレーザを照射しない所定の第1の領域と、前記第1の領域よりも前嚢側でレーザスポットを所定の小さいサイズとする第2の領域と、前記第2の領域よりも前嚢側でレーザスポットを所定の大きいスポットサイズとする第3の領域と、を定めるレーザ照射領域設定手段を備える、ことを特徴とする。
(10) 術眼にレーザ光を所定のスポット径にて照射する眼科用レーザ手術装置の光学系において、異なる焦点距離を持つ少なくとも2つのレンズからなる第1レンズユニットであって,入射されるレーザ光のビーム拡大倍率を変更させるために前記少なくとも2つのレンズ間の距離を変更可能に構成された第1レンズユニットと、少なくとも1枚のレンズからなる第2レンズユニットと、前記第1レンズユニットを経たレーザ光の発散状態又は収束状態を調整するために,前記第1レンズユニットの各レンズの配置間隔を維持した状態で前記第1レンズユニットと第2レンズユニットの主平面間距離を変更するための主平面間距離変更ユニットと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、レーザスポットのスポットサイズを簡単に変更でき、効率的な手術を行える。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態である眼科用レーザ手術手術装置の概略構成図である。本実施形態の眼科用レーザ手術装置は、術眼の水晶体をレーザにより切断、破砕する装置である。
【0009】
眼科用レーザ手術装置100は、集光点でブレイクダウンを発生させる特性を有するパルスレーザ光を出射するレーザユニット(レーザ光源)10、レーザ光を導光しターゲット(眼球組織)に照射するレーザ照射光学系(レーザ照射ユニット)20、術眼を観察するための観察光学系(観察ユニット)30、術眼を固定保持するための眼球固定ユニット40、装置100を操作するための操作ユニット50、装置100の設定・確認等を行う表示手段であるモニタ60、装置100を統括・制御する制御部(制御手段)70、を備えている。
【0010】
レーザユニット10は、レーザの集光点(レーザスポット)でプラズマを発生させる(ブレイクダウンを起こす)超短パルスレーザを出射するレーザ光源である。レーザユニット10としては、数フェムト秒から数ピコ秒のパルス幅のパルスレーザを出射するデバイスが用いられる。パルスレーザの集光点では、プラズマが発生し、ターゲット組織、ここでは、眼球組織である水晶体、角膜等が切開、破砕される。本実施形態のレーザユニット10には、レーザスポットのスポットサイズが1〜15μmでブレイクダウンを発生させる出力のレーザ光を出射可能なレーザ光源を用いる。レーザ光のパルス幅は、1〜1000fs(フェムト秒)程度とし、好ましくは、500fs以下のパルス幅とする。
【0011】
照射光学系20は、パルスレーザのレーザスポットを術眼Eの奥行方向(Z方向、レーザ光の光軸Lの方向)に沿って移動させる焦点移動手段であるビームエキスパンダユニット21(以下、単にエキスパンダという)と、レーザスポットをターゲット面(光軸に直交する面)で二次元的(XY方向)に走査(移動)する光スキャナ(走査手段)22と、レーザの光軸と観察光軸とを合致させるビームコンバイナ23と、レーザをターゲット面に結像させる(ターゲット面にレーザスポットを形成させる)結像光学系としての対物レンズ24と、術眼Eと接触するアプリケータ25と、を備えている。エキスパンダ21と光スキャナ22によってレーザ光のスポットを術眼Eの水晶体内で3次元的に移動する移動光学系が構成される。なお、上流にエキスパンダ21を配置する構成により、光スキャナ22の振り角を小さくすることができ、光スキャナ22の下流の光学素子の有効径を小さくすることができる。これにより、装置の大型を抑制できる。
【0012】
エキスパンダ21は、光スキャナ22の上流(レーザユニット10側)に配置される。エキスパンダ21は、光学素子である複数のレンズ群(の一部)を光軸に沿って移動させることにより、レーザスポットの位置をZ方向に沿って移動させる(位置を変更させる)機能とレーザスポットのスポットサイズ及びターゲット面に対するレーザ光の入射角及び焦点深度を変更する機能を有する。エキスパンダ21は、光スキャナ22、対物レンズ24へと導光するレーザ光のビーム径を変更すると共に、レーザビームの発散角又は収束角(発散状態又は収束状態)を変更する(詳細は後述する)。光スキャナ22としては、回転軸が互いに直交する2つのガルバノミラーが用いられる。これにより、レーザスポットが所定の二次元平面(XY平面)上で走査されることとなる。なお、光スキャナ22としては、レゾナントミラー、回転プリズム、ポリゴンミラーとガルバノミラーの組合せによるスキャナ、等を用いることもできる。ビームコンバイナ23は、レーザ光を反射し、照明光(投影指標像も含む)及び照明光の反射光を透過する特性を有するダイクロイックミラーとされる。対物レンズ24は、パルスレーザを数μmから数十μmの微小なスポット径として、ターゲット面に結像させる役割を持つ。アプリケータ25は、前眼部の周囲を覆うカップを有する。カップ内に液体を満たすことにより角膜の屈折力を低減させる。従って、アプリケータ25は、コンタクトレンズの役割を持つ。
【0013】
レーザのスポット位置でブレイクダウンが起こることにより、眼球組織にスポットサイズ程度の機械的破壊(亀裂等)が起こる。レーザスポットは、エキスパンダ21でZ方向に移動され、光スキャナ22によりXY方向で移動されることにより、三次元的に移動される(位置を変更される)。眼球組織において、レーザのスポットが三次元的に移動され、各スポットが繋げられることにより、眼球組織は三次元的な形状(予め設定されたレーザ照射のパターン)に切断される。
【0014】
観察光学系30は、二次元撮像素子を有するカメラ31と、ビームコンバイナ32、照明光源33、照明光、術眼Eでの反射光を導光するための導光光学系である光学素子34、を備えている。ビームコンバイナ32は、照明光を反射し、術眼Eからの反射光を透過する特性を有し、ここでは、ハーフミラーとされる。照明光源33は、可視光等の術眼の照明に適した照明光を発光する。観察光学系30は、対物レンズ24を共用している。指標投影ユニット36は、ビームコンバイナ35により観察光軸と合波される。指標投影ユニット36は、装置100(照射光学系20)のアライメント(位置合せ)を合わせるための指標像を術眼Eの前眼部に投光する役割を持っている。装置100の調節(アライメント及びフォーカスの調節)は図示を略す駆動手段により、レーザ照射光学系20及び観察光学系30を上下動させて行う。カメラ31の二次元撮像素子は、例えば、照明光及び投影する指標像の波長に対して感度を有するイメージャとする。照明光源33は、赤外光を発する光源であってもよい。
【0015】
眼球固定ユニット40は、吸着リング41、アプリケータ25、を備えている。吸着リング41は、環状の部材であり、前眼部の強膜に当接する形状となっている。吸着リング41は、図示を略すポンプ等により吸引を受け、吸着リング41に眼球を吸い付けることで術眼Eを固定保持する。なお、アプリケータ25は、眼球固定ユニット40に共用されている。
【0016】
操作ユニット50は、装置100の設定を行うための入力手段51と、レーザ照射のトリガ信号を入力するためのフットスイッチ52と、を備えている。入力手段51としては、モニタ60に表示された設定画面で、手術条件等を指定するポインティングデバイスであるマウス、手術条件等の数値、情報を入力するキーボード、等である。
【0017】
モニタ60は、カメラ31によって撮影された術眼の正面像を表示する正面像表示部61、レーザスポットのスポットサイズを表示すると共にスポットサイズを変更する信号を入力するスポットサイズ設定部62と、装置の手術モードが角膜手術モードと水晶体手術もードのいずれであるかを表示すると共に手術モードを選択する信号を入力する手術モード設定部63と、レーザの照射パターン等の手術条件を設定する手術条件設定部64、等を備えている。本実施形態のスポットサイズ設定部62は、予め用意されたスポットサイズ5μm、10μm、15μm、の何れかを選択することで、スポットサイズを変更する信号を入力する構成となっている。
【0018】
制御部70は、CPU(Central Processing Unit)であり、レーザユニット10、エキスパンダ21、光スキャナ22、カメラ31、照明光源33、指標投影ユニット36が接続される。また、制御部70には、制御プログラム、レーザ照射のパターン、設定した手術条件、撮影画像、等を記憶するメモリ71が接続される。また、メモリ71には、別の測定装置により取得された測定データ等も記憶される。また、メモリ71にはレーザユニット10のレーザ出射条件(スポットサイズに対応したレーザ出射の制御条件)が記憶されている。制御部70は、スポットサイズ設定部62からの信号に基づいてスポットサイズを検出する。制御部70は、設定されたスポットサイズとレーザ出射条件とに基づき、スポットサイズに対応したレーザユニット10の制御を行う。具体的には、スポットサイズが所定の小さいサイズである場合、レーザユニット10の出力を下げる(ブレイクダウンの閾値を上げる)制御を行い、レーザユニット10の繰り返し周波数(例えば、一秒間当りのレーザ出射数)を向上させる制御を行う。逆に、スポットサイズが所定の大きいサイズである場合、レーザユニット10の出力を上げる(ブレイクダウンの閾値を下げる)制御を行い、レーザユニット10の繰り返し周波数を低下させる制御を行う。これは、スポットサイズ内に集中するレーザのエネルギを調整し、好適に手術を行うための制御である。スポットサイズが小さい場合には、レーザスポット内にエネルギが集中するためレーザ出力は低くてもよい。一方、スポットサイズが大きい場合では、レーザスポット内のエネルギを高めておく必要がある。また、スポットサイズが小さい場合、XYの走査を考えるとレーザスポットのスポット間隔が空いてしまいやすいため、レーザ出射の繰り返し周波数を上げてスポット間に空きが少ないようにする必要がある。このため、レーザ出射の繰り返し周波数を変更した場合であっても、エキスパンダ21、光スキャナ22のレーザスポットの移動速度(スキャン速度)は変更しなくてもよい。本実施形態では、設定されたスポットサイズが、5μmの場合を小さいスポットサイズとし、10μm、15μmの場合は、大きいスポットサイズとする。
【0019】
次に、エキスパンダ(ビームエキスパンダユニット)21の構成と動作について説明する。図2は、エキスパンダ21の構成を説明する図である。図3は、レーザスポットのZ方向の位置変更を説明する図である。図4は、レーザスポットのスポットサイズの変更を説明する図である。なお、以下の説明のレンズ群では、単一のレンズであってもレンズ群としている。また、図3、4では、説明の簡便のため、光スキャナ22等の光学系の一部の図示を略している。
【0020】
エキスパンダ21は、大別して、2つのレンズ群(第1レンズ群及び第2レンズ群)を備えている。本実施形態では上流から下流に向かって第1レンズ群(第1レンズユニット)、第2レンズ群(第2レンズユニット)を配置するものとする。第1レンズ群は、焦点距離を変更可能な構成となっている。また、本実施形態のエキスパンダ21は、第1レンズ群が持つ焦点距離を変更する焦点距離変更手段と、第1レンズ群の主平面と第2レンズ群の主平面の間の距離を変更する主平面間距離変更手段(ユニット)と、を備えている。第1レンズ群の像側焦点と第2レンズ群の物体側焦点を一致させた状態で、第1レンズ群の焦点距離を変更することにより、エキスパンダ21から出射されるレーザ光のビーム径を変更する構成となっている。これにより、レーザスポットのスポットサイズが変更される。また、第1レンズ群の主平面と第2レンズ群の主平面の間の距離を変更することにより、エキスパンダ21から出射されるレーザ光のビームの発散角又は収束角(発散状態又は拡散状態)が変更される構成となっている。言い換えると、第1レンズ群の焦点距離と第2レンズ群の焦点距離を変えない状態で、第1レンズ群と第2レンズ群との間の距離を変更することとなる。これにより、レーザスポットのZ方向での位置が変更される。従って、第1レンズ群において、レーザ光のビーム径を変更する機能を持ち、第2レンズ群は、第1レンズ群を経た後のビームの拡散状態又は発散状態を調整する機能を持つ。
【0021】
エキスパンダ21は、上流側から下流に向かって配置される3つのレンズ群、ビームを拡散させる凹レンズ81、ビームを集光させる凸レンズ82、ビームを集光させる凸レンズ83、を備えている。エキスパンダ21は、レンズ81を光軸Lに沿って移動させるズームユニット84、レンズ82を光軸Lに沿って移動させるズームユニット85、ズームユニット84及び85と共にレンズ81及び82を光軸Lに沿って移動させるズームユニット86と、を備えている。ズームユニット84〜86は、制御部70の指令によりレンズ、ズームユニットを移動する駆動手段となるステッピングモータ等を備えている。
【0022】
レンズ81とレンズ82は異なる焦点距離を持っている。レンズ81及び82により負の屈折力を持つ一つのレンズ群(第1レンズ群LE1)であり、レンズ81とレンズ82の間隔を変更することで第1レンズ群LE1の焦点距離を変更可能なように構成されている。なお、第1レンズ群LE1は、ズームユニット84及び85を含んで、第1レンズユニットを構成することとなる。なお、第1レンズ群LE1は、レーザユニット10から入射したレーザ光のビームの拡大倍率を変更する機能を備えている。
レンズ83は、正の屈折力を持つ一つのレンズ群となる第2レンズ群LE2(第2レンズユニット)を構成する。第1レンズ群LE1は、焦点F1で示される像側焦点を持ち、第2レンズ群LE2は、焦点F2で示される物体側焦点を持っている。焦点F1は、ズームユニット84及び85により焦点の位置(第1レンズ群LE1の主平面に対する)が変更される(第1レンズ群LE1の焦点距離が変更される)。具体的には、ズームユニット84及び85によるレンズ81とレンズ82との相対的な位置関係(距離)が変更されることで、第1レンズ群LE1の焦点距離(主平面から焦点F1までの距離)が変更される。第2レンズ群LE2は、固定的に配置され、一定の焦点距離を備えている。従って、焦点F2の位置は変わらない。ズームユニット84及び85は、レンズ81及び82と共にズームユニット86上に配置されている。このため、ズームユニット86の駆動により、第1レンズ群LE1が、第2レンズ群LE2に対して相対的に移動され、位置関係が変更される。従って、第1レンズ群LE1の主平面P1と第2レンズ群の主平面P2との距離が変更される。第1レンズ群LE1の焦点距離が変わらない状態において、焦点F1と焦点F2の相対的な位置関係が変更されることとなる。ズームユニット84及び85によって、第1焦点距離変更尾手段が構成され、ズームレンズユニット86によって、焦点F2に対して焦点F1の位置を変更する第2焦点位置変更手段が構成される。
【0023】
次に、レーザスポットのスポットサイズの変更について説明する。図3に示すように、焦点F1と焦点F2を一致させた状態で、第1レンズ群LE1(レンズ81及び82)の焦点距離を変更させている。ズームユニット84、85及び86によって、レンズ81及び82の位置が光軸Lに沿って変更される。以下の説明では、ターゲット面Tにレーザスポット(S1、S2)が形成される(結像される)場合を例に挙げる。
【0024】
図3(a)は、スポットサイズが小さいレーザスポットS1の例を示している。第1レンズ群LE1の焦点距離が図3(b)と比べて相対的に短い。また、レンズ82とレンズ83との距離が相対的に長い。このため、平行光としてレンズ81に入射したビームBの径は、レンズ83に到るまでに広げられる。ビームBは、焦点F2(焦点F1)から出射されたレーザ光とみなされるため、レンズ83によって平行光とされる。ビームBは、対物レンズ24により、ターゲット面Tに結像される。このとき、レーザスポットのスポットサイズは、スポットS1とされる。対物レンズ24上でビーム径の広いビームBが、ターゲット面Tに集光(結像)されるとめ、ターゲット面Tに対するビームの入射NAα1(ターゲット面における光軸に対する入射角)は大きくなる(ターゲット面Tにおける光軸に対する入射角が大きくなる)。また、スポットS1における焦点深度が浅くなる。
【0025】
図3(b)は、スポットサイズが大きいのレーザスポットS2の例を示している。第1レンズ群LE1の焦点距離が図3(a)に対して相対的に長い。また、レンズ82とレンズ83との距離が相対的に短い。このため、平行光としてレンズ81に入射したビームBの径は、レンズ83に到るまでに相対的に広げられない。ビームBは、焦点F2(焦点F1)から出射されたレーザ光とみなされるため、レンズ83によって平行光とされる。ビームBは、対物レンズ24により、ターゲット面Tに結像される。このとき、レーザスポットのスポットサイズは、スポットS2とされる。対物レンズ24上でビーム径の狭いビームBが、ターゲット面Tに集光(結像)されるため、ターゲット面Tに対する入射NAα2は小さくなる(ターゲット面Tにおける光軸に対するビームの入射角)。また、スポットS2における焦点深度が深くなる。
【0026】
対物レンズ24には、ビームの発散角が同じ(ここでは、平行光)でビーム径の異なりビームBが入射される。対物レンズ24の焦点距離は一定であるため、ビームBは、対粒レンズ24から一定の距離(ここでは、ターゲット面T)に結像される。
【0027】
このようにして、第1レンズ群LE1の焦点距離を変更しつつ、第1レンズ群の焦点F1と第2レンズ群の焦点F2とを一致させることにより、レーザスポットのZ方向での位置を変えることなく、レーザスポットのスポットサイズ及びターゲット面に対する入射NAを変更することができる。また、レーザスポットの焦点深度を変更することができる。
【0028】
次に、レーザスポットのZ方向での位置の変更について説明する。図4に示すように、第1レンズ群LE1の主平面P1と第2レンズ群LE2の主平面P2の相対的な位置関係を変更することで、エキスパンダ21から出射されるレーザ光のビームの発散角又は収束角を変更する。以下の説明では、ターゲット面Tの奥側(後方)に結像したレーザスポットS3と、ターゲット面Tの手前側(前方)に結像したレーザスポットのスポットS4を例に挙げる。ここでは、第1レンズ群LE1の焦点距離は一定、つまり、レンズ81とレンズ82の距離は一定としている。この状態で、第1レンズ群LE1を光軸Lに沿って移動させている。なお、第1レンズ群LE1の焦点距離が一定であるため、図4のスポットサイズは同じとなる。
【0029】
図4(a)では、主平面P1と主平面P2が相対的に遠い場合を示している。言い替えると、焦点F2よりも焦点F1が上流に位置している。主平面P1と主平面P2との距離は、第1レンズ群LE1の焦点距離と第2レンズ群の焦点距離の和よりも長くなっている。図示するように、第1レンズ群LE1の位置が変更されている。なお、主平面P1と主平面P2との距離が第1レンズ群LE1の焦点距離と第2レンズ群LE2の焦点距離と一致する場合、レーザスポットは、ターゲット面Tに結像される(図3の状態)。焦点F2よりもレンズ83側から出射されたビームBがレンズ83に到る。このため、レンズ83から収束光として出射される。対物レンズ24は、収束光となったビームBをターゲット面T(対物レンズ24に平行光が入射した場合の結像位置(図3参照))よりも手前側(上流側)にスポットS3として結像させる。
【0030】
一方、図4(b)では、主平面P1と主平面P2との距離が近い。言い換えると、焦点F2よりも焦点F1が下流に位置している。図示するように、第1レンズ群LE1の位置が変更されている。レーザユニット10から出射されたビームBは、第1レンズLE1の屈折力を受けレンズ83に到る。ビームBは、レンズ83から発散光として出射される。対物レンズ24は、発散光となったビームBをターゲット面Tよりも奥側(後方)にスポットS4として結像させる。
【0031】
このようにして、主平面P1と主平面P2との距離を変更させることにより、レーザスポットのスポットサイズを変えることなく、レーザスポットのZ方向での位置を変更することができる。
【0032】
なお、図3、4の説明では、レーザスポットのスポットサイズと、Z方向での位置と、個別に変更する例を挙げたが、レーザスポットのスポットサイズとZ方向の位置とを複合して変更させることができる。
【0033】
以上のような構成を備える装置の動作を説明する。ここでは、水晶体手術を行う場合を例に挙げる。手術に先立ち、術者は手術条件、パターンを設定する。術者は、手術モード設定部63を操作し、手術モードを水晶体手術モードとして設定する。制御部70は、手術モード設定部63からの信号に基づいてレーザスポットのZ方向の移動範囲の上限と下限を定める。次に、制御部70は、メモリ71に予め記憶されている術眼の測定データに基づいて術眼Eの手術におけるレーザスポットのZ方向の移動範囲(スキャン範囲)を定める。術眼の測定データとしては、術眼の奥行方向の情報が得られる測定データであればよく、例えば、眼軸長測定装置の測定データによって得られる水晶体の前嚢及び後嚢の位置(角膜前面からの相対的距離)が含まれていればよい。また、光干渉断層像撮影装置がら得られた画像、超音波診断装置等から得られた測定データから、上記と同様な測定データを得てもよい。レーザスポットのZ方向の移動範囲としては、後嚢から所定範囲(例えば、500μm)前方側の位置から前嚢までの距離とする。
【0034】
次に、術者は、スポットサイズ設定部62を操作して、スポットサイズを定める。制御部70は、スポットサイズを変更(設定)する信号に基づいて手術において照射するレーザスポットのスポットサイズを定める。水晶体手術では、微細な加工精度は必要とせず、水晶体核の破砕が目的であるため、大きいスポットサイズでレーザ照射を行うことが好ましい。ここでは、15μmとして設定する。
【0035】
制御部70は、レーザスポットのZ方向の移動範囲、レーザスポットのスポットサイズ、に基づいてズームユニット84、85及び86の制御を行う。具体的には、スポットサイズが15μmとなるように、ズームユニット84及び85を制御し第1レンズ群LE1の焦点距離を定める。また、ズームユニット86の制御による第1レンズ群LE1の移動範囲を定める。
【0036】
また、制御部70は、設定されたスポットサイズに対応してレーザユニット10の制御を行う(レーザ出射条件を設定する)。ここでは、スポットサイズが大きい場合に対応させて、レーザ出力を高めると共に、繰り返し周者波数を下げるようにレーザユニット10を制御する。
【0037】
術者は、手術条件設定部84を操作し、照射パターン等を設定する。患者を手術台等に寝かせ、眼球固定ユニット40により眼球を固定する。術眼は吸着リンク41で保持される。術者は、アプリケータ25に液体を満たす。そして、術者は、図示なきスイッチを操作し、指標投影ユニット36から術眼Eに指標を投影する。術者は、前眼部表示部61に映し出された術眼Eの前眼部像と指標を確認しながら、装置100のアライメントを行う。
【0038】
フットスイッチ42が術者によって踏まれると、制御部70は、トリガ信号に基づいてレーザ照射を開始する。制御部70は、設定された手術条件及びパターンに基づいてレーザを照射する。制御部70は、パターンに基づいてレーザユニット10を制御すると共に、エキスパンダ21(ズームユニット86)及び光スキャナ22を制御する。このとき、制御部70は、レーザスポットを、パターンにおける後方から前方に向かって移動させる。術眼Eの水晶体は破砕される。レーザ照射が終わると、破砕された水晶体は、別の灌流吸引装置により除去され、術眼Eの嚢には眼内レンズが設置され、手術が終わる。
【0039】
なお、以上の説明では、術眼の水晶体を破砕する実施形態を例に挙げたが、これに限るものではない。術眼の眼球にレーザを照射し、組織の切開、破砕を行う構成であればよい。手術モード設定部63において、角膜手術モードを設定すればよい。この場合、制御部70は、手術モードを設定する信号に基づいてレーザスポットのZ方向の移動範囲の上限と下限を定める。なお、角膜手術においては、微細な加工が必要とされるため、レーザスポットのスポットサイズが小さいことが好ましい。
【0040】
以上のようにして、簡単な構成でレーザスポットのスポットサイズを変更でき、効率的な手術を行える。具体的には、微細な加工精度を必要としない水晶体手術では、スポットサイズを大きくして水晶体の破砕を行い、手術時間を短くできる。この場合、スポットサイズに伴って、レーザスポットの焦点深度が深くなるため、奥行方向の水晶体核の破砕を効率的に行える。微細な加工精度が必要な角膜手術では、スポットサイズを小さくして角膜を切開(切除)できる。この場合、スポットサイズに伴って、レーザスポットの焦点深度が浅くなるため、奥行方向での切開量が小さくでき、精度の高い加工が行える。また、エキスパンダ21の制御により、レーザスポットのZ方向の位置を変更できる。これにより、一つの装置で、対物レンズ24、アプリケータ25等を別の部材(例えば、焦点距離が異なるレンズ)に交換することなく水晶体手術と角膜手術が行える。また、エキスパンダ21の光学配置において、第1レンズ群LE1の構成を凹レンズ81と凸レンズ82にすることで、エキスパンダ21内で中間結像位置をなくすことができ、エキスパンダ21の長さ(光軸Lに沿った長さ)を短くできる。これにより、装置100の大型を抑制できる。
【0041】
なお、以上の説明では、レーザスポットのスポットサイズを術者が、予め用意されたスポットサイズの候補から選択する構成としたが、これに限るものではない。スポットサイズを術者が設定(変更)する構成であればよく、入力手段等によりスポットサイズを設定する(数値入力)する構成としてもよい。
【0042】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。上述した実施形態では、レーザスポットのスポットサイズを術者が定め、手術を通して一定とする構成としたが、第2実施形態では、術眼Eの奥行情報に基づいて制御部70がスポットサイズを設置する構成とする。また、制御部70が、レーザ照射の領域に対応して手術中にスポットサイズを変更する構成とする。ここでは、観察光学系に、水晶体の断層像を撮影するための光干渉断層像撮影ユニット(以下、OCTユニットと略す)を組み込み、制御部70が、水晶体の断層像の情報(深さ情報)に基づいて、レーザスポットのスポットサイズをZ方向の位置(領域)で変更する。
【0043】
図5は、水晶体LEの断面の模式図である。制御部70は、OCTユニットから断層像を得て、図5に示すような水晶体LEの形状を抽出する。制御部70は、水晶体LEの前面AC(手前側)と後面PC(奥側)の位置を検出する。制御部70は、前面ACから後面PCの間を、後面PCから前面ACに向かって、安全領域(第1の領域)SA、小スポット領域(第2の領域)SSA,大スポット領域(第3の領域)BSA、で分割された水晶体手術におけるレーザ照射領域を定める(求める)。
【0044】
安全領域SAは、レーザ照射によって、後嚢に損傷がない領域を見込んだレーザ未照射領域である。後嚢(後面PC)から所定の位置までの領域とする。安全領域SAは、例えば、100μm〜500μmとされる。
【0045】
小スポット領域SSAは、後面PCに近い領域であり、後嚢(後面PC)へのレーザ照射による損傷を低減するために、レーザスポットを小さいスポットサイズとして設定する領域である。レーザスポットのスポットサイズを小さくすることにより、微細な加工ができると共に焦点深度が浅くなるため、後嚢への損傷を低減できる。また、レーザスポットの後方(後眼部)に到るレーザビームの径が大きくなるため、レーザスポットでのブレイクダウンが発生しなかった場合であっても網膜への悪影響(高エネルギによる損傷)を少なくできる。なお、小スポット領域SSAは、例えば、100〜10000μm(?)とする。小スポット領域SSAでは、相対的に小さいスポットサイズを設定し、例えば、10μm未満とすることが好ましい。さらに好ましくは、装置100で設定可能な最小スポットサイズ(ここでは、5μm)であることが好ましい。
【0046】
大スポット領域BSAは、前面AC(前嚢)に近い領域である。大スポット領域BSAは、後面PCから相対的に遠いため、レーザスポットの焦点深度が深くても後面PCへの損傷は小さい。また、大スポット領域BSAは、後眼部から相対的に遠いため、レーザスポットの焦点深度が深くても網膜への悪影響は少ない。また、レーザスポットの焦点振動深度が深い方が効率的に水晶体LEを破砕できる(1ショットで、焦点深度分破砕できる)。このため、大スポット領域BSAでは、小スポット領域SSAと安全領域SAを除いた水晶体LEの厚みとして設定される。大スポット領域BSAでは、大きいスポットサイズを設定し、例えば、10μm以上とすることが好ましい。さらに、装置100の最大スポットサイズ(ここでは、15μm)とされることが好ましい。
【0047】
このようにして、制御部70が、水晶体LEの深さ位置に対応してレーザスポットのスポットサイズを定める。制御部70は、スポットサイズ決定手段とレーザ照射領域設定手段を兼ねている。レーザ照射が開始されると、制御部70は、レーザスポットのZ方向に位置に対応させて、エキスパンダ21を制御し、予め設定されて領域に対応するスポットサイズが形成されるように、ズームユニット84、85及び86を制御する。一連の手術において、安全領域SAにはレーザが照射されず、小スポット領域SSAでは、小さいスポットで後嚢への損傷を抑制したレーザスポットが照射され、大スポット領域BSAでは、大きいスポットサイズで効率的に水晶体を破砕できるレーザスポットが照射される。
【0048】
以上のようにして、手術中に、レーザスポットのスポットサイズがリアルタイムに変更され、効率的に手術が行える。
【0049】
なお、レーザスポットのスポットサイズの設定が、術者による設定、制御部70による設定のいずれであっても以下のような構成としてもよい。制御部70は、スポットサイズの変更を入力する信号と、メモリ71に記憶され予め設定された所定のスポットサイズ(例えば、10μm)の値とに基づき、所定のスポットサイズ以下の場合に、レーザユニット10が出射するレーザ光の出力を下げると共に繰り返し周波数を向上させる制御を行う。
【0050】
また、手術モードによってスポットサイズが定められる構成としてもよい。制御部70は、メモリ71に予め記憶された手術とスポットサイズの対応情報と、手術モードを設定する信号に基づいてスポットサイズを設定する。具体的には、手術モードが、角膜手術モードである場合、相対的に小さいスポットサイズ(例えば、5μm)として設定し、水晶体手術モードである場合、相対的に大きいスポットサイズ(例えば、15μm)として設定する。なお、上述のように、水晶体手術モードにおいて、手術中にスポットサイズを変更する構成としてもよい。
【0051】
なお、以上の説明では、第1レンズ群LE1の焦点距離の変更をズームユニット84及び85によるレンズ81及び82の光軸上に沿った移動によって行う構成としたがこれに限るものではない。第1レンズ群(ユニット)の焦点距離が変更される構成であればよく、焦点距離の離散的な変更でもよい。例えば、第1レンズ群の光軸上にレンズを挿脱することによって焦点距離を変更する構成としてもよい。この場合、挿脱されるレンズとレンズの動作うを駆動する駆動ユニットによって焦点距離変更手段が構成される。
【0052】
なお、以上の説明では、エキスパンダ21は、3枚のレンズを用いる構成としたが、これに限るものではない。エキスパンダ21から出射されるビームのビーム径と出射NAを変更できる構成であれば、いずれの光学素子を用いる構成でもよい。具体的には、第1レンズ群と第2レンズ群において、少なくとも一方のレンズ群の焦点距離が変更できる構成であればよい。例えば、第1レンズ群と第2レンズのいずれとも焦点虚ルを変更できる構成とし、第1レンズ群が2つ以上のレンズを備え、第2レンズ群が2つ以上のレンズを備える構成であってもよい。また、以上の説明では、第1レンズ群(ユニット)が上流側に配置され、第2レンズ群(ユニット)が下流側に配置される構成としてが、このような配置に限定されるものではない。第1レンズ群と第2レンズ群の配置関係は、逆でてもよい。また、レンズ群は、一つのレンズで焦点距離を変更する構成であってもよい。例えば、レンズの前面と後面との間に流体を収め、この流体の容量を変えることでレンズが持つ焦点距離を変える構成としてもよい。この場合、流体の容量を変更するユニットが焦点距離変更手段となる。また、液晶に印加する電圧を変えることによって、レンズの焦点距離を変更する構成としてもよい。この場合、液晶を電圧駆動するユニットが焦点距離変更手段となる。
【0053】
なお、以上の説明では、スポットサイズに対応してレーザユニット10の出射条件を変凹する例として、レーザ出力と繰り返し周波数の両者を変更する構成としたが、これに限るものではない。スポットサイズの変更に伴うスポット間隔の空き等が少なくなればよく、上記2つの条件の何れか一方が変更される構成であればよい。また、このような照射条件の変更は必ずしも必要としない。また、レーザ出力と繰り返し周波数の変更に加え、光スキャナ22の駆動速度(走査速度)を変更する構成を加えてもよい。例えば、ガルバノミラーの走査速度を変更することにより、レーザスポットの走査速度が変更される。レーザスポットのスポットサイズが小さい場合に、光スキャナ22の走査速度を変更して低下させると、レーザスポットの間隔(の空き)が小さくなり、上述の場合と同様の効果を奏する。この場合、制御部70は、スポットサイズの設定に基づいて光スキャナ22の駆動速度を制御する。なお、スポットサイズに設定に基づいて、レーザ出力、レーザの繰り返し周波数、光スキャナ22の駆動速度は、少なくとも一つが変更されればよく、必ずしもすべての条件が変更されなくてもよい。
【0054】
なお、以上の説明では、装置100で水晶体手術と角膜手術を行える構成としたが、これに限るものではない。レーザスポットのZ方向での位置と、レーザスポットのスポットサイズを変更できる構成であればよい。何れか一方の手術を行える構成であればよい。また、水晶体手術、角膜手術に限らず、眼球組織を切開、破砕する構成であればよい。
【0055】
なお、以上の説明では、レーザとしてフェムト秒パルス種光レーザを用いたが、これに限るものではない。加熱を伴わず、対象物の材質も選ばず、ミクロンオーダの微細な加工が可能、透明対象物の内部加工が可能、等の特性を持つピコ秒パルス等の超短パルスのレーザビームを発するものであればよい。また、ヤグレーザを発するレーザ光源んを用いる構成としてもよい。
【0056】
なお、以上の説明では、パルスレーザ光を備える眼科用レーザ手術装置を例に挙げたが、これに限るものではなない。レーザスポットのスポットサイズを変更し、レーザスポットのZ方向の位置を変更してレーザ照射を行い、術眼(患者眼)の手術、治療を行う構成であればよい。例えば、上述した構成を連続波のレーザ光を用いて治療を行う装置(光凝固装置)に用いてもよい。
【0057】
以上のように本発明は実施形態に限られず、種々の変容が可能であり、本発明はこのような変容も技術思想を同一にする範囲において含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本実施形態の眼科用レーザ手術装置の構成図である。
【図2】ビームエキスパンダユニットの構成図である。
【図3】レーザスポットのスポットサイズの変更を説明する図である。
【図4】レーザスポットのZ方向での位置の変更を説明する図である。
【図5】水晶体のレーザ照射領域を説明する図である。
【符号の説明】
【0059】
10 レーザユニット
21 ビームエキスパンダユニット
22 光スキャナ
24 対物レンズ
81、82、83 レンズ
84、85、86 ズームユニット
LE1 第1レンズ群
LE2 第2レンズ群
100 眼科用レーザ手術装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集光されてスポットでプラズマを発生させるパルスレーザ光を出射するレーザ光源と、レーザ光をターゲット位置に照射させる照射光学系であってレーザ光のスポットを3次元的に移動させる移動光学系を有する照射光学系と、を備え、レーザ光によって眼球組織を切断又は破砕する眼科用レーザ手術装置において、
前記照射光学系は、
レーザ光のスポットをターゲット位置に形成するための対物レンズを有し、
前記移動光学系は、
前記対物レンズより上流に配置され,レーザ光のスポットを光軸に対して直交するXY平面上で走査する光スキャナと、
該光スキャナより上流に配置され,レーザ光のビーム径と発散状態又は収束状態を変更するビームエキスパンダユニットであって,
レーザ光のターゲット位置でのスポットサイズを変更するために焦点距離を変更するように構成された第1レンズユニットと、
少なくとも1枚のレンズからなる第2レンズユニットと、
前記第1レンズユニットを経たレーザ光の発散状態又は収束状態を調整するために,前記第1レンズユニットと第2レンズユニットの主平面間距離を変更するための主平面間距離変更ユニットと、
を備える、ことを特徴とする眼科用レーザ手術装置。
【請求項2】
請求項1に記載の眼科用レーザ手術装置において、
前記第1レンズユニットは、焦点距離を変更するためにレンズ間の距離を変更可能に設けられた少なくとも2つのレンズの位置を変更するズームユニットを含み、
前記主平面間距離変更ユニットは、前記第1レンズユニットの主平面と前記第2レンズユニットの主平面との距離を光軸に沿って相対的に変更させる、
ことを特徴とする眼科用レーザ手術装置。
【請求項3】
請求項2に記載の眼科用レーザ手術装置において、
前記第1レンズユニットは、負の屈折力を有し前記第2レンズユニットより上流に配置され、
前記第2レンズユニットは、正の屈折力を有する、
ことを特徴とする眼科用レーザ手術装置。
【請求項4】
請求項3に記載の眼科用レーザ手術装置において、
前記第2レンズユニットは、固定配置され、
前記主平面間距離変更ユニットは、前記第1レンズユニットを光軸に沿って移動させる、
ことを特徴とする眼科用レーザ手術装置。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の何れかの眼科用レーザ手術装置は、
予め設定された照射パターンに基づいて前記主平面間距離変更ユニットを制御し、レーザスポットのターゲット位置をZ方向に沿って移動させる制御手段、
を備えることを特徴とする眼科用レーザ手術装置。
【請求項6】
請求項5に記載の眼科用レーザ手術装置は、
前記第1レンズユニットの焦点距離を検出する焦点距離検出手段を有し、
前記制御手段は、前記焦点距離検出手段の検出結果に基づいて前記第1レンズユニットによって変更されるレーザスポットのスポットサイズに対応させて前記レーザ光源が出射するレーザ光の出力、レーザ光の繰り返し周波数、前記光スキャナの駆動速度、の少なくとも何れか一つを変更する、
ことを特徴とする眼科用レーザ手術装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の眼科用レーザ手術装置は、
角膜組織をレーザにより切開する角膜手術モードと,水晶体組織をレーザによって切開・切開する水晶体手術モードと,を設定する手術モード設定手段を有し、
前記制御手段は、前記手術モード設定手段の設定に基づき,
前記手術モード設定手段において角膜手術モードが設定された場合は,前記第1レンズユニットを制御してレーザスポットを所定の小さいスポットサイズとし、
前記手術モード設定手段において水晶体手術モードが設定された場合は,前記第1レンズユニットを制御してレーザスポットを前記所定の小さいスポットサイズより大きなスポットサイズとする、
ことを特徴とする眼科用レーザ手術装置。
【請求項8】
請求項5乃至7に記載の何れかの眼科用レーザ手術装置は、
術眼の水晶体の深さ方向の情報を入力する深さ情報入力手段と、
該深さ情報入力手段の深さ方向の情報に基づき,深さ位置に対応するレーザスポットのスポットサイズを定めるスポットサイズ決定手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記スポットサイズ決定手段が定めた深さ位置に対応するスポットサイズに基づいて前記第1レンズユニットを制御してレーザスポットのスポットサイズを変更し、前記主平面間距離変更ユニットを制御してレーザスポットの位置をZ方向に沿って移動させて水晶体にレーザ光を照射する、
ことを特徴とする眼科用レーザ手術装置。
【請求項9】
請求項8の眼科用レーザ手術装置は、
前記深さ方向の情報に基づいて水晶体後嚢から前嚢に向かってレーザを照射しない所定の第1の領域と、前記第1の領域よりも前嚢側でレーザスポットを所定の小さいサイズとする第2の領域と、前記第2の領域よりも前嚢側でレーザスポットを所定の大きいスポットサイズとする第3の領域と、を定めるレーザ照射領域設定手段を備える、
ことを特徴とする眼科用レーザ手術装置。
【請求項10】
術眼にレーザ光を所定のスポット径にて照射する眼科用レーザ手術装置の光学系において、
異なる焦点距離を持つ少なくとも2つのレンズからなる第1レンズユニットであって,入射されるレーザ光のビーム拡大倍率を変更させるために前記少なくとも2つのレンズ間の距離を変更可能に構成された第1レンズユニットと、
少なくとも1枚のレンズからなる第2レンズユニットと、
前記第1レンズユニットを経たレーザ光の発散状態又は収束状態を調整するために,前記第1レンズユニットの各レンズの配置間隔を維持した状態で前記第1レンズユニットと第2レンズユニットの主平面間距離を変更するための主平面間距離変更ユニットと、
を備えることを特徴とする眼科用レーザ手術装置の光学系。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−78399(P2013−78399A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218701(P2011−218701)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)