説明

眼科装置

【課題】 刺激光照射による患者の負担を減らし、刺激光照射前後の網膜評価を好適に行う眼科装置を提供する。
【解決手段】 眼科装置は、眼底観察画像を得る眼底観察光学系と、眼底観察画像から眼底の経時的な動きを検出する検出手段と、眼底観察画像を表示するモニタと、刺激光源から出射された刺激光を眼底に照射させる刺激光照射光学系と、刺激光の照射範囲をモニタの眼底観察画像上で設定する刺激範囲設定手段と、刺激範囲設定手段で設定された照射範囲に基づき刺激光の照射範囲を調節する照射範囲調節手段と、検出手段の検出結果に基づき、照射範囲調節手段による照射範囲の調節を制御する制御手段と、刺激光で刺激された眼底を含む眼底画像または網膜断層画像を撮影する撮影手段と、刺激光照射前後に撮影手段で得られた眼底画像同士又は網膜断層画像同士の演算処理で変化情報を得る演算処理手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼底を観察・撮影する機能を有した眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、網膜の機能を非侵襲で計測する眼科装置が知られている。この装置は、網膜を照明するための光源と、網膜の機能応答を誘導する刺激光を照射する可視光源とを備え、可視光源からの刺激光を眼底全体に照射させ、網膜の刺激前後で取得された画像から、輝度値の差分を求めることで網膜機能の評価を行う(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2002‐521115号公報
【特許文献2】特開2007‐202952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような網膜機能の評価を行う際に、評価したい眼底の部位が既に特定されている場合、被検者眼に対する負担を考慮すれば眼底全体に刺激光を照射する必要はない。一方、刺激光を眼底の所定部位のみに所定時間照射しようとした場合、刺激中に眼が動いてしまうと眼底の所定部位に対して適切な刺激が行えないこととなる。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、刺激光を照射することによる患者への負担を減らすと共に、適切に刺激光を照射することができ、刺激光照射前、及び照射後における被検者眼の網膜評価を好適に行うことのできる眼科装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0007】
(1) 被検者眼の眼底を照明しその反射光を受光素子にて受光することにより眼底観察画像を得る眼底観察光学系と、該眼底観察光学系によって経時的に得られる眼底観察画像から被検者眼の経時的な動きを検出する検出手段と、前記眼底観察光学系により得られた眼底観察画像を表示するモニタと、被検者眼の眼底上に刺激光を照射するための光源を有し,該光源から出射された刺激光を眼底に向けて照射させるための刺激光照射光学系と、該刺激光照射光学系による前記眼底上での刺激光の照射範囲を前記モニタに表示された眼底観察画像上で設定するための刺激範囲設定手段と、該刺激範囲設定手段にて設定された前記照射範囲に基づいて前記眼底における前記刺激光の照射範囲を調節する照射範囲調節手段と、前記検出手段による検出結果に基づいて前記照射範囲調節手段による前記照射範囲の調節を制御するための制御手段と、前記刺激光により刺激された眼底部位を含む眼底画像または網膜断層画像を撮影する撮影手段と、前記刺激光照射前及び照射後に前記撮影手段により得られた眼底画像同士または網膜断層画像同士を演算処理して変化情報を取得する演算処理手段と、を備えることを特徴とする。
(2) (1)の眼科装置において、前記光源は指向性を有する可視光が照射される可視光源であり、前記照射範囲調節手段は眼底上における前記可視光の照射位置を変更するための一対のガルバノミラーであることを特徴とする。
(3) (2)の眼科装置は、前記被検者眼の眼底の深さ方向の前記網膜断層画像を得るための測定光を照射する測定光照射光学系と、該測定光照射光学系による前記網膜断層画像の測定範囲を,前記モニタに表示された前記眼底観察画面上で設定するための測定範囲設定手段と、該測定範囲設定手段で設定された前記測定範囲に基づいて前記眼底における前記測定光の照射範囲を調節する測定範囲調節手段と、を備え、前記制御手段は、更に前記検出手段による検出結果に基づき前記測定範囲調節手段による前記測定範囲の調節を制御し、前記刺激光照射光学系の前記刺激光の照射範囲は,少なくとも前記測定光の照射範囲を含む範囲に設定されることを特徴とする。
(4) (3)の眼科装置において、前記眼底の前記刺激光の照射範囲に前記刺激光照明光学系による前記刺激光が照射されてから、対応する前記測定範囲の位置に前記測定光照射光学系による測定光が照射されるまでの経過時間を設定するための測定時間設定手段とを備えることを特徴とする。
(5) (4)の眼科装置において、前記光源から照射される刺激光の波長及びスポット径の少なくとも一方を調節するための刺激条件設定手段とを、備えることを特徴とする。
(6) (5)の眼科装置において、前記刺激条件設定手段で設定される前記刺激光の波長は,前記網膜断層画像での測定部位に応じて決定されることを特徴とする。
(7) (6)の眼科装置において、前記演算処理手段は、前記刺激光照射光学系による眼底への刺激光の照射前後に前記撮影手段で撮影された前記眼底画像の比較を行い、前記変化情報として前記網膜機能情報を取得することを特徴とする。
(8) (7)の眼科装置は、前記測定光照射光学系による測定光及び前記刺激光照射光学系による刺激光の照射を開始するトリガ信号を入力するための入力手段と、前記測定光及び前記刺激光の照射を制御するための第2制御手段と、を備え、前記第2制御手段は、前記入力手段からのトリガ信号に基づき前記刺激光及び前記測定光の照射を連続して行う制御をすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、刺激光を照射することによる患者の負担を減らすと共に、適切に刺激光を照射することができ、刺激光照射前、及び照射後における被検者眼の網膜評価を好適に行うことのできる眼科装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では眼底を観察・撮影する機能を有する眼科装置の一例として網膜機能計測装置を挙げ、以下に説明する。図1は本実施形態に係る網膜機能計測装置の光学系を示す概略構成図である。
図1において、本装置の光学系は、被検者眼Eの眼底を照明する観察照明光学系10と観察照明光学系10によって照明された網膜からの反射光を受光して眼底画像を得るための受光光学系20からなる眼底観察光学系と、被検者眼の網膜に可視の刺激光を照射して網膜を刺激するための刺激光照射光学系30と、被検者眼を固視させるための固視光学系40と、被検者眼Eの網膜における断層画像を撮影するための干渉光学系(OCT光学系)200と、に大別される。
【0010】
観察照明光学系10は、ハロゲンランプ等の観察光源11、例えば波長800nm〜900nmの赤外光を透過させ可視光をカットする赤外フィルタ12、集光レンズ13、ミラー14、リング状の開口を有するリングスリット15、投光レンズ16、孔あきミラー17、対物レンズ18を含む。なお、リングスリット15及び孔あきミラー17は、被検者眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置されている。観察光源11から発せられた観察用照明光は、赤外フィルタ12により赤外光束とされ、集光レンズ13にて集光されたのち、ミラー14により反射されてリングスリット15を照明する。リングスリット15を透過した光は、投光レンズ16を介して孔あきミラー17に達する。孔あきミラー17のミラー部分で反射された光の大部分は、ダイクロイックミラー60及び対物レンズ18を介して、被検者眼Eの瞳孔付近で一旦収束された後、拡散されて被検者眼Eの網膜の所定領域を連続的に照明する。
【0011】
受光光学系20は、対物レンズ18、光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズ21、結像レンズ22、多数の受光素子からなる撮像素子23(例えば、二次元CCDセンサ)を含む。フォーカシングレンズ21は、駆動機構50の駆動により光軸方向に移動する。観察光源11によって照明された網膜からの反射光は、対物レンズ18、ダイクロイックミラー60を介して孔あきミラー17の前で一旦集光されたのち、孔あきミラー17の開口を通過する。そして、孔あきミラー17の開口(ホール部)を通過した反射光は、フォーカシングレンズ21を介して、結像レンズ22によって集光された後、二次元受光素子23上に結像される。受光光学系20は、眼底で反射した光束を二次元撮像素子により受光して被検者眼の眼底正面画像を撮影する眼底カメラ光学系を形成する。
【0012】
なお、本実施形態では眼底観察光学系として一般的な眼底カメラに用いられる光学系を採用しているが、これに限るものではなく、赤外光を用いて被検者眼Eの眼底正面画像を観察画像として取得できる機構であればよい。例えば、スキャニングレーザオフサルモスコープ(SLO装置)に用いられる眼底観察光学系にて取得される眼底正面画像や、光干渉技術を用いて得られる多数の網膜断層画像を利用して眼底正面画像を形成し、これを観察用の眼底正面画像として用いることもできる。
【0013】
固視光学系40は、可視光を発光する固視光源41、ピンホール(または固視用チャート)42、可視光を反射し赤外光を透過する特性を有するダイクロイックミラー29を持ち、ダイクロイックミラー29から対物レンズ18までの光路を受光光学系20と共用する。ピンホール42は、被検者眼Eの網膜の観察点(撮影点)と略共役な位置に配置される。固視光源41を発した光は、ピンホール42を通り、ダイクロイックミラー29にて反射された後、網膜からの反射光とは逆方向の光路を経て(結像レンズ22から対物レンズ18)被検者眼の網膜上で結像する。
【0014】
次に、ダイクロイックミラー60の反射側に設けられた刺激光照射光学系30及びOCT光学系200の構成について説明する。
刺激光照射光学系30は、網膜の一部(又は全体)に刺激を与えるための刺激光を照射する刺激用光源31、集光レンズ32、ダイクロイックミラー33、2つのガルバノミラーの組み合わせからなる走査部62、リレーレンズ61とが配置されている。なお、ダイクロイックミラー33によって、光源31から照射される刺激光と後述するOCT光源から照射される測定光束とが同軸にされる。
【0015】
刺激用光源31から出力された可視の刺激光は、集光レンズ32、ダイクロイックミラー33、走査部62、リレーレンズ61、ダイクロイックミラー60、対物レンズ18を介して予め設定された被検者眼Eの網膜の領域に順次照射される。なお、以上のような走査部62から対物レンズ18までの光学系は後述するOCT光学系200と光路を共用する。また、走査部62の2つのガルバノミラーは、被検者眼瞳孔と略共役な位置に配置される。
【0016】
刺激用光源31には、周知のレーザ光源が使用される他、SLD光源、LED光源等、眼底に所定のスポット光を形成するために必要な光量及び指向性を備える光源が使用される。また、本実施形態では、刺激用光源31から出力される可視の刺激光(レーザ光)のスポット径は任意のサイズに設定されるようになっている(例えば、数μm〜数百μm程度)。これにより、網膜での刺激光の照射範囲(以下、刺激領域と記す)に応じて適したスポット径で刺激光が照射されるようになる。例えば、網膜への刺激光の刺激領域が小さい場合には、レーザ光のスポット径を小さく設定することで、より精度良く網膜の局所部位での刺激を行うことができる。一方、網膜への刺激光の刺激領域が広い場合には、レーザ光のスポット径を大きくすることで、網膜の刺激が効率よく行われるようになる。更には、刺激光のスポット径は、後述する走査部62の走査によって隣合うスポット径が重なり合わないような大きさに設定されることが好ましい。
【0017】
また、本実施形態では、刺激用光源31から出力される刺激光(レーザ光)の波長が変更可能であるとする。例えば、刺激光の波長を、検査で着目したい眼底の断層部位に応じて、応答が良好に得られることが期待される波長に設定する。このようにすると、目的に応じてより好適に網膜機能の検査を行う事が出来るようになる。ただし、この場合には、後で詳しく説明するダイクロイックミラー60で透過可能な波長の範囲内で刺激光の波長が設定されるようにする。なお、以上のようなレーザ光のスポット径のサイズ及び波長の設定は、後述するコントロール部73の操作で行われる。
【0018】
走査部62の2つのガルバノミラーは、ガルバノミラーが備える走査駆動機構51によりXY方向に駆動される。これにより眼底上でのXY方向の走査が行われる。つまり、ガルバノミラー及び走査駆動機構51は、被検者眼の眼底上で横断方向(XY方向)に刺激光(及び後述するOCT光学系200からの測定光)を走査させるために刺激光(及び測定光)の進行方向を変える光スキャナ(光走査部)として用いられる。なお、ガルバノミラーの駆動位置は、刺激光(及び測定光)の走査位置と予め対応付けがなされている。なお、本実施形態ではOCT光学系200と刺激光照射光学系30とは走査部62を共用する構成としたが、これに限るものではなく、別々の走査部を持つようにすることも可能である。また、刺激光照射光学系30の走査部をOCT光学系200とは独立して設けた場合、走査部としてデジタルマイクロミラーデバイスを用いることも可能である。
【0019】
また、本実施形態の走査部62は、2つのガルバノミラーによって刺激光(及び測定光)の反射角度を任意に調節することで、眼底上に走査させる刺激光(及び測定光)の走査範囲(照射範囲)を任意に設定できる構成となっている。このような構成により、眼底の所定の領域(範囲)のみを選択的に刺激可能であり、刺激した領域の断層画像を得ることができる。
【0020】
なお、眼底に対するの刺激光の刺激領域は後述するコントロール部73の操作で、その領域の外形及びサイズが任意に設定されるようになっている(例えば、線、四角形、丸形、多角形、フリーハンドで形成された任意の形状等)。このようにすると、機能検査を行いたい眼底の局所領域のみに、効率よく刺激光が照射されるようになり、患者の負担を減らすことが出来ると共に、眼底全体に与える刺激光の光量を最小限に抑えることができる。つまり、以上のような、刺激光照射光学系30による刺激光の各種照射条件(照射径、波長、刺激領域等)の設定は、後述するOCT光学系200による眼底に対する撮影範囲全体が含まれる範囲に設定されるようにする。なお、刺激領域の設定は、刺激光の照射径等を考慮して、測定範囲全体が含まれる刺激領域となるように、制御部70により刺激領域の設定が可能な範囲が制限されるようにしても良い。同様に自動的に刺激領域が設定される場合も、測定範囲全体を含むように刺激領域が設定されるようにする。
【0021】
そして、制御部70によって刺激用光源31からの刺激光の照射の有無(光源の点灯と消灯)が、走査部62の走査に連動して制御されることで、予め設定された眼底領域に刺激光が照射されるようになる。また、本実施形態では、刺激光照射光学系30から照射される刺激光の照射位置は、後述する眼底追尾(トラッキング)により検出される基準位置からのずれ情報(移動情報)に基づき、その照射位置(範囲)が随時補正(更新)されるようになっている。このような、刺激光の照射位置の補正についての詳細な説明は後述する。
【0022】
OCT光学系200は、OCT光源27から出射された光束を測定光束と参照光束に分け、測定光束を眼底に導き,参照光束を参照光学系に導いた後、眼底で反射した測定光束と参照光束との合成により得られる干渉光を受光素子に受光させる。OCT光源27はOCT光学系200の測定光及び参照光として用いられる低コヒーレントな光を発する。例えば、OCT光源27には、中心波長1050nmで50nmの帯域を持つSLD光源等が用いられる。ファイバーカップラー(ビームスプリッタ)26は、光分割部材と光結合部材としての役割を兼用する。なお、OCT光源27から発せられた光は、導光路である光ファイバ67を介して、ファイバーカップラー26に入射されて、参照光と測定光とに分割される。そして、測定光は光ファイバ64を介して被検者眼Eへと向かい、参照光は光ファイバ65を介して参照ミラー28へと向かう。
【0023】
なお、測定光を被検者眼Eへ向けて出射する光路には、測定光を出射する光ファイバ64、コリメータレンズ63、ダイクロイックミラー33、光ファイバ64から出射された測定光を所定の方向に反射させるための走査部62、被検者眼の屈折誤差に合わせて光軸方向に移動されるフォーカシングレンズ61とが配置されている。光ファイバ64の端部は、被検者眼の眼底と共役となるように配置される。また、フォーカシングレンズ61は、第1駆動機構61aにより光軸方向に移動される。
【0024】
光ファイバ64から出射された測定光は、コリメータレンズ63、ダイクロイックミラー33を介し、走査部62の2つのガルバノミラーの駆動により反射方向が変えられる。そして、走査部62で反射された測定光は、リレーレンズ61を介して、ダイクロイックミラー60で反射された後、対物レンズ18を介して、被検者眼の眼底に集光される。なお、本実施形態では、上述した刺激光照射光学系30と同様に、後述するコントロール部73等によって、OCT光学系200による網膜上での測定範囲が任意に設定できるようになっている。
【0025】
眼底で反射された測定光は、対物レンズ18を介して、ダイクロイックミラー60で反射し、OCT光学系200に向かい、フォーカシングレンズ61、走査部62の2つのガルバノミラー、ダイクロイックミラー33、コリメータレンズ63を介して、光ファイバ64の端部に入射する。光ファイバ64に入射した測定光は、ファイバーカップラー26に達する。
【0026】
一方、参照光を参照ミラー28に向けて出射する光路には、参照光を出射する光ファイバ65、コリメータレンズ25、参照ミラー28が配置されている。参照ミラー28は、参照光の光路長を変化させるべく、参照ミラー駆動機構52により光軸方向に移動可能な構成となっている。なお、上記の参照光学系は、上記反射型に限るものではなく、透過型の光学系であってもよい。
【0027】
光ファイバー65の端部から出射した参照光は、コリメータレンズ25で平行光束とされ、参照ミラー28で反射された後、コリメータレンズ25により集光されて光ファイバ65の端部に入射する。光ファイバー65に入射した参照光は、ファイバーカップラー26に達する。そして、光源27から発せられた光によって、前述のように生成された参照光と眼底に照射された測定光による眼底反射光は、ファイバーカップラー26にて合成され干渉光とされた後、光ファイバ66の端部から出射される。
【0028】
光ファイバ66からの出射光は、周波数毎の干渉信号を得るために干渉光を周波数成分に分光する分光光学系(スペクトロメータ部)800に入射される。分光光学系800は、コリメータレンズ80、グレーティング(回折格子)81、集光レンズ82、受光素子83にて構成されている。受光素子83は、OCT光源の波長帯域に感度を有する一次元素子(ラインセンサ)を用いている。
【0029】
光ファイバ66の端部から出射された干渉光は、コリメータレンズ80で平行光とされた後、グレーティング81で周波数成分に分光される。グレーティング81で周波数成分に分光された干渉光は、集光レンズ82を介して、受光素子83の受光面に集光する。これにより、受光素子83上で干渉縞のスペクトル情報が記録されて、そのスペクトル情報が制御部70へと入力される。そして、制御部70では入力されたスペクトル情報をフーリエ変換を用いて解析することで、被検者眼の深さ方向における情報(Aスキャン信号)を計測する。なお、制御部70は、走査部62によって測定光を眼底上で所定の横断方向に走査することで断層画像を取得する。すなわち、走査部62をX方向に走査することで、XZ平面の断層画像を取得でき、Y方向に走査することでYZ平面の断層画像を取得できる。なお、本実施形態では、測定光を眼底に対して1次元走査し、断層画像を得る方式をBスキャンとする。また、測定光を眼底に対して2次元的に走査させ、参照ミラーの光路とコヒーレンス長内で一致した場合に得られる干渉信号により2次元的な平面のOCT画像を得る方式をCスキャンとする。更に、走査部62をXY方向に走査することで、立体的な(XZ方向及びYZ方向)の断層画像を得る方式を3Dボリュームスキャン(エリアスキャン)とする。
【0030】
なお、取得された断層画像は、制御部70に接続されたメモリ72に記憶される。さらに、測定光をXY方向に2次元的に走査することにより、眼底の3次元画像を取得することも可能である。なお、本実施形態におけるOCT画像の取得は、走査部62に設けられた2つのガルバノミラーによって行われる。なお、上記説明においては、SD−OCT(Spectral-domain OCT)を例に挙げたが、これに限るものではなく、もちろん、SS―OCT(swept source OCT)、TD−OCT(Time domain OCT)でも良い。
【0031】
なお、上述したようにダイクロイックミラー60は、眼底観察光学系の光路とOCT光学系200の光路を分割する光分割部材として用いられている。本実施形態のダイクロイックミラー60は、OCT光学系200に用いられる測定光源27から発せられた赤外の測定光の波長及び後述する刺激光照射光学系30の光源31から発せされる可視の刺激光の波長を反射し、観察照明光学系10から照射される赤外光及び固視標光学系40からの可視光の波長を透過する特性を有する。
【0032】
つまり、本実施形態では、OCT光学系200の光源27による断層画像の取得に用いる赤外の測定光と観察照明光学系10からの赤外の観察光とが互いに異なる波長帯域のものが使用されていると共に、固視光学系40の光源41による可視光と刺激光照射光学系30の光源31による網膜の刺激に用いられる可視の刺激光の波長とが、互いに異なる波長帯域のものが使用されている。これにより、測定光と観察光、照明光と刺激光との干渉が回避されて、網膜断層像と眼底正面像とがそれぞれ好適に計測されると共に、刺激光による眼底の局所部位の刺激が好適に行なわれるようになる。なお、各照射光の役割がそれぞれ十分に果たせるのであれば、各光源の波長帯域の一部が干渉していても良く、同様にダイクロイックミラー60の波長特性も完全に分離されていなくても良い。
【0033】
なお、ダイクロイックミラー60の代わりに、偏光ビームスプリッタを用いても良い。この場合、各光源からの光束を偏光ビームスプリッタの特性に合わせて、所定の指向性を持たせるようにする。例えば、偏光ビームスプリッタとして、P偏光を透過してS偏光を反射する特性の薄膜がコーティングされたものを使用する場合、光源27からの測定光(赤外光)及び光源31からの刺激光(可視光)の偏光方向をS偏光光にすると共に、光源11からの観察光(赤外光)及び光源41からの可視光の偏光方向をP偏光光にする。このようにすると、偏光ビームスプリッタに入射された各光源からの光束が、互いに干渉しないように反射又は透過させることができるようになる。
【0034】
制御部70は装置全体の制御を行う。制御部70には、観察光源11、OCT光源27、刺激用光源31、固視光源41、フォーカス駆動機構50、撮像素子23、走査駆動機構51、参照ミラー駆動機構52、フォーカシングレンズ61を光軸方向に移動させるための第1駆動機構61a、受光素子83が接続されている。なお、制御部70は、眼底の画像形成や網膜機能を画像化するための画像処理部として機能する。また、眼底撮影光学系20の受光素子23からの信号に基づき眼球追尾(トラッキング)を行うと共に、その情報に基づいて刺激照明光学系30から照射される刺激光、及びOCT光学系200から照射される測定光の照射位置の補正を行う制御をする。
【0035】
これ以外にも、制御部70には眼底観察光学系で撮影された眼底像が表示されるモニタ75、メモリ72、コントロール部73等が接続されている。なお、メモリ72には、眼底正面像及び網膜断層像の撮影、並びに網膜機能の演算に必要となる各種情報が記憶される他、刺激照明光学系30による刺激光の各種照射条件等が記憶されている。また、コントロール部73には、撮影スイッチ,刺激光照射スイッチ,解析スイッチ,等の各種条件設定や操作を行うための各種スイッチが設けられている。
【0036】
制御部70は、受光素子83から出力される受光信号に基づく画像処理にて眼底の断層像を形成すると共に、撮像素子23から出力された撮像信号に基づく画像処理により眼底正面像を形成する(図2参照)。なお、本実施形態では断層画像の取得と眼底正面像の取得は、同時並行で行われるものとしている。また、撮像素子23のフレームレートは、断層画像を取得する際のフレームレートに合わせて設定されるとする(例えば、30fps〜50fpsに設定される)。
更に、制御部70は、上述したOCT光学系200、走査部62(ガルバノミラーの走査駆動機構51)、刺激光照射光学系30を制御して、眼底の走査範囲を連続的に走査し、受光素子83からの信号に基づいて網膜刺激前後の網膜断層像を所定時間連続的に取得する。
【0037】
次に、以上のような構成を備える網膜機能計測装置を用いて網膜機能の計測をする場合の動作を説明する。なお、ここではエリアスキャンによるOCT画像を取得して、網膜機能の測定を行う場合を例に挙げて説明する。
まず、検者はコントロール部73を用いて、刺激光照射光学系30による刺激光の照射スポット径,波長等、撮影前の事前準備としての各種条件設定を行う。次に、検者は固視光源41を点灯させて被検者眼Eを固視させた状態で、眼底正面像がモニタ75上に表示されるように、装置のアライメントを行う。なお、アライメントは図示を略す周知のジョイスティック等を用いたマニュアル操作で行うことができる。これ以外にも、被検者眼の角膜に所定のアライメント輝点を形成すると共に、前眼部像に形成された角膜輝点像を検出する周知の前眼部観察光学系を光軸L1上に設けることで、被検者眼と装置とのアライメントが自動的に行われるようにしても良い。被検者眼と装置との位置合わせが完了するると、各光源からの光束が被検者眼Eの眼底に照射されるようになる。
【0038】
ここで、図2にモニタ75に表示される眼底画像の例を示す。なお、図2には眼底正面像(眼底観察)が表示されている状態が示されている。モニタ75に眼底正面像Gfが表示されると、検者はコントロール部73を用いて眼底の断層画像を撮影する測定範囲91を設定する。例えば、ここでは、被検者眼Eの視神経乳頭の周辺に確認された病変部を含むように測定範囲91が設定されるとする。次に、検者はコントロール部73の操作で眼底正面像Gfの所定位置に刺激光を照射する刺激領域90を設定する。なお、刺激領域90は、制御部70によって予め設定された刺激光の照射径等に基づき、少なくとも測定範囲91全体が含まれるようにその照射範囲が定められるようになっている。これにより、測定範囲91の位置での網膜機能測定が好適に行われるようになる。
【0039】
また、本実施形態では、眼底観察光学系により経時的に得られる眼底画像を用いて、制御部70による画像処理で被検者眼の微動を検出し、検出結果に応じて測定光及び刺激光の照射位置の補正を行う眼底追尾(トラッキング)が行われるようになっている。図3にトラッキングの原理についての説明図を示す。ここでは、制御部70は撮像素子23で撮像された計測開始時の1画像(第1の眼底正面像)を基準画像として、装置による被検者眼の眼底追尾(トラッキング)を行う。
【0040】
まず、制御部70は、撮像素子23から出力された計測開始時の1画像(第1の正面像)を基準画像として登録する。次に、検者はコントロール部73を用いて、モニタ75の眼底正面像Gf上で、パターンマッチングが可能な眼底の特徴部位(例えば、乳頭、血管等)を少なくとも一つ以上選択する。なお、特徴部位の指定にはモニタ75に表示される矩形のグラフィック93が用いられる(図2参照)。検者によるコントロール部73の操作でグラフィック93が移動され、眼底の特徴部位が指定されると、制御部70は指定された位置の輝度情報や座標等を対応付けてメモリ72に記憶させる。なお、眼底の特徴部位の設定は自動的に行われても良い。例えば、制御部70によって眼底正面像Gfに含まれる乳頭部等の特徴部分が画像処理で自動的に抽出されることで、眼底の特徴部位が自動的に設定されるようにしても良い。
【0041】
以上のようにして、眼底の特徴部位として選択された少なくとも1つ以上の画像領域がテンプレート画像(B1〜B4)として登録される(図3(a)参照)。この場合、画像B1〜B4の中心座標(図中の小円参照)が算出され、各中心座標を中心とする所定の画像領域がテンプレートとなり、撮像素子23からの出力画像に対するテンプレートマッチングに用いられる。制御部70は、各テンプレート画像(B1〜B4)を用いて経時的に随時取得される計測画像(眼底正面像)に対してテンプレートマッチングを行い、計測画像(眼底正面像)におけるテンプレート画像の座標位置に基づいて走査位置のずれを検出する。
【0042】
より具体的には、制御部70は、最初のフレームの断層画像が取得されると、さらに、ガルバノミラーを駆動させて次のフレームの断層画像(第2の断層画像)の取得を開始する。また、次のフレームの計測画像(第2の眼底正面像)が取得されると、決定されたテンプレート画像と計測画像においてテンプレートマッチング(基準画像、計測画像間の相互相関解析による評価)を行う(図3(b)参照)。そして、制御部70は、基準画像と計測画像において、画像B1〜B4の中心座標位置の移動情報(例えば、移動方向、移動量)をそれぞれ算出し、この平均を眼球移動情報ΔPとして得る。
【0043】
次に、制御部70は、上記のようにして検出された位置ずれ検出信号(眼球移動情報ΔP)に基づいて次のフレームの断層画像(第3の断層画像)を取得する際の測定光の走査位置を予め設定する。具体的には、制御部70は、算出された眼球移動情報ΔPに基づき、基準画像に対し設定された走査の始点と終点(スキャンラインSL参照)を補正する。この場合、基準画像の走査の始点と終点のそれぞれに移動情報ΔPを加えた走査位置が補正位置として設定される。
【0044】
そして、次のフレームの断層画像(第3の断層画像)を取得する場合、制御部70は、補正された走査位置情報に基づいてガルバノミラーを駆動して断層画像を得る。この場合、上記のように補正された始点位置に基づいてガルバノミラー駆動信号が出力され、網膜に対する測定光の走査が開始する。そして、眼底上に設定されたある走査範囲を測定光が走査し、補正された終点位置にて測定光の走査が終了する。そして、断層画像がメモリ72に記憶される。
【0045】
以上のように、制御部70は、画像処理によるテンプレートマッチング、スキャンラインの決定を逐次行うことで、測定光の眼球追尾(トラッキング)を行う。すなわち、制御部70は、所定のフレームレートにて撮像素子23からの出力信号に基づいて眼底正面画像を随時取得し、随時取得される計測画像と基準画像とを比較して眼球移動情報ΔP(走査位置のずれ情報)を検出する。そして、検出された眼球移動情報ΔPに基づいて測定光の走査位置を随時補正し、補正された走査位置に基づいて断層画像を得る(アクティブトラッキング)。また、随時取得される眼底正面像における各テンプレート画像B1〜B4の座標位置に基づいてテンプレートマッチングを行う際の検索領域を随時更新する。
【0046】
以上のように、測定前の各種条件設定が完了したら、刺激光照射前のOCT画像の撮影が行われる。コントロール部73からの信号が入力されると、予め指定された測定範囲91での撮影が行われるように、制御部70は走査駆動機構51を駆動させ走査部62のガルバノミラーの走査角度を制御する。なお、ここでは、エリアスキャンが行われるため、測定光が眼底の測定範囲91に対して2次元的に走査されるように走査部62のガルバノミラーの走査角度が制御される。一方、受光素子83では、参照光と眼底からの測定光の反射光(以下、反射測定光)との合成による干渉光が逐次検出され、これにより、制御部70は奥行方向(Z方向)からの反射強度分布を取得する。そして、制御部70は、得られた反射強度分布に基づいて眼底のOCT画像(エリアスキャン画像)を得る。
一方、制御部70は、眼底観察光学系により撮像される眼底正面像(静止画像)を同時に取得する。そして、眼底正面像とOCT画像(エリアスキャン画像)とを関連付けてメモリ72に記憶させる。
【0047】
次に、検者は、刺激光照射スイッチ73cの操作で、上述したように設定された眼底の刺激領域90に刺激光を照射させる。スイッチ73cが押されると、刺激光照射光源30の光源31が点灯され、所定のスポット径及び波長のレーザ光(刺激光)が出力される。光源31からの刺激光は、走査部62のダイクロイックミラーで反射されて、被検者眼の眼底に照射される。この時、走査駆動機構51によりダイクロイックミラーの反射角度が調節されることで、刺激光はコントロール部73の走査で予め設定された刺激範囲90上に順次照射されるようになる。
【0048】
なお、本実施形態では刺激光の照射時にも、前述したようなトラッキングが行われる。これにより、網膜に刺激光が照射されることで、被検者眼の微動が大きくなったとしても、上述のようにして取得された眼底のずれ情報(言い換えれば、走査位置のずれ情報)に基づき、刺激光の照射位置が随時補正されて指定された刺激領域90内に正しく照射されるようになる。これにより、予め指定された測定範囲91の位置が刺激光により好適に刺激されるようになる。なお、本実施形態では、刺激光の照射スポットごとのトラッキングが行われている。つまり、走査位置のずれ情報に基づき、刺激光の照射位置がスポット単位で補正されるようになっている(刺激光とスキャンラインのスポットとが一対になっている)。
【0049】
これ以外にも、刺激領域90全体の位置が、走査位置のずれ情報に基づき補正されるようにしても良い。この場合には、刺激領域90と刺激光の照射位置との位置関係が保たれた状態で、全体的な位置ずれ補正が行われるようになる。そして、この場合にも予め指定された刺激領域内90での刺激が精度良く行なわれるようになる。なお、刺激光の照射時に行なわれるトラッキングについては上述した測定光の照射時のトラッキングと同じ原理であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0050】
以上のように、刺激領域90への刺激光の照射の完了後、制御部70は再び測定範囲91で測定光を走査させることで、刺激光照射後の眼底正面画像及び網膜断層像を取得して、関連付けてメモリ72に記憶させる。なお、この場合にも、制御部70によるトラッキングが継続して行われる。これにより、走査位置のずれ情報に基づき、測定光の照射位置の補正が随時行われるようになっている。これにより、刺激光照射前後での眼底画像の整合が好適にとられるようになる。
【0051】
ところで、従来技術の装置では、網膜全体への刺激光の照射を一度で行った後に、測定光による走査で1つの眼底画像を取得している。その為、エリアスキャン、Cスキャン又はBスキャンで眼底画像の撮影を行う場合には、1つの眼底画像に、刺激光の照射完了後からの経過時間に差(遅延時間)が含まれることになる(例えば、50Hz×100ラインのエリアスキャン画像を取得する場合には、2秒程度の遅延時間が発生することが予想される)。一方、本実施形態では、網膜への刺激光の照射を、走査部による走査にて随時行っている。その為、刺激光を照射するタイミングと測定光による眼底画像を取得するタイミングとを調節することで、刺激光の照射後からの経過時間が一定となるように1つの眼底画像を取得することができるようになる。このようにすると、取得された眼底画像を用いて、被検者眼の網膜機能の測定をより精度良く得ることができるようになる。
【0052】
なお、本実施形態において、測定光の照射速度に比べて、刺激光の照射速度を遅く設定するようにしても良い。このようにすると、刺激領域90での十分な刺激光による刺激が行なわれる用になる。なお、この場合にも、刺激光と測定光との同期がとられるように、制御部70による走査部62の制御が行われることで、刺激照射完了後から一定時間経過後の眼底画像がより正確に取得されるようになる。
【0053】
<内因性信号の抽出>
上記のようにして所定時間内における断層画像の連続取得が完了したら、制御部70は、メモリ72に記憶された断層画像の明るさ(輝度)の変化を画素ごとに求める。明るさの変化は、差分や比などを求めることによって得られる。このように断層画像の輝度値の変化を算出することで、内因性信号が抽出される。そして、制御部70は、明るさの変化情報を各画素に対応させてモニタ75に表示する。
【0054】
例えば、制御部70は、網膜刺激前の所定時間内(例えば、2秒)に取得された複数枚の断層画像を加算平均させた加算平均画像と、網膜刺激後の所定時間内(例えば、刺激後8秒間)に取得された複数枚の断層画像を加算平均させた加算平均画像との明るさの変化情報を求めるようにしてもよい。なお、刺激前と刺激後の断層画像の枚数が同じ場合には、加算平均画像ではなく、加算画像でもよい。
【0055】
また、制御部70は、経時的に取得される断層画像におけるある部位での輝度値の時間変化を算出し、算出結果を表示するようにしてもよい(例えば、グラフ、表、等)。時間変化を求める輝度値としては、例えば、視細胞層などある網膜層に対応する各輝度値の平均値、網膜上の微小領域における輝度値、などが挙げられる。
【0056】
以上に示したように、網膜の局所部位のみに刺激光が照射されるため、患者への負担が軽減されると共に、網膜に照射する刺激光の光量が少なくなることで、眼の微動の影響も少なくできる。これにより、眼の動きにより生じる測定位置の誤差などの発生が抑えられて、より精度良く網膜の機能測定が行われる用になる。また、眼球の動きをリアルタイムで捉え、ガルバノミラーにフィードバックさせることにより、眼球運動が生じた場合でも、常に同一部位の断層画像が計測できるようになる。
【0057】
なお、上記ではエリアスキャンの場合に網膜の断層画像を得る場合を例に挙げて説明したが、Aスキャン、Bスキャン及びCスキャンの場合にも、本発明の構成を利用して網膜機能測定を好適に行うことができる。なお、測定光を眼底に対して1次元走査し、断層画像を得る方式をBスキャンの場合には、網膜上に測定光が一つのライン状に走査されることになる。そこで、この場合には、被検者眼の微動によるトラッキングを考慮して、測定光の照射位置に対する刺激光の照射範囲が十分になるように、刺激光のスポット径が決定されるようにする。また、被検者眼の微動によるトラッキングの追尾速度を考慮して、測定光に対する刺激光の走査速度が遅く設定されても良い。このようにすると、トラッキングにより刺激領域の所定位置に正確に刺激光が照射されるようになる。この場合にも、測定光の走査速度と刺激光の走査速度との整合を取ることで、刺激光の照射後で一定時間経過後に断層画像が好適に得られるようになる。これによりより精度良く網膜の機能測定が行えるようになる。
更に、上記の構成では、OCT光学系200からの測定光と、刺激光照射光学系30からの刺激光とを共通の走査部62を用いて網膜に導くようにしているため、装置の構成をより簡単にすることができる。
【0058】
次に、図4に第2実施形態の網膜機能計測装置の構成の概略構成図を示す。なお、以降の説明において、上述の網膜機能計測装置と同一の構成には同じ図番号を用いて説明する。ここでは、刺激照明光学系30が眼底観察光学系側に設けられている例が示されている。具体的には、眼底観察光学系の光軸L1上に、ハーフミラー102が配置され、その反射光軸上に、第2走査部100、集光レンズ32、刺激用光源31からなる刺激光照明光学系30が設けられている。そして、第2走査部100の2枚のガルバノミラーは第2走査駆動機構101によって駆動されるようになっている。以上のような構成により、OCT光学系200からの測定光が走査部62で走査されることで、予め設定された所定の測定範囲での測定が行われるようになる。一方、刺激光照射光学系30からの刺激光は光軸L1上に設けられた2つのガルバノミラーの組み合わせからなる第2走査部100の走査で、網膜の所定領域に反射される。これにより、予め測定範囲に対応して設定された所定の刺激領域に刺激光が照射されるようになる。なお、この場合にも、走査部62と第2走査部100の走査角度(走査時間等)の同期が取られることで、刺激光の照射後の一定時間経過後に、測定光が照射される測定範囲の各位置においての測定が行われるようになる。
【0059】
なお、以上のように、OCT光学系200からの測定光と、刺激光照射光学系30からの刺激光学系とが別々の走査部で走査されると、測定光と刺激光とが同時に照射可能となる。これにより、より測定方法の幅を広げることができるようになる。例えば、測定範囲が広い場合には、刺激光による照射範囲(刺激領域)も広くなるため、刺激領域全体への刺激光の照射に時間が係ることも想定される。特に、網膜からの応答を良好に得るために、刺激光の照射速度を比較的遅く設定する場合等には時間が掛かるようになる。そこで、刺激光による網膜刺激が継続された状態で、一定時間経過後の測定光による測定を並行して行うようにしても良い。また、以上のような構成にすることで、測定光を照射してから直ぐに刺激光を照射する事が出来ると共に、刺激光の照射直後で測定を行うことができるようになる。これにより、網膜機能測定の測定条件の幅を広げる事が出来るようになる。また、測定光と刺激光とが照射される全体的な時間を短くすることができ、網膜機能計測を効率よく行うことができるようになる。
【0060】
また、コントロール部73からの1回の入力信号(トリガ信号)によって上述したような測定光と刺激光の照射が連続して行われる用にしても良い。つまり、制御部70は、走査部62の動作に連動させて測定光及び刺激光の照射のタイミングを自動的に切換えることで、刺激光照射前の測定光の照射、刺激光照射、刺激光照射後の測定光の照射が連続して行われるようにする。
【0061】
また、この場合には、測定光と刺激光とが、同一の走査ライン上で交互に照射されるようにしても良い。例えば、制御部70は、走査部62の走査と連動させて、測定範囲(刺激範囲)での1スキャン毎に測定光と刺激光の照射とを交互に繰り返し行う制御をする。このようにすると、網膜機能計測の時間が短縮されることが期待される。
【0062】
更には、上記のOCT光学系200と眼底観察光学系に変えて、周知の眼底カメラの光学系と刺激光学系30とを組合せるようにしても良い。更には、被検者眼の眼底観察を行う周知のスキャニングオフサルモスコープ(SLO)光学系と刺激光学系30とを組合せることによって、網膜機能の測定を行うようにしても良い。
【0063】
また、網膜機能を評価する眼科装置以外にも、被検者眼の眼底観察を行うための眼底観察光学系と、ガルバノミラーな等を用いて眼底の所定領域に刺激光を照射可能な刺激光照射光学系を備えるような眼科装置であれば、本発明を適用することが可能である。例えば、網膜に対して光凝固を行うためのレーザ光を照射させる機能を有したレーザ治療装置において、治療用のレーザ光を本実施形態での刺激光として捉え、光凝固手術を行う前と後の眼底画像を取得して治療効果を評価する際にも本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】網膜機能計測装置の光学系の概略構成図である。
【図2】モニタの表示画面の例である。
【図3】トラッキングの原理についての説明図である。
【図4】第2実施形態の網膜機能計測装置の光学系の概略構成図である。
【符号の説明】
【0065】
10 観察照明光学系
11、27、31、41 光源
20 受光光学系
30 刺激光照射光学系
40 固視光学系
62、100 走査部
70 制御部
72 メモリ
73 コントロール部
75 モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者眼の眼底を照明しその反射光を受光素子にて受光することにより眼底観察画像を得る眼底観察光学系と、
該眼底観察光学系によって経時的に得られる眼底観察画像から被検者眼の経時的な動きを検出する検出手段と、
前記眼底観察光学系により得られた眼底観察画像を表示するモニタと、
被検者眼の眼底上に刺激光を照射するための光源を有し,該光源から出射された刺激光を眼底に向けて照射させるための刺激光照射光学系と、
該刺激光照射光学系による前記眼底上での刺激光の照射範囲を前記モニタに表示された眼底観察画像上で設定するための刺激範囲設定手段と、
該刺激範囲設定手段にて設定された前記照射範囲に基づいて前記眼底における前記刺激光の照射範囲を調節する照射範囲調節手段と、
前記検出手段による検出結果に基づいて前記照射範囲調節手段による前記照射範囲の調節を制御するための制御手段と、
前記刺激光により刺激された眼底部位を含む眼底画像または網膜断層画像を撮影する撮影手段と、
前記刺激光照射前及び照射後に前記撮影手段により得られた眼底画像同士または網膜断層画像同士を演算処理して変化情報を取得する演算処理手段と、
を備えることを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
請求項1の眼科装置において、前記光源は指向性を有する可視光が照射される可視光源であり、前記照射範囲調節手段は眼底上における前記可視光の照射位置を変更するための一対のガルバノミラーであることを特徴とする眼科装置。
【請求項3】
請求項2の眼科装置は、
前記被検者眼の眼底の深さ方向の前記網膜断層画像を得るための測定光を照射する測定光照射光学系と、
該測定光照射光学系による前記網膜断層画像の測定範囲を,前記モニタに表示された前記眼底観察画面上で設定するための測定範囲設定手段と、
該測定範囲設定手段で設定された前記測定範囲に基づいて前記眼底における前記測定光の照射範囲を調節する測定範囲調節手段と、
を備え、
前記制御手段は、更に前記検出手段による検出結果に基づき前記測定範囲調節手段による前記測定範囲の調節を制御し、
前記刺激光照射光学系の前記刺激光の照射範囲は,少なくとも前記測定光の照射範囲を含む範囲に設定されることを特徴とする眼科装置。
【請求項4】
請求項3の眼科装置において、
前記眼底の前記刺激光の照射範囲に前記刺激光照明光学系による前記刺激光が照射されてから、対応する前記測定範囲の位置に前記測定光照射光学系による測定光が照射されるまでの経過時間を設定するための測定時間設定手段とを備えることを特徴とする眼科装置。
【請求項5】
請求項4の眼科装置において、
前記光源から照射される刺激光の波長及びスポット径の少なくとも一方を調節するための刺激条件設定手段とを、備えることを特徴とする眼科装置。
【請求項6】
請求項5の眼科装置において、
前記刺激条件設定手段で設定される前記刺激光の波長は,前記網膜断層画像での測定部位に応じて決定されることを特徴とする眼科装置。
【請求項7】
請求項6の眼科装置において、
前記演算処理手段は、前記刺激光照射光学系による眼底への刺激光の照射前後に前記撮影手段で撮影された前記眼底画像の比較を行い、前記変化情報として前記網膜機能情報を取得することを特徴とする眼科装置。
【請求項8】
請求項7の眼科装置は、
前記測定光照射光学系による測定光及び前記刺激光照射光学系による刺激光の照射を開始するトリガ信号を入力するための入力手段と、
前記測定光及び前記刺激光の照射を制御するための第2制御手段と、を備え、
前記第2制御手段は、前記入力手段からのトリガ信号に基づき前記刺激光及び前記測定光の照射を連続して行う制御をすることを特徴とする眼科装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−161382(P2012−161382A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22169(P2011−22169)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)