説明

眼鏡レンズの位置決め装置及び加工装置

【課題】高屈折度数の眼鏡レンズをレンズ搬送治具に対して簡単に位置決めすることができる眼鏡レンズの位置決め装置の提供。
【解決手段】光源と、基準マークSが設けられた透光性部材61と、光源から照射されるとともに透光性部材61と累進多焦点レンズLとを透過する検出光Pを受光する受光部63Aを有するモニター63と、このモニター63と累進多焦点レンズLとの間に配置され累進多焦点レンズLを透過する検出光Pの光路をモニター63の受光部63Aに向けて変更するプリズム8とを備えた。累進多焦点レンズLが高屈折度数を有する場合、モニター63の受光部63Aと累進多焦点レンズLとの間に光路変更部材としてプリズム8を配置するので、累進多焦点レンズLを透過する検出光Pの光路がモニター63に向けて変更されることになり、検出光Pが確実にモニター63の受光部63Aに入射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズを加工する際に眼鏡レンズをレンズ搬送治具に対して位置決めする眼鏡レンズの位置決め装置、及びこの位置決め装置で位置決めされた眼鏡レンズを加工する加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡店において、眼鏡レンズを顧客が所望する眼鏡フレームに組み込むために、そのフレームの形状に合わせて眼鏡レンズの外形形状を切削加工する枠入れ加工が行なわれている。この作業では、顧客が眼鏡を装着したときに、眼鏡レンズのフィッティングポイントと眼の瞳孔中心とが一致するように位置決めして加工する必要があり、累進多焦点眼鏡レンズの場合には、眼鏡レンズの左右の識別や、上下方向の識別も行わなければならない。
【0003】
枠入れ加工に従事する作業者には高度な技術が求められる。特に、累進多焦点レンズの枠入れ作業においては、度数測定も容易ではなく、枠入れ精度を確保することが難しいので、作業者が簡単かつ正確に作業できるように、眼鏡店に納入される眼鏡レンズ表面には、予め作業の目安となるレイアウトパターンがマーキングされている。
【0004】
このレイアウトパターンは、例えば、累進多焦点レンズの水平方向を示す水平基準線、遠用部の度数を測定する位置を示す遠用度数測定位置、近用部の度数を測定する位置を示す近用度数測定位置、フィッティングポイント、左右の識別記号等のレイアウト記号等で構成されるものであり、顔料、エポキシ樹脂、有機溶剤等が含有されアルコール等で消去可能なインクによってマーキングされている。
このようなレイアウトパターンの印刷を行う前に、累進多焦点レンズに成形型から予め転写された隠しマークを検出し、フィッティングポイント等の基準となる位置を求め、累進多焦点レンズの位置決めをする必要がある。
【0005】
そのため、予め隠しマークが設けられた眼鏡レンズに印刷をする印刷装置を備えた眼鏡レンズの加工装置が知られている。この加工装置には、予め隠しマークが設けられた眼鏡レンズを搬送するレンズ搬送治具と、このレンズ搬送治具に眼鏡レンズを位置決めする位置決め装置と、この位置決め装置で位置決めされた眼鏡レンズに印刷をする印刷装置とを備えた従来例がある(特許文献1)。
特許文献1で示される従来例では、眼鏡レンズの位置決め装置は、累進多焦点レンズの隠しマークの位置に対応した位置合わせマークが設けられたガラス板を介して累進多焦点レンズに向けてレーザー装置からレーザー光を照射し、その透過光をスリガラスに投影し、投影された画像をモニターで見ながら隠しマークの位置と位置決めマークの位置とを一致させるように、累進多焦点レンズを上下左右へ移動、さらに回転させるなどして位置を調整するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−45873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で示される従来例では、高屈折度数の眼鏡レンズを位置決めする場合、レーザー装置から照射されるレーザー光は眼鏡レンズによって大きく屈折してしまい、眼鏡レンズから透過したレーザー光はモニターの受光部に入射しない不都合がある。
この不都合を回避するには、モニターの受光部を大きくし、あるいは、モニター自体を移動可能な構造とすればよいが、それでは、コストが大きなものとなる。
【0008】
本発明の目的は、高屈折度数の眼鏡レンズをレンズ搬送治具に対して簡単に位置決めすることができる眼鏡レンズの位置決め装置及び加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の眼鏡レンズの位置決め装置は、予め隠しマークが設けられた眼鏡レンズをレンズ搬送治具に位置決めする眼鏡レンズの位置決め装置であって、光源と、基準マークが設けられた透光性部材と、前記光源から照射されるとともに前記透光性部材と前記眼鏡レンズとを透過する検出光を受光する受光部を有するモニターと、このモニターと前記眼鏡レンズとの間に配置され前記眼鏡レンズを透過する検出光の光路を前記モニターに向けて変更する光路変更部材とを備えたことを特徴とする。
この構成の本発明では、光源から照射される検出光は透光性部材を透過した後、眼鏡レンズで屈折してモニターの受光部に入射される。モニターには、透光性部材に予め設けられた基準マークと眼鏡レンズに予め設けられた隠れマークとが映し出されることになり、基準マークに隠れマークが一致するように眼鏡レンズを移動させ、その状態で、眼鏡レンズをレンズ搬送治具に固定する。
ここで、眼鏡レンズが高屈折度数を有する場合、光源から照射された検出光は、眼鏡レンズで大きく屈折した後にモニター側の面から出射され、モニターの受光部から外れて入射できなくなることがあるが、本発明では、モニターと眼鏡レンズとの間に光路変更部材を配置するので、この光路変更部材によって眼鏡レンズを透過する検出光の光路がモニターに向けて変更することになり、確実にモニターの受光部に入射する。これに対して、眼鏡レンズの屈折度数が高くない場合には、光路変更部材を用いることなく、従来と同様な方法で眼鏡レンズの位置決めを行う。
従って、本発明では、光路変更部材を眼鏡レンズとモニターとの間に配置するという簡易な方法によって、高屈折度数の眼鏡レンズをレンズ搬送治具に対して正確に位置決めすることができる。
【0010】
前記光路変更部材は、前記眼鏡レンズのプリズム屈折力の基底方向とは逆の基底方向のプリズム屈折力を有する光学部品である構成が好ましい。
この構成の本発明では、眼鏡レンズのプリズム屈折力と光学部品のプリズム屈折力とが相殺されるので、光学部品から出射される検出光は眼鏡レンズに入射された検出光と平行となり、眼鏡レンズとモニターとの間の距離にかかわらずモニターの受光部に正確に入射することになる。
【0011】
前記光学部品は、プリズムである構成が好ましい。
この構成の本発明では、光学部品を簡易な構造とすることで、装置のコストを低いものにできる。
【0012】
前記光学部品は、メニスカスレンズである構成が好ましい。
この構成の本発明では、光学部品を簡易な構造とすることで、装置のコストを低いものにできる。
【0013】
前記光路変更部材は、前記眼鏡レンズを透過する検出光を前記モニターに向けて反射させるミラー部材である構成が好ましい。
この構成の本発明では、光路変更部材をミラー部材という簡易な構造とすることで、装置のコストを低いものにできる。
【0014】
前記光路変更部材は、ホルダーに設けられている構成が好ましい。
この構成の本発明では、光路変更部材をホルダーに設けることで、ホルダーを介して光路変更部材の設置作業を容易に行える。
【0015】
前記ホルダーは、前記眼鏡レンズのモニター側の面に着脱自在に取り付けられる構成が好ましい。
この構成の本発明では、ホルダーをゴム等の吸盤から構成し、光路変更部材を装着したホルダーを眼鏡レンズのモニター側の面に装着する。そのため、光路変更部材の設置位置をレンズの出射面に近接させることができるので、光路変更部材を小さくすることができる。
しかも、光路変更部材を取り付けた状態で眼鏡レンズにセットすることができるので、位置決め作業を容易に行える。
【0016】
前記ホルダーは、前記レンズ搬送治具に着脱自在に設けられる構成が好ましい。
この構成の本発明では、ホルダーをレンズ搬送治具に設置するので、眼鏡レンズの曲率にかかわらず、光路変更部材を正確に設置することができる。
【0017】
本発明の眼鏡レンズの加工装置は、予め隠しマークが設けられた眼鏡レンズを搬送するレンズ搬送治具と、前記眼鏡レンズを前記レンズ搬送治具に位置決めする眼鏡レンズの位置決め装置と、この位置決め装置で位置決めされた眼鏡レンズに印刷をする印刷装置とを備えた眼鏡レンズの加工装置であって、前記位置決め装置は、光源と、基準マークが設けられた透光性部材と、前記光源から照射されるとともに前記透光性部材と前記眼鏡レンズとを透過する検出光を観察するモニターと、このモニターと前記眼鏡レンズとの間に配置され前記眼鏡レンズを透過する検出光の光路を前記モニターに向けて変更する光路変更部材とを有することを特徴とする。
この構成の本発明では、前述の通り、位置決め装置で眼鏡レンズとレンズ搬送治具とを正確に位置決めできるので、このレンズ搬送治具に装着された眼鏡レンズに対して印刷装置で正確に印刷することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる眼鏡レンズの加工装置の概略図。
【図2】本発明の第1実施形態にかかる眼鏡レンズの位置決め装置の概略図。
【図3】本発明の第2実施形態にかかる眼鏡レンズの位置決め装置の概略図。
【図4】本発明の第3実施形態にかかる眼鏡レンズの位置決め装置の概略図。
【図5】本発明の第4実施形態にかかる眼鏡レンズの位置決め装置の概略図。
【図6】本発明の第5実施形態にかかる眼鏡レンズの位置決め装置の概略図。
【図7】本発明の第6実施形態にかかる眼鏡レンズの位置決め装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の第1実施形態にかかる眼鏡レンズの加工装置を、図面を参照して詳細に説明する。
図1には本実施形態の眼鏡レンズの加工装置の全体構成が示されている。
図1において、眼鏡レンズの加工装置1は、主としてレンズにレイアウトパターンの印刷を行うマーキング装置であり、治具装着部2及びマーキング部3を備えている。
治具装着部2は、単焦点レンズを装着する単焦点レンズ治具装着部5と、本実施形態が適用される累進多焦点レンズLを装着する累進多焦点レンズ治具装着部6とを有する。
マーキング部3は印刷装置7を有する。
【0020】
単焦点レンズ治具装着部5は、単焦点レンズ100の光学性能を測定し、単焦点レンズ100の種類毎に単焦点レンズを位置決めし、位置決めした状態でレンズ搬送治具に固定するものであり、単焦点レンズ100を位置決めして載置するターンテーブル状の載置台51と、単焦点レンズ100の度数、乱視軸方向、プリズム基底方向を測定するレンズメーター52とを備えている。
【0021】
この載置台51に隣接して第1搬送装置21が配置され、この第1搬送装置21に隣接して第2搬送装置22が配置されている。第1搬送装置21は単焦点レンズを吸着保持し、第2搬送装置22に渡す。第2搬送装置22は単焦点レンズ100を、その幾何中心を基準としてレンズメーター52の測定位置に搬送するとともにレンズメーター52で光学性能を測定された単焦点レンズ100を位置合わせ部53に受け渡す。
位置合わせ部53は、所定の向きに配置した単焦点レンズ100の幾何中心とレンズ搬送治具10の中心軸とを一致させ、かつ、レンズ搬送治具10の方向と単焦点レンズ100の方向とを合わせて単焦点レンズをレンズ搬送治具10に吸着保持させる。
【0022】
累進多焦点レンズ治具装着部6は、累進多焦点レンズLの位置決めをする位置決め装置60と、単焦点レンズ100とともに累進多焦点レンズLを搬送するレンズ搬送治具10とを備える。
累進多焦点レンズ治具装着部6はターンテーブル6Aの手前側に設けられている。累進多焦点レンズLを吸着保持したレンズ搬送治具10は、ターンテーブル6Aを回転させることにより奥側へ移動する。ターンテーブル6Aの奥側には第3搬送装置23が配置され、この第3搬送装置23は、レンズ搬送治具10をチャックで把持し、印刷装置7の第4搬送装置24へ渡す構成とされる。
【0023】
印刷装置7は、消去可能なインクでレンズ表面にレイアウトパターンを印刷するもので、例えば、インクジェット方式でホットメルトインクを吐出して印刷する装置である。本実施形態では、単焦点レンズと累進多焦点レンズの両方の印刷を行うものであり、第4搬送装置24が単焦点レンズ100や累進多焦点レンズLを吸着保持したレンズ搬送治具10を搬入するようになっている。
【0024】
図2には、本発明の第1実施形態にかかる眼鏡レンズの位置決め装置60とレンズ搬送治具10の概略構成が示されている。なお、各実施形態中、同一構成要素は同一符号を付して説明を省略する。
図2において、レンズ搬送治具10は、累進多焦点レンズLを、その凸面側を上にして載置するものであり、円筒状の本体11と、累進多焦点レンズLの凹面のほぼ中心に接する吸着部12と、図示しない吸引部とを備え、この吸引部には図示しない減圧源が接続されている。吸着部12が減圧源によって減圧されると、吸着部12の先端部120が累進多焦点レンズLの凹面に吸着固定される。
【0025】
眼鏡レンズの位置決め装置60は、予め隠しマークMが凸面に設けられた累進多焦点レンズLをレンズ搬送治具10の吸着部12に位置決めするものであり、レーザー光の検出光Pを照射する図示しない光源と、間に累進多焦点レンズLを挟んで互いに平行に配置される板状の透光性部材61及び板状の投影部材62と、光源から照射されて透光性部材61、累進多焦点レンズL及び投影部材62を透過する検出光Pを受光する受光部63Aを有するモニター63と、投影部材62と累進多焦点レンズLとの間に配置されたプリズム8とを備えて構成される。
【0026】
透光性部材61は、ガラス板から形成され、光源側に位置する入射面には隠しマークMの位置に対応した位置合わせのための目盛りがある基準マークSが設けられている。
投影部材62はレンズ搬送治具10の本体11を挿通する挿通孔62Aが形成されたすりガラスであり、透光性部材61と累進多焦点レンズLとを透過した検出光Pが重ねて投影される。
モニター63は、投影部材62に投影された画像を観察するもので、平面円形の受光部63Aが設けられたモニター本体630と、このモニター本体630で受像した画像を表示する表示装置631とを有する。
【0027】
プリズム8は、累進多焦点レンズLを透過する検出光Pの光路をモニター63の受光部63Aに向けて変更する光路変更部材であり、累進多焦点レンズLのプリズム屈折力の基底方向とは逆の基底方向のプリズム屈折力を有する三角形のガラス製光学素子である。
累進多焦点レンズLが高屈折度数を有する場合では、検出光Pの光路Pは累進多焦点レンズLで大きく屈折して受光部63Aから外れることになるが、累進多焦点レンズLと投影部材62との間にプリズム8を配置することにより、累進多焦点レンズLで大きく屈折した検出光Pの光路Pはプリズム8で累進多焦点レンズLのプリズム屈折力の基底方向とは逆の基底方向に変更されて検出光Pが受光部63Aにまっすぐ入射することになる。
【0028】
プリズム8は、累進多焦点レンズLの凹面と対向する入射面8Aと、出射面8Bと、基底8Cとを有し、基底8Cと対向する頂角がαの三角形とされる。本実施形態では、プリズム8は図示しない保持手段により累進多焦点レンズLの出射面である凹面側に配置されている。
ここで、プリズム8の材料の屈折率をn、プリズム量をpとすると、
α={arct(p/100)}/(n−1) ……(1)
となり、累進多焦点レンズLのレンズ中心位置から隠しマークMの中心位置までの距離をt(cm)、レンズ度数(屈折度数)をD(Diopter)、隠しマークM近傍のプリズム屈折力をpm、そして累進多焦点レンズLの検出光の出射側位置とプリズム8の入射面8Aとの間の距離をe(m)とし、さらに入射面8Aの検出光の入射位置を通りかつ累進多焦点レンズLに入射された検出光と平行な直線をh、累進多焦点レンズLの検出光の出射側位置を通りかつ累進多焦点レンズLに入射された検出光と平行な直線をgとした時、直線hと直線gとの距離をf(cm)とすると、
pm=t×D=f/e ……(2)
となる。
【0029】
そして、累進多焦点レンズLの検出光の出射側位置と受光部63Aとの間の距離をa(m)、直線gと受光部63Aの基底8Cとは逆方向側の端点との距離をb(cm)とすると、
検出光Pが受光部63Aで受光される条件は、
p+pm<(b−f)/(a−e) ……(3)
である。
【0030】
例えばプリズム8を配置しない場合を考えてみる。距離tが1.7cm、距離aが0.1m、距離bが15mmであるとすると、累進多焦点レンズLの隠しマークM近傍のプリズム屈折力pmは、式(2)より、1.7D(△)である。なお、1△は1cm/1mである。ここで、プリズム8は配置されていないので、p=0、e=0、f=0として式(3)から
D<(b/a)/t=(1.5/0.1)/1.7≒8.8(Diopter)
となる。つまり、プリズム8を配置しない場合、レンズ度数が8.8Diopter以上のレンズを用いると、検出光Pが受光部63Aから外れてしまうということである。
本実施形態では、レンズ度数が8.8Diopter以上のレンズを用いることが必要であるが、そのためには、プリズム8を累進多焦点レンズLの出射面の側に挟む場合においては、式(2)式(3)より、下式を満たす必要がある。
p<{(b−t×D×e)/(a−e)}−t×D
この式からレンズ度数とプリズム量pとは相対的な関係にあることがわかる。
距離tが1.7cm、距離aが0.1m、距離bが15mmである場合の、レンズ度数Dとプリズム量pとの関係を、距離eを変化させて表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
以上の通り、累進多焦点レンズLのレンズ度数が10以上の高屈折度数では、プリズム8がないと累進多焦点レンズLで透過した検出光がモニター63で表示できないことがわかる。なお、プリズム8の配置位置がレンズの出射面から離れる程、受像に必要なプリズム量は大きくなる。そのため、プリズム8の配置位置がレンズの出射面に近接する方が受像に必要なプリズム量は小さくてよい。さらに、プリズム8を小さくする手段としては、その材質の屈折率を高くするとよい。
【0033】
次に、本実施形態の累進多焦点レンズLの加工方法について説明する。
まず、眼鏡レンズの位置決め装置60を用いて累進多焦点レンズLをレンズ搬送治具10の吸着部12に位置決めする。
そのため、累進多焦点レンズLが高屈折度数を有する場合では、プリズム8を所定位置にセットし、累進多焦点レンズLをレンズ搬送治具10の先端部120に仮置きし、透光性部材61に検出光を光源から照射する。
光源から照射された検出光Pは、透光性部材61の法線と平行に入射し、透光性部材61を出射して累進多焦点レンズLの凸面に入射する。凸面から入射した検出光Pは、累進多焦点レンズLの内部で屈折した後、凹面から出射し、プリズム8の入射面8Aに入射する。検出光Pは、プリズム8の内部では累進多焦点レンズLで屈折した方向とは逆方向に屈折した後、出射面8Bから出射する。この出射光は透光性部材61に入射する光と平行とされる。プリズム8から出射した検出光は、投影部材62の法線と平行に入射する。
投影部材62では、累進多焦点レンズLに設けられた予め隠しマークMと、透光性部材61に設けられた基準マークSとが投影され、これらのマークがモニター63の受光部63Aに受像され、表示装置631で表示される。
これに対して、累進多焦点レンズLの屈折度が高くない場合には、プリズム8を用いることなく、従来と同様な方法で位置決めをする。
【0034】
表示装置631で表示された画像を見ながら、基準マークSに隠しマークMが一致するように累進多焦点レンズLを移動させ、一致した状態で、累進多焦点レンズLをレンズ搬送治具10の吸着部12に吸着固定する。なお、本実施形態では、隠しマークMは1つの累進多焦点レンズLについて2箇所設けられており、この隠しマークMに対応して基準マークSは透光性部材61に2箇所設けられているので、前述の位置決め工程を一対の隠しマークM及び基準マークSに対して実施した後、残りの一対の隠しマークM及び基準マークSに対して実施してもよい。
レンズ搬送治具10に装着された累進多焦点レンズLはターンテーブル6Aの回転によって奥側へ移動され、ここで、レンズ搬送治具10ごと第4搬送装置24へ渡され、さらに、印刷装置7へ送られる。この印刷装置7では、通常の印刷が累進多焦点レンズLに実施される。
【0035】
従って、第1実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)光源と、基準マークSが設けられた透光性部材61と、光源から照射されるとともに透光性部材61と累進多焦点レンズLとを透過する検出光Pを受光する受光部63Aを有するモニター63と、このモニター63と累進多焦点レンズLとの間に配置され累進多焦点レンズLを透過する検出光Pの光路をモニター63の受光部63Aに向けて変更するプリズム8とを備えて位置決め装置60を構成した。そのため、累進多焦点レンズLが高屈折度数を有する場合、モニター63の受光部63Aと累進多焦点レンズLとの間に光路変更部材としてプリズム8を配置するので、累進多焦点レンズLを透過する検出光Pの光路がモニター63に向けて変更されることになり、検出光Pが確実にモニター63の受光部63Aに入射する。そのため、モニター63を移動式にしたり、モニター63を受光部63Aの受光面積を大きなものに変更したりする必要がなく、プリズム8を累進多焦点レンズLとモニターとの間に配置するという簡易な方法によって、高屈折度数の累進多焦点レンズLをレンズ搬送治具10に対して正確に位置決めすることができる。
【0036】
(2)プリズム8は、累進多焦点レンズLのプリズム屈折力の基底方向とは逆の基底方向のプリズム屈折力を有するから、累進多焦点レンズLで屈折するプリズム屈折力をプリズム8のプリズム屈折力で相殺することになるので、プリズム8から出射される検出光Pを累進多焦点レンズLに入射された検出光と平行にすることが可能となる。そのため、累進多焦点レンズLとモニター63との間の距離にかかわらずモニター63の受光部63Aの中心に正確に入射可能となり、この点からも、累進多焦点レンズLの位置決めを正確に行える。
【0037】
(3)前述の構成の位置決め装置60と、この位置決め装置60で位置決めされた累進多焦点レンズLに印刷をする印刷装置7とを備えて眼鏡レンズの加工装置1を構成した。そのため、位置決め装置60で累進多焦点レンズLとレンズ搬送治具10とを正確に位置決めできるので、このレンズ搬送治具10に装着された累進多焦点レンズLに対して印刷装置7で正確に印刷することができる。
【0038】
次に、本発明の第2実施形態を図3に基づいて説明する。
第2実施形態はプリズム8を装着するホルダーを具体的な構造にしたことが第1実施形態とは異なり、他の構成は第1実施形態と同じである。
図3は図2に対応する図である。なお、図3では、図2に図示されているモニター63が省略されている。
図3において、眼鏡レンズの位置決め装置60は、図示しない光源、板状の透光性部材61、板状の投影部材62、モニター63(図2参照)、及びプリズム8を備えて構成される。本実施形態では、プリズム8はホルダー81に設けられており、このホルダー81は累進多焦点レンズLのモニター側に位置する凹面に着脱自在に取り付けられている。
プリズム8は、入射面8A、出射面8B及び基底8Cを有する断面三角形状の光学素子であり、入射面8Aと出射面8Bとが交わる角の部分と基底8Cとにはそれぞれ係止部8Dが突出して形成されている。
【0039】
ホルダー81はゴム等の弾性部材からなる吸盤であり、内部に係止部8Dに係合する係合溝81Aが形成された筒部811と、この筒部811の一端部に形成されたフランジ部812とを有する。なお、筒部811は円筒であっても角筒であってもよい。筒部811が円筒である場合には、プリズム8の入射面8Aの平面形状を筒部811の内周形状に合わせて略円形としてもよく、筒部811が角筒である場合には、プリズム8の入射面8Aの平面形状を矩形状としてもよい。
累進多焦点レンズLのレンズ搬送治具10への位置決め手順は第1実施形態と同じであるが、プリズム8が設けられたホルダー81を累進多焦点レンズLの凹面に装着しておき、レンズ搬送治具10への位置決め並びに印刷工程が終了した後、累進多焦点レンズLの凹面から取り外す点で第1実施形態と異なる。
【0040】
従って、第2実施形態では、第1実施形態の(1)〜(3)と同様の作用効果を奏することができる他、次の作用効果を奏することができる。
(4)プリズム8をホルダー81に設けたから、ホルダー81を介してプリズム8の設置作業を容易に行える。
(5)プリズム8を設けたホルダー81を累進多焦点レンズLのモニター側の面に着脱自在に取り付けたから、プリズム8の設置位置を凹面に近い位置とすることができる。そのため、プリズム8のプリズム量が小さなもので十分であるので、プリズム8自体を小型化することができる。しかも、プリズム8を取り付けた状態で累進多焦点レンズLをセットすることができるので、位置決め作業を容易に行える。
(6)ホルダー81をゴムから構成したので、ホルダー81が弾性変形することで、プリズム8の装着作業を容易に行える。
【0041】
次に、本発明の第3実施形態を図4に基づいて説明する。
第3実施形態はプリズム8を装着するホルダーが第2実施形態とは異なり、他の構成は第2実施形態と同じである。
図4は図3に対応する図である。なお、図4では、図3と同様にモニター63の図示が省略されている。
図4において、眼鏡レンズの位置決め装置60は、図示しない光源、板状の透光性部材61、板状の投影部材62、モニター63(図2参照)、及びプリズム8を備えて構成される。本実施形態では、プリズム8は円板状のホルダー82に設けられており、このホルダー82はレンズ搬送治具10の本体11に着脱自在に設けられる。
つまり、ホルダー82は、本体11に着脱自在に設けられる円筒状の係合部821と、この係合部821の外周部に設けられたリング状部822とを備え、投影部材62とは平行に配置されている。
【0042】
リング状部822はプリズム8の係止部8Dに係合する係合溝が形成されている。係合部821やリング状部822は合成樹脂等の適宜な材質を用いることができる。
累進多焦点レンズLのレンズ搬送治具10への位置決め手順は第2実施形態と同じであるが、プリズム8が設けられたホルダー82をレンズ搬送治具10の本体11に装着する点が第2実施形態と異なる。
【0043】
従って、第3実施形態では、第2実施形態の(1)〜(4)と同様の作用効果を奏することができる他、次の作用効果を奏することができる。
(7)ホルダー82を円板状にし、レンズ搬送治具10の本体11に設置する構成としたので、累進多焦点レンズLの凹面の曲率にかかわらず、プリズム8を正確に設置することができる。
【0044】
次に、本発明の第4実施形態を図5に基づいて説明する。
第4実施形態は光路変更部材としてメニスカスレンズを用いることが第2実施形態とは異なり、他の構成は第2実施形態と同じである。
図5は図3に対応する図である。なお、図5では、図3と同様にモニター63の図示が省略されている。
図5において、眼鏡レンズの位置決め装置60は、図示しない光源、板状の透光性部材61、板状の投影部材62、モニター63(図2参照)、及び光路変更部材としてメニスカスレンズ9を備えて構成される。本実施形態では、メニスカスレンズ9はゴムの吸盤からなる複数のホルダー83に設けられており、これらのホルダー83は累進多焦点レンズLの凹面に着脱自在に取り付けられている。
【0045】
メニスカスレンズ9は、累進多焦点レンズLのプリズム屈折力の基底方向とは逆の基底方向のプリズム屈折力を有するガラス製光学素子である。
メニスカスレンズ9の中心部はレンズ搬送治具10の本体11を挿通するように円形の開口9Aが形成されている。
累進多焦点レンズLのレンズ搬送治具10への位置決め手順は第2実施形態と同じである。
【0046】
従って、第4実施形態では、第2実施形態の(1)〜(6)と同様の作用効果を奏することができる他、次の作用効果を奏することができる。
(8)光路変更部材をメニスカスレンズ9としたから、光路変更部材を簡易な構造とすることで、装置のコストを低いものにできる。
【0047】
次に、本発明の第5実施形態を図6に基づいて説明する。
第5実施形態はプリズム8を装着するホルダーが第2実施形態とは異なり、他の構成は第2実施形態と同じである。
図6は図3に対応する図である。なお、図6では、図3と同様にモニター63の図示が省略されている。
図6において、眼鏡レンズの位置決め装置60は、図示しない光源、板状の透光性部材61、板状の投影部材62、モニター63(図2参照)、及びプリズム8を備えて構成される。本実施形態では、プリズム8はホルダー84に設けられている。
【0048】
ホルダー84は、内部にプリズム8の係止部8Dに係合する係合溝が形成されたホルダー本体841と、このホルダー本体841に一体形成され作業員が手で把持するための把持部842とを備えているものであり、これらの部材は合成樹脂等の適宜な材質から一体形成されている。
累進多焦点レンズLのレンズ搬送治具10への位置決め手順は第2実施形態と同じであるが、位置決め時に作業員がホルダー84の把持部842を持ってプリズム8を累進多焦点レンズLの凹面に近接させる点が第2実施形態と異なる。
【0049】
従って、第5実施形態では、第2実施形態の(1)〜(4)と同様の作用効果を奏することができる他、次の作用効果を奏することができる。
(9)ホルダー84を、プリズム8を保持するホルダー本体841と、このホルダー本体841に一体形成された把持部842とを備えて構成したので、高屈折度を有する累進多焦点レンズLを位置決めする時に、作業員がホルダー84を累進多焦点レンズLの凹面側に配置することで、簡単に、位置決め作業を行うことができる。
【0050】
次に、本発明の第6実施形態を図7に基づいて説明する。
第6実施形態は光路変更部材が第3実施形態とは異なり、他の構成は第3実施形態と同じである。
図7は図3に対応する図である。なお、図7では、図3と同様にモニター63の図示が省略されている。
図7において、眼鏡レンズの位置決め装置60は、図示しない光源、板状の透光性部材61、板状の投影部材62、モニター63(図2参照)、及びミラー部材95を備えて構成される。
【0051】
ミラー部材95は、累進多焦点レンズLを透過する検出光Pの光路をモニター63の受光部63A(図2参照)に向けて変更する光路変更部材である。
本実施形態では、ミラー部材95は円板状のホルダー85に設けられており、このホルダー85はレンズ搬送治具10の本体11に着脱自在に設けられる。
つまり、ホルダー85は、本体11に着脱自在に設けられる円筒状の係合部851と、この係合部851の外周部に設けられたリング状部852とを備え、投影部材62とは平行に配置されている。
累進多焦点レンズLのレンズ搬送治具10への位置決め手順は第3実施形態と同じである。
従って、第6実施形態では、第3実施形態の(1)(3)(4)(7)と同様の作用効果を奏することができる他、次の作用効果を奏することができる。
(10)光路変更部材をミラー部材95としたので、位置決め装置60の構造を簡易なものとしてコストを低いものにできる。
【0052】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。
例えば、前記各実施形態は、累進多焦点レンズLをレンズ搬送治具10に対して位置決めするためのものであったが、単焦点レンズについても本発明を適用することができる。
【0053】
さらに、眼鏡レンズの加工装置として、位置決め装置60で位置決めされた累進多焦点レンズLに印刷をする印刷装置7を備えた構成としたが、本発明では、印刷装置以外の装置、例えば、玉型加工装置についても適用することができる。
また、本発明では、必ずしも、投影部材62を用いることを要しない。
そして、光路変更部材として、プリズム8、メニスカスレンズ9、ミラー部材95以外にも光ファイバーを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、累進多焦点レンズ、単焦点レンズ等の眼鏡レンズを加工する際に眼鏡レンズをレンズ搬送治具に対して位置決めする位置決め装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1…眼鏡レンズの加工装置、2…治具装着部、3…マーキング部、6…累進多焦点レンズ治具装着部、7…印刷装置、8…プリズム(光路変更部材:光学部品)、8A…入射面、8B…出射面、8C…基底、8D…係止部、9…メニスカスレンズ(光路変更部材:光学部品)、10…レンズ搬送治具、60…眼鏡レンズの位置決め装置、61…透光性部材、62…投影部材、63…モニター、63A…受光部、81,82,83,84,85…ホルダー、95…ミラー部材、630…モニター本体、631…表示装置、L…累進多焦点レンズ(眼鏡レンズ)、M…隠しマーク、P…検出光、P0,…光路、S…基準マーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め隠しマークが設けられた眼鏡レンズをレンズ搬送治具に位置決めする眼鏡レンズの位置決め装置であって、
光源と、基準マークが設けられた透光性部材と、前記光源から照射されるとともに前記透光性部材と前記眼鏡レンズとを透過する検出光を受光する受光部を有するモニターと、このモニターと前記眼鏡レンズとの間に配置され前記眼鏡レンズを透過する検出光の光路を前記モニターに向けて変更する光路変更部材とを備えたことを特徴とする眼鏡レンズの位置決め装置。
【請求項2】
請求項1に記載された眼鏡レンズの位置決め装置において、
前記光路変更部材は、前記眼鏡レンズのプリズム屈折力の基底方向とは逆の基底方向のプリズム屈折力を有する光学部品であることを特徴とする眼鏡レンズの位置決め装置。
【請求項3】
請求項2に記載された眼鏡レンズの位置決め装置において、
前記光学部品は、プリズムであることを特徴とする眼鏡レンズの位置決め装置。
【請求項4】
請求項2に記載された眼鏡レンズの位置決め装置において、
前記光学部品は、メニスカスレンズであることを特徴とする眼鏡レンズの位置決め装置。
【請求項5】
請求項1に記載された眼鏡レンズの位置決め装置において、
前記光路変更部材は、前記眼鏡レンズを透過する検出光を前記モニターに向けて反射させるミラー部材であることを特徴とする眼鏡レンズの位置決め装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載された眼鏡レンズの位置決め装置において、
前記光路変更部材は、ホルダーに設けられていることを特徴とする眼鏡レンズの位置決め装置。
【請求項7】
請求項6に記載された眼鏡レンズの位置決め装置において、
前記ホルダーは、前記眼鏡レンズのモニター側の面に着脱自在に取り付けられることを特徴とする眼鏡レンズの位置決め装置。
【請求項8】
請求項7に記載された眼鏡レンズの位置決め装置において、
前記ホルダーは、前記レンズ搬送治具に着脱自在に設けられることを特徴とする眼鏡レンズの位置決め装置。
【請求項9】
予め隠しマークが設けられた眼鏡レンズを搬送するレンズ搬送治具と、前記眼鏡レンズを前記レンズ搬送治具に位置決めする眼鏡レンズの位置決め装置と、この位置決め装置で位置決めされた眼鏡レンズに印刷をする印刷装置とを備えた眼鏡レンズの加工装置であって、
前記位置決め装置は、光源と、基準マークが設けられた透光性部材と、前記光源から照射されるとともに前記透光性部材と前記眼鏡レンズとを透過する検出光を観察するモニターと、このモニターと前記眼鏡レンズとの間に配置され前記眼鏡レンズを透過する検出光の光路を前記モニターに向けて変更する光路変更部材とを有することを特徴とする眼鏡レンズの加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−203194(P2012−203194A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67695(P2011−67695)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】