説明

眼鏡レンズ

【課題】眼に輻輳や開散の異常、あるいは斜位や斜視がある場合にそれらを調整できる眼鏡レンズを提供すること。
【解決手段】本体レンズ2の物体側の近用部領域に水平方向のプリズム屈折力成分を付与した補助レンズ2を形成し、本体レンズ2の眼球側の面の全体に水平方向の第1のプリズム屈折力成分を付与するとともに、補助レンズ3には第1のプリズム屈折力成分を相殺する第2のプリズム屈折力成分を付与するようにした。これによって、眼に輻輳や開散の異常がある場合、あるいは斜位や斜視のある場合にこのような補助レンズ3を形成した眼鏡レンズ1を装用することで、遠方視と近方視の間で視線を移動させる際にプリズム効果によって正常な輻輳や開散を行うことができ、更に斜位や斜視によって眼位が正常でない場合にも視線方向を矯正することができ、その結果眼の疲労が軽減されることとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はいわゆる小玉と呼称される補助レンズを本体レンズの物体側の近用部領域に形成させた眼鏡レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
人の眼は遠方視の状態から視線を近くに移動させる近方視を行った場合に輻輳と呼ばれる眼球が鼻側に内転する眼球運動が生ずる。遠くから近傍に視線を移していくとこの輻輳によって視線は徐々に寄り目状態となる。このように人の眼は近方視において輻輳が生じることで近傍の物体が見やすくなるわけである。
ところが、この眼の輻輳力が弱い人がおり、このような人は遠くを見ている場合にはよいが、近くを見る際に通常の輻輳力のある人よりも眼が疲れやすくなってしまう。先天的に眼の輻輳力が弱い場合があるだけでなく、加齢によってすべての人は輻輳力が弱くなっていくのが一般的である。
また、輻輳とは逆に近方視においては問題なく輻輳できるが遠方を見る際に十分に眼球が耳側に戻らない、つまり開散力が弱いという人もおり、この場合でもやはり眼が疲れやすくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−303063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば特許文献1のように輻輳を調整するために近用領域にいわゆる小玉と呼称される補助レンズを形成するという発想はあるものの、特許文献1はそもそも老視用のレンズである凸レンズに生じるベースアウトプリズム効果(光線を外側に屈折させるプリズム効果)を補正するためのものであって、上記のように人の側に生じる輻輳や開散の問題に対応した発明ではない。そのため純粋に眼に輻輳や開散の異常がある場合に対応できる眼鏡レンズが求められていた。
また、角度の大きな斜位や斜視を有する人では眼位が正常な方向とは異なる方向を向くため日常的に疲労やストレスが生じることとなってしまう。そのため、角度の大きな斜位や斜視を有する人の眼位異常に起因する疲労やストレスを軽減できる眼鏡レンズも求められていた。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、眼に輻輳や開散の異常、あるいは斜位や斜視がある場合にそれらを調整できる眼鏡レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための第1の手段として、本体レンズの物体側の近用部領域に水平方向のプリズム屈折力成分を付与した補助レンズを形成したことをその要旨とする。
このような構成とすれば、眼に輻輳や開散の異常がある場合にこのような補助レンズを形成した眼鏡レンズを装用することで、遠方視と近方視の間で視線を移動させる際にプリズム効果によって正常な輻輳や開散を行うことができ、眼の疲労が軽減されることとなる。また、斜位や斜視の眼位異常がある場合には視線方向を矯正することができる。補助レンズを近用部領域に形成するのは、遠用部領域の視界を広くとるためである。
ここで、本体レンズは単焦点レンズであっても累進屈折力レンズであっても構わない。補助レンズの外形形状は特に限定されるものではない。
また、第2の手段として第1の手段に加え、前記本体レンズの眼球側の面の全体に水平方向の第1のプリズム屈折力成分を付与するとともに、前記補助レンズには第1のプリズム屈折力成分を相殺する第2のプリズム屈折力成分を付与したことをその要旨とする。
これによって、特に近用部領域に異常がなく遠用部領域において輻輳や開散異常のある人や斜位や斜視のある人に装用させる眼鏡レンズを提供することが可能となる。補助レンズは遠用部領域に配置すると本体レンズとの境界部分が目立ちすぎ、また、他者から見られる際にも補助レンズがレンズ上方にあることは違和感を与えがちであるが、このような構成であれば通常のいわゆる小玉レンズの形成された眼鏡レンズと外観上なんら異なることがないので装用することに抵抗もない。
第2の手段においては、本体レンズの裏面側に第1のプリズム屈折力成分を付与することが好ましい。そして、その場合には補助レンズの物体側(つまり表面側)ベースカーブと本体レンズの物体側ベースカーブは同一カーブで設定されるべきである。
また、第3の手段として第2の手段に加え、前記第1のプリズム屈折力成分は耳側に向かって前記本体レンズを肉厚とすることで付与され、前記第2のプリズム屈折力成分は鼻側に向かって前記補助レンズを肉厚とすることで付与されるようにしたことをその要旨とする。これは特に遠用部領域において開散異常のある人が装用する場合にさせる場合の設計となる。
また、第4の手段として第2又は3の手段に加え、前記第1のプリズム屈折力成分と前記第2のプリズム屈折力成分は向きが正反対の同じプリズム量に設定されていることをその要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
上記各請求項の発明では、眼に輻輳や開散の異常がある場合、あるいは斜位や斜視のある場合にこのような補助レンズを形成した眼鏡レンズを装用することで、遠方視と近方視の間で視線を移動させる際にプリズム効果によって正常な輻輳や開散を行うことができ、更に斜位や斜視によって眼位が正常でない場合にも視線方向を矯正することができ、その結果眼の疲労が軽減されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の各実施例のレンズの正面図。
【図2】実施例1の眼鏡レンズの具体的なプリズム量の分布状態を示した分布図であって(a)は本体レンズ単独の分布状態、(b)は補助レンズ単独の分布状態、(c)は眼鏡レンズ全体としての分布状態。
【図3】実施例2の眼鏡レンズの具体的なプリズム量の分布状態を示した分布図であって(a)は本体レンズ単独の分布状態、(b)は補助レンズ単独の分布状態、(c)は眼鏡レンズ全体としての分布状態。
【図4】実施例3の眼鏡レンズの具体的なプリズム量の分布状態を示した分布図であって(a)は本体レンズ単独の分布状態、(b)は補助レンズ単独の分布状態、(c)は眼鏡レンズ全体としての分布状態。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の眼鏡レンズの実施例について図面に従って説明をする。
(実施例1)
図1は本発明の実施例である眼鏡レンズ1のレイアウトを説明する正面図である。眼鏡レンズ1はフレーム入れ加工をする前の円形の外形の本体レンズ2と近用部領域に形成された補助レンズ3とから構成されている。本実施例1では眼鏡レンズ1は本体レンズ2と補助レンズ3の雌型となるモールドにモノマーを注入して加熱硬化させたプラスチックレンズとする。
実施例1の眼鏡レンズ1のデータは以下の通りである。本体レンズ2の幾何中心Oに対して補助レンズ3の中心は2mm鼻側方向にあり、補助レンズ3の上縁は光学中心から5mm下方にある。
A.本体レンズ2について
・表カーブ(ベースカーブ):1.523換算で4カーブ
・中心厚 2mm
・レンズ径 75mm
・素材屈折率 1.60
・S+0.00D
・C+0.00D
・プリズム量 0
B.補助レンズ3について
・表カーブ(ベースカーブ):1.523換算で4カーブ
縦17mm
横25mm
プリズム量 2
プリズムの基底方向 鼻側
【0009】
図2(a)〜(c)は実施例1の眼鏡レンズ1の具体的なプリズム量の分布状態を示した図である。本実施例1ではプリズム屈折力成分は補助レンズ3の物体側(つまり表面側)に付与され、補助レンズ3は鼻側に向かって肉厚となるような形状とされている。この結果、補助レンズ3は横断面において鼻側が厚くなるようなわずかな勾配を有することとなる。補助レンズ3のベースカーブは本体レンズ2と同じである。本体レンズ2にはプリズムは付与されていない。
このような構成とすることで、近方視において輻輳力の弱い人がこの眼鏡レンズを装用すると、補助レンズ3のある近用部領域において近方視した際にプリズム作用によって内側への屈折作用が生じるため、無理なく近距離の物体を目視することができるので、眼の疲労が軽減される。また、外斜位や外斜視によって眼位が正常でない場合にも視線方向を矯正することができる。
【0010】
(実施例2)
実施例2も実施例1と同じレイアウトの同じ製法で作製されたプラスチックレンズである。実施例2の眼鏡レンズ1のデータは以下の通りである。
A.本体レンズ2について
・表カーブ(ベースカーブ):1.523換算で4カーブ
・中心厚 2mm
・レンズ径 75mm
・素材屈折率 1.60
・S+0.00D
・C+0.00D
・プリズム量 2
・プリズムの基底方向 耳側
B.補助レンズ3について
・表カーブ(ベースカーブ):1.523換算で4カーブ
縦17mm
横25mm
プリズム量 2
プリズムの基底方向 鼻側
【0011】
図3(a)〜(c)は実施例2の眼鏡レンズ1の具体的なプリズム量の分布状態を示した図である。尚、以下において図上の数値についてプリズムインの場合(鼻側に屈曲させるプリズム)を表す場合はiをプリズムアウトを表す場合をoを添え字に使用するものとする。プリズムインとプリズムアウトは互いに正と負の関係にある。
本実施例2でもプリズム屈折力成分は補助レンズ3の物体側(つまり表面側)に付与され、補助レンズ3は鼻側に向かって肉厚となるような形状とされている。補助レンズ3のベースカーブは本体レンズ2と同じである。また、実施例1と異なり本体レンズ2の裏面には全面にプリズムが付与されている。本体レンズ2では補助レンズ3と向きが正反対の同じプリズム量で耳側に向かって肉厚となるように付与されている。この結果、本体レンズ2裏面は横断面において耳側が厚くなるようなわずかな勾配を有することとなる。
このような構成とすることで、遠方視において開散力の弱い人がこの眼鏡レンズを装用すると、本体レンズ2の補助レンズ3部分を除いた領域(主として遠用部領域)でプリズム作用によって外側への屈折作用が生じるため、無理なく遠距離の物体を目視することができるので、眼の疲労が軽減される。また、内斜位や内斜視によって眼位が正常でない場合にも視線方向を矯正することができる。一方、輻輳に問題のない近方視においてはプリズムが打ち消し合って通常の裸眼での目視状態と同等の目視が確保される。
【0012】
(実施例3)
実施例3も実施例1と同じレイアウトの同じ製法で作製されたプラスチックレンズである。実施例3の眼鏡レンズ1のデータは以下の通りである。
A.本体レンズ2について
・表カーブ(ベースカーブ):1.523換算で4カーブ
・中心厚 2mm
・レンズ径 75mm
・素材屈折率 1.60
・S−1.00D
・C+0.00D
・プリズム量 2
・プリズムの基底方向 鼻側
B.補助レンズ3について
・表カーブ(ベースカーブ):1.523換算で4カーブ
縦17mm
横25mm
プリズム量 2
プリズムの基底方向 耳側
【0013】
図4(a)〜(c)は実施例3の眼鏡レンズ1の具体的なプリズム量の分布状態を示した図である。本実施例3でもプリズム屈折力成分は補助レンズ3の物体側(つまり表面側)に形成され、補助レンズ3は実施例2とは異なり耳側に向かって肉厚となるような形状とされている。補助レンズ3のベースカーブは本体レンズ2と同じである。また、実施例3でも本体レンズ2の裏面には全面にプリズムが付与されているが、S度数が設定されているため、レンズの水平方向の位置によって見た目のプリズム屈折力成分が異なる(縦方向については同じである)。実施例3では本体レンズ2では補助レンズ3と正反対の同じプリズム量で鼻側に向かって肉厚となるようにプリズム屈折力成分が付与されている。
このような構成とすることで、遠方視において輻輳力の弱い人がこの眼鏡レンズを装用すると、本体レンズ2の補助レンズ3部分を除いた領域(主として遠用部領域)でプリズム作用によって内側への屈折作用が生じるため、無理なく遠距離の物体を目視することができるので、眼の疲労が軽減される。また、外斜位や外斜視によって眼位が正常でない場合にも視線方向を矯正することができる。一方、輻輳に問題のない近方視においてはプリズムが打ち消し合って通常のS度数のみの設定されたレンズの目視状態と同等の目視が確保される。
【0014】
尚、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・上記実施例1では補助レンズ3は鼻側に向かって肉厚となるような形状とされているが、装用者に開散の異常がある場合には逆に耳側に向かって肉厚となるような形状とすることになる。
・上記各眼鏡レンズ1はモールド成形によって本体レンズ2と補助レンズ3を一体的に成形するようにしていたが、るプラスチックレンズであったが、本体レンズ2と補助レンズ3を別々に作製し、補助レンズ3を本体レンズ2の所定位置に接着するようにしてもよい。
・上記各眼鏡レンズ1はモールド成形によるプラスチックレンズであったが、ガラスで作製するようにしてもよい。
その他本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
【符号の説明】
【0015】
1…眼鏡レンズ、2…本体レンズ、3…補助レンズ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体レンズの物体側の近用部領域に水平方向のプリズム屈折力成分を付与した補助レンズを形成したことを特徴とする眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記本体レンズの眼球側の面の全体に水平方向の第1のプリズム屈折力成分を付与するとともに、前記補助レンズには第1のプリズム屈折力成分を相殺する第2のプリズム屈折力成分を付与したことを特徴とする請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記第1のプリズム屈折力成分は耳側に向かって前記本体レンズを肉厚とすることで付与され、前記第2のプリズム屈折力成分は鼻側に向かって前記補助レンズを肉厚とすることで付与されることを特徴とする請求項2に記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記第1のプリズム屈折力成分と前記第2のプリズム屈折力成分は向きが正反対の同じプリズム量に設定されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の眼鏡レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−107298(P2011−107298A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260649(P2009−260649)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)