説明

眼障害を処置するための方法および組成物

【課題】眼障害を処置するための改善された方法および組成物を提供すること。
【解決手段】本発明は眼障害の処置方法を提供する。本発明の方法は、該障害を処置するために患者の眼にクロストリジウム毒素を局部投与するステップを含んでなる。眼障害は眼の炎症を伴い得、例えば細菌性結膜炎、真菌性結膜炎、ウイルス性結膜炎、ブドウ膜炎、角膜裏面沈着、黄斑浮腫、および眼内レンズ移植後の炎症反応を包含する。クロストリジウム毒素は、Clostridial beratti、Clostridia butyricum、Clostridial tetani菌、および/またはClostridial botulinum によって産生されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼障害を処置する方法、および該障害を処置するためのクロストリジウム毒素を含有する組成物に関する。本発明はとりわけ、炎症を伴う眼障害の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼表面組織の炎症または赤みは、比較的よく見られる症状である。炎症を伴う眼障害は、例えば細菌性結膜炎、真菌性結膜炎、ウイルス性結膜炎、ブドウ膜炎、角膜裏面沈着、黄斑浮腫、および眼内レンズ移植後の炎症反応を包含する。
【0003】
このような状態を処置するために、さまざまな処置方法が用いられている。最も一般的な処置は、炎症による不快感を軽減し、該状態に伴う赤みを除去するよう設計された緩和剤および他の成分を含有する点眼剤を投与することを含む。しかし、このような処置は充分満足できるものではない。
【0004】
例えば、従来の処置法ではしばしば、医薬点眼剤を頻繁に適用する。しかし、市販点眼剤の多くは、眼に非常に有害であり得る成分である保存剤を含有する。したがって、市販点眼剤の繁用は眼に有害でありうる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
眼障害を処置するための改善された方法および組成物が依然必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は眼障害を処置するための組成物および方法を提供する。特に、本発明の方法および組成物は、クロストリジウム毒素の使用を伴う。
本発明は部分的に、眼障害を処置するためにクロストリジウム毒素を患者(例えば哺乳動物)の眼に投与しうるという驚くべき発見に基づく。
【0007】
さまざまな筋肉疾患を処置するために臨床的によく用いられるクロストリジウム毒素は、ボツリヌス毒素である。例えば、ボツリヌス毒素は、活動過多な骨格筋によって特徴付けられる神経筋障害を処置するために臨床的状況において使用されている。A型ボツリヌス毒素複合体は、本態性眼瞼痙攣、斜視および片側顔面痙攣を処置するために1989年に米国食品医薬品局によって承認された。その後、A型ボツリヌス毒素は頸部ジストニーの処置および眉間しわの処置のためにもFDAによって承認され、B型ボツリヌス毒素は頸部ジストニーの処置のために承認された。非A型ボツリヌス毒素は、A型ボツリヌス毒素と比較して、効力が小さく、および/または活性持続が短いようである。末梢筋肉内A型ボツリヌス毒素の臨床的効果は、通常、注射後1週間以内に認められる。A型ボツリヌス毒素の単回筋肉内注射による症候緩和の典型的な継続時間は平均約3ヶ月であり得るが、顕著により長い処置活性期間も報告されている。
【0008】
A型ボツリヌス毒素は下記のように臨床的に使用されている:
(1)頸部ジストニーを処置するための筋肉内注射(多数の筋肉)あたり約75単位〜125単位のBOTOX(登録商標);
(2)眉間のしわを処置するための筋肉内注射あたり約5単位〜10単位のBOTOX(登録商標)(5単位が鼻根筋に筋肉内注射され、10単位がそれぞれの皺眉筋に筋肉内注射される);
(3)恥骨直腸筋の括約筋内注射による便秘を処置するための約30単位〜80単位のBOTOX(登録商標);
(4)上瞼の外側瞼板前部眼輪筋および下瞼の外側瞼板前部眼輪筋に注射することによって眼瞼痙攣を処置するために筋肉あたり約1単位〜5単位の筋肉内注射されるBOTOX(登録商標);
【0009】
(5)斜視を処置するために、外眼筋に、約1単位〜5単位のBOTOX(登録商標)が筋肉内注射されている。この場合、注射量は、注射される筋肉のサイズと所望する筋肉麻痺の程度(すなわち、所望するジオプター矯正量)との両方に基づいて変化する。
(6)卒中後の上肢痙性を処置するために、下記のように5つの異なる上肢屈筋にBOTOX(登録商標)が筋肉内注射される:
(a)深指屈筋:7.5U〜30U
(b)浅指屈筋:7.5U〜30U
(c)尺側手根屈筋:10U〜40U
(d)橈側手根屈筋:15U〜60U
(e)上腕二頭筋:50U〜200U。5つの示された筋肉のそれぞれには同じ処置時に注射されるので、患者には、それぞれの処置毎に筋肉内注射によって90U〜360Uの上肢屈筋BOTOX(登録商標)が投与される。
(7)偏頭痛を治療するために、25UのBOTOX(登録商標)を頭蓋周囲に注射する(眉間、前頭および側頭筋に対称的に注射する):該注射は、偏頭痛頻度、最大重症度、付随嘔吐および急性薬剤使用の減少(25U注射後の3ヶ月間にわたる)によって評価した場合に、ビヒクルと比較して、偏頭痛の予防療法として有意な利益を与える。
【0010】
さらに、筋肉内ボツリヌス毒素は、パーキンソン病の患者の振せんの治療にも使用されているが、結果は顕著でないことが報告されている。Marjama-Jyons,J.ら、"Tremor-Predominant Parkinson's Disease",Drugs & Aging 16(4), 273-278, 2000。
【0011】
末梢部位における薬理作用を有する他に、ボツリヌス毒素は、中枢神経系における阻害作用も有しうる。Weigandら[Nauny-Schmiedeberg's Arch.Pharmacol. 1976, 292,161-165]、およびHabermann[Nauny-Schmiedeberg's Arch.Pharmacol. 1974, 281,47-56]の研究は、ボツリヌス毒素が逆行性輸送によって脊髄領域へ上行しうることを示している。従って、末梢部位(例えば筋肉内)に注射されたボツリヌス毒素は、脊髄に逆行輸送されうる。
【0012】
米国特許第5989545号は、特定の標的化成分に化学的に結合させるかまたは組換え的に融合させた改質クロストリジウム属神経毒またはそのフラグメント、好ましくはボツリヌス毒素を使用して、脊髄に薬剤を投与することによって痛みを治療できることを開示している。
【0013】
ボツリヌス毒素は、次のような状態の処置にも提案されている:鼻漏、多汗、および自律神経系によって仲介される他の障害(米国特許第5766605号)、緊張頭痛(米国特許第6458365号)、片頭痛(米国特許第5714468号)、術後痛および内臓痛(米国特許第6464986号)、脊髄内毒素投与による痛みの処置(米国特許第6133915号)、頭蓋内毒素投与によるパーキンソン病および運動障害成分を有する他の障害の処置(米国特許第6306403号)、毛髪の成長および維持(米国特許第6299893号)、乾癬および皮膚炎(米国特許第5670484号)、筋肉障害(米国特許第6423319号)、種々の癌(米国特許第6139845号)、膵臓疾患(米国特許第6143306号)、平滑筋疾患(米国特許第5437291号、上部および下部食道、幽門および肛門括約筋へのボツリヌス毒素注射を包含する)、前立腺疾患(米国特許第6365164号)、炎症、関節炎および痛風(米国特許第6063768号)、若年性脳性麻痺(米国特許第6395277号)、内耳疾患(米国特許第6265379号)、甲状腺疾患(米国特許第6358513号)、副甲状腺疾患(米国特許第6328977号)。更に、制御放出毒素インプラントが知られている(例えば米国特許第6306423号および第6312708号参照)。
【0014】
本発明は眼障害の処置方法を提供する。本発明の方法は、該障害を処置するために哺乳動物の眼にクロストリジウム毒素を局部投与するステップを含んでなる。いくつかの態様においては、本発明の方法は、該障害を処置するために哺乳動物の角膜にクロストリジウム毒素を局部投与するステップを含んでなる。例えば、眼障害を処置するためにクロストリジウム毒素を角膜に局所投与しうる。いくつかの態様においては、クロストリジウム毒素と共に血管収縮剤を投与する。
【0015】
また、本発明によると、眼障害は眼の炎症を伴う。炎症を伴う眼疾患の例は、細菌性結膜炎、真菌性結膜炎、ウイルス性結膜炎、ブドウ膜炎、角膜裏面沈着、黄斑浮腫、および眼内レンズ移植後の炎症反応を包含するが、それらに限定されない。
【0016】
本発明は、眼障害の処置に使用しうる組成物を提供する。本発明によると、組成物は、眼科学的に許容しうる担体、組成物を眼に投与することによって眼障害を処置するのに有効な量のクロストリジウム毒素、および組成物を眼に投与することによって眼に潤滑性を付与するのに有効な量のポリアニオン性成分を含有する。いくつかの態様においては、組成物は溶液である。いくつかの態様においては、クロストリジウム毒素は、Clostridial beratti、Clostridia butyricum、Clostridial tetani菌、またはClostridial botulinum が産生する毒素でありうる。いくつかの態様においては、クロストリジウム毒素は、A型、B型、C1型、D型、E型、F型、G型のボツリヌス毒素および/またはそれらの混合物でありうる。いくつかの態様においては、クロストリジウム毒素はA型ボツリヌス毒素である。いくつかの態様においては、ポリアニオン性成分は、アニオン性セルロース誘導体(例えばカルボキシメチルセルロース)を含む。いくつかの態様においては、組成物は血管収縮剤をも含有する。
【0017】
本書に記載する特徴または特徴の組み合わせはいずれも、背景、本明細書、および当業者の知識から明らかになるように、上記組み合わせをなす特徴が相互に矛盾しない限り、本発明の範囲に含まれる。
本発明の更なる利点および側面は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、哺乳動物の眼にクロストリジウム毒素を投与することによって眼障害を処置することに関する。本発明において「哺乳動物」は、例えばヒト、ラット、ウサギ、マウスおよびイヌを包含する。以下記載するクロストリジウム毒素または組成物のいずれも、本発明の方法に使用しうる。
【0019】
いくつかの態様においては、眼障害は眼の炎症を伴う。炎症を伴う眼障害の例は、細菌性結膜炎、真菌性結膜炎、ウイルス性結膜炎、ブドウ膜炎、角膜裏面沈着、黄斑浮腫、および眼内レンズ移植後の炎症反応を包含するが、それらに限定されない。
【0020】
何らかの理論または作用機序によって本発明を制限するわけではないが、考えられるのは、眼の炎症、例えば角膜の炎症は、部分的に、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の放出によるものであるということである。例えば透明な角膜表面の好中球浸潤は、ヒト眼の角膜炎症の特徴である。Tranらは、角膜知覚神経末端から放出されることが知られる神経ペプチドCGRPが、ヒト角膜上皮細胞(HCEC)に結合し得、好中球走化タンパク質IL−8の発現を誘導し得ることを示した。J. Immunol. 2000 Apr 15; 164(8): 4307-12。
【0021】
Tranらは特に次のようなことを示した:HCECはKd2.0×10−9MでCGRPと飽和するよう結合した。HCECをCGRPに曝露すると、細胞内cAMPレベルの顕著な上昇が導かれ、IL−8合成がほぼ4倍に増加した。また、CGRPがcAMPおよびIL−8の合成を刺激する能力は、CGRP受容体拮抗剤CGRP8−37の存在下に抑制された。CGRP刺激は、IL−8mRNAの半減期に影響しないが、IL−8プレmRNA合成を2倍以上増加させた。更に、CGRPは、単球走化プロテイン−1またはRANTESの合成を誘導せず、これら2種のβ−ケモカインに特異的なmRNAの定常レベルの検出可能な上昇も起こさなかった。このような結果に基づき、Tranらは、HCECは、IL−8遺伝子の発現を特異的に活性化し、単球走化プロテイン−1またはRANTESの遺伝子の発現は活性化しないシグナル変換カスケードを開始させうるCGRP受容体を有すると提案している。更に、Tranらは、HCECにおいてIL−8合成を刺激するCGRPの能力は、眼表面の急性炎症の誘発に知覚ニューロンが関与することを示すと結論付けた。
【0022】
また、何らかの理論または作用機序で本発明を制限するわけではないが、眼の知覚ニューロンからのCGRP放出を抑制することは、眼の炎症(好ましくは急性炎症)の処置に有効でありうると考えられる。更に、ニューロン内のCGRPは小胞に入っており、その小胞の放出抑制は、該神経末端からのCGRP放出を抑制しうると考えられる。眼の神経末端からのCGRP放出の抑制に、クロストリジウム毒素を有効に使用しうる。
【0023】
いくつかの態様においては、眼障害を処置するためにクロストリジウム毒素を眼に局部投与する。クロストリジウム毒素を眼の角膜に局部投与しうる。一態様においては、眼障害を処置するためにクロストリジウム毒素を局所投与する。例えばクロストリジウム毒素を眼の角膜に局所投与しうる。
【0024】
いくつかの態様においては、炎症を伴う眼障害を処置するために、A型ボツリヌス毒素を眼に局部投与する。いくつかの態様においては、A型ボツリヌス毒素を眼の角膜に投与する。いくつかの態様においては、炎症を伴う眼障害を処置するために、A型ボツリヌス毒素を眼に局所投与する。例えば、炎症を伴う眼障害を処置するためにA型ボツリヌス毒素を眼の角膜に局所投与することができ、ここで眼障害は、細菌性結膜炎、真菌性結膜炎、ウイルス性結膜炎、ブドウ膜炎、角膜裏面沈着、黄斑浮腫、および/または眼内レンズ移植後の炎症反応を包含しうる。
【0025】
いくつかの態様においては、眼障害を処置するためにクロストリジウム毒素を血管収縮剤と共に投与する。血管収縮剤の例は、テトラヒドロゾリン、エフェドリン、ナファゾリン、フェニレフリンおよび/またはそれらの混合物である。血管収縮剤は、後述のように一つの組成物中にクロストリジウム毒素と組み合わせて、あるいは毒素とは別に毒素よりも前または後に投与しうる。
【0026】
本発明の処置方法によれば、患眼を、眼と接触する保存剤の量を低減して処置できるので好都合である。例えば、本発明に従って眼に投与されるクロストリジウム毒素は、保存剤を伴う場合と伴わない場合がある。例えばクロストリジウム毒素が保存剤含有眼用組成物の一成分であるというような場合は、毒素に保存剤が伴う。しかし、有効な処置のためのそのような組成物の投与頻度は、従来の市販眼用製剤の投与頻度と比較して少なくてよい。同じ処置効果を達成するのに、本発明の組成物は市販眼用製剤よりも少ない頻度で投与されるから、本発明の組成物を投与する場合には眼と接触する保存剤の量が少なくなる。
【0027】
当然、当業者は、最適な臨床的結果を達成するのに適当な投与量および投与頻度を決定することができる。すなわち、当業者は、眼障害を有効に処置するために、クロストリジウム毒素(例えばA型ボツリヌス毒素)を適当な量で適当な時期に投与することができる。神経毒の投与量は、眼障害の重篤度を包含する複数の因子に依存する。いくつかの態様において、クロストリジウム毒素の投与量は患眼の炎症を処置(例えば軽減)するのに有効である。本発明に従って用いられるクロストリジウム毒素の用量は、本発明に従って用いられるBOTOX(登録商標)の用量に匹敵しうる。本発明のいくつかの方法において、約0.01〜15U/kg(患者体重1kg当たりのボツリヌス毒素単位数)のBOTOX(登録商標)(すなわちA型ボツリヌス毒素)を患眼に投与しうる。いくつかの態様においては、約0.1〜20U/kgのBOTOX(登録商標)を患眼に投与しうる。約0.1〜30U/kgのBOTOX(登録商標)の使用が、本発明に従って実施される方法の範囲に含まれる。一態様においては、眼障害、例えば細菌性結膜炎、真菌性結膜炎、ウイルス性結膜炎、ブドウ膜炎、角膜裏面沈着、黄斑浮腫、および眼内レンズ移植後の炎症反応を処置するために、約0.1〜150U/kgのボツリヌス毒素(例えばA型)を眼に投与しうる。
【0028】
いくつかの態様においては、有効な眼処置を提供するために、クロストリジウム毒素、例えばA型ボツリヌス毒素を約6日毎に患眼に投与する。クロストリジウム毒素、例えばA型ボツリヌス毒素を、2週間毎、3週間毎、またはそれ以上の間隔を置いて、例えば1ヶ月毎などの間隔で患眼に投与することもできる。
【0029】
本発明の組成物の投与様式は、組成物の形態に保存する。例えば組成物が溶液である場合、組成物の液滴を、例えば従来の点眼器から眼に適用しうる。本発明の組成物は通例、従来の眼用組成物を適用するのと実質的に同じ方法で、眼表面に適用しうる。本発明の組成物のそのような投与により、本明細書中に記載するように、実質的かつ予測を越えた利益がもたらされる。
【0030】
本発明はまた、哺乳動物の眼障害を処置するための組成物を提供する。いくつかの態様においては、本発明の組成物は、眼科学的に許容しうる担体、組成物を眼に投与することによって眼障害を処置するのに有効な量のクロストリジウム毒素、および組成物を眼に投与することによって眼に潤滑性を付与するのに有効な量のポリアニオン性成分を含有する。クロストリジウム毒素は、Clostridial beratti、Clostridia butyricum、Clostridial tetani菌、またはClostridial botulinumが産生しうる。いくつかの態様においては、組成物は溶液である。クロストリジウム毒素は、破傷風毒素およびA型、B型、C1型、D型、E型、F型、G型ボツリヌス毒素および/またはそれらの任意の混合物を包含するが、それらに限定されない。
【0031】
クロストリジウム属には127を越える種があり、形態学および機能に従って分類されている。嫌気性グラム陽性細菌であるボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は、ボツリヌス中毒と呼ばれる神経麻痺性障害をヒトおよび動物において引き起こす強力なポリペプチド神経毒であるボツリヌス毒素を産生する。ボツリヌス菌の胞子は土壌中に見出され、滅菌と密閉が不適切な零細缶詰工場の食品容器内で増殖する可能性があり、これが多くのボツリヌス中毒症例の原因である。ボツリヌス中毒の影響は、通例、ボツリヌス菌の培養物または胞子で汚染された食品を飲食した18〜36時間後に現れる。ボツリヌス毒素は、消化管内を弱毒化されないで通過することができ、そして末梢運動ニューロンを攻撃することができるようである。ボツリヌス毒素中毒の症状は、歩行困難、嚥下困難および会話困難から、呼吸筋の麻痺および死にまで進行し得る。
【0032】
A型ボツリヌス毒素は、人類に知られている最も致死性の天然の生物学的物質である。市販A型ボツリヌス毒素(精製された神経毒複合体;100単位バイアルとして、BOTOX(登録商標)の商標でAllergan,Inc.(カリフォルニア州アービン)から入手可能である)の約50ピコグラムがマウスにおけるLD50(すなわち1単位)である。1単位のBOTOX(登録商標)は、約50ピコグラム(約56アトモル)のA型ボツリヌス毒素複合体を含む。興味深いことに、モル基準でA型ボツリヌス毒素の致死力はジフテリアの18億倍、シアン化ナトリウムの6億倍、コブロトキシンの3000万倍、コレラの1200万倍である。Natuaral Toxins II[B. R. Singhら編、Plenum Press、ニューヨーク(1976)]のSingh、Critical Aspects of Bacterial Protein Toxins、第63〜84頁(第4章)(ここで、記載されるA型ボツリヌス毒素LD50 0.3ng=1Uとは、BOTOX(登録商標)約0.05ng=1Uという事実に補正される)。1単位(U)のボツリヌス毒素は、それぞれが18〜20グラムの体重を有するメスのSwiss Websterマウスに腹腔内注射されたときのLD50として定義される。
【0033】
7種類の血清学的に異なるボツリヌス神経毒が特徴付けられており、これらは、型特異的抗体による中和によってそのそれぞれが識別されるボツリヌス神経毒血清型A、B、C1、D、E、FおよびGである。ボツリヌス毒素のこれらの異なる血清型は、それらが冒す動物種、ならびにそれらが惹起する麻痺の重篤度および継続時間が異なる。例えば、A型ボツリヌス毒素は、ラットにおいて生じる麻痺率により評価された場合、B型ボツリヌス毒素よりも500倍強力であることが確認されている。また、B型ボツリヌス毒素は、霊長類では480U/kgの投与量で非毒性であることが確認されている。この投与量は、A型ボツリヌス毒素の霊長類LD50の約12倍である。Jankovic, J.ら編、"Therapy With Botulinum Toxin"(1994)(Mercel Dekker, Inc.)の第71-85頁、第6章の、Moyer Eら、Botulinum Toxin Type B: Experimental and Clinical Experience。ボツリヌス毒素は、コリン作動性の運動ニューロンに大きな親和性で結合して、ニューロンに移動し、アセチルコリン放出を阻止するようである。
【0034】
血清型に関係なく、毒素中毒の分子メカニズムは類似し、少なくとも3つの過程または段階を含むようである。第1段階において、毒素は、重鎖(H鎖)と細胞表面受容体との特異的相互作用によって、標的ニューロンのシナプス前膜に結合する。受容体は、ボツリヌス毒素の各血清型および破傷風毒素で異なると考えられる。H鎖のカルボキシル末端セグメント(HC)は、毒素を細胞表面に指向させるのに重要であるようである。
【0035】
第2段階において、毒素は、冒した細胞の形質膜を横切る。毒素は、初めに、受容体媒介エンドサイトーシスにより細胞に包み込まれ、毒素を含有するエンドソームが形成される。次に、毒素は、エンドソームから該細胞の細胞質中に逃れ出る。この段階は、約5.5またはそれ以下のpHに反応して毒素のコンフォメーション変化を誘発するH鎖のアミノ末端セグメント(HN)によって媒介されると考えられる。エンドソームは、エンドソーム内pHを低下させるプロトンポンプを有することが既知である。コンフォメーションのシフトは毒素中の疎水性残基を露出させ、これが、毒素をエンドソーム膜内に埋込むことを可能にする。次に、毒素(または少なくともその軽鎖)が、エンドソーム膜を通って細胞質に移動する。
【0036】
ボツリヌス毒素活性のメカニズムの最終段階は、重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)を結合するジスルフィド結合の減少を伴うようである。ボツリヌス毒素および破傷風毒素の全毒素活性は、ホロトキシンのL鎖に含まれる。L鎖は亜鉛(Zn++)エンドペプチダーゼであり、これは、神経伝達物質を含有する小胞の認識および形質膜の細胞質表面とのドッキングならびに小胞と形質膜との融合に必須であるタンパク質を選択的に開裂する。破傷風神経毒、ボツリヌス毒素B、D、FおよびG型は、シナプトソーム膜タンパク質であるシナプトブレビン[小胞関連膜タンパク質(VAMP)とも称される]の分解を引き起こす。シナプス小胞の細胞質表面に存在する大部分のVAMPは、これらの開裂現象のいずれかの結果として除去される。A型およびE型ボツリヌス毒素はSNAP-25を開裂する。C1型ボツリヌス毒素ははじめはシンタキシンを開裂すると考えられたが、シンタキシンおよびSNAP-25を開裂することがわかった。各毒素は異なる結合を特異的に開裂する。ただし、B型ボツリヌス毒素(および破傷風毒素)は同じ結合を開裂する。
【0037】
すべてのボツリヌス毒素血清型が神経筋接合部における神経伝達物質アセチルコリンの放出を阻害するようであるが、そのような阻害は、種々の神経分泌タンパク質に作用し、かつ/またはこれらのタンパク質を異なる部位で切断することによって行われる。例えば、A型およびE型ボツリヌス毒素はいずれも、25キロダルトン(kD)のシナプトソーム関連タンパク質(SNAP-25)を切断するが、それぞれ異なるタンパク質内アミノ酸配列を標的とする。B型、D型、F型およびG型のボツリヌス毒素は小胞関連タンパク質(VAMP、これはまたシナプトブレビンとも呼ばれる)に作用し、それぞれの血清型によってこのタンパク質は異なる部位で切断される。最後に、C1型ボツリヌス毒素は、シンタキシンおよびSNAP-25の両者を切断することが明らかにされている。作用機序におけるこれらの相違が、様々なボツリヌス毒素血清型の相対的な効力および/または作用の継続時間に影響していると考えられる。ボツリヌス毒素の基質は、多様な細胞種に見られる。例えばBiochem, J 1;339(pt 1): 159-65: 1999およびMov Disord, 10(3):376:1995(膵島B細胞は少なくともSNAP-25およびシナプトブレビンを含有する)参照。
【0038】
ボツリヌス毒素タンパク質分子の分子量は、既知のボツリヌス毒素血清型の7つのすべてについて約150kDである。興味深いことに、これらのボツリヌス毒素は、会合する非毒素タンパク質とともに150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子を含む複合体としてクロストリジウム属細菌によって放出される。例えば、A型ボツリヌス毒素複合体は、900kD、500kDおよび300kDの形態としてクロストリジウム属細菌によって産生され得る。B型およびC1型のボツリヌス毒素は700kDまたは500kDの複合体としてのみ産生されるようである。D型ボツリヌス毒素は300kDおよび500kDの両方の複合体として産生される。最後に、E型およびF型のボツリヌス毒素は約300kDの複合体としてのみ産生される。これらの複合体(すなわち、約150kDよりも大きな分子量)は、非毒素のヘマグルチニンタンパク質と、非毒素かつ非毒性の非ヘマグルチニンタンパク質とを含むと考えられる。これらの2つの非毒素タンパク質(これらは、ボツリヌス毒素分子とともに、関連する神経毒複合体を構成し得る)は、変性に対する安定性をボツリヌス毒素分子に与え、そして毒素が摂取されたときに消化酸からの保護を与えるように作用すると考えられる。また、より大きい(分子量が約150kDよりも大きい)ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素複合体の筋肉内注射部位からのボツリヌス毒素の拡散速度を低下させ得ると考えられる。
【0039】
インビトロでの研究により、ボツリヌス毒素が、脳幹組織の初代細胞培養物からのアセチルコリンおよびノルエピネフリンの両方の、カリウムカチオンにより誘導される放出を阻害することが示されている。また、ボツリヌス毒素は、脊髄ニューロンの初代培養物におけるグリシンおよびグルタメートの両方の誘発された放出を阻害すること、そして脳のシナプトソーム調製物において、ボツリヌス毒素が神経伝達物質のアセチルコリン、ドーパミン、ノルエピネフリン(Habermann E.ら、Tetanus Toxin and Botulinum A and C Neurotoxins Inhibit Noradrenaline Release From Cultured Mouse Brain, J Neurochem 51(2); 522-527: 1988)、CGRP、サブスタンスPおよびグルタメート(Sanchez-Prieto, J.ら、Botulinum Toxin A Blocks Glutamate Exocytosis From Guinea Pig Cerebral Cortical Synaptosomes, Eur J. Biochem 165; 675-681: 1897)のそれぞれの放出を阻害することが報告されている。すなわち、充分な濃度を用いれば、大部分の神経伝達物質の刺激により誘発される放出はボツリヌス毒素によってブロックされる。
【0040】
例えば、Pearce, L.B., Pharmacologic Characterization of Botulinum Toxin For Basic Science and Medicine, Toxicon 35(9); 1373-1412の1393; Bigalke H.ら, Botulinum A Neurotoxin Inhibits Non-Cholinergic Synaptic Transmission in Mouse Spinal Cord Neurons in Culture, Brain Research 360; 318-324; 1985; Habermann E., Inhibition by Tetanus and Botulinum A Toxin of the release of [3H]Noradrenaline and [3H]GABA From Rat Brain Homogenate, Experientia 44; 224-226: 1988, Bigalke H.ら, Tetanus Toxin and Botulinum A Toxin Inhibit Release and Uptake of Various Transmitters, as Studied with Particulate Preparations From Rat Brain and Spinal Cord, Naunyn-Schmiedeberg's Arch Pharmacol 316; 244-251: 1981, および;Jankovic J.ら, Therapy With Botulinum Toxin, Marcel Dekker, Inc. (1994), 第5頁参照。
【0041】
A型ボツリヌス毒素は、既知の手順に従って、培養槽におけるボツリヌス菌の培養を確立して、生育させ、その後、発酵混合物を集め、精製することによって得ることができる。すべてのボツリヌス毒素血清型は、神経活性となるためにはプロテアーゼによって切断またはニッキングされなければならない不活性な単鎖タンパク質として最初に合成される。A型およびG型のボツリヌス毒素血清型を産生する細菌株は内因性プロテアーゼを有するので、A型およびG型の血清型は細菌培養物から主にその活性型で回収することができる。これに対して、C1型、D型およびE型のボツリヌス毒素血清型は非タンパク質分解性菌株によって合成されるので、培養から回収されたときには、典型的には不活性型である。B型およびF型の血清型はタンパク質分解性菌株および非タンパク質分解性菌株の両方によって産生されるので、活性型または不活性型のいずれでも回収することができる。しかし、例えば、B型ボツリヌス毒素を産生するタンパク質分解性菌株でさえも、産生された毒素の一部を切断するだけである。
【0042】
切断型分子と非切断型分子との正確な比率は培養時間の長さおよび培養温度に依存する。したがって、例えばB型ボツリヌス毒素の製剤はいずれも一定割合が不活性であると考えられ、このことが、A型ボツリヌス毒素と比較したB型ボツリヌス毒素の知られている著しく低い効力の原因であると考えられる。臨床製剤中に存在する不活性なボツリヌス毒素分子は、その製剤の総タンパク質量の一部を占めることになるが、このことはその臨床的効力に寄与せず、抗原性の増大に関連づけられている。また、B型ボツリヌス毒素は、筋肉内注射された場合、同じ用量レベルのA型ボツリヌス毒素よりも、活性の継続期間が短く、そしてまた効力が低いことも知られている。
【0043】
ボツリヌス菌のHall A株から、≧3×10U/mg、A260/A2780.60未満、およびゲル電気泳動における明確なバンドパターンという特性を示す高品質結晶A型ボツリヌス毒素を生成し得る。Shantz,E.J.ら、Properties and use of Botulinum toxin and Other Microbial Neurotoxins in Medicine、Microbiol Rev.56:80−99(1992)に記載されているように既知のShanz法を用いて結晶A型ボツリヌス毒素を得ることができる。通例、A型ボツリヌス毒素複合体を、適当な培地中でA型ボツリヌス菌を培養した嫌気培養物から分離および精製し得る。この既知の方法を用い、非毒素タンパク質を分離除去して、例えば次のような純ボツリヌス毒素を得ることもできる:比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約150kDの精製A型ボツリヌス毒素;比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約156kDの精製B型ボツリヌス毒素;および比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約155kDの精製F型ボツリヌス毒素。
【0044】
ボツリヌス毒素および/またはボツリヌス毒素複合体は、List Biological Laboratories,Inc.(キャンベル、カリフォルニア);the Centre for Applied Microbiology and Research(ポートン・ダウン、イギリス);Wako(日本、大阪);Metabiologics(マディソン、ウィスコンシン);およびSigma Chemicals(セントルイス、ミズーリ)から入手し得る。純粋なボツリヌス毒素を医薬組成物の製造に使用することもできる。
【0045】
酵素一般について言えるように、ボツリヌス毒素(細胞内ペプチダーゼ)の生物学的活性は、少なくとも部分的にはその三次元形状に依存する。すなわち、A型ボツリヌス毒素は、熱、種々の化学薬品、表面の伸長および表面の乾燥によって無毒化される。しかも、既知の培養、発酵および精製によって得られた毒素複合体を、医薬組成物に使用する非常に低い毒素濃度まで希釈すると、適当な安定剤が存在しなければ毒素の無毒化が急速に起こることが知られている。毒素をmg量からng/ml溶液へ希釈するのは、そのような大幅な希釈によって毒素の比毒性が急速に低下する故に、非常に難しい。毒素含有医薬組成物を製造後、何箇月も、または何年も経過してから毒素を使用することもあるので、毒素をアルブミンおよびゼラチンのような安定剤で安定化することができる。
【0046】
市販のボツリヌス毒素含有医薬組成物は、BOTOX(登録商標)(カリフォルニア、アーヴィンのAllergan,Inc.から入手可能)の名称で市販されている。BOTOX(登録商標)は、精製A型ボツリヌス毒素複合体、アルブミンおよび塩化ナトリウムから成り、無菌の減圧乾燥形態で包装されている。このA型ボツリヌス毒素は、N−Zアミンおよび酵母エキスを含有する培地中で増殖させたボツリヌス菌のHall株の培養物から調製する。そのA型ボツリヌス毒素複合体を培養液から一連の酸沈殿によって精製して、活性な高分子量毒素タンパク質および結合ヘマグルチニンタンパク質から成る結晶複合体を得る。結晶複合体を、塩およびアルブミンを含有する溶液に再溶解し、滅菌濾過(0.2μ)した後、減圧乾燥する。減圧乾燥生成物は、-5℃またはそれ以下の冷凍庫内で保存する。BOTOX(登録商標)は、筋肉内注射前に、防腐していない無菌塩類液で再構成し得る。BOTOX(登録商標)の各バイアルは、A型ボツリヌス毒素精製神経毒複合体約100単位(U)、ヒト血清アルブミン0.5mgおよび塩化ナトリウム0.9mgを、防腐剤不含有の無菌減圧乾燥形態で含有する。
【0047】
減圧乾燥BOTOX(登録商標)を再構成するには、防腐剤不含有の無菌生理食塩水;0.9%Sodium Chloride Injectionを使用し、適量のその希釈剤を適当な大きさの注射器で吸い上げる。BOTOX(登録商標)は、泡立てまたは同様の激しい撹拌によって変性しうるので、そのバイアルに希釈剤を穏やかに注入する。滅菌性の理由から、BOTOX(登録商標)は、バイアルを冷凍庫から取り出して再構成した後4時間以内に投与することが好ましい。その4時間の間、再構成BOTOX(登録商標)は冷蔵庫(約2〜8℃)内で保管しうる。再構成し冷蔵したBOTOX(登録商標)は、その効力を少なくとも約2週間維持することが報告されている。Neurology, 48:249-53:1997。
【0048】
ボツリヌス毒素A型は、最大12ヶ月の有効性を有し(European J.Neurology 6(Supp 4), S111-S1150, 1999)、ある場合には27ヶ月間にもわたる有効性を有しうることが既知である。The Laryngoscope 109: 1344-1346: 1999参照。しかし、BOTOX(登録商標)筋肉注射の通常の持続期間は一般に約3〜4ヶ月間である。
【0049】
種々の臨床症状の治療におけるボツリヌス毒素A型の成功は、他のボツリヌス毒素血清型への関心を高めている。商業的に入手可能な2つのヒト用ボツリヌス毒素A型調製物は、BOTOX(登録商標)(カリフォルニア、アーヴィンのAllergan, Inc.から市販されている)およびDysport(登録商標)(イギリス、ポートン・ダウンのBeaufour Ipsenから市販されている)である。B型ボツリヌス毒素の調製物(MyoBloc、登録商標)は、カリフォルニア、サンフランシスコのElan Pharmaceuticalsから市販されている。
【0050】
破傷風毒素ならびにその誘導体(すなわち非天然ターゲティング部分を持つもの)、断片、ハイブリッドおよびキメラも、治療有効性を持ちうる。破傷風毒素はボツリヌス毒素との類似点を数多く持っている。例えば、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、クロストリジウム属の近縁種(それぞれ破傷風菌(Clostridium tenani)およびボツリヌス菌(Clostridium botulinum))によって産生されるポリペプチドである。また、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、1つのジスルフィド結合によって重鎖(分子量約100kD)に共有結合している軽鎖(分子量約50kD)から構成される二本鎖タンパク質である。したがって、破傷風毒素の分子量と、7つの各ボツリヌス毒素(非複合体型)の分子量は、約150kDである。さらに、破傷風毒素でもボツリヌス毒素でも、軽鎖は細胞内生物活性(プロテアーゼ活性)を示すドメインを持ち、重鎖は受容体結合(免疫原)ドメインと細胞膜移行ドメインとを持っている。
【0051】
さらに、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、シナプス前コリン作動性ニューロンの表面にあるガングリオシド受容体に対して高い特異的親和性を示す。末梢コリン作動性ニューロンによる破傷風毒素の受容体仲介エンドサイトーシスは、逆行性軸索輸送、中枢シナプスからの抑制性神経伝達物質の放出の阻害および痙性麻痺をもたらす。これに対して、末梢コリン作動性ニューロンによるボツリヌス毒素の受容体仲介エンドサイトーシスは、逆行性輸送、中毒した末梢運動ニューロンからのアセチルコリンエキソサイトーシスの阻害、および弛緩性麻痺をもたらすことがなく、たとえあったとしても、ごくわずかである。
【0052】
最後に、破傷風毒素とボツリヌス毒素は、その生合成および分子構造が互いに似ている。例えば、破傷風毒素とA型ボツリヌス毒素のタンパク質配列には全体で34%の一致度があり、いくつかの機能ドメインについては62%もの配列一致度がある。Binz T. ら、The Complete Sequence of Botulinum Neurotoxin Type A and Comparison with Other Clostridial Neurotoxins, J Biological Chemistry 265(16);9153-9158:1990。
【0053】
アセチルコリン
哺乳動物の神経系における各タイプのニューロンは、単一タイプの神経伝達物質のみ、または複数タイプの神経伝達物質を放出しうる。神経伝達物質アセチルコリンが脳の多くの領域においてニューロンによって分泌されているが、具体的には運動皮質の大錐体細胞によって、基底核におけるいくつかの異なるニューロンによって、骨格筋を神経支配する運動ニューロンによって、自律神経系(交感神経系および副交感神経系の両方)の節前ニューロンによって、副交感神経系の節後ニューロンによって、そして交感神経系の一部の節後ニューロンによって分泌されている。本質的には、汗腺、立毛筋および少数の血管に至る節後交感神経線維のみがコリン作動性であり、交感神経系の節後ニューロンの大部分は神経伝達物質のノルエピネフリンを分泌する。ほとんどの場合、アセチルコリンは興奮作用を有する。しかし、アセチルコリンは、迷走神経による心拍の抑制のように、抑制作用を一部の末梢副交感神経終末において有することが知られている。
【0054】
自律神経系の遠心性シグナルは交感神経系または副交感神経系のいずれかを介して身体に伝えられる。交感神経系の節前ニューロンは、脊髄の中間外側角に存在する節前交感神経ニューロン細胞体から伸びている。細胞体から伸びる節前交感神経線維は、脊椎傍交感神経節または脊椎前神経節のいずれかに存在する節後ニューロンとシナプスを形成する。交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンはコリン作動性であるので、神経節にアセチルコリンを適用することにより、交感神経および副交感神経の両方の節後ニューロンが興奮し得る。
【0055】
アセチルコリンは、ムスカリン性受容体およびニコチン性受容体の2種類の受容体を活性化する。ムスカリン性受容体は、副交感神経系の節後ニューロンによって刺激されるすべてのエフェクター細胞において、また、交感神経系の節後コリン作動性ニューロンに刺激されるエフェクター細胞において見られる。ニコチン性受容体は、副腎髄質、ならびに自律神経節内、すなわち交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンと節後ニューロンとの間のシナプスにおける節後ニューロンの細胞表面に見られる。ニコチン性受容体はまた、多くの非自律神経終末、例えば神経筋接合部における骨格筋繊維の膜にも存在する。
【0056】
アセチルコリンは、小さい透明な細胞内小胞がシナプス前のニューロン細胞膜と融合したときにコリン作動性ニューロンから放出される。非常に様々な非ニューロン分泌細胞、例えば副腎髄質(PC12細胞株と同様に)および膵臓の島細胞が、それぞれカテコールアミン類および上皮小体ホルモンを大きな高密度コア小胞から放出する。PC12細胞株は、交感神経副腎発達の研究のために組織培養モデルとして広範囲に使用されているラットのクロム親和性細胞腫細胞のクローンである。ボツリヌス毒素は、(エレクトロポレーションによるように)透過性にされた場合、または脱神経支配細胞に毒素を直接注射することによって、両タイプの細胞からの両タイプの化合物の放出をインビトロで阻害する。ボツリヌス毒素はまた、皮質シナプトソーム細胞培養物からの神経伝達物質グルタメートの放出を阻止することが知られている。
【0057】
神経筋接合部は、筋肉細胞への軸索の近接によって、骨格筋において形成される。神経系を介して伝達される信号は、イオンチャンネルを活性化して末端軸索における活動電位を生じ、例えば神経筋接合部の運動終板において、ニューロン内シナプス小胞からの神経伝達物質アセチルコリンの放出を生じる。アセチルコリンは、細胞外空間を通って、筋肉終板の表面のアセチルコリン受容体タンパク質と結合する。一旦、充分な結合が生じると、筋肉細胞の活動電位は、特異性膜イオンチャンネル変化を生じ、筋肉細胞収縮を生じる。次に、アセチルコリンが筋肉細胞から放出され、細胞外空間においてコリンエステラーゼによって代謝される。代謝産物は、さらなるアセチルコリンに再処理するために末端軸索に再循環される。
【0058】
組成物、担体成分または他の材料は、それが眼組織と接触した際に顕著または不当な悪影響を及ぼさないように眼組織と適合性であるならば、「眼科学的に許容しうる」。いくつかの態様においては、眼科学的に許容しうる材料は、本発明組成物の他の成分とも適合性である。
【0059】
いくつかの態様においては、眼科学的に許容しうる担体は水を含み、pHが約6.7〜7.4または約6.8〜7.2の範囲である。いくつかの態様においては、担体成分は、眼科学的に許容しうる量の電解質、例えばカルシウム、マグネシウムおよび/またはそれらの混合物を含む。
【0060】
いくつかの態様においては、ポリアニオン性成分はアニオン性セルロース誘導体を包含する。例えば、ポリアニオン性成分は、カルボキシメチルセルロース、1種またはそれ以上のアクリル酸、メタクリル酸、金属アクリレートおよび金属メタクリレートの単位を含むアニオン性ホモポリマーおよびコポリマー、および/またはそれらの混合物を含みうる。本発明の組成物は、ポリアニオン性成分を約0.05〜5%(w/v)、または約0.3〜2%含有しうる。
【0061】
いくつかの態様においては、本発明の組成物は血管収縮剤をも含有しうる。本発明に従って使用しうる血管収縮剤の例は、テトラヒドロゾリン、エフェドリン、ナファゾリン、フェニレフリンおよび/またはそれらの混合物を包含するが、それらに限定されない。有用な一態様においては、本発明の組成物は血管収縮剤を約0.001〜0.5%(w/v)、または約0.005〜0.2%(w/v)含有する。
【0062】
いくつかの態様においては、本発明の組成物のpHは約6〜8、約6.8〜7.5、より好ましくは約6.8〜7.2、または約7〜7.2である。
【0063】
本発明の組成物は適当な浸透圧調節成分をも含有しうる。いくつかの態様において、浸透圧調節成分は、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトール、デキストロース、グリセロース、プロピレングリコールなど、および/またはそれらの混合物を包含するが、それらに限定されない。
【0064】
本発明の組成物は、当業者によく知られた従来の方法で調製しうる。例えば、本発明の組成物を、成分を一緒に、例えば一体として混合することによって調製しうる。
【0065】
本発明の組成物は、必要に応じて、眼障害の処置を要する眼に有効量で投与することを含んでなる方法によって有効に使用しうる。この投与ステップは、そのような眼の炎症の有効な軽減を提供するために必要に応じて反復しうる。
【実施例1】
【0066】
細菌性および真菌性結膜炎の処置方法
結膜炎は結膜の炎症で、充血(「赤目」)、分泌物、異物感、および/またはしばしば睡眠中の眼瞼の張り付きを特徴とする。これは、結膜の細菌および真菌感染によって起こりうる。細菌感染は例えば分泌物の着色、乳頭および角膜染色パターンによって判断される。真菌感染は例えば角膜感染部位の羽毛状境界によって判断される。いずれも、培養および感度実験室試験によって確認しうる。外傷(特に植物、例えば木の枝によるもの)を受けていた場合は、真菌性結膜炎がしばしば起こる。細菌性および真菌性結膜炎を処置するために行いうる通常のプロトコルを以下説明する。
【0067】
20歳の女性が、3日間続いている右眼の充血、異物感および黄色がかった分泌物を訴えて受診する。患者は、朝に上下の眼瞼が張り付いているとも訴える。この患者は右眼の細菌性結膜炎と診断される。
【0068】
医師は例えば、クロストリジウム毒素(例えばA型ボツリヌス毒素)を含有する組成物1滴(A型ボツリヌス毒素約1単位またはB型ボツリヌス毒素約50単位を含有する)を局所投与することによって患者を処置する。更に、この処置を医師の判断で、局所抗生物質点眼剤(例えばPolytrimを1日4回、5〜7日間)によって補助しうる。
【0069】
真菌性結膜炎と診断された場合は、本発明の組成物1滴(A型ボツリヌス毒素約1単位またはB型ボツリヌス毒素約50単位を含有する)の局所適用によって患者を処置しうる。また、局所抗真菌点眼剤(5%ナタマイシン点眼剤を、起きている間は1〜2時間毎、夜間は2時間毎)によって処置を補助しうる。
【0070】
クロストリジウム毒素(例えばA型ボツリヌス毒素)の患眼への適用から1週間後、患者は眼科医の再診を受けうる。眼の炎症が治まり、充血が実質的に解消するというように、患者の症状は少なくとも50%改善されている。
【実施例2】
【0071】
ウイルス性結膜炎の処置方法
ウイルス性結膜炎は、近い過去に上気道感染があった場合、または結膜炎患者と接触した場合に起こり易い。通例、一方の眼に発症し、数日後に他方の眼にも発症する。ウイルス感染は、軽度の充血(軽度の赤目)、過度の流涙、異物感、濾胞性結膜反応によって判断され、リンパ節の圧痛を伴いうる。ウイルス性結膜炎を処置するために行いうる通常のプロトコルを以下説明する。
【0072】
34歳の男性が、3日ほど前から左眼が充血し、次いで右眼も充血したとして受診する。眼に涙が多く、腫脹と軽い充血がある。患者は前の週にインフルエンザに罹っていたと述べる。この患者はウイルス性結膜炎と診断される。
【0073】
医師は、クロストリジウム毒素(例えばA型ボツリヌス毒素)を含有する組成物1滴(A型ボツリヌス毒素約1単位またはB型ボツリヌス毒素約50単位を含有する)を患者の眼に局所投与することによって、患者を処置する。人工涙液、冷湿布および抗ヒスタミン点眼剤(痒みが激しい場合)の使用も、処置に含めうる。
【0074】
クロストリジウム毒素(例えばA型ボツリヌス毒素)含有組成物の患眼への適用から5日後に、患者は眼科医の再診を受けうる。眼の炎症が治まり、充血が実質的に解消するというように、患者の症状には少なくとも40%の改善が見られる。
【実施例3】
【0075】
ブドウ膜炎の処置方法
ブドウ膜炎は、ブドウ膜(虹彩、毛様体、および脈絡膜)の炎症をさす総称である。ブドウ膜炎は主として該血管構造の炎症をさすが、隣接構造、例えば網膜、硝子体、強膜、および角膜もしばしば関与する。患者は20〜50歳に最も多く、70歳を越えると激減する。
【0076】
前部ブドウ膜炎(虹彩炎)は、後部ブドウ膜炎よりも起こり易く、虹彩および/または毛様体を冒す。前部ブドウ膜炎(特に急性ブドウ膜炎)は通例、眼痛、充血、羞明(光感受性)、軽度の視力障害、および流涙を特徴とし、病因に応じて片側性または両側性でありうる。ブドウ膜炎の徴候は、前房における血球およびフレア(白血球およびタンパク質漏出)である。急性、非再発性の前部ブドウ膜炎は多くの場合、特発性で、主として抗炎症/ステロイド点眼剤で処置される。急性前部ブドウ膜炎(再発性でありうる)の他の原因は、眼の外傷、術後炎症、薬物療法、コンタクトレンズ関連合併症、HLA−B27抗原、および炎症性/自己免疫性状態(強直性脊椎炎、炎症性腸疾患、ライター症候群など)を包含する。慢性前部ブドウ膜炎の場合、病因は通例、他の全身的状態、例えば若年性関節リウマチ、サルコイドーシス、単純ヘルペス/帯状ヘルペス/水痘、結核、およびフックス虹彩毛様体炎による。
【0077】
後部ブドウ膜炎には、眼の後部が関与する(すなわち網膜/脈絡膜の炎症および病変が伴う)。発症は急性であることもあるが、殆んどの場合潜行性で、痛みは少なく、羞明および視力障害も軽い。後部ブドウ膜炎を伴う疾患は、ライム病、トキソプラズマ症、トキソカラ症、ヒストプラズマ症および梅毒を包含する。ブドウ膜炎を処置するために行いうる通常のプロトコルを以下説明する。
【0078】
25歳の女性が、左眼の充血および刺激を訴えて受診する。患者は前日から痛みと流涙が始まり、日光の明るい屋外に出ると痛みが増すと述べる。左眼の視力は少し低下している。症状は軽いと述べる。患者は概ね健康で、薬物療法を受けておらず、外傷歴はないと述べる。この患者は検査の結果(血球およびフレアの存在、結膜充血、羞明)、おそらくは特発性の急性前部ブドウ膜炎/虹彩炎の軽度の症例であると診断される。
【0079】
医師は、クロストリジウム毒素(例えばA型ボツリヌス毒素)を含有する組成物2滴(A型ボツリヌス毒素約2単位またはB型ボツリヌス毒素約100単位を含有する)を局所投与することによって、患者を処置する。必要とみなされれば、医師は、局所ステロイド点眼剤(1%酢酸プレドニゾロンを、2日間にわたり2時間毎、その後漸次減らして、4日間にわたり1日4回、次いで更に4日間にわたり1日2回)で処置を補助しうる。
【0080】
1週間後、患者は医師の再診を受ける。ブドウ膜炎の症状は治まったことがわかる。特に、ブドウ膜(虹彩、毛様体および脈絡膜)の炎症が約50%治癒したことがわかる。
【実施例4】
【0081】
角膜裏面沈着の処置方法
角膜裏面沈着は、急性または慢性の前部ブドウ膜炎(ブドウ膜の炎症)に関連する。これに関連して、眼の徴候は、リンパ球およびプラズマ細胞の浸潤(血球およびフレア)、並びに角膜裏面沈着物(KP)として知られる角膜内皮および/または瞳孔縁における沈着物の存在である。ブドウ膜炎の病因に応じて、KPは小さいことも大きいこともある。KPを処置するために行いうる通常のプロトコルを以下説明する。
【0082】
29歳の男性が、2日前からの眼の充血と極度の羞明を訴えて受診する。検査の結果、いくらかの血球およびフレア、並びに両眼の瞳孔縁に沿って少数の大きなKPが存在することがわかる。患者はライター症候群の病歴があり、過去3年間にブドウ膜炎を繰り返し発症したと述べる。この患者は、ライター症候群に続発する急性前房ブドウ膜炎であると診断される。
【0083】
医師は、クロストリジウム毒素(例えばA型ボツリヌス毒素)を含有する組成物1滴を患者の眼に局所投与することによって、患者を処置する。医師の判断で、局所ステロイド点眼剤による処置(1%酢酸プレドニゾロンを、1〜2日間にわたって1時間毎に投与し、その後漸減する)を追加しうる。更に、ブドウ膜炎の全身的な病因の故に、他の任意の処置には、内科およびリウマチ科の受診を要しうる。
【0084】
クロストリジウム毒素(例えばA型ボツリヌス毒素)の投与から約3〜4日後に、患者は医師の再診を受ける。患者は改善の徴候を示しており、羞明の症状は軽減し、血球およびフレアは少なく、角膜裏面沈着物はなくなっている。
【実施例5】
【0085】
黄斑浮腫(嚢胞様黄斑浮腫)の処置方法
網膜浮腫は、漿液漏出による網膜組織の腫脹によって特徴付けられる。網膜浮腫は通例、何らかの種類の眼科手術(例えば白内障手術)の後に起こり、炎症を伴う。他の病因は、糖尿病性網膜症、ブドウ膜炎、および加齢性黄斑変性を包含する。黄斑浮腫を処置するために行いうる通常のプロトコルを以下説明する。
【0086】
73歳の男性が、白内障手術(硝子体脱出という手術合併症を伴う)の約6週間後に、視力低下を訴えて受診する。この患者は術後療法をすべて遵守している。網膜を検査すると、黄斑に浮腫があり、黄斑組織が周辺の網膜と比べて少し隆起している。したがって、この患者の視力はやや低下していた。この患者は嚢胞様黄斑浮腫と診断される。
【0087】
医師は、クロストリジウム毒素(例えばA型ボツリヌス毒素約1単位、またはB型ボツリヌス毒素約50単位)を含有する組成物を患者の眼に局所投与することにより、患者を処置する。医師は、6週間にわたる局所非ステロイド抗炎症剤療法(ケトロラクを1日4回)を追加してもよい。
【0088】
クロストリジウム毒素(例えばA型ボツリヌス毒素)の投与の2〜3週間後に、患者は医師の再診を受ける。患者は改善の徴候を示している。網膜を検査すると、黄斑は平坦で、患者は視力を回復している。
【実施例6】
【0089】
眼内レンズ移植(白内障手術)後の炎症反応の処置方法
眼科手術(特に白内障手術)後の炎症には網膜が関与し得、結果として嚢胞様黄斑浮腫が生じうる。その発生率は、手術合併症、例えば虹彩脱出および硝子体脱出によって高くなる。眼内レンズ移植後の炎症反応を処置するために行いうる通常のプロトコルを、以下説明する。
【0090】
69歳の女性が、白内障手術(硝子体脱出という手術合併症を伴う)の約6週間後に、視力低下を訴えて受診する。この患者は術後療法をすべて遵守している。この患者は嚢胞様黄斑浮腫(炎症反応を伴う状態)と診断される。
【0091】
医師は、クロストリジウム毒素(例えばA型ボツリヌス毒素約1単位、またはB型ボツリヌス毒素約50単位)を含有する組成物を患者の眼に局所投与することにより、患者を処置する。医師は、6週間にわたる局所非ステロイド抗炎症剤療法(ケトロラクを1日4回)を追加してもよい。
【0092】
クロストリジウム毒素(例えばA型ボツリヌス毒素)の投与の3週間後に、患者は医師の再診を受ける。患者は改善の徴候(黄斑浮腫の軽減および視力の回復を包含する)を示している。
【0093】
本書中、いくつかの文献を引用した。各文献の開示はその全体を引用により本書の一部とする。
本発明を、いくつかの例および態様に関して説明したが、本発明はそれらに制限されず、特許請求の範囲内で多様に実施しうると理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の角膜にクロストリジウム毒素を投与することによって眼障害を処置するための、クロストリジウム毒素を含有する医薬の使用。
【請求項2】
眼障害が眼の炎症を伴う請求項1に記載の使用。
【請求項3】
眼障害が、細菌性結膜炎、真菌性結膜炎、ウイルス性結膜炎、ブドウ膜炎、角膜裏面沈着、黄斑浮腫、または眼内レンズ移植後の炎症反応である請求項1に記載の使用。
【請求項4】
眼障害が結膜炎である請求項1に記載の使用。
【請求項5】
クロストリジウム毒素を角膜に局所投与する請求項1に記載の使用。
【請求項6】
クロストリジウム毒素が、Clostridial beratti、Clostridia butyricum、Clostridial tetani菌、またはClostridial botulinum によって産生される請求項1に記載の使用。
【請求項7】
クロストリジウム毒素を血管収縮剤と共に投与する請求項1に記載の使用。
【請求項8】
クロストリジウム毒素が、A型、B型、C1型、D型、E型、F型、G型ボツリヌス毒素またはそれらの混合物である請求項1に記載の使用。
【請求項9】
クロストリジウム毒素がA型ボツリヌス毒素である請求項1に記載の使用。
【請求項10】
眼障害が眼の炎症を伴う請求項8に記載の使用。
【請求項11】
眼障害が、細菌性結膜炎、真菌性結膜炎、ウイルス性結膜炎、ブドウ膜炎、角膜裏面沈着、黄斑浮腫、または眼内レンズ移植後の炎症反応である請求項8に記載の使用。
【請求項12】
眼障害が結膜炎である請求項8に記載の使用。
【請求項13】
クロストリジウム毒素を角膜に局所投与する請求項8に記載の使用。
【請求項14】
クロストリジウム毒素を血管収縮剤と共に投与する請求項8に記載の使用。
【請求項15】
眼科学的に許容しうる担体;
組成物を眼に投与することによって眼障害を処置するのに有効な量のクロストリジウム毒素;および
組成物を眼に投与することによって眼に潤滑性を付与するのに有効な量のポリアニオン性成分
を含有する組成物。
【請求項16】
クロストリジウム毒素が、A型、B型、C1型、D型、E型、F型、G型ボツリヌス毒素またはそれらの混合物である請求項17に記載の組成物。
【請求項17】
クロストリジウム毒素がA型ボツリヌス毒素である請求項17に記載の組成物。
【請求項18】
ポリアニオン性成分がアニオン性セルロース誘導体を含む請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
ポリアニオン性成分がカルボキシメチルセルロースを含む請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
血管収縮剤をも含有する請求項17に記載の組成物。

【公開番号】特開2012−107034(P2012−107034A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−21705(P2012−21705)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【分割の表示】特願2006−533409(P2006−533409)の分割
【原出願日】平成16年5月17日(2004.5.17)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】