説明

着色された全芳香族ポリアミド繊維およびその製造方法

【課題】高強度、高ヤング率を有し着色された全芳香族ポリアミド繊維を提供する。
【解決手段】着色物質を含み、下記要件を満足することを特徴とする全芳香族ポリアミド繊維。
a)単繊維の強度3.5cN/dtex以上、伸度40%以下、初期ヤング率70cN/dtex、比重1.366以下であること。
b)着色物質が含水率60%以上の含水繊維に含浸吸収されたものであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色物質が含有された高ヤング率全芳香族ポリアミド繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリアミド(以下アラミドと略記する場合がある)繊維にはコーネックス、ノーメックスに代表されるメタ系アラミド繊維とテクノーラ、ケブラー、トワロンに代表されるパラ系アラミド繊維とがある。
【0003】
これらのアラミド繊維は、ナイロン6、ナイロン66などの従来から広く使用されている脂肪族ポリアミド繊維と比較して、剛直な分子構造と高い結晶性のために耐熱性、耐炎性(難燃性)などの熱的性質、並びに耐薬品性、強力な耐放射線性、電気特性などの安全性に優れた性質を有している。従って耐炎性(難燃性)や耐熱性を必要とする防護服などの衣料用やバッグフィルターなどの産業資材用、カーテンなどのインテリア用として広く使用されている。
しかしながら、アラミド繊維は分子鎖が剛直且つ高結晶性であるため、反面では、着色物質を付着及び/又は吸収させることは非常に難しいという欠点がある。
【0004】
このような問題を解決する方法として、例えば、特開昭63−256765号公報、特開平2−41414号公報には、濃硫酸の紡糸溶液中に染料あるいは顔料を分散させて製糸を行い、着色糸を得る方法が、更に、特開平3−76868号公報には、硫酸溶液に予め浸漬した後に染色促進剤に接触させることによってカチオン染料に染色可能なポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)繊維を得る方法が開示されているが、着色し得る色相の範囲や再現性あるいは耐光堅牢度などの点で必ずしも十分とはいえない。
【0005】
また、分散染料を用いて160℃以上の高温で染色する方法も提案されている(特開平5−209372号公報)が、染色温度が高温になる程、染色機も特別なものが必要になるため、一般的な方法ではない。
さらに、本発明者らは、特開平7−316990号公報において、パラ系アラミド繊維を70℃以上のジメチルスルホキシドで処理した後、染色する方法を提案したが、該方法では、染色性は良好であるものの膨潤作用が強過ぎて、繊維の収縮が大きくなり、繊維構造物の幅や長さを制御するのが困難となると共に、強度も低下する。また、コストも高くなるという問題があった。
【0006】
また、特開2007−16343号公報において、パラ型アラミド繊維を染色する際の染色助剤として、ベンジルアルコールを用いる方法が紹介されているが、臭気が強く、衛生上問題がある。
また特開2005−325471号公報では特定の電解質化合物の存在下で酸性染料で染色することが提案されている。ある程度染色性向上効果はあるものの洗濯堅牢度は満足するものではなかった。
【0007】
更にアラミド繊維の染色においては、古くからキャリヤーを併用して染色する方法が知られている。たとえば、特開昭58−87376号公報では、アセトフェノンなどのキャリヤーを大量に使用し、高温、高圧下で染色する方法が提案されているが、染色後の脱キャリヤーを行うことが困難であり、また、アセトフェノンは、臭気が強く作業環境に問題があり排水などの面で環境を汚染するような問題があり現場での使用は問題が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−256765号公報
【特許文献2】特開平2−41414号公報
【特許文献3】特開平3−76868号公報
【特許文献4】特開平5−209372号公報
【特許文献5】特開平7−316990号公報
【特許文献6】特開2007−16343号公報
【特許文献7】特開2005−325471号公報
【特許文献8】特開昭58−87376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する問題点を解決し、高着色高強度全芳香族ポリアミド繊維およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討した結果下記により解決できることを見出したものである。
即ち本発明によれば、
着色物質を含み、下記要件を満足することを特徴とする全芳香族ポリアミド繊維。
a)単繊維の強度3.5cN/dtex以上、伸度40%以下、初期ヤング率70cN/dtex以上、比重1.366以下であること。
b)着色物質が含水率60%以上の含水繊維に含浸吸収されたものであること。
【0011】
ここで全芳香族ポリアミド繊維がコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維であることが好ましい。
また着色物質が、有機顔料、無機顔料、水溶性染料および水不溶性染料であることが好ましい。
【0012】
さらに全芳香族ポリアミド繊維の製造方法であって、含水繊維に着色物質を含浸吸収させる前又は含浸吸収させた後に延伸処理を行い、該延伸処理が湿熱、水浴、温水浴の群から選ばれる少なくとも1種の方法で1%以上延伸することを特徴とする全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
が提供される。
【発明の効果】
【0013】
含水繊維に着色物質を含浸吸収させることにより容易に高濃度で着色された全芳香族アラミド繊維が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例2で得られた本発明の高着色全芳香族ポリアミド繊維
【図2】比較例1の発明外の全芳香族ポリアミド繊維
【図3】比較例2の発明外の全芳香族ポリアミド繊維
【図4】比較例3の発明外の全芳香族ポリアミド繊維
【図5】比較例4の発明外の全芳香族ポリアミド繊維
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、着色物質を、含水状態の全芳香族ポリアミド繊維(以後含水繊維と呼ぶ場合がある)内部に高濃度で含浸吸収させた高着色高強度ポリアミド繊維である。含水繊維とは繊維結晶構造内部に多量に水を保持しているものを指し、湿式あるいは乾式湿式紡糸で得られた未乾燥状態の繊維をさす。
【0016】
本発明で好ましく使用する芳香族ポリアミド繊維としては、パラ型芳香族ポリアミド繊維である、PPODPA繊維(帝人テクノプロダクツ株製テクノーラ)、或いはメタ型芳香族ポリアミド繊維であるポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ株製テイジンコーネックス)などが好ましく例示される。その中でも強度、初期ヤング率、乾熱300℃下15分間処理時の収縮を考慮すると、コポリパラフェニレン−3,4‘オキシジフェニレンテレフタルアミド(以後PPODPAと略称する)繊維が好ましい。
【0017】
これらは紡糸後の未延伸凝固糸(水洗工程を経ていても構わない)において、着色物質が含浸されやすいサイトを有しているとともに、延伸されることにより、高度に配向され、高強力物性が得られる。延伸方法としては、含水繊維を水浴あるいは温水浴中で延伸することにより、該含水による水置換可能なサイトを残したまま(着色物質が含浸可能なサイトを残存したまま)強度、初期モジュラス性能を上げることが可能である。
この場合の延伸倍率は、処理浴温度によりことなり、適正な曳糸性を得られる1%以上延伸することにより、所望の原糸物性糸を得ることが可能である。
【0018】
一方、PPODPA繊維と同様なパラ型芳香族ポリアミド繊維であるPPTA(例えばケブラー、テイジントワロン)は、溶液液晶性であり剛直ポリマーを溶媒に溶かし乾湿式紡糸法で繊維化される。すなわちずり応力を加えることにより延伸しなくとも高度に配向した状態で繊維化される。これらはリオトロピック液晶を示し、分子が自発的に互いに平行に配向する(自発配向)。該自発配向は、非常に緻密でありドメインの連続形成されることにより、紡糸直後でも高強力繊維が得られる。また該繊維は、水が含まれていることにより部分配向緩和を保持することが可能と思われ、既報の染色性改良などが提示されているが、着色物質が染料に限られており、今回のようないかなる着色物質をも含有させようとする場合、ドメインの連続が均一構造であるために含有し難く、尚且つ発色性も優れない。
【0019】
前記繊維特性として、ラマン配向係数(XX/YY)が2以上17以下であることが好ましく推奨される。
着色物質を含浸吸収させるためには全芳香族ポリアミド繊維としては、湿式あるいは乾式湿式紡糸で得られる60%以上の含水率を有する湿式紡糸後の含水未乾燥未延伸糸(凝固糸)であることが好ましい。60%未満であれば着色物質が含浸し難く高発色性とはならない。
【0020】
本発明の着色物質を含浸させる好ましい方法としては、繊維(長繊維、短繊維)を好ましくは繊維構造物(紡績糸、製編織布帛等)とした後、着色物質を水溶液に溶解または分散した公知の浴槽(染色機等を含む)に導入し、常温常圧下、加温常圧下、加温加圧下での浸漬処理、パディング処理、スチームキュア処理で可能であるが、着色物質の種類によって、任意に変更して構わない。
着色物質としては、有機顔料(ブラックカーボン含む)、無機顔料、水溶性染料および不溶性染料などが推奨され、これらの何れか一種以上が含有されていればよい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて、本発明の構成および効果を詳細に説明する。
尚、実施例/比較例で行った被染色物の評価方法は下記の方法に従って行った。
・着色性
マクベス カラーアイ(Macbeth COLOR−EYE)モデルCE−3100を用いて、明度指数L*を求めた。明度指数L*は数値が小さい程、濃染化されていることを示す。
*明度指数とは、JIS Z 8701(2度視野XYZ系による色の表示方法)又はJIS Z 8728(10度視野XYZ系による色の表示方法)に規定する三刺激値のYを用いて、次式より求められるものである。
Y/Yn>0.008856の場合
L*=116(Y/Yn)1/3−16
Y/Yn≦0.008856の場合
L*=903.29(Y/Yn)
Y:XYZにおける三刺激値の値
Yn:完全拡散反射面の標準の光によるYの値
・強伸度
JIS L 1013に準拠して行った。
・初期ヤング率
前記強伸度測定チャートより、初期傾きを通常既知方法にて算出した。
・比重
JIS L 1096に準拠して行った。
【0022】
[実施例1]
帝人テクノプロダクツ株製テクノーラ1670T1000の凝固糸を80℃温浴中で延伸倍率2倍の延伸糸を得た。該PPODPA糸(含水率80%)を下記着色浴で98℃下60分間撹拌浸漬処理し、水洗、常法にて還元洗浄、水洗、風乾し評価した。
・染料(C.I.Dis Blue−56:Kayalon P.Blue EBL−E)6%owf
・分散剤(ディスパーVG)0.5g/l
・酢酸 0.3cc/l
【0023】
[実施例2]
着色浴での処理を130℃下60分間とした以下は、実施例1と同様に処理し評価した。
【0024】
[実施例3]
着色浴中の染料を下記とした以外は、実施例1と同様に処理し評価した。
・染料(C.I.Dis Blue−79:Miketon P.N−Blue GL−SF)6%owf
【0025】
[実施例4]
着色浴での処理を130℃下60分間とした以下は、実施例3と同様に処理し評価した。
【0026】
[実施例5]
着色浴を下記とした以外は、実施例1と同様に処理し評価した。
・染料(C.I.Basic Blue−54:Kayacryl Blue GSL−ED)6%owf
・分散剤(ディスパーTL)0.5g/l
・酢酸 0.3cc/l
・硝酸Na 25g/l
【0027】
[実施例6]
着色浴での処理を130℃下60分間とした以外は、実施例5と同様に処理し評価した。
【0028】
[実施例7]
着色浴を下記とし、常温下7日間撹拌浸漬処理した以外は、実施例1と同様に処理し評価した。
・Lumogen F lot.305(BASFジャパン製)
【0029】
[比較例1]
実施例1において帝人テクノプロダクツ株製テクノーラ1670T1000の凝固糸(含水率85%)を延伸しない以外は同様に処理し評価した。
【0030】
[比較例2]
帝人テクノプロダクツ株製テクノーラ1670T1000の凝固糸(含水率85%)を乾燥させ、含水率2.5%の未延伸糸(UD糸)を実施例1と同様に処理し評価した。
【0031】
[比較例3]
帝人テクノプロダクツ株製テクノーラ480T24の凝固糸(含水率85%)を乾燥させ、含水率2.0%の未延伸糸(UD糸)を350℃の高温ローラーで延伸倍率1.1で延伸した以外は実施例2と同様に処理し評価した。
【0032】
[比較例4]
全芳香族ポリアミド繊維を含水率41.5%のテイジンアラミド株製トワロン(PPTA未乾燥糸)とした以外は、同様に処理し評価した。
評価結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の着色された全芳香族ポリアミド繊維は防護服などの衣料用やカーテンなどのインテリア用として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色物質を含み、下記要件を満足することを特徴とする全芳香族ポリアミド繊維。
a)単繊維の強度3.5cN/dtex以上、伸度40%以下、初期ヤング率70cN/dtex以上、比重1.366以下であること。
b)着色物質が含水率60%以上の含水繊維に含浸吸収されたものであること。
【請求項2】
全芳香族ポリアミド繊維がコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維である請求項1記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
着色物質が、有機顔料、無機顔料、水溶性染料および水不溶性染料である請求項1〜2いずれかに記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項4】
請求項1〜3記載の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法であって、含水繊維に着色物質を含浸吸収させる前又は含浸吸収させた後に延伸処理を行い、該延伸処理が湿熱、水浴、温水浴の群から選ばれる少なくとも1種の方法で1%以上延伸することを特徴とする全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−42907(P2011−42907A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193157(P2009−193157)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】