説明

着色剤溶液

本発明は、ヒトまたは動物の眼球における内境界膜(ILM)および/または網膜上膜(EMR)を選択的に着色する、細胞に無害な水性の生体適合性を有する着色調製剤、ならびに本発明による水性の着色調製剤を収容するキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトまたは動物の眼球における内境界膜(ILM)および/または網膜上膜を選択的に着色するための水性の生体適合性を有する着色調製剤、および本発明による水性の生体適合性を有する着色調製剤を収容するキットに関する。
【背景技術】
【0002】
眼球の疾患、例えば、白内障、緑内障、加齢に起因する加齢黄斑変性および糖尿病に起因する糖尿病網膜症、ならびに網膜変性または網膜剥離が、特に平均寿命の伸びに伴い増加している。これら、および他の眼球疾患の治療に当たっては、しばしば硝子体切除術が必要になり、その場合、網膜に対する損傷を極力低減することが重要になる。このための予防措置として、硝子体切除術の実施に際し、内境界膜(ILM)および必要に応じて網膜上膜を網膜から切除し、想定される硝子体による牽引負担から黄斑を解放する。この目的につき、皮膜をピンセットによって網膜から剥離する。執刀医にとって不可欠なことは、網膜と剥離すべき皮膜とを可能な限り区別することができることである。このため、剥離すべき皮膜をできるだけ局所的な着色により可視化する必要がある。着色に適した色素は種々の基準を満たす必要がある。色素は生体適合性を有し、かつ無害であり、細胞に損傷を与えないものを選択する必要がある。また、水溶性であることに加え、極力局所的に着色可能、しかも容易に洗浄可能にする必要がある。色素および上述した皮膜の着色方法に関する発明が既知であるが、完全に満足のいく結果は得られていない。
【0003】
例えば、特許文献1(米国特許第7014991号)にヒトの眼球組織における着色方法に関する記載がされており、この場合、着色は色素である二硫酸インジゴチンを、該当組織に注入することで行われるが、二硫酸インジゴチンは細胞に対して毒性を有する。
【0004】
他の色素として、例えばブリリアントブルーG、ブリリアントブルーR、パテントブルーVまたはメチレンブルーも眼球適用に提案されてきた。
【0005】
硝子体切除または外科的処置中、洗浄液により眼窩が洗浄される。従来既知の着色剤溶液に関する問題点は、洗浄液によって着色剤溶液が分散、希釈および洗浄されることにある。さらに他のいくつかの欠点がある。一つには、洗浄液が着色されると、施術者の視界を妨げ、他方で上膜の着色のみに必要な量以上の着色剤溶液が必要になる。
【0006】
上述した欠点を克服するため、着色剤溶液にヒアルロン酸といった粘稠剤を添加し、着色剤溶液の粘度を高めることが提案されてきた。粘度を高めることは、着色剤が,可動性の減退、さらに立体的阻害を受けることにより、洗浄液内にそれほど浸入せず、むしろ着色すべき皮膜の近傍にしか達しない。確かに、着色剤溶液の高粘度化は、着色剤が着色剤溶液から皮膜に浸入しにくくなり、やはり皮膜の着色にのみ必要な量より、使用する着色剤溶液の量が多くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7014991号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この事情に鑑み、本発明の課題は、着色調製剤であって、特定の皮膜を着色することができ、特に内境界膜(ILM)および/または網膜上膜(EMR)といったヒトまたは動物の眼球において切除すべき皮膜を選択的に着色でき、かつ良好に適用可能であり、使用後に直接皮膜に塗布し、洗浄液を過度に着色することなく、該当部位の皮膜において拡散する着色調製剤を得ることにある。さらに、局所的な網膜の炎症や損傷を生じさせることがなく、かつ良好な生体適合性を有する着色調製剤を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題は、請求項、特に請求項1に記載の着色調製剤により解決することができる。
【0010】
従属請求項には、有利な実施形態を記載する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
予想外にも、トリフェニルメタン色素(着色剤)および/またはアゾ色素および/またはシアニン色素および/またはアントシアニン、アントシアニジンのような天然色素(着色剤)から選択した、少なくとも1つの色素を含有する着色調製剤において、着色調製剤の密度を1.01g/cm3 〜1.5g/cm3、好適には1.01g/cm3 〜1.3g/cm3 となるように調製した場合、ILMおよび/EMRに対する効果的かつ選択的な着色が可能になることを見いだした。
【0012】
水分に対する密度を増大させた着色剤溶液を、外科的治療に際して眼窩の眼球領域に注入すると、着色剤溶液が沈降し、これによりすぐに洗浄液と混合することを回避することができ、しかも着色剤溶液の沈降後は皮膜上で拡散し着色することが明らかになった。これにより、着色剤が洗浄液によってただちに洗浄されてしまうことを防止することが可能になるとともに、着色剤が視野を妨げることを回避することができるようになる。
【0013】
本発明による着色調製剤の溶媒は水であるものの、水分と均質に混合可能、かつ生体適合性を有する限り、必要に応じて水以外の溶媒も少量含有させることができる。これら溶媒として、一価および多価アルコールを含有させることができ、これらは他の医療分野でも使用されているものである。付加的な溶媒を使用する場合、特に好適には、グリコールまたはグリセリンを使用し、さらに、これら溶媒を混合したものを使用することもできる。水に溶媒を添加する場合、溶媒の比率を20質量%以下、より好適には、10質量%以下に抑えることが望ましい。好適には、本発明の着色調製剤は、等浸透圧液によるものとする。
【0014】
溶媒としての水および以下により詳しく説明する着色剤以外に、本発明による着色調製剤は、不可欠な構成要素として密度を調節する製剤を含有する。この密度を調節する製剤は生体適合性を有し、無害、かつ必要に応じてアルコールといった少量の可溶化液の添加後に、水と均質に混合可能な特性を有する必要があり、これにより澄んだ溶液を生成することができる。さらに、溶液は、着色剤との適合性を有する必要があり、これは換言すれば、着色剤の可溶性を大きく損なわない必要がある。着色調製剤の調製に際しては、オスモル(浸透圧モル)濃度も考慮し、拡散による組織への損傷を引き起こすことがないよう留意する必要がある。オスモル濃度は、好適には、280〜330mosmol(ミリオスモル)/Lの範囲内、好適には300mosmol/Lとする。
【0015】
上記に関連して、水との適合性を有し、しかも水よりも高い密度を有する溶液を使用する。密度を高めるための有利な製剤としては重水D2Oがあり、これにより密度値を所望の範囲に調節することができる。重水は特に優れた生体適合性を有し、水分中では真核細胞が20%までの濃度の耐性を示し、かつ適用領域における炎症を生じさせるといったことがない。さらに、任意の濃度で水と混合可能なうえ、沈降または分離することがなく、かつ水に対する可溶性に関しても明確な違いを示すことがない。本発明の調整剤における重水の比率は、1.01g/cm3 〜1.5g/cm3、好適には1.01g/cm3 〜1.3g/cm3 の所望の密度値を得ることができるよう調整することが可能である。他の成分における比率に規定される重水の適切な比率は、簡単な試験または計算により算出することができる。密度を調節する製剤として重水を使用する場合、好適には、5〜20%の比率で使用する。重水を使用した着色調製剤の生成も極めて容易であり、水と重水の良好な混合性に基づき、混合によって容易に生成することができる。これにより、水、重水および色素によって、簡単かつ手早く長期的な安定性を有し、しかも皮膜を選択的に着色するために適した着色調製剤を生成することができる。
【0016】
密度を調製することができる他の製剤としては二糖類または多糖類があり、多糖類は密度を高めるのに適しており、かつ容易に入手可能である。さらに、無害であり生体適合性を有する。ここに多糖類とは、2個、好適には5個以上の単糖分子、特に好適には10個以上の糖ユニットから構成される分子のことを指す。一般に単糖類および二糖類により密度値を高めることができるものの、本発明では、密度値の向上に非還元性二糖類のみを使用するものとする。これは単糖類および還元性二糖類の使用が望ましくない作用を生じさせる可能性があるからであり、例えば密度値を高めるうえで必要な量の単糖類および還元性二糖類の使用は、細胞にとって有害になる可能性がある。本発明による着色調製剤に適した非還元性二糖類は、スクロースまたはトレハロースであり、適切な多糖類としては可溶性のデンプン誘導体、例えばヒドロキシエチルデンプンおよびデキストランがある。多糖類として適した化合物は、中性であり、還元性作用を持たず、かつ水溶液で分解しない化合物である。
【0017】
密度を調節するための他の製剤としては、中性ポリマー、例えばポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリアクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドンがある。
【0018】
さらに、上述した製剤による組み合わせも、本発明による着色調製剤の密度を調製する上で適しており、例えば、重水および単糖類または多糖類による組み合わせがある。
【0019】
重水および/または他の密度を調節するための製剤における量の選択は、生成した着色調製剤の密度が、1.01g/cm3 〜1.5g/cm3、好適には1.01g/cm3 〜1.3g/cm3 の必要範囲内に納めることでなされ、この場合、着色調製剤の密度は、専門家にとって一般に既知の方法によって算定することができる。
【0020】
濃度を1.01g/cm3に高めることで既に所望の作用、すなわち着色剤溶液の適用後、溶液が素早く眼窩内に沈降し、皮膜上で拡散可能なことが明らかになった。これにより、施術者の視界を妨げることなく、選択的に皮膜の着色を行うことができるようになる。水分に対して0.01g/cm3以下の密度差では、着色調製剤を局所的に沈降させるための密度が不十分になり、従来技術に既知の着色調製剤と同様、沈降速度が緩慢になり、結果として上述した問題点につながる。逆に着色調製剤の密度が1.5g/cm3 以上になると、極めて繊細な網膜に損傷を与えるおそれがある。
【0021】
本発明による不可欠な付加的な構成要素は、色素(着色剤)である。色素は、ILMおよび/またはEMRを限定的、局所的に着色し、視覚上、皮膜を網膜と区別可能にする色素を使用することができる。また、色素は、水分または水分および付加的な溶媒との混合液内において可溶性を有する必要がある。色素は、眼球に有害、特に眼球細胞を損傷する、または細胞に対して有害であってはならず、かつ網膜を損傷もしくは対光反応によるICGまたはトリパンブルーといった有害作用をもたらすことがあってはならない。さらに、使用する色素量を低減するため、高い着色能力を有することが望ましい。
【0022】
これに関連して、以下に挙げる色素が有利であることが判明した。すなわち、トリフェニルメタン系色素としては、ブリリアントブルーG、ブリリアントブルーR、ブリリアントFCF、パテントブルーV、ブロムフェノールブルー、リサミングリーンSF、リサミングリーンG、ファーストグリーン、メチルグリーン、ブリリアント酸グリーン、クマシーバイオレットR200、ロザニリンが有利である。アゾまたはジアゾ系色素としては、オレンジG、ポンソー2R、クロモトロープ6R、ポンソー6R、タルトラジン、アゾフロキシン、ポンソーB、エバンスブルー、シカゴブルーがある。シアニン系色素としては、ヨウ化3,3'-ジエチルチアシアニン、ヨウ化3,3’-ジエチルチアカルボシアニン、ヨウ化3,3’-ジエチル-9-メチルチアカルボシアニン、ヨウ化1,1'-ジエチル-4,4'-シアニンがある。および/または天然系色素としては、オルセイン、ローソン、インジゴチン、カンタキサンチン、ヘマトキシリン、インジゴカルミンおよび/またはアントシアニンおよびアントシアニジニン、ならびにこれらの混合物よりなるグループから選択したものがある。すなわち上述した1つの系(グループ)における複数個の化合物による混合物および異なる系(グループ)間の化合物による混合物が色素として有利である。
【0023】
好適には、ブリリアントブルーG、ブリリアントブルーR、ブリリアントブルーFCF、パテントブルーV、メチルグリーン、クマシーバイオレットR200、ブロムフェノールブルーおよび/またはシカゴブルーを使用する。トリフェニルメタン系色素のうち、特にブリリアントブルーG、クマシーバイオレットR200、およびシカゴブルーが特に好適である。ブリリアントブルー系色素のうち、得に高い着色能力を有するブリリアントブルーGが好適であり、0.3g/l以下という低濃度で使用することができ、このような低濃度でもILMおよび/またはEMRに対して十分な選択的着色性を有する。他の適切な色素としては、リサミングリーンSF、リサミングリーンG、ファーストグリーン、ブリリアント酸グリーン、オレンジG、ポンソー2R、クロモトロープ6R、ポンソー6R、タートラジン、アゾフロキシン、ポンソーB、シカゴブルー、エバンスブルー、3,3'-ジエチルチアシアニンヨージド、3,3’-ジエチルチアカルボシアニンヨージド、3,3’-ジエチル-9-メチルチアカルボシアニンヨージド、1,1’-ジエチル-4,4’-シアニンヨージド、オルセイン、ローソン、インジゴチン、カンタキサンチン、ヘマトキシリン、インジゴカルミンおよび種々のアントシアニンがある。
【0024】
本発明による着色調製剤の有利な特性をさらに向上するため、着色調製剤に付加的に粘度調整剤を添加することができる。これに関連して明らかになったことは、本発明の着色調製剤における粘度を増大させる調整剤を添加することにより、着色調製剤における凝集性の増大が生じるため、本発明による着色調製剤の利点をさらに良好なものにすることができるようになる。水分より高い密度を有することにより、眼窩内でより早く沈降する本発明の着色調製剤は、洗浄液に拡散する割合がさらに低減する。これは、粘度の増大に伴い着色調製剤が皮膜に到達するまでその凝集性を維持するためである。ただし、すでに密度の調節時に有利な効果を得ることができるため、従来技術において既知の問題点が顕在化するほど粘度を高める必要はない。粘度を僅かに高めるだけでも、使用する装置から吐出される着色調製剤の点滴がより高い凝集性を持つ凝塊として構成されるため、容易な希釈化を防止することができ、着色調製剤に含有される色素(着色剤)の散逸を回避することができるようになる。このため、色素が毛管現象によって皮膜上の適用箇所において拡散し、皮膜を着色する。この方法により、色素を確実に皮膜上で拡散させることができる。
【0025】
粘度を調節し、生体適合性を有する製剤、換言すれば粘度調節剤としては、以下の基から1つまたは複数のものを使用することができる。すなわち、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリアクリル酸、共重合体、ポリビニルピロリドン、および他のポリマー、多価アルコール、例えばグリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、水溶性のセルロース誘導体、例えばメチルセルロース、キサンタンガム、デンプン、ヒアルロン酸およびその各誘導体、コンドロイチン硫酸およびナトリウム硫酸がある。粘度調節剤としては、粘度のみならず、同時に密度を高める製剤を使用することも可能である。この場合、2つのパラメータ、すなわち粘度および密度の両方が、所望の範囲内にあることに留意する必要がある。換言すれば、密度および粘度を調製する製剤は、着色調製剤の密度が1.5g/cm3を超えない量で使用する必要がある。適切な量は専門家によって容易、かつ場合によってはルーチン試験で確定し、着色調製剤におけるそれぞれの値を調節することができる。
【0026】
粘度調節剤として特に適しているのは、本発明において使用する色素に対して一定の親和性を有し、しかも高い拡散性によって特徴付けられる製剤である。発明者の予想に反して、ブチレングリコールによって粘度を調節することができ、かつ良好な拡散性を得ることが実証済みである。従って、ブチレングリコールを添加することによって、使用後の着色調製剤が眼窩内において沈降し、皮膜に到達後、拡散し皮膜を迅速に着色することができる。これは理論的説明を要することなく、一方でブチレングリコールが皮膜に対して親和性を有し、他方で疎水基であることに由来し色素を容易に吸収するという事実によるものである。ブチレングリコールおよび色素を含有する着色調製剤が皮膜に到達すると、色素が皮膜上で素早く拡散するようブチレングリコールが作用する。
【0027】
本発明による着色調製剤の粘度は、好適には、せん断粘度が、25℃、せん断速度が10s-1のとき、1〜500mPasの粘度範囲になるよう調節し、せん断粘度は、好適には、せん断粘度が、25℃およびせん断速度が10s-1のとき、50〜275mPasの粘度範囲となるように調節する。この粘度調節は、上述した粘度調節剤によって行うことができる。粘度が上述した測定条件に関して1〜500mPasの粘度範囲内にあれば、本発明による着色調製剤によって得ることができる利点を大幅に向上させることができる。選択的な着色性を持つ色素(着色剤)を含有する着色調製剤は、洗浄液によって特に大幅に洗浄されることなく沈降するため、着色剤は毛管現象により皮膜上の適用箇所において初めて拡散し、皮膜が着色される。粘度が上述した測定条件を1mPas下回っていると、本発明による素早い沈降作用を付加的に向上させることができなくなり、色素の少なくとも一部が洗浄液によって皮膜が着色される前に洗浄されることで、皮膜の着色に供さなくなる可能性がある。逆に動的粘度が、25℃およびせん断速度10s-1のときに500mPasの粘度範囲を超えていると、着色調製剤の粘度が高くなりすぎてしまい、着色剤が形成される点滴から最適な状態で放出されることができなくなる。これにより、迅速かつ均質に皮膜を着色させる着色調製剤の拡散性が大幅に低減し、着色調製剤によって皮膜を最適な形で湿らすことができなくなり、ひいては良好な着色も行われなくなる。特に良好な着色結果は、動的粘度が、25℃およびせん断速度10s-1のとき、50〜275の粘度範囲内にあることで得ることができる。
【0028】
着色剤溶液を眼球に投与する際に問題が生じる可能性があることが分かっている。着色剤溶液を一般に使用される注射器によって注入すると、注入に伴う過度な圧力により、着色剤が網膜の裏側に浸入する可能性がある。
【0029】
この問題点は、本発明によれば、カニューレの直径、カニューレに対するシリンジの直径比およびアスペクト比とを、損傷回避できるよう構成した注射器を使用することで解決することができる。本発明によれば、好適にはカニューレの直径が小さい注射器を使用し、眼球に対する損傷を極力回避する。さらに、シリンジの直径をカニューレの直径に適合させることによって、ベンリュリ効果の発生を大幅に回避できる構成とする。すなわち、投与に使用する注射器に関しては、シリンジの直径も可能な限り小さくする必要があるため、カニューレの直径に対するシリンジの直径比が、10〜2:1〜0,2、好適には、20:1〜14:1、特に好適には、16:1〜8:1の範囲となるようにする。さらに、注射器におけるシリンジのアスペクト比、すなわちシリンジの直径に対するシリンジの長さ比を、15〜5対1に調節することが望ましい。
【0030】
上記に関連する本発明における別の態様は、ヒトまたは動物の外境界膜および/または網膜上膜を選択的に着色するための着色調製剤を収容し、シリンジおよびカニューレで構成する注射器を含むキット(kit)である。この場合、カニューレの直径に対するシリンジの直径比は、10〜2:1〜0,2、好適には20:1〜4:1、特に好適には、16対1〜8対1の範囲に調節する。好適には、シリンジの直径に対するシリンジの長さにおける比率は、15〜5:1の範囲となるようにする。これによりキットは、本発明に不可欠な構成部分として、カニューレの直径に適合させたシリンジの直径を備える注射器を有することになる。本発明に関連して判明した点として、各直径の比率を縮小した場合、カニューレの直前に連なる内部空間では圧力が発生せず、均等な注入、すなわち均等な圧力および一定の速度によって、本発明による着色調製剤の注入を確実に行うことが可能になる。好適には、キットは、上述した本発明に係る着色調製剤を収容する。
【0031】
キットまたはキットに含まれる注射器には、好適には、19〜27ゲージ、特に好適には23〜25ゲージのカニューレを使用する。19〜27ゲージのカニューレは眼球に対する注射に適しており、流出口が微細に形成されているため、カニューレの挿入箇所に大きな損傷を与えることはなく、しかも本発明による着色調製剤を十分な速度を持たせて眼球に適用するのに必要な大きさを有している。注射器のシリンジにおける直径が適切に形成されていれば、注射器内またはカニューレ内における圧力の発生を防止し、従って過度の圧力で眼球に着色調製剤を注射することがないため、着色調製剤が適用箇所を越えて、例えば網膜の裏側に拡散することを回避することができるようになる。望ましい着色調製剤の使用に関するカニューレとして、20,23,25または27ゲージ、特に23または25ゲージのものが好適であることが実証済みである。好適な一実施形態では、このようなカニューレを、シリンジ直径が3〜10mmの注射器とともに使用する。動的粘度が、25℃およびせん断速度10s-1のときに500mPasの粘度範囲内にあれば、特に23または25ゲージのカニューレが好適である。まさにこの条件下においてカニューレと着色調製剤との間における連係が最適であり、圧力滞留によって着色調製剤が噴射状にカニューレから流出することなく、十分な速度および均等な量で、本発明による着色調製剤を眼球の適用箇所に沈降させることができる。これにより、着色調製剤を望ましい適用箇所の裏側に注入することを回避することができ、皮膜の最適な着色が可能になる。
【0032】
上述した本発明に係る着色調製剤およびその注入のための注射器により、眼球皮膜、すなわちILMおよび/またはERMを局所的に着色することが可能になる。使用する色素に応じて、皮膜の1つのみ、すなわちILMまたはERMの1つのみを着色するか、もしくは両方の皮膜を着色することができる。好適な一実施形態では、本発明による着色調製剤を網膜上膜においてネガティブ着色させることで網膜上膜を切除することができる。この一実施形態では、例えば選択的にILMのみを着色し、ERMを着色しないブリリアントブルーGを染料溶液として使用することで、着色されていない皮膜(ERM)を着色した皮膜(ILM)から区別し、良好に切除することができる。
【0033】
以下、本発明を、密度を高めた着色剤溶液およびその製造に関する実施例につき詳述する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではないことに留意されたい。
【0034】
実施例1
0.025gのブリリアントブルーG、5gのサッカロース、0.19gのリン酸水素二ナトリウム、0.03gのリン酸二水素ナトリウムおよび0.82gの塩化ナトリウムを正確に計量し、蒸留水によって100gに調合する。各原料はガラス容器内において最大60℃の下、1時間にわたって熱処理するものとし、これにより着色剤の濃度が0.25g/Lおよび密度が1.023g/cm3の均質な溶液を調製することができる。
【0035】
実施例2
0.025gのブリリアントブルーG、5gのトレハロース、0.19gのリン酸水素二ナトリウム、0.03gのリン酸二水素ナトリウムおよび0.82gの塩化ナトリウムを正確に計量し、蒸留水によって100gに調合する。各原料はガラス容器内において最大60℃の下、1時間にわたって熱処理するものとし、これにより色素濃度が0.25g/Lおよび密度が1.023g/cm3の均質な溶液を調製することができる。
【0036】
実施例3
0.025gのブリリアントブルーG、0.19gのリン酸水素二ナトリウム、0.03gのリン酸二水素ナトリウムおよび0.82gを正確に計量し、蒸留水および重水から成る混合溶媒によって100gに調合する。各原料は、ガラス容器内において最大60℃の下、1時間にわたって熱処理するものとし、これにより色素濃度が0.25g/L、密度が1.018g/cm3の均質な溶液を調製することができる。
【0037】
実施例4
着色剤+グリセリン
0.025gのブリリアントブルーG、0.19gのリン酸水素二ナトリウム、0.03gのリン酸二水素ナトリウムおよび0.82gの塩化ナトリウムを正確に計量し、蒸留水および10%のグリセリンの混合液によって100gに調合する。各原料は、ガラス容器内において最大60℃の下、1時間にわたって熱処理するものとし、これにより着色剤濃度が0.25g/L、密度が1.027g/cm3の均質な溶液を調製することができる。
【0038】
実施例5
1〜4の実施例に説明した方法により、以下の組成より成る着色剤溶液を調製することができた。
【表1】

上記の組成により、密度が1.028g/cm3および粘度範囲が7,38mPasの粘度による均質な溶液を得ることができた。
【0039】
実施例6
1〜4の実施例に説明した方法により、以下の組成より成る染料溶液を調製することができた。
【表2】

上記の組成により、密度が1.007g/cm3および粘度範囲が142.79mPasの粘度による均質な溶液を得ることができた。
【0040】
実施例1〜6で調整した着色剤溶液は、ヒトまたは動物の眼球における外境界膜を着色する目的で使用する。6つの溶液とも極めて良好に注入することができ、使用後は即座に眼窩内において沈降し、ILMを着色した。着色能力は、比較用に特許文献2(独国特許第10255601号明細書)から既知のブリリアントブルーG溶液を、同量使用した場合よりも大きい結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物の眼球における内境界膜(ILM)および/または網膜上膜(EMR)を選択的に着色するための水性、かつ生体適合性を有する着色調製剤であって、トリフェニルメタン系色素、アゾ系色素、シアニン系色素および/または天然系色素、またはこれらの混合物より成るグループから選択した着色剤を少なくとも1つ含有し、前記着色調製剤は1.01g/cm3 〜1.5g/cm3の範囲内の密度となるよう調製した着色調製剤。
【請求項2】
請求項1に記載の着色調製剤において、前記着色剤は、ブリリアントブルーGとしたことを特徴とする着色調製剤。
【請求項3】
請求項2に記載の着色調製剤において、前記ブリリアントブルーGは、調製済みの前記着色調製剤における濃度が0.3g/lまで、好適には、0.25g/lまでの濃度となるよう調製したことを特徴とする着色調製剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の着色調製剤において、該着色調製剤は、前記網膜上膜のネガティブ着色のために使用することを特徴とする着色調製剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の着色調製剤において、該着色調製剤の濃度を調節するための製剤として、ヒドロキシエチルデンプンまたはデキストランから選択した重水および/または多糖類を含有することを特徴とする着色調製剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の着色調製剤において、該着色調製剤は、粘度を付加的に調節する少なくとも1個の製剤を含有し、該製剤は、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリアクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドンおよび他のポリマー、多価アルコール、例えばグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、セルロース、キサンタンガム、デンプン、ヒアルロン酸および該ヒアルロン酸の各誘導体、コンドロイチン硫酸および硫酸ナトリウムから選択することを特徴とする着色調製剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の着色調製剤において、該着色調製剤は、25℃および10s-1のせん断速度のとき、動的粘度が1〜500mPasの粘度範囲、好適には50〜275mPasの粘度範囲となるよう調製したことを特徴とする着色調製剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の着色調製剤において、調製した溶液のオスモル濃度が280〜330mosmol/L、好適には300mosmol/Lとなるよう調製したことを特徴とする着色調製剤。
【請求項9】
シリンジおよびカニューレを備える注射器ならびにヒトまたは動物の眼球における内境界膜(ILM)および/または網膜上膜(EMR)を選択的に着色するための水性の着色調製剤を備えるキットであって、この場合、前記カニューレの直径に対する前記シリンジの直径比を、10〜2:1〜0,2、好適には、20:1〜4:1としたキット。
【請求項10】
請求項9に記載のキットにおいて、前記水性の着色調製剤は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の着色調製剤であることを特徴とするキット。
【請求項11】
請求項9または10に記載のキットにおいて、前記シリンジの直径に対するシリンジの長さ比を、15〜5:1の範囲としたことを特徴とするキット。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか一項に記載のキットにおいて、前記注射器が、19〜27ゲージ、好適には23〜25ゲージを備える前記カニューレを有する構成としたことを特徴とするキット。
【請求項13】
請求項12に記載のキットにおいて、前記注射器が、3〜10mmの前記シリンジ直径を有する構成としたことを特徴とするキット。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれか一項に記載のキットにおいて、着色剤は、ブリリアントブルーG、ブリリアントブルーR、ブリリアントブルーFCF、パテントブルーV、メチルグリーン、クマシーバイオレットR200、ブロムフェノールブルーおよび/またはシカゴブルーとしたことを特徴とするキット。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれか一項に記載のキットにおいて、前記着色調製剤は、25℃および10s-1のせん断速度のとき、動的粘度が1〜500mPasの粘度範囲、好適には50〜275mPasの粘度範囲となるよう調製したことを特徴とするキット。
【請求項16】
請求項9〜15のいずれか一項に記載のキットにおいて、前記ブリリアントブルーGは、調製後の前記着色調製剤における濃度が0.3g/lまでの濃度、好適には、0.25g/lまでの濃度となるよう調製したことを特徴とするキット。

【公表番号】特表2012−518776(P2012−518776A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541226(P2011−541226)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/009144
【国際公開番号】WO2010/078942
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(510137490)フルオロン ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】