説明

着陸スケジューリング装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、並列進入される複数本の滑走路を有する空港における航空機の進入・着陸を誘導するターミナル管制システムにおいて、航空機の進入・着陸を計画する着陸スケジューリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】図11は、空港において使用される従来のレーダー管制システムのブロック構成図である。図11R>1のシステムはレーダー及び目標検出装置4、主処理装置6、外部システム8、管制用表示装置10によって構成される。航空機レーダー情報12は航空機群14の位置情報を主な内容とする情報である。また、外部入力航空機属性情報16は、外部システム8から主処理装置6に供給される情報で、航空機の各種属性を表す。表示情報18は、主処理装置6で生成された画像データである。
【0003】このシステムの動作を説明する。レーダー及び目標検出装置4は、電波を放射し航空機からの反射波を受信し、この受信信号から航空機の距離、方位、高度といった位置情報などを定期的に収集する。収集された情報は、デジタル化され主処理装置6に航空機レーダー情報12として渡される。一方、外部システム8は、航空機の属性情報を収集、蓄積しており、これを必要に応じて主処理装置6に供給する。例えば外部システム8は、2次監視レーダー(SSR:Secondary Surveillance radar)などであり、航空機の識別コードを受信して、予め登録されている航空機の便名、型式といった情報を主処理装置6に供給する。主処理装置6は、これら航空機レーダー情報12を追尾し、外部入力航空機属性情報16と合わせて表示データ形式に変換する。主処理装置6で生成された表示情報18は、管制用表示装置10に表示される。その表示イメージは、例えば、航空機が輝点で表示され、さらに当該航空機の高度、便名等の属性情報がその輝点に対応する形で表示される。このシステムにより提供される情報は、航空機の離着陸の管制判断に利用される。
【0004】現在では、航空機の離発着数の多い空港では、安全かつ円滑な航空機の誘導を実現するため、上記システムに加えて、管制官を支援するさらに高度なシステムが導入されている。例えば、ターミナル、すなわち空港周辺において、航空機間の安全間隔を確保しつつ、空港までの到着時間を最短にしたり、滑走路への進入経路を最短にするような計画を策定するものが提案されている。ドイツのフランクフルト空港で運用されているCOMPASシステムや米国ダラスフォートワース空港で実験されているCTASシステムなどは、そのようなシステムである。
【0005】さらに詳しく、従来提案されている上記管制支援システムの原理を説明する。現在では、計器着陸装置(ILS:Instrument Landing System)が精密な進入着陸を援助するために広く普及している。ILSの地上施設は、滑走路への進入方向に沿って、1本の降下路を電波的に発生するほか、距離標識を発生する。航空機の機上受信装置は、これらを受信することにより、降下路からの方位、仰角偏移を得ることができる。航空機はこれら計器情報により、標識通過を確認しながら手動又は自動操縦で滑走路に進入着陸することができる。
【0006】このILSの発生する降下路への進入点として、滑走路の延長線上の一定の高度の定点(以下、ファイナルフィックスと称する。)が設定される。図12は、滑走路とファイナルフィックスとの関係を示す模式図である。図12(a)は、平面図であり、同図(b)は側面図である。航空機は、ファイナルフィックスを通過した後は、ILSを利用して滑走路へ、直進かつ一定の割合で降下し着陸する。なお、滑走路への進入方向は、風向きによって反対側からになることもあるが、その場合は、その反対側に向けてILSのグライドスロープが設定され、図12同様の誘導が行われる。
【0007】このようにファイナルフィックスに到達した航空機は、ILSによって滑走路に導かれる。上述したCOMPAS等の管制支援システムは、レーダー管制システムにより得られる航空機の位置、速度、目的地といった情報から、空港に進入する航空機に関して、その経路を想定し、どの経路と速度で進入すればファイナルフィックスまで安全かつ効率的に到達できるかを計画し、それを例えば管制用表示装置10に他の情報と併せて推奨表示することができる。
【0008】この航空機のターミナルでの飛行計画を生成する第一段階として、まず、進入機の着陸順位が決定される。この決定の方法としては以下の方法がある。一つは、他の進入機が存在しないとして、最も当該進入機に望ましい進入手段を講じた場合の到着時刻を基準時刻として、この基準時刻が早い順に到着順位を定めるという方法である。もう一つは、進入機の到着順序を様々に変え、航空機の離発着等が最も効率的となる順序を探索するという方法である。ここでは、簡潔さと取り扱いの公平さから前者を例として代表的な方法を説明する。なお、簡単のため、出発機の存在は考慮しない。
【0009】飛行計画は電子計算機を用いて行われる。空港に到着する航空機の進入経路の集合は、当該空港の管制空域内に網状に離散化されたモデルとして取り扱われる。つまり、各航空機の経路は、定点(つまり「網」の節)と定点との間に定義される区間経路を順次結んで表される。各区間経路での航空機の所要時間は、高度、風向、風速、針路変更、さらにモデル上は区間経路や定点は幅がないが、実際の経路ではある程度の変位幅が許容されることなどの要素を考慮して、当該航空機の型式別に、最大所要時間と最小所要時間というパラメータの形で、オフラインで予め設定される。この値は、その時々の風向、風速に応じて、オンラインで変更されたものが用いられる。
【0010】図13は、ここで説明する従来の計画方法における到着順位決定処理のフロー図である。この処理は例えば、定期的に実行される。進入機は1機ずつ逐次処理される。レーダー管制システムで得られる情報に基づいて、目的空港に着陸する計画がある進入機が1機選択される(S100)。選択された進入機の位置、高度、速度、型式に基づいて、当該進入機が今回の処理で初めて、捕捉されたものかどうかを判断する(S102)。もし、初めて捕捉されたものであるならば、基準到着時刻を計算する(S104)。基準到着時刻は、他の進入機の存在を無視して最適手段で着陸すると仮定した場合の到着予測時間である。現在時刻をT、現在位置から到着までの最短経路における各区間経路をRi(i=1〜n)と表し、区間経路Riで取り得る最短時間をτiとする。このとき、基準到着時刻Taは、次式で与えられる。
【0011】
【数1】


なお、初めての捕捉でない場合には、基準到着時刻Taの計算は省略される。この進入機が順位未確定であり(S106)、順位確定領域に入った(S108)場合には、次に当該進入機より基準到着時刻が早く、しかも順位未確定である他の進入機があるかどうかが調べられる(S110)。このような順位未確定進入機は、以前の処理で捕捉はされたが、順位確定領域に達していなかったものであり、今回の処理時点で順位確定領域内に到達した進入機である。このような他の進入機が存在する場合には、まずそれらについて、基準到着時刻順に到着順位を決定し(S112)、しかる後、処理S100で選択された当該進入機の到着順位を決定する(S114)。当然であるが、処理S110を満たす他の進入機が存在しない場合には、処理S112はスキップされる。
【0012】当該進入機の処理が終了すると、他に未処理の進入機がないかどうかが調べられ(S116)、存在すれば、処理S100からの処理が繰り返される。なお、処理S106、S108における条件が満たされない場合には、今回の処理で順位確定の必要がないか、順位を確定できないかのいずれかであるので、以降の処理S110〜S114をスキップして、未処理進入機の探索処理S116が行われる。
【0013】次に、この順位に従って、進入機の経路、速度が決定される。図14は、この従来より行われている進入機の経路、速度の決定処理のフロー図である。モデル化された網の各点から可能な進入手段(進入経路とその経路を構成する区間経路の所要時間)の候補、及びその進入手段の優先順位は、あらかじめオフラインで登録しておく。進入手段の所要時間の短い程、優先順位は高くなるように設定される。この優先順位に基づいて、処理の当初には、最も望ましい進入手段が選択される(S130)。そして、選択された進入手段の経路上の各定点(網の節)での通過予定時刻が計算される(S132)。
【0014】進入手段をインデックスjで区別することにすると、進入手段jの経路上のp番目の定点(始点をp=0とする。)での通過予定時刻Tjpは以下のように計算される。経路の区間経路Ri(i=1〜n)における所要時間をτjiで表す。
【0015】
【数2】


次に、通過予定時刻が計算された各定点ごとに、当該定点又はその近傍を当該進入機の通過予定時刻に近接した時刻に通過する他の進入機の進入経路が先行して設定されていないか、つまり先行航空機との安全間隔が確保されるかが調べられる(S134)。安全間隔は、距離で測ってもよいが、ここでは通過予定時刻を利用して時間差で測るのが便利である。つまり安全間隔は安全時間間隔として表される。例えば、インデックスsで表す当該進入機とインデックス(s−1)で表す先行航空機との安全時間間隔をΔT(s-1:s)、当該進入機及び先行航空機の定点pでの通過予定時刻をそれぞれTp(s)、Tp(s-1)とすると、安全間隔が確保されているという条件は、次式で表される。
【0016】
【数3】
ΔT(s-1:s)≦Tp(s)−Tp(s-1) ………(3)
この安全間隔の確保は、進入経路上の全定点において要求され、これに合格すれば、選択された進入経路及び通過予定時刻で表される進入手段がファイナルフィックスまでのスケジュールとして登録される(S136)。
【0017】処理S134で、いずれかの定点において(3)式が満足されず、安全間隔の確認に不合格となると、他に進入手段があるかどうかが調べられる(S138)。もしまだ進入手段の候補が残っていれば、その中で最も望ましい進入手段が上記優先順位に従って選択され(S140)、処理S132に戻って同様の処理が繰り返され、適切な進入手段の探索が継続される。
【0018】一方、全ての進入手段の候補が調べられたが適切な進入手段が見出せなかった場合(S138)、待機旋回の指示又はこのシステムでは判断不可であるといった表示を行い、管制官に知らせる(S142)。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】単独の滑走路においては、航空機は安全時間間隔未満では着陸できなかった。これに対し、複数の滑走路を有する空港においては、各滑走路への進入機間では安全間隔を確保しなければならないが、互いに異なる滑走路に着陸する進入機は、安全時間間隔未満で着陸することができる。しかし、上記従来のシステムは、単独滑走路に対応したものであり、このような複数滑走路に対応した適切な航空機のスケジューリングを作成できないという問題点を有していた。
【0020】このような複数滑走路に対応するための方法の一つは、複数窓口の場合の待ち行列理論を適用して、滑走路又はファイナルフィックスを窓口として取り扱い、空いている滑走路に着陸させるというものである。しかし、この方法では、滑走路又はファイナルフィックスまで到達するまでの航空機の経路の交差、つまり経路上の各ポイントでの安全間隔の確保を考慮することが難しいという問題がある。これを回避するために、ILSのグライドスロープの角度を、各滑走路間で異ならせ、ファイナルフィックスに高度差を与えようとしても、その角度は航空機の安全な進入のための制約を受け、交差による危険回避に有効なだけの角度差、高度差を与えることができない。
【0021】もう一つの方法は、左側の滑走路には、左方面から進入してくる進入機を割り当て、右側の滑走路には、右方面から進入してくる進入機を割り当てる方法である。しかし、到着機の飛来する方面の分布は、必ずしも一定ではない。例えば、一般に時間帯によって分布は変化するものであり、按分の比率を例えば左右方面に応じて半々に固定するという方法は必ずしも最適なスケジューリングを保証しない。このように複数滑走路間に特別な考慮を払うことなくまず振り分け、しかる後に従来の方法を応用してスケジューリングを行うという方法は、滑走路の効率的利用が図れないという問題があった。
【0022】本発明は上記問題点を解消するためになされたもので、複数滑走路を有した空港周辺空域において、進入機間に安全間隔を確保しつつ、かつ効率的に進入機を着陸させるようにファイナルフィックスの割り付け、すなわち滑走路の割り付けを行う着陸スケジューリング装置を提供することを目的とする。
【0023】
【課題を解決するための手段】本発明に係る着陸スケジューリング装置は、それぞれ降下路を設定される並行配置された複数本の滑走路のいずれかに航空機を進入・着陸させる着陸計画を作成する着陸スケジューリング装置であって、先行して到着する前記航空機である先行航空機とこれに続き到着する前記航空機である後続航空機との予想到着間隔を算定する到着間隔算定部と、前記各航空機ごとに前記降下路への進入ポイントに到達前の飛行経路上に前置通過ポイントを設定する通過点設定部と、前記先行航空機の前記前置通過ポイントと当該先行航空機に割り当てられた前記進入ポイントとを結ぶ先行航空機予定経路と、前記後続航空機の前記前置通過ポイントと当該後続航空機に割り当てられる前記進入ポイントとを結ぶ後続航空機予定経路とが交差するか否かを予め判定する交差判定部と、前記予想到着間隔が所定の安全間隔以上、または前記交差判定部の交差判定結果が非交差であるように、前記先行航空機と前記後続航空機をそれぞれ前記滑走路へ進入させる前記着陸計画を作成する計画部とを含むものである。
【0024】本発明に係る着陸スケジューリング装置は、前記交差判定部が、前記先行航空機の前記前置通過ポイントと当該先行航空機に割り当てられた第一の進入ポイントとを結ぶ先行航空機予定経路と、前記後続航空機の前記前置通過ポイントと第二の進入ポイントとを結ぶ後続航空機予定経路とが交差するか否かを予め判定し、前記計画部が、前記予想到着間隔が前記安全間隔未満であるとき、前記先行航空機の進入予定滑走路とは異なる前記滑走路へ前記後続航空機を進入させる並列着陸を決定する並列着陸処理決定部と、前記並列着陸が決定される場合について、前記交差判定部の交差判定結果が非交差である場合には、前記後続航空機の前記進入ポイントとして前記第二の進入ポイントを割り当てる滑走路選択部とを含むものである。
【0025】本発明に係る着陸スケジューリング装置は、前記滑走路選択部が、前記先行航空機と前記後続航空機との前記並列着陸が決定され、かつ前記交差判定結果が交差であり、かつ当該先行航空機と当該先行航空機に先行する航空機との前記並列着陸が決定されなかった場合には、前記先行航空機の前記進入ポイントを前記第二の進入ポイントに変更し、前記後続航空機の前記進入ポイントに前記第一の進入ポイントを割り当る計画を行い、一方、前記先行航空機と前記後続航空機との前記並列着陸が決定され、かつ前記交差判定結果が交差であり、かつ前記先行航空機と当該先行航空機に先行する前記航空機との並列着陸が決定された場合には、前記後続航空機の着陸を遅延させ、前記予想到着間隔を前記安全間隔以上とする計画を行うというものである。
【0026】本発明の好適な態様である着陸スケジューリング装置は、前記滑走路選択部が、前記並列着陸処理決定部が前記並列着陸を決定しない場合について、前記後続航空機の前記進入ポイントとして、当該後続航空機の着陸後の駐機スポットに近い前記滑走路に対応する前記進入ポイントを割り当てるというものである。
【0027】本発明に係る着陸スケジューリング装置は、前記各航空機ごとのターミナル領域飛行時間と着陸後の駐機スポットまでの地上移動時間とを加算した着陸所要時間、又は前記各航空機ごとのターミナル領域飛行中の消費燃料と着陸後の駐機スポットまでの地上移動での消費燃料とを加算した着陸所要燃料の少なくともいずれかを着陸評価値として算定する着陸評価値算定部を有し、前記計画部が前記各航空機について前記着陸評価値を最小とする前記着陸計画を作成するというものである。
【0028】本発明に係る着陸スケジューリング装置は、2つの前記滑走路に対応して前記着陸計画を作成する着陸スケジューリング装置であって、前記計画部が、前記各航空機ごとに当該航空機の着陸後の前記駐機スポットに近い最適滑走路への前記着陸所要時間を算定し、この着陸所要時間に基づいて前記各航空機の基準到着時刻を定める到着時刻算定部と、着陸計画未確定航空機のうち前記基準到着時刻が最先のものを計画確定対象の第一候補機として選択する第一候補機選択部と、前記第一候補機に先行して当該第一候補機の前記最適滑走路である第一滑走路に着陸予定の第一滑走路先行着陸機と、当該第一候補機と間の前記予想到着間隔が前記安全間隔未満である場合には、第二滑走路を前記最適滑走路とする前記着陸計画未確定航空機のうち前記基準到着時刻が最先のものを第二候補機として選択する第二候補機選択部と、前記第一滑走路先行着陸機と前記第一候補機との前記予想到着間隔が前記安全間隔以上である場合に、当該第一候補機を前記第一滑走路に進入させる着陸計画を確定する単純計画部と、前記第一滑走路先行着陸機と前記第一候補機との前記予想到着間隔が前記安全間隔未満である場合に、当該第一候補機を、当該予想到着間隔が前記安全間隔以上となるように遅延させて前記第一滑走路に進入させる計画、若しくは前記第二滑走路に進入させる計画、又は前記第二候補機を前記第二滑走路に進入させる計画、若しくは前記第一滑走路に進入させる計画のうち、最小の前記着陸評価値を実現するものを選択して、前記着陸計画として確定する例外計画部とを含むものである。
【0029】
【発明の実施の形態】
[実施の形態1]次に、滑走路を2本有する空港で用いられる本発明の実施の形態である着陸スケジューリング装置について図面を参照して説明する。本発明に係る着陸スケジューリング装置は、ここでは中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)、記憶装置、その他表示装置等の入出力装置を備えた電子計算機を用いて構成される。よって、本発明の構成要素である到着間隔算定部、通過点設定部、交差判定部、計画部は、例えば記憶装置に格納されたプログラムとして構成され、必要に応じてCPUに読み出され処理を実行されるものである。もちろん、本発明はこのような汎用の計算機を用いた場合に限られるものではなく、各構成要素の機能を果たす処理ブロックをハードウェアによってそれぞれ構成し、それらを接続して本発明に係る着陸スケジューリング装置を構成してもよい。
【0030】図1は、空港周辺での航空機の経路であってモデル化された経路の平面図である。滑走路への進入機から見て、左側の滑走路を左側滑走路40、右側の滑走路を右側滑走路42とし、これらをそれぞれ以降、記号RWL、RWRを用いて表すことがある。これら滑走路の同一方向の延長線上に、降下路であるILSグライドスロープへの進入ポイントとしてファイナルフィックスが設定される。RWL、RWRそれぞれに対応するファイナルフィックスをそれぞれ記号FXL、FLRを用いて表す。進入機の経路の集合は、従来例で述べたと同様、当該空港の管制空域内に網状に離散化されたモデルとして取り扱われる。例えば、図1において点44、46が定点であり、これら定点同士を結ぶ線分48が区間経路である。各航空機の経路は、これら定点(つまり「網」の節)と定点との間に定義される区間経路を順次結んで表される。各区間経路での航空機の所要時間は、高度、風向、風速、針路変更、さらにモデル上は区間経路や定点は幅がないが、実際の経路ではある程度の変位幅が許容されることなどの要素を考慮して、当該航空機の型式別に、最大所要時間と最小所要時間というパラメータの形で、オフラインで予め設定されこと、及びこの値はその時々の風向、風速に応じて、オンラインで変更されたものが用いられることなども従来例で述べた通りである。
【0031】さて、本装置の特徴として、上記定点のうち、進入機がファイナルフィックスの一つ手前に通過する一群の点44は、前置通過ポイント又はプレファイナルフィックスと定義され、後述する経路交差の回避処理において、他の定点と異なる役割を担う。ここでは、各前置通過ポイントに、滑走路に向かって右側から順にPFX1、PFX2、…、PFXnという記号を付与して識別する。また、例えばPFX1とPFXnのおおよそ中間の前置通過ポイントをPFXmとする。このPFXmは、後述するように、左右どちらの滑走路に着陸すべきかの制約条件が特に進入機に課せられていない場合に、滑走路RWL、RWRのいずれを選択するかの基準定点として、処理の開始時にあらかじめパラメータとして与えられる。
【0032】図2、図3は、CPU上で実行される本装置の処理を説明する処理フロー図である。図2、図3は合わせて一つの処理フローを表すが、図示の都合上、2つに分割して描いている。これら両図間での処理フローは、同じ印のノードA、B(○印で表される。)において連結される。
【0033】本装置は、他の進入機との経路の交差等の干渉が考慮されたスケジュールのうち最もファイナルフィックスへの到達遅延が少ないスケジュールであるファイナル適切スケジュールを、各進入機について求める。ここで、ファイナル最適スケジュールは、干渉を考慮されたものであるので、それを考慮されない各進入機単独での最適スケジュールとは必ずしも一致しない。また、本実施の形態では、進入機が着陸後にどの駐機場所に移動するかというスポット情報は考慮されない。スポット情報を考慮する例については、後の実施の形態において説明する。また、普通の並行滑走路では、ファイナルフィックスFXLとFXRとの間の距離は、これらの点とPFXk(k=1〜n)との距離に比べて小さい。よって、区間経路FXL−PFXkの距離及びその通過に要する時間と、区間経路FXR−PFXkの距離及びその通過に要する時間とは、それぞれ同じであるとみなすことができる。つまりこのファイナルフィックスに達する最後の区間経路に関する所要時間等の計算においては、FXLとFXRとを区別する必要がなく、単一滑走路で用いられる従来同様の方法をそのまま適用することができる。
【0034】本装置は、従来技術で図13を用いて説明した到着順位の先頭の進入機から順に一機ずつスケジュールを決定していく。到着順位に基づいてN番目のスケジューリング対象機が選択されると(S200)、当該N番機と、この一つ前にスケジューリング処理を行われた(N−1)番機との間に滑走路を選択する上での制約条件が存在するかどうかが調べられる(S202)。この制約条件はN番機に左右いずれのファイナルフィックスを割り当てるべきかに関する制約条件であって、(N−1)番機とN番機との到着間隔が安全間隔より小さい場合には、N番機は(N−1)番機に対して割り当てられたファイナルフィックス(又は滑走路)と異なるもう一方のファイナルフィックス(又は滑走路)を割り当てるという条件を少なくとも含んでいる。この処理S202は、到着時間算定部と並列着陸決定部の機能を包含し、当該到着時間算定部により求められた到着間隔に基づいて上記制約条件が判定され、予想される到着間隔が安全間隔未満であるとき、つまり制約条件があるとき、並列着陸を行うための計画を行う処理への分岐を行う。また、この制約条件には、これとの論理積で他の条件を追加することもできる。
【0035】もし、この制約条件が無ければ、N番進入機は、ファイナルフィックスFXR、FXLのいずれを採ることもできる。その場合、本装置では前置通過ポイントPFXmを基準にして、ファイナルフィックスの左右の決定を行う。つまり、N番目の進入機が通過する前置通過ポイントPFXkが滑走路に向かってPFXmより右側であれば、すなわちN番進入機の前置通過ポイントの番号kがk<mを満たすならば(S204)、N番進入機のファイナルフィックスとしてFXRが選択され(S206)、処理S204での判定が逆であればFXLが選択される(S208)。この制約条件無しの場合には、N番進入機に関するスケジューリング処理は、これで終了する。なお、処理S204は通過点設定部の機能を包含し、それにより求められた各進入機の前置通過ポイントを用いて当該処理が行われる。
【0036】このように、選択することにより、前置通過ポイントからファイナルフィックスまでの経路において、後続の(N+1)番機との交差を生じる可能性を低くすることができる。この理由については、後述の処理の関連個所で述べる。
【0037】さて、処理S202において、(N−1)番進入機との間に制約条件がある場合には、その(N−1)番進入機に割り当てられたファイナルフィックスの左右に応じて場合分けされる(S212)。(N−1)番進入機のファイナルフィックスがFXRである場合には、次いで、N番進入機と(N−1)番進入機の前置通過ポイントの左右が調べられる(S214)。ここでN番進入機、(N−1)番進入機の前置通過ポイント番号をそれぞれk(N)、k(N-1)と表す。本装置は、(N−1)番進入機のファイナルフィックスが右(FXR)であって、かつN番進入機が(N−1)番進入機より左の前置通過ポイントから進入する、つまりk(N)≧k(N-1)である場合には、N番進入機に左のファイナルフィックス(FXL)を割り当てる(S216)。図4は、(N−1)番進入機とN番進入機との経路が交差しない場合を説明する模式的な平面図である。この図から、上述のようにN番進入機のファイナルフィックスを決定すれば、前置通過ポイントからファイナルフィックスまでの両進入機の経路は交差しないことが分かる。よって、両進入機の到着間隔が安全間隔未満であっても、安全な着陸が行われる。なお、図において、p=k(N)、q=k(N-1)である。
【0038】逆に、(N−1)番進入機のファイナルフィックスFXLであって(S212)、k(N)≦k(N-1)である場合(S218)には、本装置は、N番進入機のファイナルフィックスとしてFXRを選択して(S220)、両進入機の経路交差が回避された安全な着陸計画をファイナル最適スケジュールとして決定する。
【0039】上記処理S216、S220でファイナルフィックスが選択されると、当該N番進入機についての処理を終了する。
【0040】さて、ここで、処理S204において、N番進入機の前置通過ポイント番号に応じてファイナルフィックスの左右を決定した理由を説明する。進入機の前置通過ポイントの分布がランダム又はばらつきが大きい場合、例えば処理S204においてk(N)<mである場合には、次の進入機の前置通過ポイント番号k(N+1)は、k(N+1)≧k(N)を満たす確率が大きい。つまり、k(N)<mの場合には、(N+1)番進入機はN番進入機より左側から進入する可能性が大きいので、処理S204〜S208において、後続の(N+1)番進入機に対して左(FXL)を残しておけば、これら両進入機間での経路交差を回避したスケジューリングを行える可能性が高いというのが理由である。k(N)>mの場合には、上記説明において左右を逆にして考えればよい。
【0041】残る場合は、判断処理S214、S218において、それぞれ、k(N)<k(N-1)、k(N)>k(N-1)である場合であり、この場合には、N番進入機の経路は、(N−1)番進入機の経路と交差すると判定される。図5は、この(N−1)番進入機とN番進入機との経路が交差する場合を説明する模式的な平面図であって、特に処理S218においてk(N)>k(N-1)である場合を示している。この図から理解されるように、(N−1)番進入機に左(FXL)を割り当てた場合には、後続航空機が安全間隔未満で着陸しようとすると右(FXR)を選択するしかない。しかし、その後続航空機であるN番進入機が(N−1)番進入機の前置通過ポイントPFXpより左側のポイントPFXqを通過するものであると、両進入機の前置通過ポイントからファイナルフィックスまでそれぞれの経路は交差することとなる。これは安全間隔未満で到着する両進入機にとって好ましくなく、採用することができない。ちなみに、処理S212、S214、S218が交差判定部を構成する。
【0042】この交差判定処理によってスケジュール上での交差の発生が検知されると、本装置は、(N−1)番のファイナルフィックスを変更して交差を解消する以下の処理を試みる。まず、(N−1)番進入機がその前置通過ポイントへの到達の所定時間前であるか否か、又はスケジュール確定か否かを判断する(S222)。ここで所定時間とは、管制官又は地上管制システムが進入機に着陸滑走路変更を指示し、パイロットが、自機が目指すファイナルフィックスを変更するまでに必要な時間である。スケジュール未確定又は、(N−1)番進入機の前置通過ポイント到達までの時間が上記所定時間以上であれば、(N−1)番進入機のファイナルフィックスを変更する時間的な余裕があることになる。そこで(N−1)番進入機が(N−2)番進入機との間で滑走路選択制約条件を有していなければ(S224)、(N−1)番進入機のファイナルフィックスを逆に、つまり進入する滑走路を逆にする(S226)。そして、処理S212〜S220に戻り、N番進入機には、(N−1)番進入機と反対のファイナルフィックス(又は滑走路)を割り当てる。
【0043】この(N−1)番進入機とN番進入機双方のファイナルフィックスの反転により、経路の交差が解消される。図6は、(N−1)番進入機とN番進入機とのファイナルフィックス反転による交差解消の例を示す模式的な平面図である。この図では、PFXpから右ファイナルフィックスFXRへの進入を割り当てられた(N−1)番進入機50よりも、右側の前置通過ポイントPFXqからN番進入機52が安全間隔未満の到着間隔で進入する。N番進入機52のスケジューリング処理開始前における(N−1)番進入機50の経路54はPFXpからFXRを経由してRWRへ進入するコースである。この状態では、N番進入機52のファイナルフィックスとしてFXR、FXLのいずれを選択しても問題がある。つまり、(N−1)番進入機50と同じFXRを選択すれば、両進入機が同一滑走路に安全間隔未満で進入するという問題を生じ、またFXLを選択すれば、両進入機の経路PFXp−FXRとPFXq−FXLとが交差するという問題を生ずる。この場合に本装置では上述の処理S222〜S226によって、(N−1)番進入機50のファイナルフィックスをFXLに変更し、新たな進入経路56として、PFXpからFXLを経由してRWLへ進入するコースを(N−1)番進入機50に定める。そして、処理S212〜S220によって、N番進入機52の進入経路58として、PFXqからFXRを経由してRWRへ進入するコースを定める。本装置ではこの互いに反転された(N−1)番進入機及びN番進入機のファイナルフィックスを以て、それらのスケジュールを決定し、N番進入機についてのスケジューリング処理を終了する。
【0044】処理S202において、(N−1)番進入機のスケジュールが確定済み又は、(N−1)番進入機の前置通過ポイント到達までの時間が上記所定時間未満であれば、(N−1)番進入機のファイナルフィックスを変更することはできない。また、処理S224において、(N−1)番進入機が制約条件を有している場合も(N−1)番進入機のファイナルフィックスを変更することができない。これらの場合には、(N−1)番進入機とN番進入機との交差を解消できず、N番進入機についてファイナル最適スケジュールを得ることができない。本装置は、この場合に、N番進入機の到着時間を遅延させ安全間隔を確保した上で、交差する経路又は(N−1)番進入機と同じ滑走路に進入させるスケジュールを行う。このいずれを選択するかは、選択可能なスケジュールのそれぞれの遅延時間を比較して行い、最も遅延時間が少ないスケジュールが選択される(S228)。装置はこの最小遅延時間スケジュールが決定されると、N番進入機についてのスケジューリング処理を終了する。
【0045】なお以上の処理中、処理S206、S208、S216、S220、S222〜S228が計画部に含まれる滑走路選択部により実行される処理である。
【0046】[実施の形態2]本実施の形態に係る装置は、上記実施の形態において、さらにスポット情報を考慮する装置の例である。本装置は、進入機が着陸後にどの駐機スポットに移動するのかの情報を外部から付与されており、その情報に基づいて最適なスケジュールを作成するものである。
【0047】図7は、本装置における処理の特徴的部分のみを示したものである。本装置は、図2の処理S204〜S208を図7に示す処理S304〜S308で置換したものである。すなわち、処理S202において、スケジューリング処理の対象として選択されたN番進入機が、(N−1)番進入機との間に制約条件を持たず、左右のファイナルフィックスのいずれかを自由に選択することができる場合には、並列着陸処理決定部が並列着陸を決定せず、N番進入機の駐機スポットがRWR、RWLのいずれ側に位置するかを上記スポット情報に基づいて判定する(S304)。そして、滑走路選択部は、駐機スポットがRWRに近ければ、当該滑走路に対応するファイナルフィックスFXRを、N番進入機に割り当て(S306)、逆にRWLに近ければFXLを割り当てる(S308)。
【0048】これにより、本装置により決定されたスケジュールは、上記実施の形態の経路の交差回避や、到着間隔が安全間隔未満である場合の両滑走路の効率的利用の効果に加えて、着陸後の航空機の地上での移動時間と燃料の節約が図られた好適なものとなる。
【0049】[実施の形態3]実施の形態1においては、スケジュールの最適化は、進入機の着陸までの時間を基準として行われている。また、実施の形態2においては、滑走路の選択は駐機スポットの位置を考慮しているが、着陸までの経路の選択は、着陸後の駐機スポットまでの移動時間や燃料の消費量とは、別個に最適化処理を行われている。この着陸後の地上の移動は飛行経路に比べて小さいものであるが、それに要する移動時間、消費燃料は飛行中のそれらに比べて無視できない程度に大きい。そこで、本装置では、飛行時間だけでなく、これに着陸後の地上での移動時間又は燃料消費量を加味した上で進入スケジュールの最適化を行い、空港利用と航空機の着陸時の経済性との双方の効率化を図るものである。
【0050】本装置は、進入機のターミナル領域での飛行時間τFと、着陸後の駐機スポットまでの地上移動時間τGとを加算した着陸所要時間τT、又は進入機のターミナル領域飛行中の消費燃料γFと着陸後の駐機スポットまでの地上移動での消費燃料γGとを加算した着陸所要燃料γTのいずれかを着陸評価値として算定する着陸評価値算定部を有する。着陸評価値算定部が、着陸所要時間τTと着陸所要燃料γTのいずれを出力するかは、切り替えることができる。よって、時間を重視するか、燃料消費量を重視するかに応じて切り替えて用いられる。
【0051】ここでγFとτF、γGとτGはそれぞれ比例関係にあるとみなせるので、それぞれの比例係数をκF、κGとすると、γF=κF・τF、γG=κG・τGで表される。但し、一般に飛行中と地上とでは燃料の消費率が異なるので、κFとκGとは等しくない。さて、この関係から、着陸所要燃料γT(=γF+γG)に相当する着陸評価値として、例えば時間に換算した値τT’=τF+k・τGを用いることもできる。ここで、kは地上での燃料消費量を時間に換算するための重み係数であり、k=κG/κFである。さらに、この重み係数kをκG/κFと1の間で調節・設定することにより、時間と燃料の重要視の程度の割合を加減することもできる。
【0052】駐機スポットに近い側の滑走路に着陸した場合の時間換算着陸評価値tと遠い側の滑走路に着陸した場合の時間換算着陸評価値t’との差は、上述のように時間と燃料のいずれを基準とするか、又はいずれをどの程度重要視するかに応じて異なる値を取り得るが、ここではこの差をtWという記号で表す。
【0053】本装置は、各進入機のスポット情報を外部から登録され記憶しており、計画部内に設けられる到着時刻算定部は、各進入機を当該進入機の着陸後の駐機スポットに近い最適滑走路へ着陸させた場合の着陸所要時間τTを算定し、この着陸所要時間τTに基づいて、進入機の基準到着時刻Taを定める。τTの評価基準時を現在時刻Tとすると、(1)式と同義の次式で表される。τTは従来技術と同様の計算方法により各区間経路でのτiの総和として求められる。
【0054】
a=T+τT ………(4)
到着時刻算定部により、各進入機には、その最適滑走路への基準到着時刻Taが付与される。見方を変えれば、各滑走路ごとに基準到着時刻Taに基く進入機の順列が作成される。図8は、この滑走路別に設けられる進入機の順列を説明する模式図である。進入機群70は、右側の滑走路RWRを最適滑走路とする進入機の列であり、Taが小さい順に滑走路に近い方から配置されている。一方、進入機群72は、左側の滑走路RWLを最適滑走路とする進入機の列であり、やはりTaが小さい順に滑走路に近い方から配置、図示されている。このように、各進入機は、2つの滑走路ごとに設けられる順列のいずれかに分類される。
【0055】図9は、以降の処理を説明するための、基準到着時刻に基づく滑走路ごとの進入機の上記順列の模式図である。図において、▲印で表される進入機80は、着陸計画(スケジュール)確定済みの進入機であり、△印で表される進入機82、84は、着陸計画未確定の進入機であるとする。まず、計画部内の第一候補機選択部が、着陸計画未確定の進入機のうち基準到着時刻Taが最先のものをスケジューリング処理対象の第一候補機として選択する。図9(a)、(b)では進入機82が第一候補機として選択される。
【0056】計画部内の単純計画部は、この第一候補機の最適滑走路に当該機と、これに先行して着陸する先行着陸機との到着間隔が安全間隔以上であると予測される場合には、第一候補機に対してその最適滑走路に対応したファイナルフィックスを割り当てる。この場合は図9(a)に示されており、先行着陸機は進入機80であり、これと同一滑走路を最適滑走路とする第一候補機である進入機82との間の到着間隔は安全間隔ts以上である。このような場合には、進入機82は、進入機80に続いて同一滑走路に進入しても問題はない。つまり進入機82は最適滑走路に基準到着時刻に進入するという原則的処理によって最適なスケジュールが確定される。ちなみにこの場合には、次に述べる場合と異なり、もう一方の滑走路の順列に属する進入機、特にその順列の先頭の進入機84を考慮する必要はない。
【0057】しかし、図9(b)に示すように、第一候補機と先行着陸機との到着間隔が安全間隔未満である場合には、そのような単純な処理を行うことができない。以下にその理由と、その場合の処理を説明する。上記両進入機80、82が安全間隔ts未満で到着する場合には、まず、両進入機をそのまま同一の滑走路(図示例ではRWR)に進入させることは許されない。これを回避するためには、第一候補機の到着を遅延させて、先行着陸機との安全間隔を確保するというスケジュール(遅延スケジュール)か、第一候補機を最適滑走路ではないもう一方の滑走路(図示例ではRWL)に進入させるというスケジュール(並列進入スケジュール)が考えられる。これらいずれのスケジュールを採るにしても、基準到着時刻Taが最先ということで選ばれた第一候補機の着陸評価値が増加することとなり、その候補としての適格性が保証されなくなる。これが、この場合に単純計画部によりスケジューリングできない理由である。
【0058】図10は、図9(b)に示すように第一候補機と先行着陸機との間の予想到着間隔が安全間隔未満であり、単純計画部による原則的な処理で単純に処理することが適切できない場合、つまり例外処理が必要と判断された場合に行われる処理を説明するフロー図である。
【0059】まず、基準到着時刻Taに基づいて定められた到着順位の先頭から、第一候補機選択部が、第一候補機を選択する。そして、例外計画部が、この選択された第一候補機(図9(b)の例では、進入機82)について、従来技術において図14を用いて説明したのとほぼ同様の処理に従って、スケジュール確定処理時点でのスケジュールを求め、それを仮決定とする(S300)。
【0060】ここで、本装置で用いられる処理について、図14に示される処理と「ほぼ同様」と述べたが、本装置と図14に係わる従来技術で説明した処理とは、次の点が異なる。図14では、複数スケジュールから最適なスケジュールを選択する処理S130、S140は、基準到着時刻に基づく優先順位に従って行った。これに対し本装置では、着陸評価値算定部により算定される着陸評価値が小さい順に、スケジュールの選択が行われる。よって、処理S300では、上述した遅延スケジュールと並列進入スケジュールのうち着陸評価値の小さい方が選択され、仮決定される。
【0061】次に第二候補機選択部が、第一候補機の最適滑走路(第一滑走路)ではないもう一方の滑走路(第二滑走路)を最適滑走路とする着陸計画未確定進入機があるかどうかを判定する(S302)。そのような第二滑走路への進入機があれば、それらのうち基準到着時刻Taが最先である進入機84が、第二候補機として選択され(S304)、もし、なければ、第一候補機について仮決定したスケジュールを確定スケジュールとして登録して(S306)、第一候補機についてのスケジューリング処理を終了する。
【0062】例外計画部は、第一候補機を選択したように図14とほぼ同様の処理により、第二候補機について、現時点でのスケジュールを仮決定する。このとき、例外計画部は、第一候補機について仮決定したスケジュールを考慮に入れずに、第二候補機とって最適なスケジュールを求める(S308)。
【0063】例外計画部は、次に、第一候補機の仮決定スケジュールの着陸評価値と第二候補機の仮決定スケジュールの着陸評価値とを比較し、第一候補機の着陸評価値が小さければ(S310)、第一候補機について仮決定したスケジュールを確定スケジュールとして登録して(S306)、第一候補機についてのスケジューリング処理を終了する。
【0064】処理S310において、第二候補機の着陸評価値が小さければ、第一候補機のスケジュール確定を保留して、つまり順位を変更して先に、第二候補機についての仮決定スケジュールを確定して登録する(S312)。第二候補機についてのスケジュールを決定したことにより、第一候補機についての最適なスケジュールは変わりうる。そこで、処理の流れは処理S300に戻り、第一候補機の仮決定スケジュールを改めて求め、以降、上述した処理を繰り返す。
【0065】以上のように、本装置のスケジューリングアルゴリズムは、各進入機の目的とする駐機スポットに近い滑走路別に進入機を分類し、その分類の各グループ間で着陸評価値に基づく比較を行って最適スケジュールを求めるという簡単なものである。
【0066】上記処理において、第一候補機を第一滑走路から第二滑走路へ変更する並列進入スケジュールでは、簡単な場合は、第二滑走路に対する例えば上述した時間換算着陸評価値t’は、第一滑走路に対する時間換算着陸評価値tに滑走路の地上移動増加分twを加算すればよい。ただし、並列進入スケジュールとした場合に、第二滑走路への着陸計画確定済みの先行着陸機と第一候補機との到着間隔を確保するために、第一候補機の遅延も併せて行わなければならないようなこともあり得る。このような状況については、本装置でも図14の処理S134などによって考慮される。つまり、図10の処理S300で仮決定される第一候補機のスケジュールは、そのような状況も考慮されたものである。
【0067】
【発明の効果】請求項1記載の本発明の着陸スケジューリング装置によれば、進入機の経路上に前置通過ポイントを定義し、これと並行滑走路のファイナルフィックスとを結ぶ経路が進入機同士で交差しないように、各進入機のファイナルフィックスを設定することにより、交差判定を容易に行えるという効果が得られ、複数の滑走路への進入機の安全な着陸スケジュールを容易に作成することができるという効果が得られる。
【0068】請求項2記載の本発明の着陸スケジューリング装置によれば、並行滑走路へのそれぞれへ進入機を、安全間隔未満の到着間隔で進入させるスケジュールを作成して、並行滑走路への進入機の効率的な着陸を可能とするという効果が得られる。
【0069】請求項3記載の本発明の着陸スケジューリング装置によれば、並行滑走路へのそれぞれへ進入機を、安全間隔未満の到着間隔で進入させるスケジュールを作成することができ、その際、進入機の経路間での交差を生じないようにファイナルフィックスを割り当てることを図るので、並行滑走路への進入機の着陸の効率を確保しつつ安全な着陸スケジュールを作成することができるという効果が得られる。
【0070】請求項4記載の本発明の着陸スケジュール装置によれば、着陸後の駐機スポットに近い方の滑走路を割り当てることにより、進入機の着陸後の地上移動時間や燃料消費量を抑制することができるという効果が得られる。
【0071】請求項5記載の本発明の着陸スケジュール装置によれば、駐機スポットまでの地上移動時間や地上移動での消費燃料を考慮した着陸評価値を最小とする着陸スケジュールを作成するので、飛行中だけでなく地上での移動までも含めた最適スケジュールを作成することができるという効果が得られる。
【0072】請求項6記載の本発明の着陸スケジュール装置によれば、飛行中と地上移動の双方を含めた最適スケジュールを、簡単なアルゴリズムで決定することができるという効果が得られ、装置の処理負荷の軽減、処理の高速化が図られる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 空港周辺での航空機のモデル化された経路の平面図である。
【図2】 CPU上で実行される本装置の処理の前部を説明する処理フロー図である。
【図3】 CPU上で実行される本装置の処理の後部を説明する処理フロー図である。
【図4】 (N−1)番進入機とN番進入機との経路が交差しない場合を説明する模式的な平面図である。
【図5】 (N−1)番進入機とN番進入機との経路が交差する場合を説明する模式的な平面図である。
【図6】 (N−1)番進入機とN番進入機とのファイナルフィックス反転による交差解消の例を示す模式的な平面図である。
【図7】 本装置における処理の特徴的部分のみを示したものである。
【図8】 基準到着時刻に基づいて滑走路別に設けられる進入機の順列を説明する模式図である。
【図9】 基準到着時刻に基づいて滑走路別に設けられる進入機の順列であって、計画部の処理を説明する模式図である。
【図10】 第一候補機と先行着陸機との間の予想到着間隔が安全間隔未満である場合における計画部の処理を説明するフロー図である。
【図11】 空港において使用される従来のレーダー管制システムのブロック構成図である。
【図12】 単一の滑走路とファイナルフィックスとの関係を示す模式図である。
【図13】 従来の計画方法における到着順位決定処理のフロー図である。
【図14】 進入機の経路、速度を決定する従来処理のフロー図である。
【符号の説明】
40 左側滑走路、42 右側滑走路、70,72 進入機群、80,82,84 進入機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 それぞれ降下路を設定される並行配置された複数本の滑走路のいずれかに航空機を進入・着陸させる着陸計画を作成する着陸スケジューリング装置であって、先行して到着する前記航空機である先行航空機と、これに続き到着する前記航空機である後続航空機との予想到着間隔を算定する到着間隔算定部と、前記各航空機ごとに、前記降下路への進入ポイントに到達前の飛行経路上に前置通過ポイントを設定する通過点設定部と、前記先行航空機の前記前置通過ポイントと当該先行航空機に割り当てられた前記進入ポイントとを結ぶ先行航空機予定経路と、前記後続航空機の前記前置通過ポイントと当該後続航空機に割り当てられる前記進入ポイントとを結ぶ後続航空機予定経路とが交差するか否かを予め判定する交差判定部と、前記予想到着間隔が所定の安全間隔以上、または前記交差判定部の交差判定結果が非交差であるように、前記先行航空機と前記後続航空機をそれぞれ前記滑走路へ進入させる前記着陸計画を作成する計画部と、を含むことを特徴とする着陸スケジューリング装置。
【請求項2】 前記交差判定部は、前記先行航空機の前記前置通過ポイントと当該先行航空機に割り当てられた第一の進入ポイントとを結ぶ先行航空機予定経路と、前記後続航空機の前記前置通過ポイントと第二の進入ポイントとを結ぶ後続航空機予定経路とが交差するか否かを予め判定し、前記計画部は、前記予想到着間隔が前記安全間隔未満であるとき、前記先行航空機の進入予定滑走路とは異なる前記滑走路へ前記後続航空機を進入させる並列着陸を決定する並列着陸処理決定部と、前記並列着陸が決定された場合について、前記交差判定部の交差判定結果が非交差である場合には、前記後続航空機の前記進入ポイントとして前記第二の進入ポイントを割り当てる滑走路選択部と、を含むことを特徴とする請求項1記載の着陸スケジューリング装置。
【請求項3】 前記滑走路選択部は、前記先行航空機と前記後続航空機との前記並列着陸が決定され、かつ前記交差判定結果が交差であり、かつ当該先行航空機と当該先行航空機に先行する航空機との前記並列着陸が決定されなかった場合には、前記先行航空機の前記進入ポイントを前記第二の進入ポイントに変更し、前記後続航空機の前記進入ポイントに前記第一の進入ポイントを割り当る計画を行い、一方、前記先行航空機と前記後続航空機との前記並列着陸が決定され、かつ前記交差判定結果が交差であり、かつ前記先行航空機と当該先行航空機に先行する前記航空機との前記並列着陸が決定された場合には、前記後続航空機の着陸を遅延させ、前記予想到着間隔を前記安全間隔以上とする計画を行うこと、を特徴とする請求項2記載の着陸スケジューリング装置。
【請求項4】 前記滑走路選択部は、前記並列着陸処理決定部が前記並列着陸を決定しない場合について、前記後続航空機の前記進入ポイントとして、当該後続航空機の着陸後の駐機スポットに近い前記滑走路に対応する前記進入ポイントを割り当てること、を特徴とする請求項2記載の着陸スケジューリング装置。
【請求項5】 前記各航空機ごとのターミナル領域飛行時間と着陸後の駐機スポットまでの地上移動時間とを加算した着陸所要時間、又は前記各航空機ごとのターミナル領域飛行中の消費燃料と着陸後の駐機スポットまでの地上移動での消費燃料とを加算した着陸所要燃料の少なくともいずれかを着陸評価値として算定する着陸評価値算定部を有し、前記計画部は、前記各航空機について前記着陸評価値を最小とする前記着陸計画を作成すること、を特徴とする請求項1記載の着陸スケジューリング装置。
【請求項6】 2つの前記滑走路に対応して前記着陸計画を作成する請求項5記載の着陸スケジューリング装置において、前記計画部は、前記各航空機ごとに、当該航空機の着陸後の前記駐機スポットに近い最適滑走路への前記着陸所要時間を算定し、この着陸所要時間に基づいて、前記各航空機の基準到着時刻を定める到着時刻算定部と、着陸計画未確定航空機のうち前記基準到着時刻が最先のものを計画確定対象の第一候補機として選択する第一候補機選択部と、前記第一候補機に先行して当該第一候補機の前記最適滑走路である第一滑走路に着陸予定の第一滑走路先行着陸機と、当該第一候補機と間の前記予想到着間隔が前記安全間隔未満である場合には、第二滑走路を前記最適滑走路とする前記着陸計画未確定航空機のうち前記基準到着時刻が最先のものを第二候補機として選択する第二候補機選択部と、前記第一滑走路先行着陸機と前記第一候補機との前記予想到着間隔が前記安全間隔以上である場合に、当該第一候補機を前記第一滑走路に進入させる着陸計画を確定する単純計画部と、前記第一滑走路先行着陸機と前記第一候補機との前記予想到着間隔が前記安全間隔未満である場合に、当該第一候補機を、当該予想到着間隔が前記安全間隔以上となるように遅延させて前記第一滑走路に進入させる計画、若しくは前記第二滑走路に進入させる計画、又は前記第二候補機を前記第二滑走路に進入させる計画、若しくは前記第一滑走路に進入させる計画のうち、最小の前記着陸評価値を実現するものを選択して、前記着陸計画として確定する例外計画部と、を含むことを特徴とする着陸スケジューリング装置。

【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図2】
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【図3】
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【図11】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【特許番号】第2851271号
【登録日】平成10年(1998)11月13日
【発行日】平成11年(1999)1月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−10486
【出願日】平成9年(1997)1月23日
【公開番号】特開平10−208200
【公開日】平成10年(1998)8月7日
【審査請求日】平成9年(1997)1月24日
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【参考文献】
【文献】特開 平2−230500(JP,A)
【文献】特開 平2−293682(JP,A)
【文献】特開 平10−124800(JP,A)
【文献】特表 平9−504390(JP,A)
【文献】岡田和男 将来航空航法システム(上、下)航空技術 日本航空技術協会 1995 4月号、5月号 No.481 p17−p22,No.482 p13−p18