睡眠の改善方法
【課題】睡眠障害を抱える人には、睡眠薬や睡眠導入剤などの即効性の薬物とは別に、漢方薬のように体質を改善しながら、長期間摂取することで効果が得られる、睡眠の改善方法が求められている。本発明は、天然物由来の安全な素材を用いて、体質を改善し、睡眠の質を改善させる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】魚卵から抽出した魚卵油を1日あたり0.1〜10gを2ヶ月以上経口で摂取することを特徴とする睡眠の改善方法。前記の睡眠の改善方法に使用する0.03〜0.5mgの魚卵油を充填したカプセル。
【解決手段】魚卵から抽出した魚卵油を1日あたり0.1〜10gを2ヶ月以上経口で摂取することを特徴とする睡眠の改善方法。前記の睡眠の改善方法に使用する0.03〜0.5mgの魚卵油を充填したカプセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚卵から抽出した魚卵油を摂取することで睡眠の質を高める方法に関する。なお、この魚卵油はそのまま、もしくはカプセルに充填して経口摂取出来る、一般食品、健康食品、特定保険用食品、医薬部外品、及び医薬品などに使用することが可能である。
【背景技術】
【0002】
現代社会において睡眠障害が問題となっている。平成12年度の厚生労働省による保険福祉動向調査の結果から、成人において熟眠感のない方が24%、朝早く目覚めてしまう人が22%、何度も目覚めてしまうなど、不眠と言われるようないろいろな症状を合計すると、成人で5人に1人くらいは睡眠に対する欲求を満足していない。
不眠症は、ストレスや生活リズム(サーカディアンリズム)が乱れから来るもので、入眠困難(寝付くことが出来ない)、中途覚醒(夜中に目が覚めて以降眠れない)、熟眠困難(朝起きても疲労感があり、熟眠感がない)、早朝覚醒(朝早く目が覚めて以降眠れない)の4つに大きく分けられている。
社会が複雑化するにつれて、ライフスタイルが多様化し、一定の時間に就寝して十分な睡眠時間を確保するといった生活パターンが取りづらくなる。その結果、睡眠リズムの乱れを生じやすくなる。
【0003】
このような睡眠に関する問題を解決するために色々な手法が用いられている。1つには、音や光など外界からの刺激を受けることによって睡眠障害を克服しようとするものである。特に光療法は一般的に用いられている。電灯で照らしている屋内は通常200〜400ルクスである。それに対して、毎朝1時間ほど約800ルクス(通常の20倍以上)の光を照射することで、体内リズムを正常に戻し、睡眠を改善しようとするものである。しかし、この方法だと、医療機関での受診が必要であり負担が大きくなる。
この他に外界からの刺激として音・音楽によるもの(特許文献1)、ヒノキなどから抽出されるセドロールやサンダルウッドと同等の物質による香気成分によるもの(特許文献2〜3)などがある。しかし、外界からの刺激は個人差が大きく、その効果も個人差が大きい。従って、より多くの人に効果をもたらすには十分な効果は得られない。
もう1つには、経口摂取することで効果を得ようとするものである。例えば、飲料、食品、医薬品などが挙げられる。飲料、食品分野では、オタネニンジンやイチョウ葉エキスを配合した不眠症用組成物(特許文献4〜6)、テアニンを含有する睡眠改善剤(特許文献7)など疲労の改善、睡眠導入効果の向上、安眠などの機序を謳った機能性素材もしくは、組成物が提案されている。
更に、睡眠薬の服用があるが、一般消費者の間では、睡眠薬に対する抵抗感が依然として根強い。また現在、流通している多くはベンゾジアゼペン系の薬剤では眠気、疲労感、筋肉の弛緩、注意力・集中力、反射運動能力の低下、記憶障害などの副作用が報告されている。OTC薬の開発などがあるものの医師の処方箋が必要であり、服用には慎重な判断が求められる。
【0004】
しかし、従来の各種提案は、睡眠障害の要因を取り除き、入眠を促進する効果を高めることに主眼が置かれている。即ち、即効性の効果を期待するものである。一方で、生理機能を有する素材を長期に渡り摂取し、体質を改善しながら睡眠の質を高めようとする考えもある。
睡眠障害を抱える人は、睡眠薬など即効性のあるものに頼る傾向がある。しかし、睡眠薬には、医師の処方のもときちんと服用しないと副作用を発症することもある。また、睡眠薬の常用に不安を抱く人がいる。そこで、漢方薬のように体質を改善しながら長期的に摂取することで効果が得られる、安全なものが求められている。
【特許文献1】特開平9−187512号公報
【特許文献2】国際公開第01/058435号パンフレット
【特許文献3】特開2007−31384号公報
【特許文献4】特開平9−23849号公報
【特許文献5】特開平9−23850号公報
【特許文献6】特開平9−23851号公報
【特許文献7】特開2005−289948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記の問題点を解決するために、以下の課題を達成する。即ち、本発明は、天然物由来の安全な素材を用いて、長期摂取において体質を改善し、睡眠の質を改善させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、魚卵から抽出した魚卵油を長期間経口摂取した結果、睡眠の質を向上させるという新知見を得た。
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段として、下記の通りである。
(1)魚卵から抽出した魚卵油を1日あたり0.1〜10gを2ヶ月以上経口で摂取することを特徴とする睡眠の改善方法。
(2)前記(1)の睡眠の改善方法に使用する、0.03〜0.5gの魚卵油を充填したカプセル。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、副作用のない安全な天然物素材を用い、経口で長期に摂取することで睡眠の質を改善させる方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(魚卵油)
本発明は、魚卵から抽出した魚卵油を摂取することを特徴とする。
前記の魚卵は、特に限定されるものではないが、食用として捕獲されている魚の卵であればよい。しかし、好ましくは市場に汎用に流通し、脂質含有量の多い魚種がよい。特に好ましいのは、サケ、ニシン、マスなどある。
魚卵からの魚卵油の抽出は、抽出物の生産性や安全性の観点からは、エタノール又はエタノール水を使用することが好ましい。魚卵から脂質を抽出するために抽出力の観点からは、エタノール濃度で70質量%エタノール水から100質量%エタノールが好ましい。特に効率良く抽出することを考えると85質量%エタノール水から100質量%エタノールが好ましい。
他の抽出方法としては、ヘキサン等による溶剤抽出や二酸化炭素超臨界抽出が挙げられる。また、エタノール中で魚卵をホモジネートし、ブフナー漏斗にて濾過したあと、濾液中の溶剤を真空デシケーターにて留去する方法などがある。
より効率よく抽出する方法は、魚卵と凍結乾燥し、水分を除去した後に、99.5質量%エタノールに浸漬して、魚卵油を抽出し、その後エタノールを留去する。
前記の抽出された魚卵油は、その組成において、トリグリセライド、リン脂質、その他の成分構成されている。トリグリセライドは60〜90質量%、リン脂質は20〜40質量%、その他の成分を10質量%以下含むものである。リン脂質の組成は、ホスファチジルコリン(以下、PCと記す)は60〜90質量%、ホスファチジルエタノールアミン(以下、PEと記す)は5〜20質量%、ホスファチジルイノシトール(以下、PIと記す)は0.1〜10質量%、ホスファチジン酸(以下、PAと記す)は0.1〜10質量%である。PCは80質量%以上含まれていることが好ましい。
全体の脂肪酸組成中のドコサヘキサエン酸(以下、DHAと記す)の含量は、10〜30質量%で、特にリン脂質中のDHA含量は15〜30質量%である。
その他の成分に関しては、トコフェロール、アスタキサンチンなどのカロテノイド類、レチノール、ビタミンD3、ビタミンK2が挙げられる。特に抗酸化作用のあるトコフェロールやアスタキサンチンなどが含まれていることが好ましい。
サケ、マスの魚卵油(イクラ油)は、全体の脂肪酸組成中のDHAの含量は、20質量%以上、リン脂質中のDHA含量は25質量%以上でDHA含有量が高い魚卵油である。
【0009】
(摂取方法)
本発明において、前記の抽出された魚卵油を、成人に対して、1日あたり0.1〜10gを経口で摂取する。さらに、0.5〜3g摂取することが好ましい。
摂取量が少ないと、睡眠改善の効果が得られない。一方、摂取量を多くすると、効果が飽和され、胃もたれや胸やけを起こすこと場合があるので好ましくない。
本発明において、前記の摂食期間に関しては、2ヵ月以上継続して摂食を続けることが好ましい。
2ヶ月に足りない場合、体質の改善が十分ではなく、睡眠について入眠や中途覚醒における改善効果は十分に発揮できない場合がある。
【0010】
(摂取時の形態)
本発明において、魚卵から抽出した魚卵油を経口で摂取する形態は、食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、ペースト状等に形成したものを用いることができる。また、ハム、ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、パン、バター、粉乳、菓子などの食品に添加して使用してもよい。また、水、酒類、果汁、牛乳、清涼飲料水等の飲物に添加して使用してもよい。
このなかで、魚油臭を感じず、経口剤として摂取しやすいために、魚卵から抽出した魚卵油をカプセル、あるいはソフトカプセルにカプセル化したものが好ましい。
カプセルに関しては、1粒当たり0.03〜0.5gの魚卵油が充填されていることが望まれ、カプセルの大きさは、0.1〜1.0gは好ましい。特に経口摂取のしやすさの観点から0.1〜0.2gが好ましい。
なお、本発明の魚卵から抽出した魚卵油は、睡眠薬及び睡眠導入に対して即効性のある医薬品、食品素材と併用して摂取してもかまわない。
【0011】
(睡眠の評価)
起床時に昨晩から今朝にかけての睡眠感を調べるには、OSA睡眠調査票を用いることができる。OSA睡眠調査票は睡眠に関する内省を標準化した調査票であり、第1版、第2版、MA版などがある。OSA睡眠調査票MA版(以下、OSA−MA)(山本由華吏、田中秀樹、高瀬美紀、山崎勝男、阿住一雄、白川修一郎:中高年・高齢者を対象としたOSA睡眠調査票(MA版)の開発と標準化、脳と精神の医学、vol.10,p401−409,1999)は、起床時眠気、入眼と睡眠維持、夢み、疲労回復、睡眠時間の5因子からなり、各因子の信頼性、妥当性ともに検証されている。
本発明において、OSA睡眠調査MA版を実施し、魚卵から抽出した魚卵油を経口で摂取することにより、特に第2因子である入眠と睡眠維持に改善効果が見出された。
ここで入眠改善とは、入眠過程における寝つきに対する心理評価が改善されることをいい、入眠過程とは就床から入眠に至るまでの状態をいう。不眠症の分類に入眠障害が挙げられており、入眠障害とは本人が眠ろうと意識した時から寝付くまでの時間の延長であり、不眠症の症状でよくみられ、本発明により改善が認められる。
また、本発明における睡眠維持とは、中途覚醒及び早朝覚醒のないことであり、本発明により改善が認められる。
このように、本願発明は、OSA睡眠調査MA版における第2因子の改善に大きな効果があり、睡眠の質を向上させることにより、睡眠障害の改善に効果があることがわかった。
【実施例】
【0012】
(製造例1)
サケの魚卵(イクラ)1000kgを凍結乾燥した。凍結乾燥後、重量は650kgとなり、これを含水99.5質量%エタノール600Lで抽出し、170kgの魚卵油を抽出した。
抽出した魚卵油を、薄層クロマトグラフィー(TLC)で分析すると(展開溶媒としてクロロホルム−メタノール−酢酸−水(25:15:4:2 体積比)を使用し、検出試薬として硫酸を用いた。)、トリグリセライドは70質量%、リン脂質は25質量%、その他の成分は、5質量%であった。
次に、TLC法で分画したリン脂質分画をイアトロスキャン法で分析すると、リン脂質の組成は、ホスファチジルコリンが80質量%、ホスファチジルエタノールアミンが10質量%、ホスファチジルイノシトールが5質量%、ホスファチジン酸が5質量%であった。なお、イアトロスキャン法での展開溶媒の組成は、クロロホルム−メタノール−水(50:20:2.5 体積比)であった。
また、サケの魚卵油の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーで分析すると、パルミチン酸は9.9質量%、オレイン酸は19.3質量%、EPA(エイコサペンタエン酸)は16.8質量%、DHAは25.1質量%であった。ガスクロマトグラフィー分析をするために、サケの魚卵油の脂質を酸によって加水分解し、メチル化したものを分析用サンプルとして供した。
さらに、リン脂質中のDHA含量をガスクロマトグラフィーで分析すると、25質量%であった。
また、紫外線分光光度計で測定した結果、抗酸化物質である、トコフェロールが0.6質量%、アスタキサンチンが0.4質量%含有されていた。
このサケの魚卵油0.25gを内包した大きさが0.3gのゼラチンカプセルを製造し、今回の実験に供した。
【0013】
(睡眠の質の評価方法)
前記の被験者に、試験開始前、及び試験中の起床時にOSA睡眠評価票(MA版)に準拠したアンケート調査に回答してもらった。
前記のOSA睡眠調査票MA版は、OSA睡眠調査票第2版の項目の質問内容の一部を使用し,さらに身体回復感を含める形式の16項目から構成されている。また,選択肢も4肢選択式となっている簡易版の調査票である。
【0014】
(実施例)
性格診断テスト(OSA睡眠調査票MA版)を実施し、精神身体的に健康な働き盛りの男性を中心(41.2±10.2歳)とした9名の被験者を対象に実験を行った。
実験期間中、被験者は普段通りの食生活を継続してもらい、過度な飲酒や過度な食事量を摂取することは避けてもらった。また、特定の食品や特定の栄養素を偏って摂取しないように指導した。
被験者には、カプセルにして4粒、1日1000mgの製造例1で製造したサケ魚卵抽出油を経口で摂取してもらった。
睡眠実験は、実験開始2週間前に被験者の睡眠覚醒リズムの把握と実験環境に順応するために3夜連続で各種睡眠の測定を行い、第3夜の睡眠記録をその被験者の基準(Base Line)とした。実験開始の第1週目のみ3夜連続で測定を実施、以降毎週1夜測定を続け、12週間(計15夜)測定を実施した。
基準の得点と比較して、12週間後に各因子において3点以上の改善が見られた被験者数を表1に示す。
第3因子を除き、睡眠の改善効果があるとする披験者(3点以上)がおり、特に第2因子について9名中過半数の被験者で大きく効果があった。
【0015】
【表1】
【0016】
次に、図1〜5に各因子の経時的な変化を示す。
第2因子において、基準に比べて2ヶ月後に有意的に得点が上昇し、3ヶ月後においても高く維持されている。したがって、魚卵油を2ヶ月以上摂取することにより、初めて第2因子において睡眠が改善されていることがわかる。
また、他の因子においては、大きな差がないことがわかる。
なお、被験者10名のうち4名の被験者において、実験終了後3ヵ月の期間をおいて、3日連続の睡眠状態を測定した。この測定期間中は、魚卵油を一切摂取しなかった。OSA睡眠調査票(MA版)は起床後直ちに記入を行い睡眠の状態を調べた。
実験終了後3ヵ月の第2因子の得点は43.9であり、実験中3ヶ月後の得点(4人の平均45.4)より低いものの、基準の得点(39.8)より高く、効果が持続していた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1因子(起床時眠気)の変化を示す図である。
【図2】第2因子(入眠と睡眠維持)の変化を示す図である。
【図3】第3因子(夢見)の変化を示す図である。
【図4】第4因子(疲労回復)の変化を示す図である。
【図5】第5因子(睡眠時間)の変化を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚卵から抽出した魚卵油を摂取することで睡眠の質を高める方法に関する。なお、この魚卵油はそのまま、もしくはカプセルに充填して経口摂取出来る、一般食品、健康食品、特定保険用食品、医薬部外品、及び医薬品などに使用することが可能である。
【背景技術】
【0002】
現代社会において睡眠障害が問題となっている。平成12年度の厚生労働省による保険福祉動向調査の結果から、成人において熟眠感のない方が24%、朝早く目覚めてしまう人が22%、何度も目覚めてしまうなど、不眠と言われるようないろいろな症状を合計すると、成人で5人に1人くらいは睡眠に対する欲求を満足していない。
不眠症は、ストレスや生活リズム(サーカディアンリズム)が乱れから来るもので、入眠困難(寝付くことが出来ない)、中途覚醒(夜中に目が覚めて以降眠れない)、熟眠困難(朝起きても疲労感があり、熟眠感がない)、早朝覚醒(朝早く目が覚めて以降眠れない)の4つに大きく分けられている。
社会が複雑化するにつれて、ライフスタイルが多様化し、一定の時間に就寝して十分な睡眠時間を確保するといった生活パターンが取りづらくなる。その結果、睡眠リズムの乱れを生じやすくなる。
【0003】
このような睡眠に関する問題を解決するために色々な手法が用いられている。1つには、音や光など外界からの刺激を受けることによって睡眠障害を克服しようとするものである。特に光療法は一般的に用いられている。電灯で照らしている屋内は通常200〜400ルクスである。それに対して、毎朝1時間ほど約800ルクス(通常の20倍以上)の光を照射することで、体内リズムを正常に戻し、睡眠を改善しようとするものである。しかし、この方法だと、医療機関での受診が必要であり負担が大きくなる。
この他に外界からの刺激として音・音楽によるもの(特許文献1)、ヒノキなどから抽出されるセドロールやサンダルウッドと同等の物質による香気成分によるもの(特許文献2〜3)などがある。しかし、外界からの刺激は個人差が大きく、その効果も個人差が大きい。従って、より多くの人に効果をもたらすには十分な効果は得られない。
もう1つには、経口摂取することで効果を得ようとするものである。例えば、飲料、食品、医薬品などが挙げられる。飲料、食品分野では、オタネニンジンやイチョウ葉エキスを配合した不眠症用組成物(特許文献4〜6)、テアニンを含有する睡眠改善剤(特許文献7)など疲労の改善、睡眠導入効果の向上、安眠などの機序を謳った機能性素材もしくは、組成物が提案されている。
更に、睡眠薬の服用があるが、一般消費者の間では、睡眠薬に対する抵抗感が依然として根強い。また現在、流通している多くはベンゾジアゼペン系の薬剤では眠気、疲労感、筋肉の弛緩、注意力・集中力、反射運動能力の低下、記憶障害などの副作用が報告されている。OTC薬の開発などがあるものの医師の処方箋が必要であり、服用には慎重な判断が求められる。
【0004】
しかし、従来の各種提案は、睡眠障害の要因を取り除き、入眠を促進する効果を高めることに主眼が置かれている。即ち、即効性の効果を期待するものである。一方で、生理機能を有する素材を長期に渡り摂取し、体質を改善しながら睡眠の質を高めようとする考えもある。
睡眠障害を抱える人は、睡眠薬など即効性のあるものに頼る傾向がある。しかし、睡眠薬には、医師の処方のもときちんと服用しないと副作用を発症することもある。また、睡眠薬の常用に不安を抱く人がいる。そこで、漢方薬のように体質を改善しながら長期的に摂取することで効果が得られる、安全なものが求められている。
【特許文献1】特開平9−187512号公報
【特許文献2】国際公開第01/058435号パンフレット
【特許文献3】特開2007−31384号公報
【特許文献4】特開平9−23849号公報
【特許文献5】特開平9−23850号公報
【特許文献6】特開平9−23851号公報
【特許文献7】特開2005−289948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記の問題点を解決するために、以下の課題を達成する。即ち、本発明は、天然物由来の安全な素材を用いて、長期摂取において体質を改善し、睡眠の質を改善させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、魚卵から抽出した魚卵油を長期間経口摂取した結果、睡眠の質を向上させるという新知見を得た。
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段として、下記の通りである。
(1)魚卵から抽出した魚卵油を1日あたり0.1〜10gを2ヶ月以上経口で摂取することを特徴とする睡眠の改善方法。
(2)前記(1)の睡眠の改善方法に使用する、0.03〜0.5gの魚卵油を充填したカプセル。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、副作用のない安全な天然物素材を用い、経口で長期に摂取することで睡眠の質を改善させる方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(魚卵油)
本発明は、魚卵から抽出した魚卵油を摂取することを特徴とする。
前記の魚卵は、特に限定されるものではないが、食用として捕獲されている魚の卵であればよい。しかし、好ましくは市場に汎用に流通し、脂質含有量の多い魚種がよい。特に好ましいのは、サケ、ニシン、マスなどある。
魚卵からの魚卵油の抽出は、抽出物の生産性や安全性の観点からは、エタノール又はエタノール水を使用することが好ましい。魚卵から脂質を抽出するために抽出力の観点からは、エタノール濃度で70質量%エタノール水から100質量%エタノールが好ましい。特に効率良く抽出することを考えると85質量%エタノール水から100質量%エタノールが好ましい。
他の抽出方法としては、ヘキサン等による溶剤抽出や二酸化炭素超臨界抽出が挙げられる。また、エタノール中で魚卵をホモジネートし、ブフナー漏斗にて濾過したあと、濾液中の溶剤を真空デシケーターにて留去する方法などがある。
より効率よく抽出する方法は、魚卵と凍結乾燥し、水分を除去した後に、99.5質量%エタノールに浸漬して、魚卵油を抽出し、その後エタノールを留去する。
前記の抽出された魚卵油は、その組成において、トリグリセライド、リン脂質、その他の成分構成されている。トリグリセライドは60〜90質量%、リン脂質は20〜40質量%、その他の成分を10質量%以下含むものである。リン脂質の組成は、ホスファチジルコリン(以下、PCと記す)は60〜90質量%、ホスファチジルエタノールアミン(以下、PEと記す)は5〜20質量%、ホスファチジルイノシトール(以下、PIと記す)は0.1〜10質量%、ホスファチジン酸(以下、PAと記す)は0.1〜10質量%である。PCは80質量%以上含まれていることが好ましい。
全体の脂肪酸組成中のドコサヘキサエン酸(以下、DHAと記す)の含量は、10〜30質量%で、特にリン脂質中のDHA含量は15〜30質量%である。
その他の成分に関しては、トコフェロール、アスタキサンチンなどのカロテノイド類、レチノール、ビタミンD3、ビタミンK2が挙げられる。特に抗酸化作用のあるトコフェロールやアスタキサンチンなどが含まれていることが好ましい。
サケ、マスの魚卵油(イクラ油)は、全体の脂肪酸組成中のDHAの含量は、20質量%以上、リン脂質中のDHA含量は25質量%以上でDHA含有量が高い魚卵油である。
【0009】
(摂取方法)
本発明において、前記の抽出された魚卵油を、成人に対して、1日あたり0.1〜10gを経口で摂取する。さらに、0.5〜3g摂取することが好ましい。
摂取量が少ないと、睡眠改善の効果が得られない。一方、摂取量を多くすると、効果が飽和され、胃もたれや胸やけを起こすこと場合があるので好ましくない。
本発明において、前記の摂食期間に関しては、2ヵ月以上継続して摂食を続けることが好ましい。
2ヶ月に足りない場合、体質の改善が十分ではなく、睡眠について入眠や中途覚醒における改善効果は十分に発揮できない場合がある。
【0010】
(摂取時の形態)
本発明において、魚卵から抽出した魚卵油を経口で摂取する形態は、食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、ペースト状等に形成したものを用いることができる。また、ハム、ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、パン、バター、粉乳、菓子などの食品に添加して使用してもよい。また、水、酒類、果汁、牛乳、清涼飲料水等の飲物に添加して使用してもよい。
このなかで、魚油臭を感じず、経口剤として摂取しやすいために、魚卵から抽出した魚卵油をカプセル、あるいはソフトカプセルにカプセル化したものが好ましい。
カプセルに関しては、1粒当たり0.03〜0.5gの魚卵油が充填されていることが望まれ、カプセルの大きさは、0.1〜1.0gは好ましい。特に経口摂取のしやすさの観点から0.1〜0.2gが好ましい。
なお、本発明の魚卵から抽出した魚卵油は、睡眠薬及び睡眠導入に対して即効性のある医薬品、食品素材と併用して摂取してもかまわない。
【0011】
(睡眠の評価)
起床時に昨晩から今朝にかけての睡眠感を調べるには、OSA睡眠調査票を用いることができる。OSA睡眠調査票は睡眠に関する内省を標準化した調査票であり、第1版、第2版、MA版などがある。OSA睡眠調査票MA版(以下、OSA−MA)(山本由華吏、田中秀樹、高瀬美紀、山崎勝男、阿住一雄、白川修一郎:中高年・高齢者を対象としたOSA睡眠調査票(MA版)の開発と標準化、脳と精神の医学、vol.10,p401−409,1999)は、起床時眠気、入眼と睡眠維持、夢み、疲労回復、睡眠時間の5因子からなり、各因子の信頼性、妥当性ともに検証されている。
本発明において、OSA睡眠調査MA版を実施し、魚卵から抽出した魚卵油を経口で摂取することにより、特に第2因子である入眠と睡眠維持に改善効果が見出された。
ここで入眠改善とは、入眠過程における寝つきに対する心理評価が改善されることをいい、入眠過程とは就床から入眠に至るまでの状態をいう。不眠症の分類に入眠障害が挙げられており、入眠障害とは本人が眠ろうと意識した時から寝付くまでの時間の延長であり、不眠症の症状でよくみられ、本発明により改善が認められる。
また、本発明における睡眠維持とは、中途覚醒及び早朝覚醒のないことであり、本発明により改善が認められる。
このように、本願発明は、OSA睡眠調査MA版における第2因子の改善に大きな効果があり、睡眠の質を向上させることにより、睡眠障害の改善に効果があることがわかった。
【実施例】
【0012】
(製造例1)
サケの魚卵(イクラ)1000kgを凍結乾燥した。凍結乾燥後、重量は650kgとなり、これを含水99.5質量%エタノール600Lで抽出し、170kgの魚卵油を抽出した。
抽出した魚卵油を、薄層クロマトグラフィー(TLC)で分析すると(展開溶媒としてクロロホルム−メタノール−酢酸−水(25:15:4:2 体積比)を使用し、検出試薬として硫酸を用いた。)、トリグリセライドは70質量%、リン脂質は25質量%、その他の成分は、5質量%であった。
次に、TLC法で分画したリン脂質分画をイアトロスキャン法で分析すると、リン脂質の組成は、ホスファチジルコリンが80質量%、ホスファチジルエタノールアミンが10質量%、ホスファチジルイノシトールが5質量%、ホスファチジン酸が5質量%であった。なお、イアトロスキャン法での展開溶媒の組成は、クロロホルム−メタノール−水(50:20:2.5 体積比)であった。
また、サケの魚卵油の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーで分析すると、パルミチン酸は9.9質量%、オレイン酸は19.3質量%、EPA(エイコサペンタエン酸)は16.8質量%、DHAは25.1質量%であった。ガスクロマトグラフィー分析をするために、サケの魚卵油の脂質を酸によって加水分解し、メチル化したものを分析用サンプルとして供した。
さらに、リン脂質中のDHA含量をガスクロマトグラフィーで分析すると、25質量%であった。
また、紫外線分光光度計で測定した結果、抗酸化物質である、トコフェロールが0.6質量%、アスタキサンチンが0.4質量%含有されていた。
このサケの魚卵油0.25gを内包した大きさが0.3gのゼラチンカプセルを製造し、今回の実験に供した。
【0013】
(睡眠の質の評価方法)
前記の被験者に、試験開始前、及び試験中の起床時にOSA睡眠評価票(MA版)に準拠したアンケート調査に回答してもらった。
前記のOSA睡眠調査票MA版は、OSA睡眠調査票第2版の項目の質問内容の一部を使用し,さらに身体回復感を含める形式の16項目から構成されている。また,選択肢も4肢選択式となっている簡易版の調査票である。
【0014】
(実施例)
性格診断テスト(OSA睡眠調査票MA版)を実施し、精神身体的に健康な働き盛りの男性を中心(41.2±10.2歳)とした9名の被験者を対象に実験を行った。
実験期間中、被験者は普段通りの食生活を継続してもらい、過度な飲酒や過度な食事量を摂取することは避けてもらった。また、特定の食品や特定の栄養素を偏って摂取しないように指導した。
被験者には、カプセルにして4粒、1日1000mgの製造例1で製造したサケ魚卵抽出油を経口で摂取してもらった。
睡眠実験は、実験開始2週間前に被験者の睡眠覚醒リズムの把握と実験環境に順応するために3夜連続で各種睡眠の測定を行い、第3夜の睡眠記録をその被験者の基準(Base Line)とした。実験開始の第1週目のみ3夜連続で測定を実施、以降毎週1夜測定を続け、12週間(計15夜)測定を実施した。
基準の得点と比較して、12週間後に各因子において3点以上の改善が見られた被験者数を表1に示す。
第3因子を除き、睡眠の改善効果があるとする披験者(3点以上)がおり、特に第2因子について9名中過半数の被験者で大きく効果があった。
【0015】
【表1】
【0016】
次に、図1〜5に各因子の経時的な変化を示す。
第2因子において、基準に比べて2ヶ月後に有意的に得点が上昇し、3ヶ月後においても高く維持されている。したがって、魚卵油を2ヶ月以上摂取することにより、初めて第2因子において睡眠が改善されていることがわかる。
また、他の因子においては、大きな差がないことがわかる。
なお、被験者10名のうち4名の被験者において、実験終了後3ヵ月の期間をおいて、3日連続の睡眠状態を測定した。この測定期間中は、魚卵油を一切摂取しなかった。OSA睡眠調査票(MA版)は起床後直ちに記入を行い睡眠の状態を調べた。
実験終了後3ヵ月の第2因子の得点は43.9であり、実験中3ヶ月後の得点(4人の平均45.4)より低いものの、基準の得点(39.8)より高く、効果が持続していた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1因子(起床時眠気)の変化を示す図である。
【図2】第2因子(入眠と睡眠維持)の変化を示す図である。
【図3】第3因子(夢見)の変化を示す図である。
【図4】第4因子(疲労回復)の変化を示す図である。
【図5】第5因子(睡眠時間)の変化を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚卵から抽出した魚卵油を1日あたり0.1〜10gを2ヶ月以上経口で摂取することを特徴とする睡眠の改善方法。
【請求項2】
請求項1の睡眠の改善方法に使用する、0.03〜0.5gの魚卵油を充填したカプセル。
【請求項1】
魚卵から抽出した魚卵油を1日あたり0.1〜10gを2ヶ月以上経口で摂取することを特徴とする睡眠の改善方法。
【請求項2】
請求項1の睡眠の改善方法に使用する、0.03〜0.5gの魚卵油を充填したカプセル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2010−53054(P2010−53054A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217607(P2008−217607)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年4月1日 第62回日本栄養・食糧学会大会会頭岡崎光子発行の「第62回日本栄養・食糧学会大会 講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年5月3日 社団法人日本栄養・食糧学会主催の「第62回日本栄養・食糧学会大会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年6月14日発行の「日本睡眠学会第33回定期学術集会プログラム・抄録集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年6月25日 有限責任中間法人日本睡眠学会主催の「第33回日本睡眠学会定期学術集会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年8月10日発行の「日本脂質栄養学会第17回大会要旨集」に発表
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年4月1日 第62回日本栄養・食糧学会大会会頭岡崎光子発行の「第62回日本栄養・食糧学会大会 講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年5月3日 社団法人日本栄養・食糧学会主催の「第62回日本栄養・食糧学会大会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年6月14日発行の「日本睡眠学会第33回定期学術集会プログラム・抄録集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年6月25日 有限責任中間法人日本睡眠学会主催の「第33回日本睡眠学会定期学術集会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年8月10日発行の「日本脂質栄養学会第17回大会要旨集」に発表
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】
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