説明

睡眠改善剤

【課題】冬虫夏草属の微生物の菌体熱水抽出物を有効成分とする、安全性が高く長期間にわたり摂取可能な睡眠改善剤を提供することである。
【解決手段】睡眠障害モデルラットに冬虫夏草属の微生物の菌体熱水抽出物を投与したところ、覚醒時間の短縮、ノンレム睡眠時間の増加、および入眠潜時の短縮が観察された。さらに、有効量の熱水抽出物に存在する含量の既知成分(アデノシン、L−グルタミン酸、γ−アミノ酪酸)についてはこのような効果を認めなかった。すなわち、本発明の冬虫夏草属の微生物の菌体熱水抽出物は、これら既知成分に依らず、睡眠障害に対して高い改善効果を有することがわかった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冬虫夏草属の微生物の熱水抽出物を有効成分として含有する睡眠改善剤に関する。また本発明は、前記睡眠改善剤を用いた、哺乳動物の睡眠改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冬虫夏草は、世界で約350種発見されているが、漢方薬として珍重される冬虫夏草は、Cordyceps sinensis (Berkeley) Saccardoという学名の、オオコウモリガの幼虫に寄生する菌を意味する。中国では、これを採取し菌糸が体内に蔓延した幼虫とそれから発生したキノコを漢方薬として利用してきた。その効能は、滋養強壮、鎮静作用の他結核、喀血虚労咳嗽、関節痛、インポテンツなど多岐にわたる。漢方冬虫夏草は、中国青海省、西蔵(チベット)、甘粛省、四川省、雲南省などの海抜3000m級の高山地帯のみに生息することから入手困難であり、また最近の乱獲により収穫量も大幅に減少している。
【0003】
そこで、資源保護のための環境保護対策とともに、天然の漢方冬虫夏草と質的に同等の薬効をもつ、冬虫夏草の菌糸体の大量純粋培養技術が望まれていた。明治乳業(株)は、中華人民共和国福建省三明市真菌研究所より入手したCordyceps sinensisから分離菌株MF-20008(FERM BP-5149)を選抜し、培養条件をいろいろ研究した結果、天然の漢方冬虫夏草と質的に同等かあるいはそれ以上の潜在的な薬効が期待できる菌糸体を工業的スケールで大量培養することに成功した(非特許文献1:内田あゆみ: 食品と開発, 31(3): 16-19, 1996)。
【0004】
この大量培養菌糸体の熱水抽出物の乾燥品は黄褐色の粉末で、水に易溶性で、その主成分は、タンパク質および糖質である(非特許文献2:Taketomo, N.: Food Style 21: p40-43, 1997. 10(Vol.1 No.5)、非特許文献3:Taketomo, N.: Food Style 21: p47-49, 1998.5(Vol.2 No.5))。その熱水抽出物は、in vitroにおいて、(1) 気管の一過性収縮を非プリン作動性および非アドレナリン作動性に阻害、(2) 気管の持続性収縮を弛緩、(3) 大動脈の持続性収縮を弛緩、(4) 右心房に対する正の変力作用および負の変時作用、(5) 陰茎海綿体の一過性および持続性収縮の阻害、ならびに(6) 肝におけるDNAおよびタンパク合成の増強を示し、in vivoにおいて(1)抗疲労作用、(2) 抗ストレス作用、(3) ストレスによる性行動の低下に対する抑制作用、(4) 肝臓ATPおよび血流増加作用、(5) 運動選手に対する運動機能向上作用、(6) 血糖値降下作用、(7) 脳血管障害の改善作用および(8)強心作用、降圧作用、鎮該作用および抗潰瘍作用、を示す(非特許文献2:Taketomo, N.: Food Style 21: p40-43, 1997. 10(Vol.1 No.5)、非特許文献3:Taketomo, N.: Food Style 21: p47-49, 1998. 5(Vol.2No.5)、非特許文献4:Tsunoo, A. et al.: Science and Cultivation of Edible Fungi, Elliott(ed.), p425-431, Balkema, Rotterdam, 1995、非特許文献5:Manabe. N. et al.: Jpn.J. Pharmacol., 70, p85-88, 1996、非特許文献6:Manabe. N. et al.: British Journal ofnutrition, 83, p197-204, 2000、特許文献1:特開2003−292452、特許文献2:国際公開WO9600580号)。
【0005】
睡眠障害を改善するものとしては、GABA受容体に作用する睡眠導入剤であるゾピクロン等が知られている。ゾピクロンは、依存性、呼吸抑制、肝機能障害、精神症状、意識障害、一過性前向性、健忘、もうろう状態、アナフィラキシー様症状、口の苦味等の副作用がある(非特許文献7:アモバン錠(商標)7.5 医薬品インタビューフォーム、サノフィ・アベンティス株式会社、発行:2008 年1 月(改訂第3 版))。また、睡眠障害を改善する健康補助食品としては、冬虫夏草を含む各種生薬のエキスを配合したものが開示されている(特許文献3:特開2003−334032)。ここで使用しているのは冬虫夏草の糸実体および菌糸体としているが、冬虫夏草単独の作用としては抗疲労作用、抗ストレス作用、神経強壮作用および神経衰弱への適用が開示されているのみで、不眠症等の睡眠障害への適用については言及されていない。
【0006】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【特許文献1】特開2003−292452
【特許文献2】国際公開WO9600580
【特許文献3】特開2003−334032
【非特許文献1】内田あゆみ: 食品と開発, 31(3): 16-19, 1996
【非特許文献2】Taketomo, N.: Food Style 21: p40-43, 1997. 10(Vol.1 No.5)
【非特許文献3】Taketomo, N.: Food Style 21: p47-49, 1998. 5(Vol.2No.5 )
【非特許文献4】Tsunoo, A. et al.: Science and Cultivation of Edible Fungi, Elliott(ed.), p425-431, Balkema, Rotterdam, 1995
【非特許文献5】Manabe. N. et al.: Jpn.J. Pharmacol., 70, p85-88, 1996
【非特許文献6】Manabe. N. et al.: British Journal ofnutrition, 83, p197-204, 2000
【非特許文献7】アモバン錠(商標)7.5 医薬品インタビューフォーム、サノフィ・アベンティス株式会社、発行:2008 年1 月(改訂第3 版)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたものであり、冬虫夏草属の微生物の菌体熱水抽出物からなる、安全性が高く長期間にわたり摂取可能な睡眠改善剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、睡眠障害モデルラットに冬虫夏草属の微生物の菌体熱水抽出物を投与したところ、覚醒時間の短縮、ノンレム睡眠(非急速眼球運動睡眠。脳が休息した状態の深い眠り)時間の増加、および入眠潜時(覚醒状態から眠りに入るまでの所要時間。寝付きの良さの指標となる。)の短縮が観察された。さらに、有効量の熱水抽出物に存在する含量の既知成分(アデノシン、L−グルタミン酸、γ−アミノ酪酸)の単独についてはこのような効果を認めなかった。すなわち、本発明の冬虫夏草属の微生物の菌体熱水抽出物は、これら既知成分に依らず、睡眠障害に対して高い改善効果を有することがわかった。
すなわち、本発明は冬虫夏草属の微生物の菌体熱水抽出物のもつ睡眠障害の改善効果に関し、具体的には、以下の発明を提供するものである。
【0009】
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔28〕を提供するものである。
〔1〕冬虫夏草属の微生物の熱水抽出物を有効成分として含有する睡眠改善剤。
〔2〕睡眠時間を長期化させる、〔1〕記載の睡眠改善剤。
〔3〕ノンレム睡眠時間を長期化させる、〔1〕記載の睡眠改善剤。
〔4〕入眠潜時を短期化させる、〔1〕記載の睡眠改善剤。
〔5〕冬虫夏草属の微生物がコルジセプス・シネンシス(Cordyceps sinensis)種の微生物である、〔1〕〜〔4〕いずれか1項記載の睡眠改善剤。
〔6〕冬虫夏草属の微生物がコルジセプス・シネンシス MF−20008である、〔1〕〜〔4〕いずれか1項記載の睡眠改善剤。
〔7〕90〜95℃の熱水で抽出された熱水抽出物である、〔1〕〜〔6〕いずれか1項記載の睡眠改善剤。
〔8〕冬虫夏草属の微生物の熱水抽出物を対象に投与する工程を含む、哺乳動物の睡眠改善方法。
〔9〕睡眠改善が睡眠時間の長期化である、〔8〕記載の方法。
〔10〕睡眠改善がノンレム睡眠時間の長期化である、〔8〕記載の方法。
〔11〕睡眠改善が入眠潜時の短期化である、〔8〕記載の方法。
〔12〕冬虫夏草属の微生物がコルジセプス・シネンシス(Cordyceps sinensis)種の微生物である、〔8〕〜〔11〕いずれか1項記載の方法。
〔13〕冬虫夏草属の微生物がコルジセプス・シネンシス MF−20008である、〔8〕〜〔11〕いずれか1項記載の方法。
〔14〕90〜95℃の熱水で抽出された熱水抽出物である、〔8〕〜〔13〕いずれか1項記載の方法。
〔15〕睡眠改善剤の製造における、冬虫夏草属の微生物の熱水抽出物の使用。
〔16〕睡眠改善が睡眠時間の長期化である、〔15〕記載の使用。
〔17〕睡眠改善がノンレム睡眠時間の長期化である、〔15〕記載の使用。
〔18〕睡眠改善が入眠潜時の短期化である、〔15〕記載の使用。
〔19〕冬虫夏草属の微生物がコルジセプス・シネンシス(Cordyceps sinensis)種の微生物である、〔15〕〜〔18〕いずれか1項記載の使用。
〔20〕冬虫夏草属の微生物がコルジセプス・シネンシス MF−20008である、〔15〕〜〔18〕いずれか1項記載の使用。
〔21〕90〜95℃の熱水で抽出された熱水抽出物である、〔15〕〜〔20〕いずれか1項記載の使用。
〔22〕対象の睡眠を改善する方法に使用するための、冬虫夏草属の微生物の熱水抽出物。
〔23〕睡眠改善が睡眠時間の長期化である、〔22〕記載の熱水抽出物。
〔24〕睡眠改善がノンレム睡眠時間の長期化である、〔22〕記載の熱水抽出物。
〔25〕睡眠改善が入眠潜時の短期化である、〔22〕記載の熱水抽出物。
〔26〕冬虫夏草属の微生物がコルジセプス・シネンシス(Cordyceps sinensis)種の微生物である、〔22〕〜〔25〕いずれか1項記載の熱水抽出物。
〔27〕冬虫夏草属の微生物がコルジセプス・シネンシス MF−20008である、〔22〕〜〔25〕いずれか1項記載の熱水抽出物。
〔28〕90〜95℃の熱水で抽出された熱水抽出物である、〔22〕〜〔27〕いずれか1項記載の熱水抽出物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の睡眠改善剤は、睡眠障害の哺乳動物に対し、寝付きを良くし、深い眠りをもたらす効果がある。また、冬虫夏草属の微生物の熱水抽出物は長い食経験があることから、本発明の睡眠改善剤は長期間の投与であっても、味覚上問題もなく、かつ安全に摂取が可能である。よって、本発明の睡眠改善剤は哺乳動物の睡眠障害を改善する医薬品や飲食品への応用が可能である。
【0011】
〔発明の実施の形態〕
以下、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施態様に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更できるものである。
【0012】
本発明は、冬虫夏草属の微生物の熱水抽出物を有効成分として含有する睡眠改善剤を提供する。
本発明で用いる冬虫夏草属の微生物としては、コルジセプス属に属する微生物をいい、コルジセプス・シネンシス(Cordyceps sinensis)、コルジセプス・ミリタリス(Cordyceps militaris)等を挙げることができるが、これらに限定されない。本発明で用いることができる菌種は、好ましくは、コルジセプス・シネンシス(Cordyceps sinensis)であり、特に、コルジセプス・シネンシス MF−20008(Cordyceps sinensis MF−20008)株が好ましい。
前記冬虫夏草属については、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0013】
コルジセプス・シネンシス MF−20008(Cordyceps sinensis MF−20008)は下記の条件で寄託申請されている。
(1) 受領機関名:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
(2) 連絡先:〒305−8566 茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6
電話番号029−861−6029
(3) 受託番号: FERM BP−5149
(4) 識別のための表示: MF−20008
(5) 原寄託日: 平成6年6月29日
(6) 国際寄託への移管日: 平成7年6月26日
なお、コルジセプス・シネンシス MF−20008の正式な学名は子嚢菌門核菌綱ボタンタケ目バッカクキン科冬虫夏草属冬虫夏草(Cordyceps sinensis)である。
【0014】
本発明の冬虫夏草属の微生物は、麦芽エキス、イーストエキストラクト、ペプトン、バレイショ煮出汁、ブドウ糖、ビタミン類、アミノ酸類、核酸類または蛋白質類等、及び必要あれば昆虫等寄主の成分を加えた培地を用い、液体ないし固体培養によって充分に増殖せしめることができる。例えば、実施例に示すM20Y2培地(1L中の組成:麦芽エキス(Oxoid) 20g、酵母エキス(Difco) 2g;pH5.5)や、D培地(1L中の組成:蔗糖 4.0g、K2HPO4 4.0g、アスパラギン0.5 g、(NH4)2HPO4 2.0g、MgSO4・7H2O 2.0g、CaCO3 0.25g、CaCl2 0.1g、酵母エキスB−2 4.0g、pH5.6)において培養することができる。大量培養の場合は、液体培養、しかも通気撹拌培養を行うのが好ましく、pH4〜7、培養温度15〜32℃、好ましくは20〜30℃、50〜500rpm、好ましくは100〜300rpm程度にゆっくり撹拌しながら3日〜10日培養するのが好ましい。例えば、培養温度は約25℃、培養時間は約3〜5日で培養することができるが、冬虫夏草属の微生物が生育するのであればこれらの例に限定されず、他の培養温度、培養時間であっても構わない。
【0015】
得られた培養物から菌体熱水抽出物を調製する場合は、必要であれば予め遠心分離、クラリファイアー等により菌体分離処理を行い、さらに水の存在下に60〜100℃、好ましくは85〜100℃、更に好ましくは90〜95℃の間で加熱抽出処理を行う。この際、必要あれば撹拌してもよい。水の量に格別の限定はないが、乾燥菌体1g当り好ましくは1ml〜1Lとするのがよい。約2時間の加熱処理時間で加熱抽出処理を行うことができるが、本発明の睡眠改善剤が得られるのであれば、他の加熱抽出条件を採用しても構わない。
【0016】
例えば、本願発明の冬虫夏草属の微生物の熱水抽出物は以下の方法で調製できる。M20Y2培地150 mLを500 mL容三角フラスコに入れ、オートクレーブで121℃、15分間滅菌する。Cordyceps sinensisの分離菌株MF-20008の凍結保存菌1mL を接種し、25℃、180 rpmで振とう培養する(種培養)。続いて本培養(150 L)を以下のように行う。培地〔組成(g/L):蔗糖 40.0g;アスパラギン 0.5g、K2HPO4 4.0g、(NH4)2PO4 2.0g、MgSO4・7H2O 2.0g、CaCO3 0.25g、CaCl2 0.1g、および酵母エキスB−2(Universal Foods) 4.0g、pH 5.6〕150 Lを無菌濾過後、150 Lファーメンターに投入する。種培養150 mLを接種し、25 ℃、pH 5.6、DO 50%に制御し、150 rpmで攪拌しながら3日間培養する。培養中発生する泡は、シリコン消泡剤で処理する。培養後、遠心機で菌糸体を集める。菌糸体は90〜95℃の熱水で2時間抽出する。
【0017】
本発明において、「熱水抽出物」には、得られた熱水抽出物そのもの、熱水抽出残渣、または実施例に示すような熱水抽出残渣を一部又は大部分除去した後の液状部などが含まれる。本発明の睡眠改善剤の有効成分として用いられる「熱水抽出物」は、熱水抽出物そのままあるいは処理物のどちらであってもよい。処理物としては、例えば濃縮物、ペースト状物、乾燥物及び/又は液状部の希釈物等を挙げることができるが、これらの例に限定されない。
【0018】
「睡眠改善剤」とは、睡眠障害を改善する作用を有する薬学的組成物又は飲食用組成物を意味する。睡眠改善剤は、睡眠障害改善剤、睡眠障害の改善作用を有する剤、睡眠障害を改善するために用いられる剤、または睡眠障害の治療剤と言い換えることができ、いずれの物質であっても、本発明に記載の睡眠改善剤を意味する。
【0019】
睡眠は、精神と身体の疲労を回復させ、昼間に目覚めて活動する上で必要である。睡眠が障害されると、自然環境や社会環境への適用が不十分となることが多い。睡眠はレム(rapid eye movement(急速眼球運動))睡眠およびノンレム睡眠(レム睡眠でない睡眠)の2つの型から構成されている。ノンレム睡眠は、全睡眠時間の75〜80%を占め、睡眠周期(sleep cycle)の初期に現れる。ノンレム睡眠に続いて、短いレム睡眠が起こる。睡眠周期はノンレム睡眠〜レム睡眠を一つの単位とし、約90分周期で正常の夜間睡眠中に4〜6回起こる。ノンレム睡眠は大脳を鎮静化する眠りであり、レム睡眠は大脳を活性化するための眠りである。特に、睡眠周期の最初の2単位の間に、質のよい眠り(深いノンレム睡眠)が起こる(井上昌次郎、「初心者のための睡眠の基礎と臨床」睡眠の基礎、http://www.jssr.jp/kiso/syoshin/syoshin.html、p.3、2008年8月12日現在)。
【0020】
睡眠障害とは、眠りにつく障害、眠りの持続の障害、眠り過ぎの障害、または睡眠に関連した異常行動を起こす障害のことをいう。また、睡眠障害の1つである不眠症は、眠りにつく障害、眠りを続けることの困難、睡眠パターンが障害されて十分睡眠がとれないことを指す(福島雅典 総監修、「メルクマニュアル 第17版 日本語版」、日経BP社発行、p.1414、1999年)。不眠症には、初期不眠症(就眠困難)、中途覚醒、早期覚醒、熟眠障害、睡眠周期の逆転等が含まれており、その原因としては、心配事、精神的緊張、不安、精神障害(ノイローゼ、うつ等)、身体的疾患による不快な症状(疼痛、掻痒、頻尿、呼吸困難等)、不快な外部環境(騒音、高気温等)、薬剤の影響(キサンチン製剤、エフェドリン、覚醒剤等の服用や、睡眠薬、アルコールの連用等)、restless legs症候群、脳幹部の器質的障害、高齢等があるとされている(井村裕夫、尾形悦郎、高久史麿、垂井清一郎編、「最新内科学大系 第65巻 脳の高次機能障害<神経・筋疾患1>」、中山書店発行、p.143−144、1996年)。
【0021】
不眠症の改善には、催眠薬(ベンゾジアゼピン系薬剤、抱水クロラール等)の投与、規則的な睡眠スケジュール、規則的な就寝習慣、就寝環境の整備、リラクゼーション、定期的な運動等が効果的とされている。催眠薬を投与した場合、過量服用、習慣性・耐性、嗜癖および離脱症状、健忘等の危険性が指摘されており、長期間の服用については慎重に行うのが望ましいとされている。
【0022】
本発明の睡眠改善剤は、哺乳動物の睡眠障害を改善するために用いられる。哺乳動物としては、ヒト、あるいはヒトに限られず、他の各種哺乳動物(サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ等)においても有効に用いることができる。
【0023】
本発明の睡眠改善剤は、睡眠時間を長期化させる作用を有する。本発明において、「睡眠時間」とは、好ましくはノンレム睡眠の時間を意味する。
本発明の睡眠改善剤は、入眠潜時を短期化させる作用を有する。「入眠潜時」は、覚醒状態から眠りに入るまでの所要時間を意味し、寝付きの良さの指標となる。
【0024】
本発明の睡眠改善剤は不眠を主訴とする睡眠障害の治療に用いることができる。本発明の睡眠改善剤は、例えば、不眠症、初期不眠症(就眠困難)、中途覚醒、早期覚醒、熟眠障害、睡眠周期の逆転等に適用可能であるが、これらに限られず、不眠を主訴とする睡眠障害全般に適用可能である。
【0025】
本発明の睡眠改善剤に有効成分として含まれる冬虫夏草属の微生物の熱水抽出物は長い食経験があることから、本発明の睡眠改善剤は味覚上問題がなく、安全性が高く、長期間にわたり摂取可能である。
【0026】
本発明の睡眠改善剤は医薬品又は飲食品いずれの形態でも利用することができる。例えば、医薬品として直接投与することにより、又は特定保健用食品等の特別用途食品や栄養機能食品として直接摂取することにより睡眠障害の治療及び/又は予防することが期待される。また、液状、ペースト状、固形、粉末等の形態を問わず、各種食品(牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品その他の市販食品等)に添加し、これを摂取してもよい。
【0027】
本発明の睡眠改善剤を含有する食品には、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を混合して使用することができる。タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α―カゼイン、β―カゼイン、κ−カゼイン、β―ラクトグロブリン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これらの分解物;バター、乳清ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種乳由来成分などが挙げられる。カゼインホスホペプチド、アルギニン、リジン等のペプチドやアミノ酸を含んでいてもよい。糖質としては、例えば、糖類、加工澱粉(デキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。本発明の睡眠改善剤を含有する飲食品の製造において、これらは合成品であっても天然物由来品のいずれでもよく、および/または多く含む食品を原材料として用いてもよい。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができる。食品の形態としては、固体でも液体でもかまわない。またゲル状などであってもよい。
【0028】
本発明の睡眠改善剤を医薬品として使用する場合には、種々の形態で投与することができる。その形態として、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与を挙げることができるが、注射剤や液剤等の製剤に加工して、経管、静注、皮内、筋中など他の投与形態で投与してもよい。これらの各種製剤は、常法に従って主剤に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤、溶剤、等張化剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用し得る既知の補助剤を用いて製剤化することができる。また、適当量のカルシウムを含んでいてもよい。さらに適当量のビタミン、ミネラル、有機酸、糖類、アミノ酸、ペプチド類などを添加してもよい。
【0029】
本発明の睡眠改善剤の有効成分である冬虫夏草属の微生物の菌体熱水抽出物の投与(摂取)量は1日に体重1kg当たり乾燥重量として約0.02mg〜約2,000mg、好ましくは約0.2mg〜約100mg、さらに好ましくは約2.0mg〜約40mgであるが、剤型、症状、体重などによって異なり、これらの例に限定されない。
【0030】
本発明の睡眠改善剤の有効成分である冬虫夏草属の微生物の菌体熱水抽出物のヒトに対する投与量は一般的には一日あたり乾燥重量として約1mg〜約12,000mg、好ましくは約10mg〜約5,000mg、さらに好ましくは約100mg〜約2,000mgであり、本発明の組成物による処置が必要とされている患者に対し、一度にまたは分割して、食前、食事後、食間および/または就寝前に適宜投与することができる。投与量は、個別に、投与される患者の年齢、体重、および投与目的に応じて定めることができ、上記投与量に限定されない。
【0031】
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【0032】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0033】
[製造例1] 冬虫夏草菌体熱水抽出物の製造
M20Y2培地(1L中の組成:麦芽エキス(Oxoid)20g、酵母エキス(Difco)2g;pH5.5)を3L容三角フラスコ46本に1Lずつ分注し、オートクレーブで121℃、15分間滅菌した。
これらの滅菌培地に、Cordyceps sinensis MF-20008(FERM BP-5149)のM20Y2寒天スラント培養菌糸体を1白金耳接種し、25℃、180rpmの条件で5日間旋回振とう培養を行い、46本のフラスコ培養から培養物46Lを得た。
培養物46Lを遠心分離し、分離した菌糸体を凍結乾燥して323.6gの乾燥菌糸体を得た。この乾燥菌糸体をステンレス製容器に入れ、これに精製水7Lを加え、ポリトロンで粉砕した後、90〜95℃で2時間撹拌しながら加熱し抽出した。抽出後、濾過により抽出残渣を取り除き、そのろ液(菌体熱水抽出物)を凍結乾燥して、淡黄色粉末(菌体熱水抽出物の乾燥物)130gを得た。
【0034】
[製造例2]
製造例1と同様に、M20Y2培地150mlを500ml容三角フラスコに入れ、オートクレーブ滅菌後Cordyceps sinensis MF-2008の凍結保存菌1mlを接種し、25℃、180rpmで5日間振盪培養を行った。これを種菌として、以下の150L培養を行った。
D培地(1L中の組成:蔗糖4.0g、K2HPO44.0g、アスパラギン0.5g、(NH42HPO42.0g、MgSO4・7H2O 2.0g、CaCO30.25g、CaCl20.1g、酵母エキスB−2(Universal Foods) 4.0g、pH5.6)150Lを、150Lファーメンターに無菌濾過処理後投入し、先の種培養液150mlを接種し、25℃、pH5.5、DO50%に制御し、157rpmで撹拌しながら、3日間培養を行った。この間、発生する泡は、シリコン消泡剤投入により処理した。培養により得られた150L培養液を、クラリファイアーにより菌体分離処理を行い、菌体の水懸濁液を得た。これを、90から95℃の間で、2時間保持することによる加熱抽出処理を行った後、クラリファイアーによる清澄化を行い、上清液を得た。これを0.45μm及び0.22μm無菌フィルターを用い濾過し、淡黄色の熱水抽出液(菌体熱水抽出物)80L(固形物乾重量(菌体熱水抽出物の乾燥物として)800g)が得られた。
【0035】
[実施例1]動物への脳波電極の設置
(動物)
ラット(系統SD、雄性、9週齢)を一週間訓化の後に脳波電極の設置を行った。ラットにネンブタール35mg/kg投与して麻酔した後、脳波電極2チャンネル(各チャンネル双極誘導)を硬膜上に設置した。さらに頭蓋骨内の4カ所に穴を開けて脳波電極を設置・固定した。各脳波電極(2チャンネル)の設置部位を以下に示す。
(1)チャンネルEEG1:主にα波とδ波を検出する。
脳波電極EEG1−1:ブレグマ部から後頭部に向かって1mm、
そこから左に3mmの箇所。
脳波電極EEG1−2:ラムダ部から前頭部に向かって1mm、
そこから左に4mmの箇所。
(2)チャンネルEEG2:主にθ波を検出する。
脳波電極EEG2−1:ブレグマ部から前頭部に向かって3mm、
そこから右に1mmの箇所。
脳波電極EEG2−2:ラムダ部から前頭部に向かって4mm、
そこから右に1mmの箇所。
つまり、脳波電極は2本双極誘導で1チャンネルを形成する。本実施例においては、脳波電極EEG1−1および脳波電極EEG1−2で1チャンネル(チャンネルEEG1)、脳波電極EEG2−1および脳波電極EEG2−2でもう1チャンネル(チャンネルEEG2)を形成することになる。
また、ブレグマ部から前頭部に向かって10mmの箇所に不関電極(referenceに相当する)、頚部筋に筋電電極(1チャンネル)、後背部皮下に埋め込み用送信器を設置・固定した。術後3日間は、抗生剤を筋肉注射すると共に経過観察を行い、術後7〜14日後より脳波データの取得を開始した。
【0036】
(脳波データ取得および解析方法)
脳波データの取得は、慢性実験ラジオテレメトリー自動計測システム(Data Science社)を用いた。具体的には、電極(脳波電極2チャンネル、筋電電極1チャンネル)と埋め込み用送信器(バッテリー内蔵)をラット体内に装着し、ケージ外の受信器にてデータを無線で取得し、コンピュータに蓄積した。このようにして、ラットを無拘束、無麻酔の状態で脳波を測定することを可能とした。さらに、取得した脳波および筋電データを解析ソフトにて解析して睡眠状態を評価した。
・埋め込み用送信器:TL10M3-F50-EEE(Data Science社)
[3チャンネル、ラット・モルモットの生体電位測定用]
・受信器: RPC-1(受信ボード、Data Science社)
・データ取得ソフト:Dataquest A.R.T. (Data Science社)
・睡眠データ解析ソフト:実験動物 脳波・睡眠ステージ解析システムSomnologica Science (Medcare社)
測定値より、各種脳波(δ(デルタ)波(0.5〜3.99 Hz) 、θ(シータ)波(4〜7.99 Hz) 、α(アルファ)波(8〜11.99 Hz)、σ(シグマ)波(12〜13.99 Hz)、β(ベータ)波(13-24.99 Hz))、および筋電を検出し、さらに脳波および筋電の測定結果から覚醒・睡眠状態(覚醒(wake)、ノンレム睡眠(DS、非急速眼球運動睡眠)、レム睡眠(PS、急速眼球運動睡眠))を解析した。
【0037】
[実施例2] 睡眠障害モデルの作成
ラットにGridケージによるストレス負荷を与えて睡眠障害の発生を確認し、睡眠障害モデルとして使用できるか検討した。
(Gridケージの作成)
睡眠障害モデル動物の作成は、Shinomiyaら(Shinomiya K et al、Effects of short-acting hypnotics on sleep latency in rats placed on grid suspended over water. 、Eur J Pharmacol、460(2)、pp. 139-144 (2003)およびShinomiya K et al、Effects of three hypnotics on the sleep-wakefulness cycle in sleep-disturbed rats.、Psychopharmacology、173(1-2 )、pp. 203-209 (2004))の方法を参考にした。
具体的には、ラットの飼育ケージ内に高さ7cm、2cm間隔の格子(太さ3mmのステンレス製)を取り付け、格子面以下を1cm空けて水を張り、この中で動物を飼育する。以下、このケージをGridケージとする。
【0038】
実施例1に従って脳波電極を設置したラット(各群n=4)に注射用水(5ml/kg)をゾンデで経口投与後、Gridケージに入れ、脳波を明期の3時間(9:00〜12:00)測定した[Grid群]。また、水(5ml/kg)投与後に通常の床敷上で飼育したラットの脳波も同様に測定した[対照群]。脳波解析を行い、WAKE、DS、PSの変化から、睡眠障害の程度を評価した。評価項目は、総覚醒時間、睡眠時間、入眠潜時(ノンレム睡眠が継続して2分以上発生するまでの経過時間)とした。各評価項目は、Dunnetの多重比較検定により有意差検定を行った。*、**:vs.対照群、p<0.05、0.01(Student’s t-test)
【0039】
(結果)
各測定期間別の各睡眠状態の時間を図1に示す。Grid群は、対照群に比べて、覚醒状態が有意に長期化し、ノンレム睡眠が短期化した。
全測定期間中の各睡眠状態である時間積算値を図2の上段に示す。全測定期間の積算においては、Grid群は、対照群に比べて、覚醒状態が有意に長期化し、ノンレム睡眠およびレム睡眠が短期化した。
全測定期間中の入眠潜時に示す(図2の下段)。Grid群では、対照群に比べて、入眠潜時の有意な長期化が観察された。
以上の結果から、睡眠障害モデルの成立が確認できた。
【0040】
[実施例3] 冬虫夏草の睡眠改善効果の検討
実施例2で作成した睡眠障害モデルを用いて、製造例2で作製した冬虫夏草菌体熱水抽出物の睡眠改善効果を検討した。陽性対照として、既知の睡眠障害改善剤であるZopicloneを用いた。冬虫夏草菌体熱水抽出物はさらに乾燥物に調製して以下の試験に用いた。
【0041】
(動物)
実施例1に従って脳波電極を設置したラット(各群n=4)に200mg/ml冬虫夏草菌体熱水抽出物の乾燥物の水懸濁液[Grid−冬虫夏草群]、1mg/ml Zopicloneの水懸濁液[Grid−Zopiclone群]、または注射用水[Grid−水群]をそれぞれ5ml/kgの容量で、ゾンデで経口投与した。その後、実施例2に記載のGridケージに入れ、脳波を明期の3時間(9:00〜12:00)測定した。脳波解析を行い、WAKE、DS、PSの変化から、睡眠障害の程度を評価した。評価項目は、総覚醒時間、睡眠時間、入眠潜時(ノンレム睡眠が継続して2分以上発生するまでの経過時間)とした。各評価項目は、Dunnetの多重比較検定により有意差検定を行った。*、**:vs. Grid−水群、p<0.05、0.01(Dunnetの多重比較検定)
【0042】
(結果)
全測定期間中の各睡眠状態である時間積算値を図3の上段に示す。全測定期間の積算においては、Grid−冬虫夏草群およびGrid−Zopiclone群は、Grid−水群に比べて、ノンレム睡眠およびレム睡眠が長期化した。
全測定期間中の入眠潜時を図3の下段に示す。Grid−冬虫夏草群およびGrid−Zopiclone群では、Grid−水群に比べて、入眠潜時の有意な短期化が観察された。
以上の結果から、冬虫夏草菌体熱水抽出物に睡眠改善効果があることが見出された。
【0043】
[実施例4] 冬虫夏草に含まれる成分の睡眠改善効果の検討
実施例2で作成した睡眠障害モデルを用いて、実施例3で睡眠改善効果が得られた冬虫夏草菌体熱水抽出物に含まれる各成分(アデノシン(CAS No. 58-61-7)、L−グルタミン酸(CAS No. 56-86-0)、γ−アミノ酪酸(CAS No. 56-12-2))について睡眠改善効果を検討した。なお、試験に供した各成分の量の設定は、アデノシン、L−グルタミン酸およびγ−アミノ酪酸は200mg/mlの冬虫夏草菌体熱水抽出物に含まれる量の25倍に相当する39mg/ml、75mg/mlおよび80mg/mlである。
【0044】
(動物)
実施例1に従って脳波電極を設置したラット(各群n=8)に15.6mg/mlアデノシン絵初溶液[Grid−adenosine群]、28mg/mlL−グルタミン酸水溶液[Grid−L-glutamate群]、32mg/mlγ−アミノ酪酸水溶液[Grid−GABA群]または注射用水[Grid−水群]をそれぞれ5ml/kgの容量で、ゾンデで経口投与した。その後、実施例2に記載のGridケージに入れ、脳波を明期の3時間(9:00〜12:00)測定した。脳波解析を行い、WAKE、DS、PSの変化から、睡眠障害の程度を評価した。評価項目は、総覚醒時間、睡眠時間、入眠潜時(ノンレム睡眠が継続して2分以上発生するまでの経過時間)とした。各評価項目は、Dunnetの多重比較検定により有意差検定を行った。*:vs. Grid−水群、p<0.05、(ANOVA Bonferroni検定)
【0045】
(結果)
全測定期間中の各睡眠状態である時間積算値を図4の上段に示す。全測定期間の積算においては、Grid−水群と他の群に有意な差は観察されなかった。
全測定期間中の入眠潜時を図5の下段に示す。Grid−GABA群では、Grid−水群に比べて、入眠潜時の有意な短期化が観察された。しかし、GABAの投与量は実施例3で有効性が確認された量の冬虫夏草熱水抽出物でのGABA含量よりも25倍多いものであるため、実際に冬虫夏草熱水抽出物に含まれる量では効果を奏しないものと考えられる。
以上の結果から、実施例3で確認した冬虫夏草菌体熱水抽出物の効果において、有効量の冬虫夏草菌体熱水抽出物に含まれる各成分単独(アデノシン、L−グルタミン酸、γ−アミノ酪酸)では睡眠改善効果に寄与する可能性が低いことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】睡眠障害(Grid)による各測定期間別の睡眠時間の変化を示すグラフである。実施例2の結果である。
【図2】上段のグラフは睡眠障害(Grid)による睡眠時間の変化を示すグラフであり、下段のグラフは睡眠障害(Grid)による入眠潜時の変化を示すグラフである。実施例2の結果である。
【図3】睡眠障害(Grid)ラットに対する冬虫夏草の効果を示すグラフである。上段のグラフは睡眠時間の変化を示すグラフであり、下段のグラフは入眠潜時の変化を示すグラフである。実施例3の結果である。
【図4】睡眠障害(Grid)ラットに対する冬虫夏草に含まれる成分の効果を示すグラフである。上段のグラフは睡眠時間の変化を示すグラフであり、下段のグラフは入眠潜時の変化を示すグラフである。実施例4の結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冬虫夏草属の微生物の熱水抽出物を有効成分として含有する睡眠改善剤。
【請求項2】
睡眠時間を長期化させる、請求項1記載の睡眠改善剤。
【請求項3】
ノンレム睡眠時間を長期化させる、請求項1記載の睡眠改善剤。
【請求項4】
入眠潜時を短期化させる、請求項1記載の睡眠改善剤。
【請求項5】
冬虫夏草属の微生物がコルジセプス・シネンシス(Cordyceps sinensis)種の微生物である、請求項1〜4いずれか1項記載の睡眠改善剤。
【請求項6】
冬虫夏草属の微生物がコルジセプス・シネンシス MF−20008である、請求項1〜4いずれか1項記載の睡眠改善剤。
【請求項7】
90〜95℃の熱水で抽出された熱水抽出物である、請求項1〜6いずれか1項記載の睡眠改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−53098(P2010−53098A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221293(P2008−221293)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】