説明

瞳孔計測装置、瞳孔計測方法ならびに瞳孔計測プログラム

【課題】簡単な演算処理で被検者の瞳孔部分を抽出することで、カメラで撮影した被検者の眼部画像から、経時的に変化する瞳孔部分の面積や直径等を高いフレームレートでも計測することができるようにする。
【解決手段】撮影された被検者の顔画像から眼部画像に相当する画像データを特定して、眼部画像について瞳孔部分が表示されるように所定の第1閾値を以って二値化処理し、その二値化された領域の画素数をカウントして被検者の瞳孔部分の一部の面積とし、眼部画像について角膜反射の輝点が表示されるように所定の第2閾値を以って二値化処理し、その二値化された領域の画素数をカウントして被検者の瞳孔部分の一部の面積とし、その両方の画素数を加算した値から被検者の瞳孔部分の面積を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理技術により、カメラで撮影した被検者の眼部画像から、経時的に変化する瞳孔部分の面積や直径等を計測するための瞳孔計測装置、瞳孔計測方法ならびに瞳孔計測プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カメラで撮影した被検者の眼部画像から、画像処理により瞳孔の面積や直径等を計測するためには、画像データを数多くの処理工程にて処理し、瞳孔部分の抽出を経て行われているのが一般的である。瞳孔について経時的な変化をとらえようとするときには、動画のフレームレートに合わせた、高速な画像処理が要求されるほか、画像データに含まれるノイズの影響を受けずに瞳孔部分を抽出することが求められ、画像データに対するノイズ除去などといった事前処理が必要となる。
【0003】
特許文献1では、画像からプルキンエ像(角膜反射光)が現れる輝点重心を求め、輝点重心を中心とする輝点近傍の検知エリア(Xs ;Ys )を設定し、エッヂと平行なX方向の走査線で検知エリア(Xs ;Ys )の境界線と交差する点a点、b点の光量を求め、このa点、b点を直線で近似するという眼科測定装置に関する技術が開示されている。このとき、a点、b点を結んだ直線が検知エリア(Xs ;Ys )でのX方向の走査線に於ける輝点の影響を除去した光量分布としている。
【0004】
また、特許文献2でも同様に、輝点の影響を除去した光量分布を求める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−225966号公報(おもに、明細書段落番号0077、図18)
【特許文献2】特開2000−262475号公報(おもに、明細書段落番号0076、図18)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したとおり、被検者の瞳孔について、経時的な変化をとらえようとするときには、動画のフレームレートに合わせた高速な画像処理が要求される。このため、画像処理としては、簡潔で計算時間を要しない方法が望まれる。
ところが、特許文献1および特許文献2に記載された技術によれば、輝点となる部分から、そのエッジを抽出し、その間にある画素をエッジの明るさを以って直線補完し、輝点の影響を除去するようにしており、エッジ部分の抽出や、輝点部分の画素の補完演算によって、多くの計算資源と演算時間を必要とする。
したがって、フレームレートを高くすることが困難であり、瞳孔の経時的変化を詳細に観察することに支障がある。
【0007】
前述した技術のほか、角膜として写る暗い部分を占める領域を凸上に膨らませたのちに、その膨らませた領域を縮めるといったクロージング処理を行うことで、角膜反射光を消去させることが可能である。しかし、瞳孔部分の境界と角膜反射光の占める領域が重なった場合には、クロージング処理をしたとしても、その形が歪むことが考えられるほか、クロージング処理に演算時間を要するといった問題もある。
【0008】
そこで、本発明では、簡単な演算処理で被検者の瞳孔部分を抽出することで、カメラで撮影した被検者の眼部画像から、経時的に変化する瞳孔部分の面積や直径等を高いフレームレートでも計測することができる瞳孔計測装置、瞳孔計測方法ならびに瞳孔計測プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するため、本発明第1の構成による瞳孔計測プログラムは、被検者に向けて赤外照明を照射したときの顔画像を取得して、前記顔画像から前記被検者の眼部領域を特定するステップS1と、前記眼部領域に相当する画像データについて、前記被検者の瞳孔部分が表示されるように定められた所定の第1閾値を以って前記画像データを二値化処理して、前記被検者の瞳孔部分が表示される第1の二値化画像データを生成するステップS2と、前記第1の二値化画像データの黒点または白点の画素数を第1カウント値としてカウントして、前記被検者の瞳孔部分の一部の面積として推定するステップS3と、前記眼部領域に相当する画像データについて、前記被検者の角膜反射の輝点が表示されるように定められた所定の第2閾値を以って前記画像データを二値化処理して、前記被検者の角膜反射の輝点が表示される第2の二値化画像データを生成するステップS4と、前記第2の二値化画像データの白点または黒点の画素数を第2カウント値としてカウントして、前記被検者の瞳孔部分の一部の面積として推定するステップS5と、前記第1カウント値と前記第2カウント値の和を前記被検者の瞳孔部分の面積として推定するステップS6と、により、前記被検者の瞳孔部分の面積を計測することを特徴としている。
また、本発明第4の構成による瞳孔計測方法は、被検者に向けて赤外照明を照射したときの顔画像を取得して、前記顔画像から前記被検者の眼部領域を特定する手順S1と、前記眼部領域に相当する画像データについて、前記被検者の瞳孔部分が表示されるように定められた所定の第1閾値を以って前記画像データを二値化処理して、前記被検者の瞳孔部分が表示される第1の二値化画像データを生成する手順S2と、前記第1の二値化画像データの黒点または白点の画素数を第1カウント値としてカウントして、前記被検者の瞳孔部分の一部の面積として推定する手順S3と、前記眼部領域に相当する画像データについて、前記被検者の角膜反射の輝点が表示されるように定められた所定の第2閾値を以って前記画像データを二値化処理して、前記被検者の角膜反射の輝点が表示される第2の二値化画像データを生成する手順S4と、前記第2の二値化画像データの白点または黒点の画素数を第2カウント値としてカウントして、前記被検者の瞳孔部分の一部の面積として推定する手順S5と、前記第1カウント値と前記第2カウント値の和を前記被検者の瞳孔部分の面積として推定する手順S6と、により、前記被検者の瞳孔部分の面積を計測することを特徴としている。
【0010】
また、本発明第2の構成による瞳孔計測プログラムは、本発明第1の構成に加えて、前記ステップS4では、前記顔画像または前記被検者の眼部領域に相当する画像データの中から、最も明るい画素の輝度値を基準にして前記第2閾値を決定することを特徴としている。
【0011】
また、本発明第3の構成による瞳孔計測プログラムは、本発明第1または第2の構成に加えて、前記ステップS2では、前記被検者の眼部領域に相当する画像データに対して、その輝度値xをとる画素数をf(x)としたときに、f(x)が極大値となる最も暗い輝度値xminを基準にして前記第1閾値を決定することを特徴としている。
【0012】
また、本発明第5の構成による瞳孔計測装置は、被検者に向けて赤外領域の光を照射する赤外照明と、前記被検者の顔画像を撮影する赤外カメラと、前記赤外カメラによって撮影された前記顔画像を取得するビデオキャプチャと、前記顔画像から前記被検者の瞳孔部分の面積を計測する前記構成のいずれかに記載の瞳孔計測プログラムと、を備えたことを特徴としている。
【0013】
また、本発明第6の構成による瞳孔計測装置は、本発明第5の構成に加えて、前記被検者に向けて明るさが可変な可視光を照射する可視光照明と、前記被検者と前記可視光照明との間で、前記赤外カメラと前記可視光照明が略対向するように設置されるハーフミラーと、
をさらに備えたことを特徴としている。
【0014】
また、本発明第7の構成による瞳孔計測装置は、本発明第5または第6の構成に加えて、前記赤外照明は2か所以上に設置され、それぞれが点灯および消灯を切り替えつつ、いずれかの照明が一つだけ点灯されるように、点灯および消灯の制御が行われることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明第1の構成による瞳孔計測プログラムおよび本発明第4の構成による瞳孔計測方法によれば、撮影された被検者の顔画像から眼部画像に相当する画像データを特定して、眼部画像について瞳孔部分が表示されるように所定の第1閾値を以って二値化処理し、その二値化された領域の画素数をカウントして被検者の瞳孔部分の一部の面積とし、眼部画像について角膜反射の輝点が表示されるように所定の第2閾値を以って二値化処理し、その二値化された領域の画素数をカウントして被検者の瞳孔部分の一部の面積とし、その両方の画素数を加算した値から被検者の瞳孔部分の面積を推定するので、画素値(明るさ)の比較や、画素数のカウントといった簡単な演算処理で被検者の瞳孔部分を抽出できるとともに、経時的に変化する被検者の瞳孔部分の面積や直径等を高いフレームレートで計測することができる。
【0016】
本発明第2の構成による瞳孔計測プログラムによれば、ステップS4で、角膜反射光の性質を利用して、顔画像または眼部領域の中から、最も明るい画素の輝度値を基準にして第2閾値を決定するので、前述した効果に加えて、被検者の角膜反射の輝点を正確に特定することができる。
【0017】
本発明第3の構成による瞳孔計測プログラムによれば、ステップS2で、被検者の眼部領域に相当する画像データに対して、その輝度値xをとる画素数をf(x)としたときに、f(x)が極大値となる最も暗い輝度値xminを基準にして第1閾値を決定するようにしたので、前述した効果に加えて、眼部領域のうち、比較的暗い部分を占める「被検者の瞳孔部分」を正確に特定することができる。
【0018】
本発明第5の構成による瞳孔計測装置によれば、被検者に赤外照明の光を照射し、その反射光を赤外カメラで撮影すると共に、ビデオキャプチャで取得した被検者の画像を用いて被検者の瞳孔部分を抽出することができるので、簡単な演算処理で周囲の外光等の影響を受けることなしに被検者の瞳孔部分を抽出できるとともに、経時的に変化する被検者の瞳孔部分の面積や直径等を高いフレームレートで計測することができる。
【0019】
本発明第6の構成による瞳孔計測装置によれば、被検者に可視光照明を照射して、赤外カメラと可視光照明が対向するようにハーフミラーを設置しているので、前述した効果に加えて、被検者に可視光を変化させたときに、被検者がその可視光を見つめた状態で、経時的に変化する被検者の瞳孔反射を計測することができる。
【0020】
本発明第7の構成による瞳孔計測装置によれば、赤外照明を2か所以上に設置して、いずれかの照明が一つだけ点灯されるように点灯および消灯の制御を行うので、前述した効果に加えて、眼球の位置が動いたとしても、被検者の角膜反射の輝点を確実に捉えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】瞳孔計測装置の構成を示す説明図
【図2】瞳孔計測プログラムの処理の流れを示すフローチャート
【図3】被検者を撮影した元画像データとその画像データを微分したときに現れる画像を示す説明図
【図4】縦方向微分第1画像とその画像の画素値を横方向で積算したときのヒストグラムの関係を示す説明図
【図5】縦方向微分第2画像を示す説明図
【図6】縦方向微分第2画像とその画像の画素値を縦方向で積算したときのヒストグラムの関係を示す説明図
【図7】縦方向微分第2画像と被検者の両目の位置関係を示す説明図
【図8】被検者の両眼部分を切り出した画像とその画像の輝度分布との関係を示す説明図
【図9】被検者の両眼部分を切り出した画像を二値化処理した画像を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態を実施例1にて説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明の実施例1を図1〜図9に基づいて説明する。
図1は、本発明にかかる瞳孔計測装置の構成を示す説明図である。
図1において、瞳孔計測装置10は、計算機11と、被検者1に向けて赤外領域の光を照射する赤外照明12と、被検者1の顔画像を撮影する赤外カメラ13を備え、赤外カメラ13によって撮影された顔画像はビデオキャプチャ14によって計算機11に取り込まれる。計算機11は、その内部にCPU(中央演算処理装置)11a、クロック11b、記憶装置15、メモリ16などを備えている。
記憶装置15には、被検者1の顔画像を撮影した赤外カメラ13の画像データを取り込み、被検者1の瞳孔部分の面積を計測する瞳孔計測プログラム15aが記録されている。瞳孔計測プログラム15aの機能については、後で説明する。
メモリ16には、瞳孔計測プログラム15aを実行した際に生成された画像データや演算結果が記録され、具体的には、元画像データ16a、眼部領域特定情報16b、第1の二値化画像16c、第2の二値化画像16d、第1のカウント値16e、第2のカウント値16f、第1閾値16g、第2閾値16hなどの記憶領域が確保されている。
【0024】
このほか、瞳孔計測装置10は、計算機11用のディスプレイ17を備え、ディスプレイ17は計算機11のグラフィックカード11cから出力された画像信号を表示させるようにして、被検者に向けて明るさが可変な可視光を照射できるようにするとともに、被検者1とディスプレイ17との間で、赤外カメラ13とディスプレイ17が略対向するように設置されるハーフミラー18を設置させると好ましい。ディスプレイ17では単純に可視光を表示させることのほか、被験者1に注視させたい図形等を任意で表示させることが可能である。このように、可視光照明をディスプレイで与えるようにすれば、一定の光量による被検者の瞳孔反射を観察する以外に、さまざまな画像表示を以って、被検者の瞳孔反射を観察することができる。ディスプレイ17の表示を明るい状態から暗い状態に推移させることで、被検者1の暗順応を測定することができ、逆に、ディスプレイ17の表示を暗い状態から明るい状態に推移させることで、被検者1の明順応を測定することができる。なお、被検者1に向けて明るさが可変な可視光を照射するために、必ずしもディスプレイ17を用いる必要はなく、通常の可視光照明を照射するようにしてもよい。
【0025】
また、図1に示すように、赤外照明12を2か所以上に設置し、それぞれが点灯および消灯を切り替えつつ、いずれかの照明が一つだけ点灯されるように、点灯および消灯の制御が行われる電源制御部19を設置させると好ましい。具体的には、計算機11にて点灯および消灯のタイミングを設定し、I/O端子11dから制御信号を電源制御部19に出力させるようにするとよい。この場合、I/O端子11dが赤外カメラ13のフレームレートと同期するように制御信号を発するようにしておけば、撮影されたフレームに対応する赤外光がどの位置から照射されたものなのかを特定することができる。
【0026】
また、赤外照明12は、被検者の眼の高さより上の位置、または、下の位置で設置させるとよい。たとえば、赤外照明を被検者の眼の高さより下の位置に設置したときには、被検者の瞼で角膜反射の輝点が隠れてしまうといった状況を回避することができる。また、被検者に下を向かせるようにすれば、被検者の瞳孔部分の内部に角膜反射の輝点が必ず現れるようになる。
さらに、赤外照明は、その光を拡散させる照明拡散板をさらに設けるようにすると好ましい。照明拡散板によって、赤外照明を拡散させることで、広範囲で角膜反射の輝点を捉えることができる。
【0027】
図2に瞳孔計測プログラム15aの処理を表すフローチャートを示す。まず、ステップS1では、被検者1に向けて赤外照明12を照射して、そのときの顔画像を赤外カメラ13で取得し、顔画像から被検者1の眼部領域に相当する画像データを特定する。
ここで、赤外カメラ13は、フレームレート30〜60fpsで撮影を行うものであり、撮影された画像は図3(a)に示すように、その大きさが縦480ピクセル、幅640ピクセルで構成され、被検者1の眼部を含んだ顔画像が撮影されている。この画像を、ビデオキャプチャ14を経由して取り込んで元画像データ16aとして、メモリ16に記憶させる。
眼部領域の特定にあたっては、元画像データ16aを縦方向に微分して、縦方向微分画像31を生成する。図3(b)は、縦方向微分第1画像31であり、被検者の瞼の淵部分や眉毛、鼻などといった特徴的な部位が現れている。
そこで、図4に示すように、縦方向微分第1画像31の各画素について、その微分値を横の積算方向41で積算して得られるヒストグラムを横方向ヒストグラム42として生成する。横方向ヒストグラム42は、上瞼の部分で最大値43を取る。ここで、この最大値43に対応する横方向ラインを44とする。
そして、横方向ライン44を含む所定領域の画像を切り出して縦方向微分第2画像51とする。図5は、縦方向微分第1画像31から縦方向微分第2画像51を切り出した結果を示す説明図であり、横方向ライン44を基準として、上40ピクセル分、下100ピクセル分の領域を縦方向微分第1画像31から切り出して、縦方向微分第2画像51としている。このように、横方向ヒストグラム42が被検者1の上瞼付近で最大値をとるといった性質を用いれば、被検者の眼の位置を横方向で絞り込むことができる。
続いて、図6に示すように、縦方向微分第2画像51の各画素について、その微分値の縦の積算方向61で積算して得られるヒストグラムを縦方向ヒストグラム62として生成する。縦方向ヒストグラム62は、被検者1の角膜反射の輝点の現れる部分で極大値63、64を取る。
そして、縦方向微分第2画像51を左右2つの領域に分割して得られた右側および左側の領域について、縦方向ヒストグラム62の極大値に対応する、縦方向微分第2画像51の縦方向のラインを指定して、縦方向微分第2画像51から縦方向のラインを含んだ所定領域を指定して、その指定した所定領域を第1領域および第2領域とする。縦方向ヒストグラム62から縦方向微分第2画像51の右半分および左半分に相当する部分の極大値64および極大値63を算出し、極大値64および極大値63を取る縦方向ライン65Rおよび縦方向ライン65Lを抽出する。
そして、図7に示すように、縦方向ライン65Lを基準として、右100ピクセル分、左100ピクセルの領域を左眼領域71Lとしている。また、縦方向ライン65Rを基準として、右100ピクセル分、左100ピクセルの領域を右眼領域71Rとしている。このように縦方向ヒストグラム62が被検者1の角膜反射の輝点の現れる部分で極大値を取るといった性質を用いれば、被検者1の眼の位置を縦方向で絞り込むことができる。
【0028】
このように特定された被検者1の左右の眼の位置は、メモリ16に確保された眼部領域特定情報16bとして記憶される。
【0029】
続いて、ステップS2では、眼部領域に相当する画像データについて、被検者の瞳孔部分が表示されるように定められた所定の第1閾値を以って画像データを二値化処理して、被検者の瞳孔部分が表示される第1の二値化画像データを生成する。
具体的には、図8(a)に示すとおり、元画像データ16aのうち、眼部領域特定情報16bに記録された、眼部領域に相当する画像データ(右眼元画像データ81R、左眼元画像データ81L)を取得し(ステップS2−1)、この画像データを、あらかじめ記憶された第1閾値16gを以って二値化処理して(ステップS2−2)、被検者1の瞳孔部分となる比較的暗い部分を抽出する。
二値化処理について具体的に説明すると、図8(a)の元画像データに対して、各画素の明るさを集計して、図8(b)に示すようなヒストグラムを生成する。そこから、暗く写っている瞳孔部分を推定して、第1閾値を定める。
【0030】
なお、第1閾値の特定にあたっては、被検者の眼部領域に相当する画像データに対して、その輝度値xをとる画素数をf(x)としたときに、f(x)が極大値となる最も暗い輝度値xminを基準にして決定するようにすると好ましい。図8(b)中のヒストグラムで説明すると、瞳孔部分は、左のピーク部分(f(x)が極大値となる輝度xのうち、xの定義域の中で一番小さな値xminの付近)で現れるため、その右側の谷間(図8(b)でいうとx=43)で第1閾値を定めるようにするとよい。
図8(b)のヒストグラムをもとにして、輝度値xを0〜255(8ビット)で表した場合、輝度値が43〜255となる部分を白とし、0〜42となる部分を黒とした二値化画像を生成する。このようにして生成された二値化画像は、図9(a)に示すとおりであり、第1閾値で二値化したときの画像データ(右眼二値化画像91Rおよび左眼二値化画像91L)には、瞳孔部分が表示されるようになる。
この二値化された画像は、メモリ16に確保された第1の二値化画像16cとして記憶される(ステップS2−3)。
【0031】
続いて、ステップS3では、第1の二値化画像データの黒点または白点の画素数を第1カウント値としてカウントして、被検者の瞳孔部分の一部の面積として推定する。
具体的には、図9(a)の二値化画像(右眼二値化画像91Rおよび左眼二値化画像91L)で黒色を占める画素数をカウントして第1カウント値とする。このカウント値は、メモリ16に確保された第1カウント値16dとして記憶される。
【0032】
続いて、ステップS4では、眼部領域に相当する画像データについて、被検者の角膜反射の輝点が表示されるように定められた所定の第2閾値を以って前記画像データを二値化処理して、被検者の角膜反射の輝点が表示される第2の二値化画像データを生成する。
具体的には、図8(a)に示すとおり、元画像データ16aのうち、眼部領域特定情報16bに記録された、眼部領域に相当する画像データ(右眼元画像データ81R、左眼元画像データ81L)を取得し(ステップS4−1)、この画像データを、あらかじめ記憶された第2閾値16hを以って二値化処理して(ステップS4−2)、被検者1の角膜反射の輝点が現れる極めて明るい部分を抽出する。
二値化処理について具体的に説明すると、図8(a)の元画像データに対して、各画素の明るさを集計して、図8(b)に示すようなヒストグラムを生成する。そこから、極めて明るく写っている角膜反射光を推定して、第2閾値を定める。
【0033】
なお、第2閾値の特定にあたっては、第2閾値を、前記顔画像または前記被検者の眼部領域に相当する画像データの中から、最も明るい画素の輝度値を基準にして決定するようにすると好ましい。図8(b)中のヒストグラムで説明すると、角膜反射の輝点は、輝度値の取りうる最大値付近(図8(b)でいうとx=255付近)で現れるため、その最大値より低いところ(図8(b)でいうとx=173)で第2閾値を定めるようにするとよい。
図8(b)のヒストグラムをもとにして、輝度値xを0〜255(8ビット)で表した場合、輝度値が173〜255となる部分を白とし、0〜173となる部分を黒とした二値化画像を生成する。このようにして生成された二値化画像は、図9(b)に示すとおりであり、第2閾値で二値化したときの画像データ(右眼二値化画像92Rおよび左眼二値化画像92L)には、角膜反射の輝点が表示されるようになる。
この二値化された画像は、メモリ16に確保された第2の二値化画像16dとして記憶される(ステップS4−3)。
【0034】
続いて、ステップS5では、第2の二値化画像データの白点または黒点の画素数を第2カウント値としてカウントして、被検者の瞳孔部分の一部の面積として推定する。
具体的には、図9(b)の二値化画像(右眼二値化画像92Rおよび左眼二値化画像92L)で白色を占める画素数をカウントして第2カウント値とする。このカウント値は、メモリ16に確保された第2カウント値16fとして記憶される。
【0035】
続いて、ステップS6では、第1カウント値と第2カウント値の和を被検者の瞳孔部分の面積として推定する。被検者1の瞳孔は、図9(a)に示すとおり、瞳孔部分として暗く写る部分がある。また、赤外照明12を適切な位置に設置することで、被検者の角膜反射をその瞳孔の内部で現れるようにさせることが可能である。したがって、第1カウント値と第2カウント値の和を取ることで、被検者1の瞳孔面積を推定することが可能となる。
被検者の瞳孔部分の面積は第1カウント値と第2カウント値の和に比例しているので、カウント値の和を被検者1の瞳孔部分の面積として推定することができる。
なお、第1閾値16gと第2閾値16hの値が異なることにより、第1カウント値としてカウントされた領域と、第2カウント値としてカウントされた領域との間には、画素数としてカウントされない画素が理論上発生する。しかし、角膜反射の輝点は、その領域51の境界部分における明るさの変化が顕著に表れるため、カウントされないこととなる画素の数は少なく、事実上無視できる程度でしかない。したがって、こういった明るさの変化の大きい部分の影響を無視することで、計算上の負荷を軽減させている。
最後に、ステップS5が終了すると再びステップS1に戻り、次フレーム画像に対する瞳孔計測の処理を継続させる。
【0036】
このように、実施例1によれば、撮影された被検者の顔画像から眼部画像に相当する画像データを特定して、眼部画像について瞳孔部分が表示されるように所定の第1閾値を以って二値化処理し、その二値化された領域の画素数をカウントして被検者の瞳孔部分の一部の面積とし、眼部画像について角膜反射の輝点が表示されるように所定の第2閾値を以って二値化処理し、その二値化された領域の画素数をカウントして被検者の瞳孔部分の一部の面積とし、その両方の画素数を加算した値から被検者の瞳孔部分の面積を推定するので、画素値(明るさ)の比較や、画素数のカウントといった簡単な演算処理で被検者の瞳孔部分を抽出できるとともに、経時的に変化する被検者の瞳孔部分の面積や直径等を高いフレームレートで計測することができる。
【0037】
また、ステップS4で、角膜反射光の性質を利用して、顔画像または眼部領域の中から、最も明るい画素の輝度値を基準にして第2閾値を決定するので、前述した効果に加えて、被検者の角膜反射の輝点を正確に特定することができる。
【0038】
また、ステップS2で、被検者の眼部領域に相当する画像データに対して、その輝度値xをとる画素数をf(x)としたときに、f(x)が極大値となる最も暗い輝度値xminを基準にして第1閾値を決定するようにしたので、前述した効果に加えて、眼部領域のうち、比較的暗い部分を占める「被検者の瞳孔部分」を正確に特定することができる。
【0039】
また、被検者に赤外照明の光を照射し、その反射光を赤外カメラで撮影すると共に、ビデオキャプチャで取得した被検者の画像を用いて被検者の瞳孔部分を抽出することができるので、簡単な演算処理で周囲の外光等の影響を受けることなしに被検者の瞳孔部分を抽出できるとともに、経時的に変化する被検者の瞳孔部分の面積や直径等を高いフレームレートで計測することができる。
【0040】
また、被検者に可視光照明を照射して、赤外カメラと可視光照明が対向するようにハーフミラーを設置しているので、前述した効果に加えて、被検者に可視光を変化させたときに、被検者がその可視光を見つめた状態で、経時的に変化する被検者の瞳孔反射を計測することができる。
【0041】
また、赤外照明を2か所以上に設置して、いずれかの照明が一つだけ点灯されるように点灯および消灯の制御を行うので、前述した効果に加えて、眼球の位置が動いたとしても、被検者の角膜反射の輝点を確実に捉えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明では、被検者の瞳孔の大きさを観察できるので、被検者の瞳孔反射の測定、目や神経の異常に起因する瞳孔不同の観察、被検者の心理的理由による瞳孔の動きを観察することなどができる。
【符号の説明】
【0043】
1 被検者
10 瞳孔計測装置
11 計算機
11a CPU
11b クロック
11c グラフィックカード
11d I/O端子
12 赤外照明
13 赤外カメラ
14 ビデオキャプチャ
15 記憶装置
15a 瞳孔計測プログラム
16 メモリ
16a 元画像データ
16b 眼部領域特定情報
16c 第1の二値化画像
16d 第2の二値化画像
16e 第1カウント値
16f 第2カウント値
16g 第1閾値
16h 第2閾値
17 ディスプレイ
18 ハーフミラー
19 電源制御部
31 縦方向微分第1画像
41、61 積算方向
42 横方向ヒストグラム
43 最大値
44 横方向ライン
51 縦方向微分第2画像
62 縦方向ヒストグラム
63、64 極大値
65L、65R 縦方向ライン
71L 左眼領域
71R 右眼領域
81L 左眼元画像データ
81R 右眼元画像データ
91L、92L 左眼二値化画像
91R、92R 右眼二値化画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者に向けて赤外照明を照射したときの顔画像を取得して、前記顔画像から前記被検者の眼部領域を特定するステップS1と、
前記眼部領域に相当する画像データについて、前記被検者の瞳孔部分が表示されるように定められた所定の第1閾値を以って前記画像データを二値化処理して、前記被検者の瞳孔部分が表示される第1の二値化画像データを生成するステップS2と、
前記第1の二値化画像データの黒点または白点の画素数を第1カウント値としてカウントして、前記被検者の瞳孔部分の一部の面積として推定するステップS3と、
前記眼部領域に相当する画像データについて、前記被検者の角膜反射の輝点が表示されるように定められた所定の第2閾値を以って前記画像データを二値化処理して、前記被検者の角膜反射の輝点が表示される第2の二値化画像データを生成するステップS4と、
前記第2の二値化画像データの白点または黒点の画素数を第2カウント値としてカウントして、前記被検者の瞳孔部分の一部の面積として推定するステップS5と、
前記第1カウント値と前記第2カウント値の和を前記被検者の瞳孔部分の面積として推定するステップS6と、
により、前記被検者の瞳孔部分の面積を計測する瞳孔計測プログラム。
【請求項2】
前記ステップS4では、前記顔画像または前記被検者の眼部領域に相当する画像データの中から、最も明るい画素の輝度値を基準にして前記第2閾値を決定することを特徴とする請求項1に記載の瞳孔計測プログラム。
【請求項3】
前記ステップS2では、前記被検者の眼部領域に相当する画像データに対して、その輝度値xをとる画素数をf(x)としたときに、f(x)が極大値となる最も暗い輝度値xminを基準にして前記第1閾値を決定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の瞳孔計測プログラム。
【請求項4】
被検者に向けて赤外照明を照射したときの顔画像を取得して、前記顔画像から前記被検者の眼部領域を特定する手順S1と、
前記眼部領域に相当する画像データについて、前記被検者の瞳孔部分が表示されるように定められた所定の第1閾値を以って前記画像データを二値化処理して、前記被検者の瞳孔部分が表示される第1の二値化画像データを生成する手順S2と、
前記第1の二値化画像データの黒点または白点の画素数を第1カウント値としてカウントして、前記被検者の瞳孔部分の一部の面積として推定する手順S3と、
前記眼部領域に相当する画像データについて、前記被検者の角膜反射の輝点が表示されるように定められた所定の第2閾値を以って前記画像データを二値化処理して、前記被検者の角膜反射の輝点が表示される第2の二値化画像データを生成する手順S4と、
前記第2の二値化画像データの白点または黒点の画素数を第2カウント値としてカウントして、前記被検者の瞳孔部分の一部の面積として推定する手順S5と、
前記第1カウント値と前記第2カウント値の和を前記被検者の瞳孔部分の面積として推定する手順S6と、
により、前記被検者の瞳孔部分の面積を計測する瞳孔計測方法。
【請求項5】
被検者に向けて赤外領域の光を照射する赤外照明と、
前記被検者の顔画像を撮影する赤外カメラと、
前記赤外カメラによって撮影された前記顔画像を取得するビデオキャプチャと、
前記顔画像から前記被検者の瞳孔部分の面積を計測する請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の瞳孔計測プログラムと、
を備えた瞳孔計測装置。
【請求項6】
前記被検者に向けて明るさが可変な可視光を照射する可視光照明と、
前記被検者と前記可視光照明との間で、前記赤外カメラと前記可視光照明が略対向するように設置されるハーフミラーと、
をさらに備えたことを特徴とする請求項5に記載の瞳孔計測装置。
【請求項7】
前記赤外照明は2か所以上に設置され、それぞれが点灯および消灯を切り替えつつ、いずれかの照明が一つだけ点灯されるように、点灯および消灯の制御が行われることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の瞳孔計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−220942(P2010−220942A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73930(P2009−73930)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(399076312)安川情報システム株式会社 (77)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)