説明

短パルス光発生装置及び光変調器のバイアス電圧評価方法

【課題】短パルス光発生装置を構成する光変調器の出力光からON/OFF消光比を直接測定することなく、該光変調器に印加されるバイアス電圧を最適に制御可能な短パルス光発生装置を提供する。
【解決手段】繰り返し周波数fで短パルス光Aを発生するパルス発信器1と、入力信号に基づき繰り返し周波数fの短パルス光の内、特定の短パルス光を除去し、繰り返し周波数をf/n(nは2以上の自然数)とする光変調器2と、光変調器2からの出力光の一部を分岐する分岐部3と、光変調器2に印加するバイアス電圧を制御するバイアス制御部5と、分岐部3で分岐された光B2のスペクトルを解析するスペクトル解析部4とを有する短パルス光発生装置であって、バイアス制御部5は、スペクトル解析部4に入射された光の所望のスペクトル周波数範囲における光強度の最大値と最小値との差を最小化するように、バイアス電圧を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短パルス光発生装置に関し、特に、繰り返し周波数fで発生する短パルス光から特定の短パルス光を除去し、繰り返し周波数をf/n(nは2以上の自然数)とした短パルスを発生する短パルス光発生装置に関する。また、本発明は、該短パルス発生装置に用いることが可能な光変調器のバイアス電圧評価方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
連続光レーザー光源と、外部EO変調器(「電気−光学変調器」、単に「光変調器」ともいう。)で構成される光周波数コム発生器と、チャープ補償器との組み合わせで構成される短パルス光源は、高繰り返し周波数、高いパルス形状及びパワー安定性、低ジッタという特徴を持っており、テラヘルツ分光用光源、周波数基準光源、各種計測用光源として適している(非特許文献1又は2参照)。
【0003】
この方式の場合、変調周波数を大きくすると、変調光のスペクトルが広くなり、より短パルスが得られるという利点があるため、10GHzより大きい変調周波数で駆動を行うことが望ましい。
【0004】
この場合、変調周波数がそのまま繰り返し周波数となるため、繰り返し周波数も大きくなる。また繰り返し周波数が大きい場合、光アンプの応答が追従しないため、また、信号処理速度が追い付かないことなどにより、1GHz程度が限度である。一方、高繰り返し周波数は、モードロックレーザを作ることが難しい。これらのことを考慮して、繰り返し周波数が100MHz〜1GHz程度の短パルス光源を作るニーズがある。
【0005】
繰り返し周波数を減少させるには、パルスピッカーを用いてパルスを間引くことが行われている。パルスピッカーには、特許文献1に示すような、音響光学(AO)効果を利用した変調器が利用されるが、動作帯域は〜数100MHzが限度なので高繰返し周波数の分周には使用できない。
【0006】
また、間引いた後に不要な光が残っていると計測用途などではノイズの原因になるので、パルスピッカー変調器は高い消光比をもってパルスを間引くことが要求される。通信用途では20dBあれば充分だが、パルスピッカーでは25dB以上必要となる。そのような高消光比が得られる変調器として例えば、特許文献2に示すような、ネスト形の変調器が知られている。
【0007】
消光比25dB以上かつ1GHz以上の高速繰返しにおいてパルスピッカー変調器を動作最適点に合わせることは容易ではない。デジタルサンプリングのオシロスコープで高速の波形を見ることができるが、ダイナミックレンジは10dB程度であるので、その高速波形に基づいてバイアスを最大の消光比が得られるように合わせることは容易ではない。
【0008】
パルスピッカーを用いる短パルス光源の場合、いくつかの変調器の組み合わせで構成されるため、個々のデバイスを静的にON/OFF消光比を測定し、それらの累積で短パルス光のON/OFF消光比を推定することはできる。
【0009】
しかし、パルスピッカーに用いる光変調器は、変調度、バイアス、スキューなどを調整する必要があり、これらを最適化しなければ、最大限の特性は得られない。このようにパルスピッカー後のON/OFF消光比が直接測定できないため、従来は、パルスピッカーを構成する光変調器を最適な駆動条件に設定することができなかった。
【0010】
特に、パルスピッカーとして使用する高速動作のLN変調器はドリフトがあるため、常にバイアスが最適点になるように制御することが必要であり、高速かつ高消光比レベルで消光比をモニタする手段が必要である。
【0011】
他方、光変調器の駆動とその制御に関する従来技術としては、特許文献3に示すように、入力データに対応した駆動信号に対して低周波信号を重畳し、光変調器から出力される信号光(変調光)に含まれる低周波信号成分の検出結果に基づいて、光変調器の動作点を調整する直流のバイアス電圧を制御する技術が知られている。しかし、今回のように高消光比で動作させる場合は、低周波信号の重畳することにより消光比自体が劣化するのでこの方式を用いることは望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3592475号公報
【特許文献2】特開2006−242975号公報
【特許文献3】特許第2642499号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】T. Sakamoto, T Kawanishi, and M.Tsuchiya, “10 GHz, 2.4 ps pulse generation using a single-stage dual-driveMach-Zehnder modulator”, Opt. Lett. 33, pp.890-892, 2008
【非特許文献2】Y. Takita, F. Futami, M. Doi, andS. Watanabe, “Highly stable ultra-short pulse generation by filtering out flatoptical frequency components”, CLEO 2004 CTuN1, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、短パルス光発生装置を構成するパルスピッカー光変調器の出力光からON/OFF消光比を高速かつ高い消光比レベルでモニタし、該光変調器に印加されるバイアス電圧を最適に制御可能な短パルス光発生装置を提供することである。また、短パルス光発生装置に使用可能な光変調器のバイアス電圧評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、繰り返し周波数fで短パルス光を発生するパルス発信器と、入力信号に基づき前記繰り返し周波数fの短パルス光の内、特定の短パルス光を除去し、繰り返し周波数をf/n(nは2以上の自然数)とする光変調器と、前記光変調器からの出力光の一部を分岐する分岐部と、前記光変調器に印加するバイアス電圧を制御するバイアス制御部と、前記分岐部で分岐された光のスペクトルを解析するスペクトル解析部とを有する短パルス光発生装置であって、前記バイアス制御部は、前記スペクトル解析部に入射された光の所望のスペクトル周波数範囲における光強度の最大値と最小値との差を最小化するように、前記バイアス電圧を制御するよう設定されていることを特徴とする。
【0016】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の短パルス光発生装置において、該光のスペクトル強度分布は、周波数軸の両端で各々ピークを有すると共に、2つのピークに挟まれた領域が該ピークに対して窪んだ形状を形成しており、前記所望のスペクトル周波数範囲は、各ピークを除く前記窪んだ形状部分に存在することを特徴とする。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の短パルス光発生装置において、前記所望のスペクトル周波数範囲は、光変調器へ入力された短パルス光の中心周波数を中心とし、該スペクトル解析部に入射された光のスペクトル強度分布の包絡線での両端において、該スペクトル強度分布における光強度の最大値から所定の強度を差し引いた点同士を結んだ周波数幅に対して2/3倍の周波数幅以内に設定されていることを特徴とする。
【0018】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の短パルス光発生装置において、前記所望のスペクトル周波数範囲は、前記繰り返し周波数fよりも広い範囲を対象としていることを特徴とする。
【0019】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の短パルス光発生装置において、前記光強度の最大値と最小値との差は、0.1nm以下の分解能の分散分光方式のスペクトル解析装置を用いて解析することを特徴とする。
【0020】
請求項6に係る発明は、繰り返し周波数fの短パルス光を光変調器に入射し、該光変調器を、入力信号に基づき前記繰り返し周波数fの短パルス光の内、特定の短パルス光を除去し、該光変調器からの出力光の繰り返し周波数をf/n(nは2以上の自然数)となるように動作させ、バイアス制御手段により、該光変調器にバイアス電圧を印加し、スペクトル解析手段により、該光変調器からの出力光の少なくとも一部の光をスペクトル解析し、該バイアス制御手段を動作させ、該スペクトル解析手段に入射された光の所望のスペクトル周波数範囲における光強度の最大値と最小値との差を最小化し、その際の印加されたバイアス電圧を測定することを特徴とする光変調器のバイアス電圧評価方法である。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係る発明により、繰り返し周波数fで短パルス光を発生するパルス発信器と、入力信号に基づき前記繰り返し周波数fの短パルス光の内、特定の短パルス光を除去し、繰り返し周波数をf/n(nは2以上の自然数)とする光変調器と、前記光変調器からの出力光の一部を分岐する分岐部と、前記光変調器に印加するバイアス電圧を制御するバイアス制御部と、前記分岐部で分岐された光のスペクトルを解析するスペクトル解析部とを有する短パルス光発生装置であって、前記バイアス制御部は、前記スペクトル解析部に入射された光の所望のスペクトル周波数範囲における光強度の最大値と最小値との差を最小化するように、前記バイアス電圧を制御するよう設定されているため、光変調器の出力光からON/OFF消光比を直接測定することなく、該光変調器のバイアス電圧を最適に制御することが可能となる。
【0022】
請求項2に係る発明により、光のスペクトル強度分布は、周波数軸の両端で各々ピークを有すると共に、2つのピークに挟まれた領域が該ピークに対して窪んだ形状を形成しており、所望のスペクトル周波数範囲は、各ピークを除く前記窪んだ形状部分に存在するため、ON/OFF消光比に対応する間接的な物理量をより正確に測定することが可能となる。
【0023】
請求項3に係る発明により、所望のスペクトル周波数範囲は、光変調器へ入力された短パルス光の中心周波数を中心とし、スペクトル解析部に入射された光のスペクトル強度分布の包絡線での両端において、該スペクトル強度分布における光強度の最大値から所定の強度を差し引いた点同士を結んだ周波数幅に対して2/3倍の周波数幅以内に設定されているため、光強度の最大値を示すピーク部分の影響を排除し、ON/OFF消光比に対応する間接的な物理量をより正確に測定することが可能となる。
【0024】
請求項4に係る発明により、所望のスペクトル周波数範囲は、繰り返し周波数fよりも広い範囲を対象としているため、繰り返し周波数fの影響を排除し、ON/OFF消光比に対応する間接的な物理量をより正確に測定することが可能となる。
【0025】
請求項5に係る発明により、光強度の最大値と最小値との差は、0.1nm以下の分解能の分散分光方式のスペクトル解析装置を用いて解析するため、ON/OFF消光比に対応する間接的な物理量をより正確に測定することが可能となる。
【0026】
請求項6に係る発明により、繰り返し周波数fの短パルス光を光変調器に入射し、該光変調器を、入力信号に基づき前記繰り返し周波数fの短パルス光の内、特定の短パルス光を除去し、該光変調器からの出力光の繰り返し周波数をf/n(nは2以上の自然数)となるように動作させ、バイアス制御手段により、該光変調器にバイアス電圧を印加し、スペクトル解析手段により、該光変調器からの出力光の少なくとも一部の光をスペクトル解析し、該バイアス制御手段を動作させ、該スペクトル解析手段に入射された光の所望のスペクトル周波数範囲における光強度の最大値と最小値との差を最小化し、その際の印加されたバイアス電圧を測定することを特徴とする光変調器のバイアス電圧評価方法であるため、短パルス光発生装置に使用される光変調器のバイアス特性を容易かつ正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の短パルス光発生装置の概略を説明する図である。
【図2】短パルス光のモデル化を説明する図である。
【図3】短パルス光発生装置の出力光である測定スペクトルの概念を説明する図である。
【図4】スペクトルのうねりと消光比との関係(理論曲線)を示す図である。
【図5】光スペクトルアナライザー(OSA)を用いたスペクトルパワー比の測定概念を説明する図である。
【図6】光スペクトルアナライザー(OSA)測定におけるピーク値の鈍りを考慮に入れた補正曲線を示す図である。
【図7】光スペクトルアナライザー(OSA)を用いた測定例であり、10GHz成分が残っている状態を示す図である。
【図8】光スペクトルアナライザー(OSA)を用いた測定例であり、10GHz成分は消えているが、スペクトル上のうねりが幾分残っている状態を示す図である。
【図9】光スペクトルアナライザー(OSA)を用いた測定例であり、スペクトル上のうねり(最大値と最小値との差)を最小化した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の短パルス光発生装置について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の短パルス光発生装置は、図1に示すように、繰り返し周波数fで短パルス光Aを発生するパルス発信器1と、入力信号に基づき前記繰り返し周波数fの短パルス光の内、特定の短パルス光を除去し、繰り返し周波数をf/n(nは2以上の自然数)とする光変調器2と、前記光変調器2からの出力光の一部を分岐する分岐部3と、前記光変調器に印加するバイアス電圧を制御するバイアス制御部5と、前記分岐部で分岐された光B2のスペクトルを解析するスペクトル解析部4とを有する短パルス光発生装置であって、前記バイアス制御部5は、前記スペクトル解析部4に入射された光の所望のスペクトル周波数範囲における光強度の最大値と最小値との差を最小化するように、前記バイアス電圧を制御するよう設定されていることを特徴とする。
なお、分岐部3から出射される、もう一つの出力光B1は、テラヘルツ分光用光源、周波数基準光源、又は各種計測用光源等の短パルス光として利用される。
【0029】
図2に、パルスピッカーを構成する光変調器2から出力される短パルス光について、モデル化して説明する。ここでは、パルスのピーク強度を1で規格化し、間引かれたパルス強度をa(振幅は√a)とする。1周期Tに含まれるパルスの数をnとする。
【0030】
光変調器2の消光比Rは、式(1)で示される。
=10loga (1)
【0031】
図2の短パルス列の振幅は、式(2)〜(4)を用いて表現される。
h(t)=f(t)×g(t) (2)
f(t)=1(0≦t≦T/n)又はa1/2(T/n≦t≦T) (3)
g(t)=Σl=−∞δ{t−T/2n・(2l−1)} (4)
ただし、δはディラックのデルタ関数であり、g(t)の表現は、パルス幅が周期Tに対して十分小さいと仮定したときに正しい。
【0032】
式(2)のh(t)をフーリエ級数展開で表すと、式(5)及び(6)のように表現できる。
h(t)〜Σm=−∞exp(im・2π/T・t) (5)
=1/T{exp(−iπ×m/n)+a1/2Σl=2exp(−iπ×m/n(2l−1))} (6)
ただし、mは、級数展開の次数であり、離散的なスペクトルの1本ずつに対応している。Cは、フーリエ係数である。
【0033】
スペクトル解析により測定される、離散的なスペクトルの強度(振幅の2剰に比例)を、Pとする。それぞれのスペクトル線の強度Pは、式(7)で表現される。
∝|c (7)
【0034】
m=0,n,2n・・・の時には、式(8)の値となる。
|c=1/T・(1+a1/2(n−1)) (8)
【0035】
mが上記以外の場合は、式(9)の値となる。
|c=1/T・(1−a1/2 (9)
【0036】
図3に示すように、スペクトル上のf成分とf/n成分とのパワーの差(スペクトルパワー比)ΔPは、式(10)で表現できる。ただし、aは十分小さいと仮定している。
ΔP[dB]=−10log{(1−2・a1/2)/(1+2・a1/2(n−1)} (10)
【0037】
このスペクトルの概念図を描くと図3のようになる。ここで、上式のlog内の括弧の中をpとしてaについてとくと、式(11)が得られる。
a={(1−p)/2(1+p(n−1))} (11)
【0038】
式(11)を用いて、図3に示したスペクトルのΔPより消光比を求めることができる。具体的に、fを10GHzとして、n=2,4,8(5.0,2.5,1.25GHz)の時のスペクトルパワー比ΔP(スペクトルのうねりの大きさに該当する)と消光比Rを計算した結果(理論曲線)を図4に示す。
【0039】
図4により、スペクトルパワー比ΔPであるスペクトルのうねり(dB)の大きさが小さい程、消光比(dB)が大きくなるのが容易に理解される。
【0040】
次に、スペクトルパワー比ΔP(光強度の最大値と最小値との差)を測定するためのスペクトル解析手段について説明する。一般的に、以下の3つの方式がある。
【0041】
(1)分散分光方式
回折格子やプリズムの分光素子を使って空間的にスペクトルを分け、スリットで不要光を除去して、スリットを透過した測定したい波長の光強度を測定する。かつては分解能に難があったが、最近の分光技術の進歩により0.01nm程度(周波数で1GHz程度)まで測定可能となっている。高速で安価にスペクトル解析を実現できる。
【0042】
(2)干渉分光方式
マイケルソン干渉計の構成である。被測定光をビームスプリッタにより2光束に分割し、二つの光束に光路差を与えた後に重ね合わせたときに生ずるインタフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトル分析を行う。波長分解能は分散分光方式よりはよいが、速度は分散分光方式より遅く、パワー測定精度も分散分光方式より悪い。
【0043】
(3)ヘテロダイン型
周波数(波長)掃引可能な狭線幅かつ周波数揺らぎの少ないローカル光源を用い、被測定スペクトルに周波数を近づけたときに生じるビートの強度からスペクトル強度を測定する方法である。最も測定精度は良いが、ローカル光を掃引しなければならないため、高速測定ができない。コヒーレント受信機と呼ばれるものは、この方法で信号検出を行っている。
【0044】
これらの三つの方式を対比すると、以下の表1のような特徴を示している。各特徴毎の評価は、◎→○→△→×の順に、特性が最も優れているものから、特性が劣っているものと評価している。
【0045】
【表1】

【0046】
基本的にどの方式を選択するのかは、用途に応じて選択すべきものであるが、本発明では、測定速度やパワー測定精度の面から、上記(1)分散分光方式がより好ましい。なお、ヘテロダイン型の場合は、周波数掃引可能なレーザー光源を用いてヘテロダイン検波による検出測定であるが、表1のように、波長分解能やパワー測定精度は正確である。しかしながら、レーザー光を掃引する必要があるため、測定に時間がかかる上、別途光源が必要となり、測定装置自体も高価なものとなる。
【0047】
他方、0.1nm以下の高分解能を有する分散分光方式の光スペクトラムアナライザー(OSA)による測定では、光スペクトルを直接視覚的に見られるため簡単ではあるが、分解能に限界があるため、消光比の測定精度はやや劣るが、高速で動作するため、バイアスコントロールに適する。現在市販されているものでは、0.01〜0.02nmであるため、fが1GHz(分解能0.01nmの時)が測定限界となる。
【0048】
OSA、特に分散分光方式を用いた消光比の測定について、さらに検討する。図5に示すように、スペクトル線幅Wと、OSAの分解能sについて、以下の3つの条件によって、測定の精度が左右される。ただし、w<<f/nと仮定する
(1)f−w≦sの時は、測定不可能。
(2)f/n−w≦s<f−wの時は補正が必要。特に、f以外のピークのパワー成分が含まれるため、それを除外する必要がある。
【0049】
スペクトル強度の差は、直接測れないため、理論式から消光比を直接計算することはできない(理論式では消光比が過小評価される)。しかしながら、最適値を見つけるだけであれば、強度差を小さくすればよいため、本方式(分散分光方式)を使用することができる。消光比を求めるためには、強度測定の最大値に含まれる強度の小さなスペクトル分を差し引く必要がある。その方法で計算した結果が、図6に示した補正曲線である。
【0050】
(3)s<f0/n−wの時は、スペクトルの強度差から式(11)を用いて消光比を算出することが可能である。つまり、(3)の場合は最大値の測定結果には一つのスペクトル成分しか含まれていないため、m=0,n,2nのスペクトル強度を正確に測定できるためである。
【0051】
一般的に、市販の光スペクトラムアナライザーは、分解能よりも、掃引のステップが細かいため、fのピークが完全に含まれるパワーの値を取得することができるが、掃引のステップが分解能と同じ場合、スリットの境界が丁度スペクトルに掛ってしまった場合には、上記(3)の条件を満たしていてもピークのパワーが2つの測定値に跨ってしまう場合がある。その場合には、該当する2つの測定値を足して、分解能を2sとして補正を掛ければよい。
【0052】
図4で示した、f=10GHzの場合では、n=4,8で補正が必要となるため、補正を考慮して計算した結果を図6に示す。
【0053】
次に、市販の光スペクトルアナライザー(OSA)の中でもGHzオーダーの分解能を持つ高分解能光スペクトルアナライザー(分散分光方式)を用いて短パルスのスペクトルを測定した実施例を図7〜9に示す。f=10GHzとし、n=8に設定した場合である。
【0054】
図7は、オシロスコープで見て若干f(10GHz)成分が残っている(消光比は10dB程度を想定)。また、図8は、オシロスコープでは完全に10GHzは見えなくなっているが、スペクトル上は、まだスペクトルのうねりが最小ではない。
【0055】
上述したモデルでは、パルス列をδ関数(式(4))としているため、スペクトルは無限の広がりをもつことになるが、実際の短パルス列は有限の幅を持っているため、スペクトルも有限である。したがって、中心周波数から離れた拡がりの外側部分はモデルとは整合していないため、これらの周辺部分は除外する必要がある。
【0056】
測定される光のスペクトル強度分布は、図8に示すように、周波数軸の両端で各々ピークを有すると共に、2つのピークに挟まれた領域が該ピークに対して窪んだ形状を形成している。各ピークを除く中心の窪んだ領域が、上記モデルが成り立つ領域で、短パルス光の中心周波数を中心として、全体幅(図8のようなスペクトル強度分布が示す形状の全体周波数幅であり、両側のピーク強度から所定強度低い部分、例えば図8でピーク値より10dB程度低い−40dB部分の周波数幅)の約2/3程度の領域が該当する。このような窪んだ領域が、スペクトルのうねりを示す部分となる。
【0057】
また、所望のスペクトル周波数範囲として、光変調器へ入力された短パルス光の中心周波数を中心とし、前記スペクトル解析部に入射された光のスペクトル強度分布の包絡線での両端において、前記スペクトル強度分布における光強度の最大値から所定の強度を差し引いた点同士を結んだ周波数幅に対して2/3倍の周波数幅以内と設定することも可能である。この場合は、スペクトル強度分布における光強度の最大値から差し引く所定の強度としては、例えば10dB程度とすればよいが、必要に応じて3dBや5dBなどそれ以外の強度とすることも可能である。
【0058】
図9では、OSA上でうねりを最小にした状態(消光比最良点に該当する)を示している。うねりを最小にするには、OSAのうねりを示す部分を、光強度の最大値と最小値との差を判断するための測定対象となるスペクトル周波数範囲とし、当該所望の範囲において、当該差が最小化するように、パルスピッカーの光変調器に印加するバイアス電圧を制御する。
【0059】
次に、f0=10GHzとし、n=2,4,8の場合、各スペクトルのうねりから消光比を算出した結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
また、所望のスペクトル周波数範囲は、繰り返し周波数fよりも広い範囲を対象とすることが必要である。これにより、ON/OFF消光比に対応する間接的な物理量をより正確に測定することが可能となる。
【0062】
以上の説明では、短パルス光発生装置に組み込まれた光変調器のバイアス電圧を制御する構成を説明したが、本発明は、更に、光変調器、特に短パルス光発生装置に使用される光変調器を、単体で試験評価(印加すべきバイアス電圧の測定や駆動環境でのバイアス電圧の変化の測定)する際にも利用可能である。
【0063】
つまり、図1のように、繰り返し周波数fの短パルス光Aを、被測定対象の光変調器2に入射し、該光変調器2を、入力信号に基づき前記繰り返し周波数fの短パルス光の内、特定の短パルス光を除去し、該光変調器からの出力光(B1又はB2)の繰り返し周波数をf/n(nは2以上の自然数)となるように動作させ、バイアス制御手段5により、該光変調器にバイアス電圧を印加し、スペクトル解析手段4により、該光変調器からの出力光の少なくとも一部の光B2(当然、B1を直接測定しても良い)をスペクトル解析し、該バイアス制御手段を動作させ、該スペクトル解析手段に入射された光の所望のスペクトル周波数範囲における光強度の最大値と最小値との差を最小化し、その際の印加されたバイアス電圧を測定する。
【0064】
このように測定されたバイアス電圧は、光変調器のバイアス電圧評価として利用することが可能である。例えば、光変調器のバイアス電圧最適点を測定することにより、パルスピッカーとして光変調器のON/OFF消光比を評価することが可能となる。なお、上述した「所望のスペクトル周波数範囲」などについては、短パルス光発生装置で説明した各種の方法や考え方が、同様に利用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、本発明によれば、短パルス光発生装置を構成するパルスピッカー光変調器の出力光からON/OFF消光比を高速かつ高い消光比レベルでモニタし、該光変調器に印加されるバイアス電圧を最適に制御可能な短パルス光発生装置を提供することが可能となる。また、短パルス光発生装置に使用可能な光変調器のバイアス電圧評価方法を提供することも可能となる。
【符号の説明】
【0066】
1 パルス発信器
2 光変調器(パルスピッカー)
3 分岐部
4 スペクトル解析部
5 バイアス制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し周波数fで短パルス光を発生するパルス発信器と、
入力信号に基づき前記繰り返し周波数fの短パルス光の内、特定の短パルス光を除去し、繰り返し周波数をf/n(nは2以上の自然数)とする光変調器と、
前記光変調器からの出力光の一部を分岐する分岐部と、
前記光変調器に印加するバイアス電圧を制御するバイアス制御部と、
前記分岐部で分岐された光のスペクトルを解析するスペクトル解析部とを有する短パルス光発生装置であって、
前記バイアス制御部は、前記スペクトル解析部に入射された光の所望のスペクトル周波数範囲における光強度の最大値と最小値との差を最小化するように、前記バイアス電圧を制御するよう設定されていることを特徴とする短パルス光発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の短パルス光発生装置において、該光のスペクトル強度分布は、周波数軸の両端で各々ピークを有すると共に、2つのピークに挟まれた領域が該ピークに対して窪んだ形状を形成しており、
前記所望のスペクトル周波数範囲は、各ピークを除く前記窪んだ形状部分に存在する
ことを特徴とする短パルス光発生装置。
【請求項3】
請求項1に記載の短パルス光発生装置において、前記所望のスペクトル周波数範囲は、光変調器へ入力された短パルス光の中心周波数を中心とし、該スペクトル解析部に入射された光のスペクトル強度分布の包絡線での両端において、該スペクトル強度分布における光強度の最大値から所定の強度を差し引いた点同士を結んだ周波数幅に対して2/3倍の周波数幅以内に設定されていることを特徴とする短パルス光発生装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の短パルス光発生装置において、前記所望のスペクトル周波数範囲は、前記繰り返し周波数fよりも広い範囲を対象としていることを特徴とする短パルス光発生装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の短パルス光発生装置において、前記光強度の最大値と最小値との差は、0.1nm以下の分解能の分散分光方式のスペクトル解析装置を用いて解析することを特徴とする短パルス光発生装置。
【請求項6】
繰り返し周波数fの短パルス光を光変調器に入射し、
該光変調器を、入力信号に基づき前記繰り返し周波数fの短パルス光の内、特定の短パルス光を除去し、該光変調器からの出力光の繰り返し周波数をf/n(nは2以上の自然数)となるように動作させ、
バイアス制御手段により、該光変調器にバイアス電圧を印加し、
スペクトル解析手段により、該光変調器からの出力光の少なくとも一部の光をスペクトル解析し、
該バイアス制御手段を動作させ、該スペクトル解析手段に入射された光の所望のスペクトル周波数範囲における光強度の最大値と最小値との差を最小化し、その際の印加されたバイアス電圧を測定することを特徴とする光変調器のバイアス電圧評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−114065(P2013−114065A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260578(P2011−260578)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人情報通信研究機構、「高度通信・放送研究開発委託研究/近接テラヘルツセンサシステムのための超短パルス光源の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】