説明

短下肢装具

【課題】ダンパが揺動する必要のない短下肢装具を提供する。
【解決手段】短下肢装具10は、ユーザの下腿に装着される下腿部材12と、ユーザの足に装着される足部材14と、ダンパ40と連結機構20を備える。足部材14は、下腿部材12に揺動可能に連結されている。ダンパ40は、可動端が動くことによって粘性抵抗を付与する。ダンパ40は、下腿部材12に固定されており、下腿部材12がユーザに装着されたときに可動端が下腿の長手方向に沿って動く。連結機構20は、足部材14をダンパ40の可動端に連結する。連結機構20は、足部材14の揺動に連動してダンパ40の可動端を動かす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短下肢装具(AFO:Ankle Foot Orthosis)に関する。
【背景技術】
【0002】
足を自在に動かすことができないユーザのための補助デバイスとして、短下肢装具が知られている。短下肢装具は、ユーザの下腿に固定される下腿部材と足に固定される足部材を備えている。本明細書で用いる「下腿」とは、膝と足首の間の部分を意味する。また、「足」とは、足首関節よりも先の部分を意味する。短下肢装具の中には、足部材が、下腿部材に揺動可能に連結されており、下腿部材と足部材の間にダンパ及び/又はバネが連結されているものがある。ダンパやバネは、歩行の際に足首に加わる負荷を和らげる。短下肢装具の一例が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4156909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダンパの一端が下腿部材に揺動可能に連結されており、ダンパの他端が足部材に揺動可能に連結されている場合、ダンパは足部材の揺動に連動して揺動することになる。短下肢装具はコンパクトであることが望ましいが、従来の短下肢装具は、ダンパが揺動するためのスペースを確保する必要があった。本明細書が開示する技術は、ダンパが揺動する必要のない短下肢装具を提供する。本明細書が開示する技術によれば、ダンパの揺動を許容するスペースを確保する必要がなく、コンパクトな短下肢装具を実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する一つの技術は、ダンパが揺動しない短下肢装具を提供する。その短下肢装具は、ユーザの下腿に装着される下腿部材と、ユーザの足に装着される足部材と、下腿部材に固定されているダンパと、連結機構を備える。足部材は、下腿部材に揺動可能に連結されている。ダンパは、動くことによって粘性抵抗を付与する可動端を有する。可動端は、下腿部材がユーザに装着されたときに、下腿の長手方向に沿って動くことができる。連結機構は、足部材をダンパの可動端に連結している。連結機構は、足部材の揺動に連動してダンパの可動端を動かす。そのような連結機構を備えることによって、この新規な短下肢装具は、ダンパを下腿部材に固定することを実現している。
【0006】
連結機構の具体的構造の好適な一例は、ガイドブロックとリンクを備えている。ガイドブロックは、ダンパの可動端に取り付けられている。ガイドブロックは、短下肢装具がユーザに装着されたときにユーザの前後方向に伸びるガイド溝又はガイドレールを有する。リンクの下端が足部材に固定されており、上端がガイド溝又はガイドレールにスライド可能に係合している。
【0007】
そのような構造の連結機構においては、足部材とともにリンクが揺動する。リンクが揺動すると、リンクの上端が円弧に沿って移動する。リンクの揺動に伴って、ガイド溝又はガイドレールに係合しているリンクが、ガイドブロックを下腿の長手方向に沿って直線的に動かす。即ち、上記の連結機構によって、下腿部材に固定されているダンパが機能する。
【0008】
本明細書が開示する他の一つの技術は、ユーザの歩行動作をさらに効果的に補助することのできる短下肢装具を提供する。その短下肢装具は、着地したときの足の底屈を補助するとともに、自重を支えるための足の動作を補助する。そのような短下肢装具は、上記したダンパに加えてバネユニットを備える。バネユニットは、下腿部材とガイドブロックを連結する。バネユニットは、下腿部材とガイドブロックの間で、ダンパと並列に連結されている。
【0009】
ダンパは、足部材の中立位置から底屈方向への揺動に連動してガイドブロックが一方向に移動する際に粘性抵抗を付与する。粘性抵抗は、連結機構を介して足部材に付与される。他方、ダンパは、足部材の背屈方向への揺動に連動してガイドブロックが逆方向に移動する際には粘性抵抗を付与しない。このダンパは、可動端が一方向に動くときに粘性抵抗を与え、逆方向に動くときには粘性抵抗を付与しない、いわゆるワンウエイダンパである。さらに、このダンパは、可動端が中立位置から背屈側に位置する場合にはいずれの方向の揺動に対しての粘性抵抗を与えない。そのようなワンウエイダンパは、典型的には、可動端が中立位置から一方向に動くときにダンパの粘性材料を動かし、逆方向に動くときには粘性材料と離間する構造で実現される。なお、「中立位置」とは、ユーザに応じて個別に調整されるものであるが、例えば、足部材が下腿部材と略直交するときの足部材の位置に相当する。ダンパの具体的な構造の一例は後に説明する。
【0010】
歩行動作において、踵が接地した後に足が中立位置から底屈し、足の裏全体が接地する。上記のワンウエイダンパは、踵が接地した後の足の底屈動作を補助する。
【0011】
バネユニットは、足部材の中立位置から底屈方向への揺動に連動してガイドブロックが一方向に移動する際にはバネ力を付与しない。他方、バネユニットは、足部材の中立位置から背屈方向へ揺動に連動してガイドブロックが逆方向に移動する際にバネ力を付与する。中立位置から背屈側では、バネユニットはいずれの方向の揺動に対してもバネ力を与える。バネ力は連結機構を介して足部材に付与される。そのようなバネユニットは、典型的には、バネユニットの端部が一方向に動くときにはバネ本体から離間し、逆方向に動くときにはバネ本体を動かす構造で実現される。
【0012】
一方の足が接地した後、他方の脚が前方へ揺動して体幹が前方へ移動するのに伴って、その足は中立位置を超えて背屈する。その足は、離地するときに中立位置へ向かって底屈する。上記のバネユニットは、離地するまでの一連の足の動作を補助する。
【0013】
連結機構は、リンク上端のスライド範囲が、足部材の回転軸線よりも後方であるとよい。ここで、「回転軸線よりも後方」とは、ユーザが短下肢装具を取り付けたときに、ユーザの前後方向に沿って「回転軸線よりも後方」であることを意味する。なお、短下肢装具では通常、下腿部材の向こうずね側を「前」と称している。上記連結機構のガイドブロックとリンクをそのようにレイアウトすることによって、ダンパとバネユニットをさらに効果的に作動させることができる。即ち、上記のレイアウトは、足部材が中立位置から底屈方向に角度Ap揺動したときのガイドブロックのストロークSpと、足部材が中立位置から背屈方向に角度Ad揺動したときのガイドブロックのストロークSdが、Sp/Ap<Sd/Adの関係を満たす。そのような関係を満たす短下肢装具は、バネユニットを比較的長いストロークで動作させることができるとともに、逆に、ダンパを比較的短いストロークで動作させることができる。同じバネ定数であれば、ストロークの長いバネはストロークの短いバネよりも直径を小さくできる。また、同じ粘性抵抗であればストロークの短いダンパはストロークの長いダンパよりも安価である。そのような関係は、ガイドブロックとリンクの幾何学的な幾つかの配置で実現することができる。上記のレイアウトが上記した揺動範囲とストロークの関係を満たす理由は実施形態で説明する。
【0014】
以上述べた通り、本明細書が開示する新規な技術は、従来よりも優れた短下肢装具を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例の短下肢装具の模式図である。
【図2】リンクの揺動角とバネ/ダンパのストロークとの関係を説明する図である。
【図3】他の実施形態の短下肢装具の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して実施例の短下肢装具を説明する。図1は、第1実施例の短下肢装具10の模式図を示している。以下、簡単のため、「短下肢装具10」を「AFO10」と略称する。AFO10は、主な部品として、下腿部材12、足部材14、ジョイント16、ワンウエイダンパ40、ワンウエイバネユニット50、連結機構20、及び、リニアガイド30を備えている。図1に示されているように、ワンウエイダンパ40、ワンウエイバネユニット50、及び連結機構20は、ユーザがAFO10を装着したときに下腿Rの側方に位置するように、下腿部材12に取り付けられている。
【0017】
足部材14は、ジョイント16によって下腿部材12に揺動可能に連結されている。下腿部材12は、ユーザの下腿Rに取り付けられる。足部材14はユーザの足Fに取り付けられる。ユーザがAFO10を装着すると、ジョイント16はユーザの足首関節と略同軸に位置する。ユーザが足を底屈方向或いは背屈方向に揺動すると、足部材14も揺動する。図1の符号「C]は、ジョイント16の回転軸線を示している。図1に示す足首関節の角度、即ち、足Fと下腿Rが略直角をなすときが足部材14の中立位置に相当する。なお、「中立位置」は、ユーザに応じて個別に調整される。
【0018】
ワンウエイダンパ40とワンウエイバネユニット50は、下腿部材12に固定されている。まずワンウエイダンパ40について説明する。ワンウエイダンパ40は、粘性材41、ケース42、ピストンロッド44を有している。ケース42は下腿部材12に固定されている。粘性材41がケース42の中に配置されている。ピストンロッド44の下端は、後述するガイドブロック22に連結されており、ガイドブロック22が下腿Rの長手方向に沿って上下に移動すると、ピストンロッド44も上下に移動する。なお、下腿Rの長手方向は図1の上下方向に相当する。図1の状態においては、ピストンロッド44の上端が粘性材41に接している。詳しくは後述するが、足Fが背屈方向に揺動するとガイドブロック22が下方に直線的に動き、足Fが底屈方向に揺動するとガイドブロック22が上方に直線的に動く。ガイドブロック22については後に詳しく説明する。
【0019】
粘性材41は、圧縮性の材料で作られている。粘性材41の自然長はL1であり、足部材14がちょうど中立位置にあるときにピストンロッド44の上端が粘性材41に接する。粘性材41とピストンロッド44は接しているだけであり、相互に固定はされていない。図1に示す状態からガイドブロック22が上方に移動するとピストンロッド44が粘性材41を圧縮する。このとき、粘性材41は、ピストンロッド44の動きに対して粘性抵抗を付与する。図1に示す状態からガイドブロック22が下方に移動するとピストンロッド44の上端は粘性材41から離れる。ガイドブロック22が下方に移動するときには粘性材41はピストンロッド44に粘性抵抗を付与しない。ピストンロッド44の下端がワンウエイダンパ40の可動端に相当する。
【0020】
ワンウエイダンパ40は、ガイドブロック22が中立位置から上方へ移動するに際に粘性抵抗を付与する。ワンウエイダンパ40は、ガイドブロック22が中立位置から下方へ移動する際には粘性抵抗をピストンロッド44に付与しない。さらにワンウエイダンパ40は、ピストンロッド44が一旦上方に移動した後に再び下方へ移動する際にも、粘性抵抗を付与しない。
【0021】
次に、ワンウエイバネユニット50について説明する。ワンウエイバネユニット50は、スプリング54、ストッパ56、ピストンロッド58を有している。ストッパ56は、下腿部材12に固定されている。ストッパ56には孔が設けられており、その孔をピストンロッド58が通過している。ピストンロッド58の上端にはリブ58aが設けられている。リブ58aとストッパ56の間には、スプリング54が嵌挿されている。ピストンロッド58の下端は、ガイドブロック22に連結されている。ピストンロッド58の下端が、ワンウエイバネユニット50の可動端に相当する。
【0022】
ピストンロッド58は、リニアガイド30にガイドされ、下腿Rの長手方向に沿って上下に直線的に移動することができる。即ち、リニアガイド30は、ピストンロッド58をその長手方向に沿って摺動可能に支持している。スプリング54の自然長はL2であり、足部材14がちょうど中立位置にあるときに、ピストンロッド58のリブ58aとストッパ56の間の距離もL2となる。なお、スプリング54を意図的に圧縮させて(例えば、リブ58aとストッパ56の間にスペーサを配置する)、中立位置付近の復元力の強さを調整することができる。図1に示す状態からガイドブロック22が下方に移動すると、リブ58aとストッパ56の間が縮まってスプリング54が圧縮される。このとき、スプリング54はピストンロッド58を介してガイドブロック22にバネ力(復元力)を付与する。リブ58aとスプリング54は接しているだけであり、相互に固定はされていない。従って、図1の状態からガイドブロック22が上方に移動すると、リブ58aとストッパ56の間が距離L2よりも大きくなり、リブ58aとスプリング54が離間する。図1の状態からガイドブロック22が上方に移動するときには、スプリング54はガイドブロック22にバネ力を付与しない。
【0023】
次に、連結機構20について説明する。連結機構20は、主に、ガイドブロック22とリンク28で構成されている。ガイドブロック22は、ワンウエイバネユニット50の可動端(ピストンロッド58の先端)に連結されており、リニアガイド30にガイドされながら、下肢Rの長手方向に沿って上下動することができる。ガイドブロック22は、ワンウエイダンパ40の可動端にも連結されているが、主としてリニアガイド30によってガイドされる。ガイドブロック22には、ユーザの前後方向に伸びるガイド溝22aが形成されている。
【0024】
リンク28の下端は足部材14に固定されており、リンク28の上端はカムフォロワ26を介してガイド溝22aに係合している。リンク28は、回転軸線Cの周りに揺動する。このときリンク28の上端は、ガイド溝22aに沿ってスライドする。
【0025】
図1の符号「V」は、ジョイント16の回転軸線C(足部材14の回転軸線)を通り、下腿部材12の長手方向に沿って伸びる直線を表している。別言すれば、直線Vは、ユーザがAFO10を装着したとき、回転軸線Cを通り、ユーザの下腿の長手方向に沿って伸びる直線を表している。図1に示すとおり、リンク28の上端のスライド範囲は、直線Vよりも後方に位置する。そのような配置は特別な効果を奏する。その効果については後述する。
【0026】
連結機構20の動作について説明する。前述したように、図1の状態は足部材14が中立位置にある状態を示している。このとき、粘性材41の長さは自然長L1であり、スプリング54の長さは自然長L2である。
【0027】
ユーザが足Fを底屈方向に揺動するとき、足部材14も底屈方向に揺動する。底屈方向は、足先が下がる向きの足首関節の回転方向に相当する。なお、背屈方向は、足先が上がる向きの足首関節の回転方向に相当する。図1の矢印Pが底屈方向を示しており、矢印Dが背屈方向を示している。足部材14が底屈方向に揺動すると足部材14に固定されたリンク28が矢印pの向きに揺動する。リンク28の上端の位置が上がる。リンク28の上端にはガイドブロック22が係合しており、リンク28の上端は、ガイド溝22aに沿ってスライドしながら、ガイドブロック22を押し上げる。このとき、ピストンロッド44を介して粘性材41が圧縮される。ガイドブロック22の上方への移動に伴って粘性材41がピストンロッド44と連結機構20を介して足部材14に粘性抵抗を付与する。他方、足部材14が中立位置から底屈方向へ揺動するとき、連結機構20によってガイドブロック22が押し上げられ、ピストンロッド58が上方に移動する。ワンウエイバネユニット50のリブ58aとストッパ56の距離がL2よりも拡大するが、このときスプリング54はリブ58aから離れ、バネ力を付与しない。
【0028】
他方、ユーザが足Fを中立位置から背屈方向(矢印Dの方向)に揺動するとき、足部材14も背屈方向に揺動する。足部材14が背屈方向に揺動すると足部材14に固定されたリンク28が矢印dの向きに揺動する。リンク28の上端の位置が下がる。リンク28の上端はガイド溝22aに沿ってスライドしながらガイドブロック22を押し下げる。このとき、ピストンロッド58が下方に移動する。ワンウエイバネユニット50のリブ58aとストッパ56の距離がL2よりも縮まり、スプリング54が圧縮される。そのため、ワンウエイバネユニット50は、足部材14を底屈方向に揺動する向きのバネ力を付与する。
【0029】
AFO10の動作をまとめると次の通りである。ワンウエイダンパ40とワンウエイバネユニット50は、下腿部材12に取り付けられている。ワンウエイダンパ40とワンウエイバネユニット50は、下腿部材12と連結機構20の間に並列に連結されている。連結機構20のガイドブロック22が下腿Rの長手方向に沿って移動するとき、ワンウエイダンパ40とワンウエイバネユニット50の夫々の可動端も下腿Rの長手方向に沿って移動する。ワンウエイダンパ40は、足部材14の中立位置から底屈方向への揺動に連動してガイドブロック22が上方に移動する際に足部材14に粘性抵抗を付与する。ワンウエイダンパ40は、足部材14の背屈方向への揺動に連動してガイドブロック22が下方に移動する際には足部材14に粘性抵抗を付与しない。ワンウエイバネユニット50は、足部材14の中立位置から底屈方向への揺動に連動してガイドブロック22が上方に移動する際には足部材14にバネ力を付与しないが、足部材14の中立位置から背屈方向への揺動に連動してガイドブロック22が下方に移動する際に足部材14にバネ力を付与する。
【0030】
ワンウエイダンパ40とワンウエイバネユニット50は、下腿部材12に固定されており、足部材14が揺動してもそれらは揺動しない。ワンウエイダンパ40とワンウエイバネユニット50が揺動しないことは、上記した連結機構20の構造によって達成される。上記の構成によれば、ワンウエイダンパ40とワンウエイバネユニット50を下腿部材12に固定することができるので、コンパクトなAFO10を実現することがきできる。特に、ワンウエイダンパ40とワンウエイバネユニット50を下腿部材12の長手方向に沿って平行に配置することができるので、それらをコンパクトにレイアウトすることができる。
【0031】
次に、上記連結機構20が奏するさらなる効果を説明する。その効果は、リンク28の上端のスライド範囲が、直線Vよりも後方に位置する構成に起因する(図1参照)。連結機構20は、バネとダンパを効果的に利用することができる。図2は、足部材14が中立位置から底屈方向に角度Ap揺動したときのガイドブロック22のストロークSpの大きさと、足部材14が中立位置から背屈方向に角度Ad揺動したときのガイドブロック22のストロークSdの大きさを示している。図2の上側の図の点Cは、ジョイント16の回転軸に相当する。X軸は、足部材14の長手方向に相当する。X軸の正の方向が足先方向に相当する。Y軸は、下腿部材12の長手方向に相当する。即ちY軸は、図1の直線Vに相当する。点P1は、足部材14が中立位置にあるときのリンク28の上端の位置を示している。角度Anは、足部材14の長手方向とリンク28のなす角度を表している。足部材14が中立位置から底屈方向に角度Ap揺動するとき、リンク28の上端は点P2に位置する。距離Spは、足部材14が中立位置から底屈方向に角度Ap揺動したときのガイドブロック22のストロークを表す。足部材14が中立位置から背屈方向に角度Ad揺動するとき、リンク28の上端は点P3に位置する。距離Sdは、足部材14が中立位置から背屈方向に角度Ad揺動したときのガイドブロック22のストロークを表す。
【0032】
図2の下側のグラフは、リンク28の取り付け角度Anを変化させたときの、Sd/AdとSp/Apの変化を示す。なお、リンク長は1.0とし角度Ad=Ap=20[deg]で計算した。Sp/Apは、足部材14が底屈方向へ角度Ap揺動したときのガイドブロック22のストロークSpを表す。Sd/Adは、足部材14が背屈方向に角度Ad揺動したときのガイドブロック22のストロークSdを表す。S/Aの絶対値が大きいほど、単位角度の揺動に対するストロークが大きいことを示す。図2の符号W1が示す範囲では、足部材14の背屈方向の揺動に対してガイドブロック22のストロークが比較的大きくなり、逆に足部材14の底屈方向の揺動に対してガイドブロック22のストロークが比較的小さくなる。
【0033】
即ち、リンク28の上端のスライド範囲がW1の範囲であれば、ワンウエイバネユニット50を比較的長いストロークで動作させることができるとともに、逆に、ワンウエイダンパ40を比較的短いストロークで動作させることができる。同じバネ定数であれば、ストロークの長いバネはストロークの短いバネよりも直径を小さくできる。また、同じ粘性抵抗であればストロークの短いダンパはストロークの長いダンパよりも安価である。従って、リンク28の上端のスライド範囲がW1の範囲となるように連結機構20を構成すれば、バネとダンパを効率よく利用するAFOを実現できる。
【0034】
上記のレイアウトは、リンク28の上端のスライド範囲が、ユーザがAFO10を装着したときに足部材14の回転軸線Cよりも後方となっている構成に基本的に相当する。前述したように、図2の点Cは、ジョイント16の回転軸線に相当し、軸Yが下腿部材12の長手方向に相当する。軸Yは、ジョイント16の回転軸線Cを通り下腿部材12に沿って伸びる直線である。従って、上記した連結機構20の構成は、さらには次の通りに別言するともできる。即ち、リンク28の揺動範囲は、回転軸線Cを通り下腿に沿って伸びる直線V(Y軸)よりも後方であり、回転軸線Cを通り直線Vと交差する直線(X軸)よりも上方である。または、大雑把にいえば、上記の構成は、リンク28が、下腿部材12と足部材14を連結するジョイント16から下腿の後側に伸びる構成に対応する。即ち、下腿部材12と足部材14を連結するジョイント16から下腿の後方に向かってリンク28が伸びるように連結機構20を構成すれば、上記の効果が得られる。
【0035】
ここで、上記したAFO10では、リンク28上端が、ガイドブロック22のガイド溝22aによって案内され、ガイドブロック22に対して前後方向に移動する。従って、ガイドブロック22には、リンク28上端の前後方向の位置に応じて、モーメントが負荷される。このとき、ガイドブロック22に大きなモーメントが負荷されると、ガイドブロック22の上下方向の移動が妨げられてしまう。このようなモーメントを低減するためには、ガイドブロック22に対するリンク28上端の移動範囲に応じて、ワンウエイダンパ40とワンウエイバネユニット50の配置を定めるとよい。具体的には、リンク28上端の前後方向の移動限(即ち、移動範囲の両端位置)に、ワンウエイダンパ40とワンウエイバネユニット50をそれぞれ配置するとよい。この構成によると、ガイドブロック22に負荷されるモーメントを有意に低減することができ、その結果、例えばリニアガイド30に小型のものを採用することが可能となる。
【0036】
次に、図3を参照して第2実施例のAFO110を説明する。第2実施例のAFO110は、ワンウエイダンパ140と、2つのワンウエイバネユニット150a、150bと、リニアガイド130を備えている。ワンウエイダンパ140、ワンウエイバネユニット150a、150b、リニアガイド130の構造は、第1実施例のワンウエイダンパ140、ワンウエイバネユニット50、リニアガイド130とそれぞれ同じであるので、ここでは説明を省略する。ただし、リニアガイド130は、ワンウエイダンパ140に設けられており、そのピストンロッド144をガイドしている。
本実施例のAFO110では、ワンウエイダンパ140にリニアガイド130が設けられ、その両側にワンウエイバネユニット150a、150bが配置されている。ここで、2つのワンウエイバネユニット150a、150bは、リニアガイド130からの距離が互いに等しく、ワンウエイダンパ140を中心として対称に配置されている。このように、ガイドブロック22をガイドするリニアガイド130に対して、複数のワンウエイバネユニット150a、150bを対称的に配置すると、ガイドブロック22に加えられるモーメントを低減することができる。なお、ワンウエイバネユニット150a、150bに限られず、複数のワンウエイダンパ140をリニアガイド130に対して対称的(等距離)に配置してもよい。
【0037】
上記した実施例のAFOについての留意点を述べる。実施例のAFO10、110は、ワンウエイダンパ40、140とバネユニット50、150a、150bの双方を備えるが、いずれか一方のみを備えるものであってもよい。実施例のAFO10、110では、連結機構20のリンク28上端は、ガイドブロック22が有するガイド溝22aに係合する。ガイド溝22aに変えてガイドレールを採用しても、同様の効果を得ることができる。第2実施例のAFO110では、2個のワンウエイバネユニット150a、150bを備えた。ここで、2個のワンウエイバネユニット150a、150bの替わりに、2個のワンウエイダンパ140を備えても同様の効果を奏する。
【0038】
実施例のAFO10は、ワンウエイダンパ40とワンウエイバネユニット50を備える。ワンウエイダンパ40は、足部材14の中立位置から底屈方向への揺動に連動してガイドブロック22が一方向に移動する際に粘性抵抗を付与し、足部材14の背屈方向への揺動に連動してガイドブロック22が逆方向に移動する際には粘性抵抗を付与しない。ワンウエイバネユニット50は、足部材14の中立位置から底屈方向への揺動に連動してガイドブロック22が一方向に移動する際にはバネ力を付与せず、足部材14の中立位置から背屈方向への揺動に連動してガイドブロック22が逆方向に移動する際にバネ力を付与する。ワンウエイダンパ40に加えてサブダンパを備えてもよい。サブダンパは、ワンウエイダンパ40とは正反対に作動する。即ちサブダンパは、足部材14の中立位置から底屈方向への揺動に連動してガイドブロック22が一方向に移動する際に粘性抵抗を付与せず、足部材14の背屈方向への揺動に連動してガイドブロック22が逆方向に移動する際には粘性抵抗を付与する。さらに、ワンウエイバネユニット50に加えてサブバネユニットを備えても良い。サブバネユニットは、ワンウエイバネユニット50とは正反対に作動する。即ち、サブバネユニットは、足部材14の中立位置から底屈方向への揺動に連動してガイドブロック22が一方向に移動する際にはバネ力を付与し、足部材14の中立位置から背屈方向への揺動に連動してガイドブロック22が逆方向に移動する際にはバネ力を付与しない。もちろん、サブダンパの粘性抵抗はワンウエイダンパ40の粘性抵抗より小さく、サブバネユニットのバネ定数は、ワンウエイバネユニット50のバネ定数よりも小さいことが好ましい。
【0039】
本明細書が開示する技術の留意点を述べる。本明細書が開示する技術の第1の目的は、ダンパ及び/又はバネが揺動しないAFOを提供することにある。その目的は、AFOは、上記した連結機構を備えることによって達成される。AFOはワンウエイダンパでなく通常のダンパを有するものであっても第1の目的は達成される。本明細書が開示する技術の二次的な目的は、ダンパとバネを有効に作動させるAFOを提供することにある。二次的な目的は、ユーザがAFOを装着したときにリンク上端の移動範囲がジョイント16の回転軸線よりも後方に存在することによって達成される。
【0040】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0041】
10、110:短下肢装具(AFO)
12:下腿部材
14:足部材
16:ジョイント
20:連結機構
22:ガイドブロック
22a:ガイド溝
28:リンク
30、130:リニアガイド
40、140:ワンウエイダンパ
41:粘性材
42:ケース
44、144:ピストンロッド
50、150a、150b:ワンウエイバネユニット
54:スプリング
56:ストッパ
58:ピストンロッド
58a:リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの下腿に装着される下腿部材と、
ユーザの足に装着される足部材であり、下腿部材に揺動可能に連結されている足部材と、
可動端が動くことによって粘性抵抗を付与するダンパであり、下腿部材に固定されているとともに、下腿部材がユーザに装着されたときに可動端が下腿の長手方向に沿って動くダンパと、
足部材をダンパの可動端に連結する連結機構であり、足部材の揺動に連動してダンパの可動端を動かす連結機構を備えていることを特徴とする短下肢装具。
【請求項2】
前記連結機構は、
ダンパの可動端に取り付けられており、短下肢装具がユーザに装着されたときにユーザの前後方向に伸びるガイド溝又はガイドレールを有するガイドブロックと、
下端が足部材に固定されており、上端がガイド溝又はガイドレールにスライド可能に係合しているリンクと、
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の短下肢装具。
【請求項3】
下腿部材とガイドブロックを連結するバネユニットであり、前記ダンパと並列に連結されているバネユニットを有しており、
前記ダンパは、足部材の中立位置から底屈方向への揺動に連動してガイドブロックが一方向に移動する際に粘性抵抗を付与し、足部材の背屈方向への揺動に連動してガイドブロックが逆方向に移動する際には粘性抵抗を付与しないワンウエイダンパであり、
前記バネユニットは、足部材の中立位置から底屈方向への揺動に連動してガイドブロックが一方向に移動する際にはバネ力を付与せず、足部材の中立位置から背屈方向への揺動に連動してガイドブロックが逆方向に移動する際にバネ力を付与することを特徴とする請求項2に記載の短下肢装具。
【請求項4】
前記連結機構は、リンク上端のスライド範囲が、足部材の回転軸線よりも後方となるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の短下肢装具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−98014(P2011−98014A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253604(P2009−253604)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】