説明

短鎖ペプチド

【課題】細菌に対して増殖抑制活性を有する短鎖ペプチドを提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列からなるヒト由来のポリペプチドもしくはタンパク質の、特定部分12〜21アミノ酸残基からなる短鎖ペプチド、または前記短鎖ペプチドの中から選択されるいずれか一つの短鎖ペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細菌に対して増殖抑制活性を有する短鎖ペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔ケア用品、衛生保健用品、食料品、飲料品、化粧品類などに、抗菌成分として添加し得る短鎖ペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
人は、加齢とともに発音、咀嚼、嚥下、唾液分泌などの口腔機能が低下する。なかでも唾液分泌が低下すると、歯周病や口内炎、齲蝕(虫歯)、口臭といった口腔疾患が増大する。これは、一個人のみならず高齢化社会を迎える日本全体にとっても大きな問題である。
【0003】
これまで、口腔ケア用品などに添加される抗菌成分や殺菌成分としては抗生物質やエタノールなどの有機溶媒が使われてきた。しかしながら、抗生物質には、長期間の使用によって細菌が耐性を示すようになったり、エタノールなどの有機溶剤には、体質的に受け付けられない方や幼児などに使用することができなかったりする問題があった。
【0004】
このような状況下、非特許文献1には、本明細書に記載した配列表の配列番号15(Gly-Pro-Pro-Pro-Gln-Gly-Gly-Arg-Pro-Gln)で表されるアミノ酸配列からなる短鎖ペプチドがPropionibacterium acnes(P. acnes)に対して増殖抑制活性を有する旨記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chun-Ming Huang, Justin W. Torpey, Yu-Tseung Liu, Yun-Ru Chen, Katherine E. Williams, Elizabeth A. Komives, and Richard L. Gallo1, “A Peptide with a ProGln C Terminus in the Human Saliva Peptidome Exerts Bactericidal Activity against Propionibacterium acnes▽”, Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 2008, 52, 5, p.1834-1836
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1の短鎖ペプチド(配列表の配列番号15(Gly-Pro-Pro-Pro-Gln-Gly-Gly-Arg-Pro-Gln)の短鎖ペプチド)がP. acnes以外の細菌に対して増殖抑制活性を有するか否か明らかでなく、また仮に増殖抑制活性を有していたとしてもその活性が十分でない場合もある。本発明者らが検討したところ、特に、歯周病菌として有名なPorphyromonas gingivalis(P. gingivalis)に対しては増殖抑制活性を有していないことが分かった。
【0007】
抗生物質の場合もそうであるが、細菌の種や菌株ごとに効果の有無や多少が必ず生じる。1つの短鎖ペプチドが幅広い抗菌スペクトルを示すことはない。そのため、抗菌成分や殺菌成分として幅広い抗菌作用を得るためには、細菌に対して増殖抑制活性を有する短鎖ペプチドをなるべく多く得る必要がある。
【0008】
本発明は前記状況に鑑みてなされたものであり、細菌に対して増殖抑制活性を有する短鎖ペプチドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決した本発明は以下のようなものである。
〔1〕 以下の(a)または(b)の短鎖ペプチド。
(a)列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列のうちの28番目から41番目までのアミノ酸残基、42番目から54番目までのアミノ酸残基、55番目から67番目までのアミノ酸残基、68番目から79番目までのアミノ酸残基、24番目から41番目までのアミノ酸残基、42番目から58番目までのアミノ酸残基、59番目から67番目までのアミノ酸残基または59番目から79番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチド
(b)前記(a)の中から選択されるいずれか一つの短鎖ペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細菌に対して増殖抑制活性を有する短鎖ペプチド
【0010】
〔2〕 以下の(c)または(d)の短鎖ペプチド。
(c)配列表の配列番号4で表されるアミノ酸配列のうちの20番目から43番目までのアミノ酸残基、31番目から43番目までのアミノ酸残基、31番目から44番目までのアミノ酸残基または24番目から31番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチド
(d)前記(c)の中から選択されるいずれか一つの短鎖ペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細菌に対して増殖抑制活性を有する短鎖ペプチド
【0011】
〔3〕 以下の(e)または(f)の短鎖ペプチド。
(e)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列のうちの148番目から157番目までのアミノ酸残基、98番目から109番目までのアミノ酸残基または115番目から126番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチド
(f)前記(e)の中から選択されるいずれか一つの短鎖ペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細菌に対して増殖抑制活性を有する短鎖ペプチド
【0012】
〔4〕 以下の(g)または(h)の短鎖ペプチド。
(g)配列表の配列番号12で表されるアミノ酸配列のうちの70番目から79番目までのアミノ酸残基または80番目から90番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチド
(h)前記(g)の中から選択されるいずれか一つの短鎖ペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細菌に対して増殖抑制活性を有する短鎖ペプチド
【0013】
〔5〕 以下の(i)または(j)の短鎖ペプチド。
(i)配列表の配列番号14で表されるアミノ酸配列のうちの234番目から247番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチド
(j)前記(i)の中から選択されるいずれか一つの短鎖ペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細菌に対して増殖抑制活性を有する短鎖ペプチド
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、細菌に対して増殖抑制活性を有する短鎖ペプチドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】No.1〜8、13〜18の各短鎖ペプチドのC. albicans NBRC1385に対する増殖抑制活性を示すグラフである。なお、縦軸はRLU[%]を示す。
【図2】No.1〜8、13〜18の各短鎖ペプチドのP. acnes JCM6425に対する増殖抑制活性を示すグラフである。なお、縦軸はRLU[%]を示す。
【図3】No.1〜8、13〜18の各短鎖ペプチドのP. acnes JCM6473に対する増殖抑制活性を示すグラフである。なお、縦軸はRLU[%]を示す。
【図4】No.1〜8、13〜18の各短鎖ペプチドのS. mutans JCM5705Tに対する増殖抑制活性を示すグラフである。なお、縦軸はRLU[%]を示す。
【図5】No.1〜8、13〜18の各短鎖ペプチドのP. gingivalis JCM8525に対する増殖抑制活性を示すグラフである。なお、縦軸はRLU[%]を示す。
【図6】No.1〜4の各短鎖ペプチドのF. nucleatum ATCC 25586を2晩培養した場合についての増殖抑制活性を示すグラフである。なお、横軸は短鎖ペプチドの希釈倍率を示し、縦軸は濁度(OD650)を示す。
【図7】No.1〜4の各短鎖ペプチドのF. nucleatum ATCC 25586を2晩培養した場合についての増殖抑制活性を示すグラフである。なお、横軸は短鎖ペプチドの希釈倍率を示し、縦軸は濁度(OD650)を示す。
【図8】No.1〜4の各短鎖ペプチドのP. gingivalis ATCC 33277を1晩培養した場合についての増殖抑制活性を示すグラフである。なお、横軸は短鎖ペプチドの希釈倍率を示し、縦軸は濁度(OD650)を示す。
【図9】No.1〜4の各短鎖ペプチドのA. actinomycetemcomitans 310aを1晩培養した場合についての増殖抑制活性を示すグラフである。なお、横軸は短鎖ペプチドの希釈倍率を示し、縦軸は濁度(OD650)を示す。
【図10】No.1〜8、13、14、16、18の各短鎖ペプチドのサイトカイン産生抑制活性の有無を示すグラフである。なお、縦軸はIL−6濃度の相対値[%]を示す。
【図11】No.9〜12の短鎖ペプチドのC. albicans NBRC1385に対する増殖抑制活性を示すグラフである。なお、縦軸はRLU[%]を示す。
【図12】No.9の短鎖ペプチドのP. gingivalis JCM8525に対する増殖抑制活性を示すグラフである。なお、横軸は濃度[μM]を示し、縦軸はRLU[%]を示す。
【図13】No.10の短鎖ペプチドのP. gingivalis JCM8525に対する増殖抑制活性を示すグラフである。なお、横軸は濃度[μM]を示し、縦軸はRLU[%]を示す。
【図14】No.11の短鎖ペプチドのP. gingivalis JCM8525に対する増殖抑制活性を示すグラフである。なお、横軸は濃度[μM]を示し、縦軸はRLU[%]を示す。
【図15】No.12の短鎖ペプチドのP. gingivalis JCM8525に対する増殖抑制活性を示すグラフである。なお、横軸は濃度[μM]を示し、縦軸はRLU[%]を示す。
【図16】4mMのリン酸緩衝液中でのNo.9〜12の短鎖ペプチドの細胞膜分極作用を示すグラフである。なお、縦軸は蛍光強度(a. u.)を示す。
【図17】グッド緩衝液中でのNo.9〜12の短鎖ペプチドの細胞膜分極作用を示すグラフである。なお、縦軸は蛍光強度(a. u.)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明では、ペプチド合成により特定のアミノ酸配列を有する短鎖ペプチドを得るためにペプチド合成装置を用い、短鎖ペプチドの奏する効果を評価するために各種の微生物やヒトの培養細胞を用いるものであるが、短鎖ペプチドの合成、各種微生物およびヒトの培養細胞の取り扱いや種々の必要な操作について、発明を実施するための形態および実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いることができる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いることができる。また、当業者であれば本明細書の記載および前記した標準的なプロトコール集などの記載から容易に本発明を再現することができる。
以下、本発明について、幾つかの実施形態を示して詳細に説明する。
【0017】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る短鎖ペプチドは、配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列のうちの28番目から41番目までのアミノ酸残基(Gly-Pro-Tyr-Pro-Pro-Gly-Pro-Leu-Ala-Pro-Pro-Gln-Pro-Phe)、42番目から54番目までのアミノ酸残基(Gly-Pro-Gly-Phe-Val-Pro-Pro-Pro-Pro-Pro-Pro-Pro-Tyr)、55番目から67番目までのアミノ酸残基(Gly-Pro-Gly-Arg-Ile-Pro-Pro-Pro-Pro-Pro-Ala-Pro-Tyr)、68番目から79番目までのアミノ酸残基(Gly-Pro-Gly-Ile-Phe-Pro-Pro-Pro-Pro-Pro-Gln-Pro)、24番目から41番目までのアミノ酸残基(Arg-Gly-Pro-Arg-Gly-Pro-Tyr-Pro-Pro-Gly-Pro-Leu-Ala-Pro-Pro-Gln-Pro-Phe)、42番目から58番目までのアミノ酸残基(Gly-Pro-Gly-Phe-Val-Pro-Pro-Pro-Pro-Pro-Pro-Pro-Tyr-Gly-Pro-Gly-Arg)、59番目から67番目までのアミノ酸残基(Ile-Pro-Pro-Pro-Pro-Pro-Ala-Pro-Tyr)または59番目から79番目までのアミノ酸残基(Ile-Pro-Pro-Pro-Pro-Pro-Ala-Pro-Tyr-Gly-Pro-Gly-Ile-Phe-Pro-Pro-Pro-Pro-Pro-Gln-Pro)からなる。
【0018】
配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、ヒト唾液高プロリンタンパク質P−Bとして知られている。具体的には、Isemura, S., Saitoh, E., and Sanada, K., “Isolation and amino acid sequence of proline-rich peptides of human whole saliva”, J. Biochem. 86, p. 79-86 (1979)や、Isemura, S. and Saitoh, E., “Molecular cloning and sequence analysis of cDNA coding for the precursor of the human salivary proline-rich peptide P-B1”, J. Biochem., 115, p.1101-1106 (1994)や、Isemura, S., “Nucleotide sequence of gene PBII encoding salivary proline-rich protein P-B”, J. Biochem., 127, p.393-398 (2000)にて報告され、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のGenBankにおいてアクセッション番号D29833で登録されている。本明細書に記載した配列表の配列番号1は、そのcDNA(complementary DNA)配列を表したものであり、配列番号2は、その翻訳産物を表したものである。
【0019】
第1実施形態において前記選択肢の中から選択される各短鎖ペプチドは、細菌に対して増殖抑制活性を有している。これは、K. A. Brogdeng, “Antimicrobial peptides: Pore formers or metabolic inhibitors in bacteria?”, Nature Rev. Microbiol., 3: p.238-249 (2005)や、松橋勝巳:抗菌性ペプチドによる先天性免疫機構:蛋白質・核酸・酵素46巻14号や、p.2060-2065、L. Otvos, Jr., “The short proline-rich antibacterial peptide family”, CMLS, Cell. Mol. Life Sci., 59, p.1138-1150 (2002)などで示唆されているように、比較的短いアミノ酸配列からなることと、プロリンなどの疎水性のアミノ酸が複数連続して結合していることから、短鎖ペプチドが細菌の細胞質内に入り込み易かったり、細胞膜に孔を開けたりし易いことによるものと考えられる。
【0020】
つまり、これらの短鎖ペプチド中の親水性部分が、細菌の細胞膜の脂質二重層における外側の親水部と接触した後、短鎖ペプチド中において複数連続して結合した疎水性のアミノ酸(例えば、連続して結合したプロリン)が脂質二重層の疎水部に入り込み、さらにこれが反転するようにして細胞膜の内側の親水部に短鎖ペプチド中の親水性部分が表れ、そのまま細菌の細胞質内に侵入すると考えられる。細菌の細胞内に侵入した短鎖ペプチドは、菌体内の分子シャペロンや酵素と結合して菌体内の代謝系を撹乱し、その結果、細菌に対する増殖抑制活性を有すると考えられる。また、細菌の細胞膜と接触した短鎖ペプチドは、親水性部分を向き合わせるようにして複数集まり、細胞膜に樽孔状またはドーナツ状の孔を開けたり、多くの短鎖ペプチドが細胞膜に取り込まれると、親水性のアミノ酸が外側に配位されて界面活性作用を発揮し、細胞膜を破壊したりして、細胞内容物が外部に流出することにより、細菌に対する増殖抑制活性を有すると考えられる。細菌に対する増殖抑制活性は、例えば、33.4μMから1.2mMの範囲で増殖抑制活性を得ることができる。また、0.19mg/mL、0.38mg/mL、0.75mg/mL、1.5mg/mLなどでも得ることができる。
【0021】
前記した作用によって奏される増殖抑制活性は、グラム陰性菌、グラム陽性菌、真菌などに対して認められる。
このようなグラム陰性菌としては、例えば、Fusobacterium属、Porphyromonas属、Aggregatibacter属、Escherichia属などが挙げられる。
Fusobacterium属としては、例えば、Fusobacterium nucleatum(以下、F. nucleatum)が挙げられ、その一例としてF. nucleatum ATCC 25586が挙げられる。
Porphyromonas属としては、例えば、Porphyromonas gingivalis(以下、P. gingivalis)が挙げられ、その一例として、P. gingivalis JCM8525、P. gingivalis ATCC 33277などが挙げられる。
Aggregatibacter属としては、例えば、Aggregatibacter actinomycetemcomitans(以下、A. actinomycetemcomitans)が挙げられ、その一例として、A. actinomycetemcomitans 310aが挙げられる。
Escherichia属としては、例えば、Escherichia coli(以下、E. coli)が挙げられ、その一例として、E. coli K-12が挙げられる。
また、このようなグラム陽性菌としては、例えば、Propionibacterium属、Streptococcus属などが挙げられる。
Propionibacterium属としては、例えば、Propionibacterium acnes(以下、P. acnes)が挙げられ、その一例として、P. acnes JCM6425、P. acnes JCM6473などが挙げられる。
Streptococcus属としては、例えば、Streptococcus mutans(以下、S. mutans)が挙げられ、その一例として、S. mutans JCM5705Tが挙げられる。
さらに、このような真菌としては、Candida属が挙げられる。具体的にはCandida albicans(C. albicans)が挙げられ、より具体的にはC. albicans NBRC1385が挙げられる。
なお、第1実施形態において前記選択肢の中から選択される短鎖ペプチドはこれら以外の細菌に対しても増殖抑制活性を有し得ることはいうまでもない。
【0022】
また、配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列のうちの68番目から79番目までのアミノ酸残基、42番目から58番目までのアミノ酸残基または59番目から79番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチドについては、インターロイキン−6(IL−6)やインターロイキン−8(IL−8)などのサイトカインの産生を抑制する活性(サイトカイン産生抑制活性)を有する。サイトカインの産生を抑制すると、炎症の抑制を図ることができる。よって、配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列のうちの68番目から79番目までのアミノ酸残基、42番目から58番目までのアミノ酸残基または59番目から79番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチドは、かかる活性を得ることを目的として、サイトカインの産生を抑制するために使用することができる。
サイトカイン産生抑制活性は、前記したようにして細胞質内に入り込んだ短鎖ペプチドが、サイトカインの産生に至るまでのいずれかの段階で細胞内伝達系を阻害するために得られると考えられる。
【0023】
他方、配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列のうちの28番目から41番目までのアミノ酸残基または42番目から54番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチドについては、前記したサイトカインの産生を促進させる活性(サイトカイン産生促進活性)を有する。サイトカインの産生を促進させると、創傷の治癒や免疫応答の促進を図ることができる。よって、配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列のうちの28番目から41番目までのアミノ酸残基または42番目から54番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチドは、かかる活性を得ることを目的として、サイトカインの産生を促進させるために使用することができる。
サイトカイン産生促進活性は、前記したようにして細胞質内に入り込んだ短鎖ペプチドが、サイトカインの産生に至るまでのいずれかの段階で細胞内伝達系を亢進するために得られると考えられる。
【0024】
サイトカイン産生抑制活性またはサイトカイン産生促進活性は、例えば、0.075mM、0.084mM、0.094mM、0.1mM、0.11mM、0.12mM0.13mM、0.16mM、0.17mMなどの濃度で得ることができる。
【0025】
配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列のうちの28番目から41番目までのアミノ酸残基、42番目から54番目までのアミノ酸残基、55番目から67番目までのアミノ酸残基、68番目から79番目までのアミノ酸残基、24番目から41番目までのアミノ酸残基、42番目から58番目までのアミノ酸残基、59番目から67番目までのアミノ酸残基または59番目から79番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチドの細菌に対する増殖抑制活性は、例えば、ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応による発光強度を測定することによって確認することができる。ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応は、下記のような反応(1)によって発せられる光の強度を測定して細菌の増殖度を測定するものである。つまり、生きている細菌のATP量を光の強度に変換して測定するものである。
【0026】
【化1】

【0027】
サイトカイン産生抑制活性およびサイトカイン産生促進活性は、LPS(Lipopolysaccharide)にて任意の培養細胞、好ましくはヒト培養細胞、より好ましくはヒト大動脈内皮細胞(HAEC;Human Aortic Endothekiak Cells)を刺激するとともに、配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列のうちの28番目から41番目までのアミノ酸残基、42番目から54番目までのアミノ酸残基、55番目から67番目までのアミノ酸残基、68番目から79番目までのアミノ酸残基、24番目から41番目までのアミノ酸残基、42番目から58番目までのアミノ酸残基、59番目から67番目までのアミノ酸残基または59番目から79番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチドを添加し、産生された各種サイトカインを対象としたELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)を行うことで確認できる。なお、培養細胞の培養は、培養細胞に応じた適宜の手法により行うことができ、ELISAで用いる一次抗体、酵素標識二次抗体、基質、測定装置は市販のものを用いることができる。
【0028】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る短鎖ペプチドは、配列表の配列番号4で表されるアミノ酸配列のうちの20番目から43番目までのアミノ酸残基(Asp-Ser-His-Ala-Lys-Arg-His-His-Gly-Tyr-Lys-Arg-Lys-Phe-His-Glu-Lys-His-His-Ser-His-Arg-Gly-Tyr)、31番目から43番目までのアミノ酸残基(Arg-Lys-Phe-His-Glu-Lys-His-His-Ser-His-Arg-Gly-Tyr)、31番目から44番目までのアミノ酸残基(Arg-Lys-Phe-His-Glu-Lys-His-His-Ser-His-Arg-Gly-Tyr-Arg)または24番目から31番目までのアミノ酸残基(Lys-Arg-His-His-Gly-Tyr-Lys-Arg)からなる。
【0029】
配列表の配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、ヒト唾液に含まれるヒスタチン3(histatin 3(HTN3))として知られている。具体的には、Sabatini, L. M., and Azen, E. A., “Histatins, a family of salivary histidine-rich proteins, are encoded by at least two loci (HIS1 and HIS2)”, Biochem. Biophys. Res. Commun. 160 (2), p.495-502 (1989)や、vanderSpek, J. C., Offner, G. D., Troxler, R. F. and Oppenheim, F. G., “Molecular cloning of human submandibular histatins”, Arch. Oral Biol. 35 (2), p.137-143 (1990)や、vanderSpek, J. C., Wyandt, H. E., Skare, J. C., Milunsky, A., Oppenheim, F. G., and Troxler, R. F., “Localization of the genes for histatins to human chromosome 4q13 and tissue distribution of the mRNAs”, Am. J. Hum. Genet. 45 (3), p.381-387 (1989)や、Troxler, R. F., Offner, G. D., Xu, T., Vanderspek, J. C. and Oppenheim, F. G., “Structural relationship between human salivary histatins”, J. Dent. Res. 69 (1), p.2-6 (1990)などで報告され、NCBIのGenBankにおいてアクセッション番号NM_000200で登録されている。本明細書に記載した配列表の配列番号3は、そのcDNA配列を表したものであり、配列番号4は、その翻訳産物を表したものである。
【0030】
第2実施形態において前記選択肢の中から選択される短鎖ペプチドも第1実施形態で説明した細菌のうちの少なくとも1つに対して増殖抑制活性を有する。これは、第1実施形態で説明したのと同様の理由によって得られると考えられる。細菌に対する増殖抑制活性は、例えば、33.4μMから1.2mMの範囲で増殖抑制活性を得ることができる。また、0.19mg/mL、0.38mg/mL、0.75mg/mL、1.5mg/mLなどでも得ることができる。
【0031】
これらの短鎖ペプチドの細菌に対する増殖抑制活性は、第1実施形態で説明したのと同様、ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応による発光強度を測定することによって確認することができる。
【0032】
また、細胞膜に孔が開いたり、細胞膜が破壊されたりしたか否かは、diSC3(5)(3, 3' - Dipropylthiadicarbocyanine iodide)を用いた蛍光強度の測定により確認することができる。diSC3(5)は、蛍光染料である。従って、一旦、細菌にdiSC3(5)を取り込ませ、測定対象となる物質を添加して蛍光強度が増加するか否かを測定することにより、細胞膜の破壊が起きたか否かを確認することができる。つまり、測定対象となる物質の添加によって細胞膜が破壊されると、菌体内に取り込まれたdiSC3(5)がそこから菌体外に放出されるので、その蛍光強度を測定することで細胞膜に孔が開いたか否かの確認をすることができる。
【0033】
第2実施形態において前記選択肢の中から選択される各短鎖ペプチドは、Imatani, T., Kato, T., Minaguchi, K., and Okuda, K., “Histatin 5 inhibits inflammatory cytokine induction from human gingival fibroblasts by Porphyromonas gingivalis”, Oral Microbiol. Immunol., 15 p.378-382 (2000)によれば、さらに、サイトカイン産生抑制活性を有することが示唆される。
【0034】
[第3実施形態]
第3実施形態に係る短鎖ペプチドは、配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列のうちの148番目から157番目までのアミノ酸残基(Gly-Pro-Pro-Pro-Gln-Gly-Gly-Arg-Pro-Gln)、98番目から109番目までのアミノ酸残基(Gly-Gly-His-Pro-Pro-Pro-Pro-Gln-Gly-Arg-Pro-Gln)または115番目から126番目までのアミノ酸残基(Gly-Gly-His-Pro-Arg-Pro-Pro-Arg-Gly-Arg-Pro-Gln)からなる。
【0035】
配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、ヒト高プロリンタンパク質HaeIIIサブファミリー1(PRH1)として知られている。具体的には、Maeda, N., Kim, H. S., Azen, E. A. and Smithies, O., “Differential RNA splicing and post-translational cleavages in the human salivary proline-rich protein gene system”, J. Biol. Chem., 260 (20), p.11123-11130 (1985)にて詳細に報告され、NCBIのGenBankにおいてアクセッション番号NM_006250で登録されている。本明細書に記載した配列表の配列番号5は、そのcDNA配列を表したものであり、配列番号6は、その翻訳産物を表したものである。
【0036】
なお、第3実施形態において前記選択肢の中から選択されるいずれの短鎖ペプチドも、ヒト高プロリンタンパク質HaeIIIサブファミリー2(PRH2)のトランスクリプトバリアント(転写産物変異体)1およびトランスクリプトバリアント2の翻訳産物における該当部分とアミノ酸配列が共通する。
【0037】
ここで、ヒト高プロリンタンパク質HaeIIIサブファミリー2(PRH2)のトランスクリプトバリアント1は、Wong, R. S., Hofmann, T. and Bennick, A., “The complete primary structure of a proline-rich phosphoprotein from human saliva”, J. Biol. Chem., 254 (11), p.4800-4808 (1979)や、Isemura, S., Saitoh, E. and Sanada,K., “The amino acid sequence of a salivary proline-rich peptide, P-C, and its relation to a salivary proline-rich phosphoprotein, protein C”, J. Biochem., 87 (4), p.1071-1077 (1980)や、Maeda, N., Kim, H. S., Azen, E. A. and Smithies, O., “Differential RNA splicing and post-translational cleavages in the human salivary proline-rich protein gene system”, J. Biol. Chem. 260 (20), p.11123-11130 (1985)などにて報告され、NCBIのGenBankにおいてアクセッション番号NM_005042で登録されている。本明細書に記載した配列表の配列番号7は、そのcDNA配列を表したものであり、配列番号8は、その翻訳産物を表したものである。
【0038】
また、ヒト高プロリンタンパク質HaeIIIサブファミリー2(PRH2)のトランスクリプトバリアント2も、Wong, R. S., Hofmann, T. and Bennick, A., “The complete primary structure of a proline-rich phosphoprotein from human saliva”, J. Biol. Chem., 254 (11), p.4800-4808 (1979)や、Isemura, S., Saitoh, E. and Sanada,K., “The amino acid sequence of a salivary proline-rich peptide, P-C, and its relation to a salivary proline-rich phosphoprotein, protein C”, J. Biochem., 87 (4), p.1071-1077 (1980)や、Maeda, N., Kim, H. S., Azen, E. A. and Smithies, O., “Differential RNA splicing and post-translational cleavages in the human salivary proline-rich protein gene system”, J. Biol. Chem. 260 (20), p.11123-11130 (1985)などにて報告され、NCBIのGenBankにおいてアクセッション番号NM_001110213で登録されている。本明細書に記載した配列表の配列番号9は、そのcDNA配列を表したものであり、配列番号10は、その翻訳産物を表したものである。
【0039】
配列表の配列番号8および配列番号10で表されるポリペプチドは、配列表の配列番号7および配列番号9で表されるそれぞれのcDNA配列をみて分かるように、異なる転写産物から翻訳されたものであるが、同一のアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
そして、配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列のうちの148番目から157番目までのアミノ酸残基、98番目から109番目までのアミノ酸残基または115番目から126番目までのアミノ酸残基と、配列表の配列番号8および配列番号10で表されるアミノ酸配列のうちの148番目から157番目までのアミノ酸残基、98番目から109番目までのアミノ酸残基または115番目から126番目までのアミノ酸残基とは、前記したように同一のアミノ酸配列からなる。
そのため、配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列のうちの148番目から157番目までのアミノ酸残基、98番目から109番目までのアミノ酸残基または115番目から126番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチドは、配列番号8または配列番号10で表されるポリペプチドの一部であるともいえる。
【0040】
配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列のうちの148番目から157番目までのアミノ酸残基、98番目から109番目までのアミノ酸残基または115番目から126番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチドも第1実施形態で説明した細菌のうちの少なくとも1つに対して増殖抑制活性を有する。これは、第1実施形態で説明したのと同様の理由によって得られると考えられる。細菌に対する増殖抑制活性は、例えば、33.4μMから1.2mMの範囲で増殖抑制活性を得ることができる。また、0.19mg/mL、0.38mg/mL、0.75mg/mL、1.5mg/mLなどでも得ることができる。
【0041】
これらの短鎖ペプチドの細菌に対する増殖抑制活性は、第1実施形態で説明したのと同様、ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応による発光強度を測定することによって確認することができる。
【0042】
第3実施形態で示される、配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列のうちの148番目から157番目までのアミノ酸残基または98番目から109番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチドについては、IL−6やIL−8などのサイトカインの産生を抑制する活性(サイトカイン産生抑制活性)を有する。サイトカインの産生を抑制すると、炎症の抑制を図ることができる。よって、配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列のうちの148番目から157番目までのアミノ酸残基または98番目から109番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチドは、かかる活性を得ることを目的として、サイトカインの産生を抑制するために使用することができる。サイトカイン産生抑制活性は、例えば、0.075mM、0.084mM、0.094mM、0.1mM、0.11mM、0.12mM0.13mM、0.16mM、0.17mMなどの濃度で得ることができる。
【0043】
これらの短鎖ペプチドのサイトカイン産生抑制活性は、第1実施形態で説明したのと同様、LPSで培養細胞を刺激するとともにこれらの短鎖ペプチドを添加し、産生された各種サイトカインを対象としたELISAを行うことで確認することができる。
【0044】
[第4実施形態]
第4実施形態に係る短鎖ペプチドは、配列表の配列番号12で表されるアミノ酸配列のうちの70番目から79番目までのアミノ酸残基(Gly-Pro-Pro-Pro-Pro-Pro-Gly-Lys-Pro-Gln)または80番目から90番目までのアミノ酸残基(Gly-Pro-Pro-Pro-Gln-Gly-Gly-Asn-Lys-Pro-Gln)からなる。
【0045】
配列表の配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、ヒト高プロリンタンパク質BstNI サブファミリー2(PRB2)として知られている。具体的には、Isemura, S., Saitoh, E. and Sanada, K., “Fractionation and characterization of basic proline-rich peptides of human parotid saliva and the amino acid sequence of proline-rich peptide P-E”, J. Biochem., 91 (6), p.2067-2075 (1982)や、Saitoh, E., Isemura, S., and Sanada, K., “Complete amino acid sequence of a basic praline-rich peptide of P-F, from human parotid saliva”, J. Biochem., 93, p.883-888 (1983)や、Maeda, N., Kim, H. S., Azen, E. A. and Smithies, O., “Differential RNA splicing and post-translational cleavages in the human salivary proline-rich protein gene system”, J. Biol. Chem., 260 (20), p.11123-11130 (1985)などで報告され、NCBIのGenBankにおいてアクセッション番号NM_006248で登録されている。本明細書に記載した配列表の配列番号11は、そのcDNA配列を表したものであり、配列番号12は、その翻訳産物を表したものである。
【0046】
なお、同一のポリペプチド(翻訳産物)中において、70番目から79番目までのアミノ酸配列と全く同じアミノ酸配列が、131番目から140番目、193番目から202番目、255番目から264番目および317番目から326番目に存在する。
また、同一のポリペプチド(翻訳産物)中において、80番目から90番目までのアミノ酸配列と全く同じアミノ酸配列が、141番目から151番目、203番目から213番目、265番目から275番目および327番目から337番目に存在する。
【0047】
第4実施形態において前記選択肢の中から選択される短鎖ペプチドも第1実施形態で説明した細菌のうちの少なくとも1つに対して増殖抑制活性を有する。これは、第1実施形態で説明したのと同様の理由によって得られると考えられる。細菌に対する増殖抑制活性は、例えば、33.4μMから1.2mMの範囲で増殖抑制活性を得ることができる。また、0.19mg/mL、0.38mg/mL、0.75mg/mL、1.5mg/mLなどでも得ることができる。
【0048】
これらの短鎖ペプチドの細菌に対する増殖抑制活性は、第1実施形態で説明したのと同様、ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応による発光強度を測定することによって確認することができる。
【0049】
また、配列表の配列番号12で表されるアミノ酸配列のうちの70番目から79番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチドについては、IL−6やIL−8などのサイトカインの産生を抑制する活性(サイトカイン産生抑制活性)を有する。サイトカインの産生を抑制すると、炎症の抑制を図ることができる。よって、配列表の配列番号12で表されるアミノ酸配列のうちの70番目から79番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチドは、かかる効果を得ることを目的として、サイトカインの産生を抑制するために使用することができる。サイトカイン産生抑制活性は、例えば、0.075mM、0.084mM、0.094mM、0.1mM、0.11mM、0.12mM0.13mM、0.16mM、0.17mMなどの濃度で得ることができる。
【0050】
この短鎖ペプチドによるサイトカイン産生抑制活性は、第1実施形態で説明したのと同様、LPSで培養細胞を刺激するとともにこれらの短鎖ペプチドを添加し、産生された各種サイトカインを対象としたELISAを行うことで確認することができる。
【0051】
[第5実施形態]
第5実施形態に係る短鎖ペプチドは、配列表の配列番号14で表されるアミノ酸配列のうちの234番目から247番目までのアミノ酸残基(Gly-Arg-Pro-Pro-Arg-Pro-Ala-Gln-Gly-Gln-Gln-Pro-Pro-Gln)からなる。
【0052】
配列表の配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、ヒト唾液高プロリンタンパク質前駆体(PRB4)として知られている。具体的には、Saitoh, E., Isemura, S., Sanada, K., “Complete amino acid sequence of a basic roline-rich peptide P-D, from human parotid saliva”, J. Biochem., 93, p.495-502 (1983)や、Maeda, N., Kim, H. S., Azen, E. A. and Smithies, O., “Differential RNA splicing and post-translational cleavages in the human salivary proline-rich protein gene system”, J. Biol. Chem., 260 (20), p.11123-11130 (1985)にて報告され、NCBIのGenBankにおいてアクセッション番号K03207で登録されている。本明細書に記載した配列表の配列番号13は、そのcDNA配列を表したものであり、配列番号14は、その翻訳産物を表したものである。
【0053】
配列表の配列番号14で表されるアミノ酸配列のうちの234番目から247番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチドも第1実施形態で説明した細菌のうちの少なくとも1つに対して増殖抑制活性を有する。これは、第1実施形態で説明したのと同様の理由によって得られると考えられる。細菌に対する増殖抑制活性は、例えば、33.4μMから1.2mMの範囲で増殖抑制活性を得ることができる。また、0.19mg/mL、0.38mg/mL、0.75mg/mL、1.5mg/mLなどでも得ることができる。
【0054】
この短鎖ペプチドの細菌に対する増殖抑制活性は、第1実施形態で説明したのと同様、ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応による発光強度を測定することによって確認することができる。
【0055】
また、配列表の配列番号14で表されるアミノ酸配列のうちの234番目から247番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチドは、IL−6やIL−8などのサイトカインの産生を抑制する活性(サイトカイン産生抑制活性)を有する。サイトカインの産生を抑制すると、炎症の抑制を図ることができる。よって、配列表の配列番号14で表されるアミノ酸配列のうちの234番目から247番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチドは、かかる効果を得ることを目的として、サイトカインの産生を抑制するために使用することができる。サイトカイン産生抑制活性またはサイトカイン産生促進活性は、例えば、0.075mM、0.084mM、0.094mM、0.1mM、0.11mM、0.12mM0.13mM、0.16mM、0.17mMなどの濃度で得ることができる。
【0056】
この短鎖ペプチドによるサイトカイン産生抑制活性は、第1実施形態で説明したのと同様、LPSで培養細胞を刺激するとともにこれらの短鎖ペプチドを添加し、産生された各種サイトカインを対象としたELISAを行うことで確認することができる。
【0057】
以上の第1実施形態から第5実施形態で説明した各短鎖ペプチドには、それぞれの実施形態で説明した短鎖ペプチドのアミノ酸残基のうちの1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細菌に対して増殖抑制活性を有する短鎖ペプチドと実質的に同一の増殖抑制活性を有する短鎖ペプチド、さらにはこれに加えてサイトカイン産生抑制活性またはサイトカイン産生促進活性を有する短鎖ペプチドも含まれる。
【0058】
以上に説明した第1実施形態から第5実施形態に係る短鎖ペプチドは、全て市販のペプチド合成装置にて製造することができる。そして、合成した短鎖ペプチドは、市販の高速液体クロマトグラフにて適宜の条件で精製することができる。本発明に係る短鎖ペプチドはいずれもアミノ酸残基の数が少ないので、容易かつ安価にこれを製造することができる。
【0059】
合成して精製された第1〜5実施形態に係る短鎖ペプチドは、口腔ケア用品、衛生保健用品、食料品、飲料品、化粧品類などに、抗菌成分として添加することができる。
【実施例】
【0060】
次に、本発明の効果を確認した実施例について説明する。
【0061】
表1に示すNo.1〜18で表される各アミノ酸配列からなる短鎖ペプチドをペプチド合成装置(Thuramed社製Tetras 106)を用いて合成し、カラム(Akzonobel社製Kromasil C18)を装着したHPLC(SHIMADZU社製10A system)にて下記精製条件で精製した。
なお、No.1〜8の短鎖ペプチドは、NCBIのGenBankにおいてアクセッション番号D29833で登録されているcDNA配列とその翻訳産物のアミノ酸配列に基づいて設計した。
No.9〜12の短鎖ペプチドは、NCBIのGenBankにおいてアクセッション番号NM_000200で登録されているcDNA配列とその翻訳産物のアミノ酸配列に基づいて設計した。
No.13〜15の短鎖ペプチドは、NCBIのGenBankにおいてアクセッション番号NM_006250、NM_005042またはNM_001110213で登録されているcDNA配列とその翻訳産物のアミノ酸配列に基づいて設計した。
No.16、17の短鎖ペプチドは、NCBIのGenBankにおいてアクセッション番号NM_006248で登録されているcDNA配列とその翻訳産物のアミノ酸配列に基づいて設計した。
No.18の短鎖ペプチドは、NCBIのGenBankにおいてアクセッション番号K03207で登録されているcDNA配列とその翻訳産物のアミノ酸配列に基づいて設計した。
なお、表1中の短鎖ペプチドのアミノ酸配列については、アミノ酸を三文字記号で表している。
【0062】
《精製条件》
・溶媒A:0.1質量%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル
・溶媒B:0.1質量%トリフルオロ酢酸を含む水
・流速:1.0mL/min
・波長:220nm
・インジェクション容量:20μL
・グラジエント条件:0.01min(溶媒A10%、溶媒B90%)→25.0min(溶媒A35%、溶媒B65%)→25.1min(溶媒A100%、溶媒B0%)→30min(STOP)
【0063】
【表1】

【0064】
〔1〕No.1〜8、13〜18の短鎖ペプチドの抗菌性
まず、表1に示すNo.1〜18の短鎖ペプチドのうち、No.1〜8、13〜18のアミノ酸配列からなる短鎖ペプチドについて、E. coli K-12、P. acnes JCM6425、P. acnes JCM6473、S. mutans JCM5705T、C. albicans NBRC1385、P. gingivalis JCM8525に対する抗菌スペクトルを作成した。抗菌スペクトルは次のようにして作成した。
【0065】
No.1〜8、13〜18の短鎖ペプチドは、濃度が1.2mMとなるように各菌体の培養培地に加えて培養した。
ここで、E. coli K-12は、LB培地(1L中、ポリペプトン10.0g、酵母エキス5.0g、塩化ナトリウム10.0g、pH7.5)を用いて好気条件下、37℃で4〜6時間静置培養した。
P. acnes JCM6425およびP. acnes JCM6473は、GAM培地(1L中、ペプトン10.0g、ダイズペプトン3.0g、プロテオーゼペプトン10.0g、消化血清末13.5g、酵母エキス5.0g、肉エキス2.2g、肝臓エキス1.2g、ブドウ糖3.0g、リン酸二水素カリウム2.5g、塩化ナトリウム3.0g、溶性デンプン5.0g、L−システイン塩酸塩0.3g、チオグリコール酸ナトリウム0.3g、pH7.1)を用いて好気条件下、37℃で24時間静置培養した。
S. mutans JCM5705Tは、BHI培地(1L中、仔ウシ脳浸出物12.5g、ウシ心筋浸出物5.0g、プロテオースペプトン10.0g、ブドウ糖2.0g、塩化ナトリウム5.0g、リン酸水素二ナトリウム2.5g、pH7.4)を用いて好気条件下、37℃で6〜12時間静置培養した。
C. albicans NBRC1385は、YM培地(1L中、ポリペプトン10.0g、酵母エキス3.0g、モルトエキス3.0g、pH6.2)を用いて好気条件下、25℃で24〜40時間静置培養した。
P. gingivalis JCM8525は、変法GAM培地(1L中、ペプトン5.0g、ダイズペプトン3.0g、プロテオーゼペプトン5.0g、消化血清末10.0g、酵母エキス2.5g、肉エキス2.2g、肝臓エキス1.2g、ブドウ糖0.5g、溶性デンプン5.0g、L−トリプトファン0.2g、L−システイン塩酸塩0.3g、チオグリコール酸ナトリウム0.3g、L−アルギニン1.0g、ビタミンK15mg、ヘミン10mg、リン酸二水素カリウム2.5g、塩化ナトリウム3.0g、pH7.3)を用いて嫌気条件下、37℃で48〜54時間静置培養した。
なお、各菌体について、培養培地に短鎖ペプチドを添加しないで同様の条件で静置培養し、これをコントロール(Control)とした。
【0066】
前記条件で培養した後、各培養培地から100μL分取して96ウェルマイクロプレートの各ウェルに加えた。次いで、添付の説明書に従い、ルシフェールATP消去試薬セット(Kikkoman社製)を用いて試料中に含まれる細胞外ATP(アデノシン三リン酸)を消去した。次いで、添付の説明書に従い、BacTiter‐GloTM(Promega社製)を用いて生菌数を測定した。なお、BacTiter‐GloTMは、生菌のATP量に基づいてルシフェリン・ルシフェラーゼ反応により生菌数を測定することのできるキットである。発光強度は、マイクロプレートリーダーARVOTM(PerkinElmer社製)を用いて測定した。
図1〜5に、No.1〜8、13〜18の各短鎖ペプチドを添加して培養した菌体について、コントロールのルシフェラーゼ活性を100%とした場合の相対発光量(RLU[%])をグラフにして示した。なお、いずれの図においても縦軸はRLU[%]を示す。
【0067】
図1に示すとおり、C. albicans NBRC1385については、No.1〜8、13、15、18の短鎖ペプチドに増殖抑制活性が認められた。
また、図2に示すとおり、P. acnes JCM6425については、No.7の短鎖ペプチドに増殖抑制活性が認められた。
図3に示すとおり、P. acnes JCM6473については、No.1〜7、13〜18の短鎖ペプチドに増殖抑制活性が認められた。
図4に示すとおり、S. mutans JCM5705Tについては、No.1〜8、13〜18のすべての短鎖ペプチドに増殖抑制活性が認められた。
図5に示すとおり、P. gingivalis JCM8525については、No.5、15の短鎖ペプチドに増殖抑制活性が認められた。
【0068】
〔2〕No.1〜4の短鎖ペプチドの抗菌性
ここでは、F. nucleatum ATCC 25586と、P. gingivalis ATCC 33277と、A. actinomycetemcomitans 310aを用いてNo.1〜4の短鎖ペプチドの抗菌性について調べた。
No.1〜4の短鎖ペプチドの濃度が1.5mg/mLとなるように各菌体の培養培地を調製した。そして、これを用いて1/2倍希釈(0.75mg/mL)、1/4倍希釈(0.38mg/mL)および1/8倍希釈(0.19mg/mL)した培養培地を調製するとともに、短鎖ペプチドを添加しない0mg/mL(便宜上、0倍希釈という。)の培養培地も調製した。さらに、溶媒の影響を確認するため、短鎖ペプチドの入っていない溶媒を前記希釈倍率に応じて添加したコントロール(Control)に係る培養培地も調製した。調製した各培養培地を用いて各菌体を培養した。
【0069】
なお、F. nucleatum ATCC 25586は、Todd Hewitt培地(1L中、牛心臓抽出物500g、ペプトン20g、ブドウ糖2g、塩化ナトリウム2g)を用いて嫌気条件下、37℃で2晩(41時間)または3晩(65時間)培養した。
P. gingivalis ATCC 33277は、ヘミンおよびビタミンK3を添加したTrypticase soy broth培地(1L中、カゼイン17g、酵素分解大豆エキス3g、ブドウ糖2.5g、塩化ナトリウム5g、ビタミンK15mg、ヘミン10mg、pH7.4))を用いて嫌気条件下、37℃で1晩(17時間)培養した。
A. actinomycetemcomitans 310aは、酵母エキス添加Todd Hewitt培地(1L中、牛心臓抽出物500g、ペプトン20g、ブドウ糖2g、塩化ナトリウム2g、酵母エキス10g)を用いて嫌気条件下、37℃で1晩(17時間)培養した。
【0070】
前記条件で培養した後、マイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス社製SpectraMax M5を用いて各培養培地の濁度(OD650)を測定した。
図6〜9に、No.1〜4の各短鎖ペプチドの希釈倍率と濁度(OD650)を示す。なお。いずれの図も横軸は短鎖ペプチドの希釈倍率を示し、縦軸は濁度を示す。
【0071】
図6は、F. nucleatum ATCC 25586を2晩培養した場合についての増殖抑制活性を示している。図6に示すとおり、No.1〜4のいずれの短鎖ペプチドについても、短鎖ペプチドの添加濃度が高くなるにつれて細菌の増殖が抑制され、濁度が低下した。つまり、増殖抑制活性が認められた。特に、No.4の短鎖ペプチドについては、低い添加濃度から高い増殖抑制活性が認められた。
図7は、F. nucleatum ATCC 25586を2晩培養した場合についての増殖抑制活性を示している。図7に示すとおり、No.4の短鎖ペプチドについては、0.38〜0.75mg/mLの間で濁度が大きく低下した。つまり、高い増殖抑制活性が認められた。No.1〜3の短鎖ペプチドも1.5mg/mLの濃度で添加することにより、No.4の短鎖ペプチドと同程度の増殖抑制活性を得ることができた。
図8は、P. gingivalis ATCC 33277を1晩培養した場合についての増殖抑制活性を示している。図8に示すとおり、No.1〜4のいずれの短鎖ペプチドも添加濃度が高くなるにつれて、濁度が同様に低下した。つまり、いずれの短鎖ペプチドにおいても増殖抑制活性が認められた。
図9は、A. actinomycetemcomitans 310aを1晩培養した場合についての増殖抑制活性を示している。図9に示すとおり、No.1〜4のいずれの短鎖ペプチドも添加濃度が高くなるにつれて、濁度が同様に低下した。つまり、いずれの短鎖ペプチドにおいても増殖抑制活性が認められた。
【0072】
〔3〕サイトカイン産生抑制活性
次に、表1に示すNo.1〜18の短鎖ペプチドのうち、No.1〜8、13、14、16、18のアミノ酸配列からなる短鎖ペプチドについて、サイトカイン産生抑制活性の有無について確認した。サイトカイン産生抑制活性の有無は次のようにして確認した。
【0073】
48ウェルプレートTissue Culture Treated Polystyrene(IWAKI社製)の各ウェルに分注したHuMedia−EG2(KURABO社製)にて、KURABO社製ヒト大動脈内皮細胞(凍結HAEC(Human Aortic Endothelial Cells);細胞ストレイン番号496286または5C1143)を培養した。培養は、当初5×103Cells/cm2となるように細胞をまき、37℃、5%CO2の条件下、1週間程度培養した。そして、コンフルエントな状態であることを確認した後、A. actinomycetemcomitans Y4株から精製したLPS(Lipopolysaccharide)を10ng/mLから10μg/mL用いて前記培養細胞を刺激するとともに、No.1〜8、13、14、16、18の短鎖ペプチドをそれぞれ表2に示す終濃度となるよう添加して、ELISAによりサイトカインであるインターロイキン−6(IL−6)の濃度[pg/mL]を測定した。なお、ELISAは、Endogen(登録商標) Human IL−6 ELISA kit(Thermo Scientific社製)を用いて行った。ELISAによる一連の操作を終えた後、マルチモード・マイクロプレートリーダーSpectraMax M5(モレキュラーデバイス社製)を用いて450nmの吸光度(OD450)を測定した。
【0074】
【表2】

【0075】
図10に、No.1〜8、13、14、16、18の各短鎖ペプチドのサイトカイン産生抑制活性の有無を示す。なお、図10は、短鎖ペプチドの効果について、LPSのみを添加したHAECのIL−6濃度を100%とした場合における相対値[%]で示している。なお、図10において縦軸はIL−6濃度の相対値[%]を示す。
図10に示すように、No.4、6〜8、14、16、18の短鎖ペプチドにサイトカイン産生抑制活性が認められた。
他方、No.1〜3、5の短鎖ペプチドにサイトカイン産生促進活性が認められた。
【0076】
〔4〕No.9〜12の短鎖ペプチドの抗菌性
表1に示すNo.1〜19のうち、No.9〜12の短鎖ペプチドについて、C. albicans NBRC1385とP. gingivalis JCM8525に対する抗菌性を調べた。
【0077】
まず、C. albicans NBRC1385に対する抗菌性について説明する。
YM培地にてC. albicans NBRC1385をプレ培養し、OD650が1.0になったら80μL分取し、No.9〜12の短鎖ペプチドを200μMとなるように添加したYM培地10mLに植菌して好気条件下、25℃で36時間静置培養した。
そして、前記〔1〕と同様の条件でルシフェリン・ルシフェラーゼ活性を測定し、短鎖ペプチドを添加しないコントロール(Control)の発光量を100%とした場合における相対発光量(RLU[%])を求めた。その結果を図11に示す。なお、図11において縦軸はRLU[%]を示す。
図11に示すとおり、No.9〜12の短鎖ペプチドは、いずれもC. albicans NBRC1385に対して増殖抑制活性を有していた。具体的には、RLUの比率で比較すると、コントロールと比較してNo.9の短鎖ペプチドは83.8%、No.10の短鎖ペプチドは76.4%、No.11の短鎖ペプチドは84.6%、No.12の短鎖ペプチドは51.4%減じることができた。
【0078】
次いで、P. gingivalis JCM8525に対する抗菌性について説明する。
変法GAM培地にてP. gingivalis JCM8525をプレ培養し、OD650が1.0になったら80μL分取した。そして、No.9の短鎖ペプチドについては、濃度が0μM、12.5μM、25μM、50μM、100μM、200μMとなるように、No.10の短鎖ペプチドについては、濃度が0μM、50μM、100μM、200μM、400μM、800μMとなるように、No.11の短鎖ペプチドについては、濃度が0μM、2.5μM、5μM、10μM、20μM、40μMとなるように、No.12の短鎖ペプチドについては、濃度が0μM、50μM、100μM、200μM、400μM、800μMとなるように添加した変法GAM培地を調整し、それぞれの培地0.1mLに前記分取した80μLのプレ培養液を添加して、嫌気条件下、37℃で48〜54時間静置培養した。
【0079】
そして、前記〔1〕と同様の条件でルシフェリン・ルシフェラーゼ活性を測定し、それぞれの場合について、短鎖ペプチドを添加しない0μMの発光量を100%とした場合における相対発光量(RLU[%])を求めた。その結果を図12〜図15に示す。図12は、No.9の短鎖ペプチドのP. gingivalis JCM8525に対する増殖抑制活性を示すグラフであり、図13は、No.10の短鎖ペプチドのP. gingivalis JCM8525に対する増殖抑制活性を示すグラフであり、図14は、No.11の短鎖ペプチドのP. gingivalis JCM8525に対する増殖抑制活性を示すグラフであり、図15は、No.12の短鎖ペプチドのP. gingivalis JCM8525に対する増殖抑制活性を示すグラフである。なお、図12〜図15において、横軸は濃度[μM]を示し、縦軸はRLU[%]を示す。
図12〜図15に示すとおり、No.9、11、12の短鎖ペプチドは、添加濃度が高くなるに連れてRLUが低下した。つまり、P. gingivalis JCM8525に対する増殖抑制活性があった。
【0080】
(5)No.9〜12の短鎖ペプチドの細胞膜分極作用
P. gingivalis JCM8525を変法GAM培地で嫌気条件下、37℃で48〜54時間静置培養した。培養後、遠心分離を行い、デカンテーションで上清を除去し、沈殿物を4mMのリン酸緩衝液(4mM NaH2PO4/Na2HPO4、30mM NaCl、pH7.0)1mLで懸濁した。次いで、diSC3(5)(3, 3' - Dipropylthiadicarbocyanine iodide)を添加し、400秒経過したところでNo.9〜12の短鎖ペプチドをそれぞれ33.4μMとなるように添加し、60秒経過したときの蛍光強度(任意単位(a. u.))を測定した。
また、比較のため、短鎖ペプチドに替えて、ペプチド系抗生物質であるGramicidin D(MP Biomedicals社製101901)を過剰量となる50μMで添加した。そして、60秒経過したときの蛍光強度を測定した。その結果を図16に示す。なお、図16において縦軸は蛍光強度を示す。単位は任意単位(a. u.)である。
図16に示すように、No.9〜12の短鎖ペプチドの添加により、細胞膜分極作用が認められた。つまり、細胞膜を破壊することが認められた。具体的には、Gramicidin Dを100%した場合に、No.9の短鎖ペプチドでは約49%の蛍光強度であり、No.10の短鎖ペプチドでは約10%の蛍光強度であり、No.11の短鎖ペプチドでは約26%の蛍光強度であり、No.12の短鎖ペプチドでは約22%の蛍光強度であった。
【0081】
同様の実験を、4mMのリン酸緩衝液に替えて、ヒト唾液のpH(7.2)とイオン強度を模倣したグッド緩衝液(5mM HEPES、20mM Glucose、pH7.2)にて行った。その結果を図17に示す。なお、図17において縦軸は蛍光強度を示す。単位は任意単位(a. u.)である。
図17に示すように、図16で示したものよりも若干効率は劣るものの、No.9〜12の短鎖ペプチドは細胞膜分極作用が認められた。つまり、細胞膜を破壊することが認められた。具体的には、Gramicidin Dを100%した場合に、No.9の短鎖ペプチドでは約25%の蛍光強度であり、No.10の短鎖ペプチドでは約4%の蛍光強度であり、No.11の短鎖ペプチドでは約12%の蛍光強度であり、No.12の短鎖ペプチドでは約11%の蛍光強度であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)または(b)の短鎖ペプチド。
(a)配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列のうちの28番目から41番目までのアミノ酸残基、42番目から54番目までのアミノ酸残基、55番目から67番目までのアミノ酸残基、68番目から79番目までのアミノ酸残基、24番目から41番目までのアミノ酸残基、42番目から58番目までのアミノ酸残基、59番目から67番目までのアミノ酸残基または59番目から79番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチド
(b)前記(a)の中から選択されるいずれか一つの短鎖ペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細菌に対して増殖抑制活性を有する短鎖ペプチド
【請求項2】
以下の(c)または(d)の短鎖ペプチド。
(c)配列表の配列番号4で表されるアミノ酸配列のうちの20番目から43番目までのアミノ酸残基、31番目から43番目までのアミノ酸残基、31番目から44番目までのアミノ酸残基または24番目から31番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチド
(d)前記(c)の中から選択されるいずれか一つの短鎖ペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細菌に対して増殖抑制活性を有する短鎖ペプチド
【請求項3】
以下の(e)または(f)の短鎖ペプチド。
(e)配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列のうちの148番目から157番目までのアミノ酸残基、98番目から109番目までのアミノ酸残基または115番目から126番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチド
(f)前記(e)の中から選択されるいずれか一つの短鎖ペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細菌に対して増殖抑制活性を有する短鎖ペプチド
【請求項4】
以下の(g)または(h)の短鎖ペプチド。
(g)配列表の配列番号12で表されるアミノ酸配列のうちの70番目から79番目までのアミノ酸残基または80番目から90番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチド
(h)前記(g)の中から選択されるいずれか一つの短鎖ペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細菌に対して増殖抑制活性を有する短鎖ペプチド
【請求項5】
以下の(i)または(j)の短鎖ペプチド。
(i)配列表の配列番号14で表されるアミノ酸配列のうちの234番目から247番目までのアミノ酸残基からなる短鎖ペプチド
(j)前記(i)の中から選択されるいずれか一つの短鎖ペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細菌に対して増殖抑制活性を有する短鎖ペプチド

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−232923(P2012−232923A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102414(P2011−102414)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000106564)サンライズ工業株式会社 (4)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】