説明

矮化植物又は花茎数の多い植物の作出方法

【課題】 地下部は野生型と同様の形態で、地上部のみ形態が変化する矮科植物及び花茎数の多い植物の作出手段を提供する。
【解決手段】 植物内に存在するサイトカイニン水酸化酵素遺伝子の破壊又は発現抑制によって、植物のトランスゼアチン型サイトカイニンの内生量を減少させ、矮化植物及び花茎数の多い植物を作出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、矮化植物の作出方法、花茎数の多い植物の作出方法、花実数の多い植物の作出方法、及びトランスゼアチン型サイトカイニンの内生量を減少させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サイトカイニン分解酵素であるサイトカイニンオキシダーゼ遺伝子(CKX)をカリフラワーモザイクウィルス35Sプロモーター制御により過剰発現させたシロイヌナズナにおいては、サイトカイニン分解活性が高まることから組織中のサイトカイニン内生総和量が減少する。このような植物では地上部において矮化と花茎数の増加といった育種上有用な形態が観察される(非特許文献1)。しかし、CKX過剰発現植物では、地上部の形態変化のほかに、主根の伸長促進、側根及び不定根数の増加、根総延長の増加など植物体地下部にも著しい形態異常がおきる(非特許文献1)。このため、矮化と花茎数の増加といった形態を利用していく上で多くの問題があり、より局所的な草型に影響を与える技術開発が望まれていた。
【0003】
ところで、本発明者は、サイトカイニン水酸化酵素遺伝子であるCYP735A1CYP735A2を同定したが(非特許文献2)、これらの遺伝子がコードするタンパク質はP450酵素と呼ばれるファミリーに属する。P450遺伝子はシロイヌナズナには273、イネには458個もあるといわれ、CYP735A1CYP735A2遺伝子のみがサイトカイニンの水酸化に関わるのか否かは不明であった。
【0004】
【非特許文献1】Cytokinin-deficient transgenic Arabidopsis plants show multiple developmental alterations indicating opposite functions of cytokinins in the regulation of shoot and root meristem activity. The Plant Cell, 15: 2532-2550, November 2003, Werner, T., Motyka, V., Laucou, V., Smets, R., Van Onckelen, H. and Schmulling, T.
【非特許文献2】Arabidopsis CYP735A1 and CYP735A2 encode cytokinin hydroxylases that catalyze the biosynthesis of trans-zeatin. J. Biol. Chem. 279: 41866-41872, July 2004, Takei, K., Yamaya, T. and Sakakibara, H.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような技術的背景の下になされたものであり、地下部は野生型と同様の形態で、地上部のみ形態が変化する植物の作出手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、シロイヌナズナ内に存在するCYP735A1遺伝子とCYP735A2遺伝子を破壊することにより、そのシロイヌナズナのトランスゼアチン型サイトカイニン(tZ-CK)の内生量を著しく減少させ得ることを見出し、また、このようにしてtZ-CKの内生量を減少させたシロイヌナズナは、地上部において矮化と花茎数の増加という形態変化を示すが、地下部は野生型のものと同様の形態を示すことを見出した。
【0007】
CYP735A1遺伝子とCYP735A2遺伝子は既知の遺伝子であり、また、サイトカイニンの合成に関係することも知られていた。しかし、これらの遺伝子は植物内に多数存在するP450遺伝子ファミリーに属するため、同様の機能を有する他の遺伝子が存在する可能性も高かった。従って、CYP735A1遺伝子とCYP735A2遺伝子のみを破壊することで、tZ-CKの内生量が著しく減少したことは予想外の結果であった。また、tZ-CKの内生量の減少によって、地上部のみに形態変化が起きるということも予想外の結果であった。
【0008】
本発明は、以上の知見に基づき、完成されたものである。
【0009】
即ち、本発明は、以下の〔1〕〜〔13〕を提供するものである。
【0010】
〔1〕植物のトランスゼアチン型サイトカイニンの内生量を減少させることを特徴とする矮化植物の作出方法。
【0011】
〔2〕トランスゼアチン型サイトカイニンの内生量の減少を、植物内に存在するサイトカイニン水酸化酵素遺伝子の破壊又は発現抑制によって行うことを特徴とする〔1〕に記載の矮化植物の作出方法。
【0012】
〔3〕破壊又は発現抑制されるサイトカイニン水酸化酵素遺伝子が、CYP735A1遺伝子及びCYP735A2遺伝子、又はこれらの相同遺伝子であることを特徴とする〔2〕に記載の矮化植物の作出方法。
【0013】
〔4〕以下の(1)〜(5)の工程を含むことを特徴とする〔3〕に記載の矮化植物の作出方法、
(1)T-DNAの挿入によってCYP735A1遺伝子を破壊し、破壊されたCYP735A1遺伝子をホモに持つ植物を作出する工程、
(2)T-DNAの挿入によってCYP735A2遺伝子を破壊し、破壊されたCYP735A2遺伝子をホモに持つ植物を作出する工程、
(3)破壊されたCYP735A1遺伝子をホモに持つ植物と破壊されたCYP735A2遺伝子をホモに持つ植物を交配し、F1植物を得る工程、
(4)F1植物を自家受粉させ、F2植物を得る工程、
(5)F2植物の中から破壊されたCYP735A1遺伝子と破壊されたCYP735A2遺伝子をホモに持つ植物を選抜する工程。
【0014】
〔5〕〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の方法によって作出された矮化植物。
【0015】
〔6〕植物のトランスゼアチン型サイトカイニンの内生量を減少させることを特徴とする花茎数の多い植物の作出方法。
【0016】
〔7〕トランスゼアチン型サイトカイニンの内生量の減少を、植物内に存在するサイトカイニン水酸化酵素遺伝子の破壊又は発現抑制によって行うことを特徴とする〔6〕に記載の花茎数の多い植物の作出方法。
【0017】
〔8〕破壊又は発現抑制されるサイトカイニン水酸化酵素遺伝子が、CYP735A1遺伝子及びCYP735A2遺伝子、又はこれらの相同遺伝子であることを特徴とする〔7〕に記載の花茎数の多い植物の作出方法。
【0018】
〔9〕以下の(1)〜(5)の工程を含むことを特徴とする〔8〕に記載の花茎数の多い植物の作出方法、
(1)T-DNAの挿入によってCYP735A1遺伝子を破壊し、破壊されたCYP735A1遺伝子をホモに持つ植物を作出する工程、
(2)T-DNAの挿入によってCYP735A2遺伝子を破壊し、破壊されたCYP735A2遺伝子をホモに持つ植物を作出する工程、
(3)破壊されたCYP735A1遺伝子をホモに持つ植物と破壊されたCYP735A2遺伝子をホモに持つ植物を交配し、F1植物を得る工程、
(4)F1植物を自家受粉させ、F2植物を得る工程、
(5)F2植物の中から破壊されたCYP735A1遺伝子と破壊されたCYP735A2遺伝子をホモに持つ植物を選抜する工程。
【0019】
〔10〕〔6〕乃至〔9〕のいずれか一項に記載の方法によって作出された花茎数の多い植物。
【0020】
〔11〕〔5〕に記載の矮化植物又は〔10〕に記載の花茎数の多い植物にトランスゼアチン型サイトカイニンを与えて栽培する工程を含むことを特徴とする花実の多い植物の作出方法。
【0021】
〔12〕植物内に存在するサイトカイニン水酸化酵素遺伝子を破壊又は発現抑制することを特徴とするトランスゼアチン型サイトカイニンの内生量を減少させる方法。
【0022】
〔13〕破壊又は発現抑制されるサイトカイニン水酸化酵素遺伝子が、CYP735A1遺伝子及びCYP735A2遺伝子、又はこれらの相同遺伝子であることを特徴とする〔12〕に記載のトランスゼアチン型サイトカイニンの内生量を減少させる方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の方法によって作出される植物は、地下部は変化せずに、地上部においてのみ矮化と花茎数の増加という形態変化を示す。従って、本発明の作出方法は、植物体の地上部のみの草型を人為的に改変するためのツールとして非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明の矮化植物及び花茎数の多い植物の作出方法は、植物のtZ-CKの内生量を減少させることを特徴とするものである。ここで、「tZ-CK」とは、トランスゼアチン及びその派生体をいい、派生体とはトランスゼアチンの側鎖末端の水酸基に糖が付加したもの、トランスゼアチンのプリン環の9位の窒素原子に糖、糖リン酸またはアミノ酸の付加したもの、7位の窒素原子に糖が付加したもの、2位の炭素原子にメチルチオ基が付加したものなどを指す。例えば、トランスゼアチンリボシド-5’-一リン酸、トランスゼアチンリボシド、トランスゼアチン、トランスゼアチン-7-グルコシド、トランスゼアチン-9-グルコシド、トランスゼアチン-O-グルコシド、トランスゼアチンリボシド-O-グルコシドなどが含まれる。なお、トランスゼアチンとは、アデニンのN6位のアミノ基に炭素5つのプレニル基(末端のトランス位の炭素に水酸基をもつ)が結合したサイトカイニンの慣用名で、正しくは「6-((E)-4-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブテニルアミノ)プリン」である。また、「減少させる」とは、矮化植物又は花茎数の多い植物としての形態が出現する程度まで内生量を減少させることを意味する。どの程度まで減少させれば矮化植物又は花茎数の多い植物としての形態が出現するかは、植物の種類などによって異なるが、通常、野生型の内生量の10%以下にすることによって矮化および花茎数の多い植物としての形態が出現する。
【0026】
植物のtZ-CKの内生量を減少させる手段は特に限定されず、例えば、植物内に存在するサイトカイニン水酸化酵素遺伝子を破壊又は発現抑制することによって行うことができる。サイトカイニン水酸化酵素遺伝子を破壊又は発現抑制する手段は特に限定されず、例えば、遺伝子を破壊する手段としては、T-DNAやトランスポゾンをサイトカイニン水酸化酵素遺伝子に挿入する手段を例示でき、遺伝子を発現抑制する手段としては、アンチセンス法やRNAi法などの手段を例示できる。
【0027】
破壊等の対象とするサイトカイニン水酸化酵素遺伝子としては、CYP735A1遺伝子及びCYP735A2遺伝子を例示できる。CYP735A1遺伝子及びCYP735A2遺伝子は、シロイヌナズナから単離された既知の遺伝子であり、その塩基配列は、DNA Data Bank of Japan (DDBJ)上においてそれぞれアクセッション番号BX832759、BT011622で登録されている。またそれらのAGIコードはそれぞれAt5g38450とAt1g67110として公開されている(非特許文献2)。更に、CYP735A1遺伝子及びCYP735A2遺伝子がコードするアミノ酸配列は、GenBank上においてそれぞれアクセッション番号NP_198661、NP_176882で登録されている。
【0028】
CYP735A1遺伝子及びCYP735A2遺伝子の相同遺伝子とは、CYP735A1遺伝子及びCYP735A2遺伝子と同様に、その遺伝子の破壊等によってtZ-CKの内生量が減少する遺伝子をいう。このような遺伝子としては、イネに存在するCYP735A3遺伝子 (塩基配列のaccession no. XM_482511、アミノ酸配列のaccession no. XP_482511)、CYP735A4 遺伝子(塩基配列のaccession no. AP005732、アミノ酸配列のaccession no. BAD36321)などを例示できる。また、シロイヌナズナ、イネのP450全遺伝子とともに分子系統樹を作成した際に、CYP735A1遺伝子、CYP735A2遺伝子、CYP735A3遺伝子、CYP735A4遺伝子と同じサブグループに分類される遺伝子も、ここでいう「相同遺伝子」に含まれる(なお、同じサブグループに分類されるには通常アミノ酸レベルで55%の同一性を持つとされている。)。更に、CYP735A1遺伝子又はCYP735A2遺伝子がコードするアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン水酸化酵素活性を持つタンパク質をコードする遺伝子やCYP735A1遺伝子又はCYP735A2遺伝子と相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつサイトカイニン水酸化酵素活性を持つタンパク質をコードする遺伝子も、ここでいう「相同遺伝子」に含まれる。
【0029】
本発明の矮化植物及び花茎数の多い植物の作出方法の一例としては、例えば、(1)T-DNAの挿入によってCYP735A1遺伝子を破壊し、破壊されたCYP735A1遺伝子をホモに持つ植物を作出する工程、(2)T-DNAの挿入によってCYP735A2遺伝子を破壊し、破壊されたCYP735A2遺伝子をホモに持つ植物を作出する工程、(3)破壊されたCYP735A1遺伝子をホモに持つ植物と破壊されたCYP735A2遺伝子をホモに持つ植物を交配し、F1植物を得る工程、(4)F1植物を自家受粉させ、F2植物を得る工程、及び(5)F2植物の中から破壊されたCYP735A1遺伝子と破壊されたCYP735A2遺伝子をホモに持つ植物を選抜する工程、を含む方法を示すことができる。
【0030】
本発明の方法によって作出される矮化植物は、野生型よりも草丈が低い(矮性である)が、地下部の形態は野生型と同様であり、また、本発明の方法によって作出される花茎数の多い植物は、野生型よりも花茎数が多いが、地下部の形態は野生型と同様である、といった性質を示す。
【0031】
「野生型よりも草丈が低い」及び「野生型よりも花茎数が多い」という性質は、tZ-CKの内生量が少ないことによって生じるので、外部からtZ-CKを与えることにより、草丈及び花茎数を野生型に近づけることができる。このとき与えるtZ-CKの量は特に限定されないが、1個体当たり2〜10 nmol程度、週1〜3回程度与えることが好ましい。
【0032】
tZ-CKを与えることにより、草丈及び花茎数を野生型に近づけることができるという性質を利用し、花実数が多く、草丈が野生型と同様の植物を作出できる。即ち、栽培の初期段階ではtZ-CKを与えず、分枝を進め、栽培の後期段階ではtZ-CKを与え、正常に生育させる。これにより、花実数が多く、草丈が野生型と同様の植物が得られる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0034】
サイトカイニン水酸化酵素はイソペンテニルアデニン型サイトカイニン(iP-CK)を水酸化し、tZ-CKに変換する酵素である。シロイヌナズナのサイトカイニンン水酸化酵素遺伝子CYP735A1のT-DNA 挿入ライン SALK_063956 及び SALK_093028と、CYP735A2のT-DNA挿入ライン SALK_077856の種子をArabidopsis Biological Resource Center (ABRC, http://www.biosci.ohio-state.edu/~plantbio/Facilities/abrc/abrchome.htm) より入手した。
【0035】
ABRCより譲渡された種子を、0.8%寒天、1.5%ショ糖、50μg/mlカナマイシン、100μg/mlカルベニシリンを含むMS培地上で生育させ、カナマイシン抵抗性植物を選択した。生育環境は白色蛍光灯を光源として明期16時間/暗期8時間、温度22℃とした。水酸化酵素遺伝子へのホモT-DNA挿入個体はPCR法でスクリーニングした。SALK_063956でCYP735A1遺伝子へのT-DNAの挿入を検出するためのプライマーはT-DNA LB近傍配列(5’-GCGTGGACCGCTTGCTGCAACT-3’、配列番号1)とCYP735A1遺伝子翻訳終了点近傍の配列(5’-ATCCTCATGAAACCAATGGCTTC-3’、配列番号2)を使用した。PCR反応は、94℃に2分間おいた後94℃、15秒間、60℃、20秒間、72℃、1分間を1サイクルとして、35サイクル行い、最後に72℃で5分間おいた。SALK_093028でCYP735A1遺伝子へのT-DNAの挿入を検出するためのプライマーはT-DNA LB近傍の配列(5’-GCGTGGACCGCTTGCTGCAACT-3’、配列番号3)とCYP735A1遺伝子翻訳開始点近傍の配列(5’- ATGTTGCTTACTATATTAAAATCACTCC-3’、配列番号4)を使用した。PCR反応は、94℃に2分間おいた後94℃、20秒間、60℃、30秒間、72℃、3分間を1サイクルとして、35サイクル行い、最後に72℃で5分間おいた。SALK_063956及びSALK_093028でT-DNAの挿入のない野生型CYP735A1遺伝子を検出するためのプライマーはCYP735A1遺伝子翻訳開始点近傍の配列(5’- ATGTTGCTTACTATATTAAAATCACTCC-3’、配列番号5)とCYP735A1遺伝子翻訳終了点近傍の配列(5’-ATCCTCATGAAACCAATGGCTTC-3’、配列番号6)を使用した。PCR反応は、94℃に2分間おいた後94℃、20秒間、60℃、30秒間、72℃、3分間を1サイクルとして、35サイクル行い、最後に72℃で5分間おいた。SALK_077856でCYP735A2遺伝子へのT-DNAの挿入を検出するためのプライマーはT-DNA LB近傍配列(5’-GCGTGGACCGCTTGCTGCAACT-3’、配列番号7)とCYP735A2遺伝子翻訳終了点近傍の配列(5’-CTTCATAGATCAAGTGGCTTC-3’、配列番号8)を使用した。PCR反応は、94℃に2分間おいた後94℃、15秒間、60℃、20秒間、72℃、2.5分間を1サイクルとして、35サイクル行い、最後に72℃で5分間おいた。SALK_077856でT-DNAの挿入のない野生型CYP735A2遺伝子を検出するためのプライマーはCYP735A2遺伝子翻訳開始点近傍の配列(5’-ATGATGGTTACATTAGTACTAAAGTACG-3’、配列番号9)とCYP735A2遺伝子翻訳終了点近傍の配列(5’-CTTCATAGATCAAGTGGCTTC-3’、配列番号10)を使用した。PCR反応は、94℃に2分間おいた後94℃、20秒間、60℃、30秒間、72℃、3分間を1サイクルとして、35サイクル行い、最後に72℃で5分間おいた。酵素はExTaq(TaKaRa)を使用し、プライマー濃度0.2μM、MgCl2濃度 2.25mM、酵素量0.025unitで反応液量は10μLとした。他の条件は酵素添付の使用説明書に従った。鋳型は2週間生育させた植物の葉を一枚切除し、この葉よりPrepMan Ultra Reagent (Applied Biosystems)を使用して抽出したDNA溶液を蒸留水で5倍に希釈したもの1μL使用した。T-DNAの挿入された配列が増幅され、野生型構造の水酸化酵素遺伝子DNA配列が増幅されない固体をホモと判断した。SALK_063956、SALK_093028、SALK_077856に由来するCYP735A遺伝子T-DNA ホモ挿入変異株を以下それぞれcyp735a1-1株、 cyp735a1-2株、 cyp735a2-1株とする。野生株(Col-0)及び挿入変異株においてNakagawaらの方法 (The Plant Journal、41巻、4号、512-523ページ、Overexpression of a petunia zinc-finger gene alters cytokinin metabolism and plant forms)で12分子種のサイトカイニン内生量を分析したところ、cyp735a1-1、 cyp735a1-2、 cyp735a2-1株それぞれにおいてiP-CKであるイソペンテニルアデニン-7-グルコシドが野生株より57%、48%、28%増加し、イソペンテニルアデノシン-9-グルコシドが83%、65%、26%増加していた(表1)。他の分子種については有意な差は検出されなかった。
【0036】
【表1】

【0037】
野生株、cyp735a1-1、 cyp735a1-2、 cyp735a2-1株をロックウール上でMGRL水耕液(平井(横田)優美、内藤 哲、茅野充男 (1993) アラビドプシスの水耕栽培法. 植物細胞工学 5: 484-487)を無機栄養源として生育させたところ生長・分化に差異は認められなかった(データ省略)。
【0038】
交配によりcyp735a1-1株とcyp735a2-1株またはcyp735a1-2株とcyp735a2-1株親株とした交配によってF1種子を得た。F1植物を自家受粉させF2種子を得た。F2植物を0.8%寒天、1.5%ショ糖、50μg/mlカナマイシン、100μg/mlカルベニシリンを含むMS培地上で生育させ、カナマイシン抵抗性植物を選択した。生育環境は白色蛍光灯を光源として明期16時間/暗期8時間、温度22℃。CYP735A1とCYP735A2の両遺伝子にT-DNAがホモに挿入された株(cyp735a1-1/cyp735a2-1とcyp735a1-2/cyp735a2-1)を PCR法でスクリーニングした。野生株及びcyp735a1-1/cyp735a2-1株とcyp735a1-2/cyp735a2-1株のサイトカイニンン内生量を定量し比較したところcyp735a1-1/cyp735a2-1株、及び cyp735a1-2/cyp735a2-1株においてtZ-CKが1/10以下に減少し、iP-CKが5倍以上に増加し主要なサイトカイニン分子種となっていた(表2)。
【0039】
【表2】

【0040】
各株をロックウール上でMGRL水耕液を無機栄養源として生育させたところ、cyp735a1-1/cyp735a2-1株、及び cyp735a1-2/cyp735a2-1株は矮化し、花茎数が増加した(図1)。生育中0、0.01、0.1、1、10μMのトランスゼアチン(tZ)水溶液を1週間に二回の植物体表面へのスプレー処理で投与すると濃度依存的に植物体の大きさが増加し野生株の大きさに近づいたことから、矮化の原因はtZ-CKの減少のためと考えられる(データ省略)。花茎数は野生株より多いことに変化は無かった。根の生長を観察するためにcyp735a1-1/cyp735a2-1株、cyp735a1-2/cyp735a2-1株及び野生株を無機栄源としてMGRL水耕液を使用した水耕栽培で生育させたところ、野生株と二重変異体株の根に生長の差異は認められなかった(図2)。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】Col-0株(左)、cyp735a1-1/cyp735a2-1株(中央)、及びcyp735a1-2/cyp735a2-1株(右)の地上部の形態を示す写真。
【図2】Col-0株(左)及びcyp735a1-2/cyp735a2-1株(右)の根の形態を示す写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物のトランスゼアチン型サイトカイニンの内生量を減少させることを特徴とする矮化植物の作出方法。
【請求項2】
トランスゼアチン型サイトカイニンの内生量の減少を、植物内に存在するサイトカイニン水酸化酵素遺伝子の破壊又は発現抑制によって行うことを特徴とする請求項1に記載の矮化植物の作出方法。
【請求項3】
破壊又は発現抑制されるサイトカイニン水酸化酵素遺伝子が、CYP735A1遺伝子及びCYP735A2遺伝子、又はこれらの相同遺伝子であることを特徴とする請求項2に記載の矮化植物の作出方法。
【請求項4】
以下の(1)〜(5)の工程を含むことを特徴とする請求項3に記載の矮化植物の作出方法、
(1)T-DNAの挿入によってCYP735A1遺伝子を破壊し、破壊されたCYP735A1遺伝子をホモに持つ植物を作出する工程、
(2)T-DNAの挿入によってCYP735A2遺伝子を破壊し、破壊されたCYP735A2遺伝子をホモに持つ植物を作出する工程、
(3)破壊されたCYP735A1遺伝子をホモに持つ植物と破壊されたCYP735A2遺伝子をホモに持つ植物を交配し、F1植物を得る工程、
(4)F1植物を自家受粉させ、F2植物を得る工程、
(5)F2植物の中から破壊されたCYP735A1遺伝子と破壊されたCYP735A2遺伝子をホモに持つ植物を選抜する工程。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法によって作出された矮化植物。
【請求項6】
植物のトランスゼアチン型サイトカイニンの内生量を減少させることを特徴とする花茎数の多い植物の作出方法。
【請求項7】
トランスゼアチン型サイトカイニンの内生量の減少を、植物内に存在するサイトカイニン水酸化酵素遺伝子の破壊又は発現抑制によって行うことを特徴とする請求項6に記載の花茎数の多い植物の作出方法。
【請求項8】
破壊又は発現抑制されるサイトカイニン水酸化酵素遺伝子が、CYP735A1遺伝子及びCYP735A2遺伝子、又はこれらの相同遺伝子であることを特徴とする請求項7に記載の花茎数の多い植物の作出方法。
【請求項9】
以下の(1)〜(5)の工程を含むことを特徴とする請求項8に記載の花茎数の多い植物の作出方法、
(1)T-DNAの挿入によってCYP735A1遺伝子を破壊し、破壊されたCYP735A1遺伝子をホモに持つ植物を作出する工程、
(2)T-DNAの挿入によってCYP735A2遺伝子を破壊し、破壊されたCYP735A2遺伝子をホモに持つ植物を作出する工程、
(3)破壊されたCYP735A1遺伝子をホモに持つ植物と破壊されたCYP735A2遺伝子をホモに持つ植物を交配し、F1植物を得る工程、
(4)F1植物を自家受粉させ、F2植物を得る工程、
(5)F2植物の中から破壊されたCYP735A1遺伝子と破壊されたCYP735A2遺伝子をホモに持つ植物を選抜する工程。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか一項に記載の方法によって作出された花茎数の多い植物。
【請求項11】
請求項5に記載の矮化植物又は請求項10に記載の花茎数の多い植物にトランスゼアチン型サイトカイニンを与えて栽培する工程を含むことを特徴とする花実の多い植物の作出方法。
【請求項12】
植物内に存在するサイトカイニン水酸化酵素遺伝子を破壊又は発現抑制することを特徴とするトランスゼアチン型サイトカイニンの内生量を減少させる方法。
【請求項13】
破壊又は発現抑制されるサイトカイニン水酸化酵素遺伝子が、CYP735A1遺伝子及びCYP735A2遺伝子、又はこれらの相同遺伝子であることを特徴とする請求項12に記載のトランスゼアチン型サイトカイニンの内生量を減少させる方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−314206(P2006−314206A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−137249(P2005−137249)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】