説明

石油製品製造制御装置、その方法、そのプログラム、および、そのプログラムを記録した記録媒体、並びに、石油製品の製造装置

【課題】原油およびナフサを原料として効率よく石油製品を製造するための運転制御が容易な石油製品製造プラントを提供する。
【解決手段】作業者が設定入力した運転条件データの原料データから、プラント系制御装置310で原油データベースおよびナフサデータベースに基づき、原油とナフサ留分との性状を、51純成分と原油の蒸留計算に基づいて分類する39擬似成分とで認識し、原油およびナフサ留分を原料としてプラント系製造装置200の各装置での各種処理を経て製造する石油製品の性状および量を、51純成分で認識する。原油およびナフサ留分と石油製品とを、51純成分および39擬似成分により気液平衡状態で連結したプラントモデルに基づき、プラント系製造装置200の各装置における利益最大となる最適化運転条件を演算し、最適化運転条件でプラント系製造装置200の稼働を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原油およびナフサ留分を原料として石油製品を製造するための石油製品製造制御装置、その方法、そのプログラム、および、そのプログラムを記録した記録媒体、並びに、石油製品の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば原油から種々の石油製品を製造装置で製造する際に、最も利益が上がる制御方法として、線形計画法を利用する方法が知られている。この線形計画法を利用した製造装置における制御方法は、原料、最終製品、および製造装置の運転条件に基づいて、目的関数の最適値を与える運転条件を演算している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載のものは、石油コンビナートの異なる運転条件に応じた製品の収率を計算し、学習データを取得してニューラルネットワークモデルを生成する。そして、所定の目的関数が設定された線形計画モデルから入力された条件に基づいて、ニューラルネットワークモデルを用いて、入力された条件に応じた運転条件を探索する。
この探索により得られた運転条件に基づいて、線形計画モデルに設定された目的関数の値を演算し、得られた目的関数の値から最適な運転条件であるか否かを判定し、最適な運転条件ではない場合、新たに変更された条件をニューラルネットワークモデルに入力し、最適な運転条件を推定している。
【0004】
【特許文献1】特開2002−329187号公報(第3頁左欄〜第4頁右欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、原油を蒸留などしてガソリンや軽油、重油などの各種石油製品を精製する場合の運転条件として、産地などにより成分が変動することにより、原油の留分に基づいて適宜設定している。一方、ナフサからオレフィンやポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンなどの各種石油製品を製造する場合の運転条件としては、ナフサはある程度の成分の変動が生じないことにより、ナフサの成分に基づいて適宜設定している。そして、オレフィンやポリエチレンなどの石油製品を製造する場合、ナフサや液化石油などのある程度の成分範囲が限られたものを原料にして製造している。
なお、近年の生産効率の向上や環境に対する負荷の低減などに基づいて、原油からもオレフィンやポリエチレンなどの石油製品を製造する方法が試みられている。
しかしながら、原油を蒸留などして製造する際には留分管理にて運転条件が設定され、ナフサから製造する場合には成分管理にて運転条件が設定されているため、原油とナフサとの双方を原料として石油製品を製造するために運転条件を設定することが困難であるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、このような問題点に鑑み、原油およびナフサを原料として効率よく石油製品を製造するための運転制御が容易な石油製品製造制御装置、その方法、そのプログラム、および、そのプログラムを記録した記録媒体、並びに、石油製品の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の石油製品製造制御装置は、原油およびナフサ留分を原料として石油製品を各種処理工程を経て製造する製造装置における運転状態を制御する石油製品製造制御装置であって、前記原油の性状を化学組成および前記原油の蒸留計算に基づいて分類される留分組成で認識する原油性状認識手段と、前記ナフサ留分の性状を前記化学組成および前記留分組成で認識するナフサ性状認識手段と、前記石油製品の性状および量を前記化学組成で認識する石油製品性状認識手段と、前記原油および前記ナフサ留分と前記石油製品とを前記化学組成および前記留分組成により気液平衡状態で連結したプラントモデルに基づいて、前記処理工程での運転条件を演算する生産計画演算手段と、この生産計画演算手段で演算した前記運転条件で前記製造装置を稼働させる稼働制御手段と、を具備したことを特徴とする。
【0008】
この発明では、原油の性状とナフサ留分の性状とを化学組成および原油の蒸留計算に基づいて分類される留分組成で認識するとともに、原油およびナフサ留分を原料として製造装置で各種処理工程を経て製造する石油製品の性状および量を化学組成で認識する。そして、原油およびナフサ留分と石油製品とを化学組成および留分組成により気液平衡状態で連結したプラントモデルに基づいて、製造装置における処理工程での運転条件を演算し、この運転条件で製造装置を稼働させる制御をしている。
このため、原油とナフサ留分との性状を化学組成および留分組成で認識することにより、成分管理にて原油およびナフサ留分から石油製品までプラントモデルによる熱計算に基づいて、原油およびナフサ留分を原料として石油製品を製造する運転条件の演算が可能となり、原油およびナフサ留分を原料として石油製品を製造する制御が容易となる。
【0009】
そして、本発明では、前記製造装置の運転状態を認識する運転状態認識手段と、前記稼働制御手段により前記製造装置を稼働させる運転条件と前記製造装置の運転状態との誤差を認識し、誤差が最小となる状態に前記稼働制御手段により前記製造装置を稼働させる運転条件を修正する運転状態比較手段と、を具備した構成とすることが好ましい。
この発明では、製造装置を稼働させる運転条件と、製造装置における実際の運転状態との誤差を認識し、誤差が最小となる状態に製造装置を稼働させる運転条件を修正しているので、プラントモデルに基づいて設定された運転条件が実績に対比して修正されることとなり、石油製品を製造するための適切な制御が得られる。
【0010】
本発明の石油製品製造制御装置は、原油およびナフサ留分を原料として石油製品を各種処理工程を経て製造する製造装置における運転状態を制御する石油製品製造制御装置であって、前記原油の性状を化学組成および前記原油の蒸留計算に基づいて分類される留分組成で認識する原油性状認識手段と、前記ナフサ留分の性状を前記化学組成および前記留分組成で認識するナフサ性状認識手段と、前記石油製品の性状および量を前記化学組成で認識する石油製品性状認識手段と、前記原油および前記ナフサ留分と前記石油製品とを前記化学組成および前記留分組成により気液平衡状態で連結したプラントモデルに基づいて、前記製造装置で前記石油製品を製造させる生産計画を演算する生産計画演算手段と、この生産計画演算手段で演算した前記生産計画に従って前記製造装置を稼働させる稼働制御手段と、を具備したことを特徴とする。
【0011】
この発明では、原油の性状とナフサ留分の性状とを価格組成および原油の蒸留計算に基づいて分類される留分組成で認識するとともに、原油およびナフサ留分を原料として製造装置で各種処理工程を経て製造する石油製品の性状および量を化学組成で認識する。そして、原油およびナフサ留分と原油製品とを化学組成および留分組成により気液平衡状態で連結したプラントモデルに基づいて、製造装置で石油製品を製造させる生産計画を演算し、この生産計画で製造装置を稼働させる制御をしている。
このため、原油とナフサ留分との性状を化学組成および留分組成で認識することにより、成分管理にて原油およびナフサ留分から石油製品までプラントモデルによる熱計算に基づいて、原油およびナフサ留分を原料として石油製品を製造するための生産計画の演算が可能となり、原油およびナフサ留分を原料として石油製品を製造する制御が容易となる。
【0012】
そして、本発明では、前記製造装置で前記生産計画に基づいて前記稼働制御手段の制御による前記製造装置の稼働にて前記石油製品が製造された実績を認識する実績認識手段と、前記生産計画と前記実績との誤差を演算し、前記誤差が最小となる状態に前記生産計画を修正する運転状態比較手段と、を具備した構成とすることが好ましい。
この発明では、生産計画に基づいて稼働制御された製造装置の稼働にて石油製品が製造された実績と、生産計画との誤差を演算し、誤差が最小となる状態に生産計画を修正しているので、プラントモデルに基づいて設定された生産計画が実績に対比して修正されることとなり、石油製品を製造するための適切な制御が得られる。
【0013】
さらに、本発明では、前記運転状態比較手段は、所定時間おきに前記誤差を演算して修正する処理をする構成とすることが好ましい。
この発明では、所定時間おきに誤差を演算して修正する処理を実施しているので、石油製品を良好に製造するための制御が得られる。
【0014】
また、本発明では、前記化学組成は、前記原油の蒸留により得られるナフサ留分およびこのナフサ留分より軽質の軽質留分に対応する沸点の化学組成で分類された炭化水素であり、前記留分組成は、前記原油の蒸留によりナフサ留分より重質の留分として分留される重質留分に対応し所定の蒸留温度範囲で複数分類される不特定組成群である構成とすることが好ましい。
この発明では、化学組成として、原油の蒸留で得られるナフサ留分とこのナフサ留分より軽質の軽質留分に対応する沸点の化学組成で分類された炭化水素とし、留分組成として、原油の蒸留で得られるナフサ留分より重質の留分として分留される重質留分に対応し所定の蒸留温度範囲で複数分類される不特定組成群としているので、原油とナフサ留分とを同様に成分管理して高精度に目的の石油製品を目的の量で製造させる制御が容易となる。
【0015】
さらに、本発明では、前記化学組成は、炭素数が1から11までの51の炭化水素であり、前記留分組成は、前記原油の蒸留によりナフサ留分より重質の留分として分留される重質留分に対応し39の蒸留温度範囲で分類される不特定組成群である構成とすることが好ましい。
この発明では、化学組成として、炭素数が1から11までの51の炭化水素とし、留分組成として、原油の蒸留によりナフサ留分より重質の留分として分留される重質留分に対応し39の蒸留温度範囲で分類される不特定組成群としているので、プラントモデルでの熱計算が煩雑となることなく高精度に目的の石油製品を目的の量で製造させる制御が容易となり、迅速な演算および演算装置の構成の簡略化などが容易に得られる。
【0016】
そして、本発明では、前記生産計画演算手段は、前記石油製品を製造する際の利益が最大となる前記処理工程での最適化運転条件を演算する構成とすることが好ましい。
この発明では、石油製品を製造する際の利益が最大となる処理工程での最適化運転条件を演算するので、原油およびナフサ留分を原料とした効率的な石油製品の製造のための制御が容易に得られる。
【0017】
また、本発明では、前記生産計画演算手段は、前記原油の性状、前記ナフサ留分の性状および前記石油製品の性状に基づいて、前記石油製品の費用、前記原料の費用および前記製造装置の処理工程の運転に要する用役費用を演算し、前記石油製品の費用から前記原料の費用および前記処理工程での用役費用を減算した値を前記利益の目的関数として、この目的関数が最大値となる最適化運転条件を演算する構成とすることが好ましい。
この発明では、原油、ナフサ留分および石油製品の性状に基づいて石油製品および原料の費用と製造装置の処理工程の運転に要する用役費用とを演算し、石油製品の費用から原料の費用および用役費用を減算した利益の目的関数が、最大値となる状態に処理工程での最適化運転条件を演算しているので、利益が最大となる製造のための制御として処理工程での運転条件が容易に演算され、容易に製造のための制御が得られる。
【0018】
本発明の石油製品の製造装置は、原油およびナフサ留分を原料として石油製品を各種処理工程を経て製造する石油製品の製造装置であって、前記原油および前記ナフサ留分を処理して前記石油製品を製造する製造装置と、前記製造装置の稼働状態を制御する請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の石油製品製造制御装置と、を具備したことを特徴とする。
【0019】
この発明では、原油およびナフサ留分を原料として石油製品を製造する制御が容易な請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の石油製品製造制御装置により、石油製品を製造する製造装置の稼働状態を制御している。
このため、例えば生産効率の向上や環境に対する負荷の低減などのために原油およびナフサ留分の双方を原料として石油製品を製造するための適切な制御が容易に得られる。
【0020】
本発明の石油製品製造制御方法は、演算手段により、原油およびナフサ留分を原料として石油製品を各種処理工程を経て製造する製造装置における運転状態を制御する石油製品製造制御方法であって、前記演算手段は、前記原油の性状を化学組成および前記原油の蒸留計算に基づいて分類される留分組成で認識する原油性状認識工程と、前記ナフサの性状を前記化学組成および前記留分組成で認識するナフサ性状認識工程と、前記石油製品の性状および量を前記化学組成で認識する石油製品性状認識工程と、前記原油および前記ナフサ留分と前記石油製品とを前記化学組成および前記留分組成により気液平衡状態で連結したプラントモデルに基づいて、前記処理工程での運転条件を演算する生産計画演算工程と、この生産計画演算工程で演算した前記運転条件で前記製造装置を稼働させる稼働制御工程と、を実施することを特徴とする。
この発明は、請求項1に記載の発明の石油製品製造制御装置を方法に展開したもので、請求項1に記載の発明と同様の作用効果を奏する。
【0021】
本発明の石油製品製造制御方法は、演算手段により、原油およびナフサ留分を原料として石油製品を各種処理工程を経て製造する製造装置における運転状態を制御する石油製品製造制御方法であって、前記演算手段は、前記原油の性状を化学組成および前記原油の蒸留計算に基づいて分類される留分組成で認識する原油性状認識工程と、前記ナフサの性状を前記化学組成および前記留分組成で認識するナフサ性状認識工程と、前記石油製品の性状および量を前記化学組成で認識する石油製品性状認識工程と、前記原油および前記ナフサ留分と前記石油製品とを前記化学組成および前記留分組成により気液平衡状態で連結したプラントモデルに基づいて前記製造装置で前記石油製品を製造させる生産計画を演算する生産計画演算工程と、この生産計画演算工程で演算した前記生産計画に従って前記製造装置を稼働させる稼働制御工程と、を実施することを特徴とする。
この発明は、請求項3に記載の発明の石油製品製造制御装置を方法に展開したもので、請求項3に記載の発明と同様の作用効果を奏する。
【0022】
本発明の石油製品製造制御プログラムは、演算手段を、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の石油製品製造制御装置として機能させることを特徴とする。
この発明では、演算手段を請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の石油製品製造制御装置として機能させるため、演算手段にインストールすることで、原油およびナフサ留分を原料として石油製品を製造する制御が容易となる構成が容易に得られ、利用の拡大が容易に図れる。
【0023】
本発明の石油製品製造制御プログラムを記録した記録媒体は、請求項13に記載の石油製品製造制御プログラムが演算手段に読取可能に記録されたことを特徴とする。
この発明では、請求項13に記載の石油製品製造制御プログラムを演算手段に適宜読み取らせる構成であるので、原油およびナフサ留分を原料として石油製品を製造する制御が容易となる構成が容易に得られるとともに、プログラムを容易に取り扱いでき、利用の拡大が容易にできる。
【0024】
なお、本発明における演算手段としては、1つのコンピュータに限らず、複数のコンピュータをネットワーク状に組み合わせた構成、CPU(Central Processing Unit)やマイクロコンピュータなどの素子、あるいは複数の電子部品が搭載された回路基板などをも含むものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施の形態では、本発明の石油製品製造制御装置を備えた石油製品の製造装置である石油製品製造プラントを例示して説明する。なお、本発明は、原油およびナフサを原料として、エチレンやプロピレンなどの各種石油製品を製造する各種製造装置を対象とすることができる。
なお、本実施の形態では、原油およびナフサとともに液化石油をも原料として石油製品を製造する構成について説明するが、液化石油を原料としない製造、さらに他の原料を利用する製造をも対象とすることができる。
図1は、本実施の形態における石油製品の製造装置である石油製品製造プラントの概略構成を示すブロック図である。図2は、石油製品製造プラントのプラント系製造装置の概略構成を示すブロック図である。図3は、運転制御装置のプラント系制御装置の概略構成を示すブロック図である。図4は、原油における留分による分類を示す説明図である。図5は、原油における蒸留曲線と留分との関係を示すグラフである。図6は、原油における擬似成分と蒸留曲線との関係を示すグラフである。図7は、画面表示にて表されたプラントモデルの表示画面を示す説明図である。図8は、運転制御装置の生産計画演算装置の概略構成を示すブロック図である。
【0026】
〔石油製品製造プラントの構成〕
図1において、100は石油製品製造プラントで、この石油製品製造プラント100は、原油、ナフサおよび液化石油(Liquefied Petroleum Gas:LPG)を原料として、エチレンやプロピレン、オレフィンなどの各種石油製品を製造するシステムである。
この石油製品製造プラント100は、原油、ナフサおよびLPGを適宜処理して石油製品を製造する製造装置としてのプラントであるプラント系製造装置200と、このプラント系製造装置200の動作である運転状態を制御する制御系装置である石油製品製造制御装置としての運転制御装置300と、を備えている。
【0027】
(プラント系製造装置の構成)
プラント系製造装置200は、原油を処理、すなわち精製する精製装置210と、この精製装置で精製された中間生成物、ナフサおよびLPGとから石油製品を製造する石油化学装置220と、を備えている。
精製装置210は、プラント系制御装置310にて制御されて原料である原油を精製する装置である。この精製装置210は、図2に示すように、原油が貯留される原油タンク251に接続され、原油タンク251から適宜流入する原油を常圧で蒸留する常圧蒸留装置211を備えている。この常圧蒸留装置211は、プラント系制御装置310にて制御され、塔頂からナフサより軽質の軽質留分を分留し、塔底からナフサより重質の重質留分を分留し、塔中間分からナフサ留分を分留する。
なお、常圧蒸留装置211は、原油タンク251に貯留する原油を処理するのみならず、例えばタンカなどに貯留する原油を処理してもよい。
そして、常圧蒸留装置211は、塔頂が石油化学装置220に接続され、軽質留分を石油化学装置220へ流出する。なお、常圧蒸留装置211からナフサより軽質の軽質留分を石油化学装置220へ流出する際、別途設けられた液化石油タンク252に貯留する原料となる液化石油とともに石油化学装置220へ流出させてもよい。
【0028】
また、精製装置210は、常圧蒸留装置211に接続され、プラント系制御装置310にて制御されてナフサ留分を処理するナフサ分留装置212Aおよびナフサ脱硫装置212Bを備えている。
ナフサ分留装置212Aは、常圧蒸留装置211で分留したナフサ留分の少なくとも一部から、いわゆるライトナフサである軽質ナフサといわゆるヘビーナフサである重質ナフサとに分留する。そして、ナフサ分留装置212Aは、石油化学装置220に接続され、軽質ナフサおよび重質ナフサをそれぞれ石油化学装置220へ流出する。
なお、このナフサ分留装置212Aから石油化学装置220へ軽質ナフサを流出する際、例えば軽質ナフサタンク253に貯蔵された原料となる軽質ナフサとともに流出させてもよい。
【0029】
一方、ナフサ脱硫装置212Bは、常圧蒸留装置211で分留したナフサ留分の少なくとも残部を、石油化学装置220から流出する芳香族成分とともに脱硫処理する。そして、ナフサ脱硫装置212Bは、石油化学装置220に接続され、脱硫処理で生成したナフサより軽質の軽質留分の少なくとも一部を石油化学装置220へ流出する。
さらに、ナフサ脱硫装置212Bには、水素製造装置212Cおよび基材タンク254が接続され、脱硫処理で生成した軽質留分の少なくとも残部のうち、少なくとも一部を水素製造装置212Cへ流出するとともに、少なくとも残部をガソリン基材として分集して基材タンク254へ流出する。また、ナフサ脱硫装置212Bには、脱硫処理で生成した重質ナフサの少なくとも一部を石油化学装置220へ流出する。
なお、ナフサ脱硫装置212Bから石油化学装置220へ重質ナフサを流出する際、ナフサ分留装置212Aで分留したナフサとともに石油化学装置220へ流出したり、例えば重質ナフサタンク255に貯蔵された原料となる重質ナフサとともに流出させたりしてもよい。
さらに、ナフサ脱硫装置212Bには、接触改質装置212Eが接続され、脱硫処理で生成した重質ナフサの少なくとも残部を接触改質装置212Eへ流出する。
【0030】
接触改質装置212Eは、プラント系制御装置310にて制御され、ナフサ脱硫装置212Bで脱硫処理で生成した重質ナフサの少なくとも残部を改質処理する。この接触改質装置212Eには、リフォーメート分留装置212Fが接続されている。
このリフォーメート分留装置212Fは、プラント系制御装置310にて制御され、接触改質装置212Eで改質した重質ナフサを、石油化学装置220から流出するプラットファイネート(以下、PFNと称す。)とともに分離精製してベンゼンおよびパラキシレンを生成する。そして、このリフォーメート分留装置212Fには、脱ベンゼン装置212Gとパラキシレン装置212Hとが接続されている。
そして、脱ベンゼン装置212Gは、プラント系制御装置310にて制御され、溶剤精製によりリフォーメート分留装置212Fで分離されたベンゼン成分からベンゼンを分集する。この脱ベンゼン装置212Gは、石油化学装置220に接続され、分集したベンゼンおよびこのベンゼンが除去されたラフィネートをそれぞれ石油化学装置220へ流出する。
一方、パラキシレン装置212Hは、リフォーメート分留装置212Fで生成したリフォーメートから、プラント系制御装置310により制御されてガソリン基材と、いわゆるC8アロマである炭素数が8の芳香族成分とに分離する。そして、パラキシレン装置212Hは、基材タンク254および石油化学装置220に接続され、ガソリン基材を基材タンク254へ流出して貯留させ、C8アロマを石油化学装置220へ流出する。
【0031】
また、精製装置210は、常圧蒸留装置211に接続された減圧軽油脱硫装置213Aを備えている。この減圧軽油脱硫装置213Aは、プラント系制御装置310にて制御されて、常圧蒸留装置211で分留された重質留分のうちの軽質成分を減圧脱硫処理する。
また、この減圧軽油脱硫装置213Aには、接触分解装置213Bが接続されている。この接触分解装置213Bは、プラント系制御装置310にて制御されて、減圧軽油脱硫装置213Aで減圧脱硫処理された重質留分の軽質成分を、ガソリン基材と、いわゆるハイカットプロパンである軽質成分を含まないプロパンとに接触分解処理する。
そして、接触分解処理にて得られたガソリン基材は、基材タンク254に流出されて適宜貯留される。また、ハイカットプロパンは、別途設けられた図示しない貯蔵タンクに流出されて適宜貯留される。
【0032】
さらに、精製装置210は、常圧蒸留装置211に接続された減圧蒸留装置214Aを備えている。この減圧蒸留装置214Aは、プラント系制御装置310にて制御されて、常圧蒸留装置211で分留された重質留分のうちの重質成分の少なくとも一部を減圧蒸留処理する。この減圧蒸留装置214Aには、減圧軽油脱硫装置213A、潤滑油装置214Bおよび重油直接脱硫装置215Aが接続されている。
そして、減圧蒸留装置214Aは、減圧蒸留処理で分留した重質成分のうち、比較的に軽質な成分を減圧軽油脱硫装置213Aへ流出し、この比較的に軽質な成分を減圧軽油脱硫装置213Aで軽質成分とともに減圧脱硫処理させる。
また、減圧蒸留装置214Aは、減圧蒸留処理で分留した重質成分のうち、減圧軽油脱硫装置213Aへ流出する軽質成分を除く残部を潤滑油装置214Bへ流出し、この潤滑油装置214Bでプラント系制御装置310の制御にて潤滑油を精製させる。
さらに、減圧蒸留装置214Aは、減圧蒸留処理で分留した重質成分のうちの重質分を重油直接脱硫装置215Aに流出する。
【0033】
そして、重油直接脱硫装置215Aは、常圧蒸留装置211にも接続されている。この重油直接脱硫装置215Aは、プラント系制御装置310にて制御されて、常圧蒸留装置211で分留された重質留分のうちの減圧蒸留装置214Aへ流出される分を除く少なくとも残部を、減圧蒸留装置214Aで減圧蒸留されて分留された重質成分のうちの重質分とともに脱硫処理する。
そして、重油直接脱硫装置215Aは、脱硫処理した重質成分のうちの重質分の少なくとも一部を、接触分解装置213Bへ流出し、減圧軽油脱硫装置213Aで減圧脱硫処理された重質留分の軽質成分とともに接触分解装置213Bで接触分解処理させる。
【0034】
一方、石油化学装置220は、プラント系制御装置310にて制御されて石油製品を製造する装置である。この石油化学装置220は、第1ナフサ蒸留装置221を備えている。この第1ナフサ蒸留装置221は、例えば輸入ナフサなどの原料であるナフサが貯留されるナフサタンク257に接続され、プラント系制御装置310の制御にてナフサを、ナフサ留分、ナフサより重質の重質ナフサ、ナフサより軽質の軽質ナフサ、および重質ナフサより重質の重質成分に蒸留する。
この第1ナフサ蒸留装置221の蒸留により分留されるナフサ留分は、精製装置210の常圧蒸留装置211へ流出され、常圧蒸留装置211で原油とともに常圧蒸留処理される。また、ナフサ蒸留装置221で分留され重質ナフサより重質の重質成分は、精製装置210のナフサ脱硫装置212Bへ流出され、常圧蒸留装置211で分留したナフサ留分とともに脱硫処理される。
なお、軽質ナフサは後述するエチレン装置222に流出され、重質ナフサは後述する第2ナフサ蒸留装置227へ流出される。
【0035】
また、石油化学装置220は、エチレン装置222を備えている。このエチレン装置222は、プラント系制御装置310にて制御され、精製装置210の常圧蒸留装置211で分留したナフサより軽質の軽質留分と、ナフサ分留装置212Aで分留した軽質ナフサと、脱ベンゼン装置212Gで溶剤精製にて分集したラフィネートと、石油化学装置220の第1ナフサ蒸留装置221で分留した軽質ナフサと、が流入され、エチレンを生成する処理をする。すなわち、エチレン装置222は、エチレンと、プロピレンと、水素ガスと、燃料ガスと、MRG(Methane Rich Gas)と、PFNと、を生成する。
生成された水素ガスは、水素製造装置212Cで製造される水素ガスとともに、別途設けられた図示しない水素タンクに貯留される。また、生成された燃料ガスは、例えば精製装置210における運転の際の燃料などとして利用したりする。さらに、生成されたMRGは、水素製造装置212Cに流出され、水素製造の原料として利用される。また、PFNは、精製装置210のリフォーメート分留装置212Fへ流出され、接触改質装置212Eで改質した重質ナフサとともに処理される。
【0036】
さらに、石油化学装置220は、エチレン装置222に接続されたα−オレフィン装置223を備えている。このα−オレフィン装置223は、プラント系制御装置310にて制御され、エチレン装置222で生成されたエチレンを原料として、石油製品であるα−オレフィンを生成する。
このα−オレフィンの生成処理の際に生成される副産物は、回収重質ナフサとして精製装置210のナフサ脱硫装置212Bに流出されて脱硫処理される。
【0037】
また、石油化学装置220は、エチレン装置222に接続されたポリエチレン装置224を備えている。
このポリエチレン装置224は、プラント系制御装置310にて制御され、エチレン装置222で生成されたエチレンと、精製装置210のナフサ脱硫装置212Bの脱硫処理で生成された重質ナフサの一部とを原料として、石油製品であるポリエチレンを生成する。このポリエチレンの生成処理の際に生成される副産物は、回収重質ナフサとして精製装置210のナフサ脱硫装置212Bに流出されて脱硫処理される。
【0038】
さらに、石油化学装置220は、エチレン装置222に接続されたスチレンモノマ装置225を備えている。
このスチレンモノマ装置225は、プラント系制御装置310にて制御され、エチレン装置222で精製されたエチレンと、精製装置210の脱ベンゼン装置で分集したベンゼンとを原料として、石油製品であるスチレンモノマを生成する。このスチレンモノマの生成処理の際に生成される副産物は、燃料ガスとして回収され、例えば精製装置210の燃料などとして利用される。
【0039】
そしてさらに、石油化学装置220は、エチレン装置222に接続されたポリプロピレン装置226を備えている。
このポリプロピレン装置226は、プラント系制御装置310にて制御され、エチレン装置222で生成されたプロピレンと、精製装置210のナフサ脱硫装置212Bの脱硫処理で生成された重質ナフサの一部と、パラキシレン装置212Hで生成されたC8アロマの一部とを原料として、石油製品であるポリプロピレンを生成する。このプロピレンの生成処理の際に生成される副産物は、回収重質ナフサとして精製装置210のナフサ脱硫装置212Bに流出されて脱硫処理される。
【0040】
また、石油化学装置220は、第2ナフサ蒸留装置227を備えている。この第2ナフサ蒸留装置227は、プラント系制御装置310にて制御され、精製装置210のナフサ脱硫装置212Bで脱硫処理されて生成した重質ナフサの少なくとも一部を、石油化学装置220の第1ナフサ蒸留装置221で分留した重質ナフサとともに、蒸留処理する。この第2ナフサ蒸留装置227には芳香族装置228が接続され、蒸留処理された重質ナフサを芳香族装置228へ流出する。
この芳香族装置228は、プラント系制御装置310にて制御され、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどの石油製品である芳香族を生成する。
この芳香族の生成処理の際に生成される水素ガスは、水素製造装置212Cで製造される水素ガスとともに、別途設けられた図示しない水素タンクに貯留される。また、芳香族の生成処理の際に生成される燃料ガスは、例えば精製装置210における運転の際の燃料などとして利用したりする。さらに、芳香族の生成処理の際に生成される副産物は、回収重質ナフサとして精製装置210のナフサ脱硫装置212Bに流出されて脱硫処理される。
【0041】
さらに、石油化学装置220は、芳香族装置228に接続されたフェノール装置229を備えている。このフェノール装置229は、プラント系制御装置310にて制御され、芳香族装置228で生成されたベンゼンの少なくとも一部と、精製装置210の脱ベンゼン装置212Gで分集されたベンゼンとを原料として、石油製品としてのフェノールを生成する。
【0042】
(運転制御装置の構成)
一方、運転制御装置300は、プラント系制御装置310と、生産計画演算装置320と、を備えている。
これらプラント系制御装置310および生産計画演算装置320は、相互に信号を送受信可能にネットワーク301を介して接続されている。また、プラント系制御装置310および生産計画演算装置320は、ネットワーク301を介してプラント系制御装置310と相互に信号を送受信可能に接続されている。
【0043】
ここで、ネットワーク301としては、例えば、TCP(Transmission Control Protocol)/IP(Internet Protocol)などの汎用のプロトコルに基づくインターネット、イントラネット、LAN(Local Area Network)、無線媒体により情報が送受信可能な複数の基地局がネットワークを構成する通信回線網や放送網などのネットワーク、さらには、プラント系制御装置310と生産計画演算装置320とで信号を直接送受信するための媒体となる無線媒体自体などが例示できる。
ここで、無線媒体としては、電波、光、音波、電磁波などのいずれの媒体をも適用できる。
【0044】
そして、プラント系制御装置310は、プラント系製造装置200の運転状態を検出するとともに、所定の運転状態、すなわち利益が最大となる運転状態でプラント系製造装置200を運転させる制御、すなわち最適な生産計画を演算する装置である。
このプラント系制御装置310は、例えば図3に示すように、プラント系インターフェース部311と、プラント系操作手段312と、プラント系表示手段313と、プラント系記憶手段314と、プラント系演算手段315と、などを備えている。
【0045】
プラント系インターフェース部311は、ネットワーク301を介して、プラント系製造装置200の精製装置210および石油化学装置220を構成する常圧蒸留装置211やエチレン装置222などの各装置に設置された温度計や流量計、圧力計などの各種センサ261と、所定の信号を受信可能に接続されている。
そして、プラント系インターフェース部311は、センサで検出し出力される温度や流量、圧力などの検出信号に対してあらかじめ設定されている入力インターフェース処理を実行し、処理信号としてプラント系演算手段315へ出力する。また、プラント系インターフェース部311は、ネットワーク301を介して生産計画演算装置320に接続され、相互に各種信号を送受信させる。
【0046】
プラント系操作手段312は、例えばキーボードやマウスなど、作業者による入力操作が可能な図示しない各種操作ボタンや操作つまみなどを有している。これらの操作ボタンや操作つまみなどの入力操作としては、プラント系制御装置310全体の動作内容の設定や、プラント系記憶手段314に記憶するデータの設定入力などである。そして、プラント系操作手段312は、設定事項の入力操作により、設定事項に対応する操作信号をプラント系演算手段315へ適宜出力してプラント系演算手段315で設定入力させる。
なお、入力操作としては、操作ボタンや操作つまみなどの操作に限らず、例えばプラント系表示手段313に設けられたタッチパネルによる入力操作や、音声による入力操作など、各種設定事項を設定入力可能ないずれの構成を適用することができる。
【0047】
プラント系表示手段313は、接続するプラント系演算手段315にて制御され、プラント系演算手段315から出力される画像データの信号を画面表示させる。
このプラント系表示手段313としては、例えば液晶パネルや有機EL(Electro Luminescence)パネル、PDP(Plasma Display Panel)、CRT(Cathode-Ray Tube)、FED(Field Emission Display)、電気泳動ディスプレイパネルなどが例示できる。
【0048】
プラント系記憶手段314は、接続するプラント系演算手段315にて制御され、プラント系演算手段315が適宜読み出し可能に各種データを記憶する。このプラント系記憶手段314としては、例えば半導体メモリの他、HD(Hard Disk)やFD(Flexible Disk)などの磁気ディスク、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などの光ディスク、光磁気ディスク、磁気テープ、メモリカードなどの各種記録媒体に読み出し可能に記憶するドライブやドライバなどを備えた構成など、プラント系演算手段315が各種データを読み出し可能に記憶するいずれの構成を利用することができる。
そして、プラント系記憶手段314は、原油データベース314Aと、ナフサデータベース314Bと、などを備えている。
【0049】
原油データベース314Aは、原油に関するデータを記憶する。この原油に関するデータとして、例えば固有の識別番号などの原油の名称、原油の産地、原油の性状などが1つの原油データとして複数記録されたテーブル構造に構成されている。
この原油データにおける原油の性状は、例えばあらかじめ定性分析や定量分析などの組成分析された分析結果で、図4および図5に示すような留分にて分類される各組成の名称およびそれらの割合と、表1および表2に示すような化学組成で分類すなわち蒸留計算に基づいて分類される組成の名称およびそれらの割合とに関するデータである。
ここで、化学組成での分類としては、例えば表1に示す51の純成分と、表2に示す39の擬似成分とに分類される。純成分としては、炭素数が1から11までの51の炭化水素物である化学組成物で、擬似成分としては、図6に示すように、原油の蒸留曲線から蒸留計算が問題なくできる条件で39区分した範囲における組成物群で、各区分の区間における中間温度の数値を基準蒸留点として付した名称(Normal Boiling Point:NBP)としている。
なお、蒸留計算に基づく化学組成での分類として、純成分として51、擬似成分として39に限られないが、51の純成分と39の擬似成分とに区分することで、演算負荷が大きくなりすぎることなく原油から化学製品を製造するための高精度な熱計算が得られる。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
ナフサデータベース314Bは、ナフサタンク257に貯留される輸入ナフサなどのナフサに関するデータを記憶する。このナフサに関するデータとして、原油データベース314Aに記憶される原油データと同様に、例えば固有の識別番号などのナフサの名称、ナフサの輸出拠点、ナフサの性状などが1つのナフサデータとして複数記憶されたテーブル構造に構成されている。
このナフサデータにおけるナフサの性状は、例えばあらかじめ定性分析や定量分析などの組成分析された分析結果で、蒸留計算に基づいて分類される化学組成で分類された組成の名称および割合に関するデータである。
【0053】
また、プラント系記憶手段314には、原油から石油製品を製造する気液平衡などの平衡式や熱量など、熱力学に関する熱力特性データや、精製装置210および石油化学装置220を構成する各装置における運転性能などの装置特性に関する装置特性データ、製造する石油製品の性状や価格などの石油製品データなども記憶されている。
さらに、プラント系記憶手段314には、プラント系制御装置310全体を動作制御するOS(Operating System)上に展開される各種プログラムなどをも記憶している。さらに、プラント系記憶手段314は、プラント系演算手段315が演算の際に処理する信号などを一時的に記憶可能、すなわちメモリとしても機能する。
【0054】
プラント系演算手段315は、例えばCPU(Central Processing Unit)を備え、図示しない各種入出力ポートである、プラント系インターフェース部311が接続される入出力ポート、プラント系操作手段312が接続される入力ポート、プラント系表示手段313が接続される表示制御ポート、プラント系記憶手段314が接続される記憶ポートなどを有している。
そして、プラント系演算手段315は、各種プログラムとして、運転状態認識手段315Aと、原油性状認識手段、ナフサ性状認識手段および石油製品性状認識手段として機能する運転条件認識手段315Bと、生産計画演算手段としてのプラントモデル演算手段315Cと、などを備えている。
【0055】
運転状態認識手段315Aは、プラント系インターフェース部311を介してプラント系製造装置200の各センサから出力される検出信号を取得し、プラント系製造装置200の運転状態として認識する。そして、運転状態認識手段315Aは、認識した運転状態を、プラントモデル演算手段へ出力する。
【0056】
運転条件認識手段315Bは、プラント系インターフェース部311を介して生産計画演算装置320で設定入力された詳細は後述する運転条件に関する運転条件データを取得し、プラント系製造装置200の運転条件として認識する。そして、運転条件認識手段315Bは、認識した運転条件を、プラントモデル演算手段315Cへ出力する。
【0057】
プラントモデル演算手段315Cは、プラント系記憶手段314に記憶された熱力物性データおよび装置物性データに基づいて、プラント系製造装置200をモデル化すなわち精製装置210および石油化学装置220を構成する各装置を、熱力物性データおよび装置特性データに基づいて熱力学的に気液平衡で連結したモデルを構築する。
具体的には、図7に示すように表されるプラントモデルを生成する。このプラントモデルは、プラントモデルの各装置における処理前後を、装置特性に基づいて原油およびナフサの性状として表される51純成分と39擬似成分とにより、原料から石油製品までを熱力学的に気液平衡状態で熱計算される構成に構築されている。
そして、プラントモデル演算手段315Cは、プラントモデルを用いて、運転状態認識手段315Aから出力される運転状態に基づいてプラント系製造装置200の稼働状態である石油製品の製造状況を演算したり、運転条件認識手段315Bから出力される運転条件に基づいて石油製品を製造するための生産計画を演算したりする。
【0058】
演算される生産計画としては、原料の費用と、石油製品の価格および各装置の電力や燃料、スチーム費用などの用役費用との関係に基づいて、利益が最大となるプラントモデルの運転条件が演算される。
ここで、原料の費用は、運転条件認識手段315Bで取得した運転条件データにおける原料データに基づいて、原油データベース314Aの原油データおよびナフサデータベース314Bのナフサデータ、原油タンク251に貯留する原油の混合割合やチャージ量、ナフサタンク257に貯留するナフサの混合割合やチャージ量で演算される。
用役費用は、プラントモデルにおける製造工程で生成する燃料ガスの生成量および価格、電気量および価格などに基づいて演算される。
なお、燃料ガスの価格としては、図4に示すような留分にて分類される成分にて価格が設定される。すなわち、原油データベース314Aの原油データとして、留分で分類される成分の価格に関するデータも記載されている。
石油製品の費用は、製造される量および価格に基づいて演算される。この石油製品の価格についても、プラント系記憶手段314に記憶されている石油製品データに基づいて認識される。
そして、生産計画としては、石油製品の費用から原料の費用および用役費用を除いた値を目的関数として、各装置の装置特性データに基づき、目的関数が最大値となる効率よく石油製品を製造すなわち利益が最大となる各装置の運転条件である最適化運転条件を演算する。
【0059】
このプラントモデル演算手段315Cにおける演算方法としては、複数の装置で処理され、各装置での生成物を前工程の装置に返送するなどの複雑な系となる石油製品の製造における熱計算でも比較的に速い時間で演算できる、例えば逐次二次計画法(Sequential Quadratic Programming:SQP)が利用される。
そして、演算された結果である製造状況や生産計画は、プラント系記憶手段314へ適宜出力されて記憶されるとともに、プラント系インターフェース部311を介して生産計画演算装置320へ出力される。
【0060】
一方、運転制御装置300の生産計画演算装置320は、プラント系制御装置310により利益最大化の生産計画とプラント系製造装置200での運転状態との実績対比をしてプラント系製造装置200を効率よく運転させる制御をする装置である。
この生産計画演算装置320は、例えば図8に示すように、生産計画インターフェース部321と、生産計画操作手段322と、生産計画表示手段323と、生産計画記憶手段324と、生産計画演算手段325と、などを備えている。
【0061】
生産計画インターフェース部321は、ネットワーク301を介して、プラント系製造装置200の精製装置210および石油化学装置220を構成する常圧蒸留装置211やエチレン装置222などの各装置に設けられ、温度や流量を調整するためのヒータや電磁弁、圧力弁などを動作させる稼働部262と、所定の信号を出力可能に接続されている。
そして、生産計画インターフェース部321は、生産計画演算手段325から稼働部262に対して送信すべき処理信号が入力されると、この入力された処理信号に対してあらかじめ設定されている出力インターフェース処理を実行し、制御信号としてネットワーク301を介して稼働部262へ出力させ、ヒータや電磁弁、圧力弁などをプラント系演算手段315で設定した運転条件に対応して動作、すなわちプラント系製造装置200を設定した運転状態で稼働させる。
また、生産計画インターフェース部321は、ネットワーク301を介してプラント系制御装置310に接続され、相互に各種信号を送受信させる。
【0062】
生産計画操作手段322は、プラント系操作手段312と同様に、作業者による入力操作が可能な図示しない各種操作ボタンや操作つまみなどを有している。そして、生産計画操作手段322は生産計画演算装置320全体の動作内容の設定や、生産計画記憶手段324に記憶するデータの設定入力、あるいは稼働部262の運転状態の設定入力などの各種設定事項が入力操作されると、設定事項に対応する操作信号を生産計画演算手段325へ適宜出力して生産計画演算手段325で設定入力させる。
なお、この生産計画操作手段322についても、入力操作方法としては、タッチパネルや音声入力など、各種設定事項を設定入力可能ないずれの構成が適用できる。
【0063】
生産計画表示手段323は、プラント系表示手段313と同様に、接続する生産計画演算手段325にて制御され、生産計画演算手段325から出力される画像データの信号を画面表示させる。
この生産計画表示手段323についても、各種構成を適用できる。
【0064】
生産計画記憶手段324は、接続する生産計画演算手段325にて制御され、生産計画演算手段325が適宜読み出し可能に各種データを記憶する。この生産計画記憶手段324は、生産計画演算装置320全体を動作制御するOS(Operating System)上に展開される各種プログラムなどをも記憶している。さらに、生産計画記憶手段324は、生産計画演算手段325が演算の際に処理する信号などを一時的に記憶可能、すなわちメモリとしても機能する。
なお、この生産計画記憶手段324は、プラント系記憶手段314と同様に、いずれの構成を適用することができる。
【0065】
生産計画演算手段325は、例えばCPUを備え、図示しない各種入出力ポートである、生産計画インターフェース部321が接続される入出力ポート、生産計画操作手段322が接続される入力ポート、生産計画表示手段323が接続される表示制御ポート、生産計画記憶手段324が接続される記憶ポートなどを有している。
そして、生産計画演算手段325は、各種プログラムとして、原料性状取得手段325Aと、石油製品性状取得手段325Bと、運転条件取得手段325Cと、生産計画取得手段325Dと、製造状況取得手段325Eと、運転状態比較手段325Fと、稼働制御手段としての生産計画実施手段325Gと、などを備えている。
【0066】
原料性状取得手段325Aは、生産計画操作手段322による入力操作で入力され運転条件に関するデータである原料に関する原料データを取得する。この原料データは、例えば原油に関する原油データと、輸入ナフサであるナフサに関するナフサデータと、である。具体的には、原油やナフサの名称、それらの価格、原油タンク251やナフサタンク257に流入される原油やナフサの種類の混合割合、原油タンク251やナフサタンク257におけるチャージ量などである。
そして、原料性状取得手段325Aは、生産計画操作手段322からの入力操作に応じた操作信号に基づいて設定入力して取得した原料データを、生産計画インターフェース部321を介してプラント系制御装置310へ出力する。すなわち、原料データをプラント系制御装置310で設定してプラントモデルにおける利益最大となる最適運転条件の生産計画を演算させる。
【0067】
石油製品性状取得手段325Bは、生産計画操作手段322による入力操作で入力され運転条件に関するデータである石油製品に関する石油製品データを取得する。この石油製品データは、例えば製造する石油製品の性状である石油製品の蒸留点や組成などである。
そして、石油製品性状取得手段325Bは、生産計画操作手段322からの入力操作に応じた操作信号に基づいて設定入力して取得した石油製品データを、生産計画インターフェース部321を介してプラント系制御装置310へ出力する。
【0068】
運転条件取得手段325Cは、生産計画操作手段322による入力操作で入力され運転条件に関するデータである設定条件データを取得する。この設定条件データとしては、プラント系製造装置200を構成する各装置の流量や温度などの製造のための運転条件に関するデータである。
そして、運転条件取得手段325Cは、生産計画操作手段322の入力操作に応じた操作信号に基づいて設定入力して取得した設定条件データを、生産計画インターフェース部321を介してプラント系制御装置310へ出力する。
【0069】
生産計画取得手段325Dは、生産計画インターフェース部321でプラント系制御装置310から受信した生産計画に関する生産計画データを取得する。すなわち、原料データ、石油製品データおよび設定条件データに基づいてプラント系制御装置310のプラントモデル演算手段315Cでプラントモデルにおける利益最大化となる最適化運転条件で構成された生産計画に関する演算結果を取得する。
この取得した生産計画データは、生産計画記憶手段324へ適宜出力されて記憶される。
【0070】
製造状況取得手段325Eは、生産計画インターフェース部321でプラント系制御装置310から受信したプラント系製造装置200における製造状況に関する製造状況データを取得する。すなわち、プラント系制御装置310のプラントモデル演算手段315Cでプラントモデルに対応して演算した製造状況である実績データを製造状況データとして取得する。
この取得した製造状況データは、生産計画記憶手段324へ適宜出力されて記憶される。
【0071】
運転状態比較手段325Fは、プラント系製造装置200で生産計画に従って石油製品が製造されているか生産計画と実績とを比較する。すなわち、運転状態比較手段325Fは、生産計画取得手段325Dで取得した生産計画データと、製造状況取得手段325Eで取得した製造状況データと、を比較し、誤差の大きさを演算する。
この誤差の演算は、プラント系製造装置200を構成する各装置の計器であるセンサで検出した運転状況とプラントモデルにおける最適化運転条件との差を、各計器の誤差の標準偏差を考慮して演算する。すなわち、以下に示す式1で演算される。
【0072】
(式1)
誤差=Σ(装置の計器の計測値−プラントモデルの最適化運転条件)/B
B:計器誤差の標準偏差
【0073】
そして、運転状態比較手段325Fは、誤差の大きさが所定の閾値、例えばプラントモデルの精度が実運転データにたいして問題ない精度の範囲内で解けているという理由により1000以下となる状態に生産計画における最適化運転条件である各装置の流量、反応、蒸留、伝熱などについてのパラメータを調整すなわち最適化運転条件の設定値を変更する処理をする。
なお、誤差の大きさが1000を超えると、プラントモデルが実運転を表現できていないという問題があるため、1000以下とすることが好ましい。
そして、生産計画の最適化運転状態の変更された設定値は、生産計画記憶手段324へ適宜出力されて記憶すなわち更新される。
【0074】
生産計画実施手段325Gは、プラント系制御装置310から受信した生産計画データに基づいて、プラント系製造装置200を稼働させる運転制御をする。この運転制御のための生産計画データは、運転状態比較手段325Fで誤差が最小となる状態に適宜更新された生産計画データである。
そして、運転制御としては、生産計画インターフェース部321を介してプラント系製造装置200の稼働部262へ制御信号を出力し、制御信号に基づいて稼働部262を動作させ、プラント系製造装置200を生産計画の最適化運転条件で稼働させる。
【0075】
〔石油製品製造プラントの作用〕
次に、上述した石油製品製造プラントの作用として、石油製品の製造動作について説明する。図9は、石油製品の製造動作時における運転制御装置の動作を示すフローチャートである。
【0076】
まず、運転制御装置300は、電力の供給により、生産計画演算装置320で、プラント系製造装置200の運転条件の設定入力待機状態となる(ステップS101)。
すなわち、生産計画演算装置320は、生産計画演算手段325により、運転条件に関する運転条件データ、すなわち製造する石油製品の性状と、石油製品を製造する原料の性状と、プラント系製造装置200の運転条件との設定入力を促す表示画面を生産計画表示手段に画面表示させる。
そして、作業者が生産計画操作手段322の入力操作に応じた操作信号に基づいて、生産計画演算手段325は、原料性状取得手段325Aにて原料データを設定し、石油製品性状取得手段325Bにて石油製品データを設定し、運転条件取得手段325Cにて設定条件データを設定する。
この後、生産計画演算手段325は、これら設定入力した原料データ、石油製品データおよび設定条件データを有し、利益最大で石油製品を製造するプラントモデルによる生産計画をプラント系制御装置310で演算の実行を要求する旨の要求信号を生成する。そして、生産計画演算手段325は、生成した要求信号を生産計画インターフェース部321でネットワーク301を介してプラント系制御装置310へ出力する。
【0077】
このステップS101で生産計画演算装置320から送信される要求信号を、プラント系制御装置310がプラント系インターフェース部311で受信すると、プラント系演算手段315は、プラントモデル演算手段315Cにより、要求信号に含まれる運転条件データである、原料データ、石油製品データおよび設定条件データに基づいて、プラントモデルにおける各装置での最適化運転条件を演算し、生産計画データを生成する(ステップS102)。
すなわち、プラントモデル演算手段315Cは、原料から石油製品までを51純成分と39擬似成分とで熱力学的に気液平衡に連結したプラントモデルに基づいて、運転条件データからプラントモデルにおける石油製品の製造が利益最大となる各装置の最適化運転条件を演算する。そして、プラント系演算手段315は、演算にて生成した生産計画データを、プラント系インターフェース部311でネットワーク301を介して生産計画演算装置320へ出力する。
【0078】
このステップS102でプラント系制御装置310から送信される生産計画データを、生産計画演算装置320が生産計画インターフェース部321で受信し生産計画演算手段325の生産計画取得手段325Dで取得すると、生産計画演算手段325は、生産計画実施手段325Gにより、生産計画データに基づいてプラント系製造装置200の各装置を生産計画の最適化運転条件で稼働させる制御をする(ステップS103)。
すなわち、生産計画実施手段325Gは、最適化運転条件でプラント系製造装置200の各装置を稼働させる制御信号を、生産計画インターフェース部321でネットワーク301を介してプラント系製造装置200の各稼働部262へ出力し、最適化運転条件で稼働部262を稼働させて、プラント系製造装置200を生産計画に従った石油製品の製造を実施させる。
【0079】
ステップS103にてプラント系製造装置200で石油製品の製造が実施されると、プラント系制御装置310は、プラント系演算手段315の運転状態認識手段315Aにより、プラント系インターフェース部311を介してプラント系製造装置200の各センサから出力される検出信号を取得し、プラント系製造装置200の運転状態として認識する。この運転状態の認識、すなわち検出信号の取得は、所定時間、例えば5分おきに取得して認識する。
さらに、プラント系演算手段315は、プラントモデル演算手段315Cにより、運転状態認識手段315Aで認識した運転状態に基づいて、プラントモデルを用いて製造状況を演算して実績データを生成する(ステップS104)。
そして、プラント系演算手段315は、製造状況に関する実積データを、プラント系インターフェース部311を介して生産計画演算装置320へネットワーク301を介して出力する。
【0080】
ステップS104でプラント系制御装置310から送信される実績データを、生産計画演算装置320が生産計画インターフェース部321で受信し、生産計画演算手段325の製造状況取得手段325Eで製造状況データとして取得すると、運転状態比較手段325Fは、製造状況データの実績データと、実績データの運転状況の時刻に対応する生産計画とを比較する(ステップS105)。
そして、運転状態比較手段325Fは、生産計画と実績データとの誤差の大きさを、上述した式1に基づいて演算し、誤差が所定の閾値を超えたか否かを判断する(ステップS106)。
【0081】
このステップS106において、運転状態比較手段325Fが演算した誤差の大きさが所定の閾値を超えていないと判断すると、生産計画実施手段325Gにより現在実施している生産計画に基づいた石油製品の製造の終了か否かを判断する(ステップS107)。すなわち、例えばプラント系制御装置310のプラント系操作手段312や生産計画演算装置320の生産計画操作手段322における作業者の生産終了を要求する手動停止要求の入力操作や、生産計画に基づく製造工程の終了などの製造終了か否かを判断する。
そして、ステップS107において、製造終了であると判断すると、石油製品の製造およびその制御を終了する。
一方、ステップS107において、製造終了ではないと判断すると、ステップS103に戻って、従前の生産計画に基づく石油製品の製造が継続される。
【0082】
一方、ステップS106において、運転状態比較手段325Fが演算した誤差の大きさが所定の閾値を超えたと判断すると、運転状態比較手段325Fは、生産計画の最適化運転条件であるプラント系製造装置200の各装置における流量、反応、蒸留、伝熱などについてのパラメータを、誤差が最小値となる状態に調整、すなわち最適化運転条件を変更し(ステップS108)、ステップS103に戻る。
すなわち、ステップS108で変更した最適化運転条件で更新された生産計画に基づいてプラント系製造装置200を稼働させる運転制御をする。
【0083】
〔石油製品製造プラントの作用効果〕
上述したように、上記実施の形態によれば、生産計画演算装置320で作業者により設定入力された運転条件データの原料データから、プラント系制御装置310で原油データベース314Aおよびナフサデータベース314Bに基づいて、原油の性状とナフサ留分の性状とを、51純成分の化学組成と、原油の蒸留計算に基づいて分類される39擬似成分の留分組成とで認識するとともに、原油およびナフサ留分を原料としてプラント系製造装置200の各装置での各種処理工程を経て製造する石油製品の性状および量を、51純成分の化学組成で認識する。そして、原油およびナフサ留分と石油製品とを、51純成分の化学組成および39擬似成分の留分組成により気液平衡状態で連結したプラントモデルに基づいて、プラント系製造装置200の各装置における処理工程での最適化運転条件を演算し、この最適化運転条件でプラント系製造装置200を稼働させる制御をしている。
このため、原油とナフサ留分との性状を、51純成分の化学組成および39擬似成分の留分組成で認識することにより、原油およびナフサ留分から石油製品まで同一の成分管理ができ、化学組成および留分組成による熱力学的な気液平衡状態のプラントモデルが容易に構築できる。すなわち、原油の精製処理や石油製品の製造処理で生成する中間物までも、51純成分の化学組成と、39擬似成分の留分組成とにて熱力学的な気液平衡で連結でき、プラントモデルによる熱計算に基づいて、精製処理や製造処理における各工程での運転条件の設定が容易にできる。
したがって、原油から蒸留により各種留分を分留する従来の精製処理のプラントと、ナフサ留分から石油製品を製造する従来の製造処理のプラントとを変更することなく、精製処理のプラントと製造処理のプラントとを、それぞれの処理で生成する中間物を流量管理・制御して適宜流過可能に連結すればよく、取扱や処理が異なる原油およびナフサ留分を原料として石油製品を製造する運転条件の演算が容易に得られる。このことにより、原油およびナフサ留分を原料として石油製品を製造する制御が容易にでき、生産効率の向上や環境に対する負荷の低減などの点で原油およびナフサ留分を併用して石油製品を製造することが容易にできる。
【0084】
そして、成分管理のための化学組成として、原油の蒸留で得られるナフサ留分とこのナフサ留分より軽質の軽質留分に対応する沸点の化学組成で分類された51純成分である炭化水素とし、留分組成として、原油の蒸留で得られるナフサ留分より重質の留分として分留される重質留分に対応し所定の蒸留温度範囲で複数分類される不特定組成群としている。
このため、原油の精製処理と石油製品の製造処理との各処理工程で生成する中間物も、化学組成と留分組成とで熱力学的に気液平衡なプラントモデルとして連結することで、中間物の組成や生成量を管理しなくても、原油から石油製品を製造するまでの各処理工程における運転条件の設定ができ、容易に演算できる。
そして、化学組成として、原油の精製処理で分留され、石油製品の製造のための原料として利用されているナフサ留分と軽質留分とに対応する炭化水素の化学組成物として製造管理し、留分組成として石油の精製処理で分留され不特定な組成物が混入する重質留分に対応し、所定の蒸留温度範囲で区分して分類される不特定組成物群として製造管理しているので、石油製品を製造するための十分の化学組成で製造管理ができる。すなわち、高精度に目的の石油製品を目的の量で製造する制御が容易にできる。
【0085】
さらに、化学組成として、炭素数が1から11までの51の炭化水素とし、留分組成として、原油の蒸留によりナフサ留分より重質の留分として分留される重質留分に対応し39の蒸留温度範囲で分類される不特定組成群としている。
このため、製造管理のための化学組成が51で留分組成が39の限られた項目でも高精度に目的の石油製品を目的の量で製造させる制御が容易にでき、限られた管理する演算項目によりプラントモデルでの熱計算が煩雑となることなく、迅速な演算および運転制御装置300の構成の簡略化などが容易に得られる。
【0086】
また、プラントモデル演算手段315Cにより、石油製品を製造する際の利益が最大となる各処理工程に対応する各装置での最適化運転条件を演算している。すなわち、各処理の運転条件として、利益最大化となる運転条件を設定している。
このため、石油製品を効率よく製造できるとともに、プラントモデルを利用した熱計算に基づいて利益が最大となる各処理工程での運転条件を容易に演算でき、効率的な石油製品を製造するための制御が容易にできる。
【0087】
そして、原油、ナフサ留分および石油製品の性状から、原油データベース314Aやナフサデータベース314B、石油製品データなどのプラント系記憶手段314に記憶したデータに基づいて、石油製品の費用と、原料の費用と、製造装置の処理工程の運転に要する用役費用とを演算し、石油製品の費用から原料の費用および用役費用を減算した利益の目的関数が、最大値となる利益が最大となる状態に各処理工程での最適化運転条件を演算している。
このため、利益が最大となる製造のための各処理工程での最適化運転条件を容易に演算でき、容易に製造のための制御ができる。
【0088】
また、生産計画演算装置320で作業者により設定入力された運転条件データからプラント系制御装置310でプラントモデルに基づいて演算された生産計画すなわちプラント系製造装置200に対応するプラントモデルの各装置における最適化運転条件と、生産計画の最適化運転条件で生産計画演算装置320により稼働制御されたプラント系製造装置200の製造実績すなわちプラント系製造装置200のセンサ261で検出する運転状態とを比較して誤差を演算し、この誤差が最小となるようにプラント系製造装置200の各装置の流量、反応、蒸留、伝熱などについてのパラメータを調整すなわち最適化運転条件の設定値を変更している。
このため、プラントモデルに基づいて設定された生産計画の最適化運転条件が、実際のプラント系製造装置200での製造状況である実績に対応して修正され、石油製品を製造するための適切な制御が容易に得られる。特に、設定した最適化運転条件と、センサ261からの検出信号に基づく運転状態とを比較しているので、対比の演算が容易にでき、最適な製造制御が容易に得られる。
また、実績との対比の際に、センサ261で検出する運転状態としての計器の計測値を、計器誤差の標準偏差を考慮、すなわち式1により、生産計画と実績との誤差を演算し、所定の閾値を超えたか否かで判断しているので、比較的に容易な演算で適切な実績対比ができる。したがって、所定時間おきに演算することも可能となる。
【0089】
さらに、この実績対比の演算を、所定時間おき例えば5分おきに実施して、そのたびに最適化運転条件を適宜修正している。このため、適切な製造制御が逐次監視でき、より適切な石油製品の製造が得られる。
【0090】
〔実施の形態の変形〕
なお、本発明は、好適な実施の形態を挙げて説明したが、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で以下に示されるような変形をも含むものである。
【0091】
例えば、上述したように、原油および輸入ナフサの他に、LPGや軽質ナフサや重質ナフサ、フルレンジナフサなどを原料としてもよく、逆に原油および輸入ナフサのみから石油製品を製造したりしてもよい。
【0092】
そして、タンクに貯留した各原料を利用する構成としたが、タンカにて貯留する原料をタンカから直接利用したりしても良い。また、パイプラインを利用して他に貯留された原料を利用するなどしてもよい。
さらに、原油やナフサを混合してタンクに貯留する構成として混合割合も原料性状として設定入力する構成で説明したが、例えば産地毎など性状が同一のもののみを貯留する複数のタンクから原油やナフサをそれぞれ利用する構成としてもよい。
【0093】
また、プラント系制御装置310と生産計画演算装置320との構成について説明したが、例えば運転制御装置300を1台のコンピュータとしてまとめた構成などとしたり、生産計画演算装置320における実績対比の演算を実施するコンピュータと、プラント系製造装置200を稼働制御するコンピュータとの複数の構成とするなど、プラント系制御装置310や生産計画演算装置320を複数の構成にさらに分けた構成としたりしてもよい。
【0094】
そして、石油製品として、エチレンやプロピレン、オレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどに限らず、例えばエチレンを石油製品としてエチレンまでの製造制御をするのみとしたり、さらに他の石油化学製品を製造するまでの製造制御をしたりするなどとしてもよい。
【0095】
さらに、石油製品の製造において、利益最大の生産計画に基づいてプラント系製造装置200を稼働させて説明したが、例えばプラント系製造装置200における各装置の特性に基づく最適な運転条件を最適化運転条件として稼働制御するなどしてもよい。
また、利益最大となる最適化運転条件としては、上述した目的関数を利用する場合に限らず、いずれの方法で利益が最大となる状態に演算してもよい。
【0096】
そして、生産計画を実績対比して誤差が最小となるように適宜見直して説明したが、この方法に限らず、例えばプラント系製造装置200の計器誤差を考慮しないなど、いずれの方法で最適化運転条件を見直してもよい。
また、この誤差の見直しを実施しなくてもよい。
そして、例えば5分などの所定時間ごとに見直しをせず、1回のみ見直しをしたり、所定時間として1日おきなど、見直しの頻度は適宜設定すればよい。
【0097】
その他、本発明は上述の実施の形態における具体的な構造および手順に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良、設計の変更などは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の一実施の形態における石油製品製造プラントの概略構成を示すブロック図である。
【図2】前記実施の形態における石油製品製造プラントのプラント系製造装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】前記実施の形態における運転制御装置のプラント系制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】前記実施の形態における原油における留分による分類を示す説明図である。
【図5】前記実施の形態における原油における蒸留曲線と留分との関係を示すグラフである。
【図6】前記実施の形態における原油における擬似成分と蒸留曲線との関係を示すグラフである。
【図7】前記実施の形態における画面表示にて表されたプラントモデルの表示画面を示す説明図である。
【図8】前記実施の形態における運転制御装置の生産計画演算装置の概略構成を示すブロック図である。
【図9】前記実施の形態における石油製品の製造動作時における運転制御装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0099】
100……石油製品の製造装置としての石油製品製造プラント
200……製造装置としてのプラント系製造装置
300……石油製品製造制御装置としての運転制御装置
315A…運転状態認識手段
315B…原油性状認識手段、ナフサ性状認識手段および石油製品性状認識手段として機能する運転条件認識手段
315C…生産計画演算手段としてのプラントモデル演算手段
325F…運転状態比較手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原油およびナフサ留分を原料として石油製品を各種処理工程を経て製造する製造装置における運転状態を制御する石油製品製造制御装置であって、
前記原油の性状を化学組成および前記原油の蒸留計算に基づいて分類される留分組成で認識する原油性状認識手段と、
前記ナフサ留分の性状を前記化学組成および前記留分組成で認識するナフサ性状認識手段と、
前記石油製品の性状および量を前記化学組成で認識する石油製品性状認識手段と、
前記原油および前記ナフサ留分と前記石油製品とを前記化学組成および前記留分組成により気液平衡状態で連結したプラントモデルに基づいて、前記処理工程での運転条件を演算する生産計画演算手段と、
この生産計画演算手段で演算した前記運転条件で前記製造装置を稼働させる稼働制御手段と、
を具備したことを特徴とした石油製品製造制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の石油製品製造制御装置であって、
前記製造装置の運転状態を認識する運転状態認識手段と、
前記稼働制御手段により前記製造装置を稼働させる運転条件と前記製造装置の運転状態との誤差を認識し、誤差が最小となる状態に前記稼働制御手段により前記製造装置を稼働させる運転条件を修正する運転状態比較手段と、を具備した
ことを特徴とした石油製品製造制御装置。
【請求項3】
原油およびナフサ留分を原料として石油製品を各種処理工程を経て製造する製造装置における運転状態を制御する石油製品製造制御装置であって、
前記原油の性状を化学組成および前記原油の蒸留計算に基づいて分類される留分組成で認識する原油性状認識手段と、
前記ナフサ留分の性状を前記化学組成および前記留分組成で認識するナフサ性状認識手段と、
前記石油製品の性状および量を前記化学組成で認識する石油製品性状認識手段と、
前記原油および前記ナフサ留分と前記石油製品とを前記化学組成および前記留分組成により気液平衡状態で連結したプラントモデルに基づいて、前記製造装置で前記石油製品を製造させる生産計画を演算する生産計画演算手段と、
この生産計画演算手段で演算した前記生産計画に従って前記製造装置を稼働させる稼働制御手段と、
を具備したことを特徴とした石油製品製造制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の石油製品製造制御装置であって、
前記製造装置で前記生産計画に基づいて前記稼働制御手段の制御による前記製造装置の稼働にて前記石油製品が製造された実績を認識する実績認識手段と、
前記生産計画と前記実績との誤差を演算し、前記誤差が最小となる状態に前記生産計画を修正する運転状態比較手段と、を具備した
ことを特徴とした石油製品製造制御装置。
【請求項5】
請求項2または請求項4に記載の石油製品製造制御装置であって、
前記運転状態比較手段は、所定時間おきに前記誤差を演算して修正する処理をする
ことを特徴とした石油製品製造制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の石油製品製造制御装置であって、
前記化学組成は、前記原油の蒸留により得られるナフサ留分およびこのナフサ留分より軽質の軽質留分に対応する沸点の化学組成で分類された炭化水素であり、
前記留分組成は、前記原油の蒸留によりナフサ留分より重質の留分として分留される重質留分に対応し所定の蒸留温度範囲で複数分類される不特定組成群である
ことを特徴とした石油製品製造制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の石油製品製造制御装置であって、
前記化学組成は、炭素数が1から11までの51の炭化水素であり、
前記留分組成は、前記原油の蒸留によりナフサ留分より重質の留分として分留される重質留分に対応し39の蒸留温度範囲で分類される不特定組成群である
ことを特徴とした石油製品製造制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の石油製品製造制御装置であって、
前記生産計画演算手段は、前記石油製品を製造する際の利益が最大となる前記処理工程での最適化運転条件を演算する
ことを特徴とした石油製品製造制御装置。
【請求項9】
請求項7に記載の石油製品製造制御装置であって、
前記生産計画演算手段は、前記原油の性状、前記ナフサ留分の性状および前記石油製品の性状に基づいて、前記石油製品の費用、前記原料の費用および前記製造装置の処理工程の運転に要する用役費用を演算し、前記石油製品の費用から前記原料の費用および前記処理工程での用役費用を減算した値を前記利益の目的関数として、この目的関数が最大値となる最適化運転条件を演算する
ことを特徴とした石油製品製造制御装置。
【請求項10】
原油およびナフサ留分を原料として石油製品を各種処理工程を経て製造する石油製品の製造装置であって、
前記原油および前記ナフサ留分を処理して前記石油製品を製造する製造装置と、
前記製造装置の稼働状態を制御する請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の石油製品製造制御装置と、
を具備したことを特徴とした石油製品の製造装置。
【請求項11】
演算手段により、原油およびナフサ留分を原料として石油製品を各種処理工程を経て製造する製造装置における運転状態を制御する石油製品製造制御方法であって、
前記演算手段は、
前記原油の性状を化学組成および前記原油の蒸留計算に基づいて分類される留分組成で認識する原油性状認識工程と、
前記ナフサの性状を前記化学組成および前記留分組成で認識するナフサ性状認識工程と、
前記石油製品の性状および量を前記化学組成で認識する石油製品性状認識工程と、
前記原油および前記ナフサ留分と前記石油製品とを前記化学組成および前記留分組成により気液平衡状態で連結したプラントモデルに基づいて、前記処理工程での運転条件を演算する生産計画演算工程と、
この生産計画演算工程で演算した前記運転条件で前記製造装置を稼働させる稼働制御工程と、を実施する
ことを特徴とする石油製品製造制御方法。
【請求項12】
演算手段により、原油およびナフサ留分を原料として石油製品を各種処理工程を経て製造する製造装置における運転状態を制御する石油製品製造制御方法であって、
前記演算手段は、
前記原油の性状を化学組成および前記原油の蒸留計算に基づいて分類される留分組成で認識する原油性状認識工程と、
前記ナフサの性状を前記化学組成および前記留分組成で認識するナフサ性状認識工程と、
前記石油製品の性状および量を前記化学組成で認識する石油製品性状認識工程と、
前記原油および前記ナフサ留分と前記石油製品とを前記化学組成および前記留分組成により気液平衡状態で連結したプラントモデルに基づいて前記製造装置で前記石油製品を製造させる生産計画を演算する生産計画演算工程と、
この生産計画演算工程で演算した前記生産計画に従って前記製造装置を稼働させる稼働制御工程と、を実施する
ことを特徴とする石油製品製造制御方法。
【請求項13】
演算手段を、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の石油製品製造制御装置として機能させる
ことを特徴とした石油製品製造制御プログラム。
【請求項14】
請求項13に記載の石油製品製造制御プログラムが演算手段に読取可能に記録された
ことを特徴とした石油製品製造制御プログラムを記録した記録媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−16135(P2007−16135A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199324(P2005−199324)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】